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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】電磁係合装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 27/01 20060101AFI20221129BHJP
   F16D 27/108 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
F16D27/01
F16D27/108 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019092751
(22)【出願日】2019-05-16
(65)【公開番号】P2020186789
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【弁理士】
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【弁理士】
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】水野 祥宏
(72)【発明者】
【氏名】土屋 英滋
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】実公昭48-2506(JP,Y1)
【文献】特開昭57-25524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 27/01-27/115
F16D 49/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1永久磁石と、コイルと、該コイルへの通電の向きにより磁極の向きを反転できる第2永久磁石と、前記第2永久磁石の磁極の向きの反転により前記第1磁石及び前記第2磁石の磁束の流れる磁路を変化させることで係合と解放とを切り替える電磁係合装置において、
前記第1永久磁石と前記第2永久磁石とコイルとが配設される第1移動体と、
前記第1移動体に対して係合状態と解放状態とが切換制御される対象の第2移動体と、
前記第1移動体を移動可能に支持する固定体と、
前記第1移動体と前記固定体との間隙に形成され、電流の往路と復路の一部を構成する一対のコンデンサと、
前記一対のコンデンサを介して前記コイルに第1方向の電流と、該第1方向とは反対方向の第2方向の電流とを供給する給電装置と
を有することを特徴とする電磁係合装置。
【請求項2】
前記給電装置は、前記一対のコンデンサの前記固定体側の一対の給電端に駆動電圧を供給する状態と、前記一対の給電端間を短絡させる切換素子を有することを特徴とする請求項1に記載の電磁係合装置。
【請求項3】
前記給電装置は、前記一対のコンデンサの前記固定体側の一対の給電端に駆動電圧を印加するための電源の電圧を検出し、該電源が開放された場合には、前記一対の給電端間を短絡させる短絡制御素子を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電磁係合装置。
【請求項4】
前記給電装置は、入力信号に応じて前記コイルに前記第1方向に通電する第1状態と、前記第2方向に通電する第2状態とで切換える切換回路を有することを特徴とする請求項1に記載の電磁係合装置。
【請求項5】
前記第2移動体は、前記係合状態に制御された時には前記磁束が前記第2移動体を貫通して前記第1永久磁石及び前記第2永久磁石に戻り、前記解放状態に制御された時には前記磁束が前記第2移動体を貫通せずに前記第1永久磁石及び前記第2永久磁石に戻るように構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の電磁係合装置。
【請求項6】
前記第1移動体と前記第2移動体との対向面の少なくとも一方の面に設けられたアーマチュアであって、前記係合状態に制御された時にはアーマチュアが設置された側の移動体と対向する移動体に対して摩擦力を与えるように移動制御されるアーマチュアを有し、前記磁束が前記アーマチュアを貫通し又は貫通しないことで移動制御されるアーマチュアを有することを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の電磁係合装置。
【請求項7】
前記第1移動体は回転軸を有し、前記固定体に回転可能に軸支された回転体であり、前記一対のコンデンサは前記回転軸及び前記固定体側の軸受に間隔を隔ててリング状に形成された電極を有することを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の電磁係合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁係合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に開示されているように、保持力の大きい第1永久磁石と保持力が小さく容易に磁極を反転できる第2永久磁石とを用いた電磁係合装置が知られている。その装置では、第2永久磁石の極性をコイルを流れる電流の向きにより反転させ、磁束が流れる磁路を変更することでアーマチュアをヨークに係合(吸着)した状態と、解放した状態とで切換えられるようにした装置である。
【0003】
また、特許文献2においては、特許文献1と同様な原理を用いてアーマチュアの係合と解放とを切換えられるようにした電磁ブレーキが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6304124号
【文献】特開平01-303331
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示の機構は、保持力の大きい第1永久磁石と極性を反転させる第2永久磁石と、第2永久磁石の極性を反転させるためのコイルとは、固定体側に設けられている。このため、2つの物体のうち一方が固定体であれば、第1永久磁石と第2永久磁石とコイルは、固定体側に設ければ給電の問題は解決する。
しかし、係合させる側と係合される側とが共に回転体などの移動体である場合には、給電方法が問題となり、移動体への給電構造を工夫する必要がある。一般的にはスリップリングとブラシとで移動体に直流を供給する方法、移動体と固定体とのギャップを介して交流給電して移動体の側で整流する方法とがある。前者の方法は磨耗が問題となり、後者の方法は整流回路が必要となるという問題がある。また、両者共に切換時にのみ間欠給電させるようにしても、電力損失は大きいという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、構造が簡単で電力損失の少ない電磁係合装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための発明の構成は、第1永久磁石と、コイルと、該コイルへの通電の向きにより磁極の向きを反転できる第2永久磁石と、第2永久磁石の磁極の向きの反転により第1磁石及び第2磁石の磁束の流れる磁路を変化させることで係合と解放とを切り替える電磁係合装置において、第1永久磁石と第2永久磁石とコイルとが配設される第1移動体と、第1移動体に対して係合状態と解放状態とが切換制御される対象の第2移動体と、第1移動体を移動可能に支持する固定体と、第1移動体と固定体との間隙に形成され、電流の往路と復路の一部を構成する一対のコンデンサと、一対のコンデンサを介してコイルに第1方向の電流と、該第1方向とは反対方向の第2方向の電流とを供給する給電装置とを有することを特徴とする電磁係合装置である。
【0008】
本発明は、第1移動体と固定体との間に形成される一対のコンデンサに注目して、このコンデンサを介してパルス給電をすることが可能であり、このパルス給電の電流の向きにより第2永久磁石は磁極を反転でき、その磁極反転状態が給電なしに保持できるという着想に基づくものである。すなわち、一対のコンデンサを介する給電は、コンデンサに充電されるまので期間だけコイルに電流が流れ、その期間を過ぎるとコイルには電流は流れないという点に着目している。すなわち、これにより消費電力を減少できる。
【0009】
上記構成において、給電装置は、一対のコンデンサの固定体側の一対の給電端に駆動電圧を供給する状態と、一対の給電端間を短絡させる切換素子を有しても良い。この場合には給電電流の反転を一対のコンデンサに充電された電荷により行うことができる。この点においても低消費電力化が実現される。
また、給電装置は、一対のコンデンサの固定体側の一対の給電端に駆動電圧を印加するための電源の電圧を検出し、該電源が開放された場合には、一対の給電端間を短絡させる短絡制御素子を有するようにしても良い。これにより意図せずに電源が遮断された場合に、第2永久磁石の磁極の向きを所定の方向に反転させることができ、電磁係合装置の電源断時に電磁係合装置を所定の解放状態又は係合状態に確保することができる。
【0010】
また、給電装置は、入力信号に応じてコイルに第1方向に通電する第1状態と、第2方向に通電する第2状態とで切換える切換回路を有するようにしても良い。すなわち、第1状態と第2状態とで電流の向きを切り換えることにより、第1移動体と第2移動体との係合状態と解放状態とが切り換え制御できる。
【0011】
上記発明において、第2移動体は、係合状態に制御された時には磁束が第2移動体を貫通して第1永久磁石及び第2永久磁石に戻り、解放状態に制御された時には磁束が第2移動体を貫通せずに第1永久磁石及び第2永久磁石に戻るように構成されていても良い。この構成の場合には、第1移動体と第2移動体とを機械的に係合又は解除するためのアーマチュアなどの移動体を設ける必要がなく、構造が簡単となる。
さらに、第1移動体と第2移動体との対向面の少なくとも一方の面に設けられたアーマチュアであって、係合状態に制御された時にはアーマチュアが設置された側の移動体と対向する移動体に対して摩擦力を与えるように移動制御されるアーマチュアを有し、磁束がアーマチュアを貫通し又は貫通しないことで移動制御されるアーマチュアを有するようにしても良い。すなわち、磁路の切り換え制御により、アーマチュアを移動制御してアーマチュアの摩擦力により第1移動体と第2移動体との係合状態と解放状態とを切り換え制御するようにしても良い。この構成では、アーマチュアは第1移動体に設けられる場合と、第2移動体に設けられる場合と、両者に設けられる場合とが想定される。
また、第1移動体は回転軸を有し、固定体に回転可能に軸支された回転体であり、一対のコンデンサは回転軸及び固定体側の軸受に間隔を隔ててリング状に形成された電極を有するように構成しても良い。対向する電極間の間隙に容量を大きくする比誘電率の大きい絶縁性の物質や粒子や液体を充填させても良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、構造が簡単で電力消費を低減させた電磁係合装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例1に係る電磁係合装置において、係合状態にある電磁係合装置を示した構造図。
図2】同実施例装置におけるアーマチュアが解放された状態を示した構造図。
図3】同実施例装置の給電装置の回路図。
図4】同実施例装置の一対のコンデンサとコイルと抵抗とから成る等価回路。
図5】同実施例装置による駆動電圧とコイルに通電される電流を示した波形図。
図6】同実施例装置による他の給電装置の回路図。
図7】実施例2に係る電磁係合装置の係合状態を示した構成図。
図8】実施例2に係る電磁係合装置の解放状態を示した構成図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照して説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
1.電磁係合装置の構造
図1図2は本発明の具体的な一実施例に係る電磁係合装置の構成図である。本発明の電磁係合装置100は、電磁気力により係合と解放とが切換制御できる機構であれば、特に限定されるものではないが、本実施例では、例えば、回転力を伝達する電磁クラッチを想定している。電磁係合装置100は、回転体である第1移動体1と回転体である第2移動体2とを有する。
【0016】
第1移動体1と第2移動体2が共に回転体であり、第1移動体(第1回転体)1には、第1永久磁石10と第2永久磁石20と、第2永久磁石20の磁極を反転させるコイル30と、第1永久磁石10と第2永久磁石20の出力する磁束を誘導するヨーク32とが設けられている。第2移動体(第2回転体)2の第1移動体1と対向する面21には、アーマチュア40が摺動可能に設けられている。また、アーマチュア40を第2移動体2の側に付勢するスプリング34が第2移動体2に設けられている。なお、図1、2は電磁係合装置100の機構に注目して表現した概念図であり、実際の電磁クラッチの詳細な構造には幾つかの構造が提案されている。例えば、本出願人による特許第6304124号に開示の構造をした電磁クラッチを用いることができる。
【0017】
第1移動体1の回転を軸支する固定体4が設けられており、図示しない軸の外周に絶縁体を介してリング状の一対の電極35a、35bと、これらの電極を囲むように、軸受け側に絶縁体を介してリング状の一対の対向電極36a、36bとが設けられている。電極35aと対向電極36aとでコンデンサAが形成され、電極35bと対向電極36bとでコンデンサBが形成されている。コンデンサA、Bは微小ギャップを隔てて対向する一対の金属電極により形成れるが、容量を大きくするためにギャップに比誘電率の大きな潤滑油やBaTiO3 粒子を充填したり、軸受けを樹脂で構成する場合には比誘電率の大きい粒子を混在させても良い。固定体4に設けられた給電装置50から、第1移動体1に設けられたコイル30は、この一対のコンデンサA、Bを介して第1方向及びこの方向とは逆の第2方向に通電されるように制御される。第1永久磁石10には保持力が大きく着磁に大きな磁場が必要なネオジム磁石、第2永久磁石20には保持力が小さく容易に磁化されるアルニコ磁石を用いることができる。
【0018】
2.給電装置
次に給電装置50の一例を図3に示す。また、コイル30に供給される電流路の等価回路を図4に示す。また、一対のコンデンサA、Bの給電端a、b間に印加される駆動電圧E(t)とコイル30を流れる電流i(t)の波形を図5に示す。コンデンサAの給電端aに駆動電圧E(t)が印加される。給電装置50は本電磁係合装置100の係合と解放とを指令する切換スイッチ(切換素子)51を有している。コンデンサAの給電端aに電圧を印加する時には切換スイッチ51を電源Eの側に接続する。また、コンデンサAの給電端aをグランドレベルにする時には切換スイッチ51をグランド側に切換える。これにより図5(a)に示す波形の駆動電圧E(t)を得ることができる。切換スイッチ51は入力信号に応じてオンオフ動作するトランジスタを用いた切換回路であっても良い。作業者又は電気信号により、駆動電圧E(t)を発生させて、電磁結合装置100の係合と解放とを制御することができる。
【0019】
図4の等価回路において、コンデンサA、Bの容量を、それぞれ2C、コイル30のインダクタンスをL、線路に意図的に挿入された抵抗をRとする。給電装置50から出力される図5(a)に示す駆動電圧E(t)が、一対のコンデンサA、Bの給電端a、b間に印加される時のコイル30に流れる電流i(t)は、(1)式で表される。
【数1】
【数2】
【数3】
【0020】
0 は、駆動電圧が印加されていない時のコンデンサAの端子間電圧とコンデンサBの端子間電圧との和の初期値である。駆動電圧Eが時刻t1 で立上がる時の初期値は0とする。電流が流れた後には一対のコンデンサA、Bは充電され、充電が完了すると電流は0となり、コンデンサAの端子間電圧とコンデンサBの端子間電圧との和の電圧は-Eとなる。また、抵抗RとコンデンサA、Bの容量2Cは、図5(b)に示す電流波形の幅と波高値が第2永久磁石20の極性を反転させるに適性な値となるように設定されている。すなわち、(1)式の時間積分が第2永久磁石20の磁極の反転に必要な値となるように、コイル30のインダクタンスL、抵抗R、コンデンサA、Bの容量2Cが決定されている。
【0021】
次に、駆動電圧Eが時刻t2 で立下がり、コンデンサA、Bの給電端a、b間電圧が0となると、この時刻までにコンデンサA、Bに充電された電荷が放電される。この時、コンデンサAとコンデンサBの電荷による電圧は-Eである。(1)において、E=-E、E=0と置いた式が成立する。電流i(t)は図5(b)に示すように、時刻t2 で立下がる。すなわち、第2方向の負方向に電流はコイル30を瞬間的に流れる。この電流により第2永久磁石20は磁極の極性が反転できるように、抵抗RとインダクタンスLとコンデンサ2Cの値が決定されている。すなわち、駆動電圧の立上がり時の磁極の反転と同様に、(1)式の時間積分が磁極の反転に必要な値となるように、それぞれの値が設定されている。
【0022】
3.作用
本電磁係合装置100を駆動する駆動電圧Eは図5(a)に示す電圧となる。図5(a)に示す駆動電圧E(t)が一対のコンデンサA、Bの給電端a、b間に印加される時刻t1 から時刻t2 までの期間が、アーマチュア40がヨーク32に係合して、第1移動体1と第2移動体2とが係合状態となる期間である。コイル30に流れる電流i(t)は(1)式で表され、図5(b)に示す波形となる。電流i(t)は駆動電圧E(t)が立上がる時刻t1 で急峻に流れ、駆動電圧E(t)が立下がる時刻t2 において急峻に立下がる波形となる。時刻t2 では切換スイッチ51がグランド側に切り換えられる。この時、一対のコンデンサA、Bの給電端a、b間電圧は0となる。コンデンサA、Bには、時刻t2 以前の駆動電圧E(t)の印加により電荷が充電されているので、この電荷の放電により第2方向の負方向に電流は流れる。この波形は図5(b)に示され、時刻t2 で電流は負方向に急峻に流れる。
【0023】
図5(b)に示すように時刻t1 で第1方向の正電流がコイル30に流れると、磁極が図1に示す向きになるように、第2永久磁石20は磁化される。第1永久磁石10の極性と第2永久磁石20の極性は図面上において同一向きとなる。このため、第1永久磁石10のN極及び第2永久磁石20のN極から出た磁束は、反発してヨーク32を通りアーマチュア40に漏れる。アーマチュア40に漏れた磁束はアーマチュア40を通過して第1永久磁石10のS極と第2永久磁石20のS極に帰還する。この結果、アーマチュア40はスプリング34の付勢力に抗して移動し、ヨーク32に吸着される。これにより、第1移動体1と第2移動体2とは係合状態となる。
【0024】
次に、図5(a)に示すように駆動電圧Eが時刻t2 で立下がると、コイル30を流れる電流は第2方向の負方向に流れる。すなわち、図2に示すように、第1永久磁石10のN極から出力された磁束は、ヨーク32を通り第2永久磁石20のS極に入り、その第2永久磁石20のN極からヨーク32を通り第1永久磁石10のS極に終結する。このように、第1永久磁石10と第2永久磁石20とによるヨーク32内を通過する一巡の磁束流路が形成される。この時、磁束はヨーク32の外部には漏洩しない。そのため、アーマチュア40はスプリング34の付勢力によりヨーク32から離れる方向に移動する。これにより第1回転体2と第2回転体3との係合が解除される。次に、駆動電圧E(t)を立上げれば、第1永久磁石10と第2永久磁石20の磁極の向きは、図1に示すようになり、第1回転体1と第2回転体2とは再び結合状態となる。このようにして切換スイッチ51の操作により第1回転体1と第2回転体とを係合状態と解放状態とで切換えることができる。
【0025】
4.電源遮断時の制御
本給電装置50には、駆動電圧を発生させる電源が不用意に遮断された場合に、本電磁係合装置100は解放状態になるような安全制御機能が装備されている。図3に示す給電装置50において、トランジスタTr2のゲートには電源電圧Eが入力されており、そのドレインはトランジスタTr1のゲートに入力している。トランジスタTr1のソースは接地され、ドレインは駆動電圧Eを供給する線路52に接続されている。電源が正常に供給されている場合には、トランジスタTr2はオン状態、トランジスタTr1はオフ状態にある。したがって、駆動電圧E(t)は切換スイッチ51の接続状態に応じて電源Eから供給される。トランジスタTr1とトランジスタTr2とで構成される回路が短絡制御素子を構成している。
【0026】
正の駆動電圧E(t)がコンデンサAに供給されている時(図5(a)の時刻t1 と時刻t2 との期間)、すなわち、電磁係合装置100が係合状態にある場合において電源Eが不用意に供給されなくなった場合には、トランジスタTr2はオフ状態、トランジスタTr1はオン状態となる。この結果、線路52を強制的にグランドレベルにすることができる。この結果、閉回路が形成されて、コンデンサA、Bに充電されていた電荷の放電によりコイル30には第2方向の負方向に電流が流れ、第2永久磁石20の磁極の向きを図2の向きにして、第1回転体1と第2回転体2とを解放状態とすることができる。
第2永久磁石20の磁極の向きと通電方向との関係を上記の説明と逆にすれば、第1移動体1と第2移動体2とが解放状態で制御されている時に、不用意に電源が落ちた場合に、係合状態に切り換えることができる。
【0027】
5.給電装置の他の例
図6にその回路図を示す。図3の回路では解放状態にする場合には、コンデンサA、Bの給電端子間を短絡して、係合状態においてコンデンサA、B6に充電されていた電荷を用いて、第2方向の負方向の電流を流す例であった。本回路では解放状態にする場合にも負の駆動電圧をパルス給電するようにした例である。図6において、トランジスタTr11とトランジスタTr12とがカスコード接続されている。トランジスタTr11のドレインと正電源VD との間にリレーコイルR1が挿入されており、トランジスタTr12のドレインと負電源(-VD )との間にはリレーコイルR2が挿入されている。また、トランジスタTr11、Tr12とソースは接地されている。リレーコイルR1により駆動されるリレー接点S1は正駆動電源V0 とコンデンサAの給電端aとの間に配設されている。また、リレーコイルR2により駆動されるリレー接点S2は負駆動電源(-V0 )とコンデンサAの給電端aとの間に配設されている。また、コンデンサBの給電端bは接地されている。
【0028】
本電磁係合装置を駆動する入力信号がトランジスタTr11、Tr12のゲートに入力すると。入力信号がHレベルの時、トランジスタTr11はオン、入力信号の反転入力をゲートに入力しているトランジスタTr12はオフとなる。これによりコンデンサAの給電端aには駆動電圧+V0 が印加される。これによりコンデンサAの給電端aから駆動電圧+V0 が印加されて、図5(b)に示すように第1方向の正方向に電流はコイル30を流れる。その結果、上記したように第1移動体1と第2移動体とは係合状態となる。また、入力信号がLレベルとなるとトランジスタTr11はオフし、トランジスタTr12はオンする。これによりコンデンサAの給電端aから駆動電圧(-V0 )が印加されて、図5(b)に示すように第2方向の負方向に電流はコイル30を流れる。その結果、上記したように第1移動体1と第2移動体2は解放状態となる。コンデンサA、Bの給電端a、b間には駆動電圧が常時印加されるが、コイル30には常時は電流は流れないので、省電力化が達成される。
【0029】
また、図6の回路において、トランジスタTr11とトランジスタTr12とのゲートの入力を分離して独立させて、別々のパルス信号を入力させるようにしても良い。トランジスタTr12の入力にはインバータを設けない。この場合には、図5の時刻t1 において電磁係合装置を係合状態にする場合には、この時刻でパルス信号を入力信号としてトランジスタTr11のゲートに供給し、時刻t2 において解除状態にする場合には、この時刻t2 においてパルス信号を入力信号としてトランジスタTr12のゲートに供給することになる。この回路では、入力信号がHレベルの短いパルス期間だけトランジスタTr11、Tr12が動作するだけであるので、給電回路の消費電力を削減することができる。上記のトランジスタTr11とトランジスタTr12及びリレーコイルR1、R2、リレー接点S1、S2とによる回路で切換回路が構成されている。
【0030】
上記の例では、駆動電圧が正で、電流がコイル30を第1方向の正方向に流れる場合を電磁係合装置の係合状態とし、駆動電圧がグランドレベル又は負電圧とし、電流がコイル30を第2方向の負方向に流れるの場合を解放状態としたが、これを反対にしても良い。すなわち、図5の時刻t1 が解除状態にする時刻、時刻t2 が係合状態にする時刻としても良い。この場合には不用意に電源が開放された場合には、第1移動体1と第2移動体2とは係合状態に保持されたり、第1移動体1の回転が第2移動体により制動される。
【実施例2】
【0031】
実施例1は係合に寄与する移動するアーマチュアを有する例である。本実施例2は、移動するアーマチュアを有せずに、第1移動体(第1回転体)1と第2移動体(第2回転体)2とを係合状態と解放状態にする例である。図7は第1移動体1と第2移動体2とが係合状態にある構成を示し、図8は第1移動体1と第2移動体2とが解放状態にある構成を示す。この構成では、第2移動体2は第1移動体1の方向には移動せずに静止し、第1移動体1と第2移動体2との対向面は間隙を隔てて対面している。図7に示すように第1永久磁石10と第2永久磁石20のN極から出力された磁束は反発して、ヨーク32を第2移動体2の方向に向かい、第2移動体2に間隙を介して漏洩する。そして、その磁束は第2移動体2を通過して、間隙を介して第1移動体1のヨーク32に戻り、第1永久磁石10のS極と第2永久磁石20のS極に帰還する。図7の係合状態においては、第2移動体20は磁束により第1移動体10の回転に同期して回転する。または、第2移動体の回転に制動性を付与すれば、第1移動体1の回転は徐々に制動されることになる。
【0032】
本発明は2つの回転体間の係合と解放だけでなく、直線移動する移動体間の係合と解放の2状態制御に用いることも可能である。また、回転力を伝達する電磁クラッチの他、一方の回転体を回転粘性のある回転体とすることで係合時に、他方の回転体を徐々に減速させる電磁ブレーキとすることも可能である。また、第2移動体の慣性を大きくすることで、回転を滑らかに伝達するイナーシャダンパーとして用いることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は2つの移動体間で係合状態と解放状態とを切換え制御できる装置として用いることができる。
【符号の説明】
【0034】
100…電磁係合装置
1…第1移動体
2…第2移動体
10…第1永久磁石
20…第2永久磁石
30…コイル
32…ヨーク
40…アーマチュア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8