(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】生体音測定装置、生体音測定装置の作動方法、生体音測定装置の作動プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 7/04 20060101AFI20221129BHJP
【FI】
A61B7/04 L
(21)【出願番号】P 2018080190
(22)【出願日】2018-04-18
【審査請求日】2021-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】橋野 賢治
(72)【発明者】
【氏名】朝井 慶
(72)【発明者】
【氏名】大上 直人
【審査官】牧尾 尚能
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-508029(JP,A)
【文献】特表2015-504321(JP,A)
【文献】特開2005-160644(JP,A)
【文献】特開2000-060847(JP,A)
【文献】特開2000-060846(JP,A)
【文献】特開2014-117572(JP,A)
【文献】特表2017-536867(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0347177(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0340306(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0039733(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 7/00- 7/04
A61B 5/00- 5/01
A61B 5/02- 5/03
A61B 5/06- 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口と、前記開口が生体の体表面によって塞がれることにより密閉された状態となる収容空間を有するハウジングと、
前記収容空間に収容され、前記開口が前記体表面によって塞がれた状態において、前記生体の生体音を測定する第一の音測定器と、
前記
収容空間の外に
設けられた第二の音測定器と、
前記ハウジングの前記開口が塞がれていない状態にて発音部から音を発生させ、前記第一の音測定器により測定された前記
発音部の前記音の強度と、前記第二の音測定器により測定された前記
発音部の前記音の強度とに基づいて、前記第一の音測定器の測定感度と前記第二の音測定器の測定感度との関係が予め決められた条件を満たすか否かを判定し、前記関係が前記条件を満たさない場合と判定した場合に、生体音の測定精度が確保できていないことを報知、或いは、前記第一の音測定器及び前記第二の音測定器の一方又は両方の測定感度の調整を行う制御部と、を有する本体部を備える生体音測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の生体音測定装置であって、
前記ハウジングの前記開口を塞がない状態にて前記ハウジング及び前記第二の音測定器を覆う、前記本体部に着脱可能なカバー部材を更に備え、
前記発音部は、前記本体部に前記カバー部材が装着された状態において前記カバー部材によって覆われる位置に配置されており、
前記制御部は、前記カバー部材の装着を検知した場合に、前記ハウジングの前記開口が塞がれていない前記状態であると判定する生体音測定装置。
【請求項3】
請求項2記載の生体音測定装置であって、
前記カバー部材は、前記第一の音測定器及び前記第二の音測定器により測定可能な音の透過を防ぐ材料によって構成されている生体音測定装置。
【請求項4】
請求項3記載の生体音測定装置であって、
前記制御部は、前記第一の音測定器又は前記第二の音測定器により測定された音の強度が予め決められた第一の閾値以下となっている場合に、前記カバー部材が装着されたことを検知する生体音測定装置。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか1項記載の生体音測定装置であって、
前記発音部は、前記カバー部材に設けられている生体音測定装置。
【請求項6】
請求項2から4のいずれか1項記載の生体音測定装置であって、
前記本体部が前記発音部を更に備える生体音測定装置。
【請求項7】
請求項1記載の生体音測定装置であって、
前記制御部は、前記ハウジングの前記開口が塞がれていない前記状態であり、且つ、前記第一の音測定器又は前記第二の音測定器により測定される音の強度が予め決められた第二の閾値以下の場合に、前記発音部から前記音を発生させる生体音測定装置。
【請求項8】
請求項1又は7記載の生体音測定装置であって、
前記本体部が前記発音部を更に備える生体音測定装置。
【請求項9】
開口及び前記開口が生体の体表面によって塞がれることにより密閉された状態となる収容空間を有するハウジングと、前記収容空間に収容され、前記開口が前記体表面によって塞がれた状態において前記生体の生体音を測定する第一の音測定器と、前記収容空間の外に設けられた第二の音測定器と、を有する生体音測定装置の作動方法であって、
前記ハウジングの前記開口が塞がれていない状態にて発音部から音を発生させ、前記第一の音測定器により測定された前記
発音部の前記音の強度と、前記第二の音測定器により測定された前記
発音部の前記音の強度とに基づいて、前記第一の音測定器の測定感度と前記第二の音測定器の測定感度との関係が予め決められた条件を満たすか否かを判定し、前記関係が前記条件を満たさない場合と判定した場合に、生体音の測定精度が確保できていないことを報知、或いは、前記第一の音測定器及び前記第二の音測定器の一方又は両方の測定感度の調整を行うステップを備える生体音測定装置の作動方法。
【請求項10】
開口及び前記開口が生体の体表面によって塞がれることにより密閉された状態となる収容空間を有するハウジングと、前記収容空間に収容され、前記開口が前記体表面によって塞がれた状態において前記生体の生体音を測定する第一の音測定器と、前記収容空間の外に設けられた第二の音測定器と、を有する生体音測定装置の作動プログラムであって、
前記ハウジングの前記開口が塞がれていない状態にて発音部から音を発生させ、前記第一の音測定器により測定された前記
発音部の前記音の強度と、前記第二の音測定器により測定された前記
発音部の前記音の強度とに基づいて、前記第一の音測定器の測定感度と前記第二の音測定器の測定感度との関係が予め決められた条件を満たすか否かを判定し、前記関係が前記条件を満たさない場合と判定した場合に、生体音の測定精度が確保できていないことを報知、或いは、前記第一の音測定器及び前記第二の音測定器の一方又は両方の測定感度の調整を行うステップをコンピュータに実行させるための生体音測定装置の作動プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の体表面に接触させて用いられる生体音測定装置、その作動方法及び作動プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
気道及び肺胞を換気するための気流の音としての呼吸音、喘鳴又は胸膜摩擦音等の病的状態で発生する呼吸時の異常音である副雑音、又は心音等の生体音を、マイクロフォンを利用して電気信号として取り出す装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、人間の身体からの音響信号を測定するための接着式パッチが記載されている。この接着式パッチは、身体からの音響信号を記録するための第一のマイクロフォンと、周囲のノイズ信号を記録するための第二のマイクロフォンとを備え、第二のマイクロフォンの検出信号に基づいて第一のマイクロフォンにより検出される信号のノイズを除去している。
【0004】
特許文献1に記載されているように、身体からの音響信号のノイズ除去を行うために2つのマイクロフォンを用いる場合には、この2つのマイクロフォンの感度が製造時の状態にて維持されていることが必要である。
【0005】
特許文献2と特許文献3には、複数のマイクロフォンを搭載する電子機器における各マイクロフォンの感度調整方法が開示されている。この感度調整方法は、スピーカから発生させた音を複数のマイクロフォンによって測定し、その測定結果から、複数のマイクロフォンの感度を調整するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2011-505997号公報
【文献】特開2016-054455号公報
【文献】特開2013-219444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されているように複数のマイクロフォンを用いて生体音の測定精度の向上を図る場合には、この複数のマイクロフォンの感度比又は感度差等が予め決められた値に維持されている必要がある。しかし、装置の使用環境や経年変化等によって、複数のマイクロフォンの感度比又は感度差等が製造時の値からずれてしまうことが想定される。
【0008】
そこで、複数のマイクロフォンを有する生体音測定装置に、この複数のマイクロフォンの感度比又は感度差等が所望の値となっているかを確認できるような検査機能を付加することが有効になる。
【0009】
例えば、特許文献2,3に記載されているように、テスト音を発生させるスピーカを装置に設け、複数のマイクロフォンの各々が測定したこのテスト音の強度に基づいて上記の感度比又は感度差を求めることができる。
【0010】
生体の体表面に接触させた状態にて生体音を測定する生体音測定装置は、生体の体表面によって密閉される空間内に生体音測定用の音測定器が配置され、その空間の外側の体表面によって密閉されることのない場所に、周囲の音を測定するための音測定器が配置される。
【0011】
このような生体音測定装置に上記の検査機能を付加する場合には、複数の音測定器によって同じ条件にてテスト音を測定するために、生体音測定用の音測定器が配置される空間が密閉されていない状態にあることが求められる。
【0012】
特許文献2,3には、複数のマイクロフォンの感度調整を行うことは記載されている。しかし、これら複数のマイクロフォンは、生体音の測定のために用いられるものではなく、上述した課題の認識はない。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、複数の音測定器を用いて生体音を測定する場合の測定精度の低下を防ぐことのできる生体音測定装置、生体音測定装置の作動方法、及び生体音測定装置の作動プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)
開口と、前記開口が生体の体表面によって塞がれることにより密閉された状態となる収容空間を有するハウジングと、
前記収容空間に収容され、前記開口が前記体表面によって塞がれた状態において、前記生体の生体音を測定する第一の音測定器と、
前記収容空間の外に設けられた第二の音測定器と、
前記ハウジングの前記開口が塞がれていない状態にて発音部から音を発生させ、前記第一の音測定器により測定された前記発音部の前記音の強度と、前記第二の音測定器により測定された前記発音部の前記音の強度とに基づいて、前記第一の音測定器の測定感度と前記第二の音測定器の測定感度との関係が予め決められた条件を満たすか否かを判定し、前記関係が前記条件を満たさない場合と判定した場合に、生体音の測定精度が確保できていないことを報知、或いは、前記第一の音測定器及び前記第二の音測定器の一方又は両方の測定感度の調整を行う制御部と、を有する本体部を備える生体音測定装置。
【0015】
この構成によれば、ハウジングの開口が塞がれていない状態にて発音部から音が発生されるため、第一の音測定器と第二の音測定器によってほぼ同じ条件にてこの音の測定を行うことが可能となる。したがって、測定感度の関係が条件を満たすか否かの判定を高精度に行うことができる。また、条件が満たされない場合には、例えば生体音の測定精度が確保できないことが報知される。このため、条件が満たされていない状態にて生体音の測定が行われるのを防ぐことができ、生体音の測定精度の低下を防ぐことができる。或いは、条件が満たされない場合には、第一の音測定器と第二の音測定器の測定感度が例えば上記の条件を満たすように調整される。このため、条件が満たされていない状態にて生体音の測定が行われるのを防ぐことができ、生体音の測定精度の低下を防ぐことができる。
【0016】
(2)
(1)記載の生体音測定装置であって、
前記ハウジングの前記開口を塞がない状態にて前記ハウジング及び前記第二の音測定器を覆う、前記本体部に着脱可能なカバー部材を更に備え、
前記発音部は、前記本体部に前記カバー部材が装着された状態において前記カバー部材によって覆われる位置に配置されており、
前記制御部は、前記カバー部材の装着を検知した場合に、前記ハウジングの前記開口が塞がれていない前記状態であると判定する生体音測定装置。
【0017】
この構成によれば、カバー部材の装着によってカバー部材の内側では、外部からの音が届きにくくなる。このため、発音部から発生された音以外の音が第一の音測定器及び第二の音測定器によって測定されるのを防ぐことができ、測定感度の関係が条件を満たすか否かの判定を高精度に行うことができる。
【0018】
(3)
(2)記載の生体音測定装置であって、
前記カバー部材は、前記第一の音測定器及び前記第二の音測定器により測定可能な音の透過を防ぐ材料によって構成されている生体音測定装置。
【0019】
この構成によれば、カバー部材の装着によってカバー部材の内側では、外部からの音がより届きにくくなる。このため、測定感度の関係が条件を満たすか否かの判定を高精度に行うことができる。
【0020】
(4)
(3)記載の生体音測定装置であって、
前記制御部は、前記第一の音測定器又は前記第二の音測定器により測定された音の強度が予め決められた第一の閾値以下となっている場合に、前記カバー部材が装着されたことを検知する生体音測定装置。
【0021】
この構成によれば、カバー部材の装着を検知するための特別なセンサ等が不要となるため、小型化と低コスト化が可能になる。
【0022】
(5)
(2)から(4)のいずれか1つに記載の生体音測定装置であって、
前記発音部は、前記カバー部材に設けられている生体音測定装置。
【0023】
この構成によれば、カバー部材に発音部があるため、本体部の小型化が可能となる。
【0024】
(6)
(2)から(4)のいずれか1つに記載の生体音測定装置であって、
前記本体部が前記発音部を更に備える生体音測定装置。
【0025】
この構成によれば、本体部に発音部があるため、制御部が発音部の制御を簡単に行うことができ、製造コストを下げることができる。
【0026】
(7)
(1)記載の生体音測定装置であって、
前記制御部は、前記ハウジングの前記開口が塞がれていない前記状態であり、且つ、前記第一の音測定器又は前記第二の音測定器により測定される音の強度が予め決められた第二の閾値以下の場合に、前記発音部から前記音を発生させる生体音測定装置。
【0027】
この構成によれば、音の静かな環境に装置が置かれた状態にて上記の判定を行うことができる。このため、この判定を高精度に行うことができる。
【0028】
(8)
(1)又は(7)記載の生体音測定装置であって、
前記本体部が前記発音部を更に備える生体音測定装置。
【0029】
この構成によれば、制御部が発音部の制御を簡単に行うことができ、製造コストを下げることができる。
【0030】
(9)
開口及び前記開口が生体の体表面によって塞がれることにより密閉された状態となる収容空間を有するハウジングと、前記収容空間に収容され、前記開口が前記体表面によって塞がれた状態において前記生体の生体音を測定する第一の音測定器と、前記収容空間の外に設けられた第二の音測定器と、を有する生体音測定装置の作動方法であって、
前記ハウジングの前記開口が塞がれていない状態にて発音部から音を発生させ、前記第一の音測定器により測定された前記発音部の前記音の強度と、前記第二の音測定器により測定された前記発音部の前記音の強度とに基づいて、前記第一の音測定器の測定感度と前記第二の音測定器の測定感度との関係が予め決められた条件を満たすか否かを判定し、前記関係が前記条件を満たさない場合と判定した場合に、生体音の測定精度が確保できていないことを報知、或いは、前記第一の音測定器及び前記第二の音測定器の一方又は両方の測定感度の調整を行うステップを備える生体音測定装置の作動方法。
【0031】
(10)
開口及び前記開口が生体の体表面によって塞がれることにより密閉された状態となる収容空間を有するハウジングと、前記収容空間に収容され、前記開口が前記体表面によって塞がれた状態において前記生体の生体音を測定する第一の音測定器と、前記収容空間の外に設けられた第二の音測定器と、を有する生体音測定装置の作動プログラムであって、
前記ハウジングの前記開口が塞がれていない状態にて発音部から音を発生させ、前記第一の音測定器により測定された前記発音部の前記音の強度と、前記第二の音測定器により測定された前記発音部の前記音の強度とに基づいて、前記第一の音測定器の測定感度と前記第二の音測定器の測定感度との関係が予め決められた条件を満たすか否かを判定し、前記関係が前記条件を満たさない場合と判定した場合に、生体音の測定精度が確保できていないことを報知、或いは、前記第一の音測定器及び前記第二の音測定器の一方又は両方の測定感度の調整を行うステップをコンピュータに実行させるための生体音測定装置の作動プログラム。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、複数の音測定器を用いて生体音を測定する場合の測定精度の低下を防ぐことのできる生体音測定装置、生体音測定装置の作動方法、及び生体音測定装置の作動プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】生体音測定装置100の本体部1の概略構成例を示す側面図である。
【
図2】
図1に示す本体部1におけるA-A線に沿った断面模式図である。
【
図3】
図1に示す本体部1を収納する収納ケース10の概略構成を示す模式図である。
【
図4】本体部1が収納された状態の収納ケース10の断面模式図である。
【
図5】生体音測定装置100の検査モード時の動作例を説明するためのフローチャートである。
【
図6】生体音測定装置100の変形例である生体音測定装置100Aの断面模式図である。
【
図7】生体音測定装置100の変形例である生体音測定装置100Bの側面図である。
【
図8】生体音測定装置100の第四の変形例である生体音測定装置100Cの概略構成を示す模式図である。
【
図9】
図8に示す生体音測定装置100CにおけるB-B線に沿った断面模式図である。
【
図10】
図8に示す生体音測定装置100Cの検査モード時の動作例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(実施形態の生体音測定装置の概要)
まず、本発明の生体音測定装置の実施形態の概要について説明する。実施形態の生体音測定装置は、人の生体から生体音の一例としての肺音(呼吸音及び副雑音)を測定し、測定音に喘鳴が含まれると判定した場合に、その旨を報知する。このようにすることで、被測定者への投薬の要否の判断、被測定者を病院に連れて行くかどうかの判断、又は医師による被測定者の診断等を支援するものである。
【0035】
実施形態の生体音測定装置は、肺音を測定するための第一の音測定器と、周囲の音を測定するための第二の音測定器と、テスト音を発生するための発音部と、を含む本体部を備え、第一の音測定器が収容される空間を体表面によって密閉することで、第一の音測定器によって生体の肺音の測定を行う。第二の音測定器は、第一の音測定器によって測定される音に含まれる肺音以外のノイズを除去するため等に用いられる。
【0036】
実施形態の生体音測定装置の本体部は、第一の音測定器が配置される空間が体表面によって密閉されていない状態にて、発音部からテスト音を発生させる。そして、第一の音測定器により測定されたこのテスト音の強度と、第二の音測定器により測定されたこのテスト音の強度とに基づいて、第一の音測定器の測定感度と第二の音測定器の測定感度との関係が予め決められた条件を満たすか否かを判定し、この関係がこの条件を満たさないと判定した場合に、報知、或いは、第一の音測定器及び第二の音測定器の一方又は両方の測定感度の調整を行う。
【0037】
この報知の内容としては、例えば喘鳴の検出が不可であることの報知や、生体音の測定を禁止して装置の修理を促す報知等が挙げられる。また、第一の音測定器と第二の音測定器の一方又は両方の測定感度の調整は、上記条件が満たされるように行われる。
【0038】
このような処理によって、第一の音測定器と第二の音測定器の測定感度比又は測定感度差等が製造時の値とずれている場合であっても、この測定感度比又は測定感度差が補正されたり、肺音の測定が禁止されたりする。したがって、この測定感度比又は測定感度差が所望の値からずれた状態にて肺音の測定が行われるのを防ぐことができ、肺音の測定精度の低下を防ぐことができる。
【0039】
以下、実施形態の生体音測定装置の具体的な構成例について説明する。
【0040】
(実施形態)
以下に説明する本発明の生体音測定装置の一実施形態である生体音測定装置100は、
図4に示すように、本体部1と、この本体部1を収納するための収納ケース10と、によって構成されている。
【0041】
図1は、生体音測定装置100の本体部1の概略構成例を示す側面図である。
図1に示すように、本体部1は、樹脂又は金属等の筐体で構成された棒状の把持部1bを有し、この把持部1bの一端側にはヘッド部1aが設けられている。
【0042】
把持部1bの内部には、生体音測定装置100の全体を統括制御する制御部4と、動作に必要な電圧を供給する電池5と、液晶表示パネル又は有機EL(Electro Luminescence)表示パネル等によって画像を表示する表示部6と、が設けられている。また、把持部1bの他端側には、後述する収納ケース10との電気的接続を行うための端子群7が設けられている。
【0043】
制御部4は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、及びROM(Read Only Memory)等を含み、プログラムにしたがって生体音測定装置100の各ハードウェアの制御を行う。制御部4のROMには、生体音測定装置の作動プログラムを含むプログラムが記憶されている。
【0044】
ヘッド部1aには、把持部1bの長手方向と略直交する方向の一方側(
図1において下方側)へ突出する測定ユニット3と、発音部8と、が設けられている。測定ユニット3の先端には、被測定者である生体の体表面Sに接触されて体表面Sからの圧力を受ける受圧部3aが設けられている。
【0045】
本体部1は、使用者の手Haの例えば人差し指がヘッド部1aにおける測定ユニット3の背面に置かれた状態で、測定ユニット3の受圧部3aがこの人差し指によって体表面Sに押圧されて使用される。
【0046】
図2は、
図1に示す本体部1におけるA-A線に沿った断面模式図である。
【0047】
図2に示すように、測定ユニット3は、音を測定する第一の音測定器M1と、第一の音測定器M1を内部の収容空間SP1に収容し、且つ生体の体表面Sに押圧された状態にて体表面Sによって塞がれる開口31hを有する有底筒状の第一ハウジング31と、開口31hを第一ハウジング31の外側から閉じると共に第一ハウジング31を覆うハウジングカバー32と、音を測定する第二の音測定器M2と、第二の音測定器M2を収容する収容空間SP2を形成しかつ開口34hを有する第二ハウジング34と、を備える。
【0048】
測定ユニット3は、ハウジングカバー32の一部が露出された状態にて、ヘッド部1aを構成する筐体2に形成された開口部に嵌合されて、筐体2に固定されている。
【0049】
ハウジングカバー32の筐体2からの露出部分の先端部は平面又は曲面となっており、この平面又は曲面が受圧部3aを構成している。筐体2は、音を透過可能な樹脂等によって構成されている。
【0050】
第一の音測定器M1は、生体音としての肺音を測定するためのものであり、例えば、肺音の周波数域(一般的には10Hz以上1kHz以下)よりも広い帯域(例えば10Hz以上10kHz以下の周波数域)の音を測定するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)型マイクロフォン又は静電容量型マイクロフォン等で構成されている。
【0051】
第一の音測定器M1は、図示省略のリード線等によって
図1に示す制御部4と電気的に接続されており、測定した音の情報を制御部4に伝達する。
【0052】
本体部1の使用時においては、ハウジングカバー32の受圧部3aが体表面Sに接触し、体表面Sからの圧力によって、収容空間SP1が、ハウジングカバー32を介して体表面Sにより密閉された状態(以下、この状態を密閉状態という)になる。
【0053】
そして、生体から体表面Sに伝わる肺音によって受圧部3aが振動すると、この振動によって収容空間SP1の内圧が変動し、この内圧変動によって、肺音に応じた電気信号が第一の音測定器M1によって測定されることになる。
【0054】
第一ハウジング31は、
図2中の下方向に向かって略凸型の形状であり、樹脂又は金属等の空気より音響インピーダンスが高くかつ剛性の高い材料によって構成されている。第一ハウジング31は、密閉状態において、収容空間SP1の内部に、外部から音が伝わらないように、第一の音測定器M1の測定周波数帯の音を反射する材料にて構成されている。
【0055】
ハウジングカバー32は、有底筒状の部材であり、その中空部の形状は、第一ハウジング31の外壁形状とほぼ一致している。
【0056】
ハウジングカバー32は、音響インピーダンスが人体、空気、又は、水に近い素材でかつ生体適合性の良い可撓性を有する材料によって構成される。ハウジングカバー32の材料としては、例えばシリコーン又はエラストマ等が用いられる。
【0057】
第二の音測定器M2は、第一ハウジング31の周囲の音(人の声等の環境音、或いは、本体部1と生体又は衣服との間の擦れ音等)を測定するためのものであり、例えば、肺音の周波数域よりも広い帯域(例えば10Hz以上10kHz以下の周波数域)の音を測定するMEMS型マイクロフォン又は静電容量型マイクロフォン等で構成されている。
【0058】
第二の音測定器M2は、図示省略のリード線等によって
図1に示す制御部4と電気的に接続されており、測定した音の情報を制御部4に伝達する。
【0059】
第二の音測定器M2は、第一ハウジング31の受圧部3a側と反対側の面に固定されている。第二の音測定器M2の周囲は、第二ハウジング34によって覆われている。第二ハウジング34は、本体部1の周囲で発生する音が第二の音測定器M2を収容する収容空間SP2に侵入しやすいような素材(例えば樹脂)によって構成されている。
【0060】
なお、第二ハウジング34には開口34hが形成されている。このため、この開口34hからも本体部1の周囲で発生する音が侵入しやすい構造となっている。
【0061】
第二の音測定器M2は、
図2の例では測定ユニット3に設けられているが、第一ハウジング31の周囲で発生する音を測定することができればよく、設置個所は特に限定されるものではない。例えば、ヘッド部1a以外の把持部1bのうち、使用時において使用者が触れる可能性が低い場所に第二の音測定器M2が設けられていてもよい。
【0062】
図1に示した本体部1に設けられる発音部8は、制御部4によって制御され、第一の音測定器M1と第二の音測定器M2の各々が測定可能な周波数帯の音をテスト音として発生させる。発音部8は、電気信号を物理的な振動に変換できるものであれば何でもよく、例えば各種のスピーカを用いることができる。
【0063】
図3は、
図1に示す本体部1を収納する収納ケース10の概略構成を示す模式図である。
図4は、本体部1が収納された状態の収納ケース10の断面模式図である。
【0064】
収納ケース10は、基台11と、基台11に着脱自在な有底筒状の蓋部12と、を備える。
【0065】
基台11には、液晶表示パネル又は有機EL表示パネル等によって画像を表示する表示部13と、本体部1の把持部1bの他端が挿入されて本体部1を支持するための凹部14と、凹部14の底部に配置された端子群15と、基台11と蓋部12との接触を検知するための接触センサ16と、配線17と、が設けられている。
【0066】
図4に示すように、基台11の端子群15は、凹部14に本体部1が挿入された状態にて、本体部1の端子群7と電気的に接続される。
【0067】
図3に示すように、端子群15は、表示部13及び接触センサ16と配線17によって接続されている。したがって、本体部1が凹部14に挿入された状態では、接触センサ16の出力信号が配線17、端子群15、及び端子群7を経由して本体部1の制御部4に伝達される。接触センサ16は、例えば圧電素子によって構成されており、基台11に蓋部12が装着された場合に、装着検知信号を制御部4に伝達する。
【0068】
また、本体部1が凹部14に挿入された状態では、本体部1の制御部4が、端子群7、端子群15、及び配線17を経由して表示部13を制御する。
【0069】
図4に示すように、本体部1が凹部14に挿入されて基台11により支持され、且つ、基台11に蓋部12が装着された状態(換言すると、本体部1に収納ケース10が装着された状態)では、蓋部12の内壁と基台11とで囲まれる収納空間SP3に本体部1が配置される。
【0070】
この状態では、
図4に示したように、測定ユニット3の受圧部3aと蓋部12の内壁とは接触しておらず、測定ユニット3の第一ハウジング31の開口31hは塞がれていない状態となっている。また、本体部1の発音部8は、収納ケース10の内側(収納空間SP3内)に配置された状態となる。
【0071】
このように、本体部1に収納ケース10が装着された状態において、収納ケース10は、本体部1の第一ハウジング31の開口31hは塞がず、且つ、第一ハウジング31及び第二の音測定器M2を覆うものとなっている。収納ケース10はカバー部材を構成する。
【0072】
収納ケース10の基台11及び蓋部12の材料は、特には限定されないが、収納空間SP3に収納ケース10の外部から音が侵入しにくくなるような材料であることが好ましい。
【0073】
例えば、収納ケース10の基台11及び蓋部12の材料を、第一の音測定器M1及び第二の音測定器M2の各々の測定可能な周波数帯の音の透過を防ぐ(この周波数帯の音を反射する)ことのできる材料とすることが好ましい。このような材料としては、例えばSUS等の金属、シリコーン又はウレタン等のゴム、を用いることができる。
【0074】
生体音測定装置100の本体部1は、肺音を測定して喘鳴の有無を判定する(喘鳴の検出を行う)測定モードを搭載している。この測定モードにおいて、制御部4は、第一の音測定器M1により測定された第一の音と、第二の音測定器M2により測定された第二の音とに基づいて、肺音に喘鳴が含まれるか否かを判定する。
【0075】
例えば、制御部4は、第一の音測定器M1により測定された第一の音に混入する肺音以外のノイズを、第二の音測定器M2により測定された第二の音に基づいて除去する。そして、制御部4は、ノイズ除去後の第一の音が、例えば、喘鳴と判断できる程度の強度以上となった場合に、“喘鳴あり”と判定する。
【0076】
或いは、制御部4は、あるタイミングで測定された第一の音の強度が喘鳴と考えられる値であった場合に、そのタイミングで測定された第二の音を参照し、この第二の音の強度が高い場合には、外部の音による影響が大きいと判断して、そのタイミングでは喘鳴はなかったものとして判断する。
【0077】
こういった喘鳴の有無の判定精度を確保するため、第一の音測定器M1の測定感度SM1と第二の音測定器M2の測定感度SM2との関係が予め決められた条件を満たすように、測定感度SM1と測定感度SM2が、生体音測定装置100の製造時に予め設定されている。なお、音測定器の測定感度とは、この音測定器のアナログ出力電圧値又はデジタル出力値と入力音圧との比を言う。
【0078】
上記関係とは、例えば、測定感度SM1と測定感度SM2の比、又は、測定感度SM1と測定感度SM2の差等である。
【0079】
上記条件とは、例えば、上記比が予め決められた範囲に入ること、又は、上記差が予め決められた範囲に入ること等である。
【0080】
前述したように、第一の音測定器M1の測定感度SM1と、第二の音測定器M2の測定感度SM2は、経年劣化等によって、生体音測定装置100の製造時に設定された値からずれが生じ得る。
【0081】
そこで、生体音測定装置100の本体部1は、上述した測定モードに加えて、第一の音測定器M1及び第二の音測定器M2の各々の測定感度の関係を検査する検査モードを搭載している。
【0082】
この検査モードにおいて、制御部4は、第一ハウジング31の開口31hが塞がれていない状態であるか否かを判定し、この状態であると判定した場合に、発音部8からテスト音を発生させる。
【0083】
生体音測定装置100では、本体部1が収納ケース10に収納された(換言すると、本体部1に収納ケース10が装着された)場合に、第一ハウジング31の開口31hが塞がれていない状態となる。したがって、制御部4は、本体部1に収納ケース10が装着されたことを検知した場合に、第一ハウジング31の開口31hが塞がれていない状態と判定し、発音部8からテスト音を発生させる。
【0084】
制御部4は、接触センサ16から接触検知信号を受信した場合に、本体部1に収納ケース10が装着されたことを検知する。
【0085】
また、検査モードにおいて、制御部4は、発音部8からテスト音を発生させた後、第一の音測定器M1により測定されたこのテスト音の強度m1と、第二の音測定器M2により測定されたこのテスト音の強度m2に基づいて、測定感度SM1と測定感度SM2との関係が上記条件を満たすか否かを判定し、その判定結果に応じた制御を行う。
【0086】
制御部4は、上記関係が上記条件を満たさない場合と判定した場合には、判定結果に応じた制御として、例えば、使用者に対して生体音の測定精度が確保できていないことを報知する制御を行う。制御部4は、例えば、喘鳴の検出が不可であるメッセージや、肺音の測定を禁止して装置の修理を促すメッセージ等を、収納ケース10の表示部13に表示させることで報知を行う。
【0087】
なお、収納ケース10にスピーカを搭載しておき、これらのメッセージをスピーカから出力させることで報知を行ってもよい。或いは、本体部1とスマートフォン等の電子機器とを通信可能に構成し、制御部4から電子機器にメッセージを送信し、電子機器のディスプレイ又はスピーカを使ってメッセージの表示や音声出力を行ってもよい。
【0088】
または、例えばLED(Light Emitting Diode)を収納ケース10に搭載しておき、制御部4は、上記関係が上記条件を満たさない場合と判定した場合には、LEDを例えば赤色に発光させることで、測定精度が確保できていない状態であることを利用者に報知してもよい。
【0089】
制御部4は、上記関係が上記条件を満たさない場合と判定した場合には、判定結果に応じた制御として、上記関係が上記条件を満たすように測定感度SM1,SM2の一方又は両方の調整を行ってもよい。
【0090】
この場合には、制御部4は、第一の音測定器M1に搭載される増幅器のゲインを調整することで測定感度SM1の調整を行い、第二の音測定器M2に搭載される増幅器のゲインを調整することで測定感度SM2の調整を行う。
【0091】
(生体音測定装置100の動作例)
【0092】
図5は、生体音測定装置100の検査モード時の動作例を説明するためのフローチャートである。
【0093】
検査モードが設定されると、制御部4は、収納ケース10が本体部1に装着されたか否かを判定し(ステップS1)、収納ケース10が本体部1に装着された場合(ステップS1:YES)に、発音部8からテスト音を発生させる(ステップS2)。
【0094】
制御部4は、収納ケース10が本体部1に装着されていない場合には、ステップS1の処理を繰り返す。制御部4は、収納ケース10が本体部1に装着されていないと判定される時間が所定時間以上となった場合に、収納ケース10への収納を促すメッセージを本体部1の表示部6に表示させて、使用者に報知してもよい。
【0095】
ステップS2にてテスト音が発生されると、第一の音測定器M1と第二の音測定器M2の各々によってこのテスト音が測定される(ステップS3)。
【0096】
ステップS3にてテスト音の測定が行われた後、制御部4は、第一の音測定器M1により測定されたテストの強度m1と、第二の音測定器M2により測定されたテストの強度m2とを取得し、この強度m1とテスト音の強度とから測定感度SM1を算出し、この強度m2とテスト音の強度とから測定感度SM2を算出する(ステップS4)。
【0097】
次に、制御部4は、ステップS4にて算出した測定感度SM1と測定感度SM2の比又は差を求め、この比又は差が予め決められた範囲(所定範囲)内か否かを判定する(ステップS5)。
【0098】
この比又は差が予め決められた範囲内であった場合(ステップS5:YES)には、制御部4は、喘鳴の検出が可能であることを、収納ケース10の表示部13に表示させることで使用者に報知する(ステップS6)。
【0099】
この比又は差が予め決められた範囲外であった場合(ステップS5:NO)には、制御部4は、喘鳴の検出が不可であることを、収納ケース10の表示部13に表示させることで使用者に報知する(ステップS7)。
【0100】
このステップS7においては、上述したように、制御部4が、ステップS4にて算出した測定感度SM1,SM2の関係が上記条件を満たすように、第一の音測定器M1と第二の音測定器M2の一方又は両方の感度を調整し、その後、ステップS6の処理を行ってもよい。
【0101】
(生体音測定装置100の効果)
以上のように、生体音測定装置100によれば、検査モードにおいて、第一ハウジング31の開口31hが塞がれていない状態にて発音部8からテスト音が発生される。このため、第一の音測定器M1と第二の音測定器M2によってほぼ同じ条件にてテスト音の測定を行うことが可能となる。したがって、第一の音測定器M1と第二の音測定器M2の測定感度の関係が条件を満たすか否かの判定を高精度に行うことができる。
【0102】
また、この条件が満たされない場合には、例えば喘鳴検出が不可であることの報知や、装置の使用を禁止して修理を促す報知等が行われる。このため、この条件が満たされていない状態にて肺音の測定が行われるのを防ぐことができ、肺音の測定精度の低下を防ぐことができる。
【0103】
或いは、この条件が満たされない場合には、第一の音測定器M1と第二の音測定器M2の測定感度が上記の条件を満たすように調整される。このため、条件が満たされていない状態にて肺音の測定が行われるのを防ぐことができ、肺音の測定精度の低下を防ぐことができる。
【0104】
また、生体音測定装置100によれば、本体部1が収納ケース10に収納されると、本体部1に搭載されている第一の音測定器M1と第二の音測定器M2には、発音部8から発生されるテスト音以外の外部の音が到達しにくくなる。
【0105】
このため、発音部8から発生されたテスト音以外の音が第一の音測定器M1及び第二の音測定器M2に混入するのを防ぐことができ、
図5のステップS5の判定を高精度に行うことができる。
【0106】
なお、収納ケース10の基台11及び蓋部12の材料が、第一の音測定器M1及び第二の音測定器M2の各々の測定可能な周波数帯の音の透過を防ぐことのできる材料で構成されている場合には、次のような効果が得られる。
【0107】
すなわち、本体部1が収納ケース10に収納された状態において、本体部1に搭載されている第一の音測定器M1と第二の音測定器M2は、発音部8から発生されるテスト音のみを測定できるようになる。このため、
図5のステップS5の判定をより高精度に行うことができる。
【0108】
(生体音測定装置100の変形例)
以下、生体音測定装置100の変形例について説明する。
【0109】
<第一の変形例>
この変形例では、収納ケース10の基台11及び蓋部12の材料が、第一の音測定器M1及び第二の音測定器M2の各々の測定可能な周波数帯の音の透過を防ぐことのできる材料で構成されていることを前提とする。
【0110】
この構成においては、制御部4は、収納ケース10が本体部1に装着されたことを、第一の音測定器M1又は第二の音測定器M2により測定された音の強度に基づいて検知してもよい。
【0111】
例えば、
図5のステップS1において、制御部4は、第一の音測定器M1又は第二の音測定器M2により音の測定を開始させ、第一の音測定器M1又は第二の音測定器M2により測定された音の強度が予め決められた第一の閾値以下となっている場合に、本体部1に収納ケース10が装着されたことを検知してもよい。
【0112】
第一の変形例では、収納ケース10が本体部1に装着されると、第一の音測定器M1と第二の音測定器M2には、外部からの音がほとんど到達しなくなる。このため、第一の音測定器M1と第二の音測定器M2の各々により測定される音の強度は、本体部1が収納ケース10の収納空間SP3の外にある場合と比較すると、大きく低下する。したがって、第一の音測定器M1又は第二の音測定器M2により測定された音の強度が第一の閾値以下となっている場合には、収納ケース10が本体部1に装着された状態であると判定することができる。
【0113】
(第一の変形例の効果)
この第一の変形例によれば、収納ケース10において接触センサ16を省略することができるため、収納ケース10の低コスト化が可能になる。また、接触センサ16を省略した場合には、制御部4の端子群7の端子も減らすことができ、本体部1及び収納ケース10の小型化と低コスト化が可能になる。
【0114】
<第二の変形例>
生体音測定装置100では、本体部1に発音部8が設けられているが、この発音部8は収納ケース10に設けられていてもよい。以下、具体的に説明する。
【0115】
図6は、生体音測定装置100の変形例である生体音測定装置100Aの断面模式図である。
図6に示す生体音測定装置100Aは、生体音測定装置100において、本体部1が本体部1Aに変更され、収納ケース10が収納ケース10Aに変更されたものである。
【0116】
本体部1Aのハードウェア構成は、発音部8が削除された点を除いては、本体部1と同じ構成である。
【0117】
収納ケース10Aのハードウェア構成は、基台11に発音部8が設けられ、この発音部8と端子群15とが図示省略の配線によって接続された点を除いては、収納ケース10と同じ構成である。
【0118】
収納ケース10Aの発音部8は、基台11に蓋部12が装着された状態において、基台11と蓋部12の間の収納空間SP3に配置される。この発音部8は、本体部1Aの制御部4によって制御される点は生体音測定装置100と同じである。
【0119】
(生体音測定装置100Aの効果)
生体音測定装置100Aによれば、本体部1Aが収納ケース10に収納された状態において、基台11と蓋部12の間の収納空間SP3に発音部8が配置されている。このため、生体音測定装置100と同様に、測定感度SM1と測定感度SM2の関係が条件を満たしているか否かを高精度に判定することができる。また、収納ケース10Aに発音部8が設けられているため、本体部1Aの小型化が可能になる。
【0120】
<第三の変形例>
生体音測定装置100は、本体部1を収納するための収納ケース10を用いることで、検査モードに適した環境(開口31hが塞がれておらず、且つ、周囲からの音を遮音した状態)を得る構成である。しかし、収納ケース10の代わりに、本体部1の一部を覆うカバー部材を用いて、検査モードに適した環境を得ることもできる。以下、具体的に説明する。
【0121】
図7は、生体音測定装置100の変形例である生体音測定装置100Bの側面図である。
図7に示す生体音測定装置100Bは、本体部1Bと、検査モード時に使用されるカバー部材12Aと、を備える。
図7は、本体部1Bにカバー部材12Aが装着された状態を示している。
【0122】
本体部1Bのハードウェア構成は、端子群7が削除された点を除いては、本体部1と同じである。
【0123】
カバー部材12Aは、本体部1Bにおける測定ユニット3と発音部8が設けられた部分を覆うための有底筒状の部材である。カバー部材12Aは、その中空部に本体部1Bがヘッド部1a側から挿入されることで、本体部1Bに装着される。
【0124】
本体部1Bにカバー部材12Aが装着された状態において、カバー部材12Aの内壁と受圧部3aとの間には隙間が形成されるようになっている。つまり、本体部1Bにカバー部材12Aが装着された状態において、カバー部材12Aは、本体部1Bの第一ハウジング31の開口31hは塞がず、且つ、第一ハウジング31及び第二の音測定器M2と発音部8を覆う構成である。
【0125】
カバー部材12Aの材料は、特には限定されないが、収納ケース10と同様に、第一の音測定器M1及び第二の音測定器M2の各々の測定可能な周波数帯の音の透過を防ぐ(この周波数帯の音を反射する)ことのできる材料とすることが好ましい。
【0126】
生体音測定装置100Bの検査モード時の動作は、
図5のフローチャートのステップS1の処理の代わりに、カバー部材12Aが本体部1Bに装着されたか否かを判定する処理を制御部4が行う。そして、カバー部材12Aが本体部1Bに装着されたと判定した場合に、制御部4はステップS2以降の処理を行う。
【0127】
生体音測定装置100Bにおいて、カバー部材12Aが本体部1Bに装着されたことを制御部4が検知する方法としては、例えば以下の方法を用いることができる。
【0128】
第一の方法は、本体部1Bの把持部1bに接触センサを設けておき、この接触センサによってカバー部材12Aの装着を検知する方法である。
【0129】
第二の方法は、例えば把持部1bにカバー部材12Aの装着が完了したことを入力するための操作ボタンを設けておく方法である。この方法では、生体音測定装置100Bの使用者が、カバー部材12Aを本体部1Bに装着した後に、この操作ボタンを押す。この操作ボタンが押されると、装着完了信号が制御部4に入力される。制御部4は、この装着完了信号を受けた場合に、カバー部材12Aが本体部1Bに装着されたことを検知する。
【0130】
(生体音測定装置100Bの効果)
以上のように、生体音測定装置100Bによれば、生体音測定装置100と同様の効果を得ることができる。また、生体音測定装置100Bでは、カバー部材12Aが本体部1Bの全体を覆うものではない。このため、カバー部材12Aの製造コストを減らすことができ、生体音測定装置100Bの低コスト化が可能となる。
【0131】
<第四の変形例>
ここまで説明してきた生体音測定装置100は、発音部8から発生されたテスト音以外の音が第一の音測定器M1及び第二の音測定器M2によって測定されにくくなるように、本体部1を収納ケース10に収納した状態にて、発音部8からテスト音を発生させている。
【0132】
しかし、本体部1が静かな環境に存在しているのであれば、発音部8から発生されたテスト音以外の音は小さいため、本体部1を収納ケース10に収納せずとも、第一の音測定器M1及び第二の音測定器M2の測定感度の検査を行うことは可能である。第四の変形例では、このように、収納ケース10を用いずに測定感度の検査を行う生体音測定装置100Cについて説明する。
【0133】
図8は、生体音測定装置100の第四の変形例である生体音測定装置100Cの概略構成を示す模式図である。生体音測定装置100Cのハードウェア構成は、測定ユニット3が測定ユニット3Aに変更され、端子群7が削除された点を除いては、生体音測定装置100の本体部1と同じ構成である。生体音測定装置100Cは、特許請求の範囲の本体部の一例である。
【0134】
図9は、
図8に示す生体音測定装置100CにおけるB-B線に沿った断面模式図である。
図9において
図2と同じ構成には同一符号を付してある。
【0135】
生体音測定装置100Cの測定ユニット3Aは、受圧部3aを構成しているハウジングカバー32の表面に接触センサ35が追加された点を除いては、測定ユニット3と同じ構成である。
【0136】
接触センサ35は、受圧部3aに対する物体の接触を検知するためのものである。接触センサ35は、例えば、圧電センサ、又は、体表面S側に向けて光を照射する発光素子とこの発光素子からの光の反射光を受光する受光素子とのセット等によって構成されている。接触センサ35は、受圧部3aに物体が接触したこと検知すると、接触検知信号を制御部4に伝達する。
【0137】
(生体音測定装置100Cの動作例)
【0138】
図10は、
図8に示す生体音測定装置100Cの検査モード時の動作例を説明するためのフローチャートである。
図10において
図5に示した処理と同じ処理には同一符号を付して説明を省略する。
【0139】
検査モードが設定されると、生体音測定装置100Cの制御部4は、接触センサ35の出力信号に基づいて、受圧部3aに物体が接触している否かを判定する(ステップS10)。
【0140】
受圧部3aに物体が接触している場合には、測定ユニット3Aの開口31hがこの物体によって塞がれている可能性がある。このため、生体音測定装置100Cの制御部4は、受圧部3aに物体が接触している場合には、測定ユニット3Aの開口31hが塞がれている状態であると判定し、受圧部3aに物体が接触していない場合には、測定ユニット3Aの開口31hが塞がれていない状態であると判定する。
【0141】
生体音測定装置100Cの制御部4は、受圧部3aに物体が接触している場合(ステップS10:YES)には、ステップS10の判定を再び行う。なお、生体音測定装置100Cの制御部4は、受圧部3aに物体が接触している時間が所定時間以上となった場合には、測定ユニット3Aに何も接触させないよう促すメッセージを表示部6に表示させて、使用者に報知してもよい。
【0142】
受圧部3aに物体が接触していないと判定した場合(ステップS10:NO)には、生体音測定装置100Cの制御部4は、第一の音測定器M1又は第二の音測定器M2により測定された音の情報を取得し、取得した音の強度が予め決められた第二の閾値以下であるか否かを判定する(ステップS11)。
【0143】
この第二の閾値は、発音部8から発生させるテスト音の測定に適した環境であるかを判定するための値であり、発音部8から発生させるテスト音の強度よりも十分に低い値が設定される。
【0144】
ステップS11の判定がNOとなる場合には、生体音測定装置100Cの制御部4は、ステップS11の処理を再び行う。なお、生体音測定装置100Cの制御部4は、ステップS11の判定がNOとなる時間が所定時間以上となった場合には、生体音測定装置100Cを静音環境に置くよう促すメッセージを表示部6に表示させて、使用者に報知してもよい。
【0145】
ステップS11の判定がYESの場合には、生体音測定装置100Cの制御部4は、ステップS2からステップS5の処理を行う。
【0146】
そして、ステップS5の判定がYESであった場合には、生体音測定装置100Cの制御部4は、喘鳴の検出が可能であることを表示部6に表示させることで使用者に報知する(ステップS6a)。
【0147】
ステップS5の判定がNOであった場合には、生体音測定装置100Cの制御部4は、喘鳴の検出が不可であることを表示部6に表示させることで使用者に報知する(ステップS7a)。
【0148】
なお、生体音測定装置100Cにスピーカを搭載しておき、ステップS7aにおいては、喘鳴の検出が不可であることをスピーカから出力させることで報知してもよい。或いは、生体音測定装置100Cとスマートフォン等の電子機器とを通信可能に構成し、喘鳴の検出が不可であることのメッセージを制御部4から電子機器に送信し、電子機器のディスプレイ又はスピーカを使ってメッセージの表示や音声出力を行ってもよい。
【0149】
または、生体音測定装置100Cの表示部6の代わりに例えばLEDを搭載しておき、制御部4は、上記関係が上記条件を満たさない場合と判定した場合には、LEDを例えば赤色に発光させることで、測定精度が確保できていない状態であることを利用者に報知してもよい。
【0150】
(生体音測定装置100Cの効果)
以上のように、生体音測定装置100Cによれば、検査モードにおいて、第一ハウジング31の開口31hが塞がれていない状態にて発音部8からテスト音が発生される。このため、第一の音測定器M1と第二の音測定器M2によってほぼ同じ条件にてテスト音の測定を行うことが可能となる。したがって、第一の音測定器M1と第二の音測定器M2の測定感度の関係が条件を満たすか否かの判定を高精度に行うことができる。
【0151】
また、生体音測定装置100Cによれば、周囲の音が小さい場合(ステップS11:YES)に、発音部8からテスト音が発生される。このため、テスト音以外の生体音測定装置100Cの周囲の音によって測定感度の算出精度が低下するのを防ぐことができ、
図10のステップS5の判定を高精度に行うことができる。
【0152】
また、生体音測定装置100Cによれば、前述してきたような収納ケース10やカバー部材12Aは不要となる。このため、装置の製造コストを低減することができる。
【0153】
なお、生体音測定装置100Cが静音環境下にある状態にて検査モードが設定されることを前提とするのであれば、
図10のステップS11の処理は必須ではない。
【0154】
以上、本発明の実施形態とその変形例について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、適宜変更できる。例えば、上記実施形態及び変形例では、第一の音測定器M1が生体音としての肺音を測定するためのものとしたが、例えば、生体音としての心音を測定するためのものとしてもよい。また、測定ユニット3又は測定ユニット3Aのハウジングカバー32は必須ではなく、省略された構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0155】
100、100A、100B、100C 生体音測定装置
1、1A、1B 本体部
1b 把持部
1a ヘッド部
2 筐体
3、3A 測定ユニット
3a 受圧部
4 制御部
5 電池
6 表示部
7 端子群
8 発音部
S 体表面
Ha 手
31 第一ハウジング
31h 開口
SP1 収容空間
32 ハウジングカバー
34 第二ハウジング
34h 開口
SP2 収容空間
35 接触センサ
M1 第一の音測定器
M2 第二の音測定器
10、10A 収納ケース
11 基台
12 蓋部
12A カバー部材
13 表示部
14 凹部
15 端子群
16 接触センサ