(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】車両用ファンモータ制御装置
(51)【国際特許分類】
B60H 1/32 20060101AFI20221129BHJP
【FI】
B60H1/32 626F
B60H1/32 626E
(21)【出願番号】P 2019070543
(22)【出願日】2019-04-02
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】用皆 正寿
(72)【発明者】
【氏名】上野 晶久
(72)【発明者】
【氏名】反田 大介
(72)【発明者】
【氏名】山田 耕太郎
【審査官】奈須 リサ
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-029129(JP,A)
【文献】特開2015-115984(JP,A)
【文献】特開2002-063946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/00-3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルーム(2)内の雰囲気温度情報を取得して前記エンジンルーム内に配置される冷却用ファン(13)を回転させるファンモータ(12)の駆動を制御するもので
バッテリ(23)に接続される電源線(21)及びグランド線(22)と、
装置内部の温度を検出する温度センサ(17)とを備え、
前記エンジンルーム内の雰囲気温度と前記
装置内部の温度との差に応じて、
当該内部の結露発生状態を推定
し、
車両のイグニッションスイッチのオンオフ情報を取得し、
前記イグニッションスイッチがオフされると監視時間の経過後に前記エンジンルーム内の雰囲気温度と前記装置内部の温度とを比較し、両者の温度差が所定値以上であれば前記ファンモータを回転させる車両用ファンモータ制御装置。
【請求項2】
前記両者の温度差が所定値未満になると、前記ファンモータの回転を停止させてスタンバイモードに移行する請求項
1記載の車両用ファンモータ制御装置。
【請求項3】
前記ファンモータを回転させる方向を、車両の種類に応じて設定する請求項
1又は
2記載の車両用ファンモータ制御装置。
【請求項4】
前記電源線及びグランド線が接続されるコネクタ(20)を備え、
前記温度センサは、回路基板に接続されている前記コネクタの端子の近傍に配置されている請求項1から
3の何れか一項に記載の車両用ファンモータ制御装置。
【請求項5】
金属製の筐体(14,19)を備え、
前記温度センサは、前記筐体を前記エンジンルーム内に固定するための取付部(31R)に配置されている請求項1から
3の何れか一項に記載の車両用ファンモータ制御装置。
【請求項6】
前記エンジンルーム内の雰囲気温度情報を取得するための専用端子(TI)を備える請求項1から
5の何れか一項に記載の車両用ファンモータ制御装置。
【請求項7】
前記専用端子に接続され、前記エンジンルーム内の雰囲気温度を検出する温度センサ(44)を備える請求項
6記載の車両用ファンモータ制御装置。
【請求項8】
前記冷却
用ファンは、車両用ラジエータ(5)及びコンデンサ(6)を冷却するファンである請求項1から
7の何れか一項に記載の車両用ファンモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のファンモータを制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンルーム内の温度は、走行中でありエンジンが動作している間は、冷却水の循環や走行風等により冷却が行われるため上昇がある程度抑制されている。しかし、車両が走行を停止すると冷却が行われなくなり、エンジンルーム内の温度はしばらくの間高い状態が維持される。この時、外気温度が低い場合は、ボデーフレームやエンジンルームの内外に引き回されているハーネス等が冷却され、それらからの熱引きによりエンジンルーム内に配置されている装置に結露が発生し、腐食の原因となることがある。このような結露を防止する技術として、例えば特許文献1,2に開示されているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-29129号公報
【文献】特開2015-115984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術では、高価な湿度センサを用いて結露の発生量を予測し、エアコンディショナを作動させているため、コストアップに繋がる。また、特許文献2に開示されている技術では、外気温度の情報を得て結露が発生しないように電子部品を自己発熱させるものである。この場合、個々の構成要素毎に結露対策を行う必要がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、低コストで、エンジンルーム内に配置されている構成要素について一括して結露対策を行うことができる車両用ファンモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の車両用ファンモータ制御装置は、エンジンルーム内に配置される冷却用ファンを回転させるファンモータの駆動を制御する際に、温度センサにより装置内部の温度を検出し、取得したエンジンルーム内の雰囲気温度と検出した温度との差に応じて内部の結露発生状態を推定する。すなわち、結露は温度差がある程度大きくなった際に、その温度差がある界面に発生する。したがって、このように構成すれば、高価な湿度センサを用いることなく装置内部の結露発生状態を推定し、必要に応じて対策を行うことができる。
【0007】
また、請求項1記載の車両用ファンモータ制御装置によれば、車両のイグニッションスイッチがオフされると、監視時間の経過後にエンジンルーム内の雰囲気温度と装置内部の温度とを比較し、両者の温度差が所定値以上であればファンモータを回転させる。すなわち、イグニッションスイッチがオフされた時点では、エンジンルーム内の雰囲気温度は高い状態にあり、その熱容量の大きさから温度が高い状態は比較的長く維持される。
【0008】
一方、制御装置は、エンジンルームに比較して熱容量が小さい。加えて、バッテリに接続される電源線及びグランド線が装置の外部に露出しているため、これらが外気により冷却されることで内部の温度が低下し易くなる。したがって、イグニッションスイッチがオフされた時点からある程度の時間が経過すると、上記の要因により両者間の温度差が生じることで制御装置の内部に結露が発生し始める状態にあると推定できる。そこで、ファンモータを回転させて送風を行うことで、結露の発生を防止できる。
【0009】
請求項2記載の車両用ファンモータ制御装置によれば、両者の温度差が所定値未満になるとファンモータの回転を停止させてスタンバイモードに移行するので、不要な電力の消費を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態であり、車両のエンジンルームの内部に配置される構成を、モデル的に示す図
【
図2】冷却ファンモータユニットの構成を、制御装置のみ断面で示す側面図
【
図3】金属カバーの一部を破断させて示す制御装置の平面図
【
図4】イグニッションスイッチがオフされた際に、制御装置が冷却される状態を説明する図
【
図5】冷却ファンモータユニットの構成を中心に示す機能ブロック図
【
図6】制御装置の制御回路による処理内容を示すフローチャート
【
図7】
図6に示す処理内容に対応するタイミングチャート
【
図8】第2実施形態であり、金属カバーの一部を破断させて示す制御装置の平面図
【
図9】第3実施形態であり、冷却ファンモータユニットの構成を中心に示す機能ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
図1に示すように、車両1が備えるエンジンルーム2の内部には、エンジン3と共に冷却ファンモータユニット4,ラジエータ5及びコンデンサ6等が配置されている。
図2に示すように、冷却ファンモータユニット4は、制御装置11,ファンモータ12及び冷却用ファン13を有している。冷却用ファン13は、ラジエータ5及びコンデンサ6に送風を行うことでこれらを冷却する。
【0012】
制御装置11の内部では、プリント基板15がヒートシンク14にねじ16により固定されている。ヒートシンク14とプリント基板15との間には、放熱材30が介在している。プリント基板15には、温度センサ17やその他の面実装部品18等が搭載されている。金属カバー19は、プリント基板15を覆うようにヒートシンク14に取り付けられている。プリント基板15は回路基板に相当する。また、ヒートシンク14及び金属カバー19は筐体に相当する。
【0013】
制御装置11の
図2中上方には、コネクタ20を介して電源線21及びグランド線22が接続されている。電源線21及びグランド線22は、
図5に示す車両1に搭載されているバッテリ23に接続されており、制御装置11に電源を供給する。ファンモータ12は、ヒートシンク14の外部側,
図2中の右側に取り付けられており、ファン13は、ファンモータ12の図示しない回転軸に取り付けられている。尚、温度センサ17は、プリント基板15においてコネクタ20の端子がはんだ付けされている領域の近傍に配置されている。
【0014】
図5に示すように、制御装置11は、制御回路24,駆動回路25及び平滑回路26等を有している。制御回路24は、マイクロコンピュータ等で構成され、エンジン3を制御するエンジンECU27と信号線28を介して接続されている。駆動回路25は、例えば3相インバータ回路であり、制御回路24によりスイッチング制御されてファンモータ12を駆動する。平滑回路26は、電源線21に接続されており、バッテリ23より供給される電源電圧を平滑して駆動回路25に供給する。
【0015】
制御回路24は、信号線28を介してエンジンECU27と直接入出力する通信,所謂ジカ線又は車内LAN(Local Area Network)により通信を行う。これにより、制御回路24は、例えば図示しないイグニッションスイッチのオンオフや、エンジン3の回転数やエンジンルーム2の内の雰囲気温度等の情報を取得する。
【0016】
次に、本実施形態の作用について説明する。
図6に示すように、制御装置11の制御回路24は、イグニッションスイッチがオンされてバッテリ23から電源が供給されると動作を開始し、初期化を行うと(S1)通常制御に移行する(S2)。そして、イグニッションスイッチがオンされている間は(S3;NO)通常制御を実行する。尚、
図7に示すように、制御装置11は、通常制御においてはファンモータ12を駆動してファン13を回転させており、それらの回転速度制御を行っている。
【0017】
イグニッションスイッチがオフされると(S3;YES)、監視時間が経過した後温度情報を取得する(S4)。ここで「監視時間」は例えば30秒~1分程度であり、取得する「温度情報」は、エンジンルーム2の内の雰囲気温度TA及び温度センサ17により検出された制御装置11内部の温度TBである。
【0018】
次に、制御回路24は、温度差(=TA-TB)が判定値以上か否かを判断する(S5)。ここで「判定値」は、例えば3℃~25℃程度である。イグニッションスイッチがオフされて、エンジン3が停止した直後のエンジンルーム2及び制御装置11内部の温度は、例えば100℃程度の高温になっている。そして、エンジン3は熱容量が大きいので、エンジンルーム2内の温度は直ぐには低下しない。
【0019】
一方、制御装置11は、エンジン3に比較して熱容量が小さい。加えて、制御装置11には電源線21及びグランド線22が接続されており、
図3及び
図4に示すように、これらは制御装置11の外部に露出している部分が外気に晒された状態にある。これにより、制御装置11の内部が「熱引き」されるため温度が低下し易い。これらの際により、制御装置11内部の温度は、エンジンルーム2の雰囲気温度よりも速く低下する。そして、両者の温度差がある程度大きくなると、低温側となる制御装置11の内部には、結露が発生し始める。尚、
図3には、制御装置11の内部に結露が発生している状態を破線で示している。
【0020】
そこで、制御回路24は、上記の温度差が判定値以上であれば(YES)、結露の発生を防止するためにファンモータ12の回転速度制御を継続する(S6)。そして、再度監視時間が経過した後温度情報を取得して(S7)、温度差が判定値以上か否かを判断する(S8)。温度差が判定値以上であれば(YES)ステップS6に戻る。
【0021】
ステップS8において温度差が判定値未満になると(NO)、制御装置11の内部に結露が発生することは回避されたと判断し、制御回路24はファンモータ12,ファン13を停止させる(S9)。それから、監視時間が経過した後にスタンバイモードに移行する(S10)。また、ステップS5において「NO」と判断した場合もステップS9に移行する。
【0022】
以上のように本実施形態によれば、制御装置11は、エンジンルーム2内に配置される冷却用ファン13を回転させるファンモータ12の駆動を制御する際に、温度センサ17により内部の温度を検出し、取得したエンジンルーム2内の雰囲気温度と検出した温度との差に応じて内部の結露発生状態を推定する。このように構成すれば、高価な湿度センサを用いることなく、制御装置11内部の結露発生状態を推定し、必要に応じて対策を行うことができる。
【0023】
そして、制御装置11は、イグニッションスイッチがオフされると、監視時間の経過後にエンジンルーム2内の雰囲気温度と装置内部の温度とを比較し、両者の温度差が所定値以上であればファンモータ12を回転させる。このように、ファン13を回転させて送風を行うことで結露の発生を防止できる。また、制御装置11は、両者の温度差が所定値未満になるとファンモータ12の回転を停止させてスタンバイモードに移行するので、不要な電力の消費を抑制できる。
【0024】
また、電源線21及びグランド線22が接続されるコネクタ20を備え、温度センサ17を、プリント基板15に接続されているコネクタ20の端子の近傍に配置したので、電源線21及びグランド線22の「熱引き」によって、温度が顕著に低下する部分の状態を検出できる。加えて、車両1に搭載されるラジエータ5及びコンデンサ6を冷却するファン13を用いるので、制御装置11を冷却するために別途ファンを設ける必要がなくなる。
【0025】
(第2実施形態)
以下、第1実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、異なる部分について説明する。
図8に示すように、制御装置11は、本体をエンジンルーム2内にある機構部に固定するため、ヒートシンク14より外方に延設された取付部31L,31R,31Uを備えている。これらの取付部31には、ねじ止め用の穴が開いており、制御装置11は上記の機構部にねじ止めにより固定される。
【0026】
図示しないが、制御装置11が取り付けられる機構部は、一般に制御装置11よりも熱意容量が大きいため、取付部31を介して制御装置11の放熱が行われ易く、取付部31の温度は低下し易い。そこで、第2実施形態では、温度センサ17を例えば取付部31Rに配置する。このように構成した場合も、制御装置11は、取付部31Rの「熱引き」によって温度が顕著に低下する部分の状態を検出できる。
【0027】
(第3実施形態)
図9に示すように、第3実施形態の冷却ファンモータユニット41は、制御回路24に替わる制御回路42を備えている。制御装置43は入力端子TIを備えており、その入力端子TIには、エンジンルーム2内の雰囲気温度を検出する温度センサ44が接続されている。入力端子TIは専用端子に相当する。制御回路42は、入力端子TIを介して温度センサ44が検出したエンジンルーム2内の雰囲気温度を直接取得する。このように構成すれば、制御回路42は、エンジンECU27との通信を行うことなく、エンジンルーム2内の雰囲気温度を取得できる。
【0028】
(その他の実施形態)
ファンモータを回転させる方向は、車両の種類に応じて設定すれば良い。すなわち、エンジンルーム内の各機構部の配置等により、当該ルーム内に吸気する方向に回転させる場合と、当該ルーム外に排気する方向に回転させる場合とを選択的に設定すれば良い。
制御装置を冷却するために、専用のファンを設けても良い。
時間や温度の具体数値は、個別の設計に応じて適宜変更すれば良い。
【0029】
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0030】
図面中、1は車両、2はエンジンルーム、3はエンジン、4は冷却ファンモータユニット、5はラジエータ、6はコンデンサ、11は制御装置、12はファンモータ、13は冷却用ファン、14はヒートシンク、15はプリント基板、17は温度センサ、19は金属カバー、20はコネクタ、21は電源線、22はグランド線、23はバッテリを示す。