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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】触媒層
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20221129BHJP
   B01J 35/06 20060101ALI20221129BHJP
   B01J 31/28 20060101ALI20221129BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20221129BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20221129BHJP
【FI】
H01M4/86 M
B01J35/06 F
B01J35/06 E
B01J31/28 M
H01M4/86 B
H01M4/86 H
H01M4/96 M
H01M8/10 101
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019194193
(22)【出願日】2019-10-25
(65)【公開番号】P2021068638
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2021-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】吉野 修平
(72)【発明者】
【氏名】森本 友
(72)【発明者】
【氏名】篠原 朗大
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-504424(JP,A)
【文献】特表2017-535032(JP,A)
【文献】特開2010-095826(JP,A)
【文献】特開2010-092808(JP,A)
【文献】国際公開第2009/075357(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた触媒層。
(1)前記触媒層は、
1種又は2種以上のプロトン伝導体(A)を含む繊維の集合体からなる不織布と、
触媒粒子を含む電極触媒と
を備え、
前記電極触媒は、前記繊維の表面に付着している。
(2)前記触媒層は、前記触媒粒子の電気化学的有効表面積(ECSA)が10m2/g以上である。
但し、前記「電気化学的有効表面積(ECSA)」とは、相対湿度80%RHの条件下において測定された、前記触媒粒子の単位質量あたりの電気化学的に有効な前記触媒粒子の表面積(m2/g)をいう。
(3)前記電極触媒は、カーボン担体の表面に前記触媒粒子が担持された触媒担持カーボンであり、
前記触媒層は、前記電極触媒に含まれる前記カーボン担体の質量(C)に対する、前記触媒層に含まれるすべてのプロトン伝導体(T)の質量(I T )の比(=I T /C)が0.5以上10以下である。
(4)前記触媒層は、次の式(1)で表される屈曲度τが0.5以上6.0以下である。
τ=ε・σ Bulk /σ eff …(1)
但し、
εは、前記触媒層に含まれるすべてのプロトン伝導体(T)の体積分率、
σ Bulk は、前記プロトン伝導体(T)のみからなる緻密な材料(バルク材)の相対湿度30%RHでのプロトン伝導度、
σ eff は、前記σ Bulk と同一条件下で測定された前記触媒層の相対湿度30%RHでの有効プロトン伝導度。
【請求項2】
前記プロトン伝導体(A)は、パーフルオロスルホン酸ポリマである請求項1に記載の触媒層。
【請求項3】
前記繊維は、前記プロトン伝導体(A)に曳糸性を付与するためのキャリアポリマをさらに含む請求項1又は2に記載の触媒層。
【請求項4】
前記繊維の直径が1nm以上5000nm以下である請求項1から3までのいずれか1項に記載の触媒層。
【請求項5】
空隙率が30%以上100%未満である請求項1から4までのいずれか1項に記載の触媒層。
【請求項6】
前記繊維と接触していない前記触媒粒子の表面を覆う1種又は2種以上のプロトン伝導体(B)をさらに備えた請求項1から5までのいずれか1項に記載の触媒層。
【請求項7】
前記プロトン伝導体(B)は、パーフルオロスルホン酸ポリマである請求項6に記載の触媒層。
【請求項8】
前記電極触媒に含まれる前記カーボン担体の質量(C)に対する、前記触媒層に含まれる前記プロトン伝導体(B)の質量(IB)の比(=IB/C)が0.1以上5以下である請求項6又は7に記載の触媒層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒層に関し、さらに詳しくは、低湿度環境下においても高い性能(特に、高い酸素還元反応活性)を示す触媒層に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子電解質からなる繊維及びその不織布は、その高い空隙率や高いプロトン伝導度から、燃料電池の触媒層、電解質膜への応用が検討されている。このような高分子電解質からなる不織布を燃料電池の触媒層に使用するためには、繊維表面に電極触媒を付着させる必要がある。また、少量の触媒使用量で高い活性を得るためには、繊維表面に電極触媒を均一に付着させる必要がある。そのため、不織布の表面に電極触媒を付着させる方法に関し、従来から種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、
(a)エレクトロスピニング法によりプロトン伝導性材料からなる不織布を作製し、
(b)白金担持カーボン、プロトン伝導性材料、及び溶媒を含む触媒インクを作製し、
(c)不織布を触媒インクに浸漬し、乾燥させる
燃料電池用電極の製造方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、燃料電池の発電出力の向上に有利な燃料電池用電極を製造できる点が記載されている。
【0004】
特許文献2には、
(a)2本のノズルを用いて電解質樹脂及び非電解質樹脂をそれぞれエレクトロスピニングすることにより、電解質樹脂繊維及び非電解質樹脂繊維が交互に積層しているシートを作製し、
(b)種々の方法を用いて、シートに含まれる電解質樹脂繊維及び非電解質樹脂繊維の表面を触媒で被覆する
燃料電池用電極の製造方法が開示されている。
同文献には、非電解質樹脂繊維は高強度を有するため、電解質樹脂繊維及び非電解質樹脂繊維を交互に積層してシート状とした触媒層の空隙は、外力等により潰されることがない点が記載されている。
【0005】
特許文献3には、
(a)薄膜裁断法を用いて樹脂繊維を作製し、
(b)ディップコート法を用いて樹脂繊維の表面を触媒層でコートし、
(c)触媒付き樹脂繊維をサーマルロールの間を通すことで熱圧着し(サーマルボンド法)、シート状の成形体を得る
固体高分子電解質型燃料電池用触媒層部材の製造方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、プロトン伝導性の向上と、ガス拡散性の向上及び生成水の排出性の向上とを両立させた触媒層部材が得られる点が記載されている。
【0006】
特許文献4には、樹脂用ノズル孔と、その樹脂用ノズル孔を同心円状に取り囲むように設けられた触媒用ノズル孔とを備えたノズル部材を用いて、樹脂溶液と触媒含有溶液とを同時にエレクトロスピニングする燃料電池用電極の製造方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、触媒の一部が樹脂繊維の表層に埋め込まれた触媒被覆樹脂繊維が得られる点が記載されている。
【0007】
さらに、特許文献5には、固体高分子電解質型燃料電池の電流密度を向上させるために、繊維質を含む薄いイオン導電性高分子層を電極材料に被覆してイオン導電性を向上させる方法が開示されている。具体的には、Pt触媒などを分散させた炭素粉末の表面に、ポリエステルなどの繊維質を含むナフィオン(登録商標)などのプロトン伝導性高分子溶液を被覆した後、乾燥させることにより、繊維質を含む薄いプロトン伝導性高分子層を炭素粉末表面に被覆する方法が開示されている。
【0008】
高分子電解質は、プロトン伝導性を発現するためには適度な含水状態にあることが必要である。そのため、従来の触媒層を備えた燃料電池を低湿度環境下で運転し続けると、触媒層アイオノマが乾燥により収縮する。その結果、触媒層内におけるプロトン伝導経路が途切れ、燃料電池の出力が低下する。
これに対し、高分子電解質からなる繊維又は不織布を備えた触媒層は、プロトン伝導経路が連続した繊維状のプロトン伝導体で構成されるために、乾燥時においてもプロトン伝導経路が途切れにくくなる。そのため、このような触媒層を燃料電池に適用すると、低湿度環境下においても高い出力が得られる可能性がある。
【0009】
しかしながら、特許文献1、2に記載されているように、不織布を作製した後に触媒を担持させる方法では、繊維表面に触媒を均一に担持させることができない。特に、不織布を触媒インクに浸漬する方法では、触媒インクに含まれる溶媒により繊維が膨潤する。その結果、触媒粒子は不織布表面に偏在し、かつ、不織布内の空隙も失われる。
また、特許文献3に記載されているように、サーマルボンド法を用いて触媒付き樹脂繊維をシート状に成形する方法では、高い空隙率を備えた触媒層は得られない。
【0010】
さらに、特許文献4に記載されているように、同心円状のノズル穴を備えたノズル部材を用いて樹脂溶液と触媒含有溶液とを同時に電界紡糸する方法では、繊維の電界紡糸そのものが困難である。また、仮に製造できたとしても、触媒が繊維に埋没しているために、触媒同士の電子的接触が妨げられ、酸素供給及び排水に対する障害ともなる。そのため、このような材料は、実用的な触媒層とはいえないと考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】特開2007-220416号公報
【文献】特開2013-093187号公報
【文献】特開2009-026698号公報
【文献】特開2012-124046号公報
【文献】米国特許出願公開第2003/0003346号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、低湿度環境下においても高い性能(特に、高い酸素還元反応活性)を示す触媒層を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明に係る触媒層は、以下の構成を備えている。
(1)前記触媒層は、
1種又は2種以上のプロトン伝導体(A)を含む繊維の集合体からなる不織布と、
触媒粒子を含む電極触媒と
を備え、
前記電極触媒は、前記繊維の表面に付着している。
(2)前記触媒層は、前記触媒粒子の電気化学的有効表面積(ECSA)が10m2/g以上である。
【発明の効果】
【0014】
不織布の繊維の表面に電極触媒が付着している触媒層を形成する場合において、先に不織布を作製し、次いで不織布を触媒インクに浸漬する方法を用いた時には、触媒粒子は不織布表面に偏在し、かつ、不織布内の空隙も失われる。
また、基板表面へのプロトン伝導体(A)を含む繊維の堆積と、繊維表面への電極触媒を含む触媒インクの散布とを交互に繰り返す方法を用いると、不織布内の空隙は維持される。しかし、不織布内において孤立した触媒粒子の発生確率が高くなるため、この方法では、到達可能な触媒粒子の電気化学的有効表面積(ECSA)に限界がある。
【0015】
これに対し、不織布の繊維の表面に電極触媒が付着している触媒層を形成する場合において、基板表面へのプロトン伝導体(A)を含む繊維の堆積と、繊維表面への電極触媒を含む触媒インクの散布とを同時に行う方法を用いると、不織布内の空隙が維持されると同時に、不織布内において孤立した触媒粒子の発生確率が低くなる。そのため、触媒粒子の電気化学的有効表面積(ECSA)が向上する。また、これを例えば、燃料電池の空気極触媒層として用いると、高い酸素還元反応活性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明で用いたエレクトロスピニング装置の外観写真である。
図2】比較例1で用いた触媒層形成方法の模式図である。
図3】実施例3、比較例1、及び比較例2で得られた触媒層の30%RHでのECSAである。
図4】実施例3、比較例1、及び比較例2で得られた触媒層の80%RHでのECSAである。
【0017】
図5】実施例1及び比較例2で得られた触媒層(IT/C=0.8)の30%RHにおける屈曲度である。
図6】実施例2及び比較例3で得られた触媒層(IT/C=1.0)の30%RHにおける屈曲度である。
図7】実施例3及び比較例4で得られた触媒層(IT/C=3.0)の30%RHにおける屈曲度である。
図8】実施例3、並びに、比較例1、3、4で得られた触媒層の30%RHでのIV性能である。
図9】実施例3、並びに、比較例1、3、4で得られた触媒層の80%RHでのIV性能である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 触媒層]
本発明に係る触媒層は、以下の構成を備えている。
(1)前記触媒層は、
1種又は2種以上のプロトン伝導体(A)を含む繊維の集合体からなる不織布と、
触媒粒子を含む電極触媒と
を備え、
前記電極触媒は、前記繊維の表面に付着している。
(2)前記触媒層は、前記触媒粒子の電気化学的有効表面積(ECSA)が10m2/g以上である。
【0019】
[1.1. 不織布]
[1.1.1. プロトン伝導体(A)]
不織布は、プロトン伝導体(A)を含む繊維の集合体からなる。本発明において、繊維の主成分であるプロトン伝導体(A)の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。
【0020】
プロトン伝導体(A)としては、例えば、ナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)、アシプレックス(登録商標)、アクウィビオン(登録商標)などのパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマなどがある。繊維は、これらのいずれか1種を含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
【0021】
これらの中でもパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマは、プロトン伝導性に優れ、かつ化学的に安定である。そのため、繊維を構成するプロトン伝導体(A)としてパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマを用いると、燃料電池環境下のような化学的な耐久性が必要な場所でも、プロトン伝導度を保つことができる。
【0022】
[1.1.2. キャリアポリマ]
[A. 組成]
不織布を構成する繊維は、プロトン伝導体(A)のみからなるものでも良く、あるいは、プロト伝導体(A)に加えてキャリアポリマをさらに含むものでも良い。
ここで、「キャリアポリマ」とは、プロトン伝導体(A)に曳糸性を付与するために添加されるポリマをいう。
【0023】
キャリアポリマは、単独では曳糸性を示さないプロトン伝導体(A)に曳糸性を付与するために用いられる。そのためには、キャリアポリマは、プロトン伝導体(A)と水素結合を形成することが可能なものが好ましい。また、キャリアポリマは、特に、直鎖状の水溶性ポリマが好ましい。
上述したプロトン伝導体(A)の中でも、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマは、溶媒には溶解せず分散液となるため、紡糸に不可欠な曳糸性がない。そのため、例えば、プロトン伝導体(A)としてパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマを用い、湿式紡糸法により不織布を製造する時には、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマの分散液にキャリアポリマを添加するのが好ましい。
【0024】
プロトン伝導体(A)とキャリアポリマとの間で水素結合を形成するためには、キャリアポリマは、水素結合可能な部位を備えている必要がある。
このような部位としては、例えば、
(a)エーテル結合(-O-)、
(b)水素や炭素よりも電気陰性度が高い原子を有する結合又は官能基群(例えば、エステル結合、アミド結合、チオエーテル結合、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、アルデヒド基、スルホ基、アミノ基、シアノ基、チオール基)
などがある。
【0025】
このような条件を満たすキャリアポリマとしては、例えば、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリアクリル酸、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリビニルピロリドン(PVP)などがある。
【0026】
[B. 分子量]
不織布を構成する繊維が単独では曳糸性を示さないプロトン伝導体(A)とキャリアポリマとの混合物からなる場合、キャリアポリマの分子量は、曳糸性に影響を与える。好適な分子量は、キャリアポリマの種類により異なる。
例えば、キャリアポリマがPEOである場合、キャリアポリマの重量平均分子量(Mw)が小さすぎると、十分な曳糸性が得られない。従って、Mwは、10万以上が好ましい。Mwは、好ましくは、100万以上、さらに好ましくは、500万以上である。
【0027】
[C. 含有量]
「キャリアポリマの含有量」とは、不織布に含まれるプロトン伝導体(A)の質量(W1)及びキャリアポリマの質量(W2)の和に対するキャリアポリマの質量の割合(=W2×100/(W1+W2))をいう。
不織布を構成する繊維が単独では曳糸性を示さないプロトン伝導体(A)とキャリアポリマとの混合物からなる場合、繊維中(すなわち、不織布中)のキャリアポリマの含有量は、曳糸性、溶媒に対する耐性、プロトン伝導度などに影響を与える。
【0028】
繊維が単独では曳糸性を示さないプロトン伝導体(A)とキャリアポリマとの混合物である場合において、キャリアポリマの含有量が少なすぎる時には、曳糸性が不十分となり、不織布を作製することができない。従って、キャリアポリマの含有量は、0.05mass%以上が好ましい。キャリアポリマの含有量は、好ましくは、0.1mass%以上、さらに好ましくは、0.5mass%以上である。
一方、キャリアポリマの含有量が過剰になると、不織布の溶媒に対する耐性が低下する。加えて、プロトン伝導体(A)の体積分率が低下するため、不織布のプロトン伝導度が低下する。従って、キャリアポリマの含有量は、10mass%以下が好ましい。キャリアポリマの含有量は、好ましくは、5mass%以下、さらに好ましくは、3mass%以下である。
【0029】
[1.1.3. 繊維の直径]
プロトン伝導体(A)を繊維状にすると、低湿度雰囲気下においてもプロトン伝導経路が途切れにくくなるという利点がある。一方、本発明において、繊維表面には電極触媒が担持される。そのため、繊維の直径が細くなりすぎると、繊維表面に電極触媒を担持するのが困難となる。従って、繊維の直径は、1nm以上が好ましい。繊維の直径は、好ましくは、50nm以上、さらに好ましくは、100nm以上である。
【0030】
一方、繊維の直径が太くなりすぎると、表面積(又は、空隙率)を維持するために使用される繊維量が多くなり、触媒層が厚くなる。触媒層が過度に厚くなると、プロトン伝導抵抗及び酸素拡散抵抗の増加が懸念される。従って、繊維の直径は、5000nm以下が好ましい。繊維の直径は、好ましくは、1000nm以下、さらに好ましくは、800nm以下である。
【0031】
[1.2. 電極触媒]
電極触媒は、触媒粒子を含む。電極触媒は、触媒粒子のみからなるものでも良く、あるいは、カーボン担体の表面に触媒粒子が担持された触媒担持カーボンでも良い。特に、触媒担持カーボンは、触媒粒子が微細化され、触媒使用量を低減できるので、電極触媒として好適である。
本発明において、触媒粒子の組成は、特に限定されない。また、触媒粒子は、金属、有機物、金属酸化物のいずれであっても良い。
【0032】
触媒粒子の材料としては、例えば、
(a)Pt、Pd、Ir、Ruなどの貴金属、若しくは、これらの合金、
(b)Pt-M合金(Mは、Fe、Co、Niなどの卑金属元素)、
(c)貴金属若しくは卑金属と炭素や窒素が結合した有機金属錯体、
(d)金属を含まないグラフェンやカーボンナノチューブ若しくはこれらの窒化物、
などがある。
【0033】
[1.3. プロトン伝導体(B)]
本発明に係る空気極触媒層は、プロトン伝導体(B)をさらに備えていても良い。
「プロトン伝導体(B)」とは、前記繊維と接触していない前記触媒粒子の表面を覆うために添加されるプロトン伝導体をいう。
繊維には、プロトン伝導体(A)が含まれているので、繊維と接触している触媒粒子には、繊維を介してプロトンが供給される。一方、繊維と接触していない触媒粒子(以下、「非接触粒子」ともいう)には、繊維を介したプロトン輸送が難しい。このような場合には、非接触粒子の表面をプロトン伝導体(B)で覆うのが好ましい。プロトン伝導体(B)は、後述するように、触媒インクに添加される。
【0034】
本発明において、プロトン伝導体(B)の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。プロトン伝導体(B)は、プロトン伝導体(A)と同種の材料であっても良く、あるいは、異なる材料であっても良い。プロトン伝導体(B)は、特に、パーフルオロスルホン酸ポリマが好ましい。プロトン伝導体(B)に関するその他の点については、プロトン伝導体(A)と同様であるので、説明を省略する。
【0035】
[1.4. 触媒層の特性]
[1.4.1. 電気化学的有効表面積(ESCA)]
本発明において、「電気化学的有効表面積(ESCA)」とは、相対湿度80%RHの条件下において測定された、触媒粒子の単位質量あたりの電気化学的に有効な触媒粒子の表面積(m2/g)をいう。
ESCAの測定方法は特に限定されないが、ESCAは、通常、
(a)触媒粒子を含む電極を用いてサイクリックボルタモグラム(CV)を取得し、
(b)CVのアノード掃引時の水素脱離波のピークを積分して電荷量を求め、
(c)換算係数を用いて電荷量を電気化学的に有効な触媒粒子の表面積に換算し、
(d)電気化学的に有効な表面積を単位面積当たりの触媒粒子の質量で規格化する、
ことにより得られる。
【0036】
電極触媒を担持した不織布を作製する場合において、不織布の電界紡糸と電極触媒の電界噴霧とを交互に行うと、主として電解質からなる繊維が堆積している層(電解質繊維層)と、主として電極触媒が堆積している層(電極触媒堆積層)が交互に積層した組織となりやすい。そのため、厚さ方向に沿って離間して配置している電極触媒堆積層間が電気的に孤立しやすい。その結果、触媒として機能する触媒粒子の割合が低下し、高いECSAは得られない。
【0037】
これに対し、後述する方法を用いて不織布の電界紡糸と電極触媒の電界噴霧を同時に行うと、触媒層の厚さ方向に沿って、電極触媒が電気的に接触しやすくなる。その結果、触媒として機能する触媒粒子の割合が増加し、高いECSAが得られる。
本発明に係る触媒層は、触媒粒子の電気化学的有効表面積(ECSA)が10m2/g以上である。製造条件を最適化すると、ECSAは、15m2/g以上、あるいは、20m2/g以上となる。
【0038】
[1.4.2. 空隙率]
触媒層には、適度な空隙が必要である。これは、触媒粒子表面に反応ガス(酸素、水素)を供給するため、及び、空気極側の触媒層にあっては触媒粒子表面から反応生成物である水を排出するためである。触媒層の空隙率が小さすぎると、反応ガスの供給及び水の排出が阻害される。従って、触媒層の空隙率は、30%以上が好ましい。空隙率は、好ましくは、50%以上である。
一方、空隙率が過度に大きくなると、触媒層の機械的強度が低下する。従って、空隙率は、100%未満が好ましい。空隙率は、好ましくは、70%以下である。
【0039】
[1.4.3. IB/C比]
「IB/C比」とは、前記電極触媒に含まれる前記カーボン担体の質量(C)に対する、前記触媒層に含まれる前記プロトン伝導体(B)の質量(IB)の比をいう。
電極触媒が触媒担持カーボンである場合において、IB/C比は、触媒層の性能(例えば、酸素還元活性)に影響を与える。IB/C比が小さくなりすぎると、触媒粒子へのプロトン輸送が阻害されやすくなる。従って、IB/C比は、0.1以上が好ましい。IB/C比は、好ましくは、0.4以上、さらに好ましくは、0.75以上である。
一方、IB/C比が大きくなりすぎると、触媒層の電子伝導性が低下する。従って、IB/C比は、5以下が好ましい。IB/C比は、好ましくは、1以下である。
【0040】
[1.4.4. IT/C比]
「IT/C比」とは、前記電極触媒に含まれる前記カーボン担体の質量(C)に対する、前記触媒層に含まれるすべてのプロトン伝導体(T)の質量(IT)の比をいう。
「すべてのプロトン伝導体(T)の重量(IT)」とは、触媒層に含まれるプロトン伝導体(A)の質量(IA)とプロトン伝導体(B)の質量(IB)との和をいう。
【0041】
電極触媒が触媒担持カーボンである場合において、IT/C比は、触媒層の性能(例えば、酸素還元活性)に影響を与える。IT/C比が小さくなりすぎると、IB/C次第では、繊維に直に触れる触媒数が減少する。そのため、触媒粒子の接触率が低下し、性能が低下する。従って、IT/C比は、0.5以上が好ましい。IT/C比は、好ましくは、2.0以上である。
一方、IT/C比が大きくなりすぎると、触媒層が厚くなりすぎ、プロトン輸送抵抗が大きくなりすぎる。従って、IT/C比は、10以下が好ましい。IT/C比は、好ましくは、5以下である。
【0042】
[1.4.5. 屈曲度τ]
「屈曲度τ」とは、次の式(1)で表される値をいう。
τ=ε・σBulk/σeff …(1)
但し、
εは、前記触媒層に含まれるすべてのプロトン伝導体(T)の体積分率、
σBulkは、前記プロトン伝導体(T)のみからなる緻密な材料(バルク材)の相対湿度:30%RHでのプロトン伝導度、
σeffは、前記σBulkと同一条件下で測定された前記触媒層の相対湿度30%RHでの有効プロトン伝導度。
【0043】
「ε・σBulk」は、空隙を含む触媒層の理想的なプロトン伝導度を表す。σeffは、空隙を含む触媒層の実際のプロトン伝導度を表す。さらに、屈曲度τは、有効プロトン伝導度(σeff)に対する理想的なプロトン伝導度(ε・σBulk)の比を表す。不織布を構成する各繊維が互いに連結している理想状態にある場合、屈曲度τは1.0となる。但し、例えば、繊維の直径が数100nmを下回ると、バルク状態の伝導度を上回る場合があるという報告(参考文献1)が有り、このような繊維径から構成された触媒層は屈曲度が1.0を下回る場合がある。
[参考文献1]Nano Lett, 2010, 10, 3785-3790
【0044】
一方、不織布を構成する繊維の中に孤立しているものがある場合、孤立している繊維はプロトン伝導に寄与しない。プロトン伝導に寄与しない繊維を含む不織布の有効プロトン伝導度σeffは、理想的なプロトン伝導度(ε・σBulk)より小さくなる。すなわち、屈曲度τが大きいことは、実質的にプロトン伝導に寄与していないアイオノマの割合が多いことを表す。
【0045】
一般に、反応ガス(酸素、水素)の供給及び水の排出を阻害することなく、高い有効プロトン伝導度σeffを得るためには、屈曲度τは、1に近いほど良い。
後述する方法を用いると、相対湿度:30%RH、及びセル温度:80℃において、屈曲度τが0.5以上6.0以下である触媒層が得られる。製造条件をさらに最適化すると、屈曲度τは、上記の条件下において、5.0以下、あるいは、4.0以下となる。
【0046】
[1.5. 触媒層の用途]
本発明に係る触媒層は、空気極及び燃料極のいずれにも用いることができる。本発明に係る触媒層は、高いECSAと高い空隙率を持つので、特に、空気極側の触媒層として好適である。
【0047】
[2. 触媒層の製造方法]
本発明に係る触媒層は、
(a)プロトン伝導体(A)を含む繊維を堆積させるための溶液又は融液(以下、これらを総称して「電界紡糸液」ともいう)を調製し、
(b)電極触媒を含む触媒インクを調製し、
(c)電界紡糸液を用いて電界紡糸し、基板の表面にプロトン伝導体(A)を含む繊維を堆積させると同時に、触媒インクを用いて電界噴霧し、時々刻々と堆積している繊維の表面に触媒インクを散布する、
ことにより製造することができる。
【0048】
[2.1. 第1工程: 電界紡糸溶液の調製]
まず、電界紡糸溶液を調製する。電界紡糸溶液には、必要に応じて、キャリアポリマがさらに含まれていても良い。
繊維がキャリアポリマを含む場合において、プロトン伝導体(A)とキャリアポリマの混合物を溶融させることが可能である時には、繊維の作製には融液を用いることができる。一方、プロトン伝導体(A)とキャリアポリマの混合物を溶解又は分散させることが可能な溶媒がある時には、繊維の作製には溶液を用いることができる。
【0049】
溶液を用いて繊維を作製する場合、溶媒は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な溶媒を選択することができる。溶媒としては、例えば、アルコール、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、N-メチルピロリドン(NMP)などがある。
溶媒としては、特に、沸点が200℃以下のアルコールが好ましい。その中でも、溶媒は、エタノールが好ましい。これは、環境負荷が小さく、工業的な大量生産に適しているためである。
【0050】
また、溶液を用いて繊維を作製する場合、溶液の固形分濃度は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な濃度を選択することができる。ここで、「固形分濃度」とは、溶液の総質量に対する、プロトン伝導体(A)及びキャリアポリマの質量の割合をいう。
一般に、固形分濃度が高くなるほど、乾燥にかかる時間を短縮でき、溶媒の使用量を減らすことができる。一方、固形分濃度が高くなりすぎると、粘度が高くなるため成形しにくくなる。また、泡の混入が問題となる。
最適な固形分濃度は、プロトン伝導体(A)及びキャリアポリマの種類、配合量などにより異なるが、通常は、1mass%~40mass%程度である。
【0051】
[2.2. 第2工程: 触媒インクの調製]
次に、電極触媒を溶媒に分散させた触媒インクを調製する。触媒インクには、必要に応じて、プロトン伝導体(B)がさらに含まれていても良い。
【0052】
本発明において、触媒インクの溶媒には、水と低比誘電率の有機溶媒からなる混合溶媒を用いる必要がある。この点が、従来とは異なる。
触媒インクにプロトン伝導体(B)が含まれる場合において、触媒インクの溶媒として高比誘電率の有機溶媒を用いると、触媒インク中においてプロトン伝導体(B)が電離する。このような触媒インクを用いて電界噴霧するためには、触媒インクを高電位にする必要がある。そのため、電界紡糸液と同電位にすることができず、電界紡糸と同時に電界噴霧することができなかった。
【0053】
これに対し、触媒インクの溶媒として、低比誘電率の有機溶媒を用いると、触媒インク中におけるプロトン伝導体(B)の電離を抑制することができる。そのため、触媒インクの電位が相対的に低い場合であっても、電界噴霧することができる。また、これによって、電界紡糸と電界噴霧を同時に行うことができる。
また、触媒インクの溶媒は、低比誘電率であることに加えて、低沸点であるものが好ましい。これは、高沸点の場合、噴霧された液滴が乾燥せずに滴下することで、繊維を溶解させるおそれがあるためである。
ここで、「低沸点」とは、沸点がおおむね100℃以下であることをいう。
【0054】
低比誘電率の有機溶媒としては、例えば、アセトン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ジエチルエーテル、クロロホルム等のハロメタンなどがある。溶媒には、これらのいずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を用いても良い。
触媒インクの固形分濃度は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な濃度を選択することができる。通常、触媒インクの固形分濃度は、0.5mass%~10mass%程度である。
【0055】
[2.3. 第3工程: 電界紡糸及び電界噴霧]
次に、電界紡糸液を用いて電界紡糸し、基板の表面にプロトン伝導体(A)を含む繊維を堆積させると同時に、触媒インクを用いて電界噴霧し、時々刻々と堆積している繊維の表面に触媒インクを散布する。これにより、本発明に係る触媒層が得られる。
電界紡糸の条件及び電界噴霧の条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な条件を選択することができる。
【0056】
[3. 作用]
高分子電解質は、プロトン伝導性を発現するためには適度な含水状態にあることが必要である。そのため、触媒インクを塗布及び乾燥することにより得られる従来の触媒層を備えた燃料電池を低湿度環境下で運転し続けると、触媒層アイオノマが乾燥により収縮する。その結果、触媒層内におけるプロトン伝導経路が途切れ、燃料電池の出力が低下する。
【0057】
低湿度での性能を向上させるために、プロトン伝導体を増やすことも考えられる。しかし、プロトン伝導体を過度に増やすと、酸素拡散のための空隙が失われ、低温だけでなく高温でも発電できなくなる。また、造孔剤を用いて空隙を確保する方法を用いたとしても、酸素拡散に適した連通孔は得られない。
他方、触媒層の形成に電界噴霧のようなドライ塗工法を用いれば、乾燥した電極触媒が降り積もるように層をなすので、空隙を増やすことができる。しかし、電極触媒同士が凝集・結着しないので、プロトン伝導経路の抵抗増加に繋がる。
【0058】
また、触媒層の形成方法として、繊維の紡糸による不織布の形成と、電極触媒の噴霧とを交互に行う方法を用いることも考えられる。しかしながら、この方法は、結果として厚み方向の電極触媒量のムラが生じやすい。これは、不織布の上面に集中して電極触媒が噴霧され、不織布の下面への噴霧量が少なくなるためと考えられる。噴霧量が少ないと、電極触媒同士の接触が少なくなり、電子的に絶縁された電極触媒が増え、反応に利用できる触媒粒子の割合が減少すると考えられる。
【0059】
この問題を解決するために、繊維の紡糸による不織布の形成と、電極触媒の噴霧とを同時に行うことも考えられる。しかし、従来の触媒インクを電界噴霧するには、高電圧が必要となる。この条件で繊維の電界紡糸を行うと、電圧が高すぎるために繊維ではなく、霧状となる。一方、繊維の電界紡糸条件で触媒インクの電界噴霧を行うと、触媒インクが噴霧されずに、液滴となって落下する。
【0060】
これに対し、触媒インクの溶媒として、アセトンなどの低沸点、低誘電率溶媒を用いると、触媒インクを低電圧で噴霧することができる。また、これによって、不織布の電界紡糸を行うと同時に、触媒インクの電界噴霧を行うことが可能となる。結果として、電極触媒の厚み方向のムラが軽減され、ECSAが改善される。
【0061】
本発明に係る方法は、プロトン伝導体(A)を含む電界紡糸液を電解紡糸することで、連続したプロトン伝導経路と、酸素拡散に適した連続した空隙とを有する不織布を形成すると同時に、不織布を構成する繊維に電極触媒を付着させている。この方法を用いると、プロトン伝導経路の連続性を維持したまま、従来の作製方法では実現できないほど多くのプロトン伝導体を触媒層に導入することができ、かつ、酸素拡散に必要な空隙も確保できる。また、電気的に絶縁されている電極触媒の割合も低下するため、ECSAも改善される。そのため、この方法を用いると、低湿環境下で高い性能を示す触媒層が得られる。
【実施例
【0062】
(実施例1~3、比較例1~4)
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例1~3]
[A. 繊維溶液(電界紡糸液)の調製]
プロトン伝導体(A)には、ナフィオン(登録商標)溶液(ケマーズ(株)製、D2020)を用いた。キャリアポリマには、ポリエチレンオキサイド(PEO、MW~7,000,000)を用いた。さらに、溶媒には、メタノールを用いた。
メタノールにナフィオン(登録商標)溶液及びPEOを添加し、繊維溶液を調製した。固形分に占めるナフィオン(登録商標)の質量割合は、99mass%とした。固形分に占めるPEOの質量割合(キャリアポリマ濃度)は、1mass%とした。また、繊維溶液の固形分(アイオノマ(A)+PEO)の濃度は、6mass%とした。
【0063】
[B. 触媒インクの調製]
電極触媒には、白金担持カーボンPt/C(田中貴金属工業(株)製、TEC10V30E、白金重量比率:30wt%)を用いた。プロトン伝導体(B)には、ナフィオン(登録商標)溶液(ケマーズ(株)製、D2020)を用いた。さらに、溶媒には、水/アセトン=10/90(質量比)の混合溶媒を用いた。
混合溶媒に白金担持カーボン及びナフィオン(登録商標)溶液を添加し、触媒インクを調製した。IB/C比は、0.4とした。また、触媒インクの固形分(プロトン伝導体(B)+Pt/C)の濃度NVは、1.5mass%とした。
さらに、IT/C比は、0.8(実施例1)、1.0(実施例2)、又は、3.0(実施例3)とした。
【0064】
[C. 膜電極接合体(MEA)の作製]
図1に、エレクトロスピニング装置の外観写真を示す。図1に示すエレクトロスピニング装置を用いて、繊維の電界紡糸と触媒インクの電界噴霧を同時に行った。繊維溶液の紡糸は中央のノズルで行い、触媒インクの噴霧は左右のノズルで行った。基板には、ナフィオン(登録商標)膜(NR211、膜厚:25μm)を用いた。
電界紡糸・電界噴霧の条件は、電圧:15kV、紡糸口とナフィオン(登録商標)膜との距離:10cm、温度:室温、湿度:10%RHとした。繊維径は、約600nmであった。この操作を電解質膜の両面に対して行った。
【0065】
[1.2. 比較例1]
[A. 繊維溶液(電界紡糸液)の調製]
実施例3と同様にして、繊維溶液を調製した。
[B. 触媒インクの調製]
溶媒として、水/メタノール=10/90(質量比)の混合溶媒を用いた以外は、実施例3(IT/C=3.0)と同様にして、繊維溶液を調製した。
【0066】
[C. 膜電極接合体(MEA)の作製]
図2に、比較例1で用いた触媒層形成方法の模式図を示す。図2に示すように、繊維の電界紡糸と、触媒インクの電界噴霧とを交互に行った。基板には、ナフィオン(登録商標)膜(NR211、膜厚:25μm)を用いた。
電界紡糸条件は、電圧:15kV、紡糸口とナフィオン(登録商標)膜との距離:10cm、温度:室温、湿度:10%RHとした。繊維径は、約600nmであった。
電界噴霧条件は、電圧:20kV、噴霧口とナフィオン(登録商標)膜との距離:8cm、温度:室温、湿度:10%RHとした。
このような電界紡糸と電界噴霧を合計10サイクル実施して、触媒層を形成した。また、この操作を電解質膜の両面に対して行った。
【0067】
[1.3. 比較例2~4]
電極触媒には、白金担持カーボンPt/C(田中貴金属工業(株)製、TEC10V30E、白金重量比率:30wt%)を用いた。プロトン伝導体(B)には、ナフィオン(登録商標)溶液(ケマーズ(株)製、D2020)を用いた。さらに、溶媒には、水/エタノール=1/1(質量比)の混合溶媒を用いた。
混合溶媒に白金担持カーボン及びナフィオン(登録商標)溶液を添加し、触媒インクを調製した。触媒インクの固形分(プロトン伝導体(B)+Pt/C)の濃度NVは、10mass%とした。また、IT/C比は、0.8(比較例2)、1.0(比較例3)、又は、3.0(比較例4)とした。
【0068】
触媒インクをポリテトラフルオロエチレンシート上に塗布、乾燥させ、触媒層シートを得た。これを電解質膜の両面にポットプレスし、膜電極接合体(MEA)を得た。電解質膜には、ナフィオン(登録商標)膜(NR211、膜厚:25μm)を用いた。
【0069】
[2. 実験方法]
[2.1. セルの作製]
作製したMEAの両極に、撥水層付きペーパー拡散層(GDL)を配置し、ガス流路付き集電板及び端板で締め付けた。その際、セル内でのGDL厚さは、ガスケット(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製)厚さで制御した。GDLの圧縮率は、約15%であった。ガス流路は、平行溝、溝幅0.4mm、リブ幅0.2mm、溝深さ0.5mmとした。アノードとカソードのガスの流し方は、直交流とした。
【0070】
セル評価には、(株)東方技研製の電気化学測定装置を使用した。電位は、すべてアノード基準とし、各条件下での水素分圧を用いて、ネルンストの式で1気圧の水素におけるRHEに換算して設定した。アノードは、常にカソードと同湿度、同圧力とした。セル温度は、すべて80℃とした。以下、電位は、すべてアノード(RHE)に対して示した。
【0071】
[2.2. プロトン移動抵抗の計測と屈曲度の算出]
触媒層内のプロトン移動抵抗(RH+)を交流インピーダンス測定の結果から算出した。測定は、30%RH又は80%RHのもと、アノードに10%H2(N2バランス、101kPaabs、1000ccm)、カソードにN2(101kPaabs、1000ccm)を通じた状態で、カソード電位を0.4V(vs RHE)に保持し、振幅15mVP-P、周波数20kHz~1Hzの交流電圧を重畳して実施した。
【0072】
得られたナイキストプロットを伝送線型の等価回路でフィッティングすることにより、触媒層内のRH+を算出した(参考文献2)。RH+の逆数を触媒層の厚みで規格化することで、触媒層内の有効プロトン伝導度を得た。さらに、上述した式(1)を用いて屈曲度τを算出した。
[参考文献2] R. Makharia, M. F. Mathise, and D. R. Baker, J. Electrochem. Soc., 152(5), A970(2005)
【0073】
式(1)からわかるように、τは体積分率から計算される理想的なプロトン伝導度(εσBulk)の、実測した有効プロトン伝導度(σeff)に対する比である。τは、体積分率からは説明できない両者の差(例えば、プロトンパスの繋がりの程度、繊維同士の接触抵抗、プロトン伝導度の違い)などを表す。
【0074】
[2.3. 白金重量当たりの電気化学有効表面積(ECSA)の測定]
30%RH又は80%RHのもと、アノードに10%H2(N2バランス、101kPaabs、1000ccm)、カソードにN2(101kPaabs、1000ccm)を通じた状態で、電位掃引速度50mVs-1、電位範囲0.15V⇔1.0Vでサイクリックボルタモグラム(CV)を取得した。
【0075】
CVのアノーディック掃引時の0.2V付近に見られる水素脱離波のピークを積分して電荷量を求め、換算係数210[C/cm2Pt]を用いて触媒層の幾何面積(=1cm2)当たりの電気化学的に有効な白金の表面積を求めた。これをラフネスファクター(RF)と称呼する。RFを白金目付量(=単位面積当たりの白金量)で規格化することで、白金重量当たりの電気化学的有効表面積ECSA(m2/g)を求めた。
【0076】
[2.4. IV性能の評価]
セル温度80℃、湿度30%RH又は80%RHのもと、カソードにAir(21%O2/79%N2、2000ccm)、アノードにH2(500ccm)を通じた状態で、カソードの電位をアノードに対して自然電位⇔0Vの範囲で、10mVs-1で掃引してサイクリックボルタモグラムを取得した。ガス圧力は、酸素の分圧が20kPaとなるように調節した。3サイクルの測定の内、3サイクル目のアノーディック掃引を当該セルのIV性能とした。
【0077】
[3. 結果]
[3.1. ECSAの比較]
図3に、実施例3、比較例1、及び比較例2で得られた触媒層の30%RHでのECSAを示す。図4に、実施例3、比較例1、及び比較例2で得られた触媒層の80%RHでのECSAを示す。
【0078】
紡糸と噴霧を交互に行った比較例1(IT/C=3.0)は、測定時の相対湿度によらず、ECSAが実施例3(IT/C=3.0)及び比較例2(IT/C=0.8)の約半分程度になっており、電子的に孤立した触媒があることが分かる。一方、紡糸と噴霧を同時に行った実施例3は、比較例2と同等のECSAが得られた。
【0079】
[3.2. 屈曲度の比較]
図5に、実施例1及び比較例2で得られた触媒層(IT/C=0.8)の30%RHにおける屈曲度を示す。図6に、実施例2及び比較例3で得られた触媒層(IT/C=1.0)の30%RHにおける屈曲度を示す。図7に、実施例3及び比較例4で得られた触媒層(IT/C=3.0)の30%RHにおける屈曲度を示す。
【0080】
図5~7より、どのIT/Cにおいても、実施例1~3の屈曲度は、比較例2~4のそれよりも小さいことが分かる。実施例1~3全体の屈曲度の平均は1.9であるのに対し、比較例2~4のそれは4.2であった。不織布構造によるプロトン伝導経路の途切れや屈曲が抑えられたことが示唆される。
【0081】
なお、IT/Cが大きいほどプロトン伝導に関与しないプロトン伝導体が増えるため、IT/Cが大きいほど屈曲度は大きくなる。そのため、IT/C=3.0である実施例3は、実施例1~2に比べて屈曲度が大きく、不織布構造によりメリットが見えにくくなっていると考えられる。しかし、それでも、実施例3は、塗工法(比較例4)の平均よりも屈曲度が小さいことが分かった。
【0082】
[3.3. IV性能]
図8に、実施例3、並びに、比較例1、3、4で得られた触媒層の30%RHでのIV性能を示す。図9に、実施例3、並びに、比較例1、3、4で得られた触媒層の80%RHでのIV性能を示す。
【0083】
実施例3、比較例1、4のIT/Cは共に3.0である。一方、比較例3のIT/Cは1.0である。いずれの相対湿度においても、実施例3のIV性能が最も高いことが分かる。実施例3は、比較例1よりECSAが大きいため、IV性能が高くなったと考えられる。また、実施例3は、比較例3よりアイオノマ量が多いため、プロトン抵抗が低くなり、これによってIV性能が高くなったと考えられる。さらに、実施例3は、比較例4に比べて空隙が確保できているため、IV性能が高くなったと考えられる。
【0084】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明に係る触媒層は、燃料電池などの各種電気化学デバイスのカソード側及び/又はアノード側の触媒層として用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9