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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】ガラス配線基板
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/15 20060101AFI20221129BHJP
   C03C 17/36 20060101ALI20221129BHJP
   H05K 1/02 20060101ALI20221129BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20221129BHJP
   C23C 18/34 20060101ALI20221129BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20221129BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
H01L23/14 C
C03C17/36
H05K1/02 J
C25D7/00 J
C23C18/34
H05K1/03 610B
H05K1/09 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018115885
(22)【出願日】2018-06-19
(65)【公開番号】P2019220545
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土田 徹勇起
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-093141(JP,A)
【文献】特開2017-212271(JP,A)
【文献】特開2018-107256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/15
C03C 17/36
H05K 1/02
C25D 7/00
C23C 18/34
H05K 1/03
H05K 1/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板と、
前記ガラス板の少なくとも一部を被覆する第1の金属層と、
前記第1の金属層の少なくとも一部を被覆する、前記第1の金属層よりもエッチングレートの速い第2の金属層とを有し、
前記第1の金属層と前記第2の金属層をエッチングすることにより、前記第1の金属層を向いた前記第2の金属層の面に、前記第2の金属層の縁から奥側に向かって凹部が形成され、
前記第2の金属層と接する前記第1の金属層の面積は、前記第1の金属層に対面する前記第2の金属層の面積よりも小さい、
ことを特徴とするガラス配線基板。
【請求項2】
前記第1の金属層は、複数の金属が積層されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のガラス配線基板。
【請求項3】
前記第1の金属層は、前記ガラス板側からチタンと、銅と、無電解ニッケルリンめっきとが順次積層され、前記銅の層と前記無電解ニッケルリンめっきの層との間にパラジウム含有物が配置されている、
ことを特徴とする請求項2に記載ガラス配線基板。
【請求項4】
前記第2の金属層は、電解銅めっき層である、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のガラス配線基板。
【請求項5】
前記第2の金属層は、前記第1の金属層に接する面の外周近傍にて浸食されている、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のガラス配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高機能化及び小型化が進んでいる。これに伴い、電子機器に搭載される半導体モジュールの高密度化が要求されている。このような要求に応えるために、半導体チップを実装するための配線基板の配線密度を高めることが検討されている。
【0003】
配線基板に含まれるコア材としては、一般的にガラスエポキシ樹脂が用いられているが、近年、コア材としてガラス板を用いたガラス配線基板が注目されている。
【0004】
ガラス板は、ガラスエポキシ樹脂からなるコア材と比較して、より高い平滑度を実現できる。そのため、ガラス配線基板では、超微細配線の形成が可能である。それゆえ、ガラス配線基板を用いることで、回路素子の高密度な実装が可能になる。
【0005】
また、ガラス板の20℃以上、260℃以下の温度範囲における線膨張係数(CTE)は、シリコン基板を用いた半導体チップの20℃以上、260℃以下の温度範囲における線膨張係数とほぼ一致する。それゆえ、ガラス配線基板を用いることで、残留応力を抑えつつ半導体チップの実装が可能である。
【0006】
以上のことから、ガラス配線基板は、高性能な電子機器に搭載される半導体モジュールの配線基板の一つとして注目されている。
【0007】
ガラス板上に配線を形成する従来の技術としては、例えば、ガラス板上に形成したパラジウムなどを含む無機物と、無電解ニッケルリンめっき皮膜と、電解銅めっき皮膜とからなる積層膜の構造体が示されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-81781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ガラス板直上に形成された電解銅めっき層を含む導体層の厚みが15μm以上の場合、電解銅めっき層を含む導体の応力によって、導体層下のガラス板にクラックが入るという問題がある。クラックを抑制するためには、ガラス配線基板における導体層を薄くしなければならず、それにより回路抵抗が高くなるという電気特性上の問題が懸念されている。
【0010】
そこで、前記導体層の厚みを厚くしても、前記導体層下のガラス板にクラックが生じないガラス配線基板が望まれている。かかるクラックの問題は、特許文献1の技術においても同様に懸念され、パラジウムなどを含む無機物と、無電解ニッケルリンめっき皮膜と、電解銅めっき皮膜とからなる導体層における電解銅めっき層の厚みを厚くすることで、主に電解銅めっき層の応力によって、前記導体層下のガラス板にクラックが生じてしまう。
【0011】
これは、ガラス板に配線を形成する際に、不要な金属層をエッチングして得られるパラジウムなどを含む無機物と、無電解ニッケルリンめっき皮膜と、電解銅めっき皮膜とからなる導体層の断面構造が、矩形断面であったことが原因であり、導体層直下のガラス板に電解銅めっき層の応力が過度に集中しやすくなってクラックが生じていたといえる。
【0012】
前記導体層下のクラックは、ガラス板側からスパッタにてチタンと銅と、電解銅めっき層を順次積層した場合においても生じた。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、電解銅めっき層を含む導体層を設けたガラス板に応力が集中するのを防ぎ、クラックが生じることを抑制できるガラス配線基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一側面によると、ガラス配線基板は、
ガラス板と、
前記ガラス板の少なくとも一部を被覆する第1の金属層と、
前記第1の金属層の少なくとも一部を被覆する、前記第1の金属層よりもエッチングレートの速い第2の金属層とを有し、
前記第1の金属層と前記第2の金属層をエッチングすることにより、前記第1の金属層を向いた前記第2の金属層の面に、前記第2の金属層の縁から奥側に向かって凹部が形成され、
前記第2の金属層と接する前記第1の金属層の面積は、前記第1の金属層に対面する前記第2の金属層の面積よりも小さい、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、電解銅めっき層を含む導体層を設けたガラス板に応力が集中するのを防ぎ、クラックが生じることを抑制できるガラス配線基板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施態様に係るガラス配線基板1を概略的に示す斜視図。
図2】本発明の一実施態様に係るガラス配線基板1を概略的に示す断面図。
図3図2に示した本発明の一実施態様に係るガラス配線基板1を詳細に示すガラス配線基板2の断面図。
図4】本発明の一実施態様に係るガラス配線基板2の製造方法を概略的に示す断面図。
図5】本発明の実施例に係るガラス配線基板3の製造方法を概略的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する各部分には、同一符号を用いて、重複する説明は省略する。又、本明細書中、「上」とはガラス基板から遠ざかる方向をいい、「下」とはガラス基板に近づく方向をいう。
【0018】
図1は、本発明の一実施態様に係るガラス配線基板1を概略的に示す斜視図である。
【0019】
図1に示すガラス配線基板1は、ガラス板10と、ガラス板10の上に形成された導体層100とを備えている。
【0020】
ガラス板10は、典型的には、光透過性を有する。ガラス板10を構成するガラス材料の成分、及びその配合比率は特に限定されない。ガラス板10としては、例えば、無アルカリガラス、アルカリガラス、ホウ珪酸ガラス、石英ガラス、サファイアガラス、及び感光性ガラスなど、ケイ酸塩を主成分とするガラスを用いることができる。ガラス板10としては、半導体パッケージ及び半導体モジュールに用いられるという観点からは、無アルカリガラスを用いることが望ましい。無アルカリガラスに含まれるアルカリ成分の含有率は、0.1質量%以下であることが好ましい。
【0021】
ガラス板10の厚さは、1mm以下であることが好ましい。ガラス板10の厚さは、貫通孔の形成容易性や製造時のハンドリング性を考慮すると、0.1mm以上、0.8mm以下の範囲内にあることがより好ましい。
【0022】
ガラス板10の製造方法としては、例えば、フロート法、ダウンドロー法、フュージョン法、アップドロー法、及びロールアウト法などが挙げられる。ガラス板10は、いずれの方法によって作製されたものを用いてもよい。
【0023】
ガラス板10の線膨張係数(CTE:Coefficient of 11aermal Expansion)は、20℃以上、260℃以下の温度範囲において、0.5×10-6/K以上、160×10-6/K以下の範囲内にあることが好ましく、0.8×10-6/K以上、50×10-6/K以下の範囲内にあることがより好ましく、1.0×10-6/K以上、8.0×10-6/K以下の範囲内にあることが更に好ましい。ガラス板10の線膨張係数がこの範囲内にあると、ガラス配線基板1上に表面実装されるシリコン基板を用いた半導体チップの線膨張係数との差が小さい傾向にある。なお、線膨張係数とは、温度の上昇に対応して長さが変化する割合を意味している。
【0024】
ガラス板10の少なくとも一方の主面は、機能層を備えていてもよい。機能層としては、例えば、微粒子を含む反射防止層、赤外線吸収剤を含む赤外線遮蔽層、ハードコート材料を含む強度付与層、帯電防止剤を含む帯電防止層、着色剤を含む着色層、光学薄膜を含む光学フィルタ層、光散乱膜を含むテクスチャ制御層及びアンチグレア層など挙げることができる。このような機能層は、例えば、蒸着法、スパッタ法、又はウエット方式などの表面処理技術によって形成することができる。
【0025】
ガラス板10には、貫通孔が設けられていてもよい。
【0026】
貫通孔の厚さ方向に対する平行な断面の形状は、長方形であってもよく、Xシェイプ、すなわち、貫通孔のトップ径及びボトム径に対して、中央部の径がより小さい形状であってもよく、テーパ状、すなわち、貫通孔のトップ径に対してボトム径がより小さい形状であってもよく、Oシェイプ、すなわち、貫通孔のトップ径及びボトム径に対して、中央部の径がより大きい形状であってもよく、その他の形状であってもよい。
【0027】
貫通孔の厚さ方向に対する垂直な断面の形状は、円形であってもよく、楕円形であってもよく、多角形であってもよい。
【0028】
図2は、図1に示すガラス配線基板1において、ガラス板10上に形成された配線の長手方向と垂直になるようにF-F線を通る面で切断したガラス配線基板の断面図である。
【0029】
図2に示す通り、ガラス板10上にはガラス主面10a側に導体層100が設けられている。導体層100は、第1の金属層60と第2の金属層70とからなる。導体層100は、例えば、回路配線や電極パッドを構成している。導体層100はガラス板10のどちらか一方の面に設けられていてもよく、両方の面に設けられていてもよい。
【0030】
第1の金属層60は、ガラス板10の主面10aの少なくとも一部を被覆している。更に、第2の金属層70は、第1の金属層60の少なくとも一部を被覆している。第2の金属層70の下面は、第1の金属層60の上面外縁近傍にて浸食されて削られており、その内側で第1の金属層60の上面に接している。これから明らかであるが、第1の金属層60が第2の金属層70と接する面積は、第1の金属層60に対面する第2の金属層70の面積よりも小さい。換言すれば、第2の金属層70の下面は、第1の金属層60の上面と接しない領域(外周領域)を有する。
【0031】
具体的には、図2に示すように、第2の金属層70は、第1の金属層60側を向いた面の両側に凹部701を形成する。凹部701は、それぞれ導体層端部から奥側に向かって深さa、bを有している。このように、第1の金属層60と第2の金属層70とからなる導体の断面形状は矩形ではなく、接合面に近傍に凹部701(くびれ)が設けられた形状を有する。このような凹部701を設けることにより、第1の金属層60と第2の金属層70とが接する面積は、第1の金属層60の上面と対面する第2の金属層70の下面の面積よりも小さくなり、これにより、くびれが設けられていない場合に比べ、第2の金属層70の応力がガラス主面10aに集中することが抑制されるため、クラックが生じにくくなる。
【0032】
凹部701の深さa、bは両側で同じでもよく、同じでなくてもよい。
【0033】
図3に示すガラス配線基板2は、図2に示すガラス配線基板1をより詳細に示した図である。
【0034】
導体層1000は、第1の金属層600と第2の金属層700とからなる。また、第1の金属層600は例えば、金属層200と、金属層300と、金属層500とを順次積層し、且つ金属層300と金属層500との間に金属含有物400を有してなる。なお、第1の金属層600における金属層の層数は、本例に限定されるわけではない。
【0035】
第2の金属層700はめっき法によって形成される。例えば、第2の金属層700を形成するめっきは、銅(Cu)や銅を含む合金が選択されるが、導電性に優れる電解銅めっきとすることが望ましい。
【0036】
金属層200と金属層300は、スパッタ法又は化学気相堆積(CVD)法によって形成される。例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、金(Au)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)などの金属が挙げられる。また、導電性を有する材料として、Al-Si系合金、Al-Si-Cu系合金、Al-Cu系合金、Ni-Fe系合金、酸化インジウムスズ(ITO)、インジウム酸化亜鉛(IZO)、活性酸化亜鉛(AZO)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、窒化チタン(TiN)、Cu3N4、Cu合金の単体又はこれらの混合物を使用することもできる。
【0037】
金属層200と金属層300は、それぞれスパッタ法で形成されるチタンと銅であることが望ましい。
【0038】
前記金属層200がチタンからなる場合、チタンの厚みは、0.01μm以上、0.1μm以下の範囲内であることが好ましい。チタンの厚みを0.01μm以上にすることでガラスとの良好な密着性が発現する。一方、チタンの厚みは0.1μmより厚くしても、ガラスとの密着性は変化しないため、生産性を考慮して、チタンの厚みは0.1μm以下にするのが望ましい。
【0039】
前記金属層300が銅からなる場合、銅の厚みは、0.09μm以上、0.5μm以下の範囲内であることが好ましい。銅の厚みを0.09μm以上にすることで、銅からなる金属層30上に後述する金属層500をピンホールなく緻密に形成できる。これにより、電気特性が向上する。一方、銅の厚みを0.5μmより厚くしても、電気的特性などに変化は認められないため、生産性を考慮して、銅の厚みは0.5μm以下にするのが望ましい。
【0040】
前記金属層500は、無電解ニッケルリンめっきからなる。前記金属層500を電解銅めっきからなる第2の金属層700よりもエッチングレートが遅い無電解ニッケルリンめっきにより形成することで、配線形成時に不要な無電解ニッケルリンめっきからなる金属層500をエッチングする工程で、第1の金属層600と接する電解銅めっきからなる第2の金属層側が優先的にエッチングされ、第1の金属層600と接する電解銅めっきからなる第2の金属層700側に凹部701が形成される。
【0041】
これにより、第1の金属層600と接する電解銅めっきからなる第2の金属層700の面積は、第1の金属層600の上面と対面する前記第2の金属層700の下面の面積よりも小さくなる。
【0042】
前記無電解ニッケルリンめっき層には、ニッケル及びリン以外にも、硫黄(S)、鉛(Pb)及びビスマス(Bi)などの他の成分を含んでいてもよい。
【0043】
無電解ニッケルリンめっき液は、ニッケルを含む金属塩と、還元剤とを含んでいる。ニッケルを含む金属塩としては、例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル又はこれらの混合物を挙げることができる。無電解ニッケルリンめっき液に含まれるニッケルを含む金属塩の濃度は、10g/L以上、60g/L以下の範囲内にあることが好ましく、15g/L以上、45g/L以下の範囲内にあることがより好ましく、20g/L以上、30g/L以下の範囲内にあることが更に好ましい。
【0044】
還元剤は、ニッケルを含む金属塩を還元する。還元剤としては、例えば、ホルマリン、ヒドラジン、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム又はこれらの混合物を挙げることができるが、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム又はこれらの混合物を使用するのが望ましい。無電解ニッケルリンめっき液に含まれる還元剤の濃度は、10g/L以上、60g/L以下の範囲内にあることが好ましく、15g/L以上、45g/L以下の範囲内にあることがより好ましく、20g/L以上、30g/L以下の範囲内にあることが更に好ましい。
【0045】
無電解ニッケルリンめっき液は、金属系添加剤、有機系添加剤、錯化剤、pH調整剤、緩衝剤又はこれらの混合物を更に含んでいてもよい。
【0046】
金属系添加剤は、無電解ニッケルリンめっき液の安定性を高める。金属系添加剤は、例えば、鉛、ビスマス又はこれらの混合物を含んでいる。
【0047】
有機系添加剤は、ニッケルの析出を促す。有機系添加剤は、例えば、硫黄を含んでいる。
【0048】
錯化剤としては、例えば、水酸化アンモニウム、クエン酸ナトリウム、エチレングリコール又はこれらの混合物を挙げることができる。無電解ニッケルリンめっき液に含まれる錯化剤の濃度は、10g/L以上、60g/L以下の範囲内にあることが好ましく、10g/L以上、50g/L以下の範囲内にあることがより好ましく、20g/L以上、30g/L以下の範囲内にあることが更に好ましい。
【0049】
pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、アンモニア、硫酸又はこれらの混合物を挙げることができる。
【0050】
緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、ホウ酸、炭酸又はこれらの混合物を挙げることができる。
【0051】
また、無電解ニッケルリンめっき液は、塩化アンモニウムを含んでいてもよい。無電解ニッケルリンめっき液に含まれる塩化アンモニウムの濃度は、10g/L以上、60g/L以下の範囲内にあることが好ましく、10g/L以上、50g/L以下の範囲内にあることがより好ましく、20g/L以上、30g/L以下の範囲内にあることが更に好ましい。
【0052】
無電解ニッケルリンめっき皮膜中のリン含有率を5質量%以上、12質量%以下にする場合、無電解ニッケルリンめっき液のpHは3以上、6以下の範囲内とすることが好ましく、5.0以上、5.5以下の範囲内とすることがより好ましい。また、無電解ニッケルリンめっき液の温度は、例えば、60℃以上、80℃以下の範囲内とすることが好ましい。
【0053】
無電解ニッケルリンめっき皮膜中のリン含有率を0.5質量%以上、5質量%未満にする場合、無電解めっき処理に際しては、無電解ニッケルリンめっき液のpHは7以上、9以下の範囲内とすることが好ましい、無電解ニッケルリンめっき液の温度は、例えば、30℃以上、60℃以下の範囲内とすることが好ましい。
【0054】
前記無電解ニッケルリンめっき層の厚さは、例えば、蛍光X線元素分析法により得ることができる。
【0055】
前記銅からなる金属層300と、前記無電解ニッケルリンめっきからなる金属層500との間には、金属含有物400が介在する。金属含有物400は、少なくともパラジウムを含む。金属含有物400は層を成していてもよい。金属含有物400中のパラジウムは、無電解ニッケルリンめっきを形成するための触媒として働く。パラジウムは単体でもよく、無機物との混合物でもよく、有機物との混合物でもよく、さらには、無機物や有機物との混合物でもよい。
【0056】
前記電解銅めっきからなる第2の金属層700と無電解ニッケルリンめっきからなる金属層500とが接する界面で、第2の金属層700に形成される凹部は、前記金属含有物400に含まれるパラジウムの被覆率(単位面積当たりのパラジウムの量)により管理できる。パラジウムの被覆率が、0.01μg/cmから、500μg/cmまで増えるのに従い、電解銅めっきからなる第2の金属層700と無電解ニッケルリンめっきからなる金属層500とが接する面積は小さくなる。すなわち凹部701の深さa、bが増大する。
【0057】
前記銅よりなる金属層300に対し、金属含有物400に含まれるパラジウムの被覆率はパラジウム単体で蛍光X線分析計にて0.01μg/cm以上、500μg/cm以下の範囲内であることが好ましい。パラジウムの被覆率が0.01μg/cmより少ない場合、パラジウムの触媒活性が弱く、無電解ニッケルリンめっきからなる金属層500を形成しにくくなるため望ましくない。また、前記導体層1000の断面構造が矩形状に近くなり、クラック抑制効果が得られない。
【0058】
また、前記少なくともパラジウムを含む金属含有物400は、配線形成時に無電解ニッケルリンめっきよりなる金属層500と銅よりなる金属層300をエッチングする際に、除去されるが、パラジウムの被覆率が500μg/cmより多い場合、無電解ニッケルリンめっきよりなる金属層500と銅よりなり金属層300のエッチング時に、前記金属含有物400中のパラジウムの除去が困難になるため、望ましくない。パラジウムの被覆率は、1μg/cm以上、100μg/cm以下の範囲内であると更に好ましい。
【0059】
前記銅よりなる金属層300に対する金属含有物400中のパラジウム被覆率は、金属層300を触媒化する際のパラジウム処理液への浸漬時間によってコントロールできる。パラジウム処理液には、パラジウム錯体を含んだものや、スズとパラジウムのコロイド溶液などを用いることができる。
【0060】
前記チタンよりなる金属層200と、前記銅よりなる金属層300と、前記少なくともパラジウムを含む金属含有物400と、前記無電解ニッケルリンめっきよりなる金属層500の各界面には各金属由来の金属間化合物層が形成されていてもよい。
【0061】
断面視にて、チタンよりなる金属層200と銅よりなる金属層300と無電解ニッケルリンめっきよりなる金属層500の各層が接する面積は同じでなくてもよい。
【0062】
次に、上述した図3に示すガラス配線基板2の製造方法の一例について、図4(A)から図4(G)を参照しながら説明する。
【0063】
先ず、ガラス板10を準備する。次に、図4(A)に示すように、ガラス板10の主面10aにガラス側から金属層200と金属層300を順次積層する。具体的には、ガラス板10の一方の主面に、スパッタ法により、金属層200と金属層300として、チタン層と、銅層を形成する。
【0064】
次に、図4(B)に示すように、金属層300上に金属含有物400を形成後、金属層500を形成する。具体的には、金属含有物400と金属層500として、少なくともパラジウムを含む層と、無電解ニッケルリンめっき層を形成する。
【0065】
次に、図4(C)に示すように、ガラス主面10a上に設けた無電解ニッケルリンめっきよりなる金属層500上に、ロールラミネート装置などを用いてドライフィルムレジストをラミネートし、フォトリソグラフィーにより、開口部RE0を有するレジスト層RE1を形成する。
【0066】
次に、図4(D)に示すように無電解ニッケルリンめっきよりなる金属層500上に電解銅めっき液中で電解めっき法により、電解銅めっきからなる第2の金属層700を形成する。
【0067】
次に、水酸化ナトリウム溶液やTMAH溶液中などで、レジスト層RE1を剥離して、図4(E)に示す基板を得る。
【0068】
次に、図4(F)に示すように、無電解ニッケルリンめっきよりなる金属層500と銅よりなる金属層300を順次エッチングする。このとき、電解銅めっきよりなる第2の金属層700は、金属含有物400のパラジウムの触媒作用により、無電解ニッケルめっき層よりなる金属層500と接する側の外周で浸食が進行し、凹部701が形成される。
【0069】
次に、チタンよりなる金属層200をエッチングして、図4(G)に示すようなガラス配線基板が得られる。このようにして、少なくともガラス板10の一部を被覆する金属層200と、金属層300と、金属含有物400と、金属層500とからなる第1の金属層600と、第1の金属層の少なくとも一部を被覆する第2の金属層700が得られ、更には、第2の金属層700と接する第1の金属層600の面積が、第1の金属層600と対面する側の第2の金属層700の面積よりも小さいガラス配線基板が得られる。
【0070】
上述したガラス配線基板の構造により、電解銅めっきよりなる第2の金属層700直下のガラスに掛かる応力を緩和することができ、電解銅めっき層を15μmより厚く形成した場合でも、ガラス板10にクラックが発生するのを抑制できる。
【0071】
なお、本発明は上述の実施形態及び変形例に限定されるものではない。この他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能であるのは勿論である。
【実施例
【0072】
以下、導体層下ガラスクラック有無の評価に関する実施例を、比較例と比較して説明する。
【0073】
[導体層下ガラスクラック有無の判定]
以下、実施例1、2及び比較例1で得られたガラス配線基板について、導体層下のガラス板を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、サンプル数N=10にて、ガラスクラックの有無を判定した。
【0074】
<実施例1>
本実施例では、図5の製造例に倣いガラス配線基板3を作製した。
【0075】
先ず、図5(A)に示すように、300μm厚みのガラス板11(OA-10G;日本電気硝子株式会社製)を準備し、ガラス板11の片面に、スパッタ法により50nm厚みのチタン層21と、300nm厚みの銅層31を堆積させた。
【0076】
次に、図5(B)に示すように、銅層31上にパラジウム含有物41を設けた。パラジウム含有物41は、図5(A)記載の基板を室温で1g/Lの塩化パラジウム溶液に60秒間浸漬することで形成した。このときの銅層31上のパラジウム含有物41におけるパラジウム被覆率は1μg/cmであった。更に、パラジウム含有物41上に、めっき液に浸漬することで0.1μm厚みの無電解ニッケルリンめっき層51を形成した。
【0077】
このようにして、チタン層21と銅層31とパラジウム含有物41と無電解ニッケルリンめっき層51からなる第1の金属層61をガラス板11上に設けた。
【0078】
次に、図5(C)に示すように無電解ニッケルリンめっき層51上にロールラミネート装置を用いて、56μm厚みの感光性ドライフィルムレジストをラミネートすることにより、第1レジスト層RE2を形成し、所定の位置を露光、現像することで開口部REOを設けた。RE0の開口サイズは、約500μm×500μmであった。
【0079】
次に図5(D)に示すように硫酸銅めっき液に基板を浸漬し、1ASD(電流密度)で厚みが15μmになるように電解銅めっき層71を形成した。
【0080】
次に、図5(D)で得られた基板を60℃、5%水酸化ナトリウムの水溶液中に浸漬して、RE2を剥離して図5(E)の基板を得た。
【0081】
次に、図5(F)に示すように、無電解ニッケルリンめっき層51と、パラジウム含有物41と、銅層31を、過酸化水素水と硫酸の混合溶液(pH1、温度25℃)を用いてエッチングして、凹部701を備えた電解銅めっき層71を得た。
【0082】
次に、図5(G)に示すように、チタン層21を過酸化水素水とアンモニア水との混合溶液(pH9、温度25℃)を用いて除去した。
【0083】
このようにして、少なくともガラスの一部を被覆するチタン層21と、銅層31と、パラジウム含有物41と、無電解ニッケルリンめっき層51とからなる第1の金属層61と、第1の金属層61の少なくとも一部を被覆する第2の金属層となる電解銅めっき層71が得られ、更には、第1の金属層61と、第2の金属層となる電解銅めっき層71との接触面積が、第1の金属層61と対面する側の第2の金属層となる電解銅めっき層71の面積よりも小さいガラス配線基板4が得られた。
【0084】
このとき、第1の金属層61と第2の金属層となる電解銅めっき層71とが接する面積は24.9×10μmであった。一方、第1の金属層61と対面する第2の金属層となる電解銅めっき層71の面積は25.0×10μmであった。なお、面積の求め方として、ガラス配線基板4を切断し、その切断面を顕微鏡で観察して、第1の金属層61の上面寸法を求め、また第1の金属層61の上面から側方に突出した第2の金属層71の下面寸法を求め、それぞれ面積を演算した。
【0085】
<実施例2>
本実施例2では、実施例1における電解銅めっき層71の厚みを25μmにした。それ以外は、実施例1と同様の製法で実施例2を形成した。
【0086】
このとき、第1の金属層61と第2の金属層となる電解銅めっき層71とが接する面積は24.5×10μmであった。第1の金属層61と対面する第2の金属層となる電解銅めっき層71の面積は25.0×10μmであった。
【0087】
<比較例1>
本比較例1では、パラジウム含有物41と、無電解ニッケルリンめっき層51を用いず、チタン層21と銅層31上に第2の金属層となる電解銅めっき層71を形成した以外は、実施例1と同様の製法でガラス配線基板を得た。
【0088】
得られた導体層中の電解銅めっき層に凹部はなく、矩形断面形状の導体層(不図示)が得られた。すなわち、第1の金属層となる銅層31と第2の金属層となる電解銅めっき層71とが接する面積と、第1の金属層となる銅層31と対面する第2の金属層となる電解銅めっき層71の面積は、共に25.0×10μmであった。
【0089】
表1は、実施例1、2と比較例1について上記の結果をまとめたものである。なお、ガラスクラック評価については、ガラス配線基板の表面を顕微鏡で視認して、クラックの有無を判定した。表1の評価において、10/10OKとは、10サンプルを評価して10サンプルともクラックが生じなかったことを示し、10/10NGとは、10サンプルを評価して10サンプルともクラックが生じたことを示す。
【0090】
【表1】
【0091】
表1に示すように、実施例1,2に掛かるガラス配線基板は、電解銅めっき層の厚みを15μm、25μmとした場合のいずれでも、チタン層と銅層と無電解ニッケルリンめっき層と電解銅めっき層とからなる導体層下でのガラスクラックは認められなかった。一方、比較例1にかかるガラス配線基板は、電解銅めっき層の厚みを15μmとしても全数でクラックが発生していた。これにより、パラジウム含有物を用いることによる効果が確認された。
【符号の説明】
【0092】
1、2、3・・・ガラス配線基板
10、11・・・ガラス板
20、30、50・・・金属層
40・・・金属含有物層
60、61、600・・・第1の金属層
70、700・・・第2の金属層
21・・・チタン層
31・・・銅層
41・・・パラジウム含有物
51・・・無電解ニッケルリンめっき層
71・・・電解銅めっき層
701・・・凹部
RE1、RE2・・・レジスト層
図1
図2
図3
図4
図5