(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】防水コネクタ
(51)【国際特許分類】
H01R 13/52 20060101AFI20221129BHJP
【FI】
H01R13/52 301E
(21)【出願番号】P 2019146013
(22)【出願日】2019-08-08
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 悠作
(72)【発明者】
【氏名】小坂 陵太郎
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-123036(JP,A)
【文献】特開2005-158595(JP,A)
【文献】特開2000-82529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔として挿入孔を備えたシール部材と、
相手方の端子と嵌合接続されるタブ部を有するオス型端子として構成されたコネクタ端子と、を有し、
前記コネクタ端子は、挿入軸に沿って、前記シール部材の前記挿入孔に挿入され、
前記コネクタ端子の前記タブ部の幅をタブ幅Wとし、
前記挿入孔において、前記挿入軸に直交する横断面の内径が最も小さくなった最狭窄部の該内径を、最小孔径Dmとして、
前記最小孔径Dmが、前記挿入孔に前記コネクタ端子を挿入していない状態で、1.1<Dm/W<1.4を満た
し、
前記挿入孔は、前記挿入軸に沿って端部に、前記挿入軸に沿って内側から外側に向かって拡径した拡径部を有しており、前記挿入軸に平行な縦断面において、前記拡径部の両側の傾斜面がなす角を開口角度θ2として、
前記開口角度θ2は、前記挿入孔に前記コネクタ端子を挿入していない状態で、20°<θ2<40°である、防水コネクタ。
【請求項2】
前記シール部材は、前記挿入孔を複数有し、前記挿入孔は、前記シール部材の面内で、横方向に沿って複数が配列されるとともに、前記横方向に交差する縦方向に、前記横方向よりも少ない数だけ配列されており、
前記縦方向に沿って最も外側に位置する前記挿入孔の開口部の端縁と、前記縦方向に沿って前記挿入孔の外側に位置する前記シール部材の端縁との間の、前記シール部材の肉厚を、縦方向余長T1として、
前記縦方向余長T1が、前記挿入孔に前記コネクタ端子を挿入していない状態で、T1/Dm>2.1を満たす、請求項
1に記載の防水コネクタ。
【請求項3】
前記シール部材は、前記挿入孔を複数有し、前記挿入孔は、前記シール部材の面内で、横方向に沿って複数が配列されるとともに、前記横方向に交差する縦方向に、前記横方向よりも少ない数だけ配列されており、
前記横方向に沿って最も外側に位置する前記挿入孔の開口部の端縁と、前記横方向に沿って前記挿入孔の外側に位置する前記シール部材の端縁との間の、前記シール部材の肉厚を、横方向余長T2として、
前記横方向余長T2が、前記挿入孔に前記コネクタ端子を挿入していない状態で、T2/Dm>1.1を満たす、請求項1
または請求項2に記載の防水コネクタ。
【請求項4】
前記防水コネクタは、中空部を備えたコネクタハウジングをさらに有し、前記シール部材は、圧縮された状態で、前記コネクタハウジングの前記中空部に収容されており、
前記シール部材は、前記挿入孔を複数有し、前記挿入孔は、前記シール部材の面内で、横方向に沿って複数が配列されるとともに、前記横方向に交差する縦方向に、前記横方向よりも少ない数だけ配列されており、
前記コネクタハウジングに収容されない状態の前記シール部材において、前記縦方向に沿った寸法をシール縦寸法L1、前記横方向に沿った寸法をシール横寸法L2とし、
前記コネクタハウジングの中空部において、前記シール部材の縦方向に沿った中空部内寸をハウジング縦寸法L’1、前記シール部材の横方向に沿った中空部内寸をハウジング横寸法L’2とし、
前記シール部材の縦圧縮率R1をL1/L’1、横圧縮率R2をL2/L’2として、
前記縦圧縮率R1と前記横圧縮率R2が、0.9<R2/R1<1.1の関係を満たす、請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の防水コネクタ。
【請求項5】
前記挿入孔の内壁面には、前記挿入軸に平行な縦断面において、該挿入孔の内側に凸の形状を有するリップ部が、前記挿入軸に沿って少なくとも2つ形成されており、
前記挿入軸に沿って隣接する2つのリップ部の間で、前記挿入軸に直交する横断面の内径が最も大きくなったリップ谷部の該内径を谷部孔径Dvとして、
前記谷部孔径Dvが、前記挿入孔に前記コネクタ端子を挿入していない状態で、Dv/W>2.3である、請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の防水コネクタ。
【請求項6】
前記谷部孔径Dvが、前記挿入孔に前記コネクタ端子を挿入していない状態で、Dv/W<2.7を満たす、請求項
5に記載の防水コネクタ。
【請求項7】
前記挿入孔
の前記拡径部における内径の最大値を間口孔径Doとして、
前記間口孔径が、前記挿入孔に前記コネクタ端子を挿入していない状態で、Do/W>3.5を満たす、請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載の防水コネクタ。
【請求項8】
前記シール部材は、シリコーンゴムを含んでいる、請求項1から請求項
7のいずれか1項に記載の防水コネクタ。
【請求項9】
前記シール部材の硬さは、ショアA硬度で、10以上、30以下である、請求項1から請求項
8のいずれか1項に記載の防水コネクタ。
【請求項10】
前記コネクタ端子は、電線の端末に接続されており、
前記シール部材の前記挿入孔の内壁面が、前記電線の表面に接触している、請求項1から請求項
9のいずれか1項に記載の防水コネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、防水コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の内部で、電装部品を接続する際に用いられるコネクタにおいて、コネクタ内への水の侵入を抑制するために、シール部材を備えた防水コネクタが用いられる場合がある。シール部材は、ゴム等の成形体として構成され、コネクタ端子を挿入可能な挿入孔を有している。電線の端末にコネクタ端子が接続された端子付き電線を、コネクタハウジングに収容したシール部材の挿入孔に挿入することで、防水コネクタが構成される。その種の防水コネクタやシール部材は、特許文献1,2等に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-159020号公報
【文献】特開2016-58138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シール部材の挿入孔に端子付き電線を挿入して、防水コネクタを形成する場合に、通常は、端子付き電線を構成するコネクタ端子は、挿入孔を通り抜け、電線の表面が挿入孔の内壁面に密着することで、防水性が発現される。防水性を確保するために、挿入孔の中で最も狭くなった箇所の内径よりも、大きな外径を有する電線が用いられるが、多くの場合、電線に接続されるコネクタ端子の断面寸法は、電線の断面寸法よりも大きくなっており、端子付き電線のコネクタ端子の部分が挿入孔を通過する際に、挿入孔の内壁面がコネクタ端子に引き摺られ、シール部材に裂けが発生する場合がある。シール部材の裂けは、防水コネクタの防水性を損なうものとなる。
【0005】
特許文献1においては、それぞれ所定の化学構造を有する3つのユニットを分子中に有する熱硬化型シリコーンゴムよりシール部材を構成することで、シール部材の裂傷の抑制を図っている。特許文献2でも、シリコーンゴムにポリロタキサンを配合した材料でシール部材を構成することで、シール部材の傷付き性の低減を図っている。このように、シール部材の材質を検討することで、シール部材の裂けを抑制することができるが、シール部材において裂けが発生するか否かには、シール部材の材質のみならず、シール部材の構造、特に挿入孔の形状や寸法が、大きく影響するはずである。特許文献1,2は、シール部材の構成材料に主眼を置いたものであり、挿入孔の形状や寸法の詳細を開示しているわけではない。
【0006】
そこで、シール部材の挿入孔にコネクタ端子を挿入する際に、シール部材の裂けによる防水性の低下が発生しにくい形状の挿入孔を有する防水コネクタを提供することを、課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の防水コネクタは、貫通孔として挿入孔を備えたシール部材と、相手方の端子と嵌合接続されるタブ部を有するオス型端子として構成されたコネクタ端子と、を有し、前記コネクタ端子は、挿入軸に沿って、前記シール部材の前記挿入孔に挿入され、前記コネクタ端子の前記タブ部の幅をタブ幅Wとし、前記挿入孔において、前記挿入軸に直交する横断面の内径が最も小さくなった最狭窄部の該内径を、最小孔径Dmとして、前記最小孔径Dmが、前記挿入孔に前記コネクタ端子を挿入していない状態で、1.1<Dm/W<1.4を満たす。
【発明の効果】
【0008】
本開示にかかる防水コネクタは、シール部材の挿入孔にコネクタ端子を挿入する際に、シール部材の裂けによる防水性の低下が発生しにくい形状の挿入孔を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は本開示の実施形態にかかる防水コネクタの構成を示す分解斜視図である。
【
図2】
図2は、上記防水コネクタに備えられるシール部材を示す平面図である。
【
図3】
図3Aは、挿入軸Aに沿って上記シール部材を切断した拡大断面図である。
図3Bは、挿入軸Aに沿った方向からシール部材を見た拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
【0011】
本開示にかかる防水コネクタは、貫通孔として挿入孔を備えたシール部材と、相手方の端子と嵌合接続されるタブ部を有するオス型端子として構成されたコネクタ端子と、を有し、前記コネクタ端子は、挿入軸に沿って、前記シール部材の前記挿入孔に挿入され、前記コネクタ端子の前記タブ部の幅をタブ幅Wとし、前記挿入孔において、前記挿入軸に直交する横断面の内径が最も小さくなった最狭窄部の該内径を、最小孔径Dmとして、前記最小孔径Dmが、前記挿入孔に前記コネクタ端子を挿入していない状態で、1.1<Dm/W<1.4を満たす。
【0012】
上記防水コネクタにおいては、オス型コネクタ端子として構成されるコネクタ端子のタブ幅Wと、シール部材の挿入孔における最小孔径Dmが、Dm/W>1.1となっている。このように、最小孔径Dmが、タブ幅Wに対して過剰に小さくならないように規定しておくことにより、シール部材の挿入孔にコネクタ端子を挿入する際に、挿入孔の内壁面とコネクタ端子の間の接触面積、および挿入孔の内壁面に対してコネクタ端子から印加される負荷を、小さく抑えることができる。その結果、コネクタ端子が挿入孔の中を通る間に、挿入孔の内壁面が、コネクタ端子に引き摺られにくくなり、引き摺りによる裂けの発生を、抑制することができる。そのため、製造された防水コネクタにおいて、シール部材の裂けによる防水性の低下を回避しやすい。
【0013】
一方、Dm/W<1.4とし、最小孔径Dmを、タブ幅Wに対して過剰に大きくならないようにしておくことで、コネクタ端子や、コネクタ端子に接続された電線と、シール部材の挿入孔の内壁面との間の密着性を確保し、シール部材によって、高い防水性を発揮させることができる。このように、上記防水コネクタにおいては、Dm/Wを所定の範囲にしておくことで、シール部材の裂けの抑制と、シール部材の密着性の確保の両方により、高い防水性を達成することができる。
【0014】
ここで、前記挿入孔の内壁面には、前記挿入軸に平行な縦断面において、該挿入孔の内側に凸の形状を有するリップ部が形成されており、該リップ部の頂部が、前記最狭窄部となっており、前記縦断面において、前記リップ部の前記頂部の両側の傾斜に接する2つの接線がなす角を、リップ角度θlとして、前記リップ角度θlは、前記挿入孔に前記コネクタ端子を挿入していない状態で、θ1<90°であるとよい。θ1<90°とし、リップ角度θ1を過度に大きくならないようにしておくことで、コネクタ端子が挿入孔を通過する際に、リップ部が、挿入軸に沿って、倒れやすい状態となる。リップ部が倒れることで、リップ部の頂部の狭い領域に負荷が集中しにくくなる。それにより、コネクタ端子が通過する時に、リップ部に損傷が発生し、防水コネクタの防水性が低下するのを、抑制することができる。
【0015】
前記シール部材は、前記挿入孔を複数有し、前記挿入孔は、前記シール部材の面内で、横方向に沿って複数が配列されるとともに、前記横方向に交差する縦方向に、前記横方向よりも少ない数だけ配列されており、前記縦方向に沿って最も外側に位置する前記挿入孔の開口部の端縁と、前記縦方向に沿って前記挿入孔の外側に位置する前記シール部材の端縁との間の、前記シール部材の肉厚を、縦方向余長T1として、前記縦方向余長T1が、前記挿入孔に前記コネクタ端子を挿入していない状態で、T1/Dm>2.1を満たすとよい。シール部材において、縦方向余長T1として、挿入孔の外側に、十分な寸法が確保されることで、コネクタハウジングへの収容等によって、シール部材が縦方向の力を印加されることがあっても、挿入孔が縦方向に沿って変形を起こしにくくなる。その結果、挿入孔の変形に起因する防水性の低下を抑制することができる。
【0016】
前記シール部材は、前記挿入孔を複数有し、前記挿入孔は、前記シール部材の面内で、横方向に沿って複数が配列されるとともに、前記横方向に交差する縦方向に、前記横方向よりも少ない数だけ配列されており、前記横方向に沿って最も外側に位置する前記挿入孔の開口部の端縁と、前記横方向に沿って前記挿入孔の外側に位置する前記シール部材の端縁との間の、前記シール部材の肉厚を、横方向余長T2として、前記横方向余長T2が、前記挿入孔に前記コネクタ端子を挿入していない状態で、T2/Dm>1.1を満たすとよい。シール部材において、横方向余長T2として、挿入孔の外側に、十分な寸法が確保されることで、コネクタハウジングへの収容等によって、シール部材が横方向の力を印加されることがあっても、挿入孔が横方向に沿って変形を起こしにくくなる。その結果、挿入孔の変形に起因する防水性の低下を抑制することができる。
【0017】
前記防水コネクタは、中空部を備えたコネクタハウジングをさらに有し、前記シール部材は、圧縮された状態で、前記コネクタハウジングの前記中空部に収容されており、前記シール部材は、前記挿入孔を複数有し、前記挿入孔は、前記シール部材の面内で、横方向に沿って複数が配列されるとともに、前記横方向に交差する縦方向に、前記横方向よりも少ない数だけ配列されており、前記コネクタハウジングに収容されない状態の前記シール部材において、前記縦方向に沿った寸法をシール縦寸法L1、前記横方向に沿った寸法をシール横寸法L2とし、前記コネクタハウジングの中空部において、前記シール部材の縦方向に沿った中空部内寸をハウジング縦寸法L’1、前記シール部材の横方向に沿った中空部内寸をハウジング横寸法L’2とし、前記シール部材の縦圧縮率R1をL1/L’1、横圧縮率R2をL2/L’2として、前記縦圧縮率R1と前記横圧縮率R2が、0.9<R2/R1<1.1の関係を満たすとよい。このように、圧縮を伴ってシール部材をコネクタハウジングに収容する際に、横圧縮率と縦圧縮率が大きく隔たらないようにしておくことで、挿入孔が、いびつな形に圧縮されて、断面形状の縦横比が変化することによる防水性の低下を、抑制しやすくなる。
【0018】
前記挿入孔の内壁面には、前記挿入軸に平行な縦断面において、該挿入孔の内側に凸の形状を有するリップ部が、前記挿入軸に沿って少なくとも2つ形成されており、前記挿入軸に沿って隣接する2つのリップ部の間で、前記挿入軸に直交する横断面の内径が最も大きくなったリップ谷部の該内径を谷部孔径Dvとして、前記谷部孔径Dvが、前記挿入孔に前記コネクタ端子を挿入していない状態で、Dv/W>2.3であるとよい。すると、2つのリップ部の間に、十分に内径の大きな谷部が形成されていることにより、挿入孔をコネクタ端子が通過する際に、リップ部が、谷部に倒れ込みやすくなり、コネクタ端子にリップ部が引き摺られにくくなる。その結果、リップ部の引き摺りによる挿入孔内壁面の裂けを抑制することができ、防水コネクタにおいて、高い防水性を確保しやすくなる。
【0019】
前記谷部孔径Dvが、前記挿入孔に前記コネクタ端子を挿入していない状態で、Dv/W<2.7を満たすとよい。すると、リップ谷部の内径が大きくなりすぎることにより、挿入孔の内壁面と、コネクタ端子や、コネクタ端子に接続された電線との間に十分に大きな接触面積が得られにくくなる事態を回避して、両者の間の密着性を確保し、防水コネクタにおける防水性を高めやすくなる。
【0020】
前記挿入孔は、前記挿入軸に沿って端部に、前記挿入軸に沿って内側から外側に向かって拡径した拡径部を有しており、前記拡径部における内径の最大値を間口孔径Doとして、前記間口孔径が、前記挿入孔に前記コネクタ端子を挿入していない状態で、Do/W>3.5を満たすとよい。挿入孔の拡径部における間口孔径Doを大きく確保しておくことで、コネクタ端子を挿入孔に挿入する際に、拡径部によってコネクタ端子を誘導して、挿入孔の挿入軸に対してまっすぐに、コネクタ端子を進入させやすくなる。すると、挿入孔の内壁面に対して、挿入孔を通過するコネクタ端子から大きな負荷が印加されにくくなり、内壁面の損傷による防水性の低下を、抑制しやすくなる。
【0021】
前記シール部材は、シリコーンゴムを含んでいるとよい。すると、シリコーンゴムの弾性により、シール部材において、挿入孔にコネクタ端子を挿入する際の裂けを効果的に抑制し、高い防水性を得やすくなる。
【0022】
前記シール部材の硬さは、ショアA硬度で、10以上、30以下であるとよい。すると、シール部材が適度な強度を有することになり、挿入孔の内壁面において、シール部材の構成材料が、コネクタ端子や、コネクタ端子に接続された電線に対して、密着した状態が維持されやすくなり、高い防水水性を確保しやすくなる。同時に、シール部材において、適度な柔軟性が確保され、挿入孔にコネクタ端子を挿入する際に、裂けの発生を、効果的に抑制することができる。
【0023】
前記コネクタ端子は、電線の端末に接続されており、前記シール部材の前記挿入孔の内壁面が、前記電線の表面に接触しているとよい。電線の端末に接続したコネクタ端子が、シール部材の挿入孔に挿入され、挿入孔を通り抜ける際に、シール部材に裂けが発生するのが抑制されることで、電線の表面が、裂けのない挿入孔の内壁面に密着することができる。その結果、シール部材と電線の間に、高い防水性が確保される。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
以下に、本開示の一実施形態にかかる防水コネクタについて、図面を用いて詳細に説明する。本開示の一実施形態にかかる防水コネクタは、挿入孔を有するシール部材と、コネクタ端子とを有し、コネクタ端子がシール部材の挿入孔に挿入されたものであり、コネクタ端子のタブ幅と、シール部材の挿入孔の最狭窄部の内径が、所定の関係を有する。
【0025】
本明細書においては、構成部材の寸法、および複数の部位の寸法の関係によって定義される比率を示す、それぞれの数値における有効数字は、記載したとおりの桁数で規定される。また、構成部材の寸法、および複数の部位の寸法の関係によって定義される比率のそれぞれは、シール部材の挿入孔に、コネクタ端子または電線を挿入していない状態、またシール部材をコネクタハウジングに挿入していない状態に対して、規定される。また、本明細書において、平行、垂直、直交、矩形、円形、楕円形等、部材の形状や配置を表す概念には、幾何的に厳密な概念のみならず、コネクタおよびその構成部材として許容される程度のずれを範囲に含むものとする。
【0026】
<防水コネクタの構造の概略>
まず、本開示の実施形態にかかる防水コネクタの構造の概略について説明する。
図1に、本開示の一実施形態にかかる防水コネクタ1を、分解斜視図で示す。
【0027】
防水コネクタ1は、シール部材10と、コネクタ端子(以下、単に「端子」と称する場合がある)20と、を備えている。コネクタ端子20は、電線35の端末に接続された端子付き電線30の形で、防水コネクタ1に備えられている。防水コネクタ1はさらに、コネクタハウジング40(以下、単に「ハウジング」と称する場合がある)も備えている。
【0028】
シール部材10については、後に詳しく説明するが、板状体として構成されており、端子20を挿入可能な挿入孔11を有している。シール部材10に、挿入孔11は、1つのみ設けられていても、複数設けられていてもよいが、ここでは複数の挿入孔11が、シール部材10の板面内の横方向に配列されている形態について説明する。なお、シール部材10においては、横方向に交差する縦方向にも、複数の挿入孔11が形成されていてもよい。シール部材10の外形についても、特に限定されるものではないが、ここでは、角が丸められた矩形の板状体として形成されている。
【0029】
シール部材10の複数の挿入孔11には、それぞれ、端子20が挿入される。シール部材10に形成された複数の挿入孔11の全てに、それぞれ端子20が挿入されるが、
図1では、簡略化のために、端子20を1つのみ表示している。
【0030】
防水コネクタ1において、シール部材10の挿入孔11に挿入される端子20は、電線35の端末に接続され、端子付き電線30の形態となっている。端子20は、先端側から、タブ部21、筒状部22、かしめ部23を、長手方向に一体に連続して有している。タブ部21は、相手方端子(不図示)と電気的に接続される部位である。本実施形態において、端子20は、嵌合型のオス型端子として構成されている。つまり、タブ部21は、平板型のタブ形状の部位として構成されており、相手方のメス型端子と嵌合接続することができる。筒状部22は、タブ部21とかしめ部23を連結する部位であり、図示した形態では、角筒形状に形成されている。かしめ部23は、電線35をかしめ固定する部位である。電線35は、導体35aと、導体35aの外周を被覆する絶縁被覆35bとを有する。電線35の端末部において、絶縁被覆35bが除去されて導体35aが露出され、端子20のかしめ部23にかしめ固定されている。
【0031】
端子20のサイズは、タブ幅W、つまりタブ部21の幅によって規定される。タブ幅Wは特に限定されるものではないが、0.5mm以上1.5mm以下を例示することができる。自動車分野等で汎用されているオス型端子においては、タブ幅Wに応じて、各部の寸法や適用される電線35の外径φが、ほぼ一定の範囲に定まる。典型的には、端子20の中で最も幅が大きい部分である筒状部22の幅が、タブ幅Wの1.2倍以上2.8倍以下の範囲となる。また、端子20に接続される電線35の外径φが、1.8倍以上3.2倍以下の範囲となる。
【0032】
端子付き電線30は、端子20のタブ部21の先端から、シール部材10の厚み方向に平行な挿入軸Aに沿って、シール部材10の後方面13側から前方面12側へと、挿入孔11に挿入される。端子付き電線30は、端子20の長手方向全域が挿入孔11を通り抜けた状態とされる。つまり、防水コネクタ1において、端子付き電線30は、端子20に接続された電線35の部分が、挿入孔11の中に配置され、電線35の外周面が、挿入孔11の内壁面に囲まれた状態となる。
【0033】
防水コネクタ1において、シール部材10は、ハウジング40の中に収容される。ハウジング40は、シール部材10よりも硬質の材料で形成されており、角筒状の側壁面41と、側壁面41の一方端に設けられた後壁面42とを一体に有している。側壁面41の他方端には、壁面が設けられておらず、開口43となっている。後壁面42は、シール部材10の板面よりも小さな形状に形成されていることが好ましい。また、後壁面42の内部には、ハウジング40の構成材料に閉塞されない領域として、窓部44が設けられている。窓部44の位置および大きさは、シール部材10をハウジング40に収容して後壁面42に密着させた際に、全ての挿入孔11が窓部44の中に収まるように、設定されている。
【0034】
防水コネクタ1において、シール部材10は、開口43からハウジング40の内部に収容され、シール部材10の後方面13が、ハウジング40の後壁面42に接触した状態とされる。ハウジング40の後壁面42が、シール部材10の外形よりも小さく形成されていることにより、シール部材10は、圧縮された状態で、ハウジング40に収容される。シール部材10に設けられた挿入孔11の群は、ハウジング40の窓部44を介して、外部の空間に臨んだ状態となる。
【0035】
さらに、ハウジング40に収容されたシール部材10の各挿入孔11に、端子付き電線30が挿入される。この際、端子付き電線30を構成する端子20が、窓部44を介して、シール部材10の後方面13から挿入孔11に挿入される。端子20は、挿入孔11を通り抜け、上記のように、挿入孔11の中に電線35が配置された状態となる。図示は省略するが、防水コネクタ1はさらに、ハウジング40の内部に配置され、端子20を収容可能な端子収容室を有するインナーハウジングを備えており、シール部材10の挿入孔11を通り抜けた端子20は、インナーハウジングの端子収容室に収容される。防水コネクタ1は、ハウジング40の開口43において、相手方コネクタ(不図示)と嵌合され、ハウジング40内に収容された端子20が、タブ部21において、相手方端子と嵌合される。
【0036】
本防水コネクタ1においては、シール部材10が、ハウジング40に囲まれた空間の内部に、水(または他の液体;以下においても同じ)が外部から侵入するのを抑制する役割を果たす。具体的には、シール部材10の挿入孔11の内壁面が、端子付き電線30の形で挿入された電線35の外周面に密着することで、端子付き電線30の周囲から、ハウジング40の内部に水が侵入するのを抑制することができる。加えて、シール部材10が、後方面13でハウジング40の後壁面42に密着することによりハウジング40の壁面の外側からの水の侵入、特に後壁面42の窓部44からの水の侵入を、抑制することができる。後に詳しく説明するように、ハウジング40の内部への水の侵入の抑制は、挿入孔11の各部の寸法を規定することにより、さらには、ハウジング40によるシール部材10の全体寸法を規定することにより、効果的に達成される。
【0037】
<シール部材>
次に、上記防水コネクタ1を構成するシール部材10について説明する。シール部材10の全体形状を、
図1および
図2に示している。上記のように、シール部材10は、相互に平行な前方面12および後方面13を有する板状体として構成されており、厚み方向に平行な挿入軸Aに沿って、前方面12と後方面13の間を貫通する挿入孔11を有している。
【0038】
(シール部材の構成材料)
シール部材10を構成する材料は、水の透過を遮断できる材料であれば、特に限定されるものではない。典型的には、シール部材10は、有機高分子を含んでおり、好ましくは、有機高分子を主成分として、つまり有機高分子を全体の50質量%以上含有して、構成されている。有機高分子は、好ましくは、ゴムおよびエラストマの少なくとも一方を含んでいるとよい。すると、ゴムおよびエラストマの弾性により、シール部材10が、ハウジング40に密着するとともに、挿入孔11の内壁面において、端子付き電線30の外周に密着し、防水コネクタ1において、高い防水性を発揮しやすい。また、防水コネクタ1に、振動等の力学的負荷が印加された際にも、端子付き電線30およびハウジング40への密着状態が維持され、高い防水性を示す状態を保ちやすい。
【0039】
シール部材10を構成する有機高分子材料として、シリコーンゴムを用いることが、特に好ましい。シリコーンゴムは、高い防水性および弾性を示すうえ、機械的強度や熱的安定性、化学的安定性にも優れている。シリコーンゴムとしては、熱硬化性を有する付加反応型シリコーンゴムを用いることが好ましい。付加反応型のシリコーンゴムは、主成分としてのアルケニル基含有オルガノポリシロキサンと硬化剤としてのヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサンとを含んでおり、それらの分子鎖が、白金触媒によって架橋されている。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基などが挙げられる。オルガノポリシロキサンは、ポリシロキサン鎖(-Si-O-Si-O-)を主鎖とし、主鎖のSi原子上に有機基を有する。オルガノポリシロキサンの有機基としては、メチル基、エチル基、フェニル基などが挙げられる。例えば、特許文献1に記載されているのと同様のシリコーンゴムを、好適に用いることができる。シリコーンゴムには、適宜、添加剤およびフィラーを含有してもよい。
【0040】
シール部材10の構成材料の硬度は、ショアA硬度で30以下であることが好ましい。ショアA硬度が30以下であると、シール部材10の柔軟性が確保され、ハウジング40や端子付き電線30に密着しやすくなる。また、挿入孔11に端子20を挿入する際に、シール部材10の柔軟性により、シール部材10に裂けが発生しにくくなる。よって、シール部材10が、高い防水性を発揮しやすくなる。一方、シール部材10の構成材料の硬度は、ショアA硬度で10以上であることが好ましい。ショアA硬度が10以上であると、シール部材10において、適度な強度が確保され、シール部材10が、電線35やハウジング40に密着した状態を維持しやすいため、高い防水性を確保しやすくなる。ここで、ショアA硬度は、室温での値であり、JIS K 6253に準拠して測定することができる。また、シール部材10を構成する高分子材料が、上記の付加反応型シリコーンゴムのように、硬化性を有する場合には、硬化後の状態において、シール部材10全体としてのショアA硬度が評価される。
【0041】
シール部材10の構成材料の弾性率としては、100%モジュラス、つまり100%の伸びを与えた際の引張応力値で、0.2MPa以上、0.6MPa以下であることが好ましい。シール部材10の構成材料が、0.2MPa以上の弾性率を有することで、端子20を挿入孔11に挿入した際に、材料の軟らかさにより、挿入孔11の内壁面における裂けを回避しやすくなる。一方、材料が0.6MPa以下の弾性率を有することで、シール部材10が、ハウジング40や端子付き電線30に弾性的に密着しやすくなる。ここで、弾性率は、室温における値であり、JIS K7161に準拠して測定することができる。
【0042】
(挿入孔の構造)
挿入孔11は、挿入軸Aに沿って、シール部材10の前方面12と後方面13の間を貫通している。
図3Aに、挿入孔11の縦断面(挿入軸Aに平行な断面)を示すように、挿入孔11は、平坦な内壁面を有する直筒状に形成されているのではなく、内壁面に凹凸構造を有し、挿入軸Aに沿った各位置において、挿入孔11の内径が変化している。具体的には、挿入孔11は、前方面12および後方面13に面する端部の位置に、挿入軸Aに沿って内側から外側に向かって漸次拡径した拡径部11aを有している。また、挿入孔11は、挿入軸Aに沿って中途部に、リップ部11bを有している。リップ部11bは、挿入孔11の径方向内側に向かってシール部材10の構成材料がリング状に突出した、内側に凸の形状として形成されており、リップ部11bが形成された位置においては、挿入孔11の内径が小さくなっている。リップ部11bの数は、特に限定されるものではないが、図示した形態のように、挿入軸Aに沿って、少なくとも2つのリップ部11bが設けられていることが好ましい。この場合に、2つの隣接するリップ部11bの間の、内径が大きくなった部位が、リップ谷部11cとなっている。
【0043】
ここで、挿入孔11の内径とは、挿入軸Aに沿った各位置で、挿入軸Aに直交して切断した挿入孔11の断面(横断面)を円に近似した際の直径を指す。挿入孔11の横断面の形状が円形でない場合には、断面形状の重心を通り、断面を横切る最も短い直線の長さを、挿入孔11の内径とすればよい。断面形状が楕円に近似できる場合には、その楕円の短軸の長さが、挿入孔11の内径となる。上記のように、挿入孔11においては、挿入軸Aに沿った各位置で、挿入孔11の内径が変化している。挿入孔11の挿入軸Aに沿った各位置における断面形状は、どのような形状であってもよいが、構造の簡素性等の観点から、円形または楕円形、特に円形であることが好ましい。
【0044】
本実施形態にかかる防水コネクタ1を構成するシール部材10においては、挿入孔11に端子20を挿入し、通り抜けさせる際に、挿入孔11の内壁面に裂けが発生するのを抑制する観点、また、端子20が挿入孔11を通り抜けて、端子付き電線30の電線35の部分が挿入孔11の内部に配置された状態において、挿入孔11の内壁面を電線35の表面に密着させる観点から、挿入孔11の各部の断面寸法や角度が規定されている。挿入孔11の内壁面において裂けが発生すると、その裂けが発生した部位において、挿入孔11の内壁面と、挿入孔11の中に配置された電線35との間に、空隙が生じる可能性がある。また、裂けが発生した箇所が、水の侵入経路となる可能性がある。それらの現象が発生すると、シール部材10において、挿入孔11の内壁面と端子付き電線30との間で、十分な防水性を保つことが難しくなる。しかし、裂けの発生を抑制することで、それらの現象を回避し、防水コネクタ1において、高い防水性を確保することができる。また、挿入孔11の内壁面が電線35の外周面に密着できないと、挿入孔11の内壁面と電線35の間に、空隙が生じやすくなる。そのような空隙は、水の侵入経路となる可能性があり、シール部材10の防水性を低下させる要因となる。しかし、挿入孔11の内壁面が電線35の外周面に密着できるようにすることにより、挿入孔11と電線35の間の部位から、ハウジング40の内部に水が侵入するのを、抑制することができる。以下のように挿入孔11の各部の断面寸法や角度を規定することで、挿入孔11の内壁面における裂けの抑制、および端子付き電線30への密着性の確保による防水性の向上が、可能となる。
【0045】
具体的には、挿入孔11の最狭窄部の内径を最小孔径Dmとして、その最小孔径Dmが、端子20のタブ幅Wとの関係において、1.1<Dm/W<1.4を満たす。ここで、挿入孔11の最狭窄部とは、挿入孔11の挿入軸Aに沿って、横断面の内径が最も小さくなった部位を指す。図示した形態においては、2箇所のリップ部11bの頂部11dの位置が、最狭窄部となる。
【0046】
最小孔径Dmが、Dm/W>1.1となっていることで、挿入孔11において、最小孔径Dmが、挿入される端子20のサイズに対して、過度に小さくなることがない。最小孔径Dmが小さい挿入孔11に、サイズの大きい端子20を挿入しようとすると、挿入時に、最狭窄部をはじめとする挿入孔11の内壁面に対して、端子20から力学的負荷が印加され、挿入孔11の内壁面において、シール部材10の構成材料に、裂けが発生する可能性がある。特に、最狭窄部が、リップ部11bの頂部11dとして設けられていると、端子20が挿入孔11の中を進む際に、リップ部11bが端子20に引き摺られるようにして、挿入孔11の内壁面に裂けが発生しやすい。上記のように、挿入孔11の内壁面において裂けが発生すると、裂けの箇所において、端子付き電線30との間に隙間が生じること、また水の侵入経路が形成されることにより、防水コネクタ1の防水性が低下してしまう。
【0047】
しかし、後の実施例にも示すように、Dm/W>1.1としておくことで、挿入孔11に挿入される端子20のサイズに対して、最小孔径Dmを、余裕のある大きさとすることができる。そのように最小孔径Dmを大きくしておくことで、端子20が挿入孔11を通過する際に、端子20と挿入孔11の内壁面との間の接触面積を小さくするとともに、挿入孔11の内壁面に印加される負荷を、小さく抑えることができる。すると、端子20を挿入孔11に挿入する際に、挿入孔11の内壁面、特にリップ部11bが、端子20に引き摺られにくくなり、シール部材10の構成材料に、裂けが発生しにくくなる。その結果、挿入孔11に端子20を通り抜けさせ、端子付き電線30を構成する電線35を挿入孔11の中に配置した状態において、裂けのない挿入孔11の内壁面が、電線35の外周面に接触することになり、挿入孔11の内壁面と電線35の表面との間に、隙間が生じにくくなる。その隙間のなさにより、また、挿入孔11の内壁面に、水の侵入経路となる裂けが形成されていないことにより、防水コネクタ1において、高い防水性が発揮される。Dm/W≧1.2であれば、さらに、シール部材10の裂けを回避しやすくなる。
【0048】
一方、最小孔径Dmが、Dm/W<1.4となっていることで、挿入孔11が、端子付き電線30に対して、適度な小ささを保つことができる。端子付き電線30において、端子20が、タブ幅Wの小さい小型のものであるほど、端子20に適合する電線35として、外径φが小さいものが接続される。挿入孔11の中に配置される電線35の外径φに対して、挿入孔11の内径が大きすぎると、挿入孔11の内壁面が電線35の外周面に密着することができなくなる。すると、挿入孔11の内壁面と電線35の間に、空隙が生じやすくなる。そのような空隙は、水の侵入経路となる可能性があり、シール部材10の防水性を低下させる要因となる。しかし、後の実施例にも示すように、Dm/W<1.4としておけば、挿入孔11に端子20を通り抜けさせ、端子付き電線30を構成する電線35を挿入孔11の中に配置した状態において、挿入孔11の内壁面が電線35の外周面に密着することにより、挿入孔11と電線35の間の部位から、ハウジング40の内部に水が侵入するのを、高度に抑制することができる。特に、防水コネクタ1が高温環境に置かれると、シール部材10の構成材料に、変性等、熱影響が及ぼされることで、防水コネクタ1の防水性が低下する可能性があるが、Dm/W<1.4としておくことで、コネクタ1が高温環境に置かれた際にも、挿入孔11と電線35の間の密着性を維持し、防水性の高い状態を保ちやすくなる。
【0049】
Dm/W≦1.3であれば、挿入孔11と端子付き電線30との間の密着性を、さらに高めやすくなる。また、挿入孔11と電線35の間の密着性をさらに確保しやすくする観点から、最小孔径Dmは、電線35の外径(外周の直径)φとの関係において、Dm/φ<0.51、さらにはDm/φ≦0.50であることが好ましい。なお、端子付き電線30を挿入孔11に挿入するに際し、挿入孔11に端子20の長手方向全域を通り抜けさせずに、電線35ではなく端子20自体を挿入孔11の中に配置した状態で、防水コネクタを構成する場合にも、Dm/W>1.1としておくことで、端子20と挿入孔11の間の部位からの水の侵入を抑制し、防水コネクタの防水性を高めることができる。
【0050】
このように、シール部材10において、挿入孔11の最小孔径Dmを、1.1<Dm/W<1.4の範囲に収めておくことで、端子20を挿入孔11に挿入する際のシール部材10の裂けによる防水性の低下と、挿入孔11の内壁面と端子付き電線30の間の密着性の不足による防水性の低下の両方を抑制し、高い防水性を有する防水コネクタ1とすることができる。特に、単一のシール部材10に多数の挿入孔11が設けられ、それぞれに端子20が挿入される場合には、多数の挿入孔11のうち、一部の挿入孔11において、シール部材10の裂けや端子付き電線30への密着性の不足による防水性能の低下が起こると、その影響が、シール部材10の全域に及ぶ可能性がある。また、近年、多数の端子の集積化に伴い、端子が小型化されている。端子の集積化や小型化に伴って、シール部材10に設けられる挿入孔11も小径化されているが、挿入孔11の小径化を適切に行わなければ、シール部材10の裂けや端子20への密着性の不足により、十分な防水性を得られない場合がある。そこで、1.1<Dm/W<1.4を満たすように、最小孔径Dmを設定しておくことで、各挿入孔11において、高い防水性を維持しながら、端子20の集積化や小径化の要請に対応してシール部材10を設計し、防水コネクタ1の省スペース化に寄与することができる。
【0051】
なお、多数の挿入孔11をシール部材10に設ける場合に、タブ幅Wの異なる端子20をそれらの挿入孔11に挿入するのに対応させて、挿入孔11の径を相互に異ならせてもよい。その場合にも、各挿入孔11の最小孔径Dmを、その挿入孔11に挿入される端子20のタブ幅Wとの関係において、上記のように定めればよい。以降に説明する谷部孔径Dv、間口孔径Do等、挿入孔11を規定する最小孔径Dm以外の各部寸法についても、同様に、その挿入孔11に挿入される端子20のタブ幅Wとの関係において定めればよい。
【0052】
シール部材10の挿入孔11においては、さらに、リップ部11bにおけるリップ角度θ1が、θ1<90°となっていることが好ましい。リップ角度θ1は、挿入孔11の縦断面において、リップ部11bの頂部11dの両側の傾斜に接する2つの接線がなす角を指す。挿入孔11を端子20が通過する際に、リップ部11bが挿入軸Aに沿って柔軟に倒れることができれば、リップ部11bが端子20によって引き摺られにくくなる。リップ角度θ1が大きすぎると、リップ部11bが倒れにくくなるが、θ1<90°のように、リップ角度θ1を小さくし、リップ部11bの山形状の立ち上がりを急峻にしておくことで、リップ部11bが、挿入軸Aに沿って柔軟に倒れやすくなり、挿入孔11の中を挿入軸Aに沿って移動する端子20によって引き摺られにくくなる。その結果、リップ部11bの引き摺りによるシール部材10の構成材料の裂けが、起こりにくくなる。その効果を更に高める観点から、リップ角度θ1は、θ1≦75°、さらにはθ1≦70°、またθ1≦60°であると、さらに好ましい。リップ角度θ1の下限は、特に定められるものではないが、リップ部11bの機械的強度の確保等の観点から、θ1≧30°であるとよい。
【0053】
また、リップ部11bが倒れることによる引き摺り抑制の効果は、リップ部11bが倒れ込むことができる空間が、挿入孔11の中に余裕をもって形成されているほど、大きくなりやすい。その観点から、挿入孔11において、隣接するリップ部11bの間に、広い空間が確保されていることが好ましい。つまり、挿入軸Aに沿って隣接する2つのリップ部11bの間で、内径が最も大きくなった部位であるリップ谷部11cにおいて、そのリップ谷部11cの内径として規定される谷部孔径Dvが、大きい方が好ましい。具体的には、谷部孔径Dvは、端子20のタブ幅Wとの関係において、Dv/W>2.3であるとよい。すると、端子20が挿入孔11を通過する際に、リップ部11bが、リップ谷部11cに向かって倒れ込みやすくなり、端子20によって引き摺られにくくなる。その効果を更に高める観点から、Dv/W≧2.4であると、さらに好ましい。
【0054】
一方、谷部孔径Dvが大きすぎても、挿入孔11の中に端子付き電線30の電線35が配置された状態において、挿入孔11の内壁面と電線35の外周面との間の接触面積が、小さくなってしまう可能性がある。そこで、Dv/W<2.7としておくと、挿入孔11の内壁面と電線35の外周面の間の接触面積を、大きく確保しやすくなる。その結果、電線35に対する挿入孔11の内壁面の密着性が高くなり、防水性の向上に効果が得られる。その効果をさらに高める観点から、Dv/W≦2.6であると、さらに好ましい。また、挿入孔11の内壁面と電線35との間の接触面積の確保を、さらに効果的に行う観点から、谷部孔径Dvは、電線35の外径φとの関係において、Dv/φ<0.98、さらにはDv/φ≦0.97であるとよい。
【0055】
リップ部11bやリップ谷部11cのみならず、拡径部11aの大きさや形状も、挿入孔11に端子20を挿入する際に、シール部材10の構成材料の裂けを抑制するのに、寄与するものとなる。例えば、拡径部11aにおける内径の最大値、つまり前方面12および後方面13における挿入孔11の開口部11eの内径を、間口孔径Doとして、その間口孔径Doは、端子20のタブ幅Wに対して、Do/W>3.5であるとよい。挿入孔11の端部に設けられた拡径部11aが、端子20のタブ幅Wに対して大きな間口孔径Doを有することで、挿入孔11に挿入される端子20の角度が、挿入軸Aに対して傾斜している場合にも、その端子20を拡径部11aから挿入孔11の内部へと誘導し、挿入軸Aに沿った角度で、挿入孔11の内部へ挿入しやすくなる。Do/W>3.5としておくことで、端子20のまっすぐな挿入を誘導する効果を高めることができる。その結果、挿入軸Aに対して傾斜して端子20が挿入された場合に起こりうる、挿入孔11の内壁面への大きな負荷の印加と、それに伴うシール部材10の構成材料の裂けを、抑制することができる。それらの効果をさらに高める観点から、Do/W≧3.6、またDo/W≧3.8であると、さらに好ましい。間口孔径Doの上限は、特に定められるものではないが、端子20のまっすぐな挿入を誘導しやすくする観点から、Do/W<5.0としておくことが好ましい。なお、挿入孔11の開口部11eが面取りされている(R形状が付与されている)場合には、拡径部11aの拡径形状を外挿し、開口部11eの位置におけるその外挿図形の内径を、間口孔径Doとみなせばよい。
【0056】
さらに、拡径部11aの開口角度θ2も、挿入孔11へと端子20を誘導する角度に、影響を与える。ここで、拡径部11aの開口角度θ2は、挿入孔11の縦断面において、拡径部11aの左右の傾斜面がなす角を指す。大きな開口角度θ2を有する拡径部11aを挿入孔11の端部に形成しておくことで、挿入孔11に対して挿入される端子20が、挿入軸Aに対して傾斜している場合にも、その端子20を拡径部11aから挿入孔11の内部へと誘導し、挿入軸Aに沿った角度で、挿入孔11の内部へと進ませやすくなる。θ2>20°としておけば、端子20のまっすぐな挿入を誘導する効果を高めることができ、挿入軸Aに対して傾斜して端子20が挿入された場合に起こりうる、挿入孔11の壁面への大きな負荷の印加と、それに伴うシール部材10の構成材料の裂けを、抑制することができる。θ2≧25°、またθ2≧28°とすれば、それらの効果をさらに高めることができる。開口角度θ2の上限は、特に定められるものではないが、端子20と、シール部材10の構成材料との接触を抑制し、傷の発生を低減する観点から、θ2<40°としておくことが好ましい。
【0057】
上記のように、挿入軸Aに沿った挿入孔11の各位置における横断面の形状は、特に限定されるものではなく、楕円形や円形等をとることができる。しかし、挿入孔11の各位置における横断面の形状、特に最狭窄部であるリップ部11bの頂部11dの位置における横断面の形状は、楕円形よりも、真円形であることが好ましい。挿入孔11の断面形状を円形とすることで、楕円形とする場合よりも、端子20を挿入孔11に挿入する際に、シール部材10に裂けが発生しにくくなる。挿入孔11の断面形状を円形とした場合の方が、端子20が挿入孔11を通過する際に、挿入孔11の内壁面が端子20に引き摺られにくいこと、また、引き摺られるとしても、その引き摺った状態が解消されやすいことが、裂けの抑制の原因となっていると考えられる。
【0058】
(シール部材の全体寸法)
ここまで、防水コネクタ1の防水性を高めるべく、シール部材10に設けられる挿入孔11の構造について検討したが、シール部材10の全体としての寸法にかかるパラメータも、防水コネクタ1における防水性の向上に、影響を与える。次に、シール部材10の全体としての寸法について検討する。
【0059】
まず、シール部材10において、挿入孔11が設けられた領域の外側に設けられる余肉、つまり挿入孔11が形成されていない領域の厚さ(シール部材10の板面内における幅)が、防水コネクタ1の防水性に影響を与える。余肉の厚さは、縦方向余長T1、および横方向余長T2によって表すことができる。縦方向余長T1は、シール部材10の板面の縦方向に沿って最も外側に位置する挿入孔11の開口部11eの端縁と、縦方向に沿ってその挿入孔11の外側に位置するシール部材10の端縁10aとの間の、シール部材10の肉厚を指す。また、横方向余長T2は、シール部材10の板面の横方向に沿って最も外側に位置する挿入孔11の開口部11eの端縁と、横方向に沿ってその挿入孔11の外側に位置するシール部材10の端縁10bとの間の、シール部材10の肉厚を指す。なお、上記のように、シール部材10の板面には、横方向および縦方向に、それぞれ複数の挿入孔11を配列することができ、縦方向には横方向よりも少ない数の挿入孔11が配列されている。図示した形態のように、縦方向の配列数は、1列のみであってもよい。また、シール部材10の端縁10a,10bに、シール部材10の厚み方向(挿入軸Aと平行な方向)に沿って凹凸構造が存在する場合には、最もシール部材10の外側に位置する箇所を各端縁10a,10bの位置とみなして、各余長T1,T2を規定すればよい。
【0060】
シール部材10においては、縦方向余長T1および横方向余長T2が大きいほど、つまり余肉が厚いほど、ハウジング40への収容等によって、シール部材10に縦方向や横方向の力を印加されることがあっても、挿入孔11が変形を起こしにくくなる。すると、挿入孔11の変形に起因して、端子20を挿入する際に、挿入孔11の内壁面に印加される負荷が増大することや、端子付き電線30への挿入孔11の内壁面の密着性が低下することを、抑制できる。その結果として、防水コネクタ1の防水性を確保しやすくなる。
【0061】
具体的には、最小孔径Dmを基準として、縦方向余長T1および横方向余長T2は、T1/Dm>1.1、およびT2/Dm>1.1とすることが好ましい。さらに、縦方向余長T1については、T1/Dm>2.1、またT1/Dm≧2.3であると、特に好ましい。横方向余長T2については、T2/Dm≧1.2であると、特に好ましい。なお、ここで、縦方向余長T1の方が、横方向余長T2よりも、特に好ましい下限値を大きく設定しているのは、縦方向の方が挿入孔11の配列数が少なく、余長が小さい場合に、挿入孔11の変形を介して、余長が小さいことの影響が大きく現れやすいからである。同様の理由で、T1>T2であることが好ましい。なお、縦方向余長T1および、横方向余長T2には、特に上限は設けられるものではないが、シール部材10を過度に大型化させない等の理由から、T1/Dm<3.0、またT2/Dm<2.0であることが好ましい。
【0062】
上記のように、シール部材10をハウジング40に収容した際に、シール部材10を圧縮することで、シール部材10とハウジング40の間からの水の侵入を抑制し、防水コネクタ1において、高い防水性を確保することができる。この際、シール部材10の圧縮率、および縦方向と横方向の圧縮率の関係も、防水コネクタ1の防水性に影響を与えるものとなる。ここで、シール部材10において、縦方向に沿った寸法をシール縦寸法L1、横方向に沿った寸法をシール横寸法L2とする。また、ハウジング40の中空部の内寸、特に後壁面42の位置における内寸について、ハウジング40に収容されるシール部材10の縦方向に沿った内寸を、ハウジング縦寸法L’1、とする。同様に、シール部材10の横方向に沿った内寸を、ハウジング横寸法L’2とする。シール部材10が圧縮された状態でハウジング40に収容されるように構成するためには、縦方向および横方向において、シール部材10の外寸が、ハウジング40の中空部の内寸よりも大きくなっている必要がある。つまり、L1>L’1、およびL2>L’2となっている必要がある。
【0063】
ここで、シール部材10の縦圧縮率R1および横圧縮率R2を、それぞれ縦方向および横方向における、シール部材10の外寸と、ハウジング40の中空部の内寸との比率として定義する。つまり、R1=L1/L’1、またR2=L2/L’2とする。この場合に、高い防水性を確保する観点から、R1>1.03、またR2>1.03であることが好ましい。
【0064】
さらに、シール部材10の縦圧縮率R1と横圧縮率R2の関係も、防水コネクタ1の防水性に影響を与える。縦方向および横方向のいずれか一方向に、ハウジング40に収容されたシール部材10が集中的に圧縮されていると、挿入孔11が、縦方向と横方向で、いびつに変形され、断面形状が、いびつな縦横比の形状に、変化してしまう。具体的には、圧縮率が大きくなった方向には、挿入孔11の内寸が小さくなり、端子20を挿入する際に、大きな負荷が印加されて、裂けが発生しやすくなる。一方、圧縮率が小さくなった方向には、挿入孔11の内寸があまり小さくならず、端子20を挿入した後の状態において、端子付き電線30と挿入孔11の内壁面の間の密着性が低くなりやすい。それらの現象を抑制するためには、シール部材10の縦圧縮率R1と横圧縮率R2が、大きく異ならないようにすることが好ましい。また、上記のように、挿入孔11の横断面の形状は、楕円形よりも真円形であることが好ましいが、縦圧縮比R1と横圧縮比R2が近いほど、真円形の断面を有する挿入孔11を、その真円形を保ったまま圧縮しやすい。例えば、縦圧縮率R1と横圧縮率R2の比率(圧縮率比)R2/R1が、0.9<R2/R1<1.1の範囲に収まるようにすればよい。さらに好ましくは、0.95≦R2/R1≦1.05、また0.99≦R2/R1≦1.01であるとよい。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を示す。ここでは、シール部材における挿入孔の構造および全体寸法が、防水コネクタの防水性に与える影響について、検討した。検討は、コンピュータ支援エンジニアリング(Computer Aided Engineering;CAE)を用いた解析と、実際に作製した防水コネクタに対する実験を、併用して行った。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0066】
[試験方法]
[1]CAE解析
コネクタハウジングに収容したシール部材に端子を挿入する際に発生する力や変形量に関して、CAE解析を用いた見積もりを行った。
【0067】
解析モデルとして、
図1~3に示したのと同様の構造を有するコネクタA1~A3,B1~B3のモデルを準備した。それらのコネクタは、構成部材の各部の寸法において、相互に相違している。各部の寸法は、表1に示したとおりとした。表1の各寸法は、シール部材をコネクタハウジングに収容せず、かつシール部材の挿入孔に端子を挿入しない状態における値である。
【0068】
シール部材を構成する材料としては、ショアA硬度20、100%モジュラス0.3MPa、300%モジュラス0.6MPaのシリコーンゴムを用いた。シール部材における挿入孔の配列数は、縦方向に1列、横方向に8個とした。
【0069】
コネクタハウジングにシール部材を収容した状態で、8個の挿入孔のうち、後方面から見て左から4個目の挿入孔以外には、φ17.8mmの電線を貫通させた状態とした。そして、左から4個目の挿入孔に対して、後方面から前方面へと端子を挿入しながら、内壁面の変形および応力の分布を、シミュレーションによって評価した。シミュレーションには、有限要素法による構造解析を用いた(解析ソフトウェア:LS-DYNA)。
【0070】
解析においては、端子挿入力と、挿入孔における最大応力および最大変形量をも見積もった。端子挿入力は、挿入孔に端子を通り抜けさせる間に必要な力の最大値として、評価した。最大応力および最大変形量は、それぞれ、挿入孔に端子を通り抜けさせる間に、挿入孔を囲むシリコーンゴム材料の各部に発生する応力および変位量の最大値として、評価した。最大変形量は、端子挿入前の状態を基準とした構成材料の伸び率として、表現する。
【0071】
[2]実験による評価
さらに、実際に防水コネクタを作成し、シール部材における端子挿入時の裂けの有無と、防水性に関する評価を行った。試料としては、上記でCAE解析のモデルとして用いたのと同様のコネクタA1~A3,B1~B3を、実際に製造した。
【0072】
・裂けの評価
各コネクタにおいて、ハウジングにシール部材を収容した状態で、後方面から見て左側から順に、各挿入孔に、端子付き電線の端子部分を挿入し、通り抜けさせた。その後、各端子付き電線を挿入孔から抜くとともに、シール部材をコネクタハウジングから取り外した。そして、挿入孔の内壁面を目視観察し、裂けの有無を評価した。挿入孔の内壁面に裂傷(シール部材の構成材料の亀裂)が発生していた場合、またはリップ部に貫通(リップ部を縦に貫通する穴の形成)が生じていた場合、挿入孔の内壁面に欠損(シール部材の構成材料の欠落)が発生していた場合は、裂けあり(B)と評価した。一方、挿入孔の内壁面に、それらの現象のいずれもが発生していない場合には、裂けなし(A)と評価した。特に、挿入孔の内壁面に、裂傷だけでなく、軽微な傷も見られなかった場合には、傷なし(A+)と評価した。
【0073】
・防水性評価
コネクタハウジングに収容したシール部材の挿入孔に端子付き電線を挿入し、電線部分が挿入孔の中に配置された状態の各コネクタに対して、防水性を評価するために、リーク試験を行った。この際、各コネクタをチューブの一方端に取り付けて、試験体とした。ついで、その試験体のコネクタの部分を水中に浸漬し、チューブの他方端から、50kPaの圧力で、30秒間、空気を導入した。空気を導入している間、水中に浸漬した防水コネクタにおいて、シール部材と端子付き電線の間の部位から気泡が発生しているかどうかを、目視にて観察した。気泡が発生している場合には、コネクタにリークが生じており、防水性が低い(B)と判定した。一方、気泡が発生していない場合には、コネクタにリークが生じておらず、防水性が高い(A)と判定した。なお、ハウジングとシール部材の間、またチューブと防水コネクタの間からは気泡が発生しないことを、別途確認した。
【0074】
・高温耐久後の防水性評価
コネクタA3,B1~B3については、さらに、高温耐久後の防水性を評価した。各コネクタについて、ハウジングに収容したシール部材の挿入孔の中に、端子付き電線の電線部分を配置した状態のままで、125℃の環境に、1000時間放置した。そして、コネクタを室温に戻した後、上記と同様に、リーク試験を行った。ただし、印加する空気圧は、30kPaと50kPaの2とおりとした。リーク試験において、30kPaの空気圧でもコネクタにリークが生じた場合には、高温耐久後の防水性が低い(B)と判定した。一方、30kPaの空気圧ではリークが生じなかった場合には、高温耐久後の防水性が高い(A)と判定した。さらに、50kPaの空気圧でもリークが生じなかった場合には、高温耐久後の防水性が特に高い(A+)と判定した。
【0075】
[試験結果]
下の表1に、コネクタA1~A3,B1~B3の各部の構成と、評価結果をまとめる。なお、孔の形状について、「楕円」と記載している場合には、開口部近傍のみが、断面楕円形(短軸:長軸の長さの比が1:1.23)となっており、挿入孔の内部の断面形状は、真円となっている。また、孔の形状が「真円」の場合には、挿入孔の開口部に面取りが施されておらず、挿入孔の開口部の位置における内径を、そのまま間口孔径Doとして採用している。一方、孔の形状が「楕円」の場合には、挿入孔の開口部が面取りされており、拡径部の拡径形状の外挿図形の、開口部の位置における内径を、間口孔径Doとして採用している。
【0076】
【0077】
表1によると、挿入孔の最小孔径Dmが、端子のタブ幅Wに対して、1.1<Dm/WとなっているコネクタA3およびコネクタB1~B3においては、Dm/W=1.1であるコネクタA1,A2に比べて、端子挿入力および挿入孔における最大応力が、顕著に小さくなっている。そして、コネクタA1,A2では、端子挿入時に、挿入孔の壁面に裂けが発生するとともに(裂けの有無:B)、防水性が低くなっている(防水性:B)のに対し、コネクタA3およびコネクタB1~B3では、端子挿入時に裂けが発生せず(裂けの有無:AまたはA+)、高い防水性が得られている(防水性:A)。このことから、Dm/W>1.1とすることにより、端子挿入に伴って挿入孔の内壁面に印加される負荷が小さく抑えられ、その結果として、挿入孔の内壁面における裂けを抑制するとともに、高い防水性を維持できると言える。
【0078】
Dm/W=1.4となっているコネクタA3においては、最小孔径Dmが大きいことに対応して、挿入孔の内壁面に裂けは発生しておらず(裂けの有無:A+)、高温耐久を経ない状態では、高い防水性が得られているが(防水性:A)、高温耐久を経ると、防水性が低くなっている(高温耐久後の防水性:B)。高温耐久による防水性の低下は、挿入孔の内壁面と電線との間の密着性が十分に高くなかったことにより、高温耐久を経てシール部材の構成材料が熱影響を受けた際に、挿入孔と電線の間に密着状態を維持できなかったものと考えられる。一方、Dm/W<1.4であるコネクタB1~B3では、高温耐久を経ても、高い防水性が維持されている(高温耐久後の防水性:AまたはA+)。このことから、Dm/W<1.4とすることにより、高温耐久を経ても、高い防水性を維持できるだけの高い密着性が、挿入孔の内壁面と端子付き電線の間に得られると言える。以上より、最小孔径Dmを、1.1<Dm/W<1.4の範囲としておくことで、挿入孔内壁面の裂けの抑制、および挿入孔内壁面と端子付き電線との間の密着性の確保の両方の結果として、防水コネクタにおいて、高い防水性を達成できることが分かる。
【0079】
コネクタB1~B3は、ハウジングの縦方向寸法L’1において相互に異なっており、それに伴って、シール部材の縦圧縮率R1、および圧縮率比R2/R1においても、相互に異なっている。また、コネクタB1は、コネクタB2,B3と、縦方向余長T1においても相違している。これら3種のコネクタのうちシール部材の圧縮率比R2/R1が1.00(R1=R2)に近く、さらに縦方向余長T1が大きくなっているコネクタB2,B3においては、端子挿入によって、裂けだけでなく、軽微な傷も形成されていない(裂けの有無:A+)。この結果は、真円形に形成された挿入孔が、縦横にいびつな圧縮を受けず、内壁面に及ぼされる負荷が、内壁面の各部に均一性高く分散されることによると考えられる。また、コネクタB1,B3において、高温耐久後の防水性が特に高いという結果が得られている(A+)。この結果は、コネクタB1,B3において、コネクタB2よりも縦圧縮率R1が大きくなっており、シール部材の圧縮によって、端子付き電線に対する挿入孔の内壁面の密着性が、一層向上されているためであると考えられる。コネクタB1~B3は、谷部孔径Dv、間口孔径Do、リップ角度θ1、開口角度θ2、縦方向余長T1、横方向余長T2のそれぞれについても、上記で列挙した好ましい範囲を満たしている。
【0080】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 防水コネクタ
10 シール部材
10a,10b シール部材の端縁
11 挿入孔
11a 拡径部
11b リップ部
11c リップ谷部
11d リップ部の頂部
11e 開口部
12 前方面
13 後方面
20 (コネクタ)端子
21 タブ部
22 筒状部
23 かしめ部
30 端子付き電線
35 電線
35a 導体
35b 絶縁被覆
40 (コネクタ)ハウジング
41 側壁面
42 後壁面
43 開口
44 窓部
A 挿入軸
Dm 最小孔径
Do 間口孔径
Dv 谷部孔径
L1 シール縦寸法
L2 シール横寸法
L’1 ハウジング縦寸法
L’2 ハウジング横寸法
T1 縦方向余長
T2 横方向余長
W コネクタ端子のタブ幅
φ 電線の外径
θ1 リップ角度
θ2 開口角度