IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーエプソン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-虚像表示装置 図1
  • 特許-虚像表示装置 図2
  • 特許-虚像表示装置 図3
  • 特許-虚像表示装置 図4
  • 特許-虚像表示装置 図5
  • 特許-虚像表示装置 図6
  • 特許-虚像表示装置 図7
  • 特許-虚像表示装置 図8
  • 特許-虚像表示装置 図9
  • 特許-虚像表示装置 図10
  • 特許-虚像表示装置 図11
  • 特許-虚像表示装置 図12
  • 特許-虚像表示装置 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】虚像表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/02 20060101AFI20221129BHJP
   G02B 17/08 20060101ALI20221129BHJP
   H04N 5/64 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G02B17/08 Z
H04N5/64 511A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018142209
(22)【出願日】2018-07-30
(65)【公開番号】P2020020859
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】武田 高司
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 将行
(72)【発明者】
【氏名】宮尾 敏明
(72)【発明者】
【氏名】山口 論人
【審査官】近藤 幸浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-503865(JP,A)
【文献】特開平07-104209(JP,A)
【文献】特開2017-198728(JP,A)
【文献】特開2013-200554(JP,A)
【文献】特開2006-209144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/02
G02B 27/01
G02B 17/08
H04N 5/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成部と、
前記画像形成部からの画像光を屈折させるレンズと、
前記レンズを通過した画像光を反射させる第1ミラー部材と、
画像光が入射される入射側で前記第1ミラー部材で反射された画像光を屈折させ、入射
側で屈折させた画像光を反射させるミラー層を有する第2ミラー部材と、
前記第2ミラー部材で反射された画像光を射出瞳の位置に向けて反射させる透過型の第
3ミラー部材と、
前記レンズと前記第2ミラー部材とを接合する接合部と、を備え、
前記第2ミラー部材は、前記第1ミラー部材で反射された画像光が入射され、前記ミラ
ー層で反射された画像光を前記第3ミラー部材に向けて通過させる屈折面を有する、虚像
表示装置。
【請求項2】
前記第2ミラー部材は、前記第1ミラー部材で反射された画像光が入射される入射側の
屈折面と、前記ミラー層で反射された画像光を前記第3ミラー部材に向けて通過させる出
射側の屈折面と、を有する、請求項1に記載の虚像表示装置。
【請求項3】
前記レンズの入射面は、前記第1ミラー部材及び前記第2ミラー部材によって規定され
る偏芯方向に対応する第1方向の光軸を含む断面において前記光軸に対して傾斜している
、請求項1または請求項2に記載の虚像表示装置。
【請求項4】
前記レンズのレンズ面及び前記第2ミラー部材の前記屈折面は、非球面又は自由曲面で
ある、請求項1~3のいずれか一項に記載の虚像表示装置。
【請求項5】
前記第2ミラー部材の前記ミラーは、非球面又は自由曲面である、請求項に記載の虚
像表示装置。
【請求項6】
前記第1ミラー部材と前記第3ミラー部材とは、板状体の一方の表面上にミラー膜を形
成した構造を有するミラー板である、請求項1~のいずれか一項に記載の虚像表示装置
【請求項7】
前記第1ミラー部材及び前記第3ミラー部材の反射面は、非球面又は自由曲面である、
請求項に記載の虚像表示装置。
【請求項8】
前記画像形成部は、前記レンズ、前記第1ミラー部材、前記第2ミラー部材、及び前記
第3ミラー部材による歪曲収差を補正する歪んだ修正画像を表示する、請求項1~のい
ずれか一項に記載の虚像表示装置。
【請求項9】
前記第3ミラー部材は、前記射出瞳の位置を覆うとともに前記射出瞳の位置に向かって
凹形状を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の虚像表示装置。
【請求項10】
前記第1ミラー部材、前記第2ミラー部材、及び前記第3ミラー部材を通過する光軸は
、観察者の一対の瞳が並ぶ横方向に対して交差して略縦方向に延びる平面に沿って配置さ
れる、請求項1~のいずれか一項に記載の虚像表示装置。
【請求項11】
前記第1ミラー部材及び前記第2ミラー部材は、前記第3ミラー部材よりも観察者の頭
部側に対応する上側に配置される、請求項10に記載の虚像表示装置。
【請求項12】
前記第2ミラー部材と前記レンズとは、アッベ数が50以上の材料で形成されている、
請求項1~11のいずれか一項に記載の虚像表示装置。
【請求項13】
前記第2ミラー部材と前記射出瞳の位置との距離は、14mm以上である、請求項1~
12のいずれか一項に記載の虚像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミラーを含むヘッドマウントディスプレイ及びその他の虚像表示装置に関し、特にシースルー視が可能な虚像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヘッドマウントディスプレイのように虚像の形成及び観察を可能にする虚像表示装置として、ミラー又は導光体のような光学素子によって表示素子からの画像光を観察者の瞳に導くタイプのものが種々提案されている。
【0003】
特許文献1に記載の光学系は、4個の偏芯曲面ミラーで構成され、第1の偏芯曲面ミラーは、回転楕円面又は回転楕円面をベースとする非球面であり、第2の偏芯曲面ミラーは、双曲面又は双曲面をベースとする非球面である。光学系を偏芯曲面ミラーで構成することにより、導光体を用いる場合に比較して軽量化の達成が容易となる。
【0004】
しかしながら、光学系を偏芯曲面ミラーだけで構成する場合、光学面同士つまり反射面同士をそのサイズ程度以下に近づけることができないため、収差の補正が不十分となりやすく、解像度その他の光学性能を確保できず画角を大きくすることが容易でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-189880号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明の一側面における虚像表示装置は、画像形成部と、前記画像形成部からの画像光
を屈折させるレンズと、前記レンズを通過した画像光を反射させる第1ミラー部材と、画
像光が入射される入射側で前記第1ミラー部材で反射された画像光を屈折させ、入射側で
屈折させた画像光を反射させるミラー層を有する第2ミラー部材と、前記第2ミラー部材
で反射された画像光を射出瞳の位置に向けて反射させる透過型の第3ミラー部材と、前記
レンズと前記第2ミラー部材とを接合する接合部と、を備え、前記第2ミラー部材は、前
記第1ミラー部材で反射された画像光が入射され、前記ミラー層で反射された画像光を前
記第3ミラー部材に向けて通過させる屈折面を有する
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態の虚像表示装置を説明する側断面図である。
図2】実施形態の虚像表示装置を説明する斜め下方からの斜視図である。
図3】実施形態の虚像表示装置を説明する正面図である。
図4】実施形態の虚像表示装置の光学的構造等を説明する側断面図である。
図5】実施形態の虚像表示装置の光学的構造等を説明する平面図である。
図6】表示デバイスに形成された表示像の強制的歪曲を説明する図である。
図7】レンズの屈折面等の構造を説明する拡大断面図である。
図8】第1ミラー部材の反射面等の構造を説明する拡大断面図である。
図9】第2ミラー部材の反射面等の構造を説明する拡大断面図である。
図10】第3ミラー部材の反射面等の構造を説明する拡大断面図である。
図11】レンズと屈折反射光学部材とを一体化した複合部材を説明する側断面図である。
図12】複合部材の内側又は射出瞳側を説明する図である。
図13】外観部材の変形例を説明する正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施形態〕
以下、図面を参照して本発明に係る一実施形態の虚像表示装置について説明する。
【0009】
図1~3において、X、Y、及びZは、直交座標系であり、X方向は、虚像表示装置100を装着した観察者USの両眼の並ぶ横方向に対応し、Y方向は、観察者USにとっての両眼の並ぶ横方向に直交する上方向に相当し、Z方向は、観察者USにとっての前方向又は正面方向に相当する。
【0010】
図示の虚像表示装置100は、ヘッドマウントディスプレイであり、観察者USに虚像としての映像を認識させる。虚像表示装置100は、表示デバイス11と、投射光学系12とを備える。投射光学系12は、レンズ40と、第1ミラー部材21と、第2ミラー部材22と、第3ミラー部材23とを備える。ここで、第2ミラー部材22は、屈折面22eとミラー面22rとを複合した屈折反射光学部材30である。表示デバイス11とレンズ40と第2ミラー部材22とは、一体的に固定されて、上部でフレーム80の本体部材81に支持される。特に、レンズ40と第2ミラー部材22とは複合部材60として一体化されている。また、第1ミラー部材21と第3ミラー部材23とは、相互に連結されて一体的な外観部材50を構成し、上部及び側部でフレーム80の本体部材81に支持される。外観部材50は、表示デバイス11、レンズ40、及び第2ミラー部材22よりも外側又は外界側においてこれら表示デバイス11等に対して位置決めされた状態で配置されている。外観部材50は、メガネレンズ状の輪郭を有し、観察者USの眼を覆って外側に凸の湾曲した形状を有する。図1では、右眼用の虚像表示装置100のみを示しているが、同様の構造を有する左眼用の虚像表示装置を組み合わせることで、全体として眼鏡のような外観を有する虚像表示装置100となる。なお、両眼用の虚像表示装置については、右眼用又は左眼用の部分のうち一方を省略することができ、この場合、片眼型のヘッドマウントディスプレイとなる。なお、光路の概要について説明すると、表示デバイス11から射出された画像光GLは、レンズ40を通過し、第1ミラー部材21で反射されて第2ミラー部材22に入射する。第2ミラー部材22に入射した画像光GLは、第2ミラー部材22で屈折されるとともに反射されて第2ミラー部材22外に射出される。第2ミラー部材22から射出された画像光GLは、透過型の第3ミラー部材23で反射されて射出瞳EPの位置に入射する。
【0011】
フレーム80は、メガネと類似した構造を有し、本体部材81の側方端部に連結されるツル部82を備え、本体部材81の中央から延びる金具の先端にノーズパッド83を備える。
【0012】
図4及び5を参照して、表示デバイス11は、画像形成部であり、投射光学系12よりも観察者USの頭部側に対応する上側又は+Y側に配置されている。表示デバイス(画像形成部)11は、例えば有機EL(有機エレクトロルミネッセンス、Organic Electro-Luminescence)、無機EL、LEDアレイ、有機LED、レーザーアレイ、量子ドット発光型素子等に代表される自発光型の表示素子であり、2次元の表示面11aにカラーの静止画又は動画を形成する。表示デバイス11は、不図示の駆動制御回路に駆動されて表示動作を行う。表示デバイス11として有機ELのディスプレイを用いる場合、有機EL制御部を備える構成とする。表示デバイス11として量子ドットディスプレーを用いる場合、青色発光ダイオード(LED)の光を量子ドットフィルムに通すことにより、緑や赤の色を出す構成とする。表示デバイス11は、自発光型の表示素子に限らず、LCDその他の光変調素子で構成され、当該光変調素子をバックライトのような光源によって照明することによって画像を形成するものであってもよい。表示デバイス11として、LCDに代えて、LCOS(Liquid crystal on silicon, LCoSは登録商標)や、デジタル・マイクロミラー・デバイス等を用いることもできる。
【0013】
図6に示すように、表示デバイス11の表示面11aに形成される表示像DAは、仮想的な格子の歪みから分かるように台形歪を持たせた修正画像となっている。後述するように、投射光学系12が偏芯光学系であることから、台形歪のようなティスト―ションを取りきることは容易でない。よって、投射光学系12にティスト―ションが残存していても、表示面11aに形成する表示像DAに予め歪を持たせておくことで、投射光学系12を経て射出瞳EPの位置で観察される虚像の投影像IGの画素配列を格子パターンとすることができ輪郭を矩形とすることができる。これにより、観察者USはティスト―ションの少ない投影像IGを観察することができ、投射光学系12におけるその他の収差の補正が容易になる。表示面11aに形成する表示像(修正画像)DAは、画像処理によって強制的なティスト―ションを形成したものとできる。表示面11aが矩形である場合、強制的なティスト―ションを形成することで余白が形成されるが、このような余白に付加情報を表示させることもできる。表示面11aに形成する表示像(修正画像)DAは、画像処理によって強制的なティスト―ションを形成したものに限らず、例えば表示面11aに形成された表示画素の配列を強制的なティスト―ションに対応するものしてもよい。この場合、ティスト―ションを補正する画像処理は不要となる。さらに、表示面11aに収差を補正する湾曲を持たせることもできる。
【0014】
図4及び5に戻って、投射光学系12は、非共軸光学系又は偏芯光学系である。投射光学系12の偏芯方向は、第1ミラー部材21、第2ミラー部材22等の配置によって規定される。具体的には、レンズ40、第1ミラー部材21、第2ミラー部材22、及び第3ミラー部材23は、偏芯方向をYZ面内に設定したものとなっている。つまり、レンズ40、第1ミラー部材21、第2ミラー部材22、及び第3ミラー部材23を通過する光軸AXは、観察者の一対の瞳EYが並ぶ横方向つまりX方向に対して交差して略縦方向に延びる平面に沿って配置され、より具体的にはX方向に対して直交して縦方向に延びるYZ平面に沿って配置される。光軸AXを縦のYZ平面に沿って配置することで、横方向の画角を広くし易くなる。光軸AXを含む面がZ軸の周りに時計方向又は反時計方向(つまり左右)に数10°程度傾いても、略縦方向に延びていれば、画角への影響はあまり大きくならない。また、レンズ40は、第1ミラー部材21よりも観察者USの頭部側に対応する上側又は+Y側に配置され、第1ミラー部材21は、第2ミラー部材22よりも観察者USの頭部側に対応する上側又は+Y側に配置され、第2ミラー部材22は、第3ミラー部材23よりも観察者USの頭部側に対応する上側又は+Y側に配置されている。ここで、上側又は+Y側とは、各ミラー部材21,22,23と光軸AXとの交点又は接点を基準として考える。
【0015】
レンズ40は、一対のレンズ面41,42を有し、表示デバイス11からの画像光GLを屈折させる。レンズ40は、基材40bの表面40c,40d上に反射防止膜43を形成した構造を有する(図7参照)。両レンズ面41,42は、例えば自由曲面であるが、非球面とすることもできる。両レンズ面41,42は、YZ面内にある偏芯方向に対応する第1方向D01に関して光軸AXを挟んで非対称性を有し、第1方向D01に直交する第2方向D02又はX方向に関して光軸AXを挟んで対称性を有する。ここで、縦の第1方向D01の非対称性は、一対のレンズ面41,42の傾き等として、つまり光軸AXのうちレンズ40内の部分に対する一対のレンズ面41,42の交差角の偏りや相違として現れる。一方、横の第2方向D02の対称性は、光軸AXのうちレンズ40内の部分に対する一対のレンズ面41,42の交差角の一致として現れる。図示の場合、レンズ面41は、光軸AXに対して比較的大きく傾斜し、レンズ面42も、光軸AXに対して比較的大きく傾斜している。レンズ40は、例えばポリカーボネート、シクロオレフィン系ポリマーのような樹脂で形成されるが、ガラス製とすることもできる。レンズ面41,42上には、反射防止膜を形成することもできる。屈折部材22bは、色収差の発生を抑える観点で、アッベ数が50以上の材料で形成されることが望ましい。
【0016】
以上のレンズ40において、レンズ面41,42を自由曲面又は非球面とすることで、収差低減を図ることができ、特に自由曲面を用いた場合、非共軸光学系又は偏芯光学系である投射光学系12の収差を低減することが容易になる。なお、自由曲面は回転対称軸をもたない面であり、自由曲面の面関数としては、各種多項式を用いることができる。また、非球面は、回転対称軸をもつ面であるが、放物面や多項式で表される球面以外の面である。
【0017】
レンズ40のレンズ面41,42は、光軸AXを通る第1方向D01のYZ断面において、互いに傾斜する一対の面領域41a,42aを有する。なお、面領域41a,42aについては、いずれか一方を光軸AXに対して直交させることができるが、双方を光軸AXに対して傾斜させてもよい。レンズ40は、面領域41a,42aを含む全体で、第1方向D01において楔角を有するプリズムのような作用を有するものとでき、第1ミラー部材21、第2ミラー部材22等で発生する台形歪みを補正することができる。つまり、投射光学系12が偏芯光学系であることから、台形歪のような歪曲歪みが生じやすく、第1ミラー部材21、第2ミラー部材22等で生じる台形歪を、レンズ40の逆の台形歪みで相殺させることができ、虚像である投影像の歪曲歪みを簡易に低減できる。なお、レンズ40のみで歪曲歪みを無くすことは困難であり、図6で説明したように表示面11aに形成する表示像DAに予め歪を持たせる手法と組み合わせることで、歪曲歪みをより低減した投影像を形成することができる。
【0018】
レンズ40は、第1方向D01の光学的パワーと第2方向D02の光学的パワーとが異なるものとなっている。具体的には、第1方向D01の光学的パワーが第2方向D02の光学的パワーよりも小さい。レンズ40は、主に光軸AXを通る第2方向D02の断面において、全系の表示デバイス(画像形成部)11側でテレセントリック性を与える。既に説明したように、投射光学系12が偏芯光学系であることから、第1方向D01と第2方向D02とでは結像特性が大きく異なる傾向が生じる。よって、縦方又はY方向においては、ミラー部材21,22,23と、僅かな光学的パワーを有するレンズ40とによって物体側テレセントリックとし、横方向又はX方向においては、ミラー部材21,22,23と、大きな光学的パワーを有するレンズ40とによって物体側テレセントリックとする。以上のように、レンズ40を利用して縦横で調整差を与えてテレセントリック性を持たせることで、表示デバイス11の光軸方向の位置ズレによって倍率変化が生じにくくなり、表示デバイス11によるフォーカス調整が可能になる。
【0019】
第1ミラー部材21は、凹の表面ミラーとして機能する板状の部品であり、レンズ40を通過した画像光GLを反射する。つまり、第1ミラー部材21は、板状体21bの一方の表面21s上にミラー膜21cを形成した構造を有するミラー板21aである(図8参照)。第1ミラー部材21の反射面21rは、例えば自由曲面であり、ミラー膜21cの表面又は板状体21bの表面21sに対応する形状を有する。反射面21rは、自由曲面に限らず、非球面とすることもできる。反射面21rは、YZ面内にある偏芯方向に対応する第1方向D1に関して光軸AXを挟んで非対称性を有し、第1方向D1に直交する第2方向D2又はX方向に関して光軸AXを挟んで対称性を有する。第1ミラー部材21の板状体21bは、例えば樹脂で形成されるが、ガラス製とすることもできる。ミラー膜21cは、例えばAl、Ag等の金属の単層膜L11又は多層膜L12で形成されるが、誘電体多層膜L13とすることもできる。ミラー膜21cは、蒸着等の手法を含む積層によって形成できるが、シート状の反射膜を貼り付けることによっても形成できる。
【0020】
第2ミラー部材22は、レンズ及びミラーとして機能するプリズム状の部材である屈折反射光学部材30であり、第1ミラー部材21からの画像光GLを屈折させつつ反射する。第2ミラー部材22又は屈折反射光学部材30は、屈折面22eを有する屈折部材22bと、当該屈折部材22bの非屈折面22d上に形成されてミラー面22rとして機能するミラー層22cとを有する(図9参照)。つまり、屈折反射光学部材30は、屈折部材22bを挟んで屈折面22eとミラー面22rとを設けた光学素子である。屈折面22eの面積は、ミラー面22rの面積よりも大きくなっている。第2ミラー部材22の屈折部材22bは、例えばシクロオレフィン系ポリマー、ポリカーボネートのような樹脂で形成されるが、ガラス製とすることもできる。屈折部材22bは、色収差の発生を抑える観点で、アッベ数が50以上の材料で形成されることが望ましい。ミラー層22cは、例えばAl、Ag等の金属の単層膜L21又は多層膜L22で形成されるが、誘電体多層膜L23とすることもできる。ミラー膜22cは、積層によって形成できるが、シート状の反射膜を貼り付けることによっても形成できる。
【0021】
第2ミラー部材22の屈折面22eは、例えば自由曲面であるが、非球面とすることもできる。屈折面22eは、ミラー面22rでの反射の前後における画像光GLが通過する共通の入出射面となっている。つまり、第1ミラー部材21からの光線は、屈折面22eで屈折されて第2ミラー部材22中に入射し、ミラー面22rで反射されて第2ミラー部材22外に射出される際に、屈折面22eで再度屈折される。屈折面22eは、YZ面内にある偏芯方向に対応する第1方向D21に関して光軸AXを挟んで非対称性を有し、第1方向D21に直交する第2方向D22又はX方向に関して光軸AXを挟んで対称性を有する。屈折面22eには、反射防止膜L24が形成されている。
【0022】
第2ミラー部材22のミラー面22rは、例えば自由曲面であり、ミラー層22cの内面又は屈折部材22bの非屈折面22dに対応する形状を有する。ミラー面22rは、自由曲面に限らず、非球面とすることもできる。ミラー面22rは、YZ面内にある偏芯方向に対応する第1方向D31に関して光軸AXを挟んで非対称性を有し、第1方向D31に直交する第2方向D32又はX方向に関して光軸AXを挟んで対称性を有する。
【0023】
なお、第2ミラー部材22の屈折面22eは、上下2領域に分割することができる。すなわち、屈折面22eは、第1ミラー部材21からの画像光GLがミラー面22rで反射される前に入射する入射面と、ミラー面22rで反射された後の画像光GLが入射する出射面とを有するものとでき、これらの入射面及び出射面は、光路的に独立したものとなる。
【0024】
第3ミラー部材23は、凹の表面ミラーとして機能する板状の部品であり、第2ミラー部材22からの画像光GLを反射する。第3ミラー部材23は、瞳EYが配置される射出瞳EPの位置を覆うとともに射出瞳EPの位置に向かって凹形状を有する。第3ミラー部材23は、板状体23bの一方の表面23s上にミラー膜23cを形成した構造を有するミラー板23aである(図10参照)。第3ミラー部材23の反射面23rは、例えば自由曲面であり、ミラー膜23cの表面又は板状体23bの表面23sに対応する形状を有する。反射面23rは、自由曲面に限らず、非球面とすることもできる。反射面23rは、YZ面内にある偏芯方向に対応する第1方向D41に関して光軸AXを挟んで非対称性を有し、第1方向D41に直交する第2方向D42又はX方向に関して光軸AXを挟んで対称性を有する。
【0025】
第3ミラー部材23は、反射に際して一部の光を透過させる透過型の反射素子であり、第3ミラー部材23のミラー膜23cは、半透過性を有する。これにより、外界光OLが第3ミラー部材23を通過するので、外界のシースルー視が可能になり、外界像に虚像を重ねることができる。この際、板状体23bが数mm程度以下に薄ければ、外界像の倍率変化を小さく抑えることができる。ミラー膜23cの画像光GLや外界光OLに対する反射率は、画像光GLの輝度確保や、シースルーによる外界像の観察を容易にする観点で、想定される画像光GLの入射角範囲において10%以上50%以下とする。第3ミラー部材23の板状体23bは、例えば樹脂で形成されるが、ガラス製とすることもできる。ミラー膜23cは、例えば膜厚を調整した複数の誘電体層からなる誘電体多層膜L31で形成される。ミラー膜23cは、膜厚を調整したAl、Ag等の金属の単層膜L32又は多層膜L33であってもよいミラー膜22cは、積層によって形成できるが、シート状の反射膜を貼り付けることによっても形成できる。
【0026】
第2ミラー部材22と射出瞳EPの位置との距離や、第3ミラー部材23と射出瞳EPの位置との光路上の距離は、射出側の光軸AX又はZ軸に沿って14mm以上に設定されており、メガネレンズを配置する空間が確保されている。第3ミラー部材23の外界側には反射防止膜を形成することができる。
【0027】
以上において、第1ミラー部材21の反射面21r、第2ミラー部材22の屈折面22e、第2ミラー部材22のミラー面22r、及び第3ミラー部材23の反射面23rを自由曲面又は非球面とすることで、収差低減を図ることができ、特に自由曲面を用いた場合、非共軸光学系又は偏芯光学系である投射光学系12の収差を低減することが容易になる。
【0028】
図11及び12に示すように、レンズ40と屈折反射光学部材30とは、一体化されて複合部材60を構成している。レンズ40と屈折反射光学部材30との間には、断面楔状の接合部61を介在させてレンズ40と屈折反射光学部材30とを相互に位置決めして固定している。レンズ40と屈折反射光学部材30とは、同一材料で形成することができる。この場合、レンズ40の屈折率と屈折反射光学部材30の屈折率とが一致するが、複合部材60の本体部分を射出成形、キャスト成形等によって一体成形することができる。レンズ40と屈折反射光学部材30とは、別材料で形成することもできる。この場合、レンズ40の屈折率と屈折反射光学部材30の屈折率とを異なるものとすることができ、両者40,30の組合せによって色収差を補正する効果を持たせることができる。レンズ40と屈折反射光学部材30とを別材料で形成する場合、2色成形や接着といった手法を用いることができる。レンズ40と屈折反射光学部材30とを別材料で形成する場合、個別の工程で射出成形等によって形成した、レンズ40と屈折反射光学部材30とを固定部材を介して互いに固定し、フレーム80の本体部材81に取り付けることもできる。
【0029】
レンズ40と屈折反射光学部材30とを一体化することで、フレーム80への取り付け機構を簡単なものとでき、レンズ40や屈折反射光学部材30の保持が容易になる。また、上記のような一体化により、レンズ40と屈折反射光学部材30とについて、光学的な位置調整を別途行う必要がなくなる。さらに、レンズ40と屈折反射光学部材30とを含む投射光学系12を小型化することができる。特に、レンズ40と屈折反射光学部材30とを一体成形等によって当初から一体型の複合部材60とし、或いはレンズ40と屈折反射光学部材30とを相互の接合によって一体化して複合部材60とすることで、レンズ40及び屈折反射光学部材30の位置調整の高精度化及び簡易化を達成することがより容易になり、投射光学系12を小型化することがより容易になる。
【0030】
屈折反射光学部材30の非屈折面22d上にミラー層22cを形成する際には、例えば蒸着といった手法が用いられる。蒸着によってミラー層22cを形成する場合、図12に示すように配置されるマスクMAによって、レンズ40の入射側のレンズ面41を覆う。なお、出射側のレンズ面42と、入出射共通の屈折面22eとについては、一括して反射防止膜を形成することができる。
【0031】
複合部材60において、レンズ40の外縁の一部には、例えば一対の細長い部材で構成される支持体63を形成することができる。この支持体63は、レンズ40又は複合部材60に対して表示デバイス11を位置決めして固定するために利用することができる。
【0032】
図4及び5に戻って、第1ミラー部材21と第3ミラー部材23とは、連結部51によって連結され、全体で外観部材50を形成する。
【0033】
光路について説明すると、表示デバイス11からの画像光GLは、レンズ40を通過し、第1ミラー部材21に入射して反射面21rによって100%に近い高い反射率で反射される。第1ミラー部材21で反射された画像光GLは、第2ミラー部材22に入射して屈折面22eで屈折されミラー面22rによって100%に近い高い反射率で反射される。第2ミラー部材22からの画像光GLは、第3ミラー部材23に入射して反射面23rによって50%程度以下の反射率で反射される。第3ミラー部材23で反射された画像光GLは、観察者USの瞳EYが配置される射出瞳EPに入射する。第2ミラー部材22と第3ミラー部材23との間には中間像IIが形成されている。中間像IIは、表示デバイス11の表示面11aに形成された画像を適宜拡大したものとなっている。射出瞳EPの位置で観察される画角は対角約48°を想定している。
【0034】
以上で説明した第1ミラー部材21及び第3ミラー部材23は、表面ミラーに限られるものではなく、板状体21b,23bの裏面にミラー膜21c,23cを形成した裏面ミラーとすることができる。
【0035】
以上で説明した実施形態の虚像表示装置100によれば、投射光学系12の入射側にレンズ40を有するとともに、第2ミラー部材22が屈折面22eとミラー面22rとを有する屈折反射光学部材30であるので、複数のミラーを備える偏芯ミラー系を基本としつつもレンズ40のレンズ面41,42や第2ミラー部材22の屈折面22eに収差を補正する役割を持たせ、広い画角に亘って解像度その他の光学性能を高めることができる。また、レンズ40と屈折反射光学部材30とが複合部材60として一体型されているので、レンズ40と屈折反射光学部材30との位置決め精度を向上させることができ、組み立て部品点数を減らして投射光学系12の小型化や信頼性向上を達成できる。
【0036】
〔変形例その他〕
以上実施形態に即して本発明を説明したが、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0037】
上記実施形態の虚像表示装置100では、表示デバイス11として有機EL素子等の自発光型の表示素子を用いているが、これに代えて、レーザー光源とポリゴンミラー等であるスキャナーとを組みあわせたレーザスキャナーを用いた構成も可能である。
【0038】
第2ミラー部材22のミラー面22rは、ミラー層22cによって形成されるものに限らず、全反射条件を満たす全反射面であってもよい。この場合、ミラー層22cが不要となり、マスクMAを利用する蒸着も不要となる。
【0039】
第2ミラー部材22を屈折反射光学部材30とするだけでなく、第1ミラー部材21を屈折反射光学部材30とすることもできる。
【0040】
第3ミラー部材23の外界側には、第3ミラー部材23の透過光を制限することで調光を行う調光デバイスを取り付けることができる。調光デバイスは、例えば電動で透過率を調整する。調光デバイスとして、ミラー液晶、電子シェード等を用いることができる。調光デバイスは、外光照度に応じて透過率を調整するものであってもよい。調光デバイスによって外界光OLを遮断する場合、外界像の作用を受けていない虚像のみを観察できる。
【0041】
図13に例示する装置では、調光デバイス55は、外観部材50の略全体を覆っているが、第1ミラー部材21の外界側は覆っていない。一方、調光デバイス55は、第3ミラー部材23の外界側やその周囲を覆っている。調光デバイス55は、透過率を電気的に調整でき、透過率を約0%~約100%の範囲で連続的に変化させることができる。調光デバイス55を透過率略0%とすれば、いわゆる完全クローズド型のVRタイプのHMDになり、透過率を上げて行けば、シースルー型になる。つまり、電子シェード等である調光デバイス55の制御により、クローズド型及びシースルー型の双方に対応した両用タイプのHMDとすることが可能になる。さらに、シースルー型のHMDとして使用する場合であっても、外光照度に応じて調光デバイス55の透過率を調整することで、表示像についてダイナミックレンジの拡張が可能となる。
【0042】
また、本願発明の虚像表示装置は、虚像表示装置と撮像装置とで構成されるいわゆるビデオシースルーの製品に対応させたりするものとしてもよい。
【0043】
第3ミラー部材23のミラー膜23cについては、半透過性を有するものに限らず、ワイヤーグリッド素子のように特定偏光成分を反射するようなものであってもよい。第3ミラー部材の23のミラー膜23cについては、体積ホログラムやその他のホログラム素子で構成することもでき、回折格子で構成することもできる。
【0044】
以上では、虚像表示装置100が頭部に装着されて使用されることを前提としたが、上記虚像表示装置100は、頭部に装着せず双眼鏡のようにのぞき込むハンドヘルドディスプレイとしても用いることができる。つまり、本発明において、ヘッドマウントディスプレイには、ハンドヘルドディスプレイも含まれる。
【符号の説明】
【0045】
11…表示デバイス、11a…表示面、12…投射光学系、21…第1ミラー部材、21a,23a…ミラー板、21c,23c…ミラー膜、21s,21t…表面、23r,23r…反射面、22…第2ミラー部材、22b…屈折部材、22c…ミラー層、22d…非屈折面、22e…屈折面、22r…ミラー面、23…第3ミラー部材、24…第4ミラー部材、24a…ミラー板、24c…ミラー膜、24r…反射面、30…屈折反射光学部材、40…レンズ、41,42…レンズ面、41a,42a…面領域、50…外観部材、60…複合部材、80…フレーム、81…本体部材、82…ツル部、100…虚像表示装置、AX…光軸、DA…表示像、EP…射出瞳、EY…瞳、GL…画像光、IG…投影像、II…中間像、OL…外界光、US…観察者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13