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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】半導体素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20221129BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
H01L21/78 Q
H01L21/285 P
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018152291
(22)【出願日】2018-08-13
(65)【公開番号】P2020027885
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】皆見 健史
(72)【発明者】
【氏名】大野 健一
(72)【発明者】
【氏名】村田 道昭
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-191992(JP,A)
【文献】特開昭61-112345(JP,A)
【文献】特開2008-134383(JP,A)
【文献】特開2017-055012(JP,A)
【文献】特開平08-153797(JP,A)
【文献】特開2002-164303(JP,A)
【文献】国際公開第2011/010653(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
H01L 21/285
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
おもて面に複数の半導体素子が形成されたウェハを準備する工程と、
前記おもて面を接触させて前記ウェハを支持部材に固定する工程と、
前記支持部材に固定された前記ウェハに分割溝を形成して、各々前記複数の半導体素子の一部が含まれる複数の個片ウェハに分割する工程と、
前記複数の個片ウェハに分割された状態の前記ウェハを蒸着材料の進行方向に対して傾斜させるとともに、当該傾斜の傾斜方向と前記分割溝の延伸方向とを一致させない状態で前記複数の個片ウェハに分割された状態の前記ウェハの裏面に金属膜を蒸着する工程と、を含む
半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記金属膜を蒸着する工程は、前記傾斜方向と前記延伸方向とのなす角度を0度および180度以外の角度として前記金属膜を蒸着する工程である
請求項1に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記金属膜を蒸着する工程は、前記傾斜方向と前記延伸方向とのなす角度を45度または135度として前記金属膜を蒸着する工程である
請求項2に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記金属膜を蒸着する工程は、前記傾斜方向と前記延伸方向とのなす角度を前記蒸着材料が前記分割溝を通過して前記支持部材に至らない角度として前記金属膜を蒸着する工程である
請求項1に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記金属膜を蒸着する工程は、前記傾斜方向と前記延伸方向とのなす角度を前記蒸着材料が前記分割溝を通過してさらに前記おもて面に至らない角度として前記金属膜を蒸着する工程である
請求項4に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記金属膜を蒸着する工程は、前記傾斜方向と前記延伸方向とのなす角度を前記蒸着材料の進行方向を示す直線が前記分割溝を介して前記分割溝から露出する前記支持部材の面と交差しない角度として前記金属膜を蒸着する工程である
請求項1に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記金属膜を蒸着する工程は、前記傾斜方向と前記延伸方向とのなす角度を前記蒸着材料の進行方向を示す直線が前記分割溝を介して前記分割溝から露出する前記おもて面とさらに交差しない角度として前記金属膜を蒸着する工程である
請求項6に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項8】
前記金属膜を蒸着する工程は、中心軸の周囲に配置された複数の前記ウェハを前記中心軸を中心に前記蒸着材料中で公転させて金属膜を蒸着する蒸着装置を用いて前記金属膜を蒸着する工程である
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項9】
前記金属膜を蒸着する工程は、予め定められた角度範囲で複数の前記ウェハを自転させて前記金属膜を蒸着する工程である
請求項8に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項10】
前記金属膜を蒸着する工程は、複数の前記ウェハを自転させないで前記金属膜を蒸着する工程である
請求項8に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項11】
前記金属膜を蒸着する工程は、前記傾斜の傾斜角度を10度以上として前記金属膜を蒸着する工程である
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、表面に素子領域が形成されたウェハを用意し、素子領域を囲むように溝部を形成する工程と、ウェハの表面に接着層を介して剛性のある支持体を貼り付ける工程と、ウェハを裏面から溝部に到達するまで薄膜化してチップに分離する工程と、チップを支持体に貼り付けた状態で熱処理を伴う裏面加工を行う工程と、接着層を溶解しチップをそれぞれ分離する工程と、を含み、接着層は、溝部に入り込むように塗布されていることを特徴とする半導体装置の製造方法が開示されている。特許文献1に開示された半導体装置の製造方法では、個々のチップに分割した状態で裏面に金属蒸着を行っている。そのため、チップの裏面だけでなく、チップ間の溝にも電極材料が蒸着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-227284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、一方の面を支持部材に仮固定して個片化用の溝を形成したウェハの他方の面に金属蒸着を施す場合に、該ウェハを傾けないで金属蒸着を施す場合と比較して、一方の面側に金属膜が付着することが抑制された半導体素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、第1の態様の半導体素子の製造方法は、おもて面に複数の半導体素子が形成されたウェハを準備する工程と、前記おもて面を接触させて前記ウェハを支持部材に固定する工程と、前記ウェハに分割溝を形成して、各々前記複数の半導体素子の一部が含まれる複数の個片ウェハに分割する工程と、前記ウェハを蒸着材料の進行方向に対して傾斜させるとともに、当該傾斜の傾斜方向と前記分割溝の延伸方向とを一致させない状態で前記ウェハの裏面に金属膜を蒸着する工程と、を含むものである。
【0006】
第2の態様の半導体素子の製造方法は第1の態様の半導体素子の製造方法において、前記金属膜を蒸着する工程は、前記傾斜方向と前記延伸方向とのなす角度を0度および180度以外の角度として前記金属膜を蒸着する工程であるものである。
【0007】
第3の態様の半導体素子の製造方法は第2の態様の半導体素子の製造方法において、前記金属膜を蒸着する工程は、前記傾斜方向と前記延伸方向とのなす角度を45度または135度として前記金属膜を蒸着する工程であるものである。
【0008】
第4の態様の半導体素子の製造方法は第1の態様の半導体素子の製造方法において、前記金属膜を蒸着する工程は、前記傾斜方向と前記延伸方向とのなす角度を前記蒸着材料が前記分割溝を通過して前記支持部材に至らない角度として前記金属膜を蒸着する工程であるものである。
【0009】
第5の態様の半導体素子の製造方法は第4の態様の半導体素子の製造方法において、前記金属膜を蒸着する工程は、前記傾斜方向と前記延伸方向とのなす角度を前記蒸着材料が前記分割溝を通過してさらに前記おもて面に至らない角度として前記金属膜を蒸着する工程であるものである。
【0010】
第6の態様の半導体素子の製造方法は第1の態様の半導体素子の製造方法において、前記金属膜を蒸着する工程は、前記傾斜方向と前記延伸方向とのなす角度を前記蒸着材料の進行方向を示す直線が前記分割溝を介して前記分割溝から露出する前記支持部材の面と交差しない角度として前記金属膜を蒸着する工程であるものである。
【0011】
第7の態様の半導体素子の製造方法は第6の態様の半導体素子の製造方法において、前記金属膜を蒸着する工程は、前記傾斜方向と前記延伸方向とのなす角度を前記蒸着材料の進行方向を示す直線が前記分割溝を介して前記分割溝から露出する前記おもて面とさらに交差しない角度として前記金属膜を蒸着する工程であるものである。
【0012】
第8の態様の半導体素子の製造方法は第1の態様から第7の態様のいずれかの態様の半導体素子の製造方法において、前記金属膜を蒸着する工程は、中心軸の周囲に配置された複数の前記ウェハを前記中心軸を中心に前記蒸着材料中で公転させて金属膜を蒸着する蒸着装置を用いて前記金属膜を蒸着する工程であるものである。
【0013】
第9の態様の半導体素子の製造方法は第8の態様の半導体素子の製造方法において、前記金属膜を蒸着する工程は、予め定められた角度範囲で複数の前記ウェハを自転させて前記金属膜を蒸着する工程であるものである。
【0014】
第10の態様の半導体素子の製造方法は第8の態様の半導体素子の製造方法において、前記金属膜を蒸着する工程は、複数の前記ウェハを自転させないで前記金属膜を蒸着する工程であるものである。
【0015】
第11の態様の半導体素子の製造方法は第1の態様から第10の態様のいずれかの態様の半導体素子の製造方法において、前記金属膜を蒸着する工程は、前記傾斜の傾斜角度を10度以上として前記金属膜を蒸着する工程であるものである。
【発明の効果】
【0016】
第1の態様の半導体素子の製造方法によれば、おもて面を支持部材に仮固定して個片化用の溝を形成したウェハの裏面に金属蒸着を施す場合に、該ウェハを傾けないで金属蒸着を施す場合と比較して、おもて面側に金属膜が付着することが抑制された半導体素子の製造方法が提供される、という効果を奏する。
【0017】
第2の態様の半導体素子の製造方法によれば、傾斜方向と延伸方向とのなす角度を0度または180度とする場合と比較して、おもて面側に金属膜が付着することが抑制される、という効果を奏する。
【0018】
第3の態様の半導体素子の製造方法によれば、傾斜方向と延伸方向とのなす角度を45度および135度以外の角度とする場合と比較して、おもて面側に金属膜が付着することがより効果的に抑制される、という効果を奏する。
【0019】
第4の態様の半導体素子の製造方法によれば、支持部材との関係を考慮しないで傾斜方向と延伸方向とのなす角度を設定する場合と比較して、分割溝に侵入する蒸着材料の深さがより確実に制御される、という効果を奏する。
【0020】
第5の態様の半導体素子の製造方法によれば、ウェハのおもて面との関係を考慮しないで傾斜方向と延伸方向とのなす角度を設定する場合と比較して、半導体素子の不良の発生が抑制される、という効果を奏する。
【0021】
第6の態様の半導体素子の製造方法によれば、蒸着材料の進行方向を示す直線と分割溝を介して分割溝から露出する支持部材の面との関係を考慮しないで傾斜方向と延伸方向とのなす角度を設定する場合と比較して、分割溝に侵入する蒸着材料の深さがより確実に制御される、という効果を奏する。
【0022】
第7の態様の半導体素子の製造方法によれば、蒸着材料の進行方向を示す直線と分割溝を介して分割溝から露出するおもて面との関係を考慮しないで傾斜方向と延伸方向とのなす角度を設定する場合と比較して、半導体素子の不良の発生が抑制される、という効果を奏する。
【0023】
第8の態様の半導体素子の製造方法によれば、複数のウェハを中心軸を中心に蒸着材料中で公転させない蒸着装置を用いる場合と比較して、半導体ウェハの裏面への金属膜の蒸着において蒸着むらが抑制される、という効果を奏する。
【0024】
第9の態様の半導体素子の製造方法によれば、複数のウェハをまったく自転させずに金属膜を蒸着する場合と比較して、半導体ウェハの裏面への金属膜の蒸着において蒸着むらが抑制される、という効果を奏する。
【0025】
第10の態様の半導体素子の製造方法によれば、複数のウェハを自転させて金属膜を蒸着する場合と比較して、分割溝に侵入する蒸着材料の深さがより小さくなる、という効果を奏する。
【0026】
第11の態様の半導体素子の製造方法によれば、傾斜の傾斜角度を10度未満として金属膜を蒸着する場合と比較して、半導体ウェハのおもて面側に金属膜が付着することが抑制される、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施の形態に係る半導体素子の製造工程の一例を示す断面図である。
図2】(a)は実施の形態に係るグラインドフレーム(グラインド用のテープフレーム)に配置された個片ウェハを示す平面図、(b)は実施の形態に係る蒸着処理を示す断面図である。
図3】(a)は傾斜角度が0度の場合の蒸着処理を示す断面図、(b)は傾斜角度が30度の場合の蒸着処理を示す断面図、(c)は半導体ウェハの傾斜角度と蒸着材料の侵入深さとの関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図1から図3を参照して、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0029】
図1を参照して、本実施の形態に係る半導体素子の製造方法について説明する。
【0030】
まず、図1(a)に示すように、半導体基板11上に素子パターン12が形成された半導体ウェハ10を準備する。
【0031】
次に、図1(b)に示すように、半導体ウェハ10をダイシング(分割)用の部材に搭載する。ダイシング用部材はダイシングテープ13とダイシングフレーム14を含み、リング状のダイシングフレーム14にダイシングテープ13が貼られた構造となっている。
半導体ウェハ10の搭載は、半導体ウェハ10の裏面をダイシングテープに貼り付けて行う。なお、この際の半導体ウェハ10の厚さは一例として約500μmとされている。
【0032】
次に、半導体ウェハ10を個片ウェハ20に分割するためのハーフダイシングを行う。
個片ウェハ20とは後述するように、半導体ウェハ10の取り扱いの容易化のために半導体ウェハ10を複数に分割したものである。ハーフダイシングは、図1(c)に示すように半導体ウェハ10のおもて(素子)面側から溝15を形成して行う。溝15の深さは、例えば最終的な半導体ウェハ10の厚さに20μm程度加えた深さとする。なお、本実施の形態における半導体ウェハ10の最終的な厚さは、一例として約120μmとされている。
【0033】
次に、図1(d)に示すように、半導体ウェハ10のグラインド部材への転写を行う。
グラインドとは半導体ウェハ10の厚さを最終的な厚さとするための裏面研削をいう。図1(d)に示すように、グラインド部材はリング状のフレームであるグラインドフレーム17にグラインドテープ16が貼られた構成となっている。グラインド部材への転写は半導体ウェハ10のおもて面をグラインドテープ16に埋設させて行う。
【0034】
次に、図1(e)に示すように裏面をグラインド(研削)して半導体ウェハ10を個片ウェハ20に分割する。個片ウェハ20の分割数に制限はないが、本実施の形態では4分割としている。本裏面研削は例えば砥石等を用いて行う。
【0035】
次に、図1(f)に示すように、裏面電極18を蒸着する。裏面電極18の蒸着の詳細については後述する。
【0036】
次に、図1(g)に示すように、個々の個片ウェハ20をダイシング部材に搭載する。
本工程におけるダイシングは個片ウェハ20をさらに半導体素子21に個片化するためのダイシングである。本ダイシング部材はリング状のダイシングフレーム23およびダイシングテープ22を含み、ダイシングテープ22はダイシングフレーム23に貼られている。本工程は個片ウェハ20の個数分行う。図1(g)の表記「×N」は個片ウェハ20の個数を表しており、本実施の形態ではN=4である。
【0037】
次に、図1(h)に示すように溝19を形成してフルダイシングを行う。フルダイシングとは個片ウェハ20をさらに個々の半導体素子21に分割(個片化)することをいう。
ダイシングは例えばダイシングブレード等を用いて行う。
【0038】
次に、図1(i)に示すように、半導体素子21の外観検査を行う。該外観検査は、例えばカメラ24を用いた画像処理によって行う。その後半導体素子21の裏面からダイシングテープ22を剥がし、個々の半導体素子21に分離する。
【0039】
なお、以上の半導体装置の製造方法の説明においては本発明に関わりの深い工程のみを示しており、工程の一部を省略している。例えば、図1(f)の裏面電極18の蒸着の後に裏面電極18のオーミック性確保のための熱処理工程や、個片ウェハ20に含まれる半導体素子21の電気的検査工程が含まれる場合もある。
【0040】
ここで、大口径、かつ薄い半導体ウェハ、特に化合物半導体ウェハでは、製造プロセス(工程)中に割れる可能性が高いため、予め搬送が容易な大きさに分割することがある。
さらに、テープ上で分割された半導体ウェハに金属蒸着処理を行う工程においては、半導体ウェハを水平状態に保ったまま行なうと、蒸着材料が分割溝(「ストリートともいう)の間を通って素子パターンのある半導体ウェハのおもて面近傍に付着してデバイス故障の要因となる場合がある。あるいは、テープ表面に付着した金属膜がその後テープを剥がす際に素子パターン上に落下して故障の要因となることも想定される。
【0041】
上述した本実施の形態に係る半導体素子の製造方法においても、図1(e)に示すようにグラインドテープ16に素子面を固着させて個片ウェハ20に分割した後、図1(f)に示すように裏面電極18を蒸着する際、個片ウェハ20を蒸着材料の進行方向に対して垂直に維持し傾けないで蒸着処理を行うと、蒸着材料が分割溝を通過して半導体素子の素子面に付着し、半導体素子の不良を招く場合がある。あるいは、分割溝を通過した蒸着材料がグラインドテープに付着し、グラインドテープをはがす際に半導体素子の素子面に落下して半導体素子の不良を招く場合がある。
【0042】
そこで本実施の形態では、半導体ウェハを蒸着材料の進行方向に対して傾斜させるとともに、当該傾斜の傾斜軸と分割溝の延伸方向とを一致させない状態で半導体ウェハの裏面に金属膜を蒸着することとした。このことにより、素子面を支持部材に仮固定して個片化用の溝を形成したウェハの裏面に金属蒸着を施す場合に、該ウェハを傾けないで金属蒸着を施す場合と比較して、素子面側に金属膜が付着することが抑制された半導体素子の製造方法が提供される、という効果を奏する。
【0043】
以下、図2および図3を参照し、本実施の形態に係る金属蒸着処理についてより詳細に説明する。
【0044】
図2(a)は、図1(e)に示す状態を半導体ウェハ10の裏面側から見た図である。
図2(a)に示すように、グラインドテープ16およびグラインドフレーム17を含むグラインド部材に、4個の個片ウェハ20に分割された半導体ウェハ10が搭載されている。図2(b)は、グラインド部材(グラインドテープ16およびグラインドフレーム17)に搭載された個片ウェハ20に対して、図1(f)に示す金属蒸着を行う際の配置状態を示している。図2(b)に示すマスク26は、金属蒸着の対象となる半導体ウェハ10(個片ウェハ20)の領域以外を覆うマスクである。
【0045】
図2(b)に示すように、本実施の形態に係る金属蒸着工程においては、蒸着材料25の進行方向に対して半導体ウェハ10を点Cを中心として予め定められた傾斜角度θだけ傾斜させる。さらに、当該傾斜は図2(a)に示すように、傾斜の方向が溝15の延伸方向と一致しないようにして傾斜させる。つまり、傾斜の中心を規定するA-A’線(以下、「傾斜軸」)を仮想すると、点Cを通り紙面に垂直な方向が傾斜軸A-A’の方向と一致している。基準となる溝15と傾斜軸A-A’とのなす角度(以下、「回転角度φ」)は0度(180度)以外であれば特に限定されないが、図2(a)に示す分割の場合、蒸着材料25がいずれの方向の溝15にも等しく侵入しにくいので45度が特に好ましい。
【0046】
次に図3を参照して、傾斜角度θについてより詳細に説明する。図3(a)は傾斜角度θがθ=0度の場合の金属膜の半導体ウェハ10への付着状態、図3(b)は傾斜角度θがθ=30度の場合の金属膜の半導体ウェハ10への付着状態を各々示している。なお、図3(a)、(b)においては回転角度φをすべての溝15の延伸方向とは異なる方向としている。
【0047】
図3(a)に示すように、傾斜角度θが0度の場合は、個片ウェハ20と個片ウェハ20との間の溝15の方向が蒸着材料25の進行方向と平行であるために、蒸着材料25は裏面電極18を成膜すると同時に溝15から侵入し、グラインドテープ16上に金属膜27を付着させている。また、金属膜27が横方向に拡散して個片ウェハ20おもて面上に形成された半導体素子に至っている場合もある。
【0048】
これに対し、図3(b)に示すように傾斜角度θが30度の場合は、個片ウェハ20と個片ウェハ20との間の溝15の方向が蒸着材料25の進行方向と平行でない(交差している)ために、蒸着材料25は裏面電極18を成膜する一方溝15からは侵入しにくく、蒸着材料25は溝15の開口端付近の壁面に金属膜27を付着させるにとどまっている。
すなわち、傾斜角度が30度の場合の金属膜27は、溝15の開口端から溝15の壁面に沿って侵入深さdだけしか侵入していない。
【0049】
図3(c)は、傾斜角度θ(度=deg)と侵入深さd(μm)との関係をシミュレーションした結果を示すグラフである。図3(c)では回転角度φをφ=45度とし、溝15の幅が10μmと15μmの場合をシミュレーションしている。また、図3(c)に示すtは半導体ウェハ10(個片ウェハ20)の厚さであり、本シミュレーションでは一例として120μmとしている。つまり、図3(c)では、侵入深さdが厚さtに達すると蒸着材料25がグラインドテープ16まで至り、グラインドテープ上に金属膜27が付着する。
【0050】
図3(c)を参照すると、例えば溝15の幅が10μmの場合、傾斜角度θをθ=30度とすると侵入深さdはd=37μm、傾斜角度θをθ=45度とすると侵入深さdはd=21μmとなる。すなわち、傾斜角度θを大きくするほど溝15の深さ方向と蒸着材料25の進行方向とのなす角度が大きくなるので、侵入深さdは小さくなる。ただし、傾斜角度θを極端に大きくすると裏面電極18の成膜に影響することも考えられるので、実際の傾斜角度θの上限は裏面電極18の成膜状態等を勘案して設定してもよい。
【0051】
一方傾斜角度θを小さくするほど侵入深さdは大きくなるが、図3(c)から傾斜角度θが10度以上であれば侵入深さdが基板の厚さt(本例では120μm)に達しないことがわかる。すなわち、傾斜角度θはθ≧10度を満たすことが必要であることがわかる。ただし、図3(c)から明らかなように、傾斜角度θの下限は半導体ウェハ10の厚さtに応じて設定すべきものである。
【0052】
次に、本実施の形態に係る半導体素子の製造方法で用いる蒸着装置について説明する。
本実施の形態に係る蒸着装置は以下のような構成となっている。すなわち、ダイシング部材に搭載された複数の半導体ウェハを配置する配置部材が中心軸の周囲に複数配置された蒸着ドームを備え、複数の半導体ウェハを配置した該蒸着ドームは該中心軸を中心に公転可能とされている。また、配置部材自身も回転可能とされ、複数の半導体ウェハの各々は配置部材の回転に伴って自転も可能とされている。そして、複数の半導体ウェハを配置した蒸着ドームに対して蒸着材料を飛翔させることにより半導体ウェハに裏面電極の蒸着等を行う。以上の構成の蒸着装置では、一般的には公転と自転とを併用することによって裏面電極がむらなく成膜される。
【0053】
一方、本実施の形態に係る蒸着装置では公転は実行するが、自転はさせないように構成されている。これは、本実施の形態では、溝15の延伸方向と傾斜軸(図2のA-A’線)とが一致しないように回転角度φを設定し、溝15の内部に蒸着材料25が侵入しないようにしているが、配置部材を回転させると回転角度φが変化し、自転の特定のタイミングで溝15の延伸方向と傾斜軸とが平行または平行に近い状態となり、蒸着材料が溝15の奥まで侵入する可能性が高くなる(すなわち、図3(b)に示す侵入深さdが大きくなる)からである。一方、公転は回転角度φに対する影響度はほとんどないので、通常通り実行する。
【0054】
以上のように蒸着装置を構成することによって、本実施の形態に係る半導体素子の製造方法では裏面電極等の金属膜がむらなく成膜されるとともに、素子面側に金属膜が付着することがより効果的に抑制されている。
【0055】
ここで、本実施の形態に係る蒸着装置では、自転をさせない構成を例示して説明したが、これに限られず、許容される金属膜27の侵入深さd等を勘案して、限られた角度範囲で半導体ウェハを自転させるようにしてもよい。
【0056】
なお、上記実施の形態では裏面電極を蒸着する工程を例示して説明したが、これに限られず、一方の面が支持部材に固定され分割用の溝が形成された半導体ウェハ(すなわち、複数の個片ウェハ)の他方の面に金属膜を蒸着する工程であれば、いずれの蒸着工程にも本発明が適用される。また、蒸着する面は裏面に限られずおもて面であってもよいし、さらには蒸着材料は金属に限られず、他の材料であってもよい。
【符号の説明】
【0057】
10 半導体ウェハ
11 半導体基板
12 素子パターン
13 ダイシングテープ
14 ダイシングフレーム
15 溝
16 グラインドテープ
17 グラインドフレーム
18 裏面電極
19 溝
20 個片ウェハ
21 半導体素子
22 ダイシングテープ
23 ダイシングフレーム
24 カメラ
25 蒸着材料
26 マスク
27 金属膜
C 点
d 侵入深さ
t 厚さ
θ 傾斜角度
φ 回転角度
図1
図2
図3