(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 3/06 20060101AFI20221129BHJP
F16H 63/38 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
H02P3/06 C
F16H63/38
(21)【出願番号】P 2019188428
(22)【出願日】2019-10-15
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】山田 純
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-116921(JP,A)
【文献】特開2014-101919(JP,A)
【文献】特開2016-50670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 3/06
F16H 63/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ(10)と、前記モータの回転が伝達されて駆動されるとともに、駆動を制限する駆動制限部(231、232)が設けられている回転伝達系(20)と、を備えるモータ駆動システム(1)において、前記モータの駆動を制御するモータ制御装置であって、
前記モータへの通電を制御する通電制御部(52)と、
前記駆動制限部にて駆動が制限される可動限界位置まで前記モータを駆動させた後、前記モータへの通電をオフにすることで、前記回転伝達系に生じる外力により前記モータを前記可動限界位置から離間する方向に戻す非通電戻し制御を行ったとき、前記非通電戻し制御にて戻り許容位置を超える過戻りの可能性の有無を判定する過戻り判定部(55)と、
を備え、
前記過戻りの可能性がないと判定された場合、通電オフを継続し、
前記過戻りの可能性があると判定された場合、通電により前記モータを停止させる停止制御を行うモータ制御装置。
【請求項2】
前記過戻り判定部は、前記非通電戻し制御を開始してから過戻り判定時間が経過するまでの間に、前記戻り許容位置より前記可動限界位置側に設定される過戻り判定位置に到達した場合、前記過戻りの可能性があると判定する請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記回転伝達系は、
複数の谷部(221~224)、前記谷部を隔てる山部(226~228)、および、配列される前記谷部の両端に設けられる前記駆動制限部である壁部(231、232)が形成されるディテント部材(21)、
前記モータの駆動により前記谷部を移動可能であって、前記壁部に当接することで前記モータの駆動が制限される係合部材(26)、
ならびに、前記係合部材を前記谷部に嵌まり合う方向に付勢する付勢部材(25)を有し、
前記係合部材を一方の前記壁部(231)に当接させるとき、当該壁部を当接壁部とすると、
前記過戻り判定位置は、前記当接壁部に隣接する前記谷部(221)の最底部と、当該谷部と挟んで前記当接壁部と反対側に形成される前記山部(226)の頂点との間に設定される請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記過戻り判定部は、前記非通電戻し制御における前記モータの回転角度の変化割合に基づいて前記過戻りの可能性の有無を判定する請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記モータ駆動システムは、シフトレンジ切替システムに適用され、
前記戻り許容位置は、レンジ保証範囲に応じて設定される請求項1~4のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、制御対象の駆動源となるモータを制御するモータ制御装置が知られている。例えば特許文献1のモータ制御装置は、レンジ切換機構の駆動源となるモータを制御するものであって、レンジ切換機構の可動範囲の限界位置までモータを回転させる突き当て制御の後、非通電戻し制御を実行し、モータの回転位置が目標回転位置に到達したときにモータの2相に同時通電してモータを停止させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1では、非通電戻し制御の後、常時モータを停止させるための通電を行っているため、通電に伴う電力消費および発熱が生じる。本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、モータを可動限界位置まで駆動させた後の制御を適切に実施可能なモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のモータ制御装置は、モータ(10)と、回転伝達系(20)と、を備えるモータ駆動システム(1)において、モータの駆動を制御するものである。回転伝達系は、モータの回転が伝達されて駆動されるとともに、駆動を制限する駆動制限部(231、232)が設けられている。
【0006】
モータ制御装置は、通電制御部(52)と、過戻り判定部(55)と、を備える。通電制御部は、モータへの通電を制御する。過戻り判定部は、駆動制限部にて駆動が制限される可動限界位置までモータを駆動させた後、モータへの通電をオフにすることで、回転伝達系に生じる外力によりモータを可動限界位置から離間する方向に戻す戻し制御を行ったとき、非通電戻し制御にて係合部材が戻り許容位置を超える過戻りの可能性の有無を判定する。
【0007】
モータ制御装置は、過戻りの可能性がないと判断された場合、通電オフを継続し、過戻りの可能性があると判断された場合、通電によりモータを停止させる停止制御を行う。これにより、モータを可動限界位置まで駆動させた後の制御を適切に実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態によるシフトバイワイヤシステムを示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態によるシフトバイワイヤシステムを示す概略構成図である。
【
図3】第1実施形態によるディテントプレートを示す模式図である。
【
図4】第1実施形態によるモータ駆動処理を説明するフローチャートである。
【
図5】第1実施形態による過戻り判定処理を説明するフローチャートである。
【
図6】第1実施形態によるモータ駆動処理を説明するタイムチャートである。
【
図7】第1実施形態によるモータ駆動処理を説明するタイムチャートである。
【
図8】第2実施形態による過戻り判定処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明によるモータ制御装置を図面に基づいて説明する。以下、複数の実施形態において、実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。本実施形態のモータ制御装置を
図1~
図7に示す。
図1および
図2に示すように、シフトバイワイヤシステム1は、モータ10、シフトレンジ切替機構20、パーキングロック機構30、および、モータ制御装置としてのシフトレンジ制御装置40等を備える。
【0010】
モータ10は、図示しない車両に搭載されるバッテリから電力が供給されることで回転し、シフトレンジ切替機構20の駆動源として機能する。本実施形態のモータ10は、スイッチトリラクタンスモータであって、図示しないステータに巻回されるU相、V相およびW相のモータ巻線を有する。
【0011】
図2に示すように、回転角センサであるエンコーダ13は、モータ10の図示しないロータの回転位置を検出する。エンコーダ13は、例えば磁気式のロータリーエンコーダであって、ロータと一体に回転する磁石と、磁気検出用のホールIC等により構成される。エンコーダ13は、ロータの回転に同期して、所定の角度ごとにパルス信号であるエンコーダ信号を出力する。
【0012】
減速機14は、モータ10のモータ軸と出力軸15との間に設けられ、モータ10の回転を減速して出力軸15に出力する。これにより、モータ10の回転がシフトレンジ切替機構20に伝達される。出力軸15には、出力軸15の角度を検出する出力軸センサ16が設けられる。出力軸センサ16は、例えばポテンショメータである。
【0013】
図1に示すように、シフトレンジ切替機構20は、ディテントプレート21、ディテントスプリング25、および、ディテントローラ26等を有し、減速機14から出力された回転駆動力を、マニュアルバルブ28、および、パーキングロック機構30へ伝達する。
【0014】
ディテントプレート21は、出力軸15に固定され、モータ10により駆動される。ディテントプレート21には、出力軸15と平行に突出するピン24が設けられる。ピン24は、マニュアルバルブ28と接続される。ディテントプレート21がモータ10によって駆動されることで、マニュアルバルブ28は軸方向に往復移動する。すなわち、シフトレンジ切替機構20は、モータ10の回転運動を直線運動に変換してマニュアルバルブ28に伝達する。マニュアルバルブ28は、バルブボディ29に設けられる。マニュアルバルブ28が軸方向に往復移動することで、図示しない油圧クラッチへの油圧供給路が切り替えられ、油圧クラッチの係合状態が切り替わることでシフトレンジが変更される。
【0015】
図3に示すように、ディテントプレート21のディテントスプリング25側には、P(パーキング)、R(リバース)、N(ニュートラル)、D(ドライブ)の各レンジに対応する4つの谷部221~224が形成される。また、Pレンジに対応する谷部221とRレンジに対応する谷部222との間には、山部226が設けられる。Rレンジに対応する谷部222とNレンジに対応する谷部223との間には、山部227が設けられる。Nレンジに対応する谷部223とDレンジに対応する谷部224との間には、山部228が設けられる。Pレンジに対応する谷部221の山部226と反対側には、ディテントローラ26の移動を制限する第1壁部231が形成される。Dレンジに対応する谷部224の山部228と反対側には、ディテントローラ26の移動を制限する第2壁部232が形成される。
【0016】
図1に示すように、ディテントスプリング25は、弾性変形可能な板状部材であり、先端に係合部材としてのディテントローラ26が設けられる。ディテントスプリング25は、ディテントローラ26をディテントプレート21の回動中心側に付勢する。ディテントプレート21に所定以上の回転力が加わると、ディテントスプリング25が弾性変形し、ディテントローラ26が谷部221~224間を移動する。ディテントローラ26が谷部221~224のいずれかに嵌まり込むことで、ディテントプレート21の揺動が規制され、マニュアルバルブ28の軸方向位置、および、パーキングロック機構30の状態が決定され、自動変速機5のシフトレンジが固定される。ディテントローラ26は、シフトレンジに応じた谷部221~224に嵌まり合う。本実施形態では、シフトレンジに応じ、ディテントスプリング25のスプリング力にてディテントローラ26が嵌まり込む箇所を、谷部221~224の最底部とする。
【0017】
パーキングロック機構30は、パーキングロッド31、円錐体32、パーキングロックポール33、軸部34、および、パーキングギア35を有する。パーキングロッド31は、略L字形状に形成され、一端311側がディテントプレート21に固定される。パーキングロッド31の他端312側には、円錐体32が設けられる。円錐体32は、他端312側にいくほど縮径するように形成される。
【0018】
パーキングロックポール33は、円錐体32の円錐面と当接し、軸部34を中心に揺動可能に設けられる。パーキングロックポール33のパーキングギア35側には、パーキングギア35と噛み合い可能な凸部331が設けられる。ディテントプレート21の回転により円錐体32がP方向に移動すると、パーキングロックポール33が押し上げられ、凸部331とパーキングギア35とが噛み合う。一方、円錐体32がNotP方向に移動すると、凸部331とパーキングギア35との噛み合いが解除される。
【0019】
パーキングギア35は、図示しない車軸に設けられ、パーキングロックポール33の凸部331と噛み合い可能に設けられる。パーキングギア35と凸部331とが噛み合うと、車軸の回転が規制される。シフトレンジがPレンジ以外のレンジであるNotPレンジのとき、パーキングギア35はパーキングロックポール33によりロックされず、車軸の回転は、パーキングロック機構30により妨げられない。また、シフトレンジがPレンジのとき、パーキングギア35はパーキングロックポール33によってロックされ、車軸の回転が規制される。
【0020】
図2に示すように、シフトレンジ制御装置40は、駆動回路41、および、ECU50等を備える。駆動回路41は、図示しないスイッチング素子を有し、モータ10の各相への通電を切り替える。駆動回路41とバッテリとの間には、モータリレー46が設けられる。モータリレー46は、イグニッションスイッチ等である車両の始動スイッチがオンされているときにオンされ、モータ10側へ電力が供給される。また、モータリレー46をオフすることで、モータ10側への電力の供給が遮断される。
【0021】
ECU50は、マイコン等を主体として構成され、内部にはいずれも図示しないCPU、ROM、RAM、I/O、及び、これらの構成を接続するバスライン等を備えている。ECU50における各処理は、ROM等の実体的なメモリ装置(すなわち、読み出し可能非一時的有形記録媒体)に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理であってもよいし、専用の電子回路によるハードウェア処理であってもよい。
【0022】
ECU50は、ドライバ要求シフトレンジ、ブレーキスイッチからの信号および車速等に基づいてモータ10の駆動を制御することで、シフトレンジの切り替えを制御する。また、ECU50は、車速、アクセル開度、および、ドライバ要求シフトレンジ等に基づき、変速用油圧制御ソレノイド6の駆動を制御する。変速用油圧制御ソレノイド6を制御することで、変速段が制御される。変速用油圧制御ソレノイド6は、変速段数等に応じた本数が設けられる。本実施形態では、1つのECU50がモータ10およびソレノイド6の駆動を制御するが、モータ10を制御するモータ制御用のモータECUと、ソレノイド制御用のAT-ECUとを分けてもよい。以下、モータ10の駆動制御を中心に説明する。
【0023】
ECU50は、角度演算部51、通電制御部52および過戻り判定部55等を有する。角度演算部51は、エンコーダ13から取得されるエンコーダ信号のパルスエッジをカウントし、エンコーダカウント値θenを演算する。エンコーダカウント値θenは、モータ10の回転位置に応じた値であって、「モータ角度」に対応する。
【0024】
通電制御部52は、駆動モードに応じ、モータ10への通電を制御する。本実施形態の駆動モードには、壁当てモード、壁戻しモード、および、通常制御モードが含まれる。壁当てモードは、モータ10の可動限界位置を基準位置として学習すべく、ディテントローラ26が壁部231、232に向かう方向に駆動する制御モードである。以下、ディテントローラ26を第1壁部231に当接させることで、第1壁部231側の基準位置を学習する「P壁当て」を中心に説明する。
【0025】
壁戻しモードは、ディテントローラ26を壁部231、232に当接させた後、谷部221、224に戻す制御である。通常制御モードは、基準位置学習後、通常のシフトレンジ切り替えを行うモードである。基準位置学習時の駆動モードは、壁当てモードまたは壁戻しモードとする。
【0026】
P壁当てにおいて、駆動モードが壁当てモードから壁戻しモードに切り替わると、モータ10への通電をオフにすることで、回転伝達系における復元力、および、ディテントスプリング25の付勢力により、ディテントローラ26は壁部231側から谷部221側に戻される。
【0027】
過戻り判定部55は、壁戻しモードにおいて、ディテントローラ26がパーキングロック範囲を超える過戻りの可能性があるか否かを判定する。ここで、壁当て制御の後、ディテントローラ26を谷部221に戻すとき、例えばエンコーダカウント値θenが目標カウント値θcmdを含む制御範囲内(例えば±2カウント)となったとき、モータ10への通電が伴う停止制御を行うと、電力消費および発熱が生じる。停止制御は、例えば、2相への通電を継続する固定相通電制御である。
【0028】
ここで、壁戻しモードにおいて、制御対象の意図する機能を満たす範囲内でモータ10が停止するのであれば、必ずしもモータ10への通電を伴う停止制御は必要ない。本実施形態では、制御対象の意図する機能を満たす範囲は、パーキングロックポール33とパーキングギア35との噛み合いが保証されるパーキングロック範囲である。すなわち本実施形態では、壁戻しモードにおいて、ディテントローラ26がパーキングロック範囲を超える可能性がある場合を「過戻り可能性あり」として停止制御を行い、ディテントローラ26がパーキングロック範囲を超える可能性がない場合を「過戻り可能性なし」として、停止制御を行わない。
【0029】
本実施形態のモータ駆動処理を
図4のフローチャートに基づいて説明する。この処理は、基準位置学習時に所定の周期(例えば、1[ms])にてECU50にて実行される処理である。以下、ステップS101の「ステップ」を省略し、単に記号「S」と記す。
【0030】
S101では、ECU50は、駆動モードが壁当てモードか否か判断する。駆動モードが壁当てモードではないと判断された場合(S101:NO)、すなわち駆動モードが壁戻しモードである場合、S106へ移行する。駆動モードが壁当てモードであると判断された場合(S101:YES)、S102へ移行する。
【0031】
S102では、ECU50は、ディテントローラ26が壁部231に到達し、モータ10が可動限界位置にあるか否かを判断する。ここでは、エンコーダカウント値θenが更新されない状態が停滞判定時間Tth1に亘って継続した場合、モータ10が可動限界位置に到達したと判定する。モータ10が可動限界位置に到達していないと判断された場合(S102:NO)、S103へ移行する。S103では、ECU50は、通電制御モードをフィードバック制御モードとし、ディテントローラ26が壁部231に向かうようにモータ10を駆動する。モータ10が可動限界位置に到達したと判断された場合(S102:YES)、現在のエンコーダカウント値θenを基準位置θbとして学習し、S104へ移行する。
【0032】
S104では、ECU50は、駆動モードを壁戻しモードとする。S105では、ECU50は、通電制御モードを通電オフとする。モータ10への通電をオフにすることで、回転伝達系における復元力、および、ディテントスプリング25の付勢力により、ディテントローラ26が壁部231から離れる方向に駆動され、これに伴ってモータ10も可動限界位置から離れる方向に駆動される。
【0033】
S106では、ECU50は、通電制御モードが通電オフか否か判断する。通電制御モードが通電オフではないと判断された場合(S106:NO)、すなわち通電制御モードが停止制御モードである場合、S111へ移行する。通電制御モードが通電オフであると判断された場合(S106:YES)、S107へ移行し、過戻り判定を行う。
【0034】
過戻り判定処理を
図5のフローチャート基づいて説明する。S171では、過戻り判定部55は、S103にて肯定判断されて学習された基準位置θbから現在のエンコーダカウント値θenまでの変化量Δθを算出する。変化量Δθは、現在のエンコーダカウント値θenから基準位置θbを減算した値の絶対値である。
【0035】
S172では、過戻り判定部55は、変化量Δθが過戻り判定値θth以上か否か判断する。過戻り判定値θthは、壁部231と過戻り判定位置との間のカウント数に応じて設定される。過戻り判定位置は、ディテントプレート21の形状等に応じ、谷部221の最底部と山部226の頂点との間であって、パーキングロック解除位置よりも谷部221側に設定される。変化量Δθが過戻り判定値θth以上であると判断された場合(S172:YES)、S173へ移行し、過戻り可能性「あり」と判定する。変化量Δθが過戻り判定値θth未満であると判断された場合(S172:NO)、S174へ移行する。
【0036】
S174では、過戻り判定部55は、壁当て後、通電オフにしてから、過戻り判定時間Tth2が経過したか否か判定する。過戻り判定時間Tth2は、モータ特性や回転伝達系の復元力等に応じ、過戻りが発生しないとみなせる時間に応じて設定される。通電オフから過戻り判定時間Tth2が経過していないと判断された場合(S174:NO)、S175へ移行し、過戻り可能性「未定」と判定する。通電オフから過戻り判定時間Tth2が経過したと判断された場合(S174:YES)、S176へ移行し、過戻り可能性「なし」と判定する。
【0037】
図4に戻り、S107の過戻り判定に続いて移行するS108では、ECU50は、過戻り可能性「あり」と判定されているか否か判断する。過戻り可能性「あり」と判定されていると判断された場合(S108:YES)、S109へ移行し、通電制御モードを停止制御とする。過戻り可能性「あり」と判定されてないと判断された場合(S108:NO)、S110へ移行する。
【0038】
S110では、ECU50は、過戻り可能性「なし」と判定されているか否か判断する。過戻り可能性「なし」と判定されていないと判断された場合(S110:NO)、すなわち過戻り可能性が未定の場合、通電オフを継続する。過戻り可能性「なし」と判定されていると判断された場合(S110:YES)、S113へ移行し、駆動モードを通常制御モードとする。このとき、通電オフは継続される。
【0039】
通電制御モードが停止制御モードである場合に移行するS111では、ECU50は、停止制御モードを開始してから、停止制御継続時間Tth3が経過したか否か判断する。停止制御継続時間Tth3は、モータ特性等に応じ、モータ10を停止させるのに要する時間に応じて設定される。停止制御モードを開始してから停止制御継続時間Tth3が経過していないと判断された場合(S111:NO)、停止制御モードを継続する。停止制御モードを開始してから停止制御継続時間Tth3が経過したと判断された場合(S111:YES)、S112へ移行する。
【0040】
S112では、ECU50は、通電制御モードを停止制御モードから通電オフに切り替え、モータ10への通電をオフにする。S113では、ECU50は、駆動モードを通常制御モードとする。
【0041】
本実施形態のモータ駆動処理を
図6および
図7のタイムチャートに基づいて説明する。
図6および
図7では、共通時間軸を横軸とし、上段から、駆動モード、通電制御モード、エンコーダカウント値θenとする。エンコーダカウント値θenについて、ディテントローラ26が第1壁部231に当接しているときの値を(P壁)、ディテントローラ26が谷部221の最底部に位置しているときの値を(P谷)とした。
【0042】
過戻り可能性がある場合を
図6にて説明する。時刻x10にて、駆動モードが壁当てモードになると、通電制御モードをフィードバック制御モードとし、ディテントローラ26が第1壁部231に向かう方向にモータ10を駆動する。時刻x11にて、ディテントローラ26が第1壁部231に当接すると、エンコーダカウント値θenが更新されなくなる。
【0043】
時刻x11から、エンコーダカウント値θenが更新されない状態が停滞判定時間Tth1に亘って継続した時刻x12において、このときのエンコーダカウント値θenを基準位置θbとして学習する。また、駆動モードを壁当てモードから壁戻しモードから切り替え、通電制御モードをフィードバックモードから通電オフに切り替える。ディテントローラ26を第1壁部231に当接させている状態から、モータ10の通電をオフにすると、回転伝達系の復元力およびディテントスプリング25の付勢力により、ディテントローラ26が第1壁部231から離れる方向に駆動され、モータ10はフィードバック制御時と逆方向に回転する。
【0044】
モータ10への通電をオフにした時刻x12から過戻り判定時間Tth2が経過する前のタイミングである時刻x13にて、基準位置θbからの変化量Δθが過戻り判定値θthとなると、過戻り可能性「あり」と判定し、通電制御モードを通電オフから停止制御モードに切り替え、固定相通電制御を行う。
【0045】
停止制御を停止制御継続時間Tth3に亘って継続した時刻x14では、駆動モードを壁戻しモードから通常モードに切り替え、通電制御モードを停止制御モードから通電オフに切り替える。モータ10への通電をオフにすると、ディテントスプリング25の付勢力により、ディテントローラ26は谷部221の最底部に戻される。
【0046】
過戻り可能性がない場合を
図7にて説明する。時刻x21~時刻x22の処理は、
図6中のx11~時刻x12の処理と同様である。時刻x22にて、通電をオフにすると、回転伝達系の復元力およびディテントスプリング25の付勢力により、時刻x23にてディテントローラ26が谷部221の最底部に戻る。このような場合、停止制御を行わなくても、パーキングロック範囲から外れることがない。
【0047】
そこで本実施形態では、通電をオフ後、過戻り判定時間Tth2が経過するまでの変化量Δθが過戻り判定値θth以上にならなかった場合、過戻り可能性なしとみなし、停止制御を行わない。通電をオフにした時刻x22から過戻り判定時間Tth2が経過した時刻x24にて、駆動モードを壁戻しモードから通常モードに切り替え、通電制御モードとして通電オフを継続する。これにより、過戻り可能性がない場合にも停止制御を行う場合と比較し、電力消費および発熱を低減することができる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態のシフトレンジ制御装置40は、モータ10と、シフトレンジ切替機構20と、を備えるシフトバイワイヤシステム1において、モータ10の駆動を制御するものである。シフトレンジ切替機構20は、モータ10の回転が伝達されて駆動されるとともに、駆動を制限する壁部231、232が設けられている。
【0049】
シフトレンジ制御装置40は、通電制御部52と、過戻り判定部55と、を備える。通電制御部52は、モータ10への通電を制御する。過戻り判定部55は、壁部231にて駆動が制限される可動限界位置までモータ10を駆動させた後、モータ10への通電をオフにすることで、シフトレンジ切替機構20に生じる外力によりモータ10を可動限界位置から離間する方向に戻す非通電戻し制御を行ったとき、非通電戻し制御にて戻り許容位置を超える過戻りの可能性の有無を判定する。「回転伝達系に生じる外力」とは、シフトレンジ切替機構20の復元力およびディテントスプリング25の付勢力等である。
【0050】
シフトレンジ制御装置40は、過戻りの可能性がないと判定された場合、通電オフを継続し、過戻りの可能性があると判定された場合、通電によりモータ10を停止させる停止制御を行う。これにより、モータ10を可動限界位置まで駆動させた後の制御を適切に実施可能である。詳細には、過戻りの可能性がある場合、停止制御にてモータ10を停止させるので、ディテントローラ26を許容範囲内にて適切に停止させることができる。また、過戻りの可能性がない場合、停止制御を行わなくても、ディテントローラ26が許容範囲内から外れることがないので、過戻り判定を行わず、常に停止制御を行う場合と比較し、電力消費および発熱を低減することができる。
【0051】
過戻り判定部55は、非通電戻し制御を開始してから過戻り判定時間Tth2が経過するまでの間に、戻り許容位置より壁部231側に設定される過戻り判定位置に到達した場合、過戻りの可能性があると判定する。換言すると、過戻り判定時間Tth2が経過するまでに過戻り判定位置に到達しなかった場合、過戻りの可能性がないと判定する。これにより、過戻りの可能性の有無を適切に判定することができる。
【0052】
シフトレンジ切替機構20は、ディテントプレート21、ディテントローラ26、および、ディテントスプリング25を有する。ディテントプレート21は、複数の谷部221~224、谷部221~224を隔てる山部226~228、および、配列される複数の谷部221、224の両端に設けられる壁部231、232が形成される。ディテントローラ26は、モータ10の駆動により谷部221~224を移動可能であって、壁部231、231に移動が規制される。ディテントスプリング25は、ディテントローラ26を谷部221~224に嵌まり込む方向に付勢する。
【0053】
過戻り判定位置は、壁部231に隣接する谷部221の最底部と、谷部221を挟んで壁部231と反対側に形成される山部226の頂点との間に設定される。本実施形態では、エンコーダカウント値θenの基準位置θbからの変化量Δθが過戻り判定値θthになることが「戻り許容位置より壁部側に設定される過戻り判定位置に到達した」ことに対応する。これにより、過戻りの可能性の有無を適切に判定することができる。
【0054】
また、本実施形態では、戻り許容位置は、シフトレンジ保証範囲に応じて設定される。P壁当ての場合、戻り許容位置に係るシフトレンジ保証範囲は、パーキングロック範囲である。これにより、過戻りにより、シフトレンジ保証範囲を外れるのを防ぐことができる。
【0055】
(第2実施形態)
第2実施形態を
図8に示す。本実施形態は、過戻り判定が上記実施形態と異なっているので、この点を中心に説明する。本実施形態の過戻り判定処理を
図8のフローチャートに基づいて説明する。
【0056】
S271では、過戻り判定部55は、通電オフ時におけるエンコーダカウント値θenの単位時間あたりの変化割合aを算出する(式(1)参照)。式中のΔtは、通電オフ開始からの経過時間である。
【0057】
a=Δθ/Δt ・・・(1)
【0058】
S272では、過戻り判定部55は、変化割合aが過戻り判定値ath以上か否か判定する。過戻り判定値athは、ディテントプレート21の形状やモータ特性等に応じて設定される。変化割合aが過戻り判定値ath以上であると判断された場合(S272:YES)、S273へ移行し、過戻り可能性「あり」と判定する。変化割合aが過戻り判定値ath未満であると判断された場合(S272:NO)、S274へ移行す。S274~S276の処理は、
図5中のS174~S176の処理と同様である。
【0059】
本実施形態では、過戻り判定部55は、非通電戻し制御におけるエンコーダカウント値θenの変化割合に基づいて過戻りの可能性の有無を判定する。このように構成しても、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0060】
実施形態において、シフトレンジ制御装置40が「モータ制御装置」に対応し、シフトバイワイヤシステム1が「モータ駆動システム」および「シフトレンジ切替システム」に対応する。シフトレンジ切替機構20が「回転伝達系」に対応し、ディテントプレート21が「ディテント部材」に対応し、壁部231、232が「駆動制限部」に対応し、ディテントスプリング25が「付勢部材」に対応し、ディテントローラ26が「係合部材」に対応する。また、エンコーダカウント値θenが「モータの回転角度」に対応する。
【0061】
上記実施形態において、ディテントローラ26を第1壁部231に当接させるP壁当てを中心に説明した。P壁当てにおいて、第1壁部231が「当接壁部」に対応する。また、ディテントローラ26を第2壁部232に当接させるD壁当ての場合、第2壁部232が「当接壁部」に対応する。D壁当ての場合、過戻り判定位置は、谷部224の最底部と山部228の頂点との間に設定される。また、この場合の戻り許容位置は、当該谷部224に対応するレンジを保証するレンジ保証範囲に応じて設定される。すなわち、D壁当ての場合、戻り許容範囲は、Dレンジ保証範囲に応じて設定される。
【0062】
(他の実施形態)
上記実施形態では、壁当てモードにおいて、通電制御モードをフィードバックモードとした。他の実施形態では、壁当てモード時のモータ10の駆動制御手法は、フィードフォワード制御等、どのような制御手法を用いてもよい。
【0063】
上記実施形態では、回転角センサとしてエンコーダを用いる。他の実施形態では、回転角センサは、ロータの回転位置を検出可能なものであればよく、例えばレゾルバ等のリニアセンサであってもよい。上記実施形態では、出力軸センサとしてポテンショメータを例示した。他の実施形態では、出力軸センサとして、ポテンショメータ以外のものを用いてもよいし、出力軸センサを省略してもよい。
【0064】
上記実施形態では、モータは、スイッチトリラクタンスモータである。他の実施形態では、スイッチトリラクタンスモータ以外のもの、例えばDCブラシレスモータ等であってもよい。上記実施形態では、ディテントプレートには4つの谷部が設けられる。他の実施形態では、谷部の数は4つに限らず、いくつであってもよい。例えば、ディテントプレートの谷部を2つとし、PレンジとNotPレンジとを切り替えるものとしてもよい。また、シフトレンジ切替機構やパーキングロック機構等は、上記実施形態と異なっていてもよい。また、上記実施形態では、モータ制御装置はシフトレンジ切替システムに適用される。他の実施形態では、モータ制御装置をシフトレンジ切替システム以外の車載システム、または、車載以外のモータ駆動システムに適用してもよい。
【0065】
上記実施形態では、モータ軸と出力軸との間に減速機が設けられる。減速機の詳細について、上記実施形態では言及していないが、例えば、サイクロイド歯車、遊星歯車、モータ軸と略同軸の減速機構から駆動軸へトルクを伝達する平歯歯車を用いたものや、これらを組み合わせて用いたもの等、どのような構成であってもよい。また、他の実施形態では、モータ軸と出力軸との間の減速機を省略してもよいし、減速機以外の機構を設けてもよい。
【0066】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0067】
1・・・シフトバイワイヤシステム(モータ駆動システム、シフトレンジ切替システム)
10・・・モータ
20・・・シフトレンジ切替機構(回転伝達系)
21・・・ディテントプレート(ディテント部材)
221~224・・・谷部 226~228・・・山部
231、232・・・壁部(駆動制限部)
25・・・ディテントスプリング(付勢部材)
26・・・ディテントローラ(係合部材)
40・・・シフトレンジ制御装置(モータ制御装置)
52・・・通電制御部 55・・・過戻り判定部