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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 303/48 20060101AFI20221128BHJP
【FI】
C07D303/48
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022507195
(86)(22)【出願日】2021-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2021009099
(87)【国際公開番号】W WO2021182422
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2020039599
(32)【優先日】2020-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茂
(72)【発明者】
【氏名】草野 信之
(72)【発明者】
【氏名】小林 久剛
【審査官】早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/093522(WO,A1)
【文献】NANJO, K. et al.,Enantioface-Differentiating Epoxidation of Alkylidenemalononitriles with Molecular Oxygen, catalyzed,Chemical & Pharmaceutical Bulletin,1981年,29(2),pp. 336-343
【文献】HURTAUD, D. et al.,Synthesis and Characterization of Stable 2-Cyano-2-Carboximic Acid Alkyl Ester-Oxiranes and 2,2-Dica,Tetrahedron Letters,1999年,40(27),pp. 5001-5004
【文献】HARRISON, J. M. et al.,A novel rearrangement of the adduct from CS-epoxide and dioxan-2-hydroperoxide,Tetrahedron Letters,1981年,22(7),pp. 679-682
【文献】SCOTT, J. H. et al.,Reactions of Substituted Phenacyl Bromides with Various Bases. o- and p-Nitrophenacyl Bromide. I,Journal of Heterocyclic Chemistry,1984年,21(3),pp. 903-904
【文献】SVOBODA, J. et al.,Reaction of 4-substituted benzaldehydes and acetophenones with chloroacetonitrile,Collection of Czechoslovak Chemical Communications,1988年,53(4),pp. 822-832
【文献】MULLER, A. J. et al.,Reductive Condensation of Methyl Arylglyoxylates. Direct Synthesis of 2,3-Bis(carbomethoxy)stilbene,Journal of Organic Chemistry,1982年,47(12),pp. 2342-2352
【文献】DATABASE REGISTRY [ONLINE] Retrieved from STN,Entered STN: 20 Dec 2007,[検索日:2021年4月5日],CAS登録番号959055-76-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 303/48
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(III)で表される化合物の製造方法であって、
【化1】

[式(III)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C-C-アルキル基、C-C-アルコキシ基、C-C-ハロアルキル基又はC-C-ハロアルコキシ基であり;
mは0~5の整数であり、mが2以上である場合には複数あるRは互いに異なっていてもよく;
nは0~4の整数であり、nが2以上である場合には複数あるRは互いに異なっていてもよい]
一般式(II)で表されるケトン誘導体に対してシアン化合物を作用させて、前記一般式(III)で表される化合物を生成する工程と、
前記一般式(III)で表される化合物を生成する工程において生成した前記一般式(III)で表される化合物を、アルカリ性水溶液にて洗浄する洗浄工程と、を含む製造方法:
【化2】

[式(II)中、Xはハロゲン原子であり、
、R、m及びnは、それぞれ、前記式(III)中のR、R、m及びnと同一である]。
【請求項2】
前記シアン化合物が、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム又はアセトンシアノヒドリンであり、
前記シアン化合物としてアセトンシアノヒドリンを選択した場合に、前記一般式(III)で表される化合物を生成する工程を塩基性化合物共存下にて行う、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物の製造方法及び新規化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
高い防除効果を示す農園芸用薬剤として、アゾール誘導体が有用である。そして、アゾール誘導体を製造するために、アゾール誘導体の中間体化合物の製造方法が検討されている。例えば、特許文献1には、アゾール誘導体の中間体であるメチル-2-(2-クロロ-4-(2,4-ジクロロフェノキシ)フェニル)-2-オキソアセテートを製造する方法が開示されている。
【0003】
また、非特許文献1には、α―ハロケトン基をシアノオキシラン基へと変換する反応が、非特許文献2には、シアノ基をエステル基へと変換する反応が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開公報第2019/093522号(2019年5月16日公開)
【非特許文献】
【0005】
【文献】James H. et al., Journal of Heterocyclic Chemistry, 21(3), 903-4; 1984
【文献】Muller A. J. et al., Journal of Organic Chemistry, 47, 2342-2352; 1982
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたアゾール誘導体の中間体の製造方法では、ヨウ素やヨードメタンを用いて、ケトン基をケトエステル基へと置換する。しかし、ヨウ素やヨードメタンは高価であるため、アゾール誘導体の中間体の製造コストが嵩むという課題を有している。また特許文献1、非特許文献1及び2に記載された製造方法は収率が低い。このため、より高い収率でアゾール誘導体の中間体を製造できる方法が求められている。
【0007】
本発明は前記の問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の一態様は、既存の製造方法よりも安価に、且つ高収率にてアゾール誘導体の中間体を製造することができる方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る製造方法は、一般式(III)で表される化合物の製造方法であって、
【化1】
[式(III)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C-C-アルキル基、C-C-アルコキシ基、C-C-ハロアルキル基又はC-C-ハロアルコキシ基であり;
mは0~5の整数であり、mが2以上である場合には複数あるRは互いに異なっていてもよく;
nは0~4の整数であり、nが2以上である場合には複数あるRは互いに異なっていてもよい]
一般式(II)で表されるケトン誘導体に対してシアン化合物を作用させて、前記一般式(III)で表される化合物を生成する工程と、
前記一般式(III)で表される化合物を生成する工程において生成した前記一般式(III)で表される化合物を、アルカリ性水溶液にて洗浄する洗浄工程と、を含む製造方法である:
【化2】
[式(II)中、Xはハロゲン原子であり、
、R、m及びnは、それぞれ、前記式(III)中のR、R、m及びnと同一である]。
【0009】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る製造方法は、一般式(IV)で表される化合物の製造方法であって、
【化3】
[式(IV)中、Rは、C-C-アルキル基であり;
及びRは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C-C-アルキル基、C-C-アルコキシ基、C-C-ハロアルキル基又はC-C-ハロアルコキシ基であり;
mは0~5の整数であり、mが2以上である場合には複数あるRは互いに異なっていてもよく;
nは0~4の整数であり、nが2以上である場合には複数あるRは互いに異なっていてもよい]
一般式(III)で表される化合物に対して炭素数1~6のアルコキシド化合物を作用させて、前記一般式(IV)で表される化合物を生成する工程を含む、製造方法である:
【化4】
[式(III)中、R、R、m及びnは、それぞれ前記式(IV)中のR、R、m及びnと同一である]。
【0010】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る製造方法は、一般式(V)で表される化合物の製造方法であって、
【化5】
[式(V)中、Rは、C-C-アルキル基であり;
及びRは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C-C-アルキル基、C-C-アルコキシ基、C-C-ハロアルキル基又はC-C-ハロアルコキシ基であり;
mは0~5の整数であり、mが2以上である場合には複数あるRは互いに異なっていてもよく;
nは0~4の整数であり、nが2以上である場合には複数あるRは互いに異なっていてもよい]
一般式(III)で表される化合物に対して炭素数1~6のアルコキシド化合物を作用させて、一般式(IV)で表される化合物を生成する工程と、
前記一般式(IV)で表される化合物を生成する工程において生成した前記一般式(IV)で表される化合物に対して酸性化合物を作用させて、前記一般式(V)で表される化合物を生成する工程と、を含む製造方法である:
【化6】
[式(III)中、R、R、m及びnは、それぞれ前記式(V)中のR、R、m及びnと同一である];
【化7】
[式(IV)中、R、R、R、m及びnは、それぞれ式(V)中のR、R、R、m及びnと同一である]。
【0011】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る製造方法は、一般式(V)で表される化合物の製造方法であって、
【化8】
[式(V)中、Rは、C-C-アルキル基であり;
及びRは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C-C-アルキル基、C-C-アルコキシ基、C-C-ハロアルキル基又はC-C-ハロアルコキシ基であり;
mは0~5の整数であり、mが2以上である場合には複数あるRは互いに異なっていてもよく;
nは0~4の整数であり、nが2以上である場合には複数あるRは互いに異なっていてもよい]
一般式(II)で表されるケトン誘導体に対してシアン化合物を作用させて、一般式(III)で表される化合物を生成する工程と、
前記一般式(III)で表される化合物を生成する工程後の反応液に対して炭素数1~6のアルコキシド化合物を作用させて、一般式(IV)で表される化合物を生成する工程と、
前記一般式(IV)で表される化合物を生成する工程後の反応液に対して酸性化合物を作用させて、前記一般式(V)で表される化合物を生成する工程と、を含む製造方法である:
【化9】
[式(II)中、Xはハロゲン原子であり、
、R、m及びnは、それぞれ、前記式(V)中のR、R、m及びnと同一である]
【化10】
[式(III)中、R、R、m及びnは、それぞれ前記式(V)中のR、R、m及びnと同一である]
【化11】
[式(IV)中、R、R、R、m及びnは、それぞれ前記式(V)中のR、R、R、m及びnと同一である]。
【0012】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る化合物は、下記一般式(VI)で表される化合物である:
【化12】
[式(VI)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C-C-アルキル基、C-C-アルコキシ基、C-C-ハロアルキル基又はC-C-ハロアルコキシ基であり;
mは0~5の整数であり、mが2以上である場合には複数あるRは互いに異なっていてもよく;
nは0~4の整数であり、nが2以上である場合には複数あるRは互いに異なっていてもよく;
は、-CNまたは-CNHORであり、
は、C-C-アルキル基である]。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、既存の製造方法よりも安価に、且つ高収率にてアゾール誘導体の中間体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0015】
〔1.一般式(III)で表される化合物の製造方法〕
本発明の一態様に係る一般式(III)で表される化合物の製造方法(以下、「製造方法1」と称する)について説明する:
【化13】
[式(III)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C-C-アルキル基、C-C-アルコキシ基、C-C-ハロアルキル基又はC-C-ハロアルコキシ基であり;
mは0~5の整数であり、mが2以上である場合には複数あるRは互いに異なっていてもよく;
nは0~4の整数であり、nが2以上である場合には複数あるRは互いに異なっていてもよい]。
【0016】
前記一般式(III)で表される化合物は、下記一般式(I)で示されるアゾール誘導体の中間体の一つである。説明の便宜上、一般式(I)で示されるアゾール誘導体を「アゾール誘導体(I)」と称し、一般式(III)で表される化合物を、「中間体(III)」と称する。
【化14】
[式(I)中、AはN又はCHであり;
、Rは、それぞれ独立に、水素又はC-C-アルキル基であり;
、Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C-C-アルキル基、C-C-アルコキシ基、C-C-ハロアルキル基又はC-C-ハロアルコキシ基であり;
mは0~5の整数であり、mが2以上である場合には複数あるRは互いに異なっていてもよく;
nは0~4の整数であり、nが2以上である場合には複数あるRは互いに異なっていてもよい]。
【0017】
前記一般式(III)中のR、R、m及びnは、それぞれ、前記式(I)中のR、R、m及びnと同一である。
【0018】
-C-アルキル基は、炭素原子数が1~6個である直鎖又は分岐鎖状アルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、1-メチルエチル基、1,1-ジメチルエチル基、プロピル基、1-メチルプロピル基、2-メチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、ブチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、ペンチル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基及び4-メチルペンチル基が挙げられる。
【0019】
-C-ハロアルキル基は、上述のC-C-アルキル基の置換し得る位置に1又は2以上のハロゲン原子が置換されており、置換されるハロゲン基が2以上の場合は、ハロゲン基は同一又は異なってもよい。ハロゲン基としては塩素基、臭素基、ヨウ素基又はフッ素基が挙げられる。例えば、クロロメチル基、2-クロロエチル基、2,3-ジクロロプロピル基、ブロモメチル基、クロロジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、及び3,3,3-トリフルオロプロピル基が挙げられる。
【0020】
-C-アルコキシ基は、炭素原子数1~6個の直鎖又は分岐鎖状のアルコキシ基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、1-メチルエトキシ基、1-メチルプロポキシ基、2-メチルプロポキシ基、1-エチルプロポキシ基、ブトキシ基、1,1-ジメチルエトキシ基、2-メチルブトキシ基、3,3-ジメチルブトキシ基、2,2-ジメチルブトキシ基、1,1-ジメチルブトキシ基、ペンチルオキシ基、1-メチルペンチルオキシ基、2,2-ジメチルプロポキシ基、1,1-ジメチルプロポキシ基、1-メチルブトキシ基、3-メチルブトキシ基、1-エチルブトキシ基、2-エチルブトキシ基、2-メチルペンチルオキシ基、3-メチルペンチルオキシ基、及び4-メチルペンチルオキシ基が挙げられる。
【0021】
-C-ハロアルコキシ基は、上述のC-C-アルコキシ基の置換し得る位置に1又は2以上のハロゲン原子が置換されており、置換されるハロゲン基が2以上の場合は、ハロゲン基は同一又は異なってもよい。ハロゲン基としては、上述のC-C-ハロアルキル基の説明において例示したハロゲン基を挙げることができる。
【0022】
本発明の一態様に係る製造方法1は、一般式(II)で表されるケトン誘導体に対してシアン化合物を作用させて、前記一般式(III)で表される化合物を生成する工程(工程1-1)と、前記一般式(III)で表される化合物を生成する工程において生成した前記一般式(III)で表される化合物を、アルカリ性水溶液にて洗浄する洗浄工程(工程1-2)と、を含む。
【化15】
[式(II)中、Xはハロゲン原子であり、
、R、m及びnは、それぞれ、前記式(III)中のR、R、m及びnと同一である]。
【0023】
ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子又はフッ素原子が挙げられる。
【0024】
本発明の一態様に係る製造方法1は、以下のスキーム1に従って、一般式(II)で表されるケトン誘導体(以下、「ケトン誘導体(II)」と称する)から中間体(III)を製造する。なお、下記スキーム中のR、R、m及びnは、それぞれ、前記一般式(III)中のR、R、m及びnに対応する。
【0025】
<スキーム1>
【化16】
(工程1-1:中間体(III)を生成する工程)
本発明の一態様に係る製造方法1において、工程1-1では、有機溶媒中で、ケトン誘導体(II)に対してシアン化合物を作用させて、中間体(III)を生成する。前記有機溶媒としては、工程1-1の反応が進行する溶媒が選択され、そのような有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、ジメチルアセトアミド、トルエン、トルエンとメタノールとの混合溶媒等を挙げることができる。収率の観点から、有機溶媒としてメタノールを選択することが好ましい。工程1-1は、反応温度を氷冷または室温(20℃)にて実施することができる。収率の観点から、工程1-1は氷冷条件にて実施することが好ましく、メタノール中で氷冷条件にて実施することがより好ましい。
【0026】
前記シアン化合物は、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム、アセトンシアノヒドリン等が挙げられる。収率の観点から、シアン化カリウムが好ましい。
【0027】
工程1-1において、ケトン誘導体(II)に作用させるシアン化合物の量は、反応を過不足なく行う観点から、ケトン誘導体(II)1当量(eq.)に対して、好ましくは1当量以上である。また、収率の観点から、ケトン誘導体(II)に作用させるシアン化合物の量は、ケトン誘導体(II)1当量(eq.)に対して、好ましくは3当量以下である。収率の観点から、ケトン誘導体(II)に作用させるシアン化合物の量は、ケトン誘導体(II)1当量(eq.)に対して、1.2当量以上、2当量以下とすることがより好ましい。
【0028】
本発明の一態様において、工程1-1において、シアン化合物としてシアン化カリウムを選択する場合、ケトン誘導体(II)に作用させるシアン化カリウムの量は、ケトン誘導体(II)1当量(eq.)に対して、シアン化カリウムが1.3当量(eq.)とすることが最も好ましい。また、本発明の一態様において、工程1-1において、シアン化合物としてアセトンシアノヒドリンを選択する場合、ケトン誘導体(II)に作用させるアセトンシアノヒドリンの量は、ケトン誘導体(II)1当量(eq.)に対して、アセトンシアノヒドリンが2当量(eq.)とすることが最も好ましい。
【0029】
前記シアン化合物としてアセトンシアノヒドリンを選択した場合には、反応を進行させる観点から、工程1-1を塩基性化合物共存下にて行うことが必要である。前記塩基性化合物は、炭酸カリウム、N-エチルジイソプロピルアミン(DIPEA)、水酸化カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。収率の観点から、炭酸カリウム、又はN-エチルジイソプロピルアミン(DIPEA)が好ましい。なお、前記シアン化合物がシアン化カリウム又はシアン化ナトリウムである場合、これらの化合物は広義では塩基に該当しており塩基とシアンとが共存しているため、別の塩基性化合物を共存させなくとも反応は進行する。
【0030】
反応液中に存在させる塩基性化合物の量は、収率の観点から、ケトン誘導体(II)1当量(eq.)に対して、好ましくは1当量以上、より好ましくは1.5当量以上である。また、収率の観点から、塩基性化合物の量は、ケトン誘導体(II)1当量(eq.)に対して、好ましくは3当量以下、より好ましくは2.2当量以下である。
【0031】
本発明の一態様において、工程1-1において、シアン化合物としてアセトンシアノヒドリンを選択し、塩基性化合物としてDIPEA共存下で反応を行う場合、ケトン誘導体(II)に作用させるDIPEAの量は、ケトン誘導体(II)1当量(eq.)に対して、DIPEAが2当量(eq.)とすることが最も好ましい。
【0032】
(工程1-2:洗浄工程)
工程1-2では、工程1-1において生成した中間体(III)を、アルカリ性水溶液にて洗浄する。具体的には、工程1-1後の反応液にトルエン及びアルカリ性水溶液を加えて分液し、得られた有機層にアルカリ性水溶液を加えて洗浄する。
【0033】
前記アルカリ性水溶液は、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等が挙げられる。分液性の観点から、水酸化カリウム水溶液であることが好ましい。
【0034】
洗浄に使用するアルカリ性水溶液の量は、工程1-1後の反応液にトルエン及びアルカリ性水溶液を加えて分液して得られた有機層から主な副生成物を除去可能な十分量を添加すればよい。
【0035】
本発明の一態様に係る製造方法1では、前記工程1-1を行うことにより、既存の製造方法よりも収率が向上する。例えば、非特許文献1(James H. et al., Journal of Heterocyclic Chemistry, 21(3), 903-4; 1984)に記載の方法では、KCNを用いた同様な反応例が記載されているが、収率54%である。これに対し、後述する実施例に示すように、本発明の一態様に係る製造方法1では、非特許文献1に記載の方法よりも10%以上収率が向上する(後述する実施例に示す(合成例1-1)~(合成例1-5)を参照)。
【0036】
また、本発明の一態様に係る製造方法1では、前記工程1-2を行うことにより、後述する実施例に示すように、前記工程1-2を行わない場合と比較して、得られた粗体純度が10質量%程度向上する(後述する実施例に示す、(合成例1-1)と(合成例1-2)との比較より、または(合成例1-4)と(合成例1-5)との比較より)。
【0037】
〔2.一般式(IV)で表される化合物の製造方法-1〕
本発明の一態様に係る一般式(IV)で表される化合物の製造方法(以下、「製造方法2」と称する)について説明する:
【化17】
[式(IV)中、Rは、C-C-アルキル基であり;
及びRは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C-C-アルキル基、C-C-アルコキシ基、C-C-ハロアルキル基又はC-C-ハロアルコキシ基であり;
mは0~5の整数であり、mが2以上である場合には複数あるRは互いに異なっていてもよく;
nは0~4の整数であり、nが2以上である場合には複数あるRは互いに異なっていてもよい]。
【0038】
前記一般式(IV)で表される化合物は、上述のアゾール誘導体(I)の中間体の一つである。前記一般式(IV)中のR、R、m及びnは、それぞれ、前記式(I)中のR、R、m及びnと同一である。説明の便宜上、一般式(IV)で表される化合物を、「中間体(IV)」と称する。
【0039】
本発明の一態様に係る製造方法2は、一般式(III)で表される化合物に対して炭素数1~6のアルコキシド化合物を作用させて、前記一般式(IV)で表される化合物を生成する工程(工程2-1)を含む。
【0040】
本発明の一態様に係る製造方法2は、以下のスキーム2に従って、中間体(III)から中間体(IV)を製造する。なお、下記スキーム中のR、R、R、m及びnは、それぞれ、前記一般式(IV)中のR、R、R、m及びnに対応する。
【0041】
<スキーム2>
【化18】
(工程2-1:中間体(IV)を生成する工程)
本発明の一態様に係る製造方法2において、工程2-1では、任意の有機溶媒(例えば、メタノール、トルエン等)中で、中間体(III)に対して炭素数1~6のアルコキシド化合物を作用させて、中間体(IV)を生成する。工程2-1の反応条件は特に限定されず、適宜設定することができる。
【0042】
本発明の一態様に係る製造方法1によって製造された中間体(III)は純度が高いことから、工程2-1で用いる中間体(III)は、上述した本発明の一態様に係る製造方法1によって製造されたものであることが好ましい。
【0043】
前記炭素数1~6のアルコキシド化合物は、炭素数1~6の金属アルコキシド化合物であることが好ましい。金属アルコキシド化合物を構成する金属元素は特に限定されない。前記炭素数1~6のアルコキシド化合物としては、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等が挙げられ、収率の観点から、ナトリウムメトキシドのメタノール溶液を使用することが好ましい。
【0044】
工程2-1において、中間体(III)に作用させる炭素数1~6のアルコキシド化合物の量は、反応を過不足なく行う観点から、中間体(III)1当量(eq.)に対して、好ましくは1.6当量以上、より好ましくは2.2当量以上である。また、収率の観点から、中間体(III)に作用させる炭素数1~6のアルコキシド化合物の量は、中間体(III)1当量(eq.)に対して、好ましくは3当量以下、より好ましくは2.4当量以下である。
【0045】
〔3.一般式(V)で表される化合物の製造方法-1〕
本発明の一態様に係る一般式(V)で表される化合物の製造方法(以下、「製造方法3」と称する)について説明する:
【化19】
[式(V)中、Rは、C-C-アルキル基であり;
及びRは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C-C-アルキル基、C-C-アルコキシ基、C-C-ハロアルキル基又はC-C-ハロアルコキシ基であり;
mは0~5の整数であり、mが2以上である場合には複数あるRは互いに異なっていてもよく;
nは0~4の整数であり、nが2以上である場合には複数あるRは互いに異なっていてもよい]。
【0046】
前記一般式(V)で表される化合物は、前記アゾール誘導体(I)の中間体の一つである。説明の便宜上、一般式(V)で表される化合物を、「中間体(V)」と称する。
【0047】
前記一般式(V)中のR、R、R、m及びnは、それぞれ、前記式(I)中のR、R、m及びnと同一である。
【0048】
本発明の一態様に係る製造方法3は、前記一般式(III)で表される化合物に対して炭素数1~6のアルコキシド化合物を作用させて、前記一般式(IV)で表される化合物を生成する工程(工程3-1)と、前記一般式(IV)で表される化合物を生成する工程において生成した前記一般式(IV)で表される化合物に対して酸性化合物を作用させて、前記一般式(V)で表される化合物を生成する工程(工程3-2)と、を含む。
【0049】
本発明の一態様に係る製造方法3は、以下のスキーム3に従って、中間体(III)から中間体(V)を製造する。なお、下記スキーム中のR、R、R、m及びnは、それぞれ、前記一般式(V)中のR、R、R、m及びnに対応する。
【0050】
<スキーム3>
【化20】
(工程3-1:中間体(IV)を生成する工程)
本発明の一態様に係る製造方法3において、工程3-1では、任意の有機溶媒(例えば、メタノール、トルエン等)中で、中間体(III)に対して炭素数1~6のアルコキシド化合物を作用させて、中間体(IV)を生成する。工程3-1の反応条件は特に限定されず、適宜設定することができる。工程3-1で使用する中間体(III)、炭素数1~6のアルコキシド化合物の種類、量等については、前記工程2-1で説明した通りである。
【0051】
(工程3-2:中間体(V)を生成する工程)
工程3-2では、任意の有機溶媒(例えば、トルエン)中で、前記工程3-1で生成した中間体(IV)に対して酸性化合物を作用させて、中間体(V)を生成する。工程3-2の反応条件は特に限定されず、適宜設定することができる。
【0052】
工程3-2で用いる中間体(IV)は、前記工程3-1で得られた反応液中に存在していてもよく、前記工程3-1で得られた反応液から単離、精製したものであってもよい。反応をワンポットで行うことにより製造工程を簡略化できることから、工程3-2で用いる中間体(IV)は、前記工程3-1で得られた反応液をそのまま使用することが好ましい。
【0053】
前記酸性化合物としては、塩酸水溶液、硫酸水溶液等が挙げられ、反応液の均一性の観点から、硫酸水溶液が好ましい。
【0054】
工程3-2において、中間体(IV)に作用させる酸性化合物の量は、反応を過不足なく行う観点から、中間体(IV)1当量(eq.)に対して、好ましくは4当量以上、より好ましくは4.4当量以上である。また、収率の観点から、中間体(IV)に作用させる酸性化合物の量は、中間体(IV)1当量(eq.)に対して、好ましくは5.0当量以下、より好ましくは4.5当量以下である。
【0055】
本発明の一態様に係る製造方法3では、既存の製造方法よりも安価に中間体(V)を製造することができる。例えば、特許文献1(国際公開公報第2019/093522号)に記載の方法(合成例3)では、中間体(V)を製造するために、ヨウ素、ヨードメタン等の高価な化合物を使用しており製造コストが嵩む。一方、本発明の一態様に係る製造方法3では、より安価な原料を用いることにより、中間体(V)の製造コストを抑えることが可能となる。
【0056】
また、本発明の一態様に係る製造方法3では、既存の製造方法よりも収率が向上している。例えば、特許文献1(国際公開公報第2019/093522号)に記載の方法(合成例3)では、中間体(V)までの収率は60%程度である。また、非特許文献2(Muller A. J. et al., Journal of Organic Chemistry, 47, 2342-2352; 1982)にはシアノ基をエステル基へと変換する同様の反応の記載があるが、収率は85%である。これに対し、後述する実施例に示すように、本発明の一態様に係る製造方法3では、収率が92.0%であり、特許文献1や非特許文献2に記載の方法よりも収率が大幅に向上する(後述する実施例に示す(合成例3-1)を参照)。
【0057】
〔4.一般式(V)で表される化合物の製造方法-2〕
本発明の他の一態様に係る一般式(V)で表される化合物の製造方法(以下、「製造方法4」と称する)について説明する。本発明の一態様に係る製造方法4は、一般式(II)で表されるケトン誘導体に対してシアン化合物を作用させて、前記一般式(III)で表される化合物を生成する工程(工程4-1)と、前記一般式(III)で表される化合物を生成する工程後の反応液に対して炭素数1~6のアルコキシド化合物を作用させて、一般式(IV)で表される化合物を生成する工程(工程4-2)と、前記一般式(IV)で表される化合物を生成する工程後の反応液に対して酸性化合物を作用させて、前記一般式(V)で表される化合物を生成する工程(工程4-3)と、を含む。
【0058】
本発明の一態様に係る製造方法4は、以下のスキーム4に従って、ケトン誘導体(II)から中間体(V)を製造する。なお、下記スキーム中のR、R、R、m及びnは、それぞれ、前記一般式(V)中のR、R、R、m及びnに対応する。
【0059】
<スキーム4>
【化21】
(工程4-1:中間体(III)を生成する工程)
本発明の一態様に係る製造方法4において、工程4-1では、反応が進行するために好適な有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、アセトン、ジメチルアセトアミド、トルエン、トルエンとメタノールとの混合溶媒等、好ましくはメタノール)中で、ケトン誘導体(II)に対してシアン化合物を作用させて、中間体(III)を生成する。工程4-1の反応条件、反応に使用するケトン誘導体(II)、シアン化合物の種類、量等については、前記工程1-1で説明した通りである。
【0060】
(工程4-2:中間体(IV)を生成する工程)
工程4-2では、前記工程4-1後の反応液に対して炭素数1~6のアルコキシド化合物を作用させて、中間体(IV)を生成する。工程4-2の反応条件は特に限定されず、適宜設定することができる。反応に使用する炭素数1~6のアルコキシド化合物の種類、量等については、前記工程2-1で説明した通りである。
【0061】
(工程4-3:中間体(V)を生成する工程)
工程4-3では、前記工程4-2後の反応液に対して酸性化合物を作用させて、中間体(V)を生成する。反応に使用する酸性化合物の種類、量等については、前記工程3-2で説明した通りである。
【0062】
本発明の一態様に係る製造方法4では、中間体(II)から途中工程にて後処理をすることなく、工程4-1から工程4-3までの3工程をワンポットにて中間体(V)を製造可能である。そのため、本発明の一態様に係る製造方法4では、工程を簡略化できる。
【0063】
〔5.一般式(IV)で表される化合物の製造方法-2〕
本発明の他の一態様に係る一般式(IV)で表される化合物の製造方法(以下、「製造方法5」と称する)について説明する。本発明の一態様に係る製造方法5は、一般式(II)で表されるケトン誘導体に対してシアン化合物を作用させて、前記一般式(III)で表される化合物を生成する工程(工程5-1)と、前記一般式(III)で表される化合物を生成する工程後の反応液に対して炭素数1~6のアルコキシド化合物を作用させて、一般式(IV)で表される化合物を生成する工程(工程5-2)と、を含む。
【0064】
本発明の一態様に係る製造方法5は、以下のスキーム5に従って、ケトン誘導体(II)から中間体(IV)を製造する。なお、下記スキーム中のR、R、R、m及びnは、それぞれ、前記一般式(IV)中のR、R、R、m及びnに対応する。
【0065】
<スキーム5>
【化22】
(工程5-1:中間体(III)を生成する工程)
本発明の一態様に係る製造方法5において、工程5-1では、反応が進行するために好適な有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、アセトン、ジメチルアセトアミド、トルエン、トルエンとメタノールとの混合溶媒等、好ましくはメタノール)中で、ケトン誘導体(II)に対してシアン化合物を作用させて、中間体(III)を生成する。工程5-1の反応条件、反応に使用するケトン誘導体(II)、シアン化合物の種類、量等については、前記工程1-1で説明した通りである。
【0066】
(工程5-2:中間体(IV)を生成する工程)
工程5-2では、前記工程5-1後の反応液に対して炭素数1~6のアルコキシド化合物を作用させて、中間体(IV)を生成する。工程5-2の反応条件は特に限定されず、適宜設定することができる。反応に使用する炭素数1~6のアルコキシド化合物の種類、量等については、前記工程2-1で説明した通りである。
【0067】
本発明の一態様に係る製造方法5では、中間体(II)から途中工程にて後処理をすることなく、工程5-1から工程5-2までの2工程をワンポットにて中間体(IV)を製造可能である。そのため、本発明の一態様に係る製造方法5では、工程を簡略化できる。
【0068】
〔6.一般式(VI)で表される化合物〕
本発明の一態様に係る一般式(VI)で表される化合物について以下に説明する:
【化23】
[式(VI)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C-C-アルキル基、C-C-アルコキシ基、C-C-ハロアルキル基又はC-C-ハロアルコキシ基であり;
mは0~5の整数であり、mが2以上である場合には複数あるRは互いに異なっていてもよく;
nは0~4の整数であり、nが2以上である場合には複数あるRは互いに異なっていてもよく;
は、-CNまたは-CNHORであり、
は、C-C-アルキル基である]。
【0069】
前記一般式(VI)中のR、R、m及びnは、それぞれ、前記式(I)中のR、R、m及びnと同一である。
【0070】
本発明の一態様に係る一般式(VI)で表される化合物は、前記一般式(VI)において、例えば、m及びnが1であり、Rが-CNであり、式(VII)で示される官能基の置換位置(*)は4位であり、Rが3-Cl、Rが4-Clである。言い換えれば、本発明の一態様に係る一般式(VI)で表される化合物は、前記一般式(VI)において、m及びnが1であり、Rが-CNであり、RおよびRがそれぞれ-Clであり、式(VII)で示される官能基の置換位置(*)はフェノキシフェニル基の4位であり、Rの置換位置はフェノキシフェニル基の3位であり、Rの置換位置はフェノキシフェニル基の4位である。かかる化合物は、アゾール誘導体(I)の中間体である、中間体(III)の一態様である。
【化24】
【0071】
また、本発明の一態様に係る一般式(VI)で表される化合物は、前記一般式(VI)において、m及びnが1であり、Rが-CNHORであり、Rがメチル基であり、式(VII)で示される官能基の置換位置(*)は4位であり、Rが3-Cl、Rが4-Clである。言い換えれば、本発明の一態様に係る一般式(VI)で表される化合物は、前記一般式(VI)において、m及びnが1であり、Rが-CNHORであり、Rがメチル基であり、RおよびRがそれぞれ-Clであり、式(VII)で示される官能基の置換位置(*)はフェノキシフェニル基の4位であり、Rの置換位置はフェノキシフェニル基の3位であり、Rの置換位置はフェノキシフェニル基の4位である。かかる化合物は、アゾール誘導体(I)の中間体である、中間体(IV)の一態様である。
【化25】
【0072】
中間体(III)及び中間体(IV)は、それぞれ、上述した製造方法1及び製造方法2にて製造することができる。
【0073】
(付記事項)
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0074】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る製造方法は、一般式(III)で表される化合物の製造方法であって、一般式(II)で表されるケトン誘導体に対してシアン化合物を作用させて、前記一般式(III)で表される化合物を生成する工程と、前記一般式(III)で表される化合物を生成する工程において生成した前記一般式(III)で表される化合物を、アルカリ性水溶液にて洗浄する洗浄工程と、を含む構成である。
【0075】
本発明の態様2に係る製造方法は、一般式(IV)で表される化合物の製造方法であって、一般式(III)で表される化合物に対して炭素数1~6のアルコキシド化合物を作用させて、前記一般式(IV)で表される化合物を生成する工程を含む構成である。
【0076】
本発明の態様3に係る製造方法は、一般式(V)で表される化合物の製造方法であって、一般式(III)で表される化合物に対して炭素数1~6のアルコキシド化合物を作用させて、一般式(IV)で表される化合物を生成する工程と、前記一般式(IV)で表される化合物を生成する工程において生成した前記一般式(IV)で表される化合物に対して酸性化合物を作用させて、前記一般式(V)で表される化合物を生成する工程と、を含む構成である。
【0077】
本発明の態様4に係る製造方法は、前記の態様2において、前記一般式(III)で表される化合物は、前記の態様1に記載の製造方法によって製造されたものであってもよい。
【0078】
本発明の態様5に係る製造方法は、前記の態様3において、前記一般式(III)で表される化合物は、前記の態様1に記載の製造方法によって製造されたものであってもよい。
【0079】
本発明の態様6に係る製造方法は、一般式(V)で表される化合物の製造方法であって、一般式(II)で表されるケトン誘導体に対してシアン化合物を作用させて、一般式(III)で表される化合物を生成する工程と、前記一般式(III)で表される化合物を生成する工程後の反応液に対して炭素数1~6のアルコキシド化合物を作用させて、一般式(IV)で表される化合物を生成する工程と、前記一般式(IV)で表される化合物を生成する工程後の反応液に対して酸性化合物を作用させて、前記一般式(V)で表される化合物を生成する工程と、を含む構成である。
【0080】
本発明の態様7に係る製造方法は、前記の態様1において、前記シアン化合物が、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム又はアセトンシアノヒドリンであり、前記シアン化合物としてアセトンシアノヒドリンを選択した場合に、前記一般式(III)で表される化合物を生成する工程を塩基性化合物共存下にて行ってもよい。
【0081】
本発明の態様8に係る製造方法は、前記の態様6において、前記シアン化合物が、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム又はアセトンシアノヒドリンであり、前記シアン化合物としてアセトンシアノヒドリンを選択した場合に、前記一般式(III)で表される化合物を生成する工程を塩基性化合物共存下にて行ってもよい。
【0082】
本発明の態様9に係る化合物は、下記一般式(VI)で表される化合物である。
【0083】
本発明の態様10に係る化合物は、前記の態様9において、前記一般式(VI)において、m及びnが1であり、Rが-CNであり、式(VII)で示される官能基の置換位置(*)は4位であり、Rが3-Cl、Rが4-Clであってもよい。
【0084】
本発明の態様11に係る化合物は、前記の態様9において、前記一般式(VI)において、m及びnが1であり、Rが-CNHORであり、Rがメチル基であり、式(VII)で示される官能基の置換位置(*)は4位であり、Rが3-Cl、Rが4-Clであってもよい。
【実施例
【0085】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0086】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。なお、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0087】
〔実施例1〕
(合成例1-1)
2-(2-クロロ-4-(4-クロロフェノキシ)フェニル)オキシラン-2-カルボニトリル(中間体(III))の合成
<KCN、Br体原料、アルカリ洗浄有>
以下のスキームAに従って、標記化合物を製造した。
<スキームA>
【化26】
2-ブロモ-1-(2-クロロ-4-(4-クロロフェノキシ)フェニル)エタン-1-オン(前記スキームA中の式(1)で示される化合物)粗体(3.89g、純度82.92wt%、純分3.23g)にメタノール(17.9mL)及びシアン化カリウム(0.758g、1.3eq.)を加えて2.5時間撹拌した。
【0088】
反応液へトルエン(30mL)及び2mol/L水酸化カリウム水溶液(20mL)を加えて分液した。水層からトルエン(30mL)にて再抽出を2回行った。得られた有機層を併せて、2mol/L水酸化カリウム水溶液(20mL)、飽和塩化アンモニウム水溶液(20mL)、飽和食塩水(20mL)にて順次洗浄し、硫酸ナトリウムにて乾燥させ、減圧濃縮して、残渣(2.91g)を黄色油状物として得た。
【0089】
この残渣のHPLC定量を行った。その結果、標記化合物(前記スキームA中の式(2)で示される化合物)の収率は76.5%、純度は72.0wt%であった。
【0090】
〔実施例2〕
(合成例1-2)
2-(2-クロロ-4-(4-クロロフェノキシ)フェニル)オキシラン-2-カルボニトリル(中間体(III))の合成
<KCN、Br体原料、アルカリ洗浄無>
以下のスキームBに従って、標記化合物を製造した。
<スキームB>
【化27】
2-ブロモ-1-(2-クロロ-4-(4-クロロフェノキシ)フェニル)エタン-1-オン(前記スキームB中の式(1)で示される化合物)粗体(3.94g、純度82.92wt%、純分3.27g)をメタノール(18.1mL、2L/mol)ヘ溶解させ、室温にてシアン化カリウム(0.768g、1.3eq.)を加えて3時間撹拌した。
【0091】
反応液からメタノールを減圧留去し、残渣へ水(20mL)を加えて酢酸エチル(20mL)にて抽出を2回行った。得られた有機層を併せて、飽和食塩水(20mL)にて洗浄し、硫酸ナトリウムにて乾燥させ、減圧濃縮して、残渣(3.58g)を褐色油状物として得た。
【0092】
この残渣のHPLC定量を行った。その結果、標記化合物(前記スキームB中の式(2)で示される化合物)の収率は77.9%、純度は60.5wt%であった。
【0093】
〔実施例3〕
(合成例1-3)
2-(2-クロロ-4-(4-クロロフェノキシ)フェニル)オキシラン-2-カルボニトリル(中間体(III))の合成
<KCN、Cl体原料、単離>
以下のスキームCに従って、標記化合物を製造した。
<スキームC>
【化28】
2-クロロ-1-(2-クロロ-4-(4-クロロフェノキシ)フェニル)エタン-1-オン(前記スキームC中の式(3)で示される化合物)精製品(285.5mg)をメタノール(1.8mL、2L/mol)ヘ溶解させ、室温にてシアン化カリウム(59mg、1eq.)を加えて8時間撹拌し、その後2日間静置した。
【0094】
反応液からメタノールを減圧留去し、残渣へ水(10mL)を加えてトルエン(10mL)にて抽出を3回行った。得られた有機層を併せて、飽和食塩水(10mL)にて洗浄し、硫酸ナトリウムにて乾燥させ、減圧濃縮した。残渣(271.7mg)をWaters社製Sep-Pak Vac 35 cc (10 g) Silica Cartridgeを用い、展開液(ヘキサン:酢酸エチル=50:1)、展開液(ヘキサン:酢酸エチル=20:1)にて順次精製し、標記化合物(前記スキームC中の式(2)で示される化合物)(177.8mg)を無色透明油状物として得た(単離収率64.2%)。
1H-NMR (400MHz,CDCl3) δ:7.42(d,J = 8.6 Hz,1H),7.36(d,J = 9.0 Hz,2H),7.03(d,J = 2.4 Hz,1H),6.99(d,J = 9.0 Hz,2H),6.91(dd,J = 8.6,2.4 Hz,1H),3. 60(d,J = 5.8 Hz,1H),3.05(d,J = 5.8 Hz,1H).。
【0095】
〔実施例4〕
(合成例1-4)
2-(2-クロロ-4-(4-クロロフェノキシ)フェニル)オキシラン-2-カルボニトリル(中間体(III))の合成
<ACH/KCO、Br体原料、アルカリ洗浄無>
以下のスキームDに従って、標記化合物を製造した。
<スキームD>
【化29】
2-ブロモ-1-(2-クロロ-4-(4-クロロフェノキシ)フェニル)エタン-1-オン(前記スキームD中の式(1)で示される化合物)精製品(180.0mg)にメタノール(0.5mL、1L/mol)を加え氷冷した。
【0096】
次いで、アセトンシアノヒドリン(50.6μL=0.553mmol、1.1eq.)及び炭酸カリウム(76.5mg、1.1eq.)を加えて2.5時間撹拌した。
【0097】
反応液から酢酸エチル(5mL)にて抽出を3回行った。得られた有機層を併せて、飽和食塩水(10mL)にて洗浄し、硫酸ナトリウムにて乾燥させ、減圧濃縮して、残渣(157.3mg)を薄い黄色油状物として得た。
【0098】
この残渣のHPLC定量を行った。その結果、標記化合物(前記スキームD中の式(2)で示される化合物)の収率は65.4%、純度は73.3wt%であった。
【0099】
〔実施例5〕
(合成例1-5)
2-(2-クロロ-4-(4-クロロフェノキシ)フェニル)オキシラン-2-カルボニトリル(中間体(III))の合成
<ACH/DIPEA、Br体原料、アルカリ洗浄有>
以下のスキームEに従って、標記化合物を製造した。
<スキームE>
【化30】
2-ブロモ-1-(2-クロロ-4-(4-クロロフェノキシ)フェニル)エタン-1-オン(前記スキームE中の式(1)で示される化合物)粗体(4.36g、純度82.92wt%、純分3.62g)にメタノール10mLを加え、氷水冷却下撹拌した。
【0100】
次いで、アセトンシアンヒドリン1.70g(純度96%、19.18mmol、1.92eq.)、N-エチルジイソプロピルアミン(DIPEA)2.84g(純度97%、21.31mmol、2.13eq.)を順次添加し、氷水冷却下5時間撹拌した。
【0101】
反応液へトルエン20mL及び6.6wt%水酸化カリウム水溶液10mLを加えて分配した。下層を更にトルエン10mLにて分配した。得られた有機層を併せ、6.6wt%水酸化カリウム水溶液(5mL)、飽和食塩水(10mL)にて順次洗浄し、硫酸ナトリウムにて乾燥させ、減圧濃縮して、残渣(2.80g)を赤褐色飴状物として得た。
【0102】
この残渣のHPLC定量を行った。その結果、標記化合物(前記スキームE中の式(2)で示される化合物)の収率は74.4%、純度は81.8wt%であった。
【0103】
〔実施例6〕
(合成例2-1)
メチル2-(2-クロロ-4-(4-クロロフェノキシ)フェニ)オキシラン-2-カルボイミデート(中間体(IV))の合成
<単離>
以下のスキームFに従って、標記化合物を製造した。
<スキームF>
【化31】
2-(2-クロロ-4-(4-クロロフェノキシ)フェニル)オキシラン-2-カルボニトリル(前記スキームF中の式(2)で示される化合物)精製品(721mg)をメタノール(4.7mL)ヘ溶解させ、ナトリウムメトキシド(153mg、1.2eq.)を室温にて加えて1時間撹拌した。
【0104】
反応液からメタノールを減圧留去し、残渣へ飽和重曹水(20mL)及び酢酸エチル(20mL)を加えて有機層を分液した。水層から酢酸エチル(20mL)にて抽出を2回行った。得られた有機層を併せて、飽和食塩水洗浄(20mL)、硫酸ナトリウムにて乾燥させ、減圧濃縮した。残渣(858mg)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学 60N(球状、中性)、50g、ヘキサン:酢酸エチル=4:1)にて精製し、標記化合物(前記スキームF中の式(4)で示される化合物)(666mg)を無色透明油状物として得た。標記化合物の単離収率は83.7%であった。
1H-NMR (400MHz,CDCl3) δ:7.63(br.s,1H),7.34(d,J = 8.8 Hz,2H),7.33(d,J = 2.4 Hz,1H),7.00(d,J = 8.8 Hz,1H),6.99(d,J = 8.8 Hz,2H),6.88(dd,J = 8.8,2.4 Hz,1H),3.77(s,3H),3.28(d,J = 5.7 Hz,1H),3.14(d,J = 5.7 Hz,1H).。
【0105】
〔実施例7〕
(合成例3-1)
2-(2-クロロ-4-(4-クロロフェノキシ)フェニル)オキシラン-2-カルボン酸メチルエステル(中間体(V))の合成
以下のスキームGに従って、標記化合物を製造した。
<スキームG>
【化32】
2-(2-クロロ-4-(4-クロロフェノキシ)フェニル)オキシラン-2-カルボニトリル(前記スキームG中の式(2)で示される化合物)粗体(34.40g、純度63.78wt%、純分21.94g)へメタノール(143mL)及びトルエン(72mL)を加えて氷冷した。
【0106】
次いで、28wt%ナトリウムメトキシド/メタノール溶液(30.4g、2.2eq.)を20分かけて滴下し、その後2時間撹拌した。
【0107】
続いてトルエン(71mL)を加え、1mol/L塩酸水(315mL=315mmol、4.4eq.)を加え、氷水浴を外して2時間撹拌した。
【0108】
反応液を分液し、水層からトルエン(143mL)にて再抽出を行った。得られた有機層を併せて飽和重曹水(143mL)、飽和食塩水(143mL)にて順次洗浄し、硫酸ナトリウムにて乾燥させ、減圧濃縮して、残渣(39.20g)を黄色油状物として得た。
【0109】
この残渣のHPLC定量を行った。その結果、標記化合物(前記スキームG中の式(5)で示される化合物)の収率は92.0%、純度は57.0wt%であった。
【0110】
〔実施例8〕
(合成例4-1)
2-(2-クロロ-4-(4-クロロフェノキシ)フェニル)オキシラン-2-カルボン酸メチルエステル(中間体(V))の合成
以下のスキームHに従って、標記化合物を製造した。
<スキームH>
【化33】
2-ブロモ-1-(2-クロロ-4-(4-クロロフェノキシ)フェニル)エタン-1-オン(前記スキームH中の式(1)で示される化合物)粗体(3.87g、82.92wt%、純分3.21g)をメタノール(17.8mL)へ溶解させ、シアン化カリウム(0.755g、1.3eq.)を室温にて加えて5時間撹拌した。
【0111】
続いて28wt%ナトリウムメトキシド/メタノール溶液(2.92g、1.7eq.)を加えて3時間撹拌し、さらに28wt%ナトリウムメトキシド/メタノール溶液(1.72g、1.0eq.)を追加して1時間撹拌した。
【0112】
続いてトルエン(17.8mL、2L/mol)及び1mol/L塩酸水(38.3mL=38.3mmol、4.3eq.)を加えて1時間撹拌した。
【0113】
反応液からトルエン(30mL)にて抽出を3回行った。得られた有機層を併せて、飽和重曹水(30mL)、飽和食塩水(30mL)にて順次洗浄し、硫酸ナトリウムにて乾燥させ、減圧濃縮して、残渣(3.58g)を褐色油状物として得た。
【0114】
この残渣のHPLC定量を行った。その結果、標記化合物(前記スキームH中の式(5)で示される化合物)の収率は53.9%、純度は45.7wt%であった。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、農薬として有用なアゾール誘導体を合成するための中間体として利用することができる。