(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】炭素多孔体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20221129BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20221129BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20221129BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C01B32/05
B01J20/20 A
B01J20/28 Z
B01J20/30
(21)【出願番号】P 2019030331
(22)【出願日】2019-02-22
【審査請求日】2021-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 正樹
(72)【発明者】
【氏名】荻原 信宏
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-154923(JP,A)
【文献】特開2018-133423(JP,A)
【文献】特開2018-166060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
B01J 20/00-20/34
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロ細孔とメソ細孔とを含み、温度77Kでの窒素吸着等温線のαsプロット解析により求まるミクロ細孔容量が200(cm
3(STP)/g)以上であり、
窒素吸着等温線によるBET比表面積が1500m
2/g以上であり、
窒素吸着等温線の相対圧力P/P
0が0.10以上0.95以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が400(cm
3(STP)/g)以上であり、
窒素吸着等温線の相対圧力P/P
0が0.98における窒素吸着量が2050(cm
3(STP)/g)以上である、炭素多孔体。
【請求項2】
窒素吸着等温線の相対圧力P/P
0が0.10以上0.20以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が500(cm
3(STP)/g)以上である、請求項1に記載の炭素多孔体。
【請求項3】
窒素吸着等温線の相対圧力P/P
0が0.20以上0.95以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が450(cm
3(STP)/g)以上である、請求項1又は2に記載の炭素多孔体。
【請求項4】
窒素吸着等温線の相対圧力P/P
0が0.98における窒素吸着量が2100(cm
3(STP)/g)以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭素多孔体。
【請求項5】
前記ミクロ細孔容量が210(cm
3(STP)/g)以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の炭素多孔体。
【請求項6】
前記窒素吸着等温線によるBET比表面積が1600m
2/g以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の炭素多孔体。
【請求項7】
芳香族ジカルボン酸アニオンとアルカリ金属カチオンとしてのリチウムイオンとを溶解した調製溶液を噴霧乾燥装置を用いて噴霧乾燥することにより、芳香族ジカルボン酸アルカリ金属塩を析出させる析出工程と、
析出した前記芳香族
ジカルボン酸アルカリ金属塩を不活性雰囲気中で800℃以上1100℃以下の範囲で加熱して炭素化させる焼成工程と、
を含む炭素多孔体の製造方法。
【請求項8】
前記析出工程では、式(1)~(3)のうち1以上で表される構造を有する芳香族
ジカルボン酸アルカリ金属塩を析出させる、請求項7に記載の炭素多孔体の製造方法。
【化1】
【請求項9】
前記析出工程では、100℃以上250℃以下の温度範囲で前記調整溶液を噴霧乾燥する、請求項
7又は
8に記載の炭素多孔体の製造方法。
【請求項10】
前記焼成工程では、前記不活性雰囲気を窒素雰囲気とする、請求項7
~9のいずれか1項に記載の炭素多孔体の製造方法。
【請求項11】
請求項7~10のいずれか1項に記載の炭素多孔体の製造方法であって、
前記焼成工程のあと、金属成分を溶解可能な洗浄液で洗浄する溶出処理工程、を含む、炭素多孔体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、炭素多孔体及びその製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素多孔体としては、芳香族カルボン酸のリチウム塩を不活性雰囲気下で加熱して炭化したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この文献では、ミクロ細孔とメソ細孔とを有する新規な炭素多孔体を提供することができる。また、炭素多孔体としては、エーテル溶媒中でオートクレーブ処理により重合する工程を経て得られたものが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。この炭素多孔体は、粒子の小径化によって粒子間のメソ細孔を増大させることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Energy & Fuels 2014, 28, 1561-1568
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の炭素多孔体では、比表面積が高く、細孔容量も高い値を示し、細孔特性も良好ではあるが、まだ十分でなく、更なる改良が求められていた。また、非特許文献1の炭素多孔体では、粒子間のメソ細孔でり、内部細孔ではないため、比表面積も1000m2/g以下と小さく、十分ではなかった。
【0006】
本開示はこのような課題を解決するためになされたものであり、新規な炭素多孔体を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、芳香族カルボン酸アルカリ金属塩を噴霧乾燥法により作製し、これを焼成することにより、更に好適な細孔特性を有する新規な炭素多孔体が得られることを見いだし、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本開示の炭素多孔体は、
ミクロ細孔とメソ細孔とを含み、温度77Kでの窒素吸着等温線のαsプロット解析により求まるミクロ細孔容量が150(cm3(STP)/g)以上であり、
窒素吸着等温線によるBET比表面積が1500m2/g以上であり、
窒素吸着等温線の相対圧力P/P0が0.10以上0.95以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が400(cm3(STP)/g)以上であり、
窒素吸着等温線の相対圧力P/P0が0.98における窒素吸着量が2050(cm3(STP)/g)以上であるものである。
【0009】
また、本開示の炭素多孔体の製造方法は、
芳香族ジカルボン酸アニオンとアルカリ金属カチオンとを溶解した調製溶液を噴霧乾燥装置を用いて噴霧乾燥することにより、芳香族ジカルボン酸アルカリ金属塩を析出させる析出工程と、
析出した前記芳香族カルボン酸アルカリ金属塩を不活性雰囲気中で800℃以上1000℃以下の範囲で加熱して炭素化させる焼成工程と、
を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、ミクロ細孔とメソ細孔とを含む新規な炭素多孔体を提供することができる。この炭素多孔体では、例えば、原料である芳香族カルボン酸のアルカリ金属塩の結晶構造とリチウムの作用により、特徴的な細孔構造が形成され、通常の賦活処理では得られない、ミクロ細孔とメソ細孔とが存在する構造を有するものと考えられる。また、本開示では、芳香族カルボン酸アルカリ金属塩を用いた従来の炭素多孔体に比して、より大きい細孔容量や比表面積を示す。この理由は、例えば、噴霧乾燥法により得られた芳香族カルボン酸アルカリ金属塩は、特異的な形状を有し、より粒径が小さいため、これを焼成して得られる炭素多孔体は、より良好な細孔物性となるものと推察される。この炭素多孔体は、ミクロ細孔とメソ細孔とを有し、より大きな比表面積を有するため、吸着剤としてはガス吸着速度の向上や、電極活物質としては低温充放電特性の向上など、機能向上が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】炭素多孔体の窒素吸着等温線の一例を示す説明図。
【
図2】実験例1、2の炭素多孔体の窒素吸脱着等温線。
【
図3】実験例1、2のGCMC法により解析された細孔分布曲線。
【
図4】実験例3、4の炭素多孔体の窒素吸脱着等温線。
【
図5】実験例3、4のGCMC法により解析された細孔分布曲線。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(炭素多孔体)
次に、本開示の炭素多孔体を図面を用いて説明する。炭素多孔体は、
図1に示す特徴を有している。
図1は、本明細書で開示する炭素多孔体の窒素吸着等温線の一例を示す説明図である。この炭素多孔体は、ミクロ細孔とメソ細孔とを含み、温度77Kでの窒素吸着等温線のαsプロット解析により求まるミクロ細孔容量が150(cm
3(STP)/g)以上であるものである。この炭素多孔体において、ミクロ細孔容量は、200(cm
3(STP)/g)以上あることが好ましく、210(cm
3(STP)/g)以上あることがより好ましい。また、この炭素多孔体において、ミクロ細孔容量は、400(cm
3(STP)/g)以下であるものとしてもよい。炭素多孔体は、例えば、焼成条件を調整することによって、ミクロ細孔容量や比表面積などの細孔特性を調節することができ、目的の特性を得ることができる。ここで、メソ細孔とは直径が2nmより大きく50nm以下の細孔を示し、ミクロ細孔とは直径が2nm以下の細孔を示すものとする。なお、αsプロット解析では、比較用の標準等温線として、”Characterization of porous carbons with high resolution alpha(s)-analysis and low temperature magnetic susceptibility" Kaneko, K; Ishii, C; Kanoh,H; Hanazawa, Y; Setoyama, N; Suzuki, T ADVANCES IN COLLOID AND INTERFACE SCIENCE vol.76, p295-320(1998)に記載された標準等温線を用いるものとする。
【0013】
炭素多孔体は、窒素吸着等温線によるBET比表面積が1500m2/g以上である。この炭素多孔体において、窒素吸着等温線によるBET比表面積は、1600m2/g以上であることが好ましく、1650m2/g以上であることがより好ましい。BET比表面積は、より大きい方が吸着材としては好ましい。このBET比表面積は、3000m2/g以下であるものとしてもよい。BET比表面積は、目的の吸着特性に応じて、適宜調整するものとすればよい。
【0014】
炭素多孔体は、
図1に示すように、窒素吸着等温線の相対圧力P/P
0が0.10以上0.95以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が400(cm
3(STP)/g)以上である。この窒素吸着等温線の微分値は、吸着等温線における特定の測定点(相対圧P/P
0,窒素吸着量)とその次の測定点との間の窒素吸着量差を相対圧差で除算したものであり、窒素吸着等温線における傾きを表す値である。この炭素多孔体において、相対圧力P/P
0が0.10以上0.20以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が500(cm
3(STP)/g)以上であることが好ましく、550(cm
3(STP)/g)以上であることがより好ましい。また、この窒素吸着等温線の微分値は、3000(cm
3(STP)/g)以下であるものとしてもよい。
【0015】
炭素多孔体は、窒素吸着等温線の相対圧力P/P0が0.20以上0.95以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が400(cm3(STP)/g)以上である。この炭素多孔体において、相対圧力P/P0が0.20以上0.95以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が425(cm3(STP)/g)以上であることが好ましく、450(cm3(STP)/g)以上であることがより好ましい。また、この窒素吸着等温線の微分値は、3000(cm3(STP)/g)以下であるものとしてもよい。
【0016】
炭素多孔体は、窒素吸着等温線の相対圧力P/P0が0.98における窒素吸着量が2050(cm3(STP)/g)以上である。この炭素多孔体において、窒素吸着等温線の相対圧力P/P0が0.98における窒素吸着量は、2100(cm3(STP)/g)以上であることが好ましく、2150(cm3(STP)/g)以上であることがより好ましい。また、この窒素吸着量は3000(cm3(STP)/g)以下であるものとしてもよい。
【0017】
(炭素多孔体の製造方法)
次に、炭素多孔体の製造方法について説明する。この製造方法は、例えば、析出工程と、焼成工程とを含むものとする。また、炭素多孔体の製造方法は、焼成工程のあとに溶出処理工程を含むものとしてもよい。この製造方法では、上述した特徴を有する炭素多孔体を製造することができる。
【0018】
析出工程では、芳香族ジカルボン酸アニオンとアルカリ金属カチオンとを溶解した調製溶液を噴霧乾燥装置を用いて噴霧乾燥することにより、芳香族ジカルボン酸アルカリ金属塩(以下、単に芳香族ジカルボン酸塩とも称する)を析出させる。原料として用いる芳香族ジカルボン酸アニオンは、式(1)~(3)のうち1以上で表される構造を有するものとしてもよい。但し、この式(1)~(3)において、aは1以上5以下の整数であり、bは0以上3以下の整数であり、これらの芳香族化合物は、この構造中に置換基、ヘテロ原子を有してもよい。具体的には、芳香族化合物の水素の代わりに、ハロゲン、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、アシル基、アミド基、水酸基を置換基として持っていてもよいし、芳香族化合物の炭素の代わりに、窒素、硫黄、酸素が導入された構造であってもよい。原料としては、芳香族ジカルボン酸を用いることができる。芳香族カルボン酸としては、複数のベンゼン環が縮合した構造を有する多環芳香族炭化水素(例えばナフタレン)にカルボキシ基が結合したものや、複数のベンゼン環が結合した構造を有する芳香族炭化水素(例えばビフェニル)にカルボキシ基が結合したものなどが挙げられる。具体的には、ビフェニルジカルボン酸アニオン(式(4))及びナフタレンジカルボン酸アニオン(式(5))のうち少なくとも1以上を芳香族カルボン酸アニオンとして用いることが好ましい。また、原料としてのアルカリ金属カチオンは、リチウム、ナトリウム及びカリウムのうち1以上とすることが好ましく、このうちリチウムがより好ましい。このアルカリ金属カチオンは、例えば、水酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩などで供給するものとしてもよく、このうち、水酸化物が好ましい。
【0019】
析出工程では、芳香族ジカルボン酸アニオンの濃度が0.1mol/L以上、より好ましくは、0.2mol/L以上である調製溶液を調製することが好ましい。また、この工程では、芳香族ジカルボン酸アニオンの濃度が5mol/L以下である調製溶液を調製することが好ましい。このような濃度範囲では、次の噴霧乾燥をより行いやすい。この調製溶液の溶媒は、特に限定されないが、水系溶媒としてもよいし、有機系溶媒としてもよいが、水であることが好ましい。この工程では、例えば、芳香族ジカルボン酸アニオンのモル数A(mol)に対するアルカリ金属カチオンのモル数B(mol)であるモル比B/Aが2.0以上、より好ましくは2.2以上である調製溶液を得ることが好ましい。このように、アルカリ金属カチオンを過剰とすることにより、芳香族ジカルボン酸塩を作製しやすい。このモル比B/Aは、2.5以上であるものとしてもよい。また、このモル比B/Aは、3.0以下であるものとしてもよい。
【0020】
析出工程では、調製溶液を噴霧乾燥装置を用いて噴霧乾燥することにより、芳香族ジカルボン酸塩を析出させる。この芳香族ジカルボン酸塩は、芳香族骨格を有するジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と、有機骨格層のカルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体としてもよい。噴霧乾燥は、スプレードライヤーにより行うものとしてもよい。噴霧乾燥条件は、例えば、装置の規模や作製する炭素多孔体の量によって適宜調整すればよい。乾燥温度は、例えば、100℃以上250℃以下の範囲とすることが好ましい。100℃以上では、溶媒を十分に除去することができ、250℃以下では、消費エネルギーをより低減でき好ましい。乾燥温度は、150℃以上が好ましく、180℃以上がより好ましく、225℃以下がより好ましい。また、調製溶液の供給速度(供給液量)は、炭素多孔体を作製する規模にもよるが、例えば、0.02L/分以上0.2L/分以下の範囲としてもよい。この範囲では、調製溶液を噴霧乾燥しやすい。このように噴霧乾燥して芳香族ジカルボン酸塩を作製すると結晶構造がより好ましく、粒径がより小さいものが得られる。得られた芳香族ジカルボン酸塩は、例えば、式(6)に示すものとしてもよい。
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
焼成工程では、芳香族カルボン酸塩を不活性雰囲気中で800℃以上1100℃以下の範囲で加熱して炭素化させる。不活性雰囲気としては、例えば、窒素雰囲気、希ガス雰囲気などが挙げられ、窒素雰囲気が好ましい。焼成温度は、消費エネルギーの観点からはより低い方が好ましく、例えば、1050℃以下が好ましく、1000℃以下がより好ましい。あるいは、焼成温度は、金属成分(例えばリチウムなど)の除去の観点からは、より高い方が好ましく、850℃以上が好ましく、950℃以上がより好ましい。焼成時の保持時間は、例えば50時間以下としてもよい。この焼成時間は、0.5以上が好ましく、3時間以上がより好ましく、5時間以上としてもよい。また、焼成時間は、20時間以下が好ましく、10時間以下がより好ましい。0.5時間以上では、炭素多孔体の構造の形成が十分に行われる。50時間以下では、消費エネルギーをより低減でき好ましい。
【0025】
炭素多孔体の製造方法において、焼成工程のあと、金属成分を溶解可能な洗浄液で洗浄する溶出処理工程、を含むものとしてもよい。この製造方法において、焼成工程によって金属成分が焼失し除去されるが、残存する金属成分をこの溶出処理により更に除去することができる。金属成分を溶解可能な洗浄液としては、例えば、水や酸性水溶液などが挙げられ、このうち酸性水溶液が好ましい。酸性水溶液としては、例えば、塩酸、硝酸、酢酸などの水溶液が挙げられる。こうした洗浄を行うことにより、金属成分が存在していた箇所に空洞が形成されると推察される。
【0026】
得られた炭素多孔体は、吸着材として利用することができる。吸着する物質は、例えば、炭素多孔体の特性に合わせて選択することができる。また、炭素多孔体は、電極活物質として利用することができる。電極活物質として利用する際は、正極、負極に利用することができるが、正極に利用することがより好ましい。
【0027】
以上詳述した本実施形態の炭素多孔体及びその製造方法では、ミクロ細孔とメソ細孔とを含む新規な炭素多孔体を提供することができる。この炭素多孔体では、例えば、原料である芳香族カルボン酸のアルカリ金属塩の結晶構造とリチウムの作用により、特徴的な細孔構造が形成され、通常の賦活処理では得られない、ミクロ細孔とメソ細孔とが存在する構造を有するものと考えられる。また、本開示では、芳香族カルボン酸アルカリ金属塩を用いた従来の炭素多孔体に比して、細孔容量や比表面積がより大きい。この理由は、例えば、噴霧乾燥法により得られた芳香族カルボン酸アルカリ金属塩は、特異的な形状を有し、より粒径が小さいため、これを焼成して得られる炭素多孔体は、より良好な細孔物性となるものと推察される。この炭素多孔体は、ミクロ細孔とメソ細孔とを有し、より大きな比表面積を有するため、吸着剤としてはガス吸着速度の向上や、電極活物質としては低温充放電特性の向上など、機能向上が期待される。
【0028】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0029】
以下には、本開示の炭素多孔体を具体的に製造した例を実験例として説明する。なお、実験例1、3が実施例に相当し、実験例2、4が参考例に相当する。
【0030】
[実験例1]
噴霧乾燥法(SD法)により作製した4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウム(Bph-Li)を原料とする炭素多孔体を合成した。4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムの合成には、出発原料として4,4’-ビフェニルジカルボン酸および水酸化リチウム1水和物(LiOH・H2O)を用いた。0.44mol/Lとなるように水に水酸化リチウムを加え撹拌し、水溶液を調製した。そして、4,4’-ビフェニルジカルボン酸のモル数A(mol)に対する水酸化リチウムのモル数B(mol)であるモル比B/Aが2.2となるように、すなわち、4,4’-ビフェニルジカルボン酸が0.20mol/Lとなるように水溶液を調製した。調製した水溶液を用いてスプレードライヤー(Mini Spray Dryer B-290、日本ビュッヒ製)を用いて噴霧乾燥させ、4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムを析出させた。用いたスプレードライヤーのノズル直径は1.4mm、溶液の噴霧量は0.4L/時間、乾燥温度は150℃で行った。得られた4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムの1.0gを窒素中で、焼成温度を1000℃とし、5時間加熱して炭素と一部金属成分を含む炭素多孔体を得た。焼成条件は、内径60mmのアルミナ製炉心管と電気炉とからなる管状炉を用い、窒素流量を2L/分とした。得られた炭素多孔体を水中に分散し、さらに過剰量の塩酸を添加することで、多孔体中に残存する金属成分を溶出させる溶出処理を行った。残渣である炭素をろ別乾燥することで、実験例1の炭素多孔体を得た。
【0031】
[実験例2]
溶液混合法により作製した4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムを原料とする炭素多孔体を合成した。出発原料として4,4’-ビフェニルジカルボン酸および水酸化リチウム1水和物(LiOH・H2O)を用いて、水酸化リチウム1水和物(0.556g)にメタノール(100mL)を加え撹拌した後に4,4’-ビフェニルジカルボン酸1.0gを加え、1時間撹拌した。その後、撹拌後溶媒を除去し、真空下150℃で16時間乾燥することにより、白色の粉末試料の4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムを得た。これを用いた以外は、実験例1と同様の処理を行い得られた炭素多孔体を実験例2とした。
【0032】
[実験例3]
噴霧乾燥法により作製した2,6-ナフタレンジカルボン酸ジリチウム(Naph-Li)を原料とする炭素多孔体を合成した。原料を2,6-ナフタレンジカルボン酸及び水酸化リチウム1水和物とした以外は、実験例1と同様の工程を経て、得られた炭素多孔体を実験例3とした。
【0033】
[実験例4]
溶液混合法により作製した2,6-ナフタレンジカルボン酸ジリチウムを原料とする炭素多孔体を合成した。原料を2,6-ナフタレンジカルボン酸および水酸化リチウム1水和物とした以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた炭素多孔体を実験例4とした。
【0034】
(窒素吸着等温線測定)
実験例1~4の各炭素多孔体について、液体窒素温度(77K)における窒素吸着測定を行い、窒素吸脱着等温線を求めた。この窒素吸脱着等温線から、細孔特性を算出した。窒素吸着等温線は、カンタクローム社製Autosorb-1を用いて測定を行い、吸着量の解析を行った。吸着側の測定結果を用い、BET法により、比表面積を求めた。また、この窒素吸着等温線において、特定の測定点とその次の測定点との間の窒素吸着量差を相対圧差で除算し、窒素吸着等温線の微分値(傾き)を求めた。また、αsプロット解析において、プロット外挿直線の切片の値により、ミクロ細孔容量(cm3(STP)/g)を求めた。なお、αsプロット解析では、比較用の標準等温線として、“Characterization of porous carbons with high resolution alpha(s)-analysis and low temperature magnetic susceptibility” Kaneko, K; Ishii, C; Kanoh, H; Hanazawa, Y; Setoyama, N; Suzuki, T ADVANCES IN COLLOID AND INTERFACE SCIENCE vol.76, p295-320(1998)に記載された標準等温線を用いた。また、測定結果をGCMC法により解析して、細孔分布曲線を得た。
【0035】
(結果と考察)
測定結果を
図2~5及び、表1に示す。
図2は、実験例1、2の炭素多孔体の窒素吸脱着等温線である。
図3は、実験例1、2のGCMC法により解析された細孔分布曲線である。
図4は、実験例3、4の炭素多孔体の窒素吸脱着等温線である。
図5は、実験例3、4のGCMC法により解析された細孔分布曲線である。表1には、実験例1~4の原料、BET比表面積(m
2/g)、αsプロットによるミクロ孔とメソ孔との比表面積(m
2/g)及び細孔容量(cm
3(STP)/g)、吸着等温線の微分値(傾き)、相対圧力が0.98の窒素吸着量(cm
3(STP)/g)をまとめて示した。
【0036】
図2、3、表1に示すように、実験例1では、比較的良好な特性を示す実験例2に比して、比表面積(m
2/g)、ミクロ孔及びメソ孔の細孔容量(cm
3(STP)/g)、等温線該当区間の傾き、相対圧力0.98の窒素吸着量(cm
3(STP)/g)などが更に高い値を示し、更に良好な細孔特性を示すことがわかった。このように、スプレードライ法で得られた4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムを炭素多孔体の原料に用いると、更なる細孔特性の向上を図ることができることが明らかとなった。
【0037】
図4、5、表1に示すように、実験例3では、比較的良好な特性を示す実験例4に比して、比表面積(m
2/g)、ミクロ孔及びメソ孔の細孔容量(cm
3(STP)/g)、等温線該当区間の傾き、相対圧力0.98の窒素吸着量(cm
3(STP)/g)などが更に高い値を示し、更に良好な細孔特性を示すことがわかった。このように、スプレードライ法で得られた2,6-ナフタレンジカルボン酸ジリチウムを炭素多孔体の原料に用いると、更なる細孔特性の向上を図ることができることが明らかとなった。
【0038】
より具体的には、実験例1,3では、温度77Kでの窒素吸着等温線のαsプロット解析により求まるミクロ細孔容量が150(cm3(STP)/g)以上、より好ましくは210(cm3(STP)/g)以上を示した。また、実験例1,3では、窒素吸着等温線によるBET比表面積が1500m2/g以上、より好ましくは1600m2/g以上を示した。また、実験例1,3では、窒素吸着等温線の相対圧力P/P0が0.10以上0.95以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が400(cm3(STP)/g)以上を示した。更に、実験例1,3では、相対圧力P/P0が0.10以上0.20以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が500(cm3(STP)/g)以上を示し、相対圧力P/P0が0.20以上0.95以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が450(cm3(STP)/g)以上を示した。更に、実験例1,3では、 窒素吸着等温線の相対圧力P/P0が0.98における窒素吸着量が2050(cm3(STP)/g)以上、より好ましくは2100(cm3(STP)/g)以上を示した。このように、実験例1、3では、実験例2,4の従来の芳香族カルボン酸アルカリ金属塩を用いた炭素多孔体に比して、より大きい細孔容量や比表面積を示した。この理由は、例えば、噴霧乾燥法により得られた芳香族カルボン酸アルカリ金属塩は、特異的な形状を有し、より粒径が小さいため、これを焼成して得られる炭素多孔体は、より良好な細孔物性となるものと推察された。この炭素多孔体は、ミクロ細孔とメソ細孔とを有し、より大きな比表面積を有するため、吸着剤としてはガス吸着速度の向上や、電極活物質としては低温充放電特性の向上など、機能向上が得られるものと推察された。
【0039】
【0040】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本明細書で開示する炭素多孔体及びその製造方法は、炭素材料の製造に関する技術分野に利用可能である。