(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】細胞移植装置
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20221129BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20221129BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20221129BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20221129BHJP
A61L 27/06 20060101ALI20221129BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20221129BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20221129BHJP
A61L 27/04 20060101ALI20221129BHJP
C12M 1/28 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
A61M37/00 514
A61L27/38 100
A61L27/58
A61L27/18
A61L27/06
A61L27/16
A61L27/20
A61L27/04
C12M1/28
(21)【出願番号】P 2019181436
(22)【出願日】2019-10-01
(62)【分割の表示】P 2019502262の分割
【原出願日】2018-03-29
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2017190399
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 賢洋
(72)【発明者】
【氏名】木下 拡充
【審査官】川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/042818(WO,A1)
【文献】特表2002-505605(JP,A)
【文献】特表2003-506130(JP,A)
【文献】特表2013-526300(JP,A)
【文献】特開2013-013668(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073625(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/115079(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
A61L 27/38
A61L 27/58
A61L 27/18
A61L 27/06
A61L 27/16
A61L 27/20
A61L 27/04
C12M 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の皮内および皮下の少なくとも一方である対象領域に細胞群を配置するための細胞移植装置であって、
前記細胞群を含む液状体を収容する収容部として機能するとともに、前記収容部に通じる開口部を有し、前記生体の皮膚表面から前記対象領域に向けて進入して前記開口部を前記対象領域に配置する進入部として機能する針形状の突出部と、
前記突出部内の吸引により前記開口部から前記細胞群を含む液状体を前記収容部に収容させる誘導部と、
前記突出部の延びる方向である第1方向に沿った方向から見て前記突出部の外周に配置され、前記皮膚表面に当接可能に構成された進入補助部材と、
前記進入補助部材に対する前記突出部の前記第1方向における位置を変更する位置調整部と、
を備え、
前記位置調整部は、
前記第1方向において前記進入補助部材の先端よりも前記突出部の先端が突き出ていない第1位置と、前記第1方向において前記進入補助部材の先端よりも前記突出部の先端が突き出ている第2位置との間で、前記進入補助部材に対する前記突出部の位置を変更可能であり、
前記位置調整部が、前記突出部の位置を前記第1位置から前記第2位置に変更することで前記突出部を前記生体内に進入させた後、
前記誘導部が、前記収容部に前記細胞群を含む液状体
を収容させている状態で、
前記位置調整部が、前記開口部が前記対象領域に位置する範囲内において前記突出部を前記進入補助部材に対して引き上げる
細胞移植装置。
【請求項2】
前記細胞移植装置は、前記第1方向に沿った方向から見て前記進入補助部材よりも内側で前記突出部を囲み、前記皮膚表面に当接可能に構成された弾性体を備える
請求項1に記載の細胞移植装置。
【請求項3】
前記突出部は、当該突出部の内部に前記開口部から延びる孔を有する構造体であり、
前記細胞移植装置は、前記孔に挿入される挿入部であって、前記孔内で前記孔の延びる方向に沿って動かされることにより前記開口部から前記細胞群を押し出すように構成された前記挿入部を備える
請求項1または2に記載の細胞移植装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚領域への細胞の移植に用いられる細胞移植装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体から採取した細胞を培養することにより得られた細胞群を、生体の皮内や皮下へ移植する技術が開発されている。例えば、毛を作り出す器官である毛包の形成に寄与する細胞群を精製し、この細胞群を皮内へ移植することによって、毛髪を再生させることが試みられている。
【0003】
毛包は、上皮系細胞と間葉系細胞との相互作用により形成される。毛髪の良好な再生のためには、移植された細胞群が、正常な組織構造を有して良好な毛髪の形成能力を有する毛包となることが望ましい。そこで、こうした毛包を形成可能な細胞群の製造方法について、様々な研究開発が行われている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/073625号
【文献】国際公開第2012/108069号
【文献】特開2008-29331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、細胞の培養は、培地の入れられた培養容器にて行われる。生体への細胞の円滑な移植のためには、培養容器内の細胞を生体の皮膚領域へ円滑に移動させることが可能であることが望ましい。例えば、皮膚における移植部位をメスで切開し、培養容器内の細胞群をピンセット等で1つずつ摘んで皮内に移すという移植方法では、使用する器具の交換や、細胞群を移動させる動作の頻繁な繰り返しが生じるため、移植が円滑に進められるとは言い難い。現在まで、上述のように、細胞の培養工程についての研究開発が盛んに行われている一方で、細胞の移植工程に着目した技術開発についての報告は少なく、それゆえ、細胞の移植を円滑に進めるための器具や方法の提案が望まれている。
【0006】
本発明は、細胞の円滑な移植を可能とする細胞移植装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する細胞移植装置は、生体の皮内および皮下の少なくとも一方である対象領域に細胞群を配置するための細胞移植装置であって、前記細胞群を含む液状体を収容する収容部と、前記収容部に通じる開口部を有し、前記生体の皮膚表面から前記対象領域に向けて進入して前記開口部を前記対象領域に配置する進入部とを備える。
【0008】
上記構成によれば、1つの装置が収容部と進入部とを備えているため、対象領域への進入部の進入と、収容部に収容された細胞群の開口部からの放出とを、1つの装置によって連続して行うことができる。したがって、細胞の円滑な移植が可能である。
【0009】
上記構成において、細胞移植装置は、前記対象領域への前記細胞群の配置を補助する配置補助部をさらに備えてもよい。
上記構成によれば、対象領域への細胞群の配置が補助されるため、対象領域への細胞群
の配置を円滑に進めることができる。
【0010】
上記構成において、前記細胞移植装置は、基板面を有する基板部と、前記基板面から突き出し、前記収容部および前記進入部として機能する突出部とを有し、前記突出部は、前記開口部を有し、当該突出部の内部に前記開口部から延びる孔を有する構造体であってもよい。
【0011】
上記構成によれば、突出部が収容部および進入部として機能するため、収容部と進入部とが別々の構造体である場合と比較して、収容部と進入部の有する開口部とを近づけることが可能である。したがって、収容部から開口部へ細胞群を移動させるために要する時間やエネルギー等の削減が可能であり、細胞群の移動に要する負荷が軽減される。
【0012】
上記構成において、前記細胞移植装置は、前記突出部の前記開口部から、前記細胞群を前記孔の内部に取り込むことが可能に構成されていてもよい。
上記構成によれば、開口部が細胞群の放出口として機能するとともに取り込み口としても機能する。したがって、放出口と取り込み口とが突出部に別々に設けられる場合と比較して、突出部の構造が簡易になる。また、取り込み口を有する構造体が突出部とは別の構造体である場合と比較して、収容部と取り込み口とを近づけることが可能である。したがって、取り込み口から収容部へ細胞群を移動させるために要する時間やエネルギー等の削減が可能であり、細胞群の移動に要する負荷が軽減される。
【0013】
上記構成において、細胞移植装置は、前記液状体を吸引することによって前記細胞群を前記孔の内部に取り込んでもよい。
上記構成によれば、細胞群を突出部の内部へ好適に取り込むことができる。また、細胞移植装置が複数の突出部を有する場合には、複数の突出部に対して一括して細胞群を収容させることも可能であるため、細胞群の収容の効率が高められる。
【0014】
上記構成において、前記細胞移植装置は、複数の前記突出部を有してもよい。
上記構成によれば、対象領域に複数の細胞群を一括して配置することができる。したがって、細胞群を1つずつ移動させる場合と比較して、細胞の移植に際しての動作の繰り返しが削減されるため、細胞の移植をさらに円滑に進めることができる。
【0015】
上記構成において、前記細胞群は、細胞の集合体であり、各突出部が、一定の数の前記細胞群を収容する構造を有してもよい。
上記構成によれば、細胞群が移植された部位において、配置された細胞群の数に、位置による偏りが生じることが抑えられる。
【0016】
上記構成において、前記孔は、前記開口部を含む第1の部分と、前記第1の部分に連通し、前記第1の部分よりも流路断面積の小さい第2の部分とを有してもよい。
上記構成によれば、細胞群は第1の部分よりも第2の部分を通りにくく、細胞群が第1の部分に保持されやすい。したがって、開口部から孔の内部に入った細胞群を突出部に留めることが容易である。
【0017】
上記構成において、前記突出部における前記進入部として機能する部分の長さは、200μm以上6mm以下であってもよい。
上記構成によれば、皮内および皮下の少なくとも一方である対象領域に開口部を配置することに適した長さの進入部が実現される。
【0018】
上記構成において、前記基板面の面積は、0.005cm2以上4cm2以下であってもよい。
上記構成によれば、細胞群の移植される部位が頭皮である場合に、頭皮の湾曲に対して基板面の広がりが大きすぎないため、基板面が頭皮に沿いやすい。したがって、突出部が皮膚に十分に刺さりやすい。
【0019】
上記構成において、前記開口部の開口面積は、5000μm2以上300000μm2以下であってもよい。
上記構成によれば、細胞群としての毛包原基の出入りに適した大きさの開口部が実現される。
【0020】
上記構成において、前記細胞移植装置は、前記細胞群として、発毛または育毛に寄与する細胞群を前記対象領域に配置するための装置であってもよい。上記構成において、前記細胞移植装置は、前記細胞群として、毛包原基を前記対象領域に配置するための装置であってもよい。
【0021】
上記構成によれば、皮内および皮下の少なくとも一方を対象として細胞群を配置する細胞移植装置を用いることで、上記細胞群の的確な移植が可能となる。発毛や育毛を目的とする場合、多くの上記細胞群を移植することが求められる場合が多い。こうした細胞群の移植に上記細胞移植装置が用いられることで、細胞の移植の効率が大きく高められるため、細胞の円滑な移植が可能となることの利点が大きい。
【0022】
上記課題を解決する細胞移植用ユニットは、細胞群が配置される予定の領域である1以上の配置予定領域を有するトレイと、前記細胞群を、生体の皮内および皮下の少なくとも一方である対象領域に前記トレイから移すための細胞移植装置と、を備える細胞移植用ユニットであって、前記細胞移植装置は、前記配置予定領域から前記細胞群を含む液状体を取り込む1以上の収容部であって、1つの前記配置予定領域に対して1つの前記収容部が割り当てられる前記収容部と、前記収容部に通じる開口部を有し、前記生体の皮膚表面から前記対象領域に向けて進入して前記開口部を前記対象領域に配置する進入部と、を備える。
【0023】
上記構成によれば、1つの配置予定領域に対して1つの収容部が割り当てられるため、収容部に収容される細胞群の分量の設定が容易であり、複数の突出部に一定の数の細胞群を収容させることも容易である。そして、対象領域への進入部の進入と、収容部に収容された細胞群の開口部からの放出とを、1つの装置によって連続して行うことができるため、細胞の円滑な移植が可能となる。
【0024】
上記構成において、前記細胞移植装置は、基板面を有する基板部と、前記基板面から突き出し、前記収容部および前記進入部として機能する突出部とを有し、前記突出部は、前記開口部を有し、当該突出部の内部に前記開口部から延びる孔を有する構造体であり、前記トレイと前記細胞移植装置とは、前記トレイの深さ方向において前記配置予定領域の位置に対する前記突出部の位置を規制する構造を有してもよい。
【0025】
上記構成によれば、トレイの深さ方向において配置予定領域の位置に対する突出部の位置が規制されるため、細胞群の収容に際して、配置予定領域に対して突出部の位置を合わせることが容易である。
【0026】
上記構成において、前記細胞移植装置は、基板面を有する基板部と、前記基板面から突き出し、前記収容部および前記進入部として機能する突出部とを有し、前記突出部は、前記開口部を有し、当該突出部の内部に前記開口部から延びる孔を有する構造体であり、前記トレイと前記細胞移植装置とは、前記トレイの深さ方向と直交する方向において前記配置予定領域の位置に対する前記突出部の位置を規制する構造を有してもよい。
【0027】
上記構成によれば、トレイの深さ方向と直交する方向において配置予定領域の位置に対する突出部の位置が規制されるため、細胞群の収容に際して、配置予定領域に対して突出部の位置を合わせることが容易である。
【0028】
上記構成において、前記トレイは、前記細胞群の培養に用いられる培養容器であってもよい。
上記構成によれば、培養の行われた容器から細胞群を対象領域へ移すことにより移植が完了するため、培養容器とは別のトレイに培養容器から細胞群が移し替えられる場合と比較して、移植に要する作業の削減が可能であり、移植の効率も高められる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、細胞の円滑な移植が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】細胞移植装置の一実施形態において、細胞移植装置の斜視構造を示す図。
【
図2】一実施形態の細胞移植装置の断面構造を示す図であって、
図1のII-II線における断面図。
【
図3】一実施形態の細胞移植装置を用いた細胞群の収容工程の一例を示す図。
【
図4】一実施形態の細胞移植装置を用いた細胞群の収容工程について、トレイにおける細胞群の配置の他の例を示す図。
【
図5】一実施形態の細胞移植装置を用いた細胞群の収容工程について、トレイにおける細胞群の配置の他の例を示す図。
【
図6】一実施形態の細胞移植装置が有する突出部の断面構造を拡大して示す図。
【
図7】一実施形態の細胞移植装置が有する突出部の斜視構造を拡大して示す図。
【
図8】一実施形態の細胞移植装置を用いて細胞群の進入工程が行われるときの細胞移植装置の配置の一例を示す図。
【
図9】一実施形態の細胞移植装置を用いた細胞群の進入工程の一例を示す図。
【
図10】一実施形態の細胞移植装置を用いた細胞群の配置工程の一例を示す図。
【
図11】一実施形態の細胞移植装置を用いた細胞群の進入工程および配置工程の他の例を示す図。
【
図12】一実施形態の細胞移植装置を用いた細胞群の進入工程および配置工程の他の例を示す図。
【
図13】一実施形態の細胞移植装置を用いた細胞群の進入工程および配置工程の他の例を示す図。
【
図14】一実施形態の細胞移植装置を用いた細胞群の進入工程および配置工程の他の例を示す図。
【
図15】一実施形態の細胞移植装置を用いた細胞群の進入工程および配置工程の他の例を示す図。
【
図16】一実施形態の細胞移植装置を用いた細胞群の進入工程および配置工程の他の例を示す図。
【
図17】一実施形態の細胞移植装置を用いた細胞群の進入工程および配置工程の他の例を示す図。
【
図18】一実施形態の細胞移植装置を用いた細胞群の進入工程および配置工程の他の例を示す図。
【
図19】一実施形態の細胞移植装置における突出部の配列の一例について斜視構造を示す図。
【
図20】一実施形態の細胞移植装置における突出部の配列の一例について正面構造を示す図。
【
図21】一実施形態の細胞移植装置における突出部の配列の一例について側面構造を示す図。
【
図22】一実施形態の細胞移植装置を用いて細胞群の進入工程が行われるときの細胞移植装置の配置の一例を示す図。
【
図23】一実施形態の細胞移植装置を用いた細胞群の進入工程の一例を示す図。
【
図24】一実施形態の細胞移植装置において、細胞移植装置がピストン状の構造物を備える形態を示す図。
【
図25】一実施形態の細胞移植装置において、細胞移植装置がピストン状の構造物を備える形態を示す図。
【
図26】一実施形態の細胞移植装置の断面構造を拡大して示す図。
【
図27】一実施形態の細胞移植装置の断面構造の他の例を示す図。
【
図28】一実施形態の細胞移植装置の断面構造の他の例を示す図。
【
図29】一実施形態の細胞移植装置における基板部および突出部が形成される途中の構造体の画像を示す図。
【
図30】
図29の構造体の加工によって形成された突出部の画像を示す図。
【
図31】細胞移植用ユニットの一実施形態において、細胞移植用ユニットを構成するトレイおよび細胞移植装置の斜視構造を示す図。
【
図32】一実施形態の細胞移植用ユニットにおいて、収容工程が行われるときのトレイと細胞移植装置との配置を示す図。
【
図33】一実施形態の細胞移植用ユニットを用いた細胞群の収容工程を示す図。
【
図34】一実施形態の細胞移植用ユニットについて、トレイおよび細胞移植装置の他の例を示す図。
【
図35】一実施形態の細胞移植用ユニットについて、トレイの他の例および細胞移植装置の斜視構造を示す図。
【
図36】一実施形態の細胞移植用ユニットについて、収容工程が行われるときのトレイの他の例と細胞移植装置との配置を示す図。
【
図37】一実施形態の細胞移植用ユニットを用いた細胞群の収容工程を示す図。
【
図38】一実施形態の細胞移植用ユニットについて、トレイおよび細胞移植装置の他の例を示す図。
【
図39】一実施形態の細胞移植用ユニットについて、トレイおよび細胞移植装置の他の例を示す図。
【
図40】一実施形態の細胞移植用ユニットについて、トレイおよび細胞移植装置の他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1~
図40を参照して、細胞の移植に用いられる細胞移植装置、および、細胞移植装置を含む細胞移植用ユニットの一実施形態を説明する。
[移植対象]
本実施形態の細胞移植装置は、生体における皮内および皮下の少なくとも一方へ細胞群を移植するために用いられる。まず、移植対象の細胞群について説明する。
【0032】
移植対象の細胞群は、複数の細胞を含む。細胞群は、凝集された複数の細胞の集合体であってもよいし、細胞間結合により結合した複数の細胞の集合体であってもよい。あるいは、細胞群は、分散した複数の細胞から構成されてもよい。また、細胞群を構成する細胞は、未分化の細胞であってもよいし、分化が完了した細胞であってもよいし、細胞群は、未分化の細胞と分化した細胞とを含んでいてもよい。細胞群は、例えば、細胞塊(スフェロイド)、原基、組織、器官、オルガノイド、ミニ臓器等である。
【0033】
細胞群は、皮内または皮下に配置されることによって、生体における組織形成に作用する能力を有する。本実施形態では、移植対象が、発毛または育毛に寄与する細胞群である例について説明する。こうした細胞群は、例えば、毛包器官として機能する能力、毛包器
官へ分化する能力、毛包器官の形成を誘導もしくは促進する能力、あるいは、毛包における毛の形成を誘導もしくは促進する能力等を有する。また、細胞群は、色素細胞もしくは色素細胞に分化する幹細胞等のように、毛色の制御に寄与する細胞を含んでいてもよい。また、細胞群は、血管系細胞を含んでいてもよい。
【0034】
具体的には、本実施形態における移植対象の細胞群の一例は、原始的な毛包器官である毛包原基である。毛包原基は、間葉系細胞と上皮系細胞とを含む。毛包器官では、間葉系細胞である毛乳頭細胞が、毛包上皮幹細胞の分化を誘導し、これによって形成された毛球部にて毛母細胞が分裂を繰り返すことにより、毛が形成される。毛包原基は、こうした毛包器官に分化する細胞群である。
【0035】
毛包原基は、例えば、毛乳頭等の間葉組織に由来する間葉系細胞と、バルジ領域や毛球基部等に位置する上皮組織に由来する上皮系細胞とを、所定の条件で混合培養することによって形成される。ただし、毛包原基の製造方法は上述の例に限定されない。また、毛包原基の製造に用いられる間葉系細胞と上皮系細胞との由来も限定されず、これらの細胞は、毛包器官由来の細胞であってもよいし、毛包器官とは異なる器官由来の細胞であってもよいし、多能性幹細胞から誘導された細胞であってもよい。
【0036】
[細胞移植装置]
本実施形態の細胞移植装置について説明する。まず、
図1を参照して、細胞移植装置の基本構成を説明する。
【0037】
図1が示すように、細胞移植装置10は、1つの基板部20と、1以上の突出部30とを備えている。基板部20は、基板面21Sを有し、突出部30は、基板面21Sから突き出ている。換言すれば、基板面21Sは突出部30の基端を支持している。以下の説明においては、基板部20の厚さ方向、すなわち、基板部20と突出部30との並ぶ方向を第1方向とし、第1方向と直交する平面に沿った任意の方向を第2方向とする。基板面21Sが平面であるとき、第2方向は、基板面21Sに沿った方向である。
【0038】
細胞移植装置10は、細胞群を収容する収容部として機能する部分と、皮膚表面から、細胞群を移植する対象の領域である対象領域に向けて進入可能に構成された進入部として機能する部分とを有する。進入部は、細胞群の放出口となる開口部を有し、皮膚への進入によって、開口部を対象領域に配置する。対象領域は、皮内および皮下の少なくとも一方である。また、細胞移植装置10は、対象領域への細胞群の配置を補助する配置補助部として機能する部分を有することが好ましい。
【0039】
細胞移植装置10を用いた細胞の移植方法は、収容部に細胞群を含む液状体を収容する収容工程と、進入部を皮膚表面から対象領域に向けて進入させる進入工程と、進入部の有する開口部を通して対象領域に細胞群を配置する配置工程とを含む。
【0040】
以下、収容部、進入部、および、配置補助部の各々の詳細な構成と、収容工程、進入工程、配置工程の各工程の詳細とを順に説明する。
<収容部および収容工程>
収容部は、細胞群と、細胞群を保護する液体である収容液とを含む液状体を収容する。収容部内において、細胞群は収容液中に保持されている。収容液は、細胞の生存を阻害し難い液体であればよく、また、生体に注入された場合に生体に与える影響の小さい液体であることが好ましい。例えば、収容液は生理食塩水であることが好ましい。収容液は、生理食塩水に加えて、栄養成分等の添加成分を含んでいてもよい。あるいは、収容液は、細胞の培養のための培地であってもよい。培地が、生体への注入に適さない組成を有する場合、細胞群が生体内へ入れられる前に、収容液が培地から生理食塩水等の生体への影響が
小さい液体に交換されることが好ましい。なお、交換される液体は、生理食塩水に限定されず、交換される液体としては、ワセリンや化粧水等の皮膚を保護する液体、もしくは、これらの液体と生理食塩水とが混合された液体等が例示される。
【0041】
細胞群と収容液とを含む上記液状体は、低粘度の流体、あるいは、高粘度の流体であり得る。また、上記液状体は、ゾル状物、あるいは、ゲル状物であり得る。上記液状体は、高分子材料等から形成されるマトリックス中に、細胞群と収容液とを保持する構成を有し得る。このとき、マトリックスを形成する高分子材料としては、コラーゲンやヒアルロン酸が例示されるが、上記高分子材料はこれらに限定されない。
【0042】
収容部の一形態は、突出部30が、収容部として機能する形態である。
図2が示すように、突出部30は、突出部30の内部にて空間を区画する内部孔31を有する構造体である。内部孔31に細胞群が収容される。1つの細胞群がひとまとまりの細胞の集合体であるとき、1つの突出部30は、1つの細胞群を収容可能に構成されていることが好ましい。すなわち、突出部30は、1つの細胞群の収容に適した大きさの内部孔31を有していることが好ましい。具体的には、細胞群が毛包原基であるとき、突出部30における内部孔31は、1つの毛包原基の収容に適した大きさを有していることが好ましい。
【0043】
細胞移植装置10が複数の突出部30を有するとき、複数の突出部30の各々が収容部として機能する。すなわち、細胞移植装置10は、突出部30ごとの収容部を備える。複数の突出部30の各々は、一定の数の細胞群を収容する構造を有することが好ましく、具体的には、突出部30ごとに1つの細胞群を収容可能に構成されていることが好ましい。例えば、各突出部30が区画する内部孔31の大きさは複数の突出部30において均等であり、各突出部30における内部孔31の大きさが1つの細胞群の収容に適した大きさであればよい。
【0044】
図3が示すように、細胞移植装置10は、細胞移植装置10の外部にて培養容器等のトレイ50に入れられている細胞群Cgを、突出部30の内部に取り込むことが可能に構成されている。一形態として、細胞移植装置10が、突出部30の先端領域から、細胞群Cgを突出部30の内部に取り込む形態、および、こうした形態による収容工程について説明する。
【0045】
突出部30の内部孔31は、第1方向に沿って、突出部30の基端から先端に向けて延び、突出部30を貫通している。内部孔31の延びる方向における一方の端部は、突出部30の先端領域にて突出部30の周面に達して開口部32を構成し、内部孔31の延びる方向における他方の端部は、基板部20に達している。すなわち、内部孔31の区画する空間は、突出部30の開口部32を通じて細胞移植装置10の外部の空間に連通するとともに、基板部20の内部の空間に連通している。
【0046】
なお、内部孔31は、突出部30の基端から延びて突出部30の先端領域に開口していればよく、全体として直線状に延びていてもよいし、屈曲して延びていてもよい。
収容工程において、細胞移植装置10は、開口部32から、細胞群Cgを内部孔31の内部に取り込む。より詳細には、トレイ50にて、細胞群Cgが保護液Lqとともに位置する部分に、突出部30の開口部32を含む先端領域が向けられ、保護液Lqとともに細胞群Cgが内部孔31に取り入れられる。
【0047】
例えば、細胞移植装置10は、毛細管現象を利用して、保護液Lqと細胞群Cgとを含む液状体を内部孔31内に這い上がらせ、これによって細胞群Cgを収容する。毛細管現象を利用する場合、保護液Lqの種類や突出部30の材料等を考慮して、保護液Lqと細
胞群Cgとを含む液状体に対し毛細管現象が生じるように、内部孔31の内径が設定される。
【0048】
また例えば、細胞移植装置10は、細胞群Cgを取り込むための構造を含む誘導部40を備えていてもよい。例えば、誘導部40は、吸引機構や、ピストン等を含む吸引構造を備え、開口部32とは反対側から、内部孔31の内部の気体や液体を吸引する。細胞移植装置10は、誘導部40による吸引により、保護液Lqとともに細胞群Cgを内部孔31内に吸い込み、これによって細胞群Cgを収容する。
【0049】
他の例では、誘導部40は、電圧の印加により電気浸透流を生じさせる機構を備える。細胞移植装置10は、保護液Lqと細胞群Cgとを含む液状体に電気浸透による流れを生じさせ、保護液Lqとともに細胞群Cgを内部孔31に流れ込ませる。これにより、細胞群Cgが突出部30に収容される。
【0050】
なお、細胞移植装置10は、毛細管現象、吸引、および、電気浸透流のうちの2以上の組み合わせによって、細胞群Cgを内部孔31に取り込んでもよい。
細胞移植装置10が複数の突出部30を有する場合、突出部30に細胞群Cgを収容させることを突出部30ごとに繰り返すことは煩雑である。上記に例示した取り込みの形態であれば、複数の突出部30への細胞群Cgの収容を一括して行うことができるため、細胞群Cgの収容の効率が高められる。
【0051】
以上のように、突出部30が収容部として機能する形態においては、細胞移植装置10が複数の収容部を備え、各収容部に細胞群Cgが収容されることが好ましい。そして、細胞移植装置10は、トレイ50に配置された細胞群Cgに対する1回の取り込み操作によって、複数の収容部の各々に細胞群Cgを収容することが可能な形態であることが好ましい。また、トレイ50にて、細胞群Cgである毛包原基は、毛包原基ごとに分離して配置されていることが好ましい。
【0052】
なお、基板部20の内部構造は、特に限定されない。基板部20の内部には、突出部30の内部孔31から流れ出た流体を流し、また、内部孔31に流体を流す流路が形成されていればよい。
図2および
図3においては、基板部20が、基板面21Sから突出部30と反対側に延びる基端流路22と基端流路22に繋がる中間流路23との組を、突出部30ごとに1組ずつ対応させて備える構成を例示している。基端流路22は、内部孔31と連通し、中間流路23の内径は、基端流路22から基板面21Sとは反対側に向けて徐々に拡大している。さらに、基板部20は、すべての中間流路23と連通する1つの共有流路24を備えている。内部孔31から出た流体は、基端流路22、中間流路23、共有流路24の順に流路を流れる。内部孔31に向かう流体は、共有流路24、中間流路23、基端流路22の順に流路を流れる。中間流路23は設けられていなくてもよいが、中間流路23が存在することにより、内部孔31に向けて流路の内径が徐々に小さくなるため、内部孔31に流体が流れ込みやすい。
【0053】
また、
図3においては、トレイ50が有する平面上に保護液Lqと細胞群Cgとを含む液状体が配置される形態を例示したが、トレイ50における液状体の配置態様はこれに限られない。例えば、
図4が示すように、トレイ50が有する凹部51の内部に液状体が配置されてもよい。あるいは、
図5が示すように、トレイ50が有する貫通孔54の内部およびその周囲に液状体が留められていてもよい。
【0054】
ここで、上述のように、内部孔31は、開口部32とは反対側で、基板部20の内部の空間に連通している。それゆえ、突出部30は、取り込んだ細胞群Cgを、突出部30の内部に留めるための構成を有していることが好ましい。
【0055】
例えば、
図2~
図5に示しているように、内部孔31の内径が突出部30の内部にて変化していることが好ましい。詳細には、
図6が示すように、内部孔31は、多段の孔であって、第1の内径r1を有する大径部33と、第1の内径r1よりも小さい第2の内径r2を有する小径部34とを有している。言い換えれば、小径部34の流路断面積は、大径部33の流路断面積よりも小さい。大径部33は、小径部34に対して突出部30の先端が位置する側に配置されている。開口部32は大径部33の端部を構成し、大径部33に含まれる。
【0056】
第1の内径r1は、細胞群Cgが大径部33を通ることが可能な大きさを有し、第2の内径r2は、細胞群Cgが小径部34を通ることが不可能な大きさを有する。例えば、第1の内径r1は、細胞群Cgの最大径として想定される長さよりも大きく、第2の内径r2は、細胞群Cgの最小径として想定される長さよりも小さい。
【0057】
上記構成によれば、開口部32から内部孔31に入った細胞群Cgは、保護液Lqの流れとともに大径部33を通る。その後、細胞群Cgは、保護液Lqが小径部34に流れ込む場合であっても、小径部34には入らずに大径部33に留まる。したがって、細胞群Cgを突出部30の内部に留めることができる。そして、複数の突出部30への細胞群Cgの収容を一括して行う場合であっても、突出部30ごとに1つずつの細胞群Cgを収容させることができる。なお、細胞群Cgを突出部30の内部に留める際には、保護液Lqが細胞群Cgの周縁に存在することが好ましい。細胞移植装置10にあっては、突出部30の内部に細胞群Cgを留めた際に、保護液Lqが細胞群Cgの周縁に存在することが可能な構成であることが好ましい。保護液Lqが細胞群Cgの周縁に存在することにより、細胞群Cgの乾燥を防ぐことができる。細胞群Cgの乾燥を防ぐことにより、細胞群Cgの変質を低減し、細胞群Cgの突出部30の内部への付着を低減することができる。
【0058】
なお、上述の説明では、内部孔31の内径が、第1の内径r1と第2の内径r2との二段階に変化する形態を例示した。これに限らず、突出部30の内部において、内部孔31の内径は、3段階以上に変化してもよいし、徐々に変化してもよい。要は、内部孔31において、開口部32を含む第1の部分よりも流路断面積の小さい第2の部分が、第1の部分よりも突出部30の基端に近い位置に配置されていればよい。
【0059】
また、内部孔31が多段孔である形態に代えて、内部孔31の内部に、保護液Lqを通し、かつ、細胞群Cgを通さないフィルタが配置されていてもよい。これによっても、細胞群Cgを突出部30の内部に留めることができる。また、内部孔31が多段孔である形態においても、内部孔31の内部に、上記フィルタが配置されていてもよい。また、細胞群Cgと保護液Lqとから構成される液状体を吸引する力の大きさの調整や、液状体の流動性の調整等によって、細胞群Cgが突出部30の内部に留められてもよい。
【0060】
トレイ50から細胞群Cgとともに内部孔31に取り込まれる保護液Lqは、収容液であってもよいし、収容液とは異なる液体であって、内部孔31に取り込まれた後に、収容液と交換されてもよい。
【0061】
例えば、トレイ50にて細胞群Cgが培養され、その培地がトレイ50にて生理食塩水に交換される。その後、細胞移植装置10は、生理食塩水である保護液Lqと細胞群Cgとを内部孔31に取り込む。この場合、保護液Lqは収容液である。
【0062】
あるいは、トレイ50にて細胞群Cgが培養され、その培地である保護液Lqと細胞群Cgとを、細胞移植装置10は内部孔31に取り込む。細胞群Cgが内部孔31に入った後、培地である保護液Lqは、その一部または全部が内部孔31における開口部32とは
反対側から吸引されて外部へ排出される。保護液Lqの吸引は、細胞群Cgを取り込むための吸引を兼ねてもよいし、あるいは、基板部20の内部に吸水体が配置されることにより、内部孔31の内部の保護液Lqが吸水体に吸い上げられてもよい。吸水体としては、例えば、スポンジ等の多孔質体を例示することができる。保護液Lqが排出された後、開口部32とは反対側から、もしくは、開口部32から、内部孔31に収容液である生理食塩水等が注入される。
【0063】
なお、培地が収容液として用いられる場合には、培地である保護液Lqが細胞群Cgとともに内部孔31に取り込まれ、取り込まれた培地が、収容液として機能する。また、取り込まれた培地が一時的に収容液として機能した後、細胞移植装置10にて、収容液が培地から生理食塩水等の液体に交換されてもよい。交換される液体は、生理食塩水に限定されず、ワセリンや化粧水等の皮膚を保護する液体や、これらの液体と生理食塩水とを混合した液体等であってもよい。こうした収容液の交換は、例えば、開口部32とは反対側から内部孔31の内部の収容液を吸引し、新たな収容液を、開口部32とは反対側から、もしくは、開口部32から、内部孔31に注入することによって行われる。
【0064】
保護液Lqとの交換、もしくは、収容液との交換のために、開口部32とは反対側から内部孔31に新たな収容液が注入される場合、細胞移植装置10は、開口部32とは反対側から内部孔31に収容液を注入する注入手段を備えることも可能である。もしくは、収容液は、吸引を利用して、開口部32から内部孔31に供給されてもよい。細胞移植装置10が、内部孔31の内部の液体を交換可能に構成され、細胞群Cgの収容に際して、保護液Lqと収容液との交換が行われる形態であれば、細胞群Cgの周囲の液体を培地から収容液へ交換する作業を効率よく行うことができる。
【0065】
上述の突出部30が収容部として機能する形態においては、1つの収容部に1つの細胞群Cgが収容される形態を好ましい形態として説明したが、1つの収容部に2以上の細胞群Cgが収容されてもよい。また、上述の形態においては、1つの突出部30に、トレイ50において互いに分離した複数の領域のうちの1つに配置された細胞群Cgが取り込まれる例を示したが、複数の突出部30が、トレイ50における共通の領域に一括して配置された細胞群Cgを取り込んでもよい。また、細胞移植装置10は、突出部30の先端領域に代えて、基板部20の内部流路を通して、細胞群Cgを突出部30の内部に取り込んでもよい。すなわち、開口部32とは反対側から内部孔31に細胞群Cgが入れられてもよい。
【0066】
また、収容部の他の形態として、基板部20が、収容部として機能してもよい。すなわち、基板部20の内部の空間に細胞群Cgが収容される。基板部20の内部は、複数の領域に区画され、各領域に所定の数ずつ細胞群Cgが収容されてもよいし、区切りを有さない1つの領域に複数の細胞群Cgがまとめて収容されてもよい。細胞群Cgは、突出部30の先端領域から突出部30の内部を通って、基板部20の内部に入り、基板部20に収容されてもよいし、基板部20における突出部30とは反対側の部分から、基板部20の内部に細胞群Cgが入れられてもよい。また、基板部20の内部に細胞群Cgを培養している培養容器が組み付けられることにより、基板部20は、細胞群Cgと培養容器とをともに収容してもよい。さらには、収容部の他の形態として、突出部30と基板部20とが、収容部として機能してもよい。
【0067】
また、細胞移植装置10が外部から細胞群Cgを収容部に取り込むことに代えて、細胞群Cgは、収容部の内部、すなわち、突出部30の内部や基板部20の内部にて、培養されてもよい。例えば、突出部30の開口部32が上方に向けられるように細胞移植装置10を配置し、各収容部である突出部30の内部を細胞が培養される領域として使用することが可能である。この場合、移植時において収容部に細胞群Cgを収容する工程が不要で
あるため、細胞の移植に要する作業の効率がより高められる。
【0068】
なお、細胞移植装置10が細胞群Cgを収容部に取り込む際には、細胞移植装置10と細胞群Cgとの位置合わせ、すなわち、細胞移植装置10とトレイ50との位置合わせが必要である。位置合わせの実現のためには、細胞移植装置10とトレイ50とのいずれか一方、または、両方が位置合わせ手段を備えていればよい。位置合わせ手段は、後述のように、細胞移植装置10とトレイ50との外形形状により互いの位置を制御する構成に具体化することも可能であるし、カメラやロボット機構に具体化することも可能である。
【0069】
<進入部、進入工程および配置工程>
突出部30は、進入部としても機能する。進入部は、皮膚表面から対象領域に向けて進入可能に構成されている。換言すれば、進入部として機能する突出部30は、皮膚に刺さるように構成されている。
【0070】
突出部30の形状は、皮膚を刺すことが可能な形状であれば特に限定されない。突出部30は、円錐形状や角錐形状を有していてもよいし、円柱形状や角柱形状を有していてもよい。あるいは、突出部30は、柱体の上面に錐体の底面が接続された形状を有していてもよいし、角柱や円柱をその延びる方向に対して斜めに切断した形状や、柱体の上面に錐体の底面が接続された立体を、その延びる方向に対して斜めに切断した形状を有していてもよい。
【0071】
図7は、突出部30の形状の一例を示す。
図7に示される例では、突出部30は、四角柱をその延びる方向に対して斜めに切断した形状を有している。そして、突出部30は、基板面21S内に区画された矩形状の底面から第1方向に沿って延びる側面35Sと、底面に対して傾斜した上面36Sとを有している。側面35Sと上面36Sとから突出部30の周面が構成される。上面36Sに含まれる辺は、いずれも、底面に対して傾斜しており、突出部30の基板面21Sからの長さは、上面36Sにおける1つの頂点にて最も大きくなっている。突出部30の長さが最も大きくなる部分の先端の点が、尖端点Pであり、第1方向から見て、尖端点Pは、突出部30の縁部に位置する。
【0072】
上面36Sには、開口部32が位置する。開口部32は、上述の収容部において細胞群Cgを収容部内に取り入れるための取り入れ口として機能するとともに、進入部において細胞群Cgを放出するための放出口として機能する。
【0073】
図7に示す例では、第2方向における突出部30の幅は、突出部30の基端から一定に保たれた後、突出部30の先端領域で尖端点に向けて小さくなる。これに限らず、第2方向における突出部30の幅は、基端から先端に向けて徐々に小さくなってもよい。また、側面35Sや上面36Sは、曲面であってもよい。
【0074】
突出部30が上面36Sを有して上面36Sに開口部32が位置し、尖端点Pが突出部30の縁部に位置する構成であれば、以下の効果が得られる。すなわち、先端領域の形状が1つの尖端点Pに向けて尖る形状であることにより、突出部30の皮膚への刺さりやすさが高められる。さらに、尖端点Pが突出部30の縁部に位置するため、尖端点Pを除く領域で、開口部32の大きさや位置の調整が可能な領域を大きく確保できる。
【0075】
なお、突出部30の内部で内部孔31が屈曲している場合等には、開口部32は側面35Sに位置していてもよい。また、突出部30は上面36Sおよび尖端点Pを有さなくてもよい。例えば、突出部30は、円錐の中央を通るように内部孔31が形成された形状、すなわち、突出部30の中央の開口部32に向かって突出部30の幅が細くなり、開口部32が突出部30において最も先端に位置する形状を有していてもよい。
【0076】
また、突出部30の形状は、針形状、すなわち、第1方向に沿った長さが第2方向に沿った長さよりも長い形状に限られない。突出部30の形状は、ブレード状、すなわち、第2方向の1つである延在方向の長さが第1方向の長さよりも長く、かつ、突出部30の先端が、第1方向とは異なる方向、例えば延在方向に沿って延びる線状に形成された形状であってもよい。例えば、突出部30は、延在方向に沿って延びる三角柱形状であって、三角柱が有する3つの矩形の側面のなかの1つが基板部20に接し、かつ、他の2つの側面に共有される辺が突出部30の先端として機能する形状を有していてもよい。
【0077】
また、突出部30の先端領域に、皮膚を切り開くための刃として機能する部分が突出部30の他の部分から突出するように設けられていてもよい。
図8~
図10を参照して、進入工程および配置工程について説明する。
図8~
図10では、収容部として機能する突出部30に細胞群Cgが収容された後、細胞群Cgが対象領域に配置されるまでの過程を説明する。
【0078】
図8が示すように、生体における移植予定部位の皮膚Skの表面と、基板部20の基板面21Sとが向かい合うように、細胞移植装置10が配置される。このとき、突出部30の先端が皮膚Skの表面に向けられる。
【0079】
図9が示すように、基板部20が皮膚Skに押し付けられることにより、突出部30が皮膚Skに刺さる。すなわち、進入部が皮膚Skの内部に進入する。なお、細胞移植装置10は、基板部20を皮膚Skに押し付けることを補助する機構を備えていてもよい。進入部の進入により、開口部32は、対象領域に配置される。細胞群Cgが毛包原基である場合、対象領域は主として皮内である。
【0080】
図10が示すように、突出部30の内部に収容されている細胞群Cgが、開口部32から出ることによって、対象領域に細胞群Cgが配置される。
図10では、細胞移植装置10が、対象領域への細胞群Cgの配置を補助する配置補助部としての加圧部41を備える例を示している。加圧部41が加圧を行うことにより、細胞群Cgおよび収容液Lhが突出部30から押し出されて対象領域に配置される。
【0081】
なお、基板部20が収容部として機能する場合であっても、突出部30の開口部32が収容部に通じている構成であれば、細胞群Cgを収容部である基板部20から突出部30へ移動させて開口部32から放出させることにより、対象領域に細胞群Cgを配置することができる。
【0082】
以上のように、細胞移植装置10が収容部と進入部とを備えているため、対象領域へ進入部が進入することと、進入部の進入によって対象領域に配置された開口部32から、収容部に収容された細胞群Cgを放出することとを、1つの装置によって連続して行うことができる。したがって、皮膚における移植部位をメスで切開し、その後に、細胞群をピンセット等で1つずつ摘んで培養容器から対象領域に移す移植方法と比較して、使用する器具の交換の工程が削減されるため、細胞の円滑な移植が可能である。また、細胞移植装置10が複数の突出部30を備える構成であれば、皮膚を切開する動作の繰り返しや、細胞群を移動させる動作の繰り返しを少なくすることができるため、細胞の移植をさらに円滑に進めることができる。
【0083】
上述のように、突出部30が収容部として機能する形態においては、細胞移植装置10が複数の収容部を備え、各収容部に細胞群Cgが収容されることが好ましい。こうした構成によれば、細胞移植装置10における1回の放出操作によって、細胞移植装置10の複数の収容部から皮膚Skの内部へ、各収容部に収容された細胞群Cgを配置することが可
能となる。
【0084】
なお、開口部32からの細胞群Cgの放出は、突出部30が基端まで皮膚Skに刺さっている状態、すなわち、基板面21Sが皮膚Skの表面に接触している状態にて行われるとは限らない。例えば、突出部30が基端まで皮膚Skに刺された後、開口部32が対象領域に位置する範囲で突出部30が引き上げられ、この位置で、細胞群Cgが放出されてもよい。こうした構成によれば、突出部30の進入によって形成された孔の底部よりもやや上で細胞群Cgが放出されるため、孔の底部で細胞群Cgが放出される場合と比較して、放出に際して細胞群Cgが皮膚から受ける圧力を小さくすることができる。したがって、細胞群Cgを保護することができる。要は、開口部32が皮膚Skの内部に位置するように突出部30が皮膚Skに進入しているときに、細胞群Cgが放出されればよく、放出の時点において、開口部32が対象領域に配置されればよい。
【0085】
皮膚Skの内部で突出部30が引き上げられてから細胞群Cgが放出される形態の具体例について、
図11~
図18を参照して説明する。
図11が示すように、細胞移植装置10は、基板部20の外側に進入補助部材42を備える。進入補助部材42は、基板部20の外側で皮膚Skに当接可能に構成されている。進入補助部材42は、基板部20の外周に沿って、連続的または間欠的に設けられる。
【0086】
進入補助部材42は、突出部30を皮膚Skに刺す際に、皮膚Skの張力の制御を補助する機能を有する。また、進入補助部材42は、突出部30を皮膚Skに刺す際に、突出部30と皮膚Skの表面との位置合わせを補助する機能を有していてもよい。また、進入補助部材42は、突出部30を特定の方向に沿って皮膚Skに刺す際の突出部30の進入方向の制御を補助する機能を有していてもよい。
【0087】
さらに、細胞移植装置10は、進入補助部材42に対する基板部20および突出部30の第1方向における位置を変更可能な位置調整部43を備えている。位置調整部43は、進入補助部材42と基板部20とに接続され、細胞移植装置10の操作者の操作によって、進入補助部材42と基板部20および突出部30との第1方向における相対位置を変更可能とする。
【0088】
進入工程においては、まず、皮膚Skの表面にて移植予定部位を囲む部分に進入補助部材42が当接される。続いて、
図12が示すように、進入補助部材42よりも突出部30が突き出るように、進入補助部材42に対して基板部20および突出部30が動かされ、これによって、突出部30が皮膚Skに刺さる。このとき、突出部30は、例えば基板面21Sが皮膚Skに接触する程度に、皮膚Skに深く進入する。進入補助部材42によって皮膚Skが押さえられていることにより、皮膚Skに対する突出部30の位置が安定するため、突出部30の進入が円滑に進められる。
【0089】
続いて、
図13が示すように、進入補助部材42に対して基板部20および突出部30が引き上げられ、突出部30の進入の深さが浅くされる。この位置において、配置工程として、突出部30からの細胞群Cgの放出が行われる。
【0090】
細胞群Cgの放出が完了すると、
図14が示すように、進入補助部材42に対して基板部20および突出部30がさらに引き上げられ、突出部30が皮膚Skから抜き出される。これにより、細胞群Cgの移植が完了する。
【0091】
また、細胞移植装置10が弾性体を備え、弾性体の弾性力を利用して突出部30の引き上げが行われてもよい。例えば、
図15が示すように、細胞移植装置10は、突出部30を囲む弾性体44を備える。弾性体44は基板面21Sに接していてもよいし、基板面2
1Sから離れていてもよい。弾性体44は、例えば、ゴムやプラスチック等から構成される。
【0092】
進入工程においては、まず、移植予定部位の皮膚Skの表面に、突出部30および弾性体44が押し付けられる。これにより、
図16が示すように、弾性体44は潰れるように変形し、突出部30のなかで弾性体44から突き出ている部分が皮膚Skに刺さる。なお、細胞移植装置10が上述の進入補助部材42を備え、突出部30の進入が進入補助部材42によって補助されてもよい。
【0093】
続いて、
図17が示すように、弾性体44を押圧する力が弱められることにより、弾性体44の形状が押圧前に戻るように変形する。すなわち、弾性体44の潰れが緩和される。弾性体44の変形とともに、突出部30が引き上げられ、突出部30の進入の深さが浅くされる。この位置において、配置工程として、突出部30からの細胞群Cgの放出が行われる。なお、細胞群Cgが放出される時点において、弾性体44の形状は押圧前の形状に完全に戻っていなくてもよい。また、突出部30の引き上げは、位置調整部43を用いた突出部30の位置の調整と弾性体44の弾性力との双方を利用して行われてもよい。
【0094】
細胞群Cgの放出が完了すると、
図18が示すように、弾性体44および突出部30が引き上げられ、突出部30が皮膚Skから抜き出される。これにより、細胞群Cgの移植が完了する。
【0095】
なお、弾性体44は、基板部20の外側で複数の突出部30の全体を囲む位置に配置されていてもよい。
進入工程において、突出部30は、皮膚Skの表面に対して垂直な方向から皮膚Skに刺さってもよいし、皮膚Skの表面に対して傾斜した方向から皮膚Skに刺さってもよい。
【0096】
図19を参照して、皮膚Skの表面に対して傾斜した方向から突出部30を皮膚Skに刺すことに適した細胞移植装置10の例を説明する。
図19が示すように、基板部20の基板面21S上において、複数の突出部30は、第2方向の1つであるY方向に沿って1列に並ぶ。第2方向に沿った平面内において、Y方向と直交するX方向に配列される突出部30の数は1つである。すなわち、基板面21S上に、複数の突出部30からなる列が、1列のみ位置する。
図20が示すように、X方向に沿った方向から見た場合、複数の突出部30のすべてが視認され、これらの突出部30は直線上に並ぶ。
図21が示すように、Y方向に沿った方向から見た場合、複数の突出部30は重なって見える。
【0097】
複数の突出部30は、Y方向に対する向き、すなわち、第2方向に沿った平面内における向きを揃えて並んでいることが好ましい。言い換えれば、複数の突出部30が、開口部32を単一の方向に向けて並んでいることが好ましい。このとき、複数の突出部30の先端も、単一の方向に向けられる。複数の突出部30の先端は、各突出部30におけるX方向の縁に位置することが好ましい。
【0098】
複数の突出部30が1列に並ぶ構成であれば、皮膚Skの表面に対して細胞移植装置10を傾斜させて配置した場合であっても、各突出部30を均等な深さまで皮膚に刺すことができる。すなわち、
図22が示すように、皮膚Skの表面に対して傾斜した方向に突出部30が延びるように細胞移植装置10を配置する。このとき、Y方向が皮膚Skの表面に沿って延びる方向となるように、細胞移植装置10を配置する。基板面21Sは、皮膚Skの表面に対して傾斜する。そして、
図23が示すように、突出部30をその延びる方向に沿って皮膚Skに進入させることにより、上記傾斜した方向に沿って突出部30を皮
膚Skに刺すことができる。皮膚Skの表面に対して突出部30を傾斜させることによって、突出部30が皮膚Skに刺さりやすい角度に、皮膚Skに対する突出部30の角度を容易に調整することができる。また、皮膚Skの内部の浅い位置に開口部32を配置することも容易である。
【0099】
特に、複数の突出部30の向きが揃っている構成であれば、各突出部30が均等に皮膚Skに刺さりやすい。また、複数の突出部30の先端が、各突出部30におけるX方向の縁に位置する構成であれば、すべての突出部30を先端から揃えて皮膚Skに刺すことができるため、突出部30が皮膚Skにより刺さりやすい。
【0100】
なお、複数の突出部30が1列に並ぶ場合であっても、皮膚Skの表面と対向する方向から突出部30が垂直に皮膚を刺すように、細胞移植装置10が用いられてもよい。
その他の構成として、突出部30の刺さる向きに関わらず、突出部30の先端領域が、皮膚Skの内部にて広がるように構成されていてもよい。皮膚Skの内部で突出部30の先端領域が広がる構成であれば、突出部30の先端領域が皮膚の組織を押し広げることにより、突出部30によって形成された孔が広がる。したがって、細胞群Cgの配置される空間が広く確保されるため、放出に際して細胞群Cgが皮膚から受ける圧力を小さくすることができる。そのため、細胞群Cgを保護することができる。
【0101】
また、細胞移植装置10が、複数の突出部30を備える場合、皮膚Skの深さ方向における開口部32の配置位置は、複数の突出部30において一定でなくてもよい。例えば、突出部30の長さや突出部30における開口部32の位置を複数の突出部30のなかで異ならせることによって、皮内に開口部32を配置する突出部30と、皮下に開口部32を配置する突出部30とを有する細胞移植装置10の実現も可能である。
【0102】
基板部20が皮膚Skに向けて押圧されたとき、基板面21Sが皮膚Skの表面に沿って配置されると、突出部30が基部まで皮膚Skに刺さりやすく、また、基板面21S上の突出部30の位置によって突出部30の皮膚Skに刺さる長さがばらつくことが抑えられる。こうした観点から、基板部20が柔軟性を有しており、皮膚Skの表面に沿って変形可能であると、基板面21Sが皮膚Skの表面に沿いやすいため好ましい。また、基板面21Sを曲面とすることによっても、基板面21Sを皮膚Skの表面に沿いやすくすることができる。この場合、例えば、基板面21Sは、移植部位における皮膚Skの表面の曲率と同等の曲率を有する曲面に構成される。なお、基板面21Sの形状は特に限定されず、基板面21Sは、円形状であってもよいし、多角形状であってもよいし、その他の形状であってもよい。
【0103】
<配置補助部>
対象領域への細胞群Cgの配置を補助する配置補助部の構成について説明する。配置補助部は、細胞移植装置10からの細胞群Cgの放出を補助する機能を有してもよいし、皮膚の表面に沿った方向での細胞群Cgの配置を補助する機能を有してもよいし、皮膚の深さ方向での細胞群Cgの配置を補助する機能を有してもよい。また、配置補助部は、これらの機能のうちの複数の機能を有してもよい。
【0104】
まず、細胞群Cgの放出を補助する機能を有する配置補助部として、
図10にて例示した加圧部41の構成について説明する。加圧部41は、気体、もしくは、液体を基板部20の内部空間と突出部30の内部空間とに送り込むことによって、細胞群Cgと収容液Lhとを含む液状体を押圧し、これによって、細胞群Cgを収容液Lhとともに開口部32から外部へ押し出す。加圧部41は、気体もしくは液体を放出する機構や、ピストン等を含む加圧構造を備える。
【0105】
加圧に利用される気体は、例えば、空気である。加圧に気体を利用するとき、加圧部41は、基板部20の内部空間から突出部30の開口部32に向けて気体を送り込む。気体に押されることにより、突出部30に収容されている細胞群Cgと収容液Lhとが、開口部32から出る。
【0106】
加圧に液体を利用するとき、加圧部41は、基板部20の内部空間から突出部30の開口部32に向けて液体を送り込む。液体に押されることにより、突出部30に収容されている細胞群Cgと収容液Lhとが、開口部32から出る。加圧に利用される液体は、例えば、生理食塩水である。細胞群Cgの収容工程の説明にて述べたように、収容液Lhが培地から生理食塩水に交換される場合には、こうした収容液Lhの交換に連続して、細胞群Cgの放出のための液体の注入が行われてもよい。
【0107】
あるいは、加圧部41は、新たな液体の供給は行わずに、ピストン等の構造物によって、突出部30に収容されている液状体を押圧してもよい。
図24は、複数の突出部30を有する細胞移植装置10が、加圧部41の一例としてピストン状の構造物を備える形態を示す。加圧部41は、平板状の支持部45と、支持部45から突き出た複数の挿入部46とを備えている。挿入部46は、突出部30の内部孔31に挿入可能な外径を有している。複数の挿入部46は、支持部45上において、複数の突出部30の内部孔31の配列に対応する配列に配置されている。すなわち、複数の挿入部46は、1つの内部孔31に対して1つの挿入部46が割り当てられるように配置されている。
【0108】
配置工程においては、各突出部30の内部孔31に、開口部32とは反対側から挿入部46が挿入される。具体的には、挿入部46は、基板部20の基端流路22を通り、
図25が示すように、内部孔31に入る。挿入部46の挿入に伴い、内部孔31内の気体もしくは液体が押圧され、これによって、突出部30に収容されている細胞群Cgと収容液Lhとが、開口部32から出る。
【0109】
なお、支持部45と挿入部46とから構成されるピストン状の構造物は、収容工程において、細胞群Cgを含む液状体を内部孔31内に引き込むための部材としても用いることができる。すなわち、支持部45と挿入部46とが引き上げられて、挿入部46が内部孔31から抜かれることに伴い、細胞群Cgを含む液状体が開口部32から内部孔31内に引き込まれる。支持部45と挿入部46とから構成されるピストン状の構造物は、収容工程にのみ利用されてもよいし、配置工程にのみ利用されてもよいし、収容工程と配置工程との双方で利用されてもよい。
【0110】
なお、
図24および
図25においては、突出部30の内部孔31の内径が一定である形態を例示した。支持部45と挿入部46とから構成されるピストン状の構造物を用いて収容工程および配置工程を行う場合、例えば、収容工程で引き上げた挿入部46の先端を内部孔31と基板部20の基端流路22との境界付近に留めることで、内部孔31に引き込まれた細胞群Cgを内部孔31内に留めることができる。また、
図24および
図25においては、基板部20が中間流路23を有していない形態を例示したが、基板部20は中間流路23を有していてもよく、支持部45と挿入部46の基部とは、基板部20の内部の流路形状に応じた形状を有していればよい。
【0111】
また、配置補助部は、化学的な作用によって、細胞群Cgの放出を補助してもよい。例えば、開口部32の付近の内部孔31の内壁に疎水性が付与されることにより、開口部32からの細胞群Cgを含む液状体の放出が促進されてもよい。この場合、疎水性の付与されている部分が配置補助部として機能する。
【0112】
また、配置補助部は、開口部32から細胞群Cgが放出されるタイミングを制御可能な機構を備えていてもよい。こうした構成によれば、例えば、突出部30を皮膚に刺した後、突出部30を皮膚から引き上げながら所望のタイミングで細胞群Cgを放出することができる。これにより、皮膚の深さ方向における細胞群Cgの配置位置を制御することができる。こうした配置補助部は、皮膚の深さ方向での細胞群Cgの配置を補助する配置補助部としても機能する。
【0113】
また、収容部に複数の細胞群が収容される構成の場合、配置補助部は、収容部内の液状体に加える圧力の変更等によって、開口部32から細胞群Cgを1つずつ放出させる機構を備えていてもよい。
【0114】
なお、細胞群Cgは、配置補助部による補助を受けず、対象領域と突出部30の内部との圧力差等に起因して、開口部32から流出してもよい。ただし、配置補助部によって細胞群Cgの放出が補助される構成の方が、細胞群Cgの放出が円滑に進むため好ましい。
【0115】
皮膚の表面に沿った方向での細胞群Cgの配置を補助する機能を有する配置補助部としては、例えば、皮膚の表面を撮影するカメラを備える配置補助部が挙げられる。カメラによって撮影された画像に基づき、皮膚の表面のなかで突出部30を刺す領域を決定することができるため、移植位置の細かな設定が可能である。また、カメラにて撮影された画像の解析に基づき、突出部30の刺さっている深さの判定が可能であれば、配置補助部は、皮膚の深さ方向での細胞群Cgの配置を補助する配置補助部としても機能する。
【0116】
また、配置補助部がカメラを備える場合、カメラは、収容工程にて収容部に細胞群Cgを収容する際に使用することも可能である。すなわち、カメラによって撮影された画像に基づき、トレイ50における細胞群Cgの位置と突出部30の位置とを合わせることができる。細胞群Cgを収容する際にカメラを使用して位置を合わせることにより、細胞群Cgを収容する際に突出部30とトレイ50とが接触して突出部30が変形すること等を抑えることが可能となる。
【0117】
また、皮膚の深さ方向での細胞群Cgの配置を補助する機能として、配置補助部は、突出部30を皮膚に刺しやすくするための機能を有していてもよい。例えば、配置補助部は、基板面21S、突出部30、および、皮膚の表面のうちの少なくとも1つの温度を調整する機構を備えていてもよい。具体的には、配置補助部は、加熱機構もしくは冷却機構を備える。基板面21Sや突出部30を通じて、あるいは直接的に、皮膚の温度を調整することにより、皮膚の硬さや弾力性の調整が可能であり、これによって、皮膚の状態を突出部30の刺さりやすい状態に制御することが可能である。
【0118】
<毛包原基の移植に適した構成>
細胞群Cgが毛包原基である場合、細胞群Cgが、皮膚の深さ方向と皮膚の表面に沿った方向との各々において、適切な位置に配置されることは、毛包原基から形成された毛包からの良好な発毛の促進に寄与する。こうした細胞群Cgの配置に関する構成を含めて、移植対象が毛包原基である場合に適した構成について、
図26を参照して説明する。なお、移植対象が毛包原基である場合、移植部位は、主として、人体の頭皮が想定される。
【0119】
上述のように、毛包原基は、例えば、毛乳頭等の間葉組織に由来する間葉系細胞と、バルジ領域や毛球基部等に位置する上皮組織に由来する上皮系細胞とを、所定の条件で混合培養することによって形成される。細胞群Cgが毛包原基である場合、毛包原基と、毛包原基を保護する液体である収容液とを含む液状体は、さらに、他の成分を含むことができる。
【0120】
図26が示すように、突出部30の周面における開口部32の開口面積は、5000μm
2以上300000μm
2以下であることが好ましい。開口部32の形状は特に限定されないが、開口部32は、例えば、円形状や楕円形状を有する。開口部32を有する部分での内部孔31の内径、すなわち、大径部33の第1の内径r1は、大径部33が円筒状の孔であるとき、100μm以上600μm以下であることが好ましい。開口面積や内径r1が上記下限値以上であれば、開口部32が毛包原基に対して小さくなり過ぎないため、毛包原基の円滑な出入りのために十分な大きさを有する開口部32が実現できる。また、開口面積や内径r1が上記上限値以下であれば、開口部32が毛包原基に対して大きくなり過ぎないため、毛包原基を1つずつ出し入れすることに適した開口部32が実現できる。
【0121】
突出部30の長さHは、第1方向に沿った突出部30の基端から先端までの長さである。突出部30の長さHは、200μm以上6mm以下であることが好ましい。突出部の長さHが上記範囲であれば、対象領域に開口部32を配置することに適した突出部30が実現できる。なお、細胞移植装置10が複数の突出部30を備える構成において、複数の突出部30の長さHは、同一でなくてもよい。
【0122】
細胞移植装置10が有する突出部30の数は、複数であってもよいし、1つであってもよい。例えば、広い移植部位に対しては、複数の突出部30を有する細胞移植装置10が用いられ、狭い移植部位や移植部位の端部領域等に対しては、1つの突出部30を有する細胞移植装置10が用いられてもよい。
【0123】
細胞移植装置10が複数の突出部30を有するとき、基板面21S上における複数の突出部30の配置に応じて、皮膚の表面に沿った方向における毛包原基の配置が決まる。すなわち、基板面21S上における複数の突出部30の配置に応じて、移植部位に生える毛の配置が概ね決まる。
【0124】
基板面21S上において、複数の突出部30は規則的に配置されていてもよく、不規則に配置されていてもよく、所望の毛包原基の配置に応じて、突出部30の配列が設定されればよい。突出部30が規則的に配置されるとき、例えば、突出部30は、基板面21S上において正方格子構造や六方格子構造を構成するように配置される。また、上述のように、突出部30は一列に並んでいてもよい。あるいは、移植を受ける対象が移植部位の付近にて有する毛穴の並びに合わせて、突出部30の配列が設定されてもよい。
【0125】
基板面21S上における単位面積当たりの突出部30の密度は、1個/cm2以上400個/cm2以下であることが好ましく、さらには、20個/cm2以上100個/cm2以下であることが好ましい。突出部30の密度が上記下限値以上であれば、毛包原基に基づき発毛した毛の密度が、頭髪として十分な密度になる。突出部30の密度が上記上限値以下であれば、突出部30の密度と同等の密度で皮膚の内部に配置された毛包原基に対して、栄養分が行きわたりやすく、毛包および毛の形成が好適に進む。
【0126】
互いに隣り合う突出部30の間の距離である隣接間隔Wは、1mm以上4mm以下であることが好ましい。隣接間隔Wは、互いに隣り合う突出部30における同一の方向を向いた端部間の第2方向に沿った距離である。隣接間隔Wが上記下限値以上であれば、突出部30の加工の精度が得られやすい。隣接間隔Wが上記上限値以下であれば、毛包原基に基づき発毛した毛の密度が、頭髪として十分な密度になる。
【0127】
突出部30が配置されている部分も含めた基板面21Sの面積は、0.005cm2以上4cm2以下であることが好ましい。基板面21Sの面積が上記下限値以上であれば、基板部20の加工の精度が得られやすい。基板面21Sの面積が上記上限値以下であれば
、基板面21Sが平面であってもその広がりが頭皮の湾曲に対して大きすぎないため、基板部20を押し付けた際に、基板面21Sが頭皮に沿いやすい。
【0128】
なお、突出部30は、その全体が進入部として機能してもよいし、一部が進入部として機能してもよい。いずれの場合であれ、上記長さHに対応する長さとして、突出部30における進入部として機能する部分の長さ、すなわち、皮膚に刺さる部分の長さが、200μm以上6mm以下であることが好ましい。
【0129】
例えば、
図27が示すように、細胞移植装置10は、基板面21Sから突出する進入制御部47を備える。進入制御部47は、第1方向から見て、突出部30が位置する領域の外側に配置されている。こうした構成においては、突出部30を皮膚に刺したとき、進入制御部47が皮膚の表面に当たることにより、突出部30のなかで、第1方向において進入制御部47よりも飛び出ている部分が皮膚に刺さる。この場合、進入制御部47よりも飛び出ている部分の第1方向に沿った長さが、突出部30における進入部として機能する部分の長さHである。
【0130】
また例えば、
図28が示すように、細胞移植装置10は、突出部30を囲む進入制御部48を備えてもよい。進入制御部48は基板面21Sに接していてもよいし、基板面21Sから離れていてもよい。進入制御部48を備える構成においては、突出部30を皮膚に刺したとき、進入制御部48が皮膚の表面に当たることにより、突出部30のなかで、第1方向において進入制御部48よりも飛び出ている部分が皮膚に刺さる。この場合、進入制御部48よりも飛び出ている部分の第1方向に沿った長さが、突出部30における進入部として機能する部分の長さHである。なお、上記例においては、進入制御部47,48は、突出部30と同等以上の剛性を有する。
【0131】
細胞群Cgが毛包原基である場合、突出部30が収容部として機能する形態においては、細胞移植装置10が複数の収容部を備え、各収容部に毛包原基が収容されることが好ましい。そして、細胞移植装置10は、トレイ50に配置された毛包原基に対する1回の取り込み操作によって、複数の収容部の各々に毛包原基を収容することが可能な形態であることが好ましい。また、細胞移植装置10は、細胞移植装置10における1回の放出操作によって、細胞移植装置10の複数の収容部から皮膚Skの内部へ、各収容部に収容された毛包原基を配置可能な形態であることが好ましい。また、トレイ50にて、細胞群Cgである毛包原基は、毛包原基ごとに分離して配置されていることが好ましく、各収容部には、収容部ごとに1つずつの毛包原基が収容されることが好ましい。
【0132】
<細胞移植装置の材料および製造方法>
突出部30を形成するための材料は特に限定されない。突出部30は、例えば、シリコンや、ステンレス、チタン、コバルトクロム合金、マグネシウム合金等の金属材料から形成されていてもよいし、汎用のプラスチック、医療用のプラスチック、および、化粧品用のプラスチック等の高分子材料から形成されていてもよい。高分子材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、環状ポリオレフィン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、アクリル、ウレタン樹脂、芳香族ポリエーテルケトン、エポキシ樹脂、多糖類、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリアミノ酸、および、これらの樹脂の共重合材料等が挙げられる。また、突出部30は、ポリアクリル等の電離放射線硬化型材料や、ウレタンやエポキシ等の熱硬化型材料から形成されてもよい。基板部20を形成するための材料も特に限定されず、基板部20は、例えば、上述の突出部30の材料として例示した材料から形成されればよい。突出部30と基板部20との材料は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0133】
突出部30および基板部20は、高分子材料を用いて形成されることが好ましい。高分
子材料を用いて突出部30および基板部20を製造することは、設計の自由度が大きいこと、大量生産に適していること、使用後に焼却処分ができること、および、透明材料を選択することができ透明材料を選択した場合に細胞群を含む収容物を直接に観察できること等の点で優位である。
【0134】
基板部20と突出部30とは、一体に形成された一体成形物であってもよいし、基板部20と突出部30とが各別に形成された後に接合されてもよい。基板部20と突出部30との形成には、公知の機械加工法や、射出成型等の樹脂成形法が用いられればよい。
【0135】
図29に、突出部30および基板部20が形成される途中の構造体の画像を示す。
図29は、シリコン基板に、内部孔31および基端流路22となる孔が形成された段階の構造体の断面を示す。
図29に示す構造体に対し、
図29にて破線で示すように突出部30の外形を成形する研削加工等の加工が施されることにより、突出部30および基板部20が形成される。なお、
図29の構造体から形成される突出部30においては、大径部33から小径部34へ、内部孔31の内径が徐々に変化する。
【0136】
図30は、
図29に示した構造体に対する研削加工によって形成された突出部30の画像である。なお、
図30に示す画像において、突出部30の基部付近には液滴が付着しているため、基部付近の外形は曲線状に見える。
【0137】
[細胞移植用ユニット]
図31~
図40を参照して、細胞移植用ユニットについて説明する。
図31が示すように、細胞移植用ユニットは、上述の細胞移植装置10と、細胞群が配置されるトレイ50とを備える。トレイ50は、平板状の底部55と底部55の外周部から延びる側壁部56とを備える。底部55は、細胞群が配置される予定の領域である1以上の配置予定領域Esを底部55の表面に有している。配置予定領域Esは、例えば、表面粗さやぬれ性等の表面状態が他の領域と異なる部分や、色の違いや枠線の付与等によって他の領域と識別可能とされた部分に具体化される。
【0138】
配置予定領域Esには、細胞群と保護液とが保持される。例えば、トレイ50は、培養容器であり、底部55上にて細胞が培養されることにより、細胞群が形成される。あるいは、トレイ50とは別の培養容器にて細胞が培養されて細胞群が形成された後、細胞群が底部55上に移されてもよい。保護液がゲル状であれば、細胞群を、保護液とともに、細胞群ごとに分離して底部55上に配置することは可能である。
【0139】
トレイ50から、細胞移植装置10に細胞群を収容し、収容した細胞群を生体の対象領域に移すことで、細胞群の移植が実現される。トレイ50の材料は特に限定されず、トレイ50は、培養に要する条件等に応じた材料から、材料に適した製造方法で形成されればよい。
【0140】
図32が示すように、トレイ50における配置予定領域Esの数および配置と、細胞移植装置10における突出部30の数および配置とは、1つの配置予定領域Esに対して1つの突出部30が対応するように、設定されている。すなわち、トレイ50と細胞移植装置10とを第1方向に沿って向かい合わせたとき、1つの配置予定領域Esと1つの突出部30とが対向する。言い換えれば、1つの配置予定領域Esに1つの突出部30が割り当てられており、配置予定領域Esと突出部30とは1対1に対応する。
図32においては、トレイ50が複数の配置予定領域Esを有するとともに、細胞移植装置10が複数の突出部30を有する構成を例示している。これに限らず、トレイ50の配置予定領域Esの数が1つであり、細胞移植装置10の突出部30の数が1つである場合であっても、配置予定領域Esと突出部30とが対向するように構成されていれば、配置予定領域Esと
突出部30とは、1対1に対応していると言える。
【0141】
1つの配置予定領域Esに1つの突出部30が割り当てられていることにより、1つの配置予定領域Esに配置する細胞群の数を調整することによって、1つの突出部30に取り込まれる細胞群の数を調整することができる。したがって、複数の突出部30に一定の数の細胞群を収容させることも容易である。
【0142】
図33が示すように、トレイ50の配置予定領域Esには、配置予定領域Esごとに1つずつの細胞群Cgが保持される。細胞移植装置10への細胞群Cgの収容の際には、収容工程の説明にて上述したように、1つの配置予定領域Esに対して、1つの突出部30の先端領域が向けられ、保護液Lqとともに細胞群Cgが開口部32から突出部30の内部に取り入れられる。
【0143】
ここで、トレイ50と細胞移植装置10とは、第1方向、すなわち、トレイ50の深さ方向において、配置予定領域Esの位置に対する突出部30の位置を規制する位置決め構造を有していることが好ましい。位置決め構造は、配置予定領域Esと突出部30の先端領域との間の距離を、細胞群Cgを取り入れることに適した長さに規制する。
【0144】
具体的には、位置決め構造は、細胞移植装置10における基板面21Sの端部と、側壁部56の内側面に沿って設けられた段差部52とから構成される。段差部52は、側壁部56からトレイ50の内側に突出しており、細胞移植装置10がトレイ50の内部に挿入されたとき、段差部52の上面は、基板面21Sの端部に当接する。これにより、第1方向における基板面21Sの位置が規定され、その結果、配置予定領域Esに対する突出部30の位置が規定される。
【0145】
なお、段差部52は、側壁部56の内側面に沿って側壁部56の内周の全域に設けられていてもよいし、側壁部56の内側面に沿って間欠的に設けられていてもよい。また、基板面21Sの位置の規定が可能であれば、段差部52とは異なる構造によって位置決め構造が実現されてもよい。
【0146】
また、トレイ50と細胞移植装置10とは、第2方向、すなわち、トレイ50の深さ方向と直交する方向において、配置予定領域Esの位置に対する突出部30の位置を規制する位置決め構造を有することが好ましい。
【0147】
例えば、段差部52よりもトレイ50の開口に近い部分において、側壁部56の内径と、基板部20の外径とが一致する。これにより、側壁部56に基板部20が嵌るため、第2方向において、配置予定領域Esに対する突出部30の位置が規制される。
【0148】
また、トレイ50が複数の配置予定領域Esを有し、細胞移植装置10が複数の突出部30を有するとき、上記第2方向における位置決め構造は、配置予定領域Esの配列の向きと突出部30の配列の向きとを合わせるための構造を含むことが好ましい。
【0149】
こうした位置決め構造は、例えば、
図34が示すように、側壁部56の内側面に形成された溝53と、基板部20の外側面に形成された突起25とから構成される。溝53に突起25が嵌るように、トレイ50の内部に細胞移植装置10が挿入される。このとき、1つの配置予定領域Esに1つの突出部30が対向するように、溝53と突起25との位置が設定されている。これにより、配置予定領域Esの配列の向きと突出部30の配列の向きとが適合し、第2方向において、配置予定領域Esに対する突出部30の位置が規制される。
【0150】
なお、溝53の数や位置と突起25の数や位置とは、限定されない。また、トレイ50が突起を有し、基板部20が溝を有してもよい。要は、溝と突起との嵌合によって、配置予定領域Esの配列の向きと突出部30の配列の向きとが合わせられればよい。また配置予定領域Esの配列の向きと突出部30の配列の向きとを合わせることが可能であれば、溝および突起とは異なる構造によって位置決め構造が実現されてもよい。
【0151】
また、
図35が示すように、トレイ50は、底部55に1以上の凹部51を有し、凹部51に細胞群と保護液とが配置されてもよい。この場合、各凹部51が、配置予定領域Esである。
図36が示すように、配置予定領域Esが凹部51である場合も、1つの配置予定領域Esである1つの凹部51に、1つの突出部30が割り当てられており、凹部51と突出部30とは1対1に対応する。すなわち、トレイ50と細胞移植装置10とを第1方向に沿って向かい合わせたとき、1つの凹部51と1つの突出部30とが対向する。
【0152】
図37が示すように、細胞移植装置10への細胞群Cgの収容の際には、1つの凹部51に、1つの突出部30の先端領域が挿入され、保護液Lqとともに細胞群Cgが開口部32から突出部30の内部に取り入れられる。配置予定領域Esが凹部51である場合も、トレイ50と細胞移植装置10とは、第1方向において、配置予定領域Esの位置に対する突出部30の位置を規制する位置決め構造を有していることが好ましい。例えば、位置決め構造は、細胞移植装置10における基板面21Sの端部と、側壁部56の内側面に沿って設けられた段差部52とから構成され、凹部51内に入る突出部30の長さを、細胞群Cgを取り入れることに適した長さに規制する。
【0153】
また、配置予定領域Esが凹部51である場合も、トレイ50と細胞移植装置10とは、第2方向において、配置予定領域Esの位置に対する突出部30の位置を規制する位置決め構造を有することが好ましい。例えば、段差部52よりもトレイ50の開口に近い部分において、側壁部56の内径と、基板部20の外径とが一致する。これにより、側壁部56に基板部20が嵌るため、第2方向において、配置予定領域Esに対する突出部30の位置が規制される。
【0154】
また、
図38が示すように、トレイ50が複数の凹部51を有し、細胞移植装置10が複数の突出部30を有するとき、上記第2方向における位置決め構造は、凹部51の配列の向きと突出部30の配列の向きとを合わせるための構造を含むことが好ましい。
図38では、こうした位置決め構造が、側壁部56の内側面に形成された溝53と、基板部20の外側面に形成された突起25とから構成される形態を例示している。
【0155】
あるいは、トレイ50は、先の
図5に示したように、トレイ50が有する貫通孔54の内部およびその周囲に細胞群Cgおよび保護液Lqを保持する形態であってもよい。この場合、貫通孔54の内部およびその周囲が配置予定領域Esである。配置予定領域Esの構成に関わらず、細胞移植ユニットにおいて、1つの配置予定領域Esに1つの突出部30が割り当てられていればよい。そして、トレイ50と細胞移植装置10とは、第1方向と第2方向との各々について、配置予定領域Esの位置に対する突出部30の位置を規制する位置決め構造を有することが好ましい。
【0156】
なお、細胞移植装置10における突出部30の数および配置に一致した数および配置の配置予定領域Esを1つの群とするとき、トレイ50は、配置予定領域Esの複数の群を備えていてもよい。例えば、
図39が示すように、細胞移植装置10が1列に並ぶ突出部30を有する場合に、トレイ50は、1列に並ぶ配置予定領域Esの群が複数配列された構成を有していてもよい。各列の配置予定領域Esの数および配置は、細胞移植装置10が有する突出部30の数および配置と一致している。こうした構成においては、配置予定領域Esの群ごとに、細胞移植装置10への細胞群Cgの収容が繰り返される。すなわち
、1つの群である1列の配置予定領域Esを対象として、1つの配置予定領域Esに対して1つの突出部30の先端領域が向けられ、細胞群Cgが各突出部30の内部に取り入れられる。取り入れられた細胞群Cgが移植された後、他の群の配置予定領域Esを対象として、細胞移植装置10への細胞群Cgの収容が繰り返される。対象となる群が順にずらされていくことによって、トレイ50内の細胞群Cgが、順に細胞移植装置10に収容され、移植される。
【0157】
このように、トレイ50が、細胞移植装置10における突出部30の数および配置に一致した数および配置の配置予定領域Esの群を、複数備えている場合も、1つの配置予定領域Esに1つの突出部30が割り当てられていると言える。この場合も、トレイ50と細胞移植装置10とは、第1方向と第2方向との各々について、配置予定領域Esの位置に対する突出部30の位置を規制する位置決め構造を有することが好ましい。例えば、
図40は、トレイ50が、第2方向において配置予定領域Esの位置に対する突出部30の位置を規制する位置決め構造として、側壁部56の内側面から突き出た仕切り部57を備える構成を示している。仕切り部57は、互いに隣接する配置予定領域Esの群の境界に位置する。仕切り部57によって区切られた領域に細胞移植装置10が嵌められることにより、第2方向において、配置予定領域Esに対する突出部30の位置が規制され、1つの群の配置予定領域Esと突出部30とが向かい合う。そして、群ごとに、配置予定領域Esの配列の向きと突出部30の配列の向きとが合わせられる。
【0158】
以上説明したように、本実施形態の細胞移植装置および細胞移植用ユニットによれば、以下の効果が得られる。
(1)細胞移植装置10が、収容部と進入部とを備えているため、対象領域への進入部の進入と、収容部に収容された細胞群の開口部からの放出とを、1つの装置によって連続して行うことができる。したがって、細胞の円滑な移植が可能である。
【0159】
(2)細胞移植装置10が、配置補助部を備える構成であれば、対象領域への細胞群の配置が補助されるため、対象領域への細胞群の配置を円滑に進めることができる。
(3)突出部30が収容部および進入部として機能する形態であれば、収容部と進入部とが別々の構造体である場合と比較して、収容部と進入部の有する開口部32とを近づけることが可能である。したがって、収容部から開口部32へ細胞群を移動させるために要する時間やエネルギー等の削減が可能であり、細胞群の移動に要する負荷が軽減される。また、突出部30に収容させる細胞群の数を調整することによって、1つの突出部30によって対象領域に配置される細胞群の数を調整することもできる。
【0160】
(4)突出部30の開口部32から、細胞群が取り込まれる形態では、開口部32が細胞群の放出口として機能するとともに取り込み口としても機能する。したがって、放出口と取り込み口とが突出部30に別々に設けられる場合と比較して、突出部30の構造が簡易になる。また、取り込み口を有する構造体が突出部30とは別の構造体である場合と比較して、収容部と取り込み口とを近づけることが可能である。したがって、取り込み口から収容部へ細胞群を移動させるために要する時間やエネルギー等の削減が可能であり、細胞群の移動に要する負荷が軽減される。
【0161】
(5)毛細管現象、吸引、および、電気浸透流の少なくとも1つ、特に吸引を利用して細胞群が突出部30の内部に取り込まれる形態であれば、細胞群を突出部30の内部へ好適に取り込むことができる。また、細胞移植装置10が複数の突出部30を有する場合には、複数の突出部30に対して一括して細胞群を収容させることも可能であるため、細胞群の収容の効率が高められる。
【0162】
(6)細胞移植装置10が複数の突出部30を有する構成であれば、対象領域に複数の
細胞群を一括して配置することができる。したがって、細胞群を1つずつ移動させる場合と比較して、細胞の移植に際しての動作の繰り返しが削減されるため、細胞の移植をさらに円滑に進めることができる。
【0163】
(7)複数の突出部30の各々が、一定の数の細胞群を収容する構造を有する形態であれば、細胞群が移植された部位において、配置された細胞群の数に、位置による偏りが生じることが抑えられる。すなわち、皮膚の表面に沿った方向において、細胞群が均等に配置されやすい。
【0164】
(8)内部孔31が、開口部32を含む大径部33と、大径部33に連通し、大径部33よりも流路断面積の小さい小径部34を有する構成であれば、細胞群が大径部33に保持されやすい。したがって、開口部32から内部孔31の内部に入った細胞群を突出部30に留めることが容易である。
【0165】
(9)移植対象の細胞群が、発毛または育毛に寄与する細胞群であり、特に、毛包原基である。皮内および皮下の少なくとも一方を対象として細胞群を配置する細胞移植装置10を用いることで、上記細胞群の的確な移植が可能となる。発毛や育毛を目的とする場合、多くの細胞群を移植することが求められることが多い。こうした細胞群の移植に細胞移植装置10が用いられることで、細胞の移植の効率が大きく高められるため、細胞の円滑な移植が可能となることの利益が大きい。
【0166】
(10)細胞移植用ユニットにおいて、1つの配置予定領域Esに対して1つの収容部が割り当てられるため、収容部に収容される細胞群の分量の設定が容易であり、複数の突出部30に一定の数の細胞群を収容させることも容易である。
【0167】
(11)細胞移植用ユニットが、トレイ50の深さ方向において配置予定領域Esの位置に対する突出部30の位置を規制する構造を有する構成であれば、細胞群の収容に際し、トレイ50の深さ方向において、配置予定領域Esに対して突出部30の位置を合わせることが容易である。また、細胞移植用ユニットが、トレイ50の深さ方向と直交する方向において配置予定領域Esの位置に対する突出部30の位置を規制する構造を有する構成であれば、細胞群の収容に際し、トレイ50の深さ方向と直交する方向において、配置予定領域Esに対して突出部30の位置を合わせることが容易である。
【0168】
(12)細胞移植用ユニットにおいて、トレイ50が細胞群の培養に用いられる培養容器である構成であれば、培養の行われた容器から細胞群を対象領域へ移すことにより移植が完了する。それゆえ、培養容器とは別のトレイに培養容器から細胞群が移し替えられ、そのトレイから細胞群が細胞移植装置10に収容されて対象領域に配置される形態と比較して、移植に要する作業の削減が可能であり、移植の効率も高められる。
【0169】
[変形例]
上記実施形態は、以下のように変更して実施することが可能である。
・移植対象の細胞群は、発毛または育毛に寄与する細胞群でなくてもよく、皮内または皮下に配置されることによって、所望の効果を発揮する細胞群であればよい。例えば、移植対象の細胞群は、皮膚における皺の解消や保湿状態の改善等、美容用途での効果を発揮する細胞群であってもよい。上記実施形態において、移植対象が毛包原基である場合に好適な構成として示した構成以外の構成、例えば、収容部への細胞群の収容に関する構成、進入部の形状に関する構成、配置補助部の構成等は、移植対象が発毛または育毛に寄与する細胞群とは異なる場合であっても、上記実施形態に記載した効果と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0170】
Es…配置予定領域、Cg…細胞群、Lh…収容液、Lq…保護液、10…細胞移植装置、20…基板部、21S…基板面、22…基端流路、23…中間流路、24…共有流路、25…突起、30…突出部、31…内部孔、32…開口部、33…大径部、34…小径部、35S…側面、36S…上面、40…誘導部、41…加圧部、42…進入補助部材、43…位置調整部、44…弾性体、45…支持部、46…挿入部、47,48…進入制御部、50…トレイ、51…凹部、52…段差部、53…溝、54…貫通孔、55…底部、56…側壁部、57…仕切り部。