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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/06 20060101AFI20221129BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20221129BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20221129BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20221129BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20221129BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20221129BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C08L9/06
C08L9/00
C08L45/00
C08K3/36
C08K3/04
C08L15/00
B60C1/00 Z
B60C1/00 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018102588
(22)【出願日】2018-05-29
(65)【公開番号】P2019206652
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-03-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】竹中 美夏子
(72)【発明者】
【氏名】宮瀬 晴子
(72)【発明者】
【氏名】馬渕 貴裕
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-091756(JP,A)
【文献】特開2013-091757(JP,A)
【文献】特表2005-534759(JP,A)
【文献】特表2005-537369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、テルペン系樹脂とを含有し、
前記ゴム成分100質量%中のスチレンブタジエンゴムの含有量が5~100質量%、ブタジエンゴムの含有量が0~80質量%、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムの合計含有量が80質量%以上であり、
スチレンブタジエンゴムは、ブタジエンモノマーに由来する成分100質量%中、ビニル構造を有するものの含有量が28質量%以下であり、
前記テルペン系樹脂は、軟化点が70~150℃、α-ピネン単位含有率が70~100質量%、β-ピネン単位含有率が0~35質量%、リモネン単位含有率が10質量%以下であり、
前記ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量が100~250質量部、前記テルペン系樹脂の含有量が0.1~100質量部であるタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
ゴム成分と、テルペン系樹脂とを含有し、
前記ゴム成分100質量%中のスチレンブタジエンゴムの含有量が60~100質量%、ブタジエンゴムの含有量が0~40質量%、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムの合計含有量が80質量%以上であり、
スチレンブタジエンゴムは、ブタジエンモノマーに由来する成分100質量%中、ビニル構造を有するものの含有量が28質量%以下であり、
前記テルペン系樹脂は、軟化点が70~150℃、α-ピネン単位含有率が70~100質量%、β-ピネン単位含有率が0~35質量%、リモネン単位含有率が10質量%以下であり、
前記ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量が50~250質量部、前記テルペン系樹脂の含有量が0.1~100質量部であるタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
テルペン系樹脂は、α-ピネンの単独重合体、α-ピネン単位含有率が99質量%以上のテルペン系樹脂、並びに、α-ピネン単位及びβ-ピネン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1又は2記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
スチレンブタジエンゴムは、シリカと相互作用する極性基で変性された溶液重合スチレンブタジエンゴムである請求項1~3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量が100~250質量部である請求項2~4のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
シリカの窒素吸着比表面積が200m/g以上である請求項1~5のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項7】
ゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量が0.1~200質量部である請求項1~6のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項8】
ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量が10質量%以下である請求項1~のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項9】
メルカプト系シランカップリング剤を含む請求項1~のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項10】
ゴム成分100質量部に対して、極性可塑剤を0.1~100質量部含む請求項1~のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項11】
極性可塑剤のガラス転移温度が-80℃以下である請求項10記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項12】
キャップトレッド用ゴム組成物である請求項1~11のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載のゴム組成物で構成されたキャップトレッドとベーストレッドとを有する空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物及びこれを用いて作製した空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題への関心の高まりから、自動車に対して低燃費化の要求が強くなっており、自動車用タイヤに用いるゴム組成物に対しても、低燃費性能に優れることが求められている。
【0003】
低燃費性能を改善する方法として、例えば、補強用充填剤を減量する方法が知られているが、この方法では、ゴム組成物の発熱量や補強性の低下により、グリップ性能、操縦安定性、耐摩耗性能等が悪化する傾向がある。このように、これらの性能は一般的に低燃費性能と背反する関係にあり、それぞれの性能をバランス良く得ることは困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記課題を解決し、グリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性をバランス良く改善できるタイヤ用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ゴム成分と、テルペン系樹脂とを含有し、前記ゴム成分100質量%中のスチレンブタジエンゴムの含有量が5~100質量%、ブタジエンゴムの含有量が0~80質量%、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムの合計含有量が80質量%以上であり、前記テルペン系樹脂は、軟化点が70~150℃、α-ピネン単位含有率が65~100質量%、β-ピネン単位含有率が0~35質量%、リモネン単位含有率が10質量%以下であり、前記ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量が0~500質量部、前記テルペン系樹脂の含有量が0.1~100質量部であるタイヤ用ゴム組成物に関する。
【0006】
テルペン系樹脂は、α-ピネンの単独重合体、α-ピネン単位含有率が99質量%以上のテルペン系樹脂、並びに、α-ピネン単位及びβ-ピネン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0007】
スチレンブタジエンゴムは、シリカと相互作用する極性基で変性された溶液重合スチレンブタジエンゴムであることが好ましい。
ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量が100~500質量部であることが好ましい。
【0008】
シリカの窒素吸着比表面積が200m/g以上であることが好ましい。
ゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量が0.1~200質量部であることが好ましい。
【0009】
スチレンブタジエンゴムは、ブタジエンモノマーに由来する成分100質量%中、ビニル構造を有するものの含有量が28質量%以下であるものが好ましい。
【0010】
ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量が10質量%以下であることが好ましい。
メルカプト系シランカップリング剤を含むことが好ましい。
【0011】
ゴム成分100質量部に対して、極性可塑剤を0.1~100質量部含むことが好ましい。
極性可塑剤のガラス転移温度が-80℃以下であることが好ましい。
キャップトレッド用ゴム組成物であることが好ましい。
【0012】
本発明はまた、前記ゴム組成物で構成されたキャップトレッドとベーストレッドとを有する空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、所定のゴム成分と、所定のテルペン系樹脂とを所定配合で含むタイヤ用ゴム組成物であるので、グリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性をバランス良く改善できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
前記ゴム組成物は、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴムが所定配合のゴム成分と、軟化点が70~150℃、α-ピネン単位含有率が65~100質量%、β-ピネン単位含有率が0~35質量%、リモネン単位含有率が10質量%以下のテルペン系樹脂とを所定配合で含有する。スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴムを特定割合で含むゴム成分に特定のテルペン系樹脂を配合しているため、グリップ性能(ウェットグリップ性能、高速グリップ性能等)、低燃費性能、耐摩耗性の性能バランス、更にはグリップ性能(ウェットグリップ性能、高速グリップ性能等)が顕著に改善される。
【0015】
このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下の作用機能によるものと推察される。
従来、スチレンブタジエンゴム(SBR)を配合したゴム系では、SBRとの親和性の観点から、スチレン系樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂等の樹脂成分が使用されてきたが、本発明では、特定のテルペン系樹脂を用いることにより、グリップ性能(ウェットグリップ性能、高速グリップ性能等)、低燃費性能、耐摩耗性をバランスよく改善できるという知見を見出したものである。
【0016】
このような物性向上のメカニズムは必ずしも明らかではないが、α-ピネンを主成分とするテルペン系樹脂を用いているため、該テルペン系樹脂の立体構造がより均一となることにより、グリップ性能、操縦安定性が向上し、ポリマー成分とも共架橋することが可能であることにより、耐摩耗性が向上すると推察される。加えて、所定の軟化点、α-ピネン単位含有率、β-ピネン単位含有率、リモネン単位含有率に起因して、テルペン系樹脂は、分子量と比較して、Tgが高くなる傾向があるため、少量の添加でも、グリップ性能の向上が可能となり、グリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性の性能バランスが顕著に改善されるものと推察される。
【0017】
(ゴム成分)
前記ゴム組成物は、スチレンブタジエンゴム(SBR)と、必要に応じてブタジエンゴム(BR)とを含有するゴム成分を含む。
【0018】
ゴム成分100質量%中、SBRの含有量は、5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは25質量%以上である。上限は、100質量%で、好ましくは99質量%以下、より好ましくは97質量%以下である。上記範囲内であると、良好なグリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性の性能バランスが得られる傾向がある。
【0019】
SBRにおいて、ブタジエンモノマーに由来する成分100質量%中、ビニル構造を有するもの(ビニルブタジエンユニット)の含有量は、好ましくは28質量%以下、より好ましくは27質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。上限以下にすることで、架橋反応やシランカップリング剤との反応を促進し、低燃費性と耐摩耗性をバランス良く向上できる傾向がある。架橋反応やシランカップリング剤との反応を促進し、グリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性をバランスよく改善できる。下限は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上である。下限以上にすることで、他のゴム成分との親和性、相溶性を向上し、各種物性が向上する傾向がある。
【0020】
SBRにおいて、ブタジエンモノマーに由来する成分100質量%中、シス構造を有するもの(シスブタジエンユニット)の含有量は、好ましくは20質量%以上であり、また、好ましくは90質量%以下である。上記範囲内であると、ゴム弾性、耐摩耗性、耐破壊性能のバランスが向上し、グリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性の性能バランスも改善できる傾向がある。
【0021】
SBRのスチレン量(SBR100質量%中のスチレンユニットの含有量)は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。上記範囲内であれば、ウェットグリップ性能、低燃費性能をバランスよく改善できる傾向がある。また、他のゴム成分との親和性及び相溶性が向上し、各種物性を向上できる傾向がある。
【0022】
SBRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性及び機械的強度の観点から、好ましくは50万以上、より好ましくは60万以上である。更に、70万以上、80万以上、90万以上、100万以上の順で好適である。上限は特に規定されないが、加工性の観点から、好ましくは300万以下である。
【0023】
SBRとしては、加工性とグリップ性能(ウェットグリップ性能)のバランス、グリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性のバランス観点から、溶液重合SBR(S-SBR)を用いることが好ましい。
【0024】
SBRは、シリカと相互作用する極性基で変性されていることが好ましい。例えば、該極性基で末端及び/又は主鎖が変性されている変性SBRが好適である。極性基(変性基)としては特に限定されないが、アルコキシシリル基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基等が挙げられる。これらは、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。なかでも、アルコキシシリル基が好ましい。
【0025】
上記変性SBRとして、例えば、下記式で表される化合物(変性剤)により変性された変性SBR等を好適に使用できる。
【0026】
【化1】
【0027】
上記式中、R、R及びRは、同一又は異なって、アルキル基、アルコキシ基、シリルオキシ基、アセタール基、カルボキシル基(-COOH)、メルカプト基(-SH)又はこれらの誘導体を表す。R及びRは、同一又は異なって、水素原子又はアルキル基を表す。R及びRは結合して窒素原子と共に環構造を形成してもよい。nは整数を表す。
【0028】
上記式で表される化合物(変性剤)により変性された変性SBRとしては、なかでも、溶液重合のブタジエンゴムの重合末端(活性末端)を上記式で表される化合物により変性されたSBR等が好適に用いられる。
【0029】
、R及びRとしてはアルコキシ基が好適である(好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~4のアルコキシ基)。R及びRとしてはアルキル基(好ましくは炭素数1~3のアルキル基)が好適である。nは、好ましくは1~5、より好ましくは2~4、更に好ましくは3である。また、R及びRが結合して窒素原子と共に環構造を形成する場合、4~8員環であることが好ましい。なお、アルコキシ基には、シクロアルコキシ基(シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基、ベンジルオキシ基等)も含まれる。
【0030】
SBRは、分子鎖中にイソプレンに由来する成分のブロック(イソプレンブロック)を有していてもよい。イソプレンブロックは、シスイソプレンに由来する成分のブロック(シスイソプレンブロック)であることが好ましい。
【0031】
前記ゴム組成物は必要に応じてBRを含むものであるが、ゴム成分100質量%中、BRの含有量は、0質量%以上、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。上限は、80質量%以下、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。上記範囲内であると、良好なグリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性の性能バランスが得られる傾向がある。
【0032】
BRとしては特に限定されず、例えば、高シス含量のBR、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、希土類元素系触媒を用いて合成されたブタジエンゴム(希土類系BR)、スズ化合物により変性されたスズ変性ブタジエンゴム(スズ変性BR)等、タイヤ工業において一般的なものが挙げられる。BRは、市販品としては、宇部興産(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
BRのシス含量は、耐摩耗性等の観点から、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上である。
なお、本明細書において、シス含量(シス-1,4-結合量)は、赤外吸収スペクトル分析や、NMR分析により測定されるシグナル強度から算出される値である。
【0034】
前記ゴム組成物において、グリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性の性能バランスの観点から、ゴム成分100質量%中のSBR及びBRの合計含有量は、80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは92質量%以上であり、100質量%でもよい。
【0035】
前記ゴム組成物は、イソプレン系ゴムを含むものでもよいが、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量は、グリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性の性能バランスの観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下である。
【0036】
イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、改質NR、変性NR、変性IR等が挙げられる。NRは、SIR20、RSS♯3、TSR20等、IRは、IR2200等、タイヤ工業で一般的なものを使用できる。改質NRは、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)等、変性NRは、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等、変性IRは、エポキシ化イソプレンゴム、水素添加イソプレンゴム、グラフト化イソプレンゴム等、が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
前記ゴム組成物は、前記効果を阻害しない範囲で他のゴム成分を配合してもよい。他のゴム成分としては、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合ゴム(SIBR)等のジエン系ゴムが挙げられる。
【0038】
(シリカ)
前記ゴム組成物において、シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0質量部以上、好ましくは50質量部以上、より好ましくは90質量部以上、更に好ましくは100質量部以上、特に好ましくは120質量部以上である。上記含有量は、500質量部以下、好ましくは250質量部以下、より好ましくは200質量部以下である。上記範囲内であると、良好なグリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性の性能バランスが得られる傾向がある。
【0039】
シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは150m/g以上、より好ましくは180m/g以上、更に好ましくは200m/g以上、特に好ましくは210m/g以上である。下限以上であると、補強効果が大きく、優れた耐摩耗性能等が得られる傾向がある。また、上記NSAは、好ましくは600m/g以下、より好ましくは300m/g以下である。上限以下であると、シリカが分散しやすく、良好な低燃費性能や加工性能が得られる傾向がある。
なお、シリカのNSAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0040】
シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水シリカ)、湿式法シリカ(含水シリカ)などがあげられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
(シランカップリング剤)
前記ゴム組成物は、シランカップリング剤を含有することが好ましい。
シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、3質量部以上が更に好ましい。0.5質量部以上であると、カップリング効果が充分で、高いシリカ分散も得られる傾向がある。また、該含有量は、15質量部以下が好ましく、12質量部以下がより好ましく、10質量部以下が更に好ましい。15質量部以下であると、余分なシランカップリング剤が残存せず、得られるゴム組成物の加工性能等が向上する傾向がある。
【0042】
シランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができ、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシランなどのビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランのグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシランなどのニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシランなどのクロロ系等が挙げられる。なかでも、各性能の改善効果の観点から、メルカプト系シランカップリング剤(メルカプト基を有するシランカップリング剤、メルカプト基が保護化されているシランカップリング剤等)が好ましい。
【0043】
メルカプト系シランカップリング剤としては、下記式(2-1)で表されるシランカップリング剤、及び/又は、下記式(2-2)で示される結合単位Aと下記式(2-3)で示される結合単位Bとを含むシランカップリング剤を好適に使用できる。
【化2】
(式(2-1)中、R101は-Cl、-Br、-OR106、-O(O=)CR106、-ON=CR106107、-ON=CR106107、-NR106107及び-(OSiR106107(OSiR106107108)から選択される一価の基(R106、R107及びR108は同一でも異なっていても良く、各々水素原子又は炭素数1~18の一価の炭化水素基であり、hは平均値が1~4である。)であり、R102はR101、水素原子又は炭素数1~18の一価の炭化水素基、R103は-[O(R109O)]-基(R109は炭素数1~18のアルキレン基、jは1~4の整数である。)、R104は炭素数1~18の二価の炭化水素基、R105は炭素数1~18の一価の炭化水素基を示し、xa、ya及びzaは、xa+ya+2za=3、0≦xa≦3、0≦ya≦2、0≦za≦1の関係を満たす数である。)
【化3】
【化4】
(式(2-2)及び(2-3)中、xbは0以上の整数、ybは1以上の整数である。R201は水素、ハロゲン、分岐若しくは非分岐の炭素数1~30のアルキル基、分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルケニル基、分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルキニル基、又は該アルキル基の末端の水素が水酸基若しくはカルボキシル基で置換されたものを示す。R202は分岐若しくは非分岐の炭素数1~30のアルキレン基、分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルケニレン基、又は分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルキニレン基を示す。R201とR202とで環構造を形成してもよい。)
【0044】
上記式(2-1)におけるR102、R105、R106、R107及びR108の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ビニル基、プロぺニル基、アリル基、ヘキセニル基、オクテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
上記式(2-1)におけるR109の例として、直鎖状アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、n-ブチレン基、ヘキシレン基等が挙げられ、分枝状アルキレン基としては、イソプロピレン基、イソブチレン基、2-メチルプロピレン基等が挙げられる。
【0045】
上記式(2-1)で表されるシランカップリング剤の具体例としては、3-ヘキサノイルチオプロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン、3-デカノイルチオプロピルトリエトキシシラン、3-ラウロイルチオプロピルトリエトキシシラン、2-ヘキサノイルチオエチルトリエトキシシラン、2-オクタノイルチオエチルトリエトキシシラン、2-デカノイルチオエチルトリエトキシシラン、2-ラウロイルチオエチルトリエトキシシラン、3-ヘキサノイルチオプロピルトリメトキシシラン、3-オクタノイルチオプロピルトリメトキシシラン、3-デカノイルチオプロピルトリメトキシシラン、3-ラウロイルチオプロピルトリメトキシシラン、2-ヘキサノイルチオエチルトリメトキシシラン、2-オクタノイルチオエチルトリメトキシシラン、2-デカノイルチオエチルトリメトキシシラン、2-ラウロイルチオエチルトリメトキシシラン等を挙げることができる。なかでも、3-オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン(Momentive社製のNXT)が特に好ましい。上記シランカップリング剤は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0046】
式(2-2)で示される結合単位Aと式(2-3)で示される結合単位Bとを含むシランカップリング剤は、ビス-(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドなどのポリスルフィドシランに比べ、加工中の粘度上昇が抑制される。これは結合単位Aのスルフィド部分がC-S-C結合であるため、テトラスルフィドやジスルフィドに比べ熱的に安定であることから、ムーニー粘度の上昇が少ないためと考えられる。
【0047】
また、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプトシランに比べ、スコーチ時間の短縮が抑制される。これは、結合単位Aはメルカプトシランの構造を持っているが、結合単位Aの-C15部分が結合単位Bの-SH基を覆うため、ポリマーと反応しにくく、スコーチが発生しにくいためと考えられる。
【0048】
上記構造のシランカップリング剤において、結合単位Aの含有量は、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上であり、好ましくは99モル%以下、より好ましくは90モル%以下である。また、結合単位Bの含有量は、シリカとの反応性の観点から、好ましくは1モル%以上、より好ましくは5モル%以上、更に好ましくは10モル%以上であり、好ましくは70モル%以下、より好ましくは65モル%以下、更に好ましくは55モル%以下である。また、結合単位A及びBの合計含有量は、好ましくは95モル%以上、より好ましくは98モル%以上、特に好ましくは100モル%である。
なお、結合単位A、Bの含有量は、結合単位A、Bがシランカップリング剤の末端に位置する場合も含む量である。結合単位A、Bがシランカップリング剤の末端に位置する場合の形態は特に限定されず、結合単位A、Bを示す式(2-2)、(2-3)と対応するユニットを形成していればよい。
【0049】
201のハロゲンとしては、塩素、臭素、フッ素などがあげられる。
【0050】
201の分岐若しくは非分岐の炭素数1~30のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、へキシル基、へプチル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などがあげられる。該アルキル基の炭素数は、好ましくは1~12である。
【0051】
201の分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、1-オクテニル基などがあげられる。該アルケニル基の炭素数は、好ましくは2~12である。
【0052】
201の分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルキニル基としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、へプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基、ウンデシニル基、ドデシニル基などがあげられる。該アルキニル基の炭素数は、好ましくは2~12である。
【0053】
202の分岐若しくは非分岐の炭素数1~30のアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基などがあげられる。該アルキレン基の炭素数は、好ましくは1~12である。
【0054】
202の分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルケニレン基としては、ビニレン基、1-プロペニレン基、2-プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基、1-ペンテニレン基、2-ペンテニレン基、1-ヘキセニレン基、2-ヘキセニレン基、1-オクテニレン基などがあげられる。該アルケニレン基の炭素数は、好ましくは2~12である。
【0055】
202の分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルキニレン基としては、エチニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基、ペンチニレン基、ヘキシニレン基、へプチニレン基、オクチニレン基、ノニニレン基、デシニレン基、ウンデシニレン基、ドデシニレン基などがあげられる。該アルキニレン基の炭素数は、好ましくは2~12である。
【0056】
式(2-2)で示される結合単位Aと式(2-3)で示される結合単位Bとを含むシランカップリング剤において、結合単位Aの繰り返し数(xb)と結合単位Bの繰り返し数(yb)の合計の繰り返し数(xb+yb)は、3~300の範囲が好ましい。この範囲内であると、結合単位Bのメルカプトシランを、結合単位Aの-C15が覆うため、スコーチタイムが短くなることを抑制できるとともに、シリカやゴム成分との良好な反応性を確保することができる。
【0057】
式(2-2)で示される結合単位Aと式(2-3)で示される結合単位Bとを含むシランカップリング剤としては、例えば、Momentive社製のNXT-Z30、NXT-Z45、NXT-Z60などを使用することができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
メルカプト系シランカップリング剤としては、下記式で表される化合物(エボニック社製のSi363)も好適に使用できる。
【化5】
【0059】
(カーボンブラック)
前記ゴム組成物は、カーボンブラックを含有することが好ましい。
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは3質量部以上である。下限以上であると、充分な補強性が得られる傾向がある。また、上記含有量は、好ましくは200質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは15質量部以下、特に好ましくは10質量部以下である。上限以下であると、良好な低燃費性能が得られる傾向がある。
【0060】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、5m/g以上が好ましく、50m/g以上がより好ましい。5m/g以上であると、補強性が向上し、充分な耐摩耗性能が得られる傾向がある。また、上記NSAは、600m/g以下が好ましく、300m/g以下がより好ましく、150m/g以下が更に好ましい。600m/g以下であると、カーボンブラックの良好な分散が得られやすく、前記効果が良好に得られる傾向がある。
なお、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K 6217-2:2001によって求められる。
【0061】
カーボンブラックとしては、SAF、ISAF、HAF、MAF、FEF、SRF、GPF、APF、FF、CF、SCF及びECFのようなファーネスブラック(ファーネスカーボンブラック);アセチレンブラック(アセチレンカーボンブラック);FT及びMTのようなサーマルブラック(サーマルカーボンブラック);EPC、MPC及びCCのようなチャンネルブラック(チャンネルカーボンブラック);グラファイトなどをあげることができる。これらは1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。市販品としては、例えば、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱化学(株)、ライオン(株)、新日化カーボン(株)、コロンビアカーボン社等の製品を使用できる。
【0062】
(テルペン系樹脂)
前記ゴム組成物は、グリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性の性能バランスの観点から、所定の軟化点、α-ピネン単位含有率、β-ピネン単位含有率、リモネン単位含有率を有するテルペン系樹脂を含む。
【0063】
前記テルペン系樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1質量部以上、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは20質量部以上である。また、上記含有量は、100質量部以下、好ましくは70質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは40質量部以下である。上記範囲とすることで、良好なグリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性の性能バランスが得られる傾向がある。
【0064】
前記テルペン系樹脂は、軟化点が70~150℃である。下限は、100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましい。上限は、140℃以下が好ましく、135℃以下がより好ましい。下限以上にすることで、良好な耐摩耗性が得られる傾向があり、下限以下にすることで、良好な加工性が得られる傾向がある。
なお、軟化点は、ASTM D6090(公開日1997年)に準拠して測定する値である。
【0065】
テルペン系樹脂は、数平均分子量(Mn)が500~775であることが好ましい。下限は、580以上がより好ましく、620以上が更に好ましい。上限は、765以下がより好ましく、755以下が更に好ましい。上記範囲とすることで、良好なグリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性の性能バランスが得られる傾向がある。
【0066】
テルペン系樹脂は、z平均分子量(Mz)が1300~1600であることが好ましい。下限は、1310以上がより好ましく、1320以上が更に好ましい。上限は、1570以下がより好ましく、1550以下が更に好ましい。上記範囲とすることで、良好なグリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性の性能バランスが得られる傾向がある。
【0067】
テルペン系樹脂は、重量平均分子量(Mw)が800~1100であることが好ましい。上記範囲とすることで、良好なグリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性の性能バランスが得られる傾向がある。
【0068】
テルペン系樹脂は、分子量分布(Mw/Mn)が1.30~1.70であることが好ましい。上記範囲とすることで、良好なグリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性の性能バランスが得られる傾向がある。
【0069】
なお、Mn、Mw、Mzは、ASTM D5296(公開日2005年)に記載されているゲル浸透/サイズ排除クロマトグラフィー(GPC-SEC)を用いて測定する値である。
【0070】
テルペン系樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が25~90℃であることが好ましい。下限は、35℃以上がより好ましく、38℃以上が更に好ましい。上限は、85℃以下がより好ましく、81℃以下が更に好ましい。上記範囲とすることで、良好なグリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性の性能バランスが得られる傾向がある。
なお、Tgは、TA Instrumentsの示差走査熱量計SC Q2000を用いて、ASTM D 6604(公開日2013年)に従って測定する値である。
【0071】
前記テルペン系樹脂は、リモネン単位含有率(テルペン系樹脂100質量%中のリモネン単位の含有率)が10質量%以下である。好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0質量%以下である。
【0072】
前記テルペン系樹脂は、1種のテルペン(テルペンモノマー)が重合された単独重合体、2種以上のテルペンが共重合された共重合体、1種以上のテルペンと1種以上のテルペン以外の他のモノマーとの共重合体のいずれでもよい。
【0073】
前記テルペン系樹脂を構成するテルペンの基本的な分子式は、(C(nは連結イソプレン単位の数(nは2以上))である。好適なテルペンの例としては、α-ピネン、β-ピネン、δ-3-カレン、β-フェランドレン;α-ピネン、β-ピネン、δ-3-カレン、δ-2-カレン、テルピネンの熱分解物;これらの組み合わせ;等が挙げられる。なかでも、α-ピネン、β-ピネンが好ましく、α-ピネンがより好ましい。
【0074】
前記テルペン系樹脂は、氷雪上性能及び耐摩耗性の性能バランスの観点から、テルペン単位含有率(テルペン系樹脂100質量%中のテルペン単位の含有率)が80質量%以上であることが好ましい。より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。この場合、テルペン系樹脂は、テルペンのみを構成単位とする単独重合体又は共重合体のいずれでもよい。
【0075】
前記テルペン系樹脂は、α-ピネン単位を有する重合体、α-ピネン単位及びβ-ピネン単位を有する重合体を好適に使用できる。具体的に、α-ピネンの単独重合体、α-ピネン単位及びβ-ピネン単位を有する共重合体等が挙げられる。
【0076】
前記テルペン系樹脂において、α-ピネン単位含有率(テルペン系樹脂100質量%中のα-ピネン単位の含有率)は、グリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性の性能バランスの観点から、65~100質量%の範囲内である。好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上で、100質量%でもよい。
【0077】
テルペン系樹脂において、β-ピネン単位含有率(テルペン系樹脂100質量%中のβ-ピネン単位の含有率)は、グリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性の性能バランスの観点から、0~35質量%の範囲内である。好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下、特に好ましくは10質量%以下で、0質量%でもよい。
【0078】
前記テルペン系樹脂において、α-ピネン単位及びβ-ピネン単位の合計含有率(テルペン系樹脂100質量%中のα-ピネン単位及びβ-ピネン単位の合計含有率)は、グリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性の性能バランスの観点から、80質量%以上であることが好ましい。より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。
【0079】
前記テルペン系樹脂は、例えば、ルイス酸触媒を用い、1種又は2種以上のテルペンモノマー等をカチオン重合し、合成できる。
ルイス酸触媒としては特に限定されず、BF、BBr、AlF、AlBr、TiCl、TiBr、TiL、FeCl、FeCl、SnCl、WCl、MoCl、ZrCl、SbCl、SbCl、TeCl及びZnCl等の金属ハライド;EtAl、EtAlCl、EtAlCl、EtAlCl、(i-Bu)Al、(i-Bu)AlCl、(i-Bu)AlCl、MeSn、EtSn、BuSn、BuSnCl等の金属アルキル化合物;Al(OR)3-xCl、Ti(OR)4-yCl(Rはアルキル基又はアリール基を表し、xは1又は2の整数を表し、yは1~3の整数を表す。)等の金属アルコキシ化合物;等が挙げられる。また、(i)AlClと、トリメチルアミン等のアルキル第3級アミンとの組み合わせ;(ii)AlClと、トリアルキルシリコンハロゲン化物、低級ジアルキルフェニルシリコンハロゲン化物、ヘキサアルキルジシロキサン等の有機ケイ素化合物との組み合わせ;(iii)AlClと、塩化トリメチルゲルマニウム、トリエチルゲルマニウムエトキシド等の有機ハロゲン化ゲルマニウムとの組み合わせ;(iv)炭素数1~18の低級アルキル基;等も挙げられる。
【0080】
カチオン重合を溶液重合により実施する場合、使用可能な溶媒としては、テルペンモノマーが重合可能なものであれば特に限定されず、例えば、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素等が使用可能である。具体的には、ハロゲン化炭化水素系溶媒(塩化メチレン、クロロホルム、1,1-ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、n-プロピルクロライド、1-クロロ-n-ブタン、2-クロロ-n-ブタン等);芳香族炭化水素系溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレン、アニソール、ナフサ等);脂肪族炭化水素系溶媒(ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等)が挙げられる。重合反応は、例えば、-120~100℃、-80~80℃、5~50℃等の温度範囲で実施できる。
【0081】
(液体可塑剤)
前記ゴム組成物は、加工性、グリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性の性能バランスの観点から、液体可塑剤を含むことが好ましい。液体可塑剤は、常温(25℃)で液体状態の可塑剤である。
【0082】
液体可塑剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは20質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは60質量部以下、更に好ましくは40質量部以下である。上記範囲とすることで、良好なグリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性の性能バランスが得られる傾向がある。なお、後述の極性可塑剤(液体状)の含有量も同様であることが好適である。
【0083】
液体可塑剤は、ガラス転移温度(Tg)が-60℃以下であることが好ましい。より好ましくは-80℃以下、更に好ましくは-90℃以下である。下限は特に限定されないが、-200℃以上が好ましく、-150℃以上がより好ましい。上記範囲とすることで、良好なグリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性の性能バランスが得られる傾向がある。なお、後述の極性可塑剤(液体状)のTgも同様であることが好適である。
なお、Tgは、前述のテルペン系樹脂と同様の方法で測定できる。
【0084】
液体可塑剤としては、オイル、液状ジエン系ポリマー、極性可塑剤(エステル系可塑剤等)等が挙げられる。なかでも、グリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性の性能バランスの観点から、エステル系可塑剤(脂肪酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤(ホスフェート系可塑剤)等)の極性可塑剤が好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0085】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油、又はその混合物が挙げられる。プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどを用いることができる。植物油としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油等が挙げられる。市販品としては、出光興産(株)、三共油化工業(株)、(株)ジャパンエナジー、オリソイ社、H&R社、豊国製油(株)、昭和シェル石油(株)、富士興産(株)、日清オイリオグループ(株)等の製品を使用できる。
【0086】
液状ジエン系ポリマーとしては、25℃で液体状態の液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ブタジエン重合体(液状BR)、液状イソプレン重合体(液状IR)、液状スチレンイソプレン共重合体(液状SIR)、液状スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(液状SBSブロックポリマー)、液状スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(液状SISブロックポリマー)、液状ファルネセン重合体、液状ファルネセンブタジエン共重合体等が挙げられる。これらは、末端や主鎖が極性基で変性されていても構わない。
【0087】
エステル系可塑剤としては、前記植物油;グリセリン脂肪酸モノエステル、グリセリン脂肪酸ジエステル、グリセリン脂肪酸トリエステル等の合成品や植物油の加工品;リン酸エステル(ホスフェート系、これらの混合物等);が挙げられる。
【0088】
エステル系可塑剤として、例えば、下記式で示される脂肪酸エステルを好適に使用できる。
【化6】
(式中、R11は、炭素数1~8の直鎖若しくは分枝状アルキル基、炭素数1~8の直鎖若しくは分枝状アルケニル基、又は1~5個のヒドロキシル基で置換された炭素数2~6の直鎖又は分枝状アルキル基を表す。R12は、炭素数11~21のアルキル基又はアルケニル基を表す。)
【0089】
11としては、メチル基、エチル基、2-エチルヘキシル基、イソプロピル基、オクチル基、これらの基が1~5個のヒドロキシル基で置換された基、等が挙げられる。R12としては、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、オレイル基等の直鎖又は分岐状アルキル基、アルケニル基が挙げられる。
【0090】
脂肪酸エステルとしては、オレイン酸アルキル、ステアリン酸アルキル、リノール酸アルキル、パルミチン酸アルキル等が挙げられる。なかでも、オレイン酸アルキル(オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸2-エチルヘキシル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸オクチル等)が好ましい。この場合、脂肪酸エステル100質量%中のオレイン酸アルキルの含有量は、80質量%以上が好ましい。
【0091】
脂肪酸エステルとしては、脂肪酸(オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、パルミチン酸等)と、アルコール(エチレングリコール、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、エリトリトール、キシリトール、ソルビトール、ズルシトール、マンニトール、イノシトール等)との脂肪酸モノエステル及び脂肪酸ジエステル等も挙げられる。なかでも、オレイン酸モノエステルが好ましい。この場合、脂肪酸モノエステル及び脂肪酸ジエステルの合計量100質量%中のオレイン酸モノエステルの含有量は、80質量%以上が好ましい。
【0092】
エステル系可塑剤として、リン酸エステルも好適に使用できる。
リン酸エステルは、炭素数が12~30の化合物であることが好ましく、なかでも、炭素数12~30のリン酸トリアルキルが好適である。なお、リン酸トリアルキルの炭素原子数は、3つのアルキル基の炭素原子の総数を意味し、当該3つのアルキル基は、同一の基でも、異なる基でもよい。アルキル基は、例えば、直鎖又は分岐状アルキル基が挙げられ、酸素原子などのヘテロ原子を含むものでも、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子で置換されたものでもよい。
【0093】
リン酸エステルとしては、リン酸と、炭素数1~12のモノアルコール又はその(ポリ)オキシアルキレン付加物とのモノ、ジ又はトリエステル;前記リン酸トリアルキルのアルキル基の1又は2個がフェニル基に置換された化合物;等、公知のリン酸エステル系可塑剤も挙げられる。具体的には、トリス(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート、トリス(2-ブトキシエチル)ホスフェート等が挙げられる。
【0094】
(他の材料)
前記ゴム組成物は、前記テルペン系樹脂以外の固体レジン(常温(25℃)で固体状態のレジン)を含んでもよい。固体レジンとしては、例えば、芳香族ビニル重合体、クマロンインデン樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂、フェノール樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、アクリル系樹脂などが挙げられる。他の固体レジンを含む場合、前記テルペン系樹脂及び該テルペン系樹脂以外の固体レジン(他のレジン)の合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1~100質量部が好ましく、10~70質量部がより好ましい。
【0095】
前記ゴム組成物は、老化防止剤を含有することが好ましい。
老化防止剤としては、例えば、フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン系老化防止剤;オクチル化ジフェニルアミン、4,4′-ビス(α,α′-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤;N-イソプロピル-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N′-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン等のp-フェニレンジアミン系老化防止剤;2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物等のキノリン系老化防止剤;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のモノフェノール系老化防止剤;テトラキス-[メチレン-3-(3′,5′-ジ-t-ブチル-4′-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のビス、トリス、ポリフェノール系老化防止剤などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、p-フェニレンジアミン系老化防止剤が好ましい。
【0096】
老化防止剤としては、例えば、精工化学(株)、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)、フレクシス社等の製品を使用できる。
【0097】
老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である
【0098】
前記ゴム組成物は、ステアリン酸を含有することが好ましい。
ステアリン酸としては、従来公知のものを使用でき、例えば、日油(株)、NOF社、花王(株)、和光純薬工業(株)、千葉脂肪酸(株)等の製品を使用できる。
【0099】
ステアリン酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。
【0100】
前記ゴム組成物は、ワックスを含有することが好ましい。
ワックスとしては、特に限定されず、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;植物系ワックス、動物系ワックス等の天然系ワックス;エチレン、プロピレン等の重合物等の合成ワックスなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、石油系ワックスが好ましく、パラフィンワックスがより好ましい。
【0101】
ワックスとしては、例えば、大内新興化学工業(株)、日本精蝋(株)、精工化学(株)等の製品を使用できる。
【0102】
ワックスの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.3~20質量部、より好ましくは0.5~10質量部である。
【0103】
前記ゴム組成物は、酸化亜鉛を含有することが好ましい。
酸化亜鉛としては、従来公知のものを使用でき、例えば、三井金属鉱業(株)、東邦亜鉛(株)、ハクスイテック(株)、正同化学工業(株)、堺化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0104】
酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。
【0105】
前記ゴム組成物は、硫黄を含むことが好ましい。
硫黄としては、ゴム工業において一般的に用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0106】
硫黄としては、例えば、鶴見化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社、日本乾溜工業(株)、細井化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0107】
硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.8質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは3.0質量部以下、より好ましくは2.5質量部以下である。
【0108】
前記ゴム組成物は、加硫促進剤を含有することが好ましい。
加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT-N)等のチウラム系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N′-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤が好ましい。
【0109】
加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下である。
【0110】
前記ゴム組成物には、前記成分の他、タイヤ工業において一般的に用いられている添加剤を配合することができ、有機過酸化物;炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、クレー、水酸化アルミニウム、マイカなどの充填剤;等を例示できる。
【0111】
上記ゴム組成物は、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサー等のゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
【0112】
混練条件としては、加硫剤及び加硫促進剤以外の添加剤を混練するベース練り工程では、混練温度は、通常100~180℃、好ましくは120~170℃である。加硫剤、加硫促進剤を混練する仕上げ練り工程では、混練温度は、通常120℃以下、好ましくは85~110℃である。また、加硫剤、加硫促進剤を混練した組成物は、通常、プレス加硫等の加硫処理が施される。加硫温度としては、通常140~190℃、好ましくは150~185℃である。
【0113】
前記ゴム組成物は、タイヤの各部材に用いることができ、キャップトレッド(特にサマータイヤのキャップトレッド)に好適に使用できる。
【0114】
(空気入りタイヤ)
本発明の空気入りタイヤは、前記ゴム組成物を用いて作製したキャップトレッドを有するサマータイヤ(特に乗用車用サマータイヤ)として好適に使用できる。なかでも、グリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性の性能バランスの観点から、前記ゴム組成物を用いて作製したキャップトレッド及びベーストレッドを有する多層トレッド(2層トレッド等)を持つ空気入りタイヤに好適である。
【0115】
前記空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。
すなわち、上記ゴム組成物を、未加硫の段階でキャップトレッドの形状にあわせて押出し加工し、ベーストレッド等の他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを得る。
【0116】
上記空気入りタイヤにおいて、ベーストレッドに使用されるゴム組成物は、SBRを含有することが好ましい。SBRとしては特に限定されず、上述のキャップトレッドに好適なゴム組成物と同様のものを使用可能である。
【0117】
SBRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、低燃費性等の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、また、低燃費性及び機械的強度の観点から、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。
【0118】
上記空気入りタイヤにおいて、ベーストレッドに使用されるゴム組成物は、イソプレン系ゴムを含有することが好ましい。イソプレン系ゴムとしては特に限定されず、上述のキャップトレッドで述べたものと同様のものを使用可能である。
【0119】
イソプレン系ゴムを含有する場合、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、上限は特に限定されない。上記範囲内であると、良好な機械的強度が得られる。
【0120】
上記タイヤにおいて、ベーストレッドに使用されるゴム組成物は、BRを含有することが好ましい。BRとしては特に限定されず、上述のキャップトレッドに好適なゴム組成物と同様のものを使用可能である。
【0121】
BRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、また、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。上記範囲内であると、良好な耐亀裂成長性が得られる。
【0122】
上記空気入りタイヤにおいて、ベーストレッドに使用されるゴム組成物は、上記以外に、カーボンブラック、シリカ、ワックス、ステアリン酸、老化防止剤、酸化亜鉛、硫黄、加硫促進剤等、通常のタイヤ用ゴム組成物に使用される薬品を適宜配合してもよい。
【実施例
【0123】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0124】
以下に、実施例及び比較例で用いた各種薬品について説明する。
SBR:末端にアルコキシシリル基を有する変性S-SBR(スチレンユニット:20質量%、ブタジエンユニット100質量%中のビニルブタジエンユニット:10質量%、ブタジエンユニット100質量%中のシスブタジエンユニット:60質量%、Mw:90万)
BR:宇部興産製のBR150B(シス96質量%、ビニル2質量%)
NR:RSS#3
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックSA(NSA:137m/g)
シリカ:ローティア社製ZEOSIL P200MP(NSA215m/g)
シランカップリング剤:モメンティブ社製のNXT-Z45(結合単位A及び結合単位Bの共重合体(結合単位A:55モル%、結合単位B:45モル%))
テルペン系樹脂1:α-ピネンホモポリマー(軟化点130℃、Mn742g/mol、Mz1538g/mol、Mw1055g/mol、Mw/Mn1.42、Tg81℃、リモネン単位含有率0質量%)
テルペン系樹脂2:ピネンポリマー(α-ピネン90質量%、β-ピネン10質量%、軟化点130℃、Mn657g/mol、Mz1332g/mol、Mw917g/mol、Mw/Mn1.40、Tg80℃、リモネン単位含有率0質量%)
テルペン系樹脂3:ピネンポリマー(α-ピネン20質量%、β-ピネン80質量%、軟化点130℃、Mn790g/mol、Mz1891g/mol、Mw1101g/mol、Mw/Mn1.57、Tg78℃、リモネン単位含有率0質量%))
樹脂4:α-メチルスチレン樹脂(クレイトンポリマー製Sylvares SA120 軟化点120℃)
ワックス:日本精鑞(株)製のオゾエースワックス
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C
液体可塑剤1:日清オイリオグループ(株)製のひまわり油(グリセロール脂肪酸トリエステル、Tg-60℃、オレイン酸の含有量:55質量%、ヨウ素価:80)
液体可塑剤2:グリセリン脂肪酸モノエステル(H&R社製Pionier TP130B、高オレイン酸ヒマワリ油のモノエステル、Tg-110℃)
液体可塑剤3:Tris(2-ethylhexyl)phosphate(ホスフィン系可塑剤、ランクセス社製Disflmoll TOF、Tg-105℃)
ステアリン酸:日油(株)製の桐
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS
【0125】
<実施例及び比較例>
表1に示す配合処方に従い、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で3分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、50℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を170℃で12分間、0.5mm厚の金型でプレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
また、得られた各未加硫ゴム組成物をそれぞれキャップトレッドの形状に成型し、ベーストレッド等の他のタイヤ部材とともに貼り合わせて170℃で15分間加硫することにより、試験用タイヤ(タイヤサイズ:195/65R15)を製造した(トレッド:キャップトレッド及びベーストレッドからなる2層トレッド)。
【0126】
得られた加硫ゴムシート(加硫ゴム組成物)、試験用タイヤを下記により評価し、結果を表1に示した。
【0127】
<粘弾性試験:転がり抵抗>
シート状の加硫ゴム組成物から幅1mm又は2mm、長さ40mmの短冊状試験片を打ち抜き、試験に供した。(株)上島製作所製スペクトロメーターを用いて、動的歪振幅1%、周波数10Hz、温度50℃でtanδを測定し、下記計算式により、各配合のtanδを指数表示した。指数が大きいほど、転がり抵抗が低く、低燃費性に優れることを示す。
(転がり抵抗指数)=(比較例1のtanδ)/(各配合のtanδ)×100
【0128】
<耐摩耗性>
試験用タイヤを国産FF2000cc車に装着し、速度100~150km/時での走行距離5000km後のタイヤトレッド部の溝深さを測定した。タイヤ溝深さが1mm減るときの走行距離を算出し、下記式により指数化した。指数が大きいほど、耐摩耗性が良好である。
(耐摩耗性指数)=(1mm溝深さが減るときの走行距離)/(比較例1のタイヤ溝が1mm減るときの走行距離)×100
【0129】
<高速グリップ性能>
試験用タイヤを国産2000ccのFF車に装着し、北海道旭川テストコースにて、乾燥した25℃の路面にて実車走行し、時速160km/hでロックブレーキを踏み、停止するまでに要した停止距離を測定した。比較例1を100として、下記式により指数表示した。指数が大きいほど、高速での制動性能が良好であることを示す。
(高速グリップ性能指数)=(比較例1の停止距離)/(各配合の停止距離)×100
【0130】
<ウェットグリップ性能>
湿潤路面で走行した以外は、高速グリップ性能の評価方法と同条件で試験をし、下記式により指数表示した。指数が大きいほど、ウェットグリップ性能が良好であることを示す。
(ウェットグリップ性能指数)=(比較例1の停止距離)/(各配合の停止距離)×100
【0131】
【表1】
【0132】
表1より、所定のゴム成分に所定の軟化点、α-ピネン単位含有率、β-ピネン単位含有率、リモネン単位含有率を有するテルペン系樹脂を所定配合で添加した実施例では、グリップ性能(ウェットグリップ性能、高速グリップ性能)、低燃費性(転がり抵抗)、耐摩耗性の性能バランスが顕著に改善された。