(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】熱マネジメントシステム
(51)【国際特許分類】
H01M 10/656 20140101AFI20221129BHJP
H01M 8/04029 20160101ALI20221129BHJP
H01M 8/0267 20160101ALI20221129BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20221129BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20221129BHJP
F28F 21/08 20060101ALI20221129BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20221129BHJP
【FI】
H01M10/656
H01M8/04029
H01M8/0267
H01M10/613
H01M10/625
F28F21/08 A
B60L3/00 H
(21)【出願番号】P 2019017184
(22)【出願日】2019-02-01
【審査請求日】2021-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 沙織
(72)【発明者】
【氏名】布施 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】浅野 康志
(72)【発明者】
【氏名】石原 康生
(72)【発明者】
【氏名】梶川 俊二
(72)【発明者】
【氏名】宮地 治彦
【審査官】清水 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-527726(JP,A)
【文献】特表2014-533308(JP,A)
【文献】特許第3732181(JP,B2)
【文献】特開昭59-081376(JP,A)
【文献】特開平01-172485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42 - 10/667
B60K 11/00 - 15/10
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
C09K 5/00 - 5/20
F28F 21/00 - 27/02
H01M 8/00 - 8/0297
H01M 8/08 - 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放充電または電力変換に伴って発熱する発熱体(12)の熱を管理する熱マネジメントシステムであって、
前記発熱体から受けた熱を輸送する液状の熱輸送媒体(14)と、
前記熱輸送媒体が流れる回路(20)とを備え、
前記回路は、前記熱輸送媒体と熱交換媒体との熱交換により、前記熱交換媒体へ前記熱輸送媒体の熱を放出する熱交換器(22)を有し、
前記熱輸送媒体は、液状の基材と、下記の式
(I)または式(II)で示されるSi化合物とを含む、熱マネジメントシステム。
【化1】
(式(I)
中、R
1~R
3
は、式中のSiと直接結合する酸素を含まない基を表す。
R
1
~R
3
の少なくとも2つは、互いに分子量が異なり、酸素を含まない基である。Zは、式中のSiと直接結合する酸素を含む基を表す。)
【化2】
(式(II)
中、R
1、R
2
は、式中のSiと直接結合する酸素を含まない基を表す。
R
1
、R
2
は、互いに分子量が異なり、酸素を含まない基である。Z
1、Z
2は、互いに同じまたは異なり、式中のSiと直接結合する酸素を含む基を表す。)
【請求項2】
放充電または電力変換に伴って発熱する発熱体(12)の熱を管理する熱マネジメントシステムであって、
前記発熱体から受けた熱を輸送する液状の熱輸送媒体(14)と、
前記熱輸送媒体が流れる回路(20)とを備え、
前記回路は、前記熱輸送媒体と熱交換媒体との熱交換により、前記熱交換媒体へ前記熱輸送媒体の熱を放出する熱交換器(22)を有し、
前記熱輸送媒体は、液状の基材と、下記の式(I)、式(II)または式(III)で示されるSi化合物とを含む、熱マネジメントシステム。
【化1】
(式(I)
中、R
1~R
3は、互いに同じまたは異なり、式中のSiと直接結合する酸素を含まない基を表す
。R
1
~R
3
の少なくとも1つは、酸素を含まず、ハロゲンまたは擬ハロゲンを含む基である。Zは、式中のSiと直接結合する酸素を含む基を表す。)
【化2】
(式(II)
中、R
1、R
2は、互いに同じまたは異なり、式中のSiと直接結合する酸素を含まない基を表
す。R
1
、R
2
の少なくとも一方は、酸素を含まず、ハロゲンまたは擬ハロゲンを含む基である。Z
1、Z
2は、互いに同じまたは異なり、式中のSiと直接結合する酸素を含む基を表す。)
【化3】
(式(III)
中、Rは、酸素を含ま
ず、ハロゲンまたは擬ハロゲンを含む、非水溶性の基を表す
。Z
1、Z
2、Z
3は、互いに同じまたは異なり、式中のSiと直接結合する酸素を含む基を表す。)
【請求項3】
前記熱輸送媒体は、オルトケイ酸エステルをさらに含む、請求項
1または2に記載の熱マネジメントシステム。
【請求項4】
前記熱輸送媒体に対する前記オルトケイ酸エステルの質量割合は、前記熱輸送媒体に対する前記Si化合物の質量割合よりも高い、請求項
3に記載の熱マネジメントシステム。
【請求項5】
前記基材は、水を含み、
前記熱交換器のうち前記熱輸送媒体と接触する部分は、アルミニウムを含む部材で構成されている、請求項1ないし
4のいずれか1つに記載の熱マネジメントシステム。
【請求項6】
前記熱交換媒体は、空気、オイルまたは冷凍サイクルの冷媒である、請求項1ないし
5のいずれか1つに記載の熱マネジメントシステム。
【請求項7】
前記熱マネジメントシステムは、車両に搭載され、
前記発熱体は、車両走行用の電池、車両に搭載された燃料電池、車両に搭載されたインバータまたは車両に搭載されたモータジェネレータである、請求項1ないし
6のいずれか1つに記載の熱マネジメントシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱マネジメントシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、燃料電池駆動装置用の冷却液が記載されている。この冷却液は、水と、オルトケイ酸エステルとを含む。オルトケイ酸エステルは、イオン性腐食防止剤(すなわち、イオン性防錆剤)の代わりに用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、充放電または電力変換に伴って発熱する発熱体の熱を管理する熱マネジメントシステムにおいて、オルトケイ酸エステルを含む熱輸送媒体を用いることを検討した。このシステムは、発熱体から受けた熱を輸送する液状の熱輸送媒体と、この熱輸送媒体が流れる回路とを備える。この回路は、熱交換媒体との熱交換によって熱輸送媒体を放熱させる熱交換器等を有する。熱輸送媒体は、液状の基材と、オルトケイ酸エステルとを含む。液状の基材としては、水や有機溶剤等が挙げられる。
【0005】
この熱輸送媒体によれば、イオン性防錆剤が含まれる従来の熱輸送媒体と比較して、イオン性防錆剤の含有量を減らすことができる。または、熱輸送媒体にイオン性防錆剤が含まれないようにすることができる。このため、イオン性防錆剤が含まれる従来の熱輸送媒体と比較して、熱輸送媒体の導電率を低くすることができる。
【0006】
さらに、この熱輸送媒体では、オルトケイ酸エステルを前駆体としたSiを含む化合物が、流路形成部の表面に結合する。流路形成部は、熱輸送媒体が流れる流路を形成する部分である。流路形成部としては、例えば、熱交換器のうち熱輸送媒体が流れる部分が挙げられる。この化合物が流路形成部の表面を覆うことで、流路形成部の表面が熱輸送媒体に触れることによる流路形成部の劣化を抑制することができる。
【0007】
しかしながら、流路形成部の表面に、この化合物で覆われない部分が生じる。この化合物で覆われない部分は、熱輸送媒体に触れることによって劣化が生じる。このため、オルトケイ酸エステルを含む熱輸送媒体を用いた場合、流路形成部の劣化の抑制が十分ではないことが本発明者によって見出された。なお、この劣化は、流路形成部が金属、合成樹脂、合成ゴム等のいずれの材料で構成されていても生じる。
【0008】
本発明は上記点に鑑みて、オルトケイ酸エステルを含む熱輸送媒体を用いる場合よりも、流路形成部の劣化を抑制することができる熱マネジメントシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明によれば、
放充電または電力変換に伴って発熱する発熱体(12)の熱を管理する熱マネジメントシステムは、
発熱体から受けた熱を輸送する液状の熱輸送媒体(14)と、
熱輸送媒体が流れる回路(20)とを備え、
回路は、熱輸送媒体と熱交換媒体との熱交換により、熱交換媒体へ熱輸送媒体の熱を放出する熱交換器(22)を有し、
熱輸送媒体は、液状の基材と、下記の式(I)または式(II)で示されるSi化合物とを含む。
【0010】
【0011】
(式(I)中、R
1~R3
は、式中のSiと直接結合する酸素を含まない基を表す。R
1
~R
3
の少なくとも2つは、互いに分子量が異なり、酸素を含まない基である。Zは、式中のSiと直接結合する酸素を含む基を表す。)
【0012】
【0013】
(式(II)中、R
1、R2は、互いに異なり、式中のSiと直接結合する酸素を含まない基を表す。R
1
、R
2
は、互いに分子量が異なり、酸素を含まない基である。Z
1、Z2は、互いに同じまたは異なり、式中のSiと直接結合する酸素を含む基を表す。)
また、請求項2に記載の発明によれば、
放充電または電力変換に伴って発熱する発熱体(12)の熱を管理する熱マネジメントシステムは、
発熱体から受けた熱を輸送する液状の熱輸送媒体(14)と、
熱輸送媒体が流れる回路(20)とを備え、
回路は、熱輸送媒体と熱交換媒体との熱交換により、熱交換媒体へ熱輸送媒体の熱を放出する熱交換器(22)を有し、
前記熱輸送媒体は、液状の基材と、上記の式(I)、式(II)または下記の式(III)で示されるSi化合物とを含む。
【0014】
【0015】
(式(I)中、R
1
~R
3
は、互いに同じまたは異なり、式中のSiと直接結合する酸素を含まない基を表す。R
1
~R
3
の少なくとも1つは、酸素を含まず、ハロゲンまたは擬ハロゲンを含む基である。Zは、式中のSiと直接結合する酸素を含む基を表す。
式(II)中、R
1
、R
2
は、互いに同じまたは異なり、式中のSiと直接結合する酸素を含まない基を表す。R
1
、R
2
の少なくとも一方は、酸素を含まず、ハロゲンまたは擬ハロゲンを含む基である。Z
1
、Z
2
は、互いに同じまたは異なり、式中のSiと直接結合する酸素を含む基を表す。
式(III)中、Rは、酸素を含まず、ハロゲンまたは擬ハロゲンを含む、非水溶性の基を表す。Z
1、Z2、Z3は、互いに同じまたは異なり、式中のSiと直接結合する酸素を含む基を表す。)
【0016】
この熱輸送媒体によれば、イオン性防錆剤が含まれる従来の熱輸送媒体と比較して、イオン性防錆剤の含有量を減らすことができる。または、熱輸送媒体にイオン性防錆剤が含まれないようにすることができる。このため、イオン性防錆剤が含まれる従来の熱輸送媒体と比較して、熱輸送媒体の導電率を低くすることができる。
【0017】
ところで、オルトケイ酸エステルの分子は、Si原子に4つの酸素原子が直接結合している。これらの酸素原子に、別の原子または基が結合している。オルトケイ酸エステルの分子は、この酸素原子の部分で、Siを含む部分とそれ以外の部分とに分解される。分解後のSiを含む部分に、他のものが新たに結合する。すなわち、この酸素原子の部分で、加水分解、縮合重合等の反応が生じる。
【0018】
このため、式(I)、式(II)または式(III)で示されるSi化合物を含まず、オルトケイ酸エステルを含む熱輸送媒体を用いた場合では、オルトケイ酸エステルの分子中の4つの酸素原子のうち1つの酸素原子の部分で、Siを含む部分とそれ以外の部分とに分解される。分解後のSiを含む部分は、流路形成部の表面に結合する。このSiを含む部分が、オルトケイ酸エステルを前駆体としたSiを含む化合物である。
【0019】
流路形成部の表面に結合した化合物に、熱輸送媒体中の別のオルトケイ酸エステルを前駆体とした化合物が新たに結合する。このため、流路形成部の表面には、オルトケイ酸エステルを前駆体とした化合物で覆われない部分が生じる。
【0020】
これに対して、本発明によれば、熱輸送媒体は、液状の基材と、式(I)、式(II)または式(III)で示されるSi化合物とを含む。このSi化合物の分子は、3つ以下の酸素元素がSi原子に直接結合している。このため、このSi化合物の分子も、酸素原子の部分で分解し、分解後のSiを含む部分が流路形成部の表面に結合する。すなわち、熱輸送媒体中のSi化合物を前駆体とする化合物が流路形成部の表面に結合する。
【0021】
そして、このSi化合物の分子は、オルトケイ酸エステルと比較して、Si原子に直接結合する酸素原子の数が少なく、分解と結合の化学反応が生じる部分が少ない。このため、オルトケイ酸エステルと比較して、熱輸送媒体中のSi化合物を前駆体とする化合物が、流路形成部の表面に結合している化合物に結合せず、流路形成部の表面に結合することを増やすことができる。換言すると、熱輸送媒体中に存在する分子の数を同じとして比較した場合、オルトケイ酸エステルよりも、流路形成部の表面に結合する化合物の数を多くできる。
【0022】
よって、式(I)、式(II)または式(III)で示されるSi化合物を含まず、オルトケイ酸エステルを含む熱輸送媒体を用いる場合よりも、熱輸送媒体中のSi化合物を前駆体とする化合物で覆われない部分を少なくすることができる。したがって、この場合よりも、流路形成部の劣化を抑制することができる。
【0023】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1実施形態におけるシステムの構成を示す模式図である。
【
図2】比較例における流路形成部の断面を示す模式図である。
【
図3】第1実施形態における流路形成部の断面を示す模式図である。
【
図4】第2実施形態の熱輸送媒体と比較例の熱輸送媒体とのそれぞれについて、本発明者が行った被膜の均一性の分析結果と腐食性の評価結果とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0026】
(第1実施形態)
図1に示す熱マネジメントシステム10は、電動車両に搭載される。以下では、熱マネジメントシステム10は、単に、システム10と呼ばれる。電動車両は、走行用電動モータから車両走行用の駆動力を得る。電動車両としては、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、燃料電池自動車、電動2輪等が挙げられる。電動車両の車輪数や車両用途は限定されない。電動車両には、走行用電動モータ、電池、インバータが搭載されている。燃料電池自動車では、車両に燃料電池が搭載されている。
【0027】
走行用電動モータは、電池から供給された電力を車両走行用の駆動力に変換するとともに、減速時に車両の動力を電力に変換するモータジェネレータである。走行用電動モータは、動力と電力との変換に伴い発熱する。
【0028】
電池は、走行用電動モータに電力を供給する車両走行用の電池である。電池は、車両減速時に走行用電動モータからの電力を充電する。電池は、車両停車時に外部電源(すなわち、商用電源)から供給される電力の充電が可能である。電池は、充放電に伴い発熱する。
【0029】
インバータは、電池から走行用電動モータへ供給される電力を直流から交流へ変換する電力変換装置である。また、インバータは、走行用電動モータから電池へ充電される電力を交流から直流へ変換する。インバータは、電力の変換に伴い発熱する。
【0030】
燃料電池は、電気化学反応によって燃料の化学エネルギを電力に変換する。燃料電池は、燃料から電力への変換に伴って発熱する。
【0031】
図1に示すように、システム10は、発熱体12の熱を管理する。システム10は、発熱体12と、熱輸送媒体14と、回路20とを備える。発熱体12は、充放電または電力変換に伴って発熱する。発熱体12は、上記した電池、燃料電池、インバータまたはモータジェネレータである。熱輸送媒体14は、液状であり、発熱体12から受けた熱を輸送する。熱輸送媒体14の詳細については、後述する。回路20には、熱輸送媒体14が流れる。回路20は、受熱部21と、熱交換器22と、ポンプ24と、ホース25とを有する。
【0032】
受熱部21は、発熱体12から熱輸送媒体14に受熱させる。受熱部21は、発熱体12に隣接して流れる流路によって構成される。受熱部21を構成する部材を介して、発熱体12から熱輸送媒体14へ熱が移動する。
【0033】
熱交換器22は、熱輸送媒体14と熱交換媒体との熱交換により、熱交換媒体へ熱輸送媒体14の熱を放出する。熱交換媒体は、空気、オイルまたは冷凍サイクルの冷媒である。熱交換器22のうち熱輸送媒体14と接触する部分は、アルミニウムを含む部材で構成されている。
【0034】
ホース25は、回路20を構成する回路構成部品である受熱部21および熱交換器22を互いにつなぐとともに、熱輸送媒体14が流れる流路を形成する流路形成部である。ホース25は、合成ゴムで構成された部分を含む。ホース25に替えて、金属製または合成樹脂製の配管が用いられてもよい。
【0035】
ポンプ24の作動によって熱輸送媒体14が回路20を循環する。受熱部21で、熱輸送媒体14は発熱体の熱を受ける。熱交換器22で、熱輸送媒体14の熱が回路20の外部へ放出される。これにより、発熱体12が冷却される。
【0036】
次に、熱輸送媒体14の詳細について説明する。熱輸送媒体14は、液状の基材と、Si化合物とを含み、イオン性防錆剤を含まない。本実施形態の熱輸送媒体14は、オルトケイ酸エステルを含まない。
【0037】
基材は、熱輸送媒体14のベースとなる材料である。液状の基材とは、使用状態で液体の状態であることを意味する。基材としては、凝固点降下剤が添加された水が用いられる。水が用いられるのは、水は熱容量が大きく、安価であり、粘性が低いからである。凝固点降下剤が水に添加されるのは、環境温度が氷点下であっても液体の状態を確保するためである。凝固点降下剤は、水に溶解し、水の凝固点を降下させる。凝固点降下剤としては、有機アルコール、例えば、アルキレングリコールまたはその誘導体が用いられる。アルキレングリコールとしては、例えば、モノエチレングリコール、モノプロピレングリコール、ポリグリコール、グリコールエーテル、グリセリンが単独または混合物として用いられる。凝固点降下剤としては、有機アルコールに限らず、無機塩等が用いられてもよい。
【0038】
Si化合物は、式(I)、式(II)または式(III)で示される。
【0039】
【0040】
式(I)中のR1~R3は、互いに同じまたは異なり、式中のSiと直接結合する酸素を含まない基を表す。式(I)中のZは、式中のSiと直接結合する酸素を含む基を表す。式中のSiと直接結合する酸素を含まない基は、水溶性と非水溶性のどちらであってもよい。式中のSiと直接結合する酸素を含まない基は、酸素を含まない基または式中のSiと直接結合していない酸素を含む基である。
【0041】
酸素を含まない基としては、非置換または一部が置換された炭化水素基等が挙げられる。炭化水素基は、飽和または不飽和、環状、側鎖、直鎖、いずれか、もしくはそれらの組み合わせでも良い。炭化水素基としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数6~12のアリール基等が挙げられる。
【0042】
炭化水素基の一部が置換されたものとしては、炭化水素基の一部の水素がハロゲンまたは擬ハロゲンに置換されたものが挙げられる。ハロゲンとしては、塩素、フッ素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。擬ハロゲンは、ハロゲン原子に類似した性質を持つ原子団である。擬ハロゲンとしては、チオシアネート、CN等が挙げられる。炭化水素基の一部が置換されたものとしては、例えば、CF3(CF2)m(CH2)nが挙げられる。m、nは、整数を表す。
【0043】
式中のSiと直接結合していない酸素を含む基としては、アルデヒド基、カルボニル基、カルボキシル基、ニトロ基、スルホ基、エステル結合を含む基、エーテル結合を含む基等が挙げられる。
【0044】
Zは、O-R4で表される基である。R4は、水素または炭化水素基等である。この炭化水素基には、非置換のものだけでなく、一部が置換されたものが含まれる。炭化水素基としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数6~12のアリール基等が挙げられる。R4は、酸素を含む基であってもよい。
【0045】
【0046】
式(II)中のR1、R2は、互いに同じまたは異なり、式中のSiと直接結合する酸素を含まない基を表す。式(II)中のZ1、Z2は、互いに同じまたは異なり、式中のSiと直接結合する酸素を含む基を表す。式中のSiと直接結合する酸素を含まない基の説明は、式(I)での説明と同じである。
【0047】
Z1は、O-R4で表される基である。Z2は、O-R5で表される基である。R4、R5は、同じであっても異なっていてもよい。R4、R5は、水素または炭化水素基等である。この炭化水素基には、非置換のものだけでなく、一部が置換されたものが含まれる。炭化水素基としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数6~12のアリール基等が挙げられる。R4、R5は、酸素を含む基であってもよい。
【0048】
【0049】
式(III)中のRは、式中のSiと直接結合する酸素を含まない非水溶性の基を表す。式(III)中のZ1、Z2、Z3は、互いに同じまたは異なり、式中のSiと直接結合する酸素を含む基を表す。
【0050】
非水溶性の基とは、極性が無い基であり、水分子と水和しない基のことである。式中のSiと直接結合する酸素を含まない基は、酸素を含まない基または式中のSiと直接結合していない酸素を含む基である。式中のSiと直接結合していない酸素を含む基の説明は、基式(I)での説明と同じである。
【0051】
式中のSiと直接結合する酸素を含まない非水溶性の基としては、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基など)、不飽和炭化水素基(例えば、ビニル基、アリル基、メチレン基など)、環状炭化水素基(例えば、シクロヘキシル基、フェニル基など)が挙げられる。これらの基には、非置換のものだけでなく、一部が置換されたものが含まれる。
【0052】
一部が置換されたものとしては、一部の水素がハロゲンまたは擬ハロゲンに置換されたものが挙げられる。ハロゲンとしては、塩素、フッ素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。擬ハロゲンは、ハロゲン原子に類似した性質を持つ原子団である。擬ハロゲンとしては、チオシアネート、CN等が挙げられる。一部が置換されたものとしては、例えば、CF3(CF2)m(CH2)nが挙げられる。m、nは、整数を表す。
【0053】
Z1は、O-R4で表される基である。Z2は、O-R5で表される基である。Z3は、O-R6で表される基である。R4、R5、R6は、同じであっても異なっていてもよい。R4、R5、R6は、水素または炭化水素基等である。この炭化水素基には、非置換のものだけでなく、一部が置換されたものが含まれる。炭化水素基としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数6~12のアリール基等が挙げられる。R4、R5、R6は、酸素を含む基であってもよい。
【0054】
式(I)、式(II)または式(III)で示されるSi化合物は、例えば、オルトケイ酸エステルを経由して製造される。
【0055】
式(I)、式(II)および式(III)で示されるSi化合物のいずれか1つのみが、熱輸送媒体14に含まれる場合に限られない。式(I)、式(II)および式(III)で示されるSi化合物の2つ以上が、熱輸送媒体14に含まれていてもよい。
【0056】
式(I)、式(II)および式(III)で示されるSi化合物は、熱輸送媒体14に防錆の機能を持たせるための化合物である。このSi化合物が熱輸送媒体14に含まれることで、熱輸送媒体14は防錆の機能を有する。このため、熱輸送媒体14にイオン性防錆剤が含まれなくてもよい。
【0057】
熱輸送媒体14にイオン性防錆剤が含まれない。このため、熱輸送媒体14にイオン系防錆剤が含まれる場合と比較して、熱輸送媒体14の導電率を低くすることができる。具体的には、熱輸送媒体14の導電率を、50μS/cm以下、好ましくは、1μS/cm以上5μS/cm以下にすることができる。
【0058】
なお、熱輸送媒体14には、防錆剤としてのアゾール誘導体が含まれていてもよい。
【0059】
ここで、式(I)、式(II)または式(III)で示されるSi化合物が含まれず、オルトケイ酸エステルが含まれる熱輸送媒体を用いた場合、
図2に示すように、オルトケイ酸エステルを前駆体としたSiを含む化合物32が、流路形成部30の表面に結合する。流路形成部30は、熱輸送媒体が流れる流路を形成する部分である。流路形成部30としては、例えば、熱交換器22のうち熱輸送媒体の流路を形成する部分、ポンプ24のうち熱輸送媒体の流路を形成する部分、ホース25等が挙げられる。この化合物32が流路形成部30の表面を覆うことで、流路形成部30の表面が熱輸送媒体に触れることによる流路形成部30の劣化を抑制することができる。
【0060】
しかしながら、流路形成部30の表面に、この化合物32で覆われない部分が生じる。この化合物32で覆われない部分は、熱輸送媒体に触れることによって劣化が生じる。このため、オルトケイ酸エステルを含む熱輸送媒体を用いた場合、流路形成部30の劣化の抑制が十分ではないことが本発明者によって見出された。
【0061】
より詳細に説明すると、オルトケイ酸エステルの分子は、Si原子に4つの酸素原子が直接結合している。これらの酸素原子に、別の原子または基が結合している。オルトケイ酸エステルの分子は、この酸素原子の部分で、Siを含む部分とそれ以外の部分とに分解される。分解後のSiを含む部分に、他のものが新たに結合する。すなわち、この酸素原子の部分で、加水分解、縮合重合等の反応が生じる。
【0062】
このため、オルトケイ酸エステルを含む熱輸送媒体を用いた場合では、オルトケイ酸エステルの分子中の4つの酸素原子のうち1つの酸素原子の部分が加水分解される。これによって、オルトケイ酸エステルは、Siを含む部分とそれ以外の部分とに分解される。分解後のSiを含む部分が有する水酸基と、流路形成部30の表面に存在する水酸基とにおいて、脱水縮合が生じる。これにより、分解後のSiを含む部分は、流路形成部30の表面に結合する。分解後のSiを含む部分が、オルトケイ酸エステルを前駆体とした化合物32である。
【0063】
流路形成部30の表面に結合した化合物32に、熱輸送媒体中の別のオルトケイ酸エステルを前駆体とした化合物32が新たに結合する。このため、流路形成部30の表面には、オルトケイ酸エステルを前駆体とした化合物32で覆われない部分が生じる。この化合物32で覆われない部分は、熱輸送媒体に触れることによって劣化が生じる。
【0064】
熱輸送媒体14の基材は水を含む。熱交換器22のうち熱輸送媒体14と接触する部分は、アルミニウムを含む部材で構成されている。この場合、熱交換器22のうち熱輸送媒体14と接触する部分において、水の電気化学反応により、水素ガスが発生する。熱交換器22からAlイオンが溶出することで、熱交換器22が劣化する。
【0065】
これに対して、本実施形態によれば、熱輸送媒体14は、液状の基材と、式(I)、式(II)または式(III)で示されるSi化合物とを含む。このSi化合物の分子は、3つ以下の酸素元素がSi原子に直接結合している。このため、このSi化合物の分子も、酸素原子の部分で分解し、
図3に示すように、分解後のSiを含む部分34が流路形成部30の表面に結合する。分解後のSiを含む部分34が、熱輸送媒体中のSi化合物を前駆体とする化合物34である。
【0066】
そして、このSi化合物の分子は、オルトケイ酸エステルと比較して、Si原子に直接結合する酸素原子の数が少なく、分解と結合の化学反応が生じる部分が少ない。このため、オルトケイ酸エステルと比較して、熱輸送媒体中のSi化合物を前駆体とする化合物34が、流路形成部30の表面に結合している化合物34に結合せず、流路形成部30の表面に結合することを増やすことができる。換言すると、熱輸送媒体中に存在する分子の数を同じとして比較した場合、オルトケイ酸エステルよりも、流路形成部30の表面に直接結合する化合物34の数を多くすることができる。
【0067】
よって、式(I)、式(II)または式(III)で示されるSi化合物を含まず、オルトケイ酸エステルを含む熱輸送媒体を用いる場合よりも、流路形成部30の表面のうち熱輸送媒体中のSi化合物を前駆体とする化合物34で覆われない部分を少なくすることができる。したがって、この場合よりも、流路形成部30の劣化を抑制することができる。
【0068】
また、本実施形態の熱輸送媒体14において、Si化合物が式(I)で示される化合物である場合、式(I)中のR1~R3の少なくとも2つは、互いに分子量が異なり、酸素を含まない基であることが好ましい。この例としては、R1~R3の1つがフェニル基であり、別の1つがメチル基であり、さらに別の1つがエチル基である場合が挙げられる。また、Si化合物が式(II)で示される化合物の場合、式(II)中のR1、R2は、互いに分子量が異なり、酸素を含まない基であることが好ましい。この例としては、R1、R2の一方がフェニル基であり、他方がメチル基である場合が挙げられる。
【0069】
これらによれば、分子量が異なる基のそれぞれの分子量が、分子量が少ない方の基と同じ分子量で均一である場合と比較して、流路形成部の表面に結合する化合物34の1分子当たりの被覆面積を大きくできる可能性がある。被覆面積は、この化合物34が流路形成部30の表面を覆う面積である。このため、熱輸送媒体が流路形成部30の表面に触れることを、より抑制することができる。
【0070】
また、本実施形態の熱輸送媒体14において、Si化合物が式(I)で示される化合物である場合、式(I)中のR1~R3の少なくとも1つは、酸素を含まず、ハロゲンまたは擬ハロゲンを含む基であることが好ましい。また、Si化合物が式(II)で示される化合物である場合、式(II)中のR1、R2の少なくとも一方は、酸素を含まず、ハロゲンまたは擬ハロゲンを含む基であることが好ましい。また、Si化合物が式(III)で示される化合物である場合、式(III)中のRは、酸素を含まず、ハロゲンまたは擬ハロゲンを含む基であることが好ましい。
【0071】
これらによれば、式(I)、式(II)または式(III)で示されるSi化合物を前駆体とし、流路形成部30の表面に結合する化合物34に、化学的反発性を持たせることができる。このため、ハロゲンまたは擬ハロゲンが含まれない場合と比較して、熱輸送媒体が流路形成部30の表面に触れることを、より抑制することができる。
【0072】
また、本実施形態では、熱輸送媒体14に、イオン性防錆剤が含まれない。しかしながら、熱輸送媒体14の導電率が低ければ、熱輸送媒体14に、イオン性防錆剤が含まれていてもよい。すなわち、熱輸送媒体14にオルトケイ酸エステルが含まれることで、イオン性防錆剤が含まれる従来の熱輸送媒体と比較して、イオン性防錆剤の含有量を減らすことができる。このため、イオン性防錆剤が含まれる従来の熱輸送媒体と比較して、熱輸送媒体の導電率を低くすることができる。
【0073】
(第2実施形態)
本実施形態では、熱輸送媒体14は、オルトケイ酸エステルをさらに含む。オルトケイ酸エステルは、Siに4つの酸素原子が直接結合している化合物である。オルトケイ酸エステルとしては、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシランが挙げられる。システム10の他の構成は、第1実施形態と同じである。熱輸送媒体14がオルトケイ酸エステルを含む場合であっても、第1実施形態の効果を得ることができる。さらに、次の効果を得ることができる。
【0074】
式(I)、式(II)または式(III)で示されるSi化合物は、例えば、オルトケイ酸エステルを経由して製造される。この場合、式(I)、式(II)または式(III)で示されるSi化合物は、オルトケイ酸エステルよりも製造コストが高くなる。そこで、このSi化合物とオルトケイ酸エステルとのうちSi化合物のみを熱輸送媒体14が含む場合と比較して、Si化合物の含有量を減らし、その減らした分に対応する量のオルトケイ酸エステルを加える。これにより、Si化合物のみを熱輸送媒体14が含む場合と比較して、熱輸送媒体14の製造コストを安くすることができる。
【0075】
本実施形態においては、熱輸送媒体14に対するオルトケイ酸エステルの質量割合は、熱輸送媒体14に対するSi化合物の質量割合よりも高いことが好ましい。これによれば、オルトケイ酸エステルの質量割合がSi化合物の質量割合よりも低いときと比較して、熱輸送媒体14の製造コストを安くすることができる。
【0076】
なお、熱輸送媒体14中のSi化合物とオルトケイ酸エステルとの質量の合計値に対するSi化合物の質量の割合は、5割未満が好ましく、1割以下がより好ましい。Si化合物の割合が0.1割以上であれば、式(I)、式(II)または式(III)で示されるSi化合物による効果が得られる。
【0077】
ここで、
図4に、第2実施形態の熱輸送媒体14と比較例の熱輸送媒体とのそれぞれについて、本発明者が行った被膜の均一性の分析結果と腐食性の評価結果とを示す。本発明者は、第2実施形態の熱輸送媒体14と比較例の熱輸送媒体とのそれぞれに対して、被膜分析用の試験体と、腐食性評価用の試験体とを、一週間浸漬した。第2実施形態の熱輸送媒体14と比較例の熱輸送媒体とのそれぞれの基材は、凝固点降下剤を含む水である。第2実施形態の熱輸送媒体14は、Si化合物と、TEOS(すなわち、テトラエトキシシラン)とを含む。このSi化合物は、式(III)に示す化合物である。式(III)中のRは、酸素を含まず、ハロゲンを含む基である。TEOSは、Tetraethyl orthosilicateの略である。比較例の熱輸送媒体は、Si化合物とTEOSとのうちTEOSのみを含む。試験体は、アルミニウム板である。
【0078】
そして、皮膜の均一性の分析では、本発明者は、被膜分析用の試験体の表面に形成された皮膜のSi-O成分の分布をEPMA(すなわち、電子線マイクロアナライザ)により分析した。
図4中のSi-Oの分布を示す図は、EPMAにより被膜中のO成分についてマッピングした図である。
図4中のS-Oの分布は、試験体内でのO成分の量を比較するものである。この分布において、比較例と第2実施形態とに、同じ模様の部分がある。しかしながら、この同じ模様の部分は、O成分の絶対値が同じであることを示すものではない。
【0079】
図4に示すように、比較例の熱輸送媒体では、O成分が少ない部分が島状に存在していたことから、被膜中のSi-Oの分布が不均一であった。このため、被膜の厚さは不均一である。一方、第2実施形態の熱輸送媒体では、被膜中のSi-Oの分布が均一であった。このため、被膜の厚さは均一である。
【0080】
また、本発明者は、腐食性評価用の試験体の腐食の有無を確認した。具体的には、本発明者は、各試験体に電流を流し、各試験体の電流密度を測定した。そして、本発明者は、電流密度が0.65μA/cm
2未満の場合を腐食無しとし、電流密度が0.65μA/cm
2を超えた場合を腐食ありとして、評価した。
図4中の〇は腐食が無かったことを示している。
図4中の×は腐食があったことを示している。
図4に示すように、比較例の熱輸送媒体では、試験体が腐食していた。一方、第2実施形態の熱輸送媒体では、試験体は腐食していなかった。
【0081】
(他の実施形態)
(1)上記した各実施形態では、熱輸送媒体14の基材として、凝固点降下剤が添加された水が用いられていた。しかしながら、熱輸送媒体14の基材として、有機溶剤が用いられてもよい。
【0082】
(2)上記した各実施形態では、発熱体12および回路20は、車両に搭載されていたが、車両に搭載されていなくてもよい。すなわち、発熱体12は、放充電または電力変換に伴って発熱するものであれば、車両に搭載されるものでなくてもよい。このような発熱体12としては、例えば、電動車両の電池を充電する定置用の充電ステーションが備えるインバータ等の電気機器が挙げられる。
【0083】
(3)本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能であり、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の材質、形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の材質、形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その材質、形状、位置関係等に限定されるものではない。
【0084】
(まとめ)
上記各実施形態の一部または全部で示された第1の観点によれば、熱マネジメントシステムは、発熱体から受けた熱を輸送する液状の熱輸送媒体と、熱輸送媒体が流れる回路とを備える。回路は、熱輸送媒体と熱交換媒体との熱交換により、熱交換媒体へ熱輸送媒体の熱を放出する熱交換器を有する。熱輸送媒体は、液状の基材と、式(I)、式(II)または式(III)で示されるSi化合物とを含む。
【0085】
また、第2の観点によれば、Si化合物は、式(I)または式(II)で示される化合物である。式(I)中のR1~R3の少なくとも2つは、互いに分子量が異なり、酸素を含まない基である。式(II)中のR1、R2は、互いに分子量が異なり、酸素を含まない基である。
【0086】
これによれば、分子量が異なる基のそれぞれの分子量が、分子量が少ない方の基と同じ分子量で均一である場合と比較して、流路形成部の表面に結合する化合物の1分子当たりの被覆面積を大きくできる可能性がある。被覆面積は、この化合物が流路形成部の表面を覆う面積である。このため、熱輸送媒体が流路形成部の表面に触れることを、より抑制することができる。よって、流路形成部の劣化をより抑制することができる。
【0087】
また、第3の観点によれば、式(I)中のR1~R3の少なくとも1つは、酸素を含まず、ハロゲンまたは擬ハロゲンを含む基である。式(II)中のR1、R2の少なくとも一方は、酸素を含まず、ハロゲンまたは擬ハロゲンを含む基である。式(III)中のRは、酸素を含まず、ハロゲンまたは擬ハロゲンを含む基である。
【0088】
これによれば、流路形成部の表面に結合する化合物に、化学的反発性を持たせることができる。このため、ハロゲンまたは擬ハロゲンが含まれない場合と比較して、熱輸送媒体が流路形成部の表面に触れることを、より抑制することができる。よって、流路形成部の劣化をより抑制することができる。
【0089】
また、第4の観点によれば、熱輸送媒体は、オルトケイ酸エステルをさらに含む。熱輸送媒体がオルトケイ酸エステルを含む場合であっても、第1の観点の効果を得ることができる。さらに、次の効果を得ることができる。
【0090】
式(I)、式(II)または式(III)で示されるSi化合物は、オルトケイ酸エステルを経由して製造される。この場合、このSi化合物は、オルトケイ酸エステルよりも製造コストが高くなる。そこで、このSi化合物とオルトケイ酸エステルとのうちSi化合物のみを熱輸送媒体が含む場合と比較して、Si化合物の含有量を減らし、その減らした分に対応する量のオルトケイ酸エステルを加える。これにより、Si化合物のみを熱輸送媒体が含む場合と比較して、熱輸送媒体の製造コストを安くすることができる。
【0091】
また、第5の観点によれば、熱輸送媒体に対するオルトケイ酸エステルの質量割合は、熱輸送媒体に対するSi化合物の質量割合よりも高い。これによれば、オルトケイ酸エステルの質量割合がSi化合物の質量割合よりも低いときと比較して、熱輸送媒体の製造コストを安くすることができる。
【0092】
また、第6の観点によれば、基材は、水を含む。熱交換器のうち熱輸送媒体と接触する部分は、アルミニウムを含む部材で構成されている。
【0093】
第6の観点の構成の場合、熱輸送媒体に式(I)、式(II)または式(III)で示されるSi化合物が含まれていないと、熱輸送媒体から水素ガスが発生し、熱交換器からAlイオンが溶出することで、熱交換器が劣化する。よって、第1~第5の観点の熱マネジメントシステムは、第6の観点の構成の場合に、特に有効である。
【0094】
また、第7の観点によれば、熱交換媒体は、空気、オイルまたは冷凍サイクルの冷媒である。このように、熱交換媒体として、空気、オイルまたは冷凍サイクルの冷媒を用いることができる。
【0095】
また、第8の観点によれば、熱マネジメントシステムは、車両に搭載される。発熱体は、車両走行用の電池、車両に搭載された燃料電池、車両に搭載されたインバータまたは車両に搭載されたモータジェネレータである。このように、第1~第7の観点の熱マネジメントシステムは、第8の観点の構成の場合に、特に有効である。
【符号の説明】
【0096】
12 発熱体
14 熱輸送媒体
20 回路
22 熱交換器