(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】ジシアノシクロヘキサンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 253/22 20060101AFI20221129BHJP
C07C 255/46 20060101ALI20221129BHJP
C07C 209/48 20060101ALI20221129BHJP
C07C 211/18 20060101ALI20221129BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221129BHJP
【FI】
C07C253/22
C07C255/46
C07C209/48
C07C211/18
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019536739
(86)(22)【出願日】2018-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2018029396
(87)【国際公開番号】W WO2019035381
(87)【国際公開日】2019-02-21
【審査請求日】2021-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2017158153
(32)【優先日】2017-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】飯田 昭文
(72)【発明者】
【氏名】中野 絵美
(72)【発明者】
【氏名】神原 豊
【審査官】柳本 航佑
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/046781(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/046782(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105016944(CN,A)
【文献】国際公開第2015/016148(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/066447(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 1/00-409/44
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロヘキサンジカルボン酸及び/若しくはその塩、又は、シクロヘキサンジカルボン酸アンモニア水溶液の加熱濃縮物を、沸点が反応温度以上である溶媒中でアンモニアと反応させることにより、ジシアノシクロヘキサンを得る工程を有
し、
前記溶媒の沸点が350℃以上であり、且つ、前記反応温度が270℃~400℃である、ジシアノシクロヘキサンの製造方法。
【請求項2】
アンモニア水溶液中のフタル酸の水素添加反応により、前記シクロヘキサンジカルボン酸及び/若しくはその塩、又は、前記シクロヘキサンジカルボン酸アンモニア水溶液を得る工程を有する、請求項1に記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
【請求項3】
前記シクロヘキサンジカルボン酸及び/若しくはその塩、又は、前記シクロヘキサンジカルボン酸アンモニア水溶液を得る工程を経た反応液に含まれるアンモニア水溶液の一部を、前記ジシアノシクロヘキサンを得る工程のアンモニア源として用いる、請求項1又は2に記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
【請求項4】
前記シクロヘキサンジカルボン酸アンモニア水溶液を、100~200℃に加熱して、水の少なくとも一部を除去することにより、前記加熱濃縮物を得る工程をさらに有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
【請求項5】
シクロヘキサンジカルボン酸及び/若しくはその塩、又は、シクロヘキサンジカルボン酸アンモニア水溶液の加熱濃縮物を、沸点が反応温度以上である溶媒中でアンモニアと反応させることにより、ジシアノシクロヘキサンを得る工程を有し、
前記反応温度が270℃~400℃であり、
前記沸点が反応温度以上である溶媒が、アルキルナフタレン、ステアリン酸アミド、ステアロニトリル及びトリフェニルメタンからなる群より選択される一種以上である
、ジシアノシクロヘキサンの製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法により、ジシアノシクロヘキサンを得た後、さらに、前記ジシアノシクロヘキサンに対する水素添加反応により、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを得る工程を有する、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジシアノシクロヘキサンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビス(アミノメチル)シクロヘキサンは、エポキシ硬化剤、ポリアミド、ポリウレタン等の原料として使用される工業的に重要な化合物である。そのため、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを製造する方法が検討されている。
例えば、特許文献1及び2には、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが、ジシアノシクロヘキサンの水素添加反応により得ることが開示されている。このジシアノシクロヘキサンも、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを合成するための重要な中間体であるため、効率よく得ることが求められている。
【0003】
特許文献1及び2には、ジシアノシクロヘキサンが、テレフタル酸、テレフタル酸エステル及びテレフタル酸アミドからなる群から選択される少なくとも1種のテレフタル酸又はその誘導体を核水素化し、得られた水添テレフタル酸又はその誘導体、すなわち、シクロヘキサンジカルボン酸又はその誘導体をアンモニアと接触させシアノ化することにより、製造されることが開示されている。このときシアノ化の反応温度は280℃であり、シアノ化は、N,N-ジメチルイミダゾリジノン(沸点:226℃)やエチレングリコールジメチルエーテル(沸点:275℃)の溶媒中で行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5640093号
【文献】特許第5562429号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シクロヘキサンジカルボン酸をアンモニアと接触させ、シアノ化反応を行うとき、不純物が生じる。不純物としては、シアノ化反応の生成物であるジシアノシクロヘキサンがさらに反応して生じるバイプロダクトがあり、具体的には、ジシアノシクロヘキサンの三量体等が挙げられる。このようなバイプロダクトの生成は、目的物であるジシアノシクロヘキサンの収率低下を引き起こしたり、バイプロダクトを生成物から除去する必要を生じさせたりする。そのため、ジシアノシクロヘキサンを効率的に得る観点から、バイプロダクトの生成を抑制することが求められている。
【0006】
本発明は、高収率でジシアノシクロヘキサンが得られ、且つ、不純物の生成を抑えることができる、ジシアノシクロヘキサンの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、シクロヘキサンジカルボン酸のシアノ化反応において、沸点がシアノ化反応温度より高い溶媒中で反応を行うことにより、高収率でジシアノシクロヘキサンが得られ、不純物の生成を抑えることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0008】
[1]
シクロヘキサンジカルボン酸及び/若しくはその塩、又は、シクロヘキサンジカルボン酸アンモニア水溶液の加熱濃縮物を、沸点が反応温度以上である溶媒中でアンモニアと反応させることにより、ジシアノシクロヘキサンを得る工程を有する、ジシアノシクロヘキサンの製造方法。
[2]
アンモニア水溶液中のフタル酸の水素添加反応により、前記シクロヘキサンジカルボン酸及び/若しくはその塩、又は、前記シクロヘキサンジカルボン酸アンモニア水溶液を得る工程を有する、[1]に記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
[3]
前記シクロヘキサンジカルボン酸及び/若しくはその塩、又は、前記シクロヘキサンジカルボン酸アンモニア水溶液を得る工程を経た反応液に含まれるアンモニア水溶液の一部を、前記ジシアノシクロヘキサンを得る工程のアンモニア源として用いる、[1]又は[2]に記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
[4]
前記シクロヘキサンジカルボン酸アンモニア水溶液を、100~200℃に加熱して、水の少なくとも一部を除去することにより、前記加熱濃縮物を得る工程をさらに有する、[1]~[3]のいずれかに記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
[5]
沸点が反応温度以上である溶媒が、アルキルナフタレン、ステアリン酸アミド、ステアロニトリル及びトリフェニルメタンからなる群より選択される一種以上である、[1]~[4]のいずれかに記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
[6]
[1]~[5]のいずれかに記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法により、ジシアノシクロヘキサンを得た後、さらに、前記ジシアノシクロヘキサンに対する水素添加反応により、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを得る工程を有する、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ジシアノシクロヘキサンを高収率で得られ、不純物の生成を抑えることができる、ジシアノシクロヘキサンの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
本実施形態のジシアノシクロヘキサンの製造方法は、シクロヘキサンジカルボン酸及び/若しくはその塩、又は、シクロヘキサンジカルボン酸アンモニア水溶液の加熱濃縮物を、沸点が反応温度以上である溶媒中でアンモニアと反応させることにより、ジシアノシクロヘキサンを得る工程(以下、単に「シアノ化工程」ともいう。)を有する。
【0012】
本実施形態の製造方法に用いられるシクロヘキサンジカルボン酸における、シクロヘキサン環上のカルボン酸基の位置は特に制限されない。シクロヘキサンジカルボン酸としては、具体的には、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、及び1,4-シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。これらの中でも、好ましくは1,4-シクロヘキサンジカルボン酸である。
また、本実施形態におけるシクロヘキサンジカルボン酸は、シス体であっても、トランス体であってもよく、シス体とトランス体との混合物であってもよい。
さらに、本実施形態におけるシクロヘキサンジカルボン酸は、塩の形態も含まれる。本明細書において、シクロヘキサンジカルボン酸は塩の形態も包含されるため、「シクロヘキサンジカルボン酸及び/若しくはその塩」を単に「シクロヘキサンジカルボン酸」とも記載する。
シクロヘキサンジカルボン酸の塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、及びアンモニウム塩等が挙げられる。これら塩は、1種単独であっても、2種以上の混合物であってもよい。また、シクロヘキサンジカルボン酸の塩としては、シクロヘキサンジカルボン酸のアンモニウム塩が好ましい。
【0013】
本実施形態のジシアノシクロヘキサンの製造方法において、原料として、シクロヘキサンジカルボン酸及び/又はその塩を用いてもよく、シクロヘキサンジカルボン酸アンモニア水溶液の加熱濃縮物を用いてもよい。
【0014】
シアノ化工程において原料として用いられるシクロヘキサンジカルボン酸は、常法によって製造して使用してもよく、市販品を入手し使用してもよい。
シクロヘキサンジカルボン酸を製造する場合、シクロヘキサンジカルボン酸は、アンモニア水溶液中のフタル酸に対する水素添加反応によって得ることが好ましい。すなわち、本実施形態のジシアノシクロヘキサンの製造方法は、アンモニア水溶液中のフタル酸に対する水素添加反応(以下、単に「核水添反応」ともいう。)によって、シクロヘキサンジカルボン酸、又は、シクロヘキサンジカルボン酸アンモニア水溶液を得る工程(以下、単に「核水添工程」ともいう。)を含むことが好ましい。
また、フタル酸は、オルト体、メタ体、及びパラ体からなる群より選択される1種であるか、2種以上の混合物であってもよい。フタル酸は、パラ体、すなわち、テレフタル酸であることが好ましい。
【0015】
ジシアノシクロヘキサンの製造方法が核水添工程を有することにより、その工程を経た反応液に含まれるアンモニア水溶液の少なくとも一部を、シアノ化工程に必要なアンモニアとして用いることができる。こうすることによって、アンモニアの有効活用も可能になる。
【0016】
核水添工程では、例えば、まず、反応器内に触媒と水とを仕込んだ後に、その反応器内に水素ガスを所定の圧力になるまで導入し、その圧力を維持して加熱しながら懸濁液を撹拌して、触媒を還元することで活性化する。
触媒としては、例えば、通常の核水添反応に用いられる触媒を採用することができる。触媒としては、例えば、金属、好ましくは貴金属を含む触媒が挙げられる。上記金属としては、具体的には、Ru、Pd、Pt及びRh等からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
触媒は、活性成分としての上記金属を担体上に担持したものであってもよい。上記担体としては、例えば、カーボン、Al2O3、SiO2、SiO2-Al2O3、TiO2、及びZrO2等からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。担体を用いた場合の活性成分である金属の担持量は、担体100質量%に対して、好ましくは0.1~10質量%である。
反応は、懸濁床反応器又は固定床反応器で行うことができる。反応方式は、回分式、半回分式、連続式のいずれも選択できる。
【0017】
また、触媒を活性化する際の系内の圧力は、常圧(気相部を水素置換)であっても、陽圧であってもよい。加圧して陽圧とする場合の系内の圧力は、好ましくは0.1~8MPaである。陽圧を維持するよう適宜水素ガスを反応器内に導入してもよい。さらに、活性化温度は、好ましくは50~250℃である。触媒の活性化時の条件が上記範囲にあることにより、さらに有効かつ確実に触媒を活性化することができる。また、撹拌時間は触媒を活性化させるのに十分な時間であればよい。
【0018】
次に、反応器内を冷却し、さらに系内に残存する水素ガスを系外に排出した後、反応器内に、フタル酸及びアンモニア水溶液を仕込み、さらに水素ガスを所定の圧力になるまで導入する。このとき、フタル酸の仕込み量は、反応液全体に対して、好ましくは2~20質量%である。また、アンモニア水溶液の仕込み量は、フタル酸100モル%に対して、アンモニアが200~400モル%となるような量が好ましい。触媒の使用量に制限はなく、担持されている金属触媒の含有量と反応に用いるフタル酸の量とを勘案し、目的の反応時間になるよう適宜決めればよい。各原料等を上記の範囲内の量となるように用いることで、得られるシクロヘキサンジカルボン酸の収率を高めることができる。
【0019】
次いで、反応器内を所定の温度まで加熱し、核水添反応を進行させる。このときの反応温度は、好ましくは40~150℃である。反応圧力は、好ましくは水素分圧で0.5~15MPaである。なお、反応時間は、核水添反応が十分に進行する時間であればよい。反応条件を上述の範囲内に調整することで、得られるシクロヘキサンジカルボン酸の収率及び選択率を高めることができる。また、反応圧力を上記の範囲内に維持するよう、適宜水素ガスを反応器内に導入してもよい。
【0020】
上述のようにしてシクロヘキサンジカルボン酸を製造した場合、反応液は、アンモニア水溶液と、生成したシクロヘキサンジカルボン酸のアンモニウム塩とを含む。本実施形態の製造方法は、核水添工程において生成したシクロヘキサンジカルボン酸と共にアンモニア水溶液の少なくとも一部を、シアノ化工程に必要なアンモニアとして用いることができる。これによって、アンモニアの有効活用が可能になる。核水添工程後の反応液中のアンモニアのうち、好ましくは5~25質量%のアンモニアをシアノ化工程において用いることが可能である。
【0021】
また、核水添工程を経た反応液から、シクロヘキサンジカルボン酸を濾過等により回収することなく、核水添工程を経た反応液をシアノ化工程の原料液として用いてもよい。濾過する工程を省略することにより、核水添工程からシアノ化工程までの時間を短縮でき、労力及び費用を低減することが可能となる。
【0022】
本実施形態の製造方法は、シアノ化工程に先立って、シクロヘキサンジカルボン酸のアンモニア水溶液(すなわち、シクロヘキサンジカルボン酸を含むアンモニア水溶液)を加熱して、水の少なくとも一部を除去することにより、上記加熱濃縮物を得る工程(以下、単に「加熱濃縮工程」ともいう。)を有することが好ましい。
加熱濃縮工程において、アンモニアの量比は、シクロヘキサンジカルボン酸100モルに対して、好ましくは100モルから200モルである。また、加熱濃縮工程において、初期のアンモニア水溶液中のアンモニアの濃度は、アンモニア水溶液の全体量に対して、好ましくは0.1~10質量%である。
さらに、加熱濃縮物を得る際の加熱温度は、好ましくは70℃~200℃である。加熱濃縮物を得る際の圧力は、陰圧であっても常圧であっても陽圧であってもよい。
【0023】
各成分の濃度及び/又は加熱条件を上記範囲内に調整することにより、シアノ化工程でのジシアノシクロヘキサンの収率がより高くなる傾向にある。特に加熱温度を100℃~200℃の範囲内にすることは、アンモニア水溶液から水を揮発により除去して加熱濃縮物を生成させる観点から好ましい。また、本実施形態において、上記加熱濃縮物をシアノ化工程に用いることは、その加熱濃縮物中に存在するアンモニアを有効にシアノ化反応の原料として用いることができる点で有用である。
【0024】
加熱濃縮工程は、その後のシアノ化工程と連続的に行ってもよい。加熱濃縮物は、液体でもよく、固体でもよい。
すなわち、まず反応器内に、シクロヘキサンジカルボン酸のアンモニア水溶液と、必要に応じて水とを仕込み、系内の圧力が所定の圧力になるまで不活性ガス、及び必要に応じてアンモニアガスを導入する。その後、反応器内を好ましくは100℃~200℃の範囲内に保持すると共に、反応器内の圧力が一定の範囲内を維持するよう、適宜不活性ガスを反応器内に導入したり、反応器内のガスを排出したりしながら、加熱濃縮物を得る。ここで加熱濃縮物は、濾過等の処理を行うことにより固体として単離してもよく、かかる固体は、必要に応じて該固体に含まれる水分を乾燥させる工程に供してもよい。
次に、触媒と、沸点が反応温度以上である溶媒とアンモニアガスとを、加熱濃縮物を含む反応器内に導入し、その反応器内の温度及び圧力を、シアノ化工程に必要な温度及び圧力に調整して、シアノ化反応を進行させてもよい。この場合、アンモニアガスを、加熱濃縮物を得た後に導入すると、アンモニアをより効率的に利用することができるので好ましい。上記の不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、並びにアルゴン及びヘリウムのような希ガス等が挙げられる。ただし、系内に不活性ガスを導入しなくてもよい。
【0025】
シアノ化工程においては、まず、反応器内に、シクロヘキサンジカルボン酸、又は、シクロヘキサンジカルボン酸のアンモニア水溶液の加熱濃縮物と、沸点が反応温度以上である溶媒と、必要に応じて水と、触媒とを仕込み、系内の圧力が所定の圧力になるまで不活性ガスと、適宜アンモニアガスとを導入する。不活性ガス及びアンモニアガスを導入後の系内の所定の圧力は、陰圧であっても、常圧であっても、陽圧であってもよい。その後、反応器内を所定の温度になるまで加熱して、反応器内の圧力が一定の範囲内を維持するよう、適宜不活性ガスを反応器内に導入しつつ、かつ反応器内を撹拌しながら、シアノ化反応を進行させる。
【0026】
本実施形態の製造方法において、反応基質として、シクロヘキサンジカルボン酸を用いるとき、反応器内に、アンモニアを導入することによって、シクロヘキサンジカルボン酸をアンモニアと接触させる。
アンモニアの導入の方法としては、例えば、アンモニア水溶液を添加する方法、及び、アンモニアガスを導入する方法等を挙げることができる。これらの方法は、単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。
また、アンモニアガスを反応器内に導入する場合、その流量は反応のスケール等により適宜調整すればよく、通常シクロヘキサンジカルボン酸1モルに対して1時間あたり0.1~5倍モルであり、好ましくは1時間あたり0.3~4倍モルであり、より好ましくは1時間あたり0.5~3倍モルである。
【0027】
本実施形態の製造方法において、反応基質として、シクロヘキサンジカルボン酸アンモニア水溶液の加熱濃縮物を用いるとき、反応器内に既にアンモニアが存在するが、ジシアノシクロヘキサンへの反応を十分に進行させる観点から、アンモニアの導入をさらに行うことが好ましい。
アンモニアの導入の方法としては、例えば、アンモニア水溶液を添加する方法、及び、アンモニアガスを導入する方法等を挙げることができる。これらの方法は、単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。
また、アンモニアガスを反応器内に導入する場合、その流量は反応のスケール等により適宜調整すればよく、通常シクロヘキサンジカルボン酸アンモニア水溶液の加熱濃縮物に含まれるシクロヘキサンジカルボン酸1モルに対して1時間あたり0.1~5倍モルであり、好ましくは1時間あたり0.3~4倍モルであり、より好ましくは1時間あたり0.5~3倍モルである。
【0028】
反応器内にアンモニアガスを導入するとき、アンモニアガスの使用量は、シクロヘキサンジカルボン酸100モル%に対して、好ましくは200~1000モル%である。これにより、得られるジシアノシクロヘキサンの収率を高めることができる。
【0029】
不活性ガスを反応器内に導入する場合、その流量は反応のスケール等により適宜調整すればよく、通常シクロヘキサンジカルボン酸1モルに対して1時間あたり0~50Lであり、好ましくは1時間あたり0~40Lであり、より好ましくは1時間あたり0~30Lである。
【0030】
シアノ化工程において、シクロヘキサンジカルボン酸の濃度は、アンモニア100モル%に対して、好ましくは50~1000モル%である。また、シアノ化工程において、アンモニア水溶液中のアンモニアの濃度は、アンモニア水溶液の全体量に対して、好ましくは0.1~10質量%である。
【0031】
触媒は、均一系触媒でも不均一系触媒でも使用することができる。
触媒としては、通常のシアノ化反応に用いられる触媒を採用することもでき、具体的には、シリカゲル、アルミナ、シリカアルミナ、ハイドロタルサイト、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化鉄、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化マンガン、酸化タングステン、五酸化バナジウム、五酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化スカンジウム等の金属酸化物である。これらは、単体でも複合酸化物でも担持したものでもよい。担持成分としては、例えば、ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属、スズ、レニウム、マンガン、モリブデン、タングステン、バナジウム、鉄、ニッケル、クロム、ホウ酸、塩酸、リン酸等が挙げられる。
また、触媒としては、過レニウム酸や酸化レニウム等のレニウム化合物、酸化ジブチルスズ等の有機スズ化合物、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)等のルテニウム化合物、及び酸化コバルト等も挙げられる。
これらの中では、シアノ化反応をより有効かつ確実に進行させる観点から、酸化亜鉛及び酸化スズが好ましい。触媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。さらに、触媒の使用量は、シクロヘキサンジカルボン酸100質量%に対して、好ましくは0.1~20質量%である。触媒を上記の範囲内の量とすることにより、得られるジシアノシクロヘキサンの収率を高めることができる。
【0032】
本実施形態の製造方法における反応温度は、シアノ化反応が進行する温度であれば特に制限されず、好ましくは270~400℃であり、より好ましくは280℃~380℃であり、さらに好ましくは290℃~350℃である。
本実施形態の製造方法における反応圧力は、陰圧であっても常圧であっても陽圧であってもよい。
反応時間は、シアノ化反応が十分に進行する時間であればよい。各原料の濃度及び/又は反応条件を上述の範囲内に調整することにより、ジシアノシクロヘキサンの収率を高めることができる。
【0033】
本実施形態の製造方法における、沸点が反応温度以上である溶媒とは、シアノ化工程における反応温度以上である沸点を有する溶媒である。ここで、シアノ化工程における反応温度とは、反応開始時から反応終了時までの温度であり、好ましくはシアノ化のための加熱開始から反応終了時までの温度である。本実施形態において、沸点が反応温度以上である溶媒を用いることにより、ジシアノシクロヘキサンの三量体といったような不純物の生成を抑えることができ、純度の高いジシアノシクロヘキサンを得ることができる。
また、沸点が反応温度以上である溶媒を用いることにより、シアノ化工程において反応温度に至るまでに溶媒が留去することを防ぎ、溶媒の追加によるコストを抑えられる。
さらに、シアノ化工程における反応温度より低い沸点を有する溶媒を用いた場合、シアノ化工程後に反応混合物からジシアノシクロヘキサンを蒸留し精製するとき、かかる溶媒を低い温度で先に留去させる必要がある。このとき、低い沸点を有する溶媒を完全に除去することは難しく、ジシアノシクロヘキサンを留去させて得られる留分に溶媒が混入し、精製が十分にできない傾向にある。したがって、沸点が反応温度以上である溶媒を用いることにより、ジシアノシクロヘキサンと溶媒との分離を容易に行うことができる。
【0034】
溶媒の沸点と反応温度との差は、好ましくは0℃以上であり、より好ましくは20℃以上であり、さらに好ましくは50℃以上である。溶媒の沸点と反応温度との差が0℃以上であることにより、溶媒が反応温度に至るまでに留去することを防ぐことができる傾向にある。また、溶媒の沸点と反応温度との差が20℃以上であることにより、シアノ化工程後の蒸留による精製時に、目的物のジシアノシクロヘキサンを高い純度で得られる傾向にある。
溶媒の沸点と反応温度との差の上限は、特に制限されないが、通常300℃以下である。
【0035】
本実施形態における溶媒の沸点は、好ましくは300℃以上であり、より好ましくは320℃以上であり、さらに好ましくは350℃以上である。沸点が300℃以上であることにより、シアノ化反応が円滑に進行し、且つ、ジシアノシクロヘキサンの三量体といったような不純物の生成を抑えることができる傾向にある。
沸点の上限は、特に制限されないが、通常600℃以下である。沸点の上限は、ジシアノシクロヘキサンの三量体等の不純物の生成をより抑える観点から、好ましくは500℃未満であり、より好ましくは430℃未満であり、さらに好ましくは420℃未満である。
【0036】
沸点が反応温度以上である溶媒としては、具体的には、ヘプタデカン、ノナデカン、ドコサン等の脂肪族アルカン;ヘプタデセン、ノナデセン、ドコセン等の脂肪族アルケン;ヘプタデシン、ノナデシン、ドコシン等の脂肪族アルキン;ウンデシルベンゼン、トリデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン等のアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン及びアルキルナフタレン等のアルキル置換芳香族;2,5-ジクロロ安息香酸、テトラクロロフタル酸無水物等の酸または酸無水物;ウンデカンアミド、ラウリン酸アミド、ステアリン酸アミド等のアミド化合物;テトラデカンニトリル、ヘキサデカンニトリル、2-ナフチルアセトニトリル、ステアロニトリル等のニトリル化合物;p-クロロジフェニルホスフィン、亜リン酸トリフェニル等のリン化合物;1,2-ジフェニルエチルアミン、トリオクチルアミン等のアミン;2,2’-ビフェノール、トリフェニルメタノール等の水酸化物;安息香酸ベンジル、フタル酸ジオクチル等のエステル;4-ジブロモフェニルエーテル等のエーテル;1,2,4,5-テトラクロロ-3-ニトロベンゼン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン等のハロゲン化ベンゼン;2-フェニルアセトフェノン、アントラキノン等のケトン並びにトリフェニルメタン;等が挙げられる。溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
ここでジアルキルベンゼン及びアルキルナフタレンは、芳香環上にアルキル基を有するベンゼンあるいはナフタレンを1種又は2種以上を含む芳香族炭化水素系溶媒であり、市販品として入手できる。
上記の溶媒の中でも、好ましくはアルキルナフタレン、ステアリン酸アミド、ステアロニトリル及びトリフェニルメタンである。
【0037】
本実施形態において使用される、沸点が反応温度以上である溶媒としては、シクロヘキサンジカルボン酸のシアノ化反応の進行を妨げないものであれば、シアノ化工程において、溶媒分子の一部が分解及び/又は変換されるものであってもよい。分子の一部が分解及び/又は変換される溶媒は、分解や変換の前後でシアノ化反応の進行を妨げないものであれば特に制限されないが、分解や変換の後の溶媒の沸点が反応温度以上であることが好ましい。
分解及び/又は変換される溶媒としては、例えば、ステアリン酸アミドが挙げられる。ステアリン酸アミドは、シアノ化工程において、分解や変換が起こり、ステアロニトリルになり得る。ステアロニトリルもまた、沸点が13kPaで274℃であり(常圧での沸点(沸点換算図表による換算値):360℃)、シアノ化工程における溶媒として好適である。
【0038】
本明細書において「溶媒の沸点」とは、液体の飽和蒸気圧が外圧と等しくなる温度である。
本実施形態に使用される溶媒の沸点は、メルクインデックス(Royal Society of Chemistry版)、及びMaterial Safety Data Sheet(MSDS)等の情報に基づく沸点であればよい。この溶媒が2種以上の成分から構成される等の理由から、沸点が、蒸留の開始点温度から終了点温度の範囲のように幅をもって表されるとき、本実施形態においては、蒸留の開始点温度と終了点温度との中間値を沸点とする。
【0039】
沸点が反応温度以上である溶媒の使用量は、シクロヘキサンジカルボン酸の質量に対し、好ましくは0.1倍量以上であり、より好ましくは0.5倍量以上であり、さらに好ましくは1.0倍量以上であり、よりさらに好ましくは1.5倍量以上であり、さらにより好ましくは2.0倍量以上である。溶媒の使用量がシクロヘキサンジカルボン酸の質量の0.1倍量以上であることにより、シアノ化反応が円滑に進行し、且つ、ジシアノシクロヘキサンの三量体といったような不純物の生成を抑えることができる傾向にある。
また、沸点が反応温度以上である溶媒の使用量は、シクロヘキサンジカルボン酸の質量に対し、好ましくは100倍量以下であり、より好ましくは30倍量以下であり、さらに好ましくは10倍量以下である。溶媒の使用量がシクロヘキサンジカルボン酸の質量の100倍量以下であることにより、エネルギー効率良くジシアノシクロヘキサンを生産できる傾向にある。
【0040】
このようにして得られたジシアノシクロヘキサンを含む反応液を、必要に応じて蒸留することにより、ジシアノシクロヘキサンを回収してもよい(以下、この工程を「蒸留工程」という。)。蒸留前に触媒は、分離あるいは失活させても失活させなくてもよい。また、原料を連続的に供給しながら、シアノ化反応と共に蒸留を行う、反応蒸留をすることもできる。
蒸留は、例えば、蒸留器の系内の圧力が3.0kPa~4.0kPa、温度が180~230℃になるよう蒸留器を底部から加熱すると共に頂部で冷却をすることで、器内において気液接触させることで行われる。これにより、蒸留器の頂部からジシアノシクロヘキサンを選択的に抜き出して回収することができる。
【0041】
また、本実施形態においては、蒸留以外の方法によっても、目的物のジシアノシクロヘキサンを回収することができる。
具体的には、反応溶液において、ジシアノシクロヘキサンを含む層と溶媒の層との2層に分かれるのであれば、ジシアノシクロヘキサンを含む層と溶媒の層とを分離して、ジシアノシクロヘキサンを回収してもよい。2層を形成する溶媒としては、脂肪族アルカン、アルキルナフタレン、アルキルベンゼン等が挙げられる。層の分離を利用したジシアノシクロヘキサンの回収では、加熱等が不要であることから、エネルギー的に優位である。
【0042】
本実施形態のビス(アミノメチル)シクロヘキサンの製造方法は、上述のようにして得られたジシアノシクロヘキサンに対する水素添加反応(以下、「ニトリル水添反応」ともいう。)により、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを得る工程(以下、単に「ニトリル水添工程」ともいう。)を有するものである。
ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのニトリル水添反応は、国際公開第WO2018/066447号パンフレットを参照し実施することができる。
【0043】
ニトリル水添工程においては、まず、反応器内にジシアノシクロヘキサンと、溶媒と、触媒とを仕込み、系内の圧力が所定の圧力になるまで水素ガスを導入する。その後、反応器内を所定の温度になるまで加熱して、反応器内の圧力が一定の範囲内を維持するよう、適宜水素ガスを反応器内に導入しつつ、ニトリル水添反応を進行させる。
【0044】
溶媒としては、通常のニトリル水添反応に用いられる溶媒を採用することもでき、具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、及びtert-ブタノール等のアルコール、メタキシレン、メシチレン、及びプソイドキュメンのような芳香族炭化水素、並びに液体アンモニアが挙げられる。溶媒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、触媒としては、通常のニトリル水添反応に用いられる触媒を採用することもでき、具体的には、Ni及び/又はCoを含有する触媒を用いることができる。一般には、Ni及び/又はCoを、Al2O3、SiO2、けい藻土、SiO2-Al2O3、及びZrO2に沈殿法で担持した触媒、ラネーニッケル、あるいはラネーコバルトが触媒として好適に用いられる。これらの中では、ニトリル水添反応をより有効かつ確実に進行させる観点から、ラネーコバルト触媒及びラネーニッケル触媒が好ましい。触媒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。さらに、触媒の使用量は、ジシアノシクロヘキサン100質量%に対して、0.1~150質量%であると好ましく、0.1~20質量%であるとより好ましく、0.5~15質量%であるとさらに好ましい。触媒を上記の範囲内の量となるように用いることで、得られるビス(アミノメチル)シクロヘキサンの収率及び選択率を高めることができる。
【0045】
ニトリル水添工程における、ジシアノシクロヘキサンの濃度は、反応効率の観点から、反応液の全体量に対して、1~50質量%であると好ましく、2~40質量%であるとより好ましい。また、ニトリル水添工程における反応温度は、40~150℃であると好ましく、反応圧力は、水素分圧で0.5~15MPaであると好ましい。なお、反応時間は、ニトリル水添反応が十分に進行する時間であればよい。反応条件を上述の範囲内に調整することで、得られるビス(アミノメチル)シクロヘキサンの収率及び選択率を高めることができる。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例に基づいて本実施形態をさらに詳細に説明するが、本実施形態は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
[実施例1]
撹拌羽根、ガス導入管、熱電対及び脱水装置を付帯した100mLの5口フラスコ内に、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(以下、1,4-CHDAとも記載する。)10g(0.06mol)、触媒として酸化亜鉛(関東化学株式会社製)0.24g及び溶媒としてアルキルナフタレン(松村石油社製バーレルプロセス油B-28AN、沸点:430℃)20gを仕込んだ。その後、加熱を開始し、170℃で窒素ガス(流量:20NmL/min)と、アンモニアガス(流量:52NmL/min)とを導入した。さらに昇温し、270℃にて反応液でのバブリングを開始し、300℃にまで昇温した。300rpmで撹拌しながら3.5時間、シアノ化反応を行った。
反応終了後、反応生成物をテトラヒドロフランに溶解させ、さらに液中の触媒を濾過にて除去した後、ガスクロマトグラフィー(以下、GCとも記載する。)(島津製作所社製型式名「GC2010 PLUS」、カラム:製品名「HP-5ms」、アジレント・テクノロジー株式会社製、長さ30m×内径0.25mm、膜厚0.25μm)により分析した。その結果、1,4-ジシアノシクロヘキサン(以下、1,4-CHDNとも記載する。)の収率は86.7mol%であった。
【0048】
なお、GCの分析条件は以下のとおりであった。
キャリアーガス:He(constant pressure:73.9kPa)
注入口温度:300℃
検出器:FID
検出器温度:300℃
カラムオーブン温度:100℃で開始し、10℃/minで300℃まで昇温し300℃で30分間保持)
【0049】
[実施例2]
撹拌羽根、ガス導入管、熱電対及び脱水装置を付帯した100mLの5口フラスコ内に、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸10g(0.06mol)、触媒として酸化亜鉛(関東化学株式会社製)0.24g及び溶媒としてステアリン酸アミド(東京化成社製、沸点:12Torr,250~251℃(常圧での沸点(沸点換算図表による換算値):410℃))20gを仕込んだ。その後、加熱を開始し、170℃で窒素ガス(流量:20NmL/min)と、アンモニアガス(流量:52NmL/min)とを導入した。さらに昇温し、270℃にて反応液中でのバブリングを開始し、300℃にまで昇温した。
300rpmで撹拌しながら3.5時間、シアノ化反応を行った。
反応終了後、実施例1と同様の操作を行い、GCにより分析を行った。
1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は89.2mol%であった。
【0050】
[実施例3]
撹拌羽根、ガス導入管、熱電対及び脱水装置を付帯した100mLの5口フラスコ内に、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸10g(0.06mol)、触媒として酸化亜鉛(関東化学株式会社製)0.24g及び溶媒としてステアロニトリル(東京化成社製、沸点:13kPa,274℃(常圧での沸点(沸点換算図表による換算値):360℃))20gを仕込んだ。その後、加熱を開始し、170℃で窒素ガス(流量:20NmL/min)と、アンモニアガス(流量:52NmL/min)とを導入した。さらに昇温し、270℃にて反応液中でのバブリングを開始し、300℃にまで昇温した。300rpmで撹拌しながら3.5時間、シアノ化反応を行った。
反応終了後、実施例1と同様の操作を行い、GCにより分析を行った。
1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は88.7mol%であった。
【0051】
[実施例4]
撹拌羽根、ガス導入管、熱電対及び脱水装置を付帯した100mLの5口フラスコ内に、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸10g(0.06mol)、触媒として酸化亜鉛(関東化学株式会社製)0.24g及び溶媒としてトリフェニルメタン(和光社製、沸点:359℃)20gを仕込んだ。その後、加熱を開始し、170℃で窒素ガス(流量:20NmL/min)と、アンモニアガス(流量:52NmL/min)とを導入した。さらに昇温し、270℃にて反応液中へのバブリングを開始し、300℃にまで昇温した。300rpmで撹拌しながら3.5時間、シアノ化反応を行った。
反応終了後、実施例1と同様の操作を行い、GCにより分析を行った。
1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は91.5mol%であった。
【0052】
[実施例5]
撹拌羽根、ガス導入管、熱電対及び脱水装置を付帯した500mLの5口フラスコ内に、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸100g(0.58mol)、触媒として酸化亜鉛(関東化学株式会社製)0.80g及び溶媒としてアルキルナフタレン(松村石油社製バーレルプロセス油B-28AN、沸点:430℃)200gを仕込んだ。その後、加熱を開始し、170℃で窒素ガス(流量:68NmL/min)と、アンモニアガス(流量:174NmL/min)とを導入した。さらに昇温し、270℃にて反応液でのバブリングを開始し、300℃にまで昇温した。200rpmで撹拌しながら8時間、シアノ化反応を行った。
反応終了後、実施例1と同様の操作を行い、GCにより分析を行った。
1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は92.0mol%であった。
【0053】
[実施例6]
撹拌羽根、ガス導入管、熱電対及び脱水装置を付帯した500mLの5口フラスコ内に、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸100g(0.58mol)、触媒として酸化亜鉛(関東化学株式会社製)0.80g及び溶媒としてアルキルナフタレン(松村石油社製バーレルプロセス油B-28AN、沸点:430℃)201gを仕込んだ。その後、加熱を開始し、170℃で窒素ガス(流量:68NmL/min)と、アンモニアガス(流量:348NmL/min)とを導入した。さらに昇温し、270℃にて反応液でのバブリングを開始し、300℃にまで昇温した。200rpmで撹拌しながら5時間、シアノ化反応を行った。
反応終了後、実施例1と同様の操作を行い、GCにより分析を行った。
1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は89.0mol%であった。
【0054】
[実施例7]
撹拌羽根、ガス導入管、熱電対及び脱水装置を付帯した500mLの5口フラスコ内に、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸50g(0.29mol)、触媒として酸化亜鉛(関東化学株式会社製)0.40g及び溶媒としてアルキルナフタレン(松村石油社製バーレルプロセス油B-28AN、沸点:430℃)151gを仕込んだ。その後、加熱を開始し、170℃で窒素ガス(流量:34NmL/min)と、アンモニアガス(流量:174NmL/min)とを導入した。さらに昇温し、270℃にて反応液でのバブリングを開始し、300℃にまで昇温した。200rpmで撹拌しながら8時間、シアノ化反応を行った。
反応終了後、実施例1と同様の操作を行い、GCにより分析を行った。
1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は94.3mol%であった。
【0055】
[実施例8]
撹拌羽根、ガス導入管、熱電対及び脱水装置を付帯した500mLの5口フラスコ内に、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸100g(0.58mol)、触媒として酸化亜鉛(関東化学株式会社製)0.80g及び溶媒としてアルキルナフタレン(松村石油社製バーレルプロセス油B-28AN、沸点:430℃)201gを仕込んだ。その後、加熱を開始し、170℃で窒素ガス(流量:68NmL/min)と、アンモニアガス(流量:348NmL/min)とを導入した。さらに昇温し、270℃にて反応液でのバブリングを開始し、300℃にまで昇温した。100rpmで撹拌しながら7時間、シアノ化反応を行った。
反応終了後、実施例1と同様の操作を行い、GCにより分析を行った。
1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は91.9mol%であった。
【0056】
[実施例9]
撹拌羽根、ガス導入管、熱電対及び脱水装置を付帯した500mLの5口フラスコ内に、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸100g(0.58mol)、触媒として酸化亜鉛(関東化学株式会社製)0.81g及び溶媒としてアルキルナフタレン(松村石油社製バーレルプロセス油B-28AN、沸点:430℃)201gを仕込んだ。その後、加熱を開始し、170℃で窒素ガス(流量:68NmL/min)と、アンモニアガス(流量:348NmL/min)とを導入した。さらに昇温し、270℃にて反応液でのバブリングを開始し、300℃にまで昇温した。300rpmで撹拌しながら5時間、シアノ化反応を行った。
反応終了後、実施例1と同様の操作を行い、GCにより分析を行った。
1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は93.1mol%であった。
【0057】
[実施例10]
撹拌羽根、ガス導入管、熱電対及び脱水装置を付帯した500mLの5口フラスコ内に、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸100g(0.58mol)、触媒として酸化亜鉛(関東化学株式会社製)0.80g及び溶媒としてアルキルナフタレン(松村石油社製バーレルプロセス油B-28AN、沸点:430℃)201gを仕込んだ。その後、加熱を開始し、アンモニアガス(流量:174NmL/min)を導入した。さらに昇温し、270℃にて反応液でのバブリングを開始し、300℃にまで昇温した。200rpmで撹拌しながら9時間、シアノ化反応を行った。
反応終了後、実施例1と同様の操作を行い、GCにより分析を行った。
1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は94.1mol%であった。
【0058】
[実施例11]
撹拌羽根、ガス導入管、熱電対及び脱水装置を付帯した500mLの5口フラスコ内に、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸100g(0.58mol)、触媒として酸化亜鉛(関東化学株式会社製)0.20g及び溶媒としてアルキルナフタレン(松村石油社製バーレルプロセス油B-28AN、沸点:430℃)204gを仕込んだ。その後、加熱を開始し、170℃で窒素ガス(流量:68NmL/min)と、アンモニアガス(流量:348NmL/min)とを導入した。さらに昇温し、270℃にて反応液でのバブリングを開始し、300℃にまで昇温した。200rpmで撹拌しながら7時間、シアノ化反応を行った。
反応終了後、実施例1と同様の操作を行い、GCにより分析を行った。
1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は95.2mol%であった。
【0059】
[実施例12]
撹拌羽根、ガス導入管、熱電対及び脱水装置を付帯した500mLの5口フラスコ内に、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸100g(0.58mol)、触媒として酸化亜鉛(関東化学株式会社製)0.40g及び溶媒としてアルキルナフタレン(松村石油社製バーレルプロセス油B-28AN、沸点:430℃)200gを仕込んだ。その後、加熱を開始し、170℃で窒素ガス(流量:68NmL/min)と、アンモニアガス(流量:348NmL/min)とを導入した。さらに昇温し、270℃にて反応液でのバブリングを開始し、300℃にまで昇温した。200rpmで撹拌しながら6時間、シアノ化反応を行った。
反応終了後、実施例1と同様の操作を行い、GCにより分析を行った。
1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は93.0mol%であった。
【0060】
[実施例13]
撹拌羽根、ガス導入管、熱電対及び脱水装置を付帯した500mLの5口フラスコ内に、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸100g(0.58mol)、触媒として酸化亜鉛(関東化学株式会社製)0.40g及び溶媒としてアルキルナフタレン(松村石油社製バーレルプロセス油B-28AN、沸点:430℃)200gを仕込んだ。その後、加熱を開始し、170℃で窒素ガス(流量:68NmL/min)と、アンモニアガス(流量:348NmL/min)とを導入した。さらに昇温し、270℃にて反応液でのバブリングを開始し、300℃にまで昇温した。300rpmで撹拌しながら7時間、シアノ化反応を行った。
反応終了後、実施例1と同様の操作を行い、GCにより分析を行った。
1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は95.5mol%であった。
【0061】
[実施例14]
撹拌羽根、ガス導入管、熱電対及び脱水装置を付帯した500mLの5口フラスコ内に、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸100g(0.58mol)、触媒として酸化亜鉛(関東化学株式会社製)1.60g及び溶媒としてアルキルナフタレン(松村石油社製バーレルプロセス油B-28AN、沸点:430℃)206gを仕込んだ。その後、加熱を開始し、170℃で窒素ガス(流量:68NmL/min)と、アンモニアガス(流量:348NmL/min)とを導入した。さらに昇温し、270℃にて反応液でのバブリングを開始し、300℃にまで昇温した。200rpmで撹拌しながら5時間、シアノ化反応を行った。
反応終了後、実施例1と同様の操作を行い、GCにより分析を行った。
1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は81.0mol%であった。
【0062】
[実施例15]
撹拌羽、ガス導入管、熱電対及び脱水装置を付帯した100mLの5口フラスコ内に、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸アンモニア水溶液の加熱濃縮物12g(0.06mol(1.8アンモニウム塩として物質量を算出した。))、触媒として酸化亜鉛(関東化学株式会社製)0.24g及び溶媒としてアルキルナフタレン(松村石油社製バーレルプロセス油B-28AN、沸点:430℃)20gを仕込んだ。その後、加熱を開始し、170℃で窒素ガス(流量:20mL/min)と、アンモニアガス(流量:52mL/min)とを導入した。さらに昇温し、270℃にて反応液でのバブリングを開始し、300℃にまで昇温した。300rpmで撹拌しながら3.5時間、シアノ化反応を行った。
反応終了後、実施例1と同様の操作を行い、GCにより分析を行った。
1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は85.7mol%であった。
1,4-シクロヘキサンジカルボン酸アンモニア水溶液の加熱濃縮物は以下のとおり調製した。
まず、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸50g(0.29mol)、28質量%アンモニア水45g及び水128gを仕込んだ。減圧にて水を留去した後、70℃で2時間乾燥した。元素分析により1,4-シクロヘキサンジカルボン酸の物質量を1としたとき、1.8倍モルのアンモニア塩となっていることを確認した。
【0063】
[比較例1]
撹拌羽根、ガス導入管、熱電対及び脱水装置を付帯した100mLの5口フラスコ内に、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸30g(0.17mol)、触媒として酸化亜鉛(関東化学株式会社製)0.25g、溶媒として1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(東京化成社製、沸点:220℃)30.1g、28質量%アンモニア水23.5g及び水6.7gを仕込んだ。その後、加熱を開始し、170℃で窒素ガス(流量:20NmL/min)と、アンモニアガス(流量:52NmL/min)とを導入した。さらに昇温し、270℃にて反応液中へのバブリングを開始し、300℃にまで昇温した。300rpmで撹拌しながら6.5時間、シアノ化反応を行った。
反応終了後、反応生成物をテトラヒドロフランの代わりにメタノールに溶解させたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、GCにより分析を行った。
1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は9.7mol%であった。
【0064】
[比較例2]
撹拌羽根、ガス導入管、熱電対及び脱水装置を付帯した100mLの5口フラスコ内に、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸30g(0.17mol)、触媒として酸化亜鉛(関東化学株式会社製)0.24g、溶媒としてトリエチレングリコール(東京化成社製、沸点:276℃)6.1g、28質量%アンモニア水23.5g及び水6.7gを仕込んだ。その後、加熱を開始し、170℃で窒素ガス(流量:20NmL/min)と、アンモニアガス(流量:52NmL/min)とを導入した。さらに昇温し、270℃にて反応液中へのバブリングを開始し、300℃にまで昇温した。300rpmで撹拌しながら6.5時間、シアノ化反応を行った。
反応終了後、反応生成物をテトラヒドロフランの代わりにメタノールに溶解させたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、GCにより分析を行った。
1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は54.6mol%であった。
【0065】
[比較例3]
撹拌羽根、ガス導入管、熱電対及び脱水装置を付帯した100mLの5口フラスコ内に、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸10g(0.06mol)、触媒として酸化亜鉛(関東化学株式会社製)0.24g及び溶媒としてn-アルキルベンゼン(Great Orient Chemical(Taicang)社製、沸点:293.5℃(蒸留温度:280~307℃))21gを仕込んだ。その後、加熱を開始し、170℃で窒素ガス(流量:20NmL/min)と、アンモニアガス(流量:52NmL/min)とを導入した。さらに昇温し、270℃にて反応液中へのバブリングを開始し、300℃にまで昇温した。300rpmで撹拌しながら3.5時間、シアノ化反応を行った。
反応終了後、実施例1と同様の操作を行い、GCにより分析を行った。
1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は51.2mol%であった。
【0066】
実施例1~4の仕込み、反応条件、結果を表1に示した。
実施例5~9の仕込み、反応条件、結果を表2に示した。
実施例10~14の仕込み、反応条件、結果を表3に示した。
実施例15の仕込み、反応条件、結果を表4に示した。
比較例1~3の仕込み、反応条件、結果を表5に示した。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
表中、高沸物とは、ジシアノシクロヘキサンが三量化してトリアジン環を形成した構造を有する不純物である。1,4-ジシアノシクロヘキサンに対する高沸物の割合は、高沸物(ジシアノシクロヘキサンが三量化してトリアジン環を形成した化合物)のmol%を、1,4-CHDNのmol%で徐した値に100を乗じた値(%)である。
N/Aとは、測定していないことを表す。
【0073】
本出願は、2017年 8月18日出願の日本特許出願(特願2017-158153号)に基づくものであり、それらの内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、高収率でジシアノシクロヘキサンが得られ、且つ、不純物の生成を抑えることができる、ジシアノシクロヘキサンの製造方法を提供することができ、エポキシ硬化剤、ポリアミド、ポリウレタン等の原材料として産業上の利用可能性を有する。