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特許7183711ボールねじ装置及び電動パワーステアリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】ボールねじ装置及び電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20221129BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20221129BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
F16H25/22 C
F16H25/24 B
B62D5/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018208383
(22)【出願日】2018-11-05
(65)【公開番号】P2020076421
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萬 雄介
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特許第6365809(JP,B1)
【文献】特開2003-120784(JP,A)
【文献】特開2013-061026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
F16H 25/24
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に第1ねじ溝を有するねじ軸と、
内周面に設けられる第2ねじ溝、端面に設けられる切欠き、及び前記ねじ軸の軸方向に対して直交する前記切欠きの底面に設けられ且つ前記軸方向に貫通する戻し穴を有するナットと、
前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝との間を転がる複数のボールと、
前記切欠きに嵌まるエンドデフレクタと、
を備え、
前記ナットは、前記切欠きの側面のうち前記第2ねじ溝と前記戻し穴との間の位置に曲面部を備え、
前記軸方向に対して直交し且つ前記第2ねじ溝及び前記切欠きを通る平面で前記ナットを切った第1断面において、前記曲面部は、前記ナットの回転軸を中心とした放射方向で前記第2ねじ溝よりも外側に位置する点を中心とした円弧を描く部分を含み、
前記円弧は、第1円弧と、前記第1円弧の曲率半径とは異なる曲率半径を有する第2円弧と、を含み、
前記第2ねじ溝から前記戻し穴に向かって、前記第1円弧、前記第2円弧の順に配置され、
前記第1円弧の曲率半径は、前記第2円弧の曲率半径よりも大きい
ボールねじ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のボールねじ装置を備える電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置及び電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転運動を直進運動に変換する装置としてボールねじ装置が知られている。ボールねじ装置は、ねじ軸と、ナットと、複数のボールを備えている。例えば特許文献1には、ボールねじ装置の一例が記載されている。特許文献1に記載されるボールねじ装置は、ナット端面の切欠きに嵌められるエンドデフレクタと、ナットを軸方向に貫通する戻し穴とを備える。複数のボールは、ナット端面の切欠き及びエンドデフレクタによって形成される通路と、戻し穴とによって無限循環する。特許文献1のボールねじ装置は、ナットが曲面部を備えることによってボールの動きを滑らかにすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6365809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ボールねじ装置においては、ボールの動きを滑らかにすることに加えて、小型化が求められる。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、ボールの動きを滑らかにでき且つ小型化できるボールねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明の一態様に係るボールねじ装置は、外周面に第1ねじ溝を有するねじ軸と、内周面に設けられる第2ねじ溝、端面に設けられる切欠き、及び前記ねじ軸の軸方向に対して直交する前記切欠きの底面に設けられ且つ前記軸方向に貫通する戻し穴を有するナットと、前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝との間を転がる複数のボールと、前記切欠きに嵌まるエンドデフレクタと、を備え、前記ナットは、前記切欠きの側面のうち前記第2ねじ溝と前記戻し穴との間の位置に曲面部を備え、前記軸方向に対して直交し且つ前記第2ねじ溝及び前記切欠きを通る平面で前記ナットを切った第1断面において、前記曲面部は、前記ナットの回転軸を中心とした放射方向で前記第2ねじ溝よりも外側に位置する点を中心とした円弧を描く部分を含み、前記円弧は、第1円弧と、前記第1円弧の曲率半径とは異なる曲率半径を有する第2円弧と、を含む。
【0007】
これにより、ボールが切欠き側から第2ねじ溝に入る際に、曲面部によってボールが第1ねじ溝側に寄せられる。このため、ボールは、切欠き側から第2ねじ溝に入る前に第1ねじ溝に接し、第1ねじ溝にガイドされる。第1ねじ溝にガイドされたボールは、第1ねじ溝の真ん中を通る。このため、ボールとナットのエッジとの衝突が抑制される。したがって、ボールねじ装置は、ボールの動きを滑らかにすることができる。また、ボールねじ装置は、ボールの衝突による音の発生を抑制できる。さらに、曲面部が描く円弧が第1円弧及び第2円弧を含むことによって、エンドデフレクタを小型化できる。
【0008】
ボールねじ装置の望ましい態様として、前記第2ねじ溝から前記戻し穴に向かって、前記第1円弧、前記第2円弧の順に配置され、前記第1円弧の曲率半径は、前記第2円弧の曲率半径よりも大きい。これにより、ボールが第1ねじ溝及び第2ねじ溝に滑らかに入っていく。
【0009】
ボールねじ装置の望ましい態様として、前記第2ねじ溝から前記戻し穴に向かって、前記第1円弧、前記第2円弧の順に配置され、前記第1円弧の曲率半径は、前記第2円弧半径の曲率よりも小さい。これにより、エンドデフレクタを小型化できる。
【0010】
ボールねじ装置の望ましい態様として、前記円弧は、前記第2円弧の曲率半径とは異なる曲率半径を有する第3円弧を含み、前記第2ねじ溝から前記戻し穴に向かって、前記第1円弧、前記第2円弧、前記第3円弧の順に配置される。これにより、エンドデフレクタを小型化できる。
【0011】
本発明の一態様に係る電動パワーステアリング装置は、ボールねじ装置を備える。これにより、電動パワーステアリング装置は、補助操舵力が伝えられる部材の動きを滑らかにすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ナットのイナーシャの低減が可能であり且つボールの動きを滑らかにすることができるボールねじ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本実施形態に係るステアリング装置の概略を示す模式図である。
図2図2は、本実施形態に係るボールねじ装置の周辺の断面図である。
図3図3は、本実施形態に係るボールねじ装置の正面図である。
図4図4は、図3におけるA-A断面図である。
図5図5は、図4におけるB-B断面図である。
図6図6は、本実施形態に係るエンドデフレクタの斜視図である。
図7図7は、本実施形態に係るナット及びエンドデフレクタの斜視図である。
図8図8は、ボールが第2ねじ溝から離れる範囲を示すための正面図である。
図9図9は、第1変形例における、図4のB-B断面に相当する断面図である。
図10図10は、第2変形例における、図4のB-B断面に相当する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0015】
(実施形態)
図1は、本実施形態に係るステアリング装置の概略を示す模式図である。図2は、本実施形態に係るボールねじ装置の周辺の断面図である。図1に示すように、電動パワーステアリング装置80は、操作者から与えられる力が伝達する順に、ステアリングホイール81と、ステアリングシャフト82と、ユニバーサルジョイント84と、ロアシャフト85と、ユニバーサルジョイント86と、ピニオンシャフト87と、ピニオン88と、ボールねじ装置1と、電動モータ93と、を備える。
【0016】
図1に示すように、ステアリングホイール81はステアリングシャフト82に連結されている。ステアリングシャフト82の一端がステアリングホイール81に連結され、ステアリングシャフト82の他端がユニバーサルジョイント84に連結される。ロアシャフト85は、ユニバーサルジョイント84を介してステアリングシャフト82に連結される。ロアシャフト85の一端がユニバーサルジョイント84に連結され、他端がユニバーサルジョイント86に連結される。ピニオンシャフト87の一端がユニバーサルジョイント86に連結され、他端がピニオン88に連結される。
【0017】
図1及び図2に示すように、ボールねじ装置1は、ラック2(ねじ軸)と、ナット3と、ボール4とを備える。ピニオン88は、ラック2に噛み合う。ピニオン88及びラック2は、ピニオンシャフト87に伝達された回転運動を直進運動に変換する。ラック2は、タイロッド89に連結される。ラック2が移動することで車輪の角度が変化する。
【0018】
電動モータ93は、例えばブラシレスモータであるが、ブラシ(摺動子)及びコンミテータ(整流子)を備えるモータであってもよい。図2に示すように、電動モータ93は、ハウジング930に固定されている。電動モータ93のシャフトには、例えば小プーリ11が取り付けられている。小プーリ11は、ベルト12を介して大プーリ13に連結される。大プーリ13はナット3に取り付けられている。このため、電動モータ93が駆動すると、ナット3が回転軸Zを中心に回転する。
【0019】
図2に示すように、ラック2がナット3を貫通している。ナット3は軸受10を介してハウジング930に固定されている。軸受10は、外輪15と、内輪17と、外輪15及び内輪17の間に位置する転動体16と、を備える。外輪15がハウジング930に固定されている。内輪17は、例えばナット3と一体に形成されている。ナット3は、ラック2の軸方向(以下、単に軸方向という)に位置決めされている。すなわち、ナット3は回転できるが、軸方向に移動しない。
【0020】
図2に示すように、ラック2の外周面にある第1ねじ溝21とナット3の内周面にある第2ねじ溝31との間に複数のボール4が配置されている。ボール4は、第1ねじ溝21と第2ねじ溝31との間を無限循環する。ナット3が回転すると、ラック2が軸方向に移動する。ボールねじ装置1は、回転運動を直進運動に変換する。電動モータ93で生じたトルクにより、ラック2を移動させるために要する力が小さくなる。すなわち、電動パワーステアリング装置80には、ラックアシスト式が採用されている。
【0021】
図1に示すように、電動パワーステアリング装置80は、ECU(Electronic Control Unit)90と、トルクセンサ94と、車速センサ95と、を備える。電動モータ93、トルクセンサ94及び車速センサ95は、ECU90と電気的に接続される。トルクセンサ94は、例えばピニオン88に取り付けられている。トルクセンサ94は、ピニオン88に伝達された操舵トルクをCAN(Controller Area Network)通信によりECU90に出力する。車速センサ95は、電動パワーステアリング装置80が搭載される車体の走行速度(車速)を検出する。車速センサ95は、車体に備えられ、車速をCAN通信によりECU90に出力する。
【0022】
ECU90は、電動モータ93の動作を制御する。ECU90は、トルクセンサ94及び車速センサ95のそれぞれから信号を取得する。ECU90には、イグニッションスイッチ98がオンの状態で、電源装置99(例えば車載のバッテリ)から電力が供給される。ECU90は、操舵トルク及び車速に基づいて補助操舵指令値を算出する。ECU90は、補助操舵指令値に基づいて電動モータ93へ供給する電力値を調節する。ECU90は、電動モータ93から誘起電圧の情報又は電動モータ93に設けられたレゾルバ等から出力される情報を取得する。ECU90が電動モータ93を制御することで、ステアリングホイール81の操作に要する力が小さくなる。
【0023】
図3は、本実施形態に係るボールねじ装置の正面図である。図4は、図3におけるA-A断面図である。図5は、図4におけるB-B断面図である。図6は、本実施形態に係るエンドデフレクタの斜視図である。図7は、本実施形態に係るナット及びエンドデフレクタの斜視図である。
【0024】
図3に示すように、ナット3は、第2ねじ溝31と、切欠き33と、戻し穴35と、を備える。第2ねじ溝31は、図4に示すように例えばゴシックアーク形状(2つの円弧の組み合わせで形成される形状)である。ラック2の第1ねじ溝21も、図4に示すように例えばゴシックアーク形状である。ボール4は、第1ねじ溝21と第2ねじ溝31との間を転がる。ボール4は、第1ねじ溝21上の点21a及び点21b、並びに第2ねじ溝31上の点31a及び点31bに接する。図4に示すように、溝底線C1、ボール外形線C2、及びボール中心線C3が一直線上に並んでいる。溝底線C1は、第2ねじ溝31の底が描く線である。ボール外形線C2は、点31a及び点31bの中間に位置するボール4の表面上の点が描く線(軌跡)である。ボール中心線C3は、ボール4の中心が描く線(軌跡)である。
【0025】
切欠き33は、ナット3の一方の端面及び他方の端面に設けられる。すなわち、ナット3は2つの切欠き33を備える。切欠き33は、図5に示すように、回転軸Zに対して直交する表面である底面BSと、底面BSと平行であり且つ底面BSに対して軸方向にずれた補助底面ASと、底面BSに対して直交する表面である側面LSと、を備える。切欠き33の底面BSに対応する部分は、切欠き33の補助底面ASに対応する部分より軸方向に深い。戻し穴35は、底面BSに設けられ、軸方向にナット3を貫通する。戻し穴35は、ナット3の一方の端面にある切欠き33から他方の端面にある切欠き33に亘っている。
【0026】
図5に示すように、ナット3は、側面LSに第1曲面部61と、第1平面部64と、第2曲面部69と、第2平面部66と、を備える。第1曲面部61は、底面BSに対して直交する曲面であって、第2ねじ溝31に繋がる。図5は、図4のB-B断面であるが、言い換えると軸方向に対して直交し且つ第2ねじ溝31及び切欠き33を通る平面でナット3を切った断面である。さらに具体的に言うと、図5は、軸方向に対して直交し且つ第2ねじ溝31の底の端部を通る平面でナット3を切った断面である。図5に示す断面において、第1曲面部61は、回転軸Zを中心とした放射方向(以下、単に放射方向という)で第2ねじ溝31よりも外側に位置する点を中心とした円弧を描く部分を含む。第1曲面部61の一端の点P611は、溝底線C1上に位置する。点P611を通る第1曲面部61の接線L1は、点P611を通る溝底線C1の接線L2と等しい。
【0027】
図5に示すように、第1曲面部61が描く円弧は、第1円弧61aと、第2円弧61bと、を含む。第2ねじ溝31から戻し穴35に向かって、第1円弧61a、第2円弧61bの順に配置される。図5に示す断面において、第1円弧61aは、点P61aを中心とした円弧である。点P61aは、放射方向で第2ねじ溝31よりも外側に位置する。図5に示すように、点P61aと、点P611と、回転軸Z上の点PZとが一直線上にある。図5に示す断面において、第2円弧61bは、点P61bを中心とした円弧である。点P61bは、放射方向で第2ねじ溝31よりも外側に位置する。第1円弧61aの曲率半径R61aは、第2円弧61bの曲率半径R61bとは異なる。第1円弧61aの曲率半径R61aは、第2円弧61bの曲率半径R61bよりも大きい。
【0028】
第1平面部64は、底面BSに対して直交する平面であって、第1曲面部61に繋がる。図5に示すように、第1平面部64の一端は、第1曲面部61の他端の点P612に重なる。点P612は、第1曲面部61の第2ねじ溝31から遠い端部である。第1平面部64の第1曲面部61から遠い端部の点P642は、戻し穴35が描く円上に位置する。点P612を通る第1曲面部61の接線L3は、点P642を通る戻し穴35の接線L4と等しい。接線L3は、第1平面部64に重なる。
【0029】
第2曲面部69は、底面BSに対して直交する曲面である。第2曲面部69は、戻し穴35を挟んで第1曲面部61及び第1平面部64とは反対側に位置する。図5に示すように、第2曲面部69は、放射方向で第2ねじ溝31よりも外側に位置する点を中心とした円弧を描くが、第2ねじ溝31と戻し穴35との間に配置されていない点で第1曲面部61とは異なる。
【0030】
第2平面部66は、底面BSに対して直交する平面であって、底面BSを挟んで第1曲面部61及び第1平面部64とは反対側に位置する。第2平面部66は、ナット3の内周面に繋がる。図5に示すように、第2平面部66を含む直線L5は接線L3(接線L4)と交差する。すなわち、直線L5は接線L3(接線L4)に対して平行でない。直線L5と接線L3(接線L4)とがなす角度θは、45°以下であることが好ましい。
【0031】
図3に示すように、ナット3は、底面BSに第1凹部71と、第2凹部72と、を備える。第1凹部71は、例えば軸方向に対して直交する平面である。第1凹部71は、戻し穴35の縁に配置される。例えば、第1凹部71は、軸方向から見て戻し穴35を全周に亘って囲む。言い換えると、第1凹部71の底面に戻し穴35が設けられている。第2凹部72は、例えば軸方向に対して直交する平面である。第2凹部72は、底面BSのうち第2ねじ溝31側の端部に配置される。
【0032】
ボールねじ装置1は、図6に示すエンドデフレクタ5を備える。エンドデフレクタ5は、図7に示すようにナット3の切欠き33に嵌まる。エンドデフレクタ5は、第2ねじ溝31の端部に達したボール4を戻し穴35に導くための部材である。第2ねじ溝31の端部に達したボール4は、切欠き33とエンドデフレクタ5との間に形成される通路36(図7参照)を通って戻し穴35に至る。また、エンドデフレクタ5は、戻し穴35から出てきたボール4を第2ねじ溝31の端部に導くための部材でもある。戻し穴35から出てきたボール4は、通路36を通って第2ねじ溝31の端部に至る。例えばナット3が一定方向に回転している時、一方のエンドデフレクタ5がボール4を第2ねじ溝31から戻し穴35へ導き、他方のエンドデフレクタ5が戻し穴35から出てきたボール4を第2ねじ溝31へ導く。
【0033】
図6に示すように、エンドデフレクタ5は、基部50と、突起59と、第1アーム51と、第2アーム52と、を備える。基部50は、軸方向で戻し穴35に重なる。基部50は、切欠き33の底面BSに面する側にある端面505に第1凸部501を備える。第1凸部501は、切欠き33の第1凹部71に嵌まる。突起59は、基部50から第2ねじ溝31とは反対側に向かって突出する。突起59は、切欠き33の補助底面AS及び第2曲面部69に接する。これにより、エンドデフレクタ5が安定する(ずれにくくなる)。
【0034】
第1アーム51は、基部50から第2ねじ溝31に向かって突出する。第1アーム51は、切欠き33の第1曲面部61に沿う曲面部51aを備える。第2アーム52は、基部50から第2ねじ溝31に向かって突出する。第1アーム51と第2アーム52との間には隙間が設けられている。第2アーム52は、切欠き33の第1曲面部61に沿う曲面部52aを備える。第2アーム52は、切欠き33の底面BSに面する側に第2凸部522を備える。第2凸部522は、切欠き33の第2凹部72に嵌まる。
【0035】
図8は、ボールが第2ねじ溝から離れる範囲を示すための正面図である。第2ねじ溝31が回転軸Zを中心とした螺旋状であるので、螺旋の巻き数が多くなるほどボール4の数が増える。1つのボール4に加わる荷重は、ボール4の数が増えるほど小さくなる。一方、ボール4が通路36(図7参照)及び戻し穴35を通っている時、ボール4は第2ねじ溝31に接しない。すなわち、ボール4が第2ねじ溝31から離れ、ボール4に荷重が加わらない。ボール4が第2ねじ溝31から離れる範囲にあるボール4の数が増えると、1つのボール4に加わる荷重が大きくなる。ボール4が第2ねじ溝31から離れる範囲を小さくすると、荷重を受けるボール4の数が増えるので、1つのボール4に加わる荷重は小さくなる。ボール4に加わる荷重が大きいとボールねじ装置1の寿命が短くなるので、ボール4が第2ねじ溝31から離れる範囲は小さい方が望ましい。
【0036】
図8に示すように、ボール4が第2ねじ溝31から離れる範囲は、平面S1及び平面S2で区切られる範囲である。平面S1は、回転軸Zを含み且つボール4が第2ねじ溝31から離れる点を通る平面である。平面S2は、回転軸Zを含み且つボール4が第2ねじ溝31に接し始める点を通る平面である。平面S1と平面S2とがなす角度αは、平面S1と平面S3とがなす角度βの2倍である。平面S3は、回転軸Zを含み且つ戻し穴35の中心を通る平面である。
【0037】
切欠きが直線状に形成される場合、ボールがねじ溝から離れる範囲を小さくすることには限界があった。切欠きが直線状に形成される場合にボールがねじ溝から離れる範囲は、図8に示すように平面S1X及び平面S2Xで区切られる範囲となる。平面S1Xは、回転軸Zを含み且つ軸方向から見た場合の第2ねじ溝31が描く円と直線T1との交点を通る平面である。直線T1は、軸方向から見た場合の戻し穴35が描く円と第2ねじ溝31が描く円との共通接線である。平面S2Xは、回転軸Zを含み且つ軸方向から見た場合の第2ねじ溝31が描く円と直線T2との交点を通る平面である。直線T2は、平面S3に対して直線T1と対称な直線である。本実施形態においては、ナット3が第1曲面部61を備えることで、ボール4が第2ねじ溝31から離れる範囲が、切欠きが直線状に形成される場合よりも小さくなっている。言い換えると、平面S1と平面S2とがなす角度αが平面S1Xと平面S2Xとがなす角度γより小さくなっている。このため、本実施形態に係るボールねじ装置1においては、寿命が長くなりやすい(負荷容量が大きくなりやすい)。また、切欠きが直線状に形成される場合に比べ、エンドデフレクタ5が小さくなりやすい。第1アーム51及び第2アーム52が短くなるので、エンドデフレクタ5の耐久性が向上する。また、エンドデフレクタ5の製造が容易になる。
【0038】
なお、ボールねじ装置1は、必ずしも電動パワーステアリング装置80に用いられなくてもよい。ボールねじ装置1は、回転運動を直進運動に変換する必要のある装置に広く適用することができる。
【0039】
なお、図5に示す断面において、第1曲面部61の端部における接線L1が溝底線C1の接線と等しくなくてもよい。点P611を通る第1曲面部61の接線は、点P611を通るボール外形線C2の接線と等しくてもよい。例えば、点P611を通る第1曲面部61の接線は、点P611を通るボール中心線C3の接線と等しくてもよい。
【0040】
以上で説明したように、ボールねじ装置1は、ねじ軸(ラック2)と、ナット3と、複数のボール4と、エンドデフレクタ5と、を備える。ねじ軸は、外周面に第1ねじ溝21を有する。ナット3は、内周面に設けられる第2ねじ溝31、端面に設けられる切欠き33、及び軸方向に対して直交する切欠き33の底面BSに設けられ且つ軸方向に貫通する戻し穴35を有する。複数のボール4は、第1ねじ溝21と第2ねじ溝31との間を転がる。エンドデフレクタ5は、切欠き33に嵌まる。ナット3は、切欠き33の側面LSのうち第2ねじ溝31と戻し穴35との間の位置に曲面部(第1曲面部61)を備える。軸方向に対して直交し且つ第2ねじ溝31及び切欠き33を通る平面でナット3を切った第1断面(図5の断面)において、曲面部(第1曲面部61)は、放射方向で第2ねじ溝31よりも外側に位置する点をP61中心とした円弧を描く部分を含む。曲面部が描く円弧は、第1円弧61aと、第1円弧61aの曲率半径R61aとは異なる曲率半径R61bを有する第2円弧61bと、を含む。
【0041】
仮にねじ軸が回転しナット3が直進する場合には、切欠き33が鉛直方向上側に位置するように配置されることで、ボール4の自重により常にボール4をねじ軸側に寄せることが可能である。このようにすることで、ボール4が第2ねじ溝31のエッジに衝突することが防がれる。しかしながら、本実施形態のようにナット3が回転しねじ軸が直進する場合には、切欠き33の位置を固定することができない。これに対して、本実施形態に係るボールねじ装置1においては、曲面部(第1曲面部61)があることで、ボール4が切欠き33側から第2ねじ溝31に入る際に、曲面部(第1曲面部61)によってボール4が第1ねじ溝21側に寄せられる。このため、ボール4は、切欠き33側から第2ねじ溝31に入る前に第1ねじ溝21に接し、第1ねじ溝21にガイドされる。第1ねじ溝21にガイドされたボール4は、第1ねじ溝21の真ん中を通る。このため、ボール4とナット3とのエッジに衝突が抑制される。したがって、ボールねじ装置1は、ボール4の動きを滑らかにすることができる。また、ボールねじ装置1は、ボール4の衝突による音の発生を抑制できる。さらに、曲面部(第1曲面部61)が描く円弧が第1円弧61a及び第2円弧61bを含むことによって、エンドデフレクタ5を小型化できる。
【0042】
また、ボールねじ装置1において、第2ねじ溝31から戻し穴35に向かって、第1円弧61a、第2円弧61bの順に配置される。第1円弧61aの曲率半径R61aは、第2円弧61bの曲率半径R61bよりも大きい。これにより、ボール4が第1ねじ溝21及び第2ねじ溝31に滑らかに入っていく。
【0043】
また、ボールねじ装置1において、ナット3は、底面BSの戻し穴35の縁に第1凹部71を備える。これにより、ボール4が戻し穴35に入る際の動き、及びボール4が戻し穴35から出る際の動きが滑らかになる。
【0044】
また、ボールねじ装置1において、ナット3は、底面BSのうち第2ねじ溝31側の端部に第2凹部72を備える。これにより、エンドデフレクタ5のうち第2凹部72に対応する部分(第2アーム52)の肉厚が大きくなる。このため、エンドデフレクタ5の耐久性が向上する。
【0045】
また、第1断面(図5の断面)において、曲面部(第1曲面部61)の第2ねじ溝31から遠い側の端部(点P612)における接線である第1接線(接線L3)は、戻し穴35の接線L4と等しい。これにより、曲面部(第1曲面部61)から戻し穴35に向かうボール4の動き、及び戻し穴35から曲面部(第1曲面部61)に向かうボール4の動きが滑らかになる。
【0046】
また、ボールねじ装置1において、ナット3は、切欠き33の側面LSのうち底面BSを挟んで曲面部(第1曲面部61)とは反対側に位置する平面部(第2平面部66)を備える。第1断面(図5の断面)において、平面部(第2平面部66)が描く直線L5は第1接線(接線L3)に対して平行でない。これにより、戻し穴35の位置を放射方向の内側に配置しやすくなるので、第2ねじ溝31から戻し穴35までの距離を短くすることが可能である。
【0047】
また、電動パワーステアリング装置80は、ボールねじ装置1を備える。これにより、電動パワーステアリング装置80は、補助操舵力が伝えられる部材(ラック2)の動きを滑らかにすることができる。
【0048】
(第1変形例)
図9は、第1変形例における、図4のB-B断面に相当する断面図である。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0049】
図9に示すように、第1変形例の第1曲面部61Aが描く円弧は、第1円弧61cと、第2円弧61dと、を含む。第2ねじ溝31から戻し穴35に向かって、第1円弧61c、第2円弧61dの順に配置される。図9に示す断面において、第1円弧61cは、点P61cを中心とした円弧である。点P61cは、放射方向で第2ねじ溝31よりも外側に位置する。図9に示す断面において、第2円弧61dは、点P61dを中心とした円弧である。点P61dは、放射方向で第2ねじ溝31よりも外側に位置する。第1円弧61cの曲率半径R61cは、第2円弧61dの曲率半径R61dとは異なる。第1円弧61cの曲率半径R61cは、第2円弧61dの曲率半径R61dよりも小さい。
【0050】
以上で説明したように、第1変形例において、第2ねじ溝31から戻し穴35に向かって、第1円弧61c、第2円弧61dの順に配置される。第1円弧61cの曲率半径R61cは、第2円弧61dの曲率半径R61dよりも小さい。これにより、エンドデフレクタ5を小型化できる。
【0051】
(第2変形例)
図10は、第2変形例における、図4のB-B断面に相当する断面図である。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0052】
図10に示すように、第2変形例の第1曲面部61Bが描く円弧は、第1円弧61eと、第2円弧61fと、第3円弧61gと、を含む。第2ねじ溝31から戻し穴35に向かって、第1円弧61e、第2円弧61f、第3円弧61gの順に配置される。図10に示す断面において、第1円弧61eは、点P61eを中心とした円弧である。点P61eは、放射方向で第2ねじ溝31よりも外側に位置する。図10に示す断面において、第2円弧61fは、点P61fを中心とした円弧である。点P61fは、放射方向で第2ねじ溝31よりも外側に位置する。図10に示す断面において、第3円弧61gは、点P61gを中心とした円弧である。点P61gは、放射方向で第2ねじ溝31よりも外側に位置する。第1円弧61eの曲率半径R61eは、第2円弧61fの曲率半径R61fとは異なる。第1円弧61eの曲率半径R61eは、第2円弧61fの曲率半径R61fよりも大きい。第3円弧61gの曲率半径R61gは、第2円弧61fの曲率半径R61fとは異なる。第3円弧61gの曲率半径R61gは、第2円弧61fの曲率半径R61fよりも大きい。
【0053】
以上で説明したように、第2変形例において、曲面部(第1曲面部61B)が描く円弧は、第2円弧61fの曲率半径R61fとは異なる曲率半径R61gを有する第3円弧61gを含む。第2ねじ溝31から戻し穴35に向かって、第1円弧61e、第2円弧61f、第3円弧61gの順に配置される。これにより、エンドデフレクタ5を小型化できる。
【符号の説明】
【0054】
1 ボールねじ装置
2 ラック(ねじ軸)
21 第1ねじ溝
3 ナット
31 第2ねじ溝
33 切欠き
35 戻し穴
36 通路
4 ボール
5 エンドデフレクタ
50 基部
501 第1凸部
51 第1アーム
52 第2アーム
522 第2凸部
59 突起
61、61A、61B 第1曲面部
61a、61c、61e 第1円弧
61b、61d、61f 第2円弧
61g 第3円弧
64 第1平面部
66 第2平面部
69 第2曲面部
71 第1凹部
72 第2凹部
80 電動パワーステアリング装置
81 ステアリングホイール
82 ステアリングシャフト
84 ユニバーサルジョイント
85 ロアシャフト
86 ユニバーサルジョイント
87 ピニオンシャフト
88 ピニオン
89 タイロッド
90 ECU
93 電動モータ
94 トルクセンサ
95 車速センサ
98 イグニッションスイッチ
99 電源装置
AS 補助底面
BS 底面
C1 溝底線
C2 ボール外形線
C3 ボール中心線
LS 側面
Z 回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10