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特許7183989バルブ制御装置、真空バルブおよびバルブ制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】バルブ制御装置、真空バルブおよびバルブ制御方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 13/02 20060101AFI20221129BHJP
   F16K 51/02 20060101ALI20221129BHJP
   G05B 11/36 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
G05B13/02 A
F16K51/02 Z
G05B11/36 N
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019139006
(22)【出願日】2019-07-29
(65)【公開番号】P2021022224
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】小崎 純一郎
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-112263(JP,A)
【文献】特開2009-199209(JP,A)
【文献】特開2001-129647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 1/00 - 7/04
G05B 11/00 -13/04
G05B 17/00 -17/02
G05B 21/00 -21/02
F16K 51/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブの弁体開度に依存するパラメータに対応して設定されたフィードバックゲインが記憶される記憶部と、
前記フィードバックゲインに基づいて前記弁体開度をフィードバック制御するフィードバック制御器と、を備え、
前記フィードバックゲインは、
弁体駆動系の主要振動に起因する前記フィードバック制御器の振動的な周波数における感度関数の大きさの極大値が制御安定性に関する所定基準値以下となるように、設定されている、バルブ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のバルブ制御装置において、
前記パラメータは、弁体開度に対応する実効排気速度とバルブが装着されるチャンバの容積とから算出される時定数の逆数、前記実効排気速度および前記弁体開度のいずれかである、バルブ制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のバルブ制御装置において、
前記フィードバック制御器の伝達関数は、前記バルブを含む排気系プラントに基づいて設定される静的なゲイン補正処理と前記フィードバックゲインとを含む、バルブ制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のバルブ制御装置において、
前記フィードバックゲインは、前記パラメータに対して単調減少に設定されている、バルブ制御装置。
【請求項5】
弁体と、
前記弁体を駆動する弁体駆動部と、
前記弁体駆動部を制御して前記弁体の開度をフィードバック制御する請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のバルブ制御装置と、を備える真空バルブ。
【請求項6】
目標圧力に対する圧力偏差に基づいて弁体開度をフィードバック制御するバルブ制御方法において、
前記フィードバック制御のフィードバックゲインGfbは、
弁体駆動系の主要振動(ωc)に起因する前記フィードバック制御の振動的な周波数(ω_min)における感度関数Gs(jω)の大きさの極大値|Gs(jω_min)|が制御安定性に関する所定基準値以下となるように、設定されている、バルブ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブ制御装置、真空バルブおよびバルブ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CVD装置等の真空処理装置では、プロセスチャンバと真空ポンプとの間に調圧用の真空バルブ(例えば、特許文献1参照)を設け、真空バルブの開度を制御してチャンバ圧力を所定圧力に自動調整するようにしている。そのような真空バルブでは、チャンバの目標設定圧Psと検出圧Prとの差(圧力偏差)に対して制御器(比例要素や積分要素)にて設定開度信号を生成し、弁体開度がその設定開度値になるように弁体を駆動するフィードバック制御が行われている。
【0003】
その際、特許文献1では、弁体開度変化量に対する圧力変化量の特性が弁体開度に応じて異なるので、開度変化量と圧力変化量との関係を表すプラントゲインを用いて補正処理を行っている。このようなゲイン補正処理を行うことによって弁体開度依存性が小さくなり、異なる圧力領域において同一のフィードバック制御パラメータ値で良好な圧力制御応答が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-112263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したゲイン補正処理は静的特性のゲイン補正に留まり、動的特性のゲイン補正ができていない。そのため、圧力領域(目標圧力値)によっては圧力応答が振動的になりやすく、圧力制御の安定性に問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によるバルブ制御装置は、バルブの弁体開度に依存するパラメータに対応して設定されたフィードバックゲインが記憶される記憶部と、前記フィードバックゲインに基づいて前記弁体開度をフィードバック制御するフィードバック制御器と、を備え、前記フィードバックゲインは、弁体駆動系の主要振動に起因する前記フィードバック制御器の振動的な周波数における感度関数の大きさの極大値が制御安定性に関する所定基準値以下となるように、設定されている。
本発明の第2の態様による真空バルブは、弁体と、前記弁体を駆動する弁体駆動部と、前記弁体駆動部を制御して前記弁体の開度をフィードバック制御する上記バルブ制御装置と、を備える。
本発明の第3の態様によるバルブ制御方法は、目標圧力に対する圧力偏差に基づいて弁体開度をフィードバック制御するバルブ制御方法において、前記フィードバック制御のフィードバックゲインは、弁体駆動系の主要振動に起因する前記フィードバック制御の振動的な周波数における感度関数の大きさの極大値が制御安定性に関する所定基準値以下となるように、設定されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フィードバック制御の制御安定性を確保しつつ応答性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、バルブ装置の概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、フィードバック制御系の伝達関数ブロック図である。
図3図3は、開度θと実効排気速度Seとの関係を示す図である。
図4図4は、伝達関数G3(S)の振幅に関するボード線図を示す図である。
図5図5は、伝達関数G2(S)の振幅に関するボード線図を示す図である。
図6図6は、伝達関数G1(S)の振幅に関するボード線図を示す図である。
図7図7は、ナイキスト線図による安定性評価を説明する図である。
図8図8は、伝達関数G1’(S) の振幅に関するボード線図を示す図である。
図9図9は、伝達関数G3’(S) の振幅に関するボード線図を示す図である。
図10図10は、開ループ伝達関数G_opn(S)の伝達関数ブロック図である。
図11図11は、コーナー周波数(Se/V)と感度関数Gs(jω)との関係を示す図である。
図12図12は、コーナー周波数(Se/V)の各値において設定すべきGfb(Se/V)の上限値を表すラインL2を示す図である。
図13図13は、変形例1を示す図である。
図14図14は、変形例2を示す図である。
図15図15は、変形例3を示す図である。
図16図16は、変形例4を示す図である。
図17図17は、変形例5を示す図である。
図18図18は、変形例6を示す図である。
図19図19は、第1の実施の形態および変形例1~6における調圧制御器の構成を示す図である。
図20図20は、第2の実施の形態における調圧制御器の構成を示す図である。
図21図21は、フィードバック制御の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
-第1の実施の形態-
図1は、真空処理装置に装着された真空バルブの概略構成を示すブロック図である。真空バルブは、弁体12が設けられたバルブ本体1と、弁体駆動を制御するバルブ制御装置2とから構成される。バルブ本体1は、真空チャンバ3と真空ポンプ4との間に装着されている。真空チャンバ3には、流量コントローラ32を介してプロセスガス等のガスが導入される。流量コントローラ32は真空チャンバ3に導入されるガスの流量Qinを制御する装置であり、真空チャンバ3が設けられている真空処理装置のメインコントローラ(不図示)により制御される。真空チャンバ3内の圧力(チャンバ圧力)は真空計31によって計測される。
【0010】
バルブ本体1には、弁体12を開閉駆動するモータ13が設けられている。なお、図1に示す例では弁体12をスライドして開閉駆動する構成としたが、本発明は、これに限らず種々の開閉形態の真空バルブに適用することができる。弁体12は、モータ13により揺動駆動される。モータ13には、弁体12の開閉角度を検出するためのエンコーダ130が設けられている。エンコーダ130の検出信号は、弁体12の開度信号θr(以下では、開度計測値θrと称することにする)としてバルブ制御装置2に入力される。
【0011】
バルブ本体1を制御するバルブ制御装置2は、調圧制御器21、モータ駆動部22および記憶部23を備えている。記憶部23には、バルブ制御に必要なパラメータ(後述するフィードバックゲインGfbを含む)が記憶される。モータ駆動部22はモータ駆動用のインバータ回路とそれを制御するモータ制御部と備え、エンコーダ130からの開度計測値θrが入力される。調圧制御器21には、真空計31で計測されたチャンバ圧力Prが入力されると共に、上述した真空処理装置のメインコントローラから真空チャンバ3の目標圧力Psが入力される。
【0012】
調圧制御器21は、計測されるチャンバ圧力Prが目標圧力Psとなるように弁体12の開度θを制御するための開度θsetをモータ駆動部22へ出力する。モータ駆動部22は、調圧制御器21から入力された開度θsetとエンコーダ130から入力された弁体12の開度計測値θrとに基づいて、弁体12の開度θが開度θsetとなるようにモータ13を駆動する。バルブ制御装置2は、例えば、CPU,メモリ(ROM,RAM)および周辺回路等を有するマイコン等の演算処理装置を備え、ROMに記憶されているソフトウェアプログラムにより、調圧制御器21およびモータ駆動部22のモータ制御部の機能を実現する。記憶部23はマイコンのメモリにより構成される。また、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のデジタル演算器とその周辺回路により構成しても良い。
【0013】
図2は、本実施の形態におけるフィードバック制御系の伝達関数ブロック図である。特許文献1に記載の従来のフィードバック制御においては、図2の構成の内、調圧制御器系の伝達関数にて排気系プラントの静的な影響のみしか考慮していなかった。一方、本実施の形態では、弁体駆動系の伝達関数G2(S)、および排気系プラントの伝達関数G3(S)を導入し、これら2つの動的な影響を考慮して調圧制御器系の伝達関数G1(S)の最適化を図った上で、このような3つの制御ブロックにより調圧フィードバック制御を行うようにした。
【0014】
[排気系プラントの伝達関数G3(S)]
排気系プラントの伝達関数G3(S)の導出について説明する。チャンバ圧力Prに関しては、通常、次式(1)で示す排気の式が成立する。
Qin=V×(dPr/dt)+Se×Pr …(1)
【0015】
式(1)において、左辺のQinは真空チャンバ3への導入ガス流量である。式(1)の右辺において、Vは真空チャンバ3の容積、dPr/dtはチャンバ圧力Prの時間微分、Seは真空チャンバ3の排気に関する真空排気系の実効排気速度である。実効排気速度Seは、チャンバ構造および弁体12の開度θrにより決まるコンダクタンスと、真空ポンプ4の排気速度とで決まる量である。弁体12の開度θと実効排気速度Seとの関係は、一般的に図3に示すような単調増加の関係にある。
【0016】
排気系プラントの伝達関数G3(S)は、目標圧力Psに収束したある平衡状態(状態0)の近傍にて微小変化するとして、排気の式(1)を線形化およびラプラス変換することで得られる。平衡状態(状態0)におけるPr,Qin,Seおよびθrを、それぞれP0,Qin0,Se0およびθ0のように表す。平衡状態の近傍におけるPr,Qin,Seおよびθrは、微小変化量ΔP,ΔQin,ΔSeおよびΔθを用いて、Pr=P0+ΔP、Qin=Qin0+ΔQin、Se=Se0+ΔSe、θr=θ0+Δθのように表される。
【0017】
上述した平衡状態の近傍におけるPr,Qin,Se,θrを排気の式(1)に適用すると、平衡状態(状態0)の近傍において線形化した排気の式(2)が得られる。
ΔQin =V×(d(ΔP)/dt)+Se0×ΔP+P0×ΔSe …(2)
ここで、平衡状態ではQin0=Se0×P0、dP0/dt=0であることを用いると共に、ΔSe×ΔPを二次微小量として無視した。
【0018】
平衡状態(状態0)の近傍におけるΔSeはΔSe=(∂Se/∂θ|状態0)×Δθと表されるので、式(2)は次式(3)のようになる。なお、(∂Se/∂θ|状態0)は、平衡状態(状態0)における∂Se/∂θの値を表す。
ΔQin =V×(d(ΔP)/dt)+Se0×ΔP+P0×(∂Se /∂θ|状態0)×Δθ
…(3)
【0019】
さらに、式(3)に対してラプラス変換を施すと、d/dtはラプラス変換の複素変数Sで置き換えられ、次式(4)が得られる。ただし、ラプラス変換後の各量の表記は変換前の表記と同じとした。
ΔQin =V×ΔP×S+Se0×ΔP+P0×(∂Se/∂θ|状態0)×Δθ …(4)
【0020】
式(4)は式(5)のように変形できる。
ΔP/P0={ΔQin /P0-(∂Se/∂θ|状態0)×Δθ}/(V×S+Se0) …(5)
式(5)は、ΔQinおよびΔθと圧力応答ΔPとの関係を示している。ここで、ΔQinは外乱入力であり、Δθが制御入力である。
【0021】
式(5)において制御入力Δθによる圧力応答ΔPのみに着目すると、式(5)は次式(6)のように表される。
ΔP/P0=-{1/(V×S+Se0)}×(∂Se/∂θ|状態0)×Δθ …(7)
式(7)をさらに変形すると、式(8)が得られる。
ΔP/Δθ=-[P0×(∂Se/∂θ|状態0)/Se0] /[(V/Se0)×S+1] …(8)
すなわち、排気系プラントの一次系の伝達関数G3(S)は次式(9)で表される。
G3(S)=-ΔP/Δθ
=[P0×(∂Se/∂θ|状態0)/Se0] /[(V/Se0)×S+1] …(9)
【0022】
式(9)においてS=jω(ωは角振動数(角周波数)、jは虚数)とおいて周波数領域の伝達関数G3(jω)に変換すると、式(10)になる。
G3(jω)=[P0×(∂Se/∂θ|状態0)/Se0] /[(V/Se0)×jω+1] …(10)
式(10)の右辺で角周波数ωをω→0とした場合は、G3(jω)=P0×(∂Se/∂θ|状態0)/Se0となる。ここで、(∂Se/∂θ|状態0)/Se0は、特許文献1に記載のプラントゲインGp=(dSe/dθ)/Seそのものである。すなわち、Gpは静的なプラントゲインを表しており、式(9)に示した伝達関数G3(S)は動的なプラントゲインを表している。
【0023】
式(9)において、(∂Se/∂θ|状態0)/Se0の部分を静的なプラントゲインGpで置き換えると式(11)になる。
G3(S)=[P0×Gp] /[(V/Se0)×S+1] …(11)
前述したように平衡状態(状態0)は目標圧力Psに収束した状態なので、目標圧力Psにおける開度をθsとすると、式(9)におけるP0,θ0はPs,θsで置き換えることができる。また、平衡状態(状態0)における実効排気速度Se0およびプラントゲインGpをSe(θ0)およびGp(θ0)と表すと、Se(θ0)=Se(θs)、Gp(θ0)=Gp(θs)なので、式(11)は次式(12)のように表されることになる。伝達関数G3(S)の振幅に関するボード線図の一例を図4に示す。
G3(S)=[Ps×Gp(θs)] / [S×V/Se(θs)+ 1] …(12)
【0024】
[弁体駆動系の伝達関数G2(S)]
弁体駆動系は、慣性モーメントを有する弁体12をモータ13で旋回駆動し、エンコーダ130で検出した開度検出値θrが設定開度θsetになるようにフィードバック制御する系である。なお、図2では図示していないが、弁体駆動系によるフィードバック制御は、調圧制御系による調圧制御のフィードバックループに対してマイナーループとなっている。
【0025】
弁体駆動系の運動方程式は、弁体12の慣性モーメントをIp、弁体12の回転角速度をΩ、抵抗係数をB、モータの駆動トルクをTとすると「Ip×(dΩ/dt)+B×Ω=T」のように表される。さらに設定開度θsetと実開度(開度検出値)θrの差分偏差がモータの駆動トルクTと比例関係にあること、また、回転速度Ωは実開度θrの微分値であることを使うと、入力を設定開度θset、出力を実開度(開度検出値)θrとする伝達関数G2(S)は、一般に、次式(13)のように2次系の伝達関数となる。
G2(S)=1/[(1/ωc)×S+(1/(Q×ωc)×S+1)] …(13)
式(13)において、ωcは弁体12の主要な振動の角周波数[rad/s]であり、Qは減衰の逆数に関与する係数である。因みに、Qが1/2よりも大きいほどωcでより振動的になる。図5は、伝達関数G2(S)の振幅に関するボード線図の一例を示したものである。
【0026】
[調圧制御器系の伝達関数G1(S)]
調圧制御では、通常PI制御(比例+積分要素)が適用されるが、積分要素は上述した主要振動の角周波数ωcよりも低い周波数のみにしか影響を及ぼさない。そのため、以下では比例要素のみを扱うこととし、伝達関数は一定値のフィードバックゲインGfbで表される。
【0027】
さらに、特許文献1で提案されているプラントゲインGpを用いた静的なゲイン補正処理、すなわち、ゲイン処理「1/(Ps×Gp(θs))」を同様に適用する。従って、調圧制御系の伝達関数G1(S)は、目標圧収束した平衡状態(状態0)の近傍では、次式(14)のように一定値のGfb/(Ps×Gp(θs))となる。図6は、伝達関数G1(S)の振幅に関するボード線図の一例を示したものである。
G1(S)=Gfb/(Ps×Gp(θs)) …(14)
【0028】
[制御安定性について]
一般に閉ループ系の安定性評価は、対象とする振動的な角周波数付近で開ループ伝達関数(G_opn(S))の角周波数ω(S=jω)をスイープして、G_opn(jω)を複素平面上にプロットしたナイキスト線図(図7参照)にて相対的に評価できる。図7では、一例として、G_opn1(jω)、G_opn2(jω)、G_opn3(jω)の3つの軌跡をプロットしている。
【0029】
ナイキスト線図において、複素平面上の軌跡が実軸上の(-1)の点P0から離れているほど安定性余裕が大きく、すなわち安定性が高い。図7では、軌跡G_opn1(jω)は点P1において点P0に最も近づきそのときの距離はLmin1、軌跡G_opn2(jω)は点P2において点P0に最も近づきそのときの距離はLmin2、軌跡G_opn3(jω)は点P3において点P0に最も近づきそのときの距離はLmin3となる。図7では、Lmin1<Lmin2<Lmin3となっており、安定性はG_opn1(jω)<G_opn2(jω)<G_opn3(jω)の順に高くなっている。
【0030】
軌跡上の点P0に接近した位置ほど安定性が低く振動的になるので、点P0に最接近した点における角周波数ω_minが調圧制御器系の振動的な周波数になる。例えば、軌跡G_opn1(jω)の場合には、点P1における角周波数がω_minになる。
【0031】
また、点P0から軌跡上の点までの距離(=|1+G_opn(jω)|)の逆数で定義される感度関数Gs(jω)=1/|1+G_opn(jω)|を用いて安定性を表現すると、次のようになる。感度関数Gs(jω)の大きさ|Gs(jω)|の極大値は|Gs(jω_min)|であり、その極大値|Gs(jω_min)|が小さい軌跡G_opn(jω)ほど安定性が高いと言える。
【0032】
図2に示す閉ループ系の安定性を評価するために、ループを開いた開ループ伝達関数G_opn(S)=G1(S)×G2(S) ×G3(S)を考える。そして、開ループ伝達関数G_opn(S)を、弁体駆動系が有している主要な振動の角周波数ωc付近で周波数スイープしてナイキスト線図をプロットする。S=jωc付近で図7の点P0に最も近くなる点の角周波数が上述した角周波数ω_minであり、そのときの距離の逆数が感度関数Gs(jω)の大きさの極大値|Gs(jω_min)|である。なお、角周波数ω_minは角周波数ωc付近にあるが必ずしも一致しない。
【0033】
ここで、排気系プラントの伝達関数G3(S)を導入したことにより、式(14)に示す伝達関数G1(S)と式(12)に示す伝達関数G3(S)とでは、静的なプラントゲインGp(θs)に関する部分が相殺される。そこで、改めて、相殺後の開ループの調圧制御器系および排気系プラントの伝達関数を、それぞれ式(15)、(16)のG1’(S)、G3’(S)で表すことにする。
G1’(S)=Gfb …(15)
G3’(S)=1 / [S×V/Se(θs)+ 1] …(16)
【0034】
伝達関数G1’(S)、G3’(S) の振幅に関するボード線図は、それぞれ図8、9のようになる。そして、図10に示すように、開ループ伝達関数G_opn(S)はG_opn(S)=G1’(S)×G2(S) ×G3’(S)となる。なお、伝達関数G2(S)は上述した式(13)をそのまま用いる。
G2(S)=1/[(1/ωc)×S+(1/(Q×ωc)×S+1)] …(13)
【0035】
(具体例)
以下では、口径250mmの自動調圧バルブを例に、バルブ特性に基づいて各伝達関数G1’(S),G2(S)およびG3’(S)のパラメータ値を具体的に与えて、開度が異なる場合の安定性を比較してみる。なお、伝達関数G1’(S)のゲイン係数GfbはGfb=1とする。伝達関数G2(S)については、弁体応答の主要振動(振動的な角周波数)をωc=20[rad/s]とし、減衰の逆数に関与する係数QについてはQ=2とする。伝達関数G3’(S)については、真空チャンバ3の容積VをV=50[L]とし、開度θを0%から100%まで変化させたときに実効排気速度Seは20[L/s](θ=0%)から2000[L/s](θ=100%)まで変化するものとする。
【0036】
ここで、Se=20[L/s](θ=0%)、Se=200[L/s]、Se=2000[L/s](θ=100%)の3ケースについて安定性を比較してみる。ωc=20[rad/s]を含むω=2[rad/s]からω=200[rad/s]まで角周波数ωをスイープして、ナイキスト線図より距離Lminとそのときの角周波数ω_minを求めると、Se=20[L/s]では(ω_min、Lmin)=(18.5、0.96)、Se=200[L/s]では(ω_min、Lmin)=(19.9、0.62)、Se=2000[L/s]では(ω_min、Lmin)=(25.7、0.21)であった。これら3つの場合を比較すると、Lminが最も小さなSe=2000[L/s]の場合には安定性が最も悪く、Lminが最も大きなSe=20[L/s]の場合に最も安定となることがわかる。
【0037】
このように、実効排気速度Seが小さくなるほど安定性が高くなるのは、以下のような理由による。開ループ伝達関数G_opn(jω) において、伝達関数G1’, G2のパラメータGfb,ωc,Qは固定である。一方、新たに導入した伝達関数G3’のパラメータである実効排気速度Seは、目標圧力Psに対応する弁体開度調整により変化する。そのため、開ループ伝達関数G_opn(jω)の軌跡を決定する複数のパラメータの内、実効排気速度Seのみが可変パラメータとなっている。すなわち、排気系プラントに対して上述のような伝達関数G3を導入することにより、実効排気速度Seをパラメータとして、フィードバック制御の安定性をコントロールできることがわかった。
【0038】
例えば、弁体開度を変化させて実効排気速度Seを20[L/s],200[L/s],2000[L/s]のように変化させた場合、真空チャンバ3の容積VはV=50[L]であるので、図9に示す伝達関数G3’(jω)の振幅のコーナー周波数、すなわち、時定数(V/Se)の逆数(Se/V)はそれぞれ0.4[rad/s],4[rad/s],40[rad/s]となる。
【0039】
Se/V=40[rad/s]のように排気系プラントの伝達関数G3’(jω)のコーナー周波数(Se/V)が高いと、弁体駆動系の伝達関数G2(jω)の主要振動の角周波数ωc=20[rad/s]付近で、開ループ伝達関数G_opn(jω)のゲインが高くなる。一方、実効排気速度Seが200[L/s],20[L/s] と小さくなってコーナー周波数(Se/V)が4[rad/s]、0.4[rad/s]のように小さくなるに従い、角周波数ωc=20[rad/s]付近における伝達関数G3’(jω)の振幅の大きさが大きく減少する。すなわち、角周波数ωc=20[rad/s]付近において開ループ伝達関数G_opn(jω)のゲインが低下し、安定性が改善される。
【0040】
前述した感度関数Gs(jω)=1/|1+G_opn(jω)|の大きさ|Gs(jω)|の極大値|Gs(jω_min)|を用いて、上述した具体例の安定性について説明する。コーナー周波数(Se/V)がSe/V=0.4~40[rad/s]の場合のω=ωc=20[rad/s]付近における感度関数Gs(jω)の極大値|Gs(jω_min)|を求めると、図11のラインL1のようになる。図11は、Se/V=0.4~40[rad/s] を定義域(横軸)として極大値|Gs(jω_min)|をプロットしたものである。
【0041】
図11に示す例では、感度関数に関する安定性の基準の一例として、ISO規格ISO14839-3に従った2.5を安定性基準値とした。すなわち、極大値|Gs(jω_min)|が2.5以下であれば安定性良好と判定し、極大値|Gs(jω_min)|が2.5を超過した場合には安定性が不適切であると判定する。|Gs(jω_min)|を示すラインL1は、Se/V≦7.2において|Gs(jω_min)| ≦2.5となり、その領域では安定性が良好となる。一方、|Gs(jω_min)| >2.5となるSe/V>7.2においては、安定性が不適切となる。言い換えると、実効排気速度SeがSe≦7.2×V=360[L/s](ただし、容積VがV=50[L]の場合)となる開度ならば安定性良好で、Se>360[L/s]となる開度では安定性不適切となる。
【0042】
なお、図11では、コーナー周波数(Se/V)が主要振動の角周波数ωc=20[rad/s]よりも大きくなると、極大値|Gs(jω_min)|が減少して安定性がやや改善している。これは、その周波数領域では、ゲインはそれ以上増えないが位相遅れがやや改善されることに起因している。ただし、あくまで改善効果は限定的である。
【0043】
(安定性改善方法)
上述した図11のラインL1は、調圧制御器系のゲインパラメータであるフィードバックゲインGfbを、図8に示すようにGfb=1とした場合である。図11のラインL1ではSe/V>7.2の領域において安定性不適切であったが、以下では、全領域で安定性が良好となるようにフィードバックゲインGfbをコーナー周波数(Se/V)の関数として設定する。これは、従来の静的なプラントゲイン補正処理とは別に必要な、動的なプラントゲインの補正処理といえる。
【0044】
Gfb=1の場合を示す図11のラインL1を参照すると、全領域で安定性が良好となるためには、Gfb(Se/V)=2.5/|Gs(jω_min)|=1になる点(Se/V=7.2)を境にSe/V<7.2ではGfb(Se/V)>1のように設定し、Se/V>7.2ではGfb(Se/V)<1のように設定すれば良い。例えば、Se/V=7.2以外でも|Gs(jω_min)|=2.5となるようにフィードバックゲインGfbを設定した場合、Gfb(Se/V)は図12のラインL2のように表される。なお、図12のラインL2は2.5/|Gs(jω_min)|で表されるラインと類似のカーブ傾向となっているが、非線形性が強いため値は2.5/|Gs(jω_min)|とは異なっている。
【0045】
図12に示すラインL2は、コーナー周波数(Se/V)の各値において設定すべきGfb(Se/V)の上限値になっている。実際の適用では、本発明で対象としている弁体駆動系の主要振動以外にも種々の課題があるので、理想的に上限値にフィットさせられるとは限らない。すなわち、実際の制御環境に合わせて上限値から割り引いたゲイン値を設定することになる。ただし、(Se/V)<7.2の領域においては、ラインL2はGfb=1を示すラインL0を上回っている。そのため、特に(Se/V)が小さい領域において、すなわち、排気系プラントの応答が遅い領域においてゲインを大幅にアップさせることが可能となり、調圧制御の安定性を維持しつつ応答性の向上を図ることができる。
【0046】
一方、図12の(Se/V)>7.2の領域においては、安定性確保を優先してゲインGfb(Se/V)をラインL0のゲインGfb=1よりも低下させる。なお、(Se/V)>7.2の領域は応答が速い領域なので、駆動系応答以上に応答性を上げても調圧性能向上は期待できない。このように、(Se/V)>7.2においてゲインGfb(Se/V)を1よりも低下させることで、制御安定性の向上を図ることができる。
【0047】
図21は、フィードバック制御の手順の一例を示すフローチャートである。ステップS1では、記憶部23に記憶されているフィードバックゲインGfbを読み込む。記憶部23に記憶されているフィードバックゲインGfbの設定方法は上述したが、簡単にまとめると、以下のような手順で設定される。まず、弁体駆動系の伝達関数G2(S)および排気系プラントの伝達関数G3(S)を導入し、調圧制御器系の伝達関数G1(S)と伝達関数G2(S)およびG3(S)に基づいて感度関数Gs(jω)を設定する。次いで、感度関数Gs(jω)の大きさの極大値|Gs(jω_min)|が、制御安定性に関する所定基準値以下となるように、例えば、図12のようにフィードバックゲインGfbを設定する。勿論フィードバックゲインGfbは予め求めておき記憶部23に記憶、設定しておいても良い。
【0048】
ステップS2では、ステップS1で読み込んだフィードバックゲインGfbに基づいてフィードバック制御を開始する。ステップS3では、圧力計測値(チャンバ圧力)Prを読み込む。ステップS4では、偏差ε(=Pr-Ps)の絶対値|ε|が目標圧力到達の閾値以上になったか否かを判定する。ステップS4で|ε|<閾値と判定されるとステップS6へ進む。一方、ステップS4で|ε|≧閾値と判定されると、ステップS5へ進んで弁体開度を変更した後、ステップS3へ戻る。ステップS6では、目標圧力Psの変更指令を受信したか否かを判定する。目標圧力Psの変更指令を受信すると、ステップS6からステップS3へ戻り、変更された目標圧力Psに基づいてフィードバック制御を行う。なお、上記閾値は0であっても良い。
【0049】
(変形例1)
図13は、ゲインGfb(Se/V)の設定に関する変形例1を示す図である。変形例1ではラインL3のようにゲインGfb(Se/V)を設定する。ラインL3において、点P10より左側は図12に示すラインL2と同一であり、点P10より右側はラインL2と異なり一定値に設定されている。点P10は、Gfb(Se/V)の上限プロットであるラインL2においてゲインGfbが最小となる点である。そのため、ラインL3は単調減少関数(非増加関数)になっている。
【0050】
(変形例2)
図14は変形例2を示す図である。変形例2では、(Se/V)の範囲を複数の区間に分割し、各区間の始点(前の区間の終点に一致)と終点とを単調減少の直線または一定値を与える直線で結んだラインL4によりゲインGfb(Se/V)を設定する。いずれの区間の直線もGfb(Se/V)の値が上述したラインL2の値以下となるように設定される。図14に示す例では(Se/V)の範囲0~40[rad/s]が5つの区間に分割され、第1および第5の区間ではGfb(Se/V)=一定に設定され、その他の区間ではGfb(Se/V)は傾き一定の単調減少関数に設定されている
【0051】
(変形例3)
図15は変形例3を示す図である。変形例3では、階段状に変化するラインL5でゲインGfbを設定するようにした。ラインL5も図14のラインL4と同様に、上述したラインL2を上回らないように設定される。
【0052】
(変形例4)
図16は変形例4を示す図である。変形例4では、変形例3の場合と同様にゲインGfbをラインL6のように階段状に変化させ、さらに、ヒステリシスを設けた。ヒステリシスを設けることで、例えば、(Se/V)が、すなわち開度が、ラインL6が階段状に変化する境界を挟んで前後した際に、開ループ伝達関数G_opn(jω)が開度の前後に対応して上下するのを防止することができる。
【0053】
(変形例5)
図17は変形例5を示す図である。上述した図14に示す例では、ゲインGfbの設定の定義域をコーナー周波数(Se/V)で表したが、変形例5では、図17に示すようにゲインGfbの設定の定義域を実効排気速度Seで表すようにした。通常、チャンバ容積Vは一定の固定値なので、実効排気速度Seを定義域としてゲインGfbを表すことができる。図17に示す例では、ゲインGfb(Se)は、ラインL7で示すように実効排気速度Seの増加に対して単調減少する関数として設定される。なお、図12,13,15,16に示すゲイン設定においても、定義域を実効排気速度Seで表すようにしても良い。
【0054】
(変形例6)
図18は変形例6を示す図である。変形例6では、ラインL8で示すゲインGfbの設定の定義域を開度θで表すようにした。図3に示したように、実効排気速度Seは開度θrに対して単調増加の関係にあるので、ゲインGfbの設定の定義域を開度θで表すことができる。なお、図12,13,15,16に示すゲイン設定においても、定義域を開度θで表すようにしても良い。
【0055】
-第2の実施の形態-
上述した第1の実施の形態および変形例1~6では、図19に示すように、調圧制御器系の伝達関数G1(S)においてプラントゲインGpを用いた静的なゲイン補正処理(1/(Gp(θs)×Ps))を適用している。しかしながら、図20に示すように、調圧制御器系において静的なゲイン補正処理を適用しない場合であっても、全領域で安定性が良好となるようにゲインGfbをコーナー周波数(Se/V)等の関数として設定するという動的なプラントゲインの補正処理を行うことにより、調圧制御性能の向上を図ることができる。
【0056】
上述した複数の例示的な実施の形態および変形例は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0057】
[1]一態様に係るバルブ制御装置は、バルブの弁体開度に依存するパラメータに対応して設定されたフィードバックゲインが記憶される記憶部と、前記フィードバックゲインに基づいて前記弁体開度をフィードバック制御するフィードバック制御器と、を備え、前記フィードバックゲインは、弁体駆動系の主要振動に起因する前記フィードバック制御器の振動的な周波数における感度関数の大きさの極大値が制御安定性に関する所定基準値以下となるように、設定されている。
【0058】
フィードバックゲインGfbを、図12に示すように設定することで、すなわち、弁体駆動系の主要振動(角周波数ωc)に起因する調圧制御器21の振動的な周波数ω_minにおける感度関数の大きさの極大値|Gs(jω_min)|が制御安定性に関する所定基準値(例えば、図11の安定性基準値2.5)以下となるように設定することで、コーナー周波数(Se/V)の高い開度領域では安定性向上が図れ、コーナー周波数(Se/V)の低い開度領域では、応答性の向上を図ることができる。その結果、フィードバック制御の制御安定性を確保しつつ応答性向上を図ることができる。なお、記憶部23へのフィードバックゲインGfbの入力は、オペレータが手動で入力しても良いし、真空処理装置のメインコントローラから入力するようにしても良い。
【0059】
[2]上記[1]に記載のバルブ制御装置において、バルブの弁体開度θに依存する前記パラメータには、弁体開度θに対応する実効排気速度Seとバルブが装着されるチャンバの容積Vとから算出される時定数の逆数(Se/V)、実効排気速度Seおよび弁体開度θのいずれかを用いることができる。
【0060】
[3]上記[1]または[2]に記載のバルブ制御装置において、前記フィードバック制御器である調圧制御器21の伝達関数G1(S)は、前記バルブを含む排気系プラントに基づいて設定される静的なゲイン補正処理1/(Gp(θs)×Ps)と前記フィードバックゲインGfb(Se/V)とを含む。
【0061】
排気系プラントの伝達関数G3(S)は「G3(S)=[Ps×Gp(θs)] / [S×V/Se(θs)+ 1]」のように表されるが、右辺分子のPs×Gp(θs)は、伝達関数G1(S)に含まれる静的なゲイン補正処理の1/(Gp(θs)×Ps)と相殺される。その結果、フィードバック制御系の開ループ伝達関数G_opn(jω) の軌跡を決定するパラメータの内、実効排気速度Seのみが可変パラメータとなり、フィードバックゲインGfbを図12のように設定することで、容易に安定性および応答性の向上を図ることができる。
【0062】
[4]上記[1]から[3]までのいずれかに記載のバルブ制御装置において、フィードバックゲインGfbを図13のラインL3のようにパラメータ(Se/V) に対して単調減少に設定しても良い。図12に示すラインL2は、感度関数の大きさ|Gs(jω_min)|が安定性基準値(=2.5)と等しくなるフィードバックゲインGfbをプロットしたものであり、Gfbは図13に示す点P10(極小点)より図示右側ではやや上昇している。そのため、図13に示すラインL3のようにパラメータ(Se/V) に対して単調減少に設定することで、設計が容易となる。
【0063】
[5]一態様に係る真空バルブは、弁体と、前記弁体を駆動する弁体駆動部と、前記弁体駆動部を制御して前記弁体の開度をフィードバック制御する上記[1]から[4]までのいずれかに記載のバルブ制御装置と、を備える。それにより、フィードバック制御の制御安定性および応答性に優れた真空バルブが提供できる。
【0064】
[6]一態様に係るバルブ制御方法は、目標圧力に対する圧力偏差に基づいて弁体開度をフィードバック制御するバルブ制御方法において、前記フィードバック制御のフィードバックゲインは、弁体駆動系の主要振動に起因する前記フィードバック制御の振動的な周波数における感度関数の大きさの極大値が制御安定性に関する所定基準値以下となるように、設定されている。例えば、図12のようにフィードバックゲインGfbを設定することで、感度関数の大きさの極大値|Gs(jω_min)|は安定性基準値以下に抑えられ、コーナー周波数(Se/V)が7.2より低い領域では安定性を維持しつつ応答性が向上し、コーナー周波数(Se/V)が7.2より高い領域では安定性が向上する。
【0065】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
1…バルブ本体、2…バルブ制御装置、3…真空チャンバ、4…真空ポンプ、12…弁体、13…モータ、21…調圧制御器、22…モータ駆動部、23…記憶部
図1
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