(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04B 1/06 20200101AFI20221129BHJP
【FI】
F04B1/06
(21)【出願番号】P 2019016365
(22)【出願日】2019-01-31
【審査請求日】2021-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100174713
【氏名又は名称】瀧川 彰人
(72)【発明者】
【氏名】原田 智夫
【審査官】嘉村 泰光
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-187647(JP,A)
【文献】特開平9-291878(JP,A)
【文献】特開2008-208788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 1/04
F04B 1/12
F04B 1/14
F04B 23/00-23/14
F04B 53/00-53/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、
容積が可変の第一ポンプ室と、前記駆動源に第一接触位置にて接触して前記第一ポンプ室の内部にて往復運動する第一ピストンと、前記第一ポンプ室に連通する第一吸入口及び第一吐出口と、を有し、前記第一ポンプ室の容積の増加に応じて前記第一吸入口から流体を吸入し、前記第一ポンプ室の容積の減少に応じて前記第一吐出口から流体を吐出する第一ポンプ機構と、
容積が可変の第二ポンプ室と、前記駆動源に前記第一接触位置とは異なる第二接触位置にて接触可能であり前記第二ポンプ室の内部にて往復運動する第二ピストンと、前記第二ポンプ室に連通する第二吸入口と、前記第二ポンプ室に連通すると共に前記第一吸入口に連通する第二吐出口と、前記第二ポンプ室の内部に配されて前記第二吸入口側に吸入室を区画すると共に前記第二吐出口側に吐出室を区画し、且つ、前記第二ピストンと共に往復運動可能であり、前記吐出室側へ移動することによって前記吐出室の容積が減少する際には前記吸入室と前記吐出室との連通を遮断し、前記吸入室側へ移動することによって前記吐出室の容積が増加する際には前記吸入室と前記吐出室とを連通させる弁機構と、を有し、前記吐出室の容積の増加に応じて前記吸入室から流体を充填し、前記吐出室の容積の減少に応じて前記第二吐出口から前記第一吸入口に流体を供給する第二ポンプ機構と、を備え、
前記第一ポンプ機構は、前記第一ピストンの往復運動に伴って、前記第一ポンプ室の容積を増加させる吸入期間と前記第一ポンプ室の容積を減少させる吐出期間とを周期的に繰り返し、
前記第二ポンプ機構は、前記第二ピストンの往復運動に伴って、前記吐出室の容積を減少させる供給期間と前記吐出室の容積を増加させる充填期間とを周期的に繰り返し、
前記第一ポンプ機構及び前記第二ポンプ機構は、前記第一ポンプ機構の前記吸入期間の少なくとも一部が前記第二ポンプ機構の前記供給期間と重なる、ように構成されたポンプ。
【請求項2】
前記第二ポンプ機構は、前記第一ポンプ機構が前記吸入期間を開始するよりも先行して前記供給期間を開始するように構成された請求項1に記載のポンプ。
【請求項3】
前記第二ポンプ機構の前記弁機構は、
前記第二ピストンの外周面に設けられて前記第二ピストンに相対移動可能、且つ、前記第二ピストンの往復運動に追従可能であり、前記吐出室の容積を減少させるように前記第二ピストンが移動する際には前記吸入室側へ相対移動して前記吸入室と前記吐出室との連通を遮断し、前記吐出室の容積を増加させるように前記第二ピストンが移動する際には前記吐出室側へ相対移動して前記吸入室と前記吐出室とを連通させる環状部材を有する請求項1又は請求項2に記載のポンプ。
【請求項4】
前記第一ポンプ機構は、前記駆動源の駆動力によって前記第一ポンプ室の容積を減少させるように移動した前記第一ピストンを前記第一ポンプ室の容積を増加させるように移動させる付勢力を発生する第一弾性部材を有し、
前記第二ポンプ機構は、前記駆動源の駆動力によって前記吐出室の容積を増加させるように移動した前記第二ピストンを前記吐出室の容積を減少させるように移動させる付勢力を発生する第二弾性部材を有する請求項1乃至請求項3のうちの何れか一項に記載のポンプ。
【請求項5】
前記第二ポンプ室に区画された前記吐出室の容積の大きさは、前記第一ポンプ室の容積よりも大きい請求項1乃至請求項4のうちの何れか一項に記載のポンプ。
【請求項6】
前記駆動源は、
前記第一ピストンに前記第一接触位置にて接触し、且つ、前記第二ピストンに前記第二接触位置にて接触するように運動するカムである請求項1乃至請求項5のうちの何れか一項に記載のポンプ。
【請求項7】
前記カムの運動に伴い、前記第一ポンプ機構が前記吸入期間と前記吐出期間とを繰り返す第一周期と、前記第二ポンプ機構が前記供給期間と前記充填期間とを繰り返す第二周期と、は、
前記吸入期間と前記供給期間とが少なくとも一部で重なるように所定の位相だけ異なる請求項6に記載のポンプ。
【請求項8】
前記所定の位相は、前記供給期間が前記吸入期間の開始よりも先行して開始されるように設定される請求項7に記載のポンプ。
【請求項9】
前記カムは、板カムであり、
前記第一ピストンは、前記第一接触位置にて前記板カムのカム面に接触し、
前記第二ピストンは、前記第二接触位置にて前記カム面に接触する請求項6に記載のポンプ。
【請求項10】
前記カムは、同軸に配置されていて、前記第一ピストンに前記第一接触位置にて接触する第一板カム部材と、前記第二ピストンに前記第二接触位置にて接触する第二板カム部材と、から構成されており、前記第一板カム部材の長径偏心方向と前記第二板カム部材の長径偏心方向とが互いに周方向にて異なる請求項9に記載のポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、特開平7-279834号公報に開示されたポンプが知られている。この従来のポンプは、一つのピストンの軸方向への往復運動に伴って作動する第一ポンプ機構と第二ポンプ機構とを備えている。第一ポンプ機構は、ピストンの往復運動に伴う第一ポンプ室の容積の増減に応じて流体を吸入すると共に流体を吐出する。第二ポンプ機構は、ピストンの往復運動に伴い、第一ポンプ室の容積の増減に同期するように流体を第一ポンプ室に供給すると共に流体を充填する。又、第二ポンプ機構は、第二ポンプ室内にて吸入室と吐出室とを形成すると共にピストンの往復運動に追従するようにピストンに対して相対移動可能な弁機構を備えている。弁機構は、吸入室側へ相対移動した際には吸入室と吐出室との連通を遮断し、吐出室側へ相対移動した際には吸入室と吐出室とを連通させるようになっている。
【0003】
そして、従来のポンプは、第一ポンプ室の容積が増加する際には弁機構がピストンに追従して吐出室側へ移動して吸入室へ流体を吸入すると共に吐出室から第一ポンプ室へ流体を供給するようになっている。一方、従来のポンプは、第一ポンプ室の容積が減少する際には第一ポンプ室から流体を吐出すると共に弁機構がピストンに追従して吸入室側へ移動して吸入室から吐出室へ流体を充填するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のポンプにおいては、第一ポンプ機構及び第二ポンプ機構が一つのピストンに対して同軸に配置され、ピストンの移動に伴って第一ポンプ室の容積が増加する際、第二ポンプ室に形成された吐出室の流体を全て第一ポンプ室に流入させる。このため、従来のポンプにおいては、第一ポンプ室の内径d1、第二ポンプ室の内径d2及びピストンの外径d3が下記式1の関係を成立させるように設定されている。
d2≒(d12+d32)1/2 …式1
【0006】
ところで、近年、ポンプが車両のブレーキ装置に用いられる際には、ポンプの十分な吐出量を確保するため、第一ポンプ機構の吸入性能の向上、換言すれば、第二ポンプ機構から第一ポンプ機構に向けた流体の供給量の増加が望まれている。この点について、従来のポンプにおいては、第一ポンプ機構と第二ポンプ機構とが一つのピストンに対して同軸に配置されているため、同一のピストンの移動量で第二ポンプ機構から供給される流体の量を増やすには、第二ポンプ室の内径d2を増加させることが考えられる。
【0007】
しかしながら、第二ポンプ室の内径d2のみを増加させると、吐出室から第一ポンプ室に供給する流体の供給量が第一ポンプ室の容積よりも大きくなり、上記式1の関係が崩れることでピストンが下死点に戻らなくなる虞がある。即ち、従来のポンプにおいては、第二ポンプ機構から供給される流体が第一ポンプ機構の第一ポンプ室に吸入されない場合には、第二ポンプ機構における余剰の流体が弁機構の移動を妨げ、弁機構がピストンの移動に追従できなくなる。その結果、ピストンの下死点に向けた移動も妨げられる。
【0008】
従って、従来のポンプにおいては、第二ポンプ室の容積を増加させて流体の供給量を増加させるようにしたにも拘らず、ピストンが下死点まで戻らなくなることで第一ポンプ室の容積を増加させることができなくなる。その結果、第一ポンプ機構における吸入性能は向上することがなく、第一ポンプ機構から吐出される流体の吐出量の増加が見込めない可能性がある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。即ち、本発明の目的は、流体の吸入性能を向上させることができるポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明に係るポンプは、駆動源と、容積が可変の第一ポンプ室と、駆動源に第一接触位置にて接触して第一ポンプ室の内部にて往復運動する第一ピストンと、第一ポンプ室に連通する第一吸入口及び第一吐出口と、を有し、第一ポンプ室の容積の増加に応じて第一吸入口から流体を吸入し、第一ポンプ室の容積の減少に応じて第一吐出口から流体を吐出する第一ポンプ機構と、容積が可変の第二ポンプ室と、駆動源に第一接触位置とは異なる第二接触位置にて接触可能であり第二ポンプ室の内部にて往復運動する第二ピストンと、第二ポンプ室に連通する第二吸入口と、第二ポンプ室に連通すると共に第一吸入口に連通する第二吐出口と、第二ポンプ室の内部に配されて第二吸入口側に吸入室を区画すると共に第二吐出口側に吐出室を区画し、且つ、第二ピストンと共に往復運動可能であり、吐出室側へ移動することによって吐出室の容積が減少する際には吸入室と吐出室との連通を遮断し、吸入室側へ移動することによって吐出室の容積が増加する際には吸入室と吐出室とを連通させる弁機構と、を有し、吐出室の容積の増加に応じて吸入室から流体を充填し、吐出室の容積の減少に応じて第二吐出口から第一吸入口に流体を供給する第二ポンプ機構と、を備え、第一ポンプ機構は、第一ピストンの往復運動に伴って、第一ポンプ室の容積を増加させる吸入期間と第一ポンプ室の容積を減少させる吐出期間とを周期的に繰り返し、第二ポンプ機構は、第二ピストンの往復運動に伴って、吐出室の容積を減少させる供給期間と吐出室の容積を増加させる充填期間とを周期的に繰り返し、第一ポンプ機構及び第二ポンプ機構は、第一ポンプ機構の吸入期間の少なくとも一部が第二ポンプ機構の供給期間と重なる、ように構成される。
【0011】
これによれば、第一ポンプ機構は第一ピストンを有し、第二ポンプ機構は第二ピストンを有することができる。そして、第一ピストンは駆動源に対して第一接触位置にて接触し、第二ピストンは駆動源に対して第二接触位置にて接触することができる。これにより、第一ピストン及び第二ピストンは駆動源によって個別に往復運動することができ、第一ポンプ機構と第二ポンプ機構とを独立して作動させることができる。
【0012】
これにより、第二ポンプ機構において余剰の流体が生じて第二ピストンの往復運動が妨げられても、第一ポンプ機構の第一ピストンの往復運動が妨げられることがない。従って、第二ポンプ室に形成される吐出室の容積を上記式1の関係に拘わらず自由に設定することができ、第二ポンプ機構は流体を第一ポンプ機構に十分な供給量で供給することできる。又、第一ピストンの往復運動は妨げられないため、第一ポンプ室の最大容積を確保することができる。これにより、第一ポンプ機構の吸入性能を向上させることができる。
【0013】
又、第二ポンプ機構は、少なくとも第一ポンプ機構が吸入期間であるときに供給期間になる。これにより、第一ポンプ機構は、吸入期間において第二ポンプ機構から供給された流体を第一ポンプ室の最大容積まで吸入することが可能となり、吸入性能を向上させることができる。そして、最大容積まで吸入した流体を吐出することにより、流体の吐出量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】
図1の第一ポンプ機構に設けられる吸入弁を示す斜視図である。
【
図3】
図1の第一ポンプ機構に設けられる吐出弁を示す斜視図である。
【
図4】
図1の第二ピストンの構成を説明するための斜視図である。
【
図5】
図1の第一ポンプ機構及び第二ポンプ機構の作動を説明するための図である。
【
図6】第一ポンプ機構の第一ピストンが上死点である状態を説明するための断面図である。
【
図7】第二ポンプ機構の第二ピストンが上死点にある状態を説明するための断面図である。
【
図8】第二ポンプ機構の供給期間を説明するための断面図である。
【
図9】実施形態に係るポンプが設けられるブレーキ装置の構成を示す図である。
【
図13】その他の変形例の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。尚、説明の用いる各図は概念図であり、各部の形状は必ずしも厳密なものではない場合がある。
【0016】
(1.ポンプ100の構成の詳細)
ポンプ100は、所謂、ピストンポンプであり、
図1に示すように、ポンプ100のハウジング101の内部に、第一ポンプ機構110と、第二ポンプ機構120と、駆動源としての板カム130と、を設けて構成されている。第一ポンプ機構110と第二ポンプ機構120とは、互いに異なる軸線を有するように、より詳しくは、板カム130のカム面130aに対して異なる第一接触位置P1と第二接触位置P2とにて接触するように配置されている。板カム130は、偏心量が「e」とされている。ハウジング101には、第二ポンプ機構120の第二ポンプ室121に連通する吸入ポート102と、第一ポンプ室111に連通する吐出ポート103と、第二ポンプ室121と第一ポンプ室111とを連通可能な連通路104と、板カム130を収容する大気室105と、が形成されている。
【0017】
第一ポンプ機構110は、ハウジング101の内部に形成される容積が可変の第一ポンプ室111と、一端が第一ポンプ室111に臨みハウジング101の内部に往復運動可能に組み付けられた第一ピストン112と、を備えている。又、第一ポンプ機構110は、第一ポンプ室111の入口側に設けられて連通路104に連結された第一吸入口113と、第一ポンプ室111の出口側に設けられて吐出ポート103に連結された第一吐出口114と、を備えている。第一ポンプ機構110は、第一ピストン112の往復運動に伴って第一ポンプ室111の容積が増減することに応じて、第一吸入口113から流体(例えば、非圧縮性流体であるブレーキフルード等)を連通路104を介して第一ポンプ室111に吸入し、第一吐出口114から流体を吐出ポート103に吐出する。
【0018】
第一ポンプ室111は、ハウジング101の内部に組み付けられたシリンダ部材115に形成されている。第一ピストン112は、一端側がシリンダ部材115に液密に挿入され、他端側の外周がシール部材116によってハウジング101との間を液密にシールされている。第一ピストン112は、他端側にて板カム130のカム面130aに第一接触位置P1にて接触しており、板カム130が運動、具体的には回転することにより他端側がカム面130aを摺動し、第一ポンプ室111に向けて押動されるようになっている。尚、第一接触位置P1は、第一ピストン112の他端の位置に一致する。
【0019】
又、第一ポンプ機構110は、第一ポンプ室111の第一吸入口113に設けられた吸入弁117と、第一ポンプ室111の第一吐出口114に設けられた吐出弁118と、を備えている。吸入弁117は、
図2に示すように、略C字状とされており、第一ポンプ室111に流体が吸入されるときに開弁し第一ポンプ室111から流体が吐出されるときに閉弁するようになっている。吐出弁118は、
図3に示すように、略C字状とされており、第一ポンプ室111から流体が吐出されるときに開弁し第一ポンプ室111に流体が吸入されるときに閉弁するようになっている。
【0020】
又、第一ポンプ機構110は、
図1に示すように、第一弾性部材としての第一復帰スプリング119を備えている。第一復帰スプリング119は、シリンダ部材115の内部に配置されている。第一復帰スプリング119は、板カム130によって第一ポンプ室111に向けて、即ち、第一ポンプ室111の容積を減少させるように移動した第一ピストン112を、大気室105に向けて、即ち、第一ポンプ室111の容積を増加させるように移動させる付勢力を発生して、復帰させる。従って、第一ピストン112は、板カム130及び第一復帰スプリング119によって軸方向に往復運動する。これにより、第一ポンプ機構110は、第一ピストン112が往復運動することによって第一ポンプ室111の容積が増減し、流体の吸入及び吐出を周期的に繰り返す。
【0021】
ここで、以下の説明において、板カム130及び第一復帰スプリング119による第一ピストン112の往復運動に伴って、第一ポンプ室111の容積を増加させる方向に駆動力を受けて流体を第一ポンプ室111に吸入する期間を「吸入期間K1」と称呼する。又、第一ピストン112の往復運動に伴って、第一ポンプ室111の容積を減少させる方向に付勢力を受けて第一ピストン112の流体を加圧して吐出する期間を「吐出期間K2」と称呼する。
【0022】
又、以下の説明において、第一ピストン112が板カム130によってこれ以上第一ポンプ室111に向けて移動することができず、第一ポンプ室111の容積が最小容積となる位置を「上死点」と称呼する。更に、以下の説明において、第一ピストン112が第一復帰スプリング119の付勢力によってこれ以上板カム130に向けて移動することができず、第一ポンプ室111の容積が最大容積となる位置を「下死点」と称呼する。
【0023】
第二ポンプ機構120は、
図1に示すように、板カム130の周方向(
図1にて太矢印により示す)にて第一ポンプ機構110に対して角度φとなるように配置される。即ち、第二ポンプ機構120は、板カム130の回転(運動)に伴って第一ポンプ機構110が吸入期間K1と吐出期間K2とを繰り返す第一周期F1に対して所定の位相である位相差φを有するように配置される。
【0024】
第二ポンプ機構120は、ハウジング101の内部に形成されて後述するように第一ポンプ室111の容積以上の容積を有する第二ポンプ室121と、一端が第二ポンプ室121に臨みハウジング101の内部に往復運動可能に組み付けられた第二ピストン122と、を備えている。又、第二ポンプ機構120は、第二ポンプ室121の入口側に設けられて吸入ポート102に連結された第二吸入口123と、第二ポンプ室121の出力側に設けられて連通路104に連結された第二吐出口124と、を備えている。
【0025】
第二ポンプ室121は、ハウジング101の内部に組み付けられたシリンダ部材125に形成されている。第二ピストン122は、一端側がシリンダ部材125に液密に挿入され、他端側の外周がシール部材126によってハウジング101との間を液密にシールされている。第二ピストン122は、他端側にて板カム130のカム面130aに対して第一ピストン112の第一接触位置とは異なる第二接触位置P2にて接触可能であり、板カム130が回転(運動)することにより他端側がカム面130aを摺動し、第二ポンプ室121に向けて押動されるようになっている。尚、第二接触位置P2は、第二ピストン122の他端の位置に一致する。
【0026】
更に、第二ポンプ機構120は、第二ポンプ室121の内部に配置された弁機構としての弁部127を備えている。弁部127は、第二ポンプ室121の内部を吸入室121aと吐出室121bとに区画する。第二ポンプ機構120は、第二ピストン122の往復運動に応じて弁部127が開閉することにより、第二吸入口123から流体を吸入ポート102を介して第二ポンプ室121に吸入し、第二吐出口124から流体を連通路104に吐出する。
【0027】
弁部127は、第二ピストン122の外周面122aに支持されていて、第二ピストン122に相対移動可能に組み付けられた環状部材としてのフィードリング127aを備えている。フィードリング127aは、耐油性のあるゴム材料や耐油性のある軟質樹脂等から形成された、例えば、カップシールであり、外周縁がシリンダ部材125の内周面に接触してシールする。
【0028】
フィードリング127aは、第二ピストン122の大径部分に設けられた環状且つ凸状の第一支持部122bと大径部分に相対変位不能に装着された環状の第二支持部122cとの間にて、第二ピストン122の往復運動に追従可能となっている。第一支持部122bは、
図4に示すように、第二ピストン122の大径部分にて周方向にて連続的に突出するように形成されている。第二支持部122cは、
図4に示すように、大径部分の周方向に沿って離間して即ちスリットを有するように設けられており、吸入室121aから流れる流体が吐出室121bに向けて流れるようになっている。
【0029】
フィードリング127aは、第二ピストン122に追従することに伴い、スリットを有さない第一支持部122b及びスリットを有する第二支持部122cのうちの一方と接離可能とされている。即ち、フィードリング127aは、第一支持部122bと第二支持部122cとの間の距離Lだけ移動する。これにより、弁部127即ちフィードリング127aは、第二ポンプ室121の内部において、第二吸入口123側に吸入室121aを区画すると共に第二吐出口124側に吐出室121bを区画する。
【0030】
又、第二ポンプ機構120は、
図1に示すように、第二弾性部材としての第二復帰スプリング128を備えている。第二復帰スプリング128は、シリンダ部材125の内部に配置されている。第二復帰スプリング128は、板カム130によって第二ポンプ室121の吸入室121aに向けて移動した第二ピストン122を吐出室121bに向けて復帰させる。従って、第二ピストン122は、板カム130及び第二復帰スプリング128によって軸方向に往復運動する。そして、第二ポンプ機構120は、第二ピストン122が往復運動することによって第二ポンプ室121の吐出室121bの容積が増減し、流体の充填及び供給を周期的に繰り返す。
【0031】
ここで、以下の説明において、板カム130及び第二復帰スプリング128による第二ピストン122の往復運動に伴って、吐出室121bの容積を減少させる付勢力を受けて流体を第一ポンプ室111に供給する期間を「供給期間K3」と称呼する。又、第二ピストン122の往復運動に伴って、吐出室121bの容積を増加させる駆動力を受けて吸入室121aから流体を吐出室121bに充填する期間を「充填期間K4」と称呼する。
【0032】
又、以下の説明において、第二ピストン122が板カム130によってこれ以上第二ポンプ室121に向けて移動することができず、吐出室121bの容積が最大容積となる(吸入室121aの容積が最小容積となる)位置を「上死点」と称呼する。更に、以下の説明において、第二ピストン122が第二復帰スプリング128の付勢力によってこれ以上板カム130に向けて移動することができず、吐出室121bの容積が最小容積となる(吸入室121aの容積が最大容積となる)位置を「下死点」と称呼する。
【0033】
ここで、弁部127を構成するフィードリング127aは、第二復帰スプリング128の付勢力によって第二ピストン122が板カム130に向けて移動する供給期間K3において、第一支持部122bと当接するように、距離Lだけ移動する。これにより、弁部127は、吐出室121bの容積が減少する際には、フィードリング127aとスリットを有さない第一支持部122bとが当接して吸入室121aと吐出室121bとの連通を遮断する。
【0034】
一方、弁部127を構成するフィードリング127aは、板カム130の回転(運動)によって第二ピストン122が第二ポンプ室121に向けて移動する充填期間K4において、第二支持部122cと当接するように、距離Lだけ移動する。これにより、弁部127は、吐出室121bの容積が増加する際には、フィードリング127aとスリットを有する第二支持部122cとが当接して吸入室121aと吐出室121bとを連通させる。
【0035】
(2.ポンプ100の作動)
ポンプ100の作動について、
図5を用いて説明する。先ず、第一ポンプ機構110の吸入期間K1及び吐出期間K2から説明する。上述したように、第一ポンプ機構110は、板カム130の回転(運動)に同期して駆動力を受けて第一ピストン112が上死点から下死点に向けて移動することにより、第一ポンプ室111の容積が増加して吸入期間K1となる。一方、第一ポンプ機構110は、板カム130の回転(運動)に同期して付勢力を受けて第一ピストン112が下死点から上死点に向けて移動することにより、第一ポンプ室111の容積が減少して吐出期間K2となる。そして、第一ポンプ機構110は、板カム130の回転(運動)に伴い、吸入期間K1と吐出期間K2とを第一周期F1により繰り返す。
【0036】
ここで、以下の説明においては、
図5及び
図6に示すように、第一ピストン112が上死点にあるときの板カム130の回転角度を0度とし、基準にして説明する。この場合、第一ピストン112が下死点にあるとき(
図1を参照)の板カム130の回転角度は180度(π)である。そして、
図5に示すように、第一ピストン112の位置は、余弦曲線に従って変化し、板カム130の偏心量を「e」(
図1を参照)とすれば、
図5に示すように、第一ピストン112が上死点と下死点との間で往復運動する場合のストローク量は「2e」となる。
【0037】
次に、第二ポンプ機構120の供給期間K3及び充填期間K4を説明する。第二ポンプ機構120は、
図1に示すように、板カム130の回転方向(運動方向)にて位相差φだけ進角するように配置されている。このため、第二ポンプ機構120は、
図5にて鎖線により一部を示すように、板カム130の回転(運動)に合わせて第二ピストン122が往復運動する。これにより、第二ポンプ機構120は、供給期間K3と充填期間K4とを第二周期F2により繰り返す。尚、第二ピストン122の位置も、第一ピストン112と同様に余剰曲線に従って変化するが、
図5に示すように、第一ピストン112の場合に比べて位相差φだけ先行するようにずれる。
【0038】
ところが、第二ポンプ機構120が第一ポンプ機構110に対して流体を供給できるのは、第一ポンプ機構110が吸入期間K1にあるときに限られる。従って、第二ポンプ機構120は、以下に説明するように、板カム130の回転(運動)によって充填期間K4を経た後の供給期間K3においては、第二復帰スプリング128の付勢力により、フィードリング127aと共に第二ピストン122を大気室105に向けて移動させて流体を供給する。
【0039】
具体的に、第二ポンプ機構120においては、
図5に示すように、第二ピストン122が下死点から上死点に向けて移動を開始すると充填期間K4が開始される。この場合、第二ポンプ機構120においては、弁部127が距離Lだけ第二ピストン122に対して相対移動するフィードリング127aを備えている。従って、第二ピストン122が下死点から上死点に向けて移動することに伴って第二ピストン122に対して相対移動し、
図7に示すように、フィードリング127aは第一支持部122bに当接した状態(
図1を参照)から第二支持部122cに当接する状態になる。これにより、吸入室121aと吐出室121bとが連通し、流体が吸入室121aから吐出室121bに充填される。
【0040】
続いて、板カム130の回転及び第二復帰スプリング128の付勢力により、第二ピストン122が上死点から下死点に向けて移動を開始すると供給期間K3が開始される。この場合、第二ポンプ機構120においては、第二ピストン122が板カム130の回転(運動)によって上死点まで移動した後(
図7を参照)、第二ピストン122は、
図6に示すように、第二復帰スプリング128の付勢力によって大気室105に向けて距離Lだけ移動を開始する。
【0041】
そして、板カム130の回転(運動)により、第二ポンプ機構120が供給期間K3に移行した後、板カム130が位相差φだけ回転するまでの間は、
図5に示すように、第一ポンプ機構110は吐出期間K2にある。従って、この状況においては、第二ポンプ機構120は第二ポンプ室121における吐出室121bの流体を第一ポンプ機構110の第一ポンプ室111に向けて供給(吐出)することができない。
【0042】
このため、例えば、流体が非圧縮性流体である場合には、吐出室121bの容積が減少せず且つ流体をフィードリング127aが圧縮することができないため、その結果、第二ピストン122はフィードリング127aと共に下死点に向けて移動することができない。従って、第一ポンプ機構110が吸入期間K1に移行するまで停止した状態が維持される。尚、この場合、第二ピストン122の一端側は板カム130のカム面130aから離れた状態になっている(
図8を参照)。
【0043】
第一ポンプ機構110が吐出期間K2から吸入期間K1に移行すると、即ち、第一ピストン112が上死点から下死点に向けて移動を開始すると、第一ポンプ室111の容積が増大し始める。従って、第二ポンプ機構120は、供給期間K3と吸入期間K1とが重なるため、第一ポンプ室111の容積が増加した分だけ吐出室121bから流体を供給する。そして、吐出室121bからの流体の供給は、第一ポンプ室111の容積が最大容積になるまで継続される。この場合、第二ポンプ機構120による流体の供給は、
図8にて板カム130の回転角度が3/2π(270度)の場合を示すように、第二ピストン122の一端側と板カム130のカム面130aとの間に隙間が生じている限り、第二ピストン122がフィードリング127aと共に第二復帰スプリング128によって付勢されることにより行われる。
【0044】
一方、板カム130は回転を継続している。このため、
図5に示すように、第二ポンプ機構120を充填期間K4に移行させる板カム130の回転角度(
図5において「π」より位相差φだけ先行した回転角度)においても、カム面130aとの間に隙間が生じていれば、第二復帰スプリング128の付勢力により、第二ポンプ機構120は供給期間K3を継続する。そして、第一ポンプ機構110が吐出期間K2に移行し第一ポンプ室111への流体の供給が完了すると、第二ポンプ機構120の第二ピストン122は回転する板カム130のカム面130aに接触する。これにより、板カム130の回転(運動)に伴って第二ピストン122が上死点に向けて押動されるため、第二ポンプ機構120は供給期間K3から充填期間K4に移行する。
【0045】
ここで、第二ポンプ室121に区画される吐出室121bの容積の大きさは、第一ポンプ室111の容積の大きさよりも大きく設定される。具体的に、板カム130の偏心量が上述したように「e」であり、第一ピストン112の直径をd1とし、第二ポンプ室121の内径をd2とし、第二ピストン122の小径部(ピストンロッド)の外径をd3とする。又、上述したように、第一ピストン112の位置(ストローク量)は板カム130の偏心量e及び板カム130の回転角度θを用いて「e+e×cosθ」と表すことができる。従って、第一ポンプ室111の最大容積は、
(((d1)2×π)/4)×2e …式2
で表すことができる。
【0046】
第二ポンプ機構120は、第一ポンプ機構110の吸入期間K1に比べ、位相差φだけ先行して板カム130の回転(運動)によって供給期間K3になる。即ち、位相差φの間にストロークした第二ピストン122のストローク量は、第一ポンプ室111に供給可能な流体の容積に関連する。ここで、位相差φの間にストロークした第二ピストン122のストローク量は、板カム130の偏心量e及び位相差φを用いて「e+e×cosφ」と表すことができる。一方、第二ポンプ機構120は、第二ピストン122に対して距離Lだけ相対移動可能なフィードリング127aを備えている。そして、上述したように、位相差φが経過する間において、フィードリング127aがストロークせずに第二ピストン122のみが距離Lだけストロークする場合には、流体を第一ポンプ室111に供給しない。従って、位相差φを設けた場合における第二ポンプ機構120の吐出室121bの容積は、
((((d3)2-(d2)2)×π)/4)×(e+e×cosφ-L) …式3
で表すことができる。
【0047】
よって、吐出室121bの容積が第一ポンプ室111の容積よりも大きくなるように、前記式2及び前記式3を用いた、
(((d1)2×π)/4)×2e≦((((d3)2-(d2)2)×π)/4)×(e+e×cosφ-L) …式4
が成立するように、即ち、径D1,D2,D3が設定されると共に位相差φ及び距離Lが設定される。尚、距離Lは、板カム130の偏心量「e」及び板カム130の回転角度θを用いて、L=2e-e×cosθと表すことができる。
【0048】
以上の説明からも理解できるように、上記実施形態のポンプ100は、駆動源としての板カム130と、容積が可変の第一ポンプ室111と、板カム130のカム面130aに第一接触位置P1にて接触して第一ポンプ室111の内部にて往復運動する第一ピストン112と、第一ポンプ室111に連通する第一吸入口113及び第一吐出口114と、を有し、第一ポンプ室111の容積の増加に応じて第一吸入口113から流体を吸入し、第一ポンプ室111の容積の減少に応じて第一吐出口114から流体を吐出する第一ポンプ機構110と、容積が可変の第二ポンプ室121と、板カム130のカム面130aに第一接触位置P1とは異なる第二接触位置P2にて接触可能であり第二ポンプ室121の内部にて往復運動する第二ピストン122と、第二ポンプ室121に連通する第二吸入口123と、第二ポンプ室121に連通すると共に第一吸入口113に連通する第二吐出口124と、第二ポンプ室121の内部に配されて第二吸入口123側に吸入室121aを区画すると共に第二吐出口124側に吐出室121bを区画し、且つ、第二ピストン122と共に往復運動可能であり、吐出室121b側へ移動することによって吐出室121bの容積が減少する際には吸入室121aと吐出室121bとの連通を遮断し、吸入室121a側へ移動することによって吐出室121bの容積が増加する際には吸入室121aと吐出室121bとを連通させる弁機構としての弁部127と、を有し、吐出室121bの容積の増加に応じて吸入室121aから流体を充填し、吐出室121bの容積の減少に応じて第二吐出口124から第一吸入口113に流体を供給する第二ポンプ機構120と、を備え、第一ポンプ機構110は、第一ピストン112の往復運動に伴って、第一ポンプ室111の容積を増加させて流体を第一ポンプ室111に吸入する吸入期間K1と第一ポンプ室111の容積を減少させて第一ポンプ室111の流体を加圧して吐出する吐出期間K2とを周期的に繰り返し、第二ポンプ機構120は、第二ピストン122の往復運動に伴って、吐出室121bの容積を減少させて流体を第一ポンプ室111に供給する供給期間K3と吐出室121bの容積を増加させて吸入室121aから流体を吐出室121bに充填する充填期間K4とを周期的に繰り返し、第一ポンプ機構110及び第二ポンプ機構120は、第一ポンプ機構110が吸入期間K1の少なくとも一部が第二ポンプ機構120の供給期間K3と重なる、ように構成される。
【0049】
これによれば、第一ポンプ機構110は第一ピストン112を有し、第二ポンプ機構120は第二ピストン122を有することができる。そして、第一ピストン112は板カム130に対して第一接触位置P1にて接触し、第二ピストン122は板カム130に対して第二接触位置P2にて接触することができる。これにより、第一ピストン112及び第二ピストン122は板カム130によって個別に往復運動することができ、第一ポンプ機構110と第二ポンプ機構120とを独立して作動させることができる。
【0050】
これにより、第二ポンプ機構120において余剰の流体が生じて第二ピストン122の往復運動が妨げられても、第一ポンプ機構110の第一ピストン112の往復運動が妨げられることがない。従って、第二ポンプ室121に形成される吐出室121bの容積を上記式1の関係に拘わらず自由に設定することができ、第二ポンプ機構120は流体を第一ポンプ機構110に十分な供給量で供給することできる。又、第一ピストン112の往復運動は妨げられないため、第一ポンプ室111の最大容積を確保することができる。これにより、第一ポンプ機構110の吸入性能を向上させることができる。
【0051】
又、第二ポンプ機構120は、第一ポンプ機構110の吸入期間K1と重なるように供給期間K3を開始することができる。これにより、第一ポンプ機構110は、吸入期間K1において供給期間K3の第二ポンプ機構120から供給された流体を常に第一ポンプ室111の最大容積まで吸入することができ、吸入性能を向上させることができる。そして、最大容積まで吸入した流体を吐出することにより、第一ポンプ機構110、ひいては、ポンプ100の流体の吐出量を増加させることができる。
【0052】
又、従来のポンプのように、一つのピストンの往復運動に応じて第一ポンプ機構110と第二ポンプ機構120とが作動する場合、第二ポンプ機構120の弁機構がピストンに追従するように構成する必要があり、ピストンの軸長が長くなる場合がある。これに対して、第二ポンプ機構120は、第二ピストン122の往復運動に応じて即ち第一ピストン112の往復運動によらずに、供給期間K3と充填期間K4とを行うことができる。従って、第一ピストン112及び第二ピストン122の軸長を短くすることが可能であり、その結果、ポンプ100の小型化を実現することが可能となる。
【0053】
更に、第一ポンプ機構110の第一ピストン112は、板カム130のカム面130aに常に当接している。即ち、第一ピストン112は、カム面130aを摺動することにより、スムーズに往復運動することができる。加えて、第一ポンプ機構110の第一ピストン112は、吸入期間K1にて第一ポンプ室111の最大容積まで流体を吸入した状態から吐出期間K2にて流体を吐出する際には、速度がほぼゼロの遅い速度の状態から流体を降圧と出することが可能となる。これにより、高圧吐出による衝撃圧力が低減できる。
【0054】
又、第二ポンプ機構120の第二ピストン122は、供給期間K3において、吸入期間K1になった第一ポンプ機構110の第一ポンプ室111における容積変化に合わせて流体を供給するように、第二復帰スプリング128の付勢力により遅い速度で移動する。従って、第一ピストン112及び第二ピストン122は、板カム130のカム面130aに対して衝突することが抑制される。その結果、ポンプ100の作動時において、ポンプ作動音や異音の発生が抑制され、静粛性を向上させることができる。
【0055】
この場合、第二ポンプ機構120は、第一ポンプ機構110が吸入期間K1を開始するよりも先行して供給期間K3を開始する、ように構成される。
【0056】
これによれば、第一ポンプ機構110が吸入期間K1を開始する時点において、第二ポンプ機構120は流体を供給する供給期間K3を開始しているため、速やかに第一ポンプ室111に流体の供給を開始することができる。従って、第一ポンプ機構110は、吸入期間K1において第二ポンプ機構120から供給された流体を速やかに第一ポンプ室111の最大容積まで吸入することができ、吸入性能を向上させることができる。
【0057】
これらの場合、第二ポンプ機構120の弁部127は、第二ピストン122の外周面122aに設けられて第二ピストン122に相対移動可能、且つ、第二ピストン122の往復運動に追従可能であり、吐出室121bの容積を減少させるように第二ピストン122が移動する際には吸入室121a側へ相対移動して吸入室121aと吐出室121bとの連通を遮断し、吐出室121bの容積を増加させるように第二ピストン122が移動する際には吐出室121b側へ相対移動して吸入室121aと吐出室121bとを連通させる環状部材としてのフィードリング127aを有する。
【0058】
これによれば、フィードリング127aが第二ピストン122の往復運動に応じて第二ピストン122に対して相対移動することにより、吸入室121a及び吐出室121bの連通と遮断とを自動的に且つ確実に切り替えることができる。これにより、充填期間K4において吸入室121aから吐出室121bに流体を確実に充填することができ、供給期間K3において吐出室121bから第一ポンプ室111に流体を確実に供給することができる。
【0059】
ここで、供給期間K3においては、フィードリング127aが吸入室121aと吐出室121bとの連通を遮断するため、第二ピストン122の運動に伴って吐出室121b内の流体を確実に加圧して吐出することができる。従って、第一ポンプ機構110は、吸入期間K1において第二ポンプ機構120から十分な量の流体が速やかに供給されて第一ポンプ室111の最大容積まで吸入することができ、吸入性能を向上させることができる。
【0060】
又、これらの場合、第一ポンプ機構110は、板カム130の駆動力によって第一ポンプ室111の容積を減少させるように移動した第一ピストン112を第一ポンプ室111の容積を増加させるように移動させる付勢力を発生する第一弾性部材としての第一復帰スプリング119を有し、第二ポンプ機構120は、板カム130の駆動力によって吐出室121bの容積を増加させるように移動した第二ピストン122を吐出室121bの容積を減少させるように移動させる付勢力を発生する第二弾性部材としての第二復帰スプリング128を有する。
【0061】
これによれば、第一復帰スプリング119及び第二復帰スプリング128は、それぞれ、板カム130の駆動力によって移動した第一ピストン112及び第二ピストン122を押し戻すことができる。これにより、第一復帰スプリング119が第一ピストン112を押し戻すことにより、第一ポンプ室111の容積を増加させることができ、吸入期間K1において流体を吸入することができる。一方、第二復帰スプリング128が第二ピストン122を押し戻すことにより、吐出室121bの容積を減少させることができ、供給期間K3において流体を第一ポンプ室111に確実に供給することができる。従って、第一復帰スプリング119及び第二復帰スプリング128は、第一ポンプ機構110の吸入性能を向上させることができる。
【0062】
又、これらの場合、第二ポンプ室121に区画された吐出室121bの容積の大きさは、前記式4の関係が成立するように、第一ポンプ室111の容積よりも大きい。これによれば、第一ポンプ機構110が吸入期間K1になり、且つ、第二ポンプ機構120が供給期間K3になった場合、吐出室121bから必要十分な量の流体を第一ポンプ室111に供給することができる。従って、第一ポンプ機構110の吸入性能を確実に向上させることができる。
【0063】
更に、これらの場合、板カム130の運動である回転に伴い、第一ポンプ機構110が吸入期間K1と吐出期間K2とを繰り返す第一周期F1と、第二ポンプ機構120が供給期間K3と充填期間K4とを繰り返す第二周期F2と、は、吸入期間K1と供給期間K3とが少なくとも一部で重なるように所定の位相である位相差φだけ異なる。
【0064】
これによれば、吸入期間K1と供給期間K3とが少なくとも一部で重なるように位相差φを設定することができる。これにより、板カム130に対する第一ポンプ機構110及び第二ポンプ機構120の配置に関して自由度が高まると共に、ポンプ100の小型化を達成することができる。
【0065】
この場合、位相差φは、供給期間K3が吸入期間K1になるよりも先行して開始されるように設定される。
【0066】
これによれば、第一ポンプ機構110が吸入期間K1を開始する時点において、第二ポンプ機構120は先行する時点において流体を供給する供給期間K3を開始しているため、速やかに第一ポンプ室111に流体の供給を開始することができる。従って、第一ポンプ機構110は、吸入期間K1において第二ポンプ機構120から供給された流体を速やかに第一ポンプ室111の最大容積まで吸入することができ、吸入性能を向上させることができる。
【0067】
ここで、上述したポンプ100は、車両のブレーキ装置1に適用することが可能である。以下、ポンプ100の適用が可能な車両のブレーキ装置1を簡単に説明しておく。
【0068】
車両のブレーキ装置1は、
図9に示すように、マスタシリンダ2、ブレーキブースタ3、ホイールシリンダ4、ブレーキアクチュエータ5及びリザーバタンク6を備えている。マスタシリンダ2は、シリンダ本体21と、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23と、を含んで構成されている。ブレーキブースタ3は、例えば、負圧式の倍力装置であり、運転者による踏力を倍力して第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23に伝達する。リザーバタンク6は、シリンダ本体21に対して、シール部材(例えば、Oリング等)により、液密に組み付けられている。
【0069】
ホイールシリンダ4は、各輪に設けられたホイールシリンダ41、ホイールシリンダ42、ホイールシリンダ43及びホイールシリンダ44から構成される。各ホイールシリンダ41~44は、ポンプ100を備えたブレーキアクチュエータ5(以下、単に「アクチュエータ5」と称呼する。)を介して、マスタシリンダ2に接続されている。ホイールシリンダ41は、車両の左後輪RLに配置されている。ホイールシリンダ42は、車両の右後輪RRに配置されている。ホイールシリンダ43は、車両の左前輪FLに配置されている。ホイールシリンダ44は、車両の右前輪FRに配置されている。これにより、ホイールシリンダ4は、流体としてのブレーキフルードがマスタシリンダ2又はポンプ100によって加圧されてアクチュエータ5を介して供給されると、左後輪RL、右後輪RR、左前輪FL及び右前輪FRに制動力を発生させる。
【0070】
アクチュエータ5は、詳細な図示を省略するが、各ホイールシリンダ41~44に対応して設けられた管路、電磁弁及び逆止弁等を有している。これにより、アクチュエータ5は、図示を省略する制御装置(マイクロコンピュータ)によって電磁弁が連通状態又は遮断状態に切替制御されると、マスタシリンダ2によって加圧されたブレーキフルードを各ホイールシリンダ41~44に供給したり、内蔵するポンプ100によって加圧されたブレーキフルードを調圧して各ホイールシリンダ41~44に供給したりする。尚、アクチュエータ5の作動については、本発明に直接関係しないので、その詳細な説明を省略する。
【0071】
車両のブレーキ装置1においては、運転者がブレーキペダル7を踏み込むと、マスタシリンダ2に気密的に連結されたブレーキブースタ3により踏力が倍力され、シリンダ本体21内の第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23が押圧される。押圧された第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23は、例えば、車両前後方向(軸方向)にて前方に向けて前進し、それぞれ、マスタシリンダ2(より詳しくはシリンダ本体21)の内部にリザーバタンク6から供給されたブレーキフルードを加圧する。これにより、マスタシリンダ2においては、マスタシリンダ圧が発生し、マスタシリンダ圧がアクチュエータ5を介して各ホイールシリンダ41~44に供給(伝達)される。
【0072】
又、車両のブレーキ装置1においては、例えば、自動ブレーキ機能の制動時や、走行中又は制動時の車両の挙動を修正するために、アクチュエータ5に内蔵したポンプ100を作動させる。この場合、ポンプ100は、例えば、自動ブレーキ機能の作動時において、第二ポンプ機構120が充填期間で吸入ポート102を介してリザーバタンク6に貯留されているブレーキフルードを吐出室121bに充填すると共に供給期間で連通路104を介して吐出室121bのブレーキフルードを第一ポンプ機構110に供給する。そして、ポンプ100は、第一ポンプ機構110が供給されたブレーキフルードを加圧してポンプ圧を発生させる。これにより、ポンプ圧は、アクチュエータ5によって調圧されて、各ホイールシリンダ41~44に供給(伝達)される。
【0073】
(3.第一変形例)
上記実施形態においては、ポンプ100は、
図1に示すように、板カム130の回転方向にて第二ポンプ機構120が第一ポンプ機構110に対して位相差φを有するように配置して構成した。これに代えて、
図10に概略的に示すように、第二ピストン122を中空状に形成しておき、中空状の第二ピストン122を第一ピストン112の外周側に配置し、板カム130のカム面130aに当接させるように構成することも可能である。このように構成する場合においても、第一ピストン112及び第二ピストン122は、それぞれ、板カム130のカム面130aに対して第一接触位置P1及び第二接触位置P2で接触することができるため、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0074】
(4.第二変形例)
上記実施形態においては、一つの板カム130のカム面130aに対して、第一ポンプ機構110の第一ピストン112が第一接触位置P1にて当接し、第二ポンプ機構120の第二ピストン122が第一接触位置P1とは異なる第二接触位置P2にて接触するようにした。これに代えて、
図11に示すように、板カム130を同軸に配置された第一板カム部材131及び第二板カム部材132から構成し、第一ピストン112が第一板カム部材131のカム面131aに当接し、第二ピストン122が第二板カム部材132のカム面132aに当接するように構成することも可能である。
【0075】
この場合、第一板カム部材131の長径偏心方向と第二板カム部材132の長径偏心方向は、
図11に示すように、互いに周方向にて異なるように、例えば、位相差φを有するように同軸に配置される。これにより、第二変形例においても、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0076】
(5.第三変形例)
上記実施形態及び上記各変形例においては、第二ポンプ機構120の第二ピストン122は、供給期間において板カム130のカム面130aから一時的に離れる場合がある。このため、
図12に示すように、第二ピストン122に代えて、第二ポンプ機構120が第二ピストン129を有するように構成することも可能である。
【0077】
第二ピストン129は、ピストン本体129aと、軸部129bと、板部材129cと、スプリング129dとを備えている。ピストン本体129aは、上記実施形態の外周面122aに相当する外周面129a1と、第一支持部122bに相当する突部129a2と、第二支持部122cに相当するスリット部129a3と、を備えている。軸部129bは、一端側にて板部材129cと当接すると共に他端部にて板カム130のカム面130aに当接するようになっている。板部材129cは、ピストン本体129aに収容されており、スプリング129dの付勢力により、軸部129bと共に板カム130のカム面130aに向けて付勢されている。
【0078】
このように構成された第二ポンプ機構120においては、第二ピストン129の軸部129bがスプリング129dの付勢力により常に板カム130のカム面130aに当接した状態が維持される。従って、供給期間K3において、上述したような板カム130のカム面130aとの隙間が生じにくくなる。これにより、例えば、板カム130の回転(運動)に伴って、第二ピストン129の軸部129bとカム面130aとが繰り返し当接することが抑制され、その結果、ポンプ100の作動時における静粛性をより向上させることができる。その他の効果については、上記実施形態及び上記各変形例と同様である。
【0079】
本発明の実施にあたっては、上記実施形態及び上記各変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変形が可能である。
【0080】
例えば、上記実施形態及び上記各変形例においては、第二ポンプ機構120の弁部127が第二ピストン122に対して相対移動可能であり、且つ、第二ピストン122に追従する環状部材としてのフィードリング127aを設けるようにした。これに代えて、フィードリング127aが第二ピストン122に対して相対移動不能であり、即ち、距離Lが生じず、且つ、第二ピストン122に追従するように構成することも可能である。この場合、フィードリング127aは、吐出室121b側が開放端となるように配置されたカップシールが用いられる。
【0081】
これによれば、充填期間K4においては、例えば、フィードリング127aの外周縁と第二ポンプ室121の内周面との間を介して流体が吸入室121aから吐出室121bに流れて、即ち、吸入室121aと吐出室121bとが連通して、吐出室121bに流体が充填される。一方、供給期間K3においては、流体の圧縮に起因して吐出室121bの圧力が上昇し、フィードリング127aの外周縁が第二ポンプ室121の内周面に対して接触して、即ち、吸入室121aと吐出室121bとの連通が遮断されて、吐出室121bの流体が第一ポンプ室111に供給される。
【0082】
尚、この場合には、距離Lが生じないため、位相差φにおいて、第一ポンプ機構110が吐出期間K2であり、且つ、第二ポンプ機構120が供給期間K3にある場合には、第二ピストン122は停止したままとなる。その後、第一ポンプ機構110が吸入期間K1になれば、第一ポンプ室111の容積に応じて吐出室121bから流体が供給されるようになる。
【0083】
又、上記実施形態及び上記各変形例においては、第一ポンプ機構110と第二ポンプ機構120とが板カム130に対して90度以下となる角度φ、換言すれば、位相差φを有する場合を例示した。これに代えて、例えば、
図13に示すように、第一ポンプ機構110と第二ポンプ機構120とが板カム130に対して180度となるように配置することも可能である。このように第一ポンプ機構110と第二ポンプ機構120とを配置した場合においては、第二ポンプ機構120の供給性能及び第一ポンプ機構110の吸入性能を向上させるため、
図13に示すように、第二ポンプ機構120の構成を変更する。
【0084】
具体的に、駆動源が板カム130である場合には、上記実施形態等の第二ポンプ機構120の構成に代えて、第二復帰スプリング側に吐出室121bを形成すると共に第二ピストン122側に吸入室121aを区画するようにする。これに伴い、第一支持部122b及び第二支持部122cの配置が変更されると共に、第二吸入口123及び第二吐出口124の配置が変更される。これにより、板カム130の回転(運動)に伴い、第一ポンプ機構110の第一ピストン112が下死点に位置していて吸入期間K1である場合に、第二ポンプ機構120の第二ピストン122が板カム130によって上死点まで移動する供給期間K3となる。従って、この配置においても、上記実施形態及び上記各変形例と同等の効果が得られる。
【0085】
又、上記実施形態及び上記各変形例においては、例示的に、ポンプ100が第一ポンプ機構110と第二ポンプ機構120とからなる対が一つの場合について説明するようにした。しかしながら、ポンプ100は、対を一つに限定するものではなく、複数の対を有する多気筒のポンプであっても良いことは言うまでもない。このように、ポンプ100を多気筒化した場合には、上述したように、それぞれの第一ピストン112及び第二ピストン122と板カム130との当接に起因する異音の発生が防止されるため、より静粛化を図ることができる。
【0086】
又、上記実施形態及び上記各変形例においては、駆動源であるカムとして板カム130を用いるようにした。これに代えて、第一ポンプ機構110が吸入期間K1であるときに第二ポンプ機構120が供給期間K3となるように、第一ピストン112及び第二ピストン122を駆動できるものであれば、如何なる形状のカムを用いても良い。この場合においても、上記実施形態及び上記各変形例と同様の効果が得られる。
【0087】
更に、上記実施形態及び上記各変形例においては、駆動源として回転するカムである板カム130を用いるようにした。これに代えて、第一ポンプ機構110の第一ピストン112及び第二ポンプ機構120の第二ピストン122をそれぞれ独立して往復運動させることができるものであれば、如何なる駆動源を用いても良い。板カム130(カム)以外の駆動源としては、例えば、直動機器であるソレノイド等やクランク機構を用いた駆動等を挙げることができ、これらの駆動源を用いて第一ピストン112及び第二ピストン122を往復運動させるように構成することも可能である。
【符号の説明】
【0088】
1…ブレーキ装置、2…マスタシリンダ、21…シリンダ本体、22…第一マスタピストン、23…第二マスタピストン、3…ブレーキブースタ、4…ホイールシリンダ、41~44…ホイールシリンダ、5…ブレーキアクチュエータ、6…リザーバタンク、7…ブレーキペダル、100…ポンプ、101…ハウジング、102…吸入ポート、103…吐出ポート、104…連通路、105…大気室、110…第一ポンプ機構、111…第一ポンプ室、112…第一ピストン、113…第一吸入口、114…第一吐出口、115…シリンダ部材、116…シール部材、117…吸入弁、118…吐出弁、119…第一復帰スプリング(第一弾性部材)、120…第二ポンプ機構、121…第二ポンプ室、121a…吸入室、121b…吐出室、122…第二ピストン、122a…外周面、122b…第一支持部、122c…第二支持部、123…第二吸入口、124…第二吐出口、125…シリンダ部材、126…シール部材、127…弁部(弁機構)、127a…フィードリング(環状部材)、128…第二復帰スプリング(第二弾性部材)、129…第二ピストン、129a…ピストン本体、129a1…外周面、129a2…突部、129a3…スリット部、129b…軸部、129c…板部材、129d…スプリング、130…板カム(駆動源(カム))、130a…カム面、131…第一板カム部材、131a…カム面、132…第二板カム部材、132a…カム面、d1…内径、d2…内径、d3…外径、e…偏心量、F1…第一周期、F2…第二周期、K1…吸入期間、K2…吐出期間、K3…供給期間、K4…充填期間、L…距離、P1…第一接触位置、P2…第二接触位置、θ…回転角度、φ…位相差(所定の位相)、φ…角度、FL…左前輪、FR…右前輪、RL…左後輪、RR…右後輪