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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】ボールねじ装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20221129BHJP
【FI】
F16H25/22 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018206048
(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公開番号】P2020070886
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】野中 孝明
(72)【発明者】
【氏名】河合 類斗
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-108648(JP,U)
【文献】実開昭56-049341(JP,U)
【文献】特開2007-002858(JP,A)
【文献】特開平06-341504(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102005043525(DE,A1)
【文献】中国実用新案第202707972(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、
内周面に螺旋状のねじ溝を有し、前記ねじ軸に外嵌されて軸方向に配列された第一ナット及び第二ナットと、
前記ねじ軸の前記ねじ溝と前記第一ナット及び前記第二ナットのそれぞれの前記ねじ溝との間に形成された転動路に転動可能に配置された複数の転動体と、
前記第一ナット及び前記第二ナットに、軸方向に沿う反力を生じさせて予圧を付与する付勢機構と、
を備えるボールねじ装置であって、
前記第一ナット及び前記第二ナットは、対向する端部に、中心側へ向かって次第に近接する方向へ傾斜された傾斜面を有し、
前記付勢機構は、
前記傾斜面同士の間における周方向の等間隔位置に設けられた複数の押圧部材と、
複数の前記押圧部材の周囲を囲うように配置され、内周面が軸方向の一方に向かって次第に中心側へ向かって傾斜する傾斜面からなる押圧面とされた磁性体からなる押圧リングと、
前記押圧リングを磁力で軸方向へ移動させることで、前記押圧面によって前記押圧部材を中心側へ押圧して同時に変位させることで、前記第一ナットと前記第二ナットとの間に軸方向に沿う反力を生じさせて予圧を付与する電磁石と、
を備えるボールねじ装置。
【請求項2】
前記押圧リングを、前記電磁石の磁力による移動方向と反対側へ付勢する弾性部材を備える
請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項3】
前記押圧部材は、前記傾斜面同士の間に配置されたボールからなり、前記ボールの外周面に前記押圧面及び前記傾斜面が点接触されている
請求項1または請求項2に記載のボールねじ装置。
【請求項4】
前記押圧部材は、それぞれの前記傾斜面に摺動可能に面接触する摺動面及び前記押圧面に摺動可能に面接触する当接面を有する楔部材からなる
請求項1または請求項2に記載のボールねじ装置。
【請求項5】
前記押圧部材は、非磁性体からなる請求項3または請求項4に記載のボールねじ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械等に用いられるボールねじ装置について、切削加工時の剛性確保や位置決め精度を向上させるために、ボールねじには予圧が付与されている。予圧はねじ軸やナットの回転の抵抗となるため、高速送りや移動量が多い場合にはボールねじ発熱の原因となる。そこで、加工時と移動時で、予圧を調整可能とするボールねじ装置が提案されている。
【0003】
この種のボールねじ装置として、軸方向に分割された二つのナットの向かい合う端面にテーパ部を形成し、これらのナットのテーパ部の間に複数の鋼球を周方向へ配置させ、これらの鋼球の周囲を囲うように加圧リングを設け、この加圧リングの内周面からなるテーパ面で鋼球を中心側へ押圧して予圧を付与するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このボールねじ装置では、加圧リングと一方のナットに螺合された加圧ナットとの間に加圧ばねを設け、加圧ナットのねじ込み量を調整することで加圧リングに作用する加圧ばねの弾性力を変更する。これにより、加圧リングによる鋼球の押圧力を変更し、それぞれのナットに付与される軸方向の反力を調整して予圧を調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開昭58-108648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記の特許文献1に記載のボールねじ装置では、加圧ナットのねじ込み量を手動で調整するためにその都度装置を停止させなければならず、このため、装置の作動中に予圧調整を迅速に行うことが困難であった。
【0007】
また、特許文献1には、加圧リングと加圧ナットとの間に油などの流体を供給することで、加圧リングを軸方向へ変位させて加圧リングによる鋼球の押圧力を変更して予圧を調整することも示されている。
【0008】
しかし、この場合、加圧リングと加圧ナットとの間に圧力室を形成しなければならず、また、この圧力室に流体を供給するポンプなどの大がかりな付帯設備が必要となる。このため、装置及び設備の大型化及び複雑化を招いてしまう。また、流体として油を用いることで、油漏れによる周辺環境の汚染などの課題が残る。
【0009】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的は、周辺環境を汚染することがなく、状況に応じて予圧を迅速に調整することができ、しかも、小型化及び簡略化が図れるボールねじ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は下記構成からなる。
外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、
内周面に螺旋状のねじ溝を有し、前記ねじ軸に外嵌されて軸方向に配列された第一ナット及び第二ナットと、
前記ねじ軸の前記ねじ溝と前記第一ナット及び前記第二ナットのそれぞれの前記ねじ溝との間に形成された転動路に転動可能に配置された複数の転動体と、
前記第一ナット及び前記第二ナットに、軸方向に沿う反力を生じさせて予圧を付与する付勢機構と、
を備えるボールねじ装置であって、
前記第一ナット及び前記第二ナットは、対向する端部に、中心側へ向かって次第に近接する方向へ傾斜された傾斜面を有し、
前記付勢機構は、
前記傾斜面同士の間における周方向の等間隔位置に設けられた複数の押圧部材と、
複数の前記押圧部材の周囲を囲うように配置され、内周面が軸方向の一方に向かって次第に中心側へ向かって傾斜する傾斜面からなる押圧面とされた磁性体からなる押圧リングと、
前記押圧リングを磁力で軸方向へ移動させることで、前記押圧面によって前記押圧部材を中心側へ押圧し、前記第一ナットと前記第二ナットとの間に軸方向に沿う反力を生じさせて予圧を付与する電磁石と、
を備えるボールねじ装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明のボールねじ装置によれば、周辺環境を汚染することがなく、状況に応じて予圧を迅速に調整することができ、しかも、小型化及び簡略化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係るボールねじ装置の一部を断面視した側面図である。
図2図1におけるA部の拡大図である。
図3】ボールねじ装置の周面の一部を示す側面図である。
図4】シールリングのキー部が設けられた一部の斜視図である。
図5】リング部とキー部とが別部品のシールリングにおけるリング部とキー部との固定箇所の分解斜視図である。
図6】変形例に係るボールねじ装置の図1におけるA部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態に係るボールねじ装置11の一部を断面視した側面図である。図2図1におけるA部の拡大図である。
【0014】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係るボールねじ装置11は、ねじ軸13と、第一ナット15A及び第二ナット15Bと、ボール(転動体)17と、付勢機構19とを主に備える。
【0015】
ねじ軸13には、その外周面に、螺旋状のねじ溝21が形成されている。第一ナット15A及び第二ナット15Bは、ねじ軸13に外嵌されて軸方向に配列されている。第一ナット15Aには、端部に円環状のフランジ20が形成されている。第一ナット15A及び第二ナット15Bには、その内周面に、ねじ軸13のねじ溝21に対向する螺旋状のねじ溝23がそれぞれ形成されている。これにより、ねじ軸13と、第一ナット15A及び第二ナット15Bとの間には、対向するねじ溝21,23によって転動路が形成される。ボール17は、鋼球からなるもので、ねじ溝21,23から形成される転動路に転動可能に配置される。
【0016】
第一ナット15A及び第二ナット15Bには、ボール戻し通路(図示略)が軸方向に沿って形成されている。第一ナット15A及び第二ナット15Bのそれぞれのボール戻し通路は、それぞれ両端がねじ溝23に連通されている。これにより、転動路を転動するボール17は、第一ナット15A及び第二ナット15Bの各転動路の一端まで移動した後に、エンドデフレクタ(図示略)に掬い上げられ、ボール戻し通路を通って他端側へ送られて転動路へ戻される。このように、ボールねじ装置11は、エンドデフレクタ方式の循環経路を有し、この循環経路を循環しつつ転動路内で転動する複数のボール17を介して、ねじ軸13と第一ナット15A及び第二ナット15Bとが相対移動するようになっている。
【0017】
第一ナット15Aは、第二ナット15B側の端部における内周側が、第二ナット15B側へ突出する突出部31Aとされ、第二ナット15Bは、第一ナット15A側の端部における内周側が、第一ナット15A側へ突出する突出部31Bとされている。
【0018】
第一ナット15A及び第二ナット15Bのそれぞれの突出部31A,31Bには、シール面33A,33B及び傾斜面35A,35Bが形成されている。傾斜面35A,35Bは、シール面33A,33Bの外周側に形成されており、外周側から中心側へ向かって次第に近接する方向へ傾斜されている。
【0019】
第一ナット15A及び第二ナット15Bの突出部31A,31Bにおけるシール面33A,33Bには、シール部材41が周方向にわたって設けられている。これにより、第一ナット15A及び第二ナット15Bの互いに対向する端部における内周側がシールされている。
【0020】
図3はボールねじ装置の周面の一部を示す側面図である。図4はシールリングのキー部が設けられた一部の斜視図である。図5はリング部とキー部とが別部品のシールリングにおけるリング部とキー部との固定箇所の分解斜視図である。
【0021】
図3に示すように、第一ナット15A及び第二ナット15Bには、その外周側における周方向の一箇所に、キー溝37A,37Bが形成されている。第一ナット15A及び第二ナット15Bの外周側には、シールリング43が設けられている。このシールリング43は、例えば、金属等の硬質材料からなるリング部45と、リング部45の両側面に沿って設けられたシール材47とを有している。図4に示すように、リング部45には、その周方向の一箇所に、両側方へ突出するキー部48が形成されている。キー部48は、リング部45に一体に形成されており、キー部48は、端面からみて内周側及び外周側が、リング部45の内周面及び外周面に合わせて円弧状に形成されている。このシールリング43のキー部48は、第一ナット15A及び第二ナット15Bのキー溝37A,37Bに嵌め込まれている。そして、このシールリング43を第一ナット15A及び第二ナット15Bの間における外周側に装着することで、第一ナット15A及び第二ナット15Bは、互いに対向する端部における外周側がシールされるとともに、キー溝37A,37Bに嵌め込まれたキー部48によって回り止めされる。また、第一ナット15A及び第二ナット15Bのキー溝37A,37Bにおける内周側とシールリング43のキー部48との間には、シール部材49が設けられており、キー溝37A,37Bとキー部48との間がシールされている(図2参照)。
【0022】
なお、図5に示すように、シールリング43は、リング部45とキー部48とを独立した別部品から構成してもよい。このシールリング43では、リング部45及びキー部48に、それぞれ互いに係合する係合溝45a,48aが形成されている。また、リング部45には、係合溝45aの底部にネジ孔45bが形成され、キー部48には、座ぐりを有する挿通孔48bが表裏に貫通されている。そして、リング部45及びキー部48の係合溝45a,48aを互いに係合させるとともに、キー部48の挿通孔48bに挿し込んだネジ46をネジ孔45bにねじ込んで締結する。これにより、リング部45の周方向の一箇所にキー部48が固定される。このように、シールリング43を、別部品であるリング部45とキー部48とから構成すれば、一体に形成するよりも容易に加工することができ、しかも、精度よく製造することができる。なお、リング部45とキー部48との固定は、ネジ46による締結固定に限らず、焼き嵌めにより固定してもよい。
【0023】
そして、第一ナット15Aと第二ナット15Bとの間には、内周側及び外周側が周方向にわたってシールされた収容室51が形成されており、この収容室51内に、付勢機構19が設けられている。つまり、付勢機構19が収容される収容室51は、油や塵埃などの異物が外部から侵入しないように、その外周側及び内周側がシールされている。
【0024】
付勢機構19は、複数の押圧ボール(押圧部材,ボール)61と、押圧リング63と、電磁石65と、弾性部材67と、スペーサ69とを有している。
【0025】
押圧ボール61は、第一ナット15A及び第二ナット15Bのそれぞれの傾斜面35A,35Bの間に配置されている。傾斜面35A,35Bの間には、少なくとも3つの押圧ボール61が周方向へ等間隔に配置されている。なお、押圧ボール61は、8個程度設けるのが好ましい。また、押圧ボール61としては、磁性の有無や寸法は特に限定されないが、例えば、転がり軸受の転動体として用いられる高強度で寸法精度がよいボールを用いるのが好ましい。
【0026】
押圧リング63は、鉄などの磁性体を環状に形成したもので、複数の押圧ボール61を囲うように配置されている。押圧リング63は、その内周面が押圧面71とされている。押圧面71は、軸方向の一方側へ向かって次第に中心側へ傾斜する傾斜面とされている。具体的には、押圧面71は、第一ナット15A側から第二ナット15B側へ向かって次第に中心側へ傾斜されている。この押圧リング63は、押圧面71が押圧ボール61に接触されている。これにより、押圧ボール61は、その周囲が第一ナット15A及び第二ナット15Bのそれぞれ傾斜面35A,35Bと、押圧リング63の押圧面71との三点に接触されている。
【0027】
電磁石65及び弾性部材67は、第一ナット15Aにおける第二ナット15B側の端部に設けられている。第一ナット15Aには、突出部31Aよりも外周側に、収容溝73が周方向にわたって形成されており、電磁石65及び弾性部材67は、収容溝73に収容されている。電磁石65及び弾性部材67は、それぞれ環状に形成されており、電磁石65の外周側に弾性部材67が配置されている。
【0028】
電磁石65は、給電装置(図示略)から給電されることで磁力を生じ、押圧リング63を吸着する。弾性部材67は、金属製のばねやゴム等の弾性材料からなるもので、押圧リング63の一側面に当接されている。弾性部材67は、その弾性力によって押圧リング63を第二ナット15B側へ付勢する。
【0029】
スペーサ69は、環状に形成されており、第二ナット15Bにおける突出部31Bよりも外周側に配置されている。スペーサ69は、第二ナット15Bと押圧リング63との間に介在されており、弾性部材67によって第二ナット15B側へ付勢される押圧リング63の第二ナット15B側への移動を規制する。
【0030】
次に、上記のボールねじ装置11における予圧について説明する。
(定常状態)
上記構造のボールねじ装置11では、弾性部材67の弾性力で押圧リング63がスペーサ69に押し付けられた定常状態において、押圧リング63の押圧面71で押圧ボール61が押圧され、傾斜面35A,35Bに押圧ボール61が押し付けられている。そして、この定常状態において、第一ナット15A及び第二ナット15Bには、押圧ボール61から受ける押圧力の分力が軸方向に互いに離間する反力として付与され、必要最小限の予圧が与えられている。これにより、転動路内のボール17は、ねじ軸13のねじ溝21の一点と、第一ナット15A及び第二ナット15Bのねじ溝23の一点との二点で接触される。
【0031】
(予圧付与時)
定常状態のボールねじ装置11において、給電装置から付勢機構19の電磁石65へ給電する。すると、電磁石65で生じた磁力により押圧リング63が弾性部材67の弾性力に抗して第一ナット15A側(図2中矢印B方向)へ変位される。これにより、押圧リング63と押圧ボール61との接触点を通る接触円の直径が小さくなり、第一ナット15A及び第二ナット15Bの傾斜面35A,35Bの間に配置された押圧ボール61が中心側(図2中矢印C方向)へ変位される。すると、第一ナット15Aと第二ナット15Bとの間に作用する軸方向に沿う反力が増加し、第一ナット15A及び第二ナット15Bに大きな予圧が付与される。なお、押圧ボール61は、非磁性体から形成されているので、電磁石65で磁力が生じた際に、電磁石65に吸着されることなく、中心側へ変位する。
【0032】
(予圧付与解除時)
付勢機構19の電磁石65に給電されて大きな予圧が付与されたボールねじ装置11において、給電装置から付勢機構19の電磁石65への給電を停止させる。すると、電磁石65による押圧リング63の吸着が解除されることで、押圧リング63が弾性部材67の弾性力によって第二ナット15B側(図2中矢印D方向)へ付勢されてスペーサ69に当接する位置まで変位される。これにより、押圧リング63と押圧ボール61との接触点を通る接触円の直径が大きくなり、押圧リング63の押圧面71で中心側へ押し込まれていた押圧ボール61が外周側(図2中矢印E方向)へ変位される。したがって、押圧ボール61からの押圧力によって第一ナット15Aと第二ナット15Bとの間に付与される軸方向に沿う反力が低減される。そして、ボールねじ装置11は、第一ナット15A及び第二ナット15Bに必要最小限の予圧が付与された定常状態とされる。
【0033】
ところで、移動機構部にボールねじ装置を備えた工作機械では、加工時の剛性確保や位置決め精度向上のため、ボールねじ装置のボールには常に予圧が付与されている。しかし、この予圧は、移動機構部における高速送り時、またその移動量が大きい場合には却って抵抗となるため、発熱源となり機械的精度を悪化させる原因となる。そこで移動時や加工時など状況に応じて、適切な予圧に調整させることが望まれている。
【0034】
本実施形態に係るボールねじ装置11によれば、電磁石65の磁力によって磁性体からなる押圧リング63を軸方向へ移動させることで、迅速に予圧を付与することができる。これにより、このボールねじ装置11を工作機械に用いれば、移動機構部における高速移動時、またその移動量が大きい場合は予圧の小さい定常状態として抵抗を下げて発熱を抑制して長寿命化を図り、高い精度が要求される加工時に付勢機構19の電磁石65で磁力を生じさせて予圧を大きくして剛性を高めて位置決め精度を高めることができる。
【0035】
また、油などの流体を供給して予圧を付与したり、加圧ナットのねじ込み量を調整して予圧を調整する構造のものと比較し、周辺環境を汚染することなく、状況に応じて予圧を迅速に調整することができ、しかも、小型化及び簡略化が図れる。
【0036】
しかも、電磁石65の磁力による押圧リング63の移動が解除された際には、弾性部材67によって押圧リング63を電磁石65の磁力による移動方向と反対側へ確実に付勢して迅速に初期位置へ戻すことができる。
【0037】
また、押圧ボール61は、押圧リング63の押圧面71、第一ナット15A及び第二ナット15Bの傾斜面35A,35Bに対して点接触するので、摩擦を極力抑制して円滑に動作させることができる。
【0038】
次に、本発明のボールねじ装置の変形例について説明する。
図6は変形例に係るボールねじ装置の図1におけるA部の拡大図である。
【0039】
図6に示すように、変形例では、押圧ボール61に代えて押圧部材として楔部材81を備えている。この楔部材81は、例えば、セラミックス等の非磁性体からなるもので、第一ナット15A及び第二ナット15Bのそれぞれの傾斜面35A,35Bの間に配置されている。傾斜面35A,35Bの間には、少なくとも3つの楔部材81が周方向へ等間隔に配置されている。なお、この楔部材81も、8個程度設けるのが好ましい。
【0040】
この楔部材81は、傾斜面35A,35Bに面接触して摺動する摺動面83A,83Bを有している。また、楔部材81は、押圧リング63の押圧面71に面接触して摺動する当接面85を有している。
【0041】
この変形例では、電磁石65で生じた磁力により押圧リング63が弾性部材67の弾性力に抗して第一ナット15A側(図6中矢印B方向)へ変位されると、第一ナット15A及び第二ナット15Bの傾斜面35A,35Bの間に配置された楔部材81の当接面85が押圧リング63の傾斜面からなる押圧面71によって中心側(図6中矢印C方向)へ変位される。すると、楔部材81の摺動面83A,83Bによって第一ナット15A及び第二ナット15Bの傾斜面35A,35Bが押圧され、第一ナット15Aと第二ナット15Bとの間に作用する軸方向に沿う反力が増加する。これにより、第一ナット15A及び第二ナット15Bに大きな予圧が付与される。
【0042】
この状態から電磁石65による押圧リング63の吸着が解除され、押圧リング63が弾性部材67の弾性力によって第二ナット15B側(図6中矢印D方向)へ付勢されてスペーサ69に当接する位置まで変位されると、押圧リング63の押圧面71で中心側へ押し込まれていた楔部材81が外周側(図6中矢印E方向)へ変位される。したがって、楔部材81からの押圧力によって第一ナット15Aと第二ナット15Bとの間に付与されていた軸方向に沿う反力が低減される。そして、ボールねじ装置11は、第一ナット15A及び第二ナット15Bに必要最小限の予圧が付与された定常状態とされる。
【0043】
この変形例の場合も、電磁石65の磁力によって磁性体からなる押圧リング63を軸方向へ移動させることで、迅速に予圧を付与することができる。これにより、予圧が大きすぎることによる発熱を抑制して長寿命化を図りつつ、効率的に適切な予圧を付与することができる。また、周辺環境を汚染することなく、状況に応じて予圧を迅速に調整することができ、しかも、小型化及び簡略化が図れる。
【0044】
また、変形例に係るボールねじ装置11の楔部材81は、当接面85が押圧リング63の押圧面71に面接触し、摺動面83A,83Bが第一ナット15A及び第二ナット15Bの傾斜面35A,35Bに面接触するので、押圧リング63から受ける押圧力を安定的にかつ確実に第一ナット15A及び第二ナット15Bに伝達させることができる。
【0045】
なお、上記実施形態では、第一ナット15Aに押圧リング63を吸着させる電磁石65及び押圧リング63を押し戻す弾性部材67を設けたが、第二ナット15Bに電磁石65及び弾性部材67を設けてもよい。
【0046】
また、ボール17を循環させる循環方式としては、エンドデフレクタ方式に限らず、チューブを通してボール17を戻すチューブ方式などの各種の循環方式が適用可能である。また、転動体としては、ボール17に限らず、コマを転動体として用いる構造であってもよい。
【0047】
また、上記実施形態では、電磁石65の磁力で押圧リング63を電磁石65に吸着させて軸方向へ移動させたが、電磁石65の磁力で押圧リング63を電磁石65から反発させて軸方向へ移動させてもよい。この場合、電磁石65に対して押圧リング63の反対側に、電磁石65の磁力で移動された押圧リング63を押し戻す弾性部材67を設けることとなる。
【0048】
なお、上記実施形態では、第一ナット15A及び第二ナット15Bの互いに対向する端部に傾斜面35A,35Bを形成したが、これらの傾斜面35A,35Bを有する環状の間座を第一ナット15A及び第二ナット15Bの互いに対向する端部に設けてもよい。
【0049】
また、傾斜面35A,35Bの傾斜角度を異ならせてもよい。例えば、第一ナット15A及び第二ナット15Bにおけるボール17の配列数が異なる場合に、ボール17の配列数に応じて傾斜面35A,35Bの傾斜角度を異ならせることで、付勢機構19で第一ナット15A及び第二ナット15Bに予圧を付与する際の予圧のバランスを調整することができる。
【0050】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0051】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、
内周面に螺旋状のねじ溝を有し、前記ねじ軸に外嵌されて軸方向に配列された第一ナット及び第二ナットと、
前記ねじ軸の前記ねじ溝と前記第一ナット及び前記第二ナットのそれぞれの前記ねじ溝との間に形成された転動路に転動可能に配置された複数の転動体と、
前記第一ナット及び前記第二ナットに、軸方向に沿う反力を生じさせて予圧を付与する付勢機構と、
を備えるボールねじ装置であって、
前記第一ナット及び前記第二ナットは、対向する端部に、中心側へ向かって次第に近接する方向へ傾斜された傾斜面を有し、
前記付勢機構は、
前記傾斜面同士の間における周方向の等間隔位置に設けられた複数の押圧部材と、
複数の前記押圧部材の周囲を囲うように配置され、内周面が軸方向の一方に向かって次第に中心側へ向かって傾斜する傾斜面からなる押圧面とされた磁性体からなる押圧リングと、
前記押圧リングを磁力で軸方向へ移動させることで、前記押圧面によって前記押圧部材を中心側へ押圧し、前記第一ナットと前記第二ナットとの間に軸方向に沿う反力を生じさせて予圧を付与する電磁石と、
を備えるボールねじ装置。
この構成のボールねじ装置によれば、電磁石の磁力によって磁性体からなる押圧リングを軸方向へ移動させることで、迅速に予圧を付与することができる。これにより、このボールねじ装置を工作機械に用いれば、移動機構部における高速移動時、またその移動量が大きい場合は予圧の小さい状態として抵抗を下げて発熱を抑制して長寿命化を図り、高い精度が要求される加工時に付勢機構の電磁石で磁力を生じさせて予圧を大きくして剛性を高めて位置決め精度を高めることができる。
また、油などの流体を供給して予圧を付与したり、加圧ナットのねじ込み量を調整して予圧を調整する構造のものと比較し、周辺環境を汚染することなく、小型化及び簡略化が図れ、しかも、状況に応じて予圧を迅速に調整することができる。
【0052】
(2) 前記押圧リングを、前記電磁石の磁力による移動方向と反対側へ付勢する弾性部材を備える
(1)に記載のボールねじ装置。
この構成のボールねじ装置によれば、電磁石の磁力による押圧リングの移動が解除された際に、押圧リングを電磁石の磁力による移動方向と反対側へ確実に付勢して迅速に初期位置へ戻すことができる。
【0053】
(3) 前記押圧部材は、前記傾斜面同士の間に配置されたボールからなり、前記ボールの外周面に前記押圧面及び前記傾斜面が点接触されている
(1)または(2)に記載のボールねじ装置。
このボールねじ装置によれば、押圧リングが軸方向へ移動されて傾斜面同士の間に配置されたボールと押圧面との接触箇所を通る接触円が小さくなることで、ボールが中心側へ押し込まれる。これにより、第一ナットと第二ナットとの間に、軸方向に沿う反力を容易に生じさせて予圧を付与させることができる。また、ボールからなる押圧部材は、押圧リングの押圧面、第一ナット及び第二ナットの傾斜面に対して点接触するので、摩擦を極力抑制して円滑に動作させることができる。
【0054】
(4) 前記押圧部材は、それぞれの前記傾斜面に摺動可能に面接触する摺動面及び前記押圧面に摺動可能に面接触する当接面を有する楔部材からなる
(1)または(2)に記載のボールねじ装置。
このボールねじ装置によれば、軸方向へ移動される押圧リングの押圧面によって楔部材の当接面が押圧されて楔部材が中心側へ変位されることで、楔部材の摺動面によって第一ナット及び第二ナットの傾斜面が押圧される。これにより、第一ナットと第二ナットとの間に、軸方向に沿う反力を容易に生じさせて予圧を付与させることができる。また、楔部材からなる押圧部材は、当接面が押圧リングの押圧面に面接触し、摺動面が第一ナット及び第二ナットの傾斜面に面接触するので、押圧リングから受ける押圧力を安定的にかつ確実に第一ナット及び第二ナットに伝達させることができる。
【符号の説明】
【0055】
11 ボールねじ装置
13 ねじ軸
15A 第一ナット
15B 第二ナット
17 ボール(転動体)
19 付勢機構
21,23 ねじ溝
35A,35B 傾斜面
61 押圧ボール(押圧部材)
63 押圧リング
65 電磁石
67 弾性部材
71 押圧面
81 楔部材(押圧部材)
83A,83B 摺動面
85 当接面
図1
図2
図3
図4
図5
図6