(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】二次電池パラメータ推定装置、二次電池パラメータ推定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/367 20190101AFI20221129BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20221129BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20221129BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
G01R31/367
G01R31/389
H02J7/00 Q
H02J7/00 P
H01M10/48 P
(21)【出願番号】P 2018105346
(22)【出願日】2018-05-31
【審査請求日】2020-12-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】武智 裕章
(72)【発明者】
【氏名】片岡 智美
【審査官】越川 康弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-072677(JP,A)
【文献】特開2017-203659(JP,A)
【文献】特開2017-161490(JP,A)
【文献】特開2017-096851(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129260(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/129248(WO,A1)
【文献】特開2005-269760(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107248597(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103698713(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
H02J 7/00
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の電圧を取得する電圧取得部と、
前記二次電池の
充放電電流を取得する電流取得部と、
前記電圧取得部が取得した電圧及び前記電流取得部が取得した
充放電電流に基づいて、前記二次電池の等価回路モデルにおける該二次電池の内部抵抗を除いた拡散抵抗部分に関するパラメータを推定する推定部と、
該電流取得部で取得した
充放電電流に基づいて前記二次電池の充放電の切替えの有無を判定する切替判定部と、
前記二次電池のインピーダンススペクトルにて、所定のイオンの拡散過程に起因する拡散インピーダンスが前記二次電池のインピーダンスに寄与する境界周波数域に基づいて待機時間を特定する特定部と、
前記切替判定部で充放電の切替え有りと判定した場合、前記特定部で特定した待機時間後に前記電圧取得部で取得した電圧及び前記電流取得部で取得した
充放電電流に基づいて前記二次電池の内部抵抗を算出する抵抗算出部と
を備え、
前記推定部は、
前記等価回路モデルにおいて、前記電圧取得部が取得した電圧と前記電流取得部が取得した
充放電電流との間に成立する、前記パラメータを含む
以下の近似式
uL(k)=b0・i(k)+b1・i(k-1)-a1・uL(k-1)
+(1+a1)・OCV
b0=Ra
b1=TsRa/(RbCb)+Ts/Cb-Ra
a1=Ts/(RbCb)-1
但し、
uL:前記電圧取得部が取得した電圧
i:前記電流取得部が取得した充放電電流
Ts:取得する周期
k:取得時点を示す整数
OCV:前記二次電池の開放電圧
Ra:前記二次電池の内部抵抗
Rb:前記二次電池の拡散抵抗
Cb:前記二次電池の電気二重層容量
b0:前記抵抗算出部が算出した前記二次電池の内部抵抗
において、前記近似式を構成する係数
b1及び係数a1を同定する同定部と、
前記近似式から前記パラメータの値を逆算する
以下の式
Ra=b0
Rb=(b1-a1b0)/(1+a1)
Cb=Ts/(b1-a1b0)
に前記係数
b1及び前記係数a1を代入した式を用いて前記パラメータ
Rb及びCbの値を推定するパラメータ推定部とを備え、
前記同定部が
、前記近似式に対する逐次最小二乗法により前記近似式を構成する前記係数
b1及び前記係数a1を同定することによって、前記パラメータ推定部によ
り推定される前記パラメータの数をa1、b1、Rb及びCbの4個からRb及びCbの2個に減少させることにより前記パラメータ
Rb及びCbの値の推定精度を高くする、二次電池パラメータ推定装置。
【請求項2】
取得した前記二次電池の初期充電率、該初期充電率を取得した以降の充放電電流及び前記二次電池の満充電容量に基づいて、前記二次電池の充電率を算出する充電率算出部と、
前記充電率算出部が算出した充電率に基づき前記二次電池の開放電圧を導出する開放電圧導出部を備え、
前記推定部は、前記開放電圧導出部が導出した開放電圧、前記電圧取得部が取得した電圧及び前記電流取得部が取得した
充放電電流に基づいて、前記拡散抵抗部分に関するパラメータを推定する
請求項1に記載の二次電池パラメータ推定装置。
【請求項3】
前記推定部は、所定の周期にて前記拡散抵抗部分に関するパラメータを推定し、
前記抵抗算出部は、前記推定部によるパラメータの推定に並行して、前記内部抵抗を算出する
請求項1又は請求項2に記載の二次電池パラメータ推定装置。
【請求項4】
前記等価回路モデルは、抵抗及びコンデンサの組合せによって表される
請求項1から請求項
3のいずれか
1項に記載の二次電池パラメータ推定装置。
【請求項5】
二次電池の電圧及び
充放電電流を取得し、
取得した前記電圧及び
充放電電流に基づいて、前記二次電池の等価回路モデルにおける該二次電池の内部抵抗を除いた拡散抵抗部分に関するパラメータを推定し、
取得した前記
充放電電流に基づいて前記二次電池の充放電の切替えの有無を判定し、
前記二次電池のインピーダンススペクトルにて、所定のイオンの拡散過程に起因する拡散インピーダンスが前記二次電池のインピーダンスに寄与する境界周波数域に基づいて待機時間を特定し、
充放電の切替え有りと判定した場合、特定した前記待機時間後に取得した電圧及び
充放電電流に基づいて前記二次電池の内部抵抗を算出する
二次電池パラメータ推定方法であって、
前記パラメータの推定において、
前記等価回路モデルにおいて、取得された前記電圧及び取得された前記
充放電電流の間に成立する前記パラメータを含む
以下の近似式
uL(k)=b0・i(k)+b1・i(k-1)-a1・uL(k-1)
+(1+a1)・OCV
b0=Ra
b1=TsRa/(RbCb)+Ts/Cb-Ra
a1=Ts/(RbCb)-1 但し、
uL:前記電圧取得部が取得した電圧
i:前記電流取得部が取得した充放電電流
Ts:取得する周期
k:取得時点を示す整数
OCV:前記二次電池の開放電圧
Ra:前記二次電池の内部抵抗
Rb:前記二次電池の拡散抵抗
Cb:前記二次電池の電気二重層容量
b0:前記抵抗算出部が算出した前記二次電池の内部抵抗
において、前記近似式を構成する係数
b1及び係数a1を同定し、
前記近似式から前記パラメータの値を逆算する
以下の式
Ra=b0
Rb=(b1-a1b0)/(1+a1)
Cb=Ts/(b1-a1b0)
に前記係数
b1及び前記係数a1を代入した式を用いて前記パラメータ
Rb及びCbの値を推定する、二次電池パラメータ推定方法であって、
前記近似式に対する逐次最小二乗法により前記近似式を構成する前記係数
b1及び前記係数a1を同定し、前記近似式から前記パラメータの値を逆算する式に前記係数を代入した式を用いて前記パラメータ
Rb及びCbの値を推
定することによって、
推定される前記パラメータの数をa1、b1、Rb及びCbの4個からRb及びCbの2個に減少させることにより前記パラメータ
Rb及びCbの値の推定精度を高くする、二次電池パラメータ推定方法。
【請求項6】
コンピュータに
二次電池の電圧及び
充放電電流を取得し、
取得した前記電圧及び
充放電電流に基づいて、前記二次電池の等価回路モデルにおける該二次電池の内部抵抗を除いた拡散抵抗部分に関するパラメータを推定し、
取得した前記
充放電電流に基づいて前記二次電池の充放電の切替えの有無を判定し、
前記二次電池のインピーダンススペクトルにて、所定のイオンの拡散過程に起因する拡散インピーダンスが前記二次電池のインピーダンスに寄与する境界周波数域に基づいて待機時間を特定し、
充放電の切替え有りと判定した場合、特定した前記待機時間後に取得した電圧及び
充放電電流に基づいて前記二次電池の内部抵抗を算出する
処理を実行させるためのプログラムであって、
前記パラメータの推定において、コンピュータに、
前記等価回路モデルにおいて、取得された前記電圧及び取得された前記
充放電電流の間に成立する前記パラメータを含む
以下の近似式
uL(k)=b0・i(k)+b1・i(k-1)-a1・uL(k-1)
+(1+a1)・OCV
b0=Ra
b1=TsRa/(RbCb)+Ts/Cb-Ra
a1=Ts/(RbCb)-1 但し、
uL:前記電圧取得部が取得した電圧
i:前記電流取得部が取得した充放電電流
Ts:取得する周期
k:取得時点を示す整数
OCV:前記二次電池の開放電圧
Ra:前記二次電池の内部抵抗
Rb:前記二次電池の拡散抵抗
Cb:前記二次電池の電気二重層容量
b0:前記抵抗算出部が算出した前記二次電池の内部抵抗
において、前記近似式を構成する係数
b1及び係数a1を同定し、
前記近似式から前記パラメータの値を逆算する
以下の式
Ra=b0
Rb=(b1-a1b0)/(1+a1)
Cb=Ts/(b1-a1b0)に前記係数
b1及び前記係数a1を代入した式を用いて前記パラメータ
Rb及びCbの値を推定する
処理を実行させるためのプログラムであって、
前記近似式に対する逐次最小二乗法により前記近似式を構成する前記係数
b1及び前記係数a1を同定し、前記近似式から前記パラメータの値を逆算する式に前記係数を代入した式を用いて前記パラメータ
Rb及びCbの値を推定することによって、
推定される前記パラメータの数をa1、b1、Rb及びCbの4個からRb及びCbの2個に減少させることにより前記パラメータ
Rb及びCbの値の推定精度を高くする、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池パラメータ推定装置、二次電池パラメータ推定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、HEV(Hybrid Electric Vehicle:ハイブリッド自動車)及びEV(Electric Vehicle:電気自動車)等の車両が普及しつつある。HEV及びEVは二次電池を搭載している。HEVは、二次電池に蓄えられた電力を用いてモータを駆動することにより車両を駆動、又はエンジンアシストを行う。このため、HEVでは、走行に伴って、二次電池の充電と放電の切替えが頻度に繰り返される。
【0003】
過放電又は過充電を行うと二次電池を劣化させることになるため、二次電池の充電率を把握しながら充放電を制御する必要がある。また、二次電池の劣化を判定するためには、二次電池の内部抵抗を正確に把握する必要がある。二次電池の内部抵抗等のパラメータは車両の運転状態に応じて変化するため、パラメータを所定の周期にて推定する必要がある。また、推定されたパラメータは都度記憶され、車両又は二次電池の制御において使用される。
【0004】
例えば、特許文献1には、二次電池の端子間電圧と充放電電流とを二次電池の等価回路モデルに適用し、二次電池のパラメータであるOCV(Open Circuit Voltage)及び二次電池の内部インピーダンスを同定式により同定する蓄電池劣化診断装置が、記載されている。内部インピーダンスは、二次電池の溶液抵抗と電気二重層の合成抵抗(Ra)、電極内部の拡散現象を表す抵抗(Rb)、電極内部の拡散現象を表すコンデンサ(Cb)により構成される。従って、特許文献1の蓄電池劣化診断装置は、二次電池の等価回路モデルに対応した同定式により4つのパラメータを推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の蓄電池劣化診断装置は、等価回路モデルに対応した同定式により4つのパラメータを所定周期にて同タイミングで推定しているため、推定精度が低くなることが懸念される。
【0007】
本発明の目的は、二次電池のパラメータの推定を行うにあたり、推定精度を高くすることができる二次電池パラメータ推定装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る二次電池パラメータ推定装置は、二次電池の電圧を取得する電圧取得部と、前記二次電池の電流を取得する電流取得部と、前記電圧取得部が取得した電圧及び前記電流取得部が取得した電流に基づいて、前記二次電池の等価回路モデルにおける該二次電池の内部抵抗を除いた拡散抵抗部分に関するパラメータを推定する推定部と、該電流取得部で取得した電流に基づいて前記二次電池の充放電の切替えの有無を判定する切替判定部と、前記二次電池のインピーダンススペクトルにて、所定のイオンの拡散過程に起因する拡散インピーダンスが前記二次電池のインピーダンスに寄与する境界周波数域に基づいて待機時間を特定する特定部と、前記切替判定部で充放電の切替え有りと判定した場合、前記特定部で特定した待機時間後に前記電圧取得部で取得した電圧及び前記電流取得部で取得した電流に基づいて前記二次電池の内部抵抗を算出する抵抗算出部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、二次電池パラメータの推定を行うにあたり推定精度を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態1の二次電池パラメータ推定装置としての電池監視装置を搭載した車両の要部の構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】電池監視装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】二次電池ユニットの充放電切替前後の電流の推移を示す説明図である。
【
図4】二次電池ユニットの開放電圧と充電率との対応(OCV-SOC特性)を示すグラフである。
【
図5】抵抗及びコンデンサの組合せによって表される二次電池ユニットの等価回路モデルを示す説明図である。
【
図6】電池監視装置の制御部による処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図7】二次電池ユニットの電圧及び電流に関する説明図である。
【
図8】従来手法によりパラメータ(Ra,Rb,Cb)を推定した際の真値及び推定値に関する説明図である。
【
図9】実施形態1の手法によりパラメータ(Rb,Cb)を推定した際の真値及び推定値に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列挙して説明する。また、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0012】
(1)本開示の一態様に係る二次電池パラメータ推定装置は、二次電池の電圧を取得する電圧取得部と、前記二次電池の電流を取得する電流取得部と、前記電圧取得部が取得した電圧及び前記電流取得部が取得した電流に基づいて、前記二次電池の等価回路モデルにおける該二次電池の内部抵抗を除いた拡散抵抗部分に関するパラメータを推定する推定部と、該電流取得部で取得した電流に基づいて前記二次電池の充放電の切替えの有無を判定する切替判定部と、前記二次電池のインピーダンススペクトルにて、所定のイオンの拡散過程に起因する拡散インピーダンスが前記二次電池のインピーダンスに寄与する境界周波数域に基づいて待機時間を特定する特定部と、前記切替判定部で充放電の切替え有りと判定した場合、前記特定部で特定した待機時間後に前記電圧取得部で取得した電圧及び前記電流取得部で取得した電流に基づいて前記二次電池の内部抵抗を算出する抵抗算出部とを備える。
【0013】
本態様にあたっては、内部抵抗は境界周波数域に基づいた待機時間後の電圧及び電流に基づいて算出し、推定部は、等価回路モデルにおける内部抵抗を除いた拡散抵抗部分に関するパラメータを推定するため、二次電池パラメータの推定を行うにあたり推定精度を高くすることができる。
【0014】
(2)取得した前記二次電池の初期充電率、該初期充電率を取得した以降の充放電電流及び前記二次電池の満充電容量に基づいて、前記二次電池の充電率を算出する充電率算出部と、前記充電率算出部が算出した充電率に基づき前記二次電池の開放電圧を導出する開放電圧導出部を備え、前記推定部は、前記開放電圧導出部が導出した開放電圧、前記電圧取得部が取得した電圧及び前記電流取得部が取得した電流に基づいて、前記拡散抵抗部分に関するパラメータを推定する構成が好ましい。
【0015】
本態様にあたっては、充電率に基づき開放電圧を導出し、推定部は、導出した開放電圧に基づき等価回路モデルにおける拡散抵抗部分に関するパラメータを推定するため、二次電池パラメータの推定を行うにあたり推定精度を高くすることができる。
【0016】
(3)前記推定部は、所定の周期にて前記拡散抵抗部分に関するパラメータを推定し、前記抵抗算出部は、前記推定部によるパラメータの推定に並行して、前記内部抵抗を算出する構成が好ましい。
【0017】
本態様にあたっては、拡散抵抗部分に関するパラメータの推定と、内部抵抗の算出を並行して行うため、推定精度を高くすることができる。
【0018】
(4)前記推定部は、逐次最小二乗法により前記拡散抵抗部分に関するパラメータを推定する構成が好ましい。
【0019】
本態様にあたっては、二次電池の電圧及び充放電電流の関係を表す関係式に対し、時系列的に取得した電圧及び充放電電流を逐次適用して最小二乗法を用いることにより、上記関係式の係数を決定し、決定した係数に基づいてパラメータを推定する。これにより、二次電池のパラメータを時系列的に推定することができる。
【0020】
(5)前記推定部は、カルマンフィルタを用いて前記拡散抵抗部分に関するパラメータを推定する構成が好ましい。
【0021】
本態様にあたっては、二次電池の等価回路モデルの状態ベクトルと、二次電池の観測ベクトルとを時系列的に比較して等価回路モデルを逐次修正することにより、等価回路モデルのパラメータを時系列的に推定することができる。
【0022】
(6)前記等価回路モデルは、抵抗及びコンデンサの組合せによって表される構成が好ましい。
【0023】
本態様にあたっては、二次電池の等価回路モデルは抵抗及びコンデンサの組み合わせによって表されるものであり、効率的にパラメータを推定することができる。
【0024】
(7)本開示の一態様に係る二次電池パラメータ推定方法は、二次電池の電圧及び電流を取得し、取得した前記電圧及び電流に基づいて、前記二次電池の等価回路モデルにおける該二次電池の内部抵抗を除いた拡散抵抗部分に関するパラメータを推定し、取得した前記電流に基づいて前記二次電池の充放電の切替えの有無を判定し、前記二次電池のインピーダンススペクトルにて、所定のイオンの拡散過程に起因する拡散インピーダンスが前記二次電池のインピーダンスに寄与する境界周波数域に基づいて待機時間を特定し、充放電の切替え有りと判定した場合、特定した前記待機時間後に取得した電圧及び電流に基づいて前記二次電池の内部抵抗を算出する。
【0025】
本態様にあたっては、推定精度を高くすることができる二次電池パラメータの推定方法を提供する。
【0026】
(8)本開示の一態様に係るプログラムは、コンピュータに二次電池の電圧及び電流を取得し、取得した前記電圧及び電流に基づいて、前記二次電池の等価回路モデルにおける該二次電池の内部抵抗を除いた拡散抵抗部分に関するパラメータを推定し、取得した前記電流に基づいて前記二次電池の充放電の切替えの有無を判定し、前記二次電池のインピーダンススペクトルにて、所定のイオンの拡散過程に起因する拡散インピーダンスが前記二次電池のインピーダンスに寄与する境界周波数域に基づいて待機時間を特定し、充放電の切替え有りと判定した場合、特定した前記待機時間後に取得した電圧及び電流に基づいて前記二次電池の内部抵抗を算出する処理を実行させる。
【0027】
本態様にあたっては、コンピュータを二次電池パラメータ推定装置として機能させることができる。
【0028】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本実施形態に係る二次電池パラメータ推定装置を、二次電池ユニット50の状態を監視する電池監視装置100に適用した具体例について詳述する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、実施形態で記載されている技術的特徴は、お互いに組み合わせることが可能である。
【0029】
(実施形態1)
図1は、実施形態1の二次電池パラメータ推定装置としての電池監視装置100を搭載した車両1の要部の構成の一例を示すブロック図である。車両1は、電池監視装置100、二次電池ユニット50、リレー11、12、インバータ13、モータ14、DC/DCコンバータ15、電池16、電気負荷17、始動スイッチ18及び充電器19を備える。
【0030】
二次電池ユニット(二次電池)50は、例えば、リチウムイオン電池であり、複数のセル(単位電池)51が直列又は直並列に接続されている。二次電池ユニット50には、電圧センサ52、電流センサ53、温度センサ54が設けられている。
【0031】
電圧センサ52は、各セル51の電圧、二次電池ユニット50の両端の電圧を検出し、電圧検出線50aを介して検出した電圧を電池監視装置100へ出力する。電流センサ53は、例えば、シャント抵抗又はホールセンサ等で構成され、二次電池ユニット50の充電電流及び放電電流(充放電電流)を検出する。電流センサ53は、電流検出線50bを介して検出した電流を電池監視装置100へ出力する。温度センサ54は、例えば、サーミスタで構成され、セル51の温度を検出する。温度センサ54は、温度検出線50cを介して検出した温度を電池監視装置100へ出力する。
【0032】
リレー11、12は、不図示のリレー制御部により、オン・オフの制御が行われる。インバータ13は、不図示の車両コントローラからの指令によりモータ14への通電制御を行う。充電器19は、車両1の停止時に車外の電源から電力の供給を受けて、二次電池ユニット50を充電する。
【0033】
電池16は、例えば、鉛電池であり、車両1の電気負荷17への電力供給を行うとともに、リレー11がオンした場合には、DC/DCコンバータ15を介して、二次電池ユニット50により充電される。なお、電池16は、鉛電池に限定されない。
【0034】
始動スイッチ18は、二次電池ユニット50の充放電動作に係るスイッチであり、オン・オフを示す信号は電池監視装置100へ出力される。例えば、始動スイッチ18がオフからオンになった場合、電池監視装置100が動作していないときは、電池監視装置100は起動する。
【0035】
図2は、電池監視装置100の機能構成の一例を示すブロック図である。電池監視装置100は、自装置全体を制御する制御部110、電圧取得部111、電流取得部112、温度取得部113、内部パラメータ推定部114、電流積算部115、切替判定部116、待機時間特定部117、抵抗算出部118、充電率算出部119、開放電圧導出部120、タイマ121及び記憶部122を含む。
【0036】
制御部110は、CPU(Central Processing Unit)を含み、時間を計時するタイマ121と、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically EPROM:登録商標)等の不揮発性メモリ、及びDRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)等の書き換え可能なメモリを用いた記憶部122とが接続されている。制御部110は、記憶部122に記憶されているプログラム122P及びデータを読み出して実行することにより、種々の制御処理及び演算処理等を行う。
図2に示すごとく記憶部122に記憶されたプログラム122Pは、電池監視装置100が読み取り可能な記録媒体123から読み出されたプログラム122Pを記憶したものであってもよい。又は、プログラム122Pは、電池監視装置100と通信可能に接続された外部サーバ(図示せず)から取得し、記憶したものであってもよい。電圧取得部111、電流取得部112、温度取得部113、内部パラメータ推定部114、電流積算部115、切替判定部116、待機時間特定部117、抵抗算出部118、充電率算出部119及び開放電圧導出部120は、制御部110がハードウェアを用いて実行するソフトウェア処理によって実現される機能部である。又は、これらの機能の一部又は全部が、マイクロコンピュータを含む集積回路によって実現されてもよい。
【0037】
電圧取得部111は、複数のセル51それぞれの電圧、及び二次電池ユニット50の電圧を時系列的に取得する。また、電流取得部112は、二次電池ユニット50の電流(充電電流及び放電電流)を時系列的に取得する。なお、電圧、電流を取得するサンプリング周期は、制御部110が制御することができる。サンプリング周期は、例えば、10msとすることができるが、これに限定されるものではない。温度取得部113は、セル51の温度を取得する。
【0038】
内部パラメータ推定部114は、後述する二次電池ユニット50の等価回路モデル(
図5参照)に含まれる拡散抵抗部分に関する内部パラメータである抵抗(Rb)及びコンデンサ(Cb)の値(以降、内部パラメータ)を推定する。これらの内部パラメータは、二次電池ユニット50の充電率(SOC:State Of Charge)、温度、劣化度等によって変化するものであり、二次電池ユニット50の電圧及び充放電電流を時系列的に取得することによって逐次推定することができる。内部パラメータ推定部114で推定されたパラメータは、記憶部122に記憶される。詳細は、等価回路モデルの説明において記す。
【0039】
電流積算部115は、電流取得部112で取得した充放電電流を積算する。電流の積算値は、電流を時間で積分したものであり、充電量の変化分に相当する。積算を開始するタイミングは、二次電池ユニット50又は電池監視装置100自体の起動タイミングであり、電流積算部115は、継続的に積算値を算出する。なお所定のタイミングで積算値をリセットするようにしてもよい。
【0040】
切替判定部116は、電流取得部112で取得した電流に基づいて二次電池ユニット50の充放電の切替えの有無を判定する。例えば、充電の場合の電流取得部112で取得した電流を正と定めると、充電と放電とでは、電流の方向が反対であるので、電流取得部112で取得した電流が負の場合には、放電であると判定することができる。すなわち、充電又は放電の一方を正と定めておき、電流が正から負又は0になった場合、電流が0から正又は負になった場合、あるいは電流が負から正又は0になった場合、充放電の切替えが有ったと判定することができる。
【0041】
待機時間特定部117は、特定部としての機能を有し、二次電池ユニット50のインピーダンススペクトルにて、所定のイオンの拡散過程に起因する拡散インピーダンスが二次電池ユニット50のインピーダンスに寄与する境界周波数域に基づいて待機時間を特定する。インピーダンススペクトルは、コールコール(Cole-Cole)プロット又はナイキストプロットとも称し、交流インピーダンス法を用いて二次電池ユニット50のインピーダンスを複数の周波数で測定した値をプロットしたものである。また、所定のイオンは、リチウム(Li)イオンである。境界周波数域とは、周波数に所要の幅を持たせることを意味するものであり、一点の周波数に限定されないことを意味する。
【0042】
二次電池ユニット50は、電解液バルクの抵抗、界面電荷移動抵抗、電気二重層容量(キャパシタンス)、拡散抵抗(拡散インピーダンス)で構成される等価回路モデルで表すことができる。電解液バルクの抵抗は、電解液中でのリチウム(Li)イオンの伝導抵抗、正極及び負極での電子抵抗などを含む。界面電荷移動抵抗は、活物質表面における電荷移動抵抗及び被膜抵抗などを含む。拡散インピーダンスは、活物質粒子内部へのリチウム(Li)イオンの拡散過程に起因するインピーダンスである。二次電池ユニット50の内部抵抗は、充放電が頻繁に切替わるような使い方の場合、電解液バルクの抵抗及び界面電荷移動抵抗が主要部分を占める。交流インピーダンス法での周波数を高周波数から低周波数へ変化させた場合、ある周波数域(境界周波数域と称する)で、拡散インピーダンスが増加し、二次電池ユニット50のインピーダンスが増加する(二次電池のインピーダンスに寄与する)。そこで、拡散インピーダンスが増加する前の境界周波数域でのインピーダンスが二次電池ユニット50の内部抵抗を表すということができる。
【0043】
交流インピーダンス法での周波数fと、直流を通電してから測定するまでの待機時間Tとの間には、T=1/(2×f)という関係、すなわち待機時間Tは、例えば、周波数fの2倍の逆数という関係から特定することができる。例えば、周波数fが5Hzの場合、待機時間Tは0.1秒となる。なお、待機時間Tを周波数fの2倍の逆数とするのは一例であって、例えば、待機時間Tを周波数fの4倍の逆数としてもよい。
【0044】
待機時間特定部117は、後述する充電率(SOC)に基づいて待機時間を特定してもよい。充電率が小さいほど、境界周波数は小さくなり、境界周波数域での周波数fに逆比例する待機時間Tは大きくなる。待機時間特定部117は、温度取得部113が取得した温度に基づいて待機時間Tを特定してもよい。二次電池ユニット50の温度が低いほど、境界周波数は小さくなり、境界周波数域での周波数fに逆比例する待機時間Tは大きくなる。また待機時間特定部117は、二次電池ユニット50の劣化に基づいて待機時間Tを特定してもよい。二次電池ユニット50の劣化が進むにつれ、境界周波数は小さくなり、境界周波数域での周波数fに逆比例する待機時間Tは大きくなる。二次電池ユニット50の劣化度(SOH)は、二次電池ユニット50の内部抵抗の初期値R0に対する後述する抵抗算出部118で算出した内部抵抗Rの割合に基づいて算出される。
【0045】
抵抗算出部118は、切替判定部116で充放電の切替え有りと判定した場合、待機時間特定部117で特定した待機時間T後に電圧取得部111で取得した電圧及び電流取得部112で取得した電流に基づいて二次電池ユニット50の内部抵抗を算出する。算出された内部抵抗は、記憶部122に記憶される。
【0046】
図3は、二次電池ユニット50の充放電切替前後の電流(充放電電流)の推移を示す説明図である。
図3の横軸は時間を示し、縦軸は電流を示す。電流が正の値の場合は、充電を示し、電流が負の値の場合は、放電を示す。
【0047】
充電から放電、又は放電から充電に切替わると、二次電池ユニット50の拡散抵抗(拡散インピーダンス)及び電荷移動抵抗は一旦リセットされ、通電時間に応じて拡散抵抗及び電荷移動抵抗が増加し始める。そこで、充放電の切替えありと判定した場合、待機時間T後の時点の電圧Vc、電流Icを取得することにより、二次電池ユニット50の内部抵抗を算出することができる。これにより、充放電の切替え後、短時間(例えば、0.1秒程度)で内部抵抗を求めることができるので、充放電が頻繁に繰り返される場合でも充電又は放電の切替わり後、比較的短時間で二次電池ユニット50の内部抵抗を精度よく算出することができる。
【0048】
抵抗算出部118は、切替判定部116で充放電の切替えありと判定する前に電圧取得部111で取得した時点の電圧Vb及び電流取得部112で取得した電流Ib、並びに待機時間特定部117で特定した待機時間T後に電圧取得部111で取得した電圧Vc及び電流取得部112で取得した電流Icに基づいて二次電池ユニット50の内部抵抗Rを算出する。
【0049】
2点間の電圧、電流から求められる直線の傾きの絶対値が、二次電池ユニット50の内部抵抗を示す。そこで、内部抵抗Rは、R=(Vc-Vb)/(Ic-Ib)で算出することができる。抵抗算出部118は、待機時間特定部117で特定した待機時間T後に電流取得部112で取得した電流が所定の閾値より大きい場合、二次電池ユニット50の内部抵抗を算出してもよい。待機時間Tが経過した後に取得した電流が小さい場合には、内部抵抗を精度よく算出することができないので、電流が所定の閾値より大きい場合という条件を加えることで、内部抵抗の算出精度を上げることができる。
【0050】
図4は、二次電池ユニット50の開放電圧と充電率との対応(OCV-SOC特性)を示すグラフである。横軸は開放電圧(OCV)を示し、縦軸は充電率(SOC)を示す。
図4に示すように、二次電池ユニット50の開放電圧が大きいほど充電率が増加する。なお、
図4に例示する開放電圧と充電率との相関関係は、変換テーブル形式等によって記憶部122に記憶してもよく、あるいは演算回路で演算するようにしてもよい。
【0051】
充電率算出部119は、電流積算部115により算出された積算値と、二次電池ユニット50の満充電容量(FCC:Full Charge Capacity)とに基づいて現時点の充電率SOCoを算出する。充電率は、満充電容量に対する充電量の比率として表される。充電率の初期値をSOCinとした場合、現時点の充電率SOCoは、SOCinが算出されたときから現時点までの間に電流積算部115が算出した積算値を充電率に換算した値を、SOCinに加算して算出される。充電率の初期値となるSOCinが求められていない場合は、始動スイッチ18がオンされた直後に取得した電圧、又は始動スイッチ18がオンされておらず充電も行われていないときに取得した電圧を開放電圧(OCV)としてSOCinを導出すればよい。満充電容量(FCC)は、二次電池ユニット50の電池特性に基づき予め決定された値として記憶部122に記憶されている。
【0052】
電流積算部115及び充電率算出部119によって充電率を逐次算出する方法について説明する。電流積算部115は、電流取得部112で取得した充放電電流を積算することにより、充電量の変化分を算出する。電流取得部112による電流の取得周期をΔt(例えば10ミリ秒)とし、周期的に取得される電流値をIbi(i=1,2,…)とした場合、充電量の変化分はΣIbi×Δt(i=1,2,)で算出される。
【0053】
充電率算出部119は、電圧取得部111で取得した電圧と、OCV-SOC特性を記憶した変換テーブルとに基づいてSOCinを導出し、導出したSOCinを記憶部122に記憶している。充電率算出部119は、電流積算部115が算出した充放電量の変化分を満充電容量FCCで除算することによって充電率の変化分を逐次算出する。出力されるSOCoは、以下の式のとおり、記憶されているSOCinに充電率の変化分を加算することによって算出される。下記式の{}内は、充電率の変化量に相当する。
SOCo=SOCin±{ΣIbi×Δt(i=1,2,…,m)/FCC}
符号±:+(プラス)及び-(マイナス)夫々は充電時及び放電時に対応
数値m:SOCinを求めたときから現時点までの充放電電流の積算回数
【0054】
開放電圧導出部120は、充電率算出部119により算出された充電率SOCoと、
図4に示す二次電池ユニット50の開放電圧と充電率との対応関係(OCV-SOC特性)とによって、二次電池ユニット50の開放電圧(OCV)を導出する。導出された開放電圧は、記憶部122に記憶される。
【0055】
図5は、抵抗及びコンデンサの組合せによって表される二次電池ユニット50の等価回路モデルを示す説明図である。
図5Aは、本実施形態に係る二次電池ユニット50の等価回路モデルである。この等価回路モデルは、開放電圧OCVを起電力とする電圧源に、抵抗Raと、抵抗Rb及びコンデンサCbの並列回路とを直列に接続した回路によって表される。抵抗Raは、電解液バルクの抵抗及び界面電荷移動抵抗の合算値に対応するものであり、二次電池ユニット50の内部抵抗を表す。抵抗Rbは拡散抵抗(拡散インピーダンス)に対応する。コンデンサCbは電気二重層容量に対応する。拡散抵抗部分に関するパラメータは、拡散インピーダンス及び電気二重層容量を含む。
【0056】
二次電池の等価回路モデルは、
図5Aに示すものに限定されない。例えば、
図5Bに示すように、抵抗R0に抵抗Rj及びコンデンサCj(j=1,2,…,n)の並列回路をn個直列接続した、無限級数の和による近似で表されるn次(nは自然数)のフォスタ型RC梯子回路であってもよいし、
図5Cに示すように、一端同士が接続されたn個の抵抗Rj(j=1,2,…,n)夫々の他端が、直列接続されたn個のコンデンサCjの間に接続されたn次のカウエル型RC梯子回路であってもよい。
【0057】
内部パラメータ推定部114にて等価回路モデルのパラメータを推定する方法について説明する。
図5Aに示す等価回路モデルのパラメータについて、以下の近似式(同定式)(1)~(4)が成立することが知られている(詳細については、「バッテリマネジメント工学」足立修一他著、東京電気大学出版、6.2.2章参照)。
【0058】
uL(k)=b0・i(k)+b1・i(k-1)-a1・uL(k-1)
+(1+a1)・OCV・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
b0=Ra・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
b1=TsRa/(RbCb)+Ts/Cb-Ra・・・・・・・・・・・・・・(3)
a1=Ts/(RbCb)-1・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
但し、
uL:取得した電圧
i:取得した充放電電流
Ts:取得する周期
k:取得時点を示す整数
【0059】
上記の式(2)~(4)から、パラメータであるRb及びCbを逆算すると、以下の式(5)~(7)が成立する。
【0060】
Ra=b0・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
Rb=(b1-a1b0)/(1+a1)・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
Cb=Ts/(b1-a1b0)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
【0061】
本実施形態では、開放電圧導出部120が導出した開放電圧OCVを用い、b0を抵抗算出部118が算出した内部抵抗Rとし、時系列で取得した電圧及び充放電電流を代入した式(1)に逐次最小二乗法を適用して係数b1及びa1を同定する。同定した係数(b1及びa1)及び抵抗算出部118が算出した内部抵抗R(b0に相当)を(6)及び(7)に代入して、拡散抵抗Rb及び電気二重層容量Cbを推定する。又は、抵抗算出部118が算出した内部抵抗Rを用いずに、係数b1及びa1を同定するものであってもよい。パラメータの同定は一般的に推定するパラメータの数が増加するにつれて推定する精度が低くなる。これに対し、逐次最小二乗法によって2つのパラメータ(b1及びa1)を同定し、推定するパラメータ(Rb、Cb)を2つとすることができ、パラメータ(Rb、Cb)の推定の精度を高くすることができる。なお、各パラメータを一通り推定する間は、開放電圧OCVが一定であるものとしている。温度取得部113で取得した温度に応じて、推定したパラメータを補正してもよい。
【0062】
拡散抵抗Rb及び電気二重層容量Cbのパラメータは、カルマンフィルタを用いて推定することも可能である。具体的には、二次電池ユニット50に電圧及び充放電電流で表される入力信号を与えた場合の観測ベクトルと、二次電池ユニット50の等価回路モデルに上記と同じ入力信号を与えた場合の状態ベクトルとを比較する。比較結果となるこれらの誤差にカルマンゲインを掛けて等価回路モデルにフィードバックすることにより、両ベクトルの誤差が最小となるように等価回路モデルの修正を繰り返す。これにより、パラメータが推定される。
【0063】
図6は、電池監視装置100の制御部110による処理手順の一例を示すフローチャートである。電池監視装置100は、始動スイッチ18がオンされている場合、又は停車中に充電が行われている場合、通常モードで動作しており、例えば10ms毎に二次電池ユニット50の電圧及び充放電電流を取得すると共に、二次電池ユニット50の温度を適時取得する。一方、始動スイッチ18がオンされていない場合、且つ停車中に充電が行われていない場合、電池監視装置100は低消費電力モードで動作しており、一定時間毎に起動して、通常モードの場合と同様に二次電池ユニット50の電圧、充放電電流及び温度を取得する。電池監視装置100の制御部110は、定常的に又は始動スイッチ18がオンにされた場合等の所定の入力信号に基づき、以下の処理を行う。
【0064】
制御部110は、電圧及び充放電電流の取得を開始する(S01)。制御部110は、電圧センサ52及び電流センサ53が検出し出力した二次電池ユニット50の電圧及び充放電電流を取得する。制御部110は、電圧及び充放電電流の取得を開始した以降、所定周期にて電圧及び充放電電流を時系列的に継続して取得する。すなわち、フローチャートの記載においてS01の処理以降に実行されるS10,S20及びS30等の処理が実行されている最中も、制御部110は、所定周期にて電圧及び充放電電流を時系列的に継続して取得する。制御部110は、時系列的に取得した電圧及び充放電電流を例えば配列形式で記憶部122に記憶する。
【0065】
制御部110は、電圧及び充放電電流の取得を開始した後、拡散抵抗部分に関するパラメータの推定を行う(S10)。制御部110は、時系列的に取得した複数の電圧及び充放電電流に基づいて、例えば
図5Aに示す等価回路に対応する近似式(1)等を用いて逐次最小二乗法又はカルマンフィルタによって拡散抵抗部分に関するパラメータの推定を行う。推定するパラメータは、例えば拡散抵抗(Rb)及び電気二重層容量(Cb)である。
【0066】
制御部110は、推定した拡散抵抗部分に関するパラメータを記憶部122に記憶する。拡散抵抗部分に関するパラメータが前回処理によって既に記憶されている場合、制御部110は、今回推定したパラメータによって、拡散抵抗部分に関するパラメータを更新する。制御部110は、S10の処理を繰り返す(ループ処理)ことにより、車両1の走行状態に応じた拡散抵抗部分に関するパラメータの推定する処理を継続する。
【0067】
制御部110は、電圧及び充放電電流の取得を開始した後、充電率の算出を行う(S20)。制御部110は、例えばサブプロセスを発生させ、S10の処理に並行してS20以下の処理を行う。制御部110は、初期の充電率SOCinを取得し、初期充電率SOCinを取得してから現時点までの充放電電流の積算値に基づき、現時点の充電率SOCoを算出し、算出した充電率SOCoを記憶部122に記憶する。
【0068】
制御部110は、開放電圧を導出する(S21)。制御部110は、
図4に示すような二次電池ユニット50のOCV-SOC特性に基づき、算出した現時点の充電率SOCoに対応する開放電圧を導出する。制御部110は、導出した開放電圧を記憶部122に記憶する。開放電圧が前回処理によって既に記憶されている場合、制御部110は、今回導出した開放電圧によって更新する。制御部110は、再度S20の処理を実行すべくループ処理を行い、車両1の走行状態に応じた開放電圧を導出する処理を継続する。
【0069】
制御部110は、電圧及び充放電電流の取得を開始した後、充放電の切替の有無を判定する(S30)。制御部110は、例えばサブプロセスを発生させ、S10及びS20以下の処理に並行してS30以下の処理を行う。制御部110は、電流センサ53が検出し出力した電流に基づき、二次電池ユニット50の充放電の切替の有無を判定する。充放電の切替の有無は、電流センサ53が検出し出力した電流の正負(電流の向き)に基づき判定することができる。
【0070】
充放電の切替が無い(S30:NO)と判定した場合、制御部110は、再度S30の処理を実行すべくループ処理を行う。
【0071】
充放電の切替が有る(S30:YES)と判定した場合、制御部110は、待機時間を特定し待機する(S31)。制御部110は、交流インピーダンス法での周波数fに基づき、待機時間Tを特定(T=1/(2×f))する。又は、制御部110は、現状の充電率SOCo、二次電池ユニット50の温度又は劣化度に基づいて、特定した待機時間Tを補正するものであってもよい。制御部110は、充放電の切替時から特定した待機時間まで待機する。
【0072】
制御部110は、内部抵抗を算出する(S32)。制御部110は、記憶部122を参照し、充放電の切替時の直前の二次電池ユニット50の電圧及び充放電電流を取得する。制御部110は、待機時間が経過した時点での二次電池ユニット50の電圧及び充放電電流を取得する。制御部110は、充放電の切替時の直前及び待機時間が経過した時点での電圧及び充放電電流夫々に基づいて、二次電池ユニット50の内部抵抗を算出し、算出した内部抵抗を記憶部122に記憶する。内部抵抗が前回処理によって既に記憶されている場合、制御部110は、今回導出した内部抵抗によって更新する。制御部110は、再度S30の処理を実行すべくループ処理を行い、車両1の走行状態に応じた内部抵抗を算出する処理を継続する。
【0073】
二次電池ユニット50のパラメータにおいて、拡散抵抗部分に関するパラメータである拡散抵抗(拡散インピーダンス)及び電気二重層容量を等価回路に対応した近似式によって推定し、内部抵抗及び開放電圧は電流及び電圧に基づき算出することによって、推定するパラメータを2つとし、推定精度を高くし、またパラメータの推定に要する時間を短くすることができる。
【0074】
図7は、二次電池ユニット50の電圧及び電流に関する説明図である。
図7の横軸は、時間を表し、
図7の上図の縦軸は二次電池ユニット50の電圧を示し、下図の縦軸は二次電池ユニット50の電流(充放電電流)を示す。
図7の下図に示すごとく、二次電池ユニット50は頻繁に充放電を繰り返している。
図8は、従来手法によりパラメータ(Ra,Rb,Cb)を推定した際の真値及び推定値に関する説明図である。
図8の横軸は、時間を表し、
図8の上図の縦軸は
図5Aに示す等価回路モデルにおける抵抗Raの抵抗値を示し、中図の縦軸は抵抗Rbの抵抗値を示し、下図の縦軸はコンデンサCbの容量を示す。
図8において、破線は真値を示し、実線は推定値を示す。
図8における推定値は、従来手法により等価回路モデルの3つのパラメータ(Ra,Rb,Cb)を、例えば逐次最小二乗法により同定し、推定したものである。
図8に示すごとく、真値に対し、推定した3つのパラメータは上下に振れていることがわかる。特に拡散抵抗部分に関するパラメータである拡散抵抗(Rb)及び電気二重層容量(Cb)の振れ幅は、大きい。
図9は、実施形態1の手法によりパラメータ(Rb,Cb)を推定した際の真値及び推定値に関する説明図である。
図9の横軸は、時間を表し、
図9の上図の縦軸は
図5Aに示す等価回路モデルにおける抵抗Raの抵抗値を示し、中図の縦軸は抵抗Rbの抵抗値を示し、下図の縦軸はコンデンサCbの容量を示す。
図9において、破線は真値を示し、実線は算出値又は推定値を示す。
図9において、上図に示される内部抵抗(Ra)は、実施形態1による抵抗算出部118が算出した内部抵抗である。
図9の中図、下図に示される拡散抵抗(Rb)及び電気二重層容量(Cb)の2つのパラメータ(拡散抵抗部分に関するパラメータ)は、例えば逐次最小二乗法により同定し、推定したものである。抵抗算出部118が算出した内部抵抗は、真値にかなり近似していることがわかる。また、逐次最小二乗法により同定し、推定するパラメータを拡散抵抗(Rb)及び電気二重層容量(Cb)の2つとすることで、
図8に示す従来手法による推定値と比較して、真値に近似させることができる。逐次最小二乗法等を用いた同定式により推定するパラメータを3つから2つにし、パラメータを推定する方法と、当該推定する方法とは異なる方法である内部抵抗の算出方法とを組み合わせることで、二次電池のパラメータの推定精度を高くすることができる。
【0075】
(変形例)
実施形態1にて、満充電容量FCCは、予め決定された値としたがこれに限定されない。電池監視装置100は、所定のタイミングにて満充電容量を導出し、導出した満充電容量に基づいて、充電率SOC、開放電圧OCVを導出するものであってもよい。
【0076】
電池監視装置100と始動スイッチ18とは、配線(図示せず)により通信可能に接続されている。始動スイッチ18が出力したオン・オフを示す信号は、電池監視装置100の入出力I/F(図示せず)を介して制御部110に入力される。
【0077】
電池監視装置100は、始動スイッチ18がオフとなっている場合、所定の周期で起動し、電池監視装置100の制御部110は、複数のセル51夫々の単位満充電容量を算出する。始動スイッチ18がオフとなっている場合とは、車両1が停止し二次電池ユニット50から車両1への通電が停止している状態であり、二次電池ユニット50が充放電を行っていない状態である。始動スイッチ18がオンとなっている場合とは、車両1が走行し、車両1の走行状態に応じて二次電池ユニット50が充放電を行っている状態である。
【0078】
始動スイッチ18のオン時点(t1)から次のオン時点(t3)までの期間を第1トリップ期間T1する。また、始動スイッチ18のオン時点(t3)から次のオン時点(t5)までの期間を第2トリップ期間T2する。第2トリップ期間T2は、第1トリップ期間T1の次のトリップ期間である。オン時点(t1)からオン時点(t3)までの間において、始動スイッチ18がオフとなったオフ時点(t2)となると車両1は停止し、二次電池ユニット50には電流が流れない。すなわち、オフ時点(t2)からオン時点(t3)までの間は、二次電池ユニット50には電流が流れない。同様にオン時点(t3)から次のオン時点(t5)間において、始動スイッチ18がオフとなったオフ時点(t4)となると車両1は停止し、二次電池ユニット50には電流が流れない。すなわち、オフ時点(t4)からオン時点(t5)までの間は、二次電池ユニット50には電流が流れていない。
【0079】
制御部110は、第1トリップ期間T1におけるオフ時点(t2)からオン時点(t3)までの間にて、複数のセル51夫々の充電率(第1充電率)を算出する。同様に制御部110は、第2トリップ期間T2におけるオフ時点(t4)からオン時点(t5)までの間にて、複数のセル51夫々の充電率(第2充電率)を算出する。
【0080】
オフ時点(t2)からオン時点(t3)、及びオフ時点(t4)からオン時点(t5)の期間においては、二次電池ユニット50には電流が流れていないので、夫々にて電圧取得部111が取得した第1電圧(t2からt3)、及び第2電圧(t4からt5)は、開放電圧に相当する。制御部110は、
図4に示すOCV-SOC特性に基づいて、第1電圧及び第2電圧に基づいて、第1充電率SOC1及び第2充電率SOC2を導出する。制御部110(電流積算部115)は、第1電圧を取得した時点から第2電圧を取得した時点まで充放電電流に基づいて、二次電池ユニット50の充放電量ΔCを算出する。
【0081】
制御部110は、充放電量ΔC、第1充電率及SOC1及び第2充電率SOC2に基づいて、単位満充電容量Fを導出する。単位満充電容量Fは、充放電量ΔCを第2充電率SOC2と第1充電率SOC1との差分で除算(F=ΔC/(SOC2-SOC1))することにより、導出することができる。制御部110は、単位満充電容量Fに基づき、二次電池ユニット50の満充電容量FCCを導出する。例えば、満充電容量FCCは、セル51毎の単位満充電容量Fを合計することにより導出することができる。
【0082】
制御部110(充電率算出部119)は、導出した満充電容量FCCに基づき、車両1の走行時等における充電率SOCoを算出し、開放電圧導出部120は、算出した充電率SOCoに基づき開放電圧を導出する。二次電池ユニット50の劣化等に応じた満充電容量FCCを取得し、取得した満充電容量FCCに基づき充電率を算出して充電率の精度を向上させることによって、開放電圧及び等価回路モデルに基づき推定するパラメータの精度を向上させることができる。
【0083】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0084】
1 車両
11 リレー
12 リレー
13 インバータ
14 モータ
15 DC/DCコンバータ
16 電池
17 電気負荷
18 始動スイッチ
19 充電器
50 二次電池ユニット
50a 電圧検出線
50b 電流検出線
50c 温度検出線
51 セル
52 電圧センサ
53 電流センサ
54 温度センサ
100 電池監視装置
110 制御部
111 電圧取得部
112 電流取得部
113 温度取得部
114 内部パラメータ推定部
115 電流積算部
116 切替判定部
117 待機時間特定部
118 抵抗算出部
119 充電率算出部
120 開放電圧導出部
121 タイマ
122 記憶部
122P プログラム
123 記録媒体