IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社村田製作所の特許一覧

<>
  • 特許-積層コイル部品 図1
  • 特許-積層コイル部品 図2
  • 特許-積層コイル部品 図3
  • 特許-積層コイル部品 図4
  • 特許-積層コイル部品 図5
  • 特許-積層コイル部品 図6
  • 特許-積層コイル部品 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】積層コイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/00 20060101AFI20221129BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20221129BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
H01F17/00 D
H01F17/04 A
H01F41/04 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019238915
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021108326
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2021-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】高井 駿
(72)【発明者】
【氏名】比留川 敦夫
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-065807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00
H01F 17/04
H01F 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体部と、
前記絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体層が電気的に接続されたコイルと、
前記絶縁体部の表面に設けられ、前記コイルと電気的に接続された外部電極と
を含む積層コイル部品であって、
前記絶縁体部は、第1絶縁体層および第2絶縁体層が積層された積層体であり、
前記第1絶縁体層上に前記コイル導体層および前記第2絶縁体層が設けられており、
前記第1絶縁体層と前記コイル導体層との間には空隙層が設けられており、
前記第1絶縁体層、前記空隙層および前記コイル導体層は、この順に積層しており、前記空隙層は、前記コイル導体層の一方の主面側にのみ存在し、
前記第1絶縁体層の厚みをa、前記コイル導体の厚みをb、前記空隙層の厚みをcとしたとき、
cとbの比(c/b)が0.10以上0.70以下であり、
aとbの比(a/b)が0.25以上1.00以下である、
積層コイル部品。
【請求項2】
前記コイル導体の厚みは、30μm以上60μm以下である、請求項1に記載の積層コイル部品。
【請求項3】
前記第1絶縁体層の厚みは、10μm以上40μm以下である、請求項1または2に記載の積層コイル部品。
【請求項4】
前記空隙層の厚みは、4μm以上28μm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層コイル部品。
【請求項5】
絶縁体部と、
前記絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体層が電気的に接続されたコイルと、
前記絶縁体部の表面に設けられ、前記コイルと電気的に接続された外部電極と
を含み、
前記絶縁体部は、第1絶縁体層および第2絶縁体層が積層された積層体であり、
前記第1絶縁体層上に前記コイル導体層および前記第2絶縁体層が設けられており、
前記第1絶縁体層と前記コイル導体層との間には空隙層が設けられており、
前記第1絶縁体層、前記空隙層および前記コイル導体層は、この順に繰り返して積層しており、前記空隙層は、前記コイル導体層の一方の主面側にのみ存在している積層コイル部品の設計方法であって、
前記第1絶縁体層の厚みをa、前記コイル導体の厚みをb、前記空隙層の厚みをcとしたとき、
cとbの比(c/b)が、0.10以上0.70以下の範囲内、
aとbの比(a/b)が、0.25以上1.00以下の範囲内
となるように、前記第1絶縁体層の厚み、前記コイル導体の厚みおよび前記空隙層の厚みを決定するステップを含む設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層コイル部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の大電流化の傾向により、積層コイル部品は、高い定格電流が要求されるようになってきている。従来の積層コイル部品として、例えば、素体および当該素体内に設けられたコイルを備えた積層コイル部品が知られている(特許文献1)。特許文献1に開示される積層コイル部品は、素体を構成する磁性体層上に、厚さ30μm程度のコイル導体層を形成してコイル導体印刷シートを得、かかるシートを複数枚圧着して焼成することにより製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-47015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
積層コイル部品では大電流を流す用途が拡大しているため、コイルパターンの厚みをより厚くする必要がある。また、磁性体層とコイル導体間に空隙を設けるなどして応力緩和効果を備えることについても、その必要性が高まっている。
【0005】
本開示の目的は、直流抵抗が低く大電流を流す用途に好適であり、かつ応力緩和の両立をしたうえで、インピーダンスのばらつきの小さい積層コイル部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の態様を含む。
[1] 絶縁体部と、
前記絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体層が電気的に接続されたコイルと、
前記絶縁体部の表面に設けられ、前記コイルと電気的に接続された外部電極と
を含む積層コイル部品であって、
前記絶縁体部は、第1絶縁体層および第2絶縁体層が積層された積層体であり、
前記第1絶縁体層上に前記コイル導体層および前記第2絶縁体層が設けられており、
前記第1絶縁体層と前記コイル導体層との間には空隙層が設けられており、
前記第1絶縁体層の厚みをa、前記コイル導体の厚みをb、前記空隙層の厚みをcとしたとき、
cとbの比(c/b)が0.10以上0.70以下であり、
aとbの比(a/b)が0.25以上1.00以下である、
積層コイル部品。
[2] 前記コイル導体の厚みは、30μm以上60μm以下である、上記[1]に記載の積層コイル部品。
[3] 前記第1絶縁体層の厚みは、10μm以上40μm以下である、上記[1]または[2]に記載の積層コイル部品。
[4] 前記空隙層の厚みは、4μm以上28μm以下である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の積層コイル部品。
[5] 絶縁体部と、
前記絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体層が電気的に接続されたコイルと、
前記絶縁体部の表面に設けられ、前記コイルと電気的に接続された外部電極と
を含み、
前記絶縁体部は、第1絶縁体層および第2絶縁体層が積層された積層体であり、
前記第1絶縁体層上に前記コイル導体層および前記第2絶縁体層が設けられており、
前記第1絶縁体層と前記コイル導体層との間には空隙層が設けられている積層コイル部品の設計方法であって、
前記第1絶縁体層の厚みをa、前記コイル導体の厚みをb、前記空隙層の厚みをcとしたとき、
cとbの比(c/b)が、0.10以上0.70以下の範囲内、
aとbの比(a/b)が、0.25以上1.00以下の範囲内
となるように、前記第1絶縁体層の厚み、前記コイル導体の厚みおよび前記空隙層の厚みを決定するステップを含む設計方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示は、大電流を通電可能で、接合信頼性が高い積層コイル部品を提供することができる。また、本開示は、接合信頼性が高い積層コイル部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示の積層コイル部品1を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、図1に示す積層コイル部品1のx-xに沿った切断面を示す断面図である。
図3図3は、図1に示す積層コイル部品1のy-yに沿った切断面を示す断面図である。
図4図4は、積層コイル部品1の第1絶縁体層11、コイル導体層15、空隙層21の厚みを説明するための断面図である。
図5図5(a)~(q)は、図1に示す積層コイル部品1の製造方法を説明するための平面図である。
図6図6は、実施例における積層コイル部品のc/b比に対するインピーダンスZをプロットしたグラフである。
図7図7は、実施例における積層コイル部品のa/b比に対するインピーダンスZをプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示について、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本実施形態の積層コイル部品および各構成要素の形状および配置等は、図示する例に限定されない。
【0010】
本実施形態の積層コイル部品1の斜視図を図1に、x-x断面図を図2に、y-y断面図を図3に示す。但し、下記実施形態の積層コイル部品および各構成要素の形状および配置等は、図示する例に限定されない。
【0011】
図1図3に示されるように、本実施形態の積層コイル部品1は、略直方体形状を有する積層コイル部品である。積層コイル部品1において、図1のL軸に垂直な面を「端面」と称し、W軸に垂直な面を「側面」と称し、T軸に垂直な面を「上面」および「下面」と称する。積層コイル部品1は、概略的には、素体2と、該素体2の両端面に設けられた外部電極4,5とを含む。素体2は、絶縁体部6と該絶縁体部6に埋設されたコイル7を含む。該絶縁体部6は、第1絶縁体層11および第2絶縁体層12を有する。上記コイル7は、コイル導体層15が、第1絶縁体層11を貫通する接続導体16によりコイル状に接続されることにより構成される。コイル導体層15のうち最下層および最上層に位置するコイル導体層15a,15fは、それぞれ、引出部18a,18fを有する。コイル7は、上記引出部18a,18fで、外部電極4,5に接続される。上記絶縁体部6と上記コイル導体層15の主面(図2および図3では下方主面)との間、即ち第1絶縁体層11とコイル導体層15との間に空隙層21が設けられている。
【0012】
上記した本実施形態の積層コイル部品1を以下に説明する。本実施形態では、絶縁体部6がフェライト材料から形成される態様について説明する。
【0013】
本実施形態の積層コイル部品1において、素体2は、絶縁体部6とコイル7から構成される。
【0014】
上記絶縁体部6は、第1絶縁体層11および第2絶縁体層12を含み得る。
【0015】
上記第1絶縁体層11は、積層方向に隣接するコイル導体層15の間、およびコイル導体層15と素体の上面または下面との間に設けられる。
【0016】
上記第2絶縁体層12は、コイル導体層15の周囲に、コイル導体層15の上面(図2および図3で上側の主面)が露出するように設けられる。換言すれば、第2絶縁体層12は、コイル導体層15と積層方向に同じ高さにある層を形成する。例えば、図2において、第2絶縁体層12aは、コイル導体層15aと積層方向に同じ高さに位置する。
【0017】
即ち、本開示の積層コイル部品において、上記絶縁体部は、第1絶縁体層および第2絶縁体層が積層された積層体であり、上記コイル導体層は、上記第1絶縁体層上に設けられ、上記第2絶縁体層は、上記第1絶縁体層上に上記コイル導体層に隣接して設けられていると言える。
【0018】
上記第1絶縁体層11の厚みは、好ましくは5μm以上100μm以下、より好ましくは10μm以上40μm以下、さらに好ましくは16μm以上30μm以下であり得る。かかる厚みを5μm以上とすることにより、コイル導体層間の絶縁性をより確実に確保できる。また、かかる厚みを100μm以下とすることにより、より優れた電気特性を得ることができる。ここに、第1絶縁体層11の厚みとは、コイル導体層15間に存在する第1絶縁体層11の厚みをいう。
【0019】
上記第1絶縁体層の厚みは、以下のようにして測定することができる。
チップのLT面を研磨紙に向けた状態で研磨を行い、コイル導体層のW寸中央部で研磨を停止する。その後、マイクロスコープで観察を行う。コイル導体層のL寸中央部における第1絶縁体層の厚みを、マイクロスコープに付属している測定機能にて測定する。
【0020】
一の態様において、第2絶縁体層12は、その一部がコイル導体層15の外縁部分に乗り上げるように設けてもよい。換言すれば、第2絶縁体層12は、コイル導体層15の外縁部分を覆うように設けてもよい。即ち、互いに隣接するコイル導体層15および第2絶縁体層12を上面側から平面視した場合に、第2絶縁体層12は、コイル導体層15の外縁よりも内側にまで存在し得る。
【0021】
上記第1絶縁体層11および第2絶縁体層12は、素体2において、一体化していてもよい。この場合、第1絶縁体層11は、コイル導体層間に存在し、第2絶縁体層12は、コイル導体層15と同じ高さに存在すると考えることができる。
【0022】
上記絶縁体部6は、好ましくは磁性体、さらに好ましくは焼結フェライトから構成される。上記焼結フェライトは、主成分として、少なくともFe、Ni、およびZnを含む。焼結フェライトは、さらにCuを含んでいてもよい。
【0023】
上記第1絶縁体層11および上記第2絶縁体層12は、同じ組成であっても、異なる組成であってもよい。好ましい態様において、上記第1絶縁体層11および上記第2絶縁体層12は、同じ組成である。
【0024】
一の態様において、上記焼結フェライトは、主成分として、少なくともFe、Ni、ZnおよびCuを含む。
【0025】
上記焼結フェライトにおいて、Fe含有量は、Feに換算して、好ましくは40.0モル%以上49.5モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは45.0モル%以上49.5モル%以下であり得る。
【0026】
上記焼結フェライトにおいて、Zn含有量は、ZnOに換算して、好ましくは5.0モル%以上35.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは10.0モル%以上30.0モル%以下であり得る。
【0027】
上記焼結フェライトにおいて、Cu含有量は、CuOに換算して、好ましくは4.0モル%以上12.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは7.0モル%以上10.0モル%以下である。
【0028】
上記焼結フェライトにおいて、Ni含有量は、特に限定されず、上記した他の主成分であるFe、ZnおよびCuの残部とし得る。
【0029】
一の態様において、上記焼結フェライトは、Feは、Feに換算して40.0モル%以上49.5モル%以下、Znは、ZnOに換算して5.0モル%以上35.0モル%以下、Cuは、CuOに換算して4.0モル%以上12.0モル%以下、NiOは残部である。
【0030】
本開示において、上記焼結フェライトは、さらに添加成分を含んでいてもよい。焼結フェライトにおける添加成分としては、例えばMn、Co、Sn、Bi、Si等が挙げられるが、これに限定されるものではない。Mn、Co、Sn、BiおよびSiの含有量(添加量)は、主成分(Fe(Fe換算)、Zn(ZnO換算)、Cu(CuO換算)およびNi(NiO換算))の合計100重量部に対して、それぞれ、Mn、Co、SnO、Bi、およびSiOに換算して、0.1重量部以上1重量部以下であることが好ましい。また、上記焼結フェライトは、さらに製造上不可避な不純物を含んでいてもよい。
【0031】
上記したように、上記コイル7は、コイル導体層15がコイル状に相互に電気的に接続されることにより構成されている。積層方向に互いに隣接するコイル導体層15は、絶縁体部6(具体的には、第1絶縁体層11)を貫通する接続導体16により接続されている。本実施形態において、コイル導体層15は、下面側から順に、コイル導体層15a~15fとする。上記コイル導体層15a,15fは、それぞれ、引出部18a,18fを有する。引出部18a,18fは、コイル導体層の末端に位置し、外部電極4,5に接続される。
【0032】
コイル導体層15を構成する材料は、特に限定されないが、例えば、Au、Ag、Cu、Pd、Ni等が挙げられる。上記コイル導体層15を構成する材料は、好ましくはAgまたはCu、より好ましくはAgである。導電性材料は、1種のみであっても、2種以上であってもよい。
【0033】
上記コイル導体層15の巻き線部における厚み(即ち、引出部以外の部分における厚み)は、好ましくは30μm以上60μm以下、より好ましくは35μm以上45μm以下であり得る。コイル導体層の厚みを大きくすることにより、積層コイル部品の抵抗値がより小さくなる。ここにコイル導体層の厚みとは、積層方向に沿ったコイル導体層の厚みをいう。
【0034】
上記コイル導体層の厚みは、以下のようにして測定することができる。
チップのLT面を研磨紙に向けた状態で研磨を行い、コイル導体層のW寸中央部で研磨を停止する。その後、マイクロスコープで観察を行う。コイル導体層のL寸中央部の厚みを、マイクロスコープに付属している測定機能にて測定する。
【0035】
上記接続導体16は、第1絶縁体層11を貫通するように設けられる。接続導体を構成する材料は、上記コイル導体層15に関して記載した材料であり得る。接続導体16を構成する材料は、コイル導体層15を構成する材料と同じであっても異なっていてもよい。好ましい態様において、接続導体16を構成する材料は、コイル導体層15を構成する材料と同じである。好ましい態様において、接続導体を構成する材料は、Agである。
【0036】
上記空隙層21は、いわゆる応力緩和空間として機能する。
【0037】
空隙層21の厚みは、好ましくは1μm以上30μm以下、より好ましくは4μm以上28μm以下、さらに好ましくは10μm以上20μm以下である。空隙層21の厚みを上記の範囲とすることにより、内部応力をより緩和することができ、クラックの発生をより抑制することができる。
【0038】
上記空隙層の厚みは、以下のようにして測定することができる。
チップのLT面を研磨紙に向けた状態で研磨を行い、コイル導体層のW寸中央部で研磨を停止する。その後、マイクロスコープで観察を行う。コイル導体層のL寸中央部に位置する空隙層の厚みを、マイクロスコープに付属している測定機能にて測定する。
【0039】
一の態様において、図2に示されるように、上記空隙層21は、コイルの巻き線方向に垂直な断面において、幅がコイル導体層15の幅よりも大きい。即ち、コイル導体層の両端から、コイル導体層から離れる方向に延伸するように設けられる。
【0040】
一の態様において、巻き線部17における空隙層21は、1つの主面が絶縁体部に接し、他の部分が上記コイル導体層15に接している。空隙層21は一つの主面が第1絶縁体層11に接し、他の面はコイル導体層15に接している。換言すれば、第1絶縁体層11上にある空隙層21は、コイル導体層15により覆われている。
【0041】
本開示の積層コイル部品1において、上記第1絶縁体層11上に上記コイル導体層15および上記第2絶縁体層12が設けられており、上記第1絶縁体層11と上記コイル導体層15との間には空隙層21が設けられている。換言すれば、本開示の積層コイル部品1において、第1絶縁体層11、空隙層21およびコイル導体層15は、この順に積層している。
【0042】
外部電極4,5は、素体2の両端面を覆うように設けられる。上記外部電極は、導電性材料、好ましくはAu、Ag、Pd、Ni、SnおよびCuから選択される1種またはそれ以上の金属材料から構成される。
【0043】
上記外部電極は、単層であっても、多層であってもよい。一の態様において、上記外部電極は、多層、好ましくは2層以上4層以下、例えば3層であり得る。
【0044】
一の態様において、外部電極は多層であり、AgまたはPdを含む層、Niを含む層、またはSnを含む層を含み得る。好ましい態様において、上記外部電極は、AgまたはPdを含む層、Niを含む層、およびSnを含む層からなる。好ましくは、上記の各層は、コイル導体層側から、AgまたはPd、好ましくはAgを含む層、Niを含む層、Snを含む層の順で設けられる。好ましくは、上記AgまたはPdを含む層はAgペーストまたはPdペーストを焼き付けた層であり、上記Niを含む層およびSnを含む層は、めっき層であり得る。
【0045】
本開示の積層コイル部品は、好ましくは、長さが0.4mm以上3.2mm以下であり、幅が0.2mm以上2.5mm以下であり、高さが0.2mm以上2.0mm以下であり、より好ましくは長さが0.6mm以上2.0mm以下であり、幅が0.3mm以上1.3mm以下であり、高さが0.3mm以上1.0mm以下である。
【0046】
本開示の積層コイル部品1において、上記第1絶縁体層の厚みをaとし、上記コイル導体の厚みをbとし、上記空隙層の厚みをcとしたとき、
cとbの比(c/b)は0.10以上、0.70以下であり、
aとbの比(a/b)は0.25以上、1.00以下である。
上記のc/b比およびa/b比を満たす積層コイル部品間のインピーダンスのばらつきは小さい。好ましい態様において、それぞれの積層コイル部品は、直流抵抗が低く、応力緩和効果も大きい。
【0047】
好ましい態様において、
cとbの比(c/b)は0.15以上、0.70以下であり、
aとbの比(a/b)は0.30以上、1.00以下である。
【0048】
より好ましい態様において、
cとbの比(c/b)は0.25以上、0.70以下であり、
aとbの比(a/b)は0.40以上、1.00以下である。
【0049】
好ましい態様において、
cとbの比(c/b)は0.10以上、0.70以下であり、
aとbの比(a/b)は0.25以上、1.00以下であり、
コイル導体の厚みは、30μm以上60μm以下である。
【0050】
より好ましい態様において、
cとbの比(c/b)は0.10以上、0.70以下であり、
aとbの比(a/b)は0.25以上、1.00以下であり、
コイル導体の厚みは、30μm以上60μm以下であり、
第1絶縁体層の厚みは、10μm以上40μm以下である。
【0051】
さらに好ましい態様において、
cとbの比(c/b)は0.10以上、0.70以下であり、
aとbの比(a/b)は0.25以上、1.00以下であり、
コイル導体の厚みは、30μm以上60μm以下であり、
第1絶縁体層の厚みは、10μm以上40μm以下であり、
空隙層の厚みは、4μm以上28μm以下である。
【0052】
上記した本実施形態の積層コイル部品1の製造方法を以下に説明する。本実施形態では、絶縁体部6がフェライト材料から形成される態様について説明する。
【0053】
(1)フェライトペーストの調製
【0054】
まず、フェライト材料を準備する。フェライト材料は、主成分としてFe、Zn、およびNiを含み、所望によりさらにCuを含む。通常、上記フェライト材料の主成分は、実質的にFe、Zn、NiおよびCuの酸化物(理想的には、Fe、ZnO、NiOおよびCuO)から成る。
【0055】
フェライト材料として、Fe、ZnO、CuO、NiO、および必要に応じて添加成分を所定の組成になるように秤量し、混合および粉砕する。粉砕したフェライト材料を乾燥し、仮焼し、仮焼粉末を得る。この仮焼粉末に、所定量の溶剤(ケトン系溶剤など)、樹脂(ポリビニルアセタールなど)、および可塑剤(アルキド系可塑剤など)を加え、プラネタリーミキサー等で混錬した後、さらに3本ロールミル等で分散することでフェライトペーストを作製することができる。
【0056】
上記フェライト材料において、Fe含有量は、Feに換算して、好ましくは40.0モル%以上49.5モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは45.0モル%以上49.5モル%以下であり得る。
【0057】
上記フェライト材料において、Zn含有量は、ZnOに換算して、好ましくは5.0モル%以上35.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは10.0モル%以上30.0モル%以下であり得る。
【0058】
上記フェライト材料において、Cu含有量は、CuOに換算して、好ましくは4.0モル%以上12.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは7.0モル%以上10.0モル%以下である。
【0059】
上記フェライト材料において、Ni含有量は、特に限定されず、上記した他の主成分であるFe、ZnおよびCuの残部とし得る。
【0060】
一の態様において、上記フェライト材料は、Feは、Feに換算して40.0モル%以上49.5モル%以下、Znは、ZnOに換算して5.0モル%以上35.0モル%以下、Cuは、CuOに換算して4.0モル%以上12.0モル%以下、NiOは残部である。
【0061】
本開示において、上記フェライト材料は、さらに添加成分を含んでいてもよい。フェライト材料における添加成分としては、例えばMn、Co、Sn、Bi、Si等が挙げられるが、これに限定されるものではない。Mn、Co、Sn、BiおよびSiの含有量(添加量)は、主成分(Fe(Fe換算)、Zn(ZnO換算)、Cu(CuO換算)およびNi(NiO換算))の合計100重量部に対して、それぞれ、Mn、Co、SnO、Bi、およびSiOに換算して、0.1重量部以上1重量部以下であることが好ましい。また、上記フェライト材料は、さらに製造上不可避な不純物を含んでいてもよい。
【0062】
なお、焼結フェライトにおけるFe含有量(Fe換算)、Mn含有量(Mn換算)、Cu含有量(CuO換算)、Zn含有量(ZnO換算)およびNi含有量(NiO換算)は、焼成前のフェライト材料におけるFe含有量(Fe換算)、Mn含有量(Mn換算)、Cu含有量(CuO換算)、Zn含有量(ZnO換算)およびNi含有量(NiO換算)と実質的に相違ないと考えて差し支えない。
【0063】
(2)コイル導体用導電性ペーストの調製
【0064】
まず、導電性材料を準備する。導電性材料としては、例えば、Au、Ag、Cu、Pd、Ni等が挙げられ、好ましくはAgまたはCu、より好ましくはAgである。所定量の導電性材料の粉末を秤量し、所定量の溶剤(オイゲノールなど)、樹脂(エチルセルロースなど)、および分散剤と、プラネタリーミキサー等で混錬した後、3本ロールミル等で分散することで、コイル導体用導電性ペーストを作製することができる。
【0065】
(3)樹脂ペーストの調製
【0066】
上記積層コイル部品1の空隙層を作製するための樹脂ペーストを調製する。かかる樹脂ペーストは、溶剤(イソホロンなど)に、焼成時に消失する樹脂(アクリル樹脂など)を含有させることにより作製することができる。
【0067】
(4)積層コイル部品の作製
【0068】
(4-1)素体の作製
まず、金属プレートの上に熱剥離シートおよびPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを積み重ね(図示していない)、フェライトペーストを所定回数印刷し、外装となる第1フェライトペースト層31を形成する(図5(a))。この層は第1絶縁体層11に対応する。
【0069】
次に、空隙層21aを形成する箇所に、上記樹脂ペーストを印刷し、樹脂ペースト層32を形成する(図5(b))。
【0070】
次に、引出部18を形成する箇所であって、上記樹脂ペースト層32と端面の間に、上記導電性ペーストを印刷し、引出導体付加層37を形成する(図5(c))。かかる引出導体付加層は、上記した引出部18の肉厚部に対応する。
【0071】
次に、コイル導体層15aを形成する箇所全体に、上記導電性ペーストを印刷し、導電性ペースト層33を形成する(図5(d))。
【0072】
次に、導電性ペースト層33が形成されていない領域に、上記フェライトペーストを印刷し、第2フェライトペースト層34を形成する(図5(e))。第2フェライトペースト層34は、好ましくは上記導電性ペースト層33の外縁部を覆うように設けられる。この層は第2絶縁体層12に対応する。
【0073】
次に、積層方向に隣接するコイル導体層を接続する接続導体を形成する箇所以外の領域に、フェライトペーストを印刷し、第1フェライトペースト層41を形成する(図5(f))。この層は第1絶縁体層11に対応する。上記接続導体を形成する箇所は、ホール42となる。
【0074】
次に、上記のホール42中に導電性ペーストを印刷して接続導体ペースト層43を形成する(図5(g))。
【0075】
次いで、上記の工程(b)~(g)と同様の工程を適宜繰り返して図2および図3に示す各層を形成し(図5(h)~(p)等)、最後に、フェライトペーストを所定回数印刷し、外装となる第1フェライトペースト層71を形成する(図5(q))。この層は第1絶縁体層11に対応する。
【0076】
次に、金属プレートにとりつけたまま圧着した後、冷却を行い金属プレート、PETフィルムの順番で剥離することにより、素子の集合体(未焼成積層体ブロック)が得られる。この未焼成積層体ブロックをダイサーなどで切断して、各素体に個片化する。
【0077】
得られた未焼成の素体をバレル処理することにより、素体の角を削り、丸みを形成する。なお、バレル処理は、未焼成の積層体に対して行ってもよく、焼成後の積層体に対して行ってもよい。また、バレル処理は、乾式または湿式のどちらであってもよい。バレル処理は、素子同士を共擦する方法であってもよく、メディアと一緒にバレル処理する方法であってもよい。
【0078】
バレル処理後、例えば910℃以上935℃以下の温度で未焼成素体を焼成し、積層コイル部品1の素体2を得る。焼成により、樹脂ペースト層が消失し、空隙層21が形成される。
【0079】
(4-2)外部電極の形成
次に、素体2の端面にAgおよびガラスを含む外部電極形成用Agペーストを塗布し、焼き付けすることで下地電極を形成する。次に、電解めっきで下地電極の上に、Ni被膜、Sn被膜を順次形成することにより、外部電極を形成し、図1に示すような積層コイル部品1が得られる。
【0080】
以上、本発明の1つの実施形態について説明したが、本実施形態は種々の改変が可能である。
【0081】
例えば、上記では、各絶縁層に対応するフェライトシートを準備し、このシートに印刷をしてコイルパターンを形成し、これらを圧着して素子を得てもよい。
【0082】
上記した本開示の方法により製造された積層コイル部品は、直流抵抗が低く、大電流が通電可能であり、応力が緩和され、クラックの発生を抑制できる。
【0083】
本開示は、直流抵抗が低く、応力が緩和された積層コイル部品の設計方法を提供する。具体的には、本開示は、
絶縁体部と、
上記絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体層が電気的に接続されたコイルと、
上記絶縁体部の表面に設けられ、上記コイルと電気的に接続された外部電極と
を含み、
上記絶縁体部は、第1絶縁体層および第2絶縁体層が積層された積層体であり、
上記第1絶縁体層上に上記コイル導体層および上記第2絶縁体層が設けられており、
上記第1絶縁体層と上記コイル導体層との間には空隙層が設けられている積層コイル部品の設計方法であって、
上記第1絶縁体層の厚みをa、上記コイル導体の厚みをb、上記空隙層の厚みをcとしたとき、
cとbの比(c/b)が、0.10以上0.70以下の範囲内、
aとbの比(a/b)が、0.25以上1.00以下の範囲内
となるように、上記第1絶縁体層の厚み、上記コイル導体の厚みおよび上記空隙層の厚みを決定するステップを含む設計方法を提供する。本開示の設計方法によれば、直流抵抗が低く、大電流が通電可能で、応力が緩和された積層コイル部品を容易に設計することができる。
【0084】
以下、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【実施例
【0085】
実施例
・フェライトペーストの調製
Fe、ZnO、CuO、およびNiOの粉末を、これらの合計に対してそれぞれ、49.0モル%、25.0モル%、8.0モル%、および残部となるように秤量した。これらの粉末を、混合および粉砕し、乾燥し、700℃で仮焼して、仮焼粉末を得た。この仮焼粉末に、所定量のケトン系溶剤、ポリビニルアセタール、およびアルキド系可塑剤を加え、プラネタリーミキサーで混錬した後、さらに3本ロールミルで分散することでフェライトペーストを作製した。
【0086】
・コイル導体用導電性ペーストの調製
導電性材料として、所定量の銀粉末を準備し、オイゲノール、エチルセルロース、および分散剤と、プラネタリーミキサーで混錬した後、3本ロールミルで分散することで、コイル導体用導電性ペーストを作製した。
【0087】
・樹脂ペーストの調製
イソホロンに、アクリル樹脂を混合することにより、樹脂ペーストを作製した。
【0088】
・積層コイル部品の作製
上記のフェライトペースト、導電性ペースト、および樹脂ペーストを用いて、図5に示す手順により、未焼成の積層体ブロックを作製した。この際、第1絶縁体層の厚みa、コイル導体の厚みb、および空隙層の厚みcが、表1に示す厚さとなるように印刷を行った。
【0089】
次に、積層体ブロックをダイサー等で切断し、素子に個片化した。得られた素子をバレル処理することにより、素子の角を削り、丸みを形成した。バレル処理後、920℃の温度で素子を焼成し、素体を得た。
【0090】
次に、素体の端面にAgおよびガラスを含む外部電極形成用Agペーストを塗布し、焼き付けすることで下地電極を形成した。次に、電解めっきで下地電極の上に、Ni被膜、Sn被膜を順次形成することにより、外部電極を形成して、積層コイル部品を得た。
【0091】
上記で得られた積層コイル部品は、いずれもL(長さ)=1.6mm、W(幅)=0.8mm、T(高さ)=0.8mmであった。
【0092】
評価
上記で得られた積層コイル部品の各10個について、100MHzでのインピーダンスZをアジレント・テクノロジー社製のインピーダンスアナライザ(型番E4991A)を用いて測定し、その平均値を求めた。結果を下記表1に示す。なお、*を付した試料番号1~3は比較例である。また、c/b比およびa/b比に対するインピーダンスZの値を、それぞれ、図6および図7に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
上記の結果から、c/b比が0.10以上0.70以下であり、a/b比が0.25以上1.00以下である、試料番号4~11においては、インピーダンスの変化が小さいため、インピーダンスのばらつきの小さい積層コイル部品を得ることができることが確認された。これらの積層コイル部品は、大電流に対応でき、応力緩和効果も得られる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本開示の積層コイル部品は、インダクタなどとして幅広く様々な用途に使用され得る。
【符号の説明】
【0096】
1…積層コイル部品
2…素体
4,5…外部電極
6…絶縁体部
7…コイル
11…第1絶縁体層
12…第2絶縁体層
15…コイル導体層
16…接続導体
18…引出部
21…空隙層
31…第1フェライトペースト層
32…樹脂ペースト層
33…導電性ペースト層
34…第2フェライトペースト層
41…第1フェライトペースト層
42…ホール
43…接続導体ペースト層
44…樹脂ペースト層
45…導電性ペースト層
46…第2フェライトペースト層
55…導電性ペースト層
56…第2フェライトペースト層
61…第1フェライトペースト層
63…接続導体ペースト層
64…樹脂ペースト層
65…導電性ペースト層
71…第1フェライトペースト層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7