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特許7183536ポリエステルエラストマーを溶着する成形体用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物および複合成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】ポリエステルエラストマーを溶着する成形体用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物および複合成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20221129BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20221129BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20221129BHJP
   B29C 65/70 20060101ALI20221129BHJP
   B29C 70/10 20060101ALI20221129BHJP
   B29C 70/48 20060101ALI20221129BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20221129BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L67/00
C08K7/14
B29C65/70
B29C70/10
B29C70/48
B29C45/14
B29C45/26
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017225679
(22)【出願日】2017-11-24
(65)【公開番号】P2019094441
(43)【公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】神谷 元暢
(72)【発明者】
【氏名】堀口 悟
(72)【発明者】
【氏名】藤井 泰人
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-235305(JP,A)
【文献】特開平04-119810(JP,A)
【文献】特開平03-263457(JP,A)
【文献】特開平08-090589(JP,A)
【文献】再公表特許第2014/104011(JP,A1)
【文献】特開2001-150480(JP,A)
【文献】特開2006-176691(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0142423(US,A1)
【文献】特開2008-214558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08G 63/00 - 64/42
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
B29C 41/00 - 41/52
B29C 45/00 - 45/84
B29C 63/00 - 63/48
B29C 65/00 - 65/82
B29C 70/00 - 70/88
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)20~95質量%、ポリエステルエラストマー(B)4~42質量%、共重合ポリエステル樹脂(C)0~50質量%、及び繊維断面が非円形であるガラス繊維(D)1~60質量%を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、前記ガラス繊維(D)が、繊維断面の長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5~8である扁平断面ガラス繊維、またはまゆ形断面ガラス繊維であり、ポリエステルエラストマーを溶着する成形体用であるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
前記共重合ポリエステル樹脂(C)が、エチレンテレフタレート単位またはブチレンテレフタレート単位に、アルキル側鎖含有グリコール及びイソフタル酸の少なくとも一方を共重合したポリエステル樹脂である請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1~のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形体とポリエステルエラストマーが溶着された複合成形体。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形体を金型内にインサート材として配し、ポリエステルエラストマーを射出成形により溶着させる複合成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルエラストマーに対する溶着性が改善されたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、機械的性質、電気的性質、その他物理的、化学的特性に優れ、かつ加工性が良好であるため、エンジニアリングプラスチックとして自動車、電気・電子部品などの広範な用途に使用されている。
しかし、射出成形品の成形効率は良いが、その流動特性や金型構造の点から形状に制限があり、例えば、中空成形体などの成形が困難であった。このため、従来、製品形状の複雑な部品同士の接合においては、接着剤による接合、ボルトなどによる機械的接合などが行われてきた。しかしながら、接着剤ではその接着強度が、また、ボルトなどによる機械的接合では、費用、締結の手間、重量増が問題となっている。
【0003】
熱板溶着、振動溶着、レーザー溶着、超音波溶着などの接合方法では、短時間で接合が可能であり、また、接着剤や金属部品を使用する必要がないので、それにかかるコストや重量増、環境汚染等の問題を低減することができるため、これらの方法による部品同士の接合が増大している(特許文献1、2、3、4)。
【0004】
特許文献1では、ポリブチレンテレフタレート樹脂にエラストマー及びガラス繊維を添加することで機械的物性の大きな低下なく振動溶着性が向上することを示している。しかし、これらの方法は振動溶着用の特殊機械を使用しなければならないばかりか、振動溶着時に発生するバリにより、バリの後処理工程が発生する場合がある。特許文献2では、ポリブチレンテレフタレート樹脂にエラストマー及びガラス繊維を添加することで、冷熱サイクル環境での耐久性と耐加水分解性に優れていることを示している。しかしながら、開示されている組成物は、インサート成形する二次用材料であり、耐加水分解性は向上するものの耐溶着性としては十分ではなく、インサート接合性としても十分ではない。特許文献3では、末端カルボキシル基の限定とカルボジイミドを添加することにより、機械物性の大きな低下なしに、耐加水分解性が向上することを見出している。しかしながら、この組成物は熱溶着用材料として優れているが、特許文献1と同様に接合時に熱溶着用の特殊機械を使用しなければならず、振動溶着と同様に熱溶着部にバリが発生し、バリの後処理工程が発生する場合がある。特許文献4では、ポリブチレンテレフタレート樹脂の分子量と振動溶着強度に相関があり、ある特定の範囲に分子量を調整することで、振動溶着強度を高めつつ、成形品を構成する樹脂組成物の流動性が損なわないことを示している。しかしながら、本特許文献も特許文献1と同様に、接合時に振動溶着用の特殊機械を使用しなければならず、溶着部のバリの発生があり、バリの後処理工程が発生する場合がある。
【0005】
ところで、インサート成形で接合できれば、特殊な溶着設備が必要でなく、簡便に複合成形体を成形することができる。さらに、振動溶着等の機械的接合においては、成形条件のバラつきが大きいという問題もある。また、特許文献1~4には、ポリブチレンテレフタレート樹脂系成形品に対して、ポリエステルエラストマーをインサート成形によって接合しようとする技術思想は全く無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-176691号公報
【文献】国際公開第2009/150831号パンフレット
【文献】国際公開第2010/122915号パンフレット
【文献】国際公開第2013/047708号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決しようとするものであり、特殊な溶着設備を必要とせず、インサート成形で接合(溶着)することができ、さらに応力発生部位においても実用性のある接合強度をもつポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供するものである。中でも、ポリブチレンテレフタレート樹脂系成形品に対して、ポリエステルエラストマーをインサート成形によって接合(溶着)して、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエステルエラストマーの両者の優れた特性を併せ持つ複合成形体が市場から要望され、この複合成形体に必要なポリブチレンテレフタレート樹脂系成形品用の樹脂組成物が求められている。本発明者らが検討したところ、ポリブチレンテレフタレート樹脂成形品に対して、ポリエステルエラストマーはもとより他の樹脂をインサート成形によって接合しようとしても実用に足る接合(溶着)が困難であり、接合できたとしても成形体形状が制約され、接合部に応力がかかる部品には使用できないということが分かった。したがって、本発明は、インサート成形で接合することができ、さらに応力発生部位においても実用性のある接合強度をもつ、ポリエステルエラストマーを溶着する成形体用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することを課題とする。さらには、該成形体用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物がガラス繊維強化により、機械特性が向上した場合であっても、表面外観が良好な成形体を与え得る、成形体用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するためにポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の構成と特性を鋭意検討した結果、本発明を完成するに至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明は以下の構成を有するものである。
[1] ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)20~95質量%、ポリエステルエラストマー(B)4~42質量%、共重合ポリエステル樹脂(C)0~50質量%、及び繊維断面が非円形であるガラス繊維(D)1~60質量%を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、ポリエステルエラストマーを溶着する成形体用であるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[2] 前記ガラス繊維(D)が、繊維断面の長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5~8である扁平断面ガラス繊維、またはまゆ形断面ガラス繊維である[1]に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[3] 前記共重合ポリエステル樹脂(C)が、エチレンテレフタレート単位またはブチレンテレフタレート単位に、アルキル側鎖含有グリコール及びイソフタル酸の少なくとも一方を共重合したポリエステル樹脂である[1]または[2]に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形体とポリエステルエラストマーが溶着された複合成形体。
[5] [1]~[3]のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形体を金型内にインサート材として配し、ポリエステルエラストマーを射出成形により溶着させる複合成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリブチレンテレフタレート樹脂においても、ポリエステルエラストマーを添加することにより、インサート成形でポリエステルエラストマーと接合することができる。さらにガラス繊維を添加した際、繊維断面が扁平、もしくはまゆ形形状のものを使用することで、流動性向上に伴い、成形体の外観を良好にすることを可能とする。本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形体とポリエステルエラストマーが溶着された複合成形体は、特殊な設備を必要とせず、インサート成形と言う簡便な方法で得ることができるインサート複合成形体である。また、この複合成形体の接合部は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形体とポリエステルエラストマーが、接着剤やボルトなどを介することなく、直接、接合(溶着)されており、その接合部は実用性のある十分な接合強度を有している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を具体的に説明する。
[ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)]
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体を主たる成分とするジカルボン酸と、1、4-ブタンジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主たる成分とするジオールとを重縮合反応させるなどの一般的な重合方法によって得ることができる重合体である。ポリブチレンテレフタレート樹脂は、ブチレンテレフタレートの繰返し単位が80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%であることが特に好ましい。
【0012】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、その特性を損なわない範囲、たとえば20質量%程度以下で、他の重合成分を含むことができる。他の重合成分を含むポリブチレンテレフタレート樹脂の例としては、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレン(テレフタレート/ナフタレート)、ポリ(ブチレン/エチレン)テレフタレートなどを挙げることができる。これらの成分を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0013】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV)は、特に限定されないが、0.5~1.6dl/gであることが好適であり、0.7~1.3dl/gであることがより好適であり、0.8~1.1dl/gであることがさらに好適である。本発明により製造されるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV)が0.5~1.6dl/gであることにより、機械的特性および化学的特性が良好となる。
【0014】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、接合性には影響がないため特に限定されない。しかし、末端カルボキシル基は、ポリマーの加水分解反応において触媒的な役割を担うため、末端カルボキシル基量の増加に伴って加水分解が加速される。このため、この末端カルボキシル基の濃度は低いことが好ましい。ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基の濃度(酸価)は、40eq/ton以下であることが好ましく、より好ましくは30eq/ton以下であり、さらに好ましくは25eq/ton以下である。
【0015】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基の濃度(単位:eq/ton)は、たとえば、所定量のポリブチレンテレフタレート樹脂をベンジルアルコールに溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/1ベンジルアルコール溶液を使用して滴定することにより測定することができる。指示薬は、たとえば、フェノールフタレイン溶液を用いればよい。
【0016】
上記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中、20~95質量%であり、好ましくは25~95質量%であり、より好ましくは50~80質量%である。この範囲内にポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を配合することにより、実用性のある接合強度をもつポリエステルエラストマー接合可能なポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得ることが可能となる。
【0017】
[ポリエステルエラストマー(B)]
本発明で使用するポリエステルエラストマー(B)とは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族及び/又は脂環族のグリコールを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル及び脂肪族ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種のソフトセグメントが結合したポリエステルエラストマーであることが好ましい。
【0018】
本発明で使用するポリエステルエラストマー(B)において、ハードセグメントのポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸は、通常の芳香族ジカルボン酸が広く用いられ、特に限定されないが、具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-p,p’-ジカルボン酸、ジフェニル-p,p-ジカルボン酸、及びこれらの機能的誘導体が挙げられる。好ましくはテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル-p,p-ジカルボン酸であり、これらは結晶化速度が早く成形性が良好な傾向にある。特に好ましくは、テレフタル酸およびテレフタル酸ジメチルエステル、イソフタル酸およびイソフタル酸ジメチルエステル、2,6-ナフタレンジカルボン酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルである。更に、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、グルタル酸、ダイマ-酸等の脂肪族ジカルボン酸及びその機能的誘導体、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸及びその機能的誘導体を50モル%未満で用いることも出来る。芳香族ジカルボン酸以外の成分が好ましくは50モル%未満、より好ましくは40モル%未満、更に好ましくは30モル%未満で、50モル%以上だとポリエステルエラストマーの結晶性が低下する傾向にあり、成形性、耐熱性が低下する傾向にある。
【0019】
また、本発明で使用するポリエステルエラストマー(B)において、ハードセグメントのポリエステルを構成する脂肪族又は脂環族グリコールは、一般の脂肪族又は脂環族グリコールが広く用いられ、特に限定されないが、主として炭素数2~8のアルキレングリコール類であることが望ましい。好ましくは、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールであり、特に好ましくは、エチレングリコール、1,4-ブタンジオールのいずれかである。
【0020】
上記のハードセグメントのポリエステルを構成する成分としては、エチレンテレフタレート単位(テレフタル酸とエチレングリコールからなる単位)あるいはブチレンテレフタレート単位(テレフタル酸と1,4-ブタンジオールからなる単位)よりなるものが物性、成形性、コストパフォーマンスの点より好ましい。
【0021】
また、本発明で使用するポリエステルエラストマー(B)におけるハードセグメントを構成するポリエステルとして好適な芳香族ポリエステルを事前に製造し、その後ソフトセグメント成分と共重合させる場合、該芳香族ポリエステルは、通常のポリエステルの製造法に従って容易に得ることができる。また、かかるポリエステルは、数平均分子量10000~40000を有しているものが望ましい。
【0022】
本発明に用いられるポリエステルエラストマー(B)のソフトセグメントは、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種である。脂肪族ポリエーテルとしては、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシヘキサメチレングリコール、ポリオキシトリメチレングリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリオキシエチレングリコールのエチレンオキシド付加物、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体などが挙げられる。
また、脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペートなどが挙げられる。
【0023】
また、脂肪族ポリカーボネートは、主として炭素数2~12の脂肪族ジオール残基からなるものであることが好ましい。これらの脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオールなどが挙げられる。特に、得られるポリエステルエラストマー(B)の柔軟性や低温特性の点より炭素数5~12の脂肪族ジオールが好ましい。これらの成分は、以下に説明する事例に基づき、単独で用いてもよいし、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
【0024】
本発明において、使用可能なポリエステルエラストマーのソフトセグメントを構成する、低温特性が良好な脂肪族ポリカーボネートジオールとしては、融点が低く(例えば、70℃以下)かつ、ガラス転移温度が低いものが好ましい。一般に、ポリエステルエラストマーのソフトセグメントを形成するのに用いられる1,6-ヘキサンジオールからなる脂肪族ポリカーボネートジオールは、ガラス転移温度が-60℃前後と低く、融点も50℃前後となるため、低温特性が良好なものとなる。その他にも、上記脂肪族ポリカーボネートジオールに、例えば、3-メチル-1,5-ペンタンジオールを適当量共重合して得られる脂肪族ポリカーボネートジオールは、元の脂肪族ポリカーボネートジオールに対してガラス転移点が若干高くなるものの、融点が低下もしくは非晶性となるため、低温特性が良好な脂肪族ポリカーボネートジオールに相当する。また、例えば、1,9-ノナンジオールと2-メチル-1,8-オクタンジオールからなる脂肪族ポリカーボネートジオールは融点が30℃程度、ガラス転移温度が-70℃前後と十分に低いため、低温特性が良好な脂肪族ポリカーボネートジオールに相当する。
【0025】
本発明に用いるポリエステルエラストマー(B)は、経済性、耐熱性、耐寒性の理由から、テレフタル酸、1,4-ブタンジオール、及びポリオキシテトラメチレングリコールを主たる成分とする共重合体であることが好ましい。ポリエステルエラストマー(B)を構成するジカルボン酸成分中、テレフタル酸が40モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。ポリエステルエラストマー(B)を構成するグリコール成分中、1,4-ブタンジオールとポリオキシテトラメチレングリコールの合計が40モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。
【0026】
前記ポリオキシテトラメチレングリコールの数平均分子量が500~4000であることが好ましい。数平均分子量が500未満であると、エラストマー特性を発現しづらくなることがある。一方、数平均分子量が4000を超えると、ポリエステルエラストマー(B)のハードセグメントを構成するポリエステル部分との相溶性が低下し、ブロック状に共重合することが難しくなる場合がある。ポリオキシテトラメチレングリコールの数平均分子量は、800以上3000以下であることがより好ましく、1000以上2500以下がさらに好ましい。
【0027】
本発明に用いられるポリエステルエラストマー(B)のハードセグメントとソフトセグメントの共重合量は、ハードセグメント/ソフトセグメントの質量比が、85/15~35/65であることが好ましく、より好ましくは、75/25~50/50である。
【0028】
本発明で使用するポリエステルエラストマー(B)の硬度(表面硬度)は特に限定されないが、例えばショアA硬度25程度の低硬度のものからショアD硬度75程度の高硬度まで広い範囲のポリエステルエラストマーが使用可能であり、好ましくはショアD硬度25~65、さらに好ましくはショアD硬度25~40のものである。
【0029】
本発明に用いるポリエステルエラストマー(B)の還元粘度は、後記する測定方法で測定した場合、0.5dl/g以上3.5dl/g以下であることが好ましい。0.5dl/g未満では、樹脂としての耐久性が低く、3.5dl/gを超えると、射出成形などの加工性が不十分になる可能性がある。ポリエステルエラストマー(B)の還元粘度は、1.0dl/g以上3.0dl/g以下であることがより好ましく、1.5dl/g以上2.8dl/g以下であることがさらに好ましい。また、酸価は200eq/t以下が好ましく、50eq/t以下が特に好ましい。
【0030】
本発明に用いられるポリエステルエラストマー(B)は、公知の方法で製造することができる。例えば、ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコール、およびソフトセグメント成分を触媒の存在下エステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、あるいはジカルボン酸と過剰量のグリコールおよびソフトセグメント成分を触媒の存在下エステル化反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、また、あらかじめハードセグメントを作っておき、これにソフトセグメント成分を添加してエステル交換反応によりランダム化せしめる方法、ハードセグメントとソフトセグメントを鎖連結剤でつなぐ方法、さらにポリ(ε-カプロラクトン)をソフトセグメントに用いる場合は、ハードセグメントにε-カプロラクトンモノマを付加反応させるなど、いずれの方法をとってもよい。
【0031】
上記ポリエステルエラストマー(B)の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中、4~42質量%であり、好ましくは5~40質量%であり、より好ましくは15~30質量%である。この範囲内にポリエステルエラストマー(B)を配合することにより、実用性のある接合強度をもつポリエステルエラストマー接合可能なポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得ることが可能となる。
【0032】
[共重合ポリエステル樹脂(C)]
本発明における共重合ポリエステル樹脂(C)としては、構成する全酸成分を100モル%、構成する全グリコール成分を100モル%としたとき、エチレングリコールが40モル%以上かつ、テレフタル酸とエチレングリコールの合計が80~180モル%を占める樹脂、または1,4-ブタンジオールが40モル%以上かつ、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールの合計が80~180モル%を占める樹脂が好ましい。共重合成分として、イソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸、トリメリット酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロへキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、エチレングリコール及び2-メチル-1,3-プロパンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。エチレングリコール、1,4-ブタンジオールは、主成分に含まれないポリエステル樹脂において、共重合成分となり得る。
【0033】
共重合ポリエステル樹脂(C)としては、エチレンテレフタレート単位またはブチレンテレフタレート単位に、アルキル側鎖含有グリコール及びイソフタル酸の少なくとも一方を共重合したポリエステル樹脂であることが好ましく、非晶性であることが好ましい。アルキル側鎖含有グリコールとしては、ネオペンチルグリコール、1,2-プロパンジオール、及び2-メチル-1,3-プロパンジオールが挙げられる。中でも共重合成分として各種特性の観点から好ましいのは、ネオペンチルグリコールやイソフタル酸など結晶性を低下させる成分である。
【0034】
共重合ポリエステル樹脂(C)を構成する全グリコール成分を100モル%としたとき、アルキル側鎖含有グリコールの共重合割合は20~60モル%が好ましく、25~50モル%がより好ましい。
共重合ポリエステル樹脂(C)を構成する全酸成分を100モル%としたとき、イソフタル酸の共重合割合は20~60モル%が好ましく、25~50モル%がより好ましい。
【0035】
共重合ポリエステル樹脂(C)の重合度としては、具体的な共重合組成により若干異なるが、固有粘度(0.1gのサンプルをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25mlに溶解し、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定)が0.4~1.5dl/gであることが好ましく、0.4~1.3dl/gがより好ましい。0.4dl/g未満ではタフネス性が低下するため好ましくなく、1.5dl/gを超えると流動性が低下するため好ましくない。
【0036】
上記共重合ポリエステル樹脂(C)の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中、0~50質量%であり、好ましくは0~30質量%であり、より好ましくは0~25質量%であり、更に好ましくは10~25質量%である。この範囲内に共重合ポリエステル樹脂(C)を配合することにより、ポリエステルエラストマー(B)を同添加量含有したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物と比較すると、共重合ポリエステル樹脂(C)を添加することにより接合強さを上昇させることが可能となる。含有量が50質量%を超えると、接合強度が良好になるものの、耐熱性が低下するため好ましくない。
【0037】
[ガラス繊維(D)]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、繊維断面が非円形であるガラス繊維(D)を含有する。ガラス繊維(D)の平均繊維長は特に限定されないが、例えば0.1~20mmの範囲で選ぶことが好ましく、0.3~5mmであることがより好ましい。平均繊維長が0.1mm未満であると、補強効果が十分に発現しない恐れがあり、20mmを超えると、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形が困難になる恐れがある。
【0038】
ガラス繊維(D)としては、繊維断面の長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5~8である扁平断面ガラス繊維、またはまゆ形断面ガラス繊維であることが好ましい。このようなガラス繊維を用いることが、曲げ強度や衝撃強度の点で、また成形体の外観、反り等の寸法安定の良さの点で好ましい。扁平断面ガラス繊維の繊維断面の長径と短径の比(長径/短径)の平均値は、より好ましくは1.6~7、さらに好ましくは1.7~6、特に好ましくは1.8~5である。
【0039】
ガラス繊維(D)の平均繊維径は特に制限されないが、例えば1~100μmの範囲で選ぶことが好ましく、より好ましくは2~50μm、更に好ましくは3~30μm、特に好ましくは5~20μmである。平均繊維径が1μm未満のガラス繊維は、製造が容易でなく、コスト高になる恐れがあり、一方100μmを超えると、ガラス繊維の引張強度が低下する恐れがある。繊維断面が非円形である場合の平均繊維径は、繊維断面積を円形に換算した場合の平均繊維径を指す。
【0040】
また、ガラス繊維(D)は、カップリング剤等の表面処理剤によって、表面処理されたものを用いることが好ましい。表面処理剤が付着したガラス繊維は、耐久性、耐湿熱性、耐加水分解性、耐ヒートショック性に優れる傾向にあり好ましい。
【0041】
表面処理剤としては、従来公知の任意のものを使用でき、具体的には、例えば、アミノシラン系、エポキシシラン系、アリルシラン系、ビニルシラン系等のシラン系カップリング剤が好ましく挙げられる。これらの中では、アミノシラン系表面処理剤が好ましく、具体的には例えば、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン及びγ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランが好ましい例として挙げられる。
【0042】
また、表面処理剤として、ノボラック型等のエポキシ樹脂、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂等も好ましく挙げられる。中でも、ノボラック型のエポキシ樹脂がより好ましい。シラン系表面処理剤とエポキシ樹脂は、それぞれ単独で用いても複数種で用いてもよく、両者を併用することも好ましい
【0043】
上記ガラス繊維(D)の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中、1~60質量%であり、好ましくは5~55質量%であり、より好ましくは10~55質量%である。この範囲内にガラス繊維(D)を配合することにより、ポリエステルエラストマーとの接合強度を損なわず、かつ耐熱性および剛性を向上させたポリエステルエラストマー接合可能なポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得ることが可能となる。
【0044】
[その他の添加剤]
その他、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、必要に応じて、本発明としての特性を損なわない範囲において、公知の各種添加剤を含有させることができる。公知の添加剤としては、例えば顔料等の着色剤、離型剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、変性剤、帯電防止剤、難燃剤、染料等が挙げられる。
離型剤としては、長鎖脂肪酸またはそのエステルや金属塩、アマイド系化合物、ポリエチレンワックス、シリコン、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。長鎖脂肪酸としては、特に炭素数12以上が好ましく、例えばステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸等が挙げられ、部分的もしくは全カルボン酸が、モノグリコールやポリグリコールによりエステル化されていてもよく、または金属塩を形成していても良い。アマイド系化合物としては、エチレンビステレフタルアミド、メチレンビスステアリルアミド等が挙げられる。これら離型剤は、単独であるいは混合物として用いても良い。
これら各種添加剤は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を100質量%とした時、合計で5質量%まで含有させることができる。つまり、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物100質量%中、前記(A)、(B)、(C)、(D)の合計は95~100質量%であることが好ましい。
【0045】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を製造する製造法としては、上記配合組成にて任意の配合順列で配合した後、タンブラー或いはヘンシェルミキサー等で混合し、溶融混錬される。溶融混錬方法は、当業者に周知のいずれかの方法が可能であり、単軸押出機、2軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等が使用できるが、なかでも2軸押出機を使用することが好ましい。また、加工時の揮発成分、分解低分子成分を除去するため、ガラス繊維投入部分のサイド口と押し出し機先端のダイヘッドとの間で真空ポンプによる吸引を行うことが望ましい。
【0046】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、ポリエステルエラストマーを溶着する成形体用であり、特には、ポリエステルエラストマーをインサート成形により溶着する成形体用である。
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、射出成形等の公知の成形方法により、成形体とすることができる。この成形体は、以下に説明する複合材料に供することができる。
【0047】
[複合材料]
以下、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形体とポリエステルエラストマーが溶着された複合成形体について説明する。この複合成形体は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形体を金型内にインサート材として配し、ポリエステルエラストマーを射出成形により溶着させることにより得られる。インサート成形において、金型内に配置される材料(インサート材)は、一次材料と呼ばれ、本発明においては、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形体がこれに相当する。インサート材が配置された金型に、射出される材料は、二次材料と呼ばれ、本発明においては、ポリエステルエラストマーが該当する。
【0048】
二次材料のポリエステルエラストマーは、上記で説明した一次材料に使用されるポリエステルエラストマー(B)と同一でも異なっていても良い。二次材料のポリエステルエラストマーは、特に限定されないが、上記で説明した一次材料に使用されるポリエステルエラストマー(B)が使用可能である。二次材料のポリエステルエラストマーの硬度(表面硬度)は、ショアD硬度25~40のものが好ましい。二次材料のポリエステルエラストマーと一次材料に使用されるポリエステルエラストマー(B)とで、同じ種類のソフトセグメントを用いることは好ましい態様である。
【0049】
インサート成形により、一次材料のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形体と二次材料のポリエステルエラストマーが、優れた接合(溶着)性を示す理由は、以下のように考えられる。一次材料において、ポリエステルエラストマー(B)が特定量含有されることで、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)内に海島構造で分散しているポリエステルエラストマー(B)が、二次材料として導入されたポリエステルエラストマーの溶融熱で溶かされ、一次材料側の分散しているポリエステルエラストマーと二次材料側のポリエステルエラストマーが混合し接着性をもたらしていると考えられる。共重合ポリエステル樹脂(C)を含有させることで、一次材料中のポリブチレンテレフタレート樹脂(A)が動きやすくなり、より混合が起こりやすくなっていると考えられる。
【0050】
本発明の複合材料は、その特性を活かし、エアダクト、軸受、ローラー、カバー、各種筐体、コネクター、グリップ、キャスター等に使用可能である。
【実施例
【0051】
実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例に記載された測定値は、以下の方法によって測定したものである。
【0052】
(1)ポリブチレンテレフタレート樹脂、共重合ポリエステル樹脂の固有粘度
0.1gのサンプルをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25mlに溶解し、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定した。(単位:dl/g)
(2)ポリエステルエラストマーの還元粘度
0.05gのサンプルを25mlの混合溶媒(フェノール/テトラクロロエタン=60/40(質量比))に溶かし、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。(単位:dl/g)
(3)ポリエステルエラストマーの硬度(表面硬度)
JIS K7215(-1986)に準じて測定した。試験片は、シリンダー温度240℃、金型温度50℃にて作製した射出成形品(長さ100mm、幅100mm、厚み2mm)を3枚重ねたものを使用し、測定圧5000g、タイプDの圧子を用いたデュロメーターにより測定し、測定開始5秒後の値をD硬度(ショアD硬度)とした。
【0053】
(4)インサート成形用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の半ダンベルの作製
コンパウンドして得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物ペレットを射出成形機(日本製鋼所社製J110AD-110H)で、シリンダー温度=230℃、金型温度=50℃、射出速度=50mm/sec、保圧40MPaでISO3167に準じた引張試験ダンベルの半分の形状のものを得た。
(5)インサート成形
前記で得たISOの引張試験の半ダンベルをISO引張試験ダンベル成形金型キャビティに装着後、ポリエステルエラストマーをシリンダー温度230℃で残りのダンベル部分を射出成形し、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物とポリエステルエラストマーとが中央部で接合(溶着)したISO引張試験ダンベルを得た。ポリエステルエラストマーとしては、下記に示すポリエステルエラストマー(B-2)を用いた。
(6)接合性の評価
前記で得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物とポリエステルエラストマーとが中央部で接合したISO引張試験ダンベルをISO-527-1.2に準じて測定し、当該ダンベルの破断伸度(%)を求め、さらにポリエステルエラストマーの状態を評価した。
上記引張試験において、伸度30%以上の試験後試験片を確認すると、ポリブチレンテレフタレート組成物の接合部にポリエステルエラストマーが付着しており、接合の痕跡が確認された。よって、伸度30%以上の場合、応力発生部位において十分な接合強度を有していると判断した。
【0054】
(7)曲げ強度、曲げ弾性率
ISO-178に準じて測定した。
(8)シャルピー衝撃強度
JIS K7111に準じて測定した。
(9)外観評価
上記の製造方法で得られたペレットを130℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(日本製鋼所社製J110AD-110H)を用い、シリンダー温度250℃、金型温度60℃の条件で成形した100×100×2mmtの射出成形試験片を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
不良:試験片表面全体に白い斑がある
良:試験片表面全体に白い斑がわずかにある
最良:試験片表面全体に白い斑がほとんど観察されない
以上の評価結果を、以下の表1に示す。
【0055】
実施例、比較例において使用した配合成分を次に示す。
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A);
(A-1)ポリブチレンテレフタレート樹脂: 東洋紡社製 固有粘度0.83dl/g
(A-2)ポリブチレンテレフタレート樹脂: 東洋紡社製 固有粘度1.30dl/g
【0056】
ポリエステルエラストマー(B);
(B-1)テレフタル酸(TPA)//1,4-ブタンジオール(BG)/ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG;数平均分子量1000)が100//71.8/28.2(モル%)のポリエステルエラストマー: 融点は172℃、還元粘度は2.22dl/g、酸価は35eq/ton、D硬度は38
(B-2)テレフタル酸(TPA)//1,4-ブタンジオール(BG)/ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG;数平均分子量2000)が100//75/25(モル%)のポリエステルエラストマー: 融点は180℃、還元粘度は2.50dl/g、酸価は21eq/ton、D硬度は31
【0057】
その他のエラストマー;
(B-3)アクリル系エラストマー: 日油(株)製、モディパーA6300(エチレンエチルアクリレート(EEA)-グラフト-ブチルアクリレート/メチルメタクリレート(P(BA/MMA))
【0058】
共重合ポリエステル樹脂(C);
(C-1)TPA//EG(エチレングリコール)/NPG(ネオペンチルグリコール)=100//70/30(モル%)の組成比の共重合体: 東洋紡社製、バイロン(登録商標)の試作品、ガラス転移温度75℃、固有粘度 0.83dl/g
(C-2)TPA/IPA(イソフタル酸)//EG/NPG(ネオペンチルグリコール)=50/50//50/50(モル%)の組成比の共重合体: 東洋紡社製、バイロン(登録商標)の試作品、ガラス転移温度67℃、固有粘度 0.53dl/g
【0059】
ガラス繊維(D);
(D-1)ガラス繊維(平均繊維長3mm): CSG3PL830F、扁平断面、長径と短径の比:2(短径10μm、長径20μm)(日東紡社製)
(D-2)ガラス繊維(平均繊維長3mm): ECS303T、扁平断面、長径と短径の比:3.5(短径8μm、長径28μm)(CPIC社製)
(D-3)ガラス繊維(平均繊維長3mm、平均繊維径11μm): T-120H、丸断面、長径と短径の比:1(日本電子硝子社製)
【0060】
その他の添加剤;
酸化防止剤1: イルガノックス1010(チバスペシャリティケミカルズ社製)
酸化防止剤2: シーノックス412S(シプロ化成社製)
離型剤: WE40(クラリアントジャパン社製)
【0061】
<実施例1~13、比較例1~9>
表1に示す組成になるように、各成分をタンブラーにてブレンド後、二軸押出機(コペリオン社製STS35使用)で溶融混練して組成物ペレットを得た。
得られた組成物ペレットを乾燥後、上記した方法によって評価した。物性評価の(7)~(9)は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に対して行われ、接合性評価(6)は、複合成形体に対して行われた。その結果を表1に示した。
【0062】
【表1】
【0063】
表1より、実施例1~5、比較例6~9のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から得られる複合成形品より、異形断面のガラス繊維を使用することで、外観を良好にすることが可能であることが分かる。実施例6、7より、ポリエステルエラストマーの配合量が多いほど、接着性の向上が見られ、外観も良好な状態であった。ポリエステルエラストマーの含有量が増えることにより接着性の向上が認められることから、海島構造に分散しているポリエステルエラストマーが接着性に寄与していることが分かり、異形断面のガラス繊維の使用で外観が良好になっていることが分かる。
実施例8~10のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から得られる成形品では、共重合ポリエステル樹脂を併用することで接着性の向上が確認できる。接着時に海島構造の海部分であるポリブチレンテレフタレート樹脂のTc2が下がることで、ポリエステルエラストマー同士の接着がしやすくなったことに由来する。さらに異形断面ガラス繊維と共重合ポリエステル樹脂を併用することで、更なる外観向上が可能になったことが明らかである。
実施例11~13より、前記種々効果は、特定の材料を使用した場合に限られたものではないことが分かる。
比較例1~5より、前記種々効果は、本願発明で規定する材料を全て併用することで効果が最大限に発揮されるものであることが分かる。
【0064】
以上より、一次材料のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、ポリエステルエラストマーを所定量以上添加することにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂の特性を維持したまま、二次材料のポリエステルエラストマーとの十分な接合(溶着)性を付与することが可能である。さらに共重合ポリエステル樹脂を添加することで、Tc2が低下し、ポリエステルエラストマー溶着時に同熱量でもポリブチレンテレフタレート樹脂の分子運動が活発化されるため、同添加量のポリエステルエラストマーで接合(溶着)性が向上している。加え、ガラス繊維を用いる際、繊維断面の長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5~8の扁平断面、もしくはまゆ形断面のガラス繊維を用いることで、外観を損なわず射出成形することが可能であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の樹脂組成物は、従来のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に比べ、実用に足る接合強度を持つため、ポリエステルエラストマーとのインサート成形による接合可能な成形品用の成形材料として有用である。