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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】半導体装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/739 20060101AFI20221129BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20221129BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20221129BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
H01L29/78 655B
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/78 652C
H01L29/78 655A
H01L29/78 658A
H01L29/06 301D
H01L29/06 301V
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020549888
(86)(22)【出願日】2018-10-10
(86)【国際出願番号】 JP2018037777
(87)【国際公開番号】W WO2020075248
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000106276
【氏名又は名称】サンケン電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】押野 雄一
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-034001(JP,A)
【文献】特開2018-041845(JP,A)
【文献】特開2012-253276(JP,A)
【文献】国際公開第2012/164817(WO,A1)
【文献】特開2001-250947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/739
H01L 29/78
H01L 21/336
H01L 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の第1半導体領域の一方の主面から不純物を注入し、前記第1半導体領域よりも不純物濃度の高い第1導電型の第2半導体領域を形成する工程と、
膜厚方向に沿った不純物濃度プロファイルが複数のピークを有する第2導電型の第3半導体領域を前記第2半導体領域の上に形成する工程と、
前記第3半導体領域の上面に第1導電型の第4半導体領域を形成する工程と、
前記第4半導体領域から延伸して前記第3半導体領域を貫通する溝の内壁に、ゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜を介して前記第3半導体領域の側面に対向するように前記溝の内部に制御電極を形成する工程と、
前記第1半導体領域の他方の主面に、前記第1半導体領域よりも不純物濃度の高い第1導電型の第5半導体領域を形成する工程と、
前記第5半導体領域を介して前記第1半導体領域の前記他方の主面に第2導電型の第6半導体領域を形成する工程と
を含み、
前記第3半導体領域を形成する工程が、前記第1半導体領域の異なる深さに第2導電型の不純物を複数回にわたって注入する工程を含み、
前記第3半導体領域に第2導電型の不純物を注入する深さの間隔を、前記溝に沿った前記第2半導体領域の膜厚よりも短くすることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記溝に沿った前記第3半導体領域の膜厚を、前記溝に沿った前記第2半導体領域の膜厚よりも厚くすることを特徴とする請求項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記第3半導体領域の前記溝に沿った前記不純物濃度プロファイルを、前記第2半導体領域に近い側の前記ピークの不純物濃度が、前記第4半導体領域に近い側の前記ピークの不純物濃度よりも高いように、前記第3半導体領域を形成することを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記第2半導体領域に注入した第1導電型の不純物の拡散、前記第3半導体領域に注入した第2導電型の不純物の拡散、及び前記第4半導体領域に注入した第1導電型の不純物の拡散を個別に行わず、1回の加熱工程によって前記第2半導体領域、前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域における不純物の拡散を同時に行うことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
第1導電型の第1半導体領域と、
前記第1半導体領域の第1主面に配置された、前記第1半導体領域よりも不純物濃度の高い第1導電型の第2半導体領域と、
前記第2半導体領域の上面に配置され、膜厚方向に沿って複数のピークを有する不純物濃度プロファイルで不純物が添加された第2導電型の第3半導体領域と、
前記第3半導体領域の上面に配置された第1導電型の第4半導体領域と、
前記第4半導体領域の上面から延伸して前記第3半導体領域を貫通する溝の内壁に配置されたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜を介して前記第3半導体領域の側面に対向するように前記溝の内部に配置された制御電極と、
前記第1主面に対向する前記第1半導体領域の第2主面に配置された、前記第1半導体領域よりも不純物濃度の高い第1導電型の第5半導体領域と、
前記第5半導体領域を介して前記第1半導体領域の前記第2主面に配置された第2導電型の第6半導体領域と
を備え
前記第3半導体領域の前記溝に沿った前記不純物濃度プロファイルにおける極小値から1つの前記ピークを挟んだ隣の極小値までを不純物濃度の凸状領域としたときに、前記不純物濃度プロファイルに含まれる複数の前記凸状領域の膜厚方向のそれぞれの幅が、前記溝に沿った前記第2半導体領域の膜厚よりも短いことを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
前記溝に沿った前記第3半導体領域の膜厚が、前記溝に沿った前記第2半導体領域の膜厚よりも厚いことを特徴とする請求項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記第3半導体領域の前記溝に沿った前記不純物濃度プロファイルにおいて、前記第2半導体領域に近い側の前記ピークの不純物濃度が、前記第4半導体領域に近い側の前記ピークの不純物濃度よりも高いことを特徴とする請求項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記溝に沿った前記第2半導体領域の膜厚が1μm未満であることを特徴とする請求項に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベース領域に隣接するキャリア蓄積層を有する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大電流のスイッチング動作を行うスイッチング素子(パワー半導体素子)として、高い入力インピーダンスと低いオン抵抗を有する絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)が使用されている。IGBTは、例えばモータ駆動回路などで使用されている。
【0003】
IGBTには、ベース領域とドリフト領域の間に、ドリフト領域よりも不純物濃度が高いキャリア蓄積層を配置した構成を採用可能である(特許文献1参照。)。この構成により、ドリフト領域に正孔が蓄積され、正孔がコレクタ領域からエミッタ領域に到達することが妨げられる。このため、半導体装置のオン抵抗を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-316479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、キャリア蓄積層を形成した後にベース領域を形成する際にキャリア蓄積層の不純物も拡散してしまう問題があった。これにより、キャリア蓄積層の不純物濃度が低下する。その結果、ドリフト領域での正孔の蓄積量が十分に高めることができず、オン抵抗の低減が抑制されてしまう。
【0006】
上記問題点に鑑み、本発明は、製造過程におけるキャリア蓄積層の不純物濃度の低下を抑制できる半導体装置及び半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、第1導電型の第1半導体領域の一方の主面から不純物を注入して第1半導体領域よりも不純物濃度の高い第1導電型の第2半導体領域を形成する工程と、第1半導体領域の異なる深さに不純物を複数回にわたって注入することにより膜厚方向に沿った不純物濃度プロファイルが複数のピークを有する第2導電型の第3半導体領域を第2半導体領域の上に形成する工程と、第3半導体領域の上面に第1導電型の第4半導体領域を形成する工程を含み、第3半導体領域に第2導電型の不純物を注入する深さの間隔を、溝に沿った第2半導体領域の膜厚よりも短くする半導体装置の製造方法が提供される。
【0008】
本発明の他の態様によれば、第1導電型の第1半導体領域と、第1半導体領域の第1主面に配置された、第1半導体領域よりも不純物濃度の高い第1導電型の第2半導体領域と、第2半導体領域の上面に配置され、膜厚方向に沿って複数のピークを有する不純物濃度プロファイルで不純物が添加された第2導電型の第3半導体領域と、第3半導体領域の上面に配置された第1導電型の第4半導体領域を備え、第3半導体領域の溝に沿った不純物濃度プロファイルにおける極小値から1つのピークを挟んだ隣の極小値までを不純物濃度の凸状領域としたときに、不純物濃度プロファイルに含まれる複数の凸状領域の膜厚方向のそれぞれの幅が、溝に沿った第2半導体領域の膜厚よりも短い半導体装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、製造過程におけるキャリア蓄積層の不純物濃度の低下を抑制できる半導体装置及び半導体装置の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る半導体装置の構造を示す模式的な断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る半導体装置の不純物濃度プロファイルの例を示すグラフである。
図3】本発明の実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための模式的な工程断面図である(その1)。
図4】本発明の実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための模式的な工程断面図である(その2)。
図5】本発明の実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための模式的な工程断面図である(その3)。
図6】本発明の実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための模式的な工程断面図である(その4)。
図7】本発明の実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための模式的な工程断面図である(その5)。
図8】本発明の実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための模式的な工程断面図である(その6)。
図9】本発明の実施形態の変形例に係る半導体装置の不純物濃度プロファイルの例を示すグラフである。
図10】本発明の実施形態の変形例に係る半導体装置のチャネル領域を移動する電子の例を示す模式図である。
図11】チャネル領域を移動する電子の他の例を示す模式図である。
図12】本発明のその他の実施形態に係る半導体装置の構造を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各部の長さの比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0012】
また、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の形状、構造、配置などを下記のものに特定するものでない。
【0013】
本発明の実施形態に係る半導体装置は、図1に示すように、第1導電型の第1半導体領域(ドリフト領域10)の第1主面11に、第1半導体領域よりも不純物濃度の高い第1導電型の第2半導体領域(キャリア蓄積層20)が配置されている。第2半導体領域の上に第2導電型の第3半導体領域(ベース領域30)が配置され、第3半導体領域の上面に第1導電型の第4半導体領域(エミッタ領域40)が配置されている。ベース領域30には、膜厚方向に沿って複数のピークを有する不純物濃度プロファイルで不純物が添加されている。
【0014】
図1に示した半導体装置はトレンチゲート型のIGBTであり、エミッタ領域40の上面から延伸してエミッタ領域40、ベース領域30及びキャリア蓄積層20を貫通する溝が形成され、溝の内壁にゲート絶縁膜70が配置されている。ゲート絶縁膜70を介してベース領域30の側面に対向するように、溝の内部に制御電極(ゲート電極80)が配置されている。ゲート絶縁膜70を介してゲート電極80と対向するベース領域30の表面が、チャネルの形成されるチャネル領域である。図1に示した実施形態では、キャリア蓄積層20を貫通した溝の先端が、ドリフト領域10に達している。
【0015】
第1導電型と第2導電型とは互いに反対導電型である。即ち、第1導電型がn型であれば、第2導電型はp型であり、第1導電型がp型であれば、第2導電型はn型である。以下では、第1導電型がn型、第2導電型がp型の場合を例示的に説明する。
【0016】
第1主面11に対向するドリフト領域10の第2主面12に、ドリフト領域10よりも不純物濃度の高い第1導電型の第5半導体領域(フィールドストップ領域50)が配置されている。そして、フィールドストップ領域50を介してドリフト領域10の第2主面12に、第2導電型の第6半導体領域(コレクタ領域60)が配置されている。フィールドストップ領域50によって、オフ状態でベース領域30の下面から延伸する空乏層がコレクタ領域60に達することが抑制される。フィールドストップ領域50に接続する一方の主面と対向するコレクタ領域60の他方の主面には、コレクタ領域60と電気的に接続するコレクタ電極220が配置されている。
【0017】
ゲート電極80の上方には、ベース領域30及びベース領域30の上面に選択的に配置されたエミッタ領域40と電気的に接続するエミッタ電極210が配置されている。エミッタ電極210は層間絶縁膜90の上に配置され、層間絶縁膜90に設けた開口部を介して、エミッタ電極210がベース領域30とエミッタ領域40に接続する。層間絶縁膜90によって、ゲート電極80とエミッタ電極210とは電気的に絶縁されている。
【0018】
ここで、図1に示した半導体装置の動作について説明する。エミッタ電極210とコレクタ電極220の間に所定のコレクタ電圧を印加し、エミッタ電極210とゲート電極80の間に所定のゲート電圧を印加する。例えば、コレクタ電圧は300V~1600V程度、ゲート電圧は10V~20V程度である。このようにして半導体装置をオン状態にすると、チャネル領域がp型からn型に反転してチャネルが形成される。形成されたチャネルを通過して、エミッタ電極210から電子がドリフト領域10に注入される。また、コレクタ領域60とドリフト領域10との間が順バイアスされ、コレクタ電極220からコレクタ領域60を経由して正孔(ホール)がドリフト領域10、キャリア蓄積層20、ベース領域30の順に移動する。更に電流を増やしていくと、コレクタ領域60からの正孔が増加し、ドリフト領域10に正孔が蓄積される。その結果、伝導度変調によってオン抵抗が低下する。
【0019】
半導体装置をオン状態からオフ状態にする場合には、ゲート電圧をしきい値電圧よりも低く制御する。例えば、ゲート電圧を、エミッタ電圧と同じ電位又は負電位となるようにする。これにより、ベース領域30のチャネルが消滅して、エミッタ電極210からドリフト領域10への電子の注入が停止する。コレクタ電極220の電位がエミッタ電極210よりも高いので、ベース領域30とキャリア蓄積層20との界面から空乏層が広がっていくと共に、ドリフト領域10に蓄積された正孔はエミッタ電極210に抜けていく。このとき、正孔は、溝と溝の間の半導体領域を通過して移動する。つまり、溝間の領域が正孔の吸い出し口である。
【0020】
図1に示した半導体装置では、ドリフト領域10よりも不純物濃度の高いキャリア蓄積層20をドリフト領域10とベース領域30との間に配置することにより、オン状態でキャリア蓄積層20からドリフト領域10に向かう電界が発生する。これにより、ドリフト領域10とキャリア蓄積層20との界面の近傍において、ドリフト領域10に正孔が蓄積される。このため、キャリア蓄積層20が配置されない場合と比較して、より多くの正孔が蓄積される。その結果、半導体装置のオン抵抗をより低下させることができる。
【0021】
なお、キャリア蓄積層20の不純物濃度を高くしすぎると、オフ状態においてベース領域30とキャリア蓄積層20との界面のPN接合から生じる空乏層の広がりが抑制される。その結果、半導体装置の耐圧が低下する。したがって、キャリア蓄積層20の不純物濃度は、ドリフト領域10の不純物濃度よりも高く、且つ、ベース領域30の不純物濃度よりも低いことが好ましい。
【0022】
ところで、キャリア蓄積層20の不純物濃度が低くなると、ドリフト領域10での正孔の蓄積量が十分に増加せず、オン抵抗の低減が抑制されてしまう。即ち、キャリア蓄積層20を形成した後に、ベース領域30に注入した不純物を拡散するための加熱工程(以下において、「ベースアニール」という。)を実施すると、ベースアニールの時間が長いほど、キャリア蓄積層20の不純物が多く拡散してしまう。そして、キャリア蓄積層20の不純物濃度が低下する。例えば、キャリア蓄積層20を半導体表面側に不純物を注入して拡散により形成した後、ベース領域30を半導体表面側から不純物を注入して拡散により形成する場合、拡散したキャリア蓄積層20の不純物がベース領域30の不純物と打ち消しあうことにより、キャリア蓄積層20の不純物濃度が低下する。
【0023】
これに対し、実施形態に係る半導体装置は、異なる深さに第2導電型の不純物を複数回にわたって注入することにより、ベース領域30を形成する。このため、チャネル領域が所定の長さになるようにベース領域30の溝に沿った膜厚を形成するために必要な拡散を、実施形態に係る半導体装置では短時間で行うことができる。つまり、ベースアニールの時間を、1回の不純物の注入によりベース領域30を形成する場合に比べて、実施形態に係る半導体装置では短縮できる。したがって、図1に示した半導体装置によれば、キャリア蓄積層20の不純物の拡散が抑制され、オン抵抗を低減できる。そして、異なる深さに不純物を複数回にわたって注入することにより、ベース領域30の不純物濃度プロファイルは、膜厚方向に沿って複数の不純物濃度のピークを有する。
【0024】
例えば、膜厚が2.5μm程度のベース領域30を形成するためのベースアニールの時間は、不純物の注入が1回の場合には2~3時間が必要である。これに対し、異なる深さに2回の不純物を注入した場合には、ベースアニールの時間は数十秒である。このため、実施形態に係る半導体装置では、ベースアニールに起因するキャリア蓄積層20の不純物濃度の低下を抑制できる。
【0025】
図2に、図1に示した半導体装置の不純物濃度プロファイルの例を示す。図2は、2回の不純物の注入によってベース領域30を形成する例である。不純物濃度プロファイルの横軸が不純物濃度であり、縦軸がエミッタ領域40の上面を基準位置0とする膜厚方向の深さである。
【0026】
図2に示した不純物濃度プロファイルにおいて、深さt1はドリフト領域10とキャリア蓄積層20との境界の位置であり、深さt2はキャリア蓄積層20とベース領域30との境界の位置である。深さt3は、ベース領域30を形成するために1回目に注入された不純物が拡散された第1ベース領域31と、2回目に注入された不純物が拡散された第2ベース領域32との境界の位置である。深さt4は、ベース領域30とエミッタ領域40との境界の位置である。例えば、キャリア蓄積層20の膜厚は1μm程度、ベース領域30の膜厚は2.5μm程度、エミッタ領域40の膜厚は0.5μm程度である。このとき、深さt1は4μm程度、深さt2は3μm程度、深さt4は0.5μm程度である。深さt3は、深さt2と深さt4の中間程度である。
【0027】
以下において、ベース領域30の不純物濃度プロファイルにおける極小値から1つのピークを挟んだ隣の極小値までを、不純物濃度の「凸状領域」という。つまり、第1ベース領域31と第2ベース領域32は、それぞれ1つの凸状領域からなる。第1ベース領域31の凸状領域は、キャリア蓄積層20とベース領域30との境界から、第1ベース領域31と第2ベース領域32との境界までの範囲である。第2ベース領域32の凸状領域は、第1ベース領域31と第2ベース領域32との境界から、ベース領域30とエミッタ領域40との境界までの範囲である。
【0028】
凸状領域の膜厚方向の幅が狭いほど、不純物の拡散によってベース領域30を形成するためのベースアニールの時間が短縮されている。例えば、ベース領域30の不純物濃度プロファイルに含まれる凸状領域それぞれの膜厚方向の幅を、溝に沿ったキャリア蓄積層20の膜厚よりも短くする。
【0029】
一方、例えば第1ベース領域31の膜厚Wb1と第2ベース領域32の膜厚Wb2のトータルであるベース領域30の膜厚を、キャリア蓄積層20の膜厚Wcよりも厚くすることができる。上記では、ベース領域30の形成するための不純物の注入の回数が2回である場合を例示的に説明したが、不純物の注入の回数が3回以上であってよい。このため、実施形態に係る半導体装置によれば、ベースアニールに起因するキャリア蓄積層20の不純物濃度の低下を懸念することなく、ベース領域30の膜厚を設定できる。また、ベース領域30の膜厚は、半導体装置の閾値や短絡耐量に影響を及ぼす。実施形態に係る半導体装置によれば、これらの設計余裕度を高めることができる。
【0030】
なお、ベースアニールの時間を短縮することにより、キャリア蓄積層20の不純物の拡散が抑制される。このため、キャリア蓄積層20の膜厚が薄い半導体装置を実現できる。例えば、溝に沿ったキャリア蓄積層20の膜厚を1μm未満にできる。これにより、ドリフト領域10側へ空乏層をより良好に広げることができ、溝の底部などでの電界集中を抑制することができる。
【0031】
以上に説明したように、実施形態に係る半導体装置によれば、キャリア蓄積層20の不純物濃度の低下が抑制され、半導体装置のオン抵抗を低減することができる。
【0032】
以下に、図面を参照して図1に示した半導体装置の製造方法を説明する。なお、以下に述べる製造方法は一例であり、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により図1に示した半導体装置を実現可能であることはもちろんである。
【0033】
図3に示すように、例えばシリコン半導体であるn-型のドリフト領域10のゲート電極80を配置する領域に、膜厚方向に延伸する溝100を形成する。溝100は、例えばフォトリソグラフィ技術とエッチング技術を用いて形成される。
【0034】
そして、ドリフト領域10の表面から所定の深さにn型の不純物を注入して、ドリフト領域10よりも高濃度のn型のキャリア蓄積層20を図4に示すように形成する。例えば、ドリフト領域10の不純物濃度は1E13cm-3~1E14cm-3程度であり、キャリア蓄積層20の不純物ピーク濃度は8E14cm-3~5E15cm-3程度である。n型の不純物は、例えばリン(P)や砒素(As)などである。なお、キャリア蓄積層20の底面が溝100の底部よりも上方に位置するように、キャリア蓄積層20を形成する。
【0035】
その後、キャリア蓄積層20の上に、膜厚方向に沿った不純物濃度プロファイルが複数のピークを有するように不純物を注入してp型のベース領域30を形成する。なお、異なる深さにp型の不純物を複数回にわたって注入することで、膜厚方向に沿って複数のピークを有する不純物濃度プロファイルを容易に実現できる。例えば、図5に示すように、第1注入位置D1と、第1注入位置D1よりも表面に近い第2注入位置D2に、p型の不純物を注入する。第1注入位置D1は、図2に示した第1ベース領域31の不純物濃度のピークの位置である。第2注入位置D2は、図2に示した第2ベース領域32の不純物濃度のピークの位置である。不純物を注入する深さは、例えばイオン注入法により不純物を注入するエネルギーの大きさを調整することにより設定される。例えば、ベース領域30の不純物濃度のピークの値は5E16cm-3~5E17cm-3程度である。p型の不純物は、例えばボロン(B)などである。
【0036】
更に、図6に示すように、ベース領域30の上面にn型の不純物を注入して、n+型のエミッタ領域40を選択的に形成する。エミッタ領域40の不純物濃度は、例えば1E20cm-3程度である。また、溝100の内壁にゲート絶縁膜70を形成する。例えば、ゲート絶縁膜70として、膜厚が100nm~300nm程度の酸化シリコン(SiO2)膜を熱酸化法で形成する。ゲート絶縁膜70を形成した後、図7に示すように、溝100の内部を埋め込むようにゲート絶縁膜70上にゲート電極80を形成する。ゲート電極80には、例えばポリシリコン膜などが使用される。
【0037】
次いで、ドリフト領域10の裏面から所定の深さでn型の不純物及びp型の不純物をそれぞれ注入して、図8に示すようにフィールドストップ領域50とコレクタ領域60を形成する。フィールドストップ領域50の不純物ピーク濃度は1E16cm-3~1E17cm-3程度であり、コレクタ領域60の不純物ピーク濃度は1E17cm-3~1E18cm-3程度である。
【0038】
エミッタ領域40、ベース領域30及びゲート電極80の上面を覆う層間絶縁膜90を形成する。そして、エミッタ領域40とベース領域30に接続するエミッタ電極210を層間絶縁膜90上に形成する。例えば、層間絶縁膜90の一部に開口部を設けてエミッタ領域40とベース領域30の表面を露出させ、この開口部を埋め込むようにエミッタ電極210を形成する。また、コレクタ領域60の裏面にコレクタ電極220を形成する。以上により、図1に示した半導体装置が完成する。
【0039】
キャリア蓄積層20、ベース領域30及びエミッタ領域40は、不純物を注入した後に、加熱工程による不純物の拡散を行う不純物拡散法によって形成される。このとき、キャリア蓄積層20に注入したn型の不純物の拡散、ベース領域30に注入したp型の不純物の拡散、エミッタ領域40に注入したn型の不純物の拡散を、それぞれの領域の拡散工程の後に個別の加熱によって行ってもよい。或いは、これらの領域の不純物の拡散を個別の加熱工程で行わず、1回の加熱工程によってキャリア蓄積層20、ベース領域30及びエミッタ領域40における不純物の拡散を同時に行ってもよい。
【0040】
また、上記では、溝100を形成した後に、キャリア蓄積層20、ベース領域30及びエミッタ領域40を形成する方法を説明した。しかし、キャリア蓄積層20、ベース領域30及びエミッタ領域40を形成した後に、溝100を形成してもよい。また、キャリア蓄積層20、ベース領域30を形成した後に、溝100及びエミッタ領域40を形成してもよい。
【0041】
以上に説明した半導体装置の製造方法では、深さの異なる複数回の不純物の注入によってベース領域30を形成する。このため、1回の不純物の注入の場合と比較して、実施形態に係る半導体装置の製造方法によれば、ベースアニールによってベース領域30の不純物を拡散させる範囲を狭くできる。したがって、ベースアニールの時間を短くして、ベースアニールに起因するキャリア蓄積層20の不純物の拡散を抑制することができる。その結果、製造過程におけるキャリア蓄積層20の不純物濃度の低下が抑制され、半導体装置のオン抵抗を低減することができる。
【0042】
凸状領域の膜厚方向の幅が狭いほど、ベースアニールの時間が短縮されている。このため、ベース領域30にp型の不純物を注入する深さの間隔を、溝に沿ったキャリア蓄積層20の膜厚よりも短くしてもよい。これにより、ベース領域30の不純物濃度プロファイルに含まれる凸状領域それぞれの膜厚方向の幅が、溝に沿ったキャリア蓄積層20の膜厚よりも短くなる。
【0043】
また、実施形態に係る半導体装置の製造方法によれば、ベース領域30の膜厚を厚くしても、ベースアニールに起因するキャリア蓄積層20の不純物濃度の低下が抑制される。このため、ベース領域30の膜厚を、キャリア蓄積層20の膜厚よりも厚く形成することできる。
【0044】
また、ベース領域30の膜厚は、半導体装置の閾値や短絡耐量に影響を及ぼす。実施形態に係る半導体装置によれば、ベース領域30の膜厚を薄くすることなく、キャリア蓄積層20の不純物濃度を容易に高めることができる。
【0045】
なお、不純物の注入の回数を増やすことにより、不純物の注入される深さの相互の間隔を狭くすることができる。これにより、例えばベース領域30の膜厚を厚くする場合にも、ベースアニールの時間を抑制できる。その結果、キャリア蓄積層20の不純物濃度の低下が抑制され、半導体装置のオン抵抗を低減できる。
【0046】
なお、複数の深さに不純物を注入してベース領域30を形成する場合に、IGBTのしきい値や短絡耐量、ラッチアップの起因となるベース領域30の不純物濃度を適宜調整できる。このため、ベース領域30の設計余裕度を高めることができる。例えば、ベース領域30の不純物濃度を高くすることにより、短絡耐量やラッチアップを抑制できる。一方、ベース領域30の不純物濃度を高くするとオン抵抗が増大する。したがって、半導体装置に要求される特性に応じて、ベース領域30の不純物濃度プロファイルが設定される。
【0047】
(変形例)
図2には、2つの凸状領域での不純物濃度のピークの値が略同等の大きさである不純物濃度プロファイルの例を示した。これに対し、図9に示すように、ベース領域30の不純物濃度プロファイルにおいて、キャリア蓄積層20に近い側のピークの不純物濃度が、エミッタ領域40に近い側のピークの不純物濃度よりも高いようにしてもよい。
【0048】
即ち、図9に示す不純物濃度プロファイルを有するようにベース領域30を形成する。これにより、ゲート絶縁膜70に沿ってチャネル領域の幅を略一定にできる。このため、図10に示すように、電子eがゲート絶縁膜70に沿ってキャリア蓄積層20に移動する。
【0049】
これに対し、前述の特許文献1のようにドリフト領域の表面にp型不純物を注入しアニールする場合には、ベース領域30の不純物濃度が、エミッタ領域40に近い領域よりもキャリア蓄積層20に近い領域において低くなる。その場合、図11に示すように、キャリア蓄積層20に近い領域においてチャネル領域の幅が広くなり、電子eがゲート絶縁膜70から離れた領域も移動する。このようにベース領域30の下方で電子注入量が増大するため、短絡電流が流れてから半導体装置が破壊されるまでの時間が短く、短絡耐量が低下する。
【0050】
したがって、キャリア蓄積層20に近い側のピークの不純物濃度を、エミッタ領域40に近い側のピークの不純物濃度よりも高くすることにより、半導体装置の短絡耐量を向上させることができる。
【0051】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0052】
例えば、上記ではベース領域30及びキャリア蓄積層20を貫通した溝の先端が、ドリフト領域10まで達している実施形態について説明した。しかし、図12に示すように、溝がキャリア蓄積層20を貫通しなくてもよい。即ち、ベース領域30を貫通する溝の先端がキャリア蓄積層20の少なくとも上部に達すればよい。
【0053】
また、半導体表面から深い位置に高加速でイオン注入した後にアニール処理することで、キャリア蓄積層20を形成してもよい。これにより、拡散したキャリア蓄積層20の不純物がベース領域30の不純物と打ち消しあうことが少なくなり、キャリア蓄積層の不純物濃度の低下をより抑制できる。
【0054】
また、上記では半導体装置がnチャネル型である場合を例示的に説明した。しかし、半導体装置がpチャネル型であってもよい。
【0055】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態などを含むことはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の半導体装置は、キャリア蓄積層を有する半導体装置を製造する製造業を含む電子機器産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0057】
10…ドリフト領域
20…キャリア蓄積層
30…ベース領域
40…エミッタ領域
50…フィールドストップ領域
60…コレクタ領域
70…ゲート絶縁膜
80…ゲート電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12