(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】連続鋳造装置および連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/16 20060101AFI20221129BHJP
【FI】
B22D11/16 104W
B22D11/16 104N
(21)【出願番号】P 2018161581
(22)【出願日】2018-08-30
【審査請求日】2021-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】網干 甚吾
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】実開昭53-021109(JP,U)
【文献】特開昭58-055521(JP,A)
【文献】特開2010-142695(JP,A)
【文献】特開2010-117279(JP,A)
【文献】特表2007-508150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00-11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する方向から鋳片を挟んで搬送するロールと、
前記鋳片を滞在させて、前記鋳片の質量を計測する計重機と、
前記ロールから排出され
、前記計重機に滞在している間の前記鋳片の表面の状態を観察して、観察情報を取得する観察手段と、
前記観察情報に基づいて、前記鋳片の前記ロールとの接触を経た面である接触面に存在する傷を検出し、深さおよび大きさのいずれか少なくとも一方が閾値を超える傷が前記接触面に存在する場合に、前記ロールにスケールが堆積していると判定する判定手段と、を有することを特徴とする連続鋳造装置。
【請求項2】
前記ロールは、搬送される前記鋳片に対して、少なくとも重力方向下側に設けられ、
前記鋳片が前記ロールを通過する際に、重力方向下側に存在していた面を、前記接触面として、前記観察手段による観察および前記判定手段による判定を行うことを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造装置。
【請求項3】
前記連続鋳造装置はさらに、前記ロールの後段に、前記鋳片を切断する切断手段を有し、
前記観察手段は、前記切断手段よりも後段に設けられたカメラであり、前記切断手段での切断によって得られた前記鋳片の切断面を撮影し、
前記判定手段は、前記切断面の端縁に存在する傷を検出することを特徴とする請求項1または2に記載の連続鋳造装置。
【請求項4】
前記計重機による質量測定により、所定の質量を有していると判定された鋳片は、連続鋳造の次の工程の装置に搬送されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の連続鋳造装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の連続鋳造装置を用いて、連続鋳造を行い、
前記判定手段において、前記ロールにスケールが堆積していると判定されると、前記スケールの堆積に対する処置を行うことを特徴とする連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造装置および連続鋳造方法に関し、さらに詳しくは、鋳片を搬送するロールへのスケールの堆積を検出する手段を備えた連続鋳造装置、およびそのような連続鋳造装置を用いて連続鋳造を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造装置において、鋳片を対向する方向から挟みこんで搬送するロールが用いられるが、鋳片の表面に形成されたスケールが剥落して、ロールの表面に堆積する事態が生じやすい。
【0003】
連続鋳造装置においては、種々の要因により、ロールに回転異常が生じる場合がある。連続鋳造装置において、ロールの回転異常を検出する方法として、例えば、特許文献1に、連鋳ロールの端部近傍円周に沿って突起物を設け、ロール回転時に該突起物に衝突してロールの回転を検出する検出器を用いる形態が開示されている。また、特許文献2に、一対のロール間における少なくとも2箇所の対向間隔を測定する測定手段と、測定手段が測定した少なくとも2か所の測定値の差を計算すると共に、各測定位置の当該測定前に測定した測定値との差を計算し、それぞれ計算した値が予め設定されたしきい値を超えたときに、ロールの両端部を支持するベアリング異常と判定する判定手段とを備えるベアリング異常検出装置が開示されている。測定手段としては、ロータリーエンコーダーや作動トランス等よりなるロール間隔測定器が用いられ、ロール間隔測定器は、一対のロール間に挿入される連続鋳造機のダミーバーに設置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-102849号公報
【文献】特開2006-247687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるように、突起物へのロールの衝突等を利用して、ロールの回転状態を検出するようにすれば、連続鋳造装置を運転している間、常時ロールの回転状態を監視し、異常の発生を検出することができる。しかし、その監視結果に基づいて、ロールの回転状態に異常を生じさせている原因を特定することは困難である。ロールの回転状態に異常を与えうる原因として、ロール自体の摩耗、油圧設備の不具合、ベアリングの異常等が考えられる。また、回転異常と関連して、スケールの堆積が生じている場合に、回転状態の監視結果に基づいて、スケールの堆積の程度を判定することも難しい。よって、回転異常が検出された際に、連続鋳造装置の管理者が目視等でロールの状態を確認し、スケールの堆積の有無およびその程度を判別する必要がある。そして、回転異常に関連してスケールの堆積が起きている場合に、どの程度堆積しているかを確認したうえで、除去を行うか等、行うべき処置を決定する必要がある。
【0006】
一方、特許文献2の方法によれば、ロールの回転状態に異常を与えうる種々の要因のうち、ベアリングの異常を選択的に検出することができる。しかし、ロール間における対向間隔を測定するのに、ダミーバーに設置されたロール間隔測定器を用いるため、連続鋳造装置を運転していない休転時間にしか、ロール間隔の測定および異常の検出を行うことができない。よって、異常が発生した際に、早期に対策を行うことが難しい。また、休転時間にロール間隔を測定して、異常を検出した場合に、その異常がどの時点から発生していたのか、遡及範囲を絞り込むことも、困難である。
【0007】
さらに、特許文献1,2いずれの方法においても、ロールやベアリングに生じた異常を検出することはできるが、それら製造設備の異常が、製造される鋳片の品質に対してどの程度の影響を与えるのかを、検出結果に基づいて判断することは、難しい。品質への影響の程度は、製造設備の異常に対して対策を施さねばならない緊急性や、施すべき対策の選択に、影響を与える。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、運転中に、ロールへのスケールの堆積を選択的に検出することができる連続鋳造装置、およびそのような連続鋳造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明にかかる連続鋳造装置は、対向する方向から鋳片を挟んで搬送するロールと、前記ロールから排出された前記鋳片の表面の状態を観察して、観察情報を取得する観察手段と、前記観察情報に基づいて、前記鋳片の前記ロールとの接触を経た面である接触面に存在する傷を検出し、深さおよび大きさのいずれか少なくとも一方が閾値を超える傷が前記接触面に存在する場合に、前記ロールにスケールが堆積していると判定する判定手段と、を有するものである。
【0010】
ここで、前記ロールは、搬送される前記鋳片に対して、少なくとも重力方向下側に設けられ、前記鋳片が前記ロールを通過する際に、重力方向下側に存在していた面を、前記接触面として、前記観察手段による観察および前記判定手段による判定を行うとよい。
【0011】
前記連続鋳造装置はさらに、前記ロールの後段に、前記鋳片を切断する切断手段を有し、前記観察手段は、前記切断手段よりも後段に設けられたカメラであり、前記切断手段での切断によって得られた前記鋳片の切断面を撮影し、前記判定手段は、前記切断面の端縁に存在する傷を検出するとよい。
【0012】
前記連続鋳造装置はさらに、前記鋳片を滞在させて、前記鋳片の質量を計測する計重機を有し、前記観察手段は、前記計重機に滞在している間の前記鋳片に対して、前記観察情報の取得を行うとよい。
【0013】
本発明にかかる連続鋳造方法は、上記の連続鋳造装置を用いて、連続鋳造を行い、前記判定手段において、前記ロールにスケールが堆積していると判定されると、前記スケールの堆積に対する処置を行うものである。
【発明の効果】
【0014】
上記発明にかかる連続鋳造装置においては、ロールから排出された鋳片の表面状態を観察して、ロールとの接触を経た接触面に、深さや大きさが所定の閾値を超える傷が形成されている場合に、スケールが堆積していると判定する。ロールに、ある程度の量のスケールが堆積すると、ロールから排出される鋳片の表面に、傷を与えることになる。よって、鋳片の接触面の傷を検出することで、傷の発生を引き起こさない、他の異常要因と区別して、ロールへのスケールの堆積を、選択的に検出することができる。また、ロールから排出された鋳片に対して表面状態の観察を行うので、連続鋳造装置が運転されている間に、スケールの堆積の有無を監視し、スケールの堆積が生じると、即座に検出することができる。
【0015】
鋳片の接触面への傷の形成は、ある程度の量のスケールが堆積しないと起こらないため、実際に製造される鋳片への傷の形成を、スケール堆積の検出の指標とすることで、ロールへの軽微なスケールの付着と区別して、製品としての鋳片の品質に影響を与える量に達したスケールの堆積を、検出することができる。傷の深さや大きさを計測すれば、スケールの堆積の程度をさらに詳細に評価することもできる。
【0016】
ここで、ロールが、搬送される鋳片に対して、少なくとも重力方向下側に設けられ、鋳片がロールを通過する際に、重力方向下側に存在していた面を、接触面として、観察手段による観察および判定手段による判定を行う場合には、鋳片の品質に大きな影響を与えうる、重力方向下側のロールへのスケールの堆積を、敏感に検出することができる。鋳片の自重により、重力方向下側のロールと鋳片の間には、特にスケールが巻き込まれやすく、また、巻き込まれたスケールが、鋳片の表面に、深く、大きな傷を与えやすいからである。
【0017】
連続鋳造装置がさらに、ロールの後段に、鋳片を切断する切断手段を有し、観察手段が、切断手段よりも後段に設けられたカメラであり、切断手段での切断によって得られた鋳片の切断面を撮影し、判定手段が、切断面の端縁に存在する傷を検出する場合には、観察手段を簡素な構成で設置することができる。また、鋳片の接触面に形成された傷は、切断面の観察像において、端縁の欠損や陥没として、簡便に、また精度良く検出することができる。
【0018】
連続鋳造装置がさらに、鋳片を滞在させて、鋳片の質量を計測する計重機を有し、観察手段が、計重機に滞在している間の鋳片に対して、観察情報の取得を行う場合には、鋳片が質量測定のために静止されている状態で、観察情報を取得することにより、傷の検出を高精度に行えるような高品質の観察情報を得ることができる。
【0019】
上記発明にかかる連続鋳造方法においては、上記のような観察手段と判定手段を有する連続鋳造装置を用いて鋳造を行うため、装置を運転して連続鋳造を行っている間に、鋳片の接触面における傷の形成を指標として、ロールへのスケールの堆積を、選択的に検出することができる。スケールの堆積が検出されると、連続鋳造装置の管理者等が、早期に、スケールの除去等の対処を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる連続鋳造装置の上流側部分の概略構成を示す側面図である。
【
図2】上記連続鋳造装置の下流側部分の概略構成を示す上面図である。
【
図3】カメラによる鋳片の切断面の撮影を説明する図である。
【
図5】撮影像における傷の検出方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施形態にかかる連続鋳造装置および連続鋳造方法について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
[連続鋳造装置および連続鋳造方法の概略]
図1,2に、本発明の一実施形態にかかる連続鋳造装置1の概略を示す。
図1は、上流側の部分の側面図、
図2は、下流側の部分の上面図である。
【0023】
連続鋳造装置1においては、鋳型2によって連続的に鋳造された金属材料よりなる鋳片Bが、ロール群10によって、上方から下方に向かって搬送される。ロール群10は、サポートロール11(11a,11b)、ガイドロール12(12a,12b)、ピンチロール13(13a,13b)とを含む複数のロールが、鋳片Bの搬送経路に沿って並べて配置されている。ロール11,12,13はそれぞれ、搬送される鋳片Bに対して、重力方向上側に配置された上側ロール11b,12b,13bと、それら上側ロール11b,12b,13bに対向して、搬送される鋳片Bに対して重力方向下側に配置された下側ロール11a,12a,13aとを有している。さらに、各ロール11,12,13は、それら上側ロールおよび下側ロールに加えて、鋳片Bの搬送方向Dに対して側方、つまり
図1の紙面手前側および奥側に、相互に対向して配置された、図示しない側方ロールの対を有している。
【0024】
ロール群10のうち、最下流に設けられたピンチロール13を構成する上側ピンチロール13bに、駆動軸13cが接続され、軸回転が駆動される。下側ピンチロール13aおよびサポートロール11、ガイドロール12は、軸回転を駆動されず、従動ロールとして機能する。鋳片を搬送する搬送方向Dに上側ピンチロール13bを軸回転させることで、鋳片Bは、上側ピンチロール13bと下側ピンチロール13aの間に挟み込まれて、搬送方向Dに引き抜かれる。ロール11,12,13によって、対向する方向から挟まれた鋳片Bが、ピンチロール13による引き抜きと、他の各ロール11,12の従動回転によって、搬送方向Dに搬送される。ロール群10の近傍には、図示しない水冷装置が配置され、ロール群10によって搬送されている鋳片Bに水を噴射して、鋳片Bを冷却する。
【0025】
ピンチロール13の下流には、複数の搬送ローラが並列に並べられたローラテーブル21が設けられている。ローラテーブル21は、ピンチロール13によって引き抜かれてロール群10から排出された鋳片Bを、続けて搬送方向Dに沿って搬送する。ローラテーブル21の上流側の部位には、切断手段として、トーチカー22が設けられている。トーチカー22は、ガス切断装置を備えており、鋳片Bを切断(溶断)して、所定の長さに分割する。本連続鋳造装置1は、2ストランド型の装置であり、鋳型2からローラテーブル21までの各構成要素が、それぞれ2つずつ並べて配置されており、鋳造と搬送、切断を、2系統で並行して行うことができる。
【0026】
ローラテーブル21の下流端の位置には、トランスファ装置23が設けられている。トランスファ装置23は、トーチカー22において切断され、ローラテーブル21の下流端に達した鋳片Bを、持ち上げて搬送することができる。トランスファ装置23は、鋳片Bをローラテーブル21から持ち上げ、ローラテーブル21の下流部側方に設けられた計重機42に移動させることができる。ローラテーブル21の下流端に達した鋳片Bは、トランスファ装置23によって持ち上げられ、計重機42の載置面42aに載置される。
【0027】
計重機42は、載置面42aに載置された物体の重量を計測する装置である。トランスファ装置23は、鋳片Bを計重機42の載置面42aに載置すると、一旦、鋳片Bから離れ、鋳片Bにも載置面42aにも接触しない状態となる。この状態で、鋳片Bは、載置面42aの上に、所定の滞在時間の間、静止して滞在させられる。滞在時間は、計重機42による重量の測定に必要な時間であり、載置面42a上に静止している鋳片Bに対して、その重量(質量)が計測される。そして、その重量に基づいて、所定の断面積および長さを有する鋳片Bを製造できているかが判定される。
【0028】
計重機42の後段には、搬出用ローラテーブル43が設けられており、計重機42による質量測定により、所定の質量を有していると判定された鋳片Bが、トランスファ装置23によって搬送され、搬出用ローラテーブル43に集積される。搬出用ローラテーブル43に集積された鋳片Bは、鋳片台車44によって、圧延装置等、次工程の装置に搬送される。
【0029】
本連続鋳造装置1はさらに、傷検出装置30を有している。傷検出装置30は、
図2,3に示すように、カメラ31と、光源32と、解析端末33を備えている。
【0030】
カメラ31は、鋳片Bの表面の状態を観察して観察情報を取得する観察手段として機能する。ここでは、カメラ31は、計重機42の載置面42aに滞在している鋳片Bの端面B1を撮影できるように、計重機42の側方に配置されている。ここで鋳片Bの端面B1とは、鋳片Bの長手方向両端の表面の一方であり、トーチカー22で切断された切断面に対応している。カメラ31は、計重機42の載置面42aに鋳片Bが載置された際に、鋳片Bの端面B1が配置される位置の正面に、撮影方向Aを鋳片Bの長手方向に揃えて、配置されており、鋳片Bの端面B1を撮影することができる。また、カメラ31は、ネットワークカメラよりなっており、撮影した画像を解析端末33に転送することができるとともに、撮影条件の設定等の制御を、解析端末33から行うことができる。
【0031】
光源32も、カメラ31と同様に、計重機42の側方に設置され、計重機42の載置面42aに滞在している鋳片Bの、カメラ31に撮影される端面B1を含む領域に、光Lを照射する。光Lの照射により、載置面42aに載置された鋳片Bの端面B1を、カメラ31で明瞭に撮影することが可能となる。具体的な光源32としては、例えば、LED照明装置を用いることができる。
【0032】
解析端末33は、コンピュータよりなり、カメラ31からの画像の取得と、撮影条件の制御を行うことができる。また、解析端末33は、カメラ31から取得した観察情報としての撮影像の解析を行う判定手段として機能する。つまり、撮影像に基づいて鋳片Bの表面の傷を検出し、さらに、傷の検出結果に基づいて、上流のロール群10におけるスケール堆積の有無を判定する。解析の詳細については、次に詳しく説明する。解析端末33は、鋳片Bからの熱の影響等を受けずに、解析工程を実行し、また、管理者による監視や操作を行えるように、連続鋳造ラインから離れた位置、例えばラインの制御室に設置される。
【0033】
[画像解析によるスケール堆積の検出]
上記のように、本連続鋳造装置1は、カメラ31と、判定手段として機能する解析端末33を含んだ傷検出装置30を備えている。そして、カメラ31で取得された撮影像に基づいて、ロール群10を構成するロール11,12,13にスケールが堆積しているかどうかを、解析端末33によって判定する。
【0034】
連続鋳造装置1において、鋳型2から引き抜かれた鋳片Bは、ロール群10を上流から下流に通過する間に、徐々に冷却されて凝固するが、おおむね800℃以上の高温の状態を維持する。高温の鋳片Bの表面では、酸化が起こり、スケールが形成される。そのように表面にスケールが形成された鋳片Bを、ロール群に10において、対向するロールの組11,12,13の間に挟み込んで搬送すると、ロール11,12,13との摩擦により、スケールが鋳片Bの表面から剥落する場合がある。剥落したスケールは、ロール11,12,13の表面に付着しやすい。剥落したスケールの付着が重なると、スケールがロール11,12,13の表面に堆積することになる。スケールの堆積により、対向するロールの間の距離が小さくなる。その状態で鋳片Bを挟み込んで回転することになると、ロール11,12,13の回転状態が、スケールが堆積していない状態から、変化してしまう。すると、正常な連続鋳造が行えなくなり、製造される鋳片Bの品質に影響を及ぼす可能性がある。また、ロール群10に過剰な負荷を印加することにもなる。
【0035】
ロール11,12,13のいずれかの表面にスケールが堆積すると、高温で軟らかい状態にある鋳片Bが、そのロールを通過する際に、スケールとの接触によって、表面を引掻かれ、表面に傷が形成される。よって、ロール群10から排出された鋳片Bにおいて、ロール11,12,13との接触を経た面である接触面に傷が形成されていれば、鋳片Bの表面に傷を与えるようなスケールの堆積がロール11,12,13の表面で起こっていることを、検知できる。
【0036】
図4に、計重機42の載置面42aに滞在している鋳片Bに対して、カメラ31を用いて、端面B1を正面から撮影して得られた撮影像の例を示す。鋳片Bの端面B1が、略長方形の領域として、明るく観察されている。写真において、上方および左右の端縁は、ほぼ直線状に観察されているのに対し、下方の端縁には、中央よりやや左寄りの位置に、面の内側に向かって陥没した不規則形状よりなる凹構造が見られる。この凹構造が、ロール11,12,13に堆積したスケールによって、鋳片Bの底面B2(載置面42aに接している面)に形成された傷に相当する。ロール11,12,13にスケールが堆積すると、そのスケールが除去されない限り、鋳片Bの長手方向に沿って、表面の同じ位置に傷が形成され続けることになる。よって、トーチカー22での切断によって得られた切断面である端面B1を観察することで、鋳片Bの長手方向に沿って底面B2に形成された傷を検出することができる。
【0037】
ここで、鋳片Bの端面B1に対して撮影された撮影像を解析して、傷の検出およびスケールの堆積の有無を自動的に検出する方法について、説明する。
図5に、
図4の画像を拡大したものを示し、その画像に対する解析の各工程を説明する。
【0038】
まず、傷を検出しやすいように、適宜、カメラ31で得られた撮影像を二色化する。そして、角部特定工程を実施し、画像中で、鋳片Bの底面B2の角に相当する位置を特定する。例えば、画像中で、鋳片Bの端面B1の上辺および左右の辺を直線で近似したうえで、上辺に対応する近似直線を下辺に相当する位置に配置し、その直線と左右の辺に対応する近似直線との交点を、底面B2の角であると特定すればよい。
図5中に、検出された角の位置を、丸印と符合1にて表示する。
【0039】
次に、画素対応工程を実施する。ここでは、画像上の画素数と、実際の鋳片Bにおける長さとの対応関係を特定する。つまり、1画素が何ミリメートルに対応するかを見積もる。このために、
図5中に両矢印の直線と符合2で示すように、画像中の鋳片Bの長辺方向(横方向)に沿って、鋳片Bが占める画素数を計数する。画素数の計数は、鋳片Bの短辺方向(縦方向)の複数の箇所、例えば10箇所で行い、その平均値を算出する。そして、得られた画素数の平均値で、鋳型2の形状等の鋳造条件に応じて既知である実際の鋳片Bの長辺の長さを除すことで、画像中の1画素に対応する実際の長さを見積もることができる。
【0040】
次に、傷検出工程を実施する。まず、上記角部検出工程で検出した底面B2の2つの角を直線で結び、基準線とする。
図5中にも、基準線を表示している。この基準線を、傷が形成されない場合の底面B2の位置とみなすことができる。基準線が得られると、その基準線と、画像上の鋳片Bの実際の下端縁の位置とを、基準線に沿った各部において比較する。下端縁の位置が、基準線よりも上方に位置する領域が、基準線に沿ってある程度の長さに渡って連続していれば、その領域に傷が形成されていると判定することができる。
図5では、楕円と符合3で示す領域に、傷が存在すると判定することができる。
【0041】
このように傷の存在が検出されると、次に、検出された傷の深さを見積もる。この際、傷の中で最も深さの深い位置、つまり、基準線から鋳片Bの下端縁が最も上方に離れている位置を検出し、その位置での傷の深さに対応する画素数を計測する。そして、上記画素対応工程によって得られた、画素数と実際の長さの対応関係を利用して、傷の深さを、画素数から実際の深さに換算する。さらに、予め解析端末33に記憶させておいた深さの閾値と比較して、その閾値よりも、上記換算を経て得られた深さの方が大きければ、ロール群10を構成するロール11,12,13にスケールが堆積していると判定する。ここで、閾値は、事前の試験や過去の実績により、ロール11,12,13の回転状態や、得られる鋳片Bの品質に、無視できない影響を与えるようなスケールの堆積があった場合に、鋳片Bの表面に形成される傷の深さの最低値として見積もり、解析端末33に記憶させておけばよい。
【0042】
ここで、スケールの堆積の有無を判定するためのパラメータとして、傷の深さの代わりに、傷の面積を用いてもよい。その場合には、画像において、基準線よりも上方に陥没した領域の画素数を計測して、実際の面積に換算し、予め記憶させておいた面積の閾値よりもその値が大きければ、ロール群10を構成するロール11,12,13にスケールが堆積していると判定する。傷の面積による判定を、深さによる判定と併用してもよい。
【0043】
図5の画像においては、傷は、端面B1の下方の端縁に観測されており、鋳片Bの底面B2に傷が形成されていることになる。つまり、下側ロール11a,12a,13aのいずれかにスケールが堆積していることを示している。
【0044】
解析端末33は、傷検出工程において、鋳片Bの表面に形成された傷の深さおよび/または面積に基づいて、ロール11,12,13へのスケールの堆積が起こっていると判断すると、適宜、次に警報工程を実施する。つまり、解析端末33の画面や、解析端末33に接続された警報装置に、視覚情報や音による警報を発生させ、連続鋳造装置1の管理者に、ロール11,12,13へのスケールの堆積が起こっていることを通知する。通知を受けた管理者は、ロール11,12,13におけるスケールの堆積に対する処置を行う。例えば、一旦、鋳型2による鋳造およびロール群10による搬送を停止したうえで、ロール群10を構成する各ロール11,12,13の表面を目視にて確認し、スケールの堆積箇所を特定したうえで、そのスケールを除去すればよい。なお、処置としては、必ずしもスケールの除去を行わなくても、例えば目視の結果等に応じて、確認だけに留めるような場合も含まれる。
【0045】
以上のように、ロール群10から排出された鋳片Bの表面を観察し、表面への傷の形成を指標として、ロール11,12,13へのスケールの堆積を検出することで、連続鋳造装置1の運転を停止することなく、スケールの堆積の有無を監視し続けることができる。その結果、スケールの堆積があれば、深刻な異常につながる前に、早期に発見し、必要な処置を施すことができる。
【0046】
ロール11,12,13において発生し得る主な異常としては、ロール11,12,13へのスケールの堆積の他に、ロール11,12,13の表面の摩耗、油圧設備をはじめ、ロール11,12,13を駆動するための装置の不具合、ロール11,12,13を支持するベアリングの故障等が考えられる。しかし、これら主要な異常要因のうち、鋳片Bの表面に傷を与えうるものは、実質的に、ロール11,12,13へのスケールの堆積のみである。よって、鋳片Bの表面への傷の形成を、異常検出の指標として用いることで、他の異常と区別して、ロール11,12,13へのスケールの堆積を、選択的に検出することができる。
【0047】
また、ロール11,12,13へのスケールの付着等によって、ロール11,12,13の回転状態にわずかな影響が生じたとしても、製品として得られる鋳片Bの品質に影響を及ぼさない限り、即座に処置を行わなくてもよい。鋳片Bの品質に影響を与えないようなわずかなスケールの付着に対しても、警報等による通知を受けて、目視確認、除去等の対処を行うとすれば、連続鋳造装置1の運転効率が低下してしまう。しかし、上記のように、製品そのものである鋳片Bに対して、品質異常そのものである傷の検出を行い、その傷の検出をもって、スケールの堆積の指標とすることで、製品の品質に影響を与えるような程度に達したスケールの堆積を、軽微なスケールの付着と区別して、選択的に検知することができる。さらに、上記傷検出工程において説明したように、実際の傷の深さや面積を閾値と比較して、閾値を超えた場合に、スケールの堆積が起こっていると判定することで、閾値の適切な設定によって、対処すべきスケールの堆積の程度を、製品の種類等に応じて選択することができる。閾値との大小関係だけでなく、傷の深さや面積の値から、スケールの堆積の程度を、さらに詳細に評価できるようにすれば、警報等を発して管理者に対処を行わせるべきスケール堆積の程度を、一層柔軟に設定できる。なお、傷の検出結果に基づくスケール堆積の程度の判定、およびその判定結果に基づく処置の必要性の有無の判断は、必ずしも全て解析端末33によって自動的に行わなくてもよく、管理者が、解析端末33の画面に表示された撮影像や解析結果等に基づいて、判定、判断の一部を行うようにしてもよい。
【0048】
図5では、傷が端面B1の下端縁に形成されており、それを検出することで、下側ロール11a,12a,13aにスケールの堆積が起こっていると判定できる。スケールの堆積は、鋳片Bの自重によってスケールが巻き込まれやすい下側ロール11a,12a,13aにおいて、上側ロール11b,12b,13bや側方ロールよりも起こりやすい。また、堆積したスケールが、深さや面積の大きい傷を、鋳片Bの表面に形成しやすい。よって、鋳片Bがロール群10を通過する際に、重力方向下側に存在していた底面B2に、大きな傷が形成されやすい。そこで、上記の解析方法で説明したように、角部検出工程で鋳片Bの底面B2側の角を検出し、傷検出工程において、その角の位置によって規定される基準線に基づいて、端面B1の下端縁における傷の存在を検出することで、傷の検出を指標としたスケール堆積の検出を、敏感に行うことができる。また、上端縁や側端縁における傷の有無の解析を省略できるので、スケール堆積の検出を、簡便に行うことができる。このように、鋳片Bがロール群10を通過する際に、下側ロール11a,12a,13aに接触していた底面B2を接触面として、カメラ31による観察および傷の有無の判定の対象とすることで、効率的にスケールの堆積を検出することができる。また、上記のように、ロール11,12,13の摩耗等、ロール11,12,13の回転異常と相関を有する、スケールの堆積以外の主要な異常要因は、鋳片Bの表面への傷の形成を引き起こすものではないが、もし、他に傷形成の原因となる要素があるような状況でも、傷の形成が、底面B2において、他の面よりも深刻になっていれば、スケールの堆積による傷であると判定することができる。
【0049】
傷検出装置30として、上記連続鋳造装置1では、カメラ31による端面B1の撮影を行い、撮影像を観察情報として用いているが、鋳片Bの表面の状態を観察して、観察情報を取得するための観察手段は、カメラ31に限られるものではない。しかし、観察手段としてカメラ31を用いることで、簡素な構成で、高温の鋳片Bの表面における傷の形成を、高感度に、また精度良く検出することができる。
【0050】
鋳片Bにおいて、カメラ31によって撮影する面も、特に限定されるものではないが、底面B2のように、鋳片Bがロール群10を通過する際にロール11,12,13と接触する接触面を、正面から撮影する場合には、その接触面に形成された傷の部分と、周囲の平坦部とで、光Lの反射や散乱の状態が異なることによって、傷の存在が検出されることになる。例えば、傷の部分が、周囲の平坦部と異なる明るさや色で観察されることになる。そのように画像上の明るさや色の分布という情報によって、傷を検出する場合には、傷の検出感度が低くなりやすい。しかし、上記のように、接触面に交差する面である端面B1を撮影する場合には、鋳片Bの長手方向に沿って接触面に形成された傷を、周囲の端縁から陥没した凹構造という、形状の分布の情報によって、検出することができる。この場合には、明るさや色の分布の情報を利用する場合よりも、高感度に、また明確に傷を検出することができる。なお、予め定めた閾値との比較により、ロール11,12,13へのスケール堆積の有無を判定するための指標とするパラメータとしては、鋳片Bにおいて観察する部位や観察方向、観察手段の種類等に応じて、傷の深さおよび大きさのいずれか少なくとも一方とすればよい。傷の大きさは、傷の面積(断面積または開口面積)、幅、長さのいずれか少なくとも1つを指標として、評価すればよい。選択したパラメータについて、実際に得られた測定値が、あらかじめ設定した閾値を超えていれば、ロール11,12,13にスケールが堆積していると判定することができる。特に、傷の深さを指標として用いることで、ロール11,12,13の表面にスケールが高く積み上がった状態を、敏感に検出することができる。
【0051】
ロール11,12,13へのスケールの堆積を検出するために、連続鋳造装置1のどの位置で、鋳片Bに対して傷の検出を行うかは、特に限定されるものではないが、スケール堆積以外の要因で形成されうる傷を検出することがないように、圧延等、連続鋳造よりも後段の加工を行う前の段階で、傷の検出を完了する必要がある。中でも、カメラ31等の観察手段による鋳片Bの表面状態の観察を正確に行い、解析端末33に高品質の観察情報を提供するために、観察手段による観察を、鋳片Bがロール群10やローラテーブル21によって搬送されて動いている間ではなく、静止している間に行うことが好ましい。鋳片Bを切断するトーチカー22よりも後段で、静止した鋳片Bに対して、撮影等の観察を行いうる期間として、上記で説明した計重機42の載置面42aに鋳片Bが滞在している期間の他に、トランスファ装置23によって鋳片Bがローラテーブル21から持ち上げられ、計重機42に向かって移動される前の期間を挙げることができる。しかし、トランスファ装置23によって搬送される段階の鋳片Bは、800℃程度の高温の状態にあり、表面に多量のスケールが形成されている。表面のスケールは、傷の正確な検出を妨げるものとなる。これに対し、鋳片Bが計重機42に達するまでの間に冷却を受けると、熱衝撃により、スケールが鋳片Bの表面から剥落し、表面の傷を精度良く検出しやすくなる。そのため、計重機42の位置で観察情報を取得することが好ましい。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に特に限定されることなく、種々の改変を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 連続鋳造装置
2 鋳型
10 ロール群
13 ピンチロール
13a 下側ピンチロール
13b 上側ピンチロール
21 ローラテーブル
22 トーチカー(切断手段)
23 トランスファ装置
30 傷検出装置
31 カメラ(観察手段)
32 光源
33 解析端末(判定手段)
42 計重機
42a 載置面
B 鋳片
B1 鋳片の端面(切断面)
B2 鋳片の底面
D 搬送方向
L 光