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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】エンジンの始動制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02N 11/08 20060101AFI20221129BHJP
   F02N 15/00 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
F02N11/08 X
F02N11/08 Y
F02N11/08 G
F02N15/00 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018097967
(22)【出願日】2018-05-22
(65)【公開番号】P2019203422
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑治
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-105640(JP,A)
【文献】特開2005-075228(JP,A)
【文献】特開2014-088781(JP,A)
【文献】特開2002-122060(JP,A)
【文献】特開2006-183522(JP,A)
【文献】特表2011-508694(JP,A)
【文献】特開2016-053360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02N 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、マニュアルトランスミッションと、前記エンジンと前記マニュアルトランスミッションとの間で動力を伝達する伝達状態と前記動力を遮断する遮断状態とを切替可能なクラッチと、前記エンジンを始動させるために前記エンジンのクランクシャフトを回転させるエンジン始動装置と、エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出部と、を備えた車両に搭載されるエンジンの始動制御装置であって、
燃料噴射を伴わずに前記エンジン始動装置によって前記エンジンのクランクシャフトを回転させる始動制御を実行可能な制御部を備え、
前記制御部は、
所定の停止条件が成立した場合に前記エンジンを自動的に停止させる自動停止制御を実行可能であり、
前記自動停止制御による前記エンジンの自動停止中に前記始動制御を実行する場合、前記始動制御の開始から所定時間経過後の前記エンジン回転数が所定回転数未満である場合に、前記エンジンに対する燃料噴射が行われる前に前記始動制御を中止するか否かを判断し、燃料噴射によって増大するエンジン出力が駆動輪に伝達される前に前記始動制御を中止することを特徴とするエンジンの始動制御装置。
【請求項2】
前記エンジン始動装置に電力を供給するバッテリと、
前記バッテリの電圧を検出する電圧検出部と、を備え、
前記制御部は、前記エンジン始動装置による前記エンジンの始動時に前記電圧検出部により検出された前記バッテリの電圧に基づき、前記所定時間及び前記所定回転数の少なくともいずれか一方を変更することを特徴とする請求項1に記載のエンジンの始動制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記エンジン始動装置による前記エンジンの始動時における前記バッテリの電圧降下量が大きい場合、前記電圧降下量が小さい場合と比べて前記所定時間を長く、かつ前記所定回転数を小さくすることを特徴とする請求項2に記載のエンジンの始動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
変速機としてマニュアルトランスミッションを搭載した車両において、ニュートラル状態を検出するスイッチが故障していたり、短絡していたりした場合、実際には走行ギヤが選択されているギヤイン状態であるにも関わらず、エンジンの始動が許可されるおそれがある。このようなエンジンの始動が許可されると、車両が動き出してしまうおそれがある。
【0003】
特許文献1には、エンジンの始動後に車輪の回転を検出した場合に、エンジンの始動を中止させる技術が開示されている。特許文献1に記載の技術によれば、上述のような原因で動き出した車両がさらに移動することを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2011/085145号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のものにあっては、エンジンの始動後に車輪の回転を検出したタイミングでエンジンの始動を中止するため、エンジンの始動が中止されるまでに車両が動き出してしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたもので、エンジンの始動時に車両が動き出してしまうことを防止することができるエンジンの始動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、エンジンと、マニュアルトランスミッションと、前記エンジンと前記マニュアルトランスミッションとの間で動力を伝達する伝達状態と前記動力を遮断する遮断状態とを切替可能なクラッチと、前記エンジンを始動させるために前記エンジンのクランクシャフトを回転させるエンジン始動装置と、エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出部と、を備えた車両に搭載されるエンジンの始動制御装置であって、燃料噴射を伴わずに前記エンジン始動装置によって前記エンジンのクランクシャフトを回転させる始動制御を実行可能な制御部を備え、前記制御部は、所定の停止条件が成立した場合に前記エンジンを自動的に停止させる自動停止制御を実行可能であり、前記自動停止制御による前記エンジンの自動停止中に前記始動制御を実行する場合、前記始動制御の開始から所定時間経過後の前記エンジン回転数が所定回転数未満である場合に、前記エンジンに対する燃料噴射が行われる前に前記始動制御を中止するか否かを判断し、燃料噴射によって増大するエンジン出力が駆動輪に伝達される前に前記始動制御を中止する構成を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エンジンの始動時に車両が動き出してしまうことを防止することができるエンジンの始動制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施例に係るエンジンの始動制御装置を搭載した車両の概略ブロック図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係るエンジンの始動制御装置によって実行される始動中止制御の処理の流れを示すフローチャートである。
図3図3は、本発明の一実施例に係る本発明の一実施例に係るエンジンの始動制御装置を搭載した車両におけるエンジン始動要求時の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施の形態に係るエンジンの始動制御装置は、エンジンと、マニュアルトランスミッションと、エンジンとマニュアルトランスミッションとの間で動力を伝達する伝達状態と動力を遮断する遮断状態とを切替可能なクラッチと、エンジンを始動させるエンジン始動装置と、エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出部と、を備えた車両に搭載されるエンジンの始動制御装置であって、燃料噴射を伴わずにエンジン始動装置によってエンジンを始動させる始動制御を実行可能な制御部を備え、制御部は、始動制御の開始から所定時間経過後のエンジン回転数が所定回転数未満である場合に、始動制御を中止することを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係るエンジンの始動制御装置は、エンジンの始動時に車両が動き出してしまうことを防止することができる。
【実施例
【0011】
以下、本発明の一実施例に係るエンジンの始動制御装置について説明する。
【0012】
図1に示すように、本実施例に係るエンジンの始動制御装置を搭載した車両1は、エンジン2と、エンジン始動装置3と、マニュアルトランスミッション4と、クラッチ5と、駆動輪6と、制御装置10とを含んで構成されている。
【0013】
エンジン2は、複数の気筒を有し、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行い車両1の駆動力を発生させる4サイクルのガソリンエンジンによって構成されている。
【0014】
エンジン2には、燃料噴射装置2a及び図示しない点火装置が設けられている。燃料噴射装置2aは、ポート噴射式又は筒内噴射式の燃料噴射装置によって構成されている。エンジン2は、ディーゼルエンジンで構成されてもよい。
【0015】
エンジン始動装置3は、スタータモータ、ギヤ及びクラッチ機構等を有しており、スタータモータがギヤ及びクラッチ機構を介してエンジン2のクランクシャフトに連結可能に構成されている。
【0016】
エンジン始動装置3は、制御装置10から送信されるスタート信号に基づきスタータモータを駆動することにより、ギヤ及びクラッチ機構を介してエンジン2のクランクシャフトを回転させて燃料噴射を伴わずにエンジン2を始動するようになっている。
【0017】
スタート信号は、例えば後述するイグニッションスイッチ7がオンに操作されたこと、後述する所定の再始動条件が成立したこと、又は後述する所定の強制始動条件が成立したことを条件に制御装置10からエンジン始動装置3に送信される。
【0018】
エンジン始動装置3としては、スタータの機能に加えオルタネータの機能を有するISG(Integrated Starter Generator)を用いてもよい。
【0019】
エンジン始動装置3には、バッテリ31が接続されている。バッテリ31は、鉛蓄電池によって構成されており、エンジン始動装置3に電力を供給するようになっている。バッテリ31には、バッテリ31の端子間電圧(以下「Pb電圧」という)を検出するバッテリセンサ31aが設けられている。本実施例におけるバッテリセンサ31aは、電圧検出部を構成する。
【0020】
マニュアルトランスミッション4は、運転者によるシフトレバー42の操作に応じて複数の変速段のうち任意の変速段を成立させるよう構成された変速機である。マニュアルトランスミッション4は、入力側がクラッチ5を介してエンジン2に接続されており、出力側が駆動輪6に連結されている。
【0021】
マニュアルトランスミッション4は、クラッチ5が締結されている場合にはクラッチ5を介して入力されたエンジン2の回転を、成立している変速段に応じた変速比で変速して駆動輪6に伝達するようになっている。変速段としては、車両1を前進走行させる複数の前進段と、車両1を後進走行させる後進段とがある。
【0022】
マニュアルトランスミッション4は、いずれの変速段も成立させない中立状態、すなわちニュートラル状態を形成可能に構成されている。このニュートラル状態では、マニュアルトランスミッション4に入力されたエンジン2の回転は駆動輪6に伝達されないようになっている。
【0023】
このように、マニュアルトランスミッション4は、エンジン2の動力を駆動輪6に伝達する動力伝達状態と、エンジン2と駆動輪6との間で動力が伝達されない動力非伝達状態と、を切替可能に構成されている。
【0024】
マニュアルトランスミッション4には、ニュートラルポジションスイッチ41が設けられている。ニュートラルポジションスイッチ41は、シフトレバー42の操作位置がニュートラル位置にあるときにオンされ、マニュアルトランスミッション4のニュートラル状態を検出する。ニュートラルポジションスイッチ41は、シフトレバー42の操作位置がニュートラル位置以外にあるときにオフされる。
【0025】
ニュートラルポジションスイッチ41は、マニュアルトランスミッション4のニュートラル状態を検出することによりマニュアルトランスミッション4が動力伝達状態又は動力非伝達状態のいずれの状態であるかを検出する。
【0026】
クラッチ5は、エンジン2とマニュアルトランスミッション4との間の動力伝達経路に設けられ、エンジン2とマニュアルトランスミッション4との間で動力を伝達する伝達状態(クラッチ締結状態ともいう)と、エンジン2とマニュアルトランスミッション4との間で動力を遮断する遮断状態(クラッチ解放状態ともいう)とを切り替えるものである。
【0027】
制御装置10は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。コンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等のほか、当該コンピュータユニットの機能を実現するためのプログラムが格納されている。
【0028】
制御装置10には、イグニッションスイッチ7、アクセル開度センサ8、クラッチスイッチ9、エンジン回転数センサ21、ニュートラルポジションスイッチ41、車速センサ61、バッテリセンサ31a、エンジン始動装置3、及びエンジン2が接続されている。
【0029】
アクセル開度センサ8は、運転者によるアクセルペダル81の踏み込み量を検出する。クラッチスイッチ9は、運転者によりクラッチペダル91が踏み込まれたか否かを検出する。
【0030】
エンジン回転数センサ21は、エンジン2の回転数であるエンジン回転数Neを検出する。エンジン回転数センサ21は、例えばクランク角センサによって構成されている。本実施例におけるエンジン回転数センサ21は、エンジン回転数検出部を構成する。車速センサ61は、車両1の速度、すなわち車速を検出する。
【0031】
制御装置10は、所定の停止条件が成立した場合にエンジン2を自動的に停止させる自動停止制御を実行可能な自動停止制御部11としての機能を有する。
【0032】
所定の停止条件としては、例えば、シフトレバー42の操作位置がニュートラル位置にあること、すなわちマニュアルトランスミッション4がニュートラル状態であること、及びクラッチペダル91が踏み込まれていないことが少なくとも含まれている。
【0033】
ただし、ニュートラルポジションスイッチ41に故障又は短絡が発生している場合には、前述の所定の停止条件が成立してもエンジン2の自動停止は行われないようになっている。
【0034】
ニュートラルポジションスイッチ41に故障又は短絡が発生したか否かは、制御装置10によって判定される。制御装置10は、所定の車速以上で車両1が走行中、一定時間以上にわたってニュートラルポジションスイッチ41によってニュートラル状態が検出された場合に、ニュートラルポジションスイッチ41に故障又は短絡が発生していると判定する。なお、エンジン2の自動停止中に、ニュートラルポジションスイッチ41に故障又は短絡が発生していると判定された場合には、エンジン2の自動停止が解除され強制的にエンジン2が再始動される。
【0035】
制御装置10は、自動停止制御によるエンジン2の自動停止中に、燃料噴射を伴わずにエンジン始動装置3によってエンジン2を始動させる、具体的にはスタータモータによってエンジン2のクランクシャフトに回転力を付与する始動制御を実行可能に構成されている。本実施例における制御装置10は、制御部を構成する。
【0036】
この始動制御には、エンジン2の自動停止中に所定の再始動条件が成立した場合にエンジン2を再始動させる再始動制御と、エンジン2の自動停止中に所定の強制始動条件が成立した場合にエンジン2を強制的に再始動(以下、「強制始動」という)させる強制始動制御とが含まれる。
【0037】
このように、制御装置10は、再始動制御を実行可能な再始動制御部12、及び強制始動制御を実行可能な強制始動制御部13としての機能を有する。
【0038】
所定の再始動条件としては、例えば、マニュアルトランスミッション4がニュートラル状態であること、及びクラッチペダル91が踏み込まれたことが少なくとも含まれている。
【0039】
所定の強制始動条件は、例えば、次のいずれかのエンジン始動要求がなされた場合に成立するものとする。当該エンジン始動要求としては、例えばエアコンなどの補機類の駆動に伴うエンジン始動要求、エンジン2の自動停止中にニュートラルポジションスイッチ41に故障又は短絡が発生していると判定されたことに伴うエンジン始動要求、又は、車両1の異常を検出したことによりエンジン2の自動停止を解除するために行われるエンジン始動要求などが挙げられる。
【0040】
制御装置10は、上述した強制始動制御の開始から所定時間Tth経過後のエンジン回転数Neが所定回転数Neth未満である場合に、当該強制始動制御を中止する始動中止制御部14としての機能を有する。これにより、強制始動制御の開始時にギヤイン状態かつクラッチ締結状態である場合には、車両1が動き出す前、具体的にはエンジン2に対する燃料噴射が行われる前に強制始動制御が中止される。
【0041】
上述のように強制始動制御の開始後のエンジン回転数Neの傾向から強制始動制御を中止するか否かを判定するのは、次の理由による。
【0042】
マニュアルトランスミッション4がニュートラル状態にあるときは、エンジン2の動力が駆動輪6に伝達されないため、エンジン2に対する負荷は小さい。このため、ニュートラル状態でエンジン2が強制始動されると、エンジン回転数Neは比較的速やかに上昇する。
【0043】
これに対し、マニュアルトランスミッション4がニュートラル状態でない、すなわちギヤイン状態かつクラッチ締結状態であるときは、エンジン2の動力が駆動輪6に伝達され得るため、ニュートラル状態のときと比べてエンジン2に対する負荷が大きくなる。このため、ギヤイン状態でエンジン2が強制始動されると、ニュートラル状態のときと比べてエンジン回転数Neの上昇に長い時間を要する、すなわち上昇度合いが緩やかとなる。
【0044】
本実施例では、ニュートラル状態かギヤイン状態かにより異なる強制始動時のエンジン回転数Neの上昇傾向に基づき、強制始動制御を中止するか否かを判定するようにしている。
【0045】
強制始動制御の開始時にギヤイン状態かつクラッチ締結状態となる要因としては、例えば、ニュートラルポジションスイッチ41に故障又は短絡が発生しているにも関わらず、制御装置10が当該故障又は短絡の発生を検出していない場合が挙げられる。この場合、シフトレバー42の操作位置がニュートラル位置以外であるにも関わらず、故障又は短絡によってニュートラルポジションスイッチ41がオンされてしまうため、ギヤイン状態かつクラッチ締結状態で強制始動がなされるおそれがある。
【0046】
上述のように制御装置10が当該故障又は短絡の発生を検出できないのは、ニュートラルポジションスイッチ41に故障又は短絡が発生しているか否かの判定が、次のような判定方法を採用するためである。すなわち、所定の車速以上で車両1が走行中、一定時間以上にわたってニュートラルポジションスイッチ41によってニュートラル状態が検出された場合にニュートラルポジションスイッチ41に故障又は短絡が発生していると判定する構成である。
【0047】
また、強制始動制御の開始時にギヤイン状態かつクラッチ締結状態となる他の要因としては、例えば、エンジン2の自動停止中に、ニュートラルポジションスイッチ41に故障又は短絡が発生したことが検出された場合が挙げられる。この場合、エンジン2の自動停止が解除されエンジン2が強制始動される。
【0048】
制御装置10は、強制始動制御によるエンジン2の強制始動時にバッテリセンサ31aにより検出されたPb電圧に基づき、上述した所定時間Tth及び所定回転数Nethを変更可能に構成されている。したがって、所定時間Tth及び所定回転数Nethは、強制始動時のPb電圧に応じてそれぞれ異なる値に設定される。
【0049】
具体的には、制御装置10は、強制始動時のPb電圧に基づき、中止判定閾値マップを参照することにより強制始動時のPb電圧に応じた所定時間Tth及び所定回転数Nethを算出する。
【0050】
中止判定閾値マップは、強制始動時のPb電圧と、所定時間Tth及び所定回転数Nethとの関係を予め実験的に求めたもので、制御装置10のROMに記憶されている。中止判定閾値マップにおいては、強制始動時のPb電圧が低いほど、所定時間Tthが長く、かつ所定回転数Nethが小さくなるよう定義されている。
【0051】
これにより、バッテリ31の劣化状態に応じた所定時間Tth及び所定回転数Nethが設定される。つまり、バッテリ31の劣化が進むほど、バッテリ31の内部抵抗によるエンジン2の始動時のPb電圧降下量が大きくなる。これは、バッテリ31の劣化が進むほどバッテリ31の内部抵抗が増加するためである。
【0052】
エンジン2の始動時においては、Pb電圧降下量が大きいほど、すなわちバッテリ31の劣化が進んでいるほど、エンジン回転数Neが上昇しづらく、エンジン回転数Neを所定回転数Nethまで上昇させるのに長い時間を要する。
【0053】
したがって、本実施例において、制御装置10は、強制始動時のPb電圧降下量が大きい場合、Pb電圧降下量が小さい場合と比べて所定時間Tthを長く、かつ所定回転数Nethを小さくするようになっている。
【0054】
これにより、バッテリ31の劣化度合いに応じて強制始動制御を中止するか否かの基準を変更することができ、誤った強制始動制御の中止が防止される。なお、中止判定閾値マップにおいては、強制始動時のPb電圧に代えてPb電圧降下量を用いてもよい。
【0055】
次に、図2を参照して、本実施例に係る制御装置10によって実行される始動中止制御の処理の流れについて説明する。この始動中止制御は、エンジン2の自動停止中、所定の時間間隔で繰り返し実行される。
【0056】
図2に示すように、制御装置10は、強制始動に係るエンジン始動要求があるか否かを判定する(ステップS1)。すなわち、制御装置10は、所定の強制始動条件が成立したか否かを判定する。
【0057】
制御装置10は、強制始動に係るエンジン始動要求がない、すなわち所定の強制始動条件が成立していないと判定した場合には、始動中止制御を終了する。
【0058】
制御装置10は、強制始動に係るエンジン始動要求がある、すなわち所定の強制始動条件が成立したと判定した場合には、始動時間Tsのカウントを開始する(ステップS2)。始動時間Tsは、強制始動制御の開始からの経過時間である。
【0059】
次いで、制御装置10は、スタート信号をエンジン始動装置3に送信してエンジン始動装置3を駆動する(ステップS3)。これにより、エンジン始動装置3は、スタータモータを駆動することによりクランクシャフトに回転力を付与する。この結果、エンジン2は、燃料噴射を伴わずに強制始動される。
【0060】
その後、制御装置10は、ステップS3でエンジン2が強制始動されたとき、すなわち強制始動時のバッテリ31のPb電圧を取得する(ステップS4)。なお、始動時間のカウントは、Pb電圧を取得したタイミング、すなわちステップS4の処理が終了したタイミングで開始してもよい。
【0061】
次いで、制御装置10は、ステップS4で取得したPb電圧に基づき、中止判定閾値マップを参照することにより強制始動時のPb電圧に応じた所定時間Tth及び所定回転数Nethを算出して設定する(ステップS5)。
【0062】
次いで、制御装置10は、エンジン回転数センサ21によって検出されるエンジン回転数NeがステップS5で設定した所定回転数Nethを下回っているか否かを判定する(ステップS6)。
【0063】
制御装置10は、エンジン回転数Neが所定回転数Nethを下回っていないと判定した場合には、始動中止制御を終了する。
【0064】
制御装置10は、エンジン回転数Neが所定回転数Nethを下回っていると判定した場合には、ステップS2でカウントを開始した始動時間TsがステップS5で設定した所定時間Tthを上回っているか否かを判定する(ステップS7)。
【0065】
制御装置10は、始動時間Tsが所定時間Tthを上回っていないと判定した場合には、始動中止制御を終了する。
【0066】
制御装置10は、始動時間Tsが所定時間Tthを上回っていると判定した場合には、エンジン始動装置3に対してエンジン始動停止要求を行う(ステップS8)。エンジン始動停止要求は、例えば制御装置10によって始動停止信号がエンジン始動装置3に送信されることによりなされる。これにより、制御装置10は、ステップS3で開始された強制始動制御を中止する。
【0067】
ステップS8においてエンジン始動停止要求が行われると、エンジン始動装置3は、スタータモータの駆動を停止する。
【0068】
次に、図3を参照して、強制始動に係るエンジン始動要求が行われたときのタイミングチャートの一例について説明する。
【0069】
図3において、「劣化なし」を示す実線は、劣化が生じていないバッテリ31のPb電圧を示し、「劣化あり」を示す破線は、劣化が生じているバッテリ31のPb電圧を示している。
【0070】
また、図3において、「通常始動(劣化なし)」を示す実線は、バッテリ31に劣化が生じていないときに、ギヤイン状態かつクラッチ締結状態でない状態で行われる強制始動時におけるエンジン回転数の推移を示している。また、図3において、「通常始動(劣化あり)」を示す破線は、バッテリ31に劣化が生じているときに、ギヤイン状態かつクラッチ締結状態でない状態で行われる強制始動時におけるエンジン回転数の推移を示している。さらに、図3において、「始動中止(劣化なし)」を示す一点鎖線は、ギヤイン状態かつクラッチ締結状態で行われる強制始動時のエンジン回転数の推移を示している。
【0071】
(バッテリが劣化していない場合)
図3に示すように、時間T0において強制始動に係るエンジン始動要求がなされると、スタータモータを駆動するために大きな電流が必要とされることから、バッテリ31のPb電圧が大きく降下する。また、時間T0から始動時間Tsのカウントが開始される。
【0072】
次いで、時間T1になると、Pb電圧降下量が最大となる。このときのPb電圧降下量は、バッテリセンサ31aからの検出結果に基づき制御装置10によって把握され、所定時間Tth及び所定回転数Nethを設定するのに利用される。図3の例では、所定時間Tth1及び所定回転数Neth1に設定される。
【0073】
その後、始動時間Tsが所定時間Tth1を経過するまでにエンジン回転数Neが所定回転数Neth1を超えていれば、始動中止制御が中止されることなく、スタータモータの駆動が継続される。これにより、図3中、実線で示すようにエンジン回転数Neは上昇し、エンジン2が強制始動される。
【0074】
これに対し、強制始動制御の開始時からギヤイン状態かつクラッチ締結状態である場合には、ギヤイン状態かつクラッチ締結状態でない場合(図3中、実線で示す通常始動)と比較して、図3中、一点鎖線で示すように時間T1からのエンジン回転数Neの上昇度合いが緩やかである。
【0075】
このため、ギヤイン状態かつクラッチ締結状態である場合(図3中、実線で示す始動中止)は、始動時間Tsが所定時間Tth1に達した時点でエンジン回転数Neが未だ所定回転数Neth1を超えていない。
【0076】
したがって、このような場合、ギヤイン状態かつクラッチ締結状態で行われた強制始動制御であると制御装置10によって判断されて、所定時間Tth1においてエンジン始動停止要求がなされ、強制始動制御が中止される。これにより、スタータモータの駆動が停止されるため、図3中、一点鎖線で示すようにエンジン回転数Neは低下し、0となる。
【0077】
(バッテリが劣化している場合)
バッテリ31が劣化している場合は、バッテリ31が劣化していない場合と比較して、エンジン始動要求がなされた後のPb電圧降下量が大きい。
【0078】
ここで、バッテリ31が劣化している場合であってギヤイン状態かつクラッチ締結状態でない場合(図3中、破線で示す通常始動)は、エンジン回転数Neの上昇度合いが緩やかとなる。
【0079】
本実施例では、このようなバッテリ劣化時のエンジン回転数の上昇特性を考慮して、所定時間Tth及び所定回転数Nethが設定される。図3の例では、所定時間Tth2及び所定回転数Neth2に設定される。
【0080】
図3の例では、始動時間Tsが所定時間Tth2を経過するまでにエンジン回転数Neが所定回転数Neth2を超えているため、始動中止制御が中止されることなく、スタータモータの駆動が継続される。これにより、図3中、破線で示すようにエンジン回転数Neは上昇し、エンジン2が強制始動される。
【0081】
以上のように、本実施例に係るエンジンの始動制御装置は、強制始動制御の開始から所定時間Tth経過後のエンジン回転数Neが所定回転数Neth未満である場合に、当該強制始動制御を中止するようになっている。
【0082】
このため、本実施例に係るエンジンの始動制御装置は、強制始動制御の開始後のエンジン回転数Neの上昇傾向から強制始動制御を中止するか否かを判断することができる。これは、ギヤイン状態かつクラッチ締結状態での強制始動か否かによってエンジン回転数Neの上昇傾向が異なるため、エンジン回転数Neの上昇傾向からギヤイン状態かつクラッチ締結状態であるか否かを容易に判断することができるためである。
【0083】
このように、本実施例に係るエンジンの始動制御装置は、エンジン2に対する燃料噴射が行われる前に強制始動制御を中止するか否かを判断できるため、燃料噴射によって増大するエンジン出力が駆動輪6に伝達される前に強制始動制御を中止することができる。
【0084】
これにより、本実施例に係るエンジンの始動制御装置は、ギヤイン状態かつクラッチ締結状態であっても、車両1が動き出してしまうことを防止することができる。
【0085】
また、本実施例に係るエンジンの始動制御装置は、ニュートラルポジションスイッチ41の故障又は短絡を検出する機会を増やすことができる。すなわち、上述のように強制始動制御が中止されることで、ニュートラルポジションスイッチ41の故障又は短絡を含む何らかの不具合が車両1に発生していることを乗員に間接的に伝えることができる。
【0086】
このため、本実施例に係るエンジンの始動制御装置は、所定の車速以上で車両1が走行中、一定時間以上にわたってニュートラルポジションスイッチ41によってニュートラル状態が検出された場合にニュートラルポジションスイッチ41に故障又は短絡が発生していると判定することに加えて、上述の強制始動制御の中止によってもニュートラルポジションスイッチ41に故障又は短絡が発生している可能性があると判定することができる。
【0087】
また、本実施例に係るエンジンの始動制御装置は、バッテリ31の劣化度合いに応じて強制始動制御を中止するか否かの基準となる、所定時間Tth及び所定回転数Nethを変更することができ、誤った強制始動制御の中止を防止することができる。
【0088】
本実施例に係るエンジンの始動制御装置において、始動中止制御(図2参照)によって中止される始動制御はエンジン2の自動停止中に行われる強制始動制御であって、例えばイグニッションスイッチ7のオンによる初回始動時の始動制御ではない。
【0089】
したがって、本実施例に係るエンジンの始動制御装置は、イグニッションスイッチ7のオンによる初回始動時に誤ってエンジン2の始動を中止してしまうことを防止できる。
【0090】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更
が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に
含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0091】
1 車両
2 エンジン
3 エンジン始動装置
4 マニュアルトランスミッション
5 クラッチ
6 駆動輪
10 制御装置(制御部)
11 自動停止制御部
12 再始動制御部
13 強制始動制御部
14 始動中止制御部
21 エンジン回転数センサ(エンジン回転数検出部)
31 バッテリ
31a バッテリセンサ(電圧検出部)
41 ニュートラルポジションスイッチ
42 シフトレバー
61 車速センサ
Ts 始動時間
Tth 所定時間
Neth 所定回転数
図1
図2
図3