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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】重荷重用空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 15/06 20060101AFI20221129BHJP
   B60C 15/00 20060101ALI20221129BHJP
   B60C 13/02 20060101ALN20221129BHJP
【FI】
B60C15/06 N
B60C15/00 L
B60C15/00 M
B60C15/06 F
B60C15/06 G
B60C13/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018198180
(22)【出願日】2018-10-22
(65)【公開番号】P2020066242
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡部 太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡
(72)【発明者】
【氏名】新村 恭司
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-032122(JP,A)
【文献】特開2003-136922(JP,A)
【文献】特開2017-043281(JP,A)
【文献】特開平04-151309(JP,A)
【文献】特開2005-313735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 15/06
B60C 15/00
B60C 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビードと、
一方のビードと他方のビードとの間を架け渡すプライ本体と、前記プライ本体に連なり前記ビードの周りにて軸方向内側から外側に折り返される折り返し部とを有する、カーカスプライと、
軸方向において前記折り返し部の外側に位置し、金属コードを含む、一対のフィラーと、
前記ビードの軸方向外側に位置し、タイヤが嵌め合わされるリムと接触する一対のチェーファーと
を備え、
前記ビードが、コアと、前記コアの径方向外側に位置するエイペックスとを備え、
前記チェーファーの外端が、前記エイペックスの外端の径方向内側に位置し、
前記フィラーが、前記折り返し部と前記チェーファーとの間に位置し、
径方向において、前記フィラーの第一端がビードベースラインよりも内側に位置し、当該フィラーの第二端が前記折り返し部の端と前記ビードベースラインとの間に位置し、
前記タイヤの側面のうち、最大幅位置と前記折り返し部の端との間のゾーンに、凹みが設けられ
前記凹みの中心位置が、径方向において、前記エイペックスの外端と前記チェーファーの外端との間に位置し、
前記凹みの内端が、径方向において、前記折り返し部の端と前記チェーファーの外端との間に位置し、
前記凹みの外端が、径方向において、前記エイペックスの外端と前記最大幅位置との間に位置する、重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記プライ本体から前記凹みまでの最小厚さの、当該最小厚さを示す線分に沿って計測される、当該プライ本体から当該凹みがないとして得られる仮想側面までの仮想厚さに対する比が、0.3以上0.7以下である、請求項1に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記折り返し部の端から前記凹みの内端までの径方向距離が10mm以上20mm以下である、請求項1又は2に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記凹みが、底部と、当該底部の径方向外側に位置する外側境界部とを備え、
前記外側境界部のプロファイルが、外側に凸な円弧で表され、当該円弧の半径が40mm以上である、請求項1から3のいずれかに記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記凹みが、底部と、前記底部の径方向内側に位置する内側境界部とを備え、
前記内側境界部のプロファイルが、外側に凸な円弧で表され、当該円弧の半径が40mm以上である、請求項1から4のいずれかに記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記底部のプロファイルが内向きに凸な円弧で表される、請求項4又は5に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記底部のプロファイルが直線で表される、請求項4又は5に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記ビードが、コアと、当該コアを包囲する第一エイペックスと、当該第一エイペックスの径方向外側に位置する第二エイペックスとを備え、
前記第一エイペックスの外周が丸みを帯びた輪郭を有し、
前記第一エイペックスが前記第二エイペックスよりも硬質である、請求項1から7のいずれかに記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重荷重用空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
図5には、従来の重荷重用空気入りタイヤ2のビード4の部分(以下、ビード部Bとも称される。)が示される。このビード部Bは、リムR(正規リム)に嵌め合わされる。
【0003】
このタイヤ2では、カーカスプライ6は、ビード4の周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返される。このカーカスプライ6は、プライ本体8と折り返し部10とを備える。
【0004】
このタイヤ2では、ビード4はコア12とエイペックス14とを備える。このタイヤ2では、エイペックス14は、第一エイペックス16と、この第一エイペックス16よりも軟質な第二エイペックス18とを備える。図5に示されるように、第一エイペックス16の外端16aは、径方向において、折り返し部10の端10aよりも外側に位置する。
【0005】
このタイヤ2は、ビード部Bの剛性確保のために、フィラー20を備える。図示されないが、このフィラー20は並列した多数のスチールコードとトッピングゴムとで構成される。
【0006】
フィラー20は、折り返し部10とチェーファー22との間に位置する。図5に示されるように、径方向において、フィラー20の内端20aはビード4のコア12の内側に位置する。フィラー20の外端20bは、折り返し部10の端10aよりも内側に位置する。このフィラー20は、従来のフィラー(以下、ノーマルフィラーとも称される。)のように、ビード4の周りにて折り返された構造を有していない。このフィラー20は、ショートフィラーとも称される。
【0007】
このタイヤ2は、トラック、バス等の車両に装着される。このタイヤ2のビード部Bには、大きな荷重が作用するため、このビード部Bの耐久性、すなわちビード耐久性を向上させることは重要である。重荷重用空気入りタイヤにおいては、ビード部Bの構成を調整して剛性をコントロールすることにより、ビード耐久性を向上させることが検討されている(例えば、下記の特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-157524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
フィラー20として前述のショートフィラーを採用したタイヤ2では、ノーマルフィラーを採用したタイヤにおいて保護されていた、フィラー20の内端20aの位置からビード4に沿って径方向外向きに延びるプライ本体8に作用する力が増大する。このタイヤ2では、フィラー20によるビード4の拘束力が低下するため、ビード部Bの動きが大きい。このため、折り返し部10の端10aの動きも大きく、プライ・ターンアップ・ルース(PTL)という損傷が生じることが懸念される。このビード部Bの動きは、発熱、すなわち、エネルギーロスを招来するため、転がり抵抗の増大を伴う恐れもある。タイヤ2の転がり抵抗の増大は、車両の燃費性能に影響する。
【0010】
例えば、ワイヤ24を巻き回して構成するコア12において、このワイヤ24の巻数を増加させる、コア12の径方向外側に位置するエイペックス14のボリュームを増加させる等をして、ビード部Bの剛性を向上させれば、ビード耐久性の向上を図ることができる。しかしその一方で、タイヤ2の質量が増加するとともに、ビード部Bの動きに伴う発熱、すなわち、エネルギーロスが増加することが懸念される。
【0011】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、軽量化を図りながら、ビード耐久性の向上と、転がり抵抗の低減とが達成された、重荷重用空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る好ましい重荷重用空気入りタイヤは、一対のビードと、一方のビードと他方のビードとの間を架け渡すプライ本体と、前記プライ本体に連なり前記ビードの周りにて軸方向内側から外側に折り返される折り返し部とを有する、カーカスプライと、軸方向において前記折り返し部の外側に位置し、金属コードを含む、一対のフィラーと、を備える。径方向において、前記フィラーの第一端はビードベースラインよりも内側に位置し、当該フィラーの第二端は前記折り返し部の端と前記ビードベースラインとの間に位置する。タイヤの側面のうち、最大幅位置と前記折り返し部の端との間のゾーンに、凹みが設けられる。
【0013】
好ましくは、この重荷重用空気入りタイヤでは、前記プライ本体から前記凹みまでの最小厚さの、当該最小厚さを示す線分に沿って計測される、当該プライ本体から当該凹みがないとして得られる仮想側面までの仮想厚さに対する比は0.3以上0.7以下である。
【0014】
好ましくは、この重荷重用空気入りタイヤでは、前記折り返し部の端から前記凹みの内端までの径方向距離は10mm以上20mm以下である。
【0015】
好ましくは、この重荷重用空気入りタイヤでは、前記凹みは、底部と、当該底部の径方向外側に位置する外側境界部とを備える。前記外側境界部のプロファイルは、外側に凸な円弧で表され、当該円弧の半径が40mm以上である。
【0016】
好ましくは、この重荷重用空気入りタイヤでは、前記凹みは、底部と、前記底部の径方向内側に位置する内側境界部とを備える。前記内側境界部のプロファイルは、外側に凸な円弧で表され、当該円弧の半径が40mm以上である。
【0017】
好ましくは、この重荷重用空気入りタイヤでは、前記底部のプロファイルは内向きに凸な円弧で表される。
【0018】
好ましくは、この重荷重用空気入りタイヤでは、前記底部のプロファイルは直線で表される。
【0019】
好ましくは、この重荷重用空気入りタイヤでは、前記ビードは、コアと、当該コアを包囲する第一エイペックスと、当該第一エイペックスの径方向外側に位置する第二エイペックスとを備える。前記第一エイペックスの外周は丸みを帯びた輪郭を有する。前記第一エイペックスは、前記第二エイペックスよりも硬質である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の重荷重用空気入りタイヤでは、フィラーとして所謂ショートフィラーが採用される。このフィラーは質量の低減に寄与する。そして、側面の、最大幅位置と折り返し部の端との間のゾーンに設けられる凹みが、折り返し部の端よりも径方向外側部分におけるゴムの動きを抑制する。折り返し部の動きが抑えられるので、このタイヤでは、プライ・ターンアップ・ルースのような損傷が生じにくい。さらに、この動きの抑制は、変形に伴う発熱も抑える。そして、この凹みは質量の低減にも寄与する。このタイヤでは、軽量化を図りながら、ビード耐久性の向上と、転がり抵抗の低減とが達成される。本発明によれば、軽量化を図りながら、ビード耐久性の向上と、転がり抵抗の低減とが達成された、重荷重用空気入りタイヤが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る重荷重用空気入りタイヤの一部が示された断面図である。
図2図2は、図1のタイヤのビード部が示された部分断面図である。
図3図3は、図1のタイヤの凹みの変形例が示された部分断面図である。
図4図4は、図1のタイヤのビードの変形例が示された部分断面図である。
図5図5は、従来の重荷重用空気入りタイヤのビード部が示された部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0023】
本発明においては、タイヤを正規リムに組み込み、タイヤの内圧が正規内圧に調整され、このタイヤに荷重がかけられていない状態は、正規状態と称される。本発明では、特に言及がない限り、タイヤ各部の寸法及び角度は正規状態で測定される。
【0024】
本発明において正規リムとは、タイヤが依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0025】
本発明において正規内圧とは、タイヤが依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【0026】
本発明において正規荷重とは、タイヤが依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最大負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態に係る重荷重用空気入りタイヤ32(以下、単に「タイヤ32」と称することがある。)の一部を示す。このタイヤ32は、例えば、トラック、バス等の重荷重車両に装着される。
【0028】
図1は、タイヤ32の回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ32の断面の一部を示す。この図1において、左右方向はタイヤ32の軸方向であり、上下方向はタイヤ32の径方向である。この図1の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ32の周方向である。この図1において、一点鎖線CLはタイヤ32の赤道面を表す。
【0029】
図1において、軸方向に延びる実線BBLはビードベースラインである。このビードベースラインは、リム(正規リム)のリム径(JATMA等参照)を規定する線である。
【0030】
図1において、符号PWはこのタイヤ32の軸方向外端である。この外端PWは、このタイヤ32の側面34に模様や文字等の装飾がないと仮定して得られる、仮想側面に基づいて特定される。一方の外端PWから他方の外端PWまでの軸方向距離は、このタイヤ32の最大幅、すなわちタイヤ32の断面幅(JATMA等参照)である。この外端PWは、このタイヤ32が最大幅を示す位置(以下、タイヤ32の最大幅位置とも称される。)である。
【0031】
このタイヤ32は、トレッド36、一対のサイドウォール38、一対のビード40、一対のチェーファー42、カーカス44、ベルト46、一対のクッション層48、インナーライナー50及び一対のフィラー52を備える。
【0032】
トレッド36は、その外面54において路面と接触する。トレッド36の外面54はトレッド面である。前述の側面34は、このトレッド面54の端に連なり、径方向内向きに延びる。
【0033】
このタイヤ32では、トレッド36は、ベース部56と、キャップ部58とを備える。このタイヤ32では、一対のベース部56が設けられる。これらベース部56は、軸方向において間隔をあけて配置される。それぞれのベース部56は、ベルト46の端の部分を覆う。ベース部56は架橋ゴムからなる。キャップ部58は、ベース部56の径方向外側に位置する。このキャップ部58は、一対のベース部56とベルト46の全体とを覆う。このキャップ部58の外面が前述のトレッド面54をなす。キャップ部58は架橋ゴムからなる。
【0034】
このタイヤ32では、トレッド36に、少なくとも3本の周方向溝60が刻まれる。これにより、このトレッド36には、少なくとも4本の周方向陸部62が構成される。
【0035】
それぞれのサイドウォール38は、トレッド36の端に連なる。サイドウォール38は、トレッド36の端から径方向内向きに延びる。サイドウォール38は架橋ゴムからなる。サイドウォール38の外面は、タイヤ32の側面34を構成する。
【0036】
それぞれのビード40は、サイドウォール38よりも径方向内側に位置する。ビード40は、コア64と、エイペックス66とを備える。
【0037】
コア64は、周方向に延びる。コア64は、巻き回されたスチール製のワイヤ68を含む。コア64は略六角形の断面形状を有する。このタイヤ32では、コア64は、径方向においてビードベースラインよりも外側に位置する。このコア64の断面において、符号PAで示された角部がこのコア64の径方向内端であり、符号PBで示された角部がこのコア64の軸方向内端である。なお、コア64の角部は、コア64の断面に含まれる、ワイヤ68の断面束の輪郭に基づいて特定される。
【0038】
エイペックス66は、コア64の径方向外側に位置する。エイペックス66は、コア64から径方向外向きに延びる。このタイヤ32では、エイペックス66は、第一エイペックス70と第二エイペックス72とを備える。第一エイペックス70はコア64の径方向外側に位置する。第一エイペックス70は径方向外向きに先細りである。第二エイペックス72は第一エイペックス70の軸方向外側に位置する。第二エイペックス72は、第一エイペックス70の外端74が位置する部分において大きな厚さを有する。第二エイペックス72の外側部分は径方向外向きに先細りである。第二エイペックス72の内側部分は径方向内向きに先細りである。第一エイペックス70及び第二エイペックス72のそれぞれは架橋ゴムからなる。第一エイペックス70は、第二エイペックス72よりも硬質である。このエイペックス66は、硬質な第一エイペックス70と軟質な第二エイペックス72とで構成される。
【0039】
このタイヤ32では、第一エイペックス70の硬さは83以上98以下の範囲で設定される。第二エイペックス72の硬さは45以上65以下の範囲で設定される。なお、本発明において、「硬さ」は、JIS K6253の規定に準じて、23℃の温度条件下でタイプAデュロメータを用いて測定される。
【0040】
それぞれのチェーファー42は、ビード40の軸方向外側に位置する。このチェーファー42は、サイドウォール38よりも径方向内側に位置する。図示されないが、チェーファー42はリムと接触する。チェーファー42は、架橋ゴムからなる。このタイヤ32では、チェーファー42の外端76は、径方向において、第二エイペックス72の外端78、すなわち、エイペックス66の外端78よりも内側に位置する。
【0041】
図1において、符号PTはこのタイヤ32のトゥーである。このトゥーPTからサイドウォール38の内端80までのチェーファー42の外面は側面34の一部をなす。
【0042】
カーカス44は、トレッド36、サイドウォール38及びチェーファー42の内側に位置する。カーカス44は、少なくとも1枚のカーカスプライ82を備える。このタイヤ32のカーカス44は、1枚のカーカスプライ82からなる。
【0043】
図示されないが、カーカスプライ82は並列された多数のカーカスコードを含む。これらカーカスコードは、トッピングゴムで覆われる。それぞれのカーカスコードは、赤道面と交差する。このタイヤ32では、カーカスコードが赤道面に対してなす角度は70°以上90°以下である。このタイヤ32のカーカス44は、ラジアル構造を有する。このタイヤ32では、カーカスコードの材質はスチールである。有機繊維からなるコードが、カーカスコードとして用いられてもよい。
【0044】
このタイヤ32では、カーカスプライ82はそれぞれのビード40(詳細にはコア64)の周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返される。このカーカスプライ82は、一方のビード40と他方のビード40とを架け渡すプライ本体84と、このプライ本体84に連なりそれぞれのビード40の周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返される一対の折り返し部86とを有する。このタイヤ32では、折り返し部86の端88は、径方向において、第一エイペックス70の外端74よりも内側に位置する。
【0045】
ベルト46は、トレッド36の径方向内側に位置する。このベルト46は、カーカス44の径方向外側に位置する。
【0046】
このタイヤ32では、ベルト46は径方向に積層された4枚の層90からなる。このタイヤ32では、ベルト46を構成する層90の枚数に特に制限はない。このベルト46の構成は、タイヤ32の仕様が考慮され適宜決められる。
【0047】
図示されないが、それぞれの層90は並列された多数のベルトコードを含む。これらベルトコードは、トッピングゴムで覆われる。このタイヤ32では、ベルトコードの材質はスチールである。
【0048】
それぞれの層90において、ベルトコードは赤道面に対して傾斜する。一の層90におけるベルトコードは、この一の層90に積層される他の層90におけるベルトコードと交差する。
【0049】
このタイヤ32では、4枚の層90のうち、第一層90Aと第三層90Cとの間に位置する第二層90Bが最大の軸方向幅を有する。径方向において最も外側に位置する第四層90Dが、最小の軸方向幅を有する。
【0050】
それぞれのクッション層48は、ベルト46の端の部分において、このベルト46とカーカス44との間に位置する。クッション層48は、架橋ゴムからなる。
【0051】
インナーライナー50は、カーカス44の内側に位置する。インナーライナー50は、タイヤ32の内面を構成する。このインナーライナー50は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー50は、タイヤ32の内圧を保持する。
【0052】
それぞれのフィラー52は、ビード40の部分に位置する。このフィラー52は軸方向においてビード40の外側に位置する。図1に示されるように、フィラー52は、折り返し部86とチェーファー42との間に位置する。
【0053】
図示されないが、フィラー52は並列した多数の金属コードを含む。このタイヤ32では、金属コードの材質はスチールである。このタイヤ32では、フィラー52に含まれる金属コードはスチールコードである。フィラー52において金属コードは、トッピングゴムで覆われる。
【0054】
このタイヤ32では、径方向において、フィラー52の第一端92(内端とも称される。)はビードベースラインよりも内側に位置する。このフィラー52の第一端92は、径方向において、ビードベースラインとトゥーPTとの間に位置する。このタイヤ32では、軸方向において、このフィラー52の第一端92は、コア64の内端PA、すなわち角部PAの位置と同等の位置に配置される。このフィラー52の第二端94(外端とも称される。)は、径方向において、折り返し部86の端88よりも内側に位置する。このフィラー52の第二端94は、径方向において、折り返し部86の端88とビードベースラインとの間に位置する。このフィラー52は、ショートフィラーである。
【0055】
図2には、図1のタイヤ32の断面の一部が示される。この図2には、このタイヤ32のビード40の部分(以下、ビード部Bとも称される。)が示される。この図2において、左右方向はタイヤ32の軸方向であり、上下方向はタイヤ32の径方向である。この図2の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ32の周方向である。
【0056】
このタイヤ32では、側面34に、凹み96が設けられる。このタイヤ32では、側面34の一部をなすサイドウォール38の外面に、この凹み96は設けられる。図2に示されるように、凹み96は内向きに凸な形状を有する。この凹み96は、周方向に途切れることなく延在する。
【0057】
図2において、符号PSは凹み96の外端である。符号PUは、この凹み96の内端である。このタイヤ32では、径方向において、凹み96の外端PSは最大幅位置PWよりも内側に位置する。凹み96の内端PUは、径方向において折り返し部86の端88よりも外側に位置する。このタイヤ32では、その側面34のうち、最大幅位置PWと折り返し部86の端88との間のゾーンに、凹み96は設けられる。
【0058】
リムに装着されたタイヤ32に荷重が作用すると、タイヤ32においては、折り返し部86の端88及びフィラー52の第二端94が位置する付近に向かってゴムは動く。この動きに合わせて、プライ本体84は軸方向外向きに動く。前述したように、このタイヤ32では、最大幅位置PWと折り返し部86の端88との間のゾーンに凹み96が位置する。この凹み96は、折り返し部86の端88及びフィラー52の第二端94が位置する付近におけるゴムの動きを抑制するとともに、プライ本体84の動きを抑制する。この凹み96は、タイヤ32に荷重が作用した際の、折り返し部86の端88よりも径方向外側部分における、ゴムの動きを抑制する。
【0059】
このタイヤ32では、フィラー52としてショートフィラーが採用される。このフィラー52は質量の低減に寄与する。そして、前述したように、側面34の、最大幅位置PWと折り返し部86の端88との間のゾーンに設けられる凹み96が、折り返し部86の端88よりも径方向外側部分におけるゴムの動きを抑制する。折り返し部86の動きが抑えられるので、このタイヤ32では、プライ・ターンアップ・ルースのような損傷が生じにくい。さらに、この動きの抑制は、変形に伴う発熱も抑える。そして、この凹み96は質量の低減にも寄与する。このタイヤ32では、軽量化を図りながら、ビード耐久性の向上と、転がり抵抗の低減とが達成される。
【0060】
図2において点線VLは、側面34に凹み96がないとして得られる仮想側面である。この仮想側面VLは、最大幅位置PWの特定に用いられる、前述の仮想側面の一部である。実線NLは、プライ本体84の法線である。両矢印TAは、この法線NLに沿って計測される、プライ本体84から凹み96までの厚さである。このタイヤ32では、この厚さTAはプライ本体84から凹み96までの最小厚さで表される。両矢印TBは、この最小厚さTAを示す線分、すなわち法線NLに沿って計測される、プライ本体84から仮想側面VLまでの仮想厚さである。
【0061】
このタイヤ32では、最小厚さTAの、仮想厚さTBに対する比は0.3以上が好ましく、0.7以下が好ましい。この比が0.3以上に設定されることにより、この凹み96の底付近における歪の増大が抑えられるとともに、最小厚さTAが必要な厚さで構成される。このタイヤ32では、この凹み96におけるクラック等の損傷の発生が抑えられる。この観点から、この比は0.4以上がより好ましい。この比が0.7以下に設定されることにより、荷重が作用した際の、サイドウォール38を構成するゴムの、リムのフランジ側に向かう動きが抑えられる。このタイヤ32では、凹み96が、折り返し部86の端88よりも径方向外側部分におけるゴムの動きを効果的に抑制する。このタイヤ32では、ビード耐久性が効果的に向上するとともに、転がり抵抗が効果的に低減される。この観点から、この比は0.6以下が好ましい。
【0062】
図2において、両矢印DUは折り返し部86の端88から凹み96の内端PUまでの径方向距離である。両矢印DSは、最大幅位置PWから凹み96の外端PSまでの径方向距離である。
【0063】
このタイヤ32では、折り返し部86の端88から凹み96の内端PUまでの径方向距離DUは10mm以上が好ましく、20mm以下が好ましい。この距離DUが10mm以上に設定されることにより、凹み96が折り返し部86の端88と適正な間隔をあけて配置されるので、凹み96と折り返し部86との干渉が防止される。折り返し部86の端88への歪みの集中が抑えられ、凹み96により奏される効果が十分に発揮されるので、このタイヤ32では、ビード耐久性が効果的に向上するとともに、転がり抵抗が効果的に低減される。この距離DUが20mm以下に設定されることにより、最大幅位置PWと折り返し部86の端88との間のゾーンに十分な大きさを有する凹み96が確保される。この場合においても、凹み96により奏される効果が十分に発揮されるので、このタイヤ32では、ビード耐久性が効果的に向上するとともに、転がり抵抗が効果的に低減される。
【0064】
このタイヤ32では、最大幅位置PWから凹み96の外端PSまでの径方向距離DSは10mm以上が好ましく、20mm以下が好ましい。この距離DSが10mm以上に設定されることにより、凹み96が最大幅位置PWと適正な間隔をあけて配置される。このタイヤ32では、最大幅位置PWにおけるサイドウォール38が適正な厚さを有するので、良好な耐カット性が維持される。この距離DSが20mm以下に設定されることにより、最大幅位置PWと折り返し部86の端88との間のゾーンに十分な大きさを有する凹み96が確保される。凹み96により奏される効果が十分に発揮されるので、このタイヤ32では、ビード耐久性が効果的に向上するとともに、転がり抵抗が効果的に低減される。
【0065】
このタイヤ32では、側面34のうち、最大幅位置PWから径方向内側部分は、前述の凹み96と、この凹み96の外端PSから径方向外向きに延びる外側部98と、この凹み96の内端PUから径方向内向きに延びる内側部100とを備える。
【0066】
前述の仮想側面VLは、外側部98と内側部100との間に位置する。凹み96の外端PUは、外側部98と仮想側面VLとの境界である。この凹み96の内端PUは、内側部100とこの仮想側面VLとの境界である。このタイヤ32では、仮想側面VLのプロファイルと、外側部98のプロファイルとは、境界PSにおいて接する。この仮想側面VLのプロファイルと、内側部100のプロファイルとは、境界PUにおいて接する。
【0067】
このタイヤ32では、凹み96は、底部102と、外側境界部104と、内側境界部106とを備える。
【0068】
外側境界部104は、底部102と、前述の外側部98とを架け渡す。外側境界部104のプロファイルは、外端PSにおいて外側部98のプロファイルと接する。この外端PSは、外側境界部104と外側部98との境界でもある。
【0069】
内側境界部106は、底部102と、前述の内側部100とを架け渡す。内側境界部106のプロファイルは、内端PUにおいて内側部100のプロファイルと接する。この内端PUは、内側境界部106と内側部100との境界でもある。
【0070】
図2において、符号PSbは底部102の外端である。符号PUbは、この底部102の内端である。このタイヤ32では、底部102の径方向外側に、外側境界部104は位置する。底部102のプロファイルは、外端PSbにおいて外側境界部104のプロファイルと接する。この外端PSbは、底部102と外側境界部104との境界である。底部102の径方向内側には、内側境界部106が位置する。底部102のプロファイルは、内端PUbにおいて内側境界部106のプロファイルと接する。この内端PUbは、底部102と内側境界部106との境界である。
【0071】
図2に示された、このタイヤ32の断面において、外側境界部104のプロファイルは外側に凸な円弧で表される。この図2において、矢印Rsは、この外側境界部104のプロファイルを表す円弧の半径である。
【0072】
このタイヤ32では、外側境界部104のプロファイルを表す円弧の半径Rsは40mm以上が好ましい。これにより、外側境界部104への歪の集中が抑えられる。このタイヤ32では、凹み96により奏される効果が十分に発揮されるので、ビード耐久性が効果的に向上するとともに、転がり抵抗が効果的に低減される。なお、この半径Rsの上限は、側面34のプロファイルの構成が考慮され適宜決められる。
【0073】
図2に示された、このタイヤ32の断面において、内側境界部106のプロファイルは外側に凸な円弧で表される。この図2において、矢印Ruは、この内側境界部106のプロファイルを表す円弧の半径である。
【0074】
このタイヤ32では、内側境界部106のプロファイルを表す円弧の半径Ruは40mm以上が好ましい。これにより、内側境界部106への歪の集中が抑えられる。このタイヤ32では、凹み96により奏される効果が十分に発揮されるので、ビード耐久性が効果的に向上するとともに、転がり抵抗が効果的に低減される。なお、この半径Ruの上限は、側面34のプロファイルの構成が考慮され適宜決められる。
【0075】
このタイヤ32では、凹み96がビード耐久性の向上と転がり抵抗の低減に効果的に寄与する観点から、外側境界部104のプロファイルを表す円弧の半径Rsが40mm以上であり、内側境界部106のプロファイルを表す円弧の半径Ruが40mm以上であるのがより好ましい。
【0076】
このタイヤ32では、底部102のプロファイルは内側に凸な円弧で表される。このため、底部102に作用する力が底部102全体に効果的に分散される。このタイヤ32では、底部102の特定の箇所に歪が集中し、クラック等の損傷が発生することが防止される。このタイヤ32では、凹み96により奏される効果が十分に発揮されるので、ビード耐久性が効果的に向上するとともに、転がり抵抗が効果的に低減される。
【0077】
図2において、矢印Rbは底部102のプロファイルを表す円弧の半径である。このタイヤ32では、この半径Rbは、前述の、折り返し部86の端88から凹み96の内端PUまでの径方向距離DU及び最大幅位置PWから凹み96の外端PSまでの径方向距離DS、並びに、外側境界部104のプロファイルを表す円弧の半径Rs及び内側境界部106のプロファイルを表す円弧の半径Ruを考慮して、適宜決められる。底部102における応力集中による損傷防止の観点から、この半径Rbは40mm以上が好ましい。
【0078】
図2において、符号PNは法線NLと凹み96との交点である。この交点PNは、プライ本体84から凹み96までの厚さが最小厚さを示す、凹み96上の位置、すなわち最小厚さ位置である。符号PCは、凹み96の中心位置である。図2に示された断面にて計測される、凹み96の長さが半分となる位置において、この中心位置PCは特定される。
【0079】
このタイヤ32では、凹み96の最小厚さ位置PNは、径方向において、この凹み96の中心位置PCよりも外側に位置する。このタイヤ32では、凹み96に作用する力が凹み96全体に効果的に分散される。このタイヤ32では、凹み96の特定の箇所に歪が集中し、クラック等の損傷が発生することが防止される。このタイヤ32では、凹み96により奏される効果が十分に発揮されるので、ビード耐久性が効果的に向上するとともに、転がり抵抗が効果的に低減される。この観点から、凹み96の最小厚さ位置PNは、径方向において、この凹み96の中心位置PCよりも外側に位置するのが好ましい。
【0080】
このタイヤ32では、凹み96の中心位置PCは、径方向において、エイペックス66の外端78とチェーファー42の外端76との間に位置する。このタイヤ32では、凹み96が、折り返し部86の端88よりも径方向外側部分におけるゴムの動きを効果的に抑制する。このタイヤ32では、ビード耐久性が効果的に向上するとともに、転がり抵抗が効果的に低減される。この観点から、凹み96の中心位置PCは、径方向において、エイペックス66の外端78とチェーファー42の外端76との間に位置するのが好ましい。
【0081】
図2において、両矢印HWはビードベースラインから最大幅位置PWまでの径方向距離である。両矢印HBは、凹み96の内端PUから外端PSまでの径方向距離である。
【0082】
このタイヤ32では、径方向距離HWに対する径方向距離HBの比は、0.45以上が好ましく、0.65以下が好ましい。この比が0.45以上に設定されることにより、凹み96の大きさが十分に確保される。この凹み96は、折り返し部86の端88よりも径方向外側部分におけるゴムの動きを効果的に抑制する。このタイヤ32では、ビード耐久性が効果的に向上するとともに、転がり抵抗が効果的に低減される。この観点から、この比は0.50以上がより好ましい。この比が0.65以下に設定されることにより、凹み96の大きさが適切に維持される。このタイヤ32では、凹み96による剛性への影響が効果的に抑制される。この観点から、この比は0.60以下がより好ましい。
【0083】
ところで、タイヤ32の偏平率の呼びが65%以下であり、断面幅の呼びが385以上である場合、このタイヤ32では、トレッド36の軸方向幅に対して、ビードベースラインから赤道面とカーカス44の内面との交点までの径方向高さで表される、カーカス高さが低い。このタイヤ32では、撓むことにより荷重の作用を吸収できる領域が通常タイプのタイヤ32に比べて狭い。このため、このタイヤ32では、十分なビード耐久性を確保することは難しい。
【0084】
前述したように、このタイヤ32では、側面34の、最大幅位置PWと折り返し部86の端88との間のゾーンに凹み96が設けられる。この凹み96は、タイヤ32の撓みに貢献する。そしてこの凹み96は、折り返し部86の端88よりも径方向外側部分におけるゴムの動きを抑制するとともに質量の低減にも寄与する。このため、このタイヤ32の偏平率の呼びが65%以下であり、断面幅の呼びが385以上である場合であっても、このタイヤ32では、軽量化を図りながら、ビード耐久性の向上と、転がり抵抗の低減とが達成される。
【0085】
図3は、本発明の他の実施形態に係る重荷重用空気入りタイヤ112(以下、単に「タイヤ112」と称することがある。)の一部を示す。
【0086】
この図3には、このタイヤ112のビード部Bが示される。図3において、左右方向はタイヤ112の軸方向であり、上下方向はタイヤ112の径方向である。この図3の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ112の周方向である。
【0087】
この図3には、図1に示されたタイヤ32の側面34に設けられる凹み96の変形例が示される。このタイヤ112では、凹み96の底部102以外は、図1に示されたタイヤ32と同等の構成を有する。この図3においては、図1に示されたタイヤ32の部材と同一の部材には同一符号を付して、その説明は省略する。
【0088】
このタイヤ112では、凹み96の底部102のプロファイルは円弧ではなく、直線で表される。この底部102は、その外端PSbにおいて、凹み96の外側境界部104と繋げられる。この底部102は、その内端PUbにおいて、凹み96の内側境界部106と繋げられる。
【0089】
このタイヤ112においても、図1に示されたタイヤ32と同様、フィラー52としてショートフィラーが採用される。このフィラー52は質量の低減に寄与する。そして、側面34の、最大幅位置PWと折り返し部86の端88との間のゾーンに設けられる凹み96が、折り返し部86の端88よりも径方向外側部分におけるゴムの動きを抑制する。折り返し部86の動きが抑えられるので、このタイヤ112では、プライ・ターンアップ・ルースのような損傷が生じにくい。さらに、この動きの抑制は、変形に伴う発熱も抑える。そして、この凹み96は質量の低減にも寄与する。このタイヤ112では、軽量化を図りながら、ビード耐久性の向上と、転がり抵抗の低減とが達成される。
【0090】
このタイヤ32では、凹み96の底部102のプロファイルは円弧で表されてもよく、直線で表されてもよい。このタイヤ32では、凹み96により奏される効果がより十分に発揮される観点から、凹み96の底部102のプロファイルは円弧で表されるのが好ましい。
【0091】
図4は、本発明のさらに他の実施形態に係る重荷重用空気入りタイヤ122(以下、単に「タイヤ122」と称することがある。)の一部を示す。
【0092】
この図4には、このタイヤ122のビード部Bが示される。図4において、左右方向はタイヤ122の軸方向であり、上下方向はタイヤ122の径方向である。この図4の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ122の周方向である。
【0093】
この図4には、図1に示されたタイヤ32のビード40の一部をなすエイペックス66の変形例が示される。このタイヤ122では、ビード40のエイペックス66以外は、図1に示されたタイヤ32と同等の構成を有する。この図4においては、図1に示されたタイヤ32の部材と同一の部材には同一符号を付して、その説明は省略する。
【0094】
このタイヤ122では、エイペックス66は第一エイペックス124と第二エイペックス126とを備える。図1に示されたタイヤ32の第一エイペックス70及び第二エイペックス72と同様、このタイヤ122の第一エイペックス124は、第二エイペックス126よりも硬質である。このエイペックス66は、硬質な第一エイペックス124と軟質な第二エイペックス126とで構成される。
【0095】
このタイヤ122では、図1に示されたタイヤ32の第一エイペックス70と同様、第一エイペックス124の硬さは83以上98以下の範囲で設定される。第二エイペックス126の硬さは、図1に示されたタイヤ32の第二エイペックス72と同様、45以上65以下の範囲で設定される。
【0096】
第一エイペックス124は、コア64を包囲する。言い換えれば、コア64に周囲には、第一エイペックス124が位置する。第二エイペックス126は、この第一エイペックス124の径方向外側に位置する。この第二エイペックス126は、第一エイペックス124から径方向外向きに延びる。第二エイペックス126は、径方向外向きに先細りである。
【0097】
図4に示されるように、このタイヤ122では、第一エイペックス124の外周は丸みを帯びた輪郭を有する。この第一エイペックス124は、丸型である。このため、第二エイペックス126の第一エイペックス124との接触面、すなわち、第二エイペックス126の底面128は、図4に示された断面において、径方向外向きに凸な形状を有する。
【0098】
このタイヤ122においても、図1に示されたタイヤ32と同様、フィラー52としてショートフィラーが採用されるとともに、側面34の、最大幅位置PWと折り返し部86の端88との間のゾーンに凹み96が設けられる。フィラー52は質量の低減に寄与し、そして、側面34の凹み96は、折り返し部86の端88よりも径方向外側部分におけるゴムの動きを抑制する。折り返し部86の動きが抑えられるので、このタイヤ122では、プライ・ターンアップ・ルースのような損傷が生じにくい。さらに、この動きの抑制は、変形に伴う発熱も抑える。そして、この凹み96は質量の低減にも寄与する。このタイヤ122では、軽量化を図りながら、ビード耐久性の向上と、転がり抵抗の低減とが達成される。
【0099】
このタイヤ122では、外周が丸みを帯びた輪郭を有する、硬質な第一エイペックス124によって、コアの周囲が包囲される。このタイヤ122では、荷重の作用による、ビード部Bの倒れこみが抑制されるので、良好なビード耐久性が得られる。
【0100】
図4に示されるように、このタイヤ122では、第一エイペックス124の外端130は、径方向において、折り返し部86の端88よりも内側に位置する。このタイヤ122では、第一エイペックス124の径方向高さは、例えば、図1に示されたタイヤ32の第一エイペックス70に比べて、低い。
【0101】
このタイヤ122では、折り返し部86の端88への歪の集中が抑えられる。しかもこのタイヤ122は、サイドウォール38の部分、すなわち、サイド部Sに、撓みに貢献できる領域を十分に確保できるとともに、エイペックス66に沿って延びるプライ本体84の輪郭を設定しやすい。このタイヤ122では、軸方向外向きへの側面34のせり出しが抑えられるので、凹み96に作用する歪の量が低減される。このタイヤ122では、凹み96におけるクラック等の損傷が生じにくい。このタイヤ122では、凹み96により奏される効果が十分に発揮される。しかも軸方向外向きへの側面34のせり出しが抑えられる上に、第一エイペックス70が小さなボリュームで構成されるので、このタイヤ122は転がり抵抗の低減を図ることができる。このタイヤ122では、ビード耐久性が効果的に向上するとともに、転がり抵抗が効果的に低減される。
【0102】
図4において、符号PFは、タイヤ122と、二点鎖線LFで示された、リムのフランジとの接触面の径方向外端に対応する、側面34上の位置、すなわち、フランジ接触端である。このタイヤ122では、第一エイペックス124の外端130は、径方向において、このフランジ接触端PFよりも外側に位置する。このタイヤ122では、第一エイペックス124の剛性が適切に維持されるとともに、フランジ接触端PFの外側部分における側面34のせり出しが効果的に抑えられる。このタイヤ122では、良好なビード耐久性が効果的に維持される。
【0103】
図4において、両矢印HAはコア64の径方向内端PAから第一エイペックス124の外端130までの径方向距離である。両矢印DBは、コア64の軸方向内端PBからカーカスプライ82までの距離である。この距離DBは最短距離で表される。
【0104】
このタイヤ122では、コア64の径方向内端PAから第一エイペックス124の外端130までの径方向距離HAは15mm以上が好ましく、45mm以下が好ましい。この距離HAが15mm以上に設定されることにより、第一エイペックス124の剛性が適切に維持されるとともに、フランジ接触端PFの外側部分における側面34のせり出しが効果的に抑えられる。このタイヤ122では、良好なビード耐久性が効果的に維持される。この観点から、この距離HAは20mm以上がより好ましく、25mm以上がさらに好ましい。この距離HAが45mm以下に設定されることにより、このタイヤ122は撓みに貢献できる領域をサイド部Sに十分に確保できるとともに、エイペックス66に沿って延びるプライ本体84の輪郭を設定しやすい。このタイヤ122では、軸方向外向きへの側面34のせり出しが抑えられるので、凹み96に作用する歪の量が低減される。このタイヤ122では、凹み96におけるクラック等の損傷の発生が抑えられるので、この凹み96により奏される効果が十分に発揮される。この観点から、この距離HAは40mm以下がより好ましく、35mm以下がさらに好ましい。
【0105】
このタイヤ122では、コア64の軸方向内端PBからカーカスプライ82までの距離DBは1mm以上が好ましい。この距離DBが1mm以上に設定されることにより、走行時の荷重が作用した状態でのカーカスプライ82とコア64との擦れが防止される。このタイヤ122では、コア64の軸方向内端PBの付近でのカーカスコードの切断が効果的に防止される。この観点から、この距離DBは1.5mm以上が好ましい。第一エイペックス124が適正なボリュームで構成され、この第一エイペックス124による転がり抵抗への影響が抑えられる観点から、この距離DBは5mm以下が好ましい。
【0106】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、軽量化を図りながら、ビード耐久性の向上と、転がり抵抗の低減とが達成された、重荷重用空気入りタイヤが得られる。
【0107】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は前述の実施形態に限定されるものではなく、この技術的範囲には特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【実施例
【0108】
以下、実施例などにより、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0109】
[実施例1]
図1及び2に示された基本構成を備え、下記の表1に示された仕様を備えた重荷重用空気入りタイヤ(タイヤサイズ=11R22.5)を得た。
【0110】
この実施例1では、プライ本体から凹みまでの最小厚さTAの、この最小厚さTAを示す線分(すなわち、法線NL)に沿って計測される、プライ本体から凹みがないとして得られる仮想側面VLまでの仮想厚さTBに対する比(TA/TB)は、0.5に設定された。
【0111】
[比較例1]
比較例1は、図5に示された従来のタイヤ(タイヤサイズ=11R22.5)である。この比較例1では、側面に凹みは設けられていない。
【0112】
[実施例2]
図3に示された基本構成を備え、下記の表1に示された仕様を備えた重荷重用空気入りタイヤ(タイヤサイズ=11R22.5)を得た。この実施例2では、実施例1と同様に、最小厚さTAの仮想厚さTBに対する比(TA/TB)は0.5に設定された。
【0113】
[実施例3]
図4に示された基本構成を備え、下記の表1に示された仕様を備えた重荷重用空気入りタイヤ(タイヤサイズ=11R22.5)を得た。この実施例3では、実施例1と同様に、最小厚さTAの仮想厚さTBに対する比(TA/TB)は0.5に設定された。
【0114】
さらにこの実施例3では、コアの径方向内端PAから第一エイペックスの外端までの径方向距離HAは30mmに設定された。コアの軸方向内端PBからカーカスプライまでの距離DBは1.5mmに設定された。
【0115】
[実施例4-9]
比(TA/TB)を下記の表2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例4-9のタイヤを得た。
【0116】
[耐PTL性能]
ビード耐久性として、耐PTL(プライ・ターンアップ・ルース)性能を評価した。この評価では、タイヤをリム(サイズ=22.5×8.75)に組み込み、タイヤの内部に空気を充填した。タイヤの内圧が1000kPaに調整された。駆動ドラムを有する台上試験機にこのタイヤを装着した。76.53kNの縦荷重をタイヤに負荷し、このタイヤを20km/hで走行させて、ビードに損傷が生じるまでの走行時間とPTLの発生状況を確認した。この結果が、実施例1のタイヤを100とした指数として、下記の表1及び2に示されている。数値が大きいほどPTLが発生しにくく、ビード耐久性に優れることを表す。
【0117】
[転がり抵抗係数(RRC)]
タイヤをリム(サイズ=22.5×8.75)に組み込み、タイヤの内部に空気を充填した。タイヤの内圧が800kPaに調整された。転がり抵抗試験機に、このタイヤを装着した。26.72kNの縦荷重をタイヤに負荷し、このタイヤを80km/hで走行させて、転がり抵抗を測定した。その結果が、実施例1を100とした指数として、下記の表1及び2に示されている。数値が大きいほど転がり抵抗は小さく好ましい。
【0118】
[表面歪み]
タイヤをリム(サイズ=22.5×8.75)に組み込み、このタイヤの内部に空気を充填した。タイヤの内圧が800kPaに調整された。26.72kNの縦荷重をタイヤに負荷し、タイヤを変形させたときに、側面に設けた凹みの中心位置PC付近の、径方向に引き伸ばされた長さを測定し、表面歪みを得た。その結果が、実施例1を100とした指数として、下記の表1及び2に示されている。数値が大きいほど表面歪みは小さく好ましい。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
表1及び2に示されるように、実施例では、フィラーとしてショートフィラーを用いるとともに側面に凹みを設けることにより、軽量化を図りながら、ビード耐久性の向上と転がり抵抗の低減とが達成されていることが確認される。実施例は、比較例に比して評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0122】
以上説明された軽量化を図りながら、ビード耐久性の向上と転がり抵抗の低減とを達成するための技術は、種々のタイヤに適用されうる。
【符号の説明】
【0123】
2、32、112、122・・・タイヤ
4、40・・・ビード
6、82・・・カーカスプライ
8、84・・・プライ本体
10、86・・・折り返し部
10a・・・折り返し部10の端
12、64・・・コア
14、66・・・エイペックス
16、70、124・・・第一エイペックス
16a・・・第一エイペックス16の外端
18、72、126・・・第二エイペックス
20、52・・・フィラー
20a・・・フィラー20の内端
20b・・・フィラー20の外端
22、42・・・チェーファー
24、68・・・ワイヤ
34・・・側面
36・・・トレッド
38・・・サイドウォール
44・・・カーカス
54・・・外面(トレッド面)
74・・・第一エイペックス70の外端
76・・・チェーファー42の外端
78・・・第二エイペックス72の外端(エイペックス66の外端)
80・・・サイドウォール38の内端
88・・・折り返し部86の端
92・・・フィラー52の第一端
94・・・フィラー52の第二端
96・・・凹み
98・・・外側部
100・・・内側部
102・・・底部
104・・・外側境界部
106・・・内側境界部
128・・・第二エイペックス126の底面
130・・・第一エイペックス124の外端

図1
図2
図3
図4
図5