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  • 特許-吸着シート及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】吸着シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/28 20060101AFI20221129BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20221129BHJP
   B01J 20/18 20060101ALI20221129BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20221129BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20221129BHJP
   C01B 39/24 20060101ALI20221129BHJP
   C01B 39/38 20060101ALI20221129BHJP
   C01B 39/46 20060101ALI20221129BHJP
   D06M 11/79 20060101ALI20221129BHJP
   D21H 17/68 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
B01J20/28 Z
B01D53/04
B01J20/18 A
B01J20/18 C
B01J20/20 E
B01J20/30
C01B39/24
C01B39/38
C01B39/46
D06M11/79
D21H17/68
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018108047
(22)【出願日】2018-06-05
(65)【公開番号】P2019209266
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 晶徳
(72)【発明者】
【氏名】河野 大樹
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-154261(JP,A)
【文献】特開平10-000352(JP,A)
【文献】特開平08-024637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/34
B01D 53/00-53/96
C01B 39/00-39/54
D06M 11/00-11/84
D21H 17/00-17/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着材(Ax:x=1,2,3・・・n)を少なくとも1種類以上を含む吸着シートであって、
前記吸着材(Ax)のタップ密度をAxa、
吸着材粒子を球状と仮定した時に吸着材粒子の平均粒径をから算出した球体積をAxb、
前記吸着材が前記吸着シートに含まれる重量比率(%)をAxcとすると、
前記吸着シート1gあたりに含まれる平均粒子数Axdは以下の式1で表され、
【数1】

当該吸着シート1gあたりに含まれる少なくとも1種類以上の前記吸着材(Ax)の総平均粒子数は、以下の式2で表され、
【数2】

当該吸着素子の平面圧縮強度が2N・m/g以上である、吸着シート。
【請求項2】
前記吸着シートは、骨格素材として繊維を有する、請求項1に記載の吸着シート。
【請求項3】
当該吸着シートに含まれる少なくとも1種類以上の前記吸着材(Ax)の合計比率が、当該吸着シートの40重量%以上である、請求項1または2項に記載の吸着シート。
【請求項4】
前記吸着材(Ax)のタップ密度が、0.1g/cm以上である、請求項1から3のいずれか1項に記載の吸着シート。
【請求項5】
前記吸着材(Ax)が、ゼオライトである、請求項1からのいずれか1項に記載の吸着シート。
【請求項6】
吸着材(Ax:x=1,2,3・・・n)を少なくとも1種類以上含む吸着シートの製造方法であって、
前記吸着材(Ax)のタップ密度をAxa、
吸着材粒子を球状と仮定した時に吸着材粒子の平均粒径をから算出した球体積をAxb、
前記吸着材が吸着シートに含まれる重量比率(%)をAxcとすると、
当該吸着シート1gあたりに含まれる平均粒子数Axdは以下の式1で表され、
【数3】

当該吸着シート1gあたりに含まれる少なくとも1種類以上の前記吸着材(Ax)の総
平均粒子数は、以下の式2で表され、
【数4】

当該吸着シートの比引張強度が2N・m/g以上である、吸着シートの製造方法。
【請求項7】
前記吸着材(Ax)以外に、融点または熱分解温度が300℃以上の有機繊維(B-1)、および、熱分解温度が300℃未満の有機成分(B-2)を含む、請求項に記載の吸着シートの製造方法。
【請求項8】
前記有機繊維が、アラミド系ポリマー、ベンズイミダゾール系ポリマー、ベンゾオキサゾール系ポリマー、ポリイミド系ポリマーから選ばれた少なくとも一種のポリマーである、請求項に記載の吸着シートの製造方法。
【請求項9】
前記有機成分が、ポリビニルアルコール系ポリマー、ポリアクリロニトリル系ポリマー、ポリビニルピロリドン系ポリマーから選ばれた少なくとも一種である、請求項または請求項に記載の吸着シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中に含まれる有機溶剤を、吸着材を用いて吸着除去する吸着シート及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、吸着シートとしては、PVA(ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol))等の有機バインダーおよび有機繊維や無機繊維と、吸着材とを混合抄造してからなる吸着シートが知られている(例えば、特開平9-94422号公報(特許文献1)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-94422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この吸着シートには、ゼオライトの吸着材が含まれると、特許文献1に記載されている。吸着シートの柔軟性や機械的強度には、骨格素材である有機繊維や無機繊維が役割を担う。吸着シートとして高い性能を発揮するには吸着材の含有比率を向上させることが有効である。しかし、反対に骨格素材である有機繊維や無機繊維の含有比率が下がるため、結果的には吸着シートの柔軟性や強度が低下するという課題があった。
【0005】
吸着材には特有の見かけ密度(嵩密度およびタップ密度)があり、それには吸着材の化学的な種類(活性炭、ゼオライト種、シリカゲルなど)と、バルクとしての形状(粒径、繊維径など)が密接に関係する。単純に吸着シートに含まれる吸着材の含有量が同じであっても、見かけ密度と粒径から計算される粒子の個数には違いがあり、粒子数が多すぎて骨格素材の絡まりが少なくなり、実用上の強度が得られないという課題があった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、吸着シートとして優れた機械的強度および吸着性能を備えた吸着シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに到った。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0008】
この吸着シートにおいては、吸着材(Ax:x=1,2,3・・・n)を少なくとも1種類以上含む吸着シートであって、上記吸着材(Ax)のタップ密度をAxa、吸着材粒子を球状と仮定した時に吸着材粒子の平均粒径をから算出した球体積をAxb、上記吸着材が当該吸着シートに含まれる重量比率(%)をAxcとすると、当該吸着シート1gあたりに含まれる平均粒子数Axdは以下の式1で表される。
【0009】
【数1】
【0010】
当該吸着シート1gあたりに含まれる少なくとも1種類以上の吸着材(Ax)の総平均粒子数は、以下の式2で表される。当該吸着シートの比引張強度が2N・m/g以上である。
【0011】
【数2】
【0012】
他の形態においては、当該吸着シートに含まれる少なくとも1種類以上の上記吸着材(Ax)の合計比率が、当該吸着シートの40重量%以上である。
【0013】
他の形態においては、上記吸着材(Ax)のタップ密度が、0.1g/cm以上である。
【0014】
他の形態においては、上記吸着材(Ax)が、ゼオライトである。
この吸着シートの製造方法においては、吸着材(Ax:x=1,2,3・・・n)を少なくとも1種類以上含む吸着シートの製造方法であって、吸着材(Ax)のタップ密度をAxa、吸着材粒子を球状と仮定した時に吸着材粒子の平均粒径をから算出した球体積をAxb、吸着材が吸着シートに含まれる重量比率(%)をAxcとすると、当該吸着シート1gあたりに含まれる平均粒子数Axdは以下の式1で表される。
【0015】
【数3】
【0016】
当該吸着シート1gあたりに含まれる少なくとも1種類以上の吸着材(Ax)の総平均粒子数は、以下の式2で表される。当該吸着シートの比引張強度が2N・m/g以上である。
【0017】
【数4】
【0018】
他の形態においては、上記吸着材(Ax)以外に、融点または熱分解温度が300℃以上の有機繊維(B-1)、および、熱分解温度が300℃未満の有機成分(B-2)を含む。
【0019】
他の形態においては、上記有機繊維が、アラミド系ポリマー、ベンズイミダゾール系ポリマー、ベンゾオキサゾール系ポリマー、ポリイミド系ポリマーから選ばれた少なくとも一種のポリマーである。
【0020】
他の形態においては、上記有機成分が、ポリビニルアルコール系ポリマー、ポリアクリロニトリル系ポリマー、ポリビニルピロリドン系ポリマーから選ばれた少なくとも一種である。
【発明の効果】
【0021】
この吸着シート及びその製造方法によれば、吸着シートとして優れた機械的強度および吸着性能を備えた吸着シート及びその製造方法を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施の形態における吸着シートの各実施例および各比較例の各種特性を示す図である。
図2】実施の形態における吸着シートの各実施例および各比較例の、焼成後のシート強度(N・m/g)と吸着シートに含まれる吸着剤粒子の総数(個/g)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に基づいた実施の形態の吸着シート及びその製造方法について、以下、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。実施の形態における構成を適宜組み合わせて用いることは当初から予定されていることである。
【0024】
[湿式製法による混合抄造(吸着材を内添して紙を作る)]
吸着材と有機繊維/無機繊維などの骨格素材とを混合抄造して吸着シートを得る場合、吸着材は骨格素材同士の絡み合い点を減らしてしまう。そのため、吸着材の嵩密度および粒径の観点からすると、単位重量当たりの体積を表す比容積が小さい方が吸着材の占有体積が小さくなり、骨格素材同士の絡み合い点を減らしにくいため好ましい。実際には、比容積の逆数である密度が大きい吸着材が好ましいことと同義である。
【0025】
吸着材の形状は、粉末状、粒状、繊維状などがあり、吸着シートに含有される量を考えると、粉体1つ、粒子1つ、繊維1本ではなく多量の粉末、粒子、繊維が担持されるのが一般的である。そのため、粉末、粒子、繊維の集合体としての充填密度としては、ゆるめかさ密度およびタップ密度(かためかさ密度とも言う)が挙げられるが、吸着材が高含有比率で充填された吸着シートを想定するには、緻密に充填された状態を表すタップ密度が特に重要となる。
【0026】
混合抄造が湿式抄紙の場合、吸着材は粉末または粒状が好ましく、粉末状が特に好ましい。粉末のタップ密度は、0.1g/cm~2.0g/cmが好ましく、さらに好ましくは0.2g/cm~1.0g/cmの範囲であるとよい。
【0027】
[粒径との関係]
吸着材(Ax)の粒径は、レーザー回折などで評価することができ、平均粒径0.001μm~30.0μmの範囲が好ましく、さらに好ましくは0.01μm~20μmの範囲であるとよい。吸着材の粒径は吸着材の種類に依存しやすく、特にゼオライトは結晶種によって結晶サイズが異なりやすい。ゼオライトの結晶種によっては3μm以下の結晶サイズがあり、その場合は完全な分散状態を得ることが難しく、レーザー回折では実際の粒径より大きな粒径(二次粒子径)を見ている場合もある。その場合は、SEMなどの画像解析で確認された最小単位である結晶サイズの平均値を平均粒径とみなす。
【0028】
実施の形態における吸着材は、活性炭またはゼオライトである。活性炭およびゼオライトは、低濃度の有機化合物を吸着および脱着するのに優れている。
【0029】
活性炭の場合は、形態は、平均粒径が10μm以上50μm以下の粉末、または平均繊維径が10μm以上30μm以下の繊維が挙げられる。活性炭の原料は特に指定しないが、椰子柄、石炭、ピッチ、フェノール樹脂、ポリアクリロニトリル、セルロースなどがある。
【0030】
実施の形態における吸着材は、好ましくはゼオライトが良い。ゼオライトは、耐熱温度が高く、活性炭よりも吸着時の有機溶剤などとの反応性が低いので、耐熱性に優れ、発熱の危険性が低い。またゼオライトは、活性炭よりもシャープな細孔構造を有するので、有機溶剤などの吸着性能が優れている。ゼオライトの場合は、形態は平均粒径が1μm以上20μm以下の粉末である。ゼオライトは、天然に産出されるゼオライトもあるが、人工合成ゼオライトが適している。具体的には、ベータ型、ZSM-5型、フェリエライト型、モルデナイト型、L型、Y型、A型などがある。
【0031】
実施の形態における吸着材は、更に好ましくは、シリカ/アルミナ比の高いハイシリカゼオライトが好ましい。ハイシリカゼオライトは、被処理ガス中から有機溶剤などを吸着するにあたって、被処理ガス中の水分、湿度の影響を受けにくいためである。シリカ/アルミナ比は15以上が良く、更には50以上がより良い。
【0032】
実施の形態における吸着素子は、吸着材を少なくとも1つ含む。前述の各種の活性炭およびゼオライトのうちの1つまたは複数を選択してもよい。複数の吸着材が選択される場合、その割合は特に限定されない。吸着材は、被処理ガスの処理条件に応じて、適宜選択されればよい。
【0033】
吸着材(Ax)のタップ密度を[Axa]、吸着材粒子を球状と仮定した時の平均粒径をから算出した球体積を[Axb]、吸着材が吸着シートに含まれる重量比率を[Axc]とすると、吸着シート1gあたりに含まれる平均粒子数[Axd]は、以下の[式1]のように表される。
【0034】
【数5】
【0035】
先述したように、吸着材と有機繊維や無機繊維などの骨格素材とを混合抄造して吸着シートを得る場合、吸着材は骨格素材同士の絡み合い点を減らしてしまうため吸着シートの強度低下を招きやすい。そのため、実用的な強度を得るには一定量以下の粒子総数に抑えることが好ましく、吸着シート1gあたりに含まれる少なくとも1種類以上の吸着材Axの総平均粒子数は、以下の[式2]で表され、8.0×1012以下であることが好ましい。
【0036】
【数6】
【0037】
[有機繊維B-1]
本実施の形態における有機成分(B)は、吸着シート製造時に吸着材(Ax)を担持し、吸着シート成形後も担持する担体として作用する成分で、パルプ状や繊維長10mm以下程度の短繊維の有機繊維、ことに融点もしくは熱分解温度が300℃以上の耐熱性に優れた繊維である。熱分解温度が300℃未満では、吸・脱着操作中に遭遇する高温下で著しい強度低下が避けられない。具体的にはアラミド、メタアラミド、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルケトン等から作られた繊維である。
【0038】
[有機バインダーB-2]
有機成分(B)は、上記耐熱性有機成分(B-1)の他に熱分解温度が300℃未満の物質を含むのが好ましい。該低温度分解性有機成分(B-2)は吸着シートの製造時、吸着材(Ax)を吸着シートに高比率に担持させるバインダーの作用を有する。低温度分解性有機成分としては、PVA(ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol))、澱粉、あるいはポリアクリロニトリル等が挙げられるが、PVAが望ましい。
【0039】
低温度分解性有機成分(B-2)による吸着材(Ax)の被覆が大きく吸着性能が著しく低い場合は、吸着シートを高温熱処理することにより低温度分解性有機成分(B-2)を炭化物あるいは分解消失せしめ、吸着材(Ax)の被覆を少なくすることも可能である。
【0040】
[無機バインダーC]
本実施の形態では、吸着シートの高温下での吸着材(Ax)と骨格素材とを定着維持させるのに無機バインダー(C)を付与しても構わない。例えば水に可溶であり、バインダーがシートに均一に分散され、熱処理の際、反応、ゲル化等によって硬化し、その硬化の際に吸着材と骨格素材を強固に定着せしめるものである。熱分解温度が300℃以上であり、反応性の高い有機溶剤により反応熱を生じ、シートの着火、燃焼の原因となる触媒性が低く、吸着材(Ax)の吸着性能をその被覆により低下させにくい物であることが好ましい。例えば、ヘキサメタリン酸ソーダ等のリン酸塩系バインダー、ケイ酸ソーダ等のケイ酸塩系バインダーが好ましい。
【0041】
[吸着剤Ax含有量]
本実施の形態の耐熱性吸着性シートに含まれる吸着材(Ax)の量は40重量%以上がよい。吸着性能及び生産性、吸着材の脱落を考慮すると50重量%以上が好ましい。吸着材(Ax)の含有量が40%未満では充分な吸着性能が得られない。吸着剤(Ax)の重量の上限に制限はないが、十分なシート強度を維持するには80重量%が限界である。80重量%を超えると、吸着シートの柔軟性が不足し加工しにくくなる。本実施の形態の耐熱性吸着シートに含まれる有機成分(B)の量は、吸着シート製造時に用いた有機成分及びその熱酸化物を合わせた量として5重量%~60重量%である。
【0042】
有機成分(B)の含有量が5%未満では吸着材の担持能が不足し、60%以上では吸着材の使用量を少なくしなければならない不都合が生じる。本実施の形態の吸着シートに無機バインダー成分(C)が含まれる場合は、無機バインダー成分(C)は5重量%~30重量%が好ましい。5重量%未満では吸着材(Ax)と骨格素材同士の定着性が乏しくなり、30%以上になると柔軟性が不足する為好ましくない。
【0043】
[吸着シートの製造方法]
本実施の形態の吸着シートは、例えば吸着材(Ax)、有機成分(B)及び無機バインダー(C)、必要に応じてガラス繊維、高分子凝集剤を用いて湿式抄紙法で製造することができる。
【0044】
[製法におけるB-1とB-2の考え方]
本実施の形態の吸着シートの製造方法に用いられる有機成分(B)は、上記アラミド繊維等の耐熱性有機繊維(B-1)の他に150℃~300℃で熱分解する低温度分解性有機成分(B-2)を用いる事が望ましい。低温度分解性有機成分(B-2)は湿式抄紙時の(Ax)成分を(B-1)成分に及び(B-1)成分同士を接合させるためのバインダーとして働く。
【0045】
(B-2)成分はシート状物、ハニカム状物成形後の最終吸着素子(本実施の形態の吸着素子)の吸着材を被覆するため、著しく吸着性能を阻害する場合は、高温熱処理を行い(B-2)を炭化物とするか、または分解消失せしめ最終吸着素子(本実施の形態の吸着素子)の吸着材を被覆を少なくすることも可能である。
【0046】
上記シート状物及びハニカム状物で熱処理を行う場合、加熱オーブン等を用い空気雰囲気中で実施するのが好ましい。熱処理温度は耐熱性有機成分(B-1)の融点もしくは分解温度(T1℃)以下好ましくは5℃~20℃低く(T1-5℃~T1-20℃)、低温度分解成分(B-2)の分解温度(T2℃)以上、好ましくは分解温度の100℃~200℃以上(T2+100℃~T2+200℃)の温度で処理時間は1分~60分、好ましくは1分~30分でとよい。通常350℃~450℃で、1分~10分である。
【0047】
吸着シートの比引張強度は2N/m・g以上が好ましい。2N/m・gより小さい強度では吸着シートの破断や割れが生じやすく実用的ではない。
【0048】
吸着シートの坪量(g/m)に特に制限はないが、10g/m~200g/mが好ましい。10g/m未満の場合、シートの機械強度が弱くなり、ハニカム構造体の機械強度を維持できない。200g/mを超えると、シート厚みが厚くなりすぎるためシートの柔軟性がなくなり、シートのひび割れや吸着材の脱落が生じやすい。
【0049】
(実施例)
本実施の形態における吸着シートの諸特性の測定法は次の通りである。各実施例および各比較例の各種特性を図1および図2に示す。
【0050】
(1)吸着材のタップ密度の測定方法
恒量した容器に吸着材約40gを入れ、180℃15時間以上真空乾燥させる。デシケータ内で20分放冷したのち、乾燥質量を0.1mgの桁まで測る。この乾燥試料の質量をS(g)とする。200mLメスシリンダーにこの乾燥試料を全量入れ、3分間メスシリンダーの底面をタッピング(メスシリンダー底面をたたく)する。3分後の容積(mL)を1mLの桁まで読み取る。これを充填容積をA(mL)とすると、タップ密度L(g/mL)は次の式3で求まる。また、1mLは1cmであるため、タップ密度Lの単位はg/mLとg/cmは同義である。
【0051】
【数7】
【0052】
(2)吸着材の平均粒径の測定方法および粒子を球形と仮定した時の球体積の算出方法
吸着材は事前にSEM画像観察で結晶粒径を確認し、結晶粒径が3μm以上の場合はレーザー回折散乱式粒度分布測定装置による平均粒径の測定方法を用い、結晶粒径が3μmより小さい場合は、SEM画像解析による平均粒径の測定方法を用い、吸着材の平均粒径を算出する。
【0053】
<レーザー回折散乱式粒度分布測定装置による平均粒径の測定方法>
測定装置に、堀場製作所のLA―950V2を使用し、測定セルには、湿式循環型セル(フローセル)を使用し、分散媒としては、ヘキサメタリン酸ナトリウム(0.1mass%水溶液)を使用し、測定対象の屈折率設定には、ケイ酸アルミニウム-水系(屈折率:1.66―1.33)を使用する。
【0054】
[測定手順]
1.測定セルに分散媒を規定量注水し,光学系の初期調整,およびブランク測定を行う。
【0055】
2.ブランク測定後、分散媒の透過率がおよそ90%~70%の範囲に入るように、セルに吸着材を投入する。
【0056】
3.脱泡のために数秒程度超音波(周波数20kHz)を印加した後、1度測定を行う。
【0057】
4.測定後,超音波を規定時間(5分)印加してサンプルを分散させた後、再度測定を行う。
【0058】
5.超音波を規定時間(5分)印加して再度測定を行ったデータから解析を行い、メジアン径(累積頻度が50%になる粒径)を平均粒径とする。
【0059】
<SEM画像解析による平均粒径の測定方法>
測定装置には、日立走査電子顕微鏡(SU1510)を用い、加速電圧は、15.0kVとする。
【0060】
[測定手順]
1.SEM観察台に両面テープを張り、吸着材を両面テープに散布し、過剰量の吸着材を取り除く。
【0061】
2.吸着材を塗布したSEM観察台に白金蒸着を行う。
3.SEM画像観察装置に2.の観察台をセットする。
【0062】
4.上記の加速電圧で3000倍の写真を場所を変えて3枚撮影する。
5.3000倍で撮影した写真が紙面にすべておさまる最大のサイズでA4の紙に印刷する。
【0063】
6.印刷した写真に鉛筆で対角線を2本描き、対角線上にある境界が明確な粒子を20個選定し、短径と長径の2か所を定規で測る。SEM写真のスケール(μm)の長さを定規で測り、定規で測った粒子の短径と長径をμmに換算する。
【0064】
7.6.の作業を3000倍で撮影した3枚の写真で行い、合計60個の粒子の短径と長径を算出し、すべての値の平均値をSEM観察による平均粒径(μm)とする。
【0065】
<粒子を球形と仮定した時の球体積の算出方法>
レーザー回折またはSEM画像解析で算出した平均粒径をR(μm)とすると、粒子を球形と仮定した時の粒子1個あたりの球体積Q(cm/個)は次の式4で求める。
【0066】
【数8】
【0067】
(3)比引張強さの測定方法
JIS-P-8113「紙および板紙-引っ張り特性の試験方法」に準じて測定した。
試験幅は、15mm、長さは50mmとした。
【0068】
以下の実施例および比較例に基づいて本発明の吸着シートについて詳細に説明する。
<実施例1>
吸着材A1としてタップ密度が0.54g/cm、レーザー回折による平均粒径が3.3μmのZSM-5(MFI)ゼオライトを37.5重量%、吸着材A2としてタップ密度が0.36g/cm、SEM画像解析から算出した平均粒径が1.2μmのY型(FAU)ゼオライトを37.5重量%、耐熱性有機成分としてパルプ状および短繊維状アラミド繊維(耐熱性有機成分:B-1)を17重量%、および、熱分解性有機バインダーとしてPVA(低温熱分解性有機成分:B-2)を8重量%を、坪量100g/mとなる重量にて湿式抄紙装置を使いシート状物を作成した。
【0069】
次にこのシート状物を無機バインダーとしてヘキサメタリン酸ソーダ20重量%水溶液に含浸し、100℃のエアーにて乾燥させ、ヘキサメタリン酸ソーダを5重量%シートに定着させ前駆体シートを得た。その後、焼成炉にて空気中400℃で約3分間熱処理を行い、吸着シートを得た。
【0070】
<実施例2>
吸着材A1としてタップ密度が0.39g/cm、レーザー解析による平均粒径が9.9μmのZSM-5(MFI)ゼオライトを37.5重量%、吸着材A2としてタップ密度が0.34g/cm、SEM写真解析から算出した平均粒径が0.7μmのY型(FAU)ゼオライトを37.5重量%、耐熱性有機成分としてパルプ状および短繊維状アラミド繊維(耐熱性有機成分:B-1)を17重量%、および、熱分解性有機バインダーとしてPVA(低温熱分解性有機成分:B-2)を8重量%を、坪量100g/mとなる重量にて湿式抄紙装置を使いシート状物を作成した。
【0071】
次にこのシート状物を無機バインダーとしてヘキサメタリン酸ソーダ20重量%水溶液に含浸し、100℃のエアーにて乾燥させ、ヘキサメタリン酸ソーダを5重量%シートに定着させ前駆体シートを得た。その後、焼成炉にて空気中400℃で約3分間熱処理を行い、吸着シートを得た。
【0072】
<実施例3>
吸着材A1としてタップ密度が0.58g/cm、レーザー解析による平均粒径が4.8μmのZSM-5(MFI)ゼオライトを37.5重量%、吸着材A2としてタップ密度が0.34g/cm、SEM写真解析から算出した平均粒径が0.7μmのY型(FAU)ゼオライトを37.5重量%、耐熱性有機成分としてパルプ状および短繊維状アラミド繊維(耐熱性有機成分:B-1)を17重量%、および、熱分解性有機バインダーとしてPVA(低温熱分解性有機成分:B-2)を8重量%を、坪量100g/mとなる重量にて湿式抄紙装置を使いシート状物を作成した。
【0073】
次にこのシート状物を無機バインダーとしてヘキサメタリン酸ソーダ20重量%水溶液に含浸し、100℃のエアーにて乾燥させ、ヘキサメタリン酸ソーダを5重量%シートに定着させ前駆体シートを得た。その後、焼成炉にて空気中400℃で約3分間熱処理を行い、吸着シートを得た。
【0074】
<実施例4>
吸着材A1としてタップ密度が0.54g/cm、レーザー解析による平均粒径が3.2μmのZSM-5(MFI)ゼオライト(MFI)を60重量%、吸着材A2としてタップ密度が0.36g/cm、SEM写真解析から算出した平均粒径が1.2μmのY型(FAU)ゼオライトを37.5重量%、耐熱性有機成分としてパルプ状および短繊維状アラミド繊維(耐熱性有機成分:B-1)を17重量%、および、熱分解性有機バインダーとしてPVA(低温熱分解性有機成分:B-2)を8重量%を、坪量100g/mとなる重量にて湿式抄紙装置を使いシート状物を作成した。
【0075】
次にこのシート状物を無機バインダーとしてヘキサメタリン酸ソーダ20重量%水溶液に含浸し、100℃のエアーにて乾燥させ、ヘキサメタリン酸ソーダを5重量%シートに定着させ前駆体シートを得た。その後、焼成炉にて空気中400℃で約3分間熱処理を行い、吸着シートを得た。
【0076】
<実施例5>
吸着材A1としてタップ密度が0.39g/cm、レーザー解析による平均粒径が9.9μmのZSM-5(MFI)ゼオライトを75重量%、耐熱性有機成分としてパルプ状および短繊維状アラミド繊維(耐熱性有機成分:B-1)を17重量%、および、熱分解性有機バインダーとしてPVA(低温熱分解性有機成分:B-2)を8重量%を、坪量100g/mとなる重量にて湿式抄紙装置を使いシート状物を作成した。
【0077】
次にこのシート状物を無機バインダーとしてヘキサメタリン酸ソーダ20重量%水溶液に含浸し、100℃のエアーにて乾燥させ、ヘキサメタリン酸ソーダを5重量%シートに定着させ前駆体シートを得た。その後、焼成炉にて空気中400℃で約3分間熱処理を行い、吸着シートを得た。
【0078】
<実施例6>
吸着材A1としてタップ密度が0.58g/cm、レーザー解析による平均粒径が4.8μmのZSM-5(MFI)ゼオライトを75重量%、耐熱性有機成分としてパルプ状および短繊維状アラミド繊維(耐熱性有機成分:B-1)を17重量%、熱分解性有機バインダーとしてPVA(低温熱分解性有機成分:B-2)を8重量%とを、坪量100g/mとなる重量にて湿式抄紙装置を使いシート状物を作成した。
【0079】
次にこのシート状物を無機バインダーとしてヘキサメタリン酸ソーダ20重量%水溶液に含浸し、100℃のエアーにて乾燥させ、ヘキサメタリン酸ソーダを5重量%シートに定着させ前駆体シートを得た。その後、焼成炉にて空気中400℃で約3分間熱処理を行い、吸着シートを得た。
【0080】
<実施例7>
吸着材A1としてタップ密度が0.54g/cm、レーザー解析による平均粒径が3.2μmのZSM-5(MFI)ゼオライトを75重量%、耐熱性有機成分としてパルプ状および短繊維状アラミド繊維(耐熱性有機成分:B-1)を17重量%、および、熱分解性有機バインダーとしてPVA(低温熱分解性有機成分:B-2)を8重量%を、坪量100g/mとなる重量にて湿式抄紙装置を使いシート状物を作成した。
【0081】
次にこのシート状物を無機バインダーとしてヘキサメタリン酸ソーダ20重量%水溶液に含浸し、100℃のエアーにて乾燥させ、ヘキサメタリン酸ソーダを5重量%シートに定着させ前駆体シートを得た。その後、焼成炉にて空気中400℃で約3分間熱処理を行い、吸着シートを得た。
【0082】
<実施例8>
吸着材A1としてタップ密度が0.59g/cm、SEM画像解析から算出した平均粒径が0.8μmのベータ型(BEA)ゼオライトを75重量%、耐熱性有機成分としてパルプ状および短繊維状アラミド繊維(耐熱性有機成分:B-1)を17重量%、および、熱分解性有機バインダーとしてPVA(低温熱分解性有機成分:B-2)を8重量%を、坪量100g/mとなる重量にて湿式抄紙装置を使いシート状物を作成した。
【0083】
次にこのシート状物を無機バインダーとしてヘキサメタリン酸ソーダ20重量%水溶液に含浸し、100℃のエアーにて乾燥させ、ヘキサメタリン酸ソーダを5重量%シートに定着させ前駆体シートを得た。その後、焼成炉にて空気中400℃で約3分間熱処理を行い、吸着シートを得た。
【0084】
<比較例1>
吸着材A1としてタップ密度が0.39g/cm、レーザー解析による平均粒径が10.7μmのZSM-5(MFI)ゼオライトを15重量%、吸着材A2としてタップ密度が0.34g/cm3、SEM画像解析から算出した平均粒径が0.7μmのY型(FAU)ゼオライトを60重量%、耐熱性有機成分としてパルプ状および短繊維状アラミド繊維(耐熱性有機成分:B-1)を17重量%、および、熱分解性有機バインダーとしてPVA(低温熱分解性有機成分:B-2)を8重量%を、坪量100g/mとなる重量にて湿式抄紙装置を使いシート状物を作成した。
【0085】
次にこのシート状物を無機バインダーとしてヘキサメタリン酸ソーダ20重量%水溶液に含浸し、100℃のエアーにて乾燥させ、ヘキサメタリン酸ソーダを5重量%シートに定着させ前駆体シートを得た。その後、焼成炉にて空気中400℃で約3分間熱処理を行い、吸着シートを得た。
【0086】
<比較例2>
吸着材A1としてタップ密度が0.54g/cm、レーザー解析による平均粒径が3.2μmのZSM-5(MFI)ゼオライトを15重量%、吸着材A2としてタップ密度が0.36g/cm、SEM画像解析から算出した平均粒径が1.3μmのY型(FAU)ゼオライトを60重量%、耐熱性有機成分としてパルプ状および短繊維状アラミド繊維(耐熱性有機成分:B-1)を17重量%、熱分解性有機バインダーとしてPVA(低温熱分解性有機成分:B-2)を8重量%とを、坪量100g/mとなる重量にて湿式抄紙装置を使いシート状物を作成した。
【0087】
次にこのシート状物を無機バインダーとしてヘキサメタリン酸ソーダ20重量%水溶液に含浸し、100℃のエアーにて乾燥させ、ヘキサメタリン酸ソーダを5重量%シートに定着させ前駆体シートを得た。その後、焼成炉にて空気中400℃で約3分間熱処理を行い、吸着シートを得た。
【0088】
<比較例3>
吸着材A1としてタップ密度が0.34g/cm、SEM画像解析から算出した平均粒径が0.7μmのY型(FAU)ゼオライトを75重量%、耐熱性有機成分としてパルプ状および短繊維状アラミド繊維(耐熱性有機成分:B-1)を17重量%、および、熱分解性有機バインダーとしてPVA(低温熱分解性有機成分:B-2)を8重量%を、坪量100g/mとなる重量にて湿式抄紙装置を使いシート状物を作成した。
【0089】
次にこのシート状物を無機バインダーとしてヘキサメタリン酸ソーダ20重量%水溶液に含浸し、100℃のエアーにて乾燥させ、ヘキサメタリン酸ソーダを5重量%シートに定着させ前駆体シートを得た。その後、焼成炉にて空気中400℃で約3分間熱処理を行い、吸着シートを得た。
【0090】
本実施の形態の吸着シートは、吸着材を少なくとも1種類以上有する湿式抄紙法で製造される吸着シートであって、吸着材は吸着シートの強度と吸着材の高含有重量比率が両立するように、吸着材の嵩密度および粒径から算出されるシート中に含まれる総粒子数を適切に設定し、融点または熱分解温度が300℃以上の有機成分と熱分解温度が300℃未満の有機成分と無機バインダーを骨格素材とすることで、吸着シートとしての柔軟性や強度に優れ、また、吸着材の含有重量比率が極めて高いため吸着性能も優れている。
【0091】
以上の各実施例および各比較例に示すように、吸着シートに含まれる吸着材粒子の総数によって吸着シートの強度は明確に差があり、粒子の総数を8.0×1012個以下にすることで実用性に十分な強度を持つ吸着素子シートを得ることができた。
【0092】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
図1
図2