(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】積層体、容器及び輸液バッグ
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20221129BHJP
A61J 1/10 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
B32B27/32 E
A61J1/10 331A
A61J1/10 331C
(21)【出願番号】P 2020518264
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2019017698
(87)【国際公開番号】W WO2019216245
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2018089971
(32)【優先日】2018-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 直哉
(72)【発明者】
【氏名】石原 稔久
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-149861(JP,A)
【文献】国際公開第2013/047690(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-65/46
A61J 1/00-19/06
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
C08C 19/00-19/44
C08F 6/00-246/00
293/00-297/08
301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂を含む基材層と環状ポリオレフィンを含むヒートシール層とを有する積層体であり、
該環状ポリオレフィンが、芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び、共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する水素化ブロックコポリマーであり、
該水素化ブロックコポリマーは、該水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、該水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有する、積層体。
【請求項2】
前記ポリプロピレン系樹脂を含む基材層と、前記環状ポリオレフィンを含むヒートシール層との接着強度(加熱処理前)が30N/15mm以上である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記ポリプロピレン系樹脂を含む基材層と、前記環状ポリオレフィンを含むヒートシール層との接着強度(加熱処理後)が30N/15mm以上である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
ポリプロピレン系樹脂を含む基材層と環状ポリオレフィンを含むヒートシール層とを有する積層体からなり、該積層体の該ヒートシール層同士が接合されて形成された容器において、
該環状ポリオレフィンが、芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び、共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する水素化ブロックコポリマーであり、
該水素化ブロックコポリマーは、該水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、該水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有する、容器。
【請求項5】
前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上の水素化レベルをもち、且つ、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上の水素化レベルをもつ、請求項4に記載の容器。
【請求項6】
前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化ポリスチレンからなり、前記環状ポリオレフィン中の該水素化ポリスチレンの含有率が50~99モル%である、請求項4又は5に記載の容器。
【請求項7】
前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が水素化ポリブタジエンからなり、前記環状ポリオレフィン中の該水素化ポリブタジエンの含有率が1~50モル%である、請求項4~6のいずれか1項に記載の容器。
【請求項8】
前記基材層と前記ヒートシール層が直接積層された、請求項4~7のいずれか1項に記載の容器。
【請求項9】
前記基材層のポリプロピレン系樹脂と前記ヒートシール層が直接積層された、請求項4~8のいずれか1項に記載の容器。
【請求項10】
前記基材層がポリプロピレン系樹脂からなる、請求項4~9のいずれか1項に記載の容
器。
【請求項11】
請求項4~10のいずれか1項に記載の容器よりなる医療用容器。
【請求項12】
請求項11に記載の医療用容器よりなる輸液バッグ。
【請求項13】
ポート部を有する請求項12に記載の輸液バッグ。
【請求項14】
前記ポート部がポリプロピレン系樹脂を含む、請求項13に記載の輸液バッグ。
【請求項15】
前記ポート部と前記ヒートシール層が直接ヒートシールされた、請求項13又は14に記載の輸液バッグ。
【請求項16】
前記ポート部がポリプロピレン系樹脂からなる、請求項13~15のいずれか1項に記載の輸液バッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性があり高温殺菌可能な合成樹脂の性能を兼備しつつ、透明性と耐衝撃性、機械的強度、ヒートシール性に優れた積層体と、この積層体を用いた医療用容器等の容器及び輸液バッグに関する。
【背景技術】
【0002】
環状ポリオレフィンは、ポリエチレンやポリプロピレン等の鎖状炭化水素から構成されるポリマーと比べて機械的強度が低く、他の樹脂との親和性(接着性)も劣る。しかし、環状ポリオレフィンは、透明性に優れ、内容物との反応性(吸着性)が低く、酸及びアルカリ等の薬品に対して安定であり、医療用容器等の容器として具備すべき多くの特性を有している。
このことから、環状ポリオレフィン層に補強層として別の樹脂層を積層して機械的特性を向上させるための多くの提案がされている。
【0003】
環状ポリオレフィン層と他の樹脂層とを積層する際に層間の接着性を高める手段としては、積層面を薬品による化学的処理あるいはプラズマ処理等により粗面化して、表面積を大きくする方法がある。
【0004】
積層面に紫外線を照射することによってケトン基を導入した環状ポリオレフィンと、ケトン基に反応する基を導入した樹脂層を積層して、両官能基の結合により接合した積層体が提案されている(特許文献1)。
【0005】
ポリエチレン系樹脂に比べてポリプロピレン系樹脂は、耐熱性等の容器用素材として優れた特性を有しているが、環状ポリオレフィンとの接着性が弱いために、中間層(接着層)として、シングルサイト系触媒を用いて製造された直鎖状低密度ポリエチレンにポリプロピレン等を添加した樹脂層を介在させて積層したフィルムが提案されている(特許文献2)。
【0006】
環状ポリオレフィン層と高密度ポリエチレン層とを接着層を介在させずに積層した医療用容器が提案されている(特許文献3)。
【0007】
環状ポリオレフィンとポリプロピレン系樹脂とを接着剤を用いないで積層した多層容器が提案されている(特許文献4)。この多層容器では、ポリプロピレン樹脂層にスチレン系エラストマーを多量に添加する必要があり、ポリプロピレン樹脂層の耐熱性が損なわれる問題がある。
【0008】
【文献】特開2003-25506号公報
【文献】特開2005-335108号公報
【文献】特開2008-18063号公報
【文献】特開2011-93209号公報
【0009】
従来、環状ポリオレフィン層を設けた容器又は医療用容器において、環状ポリオレフィン本来の容器用素材としての特性を維持しつつ、機械的強度(脆さの改善)、ヒートシール性等の向上のための積層化に関する様々な開発がなされている。しかし、ポリエチレンあるいはポリプロピレン等の他の樹脂層を積層することによって環状ポリオレフィンの機械的特性を改善できるが、他方で、これらの他の樹脂層を積層することで環状ポリオレフィンの透明性は低下する。
【0010】
特に、その積層体を医療用容器に用いる場合には、使用前に高温での滅菌処理が必要とされるため、基材としては耐熱性の観点からポリプロピレン系樹脂が使用される場合が多い。
ここで、従来のように、ポリプロピレン系樹脂と環状ポリオレフィン層との間に接着層を設けると、その容器内の医薬(薬剤)に接着層中の成分が混入する虞がある。このため、接着層を用いない積層体からなる容器又は医療用容器が希求されてきた。
【発明の概要】
【0011】
本発明の目的は、ポリプロピレン系樹脂を含む基材層と環状ポリオレフィンを含むヒートシール層との積層体であって、環状ポリオレフィンの透明性への影響がより少なく、しかも接着層を用いることなくポリプロピレン系樹脂の基材層と環状ポリオレフィンのヒートシール層とを積層することができ、且つ、耐熱性を維持しつつ、ヒートシール性に優れた積層体、この積層体からなる医療用容器等の容器又は輸液バッグを提供することにある。
【0012】
本発明者らは、ポリプロピレン系樹脂層に対する積層材料として必要な接着力を有し、且つ、ヒートシール性に優れた環状ポリオレフィンについて検討を重ねた結果、環状ポリオレフィンの中でも、芳香族ビニルモノマーに由来する少なくとも2個の重合体ブロックPと、共役ジエンモノマーに由来する少なくとも1個の重合体ブロックQとを有するブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体が、従来のノルボルネン骨格からなるモノマーからなる環状ポリオレフィン等に比べて、ポリプロピレン系樹脂層との積層体にした際の透明度や高温下でのヒートシール強度が高いことを見出した。
そして、この特定の水添ブロック共重合体であれば、ポリオレフィン系樹脂との接着性に優れ、従来、ポリプロピレン系樹脂層と環状ポリオレフィン層との接着に必要であった接着層を用いなくても、共押出成形等により容易に積層体又は容器として成形可能であり、その優れた透明性、耐熱性、ヒートシール性から、内容物の保管性並びに視認性を有する医療用容器として最適であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、下記の特徴を有する。
【0014】
[1] ポリプロピレン系樹脂を含む基材層と環状ポリオレフィンを含むヒートシール層とを有する積層体であり、該環状ポリオレフィンが、芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び、共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する水素化ブロックコポリマーであり、該水素化ブロックコポリマーは、該水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、該水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有する、積層体。
【0015】
[2] 前記ポリプロピレン系樹脂を含む基材層と、前記環状ポリオレフィンを含むヒートシール層との接着強度(加熱処理前)が30N/15mm以上である、[1]に記載の積層体。
【0016】
[3] 前記ポリプロピレン系樹脂を含む基材層と、前記環状ポリオレフィンを含むヒートシール層との接着強度(加熱処理後)が30N/15mm以上である、[1]又は[2]に記載の積層体。
【0017】
[4] ポリプロピレン系樹脂を含む基材層と環状ポリオレフィンを含むヒートシール層とを有する積層体からなり、該積層体の該ヒートシール層同士が接合されて形成された容器において、該環状ポリオレフィンが、芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び、共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する水素化ブロックコポリマーであり、該水素化ブロックコポリマーは、該水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、該水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有する、容器。
【0018】
[5] 前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上の水素化レベルをもち、且つ、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上の水素化レベルをもつ、[4]に記載の容器。
【0019】
[6] 前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化ポリスチレンからなり、前記環状ポリオレフィン中の該水素化ポリスチレンの含有率が50~99モル%である、[4]又は[5]に記載の容器。
【0020】
[7] 前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が水素化ポリブタジエンからなり、前記環状ポリオレフィン中の該水素化ポリブタジエンの含有率が1~50モル%である、[4]~[6]のいずれかに記載の容器。
【0021】
[8] 前記基材層と前記ヒートシール層が直接積層された、[4]~[7]のいずれかに記載の容器。
【0022】
[9] 前記基材層のポリプロピレン系樹脂と前記ヒートシール層が直接積層された、[4]~[8]のいずれかに記載の容器。
【0023】
[10] 前記基材層がポリプロピレン系樹脂からなる、[4]~[9]のいずれかに記載の容器。
【0024】
[11] [4]~[10]のいずれかに記載の容器よりなる医療用容器。
【0025】
[12] [11]に記載の医療用容器よりなる輸液バッグ。
【0026】
[13] ポート部を有する[12]に記載の輸液バッグ。
【0027】
[14] 前記ポート部がポリプロピレン系樹脂を含む、[13]に記載の輸液バッグ。
【0028】
[15] 前記ポート部と前記ヒートシール層が直接ヒートシールされた、[13]又は[14]に記載の輸液バッグ。
【0029】
[16] 前記ポート部がポリプロピレン系樹脂からなる、[13]~[15]のいずれかに記載の輸液バッグ。
【0030】
[17] ポリプロピレン系樹脂を含む基材層と、ヒートシール層とを含む積層体からなり、該積層体のヒートシール層同士が接合されることにより形成された医療用容器において、該ヒートシール層が、ビニル芳香族化合物に由来する少なくとも2個の重合体ブロックPと、共役ジエンに由来する少なくとも1個の重合体ブロックQとを有するブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体を含むことを特徴とする医療用容器。
【発明の効果】
【0031】
本発明において、ヒートシール層に用いる特定の水添ブロック共重合体は、ヒートシール性に優れると共に、ポリプロピレン系樹脂との接着性も高く、接着層を介することなく、共押出成形等により容易に積層体又は容器に成形することができ、ポリプロピレン系樹脂に対して優れた接着性を得ることができる。また、高温下であっても透明性や接着強度に優れ、接着層を用いないことから内容物(医薬、薬液)等への不純物の混入の虞がなく、医療用容器として内容物の保管性、視認性にも優れたものである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
以下において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0033】
本発明の積層体は、ポリプロピレン系樹脂を含む基材層と環状ポリオレフィンを含むヒートシール層とを有する積層体であり、該環状ポリオレフィンが、芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び、共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する水素化ブロックコポリマーであり、該水素化ブロックコポリマーは、該水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、該水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有することを特徴とする。
【0034】
本発明の容器は、ポリプロピレン系樹脂を含む基材層と環状ポリオレフィンを含むヒートシール層とを有する積層体からなり、該積層体の該ヒートシール層同士が接合されて形成された容器において、該環状ポリオレフィンが、芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び、共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する水素化ブロックコポリマーであり、該水素化ブロックコポリマーは、該水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、該水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有することを特徴とする。
【0035】
即ち、本発明の容器又は医療用容器は、ポリプロピレン系樹脂を含む基材層と、ヒートシール層とを含む積層体からなり、該積層体のヒートシール層同士が接合されることにより形成された容器又は医療用容器において、該ヒートシール層が、芳香族ビニルモノマーに由来する少なくとも2個の重合体ブロックPと、共役ジエンモノマーに由来する少なくとも1個の重合体ブロックQとを有するブロック共重合体を水素添加、即ち、水素化してなる水添ブロック共重合体を含むことを特徴とする。
【0036】
本明細書において「水添ブロック共重合体」は、「水素化ブロックコポリマー」と表現することもある。
また、本明細書において、「水添ブロック共重合体」又は「水素化ブロックコポリマー」を、「芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び、共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する水素化ブロックコポリマーであり、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有する、水素化ブロックコポリマー」と表現することもある。
【0037】
本発明に係る環状ポリオレフィンは、前記水添ブロック共重合体からなる樹脂である。即ち、本発明に係る環状ポリオレフィンは、前記水素化ブロックコポリマーからなる樹脂である。
尚、「環状ポリオレフィン」の「環状」とは、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が有する、芳香族環の水素化により生じる脂環式構造のことを指す。
【0038】
以下、本発明の容器又は医療用容器を構成する積層体を「本発明の積層体」と称し、その積層体中の基材層及びヒートシール層をそれぞれ「本発明の基材層」及び「本発明のヒートシール層」と称す。また、基材層中のポリプロピレン系樹脂を「本発明のポリプロピレン系樹脂」、ヒートシール層中の特定の水添ブロック共重合体を「本発明の水添ブロック共重合体」、「本発明の水素化ブロックコポリマー」又は「本発明の環状ポリオレフィン」と称す場合がある。
【0039】
<メカニズム>
本発明の容器又は医療用容器において、ヒートシール層に用いる本発明の水添ブロック共重合体は、芳香族ビニルモノマーに由来する少なくとも2個の重合体ブロックP(以下、単に「ブロックP」と称す場合がある。)と、共役ジエンモノマーに由来する少なくとも1個の重合体ブロックQ(以下、単に「ブロックQ」と称す場合がある。)とを有するブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体である。このように少なくとも2個のブロックPと少なくとも1個のブロックQとを有するブロック共重合体の水素添加物であることにより、基材層のポリプロピレン系樹脂に対する優れた接着性と、ヒートシール性を発現する。
また、高い加熱変形温度を有する非晶性の水添ブロック共重合体であることにより、耐熱性に優れ、透明性、加熱処理後の透明性にも優れる。
【0040】
<ヒートシール層>
本発明において「ヒートシール」とは「被着体との熱融着性」を表す用語である。また、「ヒートシール層」とは「被着体との熱融着性を有する層」を表す用語である。これらの用語は、当業者には一般的に用いられている。
【0041】
本発明のヒートシール層は、本発明の水添ブロック共重合体、即ち、本発明の環状ポリオレフィンを含む。本発明のヒートシール層には、本発明の水添ブロック共重合体の1種のみが含まれていてもよく、水添ブロック共重合体の組成や物性等の異なるものの2種以上が含まれていてもよい。
【0042】
本発明のヒートシール層は、本発明の水添ブロック共重合体を含むものであるが、医療用容器としての物性、特に透明性を損なわない範囲において、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、スチレン系エラストマー等を含有していてもよい。但し、本発明の水添ブロック共重合体を用いることによる効果を得る上で、ヒートシール層に含まれる本発明の水添ブロック共重合体の割合は、通常35重量%以上、好ましくは40~100重量%である。
【0043】
<水添ブロック共重合体>
本発明の水添ブロック共重合体は、芳香族ビニルモノマーに由来する少なくとも2個の重合体ブロックPと、共役ジエンモノマーに由来する少なくとも1個の重合体ブロックQとを有するブロック共重合体(以下、「本発明のブロック共重合体」と称す場合がある。)を水素添加(以下、「水添」と称す場合がある。)してなる水添ブロック共重合体である。
以下において、ブロックPを水添したブロックを「水添ブロックP」と称し、ブロックQを水添したブロックを「水添ブロックQ」と称す。
【0044】
また、本発明の水添ブロック共重合体は次のように表現することもできる。
本発明の水添ブロック共重合体は、芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び、共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有し、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有する。
【0045】
水添ブロック共重合体の原料となる芳香族ビニルモノマーは、下記式(1)で示されるモノマーである。
【0046】
【0047】
ここでRは水素又はアルキル基、Arはフェニル基、ハロフェニル基、アルキルフェニル基、アルキルハロフェニル基、ナフチル基、ピリジニル基、またはアントラセニル基である。
前記アルキル基はハロ基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基、及びカルボキシル基のような官能基で単置換又は多重置換されていてもよい、1から6個の炭素原子を含む。
Arはフェニル基又はアルキルフェニル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0048】
芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンの全ての異性体、及びこれらの混合物が挙げられる。好ましくはスチレン、α-メチルスチレンであり、より好ましくはスチレンである。
【0049】
水添ブロック共重合体の原料となる共役ジエンモノマーは、2個の共役二重結合を持つモノマーであればよく、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2-メチル-1,3-ペンタジエンとその類似化合物、及びこれらの混合物が挙げられる。好ましくは1,3-ブタジエン、イソプレンであり、より好ましくは1,3-ブタジエンである。
【0050】
ブロックPはポリスチレンブロックであることが好ましい。
ブロックQはポリブタジエンブロックであることが好ましい。
【0051】
1,3-ブタジエンの重合体であるポリブタジエンは、水素化で1-ブテン繰り返し単位の等価物を与える1,2配置、又は水素化でエチレン繰り返し単位の等価物を与える1,4配置のいずれかを含むことができる。
【0052】
本発明のブロック共重合体及び水添ブロック共重合体は、官能基のないブロック共重合体及び水添ブロック共重合体であることが好ましい。ここで、「官能基のない」とは、ブロック共重合体及び水添ブロック共重合体中に、炭素原子と水素原子以外の原子を含む基が存在しないことを意味する。
【0053】
水添ブロックP、即ち、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリスチレンが挙げられる。
水添ブロックQ、即ち、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリブタジエンが挙げられる。
【0054】
水添ブロック共重合体の好ましい一態様としては、スチレンとブタジエンの水素化トリブロック又はペンタブロックコポリマーが挙げられる。水添ブロック共重合体は他の如何なる官能基又は構造的変性剤も含まないことが好ましい。
【0055】
「ブロック」とは、コポリマーの構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントとして定義される。ミクロ層分離は、ブロックコポリマー中で重合セグメントが混じり合わないことにより生ずる。
ミクロ層分離とブロックコポリマーは、PHYSICS TODAYの1999年2月号32-38頁の“Block Copolymers-Designer Soft Materials”で広範に議論されている。
【0056】
水添ブロック共重合体に含まれる水添ブロックPの含有率は、好ましくは50~99モル%、より好ましくは60~90モル%である。
水添ブロックPの含有率が上記下限値以上であれば剛性が低下することがなく、上記上限値以下であれば脆性が悪化することがない。
【0057】
水添ブロック共重合体に含まれる水添ブロックQの含有率は、好ましくは1~50モル%、より好ましくは10~40モル%である。
水添ブロックQの含有率が上記下限値以上であれば脆性が悪化することがなく、上記上限値以下であれば剛性が低下することがない。
【0058】
水添ブロック共重合体は、SBS、SBSBS、SIS、SISIS、及びSISBS(ここで、Sはポリスチレン、Bはポリブタジエン、Iはポリイソプレンを意味する。)のようなトリブロック、マルチブロック、テーパーブロック、及びスターブロックコポリマーを含むブロックコポリマーの水素化によって製造される。
【0059】
水添ブロック共重合体は、それぞれの末端に芳香族ビニルポリマーからなるセグメントを含む。このため、本発明の水添ブロック共重合体は、少なくとも2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位(水添ブロックP)を有することとなる。この2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の間には、少なくとも1つの水素化共役ジエンポリマーブロック単位(水添ブロックQ)を有することとなる。
【0060】
水添ブロック共重合体を構成する、水素化前のブロック共重合体は、何個かの追加ブロックを含んでいてもよく、これらのブロックはトリブロックポリマー骨格のどの位置に結合していてもよい。このように、線状ブロックは例えばSBS、SBSB、SBSBS、そしてSBSBSBを含む。コポリマーは分岐していてもよく、重合連鎖はコポリマーの骨格に沿ってどの位置に結合していてもよい。
【0061】
基材層のポリプロピレン系樹脂への接着性の観点から、本発明の水添ブロック共重合体の各ブロックP,Qの水添率は高い方が好ましい。「水添率」は、「水素化レベル」と表現することもできる。
【0062】
水添ブロックPの水添率は90%以上、水添ブロックQの水添率は95%以上が好ましい。より好ましくは、水添ブロックPの水添率は95%以上、水添ブロックQの水添率は99%以上。更に好ましくは、水添ブロックPの水添率は98%以上、水添ブロックQの水添率は99.5%以上であり、最も好ましくは、水添ブロックPの水添率は99.5%以上、水添ブロックQの水添率は99.5%以上である。
【0063】
ここで「水添率」とは、水添前の不飽和結合が水素化によって飽和される割合を指す。水添ブロックP,Qの水添率は、プロトンNMRを用いて決定される。
【0064】
水添ブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)の下限値は、好ましくは30,000以上、より好ましくは40,000以上、更に好ましくは45,000以上、最も好ましくは50,000以上である。水添ブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)の上限値は、好ましくは120,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは95,000以下、最も好ましくは90,000以下、特に好ましくは85,000以下、極めて好ましくは80,000以下である。
本発明の水添ブロック共重合体の重量均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて決定されるポリスチレン換算の値である。
【0065】
水添ブロック共重合体は、以下の物性を有するものであることが好ましい。
密度(ASTM D792):0.92~0.96g/cm3
MFR(ISO R1133(測定温度230℃、荷重2.16kg)):1~300g/10分
ガラス転移温度(Tg):110~135℃
曲げ弾性率(ISO 178):1500~2700MPa
【0066】
密度が上記下限値以上であれば耐熱性が良好となり、上記上限値以下であれば耐衝撃性や柔軟性が良好となる。
MFR(メルトフローレート)が上記範囲内であれば成形性の観点で好ましい。
曲げ弾性率が上記下限値以上であればヒートシール性が良好となり、上記上限値以下であれば耐衝撃性や柔軟性が良好となる。
Tgは、耐熱性及び滅菌処理の観点から110℃以上が好ましく、115℃以上がより好ましい。
【0067】
本発明の水添ブロック共重合体、即ち環状ポリオレフィンとしては、市販のものを用いることができ、具体的には三菱ケミカル(株)製:ゼラス(商標登録)が挙げられる。
【0068】
<基材層>
本発明の基材層は、ポリプロピレン系樹脂を含む。
基材層には、ポリプロピレン系樹脂の1種のみが含まれていてもよく、ポリプロピレン系重合体組成や物性等の異なるものの2種以上が含まれていてもよい。
基材層は、ポリプロピレン系樹脂を70重量%以上含み、好ましくは80~100重量%を含む。
【0069】
基材層が複数の層から構成される場合には、ポリプロピレン系樹脂の層が表面にあり、この層がヒートシール層と接する構成であることが好ましい。
また基材層は、ポリプロピレン系樹脂からなることが好ましい。
【0070】
基材層には、医療用容器としての特性、特に機械的強度(耐衝撃性)及び透明性を損なわない範囲で、酸化防止剤、防曇剤、滑剤等、当該分野で使用されている添加剤を含有していてもよい。
【0071】
透明性の容器は、特に、医薬品、食品分野において需要が多いが、医薬品には、光に不安定な物質があり、そのような医薬品を充填する場合には、着色剤あるいは酸化チタン等の遮光剤を添加することは任意である。
【0072】
<ポリプロピレン系樹脂>
本発明のポリプロピレン系樹脂は、プロピレンを主成分とするものである。ここで、「主成分とする」とは、該樹脂中の50重量%より多くがプロピレン系重合体で占めることをいい、特にプロピレン系重合体は60重量%以上含有されていることが好ましく、一方、その含有率の上限値は100重量%である。本発明のポリプロピレン系樹脂のプロピレン系重合体の含有率が上記下限値以上であれば積層体としての取扱い性が良好となる。
ここでいう「プロピレン系重合体」とは、原料の単量体成分全体に対してプロピレンを50モル%より多く含む重合体を意味する。
【0073】
本発明のポリプロピレン系樹脂は、プロピレン系重合体以外の成分を含んでいてもよく、例えば、スチレン系エラストマー及び/又はその水添物等が含まれていてもよい。スチレン系エラストマーとしてはスチレン重合体ブロックと共役ジエン重合体ブロックとを有するものであり、この共役ジエン重合体ブロックとしては、ブタジエン、イソプレン等に由来するものが挙げられる。
スチレン系エラストマー及び/又はその水添物を用いる場合、その含有率はプロピレン系重合体とスチレン系エラストマー及び/又はその水添物との合計に対し、10~40重量%が好ましく、15~30重量%がより好ましい。
【0074】
本発明のポリプロピレン系樹脂は、以下の物性を有するものであることが好ましい。
融点:121~160℃
密度(JIS K7112):0.88~0.91g/cm3
MFR(JIS K7210(測定温度230℃、荷重2.16kg)):1.0~10g/分
曲げ弾性率(ISO 178):300~1500MPa
【0075】
基材層を構成する本発明のポリプロピレン系樹脂の密度が上記下限値以上であればヒートシール性が良好となり、上記上限値以下であれば透明性が良好となる。
MFR(メルトフローレート)が上記範囲であれば、成形性の観点で好ましい。
曲げ弾性率が上記下限値以上であればヒートシール性が良好となり、上記上限値以下であれば耐衝撃性や柔軟性が良好となる。
融点は、耐熱性及び滅菌処理の観点から、121℃以上が好ましく、125℃以上がより好ましい。一方、ポリプロピレン系樹脂の融点の上限は、通常160℃程度である。
【0076】
本発明のポリプロピレン系樹脂としては、市販のものを用いることができ、具体的には日本ポリプロ社製 ノバテックPP、ウェルネックス、ウィンテックが挙げられる。
【0077】
<積層体>
本発明の積層体は、本発明のヒートシール層と本発明の基材層を有する。
【0078】
本発明の積層体は、本発明のヒートシール層と本発明の基材層の間に、接着層等の中間層を介さず、本発明のヒートシール層と本発明の基材層とが直接積層されていることが好ましい。
【0079】
本発明の積層体の製造法としては、上記の各層を積層一体化できる方法であればどのような方法であってもよく、例えば、ドライラミネーション、押出ラミネーション、共押出ラミネーション(Tダイ法、水冷インフレーション法、空冷インフレーション法)、ヒートラミネーション、あるいはこれらの方法を組み合わせたラミネーション法が挙げられる。
これらの中でも積層体全体の透明性を得る観点、内層の密閉性を得る観点から、好ましいのは水冷インフレーション法である。
【0080】
本発明の積層体において、各層の厚みは使用目的に応じて適宜選択可能である。ヒートシール層の厚みは、5~100μmが好ましく、10~50μmがより好ましい。ヒートシール層の厚みが上記下限値以上であればヒートシール強度の安定性の観点で好ましく、上記上限値以下であれば積層体の全体の柔軟性の点で好ましい。
ヒートシール層が厚すぎると、剛性が高く割れやすくなってしまい、薄すぎると内容物の低吸着効果を得ることができなくなる虞がある他、水蒸気透過を抑制することができない場合がある。
【0081】
本発明の積層体において、基材層の厚みは100μm以上、例えば140~330μmが好ましく、150~250μmがより好ましい。基材層は、主として積層体の外層として機械的強度、ヒートシール性の向上等を担うものであるが、基材層の厚みが上記下限値以上であれば機械的強度の観点で好ましく、上記上限値以下であれば積層体全体の柔軟性の点で好ましい。
【0082】
本発明の積層体は、各層の厚み比が、(ヒートシール層):(基材層)=1:30~1:3であることが好ましい。
【0083】
本発明の積層体は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される、基材層とヒートシール層の接着強度(加熱処理前)が30N/15mm以上であることが好ましい。
本発明の積層体は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される、基材層とヒートシール層の接着強度(加熱処理後)が30N/15mm以上であることが好ましい。
【0084】
<容器>
本発明の積層体を用いて、容器を製造する方法としては、真空成形、圧空成形等のシート成形法(熱成形法)、多層共押出ブロー成形等のブロー成形法、あるいは所定の形状に切断した枚葉形態の積層体同士の周縁部を熱融着(強溶着)又は接着剤で接着して袋状物を作製する方法等、いずれの方法を用いてもよい。
【0085】
本発明の容器の用途としては、例えば、食品用途、工業用途、産業資材用途、医療用途が挙げられる。
【0086】
容器の形状は、ボトル、チューブ、バッグ、セル等、特に限定されるものではない。
【0087】
<医療用容器>
本発明の積層体を用いて、医療用容器を製造する方法としては、真空成形、圧空成形等のシート成形法(熱成形法)、多層共押出ブロー成形等のブロー成形法、あるいは所定の形状に切断した枚葉形態の積層体同士の周縁部を熱融着(強溶着)又は接着剤で接着して袋状物を作製する方法等、いずれの方法を用いてもよい。
【0088】
本発明の医療用容器を製造するに当たり、容器内部を複数の収容室に区画する弱シール部は、ヒートシール温度を制御したバーシール等を用いて、対向する容器内壁面の一部同士を熱融着することにより形成することができる。
【0089】
弱シール部を形成する際の熱融着温度は、本発明の水添ブロック共重合体の成分組成やヒートシール層及び積層体全体の厚み等によっても異なるが、通常140~160℃程度である。容易に剥離可能な弱シール部のヒートシール強度は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される剥離強度として、10N/10mm未満が好ましく、0.1~9N/10mmがより好ましい。
弱シール部のヒートシール強度が大き過ぎるとこの弱シール部を容易に剥離させることができず、小さ過ぎると意図しないときに加えられた小さな衝撃で弱シール部が剥離してしまい、使用直前まで収容室を区画するという目的を達成し得ない。
【0090】
一方、例えば、所定の形状に切断した枚葉形態の積層体同士の周縁部を熱融着して強シール部を形成する場合の熱融着温度は、本発明の水添ブロック共重合体の成分組成やヒートシール層及び積層体全体の厚み等によっても異なるが、通常180~220℃程度である。外界(外気)と容器内部とを遮断するための強シール部のヒートシール強度は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される剥離強度として、10N/10mm以上が好ましい。
強シール部のヒートシール強度が小さ過ぎると、複室容器として必要とされる強度を満足し得ない。強シール部のヒートシール強度は大きい程好ましいが、その上限は通常60N/10mm程度である。
【0091】
弱シール部と強シール部のヒートシール温度のコントロールを容易とするために、弱シール部を形成する際の熱融着温度に対して強シール部を形成する場合の熱融着温度は10℃以上高い温度であることが好ましい。
【0092】
本発明の医療用容器は、通常、容器内部を2分するように線状の弱シール部が設けられ、2つの収容室が設けられた複室容器として提供されるが、これに限らず、複数の線状の弱シール部により、容器内部を3室以上に区画したものであってもよい。
【0093】
本発明の医療用容器の形状は、ボトル、チューブ、バッグ、セル等、特に限定されるものではない。
【0094】
<医療用容器の内容物>
本発明の医療用容器の収容室に収容する薬剤等の内容物については特に制限はない。本発明の複室容器の優れた保存性等から、本発明の医療用容器は、アミノ酸や、糖、電解液、ビタミンからなる高カロリー輸液等を収容する複室容器として好適に用いることができる。
【0095】
<輸液バッグ>
本発明の医療用容器は、特に輸液バッグとして好適である。
【0096】
輸液バッグは、通常、輸液バッグの本体、薬液を注入するためのポート部、薬液を取り出すためのゴム栓を含むキャップ等で構成される。本発明の医療用容器は、このようにポート部を有する輸液バッグにおいて、一般的にポート部に使用されるポリプロピレン系樹脂に対して、本発明のヒートシール層が高い融着性を有することから、容易に複合化が可能であり、好適に使用することができる。
【0097】
本発明の輸液バッグは、本発明のヒートシール層とポート部の間に、接着層等の中間層を介さず、本発明のヒートシール層とポート部が直接ヒートシールされていることが好ましい。
【0098】
ポート部が複数の材料から構成される場合には、ポリプロピレン系樹脂の層が表面にあり、この層がヒートシール層と接する構成であることが好ましい。
ポート部は、ポリプロピレン系樹脂からなることが好ましい。
【0099】
輸液バッグのポート部とヒートシール層とのヒートシール強度は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される剥離強度として、10N/10mm以上が好ましく、15N/10mm以上がより好ましい。
【0100】
本発明の積層体により輸液バッグを成形する方法は限定されないが、共押出法によってチューブ状(円筒状)のインフレーションフィルムとし、端部を融着する方法等を好ましく採用することができる。
【実施例】
【0101】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0102】
<メルトフローレート(MFR)>
・装置:(株)東洋精機製作所製「メルトインデクサー」
・温度:230℃
・オリフィス孔径:2mm
・荷重:21.18N
【0103】
<分子量>
・装置:東ソー(株)製「GPC HLC-832GPC/HT」
・検出器:MIRAN社製「1A赤外分光光度計」(測定波長3.42μm)
・カラム:昭和電工(株)製「AD806M/S」3本
・カラムの較正:東ソー製単分散ポリスチレン(A500,A2500,F1,F2,F4,F10,F20,F40,F288の各0.5mg/ml溶液)の測定を行い、溶出体積と分子量の対数値を3次式で近似した。
・測定温度:135℃
・濃度:20mg/10mL
・注入量:0.2ml
・溶媒:オルソジクロロベンゼン
・流速:1.0ml/分
【0104】
<ポリマーブロックの比率>
[カーボンNMRによる測定]
・装置:Bruker社製「AVANCE400分光計」
・溶媒:オルソジクロロベンゼン-h4/パラジクロロベンゼン-d4混合溶媒
・濃度:0.3g/2.5mL
・測定:13C-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・積算回数:1536
・フリップ角:45度
・データ取得時間:1.5秒
・パルス繰り返し時間:15秒
・測定温度:100℃
・1H照射:完全デカップリング
【0105】
<水添ブロックP(水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位)の水添率、水添ブロックQ(水素化共役ジエンポリマーブロック単位)の水添率>
[プロトンNMRによる測定]
・装置:日本分光社製「400YH分光計」
・溶媒:重クロロホルム
・濃度:0.045g/1.0mL
・測定:1H-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・積算回数:8
・測定温度:18.5℃
・水添ブロックPの水添率:6.8~7.5ppmの積分値低減率
・水添ブロックQの水添率:5.7~6.4ppmの積分値低減率
【0106】
[原料]
以下の実施例及び比較例で用いた原料は、次の通りである。
【0107】
<A成分:ヒートシール層用樹脂>
[A-1 環状ポリオレフィン]
三菱ケミカル社製 本発明の水添ブロック共重合体「ゼラス(商標登録)」
・密度(ASTM D792):0.94g/cm3
・MFR(230℃、2.16kg(ISO R1133)):20.0g/10分
・Tg:117℃
・曲げ弾性率(ISO 178):2,500MPa
・Mw:54,200
・水添ブロックP:含有率60モル%、水添率99.5%以上の水素化ポリスチレン
・水添ブロックQ:含有率40モル%、水添率99.5%以上の水素化ポリブタジエン
・ブロック構造:ペンタブロック構造、合計水素化率99.5%以上
【0108】
[A-2 環状ポリオレフィン]
三菱ケミカル社製 本発明の水添ブロック共重合体「ゼラス(商標登録)MC930」
・密度(ASTM D792):0.94g/cm3
・MFR(230℃、2.16kg(ISO R1133)):1.3g/10分
・Tg:129℃
・曲げ弾性率(ISO 178):2,600MPa
・Mw:75,600
・水添ブロックP:含有率65モル%、水添率99.5%以上の水素化ポリスチレン
・水添ブロックQ:含有率35モル%、水添率99.5%以上の水素化ポリブタジエン
・ブロック構造:ペンタブロック構造、合計水素化率99.5%以上
【0109】
[a-1 環状ポリオレフィン]
日本ゼオン社製 環状ポリオレフィンポリマー(ノルボルネン系モノマーの開環重合体)「ZEONOR(商標登録)1020R」
・密度(ASTM D792:1.01g/cm3
・MFR(230℃、2.16kg(ISO R1133):3g/10分
・Tg:102℃
・曲げ弾性率(ISO 178):2,100MPa
【0110】
[a-2 環状ポリオレフィン]
ポリプラスチック社製 環状ポリオレフィンコポリマー(ノルボルネン・エチレンコポリマー)「TOPAS(商標登録)8007F-04」
・密度(ISO 1183):1.01g/cm3
・MFR(230℃、2.16kg(ISO R1133)):12.6g/10分
・Tg:78℃
・曲げ弾性率(ISO 178):2,500MPa
【0111】
<B成分:基材層用樹脂>
[B-1:ポリプロピレン系樹脂]
日本ポリプロ社製「ノバテックPP FW4B」
・プロピレン単位含有率:96重量%
・融点:140℃
・密度(JIS K7112):0.90g/cm3
・MFR(230℃、2.16kg(JIS K7210)):7g/10分
・曲げ弾性率(ISO 178):850MPa
【0112】
[B-2:ポリプロピレン系樹脂]
日本ポリプロ社製「ノバテックPP FL4」
・プロピレン単位含有率:100重量%
・融点:160℃
・密度(JIS K7112):0.90g/cm3
・MFR(230℃、2.16kg(JIS K7210)):5g/10分
・曲げ弾性率(ISO 178):1,400MPa
【0113】
[実施例1~4、比較例1~3]
<評価用フィルムの作製>
2層シート成形機を用い、表1に示す環状ポリオレフィンとポリプロピレン系樹脂とを、成形温度250℃でそれぞれ共押出を行なうことで、厚さ200μm(環状ポリオレフィン層:100μm/ポリプロピレン系樹脂層:100μm)の2層積層評価用フィルムを作製した。
比較例3では、この評価用フィルムの作製で得られたフィルムにフィッシュアイが多数発生したため、以降の評価は行なわなかった。
また、評価用フィルムは、いずれも評価のために作製したものであり、実用上の最適厚さ範囲としたものではない。
【0114】
<評価用容器の作製>
得られた評価用フィルムを80×100mmに切り出し、その2枚を、環状ポリオレフィン層を対向させて重ね合わせ、ヒートシーラー((有)佐川製作所製)を用いて以下の条件でヒートシールを行ない、全体の大きさが80×100mmの容器を作製した。この容器内部に水を約50cc充填して評価用容器とした。
圧力:0.3MPa
時間:3.0秒
シールバー:10mm
温度:240℃
【0115】
<高温高圧殺菌処理>
得られた評価用フィルム及び評価用容器を高温高圧調理殺菌試験機(日阪製作所製「RCS-40RTGN型」)の中に入れた後、加圧し、121℃まで雰囲気温度を上昇させて、その温度を30分間保持した。その後、約40℃まで冷却し、評価用フィルム及び評価用容器を試験機から取り出した。以下、この殺菌処理をした評価用フィルム及び評価用容器をそれぞれ加熱処理後の評価フィルム、加熱処理後の評価用容器と称し、この殺菌処理前の評価フィルムを加熱処理前の評価フィルムと称す。
【0116】
<HAZEの測定>
JIS K7136に準拠し、加熱処理前の評価用フィルム及び加熱処理後の評価用フィルムについてHAZEを測定してフィルムの透明性を評価した。結果を表1に示す。
【0117】
<接着強度の評価>
加熱処理前の評価用フィルム及び加熱処理後の評価用フィルムを15mm幅の短冊形に切り取り、JIS K6854に準拠して、23℃、100mm/分の速度で、基材層とヒートシール層の層間のTピール剥離試験を行なった。結果を表1に示す。
接着強度が30N/15mm以上となる場合には、接着強度の値を測定することができなかった。この場合を「剥離不可」と表示した。
【0118】
<シール部維持の可否の評価>
加熱処理後の評価用容器のシール部が維持されているか否かを下記基準で評価した。結果を表1に示す。
○:試験機から取り出した状態で水漏れなく、容器を押しても水漏れなし。
×:試験機から取り出した状態で水漏れ。
【0119】
<ヒートシール強度の評価>
実施例1,3及び比較例1の加熱処理前の評価用フィルムを100mm×100mmの大きさに切り出し、その2枚を、環状ポリオレフィン層を対向させて重ね合わせ、ヒートシーラー((有)佐川製作所製)を用いて以下の条件でヒートシールを行ない、評価用フィルムの長さ方向の中央部分を10mmの幅にヒートシールした。
圧力:0.3MPa
時間:3.0秒
シールバー:10mm
温度:140~220℃
その後、評価用フィルムのヒートシールされていない部分を互いに離反方向に引っ張って引き剥がすことにより剥離強度を測定した。結果を表1に示す。このヒートシール強度は、前述の通り弱シール部では10N/10mm未満であり、0.1~9N/10mmが好ましい。強シール部では10N/10mm以上が好ましいことから、10N/10mm前後が好ましい。
【0120】
【0121】
[評価結果]
表1に示すように、ヒートシール層に本発明の水添ブロック共重合体を用いた実施1~4においては、基材層との接着性が非常に良好であり、且つ、加熱処理後のHAZEも加熱処理前に比べて大きく上昇していないことがわかる。ヒートシール性も非常に良好であり、加熱処理後の評価用容器からの水漏れは発生しなかった。
【0122】
ヒートシール層にノルボルネン系モノマーの開環重合体である環状ポリオレフィンを用いた比較例1,2では、基材層との接着性が悪く、且つ、加熱処理によるHAZEの上昇が大きい。さらにヒートシール性が悪いため、加熱処理後に評価用容器から水漏れが発生してしまった。そのため、耐熱性や滅菌処理が必要な医療用容器には不適当であることがわかる。
【0123】
ヒートシール層にノルボルネン骨格からなるモノマーとエチレンとの共重合体である環状ポリオレフィンを用いた比較例3では、フィルム成形時に多数のフィッシュアイが発生し、実用可能な積層体が得られなかった。
【0124】
<ポート部とのヒートシール強度の評価>
実施例1~4及び比較例1の加熱処理前の評価用フィルムと、射出成形にて作成した厚み2mmのホモポリプロピレンシート(ポリプロピレンは日本ポリプロ社製「ノバテックPP MA3」)を用い、環状ポリオレフィン層とホモポリプロピレンシートを対向させて重ね合せ、ヒートシーラー((有)佐川製作所製)を用いて以下の条件でヒートシールを行ない、評価用フィルムの長さ方向の中央部分を10mmの幅にヒートシールした。
ここで、厚み2mmのホモプロピレンシートは、輸液バッグのポート部を模したものである。ここでの評価結果は、輸液バッグにおけるポート部とヒートシール層とのヒートシール強度を意味する。
圧力:0.2MPa
時間:2.0秒
シールバー:10mm幅
温度:200~240℃
【0125】
その後、評価用フィルムのヒートシールされていない部分をホモポリプロピレンシート(表中では「ホモPPシート」)より離反方向に引っ張って引き剥がすことにより剥離強度を測定した。結果を表2に示す。
このヒートシール強度は、医療用容器のポート部との融着強度に対応するものであり、10N/10mm以上が好ましく、15N/10mm以上がより好ましい。
尚、表2において「-」で表示した箇所は未測定である。
【0126】
【0127】
[評価結果]
表2に示すように、ヒートシール層に本発明の水添ブロック共重合体を用いた実施例1~4においては、ホモプロピレンシートとのヒートシール性が非常に良好であることがわかる。
【0128】
一方でヒートシール層にノルボルネン系モノマーの開環重合体である環状ポリオレフィン系樹脂を用いた比較例1では、ホモプロピレンシートとのヒートシール性が悪いため、ホモプロピレンのポート部を有する輸液バッグのヒートシール層として不適当であることがわかる。
【0129】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2018年5月8日付で出願された日本特許出願2018-089971に基づいており、その全体が引用により援用される。