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特許7184027誘電エラストマーアクチュエータの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】誘電エラストマーアクチュエータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02N 11/00 20060101AFI20221129BHJP
   C09C 1/44 20060101ALI20221129BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20221129BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20221129BHJP
   H01L 41/193 20060101ALI20221129BHJP
   H01L 41/317 20130101ALI20221129BHJP
【FI】
H02N11/00 Z
C09C1/44
C09D17/00
H01L41/09
H01L41/193
H01L41/317
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019228834
(22)【出願日】2019-12-19
(65)【公開番号】P2021097547
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2021-11-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「次世代人工知能・ロボット中核技術開発/革新的ロボット要素技術分野/スライドリングマテリアルを用いた柔軟センサーおよびアクチュエータの研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】今井 亮
(72)【発明者】
【氏名】上杉 望夢
(72)【発明者】
【氏名】木村 理絵
(72)【発明者】
【氏名】池山 哲也
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-220949(JP,A)
【文献】特開2014-84255(JP,A)
【文献】特開2010-16969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 1/00 - 1/12
H02N 3/00 -99/00
C09C 1/44
C09D 17/00
H01L 41/09
H01L 41/193
H01L 41/317
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1誘電エラストマー層(1)を形成する第1工程と、
第1誘電エラストマー層(1)とは別のシート(9)上に、分散剤は含むがバインダは含まない揮発性の溶媒にカーボンナノチューブを分散させた分散液を成膜することによりカーボンナノチューブ電極層(2)を形成する第2工程と、
シート(9)上のカーボンナノチューブ電極層(2)を、シート(9)ごと水洗してカーボンナノチューブ電極層(2)に残留する分散剤を除去してから乾燥させる第3工程と、
第1誘電エラストマー層(1)上に第3工程後のカーボンナノチューブ電極層(2)を転写してからシート(9)を剥がすことで、第1誘電エラストマー層(1)上にカーボンナノチューブ電極層(2)を設ける第4工程と、
カーボンナノチューブ電極層(2)上に、液状の第2誘電エラストマー層形成材料を成膜してから硬化させて第2誘電エラストマー層(3)を形成する第5工程と
を含むことを特徴とする誘電エラストマーアクチュエータの製造方法。
【請求項2】
第5工程に続いて、第4工程と第5工程とを1回以上繰り返し行うことにより、積層構造のDEAを製造する請求項1記載の誘電エラストマーアクチュエータの製造方法。
【請求項3】
シート(9)は、透水性のシートである請求項1又は2記載の誘電エラストマーアクチュエータの製造方法。
【請求項4】
分散液は、界面活性剤を含まないものである請求項1~3のいずれか一項に記載の誘電エラストマーアクチュエータの製造方法。
【請求項5】
カーボンナノチューブ電極層(2)は、厚さが0.1~0.2μmである請求項1~4のいずれか一項に記載の誘電エラストマーアクチュエータの製造方法。
【請求項6】
誘電エラストマーアクチュエータの絶縁破壊電圧が、誘電層単体の絶縁破壊電圧の87%以上である請求項1~5のいずれか一項に記載の誘電エラストマーアクチュエータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電エラストマーアクチュエータ(dielectric elastomer actuator、以下「DEA」という。)の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DEAは、誘電エラストマー層(以下単に「誘電層」という。)の両面に電極層を付けてなる基本構造を有する駆動装置である。2つの電極間に電圧を印加すると、電極間に発生したクーロン力により、誘電層は電極間方向に収縮し、その直角方向に伸長するので、これらの変形を駆動用の変位として取り出す駆動装置となる。
【0003】
電極層として一般的なものは、特許文献1,2に記載されているように、シリコーン、天然ゴム等のエラストマーに導電性フィラーとしてカーボンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、銅や銀や白金等の金属粒子を含有させてなる低粘度の導電エラストマーの原料組成物を、誘電層の表面に塗布し硬化処理して形成した電極層である。
【0004】
上記の導電性フィラーは粒子状であるのに対し、次のように、線状の導電性フィラーであるカーボンナノチューブ(carbon nanotube、以下「CNT」という。)を電極に用いて、CNTどうしの直接の接触により導電性を向上させることも検討されている。
【0005】
特許文献3には、誘電層形成材料(液状)を塗布してから乾燥させて誘電層を形成し、誘電層の表面に、揮発性の溶媒にCNTを分散させた(分散剤は含むがバインダは含まない)分散液を、塗布してから乾燥させてCNT電極層を形成し、CNT電極層の表面に、別工程で形成した誘電層を積層し圧着する、というDEAの第1の製造方法が記載されている。
また、上記と同様に誘電層とCNT電極層を形成し、CNT電極層の表面に、誘電層形成材料(液状)を塗布し乾燥させて誘電層を形成する、というDEAの第2の製造方法も記載されている。
【0006】
特許文献4には、ウレタン系ポリマー等のエラストマーと有機溶媒と特定三次元形状のCNTとを配合し、超音波ホモジナイザーを用いて分散してなる導電性組成物を、導電性高分子複合体にコーティングして柔軟電極を形成することが記載されている。そして、この柔軟電極は柔軟性および導電性に優れるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-66318号公報
【文献】特開2019-68031号公報
【文献】特開2014-220949号公報
【文献】特開2008-197425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献3の第1の製造方法(誘電層上にCNT電極層を直接成膜し、CNT電極層上に別成膜誘電層を接合)には、次の問題があった。
(ア)本発明者らの検討により、CNT電極層付きの誘電層の絶縁破壊電圧が、誘電層単体に比べて低下することが判明した。その理由は、バインダを含まないCNT電極層内にはCNTどうしの間に隙間が生じており、そのCNT電極層に別工程で形成した誘電層を圧着で接合するというドライ積層工法では前記隙間が埋まらず、漏れ電流が増加するためであると推定される。絶縁破壊電圧はDEAの重要な基本特性の一つであり、その低下は問題である。
【0009】
一方、特許文献3の第2の製造方法(誘電層上にCNT電極層を直接成膜し、CNT電極層上に誘電層を直接成膜)によれば、誘電層上に形成したCNT電極層の表面に誘電層形成材料(液状)を塗布する際に、CNT電極層内の隙間が誘電層形成材料で埋まるため、絶縁破壊電圧がさほど低下しないことも判明した。しかし、CNT電極層には分散液に含まれていた分散剤が残留するため、誘電層形成材料を塗布する前に、CNT電極層を水洗して分散剤を除去する必要があり、次の問題があった。
(イ)誘電層上に形成したCNT電極層の水洗は、次の理由から困難である。まず、誘電層は薄く破れやすいため、取扱が難しい。また、強く水洗するとCNTが剥がれ落ちるため、弱く水洗せざるを得ないところ、誘電層上のCNT電極層には水が浸透しにくく、分散剤の除去率は低い。
【0010】
さらに、上記第1及び第2のいずれの製造方法も、誘電層上にCNT分散液を直接塗布してCNT電極層を形成するため、次の問題もあった。
(ウ)誘電層にCNT分散液の溶媒が弾かれたり、誘電層をCNT分散液の溶媒が膨潤させたりしないよう、誘電層の材料とCNT分散液の溶媒との組合せを考慮する必要がある。例えば、下の誘電層の材料がポリロタキサンである場合、CNT分散液の溶媒は水系に限られる。
(エ)下の誘電層の形成工程とCNT電極層の形成工程とを同時並行で別に行うことができないため、リードタイムが長い。
【0011】
また、特許文献4のように、エラストマーと有機溶媒とCNTとを混合したものをコーティングしてなる柔軟電極は、CNTどうしの間の隙間はエラストマーで埋まるが、次の問題が生じうる。
(オ)柔軟電極中のCNTのチューブ表面全体がエラストマーで覆われることから、CNTどうしの直接の接触が減少し、導電性に影響する。
【0012】
そこで、本発明の目的は、DEAの絶縁破壊電圧がCNT電極層内の隙間が原因で低下するのを、該隙間を誘電層形成材料で埋めることにより抑制するとともに、該隙間を誘電層形成材料で埋める前に必要なCNT電極層の水洗をしやすくし、CNT電極層からの分散剤の除去率を高めることにある。さらに、誘電層上にCNT電極層を設ける際に、誘電層の材料とCNT分散液の溶媒の組み合わせ・選択を自由にし、また、誘電層の形成工程とCNT電極層の形成工程とを同時並行で別に行えるようにして、リードタイムを短くすることにある。また、導電性の高いCNT電極層を得ることにもある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のDEAの製造方法は、
第1誘電層を形成する第1工程と、
第1誘電層とは別のシート上に、分散剤は含むがバインダは含まない揮発性の溶媒にCNTを分散させた分散液を成膜することによりCNT電極層を形成する第2工程と、
シート上のCNT電極層を、シートごと水洗してCNT電極層に残留する分散剤を除去してから乾燥させる第3工程と、
第1誘電層上に第3工程後のCNT電極層を転写してからシートを剥がすことで、第1誘電層上にCNT電極層を設ける第4工程と、
CNT電極層上に、液状の第2誘電層形成材料を成膜してから硬化させて第2誘電層を形成する第5工程と
を含むことを特徴とする。
【0014】
ここで、第1工程と第2工程とは、独立しているためいずれを先に行ってもよく、また、並行して行ってもよい。
【0015】
また、第5工程に続いて、第4工程と第5工程を1回以上繰り返し行うことにより、積層構造のDEAを製造することができる。
【0016】
また、シートは、透水性のシートが好ましい。
【0017】
また、分散液は、界面活性剤を含まないものが好ましい。
【0018】
また、CNT電極層は、厚さが0.1~0.2μmであることが好ましい。
【0019】
また、DEAの絶縁破壊電圧が、誘電層単体の絶縁破壊電圧の87%以上であることが好ましい。この場合、第1誘電層と第2誘電層は同じ形成材料からなるものである。
【0020】
<作用効果>
(カ)CNT電極層付きの誘電層の絶縁破壊電圧が、誘電層単体に比べて低下することを抑制できる。バインダを含まないCNT電極層内のCNTどうしの間に生じている隙間に、第5工程で成膜する際の液状の第2誘電層形成材料が浸透するため、該隙間が該材料で埋まり、漏れ電流の増加が抑制されるためと推定される。
【0021】
(キ)シート上に形成したCNT電極層は水洗しやすく、残留した分散剤を除去しやすい。まず、前述のとおり誘電層は薄く破れやすいのに対して、シートは適度な厚さで破れにくいものを容易に選択できるため、取扱いやすい。また、シート上のCNT電極層の水洗でも、CNTが剥がれ落ちないように弱く水洗せざるを得ないところ、シートは透水性のものを容易に選択できるため、CNT電極層の表面からだけでなくシートからもCNT電極層に水を浸透させて分散剤の除去率を高めることができる。
【0022】
(ク)シート上でCNT電極層を形成するため、前述した誘電層上でCNT電極層を形成するときのような両層の材料の組合せを考慮する必要がなく、材料の種類を選ばない。例えば、下の誘電層の材料がポリロタキサンである場合、CNT分散液の溶媒は水系でも有機系でもよい。
【0023】
(ケ)下の誘電層の形成工程とCNT電極層の形成工程とを同時並行で別に行うことができるため、リードタイムを短くできる。
【0024】
(コ)バインダを含まない分散液を成膜してから乾燥させて形成したCNT電極層は、CNTどうしが直接接触しており、その直接接触は、CNT電極層に第2誘電層形成材料が浸透したときにも、ある程度維持される。よって、導電性の高いCNT電極層を得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、DEAの絶縁破壊電圧がCNT電極層内の隙間が原因で低下するのを、該隙間を誘電層形成材料で埋めることにより抑制するとともに、該隙間を誘電層形成材料で埋める前に必要なCNT電極層の水洗をしやすくし、CNT電極層からの分散剤の除去率を高めることができる。さらに、誘電層上にCNT電極層を設ける際に、誘電層の材料とCNT分散液の溶媒の組合せ・選択を自由にし、また、誘電層の形成工程とCNT電極層の形成工程とを同時並行で別に行えるようにして、リードタイムを短くすることもできる。また、導電性の高いCNT電極層を得ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1はDEAの途中物の各例を模式的に示すものであり、(a)は誘電層単体の断面図、(b)は比較例1の断面図、(c)は比較例2の断面図、(d)は比較例3の断面図、(e)は実施例1の断面図である。
図2図2は実施例1の走査電子顕微鏡写真である。
図3図3の(a)は比較例1~3のCNT電極層の形成方法を示す説明図、(b)は実施例1のCNT電極層の形成方法を示す説明図である。
図4図4は上記各例の絶縁破壊試験方法の説明図である。
図5図5は上記絶縁破壊試験で測定された各例の絶縁破壊電圧を示すグラフ図である。
図6図6は実施例1の積層を増やして作製したDEAの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[1]誘電層
第1誘電層、第2誘電層の形成材料としては、特に限定されないが、シリコーンエラストマー、アクリルエラストマー、ウレタンエラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、天然ゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、ウレアゴム、フッ素ゴム、、架橋ポリロタキサン等を例示できる。ポリロタキサンは、環状分子に直鎖状分子が相対スライド可能に貫通し、直鎖状分子の両末端に配された封鎖基により環状分子が脱離しない構造の分子集合体であり、スライドリングマテリアルとも称される。架橋ポリロタキサンは、ポリロタキサンを架橋したものであり、環状分子、直鎖状分子、封鎖基及び架橋剤は特定のものに限定されない。
第1誘電層の形成材料と第2誘電層の形成材料とは、同じものでもよいし、異なるものでもよい。
第1誘電層、第2誘電層の厚さは、特に限定されないが、20~100μmが好ましい。誘電層の厚さが100μmを越えると、誘電層形成後の硬化時間が長くなり、リードタイムに影響を与える。
【0028】
[2]誘電層形の形成方法
CNT電極層上に液状の第2誘電層形成材料を成膜する方法としては、特に限定されないが、塗布型ディスペンサ、スリットダイコータ、インクジェット、スプレー等を例示できる。
成膜した第2誘電層形成材料を硬化させる方法としては、特に限定されないが、加熱による架橋を例示できる。加熱方法としては、特に限定されないず、加熱炉、乾燥炉、赤外線加熱等を例示できる。
なお、第1誘電層の形成方法は、特に限定されず、第1誘電層と同じ形成方法でもよいし、第1誘電層とは異なる形成方法でもよい。
【0029】
[3]CNT電極層
CNTの種類としては、特に限定されないが、単層カーボンナノチューブ(single wall carbon nanotube、略称SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(multi wall carbon nanotube、略称MWCNT)等を例示できる。
CNTの平均直径としては、特に限定されないが、1.5~2.5nmが好ましい。CNTどうしの絡まりやすさと柔軟性を保つためである。
CNTの平均長さとしては、特に限定されないが、5~15μmが好ましい。分散液中のCNTどうしの分散をしやすくするためである。
CNTのアスペクト比としては、特に限定されないが、2000~10000が好ましい。アスペクト比が大きいほど、CNTどうしが絡まりやすく、導電性が良いためである。
CNT電極層の厚さは、特に限定されないが、0.1~1.0μmが好ましく、前述のとおり0.1~0.2μmがより好ましい。CNT電極層単体の柔軟性を確保するためである。
【0030】
[4]分散液
分散液の揮発性の溶媒としては、特に限定されないが、水、有機溶媒等を例示できる。
分散液の分散剤としては、特に限定されないが、ポリビニルピロリドン(PVP)等の有機系分散剤や、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等の無機塩類等を例示できる。
溶媒とCNTとの質量比率は、特に限定されないが、溶媒100質量部に対してCNT0.02~0.1質量部が好ましい。導電性と柔軟性を両立させるためである。
分散剤は、他の添加物を含んでもよい。界面活性剤は、CNTを剥がしやすい場合は前述のとおり含まないことが好ましいが、濡れ性改善のために含んでもよい。
【0031】
[5]シート
シートは、特に限定されないが、CNT電極層を水洗する際の分散剤除去率を高めるために、前述のとおり透水性のシートが好ましい。透水性のシートとしては、メンブレンフィルター (membrane filter) 等を例示できる。
【0032】
[6]分散液の成膜方法
シート上に分散液を成膜する方法としては、特に限定されないが、インクジェット、スプレー、バーコーター等を例示できる。また、成膜後の乾燥については、分散剤の種類や成膜方法により、行う場合と行わない場合とがある。例えば、分散液を成膜する前にシートを温調したり、水溶性の分散剤を使用したりすることで、成膜後の乾燥を必要としない。
【0033】
[7]水洗
シートに付いたCNT電極層の水洗の方法としては、特に限定されないが、CNTが剥がれ落ちないようするため、水に浸漬するのみか、水に浸漬して水流を作る又はシート側を動かす程度が好ましい。また、分散剤が無機塩の場合、水洗に先立って、酸洗いを行うのが望ましい。
水洗の水としては、特に限定されないが、純水、脱イオン水、水道水、分散剤の除去に適した添加物を含む水等を例示できる。但し、CNTが剥がれ落ちないようするため、界面活性剤は含まないことが好ましい。
【実施例
【0034】
以下、本発明を具体化した実施例について比較例と共に、次の順に説明する。なお、本発明は本実施例に限定されるものではない。
<1>誘電層形成材料(架橋ポリロタキサン)の調製
<2>CNT分散液の調製
<3>誘電層単体、比較例1~3及び実施例1の作製
<4>絶縁破壊電界強度の測定
<5>アクチュエータの作製
【0035】
<1>誘電層形成材料(ポリロタキサン組成物溶液)の調製
特許文献1の実施例1と同様のポリロタキサン組成物を作製した。
すなわち、まず、特許文献1に開示された、ポリロタキサンAと、ポリシロキサンを含有するブロック共重合体Bと、ポリシロキサンを含有しない重合体Cとを作製した。
ポリロタキサンAは、具体的には、環状分子としてシクロデキストリンを含有し、直鎖状分子としてポリエチレングリコールを含有し、直鎖状分子の両末端に封鎖基が配置されたものである。本例のポリロタキサンAは、さらに溶化性や相溶性を得るため、カプロラクトン基を有するものである。
ポリシロキサンを含有するブロック共重合体Bは、ポリシロキサン(シリコーン成分)により耐湿性を向上させるものであり、具体的には、末端ブロックイソシアネート基を有するポリカプロラクトン-ポリジメチルシロキサン-ポリカプロラクトンのブロック共重合体である。同共重合体Bの添加は任意である。
ポリシロキサンを含有しない重合体Cは、ポリロタキサンとの相溶性が高く、これを含むことで高誘電率と低弾性を実現するものであり、具体的には、末端ブロックイソシアネート基を有するポリプロピレングリコールである。同重合体Cの添加は任意である。
【0036】
これらA,B,Cと、溶媒としてのメチルセロソルブと、シリコーン添加剤としてのDBL-C31と、老化防止剤(加水分解抑制剤)としてのIRGANOX1726を、次に示す配合(配合数値は質量部)で加えて攪拌し、よく脱泡して、架橋前のポリロタキサン組成物溶液を調製した。同組成物溶液の粘度は、700±150cpsである。
ポリロタキサンA 10
ポリシロキサンブロック共重合体B 4.9
重合体C 10.5
ポリプロピレングリコールジオール 4.7
メチルセロソルブ 25.9
ジラウリル酸ジブチルスズ 0.014
DBL-C31(GELEST社製) 0.14
IRGANOX1726(BASF社製) 0.42
【0037】
<2>CNT分散液の調製
揮発性の溶媒としての純水に、分散剤としてのポリビニルピロリドンと、CNTとしての名城ナノカーボン社のeDIPS法によるSWCNT(直径2nm、全長10μm)を、次に示す配合(配合数値は質量部)で加えて攪拌し、よく脱泡して、分散液を調製した。
純水 100
分散剤 0.05
CNT 0.05
なお、CNTとして、他にも富士化学社のSWCNT(直径2nm、全長5~10μm)について同様に試したが、名城ナノカーボン社のものと同等の結果を得ている。
【0038】
<3>誘電層単体、比較例1~3及び実施例1の作製
[誘電層単体]
図1(a)に示す誘電層単体は、上記<1>のポリロタキサン組成物溶液を、ポリエチレンテレフタラート(PET)シート(図示略)の上にスリットダイコータ法により塗布して成膜してから、120℃のオーブン内に常圧条件下(減圧条件下でも可)で15分おいて架橋・硬化させて形成した、厚さ50±2μmの第1誘電層1の単体である。
【0039】
[比較例1]
図1(b)に示す比較例1は、上記のとおり形成した第1誘電層1の上に、CNT電極層2aを成膜・乾燥にて形成し水洗・乾燥したものであり、CNT電極層2aは露出している。詳しくは、次のとおりである。
図3(a)の一番左に示すように、第1誘電層1の上に、上記<2>の分散液をインクジェット機10により塗布して成膜してから、60℃のオーブン内に常圧条件下で1分おいて乾燥させ、厚さ0.15~0.2μmのCNT電極層2aを形成した。
・次いで、図3(a)の左から2番目に示すように、第1誘電層1上のCNT電極層2aを、第1誘電層1ごと水槽11内の純水12に浸漬して2分静置することにより水洗した。
・次いで、図3(a)の左から3番目に示すように、第1誘電層1上のCNT電極層2aを、第1誘電層1ごと純水12から取り出し、100℃のオーブン内に常圧条件下で1分おいて乾燥させた。
【0040】
[比較例2]
図1(c)に示す比較例2は、上記のとおり形成した第1誘電層1の上に、比較例1と同様にCNT電極層2aを形成し水洗・乾燥した後、CNT電極層2aの上に、別途第1誘電層1と同様に形成した、第1誘電1と同一のものである第2誘電層3aをのせることにより接合したものである。
【0041】
[比較例3]
図1(d)に示す比較例3は、上記のとおり形成した第1誘電層1の上に、比較例1と同様にCNT電極層2aを形成し水洗・乾燥した後、CNT電極層2aの上に、第2誘電層形成材料としての上記<1>のポリロタキサン組成物溶液を、スリットダイコータ法により塗布して成膜してから、130℃のオーブン内に減圧条件下で7時間おいて架橋・硬化させて、厚さ50±2μmの第2誘電層3を形成したものである。
ポリロタキサン組成物溶液は、塗布時に、CNT電極層2a内のCNTどうしの間に生じている隙間に浸透した。
【0042】
[実施例1]
図1(e)及び図2に示す実施例1は、上記のとおり形成(第1工程)した第1誘電層1の上に、転写法によりCNT電極層2を設けた後、CNT電極層2の上に、比較例3と同様に第2誘電層3を形成したものである。詳しくは、次のとおりである。
図3(b)の一番左に示すように、シート9としてのメンブレンフィルターの上に、上記<2>の分散液をインクジェット機10により塗布して成膜してから、60℃のオーブン内に常圧条件下で1分おいて乾燥させ、厚さ0.15~0.2μmのCNT電極層2を形成した(第2工程)。
・次いで、図3(b)の左から2番目に示すように、シート9上のCNT電極層2を、シート9ごと水槽11内の純水12に浸漬して2分静置することにより水洗した(第3工程前半)。
・次いで、図3(b)の左から3番目に示すように、シート9上のCNT電極層2をシート9ごと純水12から取り出し、100℃のオーブン(図示略)内に常圧条件下で1分おいて乾燥させた(第3工程後半)。
・次いで、図3(b)の下段に示すように、第3工程後のシート9及びCNT電極層2の該CNT電極層2側を、第1誘電層1の上に特に押圧することなくのせて転写してからシート9を剥がすことにより、第1誘電層1上にCNT電極層2を設けた(第4工程)。
・次いで、CNT電極層2の上に、第2誘電層形成材料としての上記<1>のポリロタキサン組成物溶液を、スリットダイコータ法により塗布して成膜してから、130℃のオーブン内に減圧条件下で7時間おいて架橋・硬化させて、厚さ50±2μmの第2誘電層3を形成した(第5工程)。
ポリロタキサン組成物溶液は、塗布時に、CNT電極層2内のCNTどうしの間に生じている隙間に浸透した。
【0043】
<4>絶縁破壊電圧の測定
上記のように作製した誘電層単体、比較例1~3及び実施例1の常温常湿(常温とは20±15℃、常湿とは65±20%(JIS-8703))における絶縁破壊電圧を測定した。
図4に示すように、各例を接地側の円板電極21に貼り付け、各例に円柱電極22を載せた。この際に各例と各電極21,22との間に空気泡が極力残らないように留意し、さらに真空装置により脱気処理した。これを常温常湿下で絶縁破壊測定器にセットし、電源装置23により電極21,22間に昇圧速度10V/0.1秒で上昇するよう電圧を印加した。そして、電流が実質的に流れない絶縁状態を経て、電流が1.2μA以上となった時点の電圧から絶縁破壊電圧を求めた。その結果を図5に示す。
【0044】
誘電層単体に対する絶縁破壊電圧の低下率が、比較例1で20%と大きいのは、CNT電極層2a内の隙間のためと推定される。
比較例2でも該低下率が16%とまだ大きいのは、形成済みの第2誘電層3aの接合によってはCNT電極層2a内の隙間が埋まらないためと考えられる。比較例2の製造方法は、前述した特許文献3の第1の製造方法にほぼ相当するものであり、前述した問題(ア)が現出したといえる。
一方、比較例3で該低下率が5%と小さいのは、第2誘電層3の形成材料でCNT電極層2a内の隙間が埋まったためと推定される。しかし、比較例3の製造方法は、前述した特許文献3の第2の製造方法にほぼ相当するものであり、前述した問題(イ)~(エ)がある。
これに対して、実施例1では該低下率が11%と相当に抑制されるとともに、前述した問題(イ)~(エ)がなく、前述した作用効果(カ)~(コ)が得られる。
【0045】
<5>アクチュエータの作製
図6に示すように、上記実施例1の第5工程に続いて、第4工程と第5工程を2回繰り返し行うことにより、5層の誘電層1,3と4層のCNT電極層2とを備えた積層構造のDEA6を製造した。CNT電極層2は、1つおきに左右方向の一方にずらして配したグループと、1つおきに左右方向の他方にずらした配したグループとからなる。一方のグループに正極4を接続し、他方のグループに負極5を接続した。
このDEA6によれば、前述した作用効果(カ)~(コ)が得られる。
【0046】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 第1誘電層
2 CNT電極層
3 第2誘電層
4 正極
5 負極
6 DEA
9 シート
10 インクジェット機
11 水槽
12 純水
21 円板電極
22 円柱電極
23 電源装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6