(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】固体高分子形燃料電池用触媒層及び膜電極接合体
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20221129BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20221129BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20221129BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20221129BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/96 M
H01M4/92
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2018205108
(22)【出願日】2018-10-31
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】川村 敦弘
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-165362(JP,A)
【文献】特開2009-117374(JP,A)
【文献】特開2016-085861(JP,A)
【文献】特開2003-115302(JP,A)
【文献】特開2006-004916(JP,A)
【文献】特開2011-119217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/96
H01M 4/92
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金粒子、カーボン粒子、高分子電解質、第1の繊維状物質及び第2の繊維状物質を備えた固体高分子形燃料電池の触媒層であって、
前記触媒層は1層で構成されており、
前記第2の繊維状物質の体積抵抗値が前記第1の繊維状物質の体積抵抗値よりも大きく、
前記第1の繊維状物質の繊維径が50nm以上300nm以下であること
を特徴とす
る固体高分子形燃料電池用触媒層。
【請求項2】
白金粒子、カーボン粒子、高分子電解質、第1の繊維状物質及び第2の繊維状物質を備えた固体高分子形燃料電池の触媒層であって、
前記触媒層は1層で構成されており、
前記第2の繊維状物質の体積抵抗値が前記第1の繊維状物質の体積抵抗値よりも大きく、
前記第2の繊維状物質の体積抵抗値が前記第1の繊維状物質の体積抵抗値に対して2倍以上10倍以下であること
を特徴とす
る固体高分子形燃料電池用触媒層。
【請求項3】
白金粒子、カーボン粒子、高分子電解質、第1の繊維状物質及び第2の繊維状物質を備えた固体高分子形燃料電池の触媒層であって、
前記触媒層は1層で構成されており、
前記第2の繊維状物質の体積抵抗値が前記第1の繊維状物質の体積抵抗値よりも大きく、
前記第1の繊維状物質の質量(F1)と前記第2の繊維状物質の質量(F2)との比(F1/F2)が0.8以上3.0以下であること
を特徴とす
る固体高分子形燃料電池用触媒層。
【請求項4】
前記第1の繊維状物質及び前記第2の繊維状物質がカーボン繊維であること
を特徴とする請求項1
から3のいずれか1項に記載の固体高分子形燃料電池用触媒層。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか1項に記載の前記触媒層をアノード及びカソードの少なくとも一方に設けたこと
を特徴とする膜電極接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池用触媒層及び膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化等の環境問題を解決するために、CO2削減に向けた新規動力源の開発が求められている。その動力源として、CO2を排出しない燃料電池が注目されている。燃料電池とは、燃料(例:水素)と酸化剤(例:酸素)を用いて酸化して無害な水を生成する。水を生成することで得られた化学エネルギーを電気エネルギーに変換して、動力源または電源として使用される。
燃料電池は、電解質の種類によって分類されることから作動温度に強く依存し、搭載物が作動する温度領域によってそれぞれ適した燃料電池が使用される。固体高分子形燃料電池(PEFC)は、低温作動、高出力密度であり、小型化及び軽量化が可能であることから、家庭用電源、車載用動力源として開発が行なわれている。
【0003】
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、高分子電解質膜を燃料極(アノード)と空気極(カソード)で挟んだ構造体(膜電極接合体)を持ち、燃料極側に燃料ガスとして水素を供給し、空気極側に酸素を含む空気ガスを供給することで、下記の電気化学反応により発電する。
アノード:H2 → 2H++2e- ・・・(反応1)
カソード:1/2O2+2H++2e- → H2O・・・(反応2)
【0004】
アノード及びカソードは、それぞれ触媒層とガス拡散層の積層構造からなる。アノード側触媒層に供給された水素から、電極触媒によりプロトンと電子を生成する(反応1)。プロトンは、アノード側触媒層内の高分子電解質、高分子電解質膜を通過して、カソードに移動する。電子は、外部回路を通り、カソードに移動する。カソード側触媒層では、プロトン、電子及び外部から供給された空気中に含まれる酸素が反応して水を生成する(反応2)。
【0005】
燃料電池の低コスト化に向けて、高出力特性を示す燃料電池の開発に注力されている。しかしながら、高出力運転によって水が過剰に生成され、触媒層やガス拡散層へのガス供給を妨害する現象(フラッディング)が生じることで発電性能を低下させる問題がある。
【0006】
上記課題を解決するために、特許文献1、2では、白金担持カーボンだけでなく、カーボン繊維も含んだ触媒層が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-115302号公報
【文献】特開2016-106371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び2では、カーボン繊維を触媒層に含ませることで、触媒層中に空隙が生じて、排水性の向上に繋げたと推定されている。しかしながら、特許文献1及び2ではカーボン繊維の構造や含有量に関しては明記されているが、高発電性能を示す触媒層の構造については明らかにされていない。そこで、触媒層の構成に関し、良好な発電性能を示す範囲を明らかにする。
【0009】
本発明は上記のような実情を鑑みて成されたものであり、物質移動性を維持しつつ導電性を向上し、高出力が可能な固体高分子形燃料電池用触媒層及び膜電極接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一態様による固体高分子形燃料電池用触媒層は、白金粒子、カーボン粒子、高分子電解質、第1の繊維状物質及び第2の繊維状物質を備えた固体高分子形燃料電池の触媒層であって、前記触媒層は1層で構成されており、前記第2の繊維状物質の体積抵抗値が前記第1の繊維状物質の体積抵抗値よりも大きく、前記第1の繊維状物質の繊維径が50nm以上300nm以下であることを特徴とする。
また、上記目的を達成するために、本発明の他の一態様による固体高分子形燃料電池用触媒層は、白金粒子、カーボン粒子、高分子電解質、第1の繊維状物質及び第2の繊維状物質を備えた固体高分子形燃料電池の触媒層であって、前記触媒層は1層で構成されており、前記第2の繊維状物質の体積抵抗値が前記第1の繊維状物質の体積抵抗値よりも大きく、前記第2の繊維状物質の体積抵抗値が前記第1の繊維状物質の体積抵抗値に対して2倍以上10倍以下であることを特徴とする。
また、上記目的を達成するために、本発明のさらに他の一態様による固体高分子形燃料電池用触媒層は、白金粒子、カーボン粒子、高分子電解質、第1の繊維状物質及び第2の繊維状物質を備えた固体高分子形燃料電池の触媒層であって、前記触媒層は1層で構成されており、前記第2の繊維状物質の体積抵抗値が前記第1の繊維状物質の体積抵抗値よりも大きく、前記第1の繊維状物質の質量(F1)と前記第2の繊維状物質の質量(F2)との比(F1/F2)が0.8以上3.0以下であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一態様による膜電極接合体は、前記触媒層をアノード及びカソードの少なくとも一方に設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、物質移動性を維持しつつ導電性を向上し、高い発電性能を示す固体高分子形燃料電池用触媒層及び膜電極接合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る固体高分子形燃料電池用触媒層の構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る膜電極接合体の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、以下に記載する実施の形態に限定されうるものではなく、当業者の知識に基づいて設計の変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の実施形態の範囲に含まれるものである。
図1は、触媒粒子1、導電性担体2、高分子電解質3、第1のカーボン繊維4及び第2のカーボン繊維5で構成された本発明の一実施形態である固体高分子形燃料電池用の触媒層(カソード触媒層6,アノード触媒層7)を示す図である。
図2は、カソード触媒層6、アノード触媒層7、高分子電解質膜8、ガスケット材9及びガス拡散層10で構成された本発明の一実施形態である膜電極接合体100を示す図である。
【0015】
次に触媒層(カソード触媒層6,アノード触媒層7)の構成について、
図1を参照して説明する。
本実施形態で用いる触媒粒子1としては、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素のほか、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、又はこれらの合金が使用できる。また、酸化物、複酸化物等も使用できる。さらに、これらの触媒の粒径は、例えば0.1nm以上1μm以下、好ましくは0.5nm以上100nm以下、更に好ましくは1nm以上10nm以下程度である。
【0016】
これらの触媒粒子1を担持する導電性担体2は、一般的にカーボン粒子が使用される。カーボン粒子の種類は、微粒子状で導電性を有し、触媒粒子1に侵されないものであればどのようなものでも構わないが、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、フラーレン等が使用できる。
【0017】
本実施形態で用いる高分子電解質3としては、プロトン伝導性を有するものであれば良く、高分子電解質膜8(
図2参照)と同様の素材を用いることができ、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質等を用いることができる。なお、フッ素系高分子電解質と
しては、例えば、デュポン社製のNafion(登録商標)系材料等を用いることができる。
【0018】
触媒粒子1に担持されている導電性担体2の質量C、第1のカーボン繊維4の質量F1及び第2のカーボン繊維5の質量F2と高分子電解質3の質量Iとの比I/(C+F1+F2)は、0.2以上1.5以下であると良い。
一方、I/(C+F1+F2)が0.2未満のとき、プロトンパスが乏しく、発電性能を著しく損なう。また、I/(C+F1+F2)が1.5を超えるとき、触媒層の排水性が低下して、燃料電池の発電性能を著しく損なう。
【0019】
また、触媒粒子1に担持されている導電性担体2の質量Cに対する第1のカーボン繊維4の質量F1及び第2のカーボン繊維5の質量F2の質量比(F1+F2)/Cが0.1以上1.2以下であると良い。
【0020】
また、第1のカーボン繊維4の質量F1と第2のカーボン繊維5の質量F2との比(F1/F2)は、0.8以上3.0以下の範囲であると良い。中でも、当該比は1.0以上2.0以下の範囲が好ましい。当該範囲にすることにより、物質移動に要する触媒層内部の空孔率を維持しつつ、高い導電性を有することが可能である。
【0021】
本実施形態で用いる第1のカーボン繊維4としては、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等を用いることが出来る。好ましくは、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブが挙げられる。例えば、昭和電工社製のVGCF(登録商標)等の材料を用いることが出来る。第1のカーボン繊維4の繊維径としては、50nm以上500nm以下が好ましく、100nm以上300nm以下がより好ましい。上記範囲にすることにより、触媒層内の空隙を増加させることができ、高い発電性能を示す。また、第1のカーボン繊維4の繊維長は1μm以上200μm以下が好ましく、1μm以上50μm以下がより好ましい。上記範囲にすることにより、触媒層の強度を高めることができ、形成時にクラックが生じることを抑制できる。また、触媒層内の空隙を増加させることができ、高い発電性能を示す。
【0022】
本実施形態で用いる第2のカーボン繊維5としては、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等を用いることが出来る。例えば、東レ社製のトカーナ(登録商標)等の材料で用いることが出来る。好ましくは、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブが挙げられる。第2のカーボン繊維5の繊維径としては、1nm以上50nm未満が好ましい。上記範囲にすることにより、第2のカーボン繊維5をより多く触媒層に添加することができ、導電性を向上させて高い発電性能を示す。
【0023】
本実施形態では、第1のカーボン繊維4と第2のカーボン繊維5とを触媒層(カソード触媒層6,アノード触媒層7)に混合して1層の触媒層として機能させる。これにより、触媒層の強度向上と導電性の向上とを両立させることができる。
本実施形態で用いる第2のカーボン繊維5の導電性は、第1のカーボン繊維4の導電性より高いことが好ましい。具体的には、第2のカーボン繊維5の体積抵抗値は、第1のカーボン繊維4の体積抵抗値の2倍以上10倍以下であることが好ましく、中でも、3倍以上5倍以下がより好ましい。なお、第2のカーボン繊維5の体積抵抗値が第1のカーボン繊維4の体積抵抗値の10倍を超えた場合、更なる発電性能の向上が確認されなかった。
【0024】
また、触媒インクの分散媒として使用される溶媒は、触媒粒子1を担持した導電性担体2、高分子電解質3、第1のカーボン繊維4及び第2のカーボン繊維5を浸食することがなく、高分子電解質3を流動性の高い状態で溶解若しくは微細ゲルとして分散できるものあれば特に制限はない。
【0025】
なお、溶媒としては揮発性の有機溶媒や水が含まれることが望ましく、有機溶媒に関しては、特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール、1-プロパノ―ル、2-プロパノ―ル、1-ブタノ-ル、2-ブタノ-ル、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンタノ-ル等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、メチルイソブチルケトン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジイソブチルケトン等のケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤、その他ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジアセトンアルコール、1-メトキシ-2-プロパノール等の極性溶剤等が使用される。また、これらの溶剤や水のうち二種以上を混合させたものも使用できる。分散剤が含まれていても良い。
【0026】
次に膜電極接合体100の作製と構成について、
図2を参照して説明する。
図2に示すように、膜電極接合体100は、高分子電解質膜8の表裏面に、触媒層(表面側にカソード触媒層6,裏面側にアノード触媒層7)、ガスケット材9及びガス拡散層10を備えている。ガスケット材9及びガス拡散層10は、この順番で高分子電解質膜8側から順次積層されている。ガスケット材9は、触媒層(カソード触媒層6,アノード触媒層7)の周囲を囲むようにして配置されている。
【0027】
膜電極接合体100に用いられる高分子電解質膜8としては、プロトン伝導性を有するものであればよく、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質等を用いることができる。なお、フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製のNafion(登録商標)等を用いることができる。また、炭化水素系高分子電解質膜としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等の電解質膜を用いることができる。中でも、高分子電解質膜8としてフッ素系高分子電解質としてパーフルオロスルホン酸を含む材料を好適に用いることができる。
【0028】
ガスケット材9及び粘着層を有するプラスチックフィルムは、熱加圧時に溶融しない程度の耐熱性を有しているものであれば良い。例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリパルバン酸アラミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアクリレート等の高分子フィルムを用いることができる。また、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等の耐熱性フッ素樹脂を用いることもできる。ガスケット材9における基材としては、ガスバリヤ性、耐熱性を考慮した場合、ポリエチレンナフタレートであることが特に好ましい。
【0029】
ガスケット材9及び粘着層を有するプラスチックフィルムの粘着層は、アクリル系、ウレタン系、シリコーン系、ゴム系等の粘着剤であればよく、ガスケット材9及び高分子電解質膜8との密着性と、熱加圧時における耐熱性を考慮するとアクリル系であることがより好ましい。ガスケット材9及び粘着層を有するプラスチックフィルムの粘着層の密着性は、高分子電解質膜8及びガスケット材9間の密着力が、ガスケット材9及び粘着層を有するプラスチックフィルム間の密着力より大きければ、膜電極接合体100にガスケット材9を付与することが容易であるため好ましい。
【0030】
次に、上記触媒層(カソード触媒層6,アノード触媒層7)及び膜電極接合体100の
製造について説明する。
触媒インクを作製する際の分散処理は、様々な装置を用いて行うことができる。例えば、分散処理としては、ボールミルやロールミルによる処理、せん断ミルによる処理、湿式ミルによる処理、超音波分散処理等が挙げられる。また、遠心力で攪拌を行うホモジナイザー等を用いても良い。
上記触媒インクを塗工用基材上に形成する塗工方式として、ダイコーター方式、ロールコーター方式及びスプレー方式等が挙げられるが、本発明に関しては限定しない。
膜電極接合体100の構成要素である上記触媒層が形成される塗工用基材は、高分子電解質膜8及び転写基材であるが、本発明に関しては限定しない。
【0031】
転写法で作製する場合、転写基材を構成する材料としては、その表面に触媒層を形成できるものであり、かつ触媒層を高分子電解質膜8に転写できるものであれば良い。例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリパルバン酸アラミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアクリレート、ポリエチレンナフタレート等の高分子フィルムを用いることができる。また、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等の耐熱性フッ素樹脂を用いることもできる。
【0032】
本発明の実施形態の一つである膜電極接合体100は、上記触媒層をアノード及びカソードの少なくとも一方に設けている。このような構成とすることにより、発電性能が優れた膜電極接合体が得られる。
【0033】
以上で説明した膜電極接合体100の製造方法によれば、高分子電解質膜8の両面に触媒層(カソード触媒層6,アノード触媒層7)が良好な形状で接合された膜電極接合体を製造することができる。
このように、本実施形態による固体高分子形燃料電池用の触媒層(カソード触媒層6,アノード触媒層7)は、白金粒子、カーボン粒子、高分子電解質、第1の繊維状物質(本例では、第1のカーボン繊維4)及び第2の繊維状物質(本例では、第2のカーボン繊維5)を備えている。また、上記触媒層は1層で構成されており、第2の繊維状物質の体積抵抗値が第1の繊維状物質の体積抵抗値よりも大きい。これにより、物質移動性を維持しつつ導電性を向上し、高出力が可能な高分子形燃料電池用触媒層及び膜電極接合体を提供することができる。
以下、本発明を実施例について具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
(触媒インクの調液)
触媒層を形成するための触媒インクは、フッ素系高分子電解質の分散溶液(Nafion212(登録商標))、白金担持カーボン(TEC10E50E、田中貴金属社製)、第1のカーボン繊維(繊維径:150nm、体積抵抗値:1.0×10-4Ω・cm)、第2のカーボン繊維(繊維径:2nm、体積抵抗値:4.4×10-4Ω・cm)、1-プロパノール及び水で構成されており、ボールミルで混合することで、触媒層の触媒インクを調液した。
(触媒層の形成及び膜電極接合体の製造)
ダイ塗工により、アノード及びカソードを高分子電解質膜上に形成させて、膜電極接合体100を製造した。
(発電評価)
実施例及び比較例で作製した膜電極接合体100を挟持するように、ガス拡散層として用いるカーボンペーパーを貼りあわせ、発電評価セル内に設置した。燃料電池測定装置を
用いて、セル温度80℃とし、電流電圧測定を行った。燃料ガスとして水素、酸化剤ガスとして空気を用い、利用率一定による流量制御を行った。
(空孔率の測定)
上述のようにして得られた触媒層の空孔率を測定するために、水銀圧入法を行った。
【0035】
[実施例1]
第1のカーボン繊維4と第2のカーボン繊維5との質量比F1/F2が0.2の触媒インクで、触媒層の白金担持量が0.2mg/cm2になるように塗工を行い、膜電極接合体100を作製した。
[実施例2]
触媒インクにおいて第1のカーボン繊維4と第2のカーボン繊維5との質量比F1/F2が0.8であることを除いて、実施例1と同様にして、膜電極接合体100を作製した。
[実施例3]
触媒インクにおいて第1のカーボン繊維4と第2のカーボン繊維5との質量比F1/F2が3.0であることを除いて、実施例1と同様にして、膜電極接合体100を作製した。
[実施例4]
触媒インクにおいて第1のカーボン繊維4と第2のカーボン繊維5との質量比F1/F2が5.0であることを除いて、実施例1と同様にして、膜電極接合体100を作製した。
[比較例1]
触媒インクにカーボン繊維を全く含まないことを除いて、実施例1と同様にして、膜電極接合体を作製した。
[比較例2]
触媒インクに第2のカーボン繊維5を含まないことを除いて、実施例1と同様にして、膜電極接合体を作製した。
[比較例3]
触媒インクに第1のカーボン繊維4を含まないことを除いて、実施例1と同様にして、膜電極接合体を作製した。
【0036】
(評価結果)
実施例及び比較例の結果を表1にまとめた。
【0037】
【0038】
表1より、空孔率については、本実施形態に係る触媒層を持つ実施例1~4の膜電極接合体100のいずれも、比較例2を除く比較例1、3よりも高いことを確認した。
また、発電性能については、本実施形態に係る触媒層を持つ実施例1~4の膜電極接合体100のいずれも、比較例1~3の膜電極接合体のいずれの発電性能よりも高いことを確認した。
以上の結果から、本実施形態による触媒層を持つことで膜電極接合体の発電性能が向上した。これにより、物質の移動性を維持しつつ導電性が向上でき、高出力が可能な高分子形燃料電池用触媒層及び膜電極接合体を提供することができる。
【0039】
本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本
発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。さらに、本発明の範囲は、請求項により画される発明の特徴の組み合わせに限定されるものではなく、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画され得る。
【符号の説明】
【0040】
1 触媒粒子
2 導電性担体
3 高分子電解質
4 第1のカーボン繊維
5 第2のカーボン繊維
6 カソード触媒層
7 アノード触媒層
8 高分子電解質膜
9 ガスケット材
10 ガス拡散層
100 膜電極接合体