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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】基板の製造方法、組成物及び重合体
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/18 20060101AFI20221129BHJP
【FI】
C23C18/18
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020550435
(86)(22)【出願日】2019-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2019038636
(87)【国際公開番号】W WO2020071339
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2018188640
(32)【優先日】2018-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】小松 裕之
(72)【発明者】
【氏名】玉田 美樹
(72)【発明者】
【氏名】久米川 涼
(72)【発明者】
【氏名】酒井 達也
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-144761(JP,A)
【文献】国際公開第2012/046615(WO,A1)
【文献】特開2009-263703(JP,A)
【文献】特開2008-104909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/08
C23C 18/18
C08F 8/00
C08L 101/02
H01L 21/288
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板上に組成物を塗工する工程と、
上記塗工工程により形成された塗工膜上の少なくとも一部に金属含有層を形成する工程と
を備える基板の製造方法であって、
上記組成物が、同一分子上に第1末端構造及び第2末端構造を有する重合体と、溶媒とを含有し、
上記第1末端構造下記式(1)で表される構造であり、
上記第2末端構造が下記式(2)で表される構造であり、
上記重合体がRAFT重合体であり、
上記重合体の主鎖の一方の末端が上記第1末端構造であり、主鎖の他方の末端が上記第2末端構造であり、
上記重合体が、上記第1末端構造と上記第2末端構造との間に、金属原子と化学結合可能な官能基を含まない構造単位(A)を有する基板の製造方法。
【化1】
(式(1)中、Lは、炭素数1~20の3価の基である。Aは、金属原子と化学結合可能な官能基を含む1価の基である。Xは、水素原子、炭素数1~20の1価の有機基、-SH又は-S-A11である。A11は、金属原子と化学結合可能な官能基を含む1価の基である。nは、(-L(-A)-)で表されるブロックを構成する構造単位の数を示し、2以上の整数である。複数のAは同一でも異なっていてもよい。A及びA11は同一でも異なっていてもよい。*は、上記重合体における上記式(1)で表される構造以外の部分に結合する部位を示す。
式(2)中、Lは、-S-、-NR-又は-NA22-である。A及びA22は、それぞれ独立して、金属原子と化学結合可能な官能基を含む1価の基である。Rは、水素原子又は炭素数1~20の1価の炭化水素基である。mは、0又は1である。*は、上記重合体における上記式(2)で表される構造以外の部分に結合する部位を示す。)
【請求項2】
上記重合体における第1末端構造中の金属原子と化学結合可能な上記官能基と、第2末端構造中の金属原子と化学結合可能な上記官能基とが互いに異なる請求項1に記載の基板の製造方法。
【請求項3】
上記第2末端構造が重合開始剤に由来する請求項1又は請求項2に記載の基板の製造方法。
【請求項4】
上記式(1)におけるAがリン酸基であり、上記式(2)におけるAがニトリル基、カルボキシ基、エステル基及びヒドロキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の基板の製造方法。
【請求項5】
上記構造単位(A)が、炭化水素基置換又は非置換のスチレンに由来する構造単位である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の基板の製造方法。
【請求項6】
上記金属基板が第1金属原子を含み、上記金属含有層が上記第1金属原子とは異なる第2金属原子を含んでおり、
上記重合体における第1末端構造の上記官能基が上記第1金属原子と化学結合可能なものであり、第2末端構造の上記官能基が上記第2金属原子と化学結合可能なものである請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の基板の製造方法。
【請求項7】
上記第1末端構造の官能基がリン酸基であり、上記第2末端構造の上記官能基がニトリル基、カルボキシ基、エステル基及びヒドロキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項6に記載の基板の製造方法。
【請求項8】
金属基板とこの金属基板上に形成された金属含有層とを備える基板の製造方法に用いられる組成物であって、
同一分子上に第1末端構造及び第2末端構造を有する重合体と、溶媒とを含有し、
上記第1末端構造下記式(1)で表される構造であり、
上記第2末端構造が下記式(2)で表される構造であり、
上記重合体がRAFT重合体であり、
上記重合体の主鎖の一方の末端が上記第1末端構造であり、主鎖の他方の末端が上記第2末端構造であり、
上記重合体が、上記第1末端構造と上記第2末端構造との間に、金属原子と化学結合可能な官能基を含まない構造単位(A)を有する組成物。
【化2】
(式(1)中、Lは、炭素数1~20の3価の基である。Aは、金属原子と化学結合可能な官能基を含む1価の基である。Xは、水素原子、炭素数1~20の1価の有機基、-SH又は-S-A11である。A11は、金属原子と化学結合可能な官能基を含む1価の基である。nは、(-L(-A)-)で表されるブロックを構成する構造単位の数を示し、2以上の整数である。複数のAは同一でも異なっていてもよい。A及びA11は同一でも異なっていてもよい。*は、上記重合体における上記式(1)で表される構造以外の部分に結合する部位を示す。
式(2)中、Lは、-S-、-NR-又は-NA22-である。A及びA22は、それぞれ独立して、金属原子と化学結合可能な官能基を含む1価の基である。Rは、水素原子又は炭素数1~20の1価の炭化水素基である。mは、0又は1である。*は、上記重合体における上記式(2)で表される構造以外の部分に結合する部位を示す。)
【請求項9】
同一分子上に第1末端構造及び第2末端構造を有する重合体であって
上記第1末端構造下記式(1)で表される構造であり、
上記第2末端構造が下記式(2)で表される構造であり、
RAFT重合体であり、
主鎖の一方の末端が上記第1末端構造であり、主鎖の他方の末端が上記第2末端構造であり、
上記第1末端構造と上記第2末端構造との間に、金属原子と化学結合可能な官能基を含まない構造単位(A)を有する重合体。
【化3】

(式(1)中、Lは、炭素数1~20の3価の基である。Aは、金属原子と化学結合可能な官能基を含む1価の基である。Xは、水素原子、炭素数1~20の1価の有機基、-SH又は-S-A11である。A11は、金属原子と化学結合可能な官能基を含む1価の基である。nは、(-L(-A)-)で表されるブロックを構成する構造単位の数を示し、2以上の整数である。複数のAは同一でも異なっていてもよい。A及びA11は同一でも異なっていてもよい。*は、上記重合体における上記式(1)で表される構造以外の部分に結合する部位を示す。
式(2)中、Lは、-S-、-NR-又は-NA22-である。A及びA22は、それぞれ独立して、金属原子と化学結合可能な官能基を含む1価の基である。Rは、水素原子又は炭素数1~20の1価の炭化水素基である。mは、0又は1である。*は、上記重合体における上記式(2)で表される構造以外の部分に結合する部位を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の製造方法、組成物及び重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造の際等に、金属基板の表面に種々の層を形成することが行われている。このような層を形成する方法として、例えば微細な領域を表層に有する基板を選択的に修飾する方法が検討されるようになってきている。この修飾方法には、簡便に表面領域を修飾することができる材料が必要であり、種々のものが検討されている(特開2016-25315号公報、特開2003-76036号公報、ACS Nano,9,9,8710,2015、ACS Nano,9,9,8651,2015、Science,318,426,2007及びLangmuir,21,8234,2005参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-25315号公報
【文献】特開2003-76036号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】ACS Nano,9,9,8710,2015
【文献】ACS Nano,9,9,8651,2015
【文献】Science,318,426,2007
【文献】Langmuir,21,8234,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近では、金属基板の表面に形成する層として、金属原子を含む金属含有層を形成することが求められている。しかし、上記従来の材料では、金属含有層の形成に用いることは難しく、金属含有層を容易に形成させることができる方法が求められている。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、金属基板の表面に金属含有層が形成された基板を簡便に製造することができる基板の製造方法、組成物及び重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた発明は、金属基板の少なくとも一方の表面に組成物を塗工する工程と、上記塗工工程により形成された塗工膜の上記金属基板とは反対側の表面の少なくとも一部に金属含有層を形成する工程とを備える基板の製造方法であって、上記組成物が、同一分子上に第1末端構造及び第2末端構造を有する重合体と溶媒とを含有し、上記第1末端構造及び第2末端構造が、下記式(1)で表される構造及び下記式(2)で表される構造からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【化1】
(式(1)中、Lは、炭素数1~20の3価の基である。Aは、金属原子と化学結合可能な官能基を含む1価の基である。Xは、水素原子、炭素数1~20の1価の有機基、-SH又は-S-A11である。A11は、金属原子と化学結合可能な官能基を含む1価の基である。nは、(-L(-A)-)で表されるブロックを構成する構造単位の数を示し、2以上の整数である。複数のAは同一でも異なっていてもよく、A及びA11は、同一でも異なっていてもよい。*は、上記重合体における上記式(1)で表される構造以外の部分に結合する部位を示す。
式(2)中、Lは、-S-、-NR-又は-NA22-である。A及びA22は、それぞれ独立して、金属原子と化学結合可能な官能基を含む1価の基である。Rは、水素原子又は炭素数1~20の1価の炭化水素基である。mは、0又は1である。*は、上記重合体における上記式(2)で表される構造以外の部分に結合する部位を示す。)
【0008】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、金属基板とこの金属基板の少なくとも一方の面側に形成された金属含有層とを備える基板の製造方法に用いられる組成物であって、同一分子上に第1末端構造及び第2末端構造を有する重合体と溶媒とを含有し、上記第1末端構造及び第2末端構造が、上記式(1)で表される構造及び上記式(2)で表される構造からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決するためになされたさらに別の発明は、同一分子上に第1末端構造及び第2末端構造を有し、上記第1末端構造及び第2末端構造が上記式(1)で表される構造及び上記式(2)で表される構造からなる群より選ばれる少なくとも1種である重合体である。
【0010】
ここで、「金属基板」とは、表層の少なくとも一部に金属原子を含む基板をいう。
【発明の効果】
【0011】
本発明の基板の製造方法によれば、金属基板の表面に金属含有層が形成された基板を簡便に製造することができる。本発明の組成物は、当該基板の製造方法に好適に用いることができる。本発明の重合体は、当該組成物の重合体成分として好適に用いることができる。従って、これらは、今後ますます微細化が進行すると予想される半導体デバイスの加工プロセス等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、当該基板の製造方法の実施の形態について詳述する。
【0013】
<基板の製造方法>
当該基板の製造方法は、金属基板(以下、「金属基板(X)」ともいう)の少なくとも一方の表面に組成物(以下、「組成物(S)」ともいう)を塗工する工程(以下、「塗工工程」ともいう)と、上記塗工工程により形成された塗工膜(以下、「塗工膜(P)」ともいう)の上記金属基板(X)とは反対側の表面の少なくとも一部に金属含有層(以下、「金属含有層(Y)」ともいう)を形成する工程(以下、「金属含有層形成工程」ともいう)とを備える。当該基板の製造方法は、上記組成物(S)として、同一分子上に第1末端構造(以下、「末端構造(I)」ともいう)及び第2末端構造(以下、「末端構造(II)」ともいう)を有する重合体(以下、「[A]重合体」ともいう)と溶媒(以下、「[B]溶媒」ともいう)とを含有し、上記末端構造(I)及び末端構造(II)が、下記式(1)で表される構造(以下、「構造(1)」ともいう)及び下記式(2)で表される構造(以下、「構造(2)」ともいう)からなる群より選ばれる少なくとも1種であるものを用いる。
【0014】
【化2】
【0015】
上記式(1)中、Lは、炭素数1~20の3価の基である。Aは、金属原子と化学結合可能な官能基を含む1価の基である。Xは、水素原子、炭素数1~20の1価の有機基、-SH又は-S-A11である。A11は、金属原子と化学結合可能な官能基を含む1価の基である。nは、(-L(-A)-)で表されるブロックを構成する構造単位の数を示し、2以上の整数である。複数のAは同一でも異なっていてもよく、A及びA11は、同一でも異なっていてもよい。*は、上記[A]重合体における上記式(1)で表される構造以外の部分に結合する部位を示す。
【0016】
上記式(2)中、Lは、-S-、-NR-又は-NA22-である。A及びA22は、それぞれ独立して、金属原子と化学結合可能な官能基を含む1価の基である。Rは、水素原子又は炭素数1~20の1価の炭化水素基である。mは、0又は1である。*は、上記[A]重合体における上記式(2)で表される構造以外の部分に結合する部位を示す。
【0017】
当該基板の製造方法により、金属基板(X)とこの金属基板(X)の少なくとも一方の面側に形成された金属含有層(Y)とを備える基板が製造される。当該基板の製造方法によれば、上記各工程を備え、組成物(S)が[A]重合体を含有することで、金属基板の表面に金属含有層が形成された基板を簡便に製造することができる。当該基板の製造方法が上記構成を備えることで、上記効果を奏する理由については必ずしも明確ではないが例えば以下のように推察することができる。すなわち、[A]重合体は、両方の末端に、金属原子と化学結合可能な官能基を含む末端構造を有している。金属基板の表面に組成物(S)を塗工することにより、[A]重合体は一方の末端構造中の金属原子と化学結合可能な官能基が金属基板(X)中の金属原子と化学結合することにより金属基板(X)の表面に配置される。この配置された[A]重合体の他方の末端構造中の金属原子と化学結合可能な官能基を用いることにより、容易に金属含有層を形成することができる。このように、当該基板の製造方法によれば、金属基板の表面に金属含有層が形成された基板を簡便に製造することができる。
以下、各工程について説明する。
【0018】
<塗工工程>
本工程では、金属基板(X)の少なくとも一方の表面に組成物(S)を塗工する。
【0019】
金属基板(X)が含む金属原子(第1金属原子、以下、「金属原子(A)」ともいう)としては、金属元素の原子であれば特に限定されない。ケイ素及びホウ素は、金属原子(A)に含まれない。金属原子(A)としては、例えば銅、鉄、亜鉛、コバルト、アルミニウム、スズ、タングステン、ジルコニウム、チタン、タンタル、ゲルマニウム、モリブデン、ルテニウム、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル等が挙げられる。これらの中で、銅又はコバルトが好ましい。
【0020】
金属基板(X)における金属原子(A)の含有形態としては、例えば金属単体、合金、金属窒化物、金属酸化物、シリサイド等が挙げられる。
【0021】
金属単体としては、例えば銅、コバルト、アルミニウム、タングステン等の金属の単体等が挙げられる。
合金としては、例えばニッケル-銅合金、コバルト-ニッケル合金、金-銀合金等が挙げられる。
金属窒化物としては、例えば窒化チタン、窒化タンタル、窒化鉄、窒化アルミニウム等が挙げられる。
金属酸化物としては、例えば酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化銅等が挙げられる。
シリサイドとしては、例えば鉄シリサイド、モリブデンシリサイド等が挙げられる。
これらの中で、金属単体が好ましく、銅又はコバルトがより好ましい。
【0022】
金属基板(X)は、表層中に、金属原子(A)を含む領域(以下、「領域(I)」ともいう)以外に、例えば実質的に非金属原子(以下、「非金属原子(C)」ともいう)のみからなる領域(以下、「領域(II)」ともいう)等を有していてもよい。非金属原子(C)としては、例えばケイ素、ホウ素、炭素、酸素、窒素、水素等が挙げられる。
【0023】
領域(II)中における非金属原子(C)の含有形態としては、例えば非金属単体、非金属酸化物、非金属窒化物、非金属酸窒化物、非金属炭化酸化物等が挙げられる。
【0024】
非金属単体としては、例えばケイ素、ホウ素、炭素等の非金属の単体等が挙げられる。
非金属酸化物としては、例えば二酸化ケイ素(SiO)、テトラエトキシシラン(TEOS)等のテトラアルコキシシランなどの加水分解性シランの加水分解縮合物、酸化ホウ素等が挙げられる。
非金属窒化物としては、例えば窒化ケイ素、窒化ホウ素等が挙げられる。
非金属窒酸化物としては、例えば窒酸化ケイ素、窒酸化ホウ素等が挙げられる。
非金属炭化酸化物としては、例えば炭化酸化ケイ素(SiOC)等が挙げられる。
【0025】
金属基板(X)が領域(I)及び領域(II)を有する場合、金属基板(X)の表層における領域(I)及び領域(II)の存在形状としては特に限定されず、例えば平面視で面状、点状、ストライプ状等が挙げられる。領域(I)及び領域(II)の大きさは特に限定されず、適宜所望の大きさの領域とすることができる。
【0026】
金属基板(X)の形状としては、特に限定されず、板状(基板)、球状等、適宜所望の形状とすることができる。
【0027】
金属基板(X)は、例えば5質量%程度のシュウ酸水溶液で、表面を洗浄しておくことが好ましい。
【0028】
組成物(S)の塗工方法としては、例えばスピンコート法等が挙げられる。上記塗工後に加熱してもよい。この加熱の温度の下限としては、50℃が好ましく、80℃がより好ましい。上記温度の上限としては、200℃が好ましく、150℃がより好ましい。上記加熱の時間の下限としては、10秒が好ましく、30秒がより好ましい。上記時間の上限としては、1時間が好ましく、10分がより好ましい。上記加熱後に、金属基板(X)の表面に化学結合していない[A]重合体を、例えばプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等の溶媒を用いて洗浄し除去することが好ましい。このようにして、塗工膜(P)が形成される。
【0029】
塗工膜(P)の表面における水の接触角の下限としては、70°が好ましく、80°がより好ましく、85°がさらに好ましい。上記接触角の上限としては、例えば100°である。
【0030】
以下、組成物(S)について説明する。
【0031】
<組成物(S)>
組成物(S)は、金属基板(X)とこの金属基板(X)の少なくとも一方の面側に形成された金属含有層(Y)とを備える基板の製造方法に用いられる。組成物(S)は、[A]重合体及び[B]溶媒を含有する。組成物(S)は、[A]重合体及び[B]溶媒以外に、本発明の効果を損なわない範囲において、他の成分を含有していてもよい。以下、各成分について説明する。
【0032】
[[A]重合体]
[A]重合体は、同一分子上に末端構造(I)及び末端構造(II)を有する重合体である。[A]重合体は、通常、末端構造(I)及び末端構造(II)の間に、単量体(以下、「単量体(a)」ともいう)に由来する構造単位(以下、「構造単位(A)」ともいう)を有する。
【0033】
(末端構造)
末端構造(I)及び末端構造(II)は、構造(1)及び構造(2)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0034】
構造(1)における上記式(1)中のA、上記式(1)のXが-S-A11である場合のA11、構造(2)における上記式(2)中のA、及び上記式(2)のLが-NA22-である場合のA22は、金属原子と化学結合可能な官能基(以下、「官能基(M)」ともいう)を含む1価の基(以下、「基(I)」ともいう)である。
【0035】
官能基(M)は、金属原子と化学結合可能な官能基である。官能基(M)と化学結合可能な金属原子としては、例えば金属基板(X)が含む金属原子(A)、後述する金属含有層(Y)が含む金属原子(第2金属原子、以下、「金属原子(B)」ともいう)等が挙げられる。金属原子-官能基(M)間の化学結合としては、例えば共有結合、イオン結合、配位結合等が挙げられる。これらの中で、金属原子-官能基(M)間の結合力がより大きい観点から、配位結合が好ましい。
【0036】
官能基(M)としては、例えばリン酸基、ニトリル基、カルボキシ基、エステル基、ヒドロキシ基等が挙げられる。リン酸基とは、-PO(OH)で表される基をいう。エステル基とは、-COOR(Rは1価の有機基)で表される基をいう。
【0037】
基(I)としては、例えば下記式(i)で表される基(以下、「基(i)」ともいう)等が挙げられる。
【0038】
【化3】
【0039】
上記式(i)中、Eは、単結合、-COO-、-CO-、-O-、-NH-、-NHCO-又は-CONH-である。Qは、単結合又は炭素数1~20の2価の炭化水素基である。Rは、1価の官能基(M)である。pは、0~10の整数である。但し、pが1以上の場合、Qが単結合である場合はない。*は、上記式(1)におけるLに結合する部位を示す。
【0040】
Eとしては、単結合又は-COO-が好ましく、単結合がより好ましい。
【0041】
Qで表される炭素数1~20の2価の炭化水素基としては、例えばアルカンジイル基、シクロアルカンジイル基、アレーンジイル基、アレーンジイルアルカンジイル基等が挙げられる。
【0042】
Qとしては、単結合又はアルカンジイル基が好ましく、単結合がより好ましい。
【0043】
で表される1価の官能基(M)としては、上記官能基(M)として例示した基のうち1価のもの等が挙げられる。
【0044】
pとしては、0~2が好ましく、0又は1がより好ましく、0がさらに好ましい。
【0045】
基(i)としては、リン酸基、シアノアルキル基、カルボキシ基、カルボキシアルキル基、エステル基、ヒドロキシ基又はヒドロキシアルキル基が好ましい。シアノアルキル基としては、例えば1-シアノ-1-メチルエチル基等が挙げられる。カルボキシアルキル基としては、例えば2-カルボキシエチル基等が挙げられる。エステル基としては、例えばメトキシカルボニル基等が挙げられる。ヒドロキシアルキル基としては、例えば2-ヒドロキシエチル基等が挙げられる。
【0046】
上記式(1)におけるAとしては、リン酸基が好ましい。また、上記式(2)におけるAとしては、ニトリル基、カルボキシ基、エステル基及びヒドロキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0047】
上記式(1)におけるLは、[A]重合体の主鎖の一部を構成する基である。「主鎖」とは、[A]重合体の原子鎖のうち最も長いものをいう。Lで表される炭素数1~20の3価の基としては、例えば炭素-炭素二重結合含有基に由来する基、オキシアルキレン基に由来する基等が挙げられる。
【0048】
上記式(1)のXで表される炭素数1~20の1価の有機基としては、例えば炭素数1~20の1価の炭化水素基、この炭化水素基の炭素-炭素間に2価のヘテロ原子含有基を含む基、上記炭化水素基及び上記2価のヘテロ原子含有基を含む基が有する水素原子の一部又は全部を1価のヘテロ原子含有基で置換した基等が挙げられる。「有機基」とは、少なくとも1個の炭素原子を含む基をいう。
【0049】
「炭化水素基」とは、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基が含まれる。この「炭化水素基」は、飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよい。「鎖状炭化水素基」とは、環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された炭化水素基をいい、直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基の両方を含む。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基をいい、単環の脂環式炭化水素基及び多環の脂環式炭化水素基の両方を含む。但し、脂環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を含んでいてもよい。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基をいう。但し、芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環構造を含んでいてもよい。「環員数」とは、脂環構造、芳香環構造、脂肪族複素環構造及び芳香族複素環構造の環を構成する原子数をいい、多環の場合は、この多環を構成する原子数をいう。
【0050】
炭素数1~20の1価の炭化水素基としては、炭素数1~20の1価の鎖状炭化水素基、炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0051】
炭素数1~20の1価の鎖状炭化水素基としては、例えば
メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基等のアルキル基;
エテニル基、プロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基;
エチニル基、プロピニル基、ブチニル基等のアルキニル基などが挙げられる。
【0052】
炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基としては、例えば
シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の単環の脂環式飽和炭化水素基;
シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の単環の脂環式不飽和炭化水素基;
ノルボルニル基、アダマンチル基、トリシクロデシル基等の多環の脂環式飽和炭化水素基;
ノルボルネニル基、トリシクロデセニル基等の多環の脂環式不飽和炭化水素基などが挙げられる。
【0053】
炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素基としては、例えば
フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基等のアリール基;
ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、アントリルメチル基等のアラルキル基などが挙げられる。
【0054】
2価又は1価のヘテロ原子含有基を構成するヘテロ原子としては、例えば酸素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子、ハロゲン原子等が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0055】
2価のヘテロ原子含有基としては、例えば-O-、-CO-、-S-、-CS-、これらのうちの2つ以上を組み合わせた基等が挙げられる。これらの中で-O-が好ましい。
【0056】
1価のヘテロ原子含有基としては、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0057】
上記式(1)のXとしては水素原子又は-SHが好ましく、水素原子がより好ましい。
【0058】
上記式(1)のnの上限としては、10が好ましく、5がより好ましい。
【0059】
上記式(1)中の(-L(-A)-)で表される構造単位の含有割合の下限としては、[A]重合体を構成する全構造単位に対して、0.1モル%が好ましく、0.5モル%がより好ましく、1モル%がさらに好ましく、2モル%が特に好ましい。上記含有割合の上限としては、30モル%が好ましく、20モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましく、7モル%が特に好ましい。
【0060】
上記式(2)のLの-NR-におけるRで表される炭素数1~20の1価の炭化水素基としては、例えば上記式(1)のXとして例示した炭素数1~20の1価の炭化水素基と同様の基等が挙げられる。Lとしては、-S-又は-NR-が好ましく、-NR-の中では-NH-が好ましい。
【0061】
mとしては、0が好ましい。
【0062】
末端構造(I)としては、例えばビニルリン酸に由来するブロックを含む構造、(メタ)アクリル酸に由来するブロックを含む構造、(-CH-CH(OH)-)のブロックを含む構造等が挙げられる。
【0063】
末端構造(II)としては、シアノアルキル基、カルボキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基等が挙げられる。
【0064】
末端構造(I)中の官能基(M)と、末端構造(II)中の官能基(M)とは互いに異なることが好ましい。末端構造(I)と末端構造(II)とで官能基(M)を異なるものとすると、金属基板(X)の金属原子(A)とは異なる金属原子を含む金属含有層(Y)を形成することがより容易になる。
【0065】
末端構造(I)が構造(1)であり、末端構造(II)が構造(2)であることが好ましい。各末端構造が上記各構造とすると、金属基板(X)の金属原子(A)とは異なる金属原子を含む金属含有層(Y)を形成することがより容易になる。
【0066】
(構造単位(A))
構造単位(A)は、単量体(a)に由来する構造単位である。[A]重合体は、構造単位(A)を末端構造(I)及び末端構造(II)の間に通常有している。
【0067】
構造単位(A)を与える単量体(a)としては、例えばビニル芳香族化合物、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸エステル、置換又は非置換のエチレン、架橋性基を有する重合性化合物等が挙げられる。「架橋性基」とは、加熱条件下、活性エネルギー線照射条件下、酸性条件下等における反応により、架橋構造を形成する基をいう。単量体(a)として、これらの化合物を1種又は2種以上用いていてもよい。
【0068】
ビニル芳香族化合物としては、例えば
スチレン;
α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-tert-ブトキシスチレン、o-ヒドロキシスチレン、m-ヒドロキシスチレン、p-ヒドロキシスチレン、m-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、p-クロロスチレン、p-ブロモスチレン、p-ヨードスチレン、p-ニトロスチレン、p-シアノスチレン等の置換スチレン;
ビニルナフタレン;
ビニルメチルナフタレン、ビニルクロロナフタレン等の置換ビニルナフタレン;
ビニルアントラセン;
ビニルメチルアントラセン、ビニルクロロアントラセン等の置換ビニルアントラセン;
ビニルピレン;
ビニルメチルピレン、ビニルクロロピレン等の置換ビニルピレンなどが挙げられる。
【0069】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;
(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸1-メチルシクロペンチル、(メタ)アクリル酸2-エチルアダマンチル、(メタ)アクリル酸2-(アダマンタン-1-イル)プロピル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;
(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシアダマンチル、(メタ)アクリル酸3-グリシジルプロピル、(メタ)アクリル酸3-トリメチルシリルプロピル等の(メタ)アクリル酸置換アルキルエステルなどが挙げられる。
【0070】
置換エチレンとしては、例えば
プロペン、ブテン、ペンテン等のアルケン;
ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン等のビニルシクロアルカン;
シクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロアルケン;
ビニルリン酸、4-ヒドロキシ-1-ブテン、ビニルグリシジルエーテル、ビニルトリメチルシリルエーテル等が挙げられる。
【0071】
架橋性基を有する重合性化合物における架橋性基としては、例えば
ビニル基、ビニロキシ基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、スチリル基等の重合性炭素-炭素二重結合含有基;
オキシラニル基、オキシラニルオキシ基、オキセタニル基、オキセタニルオキシ基等の環状エーテル基;
シクロブタン環が縮環したフェニル基、シクロブタン環が縮環したナフチル基等のシクロブタン環が縮環したアリール基;
アセトキシフェニル基、t-ブトキシフェニル基等のアシル基又は熱解離性基で保護された芳香族性ヒドロキシ基が結合したアリール基;
アセトキシメチルフェニル基、メトキシメチルフェニル基等のアシル基又は熱解離性基で保護されたメチロール基(-CHOH)が結合したアリール基;
スルファニルメチルフェニル基、メチルスルファニルメチルフェニル基等の置換又は非置換のスルファニルメチル基(-CHSH)が結合したアリール基などが挙げられる。
【0072】
シクロブタン環が縮環したアリール基同士は、加熱条件下、共有結合を形成する。
【0073】
「アシル基」とは、カルボン酸からOHを除いた基であって、芳香族性ヒドロキシ基又はメチロール基の水素原子を置換して保護する基をいう。「熱解離性基」とは、芳香族性ヒドロキシ基、メチロール基又はスルファニルメチル基の水素原子を置換する基であって、加熱により解離する基をいう。
【0074】
保護された芳香族性ヒドロキシ基、メチロール基又はスルファニルメチル基が結合したアリール基におけるアシル基としては、例えばホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0075】
保護された芳香族性ヒドロキシ基が結合したアリール基における熱解離性基としては、例えばt-ブチル基、t-アミル基等の3級アルキル基などが挙げられる。保護されたメチロール基又はスルファニルメチル基が結合したアリール基における熱解離性基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基などが挙げられる。
【0076】
架橋性基を含む重合性化合物としては、例えば架橋性基を有するスチレン等の架橋性基を有するビニル化合物、架橋性基を有する(メタ)アクリル化合物等が挙げられる。
【0077】
構造単位(A)としては、炭化水素基置換又は非置換のスチレンに由来する構造単位(以下、「構造単位(A-1)」ともいう)が好ましい。構造単位(A)を、官能基(M)を含まない構造単位(A-1)とすると、より効果的に金属含有層(Y)を形成することができる。
【0078】
構造単位(A-1)を与える単量体(a)としては、例えば
スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン等が、
また、架橋性基を有する重合性化合物のうち、o-ビニルスチレン、m-ビニルスチレン、p-ビニルスチレン、4-ビニルベンゾシクロブテン等が挙げられる。
【0079】
構造単位(A)がビニル芳香族化合物に由来する構造単位、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位及び置換又は非置換のエチレンに由来する構造単位からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む場合、構造単位(A)中のこれらの構造単位の合計含有割合の下限としては、50モル%が好ましく、80モル%がより好ましく、90モル%がさらに好ましく、95モル%が特に好ましい。上記合計含有割合は100モル%であってもよい。
【0080】
構造単位(A)が架橋性基を有する重合性化合物に由来する構造単位を含む場合、構造単位(A)中のこれらの構造単位の含有割合の下限としては、0.1モル%が好ましく、0.5モル%がより好ましく、1モル%がさらに好ましく、2モル%が特に好ましく、上記含有割合の上限としては、30モル%が好ましく、20モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましく、5モル%が特に好ましい。
【0081】
[A]重合体の数平均分子量(Mn)の下限としては、1,000が好ましく、2,000がより好ましく、3,000がさらに好ましく、4,000が特に好ましい。上記Mnの上限としては、100,000が好ましく、50,000がより好ましく、30,000がさらに好ましく、10,000が特に好ましい。[A]重合体のMnを上記範囲とすることで、より効果的に金属含有層(Y)を形成することが可能になる。
【0082】
[A]重合体の重量平均分子量(Mw)のMnに対する比(分散度)の上限としては、5が好ましく、2がより好ましく、1.5がより好ましく、1.3が特に好ましい。上記比の下限としては、通常1であり、1.05が好ましい。
【0083】
[A]重合体の含有量の下限としては、組成物(S)における全固形分に対して、60質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましく、95質量%が特に好ましい。上記含有量は、100質量%であってもよい。「全固形分」とは、組成物(S)における[B]溶媒以外の全成分をいう。
【0084】
(重合体の合成方法)
[A]重合体は、末端構造(I)が構造(1)であり、末端構造(II)が構造(2)である重合体の場合、例えばアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等の構造(2)を与える重合開始剤を用い、まず、スチレン、tert-ブチルスチレン、4-ビニルベンゾシクロブテン等の構造単位(A)を与える単量体(a)を重合させ、次いで、ビニルリン酸等の構造(1)を与える単量体を重合させてブロックを形成させることにより合成することができる。
【0085】
上記重合において、2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカーボナート、ジベンジルトリチオカーボナート等のトリチオカーボナート化合物、シアノメチル-N-メチル-N-フェニルジチオカルバメート等のジチオカルバメート化合物、2-シアノ-2-プロピルベンゾジチオネート等のジチオベンゾエート化合物、キサントゲン酸-O-エチル-S-シアノメチル等のキサンテート化合物などをRAFT剤として用い、RAFT重合を行ってもよい。また、上記RAFT剤を用いるRAFT重合で得られた重合体に、AIBN等のラジカル発生剤と、tert-ドデカンチオール等のチオール化合物とを加えて、トリチオカーボナート末端等の末端の切り離し反応を行い、[A]重合体の主鎖の末端を水素原子等とすることができる。この切り離し反応において、ラジカル発生剤及びチオール化合物に加え、プロトン供給源として、アルコール等のプロトン性溶媒を用いることが好ましい。
【0086】
上述の重合体以外の[A]重合体についても公知の方法により合成することができる。
【0087】
[[B]溶媒]
[B]溶媒としては、少なくとも[A]重合体及び他の成分等を溶解又は分散可能な溶媒であれば特に限定されない。
【0088】
[B]溶媒としては、例えばアルコール系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、エステル系溶媒、炭化水素系溶媒等が挙げられる。
【0089】
アルコール系溶媒としては、例えば
メタノール、エタノール等のモノアルコール系溶媒;
エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール等の多価アルコール系溶媒;
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコール部分エーテル系溶媒;
乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n-ブチル、乳酸n-アミル等の乳酸エステル系溶媒などが挙げられる。
【0090】
エーテル系溶媒としては、例えば
ジエチルエーテル等のジアルキルエーテル系溶媒;
テトラヒドロフラン等の環状エーテル系溶媒;
アニソール等の芳香環含有エーテル系溶媒などが挙げられる。
【0091】
ケトン系溶媒としては、例えば
ブタノン、メチル-iso-ブチルケトン等の鎖状ケトン系溶媒;
シクロペンタノン、シクロヘキサノン等の環状ケトン系溶媒などが挙げられる。
【0092】
アミド系溶媒としては、例えば
N,N’-ジメチルイミダゾリジノン、N-メチルピロリドン等の環状アミド系溶媒;
N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等の鎖状アミド系溶媒などが挙げられる。
【0093】
エステル系溶媒としては、例えば
酢酸エチル、酢酸n-ブチル等の酢酸エステル系溶媒;
エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の多価アルコール部分エーテルカルボキレート系溶媒;
γ-ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン系溶媒;
エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒などが挙げられる。
【0094】
炭化水素系溶媒としては、例えば
n-ヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;
トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。
【0095】
これらの中で、エステル系溶媒が好ましく、多価アルコール部分エーテルカルボキシレート系溶媒がより好ましく、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートがさらに好ましい。組成物(S)は、[B]溶媒を1種又は2種以上含有していてもよい。
【0096】
[他の成分]
他の成分としては、例えば酸発生剤又は塩基発生剤、架橋剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0097】
(酸発生剤又は塩基発生剤)
酸発生剤は、熱や放射線の作用により酸を発生する成分である。塩基発生剤は、熱や放射線の作用により塩基を発生する成分である。組成物(S)が酸発生剤又は塩基発生剤を含有する場合、放射線の照射や加熱工程等における加熱により、酸又は塩基が発生するので、[A]重合体等における架橋反応などを促進することができる。組成物(S)は酸発生剤又は塩基発生剤を1種又は2種以上を含有していてもよい。
【0098】
酸発生剤としては、例えばオニウム塩化合物、N-スルホニルオキシイミド化合物等が挙げられる。
【0099】
上記オニウム塩化合物としては、例えばトリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート等のスルホニウム塩、1-(4-n-ブトキシナフタレン-1-イル)テトラヒドロチオフェニウムトリフルオロメタンスルホネート等のテトラヒドロチオフェニウム塩、ジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート等のヨードニウム塩、トリエチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネート等のアンモニウム塩などが挙げられる。N-スルホニルオキシイミド化合物としては、例えばN-(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド等が挙げられる。
【0100】
塩基発生剤としては、例えば4-(メチルチオベンゾイル)-1-メチル-1-モルホリノエタン、(4-モルホリノベンゾイル)-1-ベンジル-1-ジメチルアミノプロパン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン、N-(2-ニトロベンジルオキシカルボニル)ピロリジン、1-(アントラキノン-2-イル)エチルイミダゾールカルボキシレート、2-ニトロベンジルシクロヘキシルカルバメート、[[(2,6-ジニトロベンジル)オキシ]カルボニル]シクロヘキシルアミン、ビス[[(2-ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]ヘキサン-1,6-ジアミン、トリフェニルメタノール、o-カルバモイルヒドロキシルアミド、o-カルバモイルオキシム、ヘキサアンミンコバルト(III)トリス(トリフェニルメチルボレート)等が挙げられる。
【0101】
組成物(S)が酸発生剤又は塩基発生剤を含有する場合、酸発生剤又は塩基発生剤の含有量の下限としては、[A]重合体100質量部に対して、0.1質量部が好ましく、1質量%がより好ましい。上記含有量の上限としては、20質量部が好ましく、5質量部がより好ましい。
【0102】
(架橋剤)
架橋剤は、熱や酸の作用により、[A]重合体等の成分同士の架橋結合を形成するか、又は自らが架橋構造を形成する成分である。組成物(S)が架橋剤を含有すると、形成される塗工膜(P)の硬度を高めることができ、その結果、より効果的に金属含有層(Y)を形成することができる。組成物(S)は、架橋剤を1種又は2種以上含有していてもよい。
【0103】
架橋剤としては、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート化合物、ノボラック型エポキシ樹脂等のエポキシ化合物、2-ヒドロキシメチル-4,6-ジメチルフェノール等のヒドロキシメチル基置換フェノール化合物、4,4’-(1-(4-(1-(4-ヒドロキシ-3,5-ビス(メトキシメチル)フェニル)-1-メチルエチル)フェニル)エチリデン)ビス(2,6-ビス(メトキシメチル)フェノール等のアルコキシアルキル基含有フェノール化合物、(ポリ)メチロール化メラミン等のアルコキシアルキル化されたアミノ基を有する化合物、アセナフチレンとヒドロキシメチルアセナフチレンとのランダム共重合体等が挙げられる。
【0104】
組成物(S)が架橋剤を含有する場合、架橋剤の含有量の下限としては、[A]重合体100質量部に対して、1質量部が好ましく、5質量部がより好ましい。上記含有量の上限としては、100質量部が好ましく、30質量部がより好ましい。
【0105】
(界面活性剤)
界面活性剤は、組成物(S)の金属基板(X)への塗工性を向上させることができる成分である。
【0106】
組成物(S)が界面活性剤を含有する場合、界面活性剤の含有量の上限としては、[A]重合体100質量部に対して、10質量部が好ましく、2質量部がより好ましい。上記含有量の下限としては、例えば0.1質量部である。
【0107】
[組成物の調製方法]
組成物(S)は、例えば[A]重合体、[B]溶媒及び必要に応じて他の成分を所定の割合で混合し、好ましくは孔径0.45μm程度の細孔を有する高密度ポリエチレンフィルター等で濾過することにより調製することができる。組成物(S)の固形分濃度の下限としては、0.1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましく、0.7質量%がさらに好ましい。上記固形分濃度の上限としては、30質量%が好ましく、10質量%がより好ましく、3質量%がさらに好ましい。
【0108】
<金属含有層形成工程>
本工程では、上記塗工工程により形成された塗工膜(P)の上記金属基板(X)とは反対側の表面の少なくとも一部に金属含有層(Y)を形成する。
【0109】
金属含有層(Y)が含む金属原子(B)としては、上述の金属基板(X)が含む金属原子(A)として例示した金属原子等が挙げられる。これらの中で、銅又はコバルトが好ましい。
【0110】
金属含有層(Y)を形成する方法としては、例えば塗工膜(P)が形成された金属基板(X)を、金属原子(B)を含有する液に浸漬する方法、化学蒸着(CVD)法又は原子層堆積(ALD)法により、金属基板(X)に形成された塗工膜(P)の表面に金属原子(B)を付着させる方法などが挙げられる。
【0111】
上記浸漬する方法において、用いる金属原子(B)を含有する液としては、例えば硫酸銅、塩化コバルト等の金属塩の水溶液などが挙げられる。この金属塩の水溶液における金属塩の濃度としては、例えば0.01モル/L以上3モル/L以下であり、0.1モル/L以上1モル/L以下が好ましい。上記浸漬の時間としては、例えば1分以上1日以下であり、1時間以上100時間以下が好ましい。
【0112】
上記浸漬後に、塗工膜(P)中の官能基(M)に化学結合していない金属原子(B)を、超純水等を用いて洗浄し除去することが好ましい。
【0113】
CVD法としては、熱CVD、プラズマCVD、光CVD、減圧CVD、レーザCVD有機金属CVD(MOCVD)等の種々の方法が挙げられる。
ALD法としては、熱ALD法、プラズマALD法等が挙げられる。
【0114】
形成される金属含有層(Y)の平均厚みの下限としては、0.1nmが好ましく、1nmがより好ましく、2nmがさらに好ましい。上記平均厚みの上限としては、500nmが好ましく、100nmがより好ましく、50nmがさらに好ましい。
【0115】
金属含有層(Y)が含む金属原子(B)としては、金属基板(X)が含む金属原子(A)と異なることが好ましい。金属原子(B)と金属原子(A)とを異なるものとすると、より効果的に金属含有層(Y)を形成することができる。
【0116】
また、金属基板(X)が金属原子(A)を含み、金属含有層(Y)が金属原子(A)とは異なる金属原子(B)を含む場合、[A]重合体の末端構造(I)が金属原子(A)と化学結合可能な官能基を有し、末端構造(II)が金属原子(B)と化学結合可能な官能基を有することが好ましい。金属基板(X)、金属含有層(Y)及び[A]重合体の構造を上記組み合わせとすると、金属基板(X)の表面に金属含有層(Y)をより容易に形成することができる。
【0117】
この場合、金属原子(A)と化学結合可能な官能基としては、リン酸基が好ましい。また、金属原子(B)と化学結合可能な官能基としては、ニトリル基、カルボキシ基、エステル基及びヒドロキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。官能基(M)を上記のものとすると、各官能基(M)と金属原子との結合力の大小に起因して、金属基板(X)の表面の金属含有層(Y)の形成をより効果的に行うことができる。
【0118】
当該金属基板の製造方法によれば、金属基板(X)の表面に金属含有層(Y)を容易に形成することができる。当該金属基板の製造方法において、金属基板(X)として、コバルト、銅等の金属の基板の表面にポリシロキサン等のパターンを形成させたトレンチを有する基板を用いることにより、トレンチの底部の金属の表面に金属含有層(Y)を形成させることができる。このようなトレンチの底部に金属含有層(Y)が形成された基板によれば、めっき処理を行う際のめっき層の成長が促進されると考えられる。
【実施例
【0119】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。各物性値の測定方法を下記に示す。
【0120】
[Mw及びMn]
重合体のMw及びMnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により東ソー社のGPCカラム(「G2000HXL」2本、「G3000HXL」1本及び「G4000HXL」1本)を使用し、以下の条件により測定した。
溶離液:テトラヒドロフラン(和光純薬工業社)
流量:1.0mL/分
試料濃度:1.0質量%
試料注入量:100μL
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折計
標準物質:単分散ポリスチレン
【0121】
13C-NMR分析]
13C-NMR分析は、核磁気共鳴装置(日本電子社の「JNM-EX400」)を使用し、測定溶媒としてDMSO-dを用いて行った。重合体における各構造単位の含有割合は、13C-NMRで得られたスペクトルにおける各構造単位に対応するピークの面積比から算出した。
【0122】
<[A]重合体の合成>
[合成例1]
200mLの3口フラスコ反応容器へ、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.098g、スチレン10.63g、2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカーボナート0.83g及びアニソール20gを加え、窒素雰囲気下、80℃で5時間加熱撹拌した。次に、ビニルリン酸0.68g及びプロピレングリコールモノメチルエーテル1.0gを加え、80℃で3時間加熱撹拌した。この重合反応液をメタノール300gへ投入して沈殿精製し、得られた黄色の粘性物を回収し、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート20gへ溶解させ、AIBN0.49g及びtert-ドデカンチオール2.03gを加え、80℃で2時間撹拌し、トリチオカーボナート末端の切り離し反応を行った。得られた重合反応液を減圧濃縮し、得られた濃縮物をメタノール1,000gへ投入して沈殿精製し、薄黄色の固体を得た。次いで、この固体を60℃で減圧乾燥させることで重合体(A-1)10.5gを得た。この重合体(A-1)は、Mwが5,600、Mnが4,800、Mw/Mnが1.17であった。
【0123】
[合成例2]
200mLの3口フラスコ反応容器へ、AIBN0.098g、2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカーボナート0.83g、tert-ブチルスチレン17.6g、4-ビニルベンゾシクロブテン0.78g及びアニソール20gを加え、窒素雰囲気下、80℃で5時間加熱撹拌した。次に、ビニルリン酸0.68g及びプロピレングリコールモノメチルエーテル1.0gを加え、80℃で3時間加熱撹拌した。この重合反応液をメタノール300gへ投入して沈殿精製し、得られた黄色の粘性物を回収し、プロピレングリコールモンメチルエーテルアセテート20gへ溶解させ、AIBN0.49g及びtert-ドデカンチオール2.03gを加え、80℃で2時間撹拌し、トリチオカーボナート末端の切り離し反応を行った。得られた重合反応液を、減圧濃縮し、得られた濃縮物をメタノール1,000gへ投入して沈殿精製し、薄黄色の固体を得た。次いで、この固体を60℃で減圧乾燥させることで重合体(A-2)14.6gを得た。この重合体(A-2)は、Mwが6,300、Mnが4,900、Mw/Mnが1.29であった。
【0124】
[合成例3]
500mLのフラスコ反応容器を減圧乾燥した後、窒素雰囲気下、蒸留脱水処理を行ったテトラヒドロフラン(THF)120g及び0.5N塩化リチウムTHF溶液9.2mLを注入し、-78℃まで冷却した。次に、このTHF溶液にsec-ブチルリチウム(sec-BuLi)の1Nシクロヘキサン溶液2.38mLを注入し、次いで、重合禁止剤除去のためシリカゲルによる吸着濾別と蒸留脱水処理とを行ったスチレン13.3mLを30分かけて滴下注入し、重合系が橙色であることを確認した。この滴下注入のとき、反応溶液の内温が-60℃以上にならないように注意した。滴下終了後に30分間熟成した。この後、3-ブロモプロピオニトリル0.19mLを注入し、重合末端の停止反応を行った。この反応溶液を室温まで昇温し、得られた反応溶液を濃縮してメチルイソブチルケトン(MIBK)で置換した。その後、シュウ酸2質量%水溶液1,000gを注入撹拌し、静置後、下層の水層を取り除いた。この操作を3回繰り返し、Li塩を除去した。その後、超純水1,000gを注入撹拌し、下層の水層を取り除いた。この操作を3回繰り返し、シュウ酸を除去した後、溶液を濃縮してメタノール500g中に滴下することで重合体を析出させ、ブフナーロートにて固体を回収した。この固体を60℃で減圧乾燥させることで白色の重合体(A-3)11.9gを得た。この重合体(A-3)は、Mwが5,600、Mnが5,200、Mw/Mnが1.08であった。
【0125】
<組成物(S)の調製>
[調製例1]
[A]重合体としての(A-1)1.20gに、[B]溶媒としてのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)98.80gを加え、撹拌したのち、0.45μmの細孔を有する高密度ポリエチレンフィルターにて濾過することにより、組成物(S-1)を調製した。
【0126】
[調製例2及び比較調製例1]
下記表1に示す種類及び配合量の各成分を用いた以外は、上記調製例1と同様にして組成物(S-2)及び(S-3)を調製した。
【0127】
【表1】
【0128】
<基板の製造>
[実施例1及び2並びに比較例1]
[組成物の塗工]
8インチコバルト基板をシュウ酸5質量%水溶液に浸漬させたのち、窒素フローにて乾燥させ、表面の酸化被膜を除去した。また、銅基板について同様な処理を行った。シリコンオキサイド(SiO)基板については、イソプロパノールにて表面処理を行った。
次に、トラック(東京エレクトロン社の「TELDSA ACT8」)を用いて、下記表2に示す組成物(S)を1,500rpmにてスピンコートし、100℃で180秒間焼成した。
【0129】
得られた組成物(S)を塗工した基板の表面の水の接触角値を、接触角計(協和界面化学社の「Drop master DM-501」)を用いて測定した。接触角の測定値を下記表2に示す。
【0130】
【表2】
【0131】
[組成物の塗工及び金属含有層の形成]
[実施例1及び2並びに比較例1]
コバルト基板及び銅基板を3cm×3cmのクーポン状に裁断し、それぞれの基板の表面に下記表3及び表4に示す組成物(S)を1,500rpmにてスピンコートし、100℃で180秒間焼成した。次いで、金属基板の表面と化学結合していない[A]重合体をPGMEAにて除去し、窒素ブローにて乾燥させた。
次に、得られたコバルト基板を1Mの硫酸銅水溶液に、得られた銅基板を1M塩化コバルト水溶液に、各金属塩水溶液20gを入れたシャーレ中で72時間浸漬した後、[A]重合体と化学結合していない硫酸銅又は塩化コバルトを超純水にて除去し、窒素ブローにて乾燥させた。
【0132】
得られたそれぞれの基板の表面を、走査型X線光電子分光装置(ULVAC-PHI社の「Quantum2000」)(測定条件:100μmφ)にて解析し、各元素の定性及び定量を行った。評価結果について表3及び表4に合わせて示す。ESCA(XPS)表面データにおける「others」には、bareSi、thermal oxide、TiN、Co多層上のTi、N、Si等が含まれる。
【0133】
【表3】
【0134】
【表4】
【0135】
表3の結果から、コバルト基板へ組成物(S)を施し、1M硫酸銅水溶液へ浸漬・吸着したものからはCu成分が検出されたことが分かる、また、表4の結果から、銅基板へ組成物(S)を施し、1M塩化コバルト水溶液へ浸漬・吸着したものからはCo成分が検出されたことが分かる。このように、実施例の基板の製造方法によれば、金属基板の表面に金属含有層が形成された基板を簡便に製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の基板の製造方法によれば、金属基板の表面に金属含有層が形成された基板を簡便に製造することができる。本発明の組成物は、当該基板の製造方法に好適に用いることができる。本発明の重合体は、当該組成物の重合体成分として好適に用いることができる。従って、これらは、今後ますます微細化が進行すると予想される半導体デバイスの加工プロセス等に好適に用いることができる。