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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】自動車用構造部材、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 21/15 20060101AFI20221129BHJP
   B62D 25/04 20060101ALI20221129BHJP
   B62D 25/20 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
B62D21/15 Z
B62D25/04 Z
B62D25/20 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020093449
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021187259
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2021-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】二塚 貴之
(72)【発明者】
【氏名】堺谷 智宏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健太郎
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-086692(JP,A)
【文献】特開2010-215092(JP,A)
【文献】特開平04-143174(JP,A)
【文献】国際公開第2014/185258(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/111098(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08
B62D 25/14-29/04
B60R 19/00-19/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天板部の両側にそれぞれ側壁部及びフランジ部が連続する断面ハット形状からなる2つのハット断面部材における、対向するフランジ部同士をそれぞれ接合して閉断面形状を構成する中空部材を有し、
上記中空部材は、2つの天板部の対向する方向を高さ方向とした場合、一方のフランジ部同士の接合面である第1合わせ面の高さ方向の位置と、他方のフランジ部同士の接合面である第2合わせ面の高さ方向の位置と、が異なり、
更に、
上記中空部材の一方の壁部を構成する上記2つのハット断面部材の側壁部のうちの一方のハット断面部材側の側壁部の外壁面、及び、上記中空部材の他方の壁部を構成する上記2つのハット断面部材の側壁部のうちの他方のハット断面部材側の側壁部の外壁面に、それぞれ当接する一対の板材と、
上記一対の板材を連結して上記一対の板材間の距離が広がることを拘束する連結部材と、
を備える1以上の補強部材を有することを特徴とする自動車用構造部材。
【請求項2】
上記連結部材は、上記天板部の幅方向に延在して上記板材が当接する2つの側壁部及び上記一対の板材を貫通すると共に軸方向端部に雄ねじ部が形成された軸部材と、上記軸部材の雄ねじ部に螺合し上記側壁部の外壁面に上記板材を挟んで対向するナット部材と、からなることを特徴とする請求項1に記載した自動車用構造部材。
【請求項3】
上記連結部材は、一端部が上記一対の板材のうちの一方の板材と一体に構成され、上記天板部の幅方向に延在して上記板材が当接する2つの側壁部及び上記一対の板材のうちの他方の板材を貫通すると共に上記他方の板材側の軸方向端部に雄ねじ部が形成された軸部材と、上記軸部材の雄ねじ部に螺合し上記側壁部に外壁面に上記他方の板材を挟んで対向するナット部材と、からなることを特徴とする請求項1に記載した自動車用構造部材。
【請求項4】
閉断面形状の自動車用構造部材の製造方法であって、
天板部の両側にそれぞれ側壁部及びフランジ部が連続する断面ハット形状からなる2つのハット断面部材における、対向するフランジ部同士をそれぞれ接合した閉断面形状を形成し、2つの天板部の対向する方向を高さ方向とした場合、一方のフランジ部同士の接合面である第1合わせ面の高さ方向の位置と、他方のフランジ部同士の接合面である第2合わせ面の高さ方向の位置と、が異なる中空部材を作製し、
軸方向両端部の少なくとも一方の端部に雄ねじ部が形成された軸部材と、上記軸部材の雄ねじ部に螺合可能なナット部材を用意し、
上記中空部材の一方の壁部を構成する上記2つのハット断面部材の側壁部のうちの一方のハット断面部材側の側壁部、及び、上記中空部材の他方の壁部を構成する上記2つのハット断面部材の側壁部のうちの他方のハット断面部材側の側壁部に対し、上記軸部材が貫通可能な貫通穴をそれぞれ開口し、
その対をなす2つの貫通穴に上記軸部材を貫通させ、上記貫通穴を設けた側壁部から突出した上記軸部材の端部に対し、板材としてのワッシャ部材を取り付けると共に、ナット部材を螺合し締め付けることを特徴とする自動車用構造部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天板部の両側にそれぞれ側壁部及びフランジ部が連続する断面ハット形状からなる2つのハット断面部材で閉断面形状を構成する自動車用の構造部材(中空部材)に係るものである。本発明は、2つの天板部の対向方向に沿った方向から入力される衝突荷重による曲げ変形に対し、特に耐衝突性能を有する構造部材を提供する技術である。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車分野では、乗員保護の観点から衝突安全基準の厳格化が進められており、高強度鋼の適用拡大や衝突安全性能に優れる車両開発が強く求められている。
ここで、衝突の形態としては、軸圧壊する衝突形態と、曲げ変形する衝突形態とがある。軸圧壊する衝突形態では、自動車前面から入力される衝突荷重を受けるクラッシュボックスやフロントサイドメンバのように、部材の長手方向が衝突方向と一致して軸圧壊が発生する。曲げ変形する衝突形態では、側面衝突におけるBピラーやサイドシルのように、構造部材の側面に衝突荷重が負荷されて部材が曲げ変形する。両方の形態は、いずれも、部材が座屈変形することで衝突エネルギーを吸収し、耐衝突性能を発揮する。
【0003】
耐衝突性能を向上させる技術の1つとして、補強部材を取り付けることで構造部材の強度を向上させる技術が提案されている。例えば、特許文献1には、構造部材の内部に複数個のバルクヘッドを設けると共にバルクヘッドの間に補強材を設けることで、変形を抑制する技術が挙げられている。また、特許文献2には、構造部材の形状に沿った断面がL字状あるいはコの字状の補強部材を、構造部材の内側あるいは外側に配置することで、構造部材の稜線を中心に底板部と側壁部を補強する技術が挙げられている。更に特許文献3、4には、構造部材の内側に発泡材を充填する、あるいは発砲充填した補強部材を衝突時に変形しやすい屈曲部に配置することで、変形を抑制する技術が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-20267号公報
【文献】WO2017-030191号公報
【文献】特開2002-36413号公報
【文献】特開2017-159896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、構造部材に対し、単純に補強部材を取り付けた場合、耐衝突性能は向上するが、部品点数の増加を招いて必要以上に重量が増加したり、金型の増加を招いたりして、コスト面の課題がある。
またこのような方法では、特に、広い領域を補強部材で補強するにつれて、重量増加が顕著となる。また耐衝突性能の観点から、構造部材や補強部材には高強度鋼板が適用される傾向にあるため、寸法精度の確保や溶接性の低下など、生産性やコスト面に課題がある。
一方で、発泡充填材による補強は、生産工程の複雑化が懸念され、リサイクル性の観点からも課題がある。また、部分的に発砲充填部材を取り付ける場合、部材取付けに接着が用いられるが、変形途中でのはく離や経年劣化などの接着性に課題があり、安定した耐衝突性能の確保が困難であると考えられる。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、補強による重量の増加を抑えつつ、簡便に耐衝突性能を向上させることが可能な自動車用構造部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記のような課題に対して、プレス加工による補強部材の部品点数を増加させずに、簡便に耐衝突性能を向上させる構造部材について、鋭意検討した結果、以下発明をなした。
課題解決のために、本発明の一態様は、天板部の両側にそれぞれ側壁部及びフランジ部が連続する断面ハット形状からなる2つのハット断面部材における、対向するフランジ部同士をそれぞれ接合して閉断面形状を構成する中空部材を有し、上記中空部材は、2つの天板部の対向する方向を高さ方向とした場合、一方のフランジ部同士の接合面である第1合わせ面の高さ方向の位置と、他方のフランジ部同士の接合面である第2合わせ面の高さ方向の位置と、が異なり、更に、上記中空部材の一方の壁部を構成する上記2つのハット断面部材の側壁部のうちの一方のハット断面部材側の側壁部の外壁面、及び、上記中空部材の他方の壁部を構成する上記2つのハット断面部材の側壁部のうちの他方のハット断面部材側の側壁部の外壁面に、それぞれ当接する一対の板材と、上記一対の板材を連結して上記一対の板材間の距離が広がることを拘束する連結部材と、を備える1以上の補強部材を有することを要旨とする。
【0007】
また、本発明の他の態様は、閉断面形状の自動車用構造部材の製造方法であって、天板部の両側にそれぞれ側壁部及びフランジ部が連続する断面ハット形状からなる2つのハット断面部材における、対向するフランジ部同士をそれぞれ接合した閉断面形状を形成し、2つの天板部の対向する方向を高さ方向とした場合、一方のフランジ部同士の接合面である第1合わせ面の高さ方向の位置と、他方のフランジ部同士の接合面である第2合わせ面の高さ方向の位置と、が異なる中空部材を作製し、軸方向両端部の少なくとも一方の端部に雄ねじ部が形成された軸部材と、上記軸部材の雄ねじ部に螺合可能なナット部材を用意し、上記中空部材の一方の壁部を構成する上記2つのハット断面部材の側壁部のうちの一方のハット断面部材側の側壁部、及び、上記中空部材の他方の壁部を構成する上記2つのハット断面部材の側壁部のうちの他方のハット断面部材側の側壁部に対し、上記軸部材が貫通可能な貫通穴をそれぞれ開口し、その対をなす2つの貫通穴に上記軸部材を貫通させ、上記貫通穴を設けた側壁部から突出した上記軸部材の端部に対し、板材としてのワッシャ部材を取り付けると共に、ナット部材を螺合し締め付けることを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の態様によれば、補強による重量の増加を抑えつつ、簡便に耐衝突性能を向上させることが可能な自動車用構造部材を提供することが可能となる。
すなわち、本発明の態様によれば、構造部材(中空部材)の対向する2つの壁部を、一対の板材と連結部材で連結する。これによって、本発明の態様によれば、衝突時の部材断面変形を抑制し、特に曲げ変形における衝突荷重を向上させることが可能となる。
また、本発明の態様によれば、例えば、高強度化による溶接性の低下を懸念し、溶接による接合手法を回避しつつ、簡便な手法で衝突性能を向上させることが可能となる。
更に、本発明の態様によれば、プレスや曲げなどの加工によって得られる補強部材を用いないため、部品点数の増加による重量増加や、金型増加によるコスト増加を避けるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に基づく実施形態に係る中空部材を示す斜視図である。
図2】本発明に基づく実施形態に係る中空部材の断面図である。
図3】本実施形態における補強部材の配置を説明する図である。
図4】本発明に基づく実施形態に係る板材を構成するワッシャ部材を示す斜視図である。
図5】本実施形態における補強部材の別例を示す図である。
図6】実施例における3点曲げ解析条件を説明する側面図である。
図7】実施例における3点曲げ解析条件を説明する斜視図である。
図8】上側の天板部から下側の天板部に向かう方向に荷重を負荷した際の挙動を示す図である。
図9】荷重負荷のストローク(押込み量)と荷重との関係の一例を示す図である。
図10】板材(プレート)と連結部材の軸の配置の基準を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
(構成)
本実施形態では、図1及び図2に示すような天板部10A、11Aの両側にそれぞれ側壁部10B、11B及びフランジ部10C、11Cが連続する断面ハット形状からなる2つのハット断面部材10、11について、左右の対向するフランジ部10C、11C同士を接合して閉断面形状を作成して中空部材とする。その中空部材を、補強すべき自動車用構造部材1(以下、単に構造部材1とも記載する。)とする。フランジ部10C、11C同士の接合は、例えば、スポット溶接にて行われる。
【0011】
中空部材(構造部材1)の左側の壁部(一方の壁部)は、2つのハット断面部材10、11の左側の側壁部10B、11B及びフランジ部10C、11Cで構成され、右側の壁部(他方の壁部)は、2つのハット断面部材10、11の右側の側壁部10B、11B及びフランジ部10C、11Cで構成される。
ここで、右側で対応するフランジ部10C、11C同士の接合面を、第1合わせ面S2と、左側で対向するフランジ部10C、11C同士の接合面を、第2合わせ面S1と記載する。
【0012】
本明細書では、図1及び図2に示すように、2つのハット断面部材10、11の天板部10A、11A同士が上下で対向配置させた状態の姿勢で説明する。本実施形態では、上側のハット断面部材10側の天板部10Aに対し構造部材1側方からの衝撃が入力しやすい場合とする。
また、本明細書では、2つの天板部10A、11Aの対向する方向を、高さ方向と呼ぶ。
そして、本実施形態では、2つの天板部10A、11Aのうちの一方の天板部を基準とした、右側の第1合わせ面S2の高さL2と、左側の第2合わせ面S1の高さL1とが異なるように設定する。
【0013】
対向する2つの天板部10A、11A間の距離をHとし、第1合わせ面S2の高さL2と第2合わせ面S1の高さL1との差をh(=|L1-L2|)とした場合、本実施形態では、右側の第1合わせ面S2の高さL2の高さ方向の位置と、左側の第2合わせ面S1の高さL1の高さ方向の位置とが異なる。この場合、下記(1)式を満足することが好ましい。
0 < h ≦ 0.55H ・・・(1)
ここで、第1合わせ面S2と第2合わせ面S1との間の高さの差hが、天板部間の高さHの0.55倍より大きくなった場合は、衝突荷重が負荷されていくと、衝突過程における変形のバランスが大きく崩れ、断面が左右の一方向に折れ曲がる(平行四辺形を押しつぶすイメージ)ため、変形抵抗が大きく低下すると考えられる。
【0014】
本実施形態では、2つのハット断面部材10、11として、同一断面形状の部材を採用し、2つのハット断面部材10、11のうち一方の天地を逆にして接合することで、閉断面形状の中空部材としている。このため、近位の天板部10Aに対する右側の第1合わせ面S2の高さと、近位の天板部11Aに対する左側の第2合わせ面S1の高さが等しくなっている。また、中空部材の高さ方向中央位置に対する左右の合わせ面S1、S2の高さa、bが等しくなっている。これらの値は左右で異なっていてもよい。
【0015】
もっとも、この2つのハット断面部材10、11は、同じ寸法である必要はない。例えば、上側のハット断面部材10の高さに比べて、下側のハット断面部材11の高さの方が低くても構わない。ハット断面部材10、11の高さは、天板部に対する左右のフランジ部の高さの平均値位置での高さとする。2つのハット断面部材10、11の高さ比は、例えば高さが大きい方のハット断面部材10、11と高さが低い方のハット断面部材10、11との高さの比を、1:1~1:0.5とする。
【0016】
また、対向する2つの天板部10A、11Aは互いに平行でなくてもよく、一方の天板部に対し他方の天板部が傾斜していても良い。
なお、各天板部10A、11Aや側壁部10B、11Bに、長手方向に向けて延びる1又は2以上のビードが形成されていても良い。
また、図1やその他の図面には、実施例における部材の寸法を併記しているが、この寸法は、本発明を何ら限定するものではない。
【0017】
本実施形態では、上記のような形状の中空部材からなる構造部材1に対し補強部材を設けることで、曲げ変形する衝突形態について、構造部材1の耐衝突性能を向上させる。
本実施形態の補強部材は、図3のように、一対の板材22と、その一対の板材22を連結して、一対の板材間の距離が広がることを拘束する連結部材とを有する。
一対の板材は、中空部材の左側の壁部を構成する2つのハット断面部材の側壁部のうちの一方のハット断面部材の側壁部の外壁面、及び、中空部材の右側の壁部を構成する2つのハット断面部材の側壁部のうちの他方のハット断面部材の側壁部の外壁面に、それぞれ当接する。
【0018】
すなわち、本実施形態では、一対の板材22と連結部材とで、一方のハット断面部材10の側壁部10Bと他方のハット断面部材11の側壁部11Bとを連結する。
本実施形態では、2つの天板部10A、11Aのうちの一方の天板部10Aからの、右側のフランジ部同士の接合面である第1合わせ面S2の高さL2と、左側のフランジ部同士の接合面である第2合わせ面S1の高さL1と、が異なる。このため、板材22が当接する2つの側壁部は、左側の壁部を構成する2つの側壁部のうちの高さ方向の長さが相対的に大きい側の側壁部、及び、右側の壁部を構成する2つの側壁部のうちの高さ方向の長さが相対的に大きい側の側壁部としている。
【0019】
連結部材は、一対の板材22を連結して一対の板材22間の距離が広がることを拘束する。連結部材が、一対の板材22間の距離を拘束することで、天板部10A、11Aへの衝突荷重の入力に対し、構造部材1における対向する2つ壁部の面外方向への膨らみ(座屈)を抑制する。すなわち、本実施形態の補強部材を用いることで、衝突時の部材断面変形を効果的に抑制し、特に曲げ変形における荷重を向上させることが可能となる。
ここで、本実施形態のように、相対的に高さが大きい側壁部同士を、一対の板材22及び連結部材で連結することで、左右の2つの合わせ面S1、S2の高さL1、L2が異なる場合でも、中空部材の左右の壁部を最短距離で連結できる。そして、より有効に、構造部材1の対向する2つ壁部が面外方向へ膨らむ(座屈する)ことを抑制する。
【0020】
図3中、符号Pは連結部材の軸位置を示す。
軸部材20は、対向する2つ側壁部10B、11B間の距離よりも長く、且つ軸方向両端部にそれぞれ雄ねじ部が形成されている。雄ねじ部は、例えば側壁部10B、11Bよりも内側の位置から先端20aに向けて形成されている。
ここで、板材22は、側壁部11Bの外面に当接する面積が、板材22に当接するナット部材21の面積よりも大きい方が好ましい。また、ナット部材21の面が大きい場合には、ナット部材21自体を板材22の代わりとしても良い。
【0021】
また、対向する2つ側壁部11Bに、軸部材20を貫通可能な貫通穴が同軸に開口している。
そして、軸部材20は、対向する2つ側壁部11Bに開口した貫通穴にそれぞれ端部を貫通させるように配置される。なお、軸部材20は、中空部材を作製した後でも、例えば、一方の側壁部11B側の貫通穴から通すことで簡単に取り付けることができる。
そして、各側壁部11Bから外方に突出した各軸部材20の端部(雄ねじ部)に対し、ワッシャ部材が取り付けられていると共に、ナット部材21が螺合している。そして、ナット部材21を締め付けることで、各板材22を構成するワッシャ部材は側壁部11Bの外面に当接する。ナット部材21からはみ出す軸部材20の端部の部分は、予め切断、若しくはナット部材21を締め込んだ後に切断してもよい。
【0022】
ワッシャ部材における側壁部11Bに対向する面は、当該側壁部11Bに全面が接触するように構成する。このため、図4に示すように、天板部11Aに対する側壁部11Bの傾き角に応じた傾斜角(図4では傾斜角=95度)を、ワッシャ部材の側壁部11Bと対向する面に付与する。なお、側壁部が平行に配置される場合は一対の板材22を除いて、ナット部材21のみで側壁部11Bを挟み込むことが可能であることは言うまでもない。
上記説明では、軸部材20の両端部に、それぞれワッシャ部材とナット部材21を取付け、ナット部材21を締め込む構成で説明したが、補強部材の構成はこれに限定されない。
【0023】
例えば、軸部材20を長軸のボルトから構成して、ボルトの頭を、一方のナット部材21(又は板材22)の代わりとしても良い。
また、図5に示すように、軸部材20の一端部に片方のワッシャ部材と同形状の大径部20Aが予め固定されている軸部材20を使用しても良い。図5の大径部20Aは、左右のナット部材21のうちの一方のナット部材21とワッシャ部材の両方を兼ねる。
ここで、図3中、符号G1で記載する方向に沿って、相対的に高さが小さい側壁部同士を、一対の板材22及び連結部材で連結しても良いが、この場合、連結部材が斜めに配置されることから、その分、一対の板材22及び連結部材での拘束力が相対的に小さくなる。
【0024】
本実施形態の連結部材は、図3に示すように、軸部材20(ネジ棒)と1個のナット部材21とからなり、一対の板材22は、それぞれワッシャ部材から構成される。図3の例では、軸部材20の右端部に対し、大径部20Aを当該軸部材20と一体に形成する場合を例示しているが、軸部材20の右端部側も雄ねじとナット部材21で構成してもよい。下記説明は軸部材20の両端部にそれぞれナット部材21が螺合可能な構成の場合で説明する。
【0025】
また、図3では、構造部材1の長手方向(延在方向)の一カ所だけに上記構成の補強部材を設ける場合が例示されているが、これに限定されない。構造部材1の長手方向や高さ方向に沿って、側壁部10B、11Bにおける複数の箇所に、上記構成の補強部材を取り付けても良い。
なお、軸部材20は、天板部10A、11Aの幅方向に軸を向けて配置されるが、平面視で、構造部材1の長手方向と直交していなくても良い。補強部材は、構造部材1の長手方向と交差する方向(例えば垂直方向)で、衝突荷重が負荷される可能性が高いと推定される位置の近傍に設けることが好ましい。
【0026】
また、ハット断面部材10、11の高さに関係なく、一対の板材22(ワッシャ部材)を設ける位置は、衝撃が入力される上側の天板部10Aに近位の合わせ面から高さ方向に向けて20mm以内の側壁部10B、11B領域に、板材22の少なくとも一部が入るように当該板材22を配置することが好ましい。衝撃が入力しやすい上側の天板部10Aに近位の合わせ面に近づけて補強部材を設けた方が、より効果的に補強できるからである。
また、一対の板材22(ワッシャ部材)を設ける位置は、例えば、2つの天板部10A、11Aが対向する方向に沿って衝突荷重が負荷される可能性が高いと推定される側の天板部10A、11Aにおける面位置と、対向する2つ側壁部10B、11Bの対向方向からみて、板材22の一部が上下(2つの天板部10A、11Aの対向方向)で重なるような位置に配置する。
【0027】
又は、一対の板材22を設ける位置は、例えば、2つの天板部10A、11Aの対向方向に向かう衝突荷重が負荷される可能性が高いと推定される天板部10A、11Aにおける面位置に、予め設定した衝突荷重を負荷した際に側壁部10B、11Bが変形する変形領域に、板材22の中心位置(軸部材20の位置)が位置するように配置する。
衝突荷重が負荷される可能性が高いと推定される天板部10Aにおける面位置は、例えば、その構造部材1を配置する車両位置に基づき、過去の事故情報などから、車両の側面衝突によって、対象とする構造部材1のどの部分に衝突荷重が入力され易いかよって推定する。
【0028】
また、変形領域の特定は、例えば、FEM解析によって、部材の変形位置を解析して求める。予め設定した衝突荷重は、構造部材1を使用する位置で耐衝突性能として要求される許容の衝突荷重を採用する。
上記の補強部材を備えた構造部材1にあっては、左右の合わせ面の高さを異にすることによる効果に加えて、対向する2つ側壁部11Bに当接する一対の板材22を連結部材で連結させることで、2つの天板部10A、11Aの対向方向に入力される衝突荷重による対向する2つ壁部の外方への膨らみ(座屈)を、連結部材での軸方向に沿った引張力で抑える。このため、少ない重量の補強部材で衝突時の変形を抑制することが可能となる。すなわち、本実施形態によれば、衝突時の部材断面変形を効果的に抑制し、特に曲げ変形における最大荷重を向上させることが可能となる。
【0029】
また本実施形態によれば、軸部材20(ネジ棒)にナット部材21を螺合させることで補強部材を構成する一対の板材22が構造部材1に取り付けられる。このため、構造部材1への補強部材の取付けに溶接作業が不要となる。この結果、本実施形態によれば、構造部材1の高強度化による溶接性の低下を懸念し、溶接による接合手法を回避しつつ、螺合という簡便な取付け方法で耐衝突性能を向上させることが可能となる。
例えば、構造部材1を作製後に、簡易に、補強部材にて補強を行うことが可能となる。
なお、軸部材20の端部に対し各板材22を溶接にて固定しても良いが、螺合による取付けの方が簡易な構造となる。
更に、本実施形態によれば、プレスや曲げなどの加工によって補強部材を設けないため、部品点数の増加による重量増加や、金型の増加によるコスト増加を避けるという効果もある。
【0030】
(効果)
本実施形態では、次のような効果を奏する。
(1)本実施形態は、天板部の両側にそれぞれ側壁部及びフランジ部が連続する断面ハット形状からなる2つのハット断面部材における、対向するフランジ部同士をそれぞれ接合して閉断面形状を構成する中空部材を有し、上記中空部材は、2つの天板部の対向する方向を高さ方向とした場合、一方のフランジ部同士の接合面である第1合わせ面の高さ方向の位置と、他方のフランジ部同士の接合面である第2合わせ面の高さ方向の位置と、が異なり、更に、上記中空部材の一方の壁部を構成する上記2つのハット断面部材の側壁部のうちの一方のハット断面部材側の側壁部の外壁面、及び、上記中空部材の他方の壁部を構成する上記2つのハット断面部材の側壁部のうちの他方のハット断面部材側の側壁部の外壁面に、それぞれ当接する一対の板材と、上記一対の板材を連結して上記一対の板材間の距離が広がることを拘束する連結部材と、を備える1以上の補強部材を有する。
【0031】
この構成によれば、補強による重量の増加を抑えつつ、簡便に耐衝突性能を向上させることが可能な自動車用構造部材を提供することが可能となる。
すなわち、本実施形態では、構造部材(中空部材)の対向する2つの壁部を、一対の板材と連結部材で連結する。これによって、本発明の態様によれば、衝突時の部材断面変形を抑制し、特に曲げ変形における衝突荷重を向上させることが可能となる。
また、この構成によれば、例えば、高強度化による溶接性の低下を懸念し、溶接による接合手法を回避しつつ、簡便な手法で衝突性能を向上させることが可能となる。
更に、この構成によれば、プレスや曲げなどの加工によって得られる補強部材を用いないため、部品点数の増加による重量増加や、金型増加によるコスト増加を避けるという効果もある。
【0032】
(2)本実施形態では、上記連結部材は、上記天板部の幅方向に延在して上記板材当接する2つの側壁部及び上記一対の板材を貫通すると共に軸方向端部に雄ねじ部が形成された軸部材と、上記軸部材の雄ねじ部に螺合し上記側壁部の外壁面に上記板材を挟んで対向するナット部材と、からなる。
この構成によれば、軸部材20(ネジ棒)にナット部材21を螺合させることで補強部材を構成する一対の板材22が構造部材1に取り付けられる。このため、構造部材1への補強部材の取付けに溶接作業が不要となる。この結果、本実施形態によれば、構造部材1の高強度化による溶接性の低下を懸念し、溶接による接合手法を回避しつつ、螺合という簡便な取付け方法で耐衝突性能を向上させることが可能となる。
更に、この構成によれば、2つのハット断面部材の側壁部同士を連結部で連結して補強する場合であっても、構造部材1を作製して閉断面形状とした後でも、簡易に、補強部材で補強を行うことが可能となる。
【0033】
(3)本実施形態では、上記連結部材は、一端部が上記一対の板材のうちの一方の板材と一体に構成され、上記天板部の幅方向に延在して上記板材が当接する2つの側壁部及び上記一対の板材のうちの他方の板材を貫通すると共に上記他方の板材側の軸方向端部に雄ねじ部が形成された軸部材と、上記軸部材の雄ねじ部に螺合し上記側壁部に外壁面に上記他方の板材を挟んで対向するナット部材と、からなる。
この構成によれば、軸部材20(ネジ棒)にナット部材21を螺合させることで補強部材を構成する一対の板材22が構造部材1に取り付けられる。このため、構造部材1への補強部材の取付けに溶接作業が不要となる。この結果、本実施形態によれば、構造部材1の高強度化による溶接性の低下を懸念し、溶接による接合手法を回避しつつ、螺合という簡便な取付け方法で耐衝突性能を向上させることが可能となる。
更に、この構成によれば、2つのハット断面部材の側壁部同士を連結部で連結して補強する場合であっても、構造部材1を作製して閉断面形状とした後でも、簡易に、補強部材で補強を行うことが可能となる。
【0034】
(4)本実施形態は、閉断面形状の自動車用構造部材の製造方法であって、天板部の両側にそれぞれ側壁部及びフランジ部が連続する断面ハット形状からなる2つのハット断面部材における、フランジ部同士を接合して閉断面形状の中空部材を作製し、軸方向両端部の少なくとも一方の端部に雄ねじ部が形成された軸部材と、上記軸部材の雄ねじ部に螺合可能なナット部材を用意し、上記中空部材の左側の壁部を構成する上記2つのハット断面部材の側壁部のうちの一方のハット断面部材の側壁部、及び、上記中空部材の右側の壁部を構成する上記2つのハット断面部材の側壁部のうちの他方のハット断面部材の側壁部に対し、上記軸部材が貫通可能な貫通穴をそれぞれ開口し、その対をなす2つの貫通穴に上記軸部材を貫通させ、上記貫通穴を設けた側壁部から突出した上記軸部材の端部に対し、板材としてのワッシャ部材を取り付けると共に、ナット部材を螺合し締め付ける。
この構成によれば、補強による重量の増加を抑えつつ、簡便に耐衝突性能を向上させることが可能な自動車用構造部材を提供することが可能となる。
【実施例
【0035】
[実施例1]
発明者らは、FEM解析により、図1及び図2に示すような形状を有する合わせハット断面部材からなる中空部材を用いて、3点曲げ試験での部品変形挙動を詳細に解析した。3点曲げ試験条件を図6図7に示す。すなわち、3点曲げの解析条件は、構造部材1における長手方向に離れた下面の2点を支持部材31で支持し、長手方向中央部に上側からパンチ30によって荷重を負荷するという条件である。
上下のハット断面部材10、11として、厚さ1.2mm、引張強度1180MPaの鋼板を使用した。
【0036】
<比較例>
比較部品として、図2に示すような、左右の両フランジ部の合わせ面S1、S2の高さ方向の配置(合わせ面間の高さ方向の差h=40mm)とした中空部材を用いた。なお、各合わせ面は、構造部材の高さ方向中央位置からの高さ方向の距離a、bが等しい値となっている。ただし、比較部品では、一対の板材及び連結部材で補強は実行していない。
衝突時の変形挙動を図8に、荷重とストロークの関係を図9に示す。
比較部品では、図8の左側に示すように、衝撃が負荷され、ストローク(押込み量)の増加に伴い、部材長手方向の中央部であるパンチ接触部での変形が開始し、衝突荷重が増加した。なお、ストローク量は、パンチが天板部に接触した状態を0mmとし、下方に向けた押込み量である。そして、ストロークの増加に伴い、側壁部が開きながら断面変形が進み、最大荷重に到達した後、大きく断面が開きながら荷重が低下した。
【0037】
<発明例>
発明部品は、図3に示すように、上記の比較部品を、補強部材(一対の板材及び連結部材)を構成するネジ棒20、ナット部材21及び板材22で補強した部品である。
補強部材を構成するネジ棒及びナット部材21には、M6のSS400からなる鋼材を使用した。板材22には、SS400からなる鋼材をした。板材22の寸法は、図4のように、側壁部10B、11Bよりも厚い板材22とした。板材22は、側壁部10B、11Bよりも曲げ剛性が高くなるように設定することが好ましい。
【0038】
補強部材の配置位置は、パンチ30の下方であって、中空部材の高さ方向中央にネジ棒の軸Pが配置されるように設定した、
この発明例での衝突時の挙動を見てみると、図8の右側に示すように、比較例と比較して、側壁部の開きが小さく抑えられながら、断面変形が進行し、衝突時の荷重は増加していることが判明した。この検討により、発明者らは、衝突時の変形荷重を向上させるためには、側壁部の開き(外方への膨らみ)による断面形状の変化を抑制することが有効であることを見出した。
【0039】
ここで、比較例のように左右の合わせ面の高さ位置が異なる部品で断面が大きく開く箇所は、2つのハット断面部材の双方のハット断面部材における、対向する2つの側壁部に掛かるため、2つのハット断面部材の変化を制御する必要がある。例えば補強部材で拘束する場合、2つのハット断面部材を接合し中空部材とした後に、内側から溶接で補強部材を接合することは極めて困難となり、また左右フランジ部の合わせ面S1、S2に3枚重ねで補強部材を接合させると断面形状の抑制効果が低下、あるいは補強部品の形状が複雑化や大型化してしまう。よって簡便に2部品の変化を制御する手法として、本発明に基づく補強方法による断面制御技術が有効であることが判明した。更にこの補強方法では、高強度材で課題となる溶接性の低下を考慮する必要がないこともメリットと考えられる。
【0040】
[実施例2]
次に、パンチ30による荷重負荷位置と板材22の取付け位置(板材22の中心位置(軸部材20の軸Pの位置))を、表1のように変更して、最大荷重及び平均荷重を求めてみた。
ここで、ストロークを100mmまでとした。また、表1中、平均荷重は、全ストロークでの荷重の平均値であり、衝撃に対するエネルギー吸収能に相当する。
また、荷重方向をy軸として、図7図10のようなx-y座標軸を設定し、y=0の位置を構造部材の高さ方向中央位置に、x=0をパンチによる荷重方向直下に設定した。
【0041】
【表1】
【0042】
表1のNo.1、6、7から分かるように、側面視で、荷重負荷の直下(x=0)の長手方向近傍に板材22を設けることで、比較例に比べ最大荷重及び平均荷重が向上していることが分かる。また、No.4、5のように、荷重負荷の直下から長手方向に60mmまでずらして板材22を配置しても、比較例に比べ、平均荷重が向上することが分かった。
以上のように、左右の合わせ面S1、S2の高さを異にすると共に、一対の板材及び連結部材を設けることで、比較例に比べ、エネルギー吸収能を高く設定できることが分かった。
また、本発明では、2つのハット断面部材間に跨がるように連結部材を設ける構成であるが、連結部材をネジ棒とナット部材とで構成することで、2つのハット断面部材を接合して構造部材1(中空部材)とした後でも、簡便に取り付けされて、補強調整が容易である。
【符号の説明】
【0043】
1 自動車用構造部材(中空部材)
10、11 ハット断面部材
10、11 ハット断面部材
10A、11A 天板部
10B、11B 側壁部
10C、11C フランジ部
20 軸部材(ネジ棒)
20A 大径部
20a 先端
21 ナット部材
22 板材
P 軸
S1 第2合わせ面
S2 第1合わせ面
h 合わせ面間の差
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10