(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】内視鏡用クリップ装置
(51)【国際特許分類】
A61B 17/122 20060101AFI20221129BHJP
【FI】
A61B17/122
(21)【出願番号】P 2019028032
(22)【出願日】2019-02-20
【審査請求日】2022-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】池田 昌夫
(72)【発明者】
【氏名】阿部 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】山辺 悦朗
(72)【発明者】
【氏名】松波 秀明
(72)【発明者】
【氏名】佐山 祐亮
【審査官】槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-193002(JP,A)
【文献】特開2002-191609(JP,A)
【文献】特開2015-157019(JP,A)
【文献】中国実用新案第202699218(CN,U)
【文献】特開2009-072611(JP,A)
【文献】国際公開第2020/136906(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/122
A61B 17/128
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織を把持するための複数の腕部、及び該腕部の基端側に設けられた係止部を有するクリップと、
長尺のシース、該シースの遠位側の内側に設けられているスリーブ、及び該スリーブの内部に進退移動可能に挿通されて遠位端に塊状の先端連結部が設けられた操作ワイヤ、を有する処置具本体と、を備え、
前記係止部は、前記先端連結部を受容する空間を内部に有する受容部と、該受容部の基端側に内向きに突出形成された突起部を有する突片部と、を有して前記先端連結部に係止可能に構成されており、
前記突片部は、前記先端連結部から前記突起部を押圧されることで外向きに弾性変形し、
前記受容部は、前記突片部が外向きに変形したときに、前記操作ワイヤの進退方向に前記先端連結部を挿通可能に開放され、
前記腕部は、前記先端連結部が前記受容部に受容された状態で前記操作ワイヤが前記進退方向の近位側に牽引されることで、閉腕して前記生体組織を把持し、
前記スリーブは、外向きに変形可能な変形部を有し、
該変形部は、前記係止部から前記先端連結部が係止解除されて前記クリップを前記処置具本体から切り離す位置において、前記突片部を覆う位置に配設されており、前記突片部の外向きの変形を許容して、前記先端連結部を前記受容部から引き抜き可能とすることを特徴とする内視鏡用クリップ装置。
【請求項2】
前記スリーブは、前記変形部よりも剛性が高い剛性部を、前記変形部よりも遠位側に備える請求項1に記載の内視鏡用クリップ装置。
【請求項3】
前記剛性部は、前記スリーブを全周回するように連続して形成されている請求項2に記載の内視鏡用クリップ装置。
【請求項4】
前記変形部は、前記スリーブの近位端に至るまで形成されたスリットによって構成されている請求項2又は3に記載の内視鏡用クリップ装置。
【請求項5】
前記スリットは、近位側スリットであり、
前記スリーブにおける前記変形部よりも遠位側には、前記スリーブの遠位端に至るまで形成された遠位側スリットが形成されており、
前記近位側スリットの中心軸と前記遠位側スリットの中心軸とは、前記スリーブの周方向にずれた位置で延在している請求項4に記載の内視鏡用クリップ装置。
【請求項6】
前記処置具本体は、前記スリーブと前記操作ワイヤとに接続されて、伸縮可能な伸縮部を更に備え、
該伸縮部は、近位側が遠位側よりも小径である巻きばねである請求項1から5のいずれか一項に記載の内視鏡用クリップ装置。
【請求項7】
前記シースの少なくとも一部は、
密巻きコイルで形成されており、
小径の近位部と、大径の遠位部と、前記近位部と前記遠位部とを同軸で接合する接合部と、によって構成されている請求項1から6のいずれか一項に記載の内視鏡用クリップ装置。
【請求項8】
前記シースにおける前記近位部の内壁と前記操作ワイヤとの間のクリアランスは、前記遠位部の内壁と前記操作ワイヤとの間のクリアランスよりも小さい請求項7に記載の内視鏡用クリップ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織の止血等に用いられる内視鏡用クリップ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡下で体腔内の生体組織を切除し、その切除部位を結紮して止血したり、組織の閉塞を行う内視鏡用クリップ装置が提供されている。この種の内視鏡用クリップ装置に関し、特許文献1には、クリップと、クリップを連結するクリップ連結部(同文献には、先端連結部と記載。)、及びクリップ連結部を収容するスリーブが遠位端部に設けられた操作ワイヤを有する処置具本体と、を備えた内視鏡用クリップ装置が開示されている。クリップは、近位端側にクリップ連結部に係止する係止部を有している。そして、係止部は、クリップ連結部を受容する受容部と、この受容部の基端側に内向きに突出形成された突起部と、を有している。
【0003】
特に、特許文献1に開示された内視鏡用クリップ装置は、生体組織を結紮したクリップを体内に留置する機能を有する。
具体的には、施術者は、クリップにより生体組織を結紮した後、スリーブよりもクリップ連結部を後退させるように操作ワイヤを牽引して、スリーブよりも近位側にありスリーブに干渉しない位置で突起部(突起部を含む部位を突片部ともいう。)を外向きに変形させる。この突片部の変形により、受容部が開放されて、クリップ連結部を係止部から抜去可能となる。クリップ連結部が係止部から抜去されることにより、クリップは操作ワイヤから分離し、生体組織を結紮した状態で体腔内に留置されるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された内視鏡用クリップ装置では、クリップを体内に留置させる際に、クリップの突片部の変形がスリーブによって干渉されない位置に、クリップの突片部の位置が制限されていた。
具体的には、上記のように、スリーブよりも近位側にクリップの突片部に設けられた突起部を配設した状態で、クリップ連結部を後退させ、クリップ連結部によって突片部を押圧して外向きに変形させていた。つまり、スリーブとクリップとの相互の関係において、長尺方向(軸方向)の長さに関する設計の自由度が制限される場合があった。
一方、クリップは、結紮する部位や、適合する内視鏡の鉗子孔との関係で多様な長さのものがあるため、上記のスリーブとクリップとの長尺方向の長さの制限を緩和可能であり、汎用性を有する使い勝手のよい内視鏡用クリップ装置が求められていた。
【0006】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、長さの異なるクリップに関して汎用性を有して使い勝手のよい内視鏡用クリップ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の内視鏡用クリップ装置は、生体組織を把持するための複数の腕部、及び該腕部の基端側に設けられた係止部を有するクリップと、長尺のシース、該シースの遠位側の内側に設けられているスリーブ、及び該スリーブの内部に進退移動可能に挿通されて遠位端に塊状の先端連結部が設けられた操作ワイヤ、を有する処置具本体と、を備え、前記係止部は、前記先端連結部を受容する空間を内部に有する受容部と、該受容部の基端側に内向きに突出形成された突起部を有する突片部と、を有して前記先端連結部に係止可能に構成されており、前記突片部は、前記先端連結部から前記突起部を押圧されることで外向きに弾性変形し、前記受容部は、前記突片部が外向きに変形したときに、前記操作ワイヤの進退方向に前記先端連結部を挿通可能に開放され、前記腕部は、前記先端連結部が前記受容部に受容された状態で前記操作ワイヤが前記進退方向の近位側に牽引されることで、閉腕して前記生体組織を把持し、前記スリーブは、外向きに変形可能な変形部を有し、該変形部は、前記係止部から前記先端連結部が係止解除されて前記クリップを前記処置具本体から切り離す位置において、前記突片部を覆う位置に配設されており、前記突片部の外向きの変形を許容して、前記先端連結部を前記受容部から引き抜き可能とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の内視鏡用クリップ装置によれば、長さの異なるクリップに関して汎用性を有して使い勝手のよい内視鏡用クリップ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るクリップ装置の一例を示す側面図である。
【
図2】
図1に記載のクリップ装置の断面を示す断面図である。
【
図3】
図2のIII部を拡大して示す図であり、クリップが取り付けられていない状態のクリップ連結部周りを示す拡大断面図である。
【
図4】クリップの係止部からクリップ連結部を引き抜く状態を示す説明図である。
【
図5】腕部が開いた状態のクリップ近傍の断面を示す断面図である。
【
図6】腕部が開いた状態のクリップがシース側に引き寄せられた状態を示す断面図である。
【
図7】腕部が開いた状態のクリップの側面を示す側面図である。
【
図8】腕部が閉じた状態のクリップの側面を示す側面図である。
【
図10】
図9のX方向矢視図であり、スリーブの背面を示す背面図である。
【
図11】
図9のXI方向矢視図であり、スリーブの正面を示す正面図である。
【
図13】クリップがシースに収容された状態を示す説明図である。
【
図14】
図6の状態から更にシース側にクリップが引き寄せられた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、以下に説明する部材の形状、寸法、配置等については、本発明の趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
また、全ての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0011】
<<概要>>
まず、本実施形態に係る内視鏡用クリップ装置100(以下、単にクリップ装置100ともいう。)について、
図1から
図4を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るクリップ装置100の一例を示す側面図、
図2は、
図1に記載のクリップ装置100の断面を示す断面図である。
図3は、
図2のIII部を拡大して示す図であり、クリップ110が取り付けられていない状態のクリップ連結部50周りを示す拡大断面図である。
図4は、クリップ110の係止部130からクリップ連結部50を引き抜く状態を示す説明図である。
【0012】
なお、本明細書において「軸方向」とは、特に断りがない限り、後述するワイヤロープ20の進退方向を意味する。また、「断面」とは、特に断りがない限り、クリップ装置100を軸方向に切断した縦断面を意味する。「遠位側」とは、特に断りのない限り、クリップ装置100又はこれを構成するクリップ110において、クリップ装置100の操作者から遠い側を呼称し、具体的にクリップ110においてはクリップ110の腕部120がある側をいう。また、「近位側」とは、特に断りのない限り、クリップ装置100やクリップ110において施術者に近い側をいう。また、クリップ装置100の構成要素が遠位側に移動することを前進すると呼称し、逆に近位側に移動することを後退すると呼称する場合がある。
【0013】
なお、
図4においては、後述する巻きばね80の図示を省略しており、後述する変形部70a及び突片部135の変形状態を明確にするために、実際よりもこれらの変形量を大きく示している。また、
図4等では、便宜上、後述するスリーブ70及び締付部材150を断面で図示してハッチングを付し、ワイヤロープ20、クリップ連結部50及び腕部120に関しては側面図を図示している。
【0014】
本実施形態に係る内視鏡用クリップ装置100は、
図1から
図4に示すように、不図示の生体組織を把持するための複数の腕部120、及び腕部120の基端側に設けられた係止部130を有するクリップ110と、長尺のシース10、シース10の遠位側の内側に設けられているスリーブ70、及びスリーブ70の内部に進退移動可能に挿通されて遠位端に塊状の先端連結部(クリップ連結部50)が設けられた操作ワイヤ(ワイヤロープ20)、を有する処置具本体1と、を備える。
係止部130は、クリップ連結部50を受容する空間を内部に有する受容部134と、受容部134の基端側に内向きに突出形成された突起部140を有する突片部135と、を有してクリップ連結部50に係止可能に構成されている。
突片部135は、
図4に示すように、クリップ連結部50から突起部140を押圧されることで外向き(
図4の矢印が示す向きのうち、ワイヤロープ20の径方向外向き)に弾性変形する。
受容部134は、突片部135が外向きに変形したときに、ワイヤロープ20の進退方向にクリップ連結部50を挿通可能に開放される。
腕部120は、クリップ連結部50が受容部134に受容された状態でワイヤロープ20が進退方向の近位側に牽引されることで、閉腕して生体組織を把持する。
スリーブ70は、外向きに変形可能な変形部70aを有する。変形部70aは、
図4に示すように、係止部130からクリップ連結部50が係止解除してクリップ110を処置具本体1から切り離す位置において、突片部135を覆う位置に配設されている。変形部70aは、突片部135の外向きの変形を許容して、クリップ連結部50を受容部134から引き抜き可能とすることを特徴とする。
【0015】
上記構成によれば、スリーブ70が外向きに変形可能であることで、クリップ110をを体内に留置する際に、スリーブ70に干渉しない位置(換言するとスリーブ70に対して軸方向にずれた位置)までクリップ110を移動させる必要がない。このため、クリップ110(受容部134)からクリップ連結部50を引き抜いて、クリップ110を処置具本体1から切り離して体内に留置することが容易となる。したがって、内視鏡用クリップ装置100の操作性及び長さの異なるクリップに関しての汎用性を高めることができ、施術者の使い勝手が良くなる。
なお、突片部135の変形を許容する変形部70aの構成について具体的には、変形部70aは、外向きに変形しようとする突片部135に押圧されて外向きに変形することによって、突片部135の変形を許容する。
【0016】
<<構成>>
次に、クリップ装置100の構成の詳細について説明する。クリップ装置100は、
図1、
図2及び
図4に示すように、クリップ110と、クリップ110を体内に配設、動作させ、体内に留置するための処置具本体1と、を備える。
処置具本体1は、長尺のシース10と、シース10の基端が固定されたハウジング本体部97と、シース10の遠位側の内側に設けられているスリーブ70と、シース10内に通り、クリップ連結部50を有するワイヤロープ20と、ワイヤロープ20を操作するための指掛けリング92及びスライダ94と、を備える。
【0017】
[クリップ]
まず、生体組織を結紮するクリップ110について、
図5から
図8を主に参照して説明する。
図5は、腕部120が開いた状態のクリップ110近傍の断面を示す断面図、
図6は、腕部120が開いた状態のクリップ110がシース10側に引き寄せられた状態を示す断面図である。
図7は、腕部120が開いた状態のクリップ110の側面を示す側面図、
図8は、腕部120が閉じた状態のクリップ110の側面を示す側面図である。
【0018】
クリップ110は、
図7に示すように、生体組織を把持するための一対の腕部120と、これら腕部120の基端側に設けられた係止部130と、リング状の締付部材150と、を有している。
クリップ110は、腕部120で生体組織を結紮することにより、例えば止血処置、縫縮及びマーキングなどの処置を行うことができる。クリップ110の一対の腕部120は、自己拡開力を有し、閉腕状態の腕部120をシース10から突出させることで腕部120は自然に拡開して開腕状態となる。また、腕部120は、幅寸法が局所的に縮小している細幅部123を有する。
細幅部123は、締付部材150が嵌合して腕部120に係止することで、クリップ110を閉腕状態でロックするためのものである。
【0019】
クリップ110の係止部130は、
図5及び
図7に示すように、クリップ連結部50を受容する空間132を内部に有する受容部134と、この受容部134の基端側に内向きに突出形成された突起部140を有する突片部135と、を有している。
突片部135は、軸方向に延在して、径方向に対向する2片から構成されており、近位側の端部に突起部140が形成されている。
係止部130の空間132にクリップ連結部50を受容することにより、クリップ110とクリップ連結部50を有するワイヤロープ20とは互いに連結される。
【0020】
[スリーブ]
次に、クリップ110によって生体組織を結紮する際に締付部材150に対して作用するスリーブ70について、
図9から
図11を主に参照して説明する。
図9は、スリーブ70の側面を示す側面図、
図10は、
図9のX方向矢視図であり、スリーブ70の背面を示す背面図、
図11は、
図9のXI方向矢視図であり、スリーブ70の正面を示す正面図である。
【0021】
本実施形態に係るスリーブ70は、シース10に対する締付部材150の後退移動を規制し、開腕状態のクリップ110(
図6参照)を閉腕状態(
図4参照)に遷移させるための部材である。
また、スリーブ70は、クリップ110による生体組織の掴み直しを可能とするための部材であり、
図3に示すようにシース10の内部に収納可能であり、かつクリップ連結部50を収容可能する部材である。
スリーブ70は、円柱状の芯材(不図示)の外周面に沿うように変形させるプレス加工その他の曲げ加工、熱処理等を施すことで形成された略円筒状の板片である。
【0022】
スリーブ70は、後述する巻きばね80に固定されてワイヤロープ20の遠位部に設けられている。また、スリーブ70は、ワイヤロープ20を前進させたときに、ワイヤロープ20に固定された巻きばね80に押圧されることで、
図6に示すように、スリーブ70の一部である拡径部72がシース10から突出する位置まで前進可能となっている。
【0023】
本実施形態のスリーブ70は、
図9から
図11に示すように、拡径部72、縮径段差部74及びスリーブ本体76を有している。
スリーブ70の少なくとも拡径部72は、
図11に示す正面視において放射状に均等に4つ形成された横断面四角形状(C面取りが施された四角形状)であり、拡径変形又は縮径変形することが可能に構成されている。
拡径部72は、スリーブ70における遠位側に設けられて弾性的に自己拡開可能である。具体的には、拡径部72は、自然状態でシース10の内径よりも大径であり、スリーブ70がシース10に収容されている状態で、自然状態よりも縮径変形して外径がシース10の内径よりも小径になる(
図3参照)。そして、
図5に示すように、スリーブ70の拡径部72がシース10から遠位側に突出することで拡径部72は自然状態に弾性復元する。
【0024】
縮径段差部74は、拡径部72の近位側に設けられており、スリーブ本体76と拡径部72との間において、近位側に向かって縮径するテーパ状に形成されている。縮径段差部74の遠位側は、自然状態でシース10の内径よりも大径であり、縮径段差部74の近位側は、自然状態でシース10の内径よりも小径である。
スリーブ本体76は、縮径段差部74よりも近位側に設けられており、自然状態でシース10の内径よりも小径である。
【0025】
図5及び
図6に示すように、拡径部72には締付部材150を収容することができる。言い換えると、自然状態の拡径部72の内径は締付部材150の外径よりも僅かに大きい。
そして、拡径部72は、締付部材150を収容することで、締付部材150の外径よりも小さく縮径変形することが規制される。このとき、スリーブ70は、拡径部72の縮径変形が規制されることによって、シース10に進入することが防止される。
すなわち、縮径段差部74をシース10の遠位端に係止させ、拡径部72に締付部材150を収容させる状態にすることでスリーブ70の後退移動が規制される。このため、ワイヤロープ20を用いてクリップ110を牽引することでクリップ110の腕部120を拡径部72及び締付部材150に対して相対的に後退させることができる。
これにより、クリップ110の腕部120を閉腕させ、ワイヤロープ20を更に後退させることで、クリップ110からワイヤロープ20を抜去することができる。
なお、拡径部72に締付部材150が収容されていない場合には、ワイヤロープ20を後退させると、拡径部72は縮径変形しながらシース10に再収容される。
【0026】
上記の概要において説明した変形部70aは、本実施形態においては、スリーブ70の近位端に至るまで形成されたスリット(近位側スリット70c)によって構成されている。近位側スリット70cは、変形部70aの変形を許容するスペースを形成することによって、変形部70aを径方向に弾性変形可能とするものである。
上記構成によれば、変形部70aが近位側スリット70cによって構成されていることで、外向きに変形させる(撓ませる)ことが容易となる。つまり、スリーブ70から係止部130(突起部140)が突出した位置までクリップ110を移動させず、クリップ110とワイヤロープ20との連結をスリーブ70内で解除できることになる。
【0027】
変形部70aは、
図10に示す背面視において放射状に均等に4つ形成された横断面扇状で軸心方向に延在する板片であり、それぞれの変形部70aは、スリーブ70の軸心を通る仮想平面上に延在する側壁面を有する。4つの変形部70aのうち、1つの変形部70aは、同一形状の2つの分割片70aaによって構成されており、2つの分割片70aaは対向する側面同士が接着剤等によって接合されている。なお、接合方法は任意であり、例えば金属によってスリーブ70が形成されていれば、溶接によって接合されていてもよい。
【0028】
本実施形態に係る近位側スリット70cは、4つの変形部70aを構成(形成又は区画)するように、背面視において放射状に4つ形成されている。それぞれの近位側スリット70cは、変形部70aにおけるスリーブ70の軸心を通る仮想平面上に延在する壁面によって画定されている。近位側スリット70cの遠位端部は、スリーブ70の周面において半円弧状に形成されている。
【0029】
なお、近位側スリット70cは、本実施形態のように、ある程度の幅のある切れ込みであっても、線状の切れ込みであってもよい。
一方で、変形部70aは、軸方向に垂直な方向に変形可能であれば、スリット70cが設けられていることにより変形可能であるものに限定されない。例えば、変形部70aは、可撓性材料によって構成されるもので、スリーブ70の素材自体の性質によって変形可能であるものであってもよい。
【0030】
変形部70aを構成するスリットは、上記のように近位側スリット70cであり、スリーブ70における変形部70aよりも遠位側には、スリーブ70の遠位端に至るまで形成された遠位側スリット70dが形成されている。遠位側スリット70dは、拡径部72の変形を許容するスペースを、スリーブ70の遠位側における周方向の一部に形成することによって、拡径部72を径方向に弾性変形可能とするものである。遠位側スリット70dは、近位側スリット70cよりも周方向の長さが長く、周方向に隣接する拡径部72及び縮径段差部74の間に形成されて、スリーブ70の軸心方向に遠位端から中央部分まで形成されている。近位側スリット70cの中心軸と遠位側スリット70dの中心軸とは、スリーブ70の周方向にずれた位置で延在している。
上記のように、近位側スリット70cの中心軸と遠位側スリット70dの中心軸とがずれた位置で延在していることで、スリーブ70の近位側と遠位側に荷重が加わったときに、スリット(近位側スリット70c及び遠位側スリット70d)近傍の応力集中が重なることを抑制して、意図せぬ過度な変形を抑制できる。
【0031】
スリーブ70は、変形部70aよりも剛性が高い剛性部70bを、変形部70aよりも遠位側に備える。本実施形態に係る剛性部70bは、近位側スリット70c及び遠位側スリット70dが形成されていない中央部分をいう。
スリーブ70が剛性部70bを有することで、仮に、剛性部70bに対して軸方向に重なる位置で突片部135が拡径方向に変形しようとした場合であっても、その変形を剛性部70bにより制限できる。つまり、突起部140が変形部70aに軸方向において重なる位置又はこの位置よりも近位側の任意の位置において、及び任意のタイミングでクリップ110をクリップ連結部50から切り離すことが可能となる。
【0032】
なお、本実施形態に係る剛性部70bとしては、近位側スリット70c及び遠位側スリット70dが形成されていないことで、これらが形成された部位と比較して剛性が高い部位であるが、本発明はこのような構成に限定されない。例えば、異なる素材を組み合わせることによって、他の部位よりも剛性を相対的に高めるようにしてもよく、一部位の断面積を大きくすることによって、他の部位よりも剛性を相対的に高めるようにしてもよい。
【0033】
剛性部70bは、スリーブ70を全周回するように連続して形成されている。周回状に形成された剛性部70bには、近位側スリット70cと遠位側スリット70dのいずれも形成されていない。
【0034】
なお、本書において「周回状」とは、スリーブ70の周面において、軸線方向が一致するルートの他、軸線方向にずれたルートを通って周回方向に連続している形状を意味する。つまり、「周回状」は、スリーブ70の側面視において、完全に直線状に重なるように連続して周回している形状に限定されない。
換言すると、スリーブ70の軸方向において、近位側スリット70cと遠位側スリット70dとが重なるものであっても、周回方向において、これらの位置がずれて形成されていれば、全周回するように連続した剛性部70bが形成されているものとする。
上記構成によれば、剛性部70bがスリーブ70を全周回して連続して形成されていることで、周回方向のどの位置においてもクリップ110の突片部135の変形を好適に制限することができる。
【0035】
また、剛性部70bに固着ワイヤ82の一部(巻線間に隙間がある領域の一部)が周回状に溶接固定されている。つまり、固着ワイヤ82を周回状に溶接する際に、剛性部70bが周回状に形成されていることで、近位側スリット70c又は遠位側スリット70dを通ってスリーブ70の内部まで溶接ビードが形成されることを抑制できる。
【0036】
一方で、本実施形態に示すように、剛性部70bがスリーブ70の側面視において、完全に直線状に重なるように連続して周回している形状であれば、固着ワイヤ82の一部の溶接を、スリーブ70の周面において直線的な経路で好適に行うことができる。更に、スリーブ70の軸方向の応力による変形を抑制できるため、プレス加工によってスリーブ70を略円筒状に好適に形成することができる。
【0037】
なお、剛性部70bは周回状に形成されていると上記のように好適であるが、このような構成に限定されず、部分的に形成されているものであってもよい。この場合に、カシメによって固着ワイヤ82を剛性部70bに固着させるようにすると好適である。
【0038】
[ハウジング本体部及びスライダ]
ハウジング本体部97は、
図2に示すように、全体的に長尺な棒状に形成されており、近位側本体部98と、近位側本体部98の遠位端側に組み付けられる遠位側本体部99と、から構成されている。
近位側本体部98には、圧縮ばね30(
図1参照。)が内蔵されている。圧縮ばね30は、クリップ110がシース10に当接する方向である後退方向にスライダ94の一部に荷重を付与するものである。
遠位側本体部99は、近位端部にあるキャップ99aによって、近位側本体部98の遠位端部と接続されている。
スライダ94は、後述するワイヤロープ20の基端近傍に取り付けられており、ワイヤロープ20を介してシース10に対するクリップ110の進退操作、回転操作を行うものである。
【0039】
[ワイヤロープ]
ワイヤロープ20は、シース10の内部及びハウジング本体部97の内部を軸方向に進退可能に挿通されている。ワイヤロープ20は、例えば、ステンレス鋼、耐腐食性被覆された鋼鉄線、チタン又はチタン合金等の剛性の強い金属材料により形成されている。ワイヤロープ20の遠位端部には、巻きばね80、塊状のクリップ連結部50及びスリーブ70が設けられている。クリップ連結部50は、自然状態においてスリーブ70の内部に位置している。ワイヤロープ20の外周面を覆うように、フッ素系ポリマーで作成された樹脂層(不図示)が設けられていてもよい。
【0040】
[巻きばね]
図3に示すように、処置具本体1は、スリーブ70とワイヤロープ20とに接続されて、ワイヤロープ20の軸方向に伸縮可能な伸縮部を更に備える。伸縮部は、近位側が遠位側よりも小径である巻きばね80であり、ワイヤロープ20の遠位側端部とスリーブ70との間に配置されて、これらを互いに近接離間可能に接続する。
巻きばね80は、金属又は樹脂の線材を螺旋巻回したコイル、又はゴム等のエラストマーにより構成され、軸方向に伸縮可能に構成されている。
【0041】
巻きばね80の少なくとも一部(近位部)は、後端(近位端)に向かうにつれて小径になる立体的な渦巻状に形成されている。
上記構成によれば、伸縮部が、近位側が遠位側よりも小径である巻きばね80であることで、シース10と巻きばね80との間のクリアランスを大きくすることができる。このため、シース10が屈曲した状態にあるときでも、シース10と巻きばね80との接触領域を小さくすることができ、ワイヤロープ20を後述するシース10に対して相対的に動かす(近位側に引く)際の抵抗を低めることができる。ワイヤロープ20を近位側に引く操作は、スライダ94をシース10に対して後退させるようにして行われる。
【0042】
巻きばね80の遠位部は、
図3に示すように、スリーブ70の剛性部70bの周囲に固定された固着ワイヤ82と、固着ワイヤ82の遠位側に位置してスリーブ本体76の周囲に非固定に装着された非固着ワイヤ84と、を含む。巻きばね80の遠位端は、縮径段差部74の近位側に当接している。
【0043】
施術者は、生体組織を結紮するため(又はクリップ110をクリップ連結部50から切り離して留置するため)には、ワイヤロープ20をシース10に対して近位側に引く。このとき、例えば、ワイヤロープ20のうちシース10に対して相対移動する部位(伸縮部)にシース10の内壁面に当接する不図示のセンタリング部材が設けられているときには、シース10の内壁面との間で摩擦が生じて抵抗が大きくなる。つまり、生体組織の結紮操作やクリップ110の留置操作が「重く」なり、これらの操作を円滑に行えないことが問題となる。
【0044】
一方で、巻きばね80によれば、特に、屈曲した体腔内に処置具本体1を通すことによってシース10が屈曲した状態で、施術者がワイヤロープ20をシース10に対して近位側に引いた場合(結紮操作を行う場合等)の抵抗を格段に低めることができる。
具体的には、巻きばね80の各線材は、
図3に示すように、断面円形状であるため、断面棒状のワイヤロープ20と比較して、シース10の内壁面に接触する面積を少なくすることができる。このため、シース10の内壁面に当接した状態でワイヤロープ20を動作させるときの摩擦力をワイヤロープ20と比較して低めることができる。
したがって、ワイヤロープ20の一部を覆う巻きばね80を配設することで、ワイヤロープ20を動作させる際の抵抗を低めることができる。
【0045】
[シース]
次に、シース10について、
図1及び
図3に加え、
図12を参照して説明する。
図12は、シース10を拡大して示す拡大側面図である。
シース10は、長尺で可撓性の管状部材である。シース10の少なくとも一部は、密巻きコイル10aで形成されており、
図3に示すように、小径の近位部10bと、大径の遠位部10cと、近位部10bと遠位部10cとを同軸で接合する接合部10dと、によって構成されている。
接合部10dは、近位側端部10daと、近位側端部10daよりも小径の遠位側端部10dbと、を有して、シース10の近位部10bと遠位部10cとに溶着されている。
上記構成によれば、シース10の遠位部10cが大径であることで、スリーブ70及びクリップ110の基端側、ワイヤロープ20の遠位端(クリップ連結部50)を好適に収容できる。
【0046】
詳細に説明すると、近位側端部10daは、近位部10bの外周面よりも大きく形成された開口部を有し、遠位側端部10dbは、遠位部10cの内周面よりも小さく形成された外周面を有する。遠位側端部10dbの開口部は、近位側に向かうにつれて小径となるようにテーパ状に形成されている。
【0047】
遠位側端部10dbの開口部は、近位側端部10daの開口部よりも小径となる位置で当該開口部に接続されていることにより、当該開口部との接続部分に段差10dcを形成している。この段差10dcに近位部10bの遠位端面が当接する状態で、近位部10bと接合部10dが接合されていることで、接合部10dは、接合部10dに対する近位部10bの軸方向遠位側への相対的な移動を確実に制限している。
【0048】
遠位側端部10dbは、上記のように近位側端部10daよりも小径に形成されていることで、その接続部分に段差10ddを形成している。この段差10ddに遠位部10cの近位端面が当接する状態で、遠位部10cと接合部10dが接合されていることで、接合部10dは、接合部10dに対する遠位部10cの軸方向近位側への相対的な移動を確実に制限している。
【0049】
なお、コイル10aの内周面には、フッ素系ポリマーで作成された内層(不図示)が設けられていてもよい。また、シース10を樹脂製のワイヤを巻回したコイルで形成してもよく、可撓性の樹脂チューブとしてもよい。
【0050】
また、施術者は、クリップ110を回転させて、生体組織を挟持する向きを調節するときには、シース10に対して指掛けリング92を回すことでワイヤロープ20を回す。ワイヤロープ20にクリップ連結部50を介してクリップ110が接続されているため、クリップ110の向きを調節できることになる。
この場合に、上記のように遠位部10cが大径に形成されており、遠位部10cの内面とスリーブ70の外周に固定された巻きばね80との間にクリアランスが形成されていることで、クリップ110の向きを調整する際の抵抗を抑制することができる。
【0051】
そして、近位部10bが小径であることで剛性を低め、また、不図示の内視鏡のチャンネル内を前進又は後退させる際に、チャンネル内壁面との接触面を少なくできることで摩擦を低めて、動作抵抗を抑制することができる。本実施形態においてはシース10全体が密巻きコイルで構成されているが、このような構成に限定されず、一部のみ密巻きコイルで構成されるものであってもよい。
【0052】
シース10における近位部10bの内壁と操作ワイヤ(ワイヤロープ20)との間のクリアランスは、遠位部10cの内壁と操作ワイヤ(ワイヤロープ20)との間のクリアランスよりも小さい。
上記構成によれば、シース10における近位部10bの内壁とワイヤロープ20との間のクリアランスが、遠位部10cの内壁とワイヤロープ20との間のクリアランスよりも小さいことで、近位部10bにおいてワイヤロープ20の揺動を制限することができる。
【0053】
<<動作>>
図1から
図12に加え、
図13及び
図14を参照して、ワイヤロープ20のクリップ連結部50をクリップ110に連結し、クリップ110を閉腕させ、更にクリップ110からクリップ連結部50を脱離させるまでの一連の手技を説明する。
図13は、クリップ110がシース10に収容された状態を示す説明図である。
図14は、
図6の状態から更にシース側にクリップ110が引き寄せられた状態を示す断面図である。
【0054】
クリップ110は、
図8に示すように、初期状態において、腕部120の外周に締付部材150が装着された状態で、カートリッジ(図示せず)に収容されている。そして、カートリッジに収容されたクリップ110の係止部130に対して基端側(近位側)からワイヤロープ20のクリップ連結部50を押圧することにより、ワイヤロープ20とクリップ110とが連結される。
【0055】
具体的には、ワイヤロープ20のクリップ連結部50を係止部130の突起部140に対して基端側から押圧することで突起部140を有する突片部135が外向きに弾性変形する。これにより、受容部134は、ワイヤロープ20の進退方向にクリップ連結部50を受け入れ可能に開放される。
【0056】
施術者は、指掛けリング92に指(たとえば親指)を挿通し、スライダ94を他の指(たとえば人差し指及び中指)で挟持した状態で、ハウジング本体部97に対してスライダ94を相対移動させて操作する。これにより、スライダ94に連結されたワイヤロープ20がシース10の内部で進退移動する。
また、キャップ99aを把持した状態で、近位側本体部98をその軸心回りに回転させることで、クリップ110の向きを変更することができる。
【0057】
突片部135が外向きに弾性変形して受容部134が開放された状態から、クリップ連結部50が突起部140を進退方向の遠位側に通過することで、突片部135は内向きに弾性復元する。これにより、突起部140がクリップ連結部50に係止してクリップ連結部50と係止部130とが連結される。
【0058】
ワイヤロープ20を後退させることにより、
図13に示すようにクリップ110及びスリーブ70がシース10の内部に収容される。このように、クリップ110がシース10の内部に位置するときに、一対の腕部120は閉じた状態となる。
スリーブ70をシース10に収容する際には、スリーブ70の拡径部72に外力を付与して、拡径部72の外径がシース10の内径よりも小さくなるように、縮径変形させておく。かかる外力は、上述したカートリッジにより行うことができる。
【0059】
図13に示すようにクリップ110がシース10に収容された状態で、内視鏡の鉗子孔を通じて体腔内にシース10を進入させる。シース10の遠位側端部が結紮を要する生体組織の近傍に至ったら、施術者は、スライダ94を遠位側に押し込み、ワイヤロープ20を遠位側へ押し出す。これにより、
図5に示すようにクリップ110及び締付部材150がシース10先端より突出し、クリップ110は自己拡開力により自然に最大開口幅まで広がる。
【0060】
このとき、スリーブ70における少なくとも拡径部72と縮径段差部74はシース10の遠位開口より突出し、自然状態の径に拡径変形する。すなわち、シース10に引き込まれて縮径変形していたスリーブ70の拡径部72は、シース10の遠位開口から突出することで大径に弾性復元する。そして、拡径部72の内側に締付部材150が嵌合する。
【0061】
この状態から、施術者がスライダ94に対して遠位側に加えている力を緩めると、弾性変形していた圧縮ばね30による復元力によりスライダ94は近位側に移動する。このスライダ94の移動により、スライダ94に接続されたワイヤロープ20は近位側に引かれて移動する。これにより、クリップ110は、腕部120を開いた状態を維持しつつ、
図5に示す状態から、
図6に示す締付部材150及びスリーブ70の縮径段差部74を介してシース10の遠位端に対して当接して支持される位置まで移動する。
【0062】
つまり、クリップ110に設けられた一対の腕部120は、
図6に示す当接支持位置にあるときに、開いた状態でシース10の先端に間接的に当接支持されている。
このように、一対の腕部120が開いた状態でシース10の先端に当接支持されていることで、クリップ110は、シース10に対して傾斜したり揺れ動くことがなく、安定した形状を保つことが可能となる。このため、施術者は、生体組織を掴むようにクリップ110を操作しやすい。
【0063】
そして、クリップ110の位置及び向きを決めたのち、生体組織をクリップ110で掴むときには、施術者はスライダ94を近位側に移動するように操作して、ワイヤロープ20を基端側に牽引して、クリップ110を閉腕させる。
具体的には、施術者は、
図6に示す、クリップ連結部50によってワイヤロープ20とクリップ110とが連結されており、かつクリップ110がシース10に当接した状態から、ワイヤロープ20を基端側に牽引し、クリップ連結部50によってクリップ110を引っ張る。この操作により、クリップ110の腕部120は、
図14に示すように閉腕する。
より具体的には、
図6に示す状態にあるときに、締付部材150は、縮径段差部74の内側面に当接するとともに拡径部72の内側に嵌合しており、スリーブ70及びシース10に対する後退移動が規制されている。また、締付部材150が拡径部72に嵌合していることで拡径部72に外力が負荷されても縮径変形することが抑止されている。
【0064】
そして、クリップ連結部50が受容部134に受容された状態でワイヤロープ20を進退方向の近位側に牽引することによって、
図14に示すように腕部120が閉腕して、生体組織を把持する。
より具体的には、スリーブ70及び締付部材150がシース10に対して近位側へ相対移動することが規制された状態でワイヤロープ20を更に引き込むと、腕部120は締付部材150内に引き込まれて閉腕する。
突片部135には、ワイヤロープ20が近位側に牽引されるときにクリップ連結部50の近位端部から拡径方向に加わる荷重が加わることになる。突片部135は、突片部135自身の剛性、又は突片部135を覆って拡径時に当接可能なスリーブ70との組み合わせによる剛性により、腕部120が閉腕状態となる位置までは、上記の荷重によっては受容部134を開放しないように構成されている。
【0065】
また、腕部120が閉腕する途中で引き込みを中断し、再度、ワイヤロープ20を押し込むことによって、腕部120を再び拡開させることが可能である。具体的には、腕部120は、腕部120の拡開方向に印加される自己の弾性復元力により、締付部材150に対して近位側に荷重を加えて軸方向に相対的に移動しつつ、再び拡開することになる。
そして、最適な結紮が確認できた後に、ワイヤロープ20を近位側へ更に引き込むと、腕部120に設けられた細幅部123(
図8参照)に締付部材150が嵌合してクリップ110がロックされる。これにより、クリップ110は
図8及び
図14に示す閉腕状態となる。
【0066】
このような構成によれば、圧縮ばね30の付勢のみが加わる状態においては、クリップ110が閉腕していない状態(開いた状態)でシース10の先端に当接支持されることになる。このため、クリップ110を開いた状態で生体組織まで移動させつつ、生体組織を掴む際にはスライダ94を近位側に意識的に引っ張ればよいため、クリップ110を操作しやすい。
【0067】
ワイヤロープ20とスリーブ70とは、巻きばね80によって連結されている。そのため、スリーブ70がクリップ装置100に対する近位側への相対移動を規制された後も、ワイヤロープ20を近位側に引き込むことによって巻きばね80が伸び、クリップ連結部50をシース10内において更に近位側に引き込むことが可能である。
【0068】
図4及び
図14に示すように、係止部130の突起部140が、近位側スリット70cが形成されている変形部70aに軸方向において重なる位置、又は変形部70a(スリーブ70)よりも近位側にあるときに、突起部140を有する突片部135は、径方向外向きに大きく変形可能となる。
具体的には、スリーブ本体76は、剛性部70bと異なり、変形部70aにおいては突片部135の拡径を制限しない。また、スリーブ本体76は、突起部140が変形部70a(スリーブ70)よりも近位側の軸方向にずれた位置にある場合にも、突片部135の拡径を当然に制限しない。
【0069】
施術者がワイヤロープ20を近位側に引き込むことにより、
図4に示すように突起部140がクリップ連結部50の周面に乗り上がったときに、クリップ連結部50から突起部140に加わる径方向外向きの荷重が加わる。この荷重により、突片部135は、自然状態におけるスリーブ本体76の内径を超えて拡径変形することになる。
【0070】
この突片部135の拡径変形により受容部134が開放され、クリップ連結部50が受容部134から
図4に示す近位側に向かう矢印に示す方向に引き抜き可能となる。
このようにして、生体組織を結紮する際にスライダ94(
図1参照)を後退させる動作と連続して、スライダ94を更に後退させることでクリップ連結部50が係止部130から抜去される。これによりクリップ110はワイヤロープ20から分離し、生体組織を結紮した状態で体腔内に留置される。
【0071】
特に、クリップ110をクリップ連結部50から切り離す際に、クリップ110の突起部140が、スリーブ70よりも近位側にずれた位置にあるものでなくとも、クリップ110を体内に留置することが可能となる。
具体的には、上記のようにクリップ110の突起部140が変形部70aに軸方向において重なる位置にあれば、長さが異なるクリップであっても、クリップ連結部50から切り離して、体内に留置することが可能となる。
【0072】
以上の動作により、クリップ連結部50をクリップ110に連結し、クリップ110を閉腕させ、更にクリップ110からクリップ連結部50を脱離させるまでの一連の手技が終了する。上記の手技を繰り返すことで、多数のクリップ110で生体組織を結紮することができる。
【0073】
上記実施形態においては、クリップ110は、締付部材150を備えるものとして説明したが、本発明はこのような構成に限定されない。つまり、クリップ110は、スリーブ70のみを介してシース10に支持される構成であってもよい。
【0074】
また、上記実施形態においては、弾性部材の例として圧縮ばね30を用いる構成を例に挙げて説明したが、クリップ110を当接支持位置に移動させるように弾性荷重を生じることができる構成であればよい。例えば、スライダ94の一部と、当該一部よりも近位側にある部位との間に引張ばねを設けるような構成であってもよい。
【0075】
また、クリップ110をシース10に対して突没させる構成としては、シース10に対して相対的に移動させることができれば、その構成は任意である。具体的には、本実施形態においては、シース10に接続された指掛けリング92に対して、ワイヤロープ20に接続されたスライダ94を移動させて、クリップ110を移動させているが逆の構成であってもよい。つまり、指掛けリング92にワイヤロープ20が接続され、スライダ94にシース10が接続されていてもよい。
【0076】
また、上記実施形態においては、クリップ110をシース10に対して移動させる構成であったが、クリップ110をシース10に対して突没させることができればこのような構成に限定されない。例えば、シース10をクリップ110に対して移動させる構成であってもよい。この場合、弾性部材は、クリップ110に当接支持する位置にシース10を移動させるように付勢する構成であればよい。
【0077】
なお、本発明のクリップ装置100及びクリップ110の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はない。複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること等を許容する。
【0078】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)生体組織を把持するための複数の腕部、及び該腕部の基端側に設けられた係止部を有するクリップと、
長尺のシース、該シースの遠位側の内側に設けられているスリーブ、及び該スリーブの内部に進退移動可能に挿通されて遠位端に塊状の先端連結部が設けられた操作ワイヤ、を有する処置具本体と、を備え、
前記係止部は、前記先端連結部を受容する空間を内部に有する受容部と、該受容部の基端側に内向きに突出形成された突起部を有する突片部と、を有して前記先端連結部に係止可能に構成されており、
前記突片部は、前記先端連結部から前記突起部を押圧されることで外向きに弾性変形し、
前記受容部は、前記突片部が外向きに変形したときに、前記操作ワイヤの進退方向に前記先端連結部を挿通可能に開放され、
前記腕部は、前記先端連結部が前記受容部に受容された状態で前記操作ワイヤが前記進退方向の近位側に牽引されることで、閉腕して前記生体組織を把持し、
前記スリーブは、外向きに変形可能な変形部を有し、
該変形部は、前記係止部から前記先端連結部が係止解除されて前記クリップを前記処置具本体から切り離す位置において、前記突片部を覆う位置に配設されており、前記突片部の外向きの変形を許容して、前記先端連結部を前記受容部から引き抜き可能とすることを特徴とする内視鏡用クリップ装置。
(2)前記スリーブは、前記変形部よりも剛性が高い剛性部を、前記変形部よりも遠位側に備える(1)に記載の内視鏡用クリップ装置。
(3)前記剛性部は、前記スリーブを全周回するように連続して形成されている(2)に記載の内視鏡用クリップ装置。
(4)前記変形部は、前記スリーブの近位端に至るまで形成されたスリットによって構成されている(2)又は(3)に記載の内視鏡用クリップ装置。
(5)前記スリットは、近位側スリットであり、
前記スリーブにおける前記変形部よりも遠位側には、前記スリーブの遠位端に至るまで形成された遠位側スリットが形成されており、
前記近位側スリットの中心軸と前記遠位側スリットの中心軸とは、前記スリーブの周方向にずれた位置で延在している(4)に記載の内視鏡用クリップ装置。
(6)前記処置具本体は、前記スリーブと前記操作ワイヤとに接続されて、伸縮可能な伸縮部を更に備え、
該伸縮部は、近位側が遠位側よりも小径である巻きばねである(1)から(5)のいずれか一項に記載の内視鏡用クリップ装置。
(7)前記シースの少なくとも一部は、
密巻きコイルで形成されており、
小径の近位部と、大径の遠位部と、前記近位部と前記遠位部とを同軸で接合する接合部と、によって構成されている(1)から(6)のいずれか一項に記載の内視鏡用クリップ装置。
(8)前記シースにおける前記近位部の内壁と前記操作ワイヤとの間のクリアランスは、前記遠位部の内壁と前記操作ワイヤとの間のクリアランスよりも小さい(7)に記載の内視鏡用クリップ装置。
【符号の説明】
【0079】
1 処置具本体
10 シース
10a 密巻きコイル
10b 近位部
10c 遠位部
10d 接合部
10da 近位側端部
10db 遠位側端部
10dc 段差
10dd 段差
20 ワイヤロープ(操作ワイヤ)
30 圧縮ばね
50 クリップ連結部(先端連結部)
70 スリーブ
70a 変形部
70aa 分割片
70b 剛性部
70c 近位側スリット(スリット)
70d 遠位側スリット
72 拡径部
74 縮径段差部
76 スリーブ本体
80 巻きばね(伸縮部)
82 固着ワイヤ
84 非固着ワイヤ
92 指掛けリング
94 スライダ
97 ハウジング本体部
98 近位側本体部
99 遠位側本体部
99a キャップ
100 クリップ装置(内視鏡用クリップ装置)
110 クリップ
120 腕部
123 細幅部
130 係止部
132 空間
134 受容部
135 突片部
140 突起部
150 締付部材