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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】虚像表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/02 20060101AFI20221129BHJP
   G02B 17/08 20060101ALI20221129BHJP
   H04N 5/64 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G02B17/08 Z
H04N5/64 511A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018142207
(22)【出願日】2018-07-30
(65)【公開番号】P2020020857
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】武田 高司
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 将行
(72)【発明者】
【氏名】宮尾 敏明
(72)【発明者】
【氏名】山口 論人
【審査官】近藤 幸浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-200554(JP,A)
【文献】特開2002-090692(JP,A)
【文献】特開2004-341411(JP,A)
【文献】特開平07-104209(JP,A)
【文献】特開2017-198728(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0147331(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/02
G02B 27/01
G02B 17/08
H04N 5/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成部と、
前記画像形成部からの画像光を反射する第1ミラー部材と、
前記画像光を屈折させる屈折面と、前記第1ミラー部材で反射され、前記屈折面を介し
て入射された前記画像光を反射するミラー面と、を有する第2ミラー部材と、
前記第2ミラー部材の前記ミラー面で反射され、前記第2ミラー部材の前記屈折面を介
して入射された前記画像光を射出瞳の位置に向けて反射する透過型の第3ミラー部材と
を備え、
前記第1ミラー部材、前記第2ミラー部材、及び前記第3ミラー部材を通過する光軸は
、観察者の一対の瞳が並ぶ横方向に対して交差して略縦方向に延びる平面に沿って配置さ
れ、
前記第2ミラー部材の前記屈折面は、偏芯方向に関して前記光軸を挟んで非対称性を有
し、前記横方向に関して前記光軸を挟んで対称性を有する、虚像表示装置。
【請求項2】
前記第1ミラー部材、前記第2ミラー部材、及び前記第3ミラー部材の反射面又はミラ
ー面は、非球面又は自由曲面である、請求項1に記載の虚像表示装置。
【請求項3】
前記第2ミラー部材の屈折面は、非球面又は自由曲面である、請求項1または2に記載
の虚像表示装置。
【請求項4】
前記第2ミラー部材前記屈折面は、画面中心からの主光線に対して略垂直である、請求
項3に記載の虚像表示装置。
【請求項5】
前記第1ミラー部材と前記第3ミラー部材とは、板状体の一方の表面上にミラー膜を形
成した構造を有するミラー板である、請求項1~4のいずれか一項に記載の虚像表示装置
【請求項6】
前記第1ミラー部材と前記画像形成部との間又は前記第1ミラー部材と前記第2ミ
ラー部材との間の光路上に第4ミラー部材を備える、請求項1~5のいずれか一項に記
載の虚像表示装置。
【請求項7】
前記画像形成部は、前記第1ミラー部材、前記第2ミラー部材、及び前記第3ミラー部
材による歪曲収差を補正する歪んだ修正画像を表示する、請求項1~6のいずれか一項に
記載の虚像表示装置。
【請求項8】
前記第3ミラー部材は、前記射出瞳の位置を覆うとともに前記射出瞳の位置に向かって
凹形状を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の虚像表示装置。
【請求項9】
前記第1ミラー部材及び前記第2ミラー部材のそれぞれは、前記第3ミラー部材よりも
前記観察者の頭部側に対応する上側に配置される、請求項1~8に記載の虚像表示装置。
【請求項10】
前記第2ミラー部材は、アッベ数が50以上の材料で形成されている、請求項1~9
いずれか一項に記載の虚像表示装置。
【請求項11】
前記第2ミラー部材と前記射出瞳の位置との距離は、14mm以上である、請求項1~
10のいずれか一項に記載の虚像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミラーを含むヘッドマウントディスプレイ及びその他の虚像表示装置に関し、特にシースルー視が可能な虚像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヘッドマウントディスプレイのように虚像の形成及び観察を可能にする虚像表示装置として、ミラー又は導光体のような光学素子によって表示素子からの画像光を観察者の瞳に導くタイプのものが種々提案されている。
【0003】
特許文献1に記載の光学系は、4個の偏芯曲面ミラーで構成され、第1の偏芯曲面ミラーは、回転楕円面又は回転楕円面をベースとする非球面であり、第2の偏芯曲面ミラーは、双曲面又は双曲面をベースとする非球面である。光学系を偏芯曲面ミラーで構成することにより、導光体を用いる場合に比較して軽量化の達成が容易となる。
【0004】
しかしながら、光学系を偏芯曲面ミラーだけで構成する場合、光学面同士つまり反射面同士をそのサイズ程度以下に近づけることができないため、収差の補正が不十分となりやすく、解像度その他の光学性能を確保できず画角を大きくすることが容易でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-189880号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明の一側面における虚像表示装置は、画像形成部と、前記画像形成部からの画像光
を反射する第1ミラー部材と、前記画像光を屈折させる屈折面と、前記第1ミラー部材で
反射され、前記屈折面を介して入射された前記画像光を反射するミラー面と、を有する
2ミラー部材と、前記第2ミラー部材の前記ミラー面で反射され、前記第2ミラー部材の
前記屈折面を介して入射された前記画像光を射出瞳の位置に向けて反射する透過型の第3
ミラー部材とを備え、前記第1ミラー部材、前記第2ミラー部材、及び前記第3ミラー
部材を通過する光軸は、観察者の一対の瞳が並ぶ横方向に対して交差して略縦方向に延び
る平面に沿って配置され、前記第2ミラー部材の前記屈折面は、偏芯方向に関して前記光
軸を挟んで非対称性を有し、前記横方向に関して前記光軸を挟んで対称性を有する
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態の虚像表示装置を説明する側断面図である。
図2】第1実施形態の虚像表示装置を説明する斜め下方からの斜視図である。
図3】第1実施形態の虚像表示装置を説明する正面図である。
図4】第1実施形態の虚像表示装置の光学的構造等を説明する側断面図である。
図5】表示デバイスに形成された表示像の強制的歪曲を説明する図である。
図6】第1ミラー部材の反射面等の構造を説明する拡大断面図である。
図7】第2ミラー部材の屈折面、反射面等の構造を説明する拡大断面図である。
図8】第3ミラー部材の反射面等の構造を説明する拡大断面図である。
図9】光学面の偏芯及びチルトを説明する概念図である。
図10】第2実施形態の虚像表示装置の光学的構造等を説明する側断面図である。
図11】第3実施形態の虚像表示装置の光学的構造等を説明する側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔第1実施形態〕
以下、図面を参照して本発明に係る第1実施形態の虚像表示装置について説明する。
【0009】
図1~3において、X、Y、及びZは、直交座標系であり、X方向は、虚像表示装置100を装着した観察者USの両眼の並ぶ横方向に対応し、Y方向は、観察者USにとっての両眼の並ぶ横方向に直交する上方向に相当し、Z方向は、観察者USにとっての前方向又は正面方向に相当する。
【0010】
図示の虚像表示装置100は、ヘッドマウントディスプレイであり、観察者USに虚像としての映像を認識させる。虚像表示装置100は、表示デバイス11と、投射光学系12とを備える。投射光学系12は、第1ミラー部材21と、第2ミラー部材22と、第3ミラー部材23とを備える。ここで、第2ミラー部材22は、屈折部材22bとミラー面22rとを有する屈折反射光学部材30である。表示デバイス11と第2ミラー部材22とは、一体的に固定されて、上部でフレーム80の本体部材81に支持される。また、第1ミラー部材21と第3ミラー部材23とは、相互に連結されて一体的な外観部材50を構成し、上部及び側部でフレーム80の本体部材81に支持される。外観部材50は、表示デバイス11及び第2ミラー部材22よりも外側又は外界側において両者に対して位置決めされた状態で配置されている。外観部材50は、メガネレンズ状の輪郭を有し、観察者USの眼を覆って外側に凸の湾曲した形状を有する。なお、図1等では、右眼用の虚像表示装置100のみを示しているが、左眼用の虚像表示装置100も同様の構造を有し、両眼用の虚像表示装置を組み合わせることで、全体として眼鏡のような外観を有する虚像表示装置となる。なお、両眼用の虚像表示装置については、右眼用又は左眼用の部分のうち一方を省略することができ、この場合、片眼型のヘッドマウントディスプレイとなる。光路の概要について説明すると、表示デバイス11から射出された画像光GLは、第1ミラー部材21で反射されて第2ミラー部材22に入射する。第2ミラー部材22に入射した画像光GLは、第2ミラー部材22で屈折されるとともに反射されて第2ミラー部材22外に射出される。第2ミラー部材22から射出された画像光GLは、透過型の第3ミラー部材23で反射されて射出瞳EPの位置に入射する。
【0011】
フレーム80は、メガネと類似した構造を有し、本体部材81の側方端部に連結されるツル部82を備え、本体部材81の中央から延びる金具の先端にノーズパッド83を備える。
【0012】
図4を参照して、表示デバイス11は、画像形成部であり、投射光学系12よりも観察者USの頭部側に対応する上側又は+Y側に配置されている。表示デバイス(画像形成部)11は、例えば有機EL(有機エレクトロルミネッセンス、Organic Electro-Luminescence)、無機EL、LEDアレイ、有機LED、レーザーアレイ、量子ドット発光型素子等に代表される自発光型の表示素子であり、2次元の表示面11aにカラーの静止画又は動画を形成する。表示デバイス11は、不図示の駆動制御回路に駆動されて表示動作を行う。表示デバイス11として有機ELのディスプレイを用いる場合、有機EL制御部を備える構成とする。表示デバイス11として量子ドットディスプレーを用いる場合、青色発光ダイオード(LED)の光を量子ドットフィルムに通すことにより、緑や赤の色を出す構成とする。表示デバイス11は、自発光型の表示素子に限らず、LCDその他の光変調素子で構成され、当該光変調素子をバックライトのような光源によって照明することによって画像を形成するものであってもよい。表示デバイス11として、LCDに代えて、LCOS(Liquid crystal on silicon, LCoSは登録商標)や、デジタル・マイクロミラー・デバイス等を用いることもできる。
【0013】
図5に示すように、表示デバイス11の表示面11aに形成される表示像DAは、仮想的な格子の歪みから分かるように台形歪を持たせた修正画像となっている。後述するように、投射光学系12が偏芯光学系であることから、台形歪のようなティスト―ションを取りきることは容易でない。よって、投射光学系12にティスト―ションが残存していても、表示面11aに形成する表示像DAに予め歪を持たせておくことで、投射光学系12を経て射出瞳EPの位置で観察される虚像の投影像IGの画素配列を格子パターンとすることができ輪郭を矩形とすることができる。これにより、観察者USはティスト―ションの少ない投影像IGを観察することができ、投射光学系12におけるその他の収差の補正が容易になる。表示面11aに形成する表示像(修正画像)DAは、画像処理によって強制的なティスト―ションを形成したものとできる。表示面11aが矩形である場合、強制的なティスト―ションを形成することで余白が形成されるが、このような余白に付加情報を表示させることもできる。表示面11aに形成する表示像(修正画像)DAは、画像処理によって強制的なティスト―ションを形成したものに限らず、例えば表示面11aに形成された表示画素の配列を強制的なティスト―ションに対応するものしてもよい。この場合、ティスト―ションを補正する画像処理は不要となる。さらに、表示面11aに収差を補正する湾曲を持たせることもできる。
【0014】
図4に戻って、投射光学系12は、斜入射又は非正反射を利用する非共軸光学系又は偏芯光学系である。投射光学系12の偏芯方向は、第1ミラー部材21、第2ミラー部材22等の配置によって規定される。具体的には、第1ミラー部材21、第2ミラー部材22、及び第3ミラー部材23は、偏芯方向をYZ面内に設定したものとなっている。つまり、第1ミラー部材21、第2ミラー部材22、及び第3ミラー部材23を通過する光軸AXは、観察者の一対の瞳EYが並ぶ横方向つまりX方向に対して交差して略縦方向に延びる平面に沿って配置され、より具体的にはX方向に対して直交して縦方向に延びるYZ平面に沿って配置される。光軸AXを縦のYZ平面に沿って配置することで、横方向の画角を広くし易くなる。光軸AXを含む面がZ軸の周りに時計方向又は反時計方向(つまり左右)に数10°程度傾いても、略縦方向に延びていれば、画角への影響はあまり大きくならない。また、第1ミラー部材21は、第2ミラー部材22よりも観察者USの頭部側に対応する上側又は+Y側に配置され、第2ミラー部材22は、第3ミラー部材23よりも観察者USの頭部側に対応する上側又は+Y側に配置されている。ここで、上側又は+Y側とは、各ミラー部材21,22,23と光軸AXとの交点又は接点を基準として考える。
【0015】
第1ミラー部材21は、凹の表面ミラーとして機能する板状の部品であり、表示デバイス11からの画像光GLを反射する。つまり、第1ミラー部材21は、板状体21bの一方の表面21s上にミラー膜21cを形成した構造を有するミラー板21aである(図6参照)。第1ミラー部材21の反射面21rは、例えば自由曲面であり、ミラー膜21cの表面又は板状体21bの表面21sに対応する形状を有する。反射面21rは、自由曲面に限らず、非球面とすることもできる。反射面21rは、YZ面内にある偏芯方向に対応する第1方向D1に関して光軸AXを挟んで非対称性を有し、第1方向D1に直交する第2方向D2又はX方向に関して光軸AXを挟んで対称性を有する。第1ミラー部材21の板状体21bは、例えば樹脂で形成されるが、ガラス製とすることもできる。ミラー膜21cは、例えばAl、Ag等の金属の単層膜L11又は多層膜L12で形成されるが、誘電体多層膜L13とすることもできる。ミラー膜21cは、蒸着等の手法を含む積層によって形成できるが、シート状の反射膜を貼り付けることによっても形成できる。
【0016】
以上の第1ミラー部材21において、反射面21rを自由曲面又は非球面とすることで、収差低減を図ることができ、特に自由曲面を用いた場合、非共軸光学系又は偏芯光学系である投射光学系12の収差を低減することが容易になる。なお、自由曲面は回転対称軸をもたない面であり、自由曲面の面関数としては、各種多項式を用いることができる。また、非球面は、回転対称軸をもつ面であるが、放物面や多項式で表される球面以外の面である。
【0017】
第2ミラー部材22は、レンズ及びミラーとして機能するプリズム状の部材である屈折反射光学部材30であり、第1ミラー部材21からの画像光GLを屈折させつつ反射する。第2ミラー部材22又は屈折反射光学部材30は、屈折面22eを有する屈折部材22bと、当該屈折部材22bの非屈折面22dに形成されたミラー層22cとを有する(図7参照)。第2ミラー部材22の屈折部材22bは、例えば樹脂で形成されるが、ガラス製とすることもできる。屈折部材22bは、色収差の発生を抑える観点で、アッベ数が50以上の材料で形成されることが望ましい。ミラー層22cは、例えばAl、Ag等の金属の単層膜L21又は多層膜L22で形成されるが、誘電体多層膜L23とすることもできる。ミラー膜22cは、積層によって形成できるが、シート状の反射膜を貼り付けることによっても形成できる。
【0018】
第2ミラー部材22の屈折面22eは、例えば自由曲面であるが、非球面とすることもできる。屈折面22eは、ミラー面22rでの反射の前後における画像光GLが通過する共通の入出射面となっている。つまり、第1ミラー部材21からの光線は、屈折面22eで屈折されて第2ミラー部材22中に入射し、ミラー面22rで反射されて第2ミラー部材22外に射出される際に、屈折面22eで再度屈折される。屈折面22eは、YZ面内にある偏芯方向に対応する第1方向D21に関して光軸AXを挟んで非対称性を有し、第1方向D21に直交する第2方向D22又はX方向に関して光軸AXを挟んで対称性を有する。屈折面22eには、反射防止膜L24が形成されている。
【0019】
第2ミラー部材22のミラー面22rは、例えば自由曲面であり、ミラー層22cの内面又は屈折部材22bの非屈折面22dに対応する形状を有する。ミラー面22rは、自由曲面に限らず、非球面とすることもできる。ミラー面22rは、YZ面内にある偏芯方向に対応する第1方向D31に関して光軸AXを挟んで非対称性を有し、第1方向D31に直交する第2方向D32又はX方向に関して光軸AXを挟んで対称性を有する。
【0020】
第3ミラー部材23は、凹の表面ミラーとして機能する板状の部品であり、第2ミラー部材22からの画像光GLを反射する。第3ミラー部材23は、瞳EYが配置される射出瞳EPの位置を覆うとともに射出瞳EPの位置に向かって凹形状を有する。第3ミラー部材23は、板状体23bの一方の表面23s上にミラー膜23cを形成した構造を有するミラー板23aである(図8参照)。第3ミラー部材23の反射面23rは、例えば自由曲面であり、ミラー膜23cの表面又は板状体23bの表面23sに対応する形状を有する。反射面23rは、自由曲面に限らず、非球面とすることもできる。反射面23rは、YZ面内にある偏芯方向に対応する第1方向D41に関して光軸AXを挟んで非対称性を有し、第1方向D41に直交する第2方向D42又はX方向に関して光軸AXを挟んで対称性を有する。
【0021】
第3ミラー部材23は、反射に際して一部の光を透過させる透過型の反射素子であり、第3ミラー部材23のミラー膜23cは、半透過性を有する。これにより、外界光OLが第3ミラー部材23を通過するので、外界のシースルー視が可能になり、外界像に虚像を重ねることができる。この際、板状体23bが数mm程度以下に薄ければ、外界像の倍率変化を小さく抑えることができる。ミラー膜23cの画像光GLや外界光OLに対する反射率は、画像光GLの輝度確保や、シースルーによる外界像の観察を容易にする観点で、想定される画像光GLの入射角範囲において10%以上50%以下とする。第3ミラー部材23の板状体23bは、例えば樹脂で形成されるが、ガラス製とすることもできる。ミラー膜23cは、例えば膜厚を調整した複数の誘電体層からなる誘電体多層膜L31で形成される。ミラー膜23cは、膜厚を調整したAl、Ag等の金属の単層膜L32又は多層膜L33であってもよい。ミラー膜22cは、積層によって形成できるが、シート状の反射膜を貼り付けることによっても形成できる。
【0022】
第2ミラー部材23と射出瞳EPの位置との距離や、第3ミラー部材23と射出瞳EPの位置との光路上の距離は、射出側の光軸AX又はZ軸に沿って14mm以上に設定されており、メガネレンズを配置する空間が確保されている。第3ミラー部材23の外界側には反射防止膜を形成することができる。
【0023】
以上の実施形態において、第1ミラー部材21の反射面21r、第2ミラー部材22の屈折面22e、第2ミラー部材22のミラー面22r、及び第3ミラー部材23の反射面23rを自由曲面又は非球面とすることで、収差低減を図ることができ、特に自由曲面を用いた場合、非共軸光学系又は偏芯光学系である投射光学系12の収差を低減することが容易になる。
【0024】
光路について説明すると、表示デバイス11からの画像光GLは、第1ミラー部材21に入射して反射面21rによって100%に近い高い反射率で反射される。第1ミラー部材21で反射された画像光GLは、第2ミラー部材22に入射して屈折面22eで屈折され、ミラー面22rによって100%に近い高い反射率で反射され、再度屈折面22eで屈折される。第2ミラー部材22からの画像光GLは、第3ミラー部材23に入射して反射面23rによって50%程度以下の反射率で反射される。第3ミラー部材23で反射された画像光GLは、観察者USの瞳EYが配置される射出瞳EPに入射する。第2ミラー部材22と第3ミラー部材23との間には中間像IIが形成されている。中間像IIは、表示デバイス11の表示面11aに形成された画像を適宜拡大したものとなっている。中間像IIは、屈折面22eに付着したゴミ等の影響を回避するため、屈折面22eと交差しないものとなっている。射出瞳EPの位置で観察される画角は対角約48°を想定している。
【0025】
以上で説明した第1ミラー部材21や第3ミラー部材23は、表面ミラーに限られるものではなく、板状体21b,23bの裏面にミラー膜21c,23cを形成した裏面ミラーとすることができる。
【0026】
上記のように第2ミラー部材22を屈折反射光学部材30とする代わりに、第1ミラー部材21を屈折反射光学部材30とすることができ、第1ミラー部材21と第2ミラー部材22との双方を屈折反射光学部材30とすることもできる。
【0027】
以上で説明した第1実施形態の虚像表示装置100によれば、第1ミラー部材21及び第2ミラー部材22の一方が屈折面22eを有する屈折部材22bと非屈折面22dに形成されたミラー面22rとを有する屈折反射光学部材30であるので、複数のミラーを備える偏芯ミラー系を基本としつつも屈折部材22bの屈折面22eに収差を補正する役割を持たせ、広い画角に亘って解像度その他の光学性能を高めることができる。
【0028】
〔実施例1〕
以下では、第1実施形態の虚像表示装置100の光学系を具体化した実施例1について説明する。実施例1のデータにおいて、自由曲面をxy多項式面で表している。xy多項式面の係数は、zを光軸方向として、以下の式で与えられる。
ここで、
z:z軸に平行な面のサグ量
c:頂点曲率
k:コーニック係数
:単項式xの係数
r:半径方向の距離(r=√(x+y))
なお、C=C×{(正規化半径)(m+n-1)}である。
【0029】
以下の表1は、係数Cを具体的に説明する表である。
[表1]
【0030】
図9は、光学面の偏芯とチルトを説明する概念図である。実施例1の光学系は、光学面間で偏芯とチルトとを複合したものとなっている。具体的には、元の(x,y,z)座標に対して偏芯ベクトル(XDE,YDE,ZDE)による並進移動の操作を行って(xi,yi,zi)座標を得る。その後、(xi,yi,zi)座標を、その原点に対してティルトオフセットベクトル(XOD,YOD,ZOD)だけ移動したティルトオフセット点を中心として回転させて、偏芯とチルトとを与えた(x',y',z')座標を得ている。
【0031】
以下の表2は、実施例1の虚像表示装置を構成する各面のパラメーターを示す。表中で距離の単位はmmである。
[表2]
表中で、「像」は、射出瞳EPを意味し、「物体」は、表示デバイス11の表示面11aを意味する。この場合、射出瞳EPから表示面11aに向けて光線を辿っていることになる。面名称であるM1~M3は、第3ミラー部材23の反射面23r、第2ミラー部材22のミラー面22r、及び第1ミラー部材21の反射面21rをそれぞれ意味する。表2には、縦のy曲率半径、隣接する面間の面間隔、屈折媒体の材質、及び面の屈折及び反射の別が記載されている。なお、屈折媒体の材質において、樹脂Aは、可視域で屈折率が1.53程度でアッべ数が56の樹脂材を意味し、SILICAは、可視域で屈折率1.47程度の石英ガラスを意味する。
【0032】
以下の表3は、実施例1に含まれる自由曲面を与える多項式の係数Cをまとめた表である。
[表3]
表中で、記号s2,s4,s5,s6,s8は、表2の面番号に対応し、s2は、第3ミラー部材23の反射面23rを意味し、s4及びs6は、第2ミラー部材22の屈折面22eを意味し、s5は、第2ミラー部材22のミラー面22rを意味し、s8は、第1ミラー部材21の反射面21rを意味する。なお、係数の数値は、正規化曲率半径を用いて表している。
【0033】
以下の表4は、実施例1に含まれる光学面の偏芯とチルトをまとめた表である。表中で距離の単位はmmであり、角度の単位は°である。
[表4]
表中で、記号s2,s4,s5,s6,s8は、表3に示すものと同じ光学面を示している。
【0034】
〔第2実施形態〕
以下、本発明の第2実施形態に係る虚像表示装置について説明する。なお、第2実施形態の虚像表示装置は、第1実施形態の虚像表示装置を部分的に変更したものであり、共通部分については説明を省略する。
【0035】
図10に示すように、第2実施形態の虚像表示装置100は、第1実施形態と同様に、投射光学系12として、第1ミラー部材21と、第2ミラー部材22と、第3ミラー部材23とを備えるが、屈折反射光学部材30である第2ミラー部材22の屈折面22eは、画像光GLにとって共通の入出射面となっていない。第2ミラー部材22は、屈折面22eとして、第1ミラー部材21からの画像光GLが入射する入射面22eaと、ミラー面22rで反射された画像光GLが入射する出射面22ebとを有する。入射面22eaと出射面22ebとは光路的に独立している。
【0036】
第2ミラー部材22の入射面22eaは、例えば自由曲面であるが、非球面とすることもできる。入射面22eaは、YZ面内にある偏芯方向に対応する第1方向D21aに関して光軸AXを挟んで非対称性を有し、第1方向D21aに直交する第2方向D22a又はX方向に関して光軸AXを挟んで対称性を有する。第2ミラー部材22の出射面22ebは、例えば自由曲面であるが、非球面とすることもできる。出射面22ebは、YZ面内にある偏芯方向に対応する第1方向D21bに関して光軸AXを挟んで非対称性を有し、第1方向D21bに直交する第2方向D22b又はX方向に関して光軸AXを挟んで対称性を有する。
【0037】
屈折面22eである入射面22eaや出射面22ebは、画面中心からの主光線LPに対して略垂直である。画面中心からの主光線は、図10において、光軸AXに略並行な状態となっている。ここで、略垂直とは、65°~115°程度の範囲を意味する。入射面22eaや出射面22ebを画面中心からの主光線に対して略垂直に設定することで、色収差の発生を抑えることができる。
【0038】
第2実施形態の場合、第1ミラー部材21や第3ミラー部材23は、裏面ミラーである。つまり、第1ミラー部材21は、板状体21bの一方の表面21sが屈折面であり、他方の表面21t上にミラー膜21cを形成した構造を有する。第1ミラー部材21の反射面21rは、ミラー膜21cの内面又は板状体21bの表面21tに対応する形状を有する。屈折面である一方の表面21s上には、反射防止膜を形成することもできる。一方の表面21sは、他方の表面21tと略平行に延び、収差補正機能をほとんど有していない。第3ミラー部材23は、板状体23bの一方の表面23sが屈折面であり、他方の表面23t上にミラー膜23cを形成した構造を有する。第3ミラー部材23の反射面23rは、ミラー膜23cの内面又は板状体23bの表面23tに対応する形状を有する。屈折面である一方の表面23s上には、反射防止膜を形成することもできる。一方の表面23sは、他方の表面23tと略平行に延び、収差補正機能をほとんど有していない。
【0039】
第1ミラー部材21や第3ミラー部材23は、裏面ミラーに限られるものではなく、第1実施形態と同様に表面ミラーとすることができる。
【0040】
上記のように、第2ミラー部材22を一対の入射面22ea及び出射面22ebを有する半分離型の屈折反射光学部材30とする代わりに、第1ミラー部材21を一対の入射面及び出射面を有する半分離型の屈折反射光学部材30とすることができ、第1ミラー部材21と第2ミラー部材22との双方を一対の入射面及び出射面を有する半分離型の屈折反射光学部材30とすることもできる。
【0041】
〔第3実施形態〕
以下、本発明の第3実施形態に係る虚像表示装置について説明する。なお、第3実施形態の虚像表示装置は、第1実施形態の虚像表示装置を部分的に変更したものであり、共通部分については説明を省略する。
【0042】
図11に示すように、第3実施形態の虚像表示装置100は、第1実施形態と同様に、投射光学系12として、第1ミラー部材21と、第2ミラー部材22と、第3ミラー部材23とを備えるが、表示デバイス(画像形成部)11と第1ミラー部材21との間の光路上に第4ミラー部材24をさらに備える。この光学的構成は、見方を変えると、第1ミラー部材(ミラー部材24に相当)と第2ミラー部材22との間の光路上に第4ミラー部材(ミラー部材21に相当)をさらに備えると考えることができる。
【0043】
第4ミラー部材24は、表面ミラーとして機能する板状の部品である。つまり、第4ミラー部材24は、板状体24bの一方の表面24s上にミラー膜24cを形成した構造を有するミラー板24aである。第4ミラー部材24の反射面24rは、例えば自由曲面であり、ミラー膜24cの表面又は板状体24bの表面24sに対応する形状を有する。反射面24rは、自由曲面に限らず、非球面とすることもできる。反射面24rは、YZ面内にある偏芯方向に対応する第1方向D51に関して光軸AXを挟んで非対称性を有し、第1方向D51に直交する第2方向D52又はX方向に関して光軸AXを挟んで対称性を有する。第4ミラー部材24の板状体24bは、例えば樹脂で形成されるが、ガラス製とすることもできる。ミラー膜24cは、例えば金属で形成されるが、誘電体多層膜とすることもできる。
【0044】
第1ミラー部材21や第3ミラー部材23は、表面ミラーに限られるものではなく、板状体21b,23bの裏面にミラー膜21c,23cを形成した裏面ミラーとすることができる。第4ミラー部材24も、板状体24bの裏面にミラー膜24cを形成した裏面ミラーとすることができる。
【0045】
〔実施例2〕
以下では、第3実施形態の虚像表示装置100の光学系を具体化した実施例2について説明する。実施例2のデータも、実施例1のデータと同様の様式で表現されており、用語の定義等についての重複説明を省略する。
【0046】
以下の表5は、実施例2の虚像表示装置を構成する各面のパラメーターを示す。表中で距離の単位はmmである。
[表5]
表中で、面名称であるM1~M4は、第3ミラー部材23の反射面23r、第2ミラー部材22のミラー面22r、第1ミラー部材21の反射面21r、及び第4ミラー部材24の反射面24rをそれぞれ意味する。
【0047】
以下の表6は、実施例2に含まれる自由曲面を与える多項式の係数Cをまとめた表である。
[表6]
表中で、記号s2,s4,s5,s6,s7,s9は、表5の面番号に対応する。
【0048】
以下の表7は、実施例2に含まれる光学面の偏芯とチルトをまとめた表である。表中で距離の単位はmmであり、角度の単位は°である。
[表7]
表中で、記号s2,s4,s5,s6,s7,s9は、表6に示すものと同じ光学面を示している。
【0049】
上記のように第2ミラー部材22を屈折反射光学部材30とする代わりに、第1ミラー部材21又は第4ミラー部材24を屈折反射光学部材30とすることができ、第1ミラー部材21と第2ミラー部材22と第4ミラー部材24との2つ以上を屈折反射光学部材30とすることもできる。
【0050】
〔変形例その他〕
以上実施形態に即して本発明を説明したが、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0051】
上記実施形態の虚像表示装置100では、表示デバイス11として有機EL素子等の自発光型の表示素子を用いているが、これに代えて、レーザー光源とポリゴンミラー等であるスキャナーとを組みあわせたレーザスキャナーを用いた構成も可能である。つまり、レーザー網膜投影型のヘッドマウントディスプレイに対して本発明を適用することも可能である。
【0052】
第2ミラー部材22のミラー面22rは、ミラー層22cによって形成されるものに限らず、全反射条件を満たす全反射面であってもよい。
【0053】
第3ミラー部材23の外界側には、第3ミラー部材23の透過光を制限することで調光を行う調光デバイスを取り付けることができる。調光デバイスは、例えば電動で透過率を調整する。調光デバイスとして、ミラー液晶、電子シェード等を用いることができる。調光デバイスは、外光照度に応じて透過率を調整するものであってもよい。調光デバイスによって外界光OLを遮断する場合、外界像の作用を受けていない虚像のみを観察できる。また、本願発明の虚像表示装置は、外光を遮断し画像光のみを視認させるいわゆるクローズ型の頭部搭載型表示装置(HMD)に適用できる。この場合、虚像表示装置と撮像装置とで構成されるいわゆるビデオシースルーの製品に対応させたりするものとしてもよい。
【0054】
第3ミラー部材の23のミラー膜23cについては、半透過性を有するものに限らず、ワイヤーグリッド素子のように特定偏光成分を反射するようなものであってもよい。第3ミラー部材の23のミラー膜23cについては、体積ホログラムやその他のホログラム素子で構成することもでき、回折格子で構成することもできる。
【0055】
以上では、虚像表示装置100が頭部に装着されて使用されることを前提としたが、上記虚像表示装置100は、頭部に装着せず双眼鏡のようにのぞき込むハンドヘルドディスプレイとしても用いることができる。つまり、本発明において、ヘッドマウントディスプレイには、ハンドヘルドディスプレイも含まれる。
【符号の説明】
【0056】
11…表示デバイス、11a…表示面、12…投射光学系、21…第1ミラー部材、21a,23a…ミラー板、21c,23c…ミラー膜、21s,21t…表面、23r,23r…反射面、22…第2ミラー部材、22b…屈折部材、22c…ミラー層、22d…非屈折面、22e…屈折面、22ea…入射面、22eb…出射面、22r…ミラー面、23…第3ミラー部材、24…第4ミラー部材、24a…ミラー板、24c…ミラー膜、24r…反射面、30…屈折反射光学部材、50…外観部材、80…フレーム100…虚像表示装置、AX…光軸、DA…表示像、EP…射出瞳、EY…瞳、GL…画像光、IG…投影像、II…中間像、OL…外界光
図1
図2
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図9
図10
図11