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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】光導波路素子
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/125 20060101AFI20221129BHJP
   G02F 1/01 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
G02B6/125
G02F1/01 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019046148
(22)【出願日】2019-03-13
(65)【公開番号】P2020148897
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】片岡 優
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 徳一
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-096886(JP,A)
【文献】特開平11-167032(JP,A)
【文献】特開平08-036114(JP,A)
【文献】特開2009-186881(JP,A)
【文献】特開平09-033740(JP,A)
【文献】特開2004-287093(JP,A)
【文献】特開2011-164388(JP,A)
【文献】特開2012-078508(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0120633(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12 - 6/14
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に光導波路が形成され、該光導波路は、信号光を導波する主導波路と、該主導波路から放出される不要光を導波する不要光用導波路とを備えた光導波路素子において、
該不要光用導波路に接続され、該不要光用導波路を伝搬した不要光を基板外に放出するための放出用導波路が形成され、
該放出用導波路の実効屈折率は、該不要光用導波路の実効屈折率より高く設定され、
該不要光用導波路と該放出用導波路の接続部では、該不要光用導波路の中心線に対して、該放出用導波路の中心線が、該主導波路からより離れる方向に傾斜しており、
また、該接続部において、該不要光用導波路の中心線の位置に対して、該放出用導波路の中心線の位置が、該主導波路からより離れる位置にずれて配置され
さらに、該接続部において、該不要光用導波路と該放出用導波路が形成する曲げ部分に対し、該曲げ部分の外側に位置する側辺は、該不要光用導波路と該放出用導波路との間では連続部分が形成されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光導波路素子において、該放出用導波路の幅は、該不要光用導波路の幅よりも広く設定することで、実効屈折率をより高く設定されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項3】
請求項2に記載の光導波路素子において、該放出用導波路の該不要光用導波路が接続する側の端部には、導波路幅が変化する遷移領域を有することを特徴とする光導波路素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光導波路素子において、該主導波路の光波の伝搬方向に対し、該放出用導波路の配置された位置よりも後方に、該主導波路の分岐部または合波部が配置されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の光導波路素子において、該基板の厚さが20μm以下であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光導波路素子において、該連続部分は一直線状であることを特徴とする光導波路素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路素子に関し、特に、基板に光導波路が形成され、該光導波路は、信号光を導波する主導波路と、該主導波路から放出される不要光を導波する不要光用導波路とを備えた光導波路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信分野や光計測分野において、光変調器などのように基板に光導波路を形成した光導波路素子が多用されている。光導波路の形成方法としては、石英、ニオブ酸リチウム、半導体材料などの基板に、Tiなどの金属を熱拡散して形成する方法や、リッジ型の凸状部を形成して光導波路を形成する方法などが知られている。
【0003】
光導波路は、マッハツェンダー型光導波路のように、分岐部や合波部を備えている。また、近年では、多値変調や偏波合成などに対応して、例えば、複数のマッハツェンダー型光導波路を入れ子状に組み合わせたネスト型導波路のように、一つの基板上に複数のマッハツェンダー型光導波路を配置した光導波路素子も実用化されている。
【0004】
光導波路を分岐する際には、適正な分岐比を得るため、また、分岐部からの漏洩光を抑制するため、図1の分岐部の前段の光導波路に、光導波路を伝搬している高次モード光を除去するための不要光用導波路aを配置することが提案されている。
【0005】
また、光導波路を合波する際には、合波部から放出される放射モード光を効果的に除去するため、図1に示すように、合波部に不要光用導波路bを配置することも提案されている。
【0006】
上述したように複数のマッハツェンダー型光導波路を一つの基板内に組み込んだ場合、光導波路の一部から放出される不要光が、図1の点線領域A又はBのように、光導波路の他の部分に結合し、光学特性を悪化させる原因となる。また、マッハツェンダー型光変調器では、ON/OFF消光比などの光学特性が劣化する原因ともなる。さらに、特許文献1では、不要光用導波路が主導波路を跨いで分断された構成例が示されているが、高度に集積された光導波路素子において、不要光用導波路の延長線上に沿うような形で主導波路を配置する場合があり、そのようなケースでは不要光混入のリスクがより高くなる。
【0007】
しかも、基板の厚みが薄い場合、例えば、20μm以下の厚みを有する場合には、不要光が基板内に閉じ込められ易く、基板が500μm以上のように十分な厚みを備える場合と比較し、主導波路と再結合する割合は極めて高くなる。
【0008】
不要光用導波路上に金属膜などの光吸収部材を配置し、不要光を吸収することも行われている。しかしながら、金属膜などの光吸収部材を配置する場所が限定されること、光導波路素子の製造プロセス上、光吸収材として使用可能な材料も限られることなどから、十分な光吸収作用を発揮することが困難となっている。
【0009】
このため、特許文献1においては、図1に示すように、基板の長手方向の側端部に沿って不要光を集光する不要光集光導波路cを設け、不要光用導波路による不要光の除去を効率的に行うこと提案した。
【0010】
また、不要光用導波路(a,b)を不要光集光導波路に接続する際には、不要光用導波路(a,b)の曲がりを大きくすることで、基板の長手方向の長さを短くでき、光導波路素子のサイズを小型化することが可能となる。しかしながら、図2及び3に示すように、光導波路を急激に曲げると漏洩光も増え、不要光を効率的に不要光集光導波路に集めることが困難となる。なお、図2はシミュレーションに用いた光導波路の形状を示す図であり、図3は、シミュレーション結果を示す図である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2015-096886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、不要光用導波路が導波する不要光を効率よく基板外に放出可能であり、光導波路素子自体を小型化することが可能な光導波路素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の光導波路素子は、以下のような技術的特徴を有する。
(1) 基板に光導波路が形成され、該光導波路は、信号光を導波する主導波路と、該主導波路から放出される不要光を導波する不要光用導波路とを備えた光導波路素子において、該不要光用導波路に接続され、該不要光用導波路を伝搬した不要光を基板外に放出するための放出用導波路が形成され、該放出用導波路の実効屈折率は、該不要光用導波路の実効屈折率より高く設定され、該不要光用導波路と該放出用導波路の接続部では、該不要光用導波路の中心線に対して、該放出用導波路の中心線が、該主導波路からより離れる方向に傾斜しており、また、該接続部において、該不要光用導波路の中心線の位置に対して、該放出用導波路の中心線の位置が、該主導波路からより離れる位置にずれて配置され、さらに、該接続部において、該不要光用導波路と該放出用導波路が形成する曲げ部分に対し、該曲げ部分の外側に位置する側辺は、該不要光用導波路と該放出用導波路との間では連続部分が形成されていることを特徴とする。
【0014】
(2) 上記(1)に記載の光導波路素子において、該放出用導波路の幅は、該不要光用導波路の幅よりも広く設定することで、実効屈折率をより高く設定されていることを特徴とする。
【0015】
(3) 上記(2)に記載の光導波路素子において、該放出用導波路の該不要光用導波路が接続する側の端部には、導波路幅が変化する遷移領域を有することを特徴とする。
【0016】
(4) 上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の光導波路素子において、該主導波路の光波の伝搬方向に対し、該放出用導波路の配置された位置よりも後方に、該主導波路の分岐部または合波部が配置されていることを特徴とする。
【0017】
(5) 上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の光導波路素子において、該基板の厚さが20μm以下であることを特徴とする。
(6) 上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の光導波路素子において、該連続部分は一直線状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、基板に光導波路が形成され、該光導波路は、信号光を導波する主導波路と、該主導波路から放出される不要光を導波する不要光用導波路とを備えた光導波路素子において、該不要光用導波路に接続され、該不要光用導波路を伝搬した不要光を基板外に放出するための放出用導波路が形成され、該放出用導波路の実効屈折率は、該不要光用導波路の実効屈折率より高く設定され、該不要光用導波路と該放出用導波路の接続部では、該不要光用導波路の中心線に対して、該放出用導波路の中心線が、該主導波路からより離れる方向に傾斜しており、また、該接続部において、該不要光用導波路の中心線の位置に対して、該放出用導波路の中心線の位置が、該主導波路からより離れる位置にずれて配置され、さらに、該接続部において、該不要光用導波路と該放出用導波路が形成する曲げ部分に対し、該曲げ部分の外側に位置する側辺は、該不要光用導波路と該放出用導波路との間では連続部分が形成されているため、不要光用導波路のみで光路を曲げた場合と比較し、光導波路からの漏洩光を抑制しながら、より大きく光路を曲げることができる。これにより、不要光用導波路が導波する不要光を効率よく基板外に放出可能であり、光導波路素子自体を小型化することが可能な光導波路素子を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】従来の光導波路素子の一例を示す図である。
図2】従来の光導波路における曲げによる漏洩光を調べるためのシミュレーションモデルを示す図である。
図3図2のモデルによるシミュレーション結果を示す図である。
図4】本発明の光導波路素子の一例を示す図である。
図5図4の点線枠Dにおける光導波路の形状を説明する図である。
図6】本発明の光導波路における曲げによる漏洩光を調べるためのシミュレーションモデルを示す図である。
図7図6のモデルによるシミュレーション結果を示す図である。
図8】本発明の光導波路素子に係る光導波路の他の形状(その1)を説明する図である。
図9】本発明の光導波路素子に係る光導波路の他の形状(その2)を説明する図である。
図10】本発明の光導波路素子に係る光導波路の他の形状(その3)を説明する図である。
図11】本発明の光導波路素子に係る光導波路の他の形状(その4)を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を好適例を用いて詳細に説明する。
本発明の光導波路素子は、図4及び5に示すように、基板(1)に光導波路(2)が形成され、該光導波路は、信号光を導波する主導波路と、該主導波路から放出される不要光を導波する不要光用導波路(図4のb1、b2,図5のE1)とを備えた光導波路素子において、該不要光用導波路(E1)に接続され、該不要光用導波路を伝搬した不要光を基板外に放出するための放出用導波路(E2)が形成され、該放出用導波路の実効屈折率は、該不要光用導波路の実効屈折率より高く設定され、該不要光用導波路と該放出用導波路の接続部(S)では、該不要光用導波路(E1)の中心線(EC1)に対して、該放出用導波路(E2)の中心線(EC21)が、該主導波路からより離れる方向(図5の上方向)に傾斜しており、さらに、該接続部において、該不要光用導波路の中心線の位置(c1)に対して、該放出用導波路の中心線の位置(c2)が、該主導波路からより離れる位置(図5の上側)にずれて配置されていることを特徴とする。なお、図5は、図4の点線枠Dにおける光導波路の一例を説明する図である。
【0021】
本発明の光導波路素子を構成する基板としては、石英、ニオブ酸リチウム、半導体材料など光導波路を基板に形成できる材料であれば、特に限定されない。光変調器等の電極が形成する電界で光導波路を伝播する光波を変調する場合には、ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムなどの電気光学効果を有する基板を用いることが好ましい。また、20μm以下の薄い基板を用いる場合には、通常は不要光が基板内を導波し易くなる。これに対し、本発明を適用することにより、不要光用導波路と放出用導波路で光導波路の曲げを大きくできるだけでなく、光導波路からの漏洩光も抑制でき、基板内を伝搬する不要光の量を効果的に抑制することができる。
【0022】
光導波路の形成方法としては、Ti等の金属を基板中に熱拡散し、基板材料より高屈折率な部分を形成する方法や、基板表面に凹凸を形成しリッジ型導波路を構成する方法などが適用可能である。
【0023】
本発明の光導波路素子に係る不要光用導波路は、図4に示すような、光導波路の合波部で発生する放射モード光を導波する光導波路(b1,b2)だけでなく、図1に示すような、光導波路から高次モード光を除去するために設けた不要光用導波路(a)を用いることも可能である。
【0024】
本発明の光導波路素子は、図5に示すように、放出用導波路(E2)の幅(W2)は、不要光用導波路(E1)の幅(W1)よりも広く設定することで、容易に、実効屈折率をより高く設定することが可能となる。
【0025】
また、本発明の光導波路素子において、図5に示すように、放出用導波路(E2)の不要光用導波路が接続する側の端部(接続部Sから符号F1の位置の範囲)には、導波路幅が変化する遷移領域を有していることが好ましい。このような遷移領域が存在することで、光波が円滑に光導波路を伝搬することが可能となり、光導波路外に漏洩する光波も抑制することが可能となる。
【0026】
また、図5に示すように、不要光用導波路(E1)の下辺(主光導波路の曲げ部分の外側に位置する側辺)と放出用導波路(E2)の下辺とを接続部Sを介して一直線状に形成している。このような連続部分を設けることは、光導波路の曲げ部分の外側方向に漏洩する漏洩光を抑制する効果を奏する。
【0027】
図6は、図5の光導波路の形状における漏洩光の発生状況をシミュレーションするため、モデルとなる光導波路の形状を示す図である。そして、図7は、図6の光導波路のモデルにおける漏洩光の発生状況を示す結果である。図3図6とを比較することで、本発明に適用される光導波路の形状は、漏洩光の発生がより抑制されていることが、容易に理解される。
【0028】
本発明の光導波路素子では、不要光に係る光導波路の曲げ部分を大きくすることができるため、図4に示すように、主導波路の光波の伝搬方向に対し、放出用導波路の配置された位置よりも後方に、該主導波路の分岐部(不図示)または合波部を配置することが可能となる。このような場合では、図1に示すような、不要光に係る光導波路が他の分岐部や合波部と重なることや、近接することなどが防止できる。
【0029】
図8図11は、本発明の光導波路素子に適用可能な種々の光導波路の形状を説明する図である。
図8では、図5の不要光用導波路E1と放出用導波路E2とを、光軸と交差する方向に相対的にずらしたものである。このように放出用導波路E2を基板の長手方向の側部に近づけることができ、光導波路の長さもより短く構成することが可能となる。
【0030】
図9は、放出用導波路E2の形状を、図5の直線的な曲げ(F1)から、曲線的な曲げ(F2)に変更したものである。放出用導波路E2は、不要光用導波路E1よりも幅が広く、実効屈折率もより高くなるため、曲げの曲率半径をより小さくすることが可能となる。
【0031】
図10は、放出用導波路E2に接続する不要光用導波路(E1)にテーパ形状(T)を設け、遷移領域を付加したものである。このような、遷移領域を不要光用導波路にも設けることで、より円滑に光波を伝搬させることが可能となる。
【0032】
図11は、不要光用導波路(E1)にも曲げ部分(G1)を設けたものである。不要光用導波路は放出用導波路よりも幅が狭いため、放出用導波路ほどの曲げは不可能であるが、曲げ部分をより多くすることで、不要光に係る光導波路全体の長さを短くすることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上のように、本発明に係る光導波路素子によれば、不要光用導波路が導波する不要光を効率よく基板外に放出可能であり、光導波路素子自体を小型化することが可能な光導波路素子を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0034】
1 基板
2 主導波路
E1 不要光用導波路
E2 放出用導波路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11