(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】電気化学リアクタ
(51)【国際特許分類】
F01N 3/08 20060101AFI20221129BHJP
B01D 53/92 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
F01N3/08 C
B01D53/92 227
B01D53/92 ZAB
B01D53/92 300
(21)【出願番号】P 2019001197
(22)【出願日】2019-01-08
【審査請求日】2021-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】高田 圭
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】野竹 康正
【審査官】菅野 京一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-189023(JP,A)
【文献】特開2007-217209(JP,A)
【文献】特開2000-182653(JP,A)
【文献】特開2009-125622(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0186544(US,A1)
【文献】特開2009-138522(JP,A)
【文献】実開昭58-124611(JP,U)
【文献】特開昭56-012011(JP,A)
【文献】特開2011-104532(JP,A)
【文献】特開2006-144570(JP,A)
【文献】特開平08-238422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00
B01D 53/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路内に配置されると共に複数のセル群を備える電気化学リアクタであって、
各セル群は、イオン伝導性の固体電解質層と、該固体電解質層の表面上に配置されたアノード層及びカソード層とを備えるセルを複数有し、
各セル群は、該セル群を構成するセルによって画定される通路に全ての排気ガスが流入するように且つ各通路に前記アノード層と前記カソード層との両方が曝されるように構成され、
前記複数のセル群は排気ガスの流れ方向に並んで配置されると共に、異なるセル群同士は互いに並列に電源に接続され、
各セル群を構成するセル同士は、少なくとも部分的に直列に接続され
、
隣り合う前記セル群の対応するセル同士は、これらセルの固体電解質層同士がスペーサを介して互いに結合されるように構成される、電気化学リアクタ。
【請求項2】
内燃機関の排気通路内に配置されると共に複数のセル群を備える電気化学リアクタであって、
各セル群は、イオン伝導性の固体電解質層と、該固体電解質層の表面上に配置されたアノード層及びカソード層とを備えるセルを複数有し、
各セル群は、該セル群を構成するセルによって画定される通路に全ての排気ガスが流入するように且つ各通路に前記アノード層と前記カソード層との両方が曝されるように構成され、
前記複数のセル群は排気ガスの流れ方向に並んで配置されると共に、異なるセル群同士は互いに並列に電源に接続され、
隣り合う前記セル群の対応するセル同士は、これらセルの固体電解質層同士がスペーサを介して互いに結合されるように構成される、電気化学リアクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気化学リアクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、イオン伝導性の固体電解質層と固体電解質層の表面上に配置されたアノード層及びカソード層とを有するセルを複数備える電気化学リアクタが排気通路内に設けられた内燃機関が知られている(例えば、特許文献1)。斯かる電気化学リアクタでは、アノード層から固体電解質層を介してカソード層に流れるように電気化学リアクタに電流を供給すると、カソード層上にてNOxがN2に還元され、浄化される。
【0003】
特に、特許文献1に記載の電気化学リアクタでは、複数のセルは、互いに対して排気流れ方向に対して垂直な方向に並んで且つ互いに平行に配置される。排気ガスは二つのセルによって画定される通路を通って流れ、排気ガスがこの通路を流れている間に排気ガス中のNOxが浄化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電気化学リアクタでは、断線等の故障によりセルが正常に作動しなくなることがあり、この場合、そのセルによっては排気ガス中のNOxを浄化することができなくなる。特許文献1に記載の電気化学リアクタでは、一部のセルにこのような故障が発生すると、そのセルによって画定された通路を通って流れる排気ガス中のNOxを浄化することができなくなる。この結果、電気化学リアクタによる排気ガスの浄化率が低下する。
【0006】
上記課題に鑑みて、本開示の目的は、複数のセルのうち一部のセルが故障しても電気化学リアクタによる排気ガスの浄化率の低下が抑制される電気化学リアクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の要旨は以下のとおりである。
【0008】
(1)内燃機関の排気通路内に配置されると共に複数のセル群を備える電気化学リアクタであって、各セル群は、イオン伝導性の固体電解質層と、該固体電解質層の表面上に配置されたアノード層及びカソード層とを備えるセルを複数有し、各セル群は、該セル群を構成するセルによって画定される通路に全ての排気ガスが流入するように且つ各通路に前記アノード層と前記カソード層との両方が曝されるように構成され、前記複数のセル群は排気ガスの流れ方向に並んで配置されると共に、異なるセル群同士は互いに並列に電源に接続される、電気化学リアクタ。
【0009】
(2)各セル群を構成するセル同士は、少なくとも部分的に直列に接続される、上記(1)に記載の電気化学リアクタ。
【0010】
(3)隣り合う前記セル群の対応するセル同士は、これらセルの固体電解質層同士がスペーサを介して互いに結合されるように構成される、上記(1)又は(2)に記載の電気化学リアクタ。
【0011】
(4)隣り合う前記セル群の対応するセル同士は、一体な一つの固体電解質層を共有するように構成される、上記(3)に記載の電気化学リアクタ。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、複数のセルのうち一部のセルが故障しても電気化学リアクタによる排気ガスの浄化率の低下が抑制される電気化学リアクタが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】
図3は、
図2の破線で示した領域を模式的に示す拡大断面図である。
【
図5】
図5は、リアクタを構成するセルの一部に故障が生じている場合における、
図3と同様なリアクタの拡大断面図である。
【
図6】
図6は、一つの変形例に係る電気化学リアクタの構成を示す、
図3と同様な拡大断面図である。
【
図7】
図7は、別の変形例に係る電気化学リアクタの構成を示す、
図3と同様な拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
【0015】
<内燃機関全体の説明>
図1を参照して、一つの実施形態に係る電気化学リアクタが搭載された内燃機関1の構成について説明する。
図1は、内燃機関1の概略的な構成図である。
図1に示したように、内燃機関1は、機関本体10、燃料供給装置20、吸気系30、排気系40及び制御装置50を備える。
【0016】
機関本体10は、複数の気筒11が形成されたシリンダブロックと、吸気ポート及び排気ポートが形成されたシリンダヘッドと、クランクケースとを備える。各気筒11内にはピストンが配置されると共に、各気筒11は吸気ポート及び排気ポートに連通している。
【0017】
燃料供給装置20は、燃料噴射弁21、デリバリパイプ22、燃料供給管23、燃料ポンプ24及び燃料タンク25を備える。燃料噴射弁21は、各気筒11内に燃料を直接噴射するようにシリンダヘッドに配置されている。燃料ポンプ24によって圧送された燃料は、燃料供給管23を介してデリバリパイプ22に供給され、燃料噴射弁21から各気筒11内に噴射される。
【0018】
吸気系30は、吸気マニホルド31、吸気管32、エアクリーナ33、過給機5のコンプレッサ34、インタークーラ35、及びスロットル弁36を備える。各気筒11の吸気ポートは、吸気マニホルド31及び吸気管32を介してエアクリーナ33に連通している。吸気管32内には、吸入空気を圧縮して吐出する過給機5のコンプレッサ34と、コンプレッサ34によって圧縮された空気を冷却するインタークーラ35とが設けられている。スロットル弁36は、スロットル弁駆動アクチュエータ37によって開閉駆動される。
【0019】
排気系40は、排気マニホルド41、排気管42、過給機5のタービン43、排気浄化触媒44及び電気化学リアクタ(以下、単に「リアクタ」という)45を備える。各気筒11の排気ポートは、排気マニホルド41及び排気管42を介して排気浄化触媒44に連通し、排気浄化触媒44は排気管42を介してリアクタ45に連通している。排気浄化触媒44は、例えば、三元触媒やNOx吸蔵還元触媒であり、一定の活性温度以上になるとNOxや未燃HC等の排気ガス中の成分を浄化する。排気管42内には、排気ガスのエネルギによって回転駆動せしめられる過給機5のタービン43が設けられている。排気ポート、排気マニホルド41、排気管42、排気浄化触媒44及びリアクタ45は排気通路を形成する。したがって、リアクタ45は排気通路内に配置されている。なお、排気浄化触媒44は、排気流れ方向においてリアクタ45の下流側に設けられてもよい。
【0020】
制御装置50は、電子制御ユニット(ECU)51及び各種センサを備える。各種センサとしては、例えば、吸気管32内を流れる吸気ガスの流量を検出する流量センサ52、排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサ53、リアクタ45に流入する排気ガスのNOx濃度を検出するNOxセンサ54等が挙げられ、これらセンサはECU51に接続される。また、各種センサには、内燃機関1の負荷を検出する負荷センサ55、機関回転速度を検出するのに用いられるクランク角センサ56も含まれ、これらセンサもECU51に接続される。また、ECU51は、内燃機関1の運転を制御する各アクチュエータに接続される。
図1に示した例では、ECU51は、燃料噴射弁21、燃料ポンプ24及びスロットル弁駆動アクチュエータ37に接続され、これらアクチュエータを制御している。
【0021】
<電気化学リアクタの構成>
次に、
図2~
図4を参照して本実施形態に係るリアクタ45の構成について説明する。
図2は、リアクタ45の断面側面図である。
図2に示したように、リアクタ45は、隔壁71と、隔壁によって画定される通路72とを備える。隔壁71は、互いに平行に排気流れ方向(すなわち、リアクタ45の軸線方向)に延びる複数の第1隔壁と、これら第1隔壁に対して垂直に且つ互いに平行に排気流れ方向に延びる複数の第2隔壁とを備える。通路72は、これら第1隔壁及び第2隔壁によって画定され、互いに平行に排気流れ方向に延びる。したがって、本実施形態に係るリアクタ45は、ハニカム構造を有する。リアクタ45に流入した排気ガスは複数の通路72を通って流れる。なお、隔壁71は、互いに平行に延びる複数の隔壁のみから形成されて、これら複数の隔壁に対して垂直な隔壁は備えないように形成されてもよい。
【0022】
図3は、
図2の破線で示した領域を模式的に示す拡大断面図である。図中の矢印は、リアクタ45を通って流れる排気ガスの流れる方向を示している。
図3に示したように、隔壁71は、排気流れ方向に並んで配置される複数のセル73によって構成される。
【0023】
図3に示したように、各セル73は、排気流れ方向(
図3に矢印で示した方向)に延びるように配置される。また、セル73は排気流れ方向に並んで複数配置される。本実施形態では、リアクタ45の上流端から下流端までの間に3つのセルが排気流れ方向に並んで配置される。排気流れ方向に並んで配置された複数のセル73は、共に同一平面上に配置される。なお、リアクタ45の上流端から下流端までの間に排気流れ方向に並んで配置されるセルの数は2つ又は4つ以上であってもよい。
【0024】
また、
図3に示したように、セル73は、排気流れ方向に対して垂直な方向(以下、「排気垂直方向」ともいう)に並んで複数配置される。これら排気垂直方向に並んで配置される複数のセル73のうち第1隔壁を構成するセル73同士は互いに平行に等間隔で配置される。同様に、これら排気垂直方向に並んで配置される複数のセル73のうち第2隔壁を構成するセル73同士も互いに平行に等間隔で配置される。また、第1隔壁を構成するセル73と第2隔壁を構成するセル73とは互いに垂直に配置される。
【0025】
以下では、排気垂直方向に並んで複数配置された複数のセル73をまとめてセル群74と称する。各セル群74に含まれる複数のセル73の上流端はほぼ同一平面上(排気垂直方向に延びる平面)に位置し、各セル群74に含まれる複数のセル73の下流端はほぼ同一平面(排気垂直方向に延びる平面)上に位置する。各セル群74を構成する複数のセル73は、排気ガスが流れる複数の通路72を画定する。特に、各セル群74は、そのセル群74を構成する全てのセル73によって画定される通路に全ての排気ガスが流入するように構成される。
【0026】
上述したように、本実施形態では、セル73は排気流れ方向に並んで複数配置される。したがって、セル群74も排気流れ方向に並んで複数配置される。本実施形態では、排気流れ方向に3つのセル群が並んで配置される。なお、排気流れ方向に並んで配置されるセル群74の数は2つ又は4つ以上であってもよい。
【0027】
なお、本実施形態では、各セル群74を構成するセル73同士は、排気垂直方向に並んで互いに平行に配置される。しかしながら、これら各セル群74を構成するセル73同士は、排気流れ方向に対して角度をもって配置されていれば、必ずしも排気垂直方向に並んで配置される必要はない。
【0028】
図4は、各セル73の拡大断面図である。
図4に示したように、各セル73は、固体電解質層75と、固体電解質層75の一方の表面上に配置されたアノード層76と、アノード層76が配置された表面とは反対側の固体電解質層75の表面上に配置されたカソード層77とを備える。
【0029】
固体電解質層75は、プロトン伝導性を有する多孔質の固体電解質を含む。固体電解質としては、例えば、ペロブスカイト型金属酸化物MM’1-xRxO3-α(M=Ba、Sr、Ca、M’=Ce,Zr、R=Y、Ybであり、例えば、SrZrxYb1-xO3-α、SrCeO3、BaCeO3、CaZrO3、SrZrO3など)、リン酸塩(例えば、SiO2-P2O5系ガラスなど)、金属ドープSnxIn1-xP2O7(例えば、SnP2O7など)又はゼオライト(例えば、ZSM-5)が使用される。
【0030】
アノード層76及びカソード層77は、共にPt、Pd又はRh等の貴金属を含む。また、アノード層76は、水分子を保持可能(すなわち、吸着可能及び/又は吸収可能)な物質を含む。水分子を保持可能な物質としては、具体的には、ゼオライト、シリカゲル、活性アルミナ等が挙げられる。一方、カソード層77は、NOxを保持可能(すなわち、吸着可能及び/又は吸収可能)な物質を含む。NOxを保持可能な物質としては、具体的には、K、Na等のアルカリ金属、Ba等のアルカリ土類金属、La等の希土類等が挙げられる。
【0031】
図3から分かるように、本実施形態では、各セル群74において、一つの通路72を画定する複数のセル73のうち、一部のセル73はこの通路72にアノード層76が曝されると共に、他のセル73はこの通路72にカソード層77が曝されるように構成される。したがって、各セル群74は、各通路72にアノード層76とカソード層77との両方が曝されるように構成される。
【0032】
なお、上記実施形態では、アノード層76及びカソード層77は固体電解質層75の反対側の二つの表面上に配置されている。しかしながら、アノード層76及びカソード層77は、固体電解質層75の同一の表面上に配置されてもよい。この場合、プロトンは、アノード層76及びカソード層77が配置された固体電解質層75の表面近傍を移動することになる。
【0033】
また、アノード層76は、電気伝導性を有する貴金属を含む導電層と、水分子を保持可能な物質を含む水分子保持層との二つの層を含んでもよい。この場合、固体電解質層75の表面上に導電層が配置され、固体電解質層75側とは反対側の導電層の表面上に水分子保持層が配置される。
【0034】
同様に、カソード層77は、電気伝導性を有する貴金属を含む導電層と、NOxを保持可能な物質を含むNOx保持層との二つの層を含んでもよい。この場合、固体電解質層75の表面上に導電層が配置され、固体電解質層75側とは反対側の導電層の表面上にNOx保持層が配置される。
【0035】
<電気化学リアクタの回路構成>
また、リアクタ45は、電源装置81、電流計82及び電圧調整装置83を備える。
【0036】
電源装置81は、リアクタ45のセル73に接続されて、セル73に電力を供給する。電源装置81の正極はアノード層76に接続され、電源装置81の負極はカソード層77に接続される。より具体的には、本実施形態では、各セル群74の複数のセル73が直列に接続される。したがって、各セル群74の一つのセル73のアノード層76はそのセル群74の別の一つのセル73のカソード層77に接続される。特に、本実施形態では、一つのセル群74を構成する全てのセル73が直列に接続される(
図3では、各セル群74の一部のセル73のみが直列に接続されているが、
図3に示されていない各セル群74を構成する他のセル73も直列に接続される)。このように直列に接続された複数のセル73のうち一方の端のセル73のアノード層76と、他方の端のセル73のカソード層77が電源装置81に接続される。
【0037】
しかしながら、一つのセル群74を構成する全てのセル73は必ずしも直列に接続されなくてもよい。したがって、一つのセル群74を構成するセル73のうち複数ずつを互いに直列に接続すると共に、直列に接続された複数のセル73同士を互いに並列に接続してもよい。したがって、一つのセル群74を構成するセル74同士は少なくとも部分的に直列に接続される。なお、一つのセル群74を構成する全てのセル73を並列に電源装置81に接続してもよい。
【0038】
一方、本実施形態では、排気ガスの流れ方向に並んで配置された異なるセル群74同士は並列に電源装置81に接続される。したがって、排気流れ方向に並んで配置されたセル73同士は互いに並列に電源装置81に接続される。
【0039】
電流計82は、電源装置81からリアクタ45のセル73に供給される電流を検出する。
【0040】
電圧調整装置83は、アノード層76とカソード層77との間に印加される電圧を変化させることができるように構成される。また、電圧調整装置83は、アノード層76から固体電解質層75を通ってカソード層77に流れるようにリアクタ45に供給される電流の大きさを変化させることができるように構成される。
【0041】
電源装置81は、電流計82と直列に接続されている。また、電流計82は、ECU51に接続され、検出された電流値をECU51に送信する。さらに、電圧調整装置83は、ECU51に接続され、ECU51によって制御される。本実施形態では、電圧調整装置83は、例えば、電流計82によって検出される電流値が目標値となるように電圧を制御する。
【0042】
≪リアクタによる浄化≫
図4を参照して、上述したように構成されたリアクタ45において生じる反応について説明する。リアクタ45では、電源装置81からアノード層76及びカソード層77に電流が流されると、アノード層76及びカソード層77ではそれぞれ下記式のような反応が生じる。
アノード側 2H
2O→4H
++O
2+4e
-
カソード側 2NO+4H
++4e
-→N
2+2H
2O
【0043】
すなわち、アノード層76では、アノード層76に保持されている水分子が電気分解されて酸素とプロトンとが生成される。生成された酸素は排気ガス中に放出されると共に、生成されたプロトンは固体電解質層75内をアノード層76からカソード層77へと移動する。カソード層77では、カソード層77に保持されているNOがプロトン及び電子と反応して窒素と水分子が生成される。
【0044】
したがって、本実施形態によれば、リアクタ45の電源装置81からアノード層76及びカソード層77に電流を流すことにより、排気ガス中のNOをN2に還元、浄化することができる。
【0045】
また、アノード層76では、排気ガス中に未燃HCやCO等が含まれる場合には、下記式のような反応により、酸素イオンがこれらHCやCOと反応して、二酸化炭素や水が生成される。なお、未燃HCは、様々な成分を含むため、下記反応式中においてはCmHnとして表されている。したがって、本実施形態によれば、リアクタ45の電源装置81からアノード層76及びカソード層77に電流を流すことにより、排気ガス中のHC及びCOを酸化、浄化することもできる。
CmHn+(2m+0.5n)O2-→mCO2+0.5nH2O+(4m+n)e-
CO+O2-→CO2+2e-
【0046】
上述したように、本実施形態では、各セル群74のセル73は、各通路72にアノード層76とカソード層77との両方が曝されるように配置される。したがって、各セル群74のセル73によって画定されるほとんどの通路72では、電源装置81から電流を流すことにより、排気ガス中のNOx及びHCやCOが浄化される。
【0047】
<作用・効果>
図5を参照して、本実施形態に係る電気化学リアクタ45の作用及びこの電気化学リアクタによって得られる効果について説明する。
図5は、リアクタ45を構成するセル73の一部に故障が生じている場合における、
図3と同様なリアクタ45の拡大断面図である。
【0048】
図5に示した例でも、リアクタ45は、排気流れ方向に並んだ三つのセル群74を有する。以下の説明では、これらセル群74のうち、排気流れ方向において最も上流側のセル群74を第一セル群74a、中央のセル群74を第二セル群74b、最も下流側のセル群74を第三セル群74cと称する。
【0049】
図5に示した例では、第三セル群74cを構成する一つのセル73xに故障が生じている。このような故障としては、例えば、セル73xのアノード層76と配線との接続部や、カソード層77と配線との接続部に断線が生じることが挙げられる。このような故障が生じると、このセル73xを含むセル群74(第三セル群74c)に電流が流れなくなる。したがって、第三セル群74cに含まれるセル73によって排気ガス中のNOx及びHCやCOを浄化することができなくなる。
【0050】
しかしながら、本実施形態では、第一セル群74a及び第二セル群74bは、第三セル群74cと並列に電源装置81に接続されている。したがって、第三セル群74cのセル73xが故障しても、第一セル群74aの各セル73及び第二セル群74bの各セル73には電流が流れる(図中の回路の太線は電流が流れている配線を示している)。
【0051】
この結果、リアクタ45の上流端から下流端まで延びる各通路72を通って流れる排気ガスは、少なくとも第一セル群74aのセル73及び第二セル群74bのセル73によって浄化される。したがって、リアクタ45の一部のセル73が故障してもリアクタ45に流入する排気ガスを十分に浄化することができ、排気ガスの浄化率の低下を抑制することができる。
【0052】
特に、排気流れ方向に複数のセル群74が設けられる場合、最初に排気ガスが流入するセル群74において最も多くのNOx及びHCやCOが浄化される。したがって、一つのセル群74のセル73に故障があってこのセル群74のセル73で排気ガスの浄化ができなくても、残りのセル群74のセル73によって多くの排気ガスが浄化されることになるため、リアクタ45の一部のセル73が故障してもリアクタ45による排気ガスの浄化率はそれほど低下しない。
【0053】
また、本実施形態では、各セル群74を構成するセル73同士は少なくとも部分的に直列に接続される。この結果、以下に説明するように、電源装置81や電源装置81とセル73とを接続する配線の容量をそれほど大きくすることなく、排気ガス中のNOx及びHCやCOを浄化することができる。
【0054】
ここで、各セル73によって単位時間当たりに浄化可能なNOx及びHCやCOの量はセル73に流れる電流に応じて変化する。したがって、排気ガス中のNOx及びHCやCOを十分に浄化するためには、各セル73に或る程度の大きさの電流を流すことが必要になる。このため、これらセル73を全て並列に電源装置に接続すると、排気ガスの浄化に極めて大きな電流を流すことが必要になる。
【0055】
これに対して本実施形態では、各セル群74を構成するセル73同士は少なくとも部分的に直列に接続される。したがって、電源装置81から大きな電流を流すことが必要なくなり、よって電源装置81や配線の容量を小さくすることができる。
【0056】
<変形例>
以上、本発明に係る好適な実施形態を説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載内で様々な修正及び変更を施すことができる。
【0057】
図6は、第一変形例に係る電気化学リアクタ45の構成を示す、
図3と同様な拡大断面図である。
図6からわかるように、本実施形態では、隣り合う二つのセル群74の間にスペーサ91が設けられ、これら二つのセル群74はこのスペーサ91によって互いに結合される。具体的には、第一セル群74aを構成するセル73の固体電解質層75の下流端と第二セル群74bを構成する対応のセル73の固体電解質層75の上流端との間にスペーサ91が設けられる。第二セル群74bのセル73の固体電解質層75と第三セル群74cの対応のセル73の固体電解質層75との間にも同様にスペーサ91が設けられる。
【0058】
スペーサ91は、排気流れ方向に対して垂直な断面において、セル群74の断面形状(例えば、ハニカム形状)と同一の断面形状を有する。したがって、本変形例では、排気流れ方向に並んで配置された二つのセル73(隣り合うセル群74の対応するセル73同士)では、これらセル73の固体電解質層75同士がスペーサ91を介して互いに結合される。
【0059】
また、スペーサ91は、セル73の固体電解質層75に比べてプロトン伝導性(又はイオン伝導性)の低い材料で形成される。例えば、スペーサ91は、絶縁性の材料で形成される。具体的には、スペーサ91は、例えば、アルミナやコージェライト等で形成される。
【0060】
本第一変形例では、第一セル群74a、第二セル群74b及び第三セル群74cがスペーサ91により互いに結合される。このため、本変形例によれば、リアクタ45の強度を高めることができる。
【0061】
図7は、第二変形例に係る電気化学リアクタ45の構成を示す、
図3と同様な拡大断面図である。
図7からわかるように、本実施形態では、上述した第一変形例に係る電気化学リアクタ45のスペーサに、セル73の固体電解質層75と同一の材料が用いられる。
【0062】
したがって、本第二変形例では、第一セル群74a、第二セル群74b及び第三セル群74cにおいて、共通の固体電解質層75が用いられる。換言すると、本第二変形例では、排気流れ方向に並んで配置された複数のセル73(隣り合うセル群74の対応するセル73同士)は、一体な一つの固体電解質層75を共有するように構成される。したがって、リアクタ45の上流端から下流端まで延びる固体電解質層75上に、第一セル群74aを構成するセル73のアノード層76及びカソード層77、第二セル群74bを構成する対応するセル73のアノード層76及びカソード層77、並びに第三セル群74cを構成する対応するセル73のアノード層76及びカソード層77が配置される。
【0063】
本第二変形例では、排気流れ方向に並んで配置された複数のセル73は、一体な一つの固体電解質層75を共有するように構成される。したがって、一つの固体電解質層75に複数のアノード層76及びカソード層77を設けるだけで異なるセル群74のセル73を形成することができる。したがって、本変形例によれば、リアクタ45の製造を容易にすることができる。
【符号の説明】
【0064】
1 内燃機関
10 機関本体
20 燃料供給装置
30 吸気系
40 排気系
44 排気浄化触媒
45 電気化学リアクタ
50 制御装置
71 隔壁
72 通路
73 セル
74 セル群
75 固体電解質層
76 アノード層
77 カソード層
81 電源装置