(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】アンギュラ玉軸受の接触角取得方法及び車輪用軸受装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 19/18 20060101AFI20221129BHJP
F16C 33/64 20060101ALI20221129BHJP
F16C 43/04 20060101ALI20221129BHJP
B60B 35/02 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
F16C19/18
F16C33/64
F16C43/04
B60B35/02 L
(21)【出願番号】P 2021509122
(86)(22)【出願日】2020-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2020011675
(87)【国際公開番号】W WO2020196089
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2019056836
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019210357
(32)【優先日】2019-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】楼 黎明
(72)【発明者】
【氏名】竹田 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】澤田 直規
(72)【発明者】
【氏名】住元 恵
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-141150(JP,A)
【文献】特開2017-181267(JP,A)
【文献】特開2017-001524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
F16C 43/04
B60B 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンギュラ玉軸受の一方の軌道輪の回転数を検出する第1検出工程、
前記アンギュラ玉軸受の玉の公転に伴う他方の軌道輪の変形を外部から検出する第2検出工程、及び、
前記第1検出工程の検出結果と、前記第2検出工程の検出結果と、前記玉に関する諸元データとを用いて前記玉の接触角を求める演算工程と、を含
み、
前記アンギュラ玉軸受が、
複列の外側軌道を有する外輪と、複列の内側軌道を有する内軸と、前記外側軌道と前記内側軌道との間に配置され、各軌道に接触角をもって接触する玉とを備え、前記内軸が、軸方向一方側の内側軌道を有する軸部材と、軸方向他方側の内側軌道を有しかつ前記軸部材にかしめ固定される内輪部材とを有する、車輪用軸受装置であり、
前記第1検出工程、前記第2検出工程、及び前記演算工程が前記車輪用軸受装置の組み立て工程と並行して行われる、アンギュラ玉軸受の接触角取得方法。
【請求項2】
アンギュラ玉軸受の一方の軌道輪の回転数を検出する第1検出工程、
前記アンギュラ玉軸受の玉の公転に伴う他方の軌道輪の変形を外部から検出する第2検出工程、及び、
前記第1検出工程の検出結果と、前記第2検出工程の検出結果と、前記玉に関する諸元データとを用いて前記玉の接触角を求める演算工程と、を含
み、
前記第1検出工程は、
前記アンギュラ玉軸受の前記一方の軌道輪の回転数を検出する工程と、
検出した当該一方の軌道輪の回転数と前記玉に関する諸元データと前記玉の接触角の設計値とを用いて、当該一方の軌道輪を回転させた場合の当該玉の公転に伴う前記他方の軌道輪の周期的な変位の周波数の推定値を、求める推定工程と、を含み、
前記第2検出工程は、前記他方の軌道輪の変形として、前記一方の軌道輪を回転させた状態で当該他方の軌道輪の変位をセンサによって外部から検出し、
前記演算工程は、
前記第2検出工程の検出結果を周波数解析する解析工程、
前記推定工程で求められた推定値に基づいて、前記解析工程における解析結果から前記他方の軌道輪の変位の周波数を決定する決定工程、及び、
前記決定工程で決定された周波数と前記一方の軌道輪の回転数と前記玉に関する諸元データとを用いて前記玉の接触角を求める演算工程、を含む、アンギュラ玉軸受の接触角取得方法。
【請求項3】
前記第2検出工程において、前記他方の軌道輪の変形がひずみゲージにより検出される、請求項1
又は請求項2に記載のアンギュラ玉軸受の接触角取得方法。
【請求項4】
前記第2検出工程において、前記他方の軌道輪の変形が変位センサにより検出される、請求項1
又は請求項2に記載のアンギュラ玉軸受の接触角取得方法。
【請求項5】
前記他方の軌道輪の変形の検出位置が、当該軌道輪のうち前記玉の軌道が形成されている面と反対である周面における、前記アンギュラ玉軸受の軸心に垂直で前記玉の中心を通る直線上の第1点と、前記他方の軌道輪の軌道と前記玉との接触点及び当該玉の中心を通る直線上の第2点との間の範囲内に設定されている、請求項1~
4のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受の接触角取得方法。
【請求項6】
前記演算工程において求められた接触角が、接触角の設計値の許容誤差範囲内に収まっているか否かを判定する判定工程を更に含む、請求項
2に記載のアンギュラ玉軸受の接触角取得方法。
【請求項7】
外輪と、外輪の径方向内側に配置された内輪と、前記外輪と前記内輪との間に配置された複数の玉とを備えるアンギュラ玉軸受の接触角取得方法であって、
前記内輪を回転させた場合の玉の公転に伴う前記外輪の周期的な変位の周波数の推定値を、前記内輪の回転数と前記玉に関する諸元データと前記玉の接触角の設計値とを用いて求める推定工程、
前記内輪を回転させた状態で前記外輪の前記変位をセンサによって外部から検出する検出工程、
前記検出工程の検出結果を周波数解析する解析工程、
前記推定工程で求められた推定値に基づいて、前記解析工程における解析結果から前記外輪の変位の周波数を決定する決定工程、及び、
前記決定工程で決定された周波数と前記内輪の回転数と前記玉に関する諸元データとを用いて前記玉の接触角を求める演算工程と、を含む、アンギュラ玉軸受の接触角取得方法。
【請求項8】
前記センサが、非接触センサである、請求項
7に記載のアンギュラ玉軸受の接触角取得方法。
【請求項9】
前記センサが、接触型センサであり、前記外輪に対して着脱可能に構成されている、請求項
7に記載のアンギュラ玉軸受の接触角取得方法。
【請求項10】
前記センサが前記外輪の変位を検出する範囲は、当該外輪の外面における、前記アンギュラ玉軸受の中心軸に垂直で前記玉の中心を通る直線上の第1点と、前記外輪の軌道と前記玉との接触点及び当該玉の中心を通る直線上の第2点との間の範囲と少なくとも一部が重複している、請求項
7~9のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受の接触角取得方法。
【請求項11】
前記演算工程において求められた接触角が、接触角の設計値の許容誤差範囲内に収まっているか否かを判定する判定工程を更に含む、請求項
7~10のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受の接触角取得方法。
【請求項12】
アンギュラ玉軸受である車輪用軸受装置の製造方法であって、
前記車輪用軸受装置は、
内周面の軸方向一方側及び軸方向他方側に形成されている第1の外側軌道及び第2の外側軌道を有する外輪と、
外周面に第1の内側軌道が形成されている軸部材及び当該軸部材の軸方向他方側の小径部に嵌合すると共に外周面に第2の内側軌道が形成されている内輪部材を有する内軸と、
前記第1の外側軌道と前記第1の内側軌道とに対して接触角を有して接触する複数の第1の玉と、
前記第2の外側軌道と前記第2の内側軌道とに対して接触角を有して接触する複数の第2の玉と、
を備えていて、
前記第1の内側軌道に前記複数の第1の玉を載せる工程、当該複数の第1の玉に前記第1の外側軌道が載るようにして前記軸部材と前記外輪とを組む工程、前記第2の外側軌道に前記複数の第2の玉を載せると共に、当該複数の第2の玉に前記内輪部材の前記第2の内側軌道が載るようにして当該内輪部材を前記小径部に嵌合させる工程、及び、前記軸部材の軸方向他方側の端部を径方向外方へ塑性変形させてかしめることによって当該内輪部材を当該軸部材に固定する固定工程、を含む組み立て工程と、
前記組み立て工程を経て前記車輪用軸受装置が組み立てられた状態で、又は、前記固定工程と並行して、前記接触角を求める接触角取得工程と、
を備え、
前記接触角取得工程で前記接触角を求める方法は、請求項1~
11のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受の接触角取得方法である、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アンギュラ玉軸受の接触角取得方法及び車輪用軸受装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両においては車輪を支持するために車輪用軸受装置(ハブユニット)が用いられる(例えば、特許文献1参照)。車輪用軸受装置110は、
図15に示すように、外輪111と、内軸112と、外輪111と内軸112との間に複列に配置された玉113とを備える。各列の玉113は、外輪111及び内軸112に形成された軌道111b,116e,117eに所定の接触角αで接触する。したがって、車輪用軸受装置110は、玉13が軌道111b,116e,117eに斜接するアンギュラ玉軸受である。
【0003】
内軸112は、軸方向一方側の軌道116eが形成された軸部材16と、軸方向他方側の軌道117eが形成された内輪部材117とを有する。内輪部材117は、軸部材116に形成された小径部116cに嵌合するとともに、軸部材116の軸方向他方側の端部116dを径方向外方にかしめることによって小径部116cに固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本開示のアンギュラ玉軸受の接触角取得方法は、アンギュラ玉軸受の一方の軌道輪の回転数を検出する第1検出工程、前記アンギュラ玉軸受の玉の公転に伴う他方の軌道輪の変形を外部から検出する第2検出工程、及び、前記第1検出工程の検出結果と、前記第2検出工程の検出結果と、前記玉に関する諸元データとを用いて前記玉の接触角を求める演算工程と、を含む。
【0006】
本開示のアンギュラ玉軸受の接触角取得方法は、外輪と、外輪の径方向内側に配置された内輪と、前記外輪と前記内輪との間に配置された複数の玉とを備えるアンギュラ玉軸受の接触角取得方法であって、前記内輪を回転させた場合の玉の公転に伴う前記外輪の周期的な変位の周波数の推定値を、前記内輪の回転数と前記玉に関する諸元データと前記玉の接触角の設計値とを用いて求める推定工程、前記内輪を回転させた状態で前記外輪の前記変位をセンサによって外部から検出する検出工程、前記検出工程の検出結果を周波数解析する解析工程、前記推定工程で求められた推定値に基づいて、前記解析工程における解析結果から前記外輪の変位の周波数を決定する決定工程、及び、前記決定工程で決定された周波数と前記内輪の回転数と前記玉に関する諸元データとを用いて前記玉の接触角を求める演算工程と、を含む。
【0007】
本開示は、アンギュラ玉軸受である車輪用軸受装置の製造方法であって、前記車輪用軸受装置は、内周面の軸方向一方側及び軸方向他方側に形成されている第1の外側軌道及び第2の外側軌道を有する外輪と、外周面に第1の内側軌道が形成されている軸部材及び当該軸部材の軸方向他方側の小径部に嵌合すると共に外周面に第2の内側軌道が形成されている内輪部材を有する内軸と、前記第1の外側軌道と前記第1の内側軌道とに対して接触角を有して接触する複数の第1の玉と、前記第2の外側軌道と前記第2の内側軌道とに対して接触角を有して接触する複数の第2の玉と、を備えていて、
前記第1の内側軌道に前記複数の第1の玉を載せる工程、当該複数の第1の玉に前記第1の外側軌道が載るようにして前記軸部材と前記外輪とを組む工程、前記第2の外側軌道に前記複数の第2の玉を載せると共に、当該複数の第2の玉に前記内輪部材の前記第2の内側軌道が載るようにして当該内輪部材を前記小径部に嵌合させる工程、及び、前記軸部材の軸方向他方側の端部を径方向外方へ塑性変形させてかしめることによって当該内輪部材17を当該軸部材に固定する固定工程、を含む組み立て工程と、
前記組み立て工程を経て前記車輪用軸受装置が組み立てられた状態で、又は、前記固定工程と並行して、前記接触角を求める接触角取得工程と、を備え、
前記接触角取得工程で前記接触角を求める方法は、前記アンギュラ玉軸受の接触角取得方法である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1発明の第1の実施形態に係る接触角取得方法に使用するアンギュラ玉軸受の断面図である。
【
図3】回転検出センサ及び変形検出センサの出力結果を示すグラフである。
【
図4】車輪用軸受装置の製造装置の一例を示す断面図である。
【
図5】第1発明の第2の実施形態に係る接触角取得方法で使用する変形検出センサを示す説明図である。
【
図6】第2発明の第1の実施形態に係る接触角取得方法に使用するアンギュラ玉軸受の断面図である。
【
図8】変位検出センサの検出結果を示すグラフである。
【
図9】変位検出センサの検出結果を周波数解析したグラフである。
【
図10】第2発明の第2の実施形態に係る接触角取得方法で使用する変位検出センサを示す説明図である。
【
図11】車輪用軸受装置の製造装置の他の例を示す断面図である。
【
図15】アンギュラ玉軸受である車輪用軸受装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<本開示の発明が解決しようとする課題>
図15に示す車輪用軸受装置110を組み立てるとき、小径部116cに嵌合させた内輪部材117は、軸部材116の軸方向他方側の端部116dをかしめることによって軸方向一方側へ押圧される。この押圧の荷重によって軌道111b,116e,117eに対する玉113の接触角αが変動する。玉113の接触角αは、車輪用軸受装置110の剛性(予圧)や回転トルクに影響を与える。このため、接触角αが、設計で定められた適正な値(設計値)となるように車輪用軸受装置110を組み立てることが求められる。
【0010】
しかしながら、組み立て後の車輪用軸受装置110において、軌道111b,116e,117eと1玉13との接触部分は外輪111と内軸112との間に配置されるので、接触角αを直接測定することは困難である。外輪111と内軸112との間の軸方向両端部がシール部材118,119で覆われている場合、接触角αの測定は実質的に不可能である。そのため、現状では、車輪用軸受装置110の組み立て工程で軸部材116の端部116dをかしめる際の荷重を管理することによって接触角αを所望に設定している。しかしながら、この方法では、接触角αのばらつきが大きくなり、これが製品の品質にばらつきを生じさせる原因となっていた。
【0011】
本開示は、組み立てられた状態のアンギュラ玉軸受であっても軌道に対する玉の接触角を取得することができる方法、及び、その方法を用いた車輪用軸受装置の製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
<本開示の発明の効果>
組み立てた状態のアンギュラ玉軸受であっても軌道に対する玉の接触角を取得することができる。
【0013】
<本開示の発明の実施形態の概要>
以下、本開示の発明の実施形態の概要を列記して説明する。
【0014】
(第1発明について)
(1)本開示のアンギュラ玉軸受の接触角取得方法は、アンギュラ玉軸受の一方の軌道輪の回転数を検出する第1検出工程、前記アンギュラ玉軸受の玉の公転に伴う他方の軌道輪の変形を外部から検出する第2検出工程、及び、前記第1検出工程の検出結果と、前記第2検出工程の検出結果と、前記玉に関する諸元データとを用いて前記玉の接触角を求める演算工程と、を含む。
【0015】
この接触角取得方法によれば、アンギュラ玉軸受の玉の公転に伴う軌道輪の変形を外部から検出し、その検出結果を用いて玉の接触角を求める。このため、アンギュラ玉軸受を組み立てた状態であっても玉の接触角を求めることができる。求められた接触角は、アンギュラ玉軸受の品質管理等に活用することができる。
【0016】
(2)好ましくは、前記第2の検出工程では、前記他方の軌道輪の変形がひずみゲージにより検出される。
この構成によって、他方の軌道輪の変形を外部から検出することができる。
【0017】
(3)好ましくは、前記第2の検出工程では、前記他方の軌道輪の変形が変位センサにより検出される。
この構成によって、他方の軌道輪の変形を外部から検出することができる。
【0018】
(4)好ましくは、前記他方の軌道輪の変形の検出位置が、当該軌道輪のうち前記玉の軌道が形成されている面と反対である周面における、前記アンギュラ玉軸受の軸心に垂直で前記玉の中心を通る直線上の第1点と、前記他方の軌道輪の軌道と前記玉との接触点及び当該玉の中心を通る直線上の第2点との間の範囲内に設定されている。
この構成によって、変形の大きな範囲を対象として効率よく軌道輪の変形を検出することができる。
【0019】
(5)好ましくは、前記アンギュラ玉軸受が、複列の外側軌道を有する外輪と、複列の内側軌道を有する内軸と、前記外側軌道と前記内側軌道との間に配置され、各軌道に接触角をもって接触する複数の玉とを備え、前記内軸が、軸方向一方側の内側軌道を有する軸部材と、軸方向他方側の内側軌道を有しかつ前記軸部材にかしめ固定される内輪部材とを有する車輪用軸受装置である。
【0020】
(6)好ましくは、前記第1の検出工程、前記第2の検出工程、及び前記演算工程が前記車輪用軸受装置の組み立て工程と並行して行われる。
このような方法によって、適切な接触角が得られるように車輪用軸受装置を組み立てることができる。
【0021】
(7)好ましくは、前記第1検出工程は、前記アンギュラ玉軸受の前記一方の軌道輪の回転数を検出する工程と、検出した当該一方の軌道輪の回転数と前記玉に関する諸元データと前記玉の接触角の設計値とを用いて、当該一方の軌道輪を回転させた場合の当該玉の公転に伴う前記他方の軌道輪の周期的な変位の周波数の推定値を、求める推定工程と、を含み、前記第2検出工程は、前記他方の軌道輪の変形として、前記一方の軌道輪を回転させた状態で当該他方の軌道輪の変位をセンサによって外部から検出し、前記演算工程は、前記第2検出工程の検出結果を周波数解析する解析工程、 記推定工程で求められた推定値に基づいて、前記解析工程における解析結果から前記他方の軌道輪の変位の周波数を決定する決定工程、及び、前記決定工程で決定された周波数と前記一方の軌道輪の回転数と前記玉に関する諸元データとを用いて前記玉の接触角を求める演算工程、を含む。
【0022】
(8)好ましくは、前記接触角取得方法は、前記演算工程において求められた接触角が、接触角の設計値の許容誤差範囲内に収まっているか否かを判定する判定工程を更に含む。
【0023】
(第2発明について)
(9)本開示は、外輪と、外輪の径方向内側に配置された内輪と、前記外輪と前記内輪との間に配置された複数の玉とを備えるアンギュラ玉軸受の接触角取得方法であって、前記内輪を回転させた場合の玉の公転に伴う前記外輪の周期的な変位の周波数の推定値を、前記内輪の回転数と前記玉に関する諸元データと前記玉の接触角の設計値とを用いて求める推定工程、前記内輪を回転させた状態で前記外輪の前記変位をセンサによって外部から検出する検出工程、前記検出工程の検出結果を周波数解析する解析工程、前記推定工程で求められた推定値に基づいて、前記解析工程における解析結果から前記外輪の変位の周波数を決定する決定工程、及び、前記決定工程で決定された周波数と前記内輪の回転数と前記玉に関する諸元データとを用いて前記玉の接触角を求める演算工程と、を含む。
【0024】
この接触角取得方法では、アンギュラ玉軸受の玉の公転に伴う外輪の変位の周波数の推定値を求める。センサによって前記変位を外部から検出してその検出結果を周波数解析する。前記変位の周波数の推定値に基づいて、周波数解析の結果から前記変位の周波数を決定し、決定した周波数等を用いて玉の接触角を求める。このため、アンギュラ玉軸受を組み立てた状態であっても玉の接触角を求めることができる。求められた接触角は、アンギュラ玉軸受の品質管理等に活用することができる。
【0025】
センサは、玉の公転に伴う外輪の変位とは異なる要因で発生する変位やノイズ等を検出することがある。このため、センサの検出結果から玉の公転に伴う外輪の変位の周波数を直接的に決定することが困難な場合がある。本開示では、玉の接触角の設計値を用いて決定すべき周波数の推定値を求め、この推定値との比較に基づいて、センサの検出結果の周波数解析から玉の公転に伴う外輪の変位の周波数を決定する。このため、より正確に玉の接触角を求めることができる。
【0026】
(10)好ましくは、前記センサが、非接触センサである。この構成によって、外輪に直接センサを装着したり、センサを内蔵したりする必要がない。このため、玉の公転に伴う外輪の変位の検出を簡単な構成で迅速に行うことができる。
【0027】
(11)好ましくは、前記センサが、接触型センサであり、前記外輪に対して着脱可能に構成されている。この構成によって、外輪にセンサを内蔵する必要がなく、玉の接触角を求めるときに、外輪にセンサを取り付ければよい。
【0028】
(12)好ましくは、前記センサが前記外輪の変位を検出する範囲は、当該外輪の外面における、前記アンギュラ玉軸受の中心軸に垂直で前記玉の中心を通る直線上の第1点と、前記外輪の軌道と前記玉との接触点及び当該玉の中心を通る直線上の第2点との間の範囲と少なくとも一部が重複している。この構成によって、玉の転動に伴う外輪の変位が大きい範囲を対象として効率よく当該変位を検出することができる。
【0029】
(13)好ましくは、前記接触角取得方法は、前記演算工程において求められた接触角が、当該接触角の設計値の許容誤差範囲内に収まっているか否かを判定する判定工程を更に含む。この構成によって、車輪用軸受装置の製品の品質のばらつきを抑制することができる。
【0030】
(アンギュラ玉軸受である車輪用軸受装置の製造方法)
(14)アンギュラ玉軸受である車輪用軸受装置の製造方法であって、
前記車輪用軸受装置は、内周面の軸方向一方側及び軸方向他方側に形成されている第1の外側軌道及び第2の外側軌道を有する外輪と、外周面に第1の内側軌道が形成されている軸部材及び当該軸部材の軸方向他方側の小径部に嵌合すると共に外周面に第2の内側軌道が形成されている内輪部材を有する内軸と、前記第1の外側軌道と前記第1の内側軌道とに対して接触角を有して接触する複数の第1の玉と、前記第2の外側軌道と前記第2の内側軌道とに対して接触角を有して接触する複数の第2の玉と、を備えていて、
前記第1の内側軌道に前記複数の第1の玉を載せる工程、当該複数の第1の玉に前記第1の外側軌道が載るようにして前記軸部材と前記外輪とを組む工程、前記第2の外側軌道に前記複数の第2の玉を載せると共に、当該複数の第2の玉に前記内輪部材の前記第2の内側軌道が載るようにして当該内輪部材を前記小径部に嵌合させる工程、及び、前記軸部材の軸方向他方側の端部を径方向外方へ塑性変形させてかしめることによって当該内輪部材を当該軸部材に固定する固定工程、を含む組み立て工程と、
前記組み立て工程を経て前記車輪用軸受装置が組み立てられた状態で、又は、前記固定工程と並行して、前記接触角を求める接触角取得工程と、を備え、
前記接触角取得工程で前記接触角を求める方法は、前記(1)~(13)のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受の接触角取得方法である。
【0031】
<本開示の発明の実施形態の詳細>
以下、本開示の発明の実施形態を説明する。
(第1発明について)
[第1発明の第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る接触角取得方法に使用するアンギュラ玉軸受の断面図である。本実施形態のアンギュラ玉軸受は、自動車等の車両に用いられる車輪用軸受装置(ハブユニット)10である。
【0032】
車輪用軸受装置10は、自動車の車体に設けられている懸架装置に対して車輪を回転自在に支持する。車輪用軸受装置10は、外輪11と、内軸12と、玉13と、保持器14とを備える。なお、以下の説明においては、車輪用軸受装置10の中心軸C1に平行な方向(
図1の左右方向)を軸方向という。また、車輪用軸受装置10が自動車の車体に設けられた状態において、車両アウタ側となる
図1の左側を軸方向一方側といい、車両インナ側となる
図1の右側を軸方向他方側という。
【0033】
本開示では、内軸12の中心軸及び外輪11の中心軸が一致していて、この中心軸を車輪用軸受装置10の中心軸C1とする。中心軸C1に直交する方向が径方向である。
【0034】
外輪11と内軸12とは同心状に配置されている。本実施形態では、外輪11に対して内軸12が中心軸C1回りに回転自在となる。車輪用軸受装置10は、図示しない車輪やブレーキディスクがフランジ部16bに固定される内軸12を、車体に対して回転自在に支持する。
【0035】
外輪11は、機械構造用炭素鋼等により形成されている。外輪11は、円筒形状に形成され、外周面11aにフランジ11cを有する。フランジ11cは、ボルトにより車体側の懸架装置に固定される。外輪11の内周面に、複列の外側軌道11bが形成されている。
【0036】
内軸12は、機械構造用炭素鋼等により形成されている。内軸12は、アンギュラ玉軸受の内輪を構成する。内軸12は、軸部材16と、内輪部材17とで構成される。
軸部材16は、軸方向に沿って延びる本体部16aと、本体部16aから径方向外方に突出するフランジ部16bとを有する。本体部16aとフランジ部16bとは、一体に形成されている。フランジ部16bは、本体部16aの軸方向一方側に設けられている。フランジ部16bには、車輪やブレーキディスク(図示せず)が取り付けられる。
【0037】
内輪部材17は、環状に形成されている部材であり、軸部材16の軸方向他方側の端部に固定されている。具体的には、軸部材16の軸方向他方側には、本体部16aの他の部分よりも外径が小さく形成された小径部16cが設けられている。この小径部16cに内輪部材17が嵌合している。そして、軸部材16の軸方向他方側の端部16dを径方向外方へ塑性変形させてかしめることによって内輪部材17が軸部材16に固定される。
【0038】
軸部材16の本体部16aの外周面に、内側軌道16eが形成されている。内側軌道16eは、軸方向一方側の外側軌道11bに対向する。内輪部材17の外周面に、内側軌道17eが形成されている。内側軌道17eは、軸方向他方側の外側軌道11bに対向する。
軸方向一方側において、第1の外側軌道11bと第1の内側軌道16eとの間に、複数の第1の玉13が配設されている。軸方向他方側において、第2の外側軌道11bと第2の内側軌道17eとの間に、複数の第2の玉13が配設されている。各列の複数の玉13は、保持器14により周方向に間隔をあけて保持されている。外側軌道11b及び内側軌道16e,17eは、それぞれ断面において凹円弧形状に形成されている。第1の玉13は、第1の外側軌道11b及び第1の内側軌道16eそれぞれに対して接触角αを有して点接触する。第2の玉13は、第2の外側軌道11b及び第2の内側軌道17eそれぞれに対して接触角αを有して点接触する。したがって、車輪用軸受装置10は、複列のアンギュラ玉軸受を構成し、外輪11及び内軸12が、それぞれ軌道輪を構成する。
【0039】
外輪11の軸方向両端部と内軸12との間、より詳細には、外輪11の軸方向一方側の端部と本体部16aとの間、及び、外輪11の軸方向他方側の端部と内輪部材17との間に、それぞれシール部材18、19が取り付けられている。シール部材18、19は、外輪11と内軸12との間に形成される環状空間に泥水等の異物が浸入するのを防ぎ、かつ環状空間内の潤滑剤が漏出しないように封止する役割を有している。
【0040】
以上の構成を有する車輪用軸受装置10において、外側軌道11b及び内側軌道16e,17eに対する玉13の接触角αは、車輪用軸受装置10の剛性や回転トルクに影響を与える。このため、接触角αを、設計により定められた適切な値に設定することが求められる。しかし、車輪用軸受装置10の内部に配置される玉13の接触角αを直接測定することは困難である。そのため、内輪部材17を軸部材16にかしめ固定する際の荷重を管理することによって、接触角αが適切な値となるように、車輪用軸受装置10が組み立てられる。
しかし、車輪用軸受装置10を構成する各部品には寸法誤差等が存在する。このため、かしめ固定する際の荷重を管理するだけでは玉13の接触角αにバラツキが生じやすい。その結果、車輪用軸受装置10の製品の品質を一定に保つことが困難となる。
そのため、本実施形態では、組み立てられた状態の車輪用軸受装置10であっても玉13の接触角αを取得できるようにすることで、車輪用軸受装置10の品質向上等を図る。
【0041】
[接触角の取得方法]
以下、具体的な接触角の取得方法について説明する。
図1に示すように、本実施形態では、内軸12を回転させているときの、内軸12の回転数と外輪11の変形とをセンサ22,21が検出し、処理装置20が、センサ22,21の検出結果を用いて玉13の接触角αを求める。つまり、本実施形態の接触角取得方法は、内軸12の回転数を検出する第1検出工程と、外輪11の変形を検出する第2検出工程と、第1検出工程及び第2検出工程の検出結果を用いて玉13の接触角αを求める演算工程と、を含む。
【0042】
処理装置20は、例えば、CPU等を含む制御部20aと、HDD等のストレージや揮発性メモリ等を含む記憶部20bとを有するコンピュータにより構成される。制御部20aは、記憶部20bから読み出したコンピュータプログラムを実行することにより、玉13の接触角αを演算する処理を行う。
【0043】
処理装置20は、接触角αを求めるための情報として、以下に説明する式(1)及び式(2)と、これらの式(1)及び式(2)に含まれるパラメータとを記憶部20bに記憶する。
式(1)は、玉13の公転数fを求めるための式である。
【0044】
【0045】
ただし、Dwは、玉13の直径、Dpwは、玉13のピッチ円直径、αは、接触角、frは、所定時間における内軸12の回転数である。Dw及びDewは、同じ単位である。f及びfrは、同じ単位である。
【0046】
玉13の公転数fは、玉13の個数nと、外輪11の周方向の特定位置を玉13が所定時間(単位時間)に通過する回数(玉13の通過数)pとを用いて、次式(2)のように表すことができる。
f=p/n ・・・ (2)
【0047】
以上の式(1)及び式(2)において、玉13に関する諸元データである直径Dw、ピッチ円直径Dpw、及び個数nは、既知の値であり、記憶部20bに記憶されている。内軸12の回転数frと、玉13の通過数pとは、それぞれセンサ22,21の検出結果から処理装置20により求められる。
【0048】
内軸12の回転数frは、回転検出センサ22の検出結果を用いて求められる。回転検出センサ22として、例えば、光学式回転検出センサが用いられる。光学式回転検出センサは、内軸12のフランジ部16bに向けて光を照射し、フランジ部16bに設けられた反射板22aからの反射光を計測する。回転検出センサ22の検出結果は、処理装置20に送信される。なお、回転検出センサ22による検出箇所は、内軸12の回転に伴って周期的に移動する箇所であれば特に限定されない。
【0049】
玉13の通過数pは、変形検出センサ21の検出結果を用いて求められる。変形検出センサ21は、外輪11の外周面11aに設けられ、外側軌道11b上を玉13が公転することに伴う外輪11の変形を外部から検出する。具体的に、本実施形態では、変形検出センサ21としてひずみゲージ21Aが用いられる。ひずみゲージ21Aによって外輪11の外周面11aのひずみが測定される。ひずみゲージ21Aの検出結果は、処理装置20に送信される。
【0050】
図2は、変形検出センサ21を示す説明図である。
ひずみゲージ21Aは、
図2に示す範囲R内の外輪11の変形を検出するように設けられる。この範囲Rは、外輪11の外周面11aにおける第1の点P1と第2の点P2との間の範囲である。第1の点P1は、車輪用軸受装置10の中心軸C1に垂直で、玉13の中心を通る直線L1上の点である。第2の点P2は、外側軌道11bと玉13との接触点と、玉13の中心とを通る直線(接触角αをなす直線)L2上の点である。この範囲Rは、外側軌道11b上を玉13が転動することによって外輪11が比較的大きく変形する部位である。ひずみゲージ21Aは、範囲Rの全体における外輪11の変形を検出するように設けられていてもよいし、範囲R内の一部の変形を検出するように設けられていてもよい。
【0051】
図3は、回転検出センサ22及び変形検出センサ21の出力結果を示すグラフである。
このグラフの横軸は、時間であり、縦軸は、各センサ21,22の信号の出力値(電圧値)である。回転検出センサ22は、内軸12が一回転するたびに信号を出力する。
図3(上のグラフ)には、内軸12の10回転分の出力が示されている。
【0052】
ひずみゲージ21Aは、外輪11の変形が大きいほど大きな信号を出力する。外側軌道11b上を玉13が転動し、ひずみゲージ21Aの直下を通ると、外輪11が玉13によって径方向外方へ押圧される。このため、ひずみゲージ21Aが取り付けられた部分の外輪11の弾性変形が大きくなる。また、ひずみゲージ21Aの直下を玉13が過ぎると、玉13によって径方向外方へ押圧されなくなる。このため、外輪11の弾性変形が解消される。ひずみゲージ21Aは、このような外輪11の変形を反映し、上下に変動する信号を出力する。したがって、上下に変動するグラフの山の部分が、玉13がひずみゲージ21Aの直下を通っているタイミングであると考えることができる。
【0053】
処理装置20は、上記の式(2)を用い、玉13の通過数pを玉13の個数nで割ることによって玉13の公転数fを求める。そして、処理装置20は、上記の式(1)を用い、玉13の公転数fと、回転検出センサ22で検出した回転数frと、玉13の諸元データDw,Dpwとから玉13の接触角αを求める。
【0054】
このように求められた玉13の接触角αが所定の設計値の許容誤差範囲に収まっていれば、その車輪用軸受装置10は、所定の品質を満たす製品となる。また、接触角αが所定よりも小さければ、内軸12の軸部材16のかしめ加工を追加的に行うことによって接触角αを大きくする。これにより、所定の品質を確保することもできる。
【0055】
ひずみゲージ21Aには、正確なひずみの検出は求められておらず、
図3に示すように、出力の上下の変動を検出できれば足りる。そのため、外輪11の外周面11aにおけるひずみゲージ21Aの取り付け個所を平滑にする下処理は不要である。外輪11は、通常鋳造によって形成され、その外周面は鋳肌が残った状態となっている。ひずみゲージ21Aを取り付けるために鋳肌を削るような下処理は不要である。外周面が鋳肌の状態で、実際の製品における接触角αの取得が可能である。
【0056】
以上のような接触角αの取得は、車輪用軸受装置10の組み立て後に限らず、車輪用軸受装置10の組み立て工程(製造工程)と並行して行うこともできる。
図4は、車輪用軸受装置10の製造装置の一例を示す断面図である。
この製造装置30は、内軸12の軸部材16における軸方向他方側の端部16dをかしめ加工することによって、内輪部材17を小径部16cに固定するための装置である。
【0057】
製造装置30は、回転機構31、かしめ機構32、及び拘束機構33を備える。車輪用軸受装置10は、内軸12の中心軸C1を上下方向として、かしめ加工される軸方向他方側が上となる姿勢で回転機構31の回転体31a上に装着される。回転体31aは、図示しない電動モータにより上下方向の基準軸Z回りに回転し、内軸12も同時に回転する。接触角αを取得するために用いられるセンサ21,22は、回転体31aに装着された車輪用軸受装置10に対して取り付けられる。
【0058】
かしめ機構32は、パンチ32aと、固定スピンドル32bとを有する。
固定スピンドル32bは、製造装置30の基準軸(基準線)Zを中心とする柱状の部材であり、図示しない昇降フレームに固定され、上下方向に移動可能である。固定スピンドル32bには、下方に向かって開口している孔32cが形成されている。孔32cの中心軸(中心線)C2は、基準軸Zに対して所定角度で傾斜している。
【0059】
パンチ32aは、軸状に形成され、孔32cの内部に軸受部32dを介して回転自在に設けられている。パンチ32aは、固定スピンドル32bを下降させることによって、回転機構31により回転している軸部材16の軸方向他方側の端部16dに押し付けられ、当該端部16dをかしめ加工する。
【0060】
以上のような車輪用軸受装置10の組み立て工程と並行して玉13の接触角αが取得される。これによって、適切な接触角αとなるまでかしめ加工が行われ、車輪用軸受装置10の品質のばらつきを抑制することができる。なお、車輪用軸受装置10の組み立て工程と並行する接触角αの取得には、軸部材16のかしめ加工と同時に接触角αを取得すること、及び、軸部材16のかしめ加工と交互に玉13の接触角αを取得することが含まれる。前者の場合、軸部材16のかしめ加工を行いながら、同時に玉13の接触角αを取得・確認し、当該接触角αが適切な値になると、かしめ加工を終了する工程となる。後者の場合は、例えば、軸部材16のかしめ加工を途中まで行ってから、一旦、玉13の接触角αを取得・確認し、再度かしめ加工の続きを行うというように、接触角αを確認しつつかしめ加工を間欠的に進める工程となる。
【0061】
[第1発明の第2の実施形態]
図5は、第2の実施形態に係る接触角取得方法で使用する変形検出センサを示す説明図である。
上述した実施形態(
図2参照)では、変形検出センサ21としてひずみゲージ21Aが用いられる。第2の実施形態では、変形検出センサ21として変位センサ21Bが用いられる。この変位センサ21Bは、レーザ変位センサのような非接触式センサである。変位センサ21Bは、範囲R中の特定点P3における外輪11の径方向の変位を検出する。ただし、変位センサ21Bは、接触式センサであってもよい。
【0062】
点P3の直下を玉13が通ると外輪11の外周面11aが径方向外方へわずかに膨らむように変位する。点P3の直下を玉13が過ぎると外輪11の外周面11aが相対的に径方向内側へ縮むように変位する。変位センサ21Bは、このような外輪11の外周面11aの径方向の変位を検出する。したがって、この変位センサ21Bを用いることによって、玉13の通過数pを求めることができる。この通過数pから玉13の接触角αを求めることができる。
【0063】
[実施例]
以上において説明した接触角取得方法を用いて、実際に車輪用軸受装置における玉の接触角を取得した例について説明する。
接触角の取得に用いた車輪用軸受装置の玉の諸元データは次のとおりである。
直径Dw:23.8(mm)
ピッチ円直径Dpw:50(mm)
個数n:20(個)
【0064】
そして、車輪用軸受装置の内軸を回転させ、回転検出センサの検出結果を用いて処理装置により内軸の回転数frを求める。変形検出センサの検出結果を用いて処理装置により転動体の通過数pを求める。その結果、それぞれ次のような値となった。
内軸の回転数fr:10(回転)
玉の通過数p:65(個)
【0065】
そして、内軸の回転数fr、玉の通過数p、及び前述の玉の諸元データDw、Dpw、nを用い、処理装置により接触角αを求める。その結果、接触角αは次のような値となる。
接触角α:42.7(deg)
以上より、回転検出センサ22及び変形検出センサ32の検出結果と、玉の諸元データとを用いることによって、適切に玉の接触角を取得できることが分かった。
【0066】
今回開示した第1発明についての実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0067】
接触角αの取得は、複列の玉のうち一方の列の玉13のみに対して行ってもよい。一方の列の玉13の接触角と他方の列の玉の接触角との間には相関がある。このため、取得した一方の列の玉の接触角から他方の列の玉の接触角を求めてもよい。
回転検出センサ22は、内軸12の回転数を直接的に検出するものに限らず、間接的に検出するものであってもよい。例えば、内軸12を回転させるモータの回転数を検出するものであってもよい。
【0068】
変形検出センサ21は、ひずみゲージ21A又は変位センサ21Bに限らず、外輪11(軌道輪)の変形を検出できるものであれば、特に限定されない。
本発明は、車輪用軸受装置以外のアンギュラ玉軸受にも適用することができる。
アンギュラ玉軸受は、内輪が固定され、外輪が回転するものであってもよい。この場合、変形検出センサ21は、内輪に対して設けることができる。
【0069】
(第2発明について)
[第2発明の第1の実施形態]
図6は、第1の実施形態に係る接触角取得方法に使用するアンギュラ玉軸受の断面図である。本実施形態のアンギュラ玉軸受は、自動車等の車両に用いられる車輪用軸受装置(ハブユニット)10である。
【0070】
車輪用軸受装置10は、自動車の車体に設けられている懸架装置に対して車輪を回転自在に支持する。車輪用軸受装置10は、外輪11と、内軸12と、玉13と、保持器14とを備える。なお、以下の説明においては、車輪用軸受装置10の中心軸C1に平行な方向(
図6の左右方向)を軸方向という。また、車輪用軸受装置10が自動車の車体に設けられた状態において、車両アウタ側となる
図6の左側を軸方向一方側といい、車両インナ側となる
図6の右側を軸方向他方側という。
【0071】
本開示では、内軸12の中心軸及び外輪11の中心軸が一致していて、この中心軸を車輪用軸受装置10の中心軸C1とする。中心軸C1に直交する方向が径方向である。
【0072】
外輪11と内軸12とは同心状に配置されている。本実施形態では、外輪11に対して内軸12が中心軸C1回りに回転自在となる。車輪用軸受装置10は、図示しない車輪やブレーキディスクがフランジ部16bに固定された内軸12を、車体に対して回転自在に支持する。
【0073】
外輪11は、機械構造用炭素鋼等により形成されている。外輪11は、円筒形状に形成され、外周面11aにフランジ11cを有する。フランジ11cは、ボルトにより車体側の懸架装置に固定される。外輪11の内周面に、複列の外側軌道11bが形成されている。
【0074】
内軸12は、機械構造用炭素鋼等により形成されている。内軸12は、アンギュラ玉軸受の内輪を構成する。内軸12は、軸部材16と、内輪部材17とで構成されている。
軸部材16は、軸方向に沿って延びる本体部16aと、本体部16aから径方向外方に突出するフランジ部16bとを有する。本体部16aとフランジ部16bとは、一体に形成されている。フランジ部16bは、本体部16aの軸方向一方側に設けられている。フランジ部16bには、車輪やブレーキディスク(図示せず)が取り付けられる。
【0075】
内輪部材17は、環状に形成されている部材であり、軸部材16の軸方向他方側の端部に固定されている。具体的には、軸部材16の軸方向他方側には、本体部16aの他の部分よりも外径が小さく形成された小径部16cが設けられている。この小径部16cに内輪部材17が嵌合している。そして、軸部材16の軸方向他方側の端部16dを径方向外方へ塑性変形させてかしめることによって内輪部材17が軸部材16に固定される。
【0076】
軸部材16の本体部16aの外周面に、内側軌道16eが形成されている。内側軌道16eは、軸方向一方側の外側軌道11bに対向する。内輪部材17の外周面に、内側軌道17eが形成されている。内側軌道17eは、軸方向他方側の外側軌道11bに対向する。
軸方向一方側において、第1の外側軌道11bと第1の内側軌道16eとの間に、複数の第1の玉13が配設されている。軸方向他方側において、第2の外側軌道11bと第2の内側軌道17eとの間に、複数の第2の玉13が配設されている。各列の複数の玉13は、保持器14により周方向に間隔をあけて保持されている。外側軌道11b及び内側軌道16e,17eは、それぞれ断面において凹円弧形状に形成されている。第1の玉13は、第1の外側軌道11b及び第1の内側軌道16eそれぞれに対して接触角αを有して点接触する。第2の玉13は、第2の外側軌道11b及び第2の内側軌道17eそれぞれに対して接触角αを有して点接触する。したがって、車輪用軸受装置10は、複列のアンギュラ玉軸受を構成し、外輪11及び内軸12が、それぞれ軌道輪を構成する。
【0077】
外輪11の軸方向両端部と内軸12との間、より詳細には、外輪11の軸方向一方側の端部と本体部16aとの間、及び、外輪11の軸方向他方側の端部と内輪部材17との間に、それぞれシール部材18、19が取り付けられている。シール部材18、19は、外輪11と内軸12との間に形成される環状空間に泥水等の異物が浸入するのを防ぎ、かつ環状空間内の潤滑剤が漏出しないように封止する役割を有している。
【0078】
以上の構成を有する車輪用軸受装置10において、外側軌道11b及び内側軌道16e,17eに対する玉13の接触角αは、車輪用軸受装置10の剛性や回転トルクに影響を与える。このため、接触角αを、設計により定められた適切な値に設定することが求められる。しかし、車輪用軸受装置10の内部に配置される玉13の接触角αを直接測定することは困難である。そのため、内輪部材17を軸部材16にかしめ固定する際の荷重を管理することによって、接触角αが適切な値となるように、車輪用軸受装置10が組み立てられる。
しかし、車輪用軸受装置10を構成する各部品には寸法誤差等が存在する。このため、かしめ固定する際の荷重を管理するだけでは玉13の接触角αにバラツキが生じやすい。その結果、車輪用軸受装置10の製品の品質を一定に保つことが困難となる。
そのため、本実施形態では、組み立てられた状態の車輪用軸受装置10であっても玉13の接触角αを取得できるようにすることで、車輪用軸受装置10の品質向上等を図っている。
【0079】
[接触角の取得方法]
以下、具体的な接触角の取得方法について説明する。
図6に示すように、本実施形態では、品質検査の一つとして、組み立てられた状態の車輪用軸受装置10の内軸12を回転させる。そのときの外輪11の変位(変形)をセンサ121によって検出し、その検出結果を用いて処理装置20により玉13の接触角αを求める。つまり、本実施形態の接触角取得方法は、外輪11の変位を検出する「検出工程」と、検出工程の検出結果を用いて玉13の接触角αを求める「演算工程」と、を含む。さらに、本実施形態の接触角取得方法は、検出工程及び演算工程に加え、「推定工程」、「解析工程」、「決定工程」、及び「判定工程」を含む。以下、各工程による接触角の取得方法について具体的に説明する。
【0080】
処理装置20は、例えば、CPU等を含む制御部20aと、HDD等のストレージや揮発性メモリ等を含む記憶部20bとを有するコンピュータにより構成される。制御部20aは、記憶部20bから読み出したコンピュータプログラムを実行することにより、玉13の接触角αを演算する処理を行う。
【0081】
処理装置20は、接触角αを求めるための情報として、以下に説明する式(1)及び式(2)と、これらの式(1)及び式(2)に含まれるパラメータとを記憶部20bに記憶する。
式(1)は、玉13の公転数fを求めるための式である。
【0082】
【0083】
ただし、Dwは、玉13の直径、Dpwは、玉13のピッチ円直径である。Dw及びDewは、同じ単位である。αは、接触角である。frは、単位時間当たりの内軸12の回転数である。f及びfrは、同じ単位である。
【0084】
玉13の公転数fは、玉13の個数nと、外輪11の周方向の特定位置を玉13が単位時間(所定時間)に通過する回数(玉13の通過数)pとを用いて、次式(2)のように表すことができる。
f=p/n ・・・ (2)
【0085】
以上の式(1)及び式(2)において、玉13に関する諸元データである直径Dw、ピッチ円直径Dpw、及び個数nは、既知の値であり、記憶部20bに記憶されている。
【0086】
式(1)において、内軸12の回転数frは、例えば、回転検出センサ22の検出結果から処理装置20により求めることができる。回転検出センサ22としては、例えば、光学式回転検出センサが用いられる。光学式回転検出センサは、内軸12のフランジ部16bに向けて光を照射し、フランジ部16bに設けられた反射板22aからの反射光を計測する。回転検出センサ22の検出結果は、処理装置20に送信される。なお、回転検出センサ22による検出箇所は、内軸12の回転に伴って周期的に移動する箇所であれば特に限定されない。
【0087】
内軸12の回転数frは、内軸12を回転させるモータの駆動回転数から求められてもよい。内軸12の回転数frは、次に説明する変位検出センサ121の検出結果の周波数解析を用いて求められてもよい。
【0088】
(検出工程)
式(2)において、玉13の通過数pは、変位検出センサ121の検出結果を用いて求められる。変位検出センサ121は、外輪11の外周面11aに対向するように配置される。変位検出センサ121は、外側軌道11b上を玉13が公転することに伴う外輪11の変位(変形)を外部から検出する。本実施形態では、この工程を「検出工程」という。
【0089】
本実施形態では、変位検出センサ121として静電容量型の変位検出センサ121Aが用いられる。静電容量型の変位検出センサ121Aは、外輪11の外周面11aに接触しない非接触型のセンサである。変位検出センサ121Aは、外輪11の外周面11aと変位検出センサ121Aとの間隔S(
図7参照)の変化を測定する。変位検出センサ121Aの検出結果は、処理装置20に送信される。
【0090】
図7は、変位センサを示す説明図である。
変位検出センサ121Aは、
図7に示す範囲R内における外輪11の変位を検出するように設けられる。言い換えると、変位検出センサ121Aの検出位置は、範囲Rと重複している。この範囲Rは、外輪11の外周面11aにおける第1の点P1と第2の点P2との間の範囲である。第1の点P1は、車輪用軸受装置10の中心軸C1に垂直で、玉13の中心を通る直線L1上の点である。第2の点P2は、外側軌道11bと玉13との設計上の接触点と、玉13の中心とを通る直線(接触角の設計値α0をなす直線)L2上の点である。この範囲Rは、外側軌道11b上を玉13が転動することによって外輪11が比較的大きく変位する部位である。変位検出センサ121Aは、範囲Rの全体における外輪11の変位を検出するように設けられていてもよいし、範囲R内の一部の変位を検出するように設けられていてもよい。
【0091】
外側軌道11b上を玉13が転動し、変位検出センサ121Aの直下を通ると、外輪11が玉13によって径方向外方へ押圧される。このため、変位検出センサ121Aが対向する部分において外輪11の弾性変形が大きくなる。また、変位検出センサ121Aの直下を玉13が通り過ぎると、外輪11は、玉13によって径方向外方へ押圧されなくなる。このため、外輪11の弾性変形が解消される。変位検出センサ121Aは、このような周期的な外輪11の弾性変形(変位)による間隔Sの変化に応じた信号を出力する。この信号の周波数は、単位時間における玉13の通過数pに対応する。
【0092】
また、変位検出センサ121Aは、外側軌道11b上の玉13の転動以外の要因による外輪11の変位も検出する。例えば、変位検出センサ121Aは、内軸12の中心軸の振れ(以下、「芯振れ」ともいう)に起因する変位を検出する。また、変位検出センサ121Aは、外輪11の変位以外の電気的又は磁気的なノイズも検出する。
【0093】
図8は、変位検出センサ121Aの検出結果を示すグラフである。
このグラフの横軸は、時間であり、縦軸は、変位検出センサ121Aの出力値(電圧値)である。前述したように、変位検出センサ121Aの検出結果には、外側軌道11b上の玉13の転動、内軸12の芯振れ、ノイズ等の種々の要因が含まれている。そのため、
図8に示すグラフから、外側軌道11b上の玉13の転動による外輪11の変位の周波数を特定することは困難である。そこで、本実施形態では、処理装置20が、以下に説明するような「推定工程」、「解析工程」、及び「決定工程」を実行する。これによって、外輪11の変位の周波数の特定を容易に行うことが可能となる。
【0094】
(推定工程)
処理装置20は、組み立てられた状態の車輪用軸受装置10における接触角αではなく、接触角αの設計値α0を用いて、上述の式(1)及び(2)により単位時間(例えば、1秒間)当たりの玉13の通過数pを推定する(推定工程)。前述したように、玉13の通過数pは、外側軌道11b上の玉13の転動による周期的な外輪11の変位の回数(周波数)に相当する。処理装置20は、接触角αの設計値α0から推定された玉13の通過数pに対応する周波数(周波数の推定値)を含むような、所定の範囲Aを設定する。例えば、玉13の通過数pに対応する周波数の推定値をfp’とすると、次のような式(3)を用いて、範囲Aを設定する。
A=fp’±B ・・・(3)
(ただし、Bは所定の定数)
【0095】
推定工程は、前述の検出工程を行う前に行われる。この場合、式(1)の内軸12の回転数frには、検出工程で適用する予定の内軸12の回転数が用いられる。また、推定工程は、検出工程の後に行うこともできる。この場合、内軸12の回転数frには、検出工程の際に適用した内軸12の回転数(回転検出センサ22の検出結果やモータの駆動回転数から求められる回転数)を用いることができる。
【0096】
(解析工程及び決定工程)
図9は、
図8に示す変位検出センサの検出結果を周波数解析したグラフである。具体的に、
図9は、
図8に示す変位検出センサの検出結果をFFT(Fast Fourier Transform)を用いて解析したグラフである。
処理装置20は、変位検出センサ121Aの検出結果を周波数解析することによって、
図9に示すように、周波数ごとの振幅の大きさを求める(解析工程)。そして、処理装置20は、
図9に示す解析結果において、周波数の推定値fp’に基づいて設定された範囲A内でピークとなる周波数を、玉13の通過数pに対応する周波数fpに決定する(決定工程)。
【0097】
(演算工程)
処理装置20は、上記の式(2)を用い、玉13の通過数p(周波数fp)を玉13の個数nで割ることによって玉13の公転数fを求める。そして、処理装置20は、上記の式(1)を用い、玉13の公転数fと、回転検出センサ22等を用いて求めた回転数frと、玉13の諸元データDw,Dpwとから、組み立てられた状態の車輪用軸受装置10の玉13の接触角αを求める。
【0098】
(判定工程)
処理装置20は、求められた接触角αが所定の設計値α0の許容誤差範囲に収まっているか否かを判定する判定工程を行う。求められた玉13の接触角αが所定の設計値α0の許容誤差範囲に収まっていれば、その車輪用軸受装置10は、所定の品質を満たす製品となる。したがって、判定工程を行うことによって、製品の品質のばらつきを抑制することができる。また、接触角αが所定の設計値α0の許容誤差範囲よりも小さければ、内軸12の軸部材16のかしめ加工を追加で行うことによって接触角αを大きくし、所定の品質を確保することもできる。
【0099】
静電容量型の変位検出センサ121Aは、外輪11の外周面11aに対して非接触の状態で変位を検出する。そのため、センサを外輪11に内蔵したり、品質検査の度に外輪11の外周面11aにセンサを取り付けたり、センサの取り付け個所を平滑にする下処理を行ったりする必要がない。
【0100】
図9に示す周波数解析の結果、範囲A内に周波数のピークが複数存在することがある。このような場合、例えば、次のような方法によって、玉13の通過数pに対応する周波数fpのみを特定することができる。例えば、検出工程において、内軸12の回転数frを増加させた状態で、変位検出センサ121Aにより外輪11の変位を検出し、その検出結果を周波数解析する。玉13の通過数pに対応する周波数fpは、内軸12の回転の増加の割合に応じた割合で増加する。これに対して、その他の周波数、例えば変位検出センサ121Aが検出したノイズによる周波数は、内軸12の回転数を増加させたとしても変化しない。そのため、複数の要因による周波数の中から、玉13の通過数pに対応する周波数fpを特定することが可能となる。
【0101】
また、内軸12の回転数frを変化させることに代えて、式(3)における定数Bを調整し、範囲Aを絞ることによって、玉13の通過数pに対応する周波数fpを特定することも可能である。
【0102】
図9に示す周波数解析の結果には、内軸12の回転数frに相当する周波数にもピークが現れる。そのため、
図9に示す周波数結果を用いて内軸12の回転数frを求めることも可能である。この場合、上述したような回転検出センサ22が不要となり、変位検出センサ121を、内軸12の回転検出センサとして兼用することができる。
【0103】
[第2発明の第2の実施形態]
図10は、第2の実施形態に係る接触角取得方法で使用する変位検出センサを示す説明図である。
上述した実施形態(
図7参照)では、変位検出センサとして静電容量型の変位検出センサ121Aが用いられていた。第2の実施形態では、変位検出センサとして加速度センサ121Bが用いられる。この加速度センサ121Bは、外輪11の外周面11aに接触する接触式センサである。加速度センサ121Bは、範囲R中における外輪11の径方向の変位を検出する。また、加速度センサ121Bは、磁石や接着剤等によって外輪11の外周面11aに着脱自在に取り付けられる。
【0104】
加速度センサ121Bの直下を玉13が通ると外輪11の外周面11aが径方向外方へわずかに膨らむように変位し、加速度センサ121Bの直下を玉13が通り過ぎると外輪11の外周面11aが相対的に径方向内側へ縮むように変位する。加速度センサ121Bは、このような外輪11の外周面11aの径方向の変位(実質的には変位の加速度)を検出する。したがって、この加速度センサ121Bの検出結果を用いて前述したような解析工程を行い、推定工程で推定された周波数に基づいて、玉13の通過数pに対応する周波数fpを決定し、玉13の接触角αを求めることができる。
【0105】
加速度センサ121Bは,外輪11の外周面11aに着脱自在に取り付けられる。このため、当該センサを外輪11に内蔵する必要が無く、玉13の接触角αを求めるとき(検査工程を行うとき)のみ外輪11の外周面11aに取り付ければよい。
【0106】
今回開示した第2発明についての実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0107】
接触角αの取得は、複列の玉のうち一方の列の玉13のみに対して行ってもよい。一方の列の玉13の接触角と他方の列の玉の接触角との間には相関がある。このため、取得した一方の列の玉の接触角から他方の列の玉の接触角を求めてもよい。
【0108】
変位検出センサ121は、静電容量型の変位検出センサ121Aや加速度センサ121Bに限らず、外輪11の変位(変形)を検出できるものであれば、特に限定されない。第1の実施形態で説明した非接触型の変位検出センサ121として、レーザー式の変位検出センサや渦電流式の変位検出センサを用いることができる。第2の実施形態で説明した接触型の変位(変形)検出センサ121として、ひずみゲージを用いることもできる。
【0109】
接触角αの取得は、車輪用軸受装置10の組み立て後に限らず、車輪用軸受装置10の組み立て工程(製造工程)と並行して行うこともできる。
【0110】
本開示は、車輪用軸受装置以外のアンギュラ玉軸受にも適用することができる。
【0111】
[前記第1発明と前記第2発明とについて]
前記第2発明の各工程は前記第1発明に適用可能であり、第1発明の各工程と第2発明の各工程との関係は次のとおりである。
【0112】
第1発明の第1検出工程は、第2発明の次の工程を含む。
・車輪用軸受装置(アンギュラ玉軸受)の内軸12(一方の軌道輪、回転輪)の回転数を検出する工程。
・検出した内軸12の回転数と、玉13に関する諸元データと、玉13の接触角の設計値α0とを用いて、内軸12を回転させた場合の玉13の公転に伴う外輪11(他方の軌道輪、固定輪)の周期的な変位の周波数の推定値を、求める推定工程。
【0113】
第1発明の第2検出工程は、外輪11の変形として、第2の発明で説明したように、内軸12を回転させた状態で外輪11の変位をセンサによって外部から検出する。
【0114】
第1発明の演算工程は、第2発明の次の工程を含む。
・前記第2検出工程の検出結果を周波数解析する解析工程。
・前記推定工程で求められた推定値に基づいて、前記解析工程における解析結果から外輪11の変位の周波数を決定する決定工程。
・前記決定工程で決定された周波数と、内軸12の回転数と、玉13に関する諸元データとを用いて、玉13の接触角αを求める演算工程。
【0115】
更に、第2発明の各工程を含む第1発明は、次の判定工程を更に含む。
・判定工程:前記演算工程において求められた接触角αが、接触角の設計値の許容誤差範囲内に収まっているか否かを判定する工程
なお、本開示の発明は、第1発明及び第2発明それぞれに関して説明する実施形態の少なくとも一部を、任意に組み合わせた構成を備えていればよい。
【0116】
[車輪用軸受装置の製造方法]
前記第1発明及び前記第2発明それぞれの実施形態で説明する接触角αの取得方法については、車輪用軸受装置10の製造方法に組み込んで行うことができる。
前記のとおり
図4に示す製造装置30が、車輪用軸受装置10の製造方法で用いられる。
図4に示す製造装置30の変形例が、
図11、
図12、
図13及び
図14に示される。
図11~
図14に示す製造装置130は、
図4に示す製造装置30と同様、内軸12の軸部材16における軸方向他方側の端部16dをかしめ加工することによって、内輪部材17を軸部材16に固定するための装置である。
図12に示すように、製造装置130は、内輪保持治具131及びかしめ機構132を備える。製造装置130は、
図14に示すように、外輪保持治具133を更に備える。外輪保持治具133は、二つに分けられた第1の外輪保持治具片133aと第2の外輪保持治具片133bとを有する。
【0117】
図11に示すように、内輪保持治具131は、治具本体131bと、治具本体131bから鉛直方向上方に突出した環状の載置部131aとを有する。載置部13aの中心軸が製造装置130の基準軸(基準線)Zと一致し、本開示では、基準軸Zが鉛直線に沿った状態となる。内輪保持治具131は、前記中心軸(基準軸Z)を中心として回転可能となって、図外の製造装置本体に支持される。製造装置130は、内輪保持治具131を回転させる図示しないモータ及び減速機、並びに、内輪保持治具131を制動し回転不能の固定状態とするブレーキを有する。
【0118】
図12に示すように、かしめ機構132は、パンチ132aと、回転スピンドル132bとを有する。回転スピンドル132bは、製造装置130の基準軸Zを中心とする柱状の部材である。回転スピンドル132bは、図示しない昇降フレームに基準軸Zを中心として回転可能に保持され、鉛直方向の上下方向に移動可能である。回転スピンドル132bには、下方に向かって開口している孔132cが形成されている。孔132cの中心軸(中心線)C2は、基準軸Zに対して所定角度で傾斜している。パンチ132aは、軸状の部材であり、孔132cの内部に軸受部132dを介して回転自在に設けられている。
【0119】
製造装置130を用いて行われる車輪用軸受装置10の製造方法は次のとおりである。
車輪用軸受装置10を製造するために、
図11に示す形態では、内輪保持治具131の載置部131aの上に、軸部材16を載置する。この際、フランジ部16bを下方に向け、フランジ部16bから突出した筒状部分16gを載置部131aの内周側に入れる。車輪用軸受装置10の車両アウタ側となる軸方向一方側が下方側となり、車両インナ側となる軸方向他方側が上方側となる。
【0120】
軸部材16の軸方向一方側の内側軌道16eの上に、保持器14のポケットに組み込まれた複数の玉13を載置する。これらの玉13の上に外輪11の軸方向一方側の外側軌道11bを載置するようにして、軸部材16に外輪11を組む。さらに、外輪11の軸方向他方側の外側軌道11bの上に、保持器14のポケットに組み込まれた複数の玉13を載置すると共に、これらの玉13の上に内側軌道17eを載置させるようにして、軸部材16の小径部16cに内輪部材17を嵌める。これにより、
図11に示すような、端部16dがかしめられる前の車輪用軸受装置が得られる。この車輪用軸受装置の中心軸C1は、基準軸Zと一致する。
【0121】
内輪保持治具131は前記ブレーキにより図示しない製造装置本体に対して回転しないよう保持されている。
回転スピンドル132b(
図12参照)は、図示しない電動モータにより基準軸Z回りに回転する。回転スピンドル132bを回転させながら、下降させる。これにより、パンチ132aが軸部材16の軸方向他方側の端部16dを押し付けつつ、そのパンチ132aが、基準軸Zに対して傾斜した状態で、自転しながら、回転スピンドル132bの回転により公転する。その結果、パンチ132aは、端部16dの端面上を周方向に沿って移動し、端部16dを径方向外方へ塑性変形させてかしめ加工する。これにより、内輪部材17が軸部材16に、軸方向他方に脱落不能となって固定される(
図12参照)。
【0122】
以上のように、本開示の車輪用軸受装置の製造方法では、次の各工程を含む組み立て工程が行われる。
・軸本体16の第1の内側軌道16eに複数の第1の玉13を載せる工程。
・これら第1の玉13に、外輪11の第1の外側軌道11bが載るようにして、軸部材16と外輪11とを組む工程。
・外輪11の第2の外側軌道11bに複数の第2の玉13を載せると共に、これら第2の玉13に内輪部材17の第2の内側軌道17eが載るようにして、内輪部材17を小径部16cに嵌合させる工程。
・軸部材16の軸方向他方側の端部16dを径方向外方へ塑性変形させてかしめることによって、内輪部材17を軸部材16に固定する固定工程。
【0123】
前記固定工程のかしめ(かしめ加工)が終わると、回転スピンドル132bは上方に退避する(
図13参照)。
図14に示すように、第1の外輪保持治具片133aと第2の外輪保持治具片133bとが、外輪11の径方向外方であって180°離れた二箇所から、外輪11を挟む。これにより、外輪11が回転しないよう保持される。
【0124】
第1の外輪保持治具133aの内周面に、外輪11の変形(変位)を検出するセンサが取り付けられている。具体的に説明すると、第1の外輪保持治具133aの内周面の軸方向一方側に、第1のセンサ121Aが取り付けられていて、当該内周面の軸方向他方側に、第2のセンサ121Aが取り付けられている。
【0125】
第1の外輪保持治具片133aと第2の外輪保持治具片133bとが、外輪11を挟むことで、軸方向一方側のセンサ121Aと軸方向他方側のセンサ121Aとが、
図7に示すように、それぞれ外輪11の外周面11a上の第1の点P1(点P1を通過する中心軸C1を中心とする環状の円)と、当該外周面11a上の第2の点P2(点P2を通過する中心軸C1を中心とする環状の円)との軸方向範囲の間において、外周面11aと対向する。
【0126】
前記ブレーキを解除し、内軸11及び内輪保持治具131が回転可能な状態となり、前記モータによって内輪保持治具131を回転させる(
図9参照)。これにより、内軸12は中心軸C1(基準軸Z)回りに回転する。この際、非接触センサであるセンサ121Aにより、前記各形態の取得方法で接触角αが求められる。なお、外輪11の変形(変位)を検出するセンサは、他であってもよく、例えば前記加速度センサ121Bであってもよい。
【0127】
以上のように、本開示の車輪用軸受装置の製造方法には、次の接触角取得工程が含まれる。
・接触角取得工程:前記組み立て工程を経て車輪用軸受装置が組み立てられた状態で、接触角αを求める工程。
そして、この接触角取得工程で接触角αを求める方法は、前記各形態の接触角取得方法である。
【0128】
なお、前記組み立て工程に含まれる前記固定工程と並行して、接触角取得工程が行われてもよい。つまり、前記固定工程と並行して行う接触角αの取得には、軸部材16のかしめ加工と同時に接触角αを取得すること、及び、軸部材16のかしめ加工と交互に玉13の接触角αを取得することが含まれる。前者の場合、軸部材16のかしめ加工を行いながら、同時に玉13の接触角αを取得・確認し、当該接触角αが適切な値になると、かしめ加工を終了する工程となる。後者の場合は、例えば、軸部材16のかしめ加工を途中まで行ってから、一旦、玉13の接触角αを取得・確認し、再度かしめ加工の続きを行うというように、接触角αを確認しつつかしめ加工を間欠的に進める工程となる。
【0129】
そして、接触角αが許容値(設計範囲)に含まれるか否かの判定が行われ、接触角αが許容値の範囲内に含まれる製品を良品とし、その製品を次の工程に進める。
【0130】
なお、前記の製造方法では、
図11に示すように、内輪保持治具131の上で、軸部材16、二列の玉13、及び外輪11を組み、かしめ前の車輪用軸受装置が組み立てられた。しかし、例えば内輪保持治具131とは別の治具など、製造装置130(30)とは別の領域で、かしめ前の車輪用軸受装置を組み立てた状態としてもよい。この場合、組み立てられたかしめ前の車輪用軸受装置が、内輪保持治具131に載せられる。そして、前記製造装置130(30)によって、前記説明と同様の方法でかしめ加工(前記固定工程)が行われる。そして、接触角αの取得が行われる。
【符号の説明】
【0131】
10:車輪用軸受装置、 11:外輪、 11a:外周面、 11b:外側軌道(軌道)、 12:内軸(内輪)、 13:玉、 16:軸部材、 16d:端部、 16e:内側軌道、 17:内輪部材、 17e:内側軌道、 20:処理装置、 21:変形検出センサ、 21A:ひずみゲージ、 21B:変位センサ、 22:回転検出センサ、121:変位検出センサ、121A:静電容量型の変位検出センサ、121B:加速度センサ、 A:範囲、 Dpw:ピッチ円直径、 Dw:直径、 n:個数、 P1:第1の点、 P2:第2の点、 fp:変位の周波数、 fp’:変位の周波数の推定値、 fr:内軸の回転数、 R:範囲、 α:接触角 α0:玉の接触角の設計値