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特許7184164炉底の昇温方法およびそれに用いるバーナーランス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】炉底の昇温方法およびそれに用いるバーナーランス
(51)【国際特許分類】
   C21B 5/00 20060101AFI20221129BHJP
   C21B 7/00 20060101ALI20221129BHJP
   F27B 1/10 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C21B5/00 314
C21B7/00 303
F27B1/10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021509363
(86)(22)【出願日】2020-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2020012587
(87)【国際公開番号】W WO2020196360
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2019059746
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 洋平
(72)【発明者】
【氏名】早坂 祥和
(72)【発明者】
【氏名】菊地 勝紀
(72)【発明者】
【氏名】山口 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】丸山 智史
(72)【発明者】
【氏名】内村 幸司
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-061716(JP,A)
【文献】特開2010-215940(JP,A)
【文献】特開平09-241710(JP,A)
【文献】国際公開第2009/034886(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 5/00-5/06
C21B 7/00-7/24
F27B 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉の炉底の出銑口に設けたバーナーランスにより炉底を昇温するための炉底の昇温方法において、出銑口に、バーナーランスの径よりも大きな孔を炉内まで貫通するように開口する工程と、開口した孔か出てき溶融物を冷却して溶融物を固化する工程と、固化した溶融物に、バーナーランスの径よりも大きな径を有するバーナーランス挿入孔を炉内まで貫通しないように開口する工程と、開口したバーナーランス挿入孔にバーナーランスを設置する工程と、設置したバーナーランスと出銑口の炉外側との間隙部に、耐火物を充填する工程と、バーナーランス先端部の固化した溶融物を高炉内の熱で再び溶融させるかまたは高炉内の熱で軟化した溶融物をバーナーランスを前進させて突き破る工程と、バーナーランスから炉内に加熱用ガスを吹き込んで炉底を昇温する工程と、を含む、炉底の昇温方法。
【請求項2】
高炉の炉底の出銑口に設けたバーナーランスにより炉底を昇温するための炉底の昇温方法において、出銑口に、バーナーランスの径よりも大きな径を有するバーナーランス挿入孔を炉内まで貫通するように開口する工程と、開口したバーナーランス挿入孔にバーナーランスを設置する工程と、設置したバーナーランスと出銑口の炉外側との間隙部に、耐火物を充填する工程と、バーナーランスから炉内に加熱用ガスを吹き込んで炉底を昇温する工程と、を含み、
炉底を昇温させるために用いる前記バーナーランスが、気体が流通する内管と外管とを含む重管構造を有し、該重管構造の内管と外管との端部を覆うキャップであって、キャップが存在する場合は内管から吹き込んだ気体が外部に漏れずに外管から排出されるかまたは外管から吹き込んだ気体が外部に漏れずに内管から排出され、キャップが存在しない場合は内管または外管から吹き込んだ気体が内管または外管の端部からバーナーランスの外部に排出される構造を有するキャップを有しており、
バーナーランスをバーナーランス挿入孔に設置する際、および、設置したバーナーランスと出銑口の炉外側との間隙部に耐火物を充填する際、キャップを存在させた状態で内管または外管から気体を流してバーナーランスを冷却し、
設置したバーナーランスと出銑口の炉外側との間隙部に耐火物を充填させた後に、キャップを除去し、バーナーランスから炉内に加熱用ガスを吹き込んで炉底を昇温する、
炉底の昇温方法。
【請求項3】
請求項1の炉底の昇温方法において、
炉底を昇温させるために用いる前記バーナーランスが、気体が流通する内管と外管とを含む重管構造を有し、該重管構造の内管と外管との端部を覆うキャップであって、キャップが存在する場合は内管から吹き込んだ気体が外部に漏れずに外管から排出されるかまたは外管から吹き込んだ気体が外部に漏れずに内管から排出され、キャップが存在しない場合は内管または外管から吹き込んだ気体が内管または外管の端部からバーナーランスの外部に排出される構造を有するキャップを有しており、
バーナーランスをバーナーランス挿入孔に設置する際、および、設置したバーナーランスと出銑口の炉外側との間隙部に耐火物を充填する際、キャップを存在させた状態で内管または外管から気体を流してバーナーランスを冷却し、
設置したバーナーランスと出銑口の炉外側との間隙部に耐火物を充填させた後に、キャップを除去し、バーナーランスから炉内に加熱用ガスを吹き込んで炉底を昇温する。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の炉底の昇温方法において、前記キャップの除去を、炉内の熱でキャップを溶解させるか、または、内管または外管から酸化性のガスを流して、キャップの酸化による発熱でキャップを溶解させて行う。
【請求項5】
請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の炉底の昇温方法で用いるバーナーランスであって、
気体が流通する内管と外管とを含む重管構造を有し、
内管と外管との端部を覆うキャップであって、キャップが存在する場合は内管から吹き込んだ気体が外部に漏れずに外管から排出されるかまたは外管から吹き込んだ気体が外部に漏れずに内管から排出され、キャップが存在しない場合は内管または外管から吹き込んだ気体がバーナーランスの外部に供給される構造を有するキャップを有しており、
キャップが、キャップを存在させた状態で内管または外管に気体を流してバーナーランスを冷却する機能を有するとともに、キャップを除去した後、バーナーランスから炉内に加熱用ガスを吹き込んで炉底を昇温する機能を有する、バーナーランス。
【請求項6】
請求項5に記載のバーナーランスにおいて、前記キャップは溶接またはネジ固定でバーナーランスの外管に取付けられている。
【請求項7】
請求項5または6に記載のバーナーランスにおいて、前記キャップの除去を、炉内の熱でキャップを溶解させるか、または、内管または外管から酸化性のガスを流して、キャップの酸化による発熱でキャップを溶解させて行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の炉底の内容物を昇温したのち送風を開始するために用いる炉底の昇温方法およびそれに用いるバーナーランスに関する。
【背景技術】
【0002】
高炉は、羽口部から吹き込んだ高温空気及び酸素とコークスおよび微粉炭の反応によって生成した高温還元ガスによって、鉄鉱石の昇温、還元、溶解を行い羽口下部に設置した出銑口から銑鉄とスラグを生産する設備である。高炉の通常操業時においては、炉内の反応熱と羽口からの熱供給がバランスしているため、高炉の安定的な操業が可能である。しかしながら、高炉の操業トラブルや設備トラブル、生産調整に起因して、高炉への送風を止める必要が発生する場合がある。また、高炉の老朽化に伴う補修工事のため、高炉を長時間休風させることが必要となる場合もある。休風中、炉体・炉底からの抜熱、羽口からの空気の吸込み等により、炉内の装入物と溶融物の温度(以下、炉熱とする。)が低下する。
【0003】
炉熱が低下すると、スラグの粘性が増大し、羽口レベル以下に設置された出銑口からの溶銑滓の排出が困難となる。そのような状態で送風すると、羽口前で発生した高温ガスによって生成される溶銑とスラグにより、炉下部の溶銑滓(溶銑または溶融スラグまたはそれらの混合物)の液面レベルが上昇する。羽口上部から供給される溶銑滓により、炉底に滞留していた溶銑滓が昇温され、徐々に適切な炉熱レベルまで回復すれば問題無い。しかしながら、炉熱が回復せず溶銑滓の液面レベルが羽口レベルに到達し、羽口を閉塞してしまうと、炉内への熱供給手段が絶たれ炉冷事故に至り、多大な経済的損失をもたらしてしまう。
【0004】
炉冷事故に至った場合、高炉への熱供給手段である羽口部から送風しても、生成された溶融物で再度羽口部が閉塞されてしまう問題が発生する。炉冷事故からの回復方法として、従来は、以下のような方法をとっていた。すなわち、まず、休風中に出銑口上の1-2本の羽口以外を耐火物等により閉塞させ、出銑口と閉塞していない羽口から酸素を吹き込む。これにより、出銑口と羽口間の半溶融物を出銑口から排出した後、炉内にできた空間にコークスを充填してから送風を開始する。そして、出銑口と羽口の間を流れる高温ガスによる炉底の昇温と、送風に伴って生成する溶銑滓の円滑な排出のサイクルを確立した後、隣接部の羽口を開口し、徐々に開口羽口本数を増やし通常の操業まで回復させる方法をとってきた。しかしながら、この工程は長くて1-2ヵ月を要する。また、酸素の吹込み等は人力で行うため、安全上のリスクも高い作業となっている。
【0005】
休風からの立上げは炉熱が低下しているため、上述した炉冷事故に至るリスクが高い状態である。炉例事故を起こさずに休風などからの立ち上げを行うために、従来は、炉内のコークス比を上げて休風に入り、送風後に直ちに微粉炭を吹き込むことはせず、微粉炭の吹込みが開始できるまでの昇温(熱補償)を行っていた。この方法を用いる場合、溶銑滓の安定的な排出を確認した後、装入コークス比を低減させるため、高炉を休風すると微粉炭に比べ値段の高いコークスの使用比率が上がるため溶銑1t当たりの製造原価が高くなる問題があった。他の方法として、高炉の炉底に設けられた出銑口にバーナーを設置して燃料を燃焼させ、炉底を効率よく昇温し、長時間休風から短時間のうちに立ち上げることができる高炉の送風開始方法と炉底昇温用バーナーが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-30833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1のように出銑口に開口した孔にバーナーを設置する場合、休風入り時にしっかりと溶融物を排出しきれず、炉内溶融物がバーナーを設置するために開口した孔に逆流し、バーナーの設置が出来ない問題が生じていた。また、バーナーを設置できたとしても、吹込みに至る前に溶融物がバーナー内に逆流しバーナーの配管を閉塞し、吹込みが出来ない問題も生じていた。
【0008】
さらに、バーナー先端部の閉塞を危惧し、酸素を吹き込みながらバーナーを出銑口に挿入すると、炉内コークスと反応した燃焼ガスの一部が炉外方向に逆流し、バーナーを損耗するため、長時間の燃焼が出来ない問題も生じていた。
【0009】
本発明の目的は、高炉の休風の立ち上げ時などにおいて出銑口に設けたバーナーや炉底を昇温するための支燃性ガスを吹き込む機能を有するランス(以下、バーナーランスと総称する)で昇温するに際し、バーナーランスの損傷をなくし、早期に炉熱と操業度とを回復できる炉底の昇温方法およびそれに用いるバーナーランスを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従来技術が抱えている前述の課題を解決し、前記の目的を実現するために鋭意研究した結果、発明者らは、以下に述べる新規な炉底の昇温方法を開発するに到った。即ち、本発明の第1の態様は、高炉の炉底の出銑口に設けたバーナーランスにより炉底を昇温するための炉底の昇温方法において、出銑口に、バーナーランスの径よりも大きな径を有するバーナーランス挿入孔を炉内まで貫通するように開口する工程と、開口したバーナーランス挿入孔にバーナーランスを設置する工程と、設置したバーナーランスと出銑口の炉外側との間隙部に、耐火物を充填する工程と、バーナーランスから炉内に加熱用ガスを吹き込んで炉底を昇温する工程と、を含む、炉底の昇温方法である。
【0011】
また、本発明の第2の態様は、高炉の炉底の出銑口に設けたバーナーランスにより炉底を昇温するための炉底の昇温方法において、出銑口に、バーナーランスの径よりも大きな孔を炉内まで貫通するように開口する工程と、開口した孔から出てきた溶融物を固化する工程と、固化した溶融物に、バーナーランスの径よりも大きな径を有するバーナーランス挿入孔を炉内まで貫通しないように開口する工程と、開口したバーナーランス挿入孔にバーナーランスを設置する工程と、設置したバーナーランスと出銑口の炉外側との間隙部に、耐火物を充填する工程と、バーナーランス先端部の固化した溶融物を再び溶融させる工程と、バーナーランスから炉内に加熱用ガスを吹き込んで炉底を昇温する工程と、を含む、炉底の昇温方法である。
【0012】
なお、前記の第1の態様および第2の態様のように構成される本発明に係る炉底の昇温方法の第3の態様においては、
(1)前記炉底の昇温方法において、炉底を昇温させるために用いる前記バーナーランスが、気体が流通する内管と外管とを含む重管構造を有し、該重管構造の内管と外管との端部を覆うキャップであって、キャップが存在する場合は内管から吹き込んだ気体が外部に漏れずに外管から排出されるかまたは外管から吹き込んだ気体が外部に漏れずに内管から排出され、キャップが存在しない場合は内管または外管から吹き込んだ気体が内管または外管の端部からバーナーランスの外部に排出される構造を有するキャップを有しており、バーナーランスをバーナーランス挿入孔に設置する際、および、設置したバーナーランスと出銑口の炉外側との間隙部に耐火物を充填する際、キャップを存在させた状態で内管または外管から気体を流してバーナーランスを冷却し、設置したバーナーランスと出銑口の炉外側との間隙部に耐火物を充填させた後に、キャップを除去し、バーナーランスから炉内に加熱用ガスを吹き込んで炉底を昇温すること、
(2)前記炉底の昇温方法において、前記キャップの除去を、炉内の熱でキャップを溶解させるか、または、内管から外管に酸化性のガスを流して、キャップの酸化による発熱でキャップを溶解させて行うこと、
がより好ましい解決手段となるものと考えられる。また、バーナーランスの冷却時のガスは外管から内管に流通させるようにしてもよい。
【0013】
さらに、本発明は、前記好ましい解決手段において用いられるバーナーランスであって、気体が流通する内管と外管とを含む重管構造を有し、内管と外管との端部を覆うキャップであって、キャップが存在する場合は内管から吹き込んだ気体が外部に漏れずに外管から排出されるかまたは外管から吹き込んだ気体が外部に漏れずに内管から排出され、キャップが存在しない場合は内管または外管から吹き込んだ気体がバーナーランスの外部に供給される構造を有するキャップを有しており、キャップが、キャップを存在させた状態で内管または外管に気体を流してバーナーランスを冷却する機能を有するとともに、キャップを除去した後、バーナーランスから炉内に加熱用ガスを吹き込んで炉底を昇温する機能を有する、バーナーランスである。また、バーナーランスはガスを外管から内管に流通させる構造であってもよい。
【0014】
なお、前記本発明に係るバーナーランスにおいては、
(1)前記キャップは溶接またはネジ固定でバーナーランスの外管に取付けられていること、
(2)前記キャップの除去を、炉内の熱でキャップを溶解させるか、または、内管または外管から酸化性のガスを流して、キャップの酸化による発熱でキャップを溶解させて行うこと、
がより好ましい解決手段となるものと考えられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の炉底の昇温方法によれば、バーナーランスと出銑口の炉外側との間隙部に耐火物を充填することで、高炉の休風の立ち上げ時などにおいて出銑口に設けたバーナーランスで昇温するに際し、バーナーランスを損傷することなく、送風開始直前に多様な状況下でもバーナーランスを設置することができる。そして、支燃性ガスと可燃性ガス若しくは不活性ガスもしくは支燃性ガスをバーナーランスから吹き込むことで、早期の炉熱と操業度の回復を可能とすることができる。また、吹込み時の吹き戻しガスがなくなるため、安全で安心な炉底の昇温が可能である。さらに、バーナーランス運用の確実性が増すことで、炉内に装入するコークス比を下げる運用が可能となり、溶銑原価の低減にも寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の炉底の昇温方法における、バーナーランス外面と出銑口の炉外側内壁との間隙部に形成した耐火物の一例を説明するための模式図である。
図2】(a)~(d)は、それぞれ、本発明の炉底の昇温方法の第1の態様の各工程を説明するための模式図である。
図3】(a)~(e)は、それぞれ、本発明の炉底の昇温方法の第2の態様の各工程を説明するための模式図である。
図4】(a)、(b)は、それぞれ、本発明の炉底の昇温方法を実施するのに用いるバーナーランスの一例の構成を説明するための模式図である。
図5】(a)、(b)は、それぞれ、図4(a)、(b)に示す構成のバーナーランスを使用する本発明の炉底の昇温方法の第3の態様を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の炉底の昇温方法について説明する。
図1は、本発明の炉底の昇温方法における、バーナーランス外面と出銑口の炉外側内壁との間隙部に形成した耐火物の一例を説明するための模式図である。本発明において高炉の炉底とは高炉の羽口高さよりも下の部分を指し、炉底部には溶銑やスラグを排出するための出銑口が設けられている。図1に示す例において、1はバーナーランス、2はバーナーランス1の外面に施工したバーナー耐火物である。また、3は炉壁4の炉底に設けられた出銑口、5はバーナーランス1と出銑口3の内面3aとの間の間隙部に形成した耐火物である。さらに、6は出銑口3を塞ぐ閉塞材、7は閉塞材6より炉内側の溶融物を含む高炉内充填物が存在する領域である。なお、高炉の形状にもよるが、一例として、出銑口3の内面3aとバーナーランス1の外面との隙間に形成した耐火物5の層の厚さは、バーナーランス1の軸方向に50mm以上とすることが好ましい。
【0018】
本発明の炉底の昇温方法では、バーナーランス1と出銑口3の内面3aとの間の間隙部に耐火物5を設けることで、高炉の休風の立ち上げ時などにおいて出銑口3に設けたバーナーランス1で昇温するに際し、バーナーランス1の損傷をなくし、早期に炉熱と操業度とを回復することができる炉底の昇温方法を得ることができる。
【0019】
以下、本発明の炉底の昇温方法の具体的な構成を、本発明の第1の態様、本発明の第2の態様、本発明で用いるバーナーランスの構成およびそれを用いた本発明の第3の態様の順に、説明する。
【0020】
<本発明の炉底の昇温方法の第1の態様>
図2(a)~(d)は、それぞれ、本発明の炉底の昇温方法の第1の態様の各工程を説明するための模式図である。図2(a)~(d)に示す例において、図1に示す符号と同一の符号には同一の符号を付し、その説明を省略する。以下、図2(a)~(d)に従って、本発明の炉底の昇温方法の第1の態様を説明する。
【0021】
まず、図2(a)に示すように、出銑口3が閉塞材6で閉塞されている状態で、図2(b)に示すように、出銑口3に、バーナーランス1の径よりも大きな径を有するバーナーランス挿入孔11を炉内まで貫通するように開口する。この開口には、公知の出銑口開口機を用いることができる。次に、図2(c)に示すように、開口したバーナーランス挿入孔11にバーナーランス1を設置する。この時、バーナーランス1は、その先端に火炎が維持できるようなものであればどんなものでもよい。最後に、図2(d)に示すように、設置したバーナーランス1と出銑口3の炉外側との間隙部に、耐火物5を充填する。
【0022】
充填する耐火物5の例としては、出銑口3の補修に使うようなスタンプ材がよい。充填後に外部から充填した耐火物5をバーナー等で加熱して固める。そして、バーナーランス1から炉内に加熱用ガスを吹き込んで炉底を昇温する。加熱用ガスの吹込み方法としては、バーナーランス1から可燃性ガス+支燃性ガスを吹き込んで燃焼させて炉底を加熱してもよいし、または、バーナーランス1から支燃性ガスや窒素ガス+支燃性ガスを吹込み、炉内のコークスを燃焼させて炉底を加熱してもよい。
【0023】
バーナーランス1の先端は、使用時間が長くなるに従い、少しずつであるが溶損していく。したがって、バーナーランス1の先端位置は、出銑口3の閉塞材6で形成された耐火物5の炉内境界面(以下、開口深度とする。)よりも炉中心に近い位置に設置することが望ましい。開口深度まで開口した際に、溶融物の流出等が確認されず、バーナーランス1の先端位置が開口深度より炉内側に設置できる場合は、耐火物5の施工を実施するだけで長時間の吹込みが可能である。
【0024】
<本発明の炉底の昇温方法の第2の態様>
図3(a)~(e)は、それぞれ、本発明の炉底の昇温方法の第2の態様の各工程を説明するための模式図である。図3(a)~(e)に示す例において、図1に示す符号と同一の符号には同一の符号を付し、その説明を省略する。以下、図3(a)~(e)に従って、本発明の炉底の昇温方法の第2の態様を説明する。
【0025】
まず、図3(a)に示すように、出銑口3が閉塞材6で閉塞されている状態で、図3(b)に示すように、出銑口3に、バーナーランス1の径よりも大きな径を有する孔12を炉内まで貫通するように開口する。孔12の開口は開口機で行うことができる。その際、図3(b)に示すように、孔12が高炉内充填物が存在する領域7まで届くと、溶融物8が孔12を介して炉外に流出することがある。その場合、図3(c)に示すように、開口した孔12から出てきた溶融物8を固化して閉塞材6とする。溶融物8を固化する方法は、水若しくは、空気またはその両方を吹き込むことで、孔の奥を冷却して行うことが好ましい。次に、図3(d)に示すように、固化した溶融物8に、バーナーランス1の径よりも大きな径を有するバーナーランス挿入孔11を炉内まで貫通しないように開口する。この際、水または空気で冷却して溶融物を固化させながら同時に穴明けを行ってもよい。次に、図3(e)に示すように、開口したバーナーランス挿入孔11にバーナーランス1を設置する。最後に、図3(e)に示すように、設置したバーナーランス1と出銑口3の炉外側との間隙部に、耐火物5を充填する。その後、バーナーランス先端部の溶融物8が炉内の熱で溶融してバーナーランス先端が炉内に解放された後、バーナーランスから例えば燃料ガスを吹込んで燃焼させる。
【0026】
上述した第2の態様においては、休風に入る際に十分に溶融物を炉外に排出できなかった場合や、休風中の羽口部等からの空気吸込みにより、休風中に溶融物が生成してしまい炉底の溶融物レベルが上昇している時は、開口時に溶融物が出銑口内に逆流する。このような時には、逆流した溶融物が固化した後に再度開口しても同じように溶融物が出銑口内に逆流するため、バーナーランスの設置が出来ない状態になる。この様な時は、再度開口深度より浅く開口し、水若しくは空気またはその両方を吹き込むことで、一時的に孔の奥を冷却しながら溶融物の逆流を防止し、バーナーランスの設置が可能となる。この状況では、バーナーランスを設置した後、溶融物の冷却を停止または緩和すれば、一旦固化した溶融物は炉内からの伝熱で再び溶融し始める。バーナーランス先端部付近の固化物が溶融したところでバーナーランスから吐出する可燃性ガスに着火し、あるいは支燃性ガスを吐出し、炉内を昇温することができる。あるいは、固化した溶融物が再び溶融する前に軟化した状態で、バーナーランスを前進させることで、バーナーランスによって軟化した溶融物を突き破りバーナーランスの先端を炉内に位置させ、同様に炉内を昇温させることができる。
【0027】
<本発明で用いるバーナーランスの構成およびそれを用いた本発明の第3の態様>
図4(a)、(b)は、それぞれ、本発明の炉底の昇温方法を実施するのに用いるバーナーランスの一例の構成を説明するための模式図である。また、図5(a)、(b)は、それぞれ、図4(a)、(b)に示す構成のバーナーランスを使用する本発明の炉底の昇温方法の第3の態様を説明するための模式図である。図1に示す符号と同一の符号には同一の符号を付し、その説明を省略する。以下、図4(a)、(b)に従って、本発明で用いるバーナーランスの構成を説明し、その後、図5(a)、(b)に従って、本発明の炉底の昇温方法の第3の態様を説明する。
【0028】
図4(a)、(b)に示すバーナーランス1は、気体が流通する内管21と外管22との2重管構造を有するとともに、内管21と外管22との端部を覆うキャップ23を有している。そして、図4(a)に示すようにキャップ23が存在する場合は、内管21の気体導入口24から吹き込んだ気体が外部に漏れずに外管22の気体排出口25から排出される。一方、図4(b)に示すようにキャップ23が存在しない場合は、内管21の気体導入口24から吹き込んだ気体が炉内に供給される。そのため、バーナーランス1は、キャップ23を存在させた状態で内管21から外管22に気体を流してバーナーランス1を冷却する機能を有するとともに、内管21から外管22の気体の流通による冷却を止めるとともにキャップ23を溶解させて除去し、バーナーランス1の内管21から炉内に加熱用ガスを吹き込んで炉底を昇温する機能を有する。
【0029】
本例において、キャップ23は、融点が1100℃~1200℃程度の鋳鉄などの金属から構成することが好ましい。また、キャップ23は溶接またはネジ固定でバーナーランス1の外管に取付けられていることが好ましい。さらに、キャップ23の溶解を、炉内の熱でキャップ23を溶解させるか、または、内管21から外管22に酸化性のガスを流して、キャップを構成する金属の酸化による発熱でキャップを溶解させて行うことが好ましい。キャップを除去する方法としては、溶解させる方法の他にも、例えば、衝撃力により破壊する方法や機械的な機構により除去する方法等も採用することができる。さらにまた、バーナーランス1には温度計26を設け、温度計26の温度を確認しながら、冷却用ガスまたは加熱用ガスの吹込み量を調整する。
【0030】
なお、図4(a)、(b)に示す例では、バーナーランス1を冷却する際、冷却用の気体を内管21から外管22に流通させているが、冷却用の気体を外管22から内管21に流通させてもよいことはいうまでもない。また、炉内に加熱用ガスを吹き込む場合、内管21から吹込んでいるが、外管22から吹込むことができることはいうまでもない。また、内管と外管に相当する流路を備えていれば、3重管以上の多重管を用いることもできる。さらに、加熱用ガスの吹込み方法としては、バーナーランス1から可燃性ガス+支燃性ガスを吹き込んで燃焼させて炉底を加熱してもよいし、または、バーナーランス1から支燃性ガスまたは窒素ガス+支燃性ガスを吹込み、炉内のコークスや炉内に滞留するガスを燃焼させて炉底を加熱してもよい。
【0031】
図5(a)、(b)は、それぞれ、本発明の炉底の昇温方法の第3の態様の各工程を説明するための模式図である。図5(a)、(b)に示す例において、図1に示す符号と同一の符号には同一の符号を付し、その説明を省略する。以下、図5(a)、(b)に従って、本発明の炉底の昇温方法の第3の態様を説明する。
【0032】
本発明の炉底の昇温方法の第3の態様では、上述した第1の態様および第2の態様の各工程を実施する際、上述したバーナーランス1を利用する。すなわち、第1の態様および第2の態様において、バーナーランス1をバーナーランス挿入孔11に設置する際、および、設置したバーナーランス1と出銑口3の炉外側との間隙部に耐火物5を充填する際、キャップ23を存在させた状態で内管21から外管22に気体を流してバーナーランス1を冷却する。図5(a)は、図3の(d)の状態に図4(a)のバーナーランスを設置した状態の模式図である。また、設置したバーナーランス1と出銑口3の炉外側との間隙部に耐火物5を充填させた後に、内管21から外管22の気体の流通による冷却を止めるとともにキャップ23を溶解させ、バーナーランス1の内管21から炉内に加熱用ガスを吹き込んで炉底を昇温する。図5(b)は溶融物8とともにキャップ23が溶解して消失し、加熱用ガスを吹込んでいる状態を示す。この時、溶融物8の溶融とともにバーナーランス1を前進させてもよい。
【0033】
上述した第3の態様に係る炉底の昇温方法において、キャップ23の溶解を、炉内の熱でキャップ23を溶解させるか、または、内管21から外管22に酸化性のガスを流して、キャップ23の酸化による発熱でキャップを溶解させて行うこと、が好ましい。また、本例においても、バーナーランス1を冷却する際、冷却用の気体を内管21から外管22に流通させているが、冷却用の気体を外管22から内管21に流通させてもよいことはいうまでもない。さらに、炉内に加熱用ガスを吹き込む場合、内管21から吹込んでいるが、外管22から吹込むことができることはいうまでもない。さらに、加熱用ガスの吹込み方法としては、バーナーランス1から可燃性ガス+支燃性ガスを吹き込んで燃焼させて炉底を加熱してもよいし、または、バーナーランス1から支燃性ガスまたは窒素ガス+支燃性ガスを吹込み、炉内のコークスや炉内に滞留するガスを燃焼させて炉底を加熱してもよい。
【0034】
バーナーランスを出銑口に設置したのち、吹込みを開始するまで、バーナーランスの先端は1200~1500℃の高温にさらされる。高温にさらされる時間が長くなるとバーナーランスの先端が溶損し、ガスの吹込みが出来なくなる。また、炉内に溶融物が残っていた場合は、設置したバーナーランスの内部に溶融物が逆流し、ガス吹込みが出来なくなる。キャップ23を有しないバーナーランスを用いて溶融物が逆流してくる条件で炉底を加熱しようとする場合に溶融物による閉塞を危惧し、ガスを吹き込みながらバーナーランスの設置を行うと、出銑口から吹き戻すガスの熱でバーナーランスが溶損するため、バーナーランスの寿命を短くする。また、高温物の飛散を伴うため、安全上も好ましくない。以上のような状況のもとで、図4(a)、(b)に示す構造のバーナーランス1を用い、図5(a)、(b)に示すように本発明の炉底の昇温方法の第3の態様を実施することが好ましい。
【0035】
なお、上述したように本発明の炉底の昇温方法を出銑口に設置したバーナーランスにより実行する場合、一例として、出銑口位置の上方の羽口とその左右、合計3か所の羽口を粘土で閉塞させておくことが好ましい。
【実施例
【0036】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成しうる限りにおいて、種々の条件を採用しうるものである。
【0037】
(比較例1)
高炉の休風からの立ち上げの際に、出銑口の開口後、溶融物の流出が確認されなかった状況で、出銑口にバーナーランスを設置し、バーナーランスと出銑口の炉外側との間隙部に耐火物を充填せずに、二重管構造のバーナーランスの内管にO:130NM/hのガスを流すとともに、内管と外管との間隙にLNG:55NM/hのガスを流し、尖端を点火させたままの状態でバーナーランスを挿入したところ、火炎の一部が炉内へ入らず炉外に吹き戻してきた。バーナーランスに設置した温度計のバーナーランス先端2本の熱電対が断線したため、吹込みを中断した。
【0038】
(実施例1)
高炉の休風からの立ち上げの際に、出銑口の開口後、溶融物の流出が確認されなかった状況で、出銑口にバーナーランスを設置し、出銑口内壁とバーナーランス外面との間隙に出銑口補修用の耐火物をスタンプ施工した。15分の乾燥後、O:1100NM/h、LNG:300NM/hの条件で3h燃焼後もバーナーランスに設置した温度計は450℃程度で安定しており、燃焼中のバーナーランスの損耗は確認できなかった。
【0039】
(比較例2)
高炉の休風からの立ち上げの際に、出銑口の開口後、溶融物が出銑口内に逆流してきたため、炉底加熱用のバーナーランスを設置できなかった。出銑口を冷却し、溶融物が出銑口内で固まった状況で、再度開口を行ったが開口後、再び溶融物が逆流してきたため、炉底加熱用のバーナーランスの設置を断念せざるをえなかった。
【0040】
(実施例2)
高炉の休風からの立ち上げの際に、出銑口の開口後、溶融物が出銑口内に逆流してきたため、出銑口を冷却し、溶融物が出銑口内で固まった状況で、再度開口を行った。出銑口が炉内まで貫通しないように出銑口深度-50mmまで開口し、先端にキャップを取り付けていないバーナーランスを設置した。出銑口内壁とバーナーランス外面の間隙を耐火物で施工した後、バーナーランスに窒素を供給したところ、当初は窒素が流れずバーナーの内圧が上昇したが、約3分後に内圧が低下してバーナーランスの先端部の固化物が溶解したことが推定できた。その後、O:1100NM/h、LNG:300NM/hの条件で吹込みを開始し炉底を昇温できた。
【0041】
(実施例3)
しかし、実施例2の方法では、バーナーランス先端部の固化物の溶解までに時間がかかる場合には、バーナーランスが高温にさらされる時間が長くなり、バーナーランス先端が変形してガスの吹込みに支障が発生することがある。また、バーナーランスの変形によりバーナーランスの寿命が短くなり、1回の吹込みしかできない場合があった。そこで、本発明の第3の態様として述べた方法による炉底の昇温を検討した。
【0042】
高炉の休風からの立ち上げの際に、出銑口の開口後、溶融物が出銑口内に逆流してきたため、出銑口を冷却し、溶融物が出銑口内で固まった状況で、再度開口を行った。出銑口深度-50mmまで開口し、先端に鋳鉄製キャップを取り付けた図4(a)に示す構造のバーナーランスを設置した。設置の際には二重構造のバーナーランスの内管から外管を通して圧縮エアを供給してバーナーランスを冷却した。挿入時には、開口機の打撃を弱く使用し、出銑口奥までバーナーランスを押し込んだ。バーナーランスの冷却を継続しながら、間欠的に開口機による弱い打撃を加えたところ、約15分後に出銑口内で固化した溶融物が再溶解し、バーナーランス先端を出銑口深度近傍まで挿入することができた。その位置で、バーナーランスの冷却ガスを停止しバーナーランス内を密閉状態として内管からOで加圧し、バーナーランス内の圧力の観測を行ったところ、約5分後に、内圧が急激に変化して高炉の内圧と等しい値となった。この時点で、バーナーランス先端部のキャップが溶解消失したと判断できた。ただちに外管からのLNG吹込みを開始し、O:1100NM/h、LNG:300NM/hの条件で燃焼を継続できることを確認した。この方法によれば、出銑口の状態によらず安定した燃焼が可能となり、また、バーナーランスの変形もなく、複数回の吹込みを行えるようになった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る炉底の昇温方法およびそれに用いるバーナーランスによれば、高炉の休風の立ち上げ時などにおいて出銑口に設けたバーナーランスで昇温するに際し、バーナーランスの損傷をなくし、早期に炉熱と操業度とを回復することができるため、高炉以外の様々の竪型溶解炉においても炉底の昇温方法を提供できる。
【符号の説明】
【0044】
1 バーナーランス
2 バーナー耐火物
3 出銑口
3a 内面
4 炉壁
5 耐火物
6 閉塞材
7 高炉内充填物が存在する領域
8 溶融物
11 バーナーランス挿入孔
12 孔
21 内管
22 外管
23 キャップ
24 気体導入口
25 気体排出口
26 温度計
図1
図2
図3
図4
図5