(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】RFeB系焼結磁石及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/057 20060101AFI20221129BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20221129BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20221129BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20221129BHJP
B22F 9/04 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
H01F1/057 170
H01F41/02 G
B22F3/00 F
B22F9/00 C
B22F9/04 E
B22F9/04 C
(21)【出願番号】P 2018156085
(22)【出願日】2018-08-23
【審査請求日】2021-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 通秀
(72)【発明者】
【氏名】溝口 徹彦
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-170728(JP,A)
【文献】特開2006-019521(JP,A)
【文献】特開昭63-301505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057
H01F 41/02
B22F 3/00
B22F 9/00
B22F 9/04
B22F 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 配向度が97%以上であり、
b) 最大磁化方向垂直面における結晶粒の平均アスペクト比を、最大磁化方向平行面における結晶粒の平均アスペクト比で除した値であるアスペクト比指標値が0.96以上1.5以下であり、
c) 窒素含有量が400ppm以上1000ppm以下であり、
d) 最大磁化方向垂直面において円相当径で求めた結晶粒径の中央値であるD50値が3.5μm以下である
ことを特徴とするRFeB系焼結磁石。
【請求項2】
レーザ回折法で測定された粒径の中央値であるD50値が3.0μm以下であるRFeB系焼結磁石の原料粉末を、窒素ガス中に分散させた状態で30~300分間維持することにより、粒子の表面が窒化した表面窒化原料粉末を作製する表面窒化原料粉末作製工程と、
前記表面窒化原料粉末を容器に収容し、該表面窒化原料粉末を圧縮成形することなく磁界を印加することにより、該表面窒化原料粉末を配向させる配向工程と、
前記配向工程で配向させた表面窒化原料粉末を圧縮成形することなく焼結する焼結工程と
を有することを特徴とするRFeB系焼結磁石製造方法。
【請求項3】
前記表面窒化原料粉末作製工程において、ジェットミルを用いて窒素ガス中で原料を粉砕することにより前記表面窒化原料粉末を作製することを特徴とする請求項2に記載のRFeB系焼結磁石製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類元素(以下、「R」とする)、鉄(Fe)及び硼素(B)を主な構成元素とするRFeB系焼結磁石、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RFeB系焼結磁石は、1982年に佐川眞人らによって見出されたものであり、残留磁束密度等の多くの磁気特性がそれまでの永久磁石よりもはるかに高いという特長を有する。そのため、RFeB系焼結磁石は、ハイブリッド自動車や電気自動車等の自動車用モータや産業機械用モータ等の各種モータ、スピーカー、ヘッドホン、永久磁石式磁気共鳴診断装置等、様々な製品に使用されている。
【0003】
一般に、焼結磁石は、原料となる合金粉末(原料粉末)を準備し、磁界を印加することによって原料粉末を配向させた後、その状態で原料粉末を加熱して焼結することにより製造される。
【0004】
RFeB系焼結磁石の最も重要な磁気特性の一つである残留磁束密度を高くするためには、RFeB系焼結磁石を構成する各結晶粒の磁化容易軸(磁化しやすい方向の結晶軸)をできるだけ同じ方向に揃えることが望ましい。結晶粒の磁化容易軸がどの程度揃っているのかを示す指標として、配向度がある。配向度は、得られた磁石の残留磁束密度Brを飽和磁化Isで除した値Br/Isで定義される。
【0005】
特許文献1には、平均粒径が3μmであるRFeB系の原料粉末にカプリル酸メチルやミリスチン酸メチル等から成る有機潤滑剤を添加したうえで磁界を印加することにより該原料粉末を配向させたうえで、該原料粉末を焼結することにより、最大で配向度が96.5%であるRFeB系焼結磁石が得られることが記載されている。このように原料粉末の平均粒径を3μmという小さい値とすることにより、原料粉末の粒子のうち単独の結晶粒から成る粒子の割合が多くなり、結晶粒も1方向に揃い易くなる。また、原料粉末に有機潤滑剤を添加することによって粒子間の動摩擦係数が小さくなるため、原料粉末に磁界を印加した際に個々の粒子が回動し易くなる。これらの作用により、特許文献1に記載のRFeB系焼結磁石では配向度が高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/146781号
【文献】特開2006-019521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように特許文献1に記載のRFeB系焼結磁石では配向度が最大で96.5%であるが、残留磁束密度をさらに高くするためには、配向度をより高くする必要がある。本発明が解決しようとする課題は、配向度が従来よりも高い、RFeB系焼結磁石及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係るRFeB系焼結磁石は、
a) 配向度が97%以上であり、
b) 最大磁化方向垂直面における結晶粒の平均アスペクト比を、最大磁化方向平行面における結晶粒の平均アスペクト比で除した値であるアスペクト比指標値が0.96以上1.5以下であり、
c) 窒素含有量が400ppm以上1000ppm以下であり、
d) 最大磁化方向垂直面において円相当径で求めた結晶粒径の中央値であるD50値が3.5μm以下である
ことを特徴とする。
【0009】
本発明において「最大磁化方向垂直面」とは、RFeB系焼結磁石において磁化が最大となる方向である最大磁化方向に対して垂直な面をいい、「最大磁化方向平行面」とは、最大磁化方向に平行な面をいう。最大磁化方向は通常、RFeB系焼結磁石の製造時に原料粉末を配向させる際に印加する磁界に平行な方向となる。得られたRFeB系焼結磁石において、仮に全ての結晶粒が同じ方向に揃っているとすれば、磁極(N極及びS極)の面が平坦であるRFeB系焼結磁石では通常、最大磁化方向垂直面は磁極の面に平行な面、最大磁化方向平行面は磁極の面に垂直な面となる。最大磁化方向平行面は最大磁化方向の軸の周りに回転させた様々な方向を向き得るが、その方向は任意に定めてよい。
【0010】
「平均アスペクト比」は以下のように求められる。まず、観察する面(最大磁化方向垂直面又は最大磁化方向平行面)において700個以上の結晶粒のアスペクト比をそれぞれ求め、その平均値を求めることにより平均アスペクト比が得られる。個々の結晶粒のアスペクト比は、観察する面において結晶粒が最長となる方向の長さを、該方向に垂直な方向の長さで除することにより求められる。従って、個々の結晶粒のアスペクト比及び平均アスペクト比の値は、1以上となる。
【0011】
本発明に係るRFeB系焼結磁石製造方法は、
レーザ回折法で測定された粒径の中央値であるD50値が3.0μm以下であるRFeB系焼結磁石の原料粉末を、窒素ガス中に分散させた状態で30~300分間維持することにより、粒子の表面が窒化した表面窒化原料粉末を作製する表面窒化原料粉末作製工程と、
前記表面窒化原料粉末を容器に収容し、該表面窒化原料粉末を圧縮成形することなく磁界を印加することにより、該表面窒化原料粉末を配向させる配向工程と、
前記配向工程で配向させた表面窒化原料粉末を圧縮成形することなく焼結する焼結工程と
を有することを特徴とする。
【0012】
本発明に係るRFeB系焼結磁石及びRFeB系焼結磁石製造方法では、RFeB系焼結磁石の原料粉末(作製しようとするRFeB系焼結磁石と同じ組成を有する原料の粉末)を窒素ガス中に分散させた状態で、ある程度長い時間(30~300分間)維持することにより、表面が窒化した表面窒化原料粉末を作製する。ここで、原料粉末を作製する際に、ジェットミルを用いて窒素ガス中で原料を粉砕することにより、原料粉末を窒素ガス中に分散させた状態を形成することができる。このように作製した表面窒化原料粉末を、圧縮成形することなく磁界で配向させたうえで焼結することにより、以下の2つの理由により、97%以上という高い配向度を有するRFeB系焼結磁石を得ることができると考えられる。
【0013】
第1の理由は、原料粉末の粒子の表面が窒化していることによって、個々の粒子の表面の動摩擦係数が小さくなり、配向時に磁界を印加した際に粒子が回動し易くなることにあると考えられる。また、配向の際に表面窒化原料粉末を圧縮成形しないプレスレスプロセス(Press-less Process:PLP)法(特許文献2参照)を用いることも、磁界を印加した際に粒子が回動し易くなることに寄与する。
【0014】
第2の理由は、原料粉末の粒子の表面が窒化していることによって、焼結時に生じる配向の乱れが抑制されることにあると考えられる。RFeB系焼結磁石では一般に、焼結時に全体の体積が小さくなる焼結収縮という現象が生じる。一方、焼結時には、RFeB系焼結磁石を構成する個々の結晶粒は、磁化容易軸に平行な方向(RFeB系ではc軸方向)にも若干成長するものの、該軸に垂直な方向に、より成長する(このように他の方向よりも結晶粒が成長し易い方向を「優先成長方向」という)。そのため、焼結収縮は、結晶粒が相対的に成長し難いc軸方向に大きく生じる。このように焼結収縮が大きく生じると、個々の結晶粒が焼結時に動いてその向きが変化し、配向度が低下することがある(なお、焼結時には結晶粒の周囲の粒界が溶融するため、個々の結晶粒が動き得る)。それに対して本発明に係るRFeB系焼結磁石では、原料粉末の粒子の表面が窒化していることによって、焼結時に結晶粒が磁化容易軸(c軸)に垂直な方向に成長することが抑制され、それにより焼結収縮が磁化容易軸方向に生じることが抑制されるため、配向度の低下も抑制される。そのため、本発明に係るRFeB系焼結磁石は、従来のRFeB系焼結磁石よりも配向度が向上すると考えられる。
【0015】
本発明に係るRFeB系焼結磁石において焼結時に結晶粒が磁化容易軸に垂直な方向に成長することが抑制されていることは、前記アスペクト比指標値によって確認される。従来の結晶粒が磁化容易軸に垂直な方向に成長したRFeB系焼結磁石では、結晶粒の平均アスペクト比は、最大磁化方向垂直面における値よりも最大磁化方向平行面における値の方が大きくなり、それによってアスペクト比指標値は小さく(通常、0.96未満に)なる。それに対して本発明に係るRFeB系焼結磁石では、結晶粒が磁化容易軸に垂直な方向に成長することが抑制されていることにより、最大磁化方向平行面における結晶粒の平均アスペクト比の値が抑えられ、それによってアスペクト比指標値が0.96以上となる。なお、RFeB系では磁化容易軸に垂直な方向が優先成長方向であるため、たとえ磁化容易軸に垂直な方向に結晶粒が成長することが抑制されていても、該方向の1.5倍を超えるほど、磁化容易軸に平行な方向に結晶粒が成長することはない。そのため、アスペクト比指標値の最大値は1.5となる。
【0016】
本発明に係るRFeB系焼結磁石では、上述のように作製時に原料粉末の粒子の表面を窒化させることから、RFeB系焼結磁石も窒素を含有している。RFeB系焼結磁石が含有している窒素の量が400ppmを下回ると作製時の窒化が不十分であるため、発明に係るRFeB系焼結磁石における窒素の含有量は400ppm以上とする。
【0017】
一方、窒素の含有量が多くなると、保磁力が低下してしまう。そのため、本発明に係るRFeB系焼結磁石では、窒素の含有量を1000ppm以下とする。なお、窒素の含有量が1000ppm以下であれば、窒素が残留磁束密度の値に影響を及ぼすことはほとんどない。
【0018】
それと共に、RFeB系焼結磁石中の結晶粒径が小さくなるほど保磁力が高くなることから、本発明に係るRFeB系焼結磁石では、最大磁化方向垂直面における結晶粒径の中央値であるD50値が3.5μm以下となるようにする。ここで個々の結晶粒の結晶粒径は、画像解析等によって最大磁化方向垂直面における結晶粒の面積を求め、その面積と同じ面積を有する円の直径で定義する。このような結晶粒径の中央値を有するRFeB系焼結磁石を得るためには、本発明に係るRFeB系焼結磁石製造方法では、レーザ回折法で測定された粒径の中央値(D50値)が3.0μm以下である原料粉末を用いる。ここで「レーザ回折法」は、粒子にレーザビームを照射することで生じる回折光・散乱光の強度分布に基づいて、粒子の粒径を求める方法をいう。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、配向度が97%以上という従来よりも高い値を有するRFeB系焼結磁石を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係るRFeB系焼結磁石の製造方法の一実施形態の工程を示す概略図。
【
図2】本実施形態のRFeB系焼結磁石の製造方法において用いるジェットミルを示す概略図。
【
図3】本実施形態のRFeB系焼結磁石の、最大磁化方向垂直面(a)及び最大磁化方向平行面(b)における光学顕微鏡写真。
【
図4】比較例のRFeB系焼結磁石の、最大磁化方向垂直面(a)及び最大磁化方向平行面(b)における光学顕微鏡写真。
【
図5】本実施形態のRFeB系焼結磁石が有する個々の結晶粒について、最大磁化方向垂直面(a)及び最大磁化方向平行面(b)における結晶粒径とアスペクト比を求めた結果を示すグラフ。
【
図6】比較例のRFeB系焼結磁石が有する個々の結晶粒について、最大磁化方向垂直面(a)及び最大磁化方向平行面(b)における結晶粒径とアスペクト比を求めた結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1~
図6を用いて、本発明に係るRFeB系焼結磁石及びその製造方法の実施形態を説明する。
【0022】
(1) 本発明に係るRFeB系焼結磁石の製造方法の一実施形態
図1及び
図2を用いて、本発明に係るRFeB系焼結磁石の製造方法の一実施形態を説明する。まず、作製しようとするRFeB系焼結磁石の組成に対応した組成(但し、後述の粒界拡散処理を行う場合には、その際にRFeB系焼結磁石内に拡散する元素の分を除く)を有する原料合金塊11を用意する。原料合金塊11は、ストリップキャスト法等、従来のRFeB系焼結磁石の原料合金塊と同様の方法により作製することができる。次に、原料合金塊11に水素ガスを吸蔵させることにより該原料合金塊11を脆化させ(
図1(a))たうえで機械的に粉砕する(粗粉砕)ことにより、原料合金の粗粉12(同図(b))を作製する。
【0023】
次に、原料合金の粗粉12を、
図2に示すジェットミル20により、粉砕ガスGとして窒素ガスを用いて、レーザ回折法で測定される粒径の中央値(D50値)が3.0μm以下になるように粉砕することにより、表面窒化原料粉末13を作製する(微粉砕:
図1(c))。ジェットミル20は、粉砕槽21と、粉砕槽21に粗粉12を導入する粗粉導入口22と、粉砕槽21に下方から粉砕ガスGを導入する粉砕ガス導入口231と、粉砕槽21に側方から流動ガスG’を導入する流動ガス導入口232と、粉砕槽21内の粉砕ガス導入口231の上方に設けられた衝突板24と、粉砕槽21内の衝突板24の上方に設けられた分級ロータ25と、粉砕された表面窒化原料粉末13を粉砕槽21から排出する排出口26とを有する。
【0024】
流動ガスG’は、粗粉導入口22から導入される粗粉12を粉砕槽21内に吸引して加速させるためのガスであり、粉砕ガスGは粉砕槽21内の粒子を衝突板24に衝突させる役割を有するガスである。本実施形態では、粉砕ガスG及び流動ガスG’にはいずれも窒素ガスを用いる。衝突板24は、それに粉砕槽21内の粒子を衝突させることにより粉砕する役割を有する。分級ロータ25は
図2の縦方向の軸を中心として高速で回転(1分間あたり最大で6000回転)する回転体であり、所定の粒径以下まで粉砕された粒子を分級して排出口26に導入する役割を有する。この所定の粒径よりも大きい粒径を有する粒子は、分級ロータ25で分級されずに粉砕槽21内を降下し、粉砕ガスGにより再度衝突板24に衝突する。これらの操作により、レーザ回折法で測定される粒径の中央値であるD50値が3.0μm以下であって、原料粉末の粒子の表面が窒化した表面窒化原料粉末13が得られる(表面窒化原料粉末作製工程)。
【0025】
本実施形態では、粉砕槽21内の粉砕ガスGの圧力は0.45~0.60MPaとする。また、分級ロータ25の回転数を調整することにより、粉砕槽21内で粉砕された表面窒化原料粉末13が30~300分間、粉砕槽21内に留まるようにした。なお、後述の比較例では、従来よりRFeB系焼結磁石を作製する際に用いられていた条件である、粉砕ガスGの圧力が0.45~0.60MPa、粉砕槽21内に留まる時間が5分間以上30分間未満となるように作製した、表面窒化原料粉末13よりも表面の窒化が進行していない原料粉末を用いる。
【0026】
次に、表面窒化原料粉末13を、作製しようとするRFeB系焼結磁石に対応した形状を有する容器14内に収容し、容器14内の表面窒化原料粉末13に機械的圧力を印加することなく(すなわち圧縮成形することなく)磁界を印加することにより表面窒化原料粉末13を配向させる(
図1(d):配向工程)。なお、本実施形態では、内部の形状が直方体である容器14を用いたが、容器14内の形状はこの例に限定されない。また、
図1(d)では表面窒化原料粉末13を充填する空間が1個のみのものを示したが、1個の容器に表面窒化原料粉末13を充填する空間を複数設けてもよい。
【0027】
配向工程の後、表面窒化原料粉末13を容器14内に収容したまま、圧縮成形を行うことなく加熱することにより、表面窒化原料粉末13を焼結する(
図1(e):焼結工程)。焼結工程における加熱温度は、900~1100℃とすることが好ましい。容器14には、この加熱温度に対する耐熱性を有する材料から成るものを用いる。ここまでの工程により、RFeB系磁石の焼結体15が得られる。ここまでで述べた各工程では、前述のPLP法を用いている。
【0028】
こうして得られた焼結体15をそのままRFeB系焼結磁石の完成品としてもよいが、保磁力を高くするために、以下に述べる粒界拡散処理を行うことが望ましい。粒界拡散処理では、焼結体15の表面にDy(ジスプロシウム)及び/又はTb(テルビウム)を含有する付着物16を付着させたうえで、850~930℃に加熱する(
図1(f))。これにより、付着物16中のDy及び/又はTbを、焼結体15の粒界を介して結晶粒の表面付近に供給する。RFeB系焼結磁石の結晶粒の表面付近にDy及び/又はTbが存在することにより、RFeB系焼結磁石に逆磁界が印加されたときに磁化の反転が生じ難くなり、保磁力が向上する。また、Dy及び/又はTbが存在することはRFeB系焼結磁石の残留磁束密度を低下させる要因となるものの、粒界拡散処理で導入されるDy及び/又はTbは微量であるため、残留磁束密度の低下を抑えることができる。
【0029】
以上の各工程により、本実施形態のRFeB系焼結磁石17が作製される(
図1(g))。
【0030】
(2) 本発明に係るRFeB系焼結磁石の一実施形態
次に、上記実施形態の製造方法で作製した、本発明に係るRFeB系焼結磁石の一実施形態について説明する。併せて、表面窒化原料粉末13の代わりに、従来の方法で粗粉12を微粉砕することにより作製した前述の原料粉末を用い、それ以外は本実施形態と同じ条件で作製した比較例のRFeB系焼結磁石を説明し、上記実施形態のRFeB系焼結磁石と対比する。
【0031】
本実施形態と比較例のRFeB系焼結磁石を作製したときの具体的な条件を説明する(以下、特記した点を除いて、本実施形態と比較例の作製条件は同じである)。原料合金塊11には、規格値としてNd(ネオジム)を25.65質量%、Pr(プラセオジム)を4.55質量%、Co(コバルト)を0.9質量%、Bを0.99質量%、Al(アルミニウム)を0.2質量%、Cu(銅)を0.1質量%、Zr(ジルコニウム)を0.1質量%、Feを残部、それぞれ含有するものを用いた。なお、実際の原料合金塊11の組成は、上記の規格値からわずかにずれることがある他、微量のDy, Tb, Ni, Ga等の元素が混入することがある。また、原料合金塊11は不純物としてO(酸素)、C(炭素)、N(窒素)及びH(水素)を含有し得るが、それらの含有率は、Oでは600ppm未満、Cでは500ppm未満、Nでは300ppm未満、Hでは10ppm未満となるようにした。
【0032】
微粉砕時の条件は以下の通りである。本実施形態では、分級ロータ25の回転数は4700回/分、粉砕ガスGの圧力は0.45MPa、表面窒化原料粉末13が粉砕槽21(粉砕ガスG)内に留まる時間は30~300分間とした。比較例では、分級ロータ25の回転数は3700回/分、粉砕ガスGの圧力は0.45MPa、表面窒化原料粉末13が粉砕槽21(粉砕ガスG)内に留まる時間は5分間以上30分間未満とした。
【0033】
焼結工程における加熱温度は980℃とした。粒界拡散処理における付着物16には、Tbを75.3質量%、Cuを18.8質量%、Alを5.9質量%含有するTbCuAl合金の粉末とシリコーングリースを混合したものを用いた。粒界拡散処理における加熱温度は885℃とした。
【0034】
得られた本実施形態及び比較例のRFeB系焼結磁石につき、室温で磁気特性を測定した結果を表1に示す。表1中の角型比SQは、磁化曲線の第2象限(減磁曲線)において磁化が残留磁束密度B
rの90%となるときの逆磁界H
k90と保磁力H
cjの比H
k90/H
cjで定義される。
【表1】
【0035】
表1に示すように、ほぼ同じ組成を有する原料(原料合金塊11及び付着物16)を用いているにも関わらず、本実施形態のRFeB系焼結磁石は比較例のものよりも、残留磁束密度及び配向度が高い。特に、配向度は97%以上という、従来は困難であった高い値が得られている。本実施形態における保磁力及び角型比は、比較例よりも低いものの、自動車用モータ等における実用上許容される範囲内である。
【0036】
次に、本実施形態及び比較例のRFeB系焼結磁石につき、断面の光学顕微鏡写真を撮影し、微細構造の観察を行った。光学顕微鏡写真を撮影する断面は、最大磁化方向垂直面と、最大磁化方向平行面の2つを対象とした。ここで最大磁化方向垂直面は、前述のように磁化が最大となる方向である最大磁化方向に対して垂直な面をいうが、ここでは配向工程の際に印加した磁界に垂直な面を最大磁化方向垂直面とみなした。また、配向工程の際に印加した磁界に平行な面(そのような面は多数取り得る)のうちの任意の1つを最大磁化方向平行面とみなした。
【0037】
本実施形態のRFeB系焼結磁石における断面の光学顕微鏡写真を、最大磁化方向垂直面について
図3(a)に、最大磁化方向平行面について
図3(b)に、それぞれ示す。また、比較例のRFeB系焼結磁石における断面の光学顕微鏡写真を、最大磁化方向垂直面について
図4(a)に、最大磁化方向平行面について
図4(b)に、それぞれ示す。
【0038】
これらの各光学顕微鏡写真についてそれぞれ、約850個の結晶粒を対象とし、画像解析によって、個々の結晶粒の結晶粒径(円相当径)及びアスペクト比を求めた。そして、個々の結晶粒でそれぞれ得られたそれらの値を、横軸を結晶粒径、縦軸をアスペクト比とするグラフ上にプロットすることにより表した。そのグラフを、本実施形態における最大磁化方向垂直面について
図5(a)に、本実施形態における最大磁化方向平行面について
図5(b)に、比較例における最大磁化方向垂直面について
図6(a)に、比較例における最大磁化方向平行面について
図6(b)に、それぞれ示す。
【0039】
この結果より、本実施形態の最大磁化方向垂直面における結晶粒径の中央値(D50値)は3.25μmであり、3.5μm以下であった。その他の結晶粒径のD50値は、本実施形態の最大磁化方向平行面では2.93μm、比較例の最大磁化方向垂直面では3.30μm、比較例の最大磁化方向平行面では3.05μmであった。
【0040】
また、
図5の結果より求めた本実施形態の最大磁化方向垂直面における平均アスペクト比は1.49、最大磁化方向平行面における平均アスペクト比は1.47であり、アスペクト比指標値は1.49/1.47=1.01であった。それに対して、
図6の結果より求めた比較例の最大磁化方向垂直面における平均アスペクト比は1.43、最大磁化方向平行面における平均アスペクト比は1.50であり、アスペクト比指標値は1.43/1.50=0.953であった。このように、平均アスペクト比は、比較例では0.96を下回ったのに対して、本実施形態では0.96以上という、比較例よりも高い値が得られた。
【0041】
さらに、容器14内の直方体の縦、横及び高さ(高さ方向は磁界に平行な方向)の寸法(焼結前の表面窒化原料粉末13が占める部分の寸法)をそれぞれ、焼結後の焼結体15の縦、横及び高さの寸法で除した収縮率を求めた。本実施形態では、縦及び横方向の収縮率はいずれも16.2%、高さ方向の収縮率は32.2%であったのに対して、比較例では、縦及び横方向の収縮率はいずれも15.4%、高さ方向の収縮率は36.4%であった。このように、本実施形態は比較例よりも高さ方向の収縮率が低く、該方向への収縮が抑えられている。
【0042】
本実施形態のRFeB系焼結磁石につき窒素の含有率を測定したところ、460ppmであり、上述の400ppm以上1000ppm以下の範囲内であった。それに対して比較例のRFeB系焼結磁石における窒素の含有率の測定値は225ppmであり、上記範囲内よりも低かった。
【0043】
ここまでに述べた本実施形態及び比較例における配向度、アスペクト比指標値、収縮率、及び窒素含有率から、以下のことが考えられる。配向度が比較例よりも本実施形態の方が高くなる理由の1つとして、本実施形態の表面窒化原料粉末13の方が比較例の原料粉末よりも粒子の表面がより窒化していることにより、配向時に個々の粒子の表面の動摩擦係数が小さくなり、粒子が回動し易くなることが考えられる。また、他の理由として、本実施形態の表面窒化原料粉末13の方が比較例の原料粉末よりも粒子の表面がより窒化していることにより、焼結時に結晶粒が磁化容易軸(c軸)に垂直な方向に成長することが抑制され、それにより焼結収縮が磁化容易軸方向に生じることが抑制されることにより、配向度の低下が抑制されたことが考えられる。窒素含有率は、これら2つの理由のいずれにも関連するものである。また、アスペクト比指標値及び収縮率は、後者の理由を裏付けている。
【0044】
以上、本実施形態のRFeB系焼結磁石につき、比較例と対比しつつ説明したが、本発明は、言うまでもなく上記実施形態には限定されず、種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0045】
11…原料合金塊
12…粗粉
13…表面窒化原料粉末
14…容器
15…焼結体
16…付着物
17…RFeB系焼結磁石
20…ジェットミル
21…粉砕槽
22…粗粉導入口
231…粉砕ガス導入口
232…流動ガス導入口
24…衝突板
25…分級ロータ
26…排出口
G…粉砕ガス(窒素ガス)
G’…流動ガス(窒素ガス)