(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】製鋼スラグの改質方法およびランス
(51)【国際特許分類】
C04B 5/06 20060101AFI20221129BHJP
C04B 35/66 20060101ALI20221129BHJP
C21C 7/00 20060101ALI20221129BHJP
C21C 5/28 20060101ALI20221129BHJP
C21C 1/02 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C04B5/06
C04B35/66
C21C7/00 J
C21C5/28 C
C21C1/02 L
(21)【出願番号】P 2021519336
(86)(22)【出願日】2020-04-22
(86)【国際出願番号】 JP2020017380
(87)【国際公開番号】W WO2020230561
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2019089603
(32)【優先日】2019-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕介
(72)【発明者】
【氏名】細原 聖司
(72)【発明者】
【氏名】中村 善幸
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 克則
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-141148(JP,A)
【文献】特開2007-254889(JP,A)
【文献】特開2003-183717(JP,A)
【文献】特開2016-033103(JP,A)
【文献】特開2017-020058(JP,A)
【文献】特開2008-266035(JP,A)
【文献】米国特許第3430940(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 5/06
C04B 35/66
C21C 1/02
C21C 5/00 - 5/50
C21C 7/00
C21C 7/072
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融状態の製鋼スラグに酸素含有気体を吹込んで改質する製鋼スラグの改質方法であって、
金属製の管の周囲に厚さ5mm以上の耐火物が施工されたランスを浸漬させて、内部の温度が1450℃以上の改質前の製鋼スラグに酸素濃度が20体積%以上の前記酸素含有気体を、前記ランスの先端部での線速度が30m/sec以上
60m/sec以下となるように吹込む、製鋼スラグの改質方法。
【請求項2】
前記耐火物は、Cを含有せず、Mgを0.5質量%以上17.0質量%以下で含み、且つ、MgOで示される結晶相を含まない、請求項1に記載の製鋼スラグの改質方法。
【請求項3】
前記酸素含有気体を吹込む際に、2重管である前記管において、外周側から吹込む前記酸素含有気体の線速度を内周側から吹込む前記酸素含有気体の線速度よりも速くすると共に、外周側から吹込む前記酸素含有気体の酸素濃度を内周側から吹込む前記酸素含有気体の酸素濃度よりも低くする、請求項1または請求項2に記載の製鋼スラグの改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融状態の製鋼スラグに酸素含有気体を吹込んで製鋼スラグを改質する製鋼スラグの改質方法および溶融状態の製鋼スラグに酸素含有気体を吹込むランスに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼の製造における高炉、予備処理プロセス、転炉、電気炉からスラグが副生される。これらのうち、予備処理プロセス、転炉、電気炉から副生されるスラグを製鋼スラグという。製鋼工程では、溶銑・溶鋼中に含まれる燐や珪素を除去するために副原料として多量の石灰が使用される。このため、製鋼スラグには未溶解の石灰や、冷却時に晶出した石灰が遊離CaO(フリーライムともいう。以下、「f-CaO」と記載する。)として残留している。
【0003】
このf-CaOは、水和反応によってCa(OH)2となり、約2倍程度に堆積膨張する。このため、f-CaOを多量に含むスラグが水に接触すると、f-CaOの水和によってスラグが膨張崩壊する。製鋼スラグの用途の1つに路盤材があるが、f-CaOを多量に含む製鋼スラグを路盤材に用いると、f-CaOの水和膨張により路盤が隆起するという問題が発生する。このため、路盤隆起の原因となる製鋼スラグ中のf-CaOを低減するために下記(1)、(2)の処理が行われている。
【0004】
(1)エージング処理
エージング処理とは、スラグに含まれるf-CaOを水和反応によりCa(OH)2に変化させて安定化する方法である。エージング処理には、スラグをヤードに野積みして行う大気エージング処理と、水蒸気を用いて水和反応を促進させる蒸気エージング処理とがある。
【0005】
(2)改質処理
改質処理とは、特許文献1に記載されているように、溶融状態のスラグに酸素含有気体を吹込むとともに、必要に応じてSiO2やAl2O3を含む改質材を添加することによって、スラグを改質させる処理である。この改質処理により、f-CaOを水和膨張しない安定鉱物相に改質させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記(1)のうち、大気エージング処理では、スラグ中のf-CaOが安定化するまでに数か月といった長い時間が必要になる。蒸気エージング処理では、大気エージングに比べて処理時間を短くできるものの大量の水蒸気を使用するので処理コストが増大する。さらに、これらのエージング処理は、低温で行われるので、完全にf-CaOを無くすことが困難である。上記(2)の改質処理では、スラグ中のf-CaOを低減できるものの、金属製のランスやカロライジング管ランスを1450℃以上の溶融スラグに浸漬させて酸素含有気体を吹込むとランスが燃焼し短時間で焼損してしまう。このランスの焼損により、処理コストが増大する。本発明は、このような従来技術を鑑みてなされた発明であり、その目的は、改質処理により製鋼スラグの膨張安定性を確保しつつ、改質時のランスの損耗を抑制できる製鋼スラグの改質方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決する本発明の特徴は、以下の通りである。
(1)溶融状態の製鋼スラグに酸素含有気体を吹込んで改質する製鋼スラグの改質方法であって、金属製の管の周囲に厚さ5mm以上の耐火物が施工されたランスを浸漬させて、内部の温度が1450℃以上の改質前の製鋼スラグに前記酸素含有気体を吹込む、製鋼スラグの改質方法。
(2)前記酸素含有気体の酸素濃度は20体積%以上であり、前記ランスの先端部での線速度が30m/sec以上となるように前記酸素含有気体を吹込む、(1)に記載の製鋼スラグの改質方法。
(3)前記耐火物は、Cを含有せず、Mgを0.5質量%以上17.0質量%以下で含み、且つ、MgOで示される結晶相を含まない、(1)または(2)に記載の製鋼スラグの改質方法。
(4)溶融状態の製鋼スラグに酸素含有気体を吹込むランスであって、金属製の管と、前記金属製の管の周囲に施工された厚さが5mm以上の耐火物と、を有するランス。
(5)前記耐火物は、Cを含有せず、Mgを0.5質量%以上17.0質量%以下で含み、且つ、MgOで示される結晶相を含まない、(4)に記載のランス。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る製鋼スラグの改質方法を用いることで、ランスの損耗が抑制される。これにより、製鋼スラグの改質処理コストの増大を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る製鋼スラグの改質方法が実施できる製鋼スラグ改質設備10の一例を示す断面模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る製鋼スラグの改質方法が実施できる製鋼スラグ改質設備10の一例を示す断面模式図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る製鋼スラグの改質方法が実施できる別の製鋼スラグ改質設備30の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を本発明の実施形態を通じて説明する。
図1は、本実施形態に係る製鋼スラグの改質方法が実施できる製鋼スラグ改質設備10の一例を示す断面模式図である。製鋼スラグ改質設備10は、スラグ鍋12と、ランス14とを有する。スラグ鍋12は、溶融状態の製鋼スラグ(以後、溶融スラグ18と記載する。)を収容し、製鋼スラグを溶融状態に維持する。溶融スラグ18とは、液相が70%以上である製鋼スラグを意味する。製鋼スラグとは、例えば、脱燐プロセスで副生される脱燐スラグ、脱炭プロセスで副生される脱炭スラグ、予備処理プロセスで副生される予備処理スラグおよび電気炉精錬プロセスで副生される電気炉スラグである。
【0012】
溶融スラグ18の上方から浸漬されたランス14を通じて、所定量の酸素含有気体16が溶融スラグ18に吹込まれる。吹き込まれた酸素含有気体16により、製鋼スラグは膨張安定性を有する製鋼スラグに改質される。本実施形態において、酸素含有気体16とは、酸素濃度が20体積%以上である気体であり、例えば、空気である。
【0013】
酸素含有気体16の酸素濃度は高い方が好ましい。酸素濃度が高い酸素含有気体16を用いることで、製鋼スラグの温度が高く保たれる。酸素濃度が30体積%以上の酸素含有気体16を用いる場合には、酸素含有気体16を供給する配管のパッキンやグリスを酸素仕様とするとともに、ゲージ圧力を1MPa未満とし、消炎素子を備えた逆火防止器具を酸素配管に設置することが好ましい。
【0014】
製鋼スラグの改質は2つの反応によって進行する。1つ目の反応は、吹込まれた酸素含有気体16に含まれる酸素により製鋼スラグに含まれるFe、FeOが酸化されてFe2O3が生成する反応である。2つ目の反応は、製鋼スラグに含まれるf-CaOが1つ目の反応で生成したFe2O3と反応して、安定な化合物である2CaO・Fe2O3が生成する反応である。このように、酸素含有気体16を溶融スラグ18に吹込み、製鋼スラグに含まれるf-CaOを2CaO・Fe2O3にすることで、膨張安定性を有する製鋼スラグに改質できる。このようにして、本実施形態に係る製鋼スラグの改質方法が実施される。
【0015】
製鋼スラグに酸素を吹込むとともに、珪砂や石炭灰などのSiO2源やAl2O3源を添加してもよい。但し、SiO2源やAl2O3源の添加により製鋼スラグの温度が低下するとf-CaOとFe2O3から2CaO・Fe2O3が生成する反応が滞る。このため、SiO2源やAl2O3源を添加する場合には、その添加量は製鋼スラグの質量1トンあたり合計70kg以下であることが好ましく、合計35kg以下であることがより好ましく、添加しないことがさらに好ましい。SiO2源やAl2O3源として金属Siや金属Alを添加してもよい。これにより、製鋼スラグの温度低下が抑制されるが、コストの観点から製鋼スラグの質量1トンあたり合計7kg以下とすることが好ましく、添加しないことがさらに好ましい。
【0016】
所定量の酸素含有気体16が吹込まれた後、溶融スラグ18からランス14が引き抜かれ、スラグ鍋12が傾転され、改質された溶融スラグ18がスラグ鍋12から排出される。排出された溶融スラグ18は、大気中で冷却された後、破砕と篩分けとによってサイズごとに選別されたスラグ粒状材とされ、路盤材の原料として使用される。
【0017】
溶融スラグ18を収容するスラグ鍋12は、直径と深さの比が1:0.25から1:4範囲内であることが好ましい。深さに対する直径の比が上記範囲より大きくても小さくても、比表面積が大きくなり放熱が大きくなるとともにスラグ鍋12を構成する構造材の量が多くなり不経済となるので好ましくない。
【0018】
ランス14は、炭素鋼製の管20と、当該管20の周囲に施工された厚さ5mm以上の耐火物22とを有する。耐火物22は、少なくとも溶融スラグ18に浸漬される管20の周囲に施工されていればよい。このように、金属製の管20の周囲に厚さ5mm以上の耐火物22を設けることで、溶融スラグ18に浸漬させたときの管20の温度が下がり、管20の焼損が抑制される。ランス14は、中心側に炭素鋼製の管20を有する。このように、ランス14が金属製の管20を有することで、耐火物のみからなるランスよりも強度が向上し、ランス14の折損が抑制される。
【0019】
耐火物22の施工厚みは、5mm以上であることが必要である。耐火物には溶損を抑制することを目的として1mm以上の骨材が使用されるが、施工厚みが5mm未満であると骨材が偏在してしまい、局所的に溶損による損耗が激しくなる部分が生じる。厚み5mmの耐火物が施工されたランスを用い、且つ、30m/sec以上の線速度で酸素含有気体16を溶融スラグ18に吹込むことで、酸素含有気体16による冷却と、耐火物22の伝熱抵抗とにより、管20の温度を800℃以下に維持できる。30m/sec以上の線速度で酸素含有気体16を溶融スラグ18に吹込むことで、ランス先端から離れた位置でも製鋼スラグに含まれるFe、FeOが酸化されてFe2O3が生成する反応(この反応は発熱反応である)が起きるので、ランス先端近傍での当該反応の比率が下がり、ランス先端の温度を下げることができる。耐火物22の施工厚みは100mm以下であってもよい。
【0020】
管20は、炭素鋼製である例を示したが、これに限らない。炭素鋼製の管20に代えて、ステンレス系耐熱鋼やNi基耐熱合金の管を用いてもよい。これにより、改質する溶融スラグ18の量が多く、酸素含有気体16の吹込み時間が長くなる場合や、溶融スラグ18の温度が1600℃を超える場合であっても曲損することがない。
【0021】
図1に示した例では、管20が1重管である例を示したが、管20は2重管であってもよい。管20を2重管とし、外周側の酸素含有気体16の線速度を内周側の酸素含有気体16の線速度よりも速くすることで、溶融スラグ18に吹込まれた後の気体の線速度の上昇を抑制でき、溶融スラグの飛散を起こすことなく管20の温度を下げることができる。さらに、2重管の外周側から吹込む酸素含有気体の酸素濃度を、内管側から吹込む酸素含有気体の酸素濃度よりも低くして、酸化による損耗を抑制させてもよい。
【0022】
管20の周囲に施工する耐火物22は、Cを含まない耐火物を用いることが好ましい。耐火物がCを含むと、Cの酸化により耐火物22の耐用性が低下するので好ましくない。さらに、MgOで示される結晶相を含まない、すなわち、スピネル化したMgOを含み、スピネル化していないMgOを含まない耐火物を用いることが好ましい。スピネル化していないMgOは水和反応により膨張するので、配合したMgOが耐火物から欠損して溶融スラグ18に混入すると、当該MgOが製鋼スラグの水和膨張を助長するので好ましくない。一方、スピネル化したMgOは水和膨張しないだけでなく、融点が高く耐火性に優れるので、スピネル化したMgOは、耐火物22にMgの換算値で0.5質量%以上含まれていることが好ましい。
【0023】
ここで、スピネルの理論組成におけるMgの換算値が17.0質量%であるので、スピネル化したMgOを含むことを前提にすると、耐火物22に含まれるMgの含有量は17.0質量以下となる。したがって、耐火物22は、Mgを0.5質量%以上17.0質量%以下で含むことが好ましい。
【0024】
酸素含有気体16のランス14の先端部での線速度は30m/sec以上120m/sec以下であることが好ましい。酸素含有気体16のランス14の先端部での線速度を30m/sec以上120m/sec以下にすることで、溶融スラグ18の量が多く、酸素含有気体16の吹込み時間が15分以上となる場合、および、溶融スラグ18の温度が1600℃を超える場合であっても、安価な炭素鋼製の管20を曲損することなく用いることができる。酸素含有気体16の線速度は、ランス14の内径および本数を変えることで調整してよい。
【0025】
一方、ランス14の先端部における酸素含有気体16の線速度が30m/sec未満であると、溶融スラグ18と酸素との反応位置がランス14の近傍に偏り、製鋼スラグの改質効率が低下する。さらに、酸素含有気体16の線速度が30m/sec未満であると、ランス14の近傍の温度が酸化反応により上昇し、ランス14の損耗が激しくなるおそれが生じるので好ましくない。
【0026】
ランス14の先端部における酸素含有気体16の線速度が120m/secより速いと、酸素含有気体16が未反応のまま溶融スラグ18内を進む距離が長くなり、製鋼スラグの改質効率が低下するので好ましくない。さらに、酸素含有気体16の線速度を120m/secより速くすると、酸素含有気体16がスラグ鍋12に直撃して損傷させないように、スラグ鍋12を大きくする必要が生じるので好ましくない。さらに、酸素含有気体16の線速度を120m/secより速くすると、溶融スラグ18の飛散量も多くなるので好ましくない。
【0027】
酸素含有気体16を吹込む改質前の溶融スラグ18の内部の温度は1450℃以上であることが必要である。溶融スラグ18の内部の温度を1450℃以上にすることで溶融スラグ18が流動し、酸素含有気体16の吹込みにより溶融スラグ18が撹拌されるので、溶融スラグ18の改質反応を効果的に進めることができる。一方、改質前の溶融スラグ18の内部の温度を1450℃未満にすると、溶融スラグ18の流動性が低下し、製鋼スラグの改質反応を効果的に進めることができない。溶融スラグ18の内部の温度は1650℃以下であることが好ましい。一方、溶融スラグ18の内部の温度が1650℃より高くなるとランス14の損耗が激しくなるので好ましくない。溶融スラグ18の内部の温度は、吹込む酸素含有気体16の量で調整できる。溶融スラグ18の内部の温度は、熱電対などの温度計を溶融スラグ18の表面から内部側に100mm以上浸漬させて測定する。溶融スラグ18が流動し、表面が更新されている場合には表面温度と内部の温度との差が少ないので、溶融スラグ18の表面温度を赤外線温度計などの非接触式の温度計で測定し、当該温度を内部の温度としてもよい。赤外線温度計を用いるにあたっては、溶融スラグ18の放射率によって表示される温度が変化するので、予め熱電対などの温度計と赤外線温度計とを同時に用いて温度を測定し、表示される値が一致するように放射率を設定してもよい。
【0028】
図2は、本実施形態に係る製鋼スラグの改質方法が実施できる製鋼スラグ改質設備10の一例を示す断面模式図である。
図2に示すように、溶融スラグ18の撹拌効率や、ランス14の耐用性を向上させるために、ランス14を鉛直方向から傾けた状態で、酸素含有気体16を吹込んでもよい。
【0029】
図3は、本実施形態に係る製鋼スラグの改質方法が実施できる別の製鋼スラグ改質設備30の断面模式図である。
図3に示した例において、
図1と共通する要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省略する。
図3に示すように、スラグ鍋12の上方に蓋状の防熱・防飛散板40を設けてもよい。これにより、スラグ鍋12の周囲に飛散するスラグ量が少なくなる。防熱・防飛散板40を設けることで、溶融スラグ18の上面からの熱放射を低減して溶融スラグの温度低下を抑止する効果も得られる。
【実施例】
【0030】
以下の手順にて酸素含有気体の吹込みを行い、製鋼スラグの改質を行った実施例を説明する。転炉から約10tの溶融スラグをスラグ鍋に排出し、当該スラグ鍋をランス位置まで搬送した。内径21.6~67.9mmのランス3~5本を溶融スラグに浸漬させ、所定流量の約30体積%の酸素含有気体を流して製鋼スラグの改質を行った。使用したランスは、炭素鋼製の管の周囲に所定の厚みで耐火物を施工したランスである。施工した耐火物の組成は、Al2O3:95.3質量%、MgO:0.5質量%、CaO:0.3質量%、SiO2:3.4質量%、他は不可避的不純物である。
【0031】
酸素含有気体の酸素濃度、流量、吹込み時間、線速度、耐火物厚みを変えて、製鋼スラグの改質を行った。酸素含有気体の吹込みが終了した後、ランスを上昇させ、気体流量を0にした。スラグ鍋を傾転位置まで搬送し、スラグ鍋を傾転させて溶融スラグを排滓して大気中で冷却した。
【0032】
改質後のランス長さを測定し、改質前のランス長さから損耗量を算出し、当該損耗量と、吹込み時間とからランス損耗速度を算出した。ランスの一部が焼損または溶損した場合には、最も損耗している部分、すなわち、溶融スラグ中にランスを浸漬させた場合、気体が吐出する部分をランス先端として改質後のランス長さを評価した。発明例および比較例の改質条件および結果を下記表1に示す。
【0033】
【表1】
表1に示すように、発明例1~5および比較例1の全てにおいて、製鋼スラグを膨張安定性に優れる製鋼スラグに改質できた。一方、耐火物の施工厚みを5mm以上とした発明例1~5のランス損耗速度は、耐火物の施工厚みを0mmの比較例1のランス損耗速度より遅くなった。この結果から、耐火物の施工厚みを5mm以上にすることで、ランスの損耗を抑制できることが確認された。このように、ランスの損耗を抑制できれば、ランスの耐用性が向上してランスの交換頻度が低くなるので、製鋼スラグの改質処理コストの増大を抑制できる。
【0034】
さらに、酸素含有気体のランス先端の線速度を30m/sec以上にした発明例1~4のランス損耗速度は、酸素含有気体のランス先端の線速度が25m/secとした発明例5のランス損耗速度より遅くなった。この結果から、酸素含有気体のランス先端の線速度を30m/sec以上にすることで、ランスの損耗をさらに抑制できることが確認された。このように、ランスの損耗をさらに抑制できれば、さらにランスの交換頻度が低くなるので、製鋼スラグの改質処理コストの増大をさらに抑制できる。
【符号の説明】
【0035】
10 製鋼スラグ改質設備
12 スラグ鍋
14 ランス
16 酸素含有気体
18 溶融スラグ
20 管
22 耐火物
30 製鋼スラグ改質設備
40 防熱・防飛散板