(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】虚像表示装置及び偏光調整部材
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20221129BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20221129BHJP
B60K 35/00 20060101ALI20221129BHJP
H04N 5/64 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
G02B27/01
G02B5/30
B60K35/00 A
H04N5/64 521P
(21)【出願番号】P 2019204067
(22)【出願日】2019-11-11
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】山口 昌之
【審査官】井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-072488(JP,A)
【文献】特開2010-210984(JP,A)
【文献】特開2014-134629(JP,A)
【文献】特開2017-207622(JP,A)
【文献】特開2011-022210(JP,A)
【文献】特開平09-080355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示光を透光部材(3)に反射させて、前記表示光による虚像(VRI)を視認可能に表示するように構成された虚像表示装置であって、
前記表示光を投射するプロジェクタ(31)と、
前記プロジェクタから前記透光部材へ至る光路上に配置され、前記光路を往来する前記表示光及び外光のうち少なくとも一方の偏光を調整する偏光調整部材(41)と、を備え、
前記偏光調整部材は、
遮断軸(SAp)に沿った方向の偏光を遮断する性質を有する薄板状に形成され、板面に沿った方向のうち第1残留応力方向(RSD1)に最大となるような残留応力を内在させた状態の偏光板(42)と、
前記偏光板を支持する板状に形成され、板面に沿った方向のうち第2残留応力方向(RSD2)に最大となるような残留応力を内在させた状態の支持板(43)と、を有し、
前記第1残留応力方向が前記第2残留応力方向に沿うように、前記偏光板と前記支持板とが互いに貼合された状態にて形成されている虚像表示装置。
【請求項2】
前記偏光調整部材は、前記プロジェクタと共通のケース(51)に保持されることによって、前記プロジェクタと一体的なプロジェクタユニット(30)を構成している請求項1に記載の虚像表示装置。
【請求項3】
前記第1残留応力方向及び前記第2残留応力方向と平行な方向又は直交する方向に沿って延伸する前記偏光調整部材との接触部位(63a)を有する延伸保持構造(63)を用いて、前記偏光調整部材が保持されている請求項1又は2に記載の虚像表示装置。
【請求項4】
前記プロジェクタは、
照射する照明光の発光強度が最大となる強度ピーク方向を、光源配置面(37b)の法線方向に沿わせたバックライト(36)と、
前記光源配置面と平行な平行姿勢から、傾斜基準軸(TRA)の周りに所定の傾斜角(α)にて回転された傾斜姿勢にて、配置されている画像表示パネル(32)と、を有し、
前記偏光調整部材は、前記第1残留応力方向及び前記第2残留応力方向を、前記傾斜基準軸と平行な方向又は直交する方向に沿わせるように配置されている請求項1から3のいずれか1項に記載の虚像表示装置。
【請求項5】
虚像(VRI)の表示に用いる結像光学系の光路上に配置される偏光調整部材であって、
遮断軸(SAp)に沿った方向の偏光を遮断する性質を有する薄板状に形成され、板面に沿った方向のうち第1残留応力方向(RSD1)に最大となるような残留応力を内在させた状態の偏光板(42)と、
前記偏光板を支持する板状に形成され、板面に沿った方向のうち第2残留応力方向(RSD2)に最大となるような残留応力を内在させた状態の支持板(43)と、を備え、
前記第1残留応力方向が前記第2残留応力方向に沿うように、前記偏光板と前記支持板とが互いに貼合された状態にて形成されている偏光調整部材。
【請求項6】
前記支持板は、合成樹脂により形成され、
前記偏光調整部材の外周輪郭形状は、前記第1残留応力方向が前記第2残留応力方向と平行な方向及び直交する方向のうち少なくとも一方に前記偏光調整部材の表面積を二分する仮想の基準線(VRL1,VRL2)を挟んだ非線対称形状となっている請求項5に記載の偏光調整部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書による開示は、虚像の表示に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、表示光を透光部材に反射させて、表示光による虚像を視認可能に表示するように構成された虚像表示装置が開示されている。この装置には、虚像の表示に用いる結像光学系の光路を往来する表示光及び外光のうち少なくとも一方の偏光を調整する偏光調整部材が設けられている。偏光調整部材では、偏光板としての偏光フィルムが支持板としての透光性基板により保持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、偏光板は、偏光特性を付加するために、延伸処理等を含む製造工程を経て製造されることが多い。このため、偏光板は、残留応力を内在させた状態で、支持板と貼合された偏光調整部材という形態にて、虚像の表示に用いる結像光学系の光路に組み込まれることになる。
【0005】
こうした偏光調整部材には、透過部材を透過した太陽光等の外光が光路を往来することにより、入射することがある。外光の入射等により偏光調整部材が高温になると、温度変化に応じた残留応力の解放影響等により、偏光調整部材に意図しない反り等の変形が発生し得る。偏光調整部材に反り等の変形が発生すると、非変形状態において期待された光学作用を発揮できなくなることが懸念される。
【0006】
この明細書の開示による目的のひとつは、虚像の表示において、光学作用を安定的に発揮させることが可能な偏光調整部材、及び偏光調整部材を備えた虚像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示された態様のひとつは、表示光を透光部材(3)に反射させて、表示光による虚像(VRI)を視認可能に表示するように構成された虚像表示装置であって、
表示光を投射するプロジェクタ(31)と、
プロジェクタから透光部材へ至る光路上に配置され、光路を往来する表示光及び外光のうち少なくとも一方の偏光を調整する偏光調整部材(41)と、を備え、
偏光調整部材は、
遮断軸(SAp)に沿った方向の偏光を遮断する性質を有する薄板状に形成され、板面に沿った方向のうち第1残留応力方向(RSD1)に最大となるような残留応力を内在させた状態の偏光板(42)と、
偏光板を支持する板状に形成され、板面に沿った方向のうち第2残留応力方向(RSD2)に最大となるような残留応力を内在させた状態の支持板(43)と、を有し、
第1残留応力方向が第2残留応力方向に沿うように、偏光板と支持板とが互いに貼合された状態にて形成されている。
【0008】
また、開示された態様の他のひとつは、虚像(VRI)の表示に用いる結像光学系の光路上に配置される偏光調整部材であって、
遮断軸(SAp)に沿った方向の偏光を遮断する性質を有する薄板状に形成され、板面に沿った方向のうち第1残留応力方向(RSD1)に最大となるような残留応力を内在させた状態の偏光板(42)と、
偏光板を支持する板状に形成され、板面に沿った方向のうち第2残留応力方向(RSD2)に最大となるような残留応力を内在させた状態の支持板(43)と、を備え、
第1残留応力方向が第2残留応力方向に沿うように、偏光板と支持板とが互いに貼合された状態にて形成されている。
【0009】
これらの態様によると、互いに貼合された偏光板及び支持板において、偏光板の第1残留応力方向が支持板の第2残留応力方向に沿っている。すなわち、偏光板に内在する残留応力の最大方向と、支持板に内在する残留応力の最大方向とが揃っている。そうすると、偏光調整部材への外光の入射等による当該偏光調整部材の温度変化に応じて、偏光板の残留応力及び支持板の残留応力が解放されても、個々の板が別々の方向にそれぞれ変形しようとすることが抑制される。換言すると、意図しない反り等の変形の発生は抑制される。
【0010】
例えば、偏光調整部材の複雑な変形が抑制されているので、偏光調整部材の光学作用の局所的なムラ、さらには虚像の表示品位における局所的なムラの発生も抑制される。また例えば、互いに揃った第1残留応力方向及び第2残留応力方向に対応した最小限の変形対策をしておけば、偏光調整部材の非変形状態は容易に維持可能である。以上により、虚像の表示において、光学作用を安定的に発揮させることが可能である。
【0011】
なお、括弧内の符号は、後述する実施形態の部分との対応関係を例示的に示すものであって、技術的範囲を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態のHUDの車両への搭載状態を示す図である。
【
図2】第1実施形態のプロジェクタユニットの光学的構成を示す断面図である。
【
図3】第1実施形態のプロジェクタユニットの分解斜視図である。
【
図4】第1実施形態の偏光調整部材を部分的に拡大した断面図である。
【
図5】第1実施形態の偏光調整部材及び液晶パネルの挟持を説明する図である。
【
図6】第1実施形態のカバー体の背面斜視図である。
【
図7】
図6において偏光調整部材を配置した状態を示す図である。
【
図8】
図7において液晶パネルを配置した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、複数の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合せることができる。
【0014】
(第1実施形態)
図1に示すように、本開示の第1実施形態による虚像表示装置は、車両としての自動車1に搭載されるように構成され、当該自動車1のインストルメントパネル2内に収容されるヘッドアップディスプレイ(以下、HUD)10となっている。ここで車両とは、自動車、鉄道車両の他、航空機、船舶、移動しないゲーム用筐体等の各種乗り物を含むように広義に解される。
【0015】
HUD10は、自動車1のウインドシールド3へ向けて、画像の表示光を提供する。これにより、HUD10は、画像を、虚像VRIとして、視認者としての乗員(例えば運転者)により視認可能に表示する。すなわち、ウインドシールド3にて反射される表示光が車内に設定された視認領域EBに到達することにより、視認領域EBにアイポイントEPが位置する乗員は、当該画像の光を知覚する。乗員は、車外の景色と重畳する表示コンテンツにより、各種情報を認識することができる。
【0016】
表示コンテンツとしては、例えば車速、燃料残量等の自動車1の状態を表示するコンテンツ、視界補助情報、道路情報等のナビゲーション情報を表示するコンテンツ等が挙げられる。
【0017】
以下において、特に断り書きがない限り、前、後、上、下、左及び右が示す各方向は、水平面HP上の自動車1を基準として記載される。
【0018】
ウインドシールド3は、例えばガラスないし合成樹脂により透光性の板状に形成された透光部材である。ウインドシールド3は、インストルメントパネル2よりも上方に配置されている。ウインドシールド3は、前方から後方へ向かう程、インストルメントパネル2から上方へ離れるように傾斜して配置されている。ウインドシールド3は、表示光を反射する反射面3aを、滑らかな凹面状又は平面状に形成している。本実施形態における反射面3aは、表示光を表面反射するように構成されている。
【0019】
なお、ウインドシールド3は、反射型のホログラフィック光学素子が設けられることによって、表面反射に代えて、干渉縞による回折反射で表示光を視認領域EBへ向けて反射するように構成されていてもよい。また、ウインドシールド3に代えて、例えば自動車1と別体となっているコンバイナを車内に設置して、当該コンバイナが表示光を視認領域EBへ向けて反射するようにしてもよい。
【0020】
視認領域EBは、HUD10により表示される虚像VRIが所定の規格を満たすように(例えば虚像VRI全体が所定の輝度以上となるように)視認可能となる空間領域であって、アイボックスとも称される。視認領域EBは、典型的には、自動車1に設定されたアイリプスと重なるように設定される。アイリプスは、両眼それぞれに対して設定され、乗員のアイポイントEPの空間分布を統計的に表したアイレンジに基づいて、楕円体状の仮想的な空間として設定されている。
【0021】
このようなHUD10の具体的構成を、以下に説明する。HUD10は、ハウジング11、導光部21及びプロジェクタユニット30等を含む構成である。
【0022】
ハウジング11は、例えば合成樹脂ないし金属により、導光部21及びプロジェクタユニット30等を収容する中空形状を呈しており、インストルメントパネル2内に設置されている。ハウジング11は、ウインドシールド3と上下に対向する上面部に、光学的に開口する窓部12を有している。窓部12は、物理的に開口していてもよく、表示光を透過可能な防塵シート13で覆われていてもよい。
【0023】
導光部21は、プロジェクタユニット30から射出された表示光を、ウインドシールド3へ向けて導光する光学系である。導光部21としては、1つの凹面鏡からなる構成、1つの平面鏡と1つの凹面鏡とを組み合わせた構成、1つの凸面鏡と1つの凹面鏡とを組み合わせた構成等、各種の構成を採用することができる。ここで導光部21は、プロジェクタユニット30にて形成される画像に対して、乗員に視認される虚像VRIを、拡大する機能を有していることが好ましい。
【0024】
プロジェクタユニット30は、
図2,3に示すように、プロジェクタ31と偏光調整部材41とを、共通のケース51を用いて一体的に構成したユニットである。プロジェクタ31は、空中に虚像VRIとして結像させることが可能な画像の表示光を投光する。本実施形態のプロジェクタ31は、画像表示パネルとしての液晶パネル32及びバックライト36を有する液晶方式のプロジェクタである。
【0025】
液晶パネル32は、薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、TFT)を用いた透過型のTFT液晶パネルであって、例えば2次元配列にて配列された複数の画素を形成しているアクティブマトリクス型の液晶パネルである。液晶パネル32は、長手方向LD及び短手方向SDを有する輪郭矩形状かつ板状に形成されている。液晶パネル32の長辺には、液晶パネル32と駆動回路と電気的接続を図るためのフレキシブルケーブル33が接続されている。液晶パネル32は、その照明対象面32aをバックライト36により照明される。液晶パネル32は、駆動回路により画素毎に照明光を透過率が制御されることで、照明対象面32aとは反対側の表示画面32bに実像の画像を表示可能である。液晶パネル32は、表示画面32b及び照明対象面32aを全周囲む矩形枠部32cを形成することで、表示画面32b及び照明対象面32aよりも一回り大きなサイズとなっている。
【0026】
液晶パネル32の内部には、一対の偏光板及び一対の偏光板に挟まれた液晶層等が積層されている。各偏光板は、互いに直交する透過軸及び遮断軸を有し、透過軸方向の偏光を透過させ、遮断軸方向の偏光を吸収する性質を有する。一対の偏光板同士は、透過軸を互いに直交させて配置されている。液晶層は、液晶画素毎の電圧の印加により、印加電圧に応じて液晶層を透過する光の偏光方向を回転させることが可能となっている。こうして液晶パネル32は、偏光方向の回転により表示画面側の偏光板を透過する光の割合、すなわち透過率を、液晶画素毎に変えることができる。隣り合う液晶画素には、互いに異なる色(例えば赤、緑及び青)のカラーフィルタが設けられており、これらの組み合わせにより、様々な色が再現されるようになっている。
【0027】
表示画面32b側の偏光板の透過軸TAdを、液晶パネル32の長手方向LD又は短手方向SDに沿うように設定することで、液晶パネル32から射出される表示光の偏光方向は、液晶パネル32の長手方向LD又は短手方向SDに沿ったものとなる。特に本実施形態にて表示光の偏光方向は、液晶パネル32の長手方向LDに沿うように設定されている。
【0028】
図2に示すバックライト36は、照明光を液晶パネル32の照明対象面32aの全面に照射可能な構成である。バックライト36は、光源部37及び集光部38を有している。光源部37は、複数の光源素子37cを光源用回路基板37aの表面(これを光源配置面37bと称する)上に配置して形成されている。光源用回路基板37aは、例えばガラスエポキシ樹脂等の合成樹脂を基材とした平板状のリジッド基板である。光源用回路基板37aは、その光源配置面37bを、液晶パネル32の表示画面32b及び照明対象面32aに対して例えば10~15度程度の傾斜角αにて傾斜させた姿勢にて、配置されている。光源配置面37bには、配線パターンが形成されていることで、各光源素子37cは当該配線パターンを通じて電源と接続されている。
【0029】
複数の光源素子37cは、平面状の光源配置面37bに、1次元配列又は2次元配列にて配置されている。各光源素子37cには、例えば点状光源としての発光ダイオード素子が採用されている。光源素子37cは、チップ状の青色発光ダイオードを、透光性を有する合成樹脂に黄色蛍光剤を混合した黄色蛍光体により封止することにより形成されている。青色発光ダイオードから電流量に応じて発せられる青色光により、黄色蛍光体が励起されて黄色光が発光される。青色光と黄色光との混合により、結果的に、光源素子37cから白色(より詳細には擬似白色)の照明光が画像表示パネルへ向けて発光される。ここで各光源素子37cにおいて発光強度が最大となる強度ピーク方向は、光源配置面37bに対して実質垂直な方向、換言すると光源配置面37bの法線方向に沿っている。
【0030】
集光部38は、各光源素子37cから発光される照明光を、強度ピーク方向を実質的に変えずに集光して、当該照明光の指向性を高めた上で液晶パネル32の照明対象面32aに照射する。集光部38は、例えば凸レンズ素子を光源素子37cの配列に合わせて配列した凸レンズアレイ38a、単一光学面を有する凸レンズ38bを有する。
【0031】
こうしてバックライト36は、照明光を液晶パネル32の照明対象面32aに垂直な方向から入射させるのではなく、上述の傾斜角αに基づいた斜め方向から入射させる。液晶パネル32が照明光を直線的に透過させることにより、表示画面32bから射出される表示光も上述の傾斜角αに基づいた表示画面32bに対する斜め方向へと射出される。
【0032】
本実施形態では、矩形状の液晶パネル32の短手方向SDに沿った断面上(
図2に示される断面上)において、光源配置面37bに対して当該液晶パネル32が上述の傾斜角αにて傾斜した配置となっている。一方で、液晶パネル32の長手方向LDに沿った断面上では、液晶パネル32の傾斜が短手方向SDに沿った断面上よりも規制されている。例えば光源配置面37bに対して当該液晶パネル32が実質平行となるように配置されている。すなわち、液晶パネル32は、光源配置面37bと平行な平行姿勢から、その長手方向LDに沿った傾斜基準軸TRAの周りに上述の傾斜角αだけ回転された傾斜姿勢にて、配置されている。
【0033】
プロジェクタ31からウインドシールド3へ至る光路では、表示光及び外光が往来し得る。表示光は、上述のように、プロジェクタ31から投射された後、導光部21及び窓部12を経て、ウインドシールド3へ至る。一方、外光は、例えば太陽光であり、上方から下方のウインドシールド3へと降り注ぎ、当該ウインドシールド3を透過して光路を逆行する。光路を逆行する外光は、液晶パネル32の表示画面32bに到達すると、そのエネルギーの一部が熱に変換され得る。こうして液晶パネル32が相当な熱ダメージを受けると、表示画面32bに表示される画像の表示品位の維持が困難となる。
【0034】
なお、表示画面32bに反射される外光は、上述の液晶パネル32の傾斜姿勢により光路から分離される。表示画面32bに反射される外光は、表示光に対して、光束幅の小さな方向である短手方向SDにずれるため、比較的容易に光路から分離され得る。
【0035】
偏光調整部材41は、HUD10の結像光学系をなすように、プロジェクタ31からウインドシールド3に至る光路上において、特にプロジェクタ31と導光部21との間に配置されている。偏光調整部材41は、平板状を呈しており、液晶パネル32と実質平行に配置される。すなわち、偏光調整部材41は、光源配置面37bと平行な平行姿勢から、液晶パネル32の傾斜基準軸TRAと平行な傾斜基準軸の周りに液晶パネル32と同じ傾斜角αだけ回転された傾斜姿勢にて、配置されている。
【0036】
偏光調整部材41は、液晶パネル32よりも一回り大きなサイズに形成されている。ただし、偏光調整部材41の外周輪郭形状は、液晶パネル32の外周輪郭形状に対して、4つのコーナー部分が内側に凹んだ4つの凹み部41aと、凹み部41a以外の長辺部分及び短辺部分にて凹み部41aより外側に張り出した4つの張出部41b,41cと、を有する形状である。4つの張出部41b,41cのうち偏光調整部材41の中心部を長手方向LDに挟んだ一対の張出部41bは、液晶パネル32の外周輪郭よりも外側に張り出している。一方、4つの張出部41b,41cのうち偏光調整部材41の中心部を短手方向SDに挟んだ一対の張出部41cは、液晶パネル32の外周輪郭と同程度の位置まで張り出している。
【0037】
そして、偏光調整部材41の外周輪郭形状は、液晶パネル32の長手方向LDに偏光調整部材41の表面積を二分する仮想の基準線VRL1(
図7参照)を挟んだ非線対称形状となっている。同様に、偏光調整部材41の外周輪郭形状は、液晶パネル32の短手方向SDに偏光調整部材41の表面積を二分する仮想の基準線VRL2(
図7参照)を挟んだ非線対称形状となっている。
【0038】
偏光調整部材41は、
図4に示すように、偏光板42と支持板43とを、互いに貼合させた状態にて形成されている。偏光板42は、透過軸TApに沿った透過方向の偏光を透過すると共に、遮断軸SApに沿った遮断方向の偏光を遮断する性質、いわゆる偏光特性を有する。
【0039】
偏光調整部材41は、光路を往来する表示光及び外光のうち少なくとも一方の偏光を調整する。本実施形態では、主に外光の偏光が調整される。具体的に、偏光調整部材41は、外光のうち遮断方向の偏光を遮断することで、外光のうち透過方向の偏光だけを液晶パネル32に入射させる機能を有する。すなわち、偏光調整部材41は、液晶パネル32に到達し、吸収される外光を減少させることで、液晶パネル32への熱ダメージを抑制する。本実施形態では、液晶パネル32からの表示光の偏光は実質的に偏光調整部材41によって変わらないが、偏光調整部材41は、液晶パネル32の偏光を維持する意味で、偏光の調整機能を発揮しているともいえる。
【0040】
本実施形態の偏光板42は、偏光層42aを、一対の保護層42bで挟むように積層された複層構造かつ薄板状(フィルム状)の吸収型偏光板である。各層は、例えばPVA(ポリビニルアルコール)樹脂を主体とした接着剤にて貼合されている。
【0041】
偏光層42aは、例えばPVA樹脂からなるPVAフィルムに、二色性色素であるヨウ素を添加した後、当該PVAフィルムを延伸することにより形成されている。こうした延伸処理によって、ヨウ素分子が延伸方向に応じた方向に配向する。したがって、延伸方向が遮断軸SApに対応し、延伸方向に直交する方向が透過軸TApに対応するように、PVAフィルムに偏光特性を付加することができる。すなわち、本実施形態の偏光板42は、ヨウ素型偏光板であり、その遮断軸SApは、遮断方向の偏光を吸収する吸収軸である。
【0042】
保護層42bは、例えばTAC(トリアセチルセルロース)樹脂からなるTACフィルム、PET(ポリエチレンテレフタラート)樹脂からなるPETフィルム、又はこれらの重ね合わせにより形成されている。こうした保護層42bには、ハードコート、防眩コート、反射防止コート、帯電防止コート、又はこれらの機能を複合的に有するコートが付帯されていてもよい。
【0043】
偏光板42の特に偏光層42aは、延伸処理に伴い、延伸方向に沿った方向に最大となるような残留応力を内在させた状態となっている。この残留応力を内在させた方向は、本実施形態において第1残留応力方向RSD1と定義される。残留応力は、偏光板42の各部位において均一性を有する。
【0044】
支持板43は、加工性に優れた合成樹脂、例えばPMMA(ポリメタクリル酸メチル)樹脂又はPC(ポリカーボネイト)樹脂等を主体として透光性を有する平板状に形成されている。例えば、支持板43は、樹脂原料を押出方向に金型から押し出して板状断面を成形し(押出成形)、その後、個々のピースを打ち抜くことで形成される。また例えば、支持板43は、樹脂原料をローラー等により圧延方向に圧延して大きな平板状に成形し(圧延加工)、その後、個々のピースを打ち抜くことで形成される。
【0045】
こうした支持板43は、押出成形又は圧延加工に伴い、押出方向又は圧延方向に沿った方向に最大となる残留応力を内在させた状態となっている。この板面に沿った方向であって、最大の残留応力を内在させた方向は、本実施形態において第2残留応力方向RSD2と定義される。残留応力は、支持板43の各部位においてある程度の均一性を有する。
【0046】
押出成形又は圧延加工に伴い、支持板43は、実質的に位相差板として機能する。支持板43の進相軸は、実質的に、板面に沿った方向のうち、第2残留応力方向RSD2及びこれに直交する方向のうち一方となり、遅相軸は、第2残留応力方向RSD2及びこれに直交する方向のうち他方となる。
【0047】
そして、第1残留応力方向RSD1が第2残留応力方向RSD2に沿うように、偏光板42と支持板43とが互いに貼合されている。こうすることで、外光の入射により偏光調整部材41が低温から高温に温度変化したとしても、偏光板42での残留応力の解放影響と、支持板43での残留応力の解放影響とを、互いに揃った方向に発生させることができる。すなわち、残留応力の解放により偏光調整部材41が変形しようとする形態は、互いに揃った第1残留応力方向RSD1及び第2残留応力方向RSD2に応じた形態に制御される。
【0048】
また、支持板43の進相軸及び遅相軸が、偏光板42の透過軸TAp及び遮断軸SApに合わせられていることになるため、支持板43での偏光回転が生じ難いという副次的効果を得られる。すなわち、支持板43のリタデーション値の偏光調整機能への影響は、抑制される。支持板43のリタデーション値の製造誤差を小さくするための製造時のオペレーションを簡略化することができる。
【0049】
さらに本実施形態では、液晶パネル32の傾斜基準軸TRAに対して平行な方向に、偏光調整部材41の第1残留応力方向RSD1及び第2残留応力方向RSD2が沿っている。こうして液晶パネル32の傾斜姿勢と偏光調整部材41が変形しようとする形態との方向の調和が図られている。
【0050】
さらに支持板43は、以下の性能を満たすことが好ましい。具体的に、支持板43は、透過率が85%以上であることが好ましい。表示光が偏光調整部材41を透過する際の減衰を抑制することができる。支持板43の厚さは、偏光板42の厚さの10倍以上であることが好ましい。薄板状の偏光板42の残留応力解放が発生した場合に、支持板43が偏光板42の収縮力につられて一体的に反ってしまう事態を抑制することができる。支持板43のガラス転移温度は、105°C以上であることが好ましい。自動車1に搭載されたHUD10の内部での温度上昇は、理論上、最大105°C程度であるから、支持板43に反りが発生しない程度に、支持板43の強度を保つことができる。支持板43の線膨張係数は、5.0~7.0×10-5/Kであることが好ましい。偏光板42の線膨張係数と支持板43の線膨張係数とを近づけることによって、偏光調整部材41の反りの発生を抑制することができる。
【0051】
ケース51は、プロジェクタ31と偏光調整部材41との相対位置関係を維持可能に、プロジェクタ31及び偏光調整部材41の両方を保持している。ケース51は、バックライト収容体52、カバー体59、及び複数のクッション材67,68等を含む構成である。
【0052】
バックライト収容体52は、例えば遮光性を有する合成樹脂により略矩形筒状に形成され、筒状穴56の内部にバックライト36を収容している。バックライト収容体52の筒状本体部53においてカバー体59とは反対側の端部は、光源用回路基板37a(及び光源配置面37b)と実質平行に形成された切断面を有する開口部53aとなっている。この開口部53aは、例え熱伝導率がバックライト収容体52よりも高い金属からなるヒートシンク69によって塞がれている。光源用回路基板37aの背面がヒートシンク69と密着することによって、光源用回路基板37aにて発生した熱を液晶パネル32及び偏光調整部材41とは離れたケース51外部に放熱することが可能である。
【0053】
バックライト収容体52は、筒状本体部53から側部に張り出した板状のフランジ54を複数有している。各フランジ54には、バックライト収容体52をハウジング11に対して締結するためのネジ孔が複数設けられている。筒状本体部53と各フランジ54との間を接続するように、フランジ54の強度を高めるための補強リブ55が複数設けられている。
【0054】
筒状本体部53においてカバー体59側の端部は、液晶パネル32の傾斜角αに合わせて光源配置面37bに対して傾斜した切断面であって、当該液晶パネル32と実質平行に形成された切断面を有する開口部53bとなっている。筒状本体部53の筒状穴56は、この開口部53b近傍に配置された拡散板39によって塞がれていてもよい。
【0055】
図5に示すように、この開口部53bは、筒状穴56において集光部38のサイズに合わせられた寸法から、偏光調整部材41側へ向かって液晶パネル32のサイズ及び偏光調整部材41のサイズに合わせられた寸法に拡大するように、段差を形成している。これにより、開口部53bは、外周側かつ偏光調整部材41側に形成された外周側台座面53cと、内周側かつ光源配置面37b側に形成された内周側台座面53dとを、有する。両台座面53c,53dは、液晶パネル32を長手方向LDに挟む両側にそれぞれ一対設けられ、切断面に沿って(短手方向SDに沿って)延伸する細長い形状となっている。両台座面53c,53dの表面は平面状を呈している。
【0056】
そして、液晶パネル32は、両台座面53c,53dの間に形成された段差空間SSに配置され、内周側台座面53dとカバー体59との間に挟持された状態である。偏光調整部材41は、外周側台座面53cとカバー体59との間に形成されたカバー空間CSに配置され、外周側台座面53cとカバー体59との間に挟持された状態である。
【0057】
さらにバックライト収容体52は、
図3に示すように、開口部53bから側部に張り出した一対の係合穴部57を、液晶パネル32を短手方向SDに両側から挟む配置にて有している。各係合穴部57は、互いに液晶パネル32の長手方向LDに所定の間隔を空けて配置された2つの係合穴57aを有している。各係合穴57aがカバー体59と係合されるようになっている。
【0058】
カバー体59は、例えば遮光性を有する合成樹脂により形成されている。カバー体59は、表示光をプロジェクタユニット30外へと射出可能に、内周側台座面53d上に配置された液晶パネル32及び外周側台座面53c上に配置された偏光調整部材41を覆う。
【0059】
カバー体59のカバー本体部60は、表示画面32bのサイズに合わせた矩形状の開口窓60aを囲むような矩形枠板状に形成されている。カバー本体部60は、液晶パネル32及び偏光調整部材41の傾斜角αに合わせて光源配置面37bに対して傾斜して配置されている。換言すると、カバー本体部60は、内周側台座面53d、液晶パネル32、外周側台座面53c及び偏光調整部材41と実質平行に配置されている。カバー本体部60は、プロジェクタユニット30の外部に露出する露出部61、及び露出部61とは反対側において偏光調整部材41及び液晶パネル32と対向する対向部62を有している。
【0060】
カバー体59は、カバー本体部60から側部に張り出した一対の係合爪部65を、液晶パネル32を短手方向SDに両側から挟む配置にて有している。各係合爪部65は、互いに液晶パネル32の長手方向LDに所定の間隔を空けて配置された2つの係合爪65aを有している。各係合爪65aは、光源配置面37bの法線方向に沿って、バックライト収容体52側へ突出し、個別対応する係合穴57aとスナップフィット係合している。バックライト収容体52とカバー体59とは、カバー空間CSを規定サイズに形成するように、結合されている。
【0061】
以下、偏光調整部材41及び液晶パネル32の挟持について
図6~8を用いて詳細に説明する。偏光調整部材41は、バックライト収容体52側において、4つの張出部41b,41cのうち偏光調整部材41の中心部を長手方向LDに挟んだ一対の張出部41bを、クッション材68を介して外周側台座面53cと当接させている。クッション材68は、例えば弾性変形可能なエストラマ、ウレタンスポンジ等により実現され、自動車1の振動及び組付け誤差を吸収可能である。
【0062】
偏光調整部材41は、カバー体59側において、張出部41bを、対向部62に開口窓60aを長手方向LDに挟むように一対形成された平面状の当接面62aに当接させている。偏光調整部材41は、カバー体59側において、4つの張出部41b,41cのうち偏光調整部材41の中心部を短手方向SDに挟んだ一対の張出部41cを、対向部62に一対形成された延伸保持構造63に当接させている。
【0063】
各延伸保持構造63は、液晶パネル32の長手方向LD、すなわち第1残留応力方向RSD1及び第2残留応力方向RSD2と実質直交する方向に沿って延伸する偏光調整部材41との接触部位63aを有し、当該偏光調整部材41を保持する構造である。第1実施形態の各延伸保持構造63は、カバー体59に固定された細長い両面テープにより実現されている。そして、各延伸保持構造63は、接触部位63aを偏光調整部材41において個別対応する張出部41cに粘着させている。
【0064】
液晶パネル32は、バックライト収容体52側において、矩形枠部32cを、クッション材67を介して内周側台座面53dと当接させている。液晶パネル32は、カバー体59側において、矩形枠部32cの4つのコーナー部分を、対向部62に4つ形成された突起保持構造64に当接させている。
【0065】
各突起保持構造64は、カバー体59と一体の合成樹脂により形成されている。各突起保持構造64は、偏光調整部材41の4つの凹み部41aに個別対応した位置であって、各凹み部41aよりも外周側にずれた位置に形成されている。各突起保持構造64は、対向部62において当接面62aよりも内周側台座面53dに近い位置まで突出し、液晶パネル32を保持する構造である。突起保持構造64は、ガイド部64a及び半球突起部64bを有する。ガイド部64aは、当接面62a及び延伸保持構造63よりもバックライト収容体52側となる位置へ突出し、凹み部41aの外周輪郭形状に沿うことで、偏光調整部材41の外周輪郭部分をガイド(位置決め)する。半球突起部64bは、ガイド部64aからさらに内周側台座面53dへ向かって突出する半球状に形成され、液晶パネル32の矩形枠部32cのコーナー部分と点接触している。
【0066】
(作用効果)
以上説明した第1実施形態の作用効果を以下に改めて説明する。
【0067】
第1実施形態によると、互いに貼合された偏光板42及び支持板43において、偏光板42の第1残留応力方向RSD1が支持板43の第2残留応力方向RSD2に沿っている。すなわち、偏光板42に内在する残留応力の最大方向と、支持板43に内在する残留応力の最大方向とが揃っている。そうすると、偏光調整部材41への外光の入射等による当該偏光調整部材41の温度変化に応じて、偏光板42の残留応力及び支持板43の残留応力が解放されても、個々の板42,43が別々の方向にそれぞれ変形しようとすることが抑制される。換言すると、意図しない反り等の変形の発生は抑制される。
【0068】
例えば、偏光調整部材41の複雑な変形が抑制されているので、偏光調整部材41の光学作用の局所的なムラ、さらには虚像VRIの表示品位における局所的なムラ(例えば輝度ムラ)の発生も抑制される。また例えば、互いに揃った方向RSD1,RSD2に対応した最小限の変形対策をしておけば、偏光調整部材41の非変形状態は容易に維持可能である。以上により、虚像VRIの表示において、光学作用を安定的に発揮させることが可能である。
【0069】
また、第1実施形態によると、偏光調整部材41は、プロジェクタ31と共通のケース51に保持されることによって、プロジェクタ31と一体的なプロジェクタユニット30を構成している。こうすると、プロジェクタ31と偏光調整部材41との相対位置関係を容易に維持可能となるので、偏光調整部材41がプロジェクタ31に対して位置ずれすることにより、偏光調整等の光学作用に異変が生じることが抑制される。
【0070】
また、第1実施形態によると、第1残留応力方向RSD1及び第2残留応力方向RSD2と平行な方向又は直交する方向に沿って延伸する偏光調整部材41との接触部位63aを有する延伸保持構造63を用いて、偏光調整部材41が保持されている。第1残留応力方向RSD1及び第2残留応力方向RSD2に対する斜め方向への意図しない反り等の変形が抑制されている偏光調整部材41に対して、第1残留応力方向RSD1及び第2残留応力方向RSD2に対する非斜め方向への反り等の変形も、接触部位63aの延伸態様によって規制されている。偏光調整部材41の非変形状態の維持性能が効率的な保持によって高められている結果、虚像VRIの表示における光学作用発揮の安定性は、格段に向上する。
【0071】
また、第1実施形態によると、偏光調整部材41は、第1残留応力方向RSD1及び第2残留応力方向RSD2を、傾斜基準軸TRAと平行な方向又は直交する方向に沿わせるように配置されている。こうすることで、液晶パネル32の傾斜影響と第1残留応力方向RSD1及び第2残留応力方向RSD2に応じた形態に制御された偏光調整部材41の変形影響とが、複合的かつ異方的に作用することが抑制される。すなわち、虚像VRIの表示品位における局所的なムラの発生を抑制することができる。
【0072】
さて、仮に支持板43にガラス等の加工性に優れない光学材料を採用したとすれば、コスト抑制のためには支持板43の外周輪郭形状が単純化させられざるを得ない。対して第1実施形態によると、支持板43に加工性に優れた合成樹脂を採用したため、偏光調整部材41の外周輪郭形状を、複雑化することができる。そして、偏光調整部材41の外周輪郭形状は、第1残留応力方向RSD1が第2残留応力方向RSD2と平行な方向及び直交する方向のうち少なくとも一方に偏光調整部材41の表面積を二分する仮想の基準線VRL1,VRL2を挟んだ非線対称形状となっている。こうした非線対称形状によって、例えば製造時に偏光調整部材41を光路上に配置する際に、当該偏光調整部材41の向きを誤る事態が抑制される。したがって、第1残留応力方向RSD1が保持構造に対して正しく配置可能となることで、意図しない反り等の変形が抑制される。同時に、第1残留応力方向RSD1と紐付いた遮断軸SAp等の光学軸も正しく配置されることで、期待される偏光調整機能を正しく発揮する偏光調整部材41を提供可能となる。
【0073】
(他の実施形態)
以上、一実施形態について説明したが、本開示は、当該実施形態に限定して解釈されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
【0074】
具体的に変形例1としては、延伸保持構造63は、カバー体59と一体の押圧リブにより実現されていてもよい。対向部62から外周側台座面53cへ向かって突出する押圧リブが液晶パネル32の長手方向LD又は短手方向SDに沿って延伸することで、その先端部が、第1残留応力方向RSD1及び第2残留応力方向RSD2と実質平行な方向に沿って延伸する偏光調整部材41との接触部位63aとされていてもよい。各押圧リブは、接触部位63aを通じて、偏光調整部材41において個別対応する張出部41cを押圧する。これにより、偏光調整部材41がクッション材68を介挿した状態でバックライト収容体52及びカバー体59の間に挟持される。
【0075】
変形例2としては、延伸保持構造63の接触部位63aは、第1残留応力方向RSD1及び第2残留応力方向RSD2と実質平行な方向に沿って延伸していてもよい。
【0076】
変形例3としては、延伸保持構造63以外の保持構造を用いて、偏光調整部材41が保持されていてもよい。
【0077】
変形例4としては、偏光調整部材41は、プロジェクタ31からウインドシールド3に至る光路上に配置されていれば、プロジェクタ31と共通のケース51に保持されていなくてもよい。偏光調整部材41は、プロジェクタ31と離れた位置に、例えばハウジング11の窓部12に防塵シートを兼ねる態様にて、配置されていてもよい。偏光調整部材41は、液晶パネル32と平行に配置されていなくてもよい。
【0078】
変形例5としては、偏光調整部材41は、表示光及び外光のうち少なくとも一方の偏光を調整するものであればよい。例えば、偏光調整部材41は、偏光サングラスを着用した乗員が虚像VRIを見やすくなるように、液晶パネル32から射出された表示光の偏光方向を変えるものであってもよい。
【0079】
変形例6としては、偏光板42は、ヨウ素型偏光板でなくてもよい。例えば反射型偏光板にも、板面に沿った方向に残留応力を内在させた種類の偏光板が存在するので、こうした反射型偏光板が採用されてもよい。反射型偏光板の第1残留応力方向RSD1が透過軸TApに沿う場合には、第1残留応力方向RSD1及び第2残留応力方向RSD2は、傾斜基準軸TRAに対して平行な方向に沿っていてもよい。
【0080】
変形例7としては、液晶パネル32の透過軸TAdは、長手方向LDに対して例えば45度の角度をなす斜め方向に設定されていてもよい。また、プロジェクタ31は、非偏光の表示光を投光するものであってもよい。
【0081】
なお、本開示における所定の方向と「直交する方向」又は所定の軸と「直交する方向」は、平行移動不変のベクトルの「直交」の概念と同様に、所定の方向又は所定の軸と実際に交差していなくてもよい。
【符号の説明】
【0082】
3:ウインドシールド(透光部材)、10:HUD(虚像表示装置)、31:プロジェクタ、41:偏光調整部材、42:偏光板、43:支持板、RSD1:第1残留応力方向、RSD2:第2残留応力方向、SAp:遮断軸、VRI:虚像