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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】電動車両の駆動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20221129BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20221129BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
B60L15/20 J
B60L3/00 H
B60T7/12 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021103890
(22)【出願日】2021-06-23
(62)【分割の表示】P 2016241235の分割
【原出願日】2016-12-13
(65)【公開番号】P2021168591
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2021-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻本 孝則
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-232637(JP,A)
【文献】特開2003-319506(JP,A)
【文献】特開平04-085137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-58/40
B60T 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機による駆動トルクを駆動軸に伝達し、前記駆動軸の両端に設置された駆動輪を駆動することで走行する電動車両の駆動制御装置において、
前記電動機による駆動トルクを前記駆動輪のそれぞれに分配して伝達する差動歯車機構と、
前記駆動輪を制動する制動装置と、
前記電動機による駆動トルクを制御する制御部と、
前記駆動軸の少なくとも一端側に設置され、前記差動歯車機構により分配される駆動トルクを検出するトルクセンサとを有し、
前記制御部は、前記差動歯車機構により分配される駆動トルクの差が所定値を超えたときに、前記電動機による駆動トルクの出力を停止させ、前記制動装置により前記駆動輪を制動するよう構成されたことを特徴とする電動車両の駆動制御装置。
【請求項2】
電動機による駆動トルクを駆動軸に伝達し、前記駆動軸の両端に設置された駆動輪を駆動することで走行する電動車両の駆動制御装置において、
前記電動機による駆動トルクを前記駆動輪のそれぞれに分配して伝達する差動歯車機
構と、
前記駆動輪を制動する制動装置と、
前記電動機による駆動トルクを制御する制御部と、
前記駆動軸の少なくとも一端側に設置され、この駆動軸の少なくとも一端側の回転数を
検出する回転数検出ユニットとを有し、
前記制御部は、前記差動歯車機構により分配される駆動トルクにより回転する前記駆動軸の両端側の前記回転数の差が所定値を超えたときに、前記電動機による駆動トルクの出力を停止させ、前記制動装置により前記駆動輪を制動するよう構成されたことを特徴とする電動車両の駆動制御装置。
【請求項3】
前記電動車両の異常を報知する報知部を有し、制御部は、電動機による駆動トルクの出力を停止させる異常発生時に、その異常発生の旨を前記報知部により報知させるよう構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の電動車両の駆動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動歯車機構を備える電動車椅子などの電動車両の駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動軸の両端に設置された駆動輪に対して電動機の駆動トルクを分配する差動歯車機構を備えた電動車両の駆動装置が、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-236386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の電動車両の駆動装置では、一方の駆動輪が溝に嵌ってその駆動輪がロックされると、他方の駆動輪のみに電動機の駆動トルクが集中する。このような状態から一方の駆動輪が溝から脱出して、空転中の他方の駆動輪が路面と接触したときには、万一の場合に、車両が運転者の意図しない方向に急発進するという課題がある。
【0005】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、電動機による駆動トルクが一方の駆動輪に集中する場合に、電動機による駆動トルクを停止して運転者の意図しない車両の急発進を未然に防止できる電動車両の駆動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電動車両の駆動制御装置は、電動機による駆動トルクを駆動軸に伝達し、前記駆動軸の両端に設置された駆動輪を駆動することで走行する電動車両の駆動制御装置において、前記電動機による駆動トルクを前記駆動輪のそれぞれに分配して伝達する差動歯車機構と、前記駆動輪を制動する制動装置と、前記電動機による駆動トルクを制御する制御部と、前記駆動軸の少なくとも一端側に設置され、前記差動歯車機構により分配される駆動トルクを検出するトルクセンサとを有し、前記制御部は、前記差動歯車機構により分配される駆動トルクの差が所定値を超えたときに、前記電動機による駆動トルクの出力を停止させ、前記制動装置により前記駆動輪を制動するよう構成されたことを特徴とするものである。
また、本発明に係る電動車両の駆動制御装置は、電動機による駆動トルクを駆動軸に伝達し、前記駆動軸の両端に設置された駆動輪を駆動することで走行する電動車両の駆動制御装置において、前記電動機による駆動トルクを前記駆動輪のそれぞれに分配して伝達する差動歯車機構と、前記駆動輪を制動する制動装置と、前記電動機による駆動トルクを制御する制御部と、前記駆動軸の少なくとも一端側に設置され、この駆動軸の少なくとも一端側の回転数を検出する回転数検出ユニットとを有し、前記制御部は、前記差動歯車機構により分配される駆動トルクにより回転する前記駆動軸の両端側の前記回転数の差が所定値を超えたときに、前記電動機による駆動トルクの出力を停止させ、前記制動装置により前記駆動輪を制動するよう構成されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、いずれか一方の駆動輪が溝や泥沼などに嵌り、いずれか一方の駆動輪に電動機による駆動トルクが集中してこの駆動輪が空転したときには、制御部によって電動機による駆動トルクが停止されることになる。このため、空転した駆動輪が例えば接地して車両が運転者の意図に反して急発進する事態を、未然に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る電動車両の駆動制御装置における第1実施形態が適用された電動車両を示す左側面図。
図2図1の電動車両を示す平面図。
図3図2のギアユニットを示す断面図。
図4図3の一部を拡大して示す部分拡大断面図。
図5図3及び図4の円板部材を示し、(A)は正面図、(B)は側面図。
図6図1及び図2における電動車両の駆動制御装置の構成を示すブロック図。
図7】本発明に係る電動車両の駆動制御装置における第2実施形態の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための実施形態を図面に基づき説明する。
(A)第1実施形態(図1図6
図1は、本発明に係る電動車両の駆動制御装置における第1実施形態が適用された電動車両を示す左側面図である。また、図2は、図1の電動車両を示す平面図である。これらの図1及び図2に示すように、ハンドル形電動車椅子などの電動車両10においては、車体フレーム11に左右一対の前輪12及び後輪13が、図示しないサスペンションを介して支持される。車体フレーム11はその一部を除き、前部カバー14、レッグシールド15、フロアパネル16及び後部カバー17等からなる樹脂製カバーによって覆われる。
【0010】
車体後部の略箱形状の前記後部カバー17は上方に突設され、この後部カバー17の内側に、駆動制御装置20及び図示しないバッテリが収容される。駆動制御装置20は、後に詳説するが、電動機としての電動モータ18による駆動トルクを、ギアユニット25を経て駆動軸としての車軸19に伝達し、この車軸19の両端に設置された駆動輪としての後輪13を駆動することで電動車両10を走行させるものであり、電動モータ18による駆動トルクが制御部21により制御される。
【0011】
後部カバー17の上方には、車体フレーム11から立ち上がる図示しないブラケットを介して、運転者が着座するシート22が搭載される。このシート22は、シートクッション23及びシートバック(背もたれ)24を含む。更に、シートバック24の両側部にはアームレスト26が設けられ、各アームレスト26は、支点27回りに回動可能に支持される。
【0012】
レッグシールド15は車体前部で上下方向に配置され、シート22に着座した運転者の脚まわりを風等があたらないように保護する。このレッグシールド15の内部には、前輪12を操舵するためのステアリングシャフト29が立設され、このステアリングシャフト29の上端にハンドルユニット30が取り付けられる。通常操舵時に、運転者は、シート22に着座してハンドルユニット30を回動操作することで、操舵輪としての前輪12を左右に操舵する。
【0013】
ハンドルユニット30は、スイッチボックス31の左右両側からそれぞれ半円形状の操作ハンドル32が突設され、更に、操作ハンドル32の内側にアクセルレバー33が、スイッチボックス31から突出されて回動可能に設けられる。スイッチボックス31には、電源スイッチ34Mや最高速度設定ノブ34Nなどが設けられる。
【0014】
アクセルレバー33は軸方向中央部分の回動軸部33Aから両側にクランク状に屈曲して車両幅方向延び、両先端部に操作部33Bが設けられる。電動車両10の運転者が操作ハンドル32のグリップ部32Aに掌を置き、アクセルレバー33の操作部33Bを指で押下げ操作したときの押下げ量に基づいて制御部21が電動モータ18を制御して、電動車両10の走行速度が制御される。
【0015】
駆動制御装置20は、前述の如く電動モータ18、ギアユニット25、車軸19及び制御部21を有し、更に回転数検出ユニット40A、40B(図3)及び報知部50(図6)を有して構成される。このうち、車軸19は、先端部に後輪13の左後輪13Aが設置された左車軸19Aと、先端部に後輪13の右後輪13Bが設置された右車軸19Bとを有してなる。また、ギアユニット25は、図3及び図4に示すように、左右分割式のケーシング35、36内に減速歯車機構37、差動歯車機構38及び電磁ブレーキ39が収容されて構成される。
【0016】
電動モータ18は、その出力軸41が車幅方向に沿う姿勢でケーシング35の前部左側面にボルト固定される。この電動モータ18の出力軸41は、電動モータ18の右端から突出し、カップリング部材42を用いて減速歯車機構37の入力軸43と回転一体に連結される。
【0017】
減速歯車機構37は、電動モータ18の出力軸41と同芯に設けられた前記入力軸43と、この入力軸43と平行に設けられた中間軸44と、入力軸43の右端部に回転一体に形成されたドライブピニオンギア45と、中間軸44の左端部に設けられてドライブピニオンギア45に噛み合うドリブンカウンタギア46と、このドリブンカウンタギア46に隣接して中間軸44に設けられたスライドギア47と、を有して構成される。
【0018】
入力軸43は、ケーシング35にベアリング48、49を介して回転自在に支持される。また、中間軸44は、入力軸43の後方に配置され、ケーシング35、36にベアリング51を介して回転自在に支持される。また、ドリブンカウンタギア46は、後述の噛合クラッチ63及びスライドギア47により中間軸44に回転一体に設けられる。更に、スライドギア47は、中間軸44の軸方向にスライド可能に、この中間軸44と例えばスプライン結合される。このスライドギア47が差動歯車機構38のデフリングギア52に噛み合う。
【0019】
ドリブンカウンタギア46がドライブピニオンギア45よりも大径に設けられ、デフリングギア52がスライドギア47よりも大径に設けられる。これにより、電動モータ18にて発生した駆動トルクは、減速歯車機構37のドライブピニオンギア45、ドリブンカウンタギア46、スライドギア47及び差動歯車機構38のデフリングギア52により減速されて、差動歯車機構38へ伝達される。
【0020】
差動歯車機構38は、ケーシング35にベアリング53を介して回転自在に支持された前記デフリングギア52と、このデフリングギア52に例えばボルト結合されると共にケーシング36にベアリング54を介して回転自在に支持されたデフケース55と、このデフケース55に支持されたデフシャフト56に回転自在に軸支された複数個(例えば2個)のデフピニオンギア57と、このデブピニオンギア57に噛み合うデフサイドギア58、59と、を有して構成される。
【0021】
デフサイドギア58が左車軸19Aの基端部に、また、デフサイドギア59が右車軸19Bの基端部に、それぞれ回転一体に結合される。電動モータ18による駆動トルクは、減速歯車機構37を経て差動歯車機構38のデフリングギア52に伝達されると、デフピニオンギア57の公転・自転によりデフサイドギア58を経て左車軸19Aに、デフサイドギア59を経て右車軸19Bにそれぞれ分配されて伝達され、左後輪13A、右後輪13Bを駆動する。
【0022】
ここで、左車軸19Aは、ケーシング35に取り付けられた左車軸ケース61内に収容され、この左車軸ケース61にベアリング60を介して回転自在に軸支される。また、右車軸19Bは、ケーシング36に取り付けられた右車軸ケース62内に収容され、この右車軸ケース62にベアリング60を介して回転自在に軸支される。
【0023】
電磁ブレーキ39は、電動モータ18と減速歯車機構37との間に位置するように入力軸43に配置される。この電磁ブレーキ39は、アクセルレバー33(図2)が押下げ操作されなくなったときに図示しない電磁コイルへの給電が遮断されることで、入力軸43の回転を制動し、これにより、左車輪13A及び右車輪13Bを制動して停止させる。
【0024】
また、減速歯車機構37におけるドリブンカウンタギア46とスライドギア47との間に噛合クラッチ63が設けられる。この噛合クラッチ63は、スライドギア47がスプリング64の付勢力によりドリブンカウンタギア46に押し付けられることでクラッチ結合状態となり、スライドギア47を介してドリブンカウンタギア46の回転力を中間軸44へ伝達する。図示しないクラッチ操作機構によってスライドギア47がスプリング64の付勢力に抗してドリブンカウンタギア46から離れることで、噛合クラッチ63はクラッチ解除状態となる。これにより、後輪13(左後輪13A及び右後輪13B)が回転フリー状態となって、電動車両10の手押し操作が可能になる。
【0025】
図3に示すように、回転数検出ユニット40Aは、車軸19の一端側である左車軸19Aの回転数を検出し、また、回転数検出ユニット40Bは、車軸19の他端側である右車軸19Bの回転数を検出し、共に円板部材65及び回転数検出センサ66を有して構成される。回転数検出ユニット40Aの円板部材65は左車軸ケース61内で左車軸19Aの先端部に、また、回転数検出ユニット40Bの円板部材65は右車軸ケース62内で右車軸19Bの先端部に、それぞれ回転一体に別体または一体(本実施形態では別体)に設けられる。この円板部材65には複数の突起または切欠き、本実施形態では図5に示すように、円板部材65の外周にその周方向に沿って複数の突起65Aが形成されている。
【0026】
また、図3及び図4に示すように、回転数検出ユニット40Aの回転数検出センサ66は左車軸ケース61に、回転数検出ユニット40Bの回転数検出センサ66は右車軸ケース62に取付ボルト67を用いて、円板部材65の突起65Aに対向して取り付けられる。この回転数検出センサ66は、一定時間内に検出された左車軸19A、右車軸19Bにより回転する円板部材65の突起65Aの数を検出することで、円板部材65の回転数、即ち左車軸19A、右車軸19Bの回転数を検出する。図6に示すように、回転数検出ユニット40Aの回転数検出センサ66は、検出した左車軸19Aの回転数を、また、回転数検出ユニット40Bの回転数検出センサ66は、検出した右車軸19Bの回転数をそれぞれ制御部21へ送信する。
【0027】
制御部21は、前述の如く電動モータ18により発生する駆動トルクを制御する。具体的には、制御部21は、回転数検出ユニット40A、40Bの円板部材66にて検出された左車軸19A、右車軸19Bの回転数に基づき、差動歯車機構38により分配される駆動トルクにより回転する車軸19の両端側(つまり左車軸19A、右車軸19B)の回転数の差が所定値Oを超えたときに、電動モータ18を停止してこの電動モータ18による駆動トルクの出力を停止させ、更に、電磁ブレーキ39への給電を遮断して、この電磁ブレーキ39により左後輪13A及び右後輪13Bを制動する。
【0028】
上記所定値Oは、電動モータ18による駆動トルクが左車軸19A、右車軸19Bのいずれか一方に集中したことを検出可能な値に設定される。具体的には、上記所定値Oは、ハンドルユニット30(図2)のスイッチボックス31に設けられた最高速度設定ノブ34Nにより設定された最高速度設定値と、ステアリング角度センサ(不図示)により検出されたステアリングシャフト29(図1)のステアリング角度とを考慮して設定される。例えば、ステアリング角度がゼロ度(直進走行)の場合、上記所定値Oがゼロ±5%に設定され、制御部21は、左車軸19Aと右車軸19Bのそれぞれの回転数の差がゼロ±5%を超えたときに、電動モータ18を停止させ、電磁ブレーキ39により左後輪13A及び右後輪13Bを制動する。
【0029】
報知部50は、電動車両10に異常が発生したときに、その異常発生の旨を音声または画像表示で報知するものである。制御部21は、電動モータ18が停止されてこの電動モータ18による駆動トルクの出力が停止される異常発生時に、この異常発生の旨を報知部50により、運転者または周囲の人に報知する。
【0030】
尚、回転数検出ユニット40Aと40Bのうち、いずれか一方が設置されてもよい。例えば、回転数検出ユニット40Aのみが設置されて、この回転数検出ユニット40Aにより左車軸19Aの回転数が検出される場合、制御部21は、電動モータ18の回転数と左車軸19Aの回転数との差から右車軸19Bの回転数を算出し、これらの左車軸19Aの回転数と右車軸19Bの回転数との差と所定値Oとを比較してもよい。
【0031】
以上ように構成されたことから、本第1実施形態によれば、次の効果(1)~(3)を奏する。
(1)電動モータ18による駆動トルクを制御する制御部21は、差動歯車機構38により左車軸19A、右車軸19Bに分配される駆動トルクにより回転する左車軸19Aと右車軸19Bのそれぞれの回転数の差が所定値Oを超えたときに、電動モータ18を停止してこの電動モータ18による駆動トルクの出力を停止させ、更に、電磁ブレーキ39により左後輪13A、右後輪13Bを制動させる。
【0032】
従って、左後輪13A、右後輪13Bのいずれか一方の後輪13が溝や泥沼などに嵌り、この溝に嵌った車輪13と反対側の車輪13、または泥沼に嵌った車輪13に電動モータ18による駆動トルクが集中してこの後輪13が空転したときには、制御部21によって、電動モータ18が停止されてこの電動モータ18による駆動トルクが停止され、且つ電磁ブレーキ39により左後輪13A及び右後輪13Bが制動される。このため、空転した後輪13が例えば接地して電動車両10が運転者の意図に反して急発進する事態を、未然に防止することができる。
【0033】
(2)制御部21は、電動モータ18を停止してこの電動モータ18による駆動トルクの出力を停止させる異常発生時に、その異常発生の旨を報知部50により電動車両10の運転者や周囲の人に報知させるよう構成されている。このため、電動車両10の運転者等は、左後輪13A、右後輪13Bのいずれかが空転した結果電動モータ18が停止した電動車両10の異常を、迅速に把握することができる。
【0034】
(3)回転数検出ユニット40A及び40Bは、円板部材65が左車軸19A、右車軸19Bのそれぞれに取り付けられ、回転数検出センサ66が左車軸ケース61、右車軸ケース62のそれぞれに取り付けられて構成される。このため、回転数検出ユニット40A及び40Bは、既存の部品(左車軸19A、右車軸19B、左車軸ケース61、右車軸ケース62)を利用するので部品点数を抑制できる。この結果、回転数検出ユニット40A及び40Bの組立工数を低減でき、更に、組付不良が抑制されることで回転数検出ユニット40A及び40Bの品質を向上させることができる。
【0035】
[B]第2実施形態(図7
図7は、本発明に係る電動車両の駆動制御装置における第2実施形態の構成を示すブロック図である。この第2実施形態において、第1実施形態と同様な部分ついては、第1実施形態と同一の符号を用いることにより説明を簡略化し、または省略する。
【0036】
本第2実施形態の駆動制御装置70が第1実施形態と異なる点は、第1実施形態の回転数検出ユニット40A及び40Bに代えて、左車軸19Aにトルクセンサ71Aが、右車軸19Bにトルクセンサ71Bがそれぞれ設置され、制御部21は、これらのトルクセンサ71A、71Bからの検出値に基づいて電動モータ18による駆動トルクの出力を停止させるよう制御する点である。
【0037】
つまり、トルクセンサ71Aは、電動モータ18により発生し差動歯車機構38により左車軸19Aに分配された駆動トルクを検出する。また、トルクセンサ71Bは、電動モータ18により発生し差動歯車機構38により右車軸19Bに分配された駆動トルクを検出する。これらのトルクセンサ71A、71Bによりそれぞれ検出された駆動トルクは制御部21へ送信される。制御部21は、トルクセンサ71A、71Bによりそれぞれ検出された左車軸19A、右車軸19Bのそれぞれの駆動トルクの差が所定値Pを超えたときに、電動モータ18を停止してこの電動モータ18による駆動トルクの出力を停止させ、更に、電磁ブレーキ39への給電を遮断して、この電磁ブレーキ39により左後輪13A及び右後輪13Bを制動する。
【0038】
上記所定値Pは、前記所定値Oと同様に、電動モータ18による駆動トルクが左車軸19A、右車軸19Bのいずれか一方に集中したことを検出可能な値に設定される。また、これらのトルクセンサ71Aと71Bは、いずれか一方が設置されたものでもよい。例えば、トルクセンサ71Aのみが設置されて、このトルクセンサ71Aにより左車軸19Aに分配された駆動トルクが検出される場合、制御部21は、電動モータ18に生じた駆動トルクと左車軸19Aに分配された駆動トルクとの差から、右車軸19Bに分配された駆動トルクを算出し、これらの左車軸19Aと右車軸19Bにそれぞれ分配された駆動トルクの差と所定値Pとを比較してもよい。
【0039】
以上のように構成されたことから、本第2実施形態においても、第1実施形態の効果(2)と同様な効果を奏するほか、次の効果(4)を奏する。
【0040】
(4)電動モータ18による駆動トルクを制御する制御部21は、差動歯車機構38により左車軸19A、右車軸19Bに分配される駆動トルクの差が所定値Pを超えたとき、電動モータ18を停止してこの電動モータ18による駆動トルクの出力を停止させ、更に、電磁ブレーキ39により左車輪13A、右車輪13Bを制動させる。
【0041】
従って、左後輪13A、右後輪13Bのいずれか一方の後輪13が溝や泥沼などに嵌り、この溝に嵌った車輪13と反対側の車輪13、または泥沼に嵌った車輪13に電動モータ18による駆動トルクが集中してこの後輪13が空転したときには、制御部21によって、電動モータ18が停止されてこの電動モータ18による駆動トルクが停止され、且つ電磁ブレーキ39により左後輪13A及び右後輪13Bが制動される。このため、空転した後輪13が例えば接地して電動車両10が運転者の意図に反して急発進する事態を、未然に防止することができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0043】
例えば、制御部21が、左車軸19Aと右車軸19Bのそれぞれの回転数の差、または左車軸19Aと右車軸19Bのそれぞれに分配された駆動トルクの差を管理することで、これらの差(上記回転数の差、上記駆動トルクの差)が所定の閾値を超えたときに、片側の後輪13(左後輪13Aまたは右後輪13B)の偏摩耗を検出することも可能である。
【0044】
また、第1実施形態の回転数検出ユニット40A、40Bの円板部材65は、左後輪13A、右後輪13Bの内側に設置したり、差動歯車機構38のデフサイドギア58、59にそれぞれ設置したりして、この円板部材65に対応する位置に設置した回転数検出センサ66により、左車軸19A、右車軸19Bのそれぞれの回転数を間接的に検出してもよい。
【符号の説明】
【0045】
10…電動車両、13…後輪(駆動輪)、13A…左後輪、13B…右後輪、18…電動モータ(電動機)、19…車軸(駆動軸)、19A…左車軸、19B…右車軸、20…駆動制御装置、21…制御部、38…差動歯車機構、40A、40B…回転数検出ユニット、50…報知部、61…左車軸ケース、62…右車軸ケース、65…円板部材、66…回転数検出センサ、70…駆動制御装置、71A、71B…トルクセンサ、O、P…所定値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7