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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】推定装置、推定方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/08 20060101AFI20221129BHJP
   B61F 5/02 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
G01M17/08
B61F5/02 Z
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021527620
(86)(22)【出願日】2020-06-08
(86)【国際出願番号】 JP2020022514
(87)【国際公開番号】W WO2020261959
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2019121751
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】中川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】南 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】品川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】下川 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】近藤 修
(72)【発明者】
【氏名】亀甲 智
(72)【発明者】
【氏名】藤本 隆裕
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/043859(WO,A1)
【文献】特開2012-107987(JP,A)
【文献】特開2019-028007(JP,A)
【文献】特開2004-203171(JP,A)
【文献】特開2018-155517(JP,A)
【文献】国際公開第2017/164133(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/176072(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/08
B61F 5/02
B61F 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車枠と、前記台車枠に直接または他の部品を介して接続された接続部品と、を有する鉄道車両の状態を推定する推定装置であって、
前記接続部品に取り付けられた第1のセンサで、前記鉄道車両の走行中に測定された第1の測定データを取得するデータ取得手段と、
前記第1の測定データに基づいて、前記台車枠の着力箇所に作用する外力を導出し、前記台車枠の着力箇所に作用する外力に基づいて、前記台車枠に作用する外力の分布を導出する外力導出手段と、
前記台車枠に作用する外力の分布に基づいて、前記台車枠の状態を表す情報を導出する状態導出手段と、を有し、
前記第1のセンサは、前記台車枠の着力箇所に作用する外力を導出することが可能な物理量を測定するためのセンサであり、
前記台車枠の着力箇所は、前記台車枠において、前記接続部品により発生する外力が作用する箇所であり、
前記状態導出手段は、前記台車枠の振動を表す運動方程式を解くことにより、前記台車枠の変位の分布を前記台車枠の状態を表す情報として導出する変位分布導出手段を少なくとも有し、
前記台車枠の振動を表す運動方程式における外力の分布には、前記外力導出手段により導出された前記台車枠に作用する外力の分布が与えられることを特徴とする推定装置。
【請求項2】
前記データ取得手段は、前記台車枠に取り付けられた第2のセンサで測定された第2の測定データを更に取得し、
前記変位分布導出手段は、前記台車枠の振動を表す運動方程式を解くことにより導出した変位の分布を補正するための補正パラメータを導出し、前記台車枠の振動を表す運動方程式を解くことにより導出した前記台車枠の変位の分布と、前記補正パラメータとを用いて、前記台車枠の変位の分布を導出し、
前記第2のセンサは、前記台車枠の所定の位置の変位を導出することが可能な物理量を測定するためのセンサであり、
前記変位分布導出手段は、前記第2の測定データに基づいて導出された前記台車枠の所定の位置の変位と、前記台車枠の振動を表す運動方程式を解くことにより導出した前記台車枠の変位の分布のうち前記所定の位置の変位と、を用いて、前記補正パラメータを導出することを特徴とする請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記外力導出手段は、前記第1の測定データに基づいて、物理座標系において前記台車枠に作用する外力の分布を導出し、当該台車枠に作用する外力の分布を、モード行列を用いて、モード座標系における前記台車枠に作用する外力の分布に変換し、
前記モード行列は、物理座標系の前記台車枠の振動を表す運動方程式に対する固有値解析の結果に基づいて導出され、
前記変位分布導出手段は、モード座標系における前記台車枠の振動を表す運動方程式を解くことにより、モード座標系における前記台車枠の変位の分布を導出し、当該モード座標系における前記台車枠の変位の分布を、前記モード行列を用いて、物理座標系における前記台車枠の変位の分布に変換し、
モード座標系における前記台車枠の振動を表す運動方程式における外力の分布には、前記外力導出手段により導出されたモード座標系における前記台車枠に作用する外力の分布が与えられることを特徴とする請求項1または2に記載の推定装置。
【請求項4】
前記データ取得手段は、前記台車枠に取り付けられた第2のセンサで測定された第2の測定データを更に取得し、
前記変位分布導出手段は、モード座標系における前記台車枠の振動を表す運動方程式を解くことにより導出した変位の分布を補正するための補正パラメータを導出し、モード座標系における前記台車枠の振動を表す運動方程式を解くことにより導出した前記台車枠の変位の分布を、前記補正パラメータと、前記モード行列とを用いて、物理座標系における前記台車枠の変位の分布に変換し、
前記第2のセンサは、前記台車枠の所定の位置の変位を導出することが可能な物理量を測定するためのセンサであり、
前記変位分布導出手段は、前記第2の測定データに基づいて導出された前記台車枠の所定の位置の変位と、モード座標系における前記台車枠の振動を表す運動方程式を解くことにより導出したモード座標系における前記台車枠の変位の分布のうち前記所定の位置の変位と、前記モード行列と、を用いて、前記補正パラメータを導出することを特徴とする請求項3に記載の推定装置。
【請求項5】
物理座標系の前記台車枠の振動を表す運動方程式に対する固有値解析を行うことにより前記モード行列を導出する固有値解析手段を更に有することを特徴とする請求項3または4に記載の推定装置。
【請求項6】
前記モード行列の成分の近似式を用いて、前記モード行列の成分の近似値を導出する近似値導出手段を更に有し、
前記モード行列の成分の近似式は、前記固有値解析により導出された固有ベクトルに基づいて導出される式であり、
前記モード行列の成分の近似式は、前記モード行列の成分の近似値として、固有振動モードの次数、位置、および位置を定める座標系の自由度に応じた近似値を計算する式であり、
前記モード行列の成分には、前記近似値導出手段により導出された前記モード行列の成分の近似値が含まれることを特徴とする請求項3~5の何れか1項に記載の推定装置。
【請求項7】
前記モード行列の成分の近似式は、前記固有値解析により導出された固有ベクトルに基づいて、カーネルリッジ回帰分析を行うことにより導出される式であることを特徴とする請求項6に記載の推定装置。
【請求項8】
前記状態導出手段は、前記変位分布導出手段により導出された前記台車枠の変位の分布に基づいて、前記台車枠の応力の分布を前記台車枠の状態を表す情報として導出する応力分布導出手段を更に有することを特徴とする請求項1~7の何れか1項に記載の推定装置。
【請求項9】
前記状態導出手段は、前記台車枠の少なくとも3箇所の点における変位前の位置座標と、前記変位分布導出手段により導出された前記台車枠の変位のうち、前記台車枠の少なくとも3箇所の点における変位とに基づいて、前記台車枠の少なくとも3箇所の点における変位後の位置座標を導出する位置座標導出手段と、
前記台車枠の少なくとも3箇所の点における変位前の位置座標と、前記位置座標導出手段により導出された前記台車枠の少なくとも3箇所の点における変位後の位置座標とに基づいて、変換行列の成分を導出する行列導出手段と、
前記行列導出手段により導出された前記成分を有する前記変換行列を特異値分解する特異値分解手段と、
前記特異値分解手段により特異値分解を実行することにより導出された対角行列の成分である特異値を、前記台車枠の主歪みとして導出する歪み導出手段と、を更に有し、
前記変換行列は、前記台車枠の少なくとも3箇所の点における変位前の位置座標をアフィン変換して前記台車枠の少なくとも3箇所の点における変位後の位置座標を導出する際に前記台車枠の少なくとも3箇所の点における変位前の位置座標に乗算される行列であることを特徴とす請求項1~7の何れか1項に記載の推定装置。
【請求項10】
前記歪み導出手段は、前記対角行列に基づいて、前記台車枠の最大主歪みを更に導出することを特徴とする請求項9に記載の推定装置。
【請求項11】
前記状態導出手段は、前記歪み導出手段により導出された前記台車枠の主歪みに基づいて、前記台車枠の主応力を導出する応力導出手段を更に有することを特徴とする請求項9または10に記載の推定装置。
【請求項12】
前記応力導出手段は、前記台車枠の主応力に基づいて、前記台車枠の最大主応力を更に導出することを特徴とする請求項11に記載の推定装置。
【請求項13】
前記少なくとも3箇所の点は、少なくとも4箇所の点であり、
前記位置座標は、3軸の座標系における位置座標であることを特徴とする請求項9~12の何れか1項に記載の推定装置。
【請求項14】
前記台車枠および軌道の少なくとも一方の点検箇所を特定するための情報である点検箇所特定情報を導出する点検箇所特定情報導出手段を更に有し、
前記データ取得手段は、前記鉄道車両の走行位置を示す走行位置データを更に取得し、
前記点検箇所特定情報導出手段は、前記状態導出手段により導出された前記台車枠の状態を表す情報に基づく所定の指標値と、前記走行位置データと、に基づいて、前記点検箇所特定情報を導出することを特徴とする請求項1~13の何れか1項に記載の推定装置。
【請求項15】
前記鉄道車両は、軸箱を更に有し、
前記接続部品は、前記軸箱であることを特徴とする請求項1~14の何れか1項に記載の推定装置。
【請求項16】
前記第1のセンサは、加速度センサであることを特徴とする請求項1~15の何れか1項に記載の推定装置。
【請求項17】
前記外力導出手段は、前記第1のセンサが取り付けられた前記鉄道車両と同一の前記鉄道車両の前記台車枠の着力箇所に作用する外力を、当該第1のセンサで前記鉄道車両の走行中に測定された第1の測定データに基づいて導出することを特徴とする請求項1~16の何れか1項に記載の推定装置。
【請求項18】
前記外力導出手段は、前記第1のセンサが取り付けられた前記鉄道車両と異なる前記鉄道車両の前記台車枠の着力箇所に作用する外力を、当該第1のセンサで前記鉄道車両の走行中に測定された第1の測定データに基づいて導出し、
前記第1のセンサが取り付けられた前記鉄道車両と異なる前記鉄道車両は、前記第1のセンサが取り付けられた前記鉄道車両と同一の編成の鉄道車両であることを特徴とする請求項1~17の何れか1項に記載の推定装置。
【請求項19】
台車枠と、前記台車枠に直接または他の部品を介して接続された接続部品と、を有する鉄道車両の状態を推定する推定方法であって、
前記接続部品に取り付けられた第1のセンサで前記鉄道車両の走行中に測定された第1の測定データを取得するデータ取得工程と、
前記第1の測定データに基づいて、前記台車枠の着力箇所に作用する外力を導出し、前記台車枠の着力箇所に作用する外力に基づいて、前記台車枠に作用する外力の分布を導出する外力導出工程と、
前記台車枠に作用する外力の分布に基づいて、前記台車枠の状態を表す情報を導出する状態導出工程と、を有し、
前記第1のセンサは、前記台車枠の着力箇所に作用する外力を導出することが可能な物理量を測定するためのセンサであり、
前記台車枠の着力箇所は、前記台車枠において、前記接続部品により発生する外力が作用する箇所であり、
前記状態導出工程は、前記台車枠の振動を表す運動方程式を解くことにより、前記台車枠の変位の分布を前記台車枠の状態を表す情報として導出する変位分布導出工程を少なくとも有し、
前記台車枠の振動を表す運動方程式における外力の分布には、前記外力導出工程により導出された前記台車枠に作用する外力の分布が与えられることを特徴とする推定方法。
【請求項20】
台車枠と、前記台車枠に直接または他の部品を介して接続された接続部品と、を有する鉄道車両の状態を推定するための処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記接続部品に取り付けられた第1のセンサで前記鉄道車両の走行中に測定された第1の測定データを取得するデータ取得工程と、
前記第1の測定データに基づいて、前記台車枠の着力箇所に作用する外力を導出し、前記台車枠の着力箇所に作用する外力に基づいて、前記台車枠に作用する外力の分布を導出する外力導出工程と、
前記台車枠に作用する外力の分布に基づいて、前記台車枠の状態を表す情報を導出する状態導出工程と、をコンピュータに実行させ、
前記第1のセンサは、前記台車枠の着力箇所に作用する外力を導出することが可能な物理量を測定するためのセンサであり、
前記台車枠の着力箇所は、前記台車枠において、前記接続部品により発生する外力が作用する箇所であり、
前記状態導出工程は、前記台車枠の振動を表す運動方程式を解くことにより、前記台車枠の変位の分布を前記台車枠の状態を表す情報として導出する変位分布導出工程を少なくとも有し、
前記台車枠の振動を表す運動方程式における外力の分布には、前記外力導出工程により導出された前記台車枠に作用する外力の分布が与えられることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定装置、推定方法、およびプログラムに関し、特に、鉄道車両の状態を推定するために用いて好適なものである。本願は、2019年6月28日に日本に出願された特願2019-121751号に基づき優先権を主張し、特願2019-121751号の内容を全てここに援用する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の台車枠に亀裂が発生する等、台車枠の状態が異常になると、鉄道車両の走行に支障をきたす虞がある。そこで、台車枠の状態を推定する技術が求められる。この種の技術として特許文献1に記載の技術がある。
特許文献1では、台車の負荷箇所に荷重が与えられた際の車体の加速度検出箇所における単位荷重当たりの加速度の周波数特性(周波数第一特性)と、前記負荷箇所に荷重が与えられた際の台車の検査箇所における単位荷重当たりの応力の周波数特性(周波数第二特性)と、を記憶する。そして、鉄道車両の走行中に前記加速度検出箇所において検出した加速度の周波数特性(周波数第三特性)と、前記周波数第一特性と、に基づいて、走行中に台車に与えられた荷重を算出する。このようにして算出した走行中に台車に与えられた荷重と、前記周波数第二特性と、に基づいて、前記台車の検査箇所における車両の走行中の応力を算出する。そして、時間経過に応じた前記車両の走行中の応力の解析結果に基づいて、前記検査箇所の監視を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-155517号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】鷲津久一郎 他4名 編、「有限要素法ハンドブック II 応用編」、初版、1983年1月25日、株式会社培風館、p.65-67
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、台車の検査箇所は、疲労の発生によって損傷し易い箇所として予め決められている。従って、予め決められた箇所における応力しか導出することができない。また、特許文献1に記載の技術では、台車の検査箇所における応力を、歪みゲージ等を用いて測定する必要がある。このため、台車の検査箇所を増やすことは容易ではない。従って、特許文献1に記載の技術では、鉄道車両が走行しているときの台車枠の状態を正確に推定することが容易ではない。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、鉄道車両が走行しているときの台車枠の状態を正確に推定することができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の推定装置は、台車枠と、前記台車枠に直接または他の部品を介して接続された接続部品と、を有する鉄道車両の状態を推定する推定装置であって、前記接続部品に取り付けられた第1のセンサで、前記鉄道車両の走行中に測定された第1の測定データを取得するデータ取得手段と、前記第1の測定データに基づいて、前記台車枠の着力箇所に作用する外力を導出し、前記台車枠の着力箇所に作用する外力に基づいて、前記台車枠に作用する外力の分布を導出する外力導出手段と、前記台車枠に作用する外力の分布に基づいて、前記台車枠の状態を表す情報を導出する状態導出手段と、を有し、前記第1のセンサは、前記台車枠の着力箇所に作用する外力を導出することが可能な物理量を測定するためのセンサであり、前記台車枠の着力箇所は、前記台車枠において、前記接続部品により発生する外力が作用する箇所であり、前記状態導出手段は、前記台車枠の振動を表す運動方程式を解くことにより、前記台車枠の変位の分布を前記台車枠の状態を表す情報として導出する変位分布導出手段を少なくとも有し、前記台車枠の振動を表す運動方程式における外力の分布には、前記外力導出手段により導出された前記台車枠に作用する外力の分布が与えられることを特徴とする。
【0008】
本発明の推定方法は、台車枠と、前記台車枠に直接または他の部品を介して接続された接続部品と、を有する鉄道車両の状態を推定する推定方法であって、前記接続部品に取り付けられた第1のセンサで前記鉄道車両の走行中に測定された第1の測定データを取得するデータ取得工程と、前記第1の測定データに基づいて、前記台車枠の着力箇所に作用する外力を導出し、前記台車枠の着力箇所に作用する外力に基づいて、前記台車枠に作用する外力の分布を導出する外力導出工程と、前記台車枠に作用する外力の分布に基づいて、前記台車枠の状態を表す情報を導出する状態導出工程と、を有し、前記第1のセンサは、前記台車枠の着力箇所に作用する外力を導出することが可能な物理量を測定するためのセンサであり、前記台車枠の着力箇所は、前記台車枠において、前記接続部品により発生する外力が作用する箇所であり、前記状態導出工程は、前記台車枠の振動を表す運動方程式を解くことにより、前記台車枠の変位の分布を前記台車枠の状態を表す情報として導出する変位分布導出工程を少なくとも有し、前記台車枠の振動を表す運動方程式における外力の分布には、前記外力導出工程により導出された前記台車枠に作用する外力の分布が与えられることを特徴とする。
【0009】
本発明のプログラムは、台車枠と、前記台車枠に直接または他の部品を介して接続された接続部品と、を有する鉄道車両の状態を推定するための処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記接続部品に取り付けられた第1のセンサで前記鉄道車両の走行中に測定された第1の測定データを取得するデータ取得工程と、前記第1の測定データに基づいて、前記台車枠の着力箇所に作用する外力を導出し、前記台車枠の着力箇所に作用する外力に基づいて、前記台車枠に作用する外力の分布を導出する外力導出工程と、前記台車枠に作用する外力の分布に基づいて、前記台車枠の状態を表す情報を導出する状態導出工程と、をコンピュータに実行させ、前記第1のセンサは、前記台車枠の着力箇所に作用する外力を導出することが可能な物理量を測定するためのセンサであり、前記台車枠の着力箇所は、前記台車枠において、前記接続部品により発生する外力が作用する箇所であり、前記状態導出工程は、前記台車枠の振動を表す運動方程式を解くことにより、前記台車枠の変位の分布を前記台車枠の状態を表す情報として導出する変位分布導出工程を少なくとも有し、前記台車枠の振動を表す運動方程式における外力の分布には、前記外力導出工程により導出された前記台車枠に作用する外力の分布が与えられることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、鉄道車両の概略の一例を示す図である。
図2図2は、台車枠およびその周辺の部品の構成の第1の例を示す図である。
図3A図3Aは、結合要素の第1の例をモデル化して示す図である。
図3B図3Bは、結合要素の第2の例をモデル化して示す図である。
図4図4は、推定装置の機能的な構成の第1の例を示す図である。
図5図5は、応力限界図の一例を概念的に示す図である。
図6図6は、推定方法の第1の例を説明するフローチャートである。
図7図7は、台車枠およびその周辺の部品の構成の第2の例を示す図である。
図8図8は、推定装置の機能的な構成の第2の例を示す図である。
図9図9は、推定装置の機能的な構成の第3の例を示す図である。
図10図10は、推定方法の第2の例を説明するフローチャートである。
図11図11は、推定装置のハードウェアの構成の一例を示す図である。
図12図12は、台車枠の空気バネ座における変位と時間との関係の一例を示す図である。
図13A図13Aは、比較的大きな応力が発生した台車枠の或る位置における変位と時間との関係の第1の例を示す図である。
図13B図13Bは、比較的大きな応力が発生した台車枠の或る位置における変位と時間との関係の第2の例を示す図である。
図14図14は、モード行列の成分とモード行列の成分の近似値との関係の一例を示す図である。
図15図15は、推定対象領域における最大主歪みと時間との関係の一例を示す図である。
図16図16は、推定対象領域における最大主応力と時間との関係の一例を示す図である。
図17図17は、推定対象領域における最大主応力の推定値および測定値の関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態を説明する。
<鉄道車両の概略構成>
まず、本実施形態で例示する鉄道車両について説明する。図1は、鉄道車両の概略の一例を示す図である。図2は、台車枠およびその周辺の部品の構成の一例を示す図である。尚、図1図2において、鉄道車両は、x軸の正の方向に進むものとする(x軸は、鉄道車両の走行方向に沿う軸である)。また、x軸は、軌道20(地面)に対し垂直方向(鉄道車両の高さ方向)であるものとする。x軸は、鉄道車両の走行方向に対して垂直な水平方向(鉄道車両の走行方向と高さ方向との双方に垂直な方向)であるものとする。また、鉄道車両は、営業車両であるものとする。尚、各図において、○の中に●が付されているものは、紙面の奥側から手前側に向かう方向を示す。
【0012】
図1図2に示すように本実施形態では、鉄道車両は、車体11と、台車12a、12bと、輪軸13a~13dと、を有する。このように本実施形態では、1つの車体11に、2つの台車12a、12bと、4組の輪軸13a~13dと、が備わる鉄道車両を例に挙げて説明する。輪軸13a~13dは、車軸15a~15dと、その両端に設けられた車輪14a~14dと、を有する。本実施形態では、台車12a、12bが、ボルスタレス台車である場合を例に挙げて説明する。
【0013】
図1では、表記の都合上、輪軸13a~13dの一方の車輪14a~14dのみを示す。輪軸13a~13dの他方にも車輪が配置されている(図1に示す例では、車輪は合計8個ある)。
図2において、輪軸13a、13bのx軸に沿う方向の両側には、軸箱17a、17bが配置される。軸箱17a、17bは、モノリンク18a、18bを介して台車枠16と接続されている。また、軸箱17a、17bは、軸バネ19a、19bを介して台車枠16と接続されている。尚、鉄道車両は、図1図2に示す構成要素以外の構成要素を有する。表記および説明の都合上、図1図2では、当該構成要素の図示を省略する。例えば、図2において、鉄道車両が軸ダンパを有するものである場合、軸箱17a、17bは、軸ダンパを介して台車枠16と接続されている場合もある。
【0014】
図2において、1つの台車12aに、1つの台車枠16が配置される。軸箱17a、17b、モノリンク18a、18b、および軸バネ19a、19bは、1つの車輪に対して1つずつ配置される。前述したように1つの台車12aには、4つの車輪が配置される。従って、1つの台車12aには、軸箱、モノリンク、および軸バネが、それぞれ4つずつ配置される。ここで、台車枠16と一体になっているものも台車枠16に含まれるものとする。例えば、台車枠16の本体に溶接されている排障器も、台車枠16に含まれるものとする。尚、台車枠16と、台車枠16と一体となっているもととの境界は定まらない。また、台車枠16と一体になっているものは、台車枠16と同じ運動を行う。
【0015】
図2では、台車12aにおける台車枠16、軸箱17a、17b、モノリンク18a、18b、および軸バネ19a、19bのみを示す。台車12bにおける台車枠、軸箱、モノリンク、および軸バネも図2に示すものと同じもので実現される。尚、鉄道車両自体は公知の技術で実現できるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
以下の説明では、台車枠16と、軸箱17a、17bとを連結する部品を、必要に応じて結合要素と総称する。
【0016】
結合要素は、台車枠16と軸箱17a、17bとに接続される。従って、軸箱17a、17bの振動と、結合要素の振動とは連動する。これらの振動が結合要素を介して台車枠16に伝搬する。台車枠16に作用する外力は、結合要素の振動における粘性減衰力と剛性力との和で表される。粘性減衰力は、粘性減衰係数と速度との積で表される。剛性力は、剛性と変位との積で表される。以上のことから、本発明者らは、接続部品で測定される加速度(加速度から導出される速度および変位)に基づいて、台車枠16に作用する外力を導出することにより、台車枠16に作用する外力を正確に導出することができることを見出した。ここで、接続部品は、台車枠16と一体となっていない部品であって、台車枠16に直接または他の部品を介して接続される部品である。
【0017】
このような接続部品として、例えば、結合要素を構成する部品と、結合要素に直接または部品を介して接続される部品との少なくとも一方の部品が挙げられる。より具体的に、本実施形態では、このような接続部品が、軸箱17a、17bである場合を例に挙げて説明する。そこで、本実施形態では、軸箱17a、17bのそれぞれに加速度センサ21a、21bを取り付ける。本実施形態では、加速度センサ21a、21bが、3次元加速度センサである場合を例に挙げて説明する。加速度センサ21a、21bで測定される加速度のデータから、加速度のx軸方向成分、x軸方向成分、x軸方向成分が得られる。尚、加速度センサは、軸箱17a、17b以外の軸箱にも取り付けられる。本実施形態では、例えば、加速度センサ21a、21bが第1のセンサの一例である。また、加速度センサ21a、21bにより測定される加速度(軸箱17a、17bの加速度)が台車枠の着力箇所に作用する外力を導出することが可能な物理量の一例である。
【0018】
以上のようにして台車枠16に作用する外力が得られれば、台車枠16の振動(運動)を表す運動方程式を解くことにより、台車枠16の変位分布(台車枠16の各部の位置の変化量)を導出することができる。台車枠16の変位分布が得られれば、台車枠16の応力分布が得られる。また、本実施形態では、計算の負荷を軽減するため、モード解析法を用いて台車枠16の振動を表す運動方程式を解く。以下に、台車枠16の応力分布を導出する方法の一例を説明する。
【0019】
<台車枠16の応力分布の導出>
<<台車枠16の運動方程式>>
台車枠16の振動を表す運動方程式は、以下の(1)式で表される。
【0020】
【数1】
【0021】
ここで、[M](∈R3l×3l)は、台車枠16の質量行列である。[C](∈R3l×3l)は、台車枠16の粘性行列である。粘性行列は、減衰行列ともいう。[K](∈R3l×3l)は、台車枠16の剛性行列である。尚、Rは、実数全体の集合を表す(このことは以降の説明でも同じである)
{u}(∈R3l)は、台車枠16の変位ベクトルである。{f}(∈R3l)は、台車枠16の外力ベクトルである。
【0022】
本実施形態では、台車枠16の振動には、x軸方向、x軸方向、およびx軸方向の3つの成分があるものとする。従って、{u}を構成する各節点の変位および{f}を構成する各節点の外力は、3つの自由度を有する。尚、(1)式において、・は、d/dt(時間の一階微分)を表し、・・は、d/dt(時間の二階微分)を表す(このことは、以降の式でも同じである)。
【0023】
lは、数値解析における変位分布の近似解の自由度に対応する。本実施形態では、数値解析として、有限要素法(FEM;Finite Element Method)を用いる場合を例に挙げて説明する。従って、lは、例えば、有限要素法のメッシュの節点の数である。この場合、台車枠16の質量行列[M]、台車枠16の粘性行列[C]、および台車枠16の剛性行列[K]の成分には、それぞれ、各成分に対応する密度から導出される値、各成分に対応する粘性減衰係数から導出される値、および各成分に対応する剛性から導出される値が与えられる。密度、粘性減衰係数および剛性は、位置によらずに同じ値としても異なる値としてもよい。台車枠16の質量行列[M]、粘性行列[C]、および剛性行列[K]の成分は、例えば、有限要素法による数値解析を行う公知のソルバーにおいて、有限要素法のメッシュと、台車枠16全体の密度、粘性減衰係数、および剛性と、を用いて導出される。
【0024】
(1)式の左辺第1項は、台車枠16に作用する重力を表す慣性項である。(1)式の左辺第2項は、台車枠16に作用する粘性力を表す減衰項である。(1)式の左辺第3項は、台車枠16に作用する剛性力を表す剛性項である。
【0025】
<<台車枠16に作用する外力>>
(1)式の右辺の外力ベクトル{f}は、結合要素に作用する外力を導出することによって与えられる。
そこで、図3Aおよび図3Bを参照しながら、結合要素に作用する外力の導出方法の一例について説明する。図3Aおよび図3Bは、結合要素の一例をモデル化して示す図である。図3Aは、台車枠16と軸箱17aとに接続される結合要素をモデル化した図を示す。図3Bは、台車枠16と軸箱17bとに接続される結合要素をモデル化した図を示す。台車枠16とその他の軸箱(軸箱17b等)とに接続される結合要素をモデル化した図も、図3Aおよび図3Bと同じようにして表されるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。台車枠16と結合要素との接続箇所は、台車枠16と結合要素とが相互に接触する領域(の全体)としても、台車枠16と結合要素とが接触する領域の代表点(例えば、重心の位置)としてもよい。図3Aおよび図3Bに示す例では、説明を簡単にするため、台車枠16と結合要素との接続箇所が点であるものとする。以下の説明では、台車枠16と結合要素との接続箇所を、必要に応じて、着力点と称する。図3Aおよび図3Bに示す例では、バネおよびダンパを並列に接続したモデルで、モノリンク18aおよび軸バネ19aを表す。モデル化したモノリンク18aと台車枠16とは着力点31aで接続される。モデル化した軸バネ19aと台車枠16とは着力点32aで接続される。また、軸箱17bについても同様に、モデル化したモノリンク18bと台車枠16とは着力点31bで接続され、モデル化した軸バネ19bと台車枠16とは着力点32bで接続される。
【0026】
結合要素の振動を表す運動方程式は、以下の(2)式で表される。
【0027】
【数2】
【0028】
ここで、[Cbc]は、結合要素の粘性行列である。[Kbc]は、結合要素の剛性行列である。{u}は、軸箱17aとの接続箇所における結合要素の変位と、着力点における結合要素の変位とで構成される結合要素の変位ベクトルである。{f}は、結合要素の軸箱17aとの接続箇所に作用する外力と、結合要素の着力点に作用する外力とで構成される結合要素の外力ベクトルである。結合要素の粘性行列[Cbc]、および結合要素の剛性行列[Kbc]の成分には、それぞれ、各成分に対応する粘性減衰係数から導出される値、および各成分に対応する剛性から導出される値が与えられる。結合要素の粘性行列[C]、および剛性行列[K]の成分は、例えば、結合要素の軸箱17aとの接続箇所の位置と、結合要素の着力点の位置と、結合要素の粘性減衰係数と、結合要素の剛性と、を用いて導出される。
【0029】
(2)式において、結合要素の着力点におけるx軸方向、x軸方向、およびx軸方向の変位を0(ゼロ)とする。また、軸箱17aとの接続箇所における結合要素の変位を軸箱17aの変位とする。以上のようにすることによって、結合要素の外力ベクトル{f}を構成する外力として、結合要素の着力点に作用する外力を導出することができる。つまり、モノリンク18aの着力点31aおよび軸バネ19aの着力点32aに作用する外力は、モノリンク18aおよび軸バネ19aのそれぞれについて構成した(2)式を用いて導出される。また、軸箱17bについても同様に、軸箱17bの変位から、モノリンク18bの着力点31bおよび軸バネ19bの着力点32bに作用する外力が導出される。そして、台車枠16の着力点31a、31bおよび着力点32a、32bに作用する外力は、それぞれ、モノリンク18a、18bの着力点31a、31bおよび軸バネ19a、19aの着力点32a、32bに作用する外力の反作用力として導出される。
【0030】
<<変位ベクトル{u}の導出>>
(1)式の外力ベクトル{f}の(台車枠16の)着力点31a、31b、32a、32bに作用する外力の成分には、前述の方法で導出した値を与え、その他の成分には、0(ゼロ)を与えて、台車枠16の変位ベクトル{u}を導出することにより、台車枠16の変位分布を導出することができる。本実施形態では、計算時間を短縮するため、(1)式で表される物理座標(現実空間の位置を表す座標)系の運動方程式を、モード座標系の運動方程式で表現し、モード座標系の運動方程式を解く場合を例に挙げて説明する。以下に、モード座標系の運動方程式を解く手法の一例を説明する。
【0031】
(1)式の運動方程式に固有値解析を適用することにより、固有振動数ωおよび固有ベクトル{φ}を導出し、固有ベクトル{φ}={φ(1)}、・・・、{φ(n)}で構成されるモード行列[φ](∈R3l×n)を導出する。尚、固有ベクトルは、固有モードベクトルとも称される。ここで、n(∈N)は、モード数である。低い固有振動数から順にモード数nだけ固有振動数が選択される。固有値解析の手法は、例えば、非特許文献1に記載のモード解析法を用いることにより実現することができ、公知の技術であるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。尚、固有値解析に際しては、非特許文献1に記載のように、(1)式の右辺を0(ゼロ)とおく。また、減衰項[C]{u・}を0(ゼロ)とおいてもよい(u・は、(1)式においてuの上に・が付されているものに対応する)。また、固有ベクトル{φ(1)}、・・・、{φ(n)}を基底とする変位ベクトルの座標系のことをモード座標系と称する。
【0032】
モード座標系における台車枠16の質量行列[Mξ](∈Rn×n)、モード座標系における台車枠16の粘性行列[Cξ](∈Rn×n)、モード座標系における台車枠16の剛性行列[Kξ](∈Rn×n)は、それぞれ、以下の(3)式、(4)式、(5)式で表される。
【0033】
【数3】
【0034】
ここで、Tは、転置行列であることを示す(このことは、以降の式でも同じである)。また、モード座標系における台車枠16の質量行列[Mξ]、粘性行列[Cξ]、剛性行列[Kξ]は、それぞれ、以下の(6)式、(7)式、(8)式のように、対角行列である。尚、モード座標系における台車枠16の質量行列[Mξ]および粘性行列[Cξ]において、対角成分以外の成分が0(ゼロ)でない場合には、当該成分は0(ゼロ)に近似されるものとする。
【0035】
【数4】
【0036】
ここで、(1)、・・・、(n)は、それぞれ、一次の固有振動モード、・・・、n次の固有振動モードに対応する成分であることを示す(このことは、以降の式でも同じである)。
モード座標系における台車枠16の質量行列[Mξ]、粘性行列[Cξ]、剛性行列[Kξ]は、対角行列である。従って、各固有振動モードは、相互に独立したものとして扱うことができる。よって、計算時間を短くすることができる。
物理座標系における台車枠16の変位ベクトル{u}は、以下の(9)式のように、モード座標系における変位ベクトル{ξ}(∈R)に変換される。物理座標系における台車枠16の外力ベクトル{f}は、以下の(10)式のように、モード座標系における外力ベクトル{fξ}(∈R)に変換される。
【0037】
【数5】
【0038】
(1)式の両辺に、左から[φ]を乗じる。(1)式の両辺に、左から[φ]を乗じた式に、(9)式と(10)式とを代入する。そうすると、以下の(11)式が得られる。
【0039】
【数6】
【0040】
ここで、ξ・は、(11)式においてξの上に・が付されているものに対応する。ξ・・は、(11)式においてξの上に・・が付されているものに対応する(このことは、以降の式でも同じである)。
(3)式~(5)式を(11)式に代入すると、[φ][φ]は単位行列であるので、以下の(12)式が得られる。
【0041】
【数7】
【0042】
以上のように、(1)式に示す物理座標系の運動方程式を、(12)式のようにモード座標系の運動方程式で表現することができる。
ここで、前述の方法で導出した(1)式における外力ベクトル{f}を、モード座標系における外力ベクトル{fξ}として与えられる必要がある。
そこで、(10)式を変形して得られる(13)式を用いる。
【0043】
【数8】
【0044】
本実施形態では、(12)式の運動方程式を解くことにより、モード座標系における台車枠16の変位ベクトル{ξ}(=[ξ(1) ξ(2)・・・ξ(n))を導出する。
そのために、まず、モード行列[φ]を、固有値解析により導出する。モード行列[φ]と、台車枠16の質量行列[M]、粘性行列[C]、および剛性行列[K]と、を用いて、(3)式~(5)式により、モード座標系における台車枠16の質量行列[Mξ]、粘性行列[Cξ]、および剛性行列[Kξ]を導出する。
【0045】
また、加速度センサ21a、21bで測定された加速度のデータから、時間に関する一階積分、二階積分を行うことにより、(2)式の左辺の変位ベクトル{u}、速度ベクトル{u・}をそれぞれ導出する。モノリンク18a、18bの粘性減衰係数および軸バネ19a、19bの粘性減衰係数から、モノリンク18a、18bの粘性行列[Cbc]および軸バネ19a、19bの粘性行列[Cbc]をそれぞれ導出する。モノリンク18a、18bの剛性および軸バネ19a、19bの剛性から、モノリンク18a、18bの剛性行列[Kbc]および軸バネ19a、19bの剛性行列[Kbc]をそれぞれ導出する。このようにして得られた情報を(2)式に与えることにより、モノリンク18a、18bの着力点31a、31bに作用する外力および軸バネ19a、19bの着力点32a、32bに作用する外力をそれぞれ導出する。そして、台車枠16の着力点31a、31bに作用する外力および着力点32a、32bに作用する外力を、それぞれ、モノリンク18a、18bの着力点31a、31bに作用する外力の反作用力および軸バネ19a、19aの着力点32a、32bに作用する外力の反作用力として導出する。(13)式の外力ベクトル{f}の着力点31a、31b、32a、32bに作用する外力の成分には、このようにして導出した値を与え、その他の成分には、0(ゼロ)を与える。そして、モード行列[φ]を(13)式の右辺に与える。そして、(13)式により、モード座標系における台車枠16の外力ベクトル{fξ}を導出する。
【0046】
そして、以上のようにして導出された、モード座標系における台車枠16の質量行列[Mξ]、粘性行列[Cξ]、剛性行列[Kξ]、外力ベクトル{fξ}を(12)式に与える。モード座標系における台車枠16の質量行列[Mξ]、粘性行列[Cξ]、剛性行列[Kξ]、外力ベクトル{fξ}が与えられた(12)式を解くことにより、モード座標系における台車枠16の変位ベクトル{ξ}を導出することができる。状態変数モデルを用いて(12)式を解く場合、状態変数モデルは、以下のように表される。
まず、状態変数Ξ(∈R2n)を以下の(14)式のように定義する。また、(12)式を以下の(15)式の状態方程式で記述する。
【0047】
【数9】
【0048】
ここで、状態遷移行列A(∈R2n×2n)は、以下の(16)式で表される。
【0049】
【数10】
【0050】
また、ベクトルF(∈R)は、モード座標系における台車枠16の外力ベクトル{fξ}を格納するベクトルであり、以下の(17)式で表される。
【0051】
【数11】
【0052】
また、行列G(∈R2n×n)は、以下の(18)式で表される。
【0053】
【数12】
【0054】
(16)式~(18)式は、状態変数Ξが(14)式で表現されるものとして、(12)式を(15)式の形で表記することにより得られる。
尚、(12)式は、常微分方程式であり、(12)式を解く手法は、状態変数モデルを用いる手法に限定されない。(12)式を解く手法として、常微分方程式を解くための公知の手法を採用することができる。
【0055】
以上のようにしてモード座標系における台車枠16の変位ベクトル{ξ}(=[ξ(1) ξ(2)・・・ξ(n))が導出される。そして、モード座標系における台車枠16の変位ベクトル{ξ}を、物理座標系における台車枠16の変位ベクトル{u}に変換する。例えば、以下の(19)式に示すようにして、メッシュの節点qにおけるx軸方向(i∈{1,2,3})の変位uq,iを導出することができる。
【0056】
【数13】
【0057】
ここで、φq,i (n)は、n次の固有振動モード、メッシュの節点q、およびx軸方向に対応するモード行列[φ]の成分である。以上のようにして、モード座標系における台車枠16の変位ベクトル{ξ}は、物理座標系における台車枠16の変位ベクトル{u}に変換される。これにより、台車枠16の変位分布(各メッシュにおける変位)が得られる。
【0058】
<<歪み-変位関係式>>
台車枠16の変位分布が得られれば、メッシュの各要素eの内部における歪みテンソルの各成分εe,11、εe,12、εe,13、εe,21、εe,22、εe,23、εe,31、εe,32、εe,33は、以下の(20a)式~(20f)式で表される。
【0059】
【数14】
【0060】
ここで、x、x、xは、変位の3つの自由度を記述する座標成分(ここでは、x軸方向成分、x軸方向成分、x軸方向成分)を表す。また、ue,1、ue,2、ue,3は、それぞれ各要素eの内部における変位のx軸方向成分、x軸方向成分、x軸方向成分を表す。
【0061】
<<応力-歪み関係式>>
応力と歪みとの関係は、以下の(21)式で表される。尚、(21)式は、弾性体の構成則と呼ばれる。
【0062】
【数15】
【0063】
ここで、σe,11、σe,12、σe,13の11、12、13の下2桁目の1は、x軸に垂直な微小面に作用する応力であることを表し、σe,11、σe,21、σe,31の11、21、31の下2桁目の1は、x軸方向成分の値であることを表す。σe,21、σe,22、σe,23の21、22、23の下2桁目の2は、x軸に垂直な微小面に作用する応力であることを表し、σe,12、σe,22、σe,32の12、22、32の下1桁目の2は、x軸方向成分の値であることを表す。σe,31、σe,32、σe,33の31、32、33の下2桁目の3は、x軸に垂直な微小面に作用する応力であることを表し、σe,13、σe,23、σe,33の13、23、33の下1桁目の3は、x軸方向成分の値であることを表す。
λ、μは、それぞれ、ラメ定数、剛性率である。ラメ定数λ、剛性率μは、それぞれ、以下の(22)式、(23)式で表される。
【0064】
【数16】
【0065】
ここで、Eは、ヤング率である。νは、ポアソン比である。
以上のようにして、台車枠16の応力分布(各メッシュにおける応力)が得られる。
【0066】
<推定装置400の構成>
図1に示すように、本実施形態では、推定装置400は、鉄道車両の車体11内に配置される。ただし、推定装置400を車体11内に配置せず、鉄道車両の外部に配置してもよい。このようにする場合、鉄道車両で測定されるデータは、例えば、無線通信により、鉄道車両から推定装置400に送信されるようにする。
【0067】
推定装置400は、<台車枠16の応力分布の導出>の項で説明したようにして、鉄道車両が走行中の台車枠16の応力分布を導出する。推定装置400は、当該台車枠16の応力分布に基づく指標値が、所定の条件を満たすか否かを判定する。推定装置400は、台車枠16の応力分布に基づく指標値が、所定の条件を満たさない場合、当該所定の条件を満たさない台車枠16の位置(箇所)と、当該所定の条件を満たさないと判定したタイミングにおける鉄道車両の走行位置とを導出する。推定装置400は、当該所定の条件を満たさない台車枠16の位置と、当該所定の条件を満たさないと判定したタイミングにおける鉄道車両の走行位置とを相互に関連付けて記憶する。このようにして記憶された情報は、例えば、台車枠16の点検箇所および軌道20の点検箇所を特定するための情報として使用することができる。軌道20の点検箇所とは、具体的には、軌道不整などが生じている虞のある箇所である。台車枠16の応力分布に基づく指標値は、台車枠16および軌道20の状態に関する指標値の一例である。
【0068】
図4は、推定装置400の機能的な構成の一例を示す図である。以下に、図4を参照しながら、推定装置400が有する機能の一例を説明する。推定装置400のハードウェアは、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、および各種のインターフェースを備える情報処理装置、または、専用のハードウェアを用いることにより実現される。尚、以下に説明する処理において、事前に設定する必要があるデータは、測定開始前に推定装置400に記憶されているものとする。
【0069】
<<データ取得部401>>
データ取得部401は、一定周期のサンプリング時刻が到来する度に、加速度センサ21a、21bで測定された加速度を示すデータと、鉄道車両の走行位置を示すデータと、を含むデータを取得する。鉄道車両の走行位置を示すデータを取得する方法は、特に限定されない。鉄道車両の走行位置を示すデータは、例えば、鉄道車両に配置されたGPS(Global Positioning System)を用いることにより得ることができる。また、鉄道車両の走行速度と、測定の開始時からの経過時間とに基づいて、各時刻における鉄道車両の、測定の開始時点からの移動距離を導出し、当該移動距離と、当該鉄道車両が走行する軌道20の配置とに基づいて、鉄道車両の各時刻における走行位置を導出してもよい。このようにする場合、測定の開始時点における鉄道車両の位置を示すデータは、測定開始前に推定装置400に記憶される。
【0070】
固有値解析部402、質量導出部403、粘性導出部404、剛性導出部405、外力導出部406、状態導出部407、および応力-位置関係導出部408は、サンプリング時刻が到来する度に、以下に説明する処理を実行する。これらは、同一のサンプリング時刻に得られた情報を用いて、以下に説明する処理を実行する。例えば、各部が、或るサンプリング時刻の処理において、データ取得部401で取得されたデータを用いる場合、当該データは、当該サンプリング時刻においてデータ取得部401で取得されたデータになる。
【0071】
<<固有値解析部402>>
固有値解析部402は、(1)式の運動方程式に対する固有値解析を行うことにより、固有振動数ωおよび固有ベクトル{φ}を導出し、固有ベクトル{φ}で構成されるモード行列[φ]を導出する。尚、有限要素法による運動方程式の定式化に基づいて、台車枠16の質量行列[M]、粘性行列[C]、および剛性行列[K]が導出される。
【0072】
<<質量導出部403>>
質量導出部403は、モード行列[φ]と、台車枠16の質量行列[M]と、を用いて、(3)式により、モード座標系における台車枠16の質量行列[Mξ]を導出する。以下の説明では、モード座標系における台車枠16の質量行列を、必要に応じて、モード質量行列と称する。
【0073】
<<粘性導出部404>>
粘性導出部404は、モード行列[φ]と、台車枠16の粘性行列[C]と、を用いて、(4)式により、モード座標系における台車枠16の粘性行列[Cξ]を導出する。以下の説明では、モード座標系における台車枠16の粘性行列を、必要に応じて、モード粘性行列と称する。
【0074】
<<剛性導出部405>>
剛性導出部405は、モード行列[φ]と、台車枠16の剛性行列[K]と、を用いて、(5)式により、モード座標系における台車枠16の剛性行列[Kξ]を導出する。以下の説明では、モード座標系における台車枠16の剛性行列を、必要に応じて、モード剛性行列と称する。
【0075】
<<外力導出部406>>
外力導出部406は、加速度センサ21a、21bで測定された加速度のデータに基づいて、モノリンク18a、18bの変位ベクトル{u}および速度ベクトル{u・}および軸バネ19a、19bの変位ベクトル{u}および速度ベクトル{u・}をそれぞれ導出する。外力導出部406は、モノリンク18a、18bの粘性減衰係数および軸バネ19a、19bの粘性減衰係数から、モノリンク18a、18bの粘性行列[Cbc]および軸バネ19a、19bの粘性行列[Cbc]をそれぞれ導出する。また、外力導出部406は、モノリンク18a、18bの剛性および軸バネ19a、19bの剛性から、モノリンク18a、18bの剛性行列[Kbc]および軸バネ19a、19bの剛性行列[Kbc]をそれぞれ導出する。
【0076】
外力導出部406は、モノリンク18a、18bの変位ベクトル{u}、速度ベクトル{u・}、粘性行列[Cbc]、剛性行列[Kbc]および軸バネ19a、19bの変位ベクトル{u}、速度ベクトル{u・}、粘性行列[Cbc]、剛性行列[Kbc]を用いて、(2)式により、モノリンク18a、18bの着力点31a、31bに作用する外力および軸バネ19a、19bの着力点32a、32bに作用する外力を導出する。外力導出部406は、これらの反作用力として、台車枠16の着力点31a、31bに作用する外力および着力点32a、32bに作用する外力を導出する。
外力導出部406は、台車枠16の外力ベクトル{f}の成分の内、着力点31a、31b、32a、32bに作用する外力の成分には、このようにして導出した値を与え、その他の成分には、0(ゼロ)を与えることにより、台車枠16の外力ベクトル{f}を、台車枠16の外力分布として導出する。外力導出部406は、このようにして導出された台車枠16の外力ベクトル{f}と、モード行列[φ]と、を用いて、(13)式により、モード座標系における台車枠16の外力ベクトル{fξ}を導出する。以下の説明では、モード座標系における台車枠16の外力ベクトルを、必要に応じて、モード外力ベクトルと称する。本実施形態では、例えば、台車枠16の外力ベクトル{f}が、台車枠に作用する外力の分布の一例である。また、モード外力ベクトル{fξ}が、モード座標系における台車枠に作用する外力の分布の一例である。
【0077】
<<状態導出部407>>
状態導出部407は、外力導出部406により導出された台車枠16の外力ベクトル{f}に基づいて、台車枠16の状態を表す情報を導出する。本実施形態では、状態導出部407は、台車枠16の状態を表す情報として、台車枠16の変位の分布と台車枠16の応力の分布とを含む情報を導出する。本実施形態では、状態導出部407は、変位分布導出部407aと、応力分布導出部407bとを有する。
【0078】
<<変位分布導出部407a>>
変位分布導出部407aは、モード質量行列[Mξ]、モード粘性行列[Cξ]、モード剛性行列[Kξ]、およびモード外力ベクトル{fξ}を用いて、(12)式により、モード座標系における台車枠16の変位ベクトル{ξ}を、モード座標系における台車枠16の変位分布として導出する。前述したように本実施形態では、変位分布導出部407aは、(14)式~(18)式に示す状態変数モデルを用いて、モード座標系における台車枠16の変位ベクトル{ξ}を導出する。以下の説明では、モード座標系における台車枠16の変位ベクトルを、必要に応じて、モード変位ベクトルと称する。本実施形態では、例えば、モード変位ベクトル{ξ}が、モード座標系における台車枠の変位の分布の一例である。
変位分布導出部407aは、モード変位ベクトル{ξ}と、モード行列[φ]と、を用いて、(19)式により、物理座標系における台車枠16の変位ベクトル{u}を、物理座標系における台車枠16の変位分布として導出する。以下の説明では、物理座標系における台車枠16の変位ベクトルを、必要に応じて、実変位ベクトルと称する。本実施形態では、例えば、実変位ベクトル{u}が、物理座標系における台車枠の変位の分布の一例である。
【0079】
<<応力分布導出部407b>>
応力分布導出部407bは、実変位ベクトル{u}を用いて、(20a)式~(20f)式により、メッシュの各要素eの内部における歪みテンソルを、台車枠16の歪み分布として導出する。応力分布導出部407bは、メッシュの各要素eの内部における歪みテンソルと、台車枠16のヤング率Eおよびポアソン比νとを用いて、(21)式~(23)式により、メッシュの各要素eの内部における応力テンソルを、台車枠16の応力分布として導出する。
【0080】
<<応力-位置関係導出部408>>
応力-位置関係導出部408は、台車枠16の応力分布と、鉄道車両の走行位置と、を相互に関連付けて記憶する。以下の説明では、このようにして相互に関連付けられた、台車枠16の応力分布および鉄道車両の走行位置を、必要に応じて、応力-位置関係情報と称する。以上のようにして各サンプリング時刻における応力-位置関係情報が得られる。
【0081】
<<判定部409>>
判定部409は、応力-位置関係情報(応力の時間変化)に基づく指標値が、所定の条件を満たすか否かを判定する。本実施形態では、判定部409は、応力-位置関係情報(応力の時間変化)に基づいて定められる平均応力および変動応力を、JIS規格E4207の応力限界図にプロットする。そして、判定部409は、応力限界図にプロットした点が、応力限界図の応力許容域内にあるか否かを判定する。例えば、判定部409は、或る計測区間の台車枠16の応力と鉄道車両の走行位置(時間)との関係を示すグラフにおいて、応力の極大値を示す領域周辺に変動区間を設定する。そして、判定部409は、当該変動区間内での応力の平均値を平均応力とし、当該変動区間内での応力の変動幅(振幅)を変動応力とする。
【0082】
図5は、応力限界図の一例を概念的に示す図である。図5では、応力許容域を斜線で示す。
図5において、σは、台車枠16の材料の引張強さである。σは、台車枠16の材料の降伏に対する許容応力である。σw1は、台車枠16の材料の疲れ許容応力である。σw2は、台車枠16の溶接止端部を仕上げない場合の疲れ許容応力である。σw3は、台車枠16の溶接止端部を仕上げる場合の疲れ許容応力である。
【0083】
このように、本実施形態では、平均応力および変動応力から定まる点が、応力分布に基づく指標値の一例となる。また、平均応力および変動応力から定まる点が、応力限界図の応力許容域内にあることが所定の条件を満たすことの一例である。
【0084】
判定部409は、サンプリング時刻が到来する度に当該判定を行っても、予め定められたタイミングで当該判定を行っても、オペレータによる推定装置400に対する所定の操作があったときに当該判定を行ってもよい。予め定められたタイミングとしては、例えば、鉄道車両の所定の区間における走行が終了したタイミングが挙げられる。
【0085】
尚、応力分布に基づく指標値および所定の条件は、このようなものに限定されない。例えば、最大主応力を応力分布に基づく指標値の一例として採用し、最大主応力の絶対値が閾値を上回らないことを所定の条件を満たすことの一例として採用してもよい。
【0086】
<<点検箇所特定情報導出部410>>
点検箇所特定情報導出部410は、応力-位置関係情報に基づいて定められる平均応力および変動応力を応力限界図にプロットした点が、応力限界図の応力許容域内にない場合、当該プロットが得られた台車枠16の位置と、当該プロットした点が応力限界図の応力許容域内にないときの鉄道車両の走行位置と、を導出する。点検箇所特定情報導出部410は、当該導出を、応力-位置関係情報から設定される複数の変動区間のそれぞれにおいて行う。これにより、鉄道車両がどの位置を走行しているときに、台車枠16のどの位置で、応力-位置関係情報に基づいて定められる平均応力および変動応力を応力限界図にプロットした点が、応力限界図の応力許容域内にないのかを特定することができる。以下の説明では、応力限界図の応力許容域内にないプロットが得られた台車枠16の位置と、当該応力-位置関係情報に示される鉄道車両の走行位置とを示す情報を、必要に応じて、点検箇所特定情報と称する。尚、点検箇所特定情報は、応力限界図の応力許容域内にないプロットが得られた台車枠16の位置と、当該応力-位置関係情報に示される鉄道車両の走行位置との何れか一方を示す情報であってもよい。また、台車枠16全体の応力に基づいて、応力限界図にプロットを行ってもよい。
【0087】
<<出力部411>>
出力部411は、点検箇所特定情報を出力する。出力の形態としては、例えば、コンピュータディスプレイへの表示、外部装置への送信、および推定装置400の内部または外部の記憶媒体への記憶の少なくとも1つを採用することができる。
オペレータは、点検箇所特定情報に示される台車枠16の位置に基づいて、台車枠16の点検箇所を特定することができる。また、オペレータは、点検箇所特定情報に示される鉄道車両の走行位置に基づいて、軌道20の点検箇所を特定することができる。
【0088】
尚、点検箇所特定情報導出部410がこのような特定を行い、特定した点検箇所の情報を点検箇所特定情報としてよい。例えば、点検箇所特定情報導出部410は、応力限界図の応力許容域内にないプロットに基づいて特定される台車枠16の位置を中心とする所定の範囲を、台車枠16の点検箇所として特定する。また、例えば、推定装置400は、応力-位置関係情報に基づいて定められる平均応力および変動応力を応力限界図にプロットした点が、応力限界図の応力許容域内にないときの鉄道車両の走行位置を中心とする所定の範囲を、軌道20の点検箇所として特定する。
【0089】
<フローチャート>
図6のフローチャートを参照しながら、本実施形態の推定装置400を用いた推定方法の一例を説明する。図6のフローチャートのステップS601~S613の繰り返し処理は、サンプリング時刻が到来する度に実行されるものとする。
まず、ステップS601において、データ取得部401は、加速度センサ21a、21bで測定された加速度を示すデータと、鉄道車両の走行位置を示すデータと、を含むデータを取得する。
次に、ステップS602において、固有値解析部402は、(1)式の運動方程式に対する固有値解析を行うことにより、固有振動数ωおよび固有ベクトル{φ}を導出し、固有ベクトル{φ}で構成されるモード行列[φ]を導出する。
【0090】
次に、ステップS603において、質量導出部403は、モード行列[φ]と、台車枠16の質量行列[M]と、を用いて、(3)式により、モード質量行列[Mξ]を導出する。
次に、ステップS604において、粘性導出部404は、モード行列[φ]と、台車枠16の粘性行列[C]と、を用いて、(4)式により、モード粘性行列[Cξ]を導出する。
【0091】
次に、ステップS605において、剛性導出部405は、モード行列[φ]と、台車枠16の剛性行列[K]と、を用いて、(5)式により、モード剛性行列[Kξ]を導出する。
次に、ステップS606において、外力導出部406は、加速度センサ21a、21bで測定された加速度のデータに基づいて、モノリンク18a、18bの変位ベクトル{u}および速度ベクトル{u・}と、軸バネ19a、19bの変位ベクトル{u}および速度ベクトル{u・}とをそれぞれ導出する。外力導出部406は、モノリンク18a、18bの変位ベクトル{u}、速度ベクトル{u・}、粘性行列[Cbc]、および剛性行列[Kbc]と、モード行列[φ]と、軸バネ19a、19bの変位ベクトル{u}、速度ベクトル{u・}、粘性行列[Cbc]、および剛性行列[Kbc]と、モード行列[φ]と、を用いて、(2)式および(13)式により、モード外力ベクトル{fξ}を導出する。
尚、ステップS603~S606の順番は、順不同である。
【0092】
次に、ステップS607において、変位分布導出部407aは、モード質量行列[Mξ]、モード粘性行列[Cξ]、モード剛性行列[Kξ]、およびモード外力ベクトル{fξ}を用いて、(12)式により、モード変位ベクトル{ξ}を導出する。変位分布導出部407aは、モード変位ベクトル{ξ}と、モード行列[φ]と、を用いて、(19)式により、実変位ベクトル{u}を、台車枠16の変位分布として導出する。
【0093】
次に、ステップS608において、応力分布導出部407bは、実変位ベクトル{u}を用いて、(20a)式~(20f)式により、メッシュの各要素eの内部における歪みテンソルを、台車枠16の歪み分布として導出する。
次に、ステップS609において、応力分布導出部407bは、メッシュの各要素eの内部における歪みテンソルと、台車枠16のヤング率Eおよびポアソン比νと、を用いて、(21)式~(23)式により、メッシュの各要素eの内部における応力テンソルを、台車枠16の応力分布として導出する。
【0094】
次に、ステップS610において、応力-位置関係導出部408は、台車枠16の応力分布と、鉄道車両の走行位置と、を相互に関連付けて記憶する(応力-位置関係情報を記憶する)。
次に、ステップS611において、判定部409は、応力-位置関係情報(応力の時間変化)に基づいて定められる平均応力および変動応力を応力限界図にプロットする。そして、判定部409は、プロットした点が、応力限界図の応力許容域内にあるか否かを判定する。この判定の結果、応力-位置関係情報(応力の時間変化)に基づいて定められる平均応力および変動応力を応力限界図にプロットした点が、応力限界図の応力許容域内にある場合、処理は、ステップS612を省略して後述するステップS613に進む。
【0095】
一方、応力-位置関係情報(応力の時間変化)に基づいて定められる平均応力および変動応力を応力限界図にプロットした点が、応力限界図の応力許容範囲内にない場合、処理は、ステップS612に進む。処理がステップS612に進むと、点検箇所特定情報導出部410は、当該プロットが得られた台車枠16の位置と、当該プロットした点が応力限界図の応力許容域内にないときの鉄道車両の走行位置と、を、点検箇所特定情報として導出する。
次に、ステップS613において、推定装置400は、測定を終了するか否かを判定する。この判定は、例えば、オペレータによる推定装置400に対する所定の操作があったか否かに基づいて行われる。また、この判定は、予め定められたタイミングになったか否かに基づいて行われてもよい。予め定められたタイミングとしては、例えば、鉄道車両の所定の区間における走行が終了したタイミングが挙げられる。
【0096】
ステップS613の判定の結果、測定を終了しない場合、処理は、ステップS601に戻る。そして、次のサンプリング時刻におけるステップS601~S613の処理が実行される。
一方、ステップS613の判定の結果、測定を終了する場合、処理は、ステップS614に進む。ステップS614に進むと、出力部411は、点検箇所特定情報を出力する。そして、図6のフローチャートによる処理が終了する。
【0097】
尚、ステップS614の処理を、ステップS612の後に行ってもよい。この場合、点検箇所特定情報は、サンプリング時刻の単位で出力される。この場合、ステップS611の判定の結果、応力-位置関係情報(応力の時間変化)に基づいて定められる平均応力および変動応力を応力限界図にプロットした点が、応力限界図の応力許容域内にある場合、出力部411は、そのことを示す情報を点検箇所特定情報として出力してもよい。この場合の点検箇所特定情報は、例えば、応力-位置関係情報(応力の時間変化)に基づいて定められる平均応力および変動応力を応力限界図にプロットした点が、応力限界図の応力許容域内にあることを示す情報と、当該プロットした点が応力限界図の応力許容域内にあるときの鉄道車両の走行位置とを示す情報と、を含む。点検箇所特定情報に含まれる鉄道車両の走行位置は点検が不要であることが特定される。
【0098】
<まとめ>
以上のように本実施形態では、推定装置400は、軸箱17a、17bに取り付けられた加速度センサ21a、21bで測定された加速度のデータに基づいて、台車枠16の着力点31a、31b、32a、32bに作用する外力を導出する。推定装置400は、台車枠16に作用する外力の分布を、台車枠16の振動を表す運動方程式に与えて当該運動方程式を解くことにより、台車枠16の変位分布を導出する。推定装置400は、台車枠16の変位分布を用いて台車枠16の応力分布を導出する。従って、台車枠の検査箇所を予め指定し、台車枠の検査箇所にセンサを配置しなくても、鉄道車両が走行しているときの台車枠における応力分布を正確に推定することができる。よって、鉄道車両が走行しているときの台車枠の状態や軌道20の状態を正確に推定することができる。
【0099】
また、本実施形態では、推定装置400は、台車枠16の振動を表す運動方程式に対する固有値解析を行うことにより、固有ベクトルを導出し、固有ベクトルを格納したモード行列[φ]を導出する。推定装置400は、加速度センサ21a、21bで測定された加速度のデータに基づいて、モノリンク18a、18bの変位ベクトル{u}および速度ベクトル{u・}と、軸バネ19a、19bの変位ベクトル{u}および速度ベクトル{u・}とを導出する。推定装置400は、モノリンク18a、18bの粘性行列[Cbc]、剛性行列[Mbc]、変位ベクトル{u}、および速度ベクトル{u・}と、軸バネ19a、19bの粘性行列[Cbc]、剛性行列[Mbc]、変位ベクトル{u}、および速度ベクトル{u・}と、モード行列[φ]と、に基づいて、モード座標系における台車枠16の外力ベクトル{fξ}を導出する。推定装置400は、モード座標系における台車枠16の振動を表す運動方程式に、モード座標系における台車枠16の外力ベクトル{fξ}を与えて当該運動方程式を解くことにより、モード座標系における台車枠16の変位分布を導出する。従って、鉄道車両の走行中に、台車枠における応力分布を正確に推定するための計算負荷を軽減することができる。
【0100】
また、本実施形態では、軸箱17a、17bに取り付けられた加速度センサ21a、21bで測定された加速度のデータを用いる。従って、結合要素を構成する部品(モノリンク18a、18bおよび軸バネ19a、19b)毎に加速度を測定する必要がなくなる。また、軸箱17a、17bは、力を吸収したり減衰したりすることを目的とするものではないので、加速度のデータに外乱が含まれる等、加速度の測定値の信頼性が低下することを抑制することができる。
【0101】
<変形例>
本実施形態では、軸箱17a、17bに加速度センサ21a、21bを取り付ける場合を例に挙げて説明した。しかしながら、台車枠16の着力点に作用する外力を導出することが可能な物理量を測定するためのセンサであれば、軸箱17a、17bに取り付けられるセンサは、加速度センサに限定されない。例えば、歪みゲージであってもよい。ただし、歪みゲージは、長期間の使用により、正常に動作しなくなる虞がある。このため、本実施形態では、台車枠16の着力点に作用する外力を導出することが可能な物理量を測定するためのセンサとして、加速度センサを用いる。
【0102】
前述したように、加速度センサ21a、21bを軸箱17a、17bに取り付けるのが好ましい。しかしながら、加速度センサ21a、21bの取り付け箇所は、軸箱17a、17bに限定されない。加速度センサ21a、21bの取り付け箇所は、台車枠16と直接または他の部材を介して接続される部品であればよい。例えば、加速度センサ21a、21bの取り付け箇所は、加速度センサを取り付けるための専用の部品であって、結合要素に接続される部品であってもよい。
【0103】
また、本実施形態では、台車枠16の応力分布を導出する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、鉄道車両が走行しているときの台車枠の状態を反映する物理量を導出していれば、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、台車枠16の応力分布を導出せずに、台車枠16の変位分布を導出して出力してもよい。
【0104】
また、前述したように、本実施形態のように、モード座標系における台車枠16の変位分布を導出し、物理座標系における台車枠16の変位分布に変換するのが好ましい。しかしながら、物理座標系からモード座標系への変換を行わずに、物理座標系における台車枠16の変位分布を導出してもよい。
【0105】
また、本実施形態では、推定装置400は、軸箱17a、17bに取り付けられた加速度センサ21a、21bで測定された加速度のデータに基づいて、モノリンク18a、18bおよび軸バネ19a、19bを介して当該軸箱17a、17bに接続されている台車枠16の着力点31a、31b、32a、32bに作用する外力を導出する。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、列車が複数の鉄道車両を有する場合、特定の1つの鉄道車両の軸箱17a、17bに加速度センサ21a、21bを取り付ける。当該特定の鉄道車両については、本実施形態で説明したように、当該特定の鉄道車両の軸箱17a、17bに取り付けられた加速度センサ21a、21bで測定された加速度のデータに基づいて、当該軸箱17a、17bに接続されている台車枠16の着力点31a、31b、32a、32bに作用する外力を導出する。一方、当該特定の鉄道車両以外の鉄道車両であって、当該特定の鉄道車両と同一の編成(列車)の鉄道車両については、当該特定の鉄道車両の軸箱17a、17bに取り付けられた加速度センサ21a、21bで測定された加速度のデータに基づいて、当該特定の鉄道車両以外の鉄道車両の軸箱17a、17bに接続されている台車枠16の着力点31a、31b、32a、32bに作用する外力を導出する。このように全ての鉄道車両(全ての台車12a、12b)の軸箱17a、17bに加速度センサを取り付ける必要はない。このようにする場合、特定の鉄道車両以外の鉄道車両においては、少なくとも軌道20の点検箇所を特定することができる。
【0106】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態を説明する。本実施形態では、台車枠16の所定の位置の変位を導出することが可能な物理量を測定するためのセンサを台車枠16に取り付ける。そして、本実施形態では、台車枠16の振動を表す運動方程式を解くことにより導出される変位分布のうち、前記所定の位置(当該センサが取り付けられた箇所に対応する位置)の変位と、当該センサで測定された変位と、に基づいて、台車枠16の振動を表す運動方程式を解くことにより導出される変位分布を補正するための補正パラメータを導出する。そして、台車枠16の振動を表す運動方程式を解くことにより導出される変位分布と、補正パラメータと、を用いて、台車枠16の変位分布を導出する。このように本実施形態は、第1の実施形態に対し、補正パラメータを用いることによる構成および処理が追加されたものである。従って、本実施形態の説明において、第1の実施形態と同一の部分については、図1図6に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
【0107】
図7は、台車枠およびその周辺の部品の構成の一例を示す図である。図7は、図2に対し、加速度センサ22a、22bが追加されたものである。加速度センサ22a、22bは、例えば、加速度センサ21a、21bと同じもので実現することができる。加速度センサ22a、22bは、台車枠16の所定の位置に取り付けられる。図7では、台車枠16に取り付けられる加速度センサ22a、22bの数が2である場合を例に挙げて示す。しかしながら、台車枠16に取り付けられる加速度センサの数は、1以上であれば、幾つであってもよい。また、台車枠16の所定の位置の変位を導出することが可能な物理量を測定するためのセンサであれば、台車枠16に取り付けられるセンサは、加速度センサに限定されない。例えば、歪みゲージであってもよい。ただし、歪みゲージは、長期間の使用により、正常に動作しなくなる虞がある。このため、本実施形態では、台車枠16の所定の位置の変位を導出することが可能な物理量を測定するためのセンサとして、加速度センサを用いる。本実施形態では、例えば、加速度センサ22a、22bが第2のセンサの一例である。また、加速度センサ22a、22bにより測定される加速度(台車枠16の加速度)が、台車枠の所定の位置の変位を導出することが可能な物理量の一例である。
【0108】
<推定装置400の構成>
以下に、第1の実施形態の推定装置400が有する機能と異なる部分を中心に、本実施形態の推定装置400が有する機能の一例を説明する。本実施形態の推定装置400と第1の実施形態の推定装置400とでは、データ取得部401および変位分布導出部407aの機能の一部が異なる。
【0109】
<<データ取得部401>>
第1の実施形態では、データ取得部401は、サンプリング時刻が到来する度に、加速度センサ21a、21bで測定された加速度を示すデータと、鉄道車両の走行位置を示すデータと、を含むデータを取得する。これに対し、本実施形態のデータ取得部401は、加速度センサ21a、21bで測定された加速度を示すデータと、鉄道車両の走行位置を示すデータと、を含むデータに加えて、加速度センサ22a、22bで測定されたデータを取得する。
【0110】
<<状態導出部407>>
状態導出部407は、外力導出部406により導出された台車枠16の外力ベクトル{f}に基づいて、台車枠16の状態を表す情報を導出する。本実施形態の状態導出部407は、第1の実施形態の状態導出部407と同様に、変位分布導出部407aと、応力分布導出部407bとを有する。ただし、本実施形態の変位分布導出部407aおよび応力分布導出部407bが有する機能の一部は、第1の実施形態の変位分布導出部407aおよび応力分布導出部407bが有する機能と異なる。
【0111】
<<変位分布導出部407a>>
変位分布導出部407aは、第1の実施形態の変位分布導出部407aと同様に、モード座標系における台車枠16の変位ベクトル{ξ}(モード変位ベクトル{ξ})を導出する。第1の実施形態の変位分布導出部407aでは、(19)式の計算を行う。これに対し、本実施形態の変位分布導出部407aは、モード座標系における台車枠16の変位ベクトル{ξ}を導出した後、修正係数cを導出する。本実施形態では、修正係数cが、モード座標系における台車枠16の変位ベクトル{ξ}を補正するための補正パラメータの一例である。そして、本実施形態の変位分布導出部407aは、修正係数cと、モード座標系における台車枠16の変位ベクトル{ξ}と、モード行列[φ]と、を用いて、物理座標系における台車枠16の変位ベクトル{u}を、台車枠16の変位分布として導出する。以下に、修正係数cを導出する方法の一例と、修正係数cを用いて、物理座標系における台車枠16の変位ベクトル{u}を導出する方法の一例とを説明する。
【0112】
本実施形態の説明では、jにより識別される有限要素法のメッシュの節点をqとする。メッシュの節点q(j=1,・・・,m)におけるx軸方向の変位の測定値をu~qj,iとする。尚、u~qj,iは、各式において、uの上に~が付され、qjは、qと表記されるものである。また、モード座標系における台車枠16の変位ベクトル{ξ}は[cξ(1)ξ(2)・・・cξ(n)に補正される。そうすると、メッシュの節点qにおけるx軸方向の変位uqj,iを導出する式は、(19)式より、以下の(24)式で表される。
【0113】
【数17】
【0114】
ここで、コスト関数Jを以下の(25)式で定義する。コスト関数Jの値を最小にする修正係数cは、以下の(26)式を解くことにより導出される。
【0115】
【数18】
【0116】
ここで、αは、正則化係数である。正則化係数αは、正則化係数αが大きい(小さい)ほど、メッシュの節点qにおけるx軸方向の変位の測定値u~qj,iの信頼度が低くなる(高くなる)ように、予め定められる定数である。
コスト関数Jの値を最小にする修正係数cは、例えば、以下の(27)式および(28)式で表される。尚、(26)式は、公知の手法で解くことができるので、ここでは、コスト関数Jの値を最小にする修正係数cの導出過程の詳細な説明を省略する。
【0117】
【数19】
【0118】
変位分布導出部407aは、以上のようにして、コスト関数Jの値を最小にする修正係数cを導出する。変位分布導出部407aは、コスト関数Jの値を最小にする修正係数cを用いて、(24)式により、メッシュの節点qにおけるx軸方向(i∈{1,2,3})の変位uq,iを導出する。
【0119】
以上のようにして物理座標系における台車枠16の変位ベクトル(実変位ベクトル){u}が導出される。
応力分布導出部407bは、(19)式を用いて導出される変位uq,iを成分とする実変位ベクトル{u}に代えて、(24)式を用いて導出される変位uq,iを成分とする実変位ベクトル{u}を用いて、第1の実施形態で説明した処理を実行する。
【0120】
<フローチャート>
以下に、第1の実施形態の推定装置400を用いた推定方法と異なる部分を中心に、本実施形態の推定装置400を用いた推定方法一例を説明する。本実施形態の推定装置400を用いた推定方法と、第1の実施形態の推定装置400を用いた推定方法とでは、ステップS601、S607の処理の一部が異なる。
【0121】
ステップS601において、データ取得部401は、加速度センサ21a、21bで測定された加速度を示すデータと、鉄道車両の走行位置を示すデータと、加速度センサ22a、22bで測定されたデータと、を含むデータを取得する。
ステップS602~S606の処理は、第1の実施形態で説明した図6のフローチャートの処理と同じである。
【0122】
ステップS607において、変位分布導出部407aは、モード質量行列[Mξ]、モード粘性行列[Cξ]、モード剛性行列[Kξ]、およびモード外力ベクトル{fξ}を用いて、(12)式により、モード変位ベクトル{ξ}を導出する。そして、変位分布導出部407aは、(27)式および(28)式により、修正係数cを導出する。修正係数cの導出には、加速度センサ22a、22bで測定されたデータ(メッシュの節点qにおけるx軸方向の変位の測定値u~qj,i)が用いられる。また、モード変位ベクトル{ξ}、モード行列[φ]のうち、加速度センサ22a、22bの位置に対応する成分が用いられる。そして、変位分布導出部407aは、モード変位ベクトル{ξ}と、モード行列[φ]と、修正係数cとを用いて、(24)式により、実変位ベクトル{u}を、台車枠16の変位分布として導出する。
ステップS608以降の処理は、第1の実施形態で説明した図6のフローチャートの処理と同じである。
【0123】
<まとめ>
以上のように本実施形態では、推定装置400は、加速度センサ22a、22bにより測定された台車枠16の所定の位置の変位と、台車枠16の運動を記述するモード座標系の運動方程式を解くことにより導出されるモード変位ベクトル{ξ}に対応する実変位ベクトル{u}のうち、前記所定の位置(加速度センサ22a、22bが取り付けられた箇所に対応する位置)の変位との差に基づいて、台車枠16の運動を記述するモード座標系の運動方程式における変位ベクトル{ξ}を補正するための修正係数cを導出する。そして、推定装置400は、モード変位ベクトル{ξ}と、モード行列[φ]と、修正係数cと、を用いて、台車枠16の変位分布を導出する。従って、台車枠の変位分布を、より一層正確に推定することができる。これにより、台車枠における応力分布を正確に推定することができる。
本実施形態においても、第1の実施形態で説明した種々の変形例を採用することができる。
【0124】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態を説明する。第1の実施形態および第2の実施形態では、有限要素法のメッシュの全ての節点qに対応するモード行列[φ]の成分φq,i (n)を用いて、メッシュの節点qにおけるx軸方向の変位uq,iを導出する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、このようにする場合、メッシュの全ての節点qの数と、自由度の数と、モード数nとの積の数だけ、モード行列[φ]の成分φq,i (n)が必要になる。また、所望の位置におけるモード行列[φ]の成分φq,i (n)を探索することが容易ではない。このため、計算時間が長くなる虞がある。そこで、本実施形態では、モード行列[φ](固有ベクトル{φ})の成分の近似値を導出し、モード行列[φ]の成分の近似値を用いて、メッシュの節点qにおけるx軸方向の変位uq,iを導出する。このように本実施形態と第1の実施形態および第2の実施形態とは、モード行列[φ]の成分の近似値を導出することによる構成および処理が主として異なる。従って、本実施形態の説明において、第1の実施形態および第2の実施形態と同一の部分については、図1図7に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
【0125】
<モード行列[φ]の近似>
本実施形態では、(1)式の運動方程式に固有値解析を適用することにより導出されるモード行列[φ](固有ベクトル{φ})の成分の一部を用いて、モード行列[φ]の成分の近似式を導出する。モード行列[φ]の成分の近似式は、モード行列[φ]の成分の近似値を計算するための式である。本実施形態では、カーネルリッジ回帰を行うことにより、モード行列[φ]の成分の近似式を導出する場合を例に挙げて説明する。更に、本実施形態では、カーネル関数としてガウスカーネルを用いる場合を例に挙げて説明する。
【0126】
そこで、モード行列[φ](∈R3l×n)を、ガウス関数φ:R→Rで近似する。ここで、p次の固有振動モード、位置s、およびx軸方向に対応するモード行列[φ]の成分の近似値φ’s,i (p)(xs,1,xs,2,xs,3)を、以下の(29)式で表す。尚、x軸方向は、位置sを定める座標系の自由度(i=1~3)の何れか1つを指す。
【0127】
【数20】
【0128】
ここで、pは、モード数を識別する変数である(1≦p≦n)。jは、有限要素法のメッシュの節点qを識別する変数である(1≦j≦m)。本実施形態の説明では、jにより識別される有限要素法のメッシュの節点をqとする。xs,iは、位置sの物理座標系におけるx軸方向の座標である。xj,iは、メッシュの節点qの物理座標系におけるx軸方向の座標である。位置sは、メッシュの節点qと一致していても一致していなくてもよい。mは、(1)式の運動方程式に固有値解析を適用することにより導出されるモード行列[φ]の成分φq,i (n)のうち、予め定められたメッシュの節点qの数である。mの数は、有限要素法による数値解析で用いられるメッシュの節点qの数よりも少ない数である。
【0129】
ψ (p)(xs,1,xs,2,xs,3)は、ガウスカーネルであり、以下の(30)式で表される。
【0130】
【数21】
【0131】
ここで、σi,(p) (∈R)は、ガウスカーネルの幅を調整するパラメータである。σi,(p) は、3つの自由度(x軸)毎およびモード数p毎に設定される。
(29)式においてλj,i (p)は、ガウスカーネルψ (p)(xs,1,xs,2,xs,3)に対する重み係数である。本実施形態では、(31)式の行列方程式を用いてカーネルリッジ回帰を行うことにより重み係数λj,i (p)が導出される。
【0132】
【数22】
【0133】
(31)式の左辺の行列の各成分は、p次の固有振動モード、メッシュの節点q(q=1’,・・・,m’)、およびx軸方向に対応するモード行列[φ]の成分φq,i (p)(xj,1,xj,2,xj,3)である。
【0134】
(31)式において、xj’,iは、メッシュの節点qj’の物理座標系におけるx軸方向の座標である。また、xj,iは、メッシュの節点qの物理座標系におけるx軸方向の座標である。座標xj’,iは、通常、座標xj,iと同じである。例えば、座標x1’,1は、通常、座標x1,1と同じである。即ち、通常、(31)式におけるxj’,iのアポストロフィ(’)はなくてよい。ただし、座標xj’,iは座標xj,iと異なっていてもよい。そこで、(31)式において、メッシュの節点qを識別する変数jとして、アポストロフィ(’)を付している変数とアポストロフィ(’)を付していない変数とを示す。従って、1’~m’の個数と1~mの個数は同じである。即ち、(31)式の左辺の行列は、m行1列の行列(=m’行1列の行列)である。
【0135】
(31)式の左辺の行列をΦ(∈Rm’×1)と表記する。(31)式の右辺の1つ目の行列をΨ(∈Rm’×m)と表記する。(31)式の右辺の2つ目の行列をΛ(∈Rm×1)と表記する。そうすると、(31)式は、以下の(32)式のように表される。
【0136】
【数23】
【0137】
行列Λに関する(32)式の最小二乗解を得るため、以下の(33)式に示すコスト関数J:R→Rを用いる。
【0138】
【数24】
【0139】
ここで、α(∈R)は正則化係数である。(33)式の右辺第2項は、正則化項(ペナルティ項)である。行列Λは、コスト関数JをΛで偏微分して極小化する問題を解くことにより導出される。即ち、以下の(34)式により行列Λが導出される。
【0140】
【数25】
【0141】
ここで、I(∈Zm×m)は単位行列である。
一次の固有振動モード、・・・、n次の固有振動モードのそれぞれに対して(31)式を作成する。即ち、(31)式のpの値に、1,2,・・・,nを与えて、モード数pの数だけ(31)式を作成する。そして、一次の固有振動モード、・・・、n次の固有振動モードのそれぞれに対する(31)式に基づいて、(34)式の計算をそれぞれ実行する。これにより行列Λ(重み係数λj,i (p))が導出される。行列Λ(重み係数λj,i (p))を(29)式に代入することにより、φ’s,i (1)(xs,1,xs,2,xs,3)、・・・、φ’s,i (n)(xs,1,xs,2,xs,3)を計算する近似式((29)式)が導出される。
【0142】
<推定装置800の構成>
図8は、推定装置800の機能的な構成の一例を示す図である。以下に、図8を参照しながら、第1の実施形態および第2の実施形態の推定装置400が有する機能と異なる部分を中心に、本実施形態の推定装置800が有する機能の一例を説明する。推定装置800のハードウェアは、例えば、推定装置400のハードウェアと同じもので実現される。尚、以下に説明する処理において、事前に設定する必要があるデータは、推定装置800に事前に記憶されているものとする。
【0143】
第1の実施形態および第2の実施形態の推定装置400では、固有値解析部402で導出されたモード行列[φ]が、質量導出部403、粘性導出部404、剛性導出部405、外力導出部406、および状態導出部407(変位分布導出部407a)で用いられる。
【0144】
これに対し、本実施形態では、近似式導出部801は、質量導出部403、粘性導出部404、剛性導出部405、外力導出部406、および状態導出部407の処理が開始される前に、固有値解析部402で導出されたモード行列[φ]を用いて、モード行列[φ]の成分の近似式((29)式)を導出する。その後、近似値導出部802は、モード行列[φ]の成分の近似式を用いて、p次の固有振動モード、位置s、およびx軸方向に対応するモード行列[φ]の成分の近似値φ’s,i (p)(xs,1,xs,2,xs,3)を導出する。位置sは、物理座標系における台車枠16の変位分布を導出するために必要な位置である。位置sは、任意の位置である。位置sは、有限要素法のメッシュの節点qの位置と異なっていてもよい。位置sの数は、有限要素法のメッシュの節点qの数より少なくてもよい。ただし、位置sは、有限要素法のメッシュの節点qの位置と同じであってもよい。また、位置sの数は、有限要素法のメッシュの節点qの位置の数と同じであってもよい。
【0145】
質量導出部403、粘性導出部404、剛性導出部405、外力導出部406、および変位分布導出部407aは、固有値解析部402で導出されたモード行列[φ]に代えて、モード行列[φ]の成分の近似値φ’s,i (p)(xs,1,xs,2,xs,3)を成分として含むモード行列[φ]を用いて、第1の実施形態および第2の実施形態で説明した処理を行う。本実施形態で用いられるモード行列[φ]の成分のうち、位置sに対応しない成分は0(ゼロ)になる。以下に、近似式導出部801および近似値導出部802が有する機能の一例を詳細に説明する。
【0146】
<<近似式導出部801>>
近似式導出部801は、有限要素法のメッシュの節点qのうち、m’個の節点とm個の節点とを選択する。この選択は、例えば、乱数を用いてランダムに行うことができる。また、m’個の節点とm個の節点の位置は、オペレータによって指定されてもよい。尚、前述したように、m個の節点の位置とm’個の節点の位置とを同じにしてもよい。
【0147】
近似式導出部801は、固有値解析部402により導出されたモード行列[φ]の成分φq,i (p)のうち、m’個の節点qに対応する成分φ1’,i (p)(x1’,1,x1’,2,x1’,3)、・・・、φm’,i (p)(xm’,1,xm’,2,xm’,3)を抽出する。そして、近似式導出部801は、モード行列[φ]の成分φ1’,i (p)(x1’,1,x1’,2,x1’,3)、・・・、φm’,i (p)(xm’,1,xm’,2,xm’,3)を(31)式の左辺の行列((32)式の左辺の行列Φ)に代入する。また、近似式導出部801は、(30)式に、位置sの物理座標系におけるx軸方向の座標xs,iと、メッシュの節点qの物理座標系におけるx軸方向の座標xj,iとを代入する。そして、近似式導出部801は、(30)式により、ガウスカーネルψ (p)(xs,1,xs,2,xs,3)を導出する。近似式導出部801は、ガウスカーネルψ (p)(xs,1,xs,2,xs,3)を、(31)式の右辺の1つ目の行列((32)式の行列Ψ)に代入する。
【0148】
そして、近似式導出部801は、(34)式の計算を行うことにより、行列Λ(重み係数λj,i (p))を導出する。
近似式導出部801は、以上の行列Λ(重み係数λj,i (p))の導出を、一次の固有振動モード、・・・、n次の固有振動モードのそれぞれに対して行う。
近似式導出部801は、以上のようにして、モード行列[φ]の成分の近似値φ’s,i (1)(xs,1,xs,2,xs,3)、・・・、φ’s,i (n)(xs,1,xs,2,xs,3)を計算する近似式((29)式)としてn個の近似式を導出する。
【0149】
<<近似値導出部802>>
近似値導出部802は、(29)式のxs,1,xs,2,xs,3に、物理座標系における台車枠16の変位分布を導出するために必要な位置sの物理座標系における座標を与える。そして、近似値導出部802は、(29)式により、p次の固有振動モード、位置s、およびx軸方向に対応するモード行列[φ]の成分の近似値φ’s,i (p)(xs,1,xs,2,xs,3)を導出する。近似値導出部802は、p次の固有振動モード、位置s、およびx軸方向に対応するモード行列[φ]の成分の近似値φ’s,i (p)(xs,1,xs,2,xs,3)の導出を、一次の固有振動モード、・・・、n次の固有振動モードのそれぞれについて行う。そして、近似値導出部802は、モード行列[φ]の成分の近似値φ’s,i (p)(xs,1,xs,2,xs,3)を、モード行列[φ]の成分としてモード行列[φ]に格納する。このようにして近似値φ’s,i (p)(xs,1,xs,2,xs,3)が格納されたモード行列[φ]は、固有ベクトル{φ}が格納されたモード行列[φ]の近似値となる。
【0150】
<フローチャート>
以下に、第1の実施形態および第2の実施形態の推定装置400を用いた推定方法と異なる部分を中心に、本実施形態の推定装置800を用いた推定方法一例を説明する。本実施形態の推定装置800を用いた推定方法と、第1の実施形態および第2の実施形態の推定装置400を用いた推定方法とでは、ステップS602の処理の一部が異なる。また、図6のフローチャートによる処理が開始する前に、モード行列[φ]の成分の近似式(重み係数λj,i (p))が近似式導出部801により導出されている必要がある。
【0151】
ステップS601において、データ取得部401は、加速度センサ21a、21bで測定された加速度を示すデータと、鉄道車両の走行位置を示すデータと、を含むデータを取得する。本実施形態を第2の実施形態に適用する場合、データ取得部401は、これらのデータに加えて、加速度センサ22a、22bで測定されたデータを取得する。
【0152】
次に、ステップS602において、近似値導出部802は、(29)式により、p次の固有振動モード、位置s、およびx軸方向に対応するモード行列[φ]の成分の近似値φ’s,i (p)(xs,1,xs,2,xs,3)を導出する。そして、近似値導出部802は、モード行列[φ]の成分の近似値φ’s,i (p)(xs,1,xs,2,xs,3)を、モード行列[φ]の成分としてモード行列[φ]に格納する。
【0153】
ステップS603以降の処理は、第1の実施形態および第2の実施形態で説明した図6のフローチャートの処理と同じである。ただし、第1の実施形態および第2の実施形態では、固有ベクトル{φ}を含むモード行列[φ]が用いられる。これに対し、本実施形態では、モード行列[φ]の成分の近似値φ’s,i (p)(xs,1,xs,2,xs,3)を含むモード行列[φ]が用いられる。
【0154】
<まとめ>
以上のように本実施形態では、推定装置800は、固有値解析部402で導出されたモード行列[φ]を用いて、カーネルリッジ回帰を行うことにより、モード行列[φ]の成分の近似式((29)式)を導出する。モード行列[φ]の成分の近似式は、モード行列[φ]の成分の近似値として、固有振動モードの次数p、位置s、位置sを定める座標系の自由度iに応じた近似値を計算する式である。推定装置800は、モード行列[φ]の成分の近似式を用いて、モード行列[φ]の成分の近似値φ’s,i (p)(xs,1,xs,2,xs,3)を導出する。従って、モード行列[φ]の成分として、任意の位置sにおける成分を導出することができる。よって、計算時間をより短くすることができる。
【0155】
<変形例>
本実施形態では、カーネルリッジ回帰を行う際に、カーネル関数としてガウスカーネルを用いる場合を例に挙げて説明した。しかしながら、カーネル関数はガウスカーネルに限定されない。また、モード行列[φ]の成分の近似値φ’s,i (p)(xs,1,xs,2,xs,3)を、カーネルリッジ回帰以外の回帰分析の手法を用いて導出してもよい。例えば、カーネル回帰を用いてもよい。
【0156】
また、固有値解析部402および近似式導出部801は、推定装置800に含まれていなくてもよい。即ち、固有値解析部402および近似式導出部801は、推定装置800と異なる装置に含まれていてもよい。この場合、推定装置800は、推定装置800と異なる装置から、モード行列[φ]の成分の近似式((29)式)の情報を取得する。
その他、本実施形態においても、第1の実施形態および第2の実施形態で説明した種々の変形例を採用することができる。
【0157】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態を説明する。第1の実施形態、第2の実施形態、および第3の実施形態では、実変位ベクトル{u}を用いて、(20a)式~(20f)式により、メッシュの各要素eの内部における歪みテンソル(台車枠16の歪み分布)を導出する。また、メッシュの各要素eの内部における歪みテンソルを用いて、(21)式~(23)式により、メッシュの各要素eの内部における応力テンソル(台車枠16の応力分布)を導出する。(20a)式~(20f)により、メッシュの各要素eの内部における歪テンソルを導出する際に、FEMの形状関数が必要になる。そこで、本実施形態では、実変位ベクトル{u}に基づいて台車枠16の主歪みおよび主応力を導出することを、FEMの形状関数を用いずに実行する。このように本実施形態と、第1の実施形態、第2の実施形態、および第3の実施形態とは、実変位ベクトル{u}が導出された後の構成および処理が主として異なる。従って、本実施形態の説明において、第1の実施形態、第2の実施形態、および第3の実施形態と同一の部分については、図1図8に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。本実施形態では、第1の実施形態の変位分布導出部407aにより実変位ベクトル{u}が導出される場合を例に挙げて説明する。
【0158】
後述するように本実施形態では、台車枠16の推定対象領域における主歪みを導出(推定)する。本実施形態では、台車枠16の基準点を含む領域を、推定対象領域とする。基準点は、例えば、変位分布導出部407aにより導出された実変位ベクトル{u}に含まれる変位uq,iを示すメッシュの節点qのうち、任意のメッシュの節点qである。基準点は、例えば、変位分布導出部407aにより導出された実変位ベクトル{u}に含まれる変位uq,iを示すメッシュの節点qのうち、台車枠16において亀裂が発生しやすい点(位置)に対応する。例えば、鉄道車両を走行させた場合に台車枠16に発生する応力を有限要素法等の数値解析により導出し、導出した応力に基づいて基準点を決定することができる。例えば、最大主応力の絶対値が最大となる点を基準点として決定する。また、鉄道車両を実際に走行させることにより基準点を決定してもよい。例えば、過去に発生した台車枠16の亀裂の発生箇所や、台車枠16に取り付けた振動計の測定値に基づいて、基準点を決定してもよい。
【0159】
推定対象領域は、基準点と、実変位ベクトル{u}に含まれる変位uq,iを示すメッシュの節点qのうち、基準点を除く複数のメッシュの節点qと、を含む大きさを有する。推定対象領域の境界(外縁)は、例えば、当該基準点を除く複数のメッシュの節点qの位置に基づいて定められる。例えば、当該基準点を除く複数のメッシュの節点qの位置を通るように、当該基準点を除く複数のメッシュの節点qの位置の間を線分で結ぶことにより定まる線を境界線とする領域を推定対象領域とすることができる。
【0160】
一般的に、基準点における最大主応力と推定対象領域における最大主応力とは一致しない。そこで、推定対象領域における最大主応力で基準点における最大主応力を近似する場合には、基準点を除く複数のメッシュの節点qの位置は、例えば、以下のようにして決定することができる。まず、推定対象領域の候補に含まれる基準点に歪みゲージを取り付けて鉄道車両を走行させ、歪みゲージの測定値に基づいて推定対象領域の候補における最大主応力を導出する。また、後述するようにして推定対象領域の候補における最大主応力を導出する。このようにして推定対象領域の候補における最大主応力を導出する場合には、歪ゲージの測定値を用いない。推定対象領域の候補を異ならせて、以上のような推定対象領域の候補における最大主応力の導出を、歪みゲージを用いる場合と歪ゲージを用いない場合とのそれぞれについて実行する。そして、歪みゲージの測定値に基づいて導出される最大主応力と、歪みゲージの測定値を用いずに後述するようにして導出される最大主応力とが近くなる(好ましくは一致する)推定対象領域の候補を探索する。このようにして探索された推定対象領域の候補における基準点を除く複数のメッシュの節点qの位置を、基準点を除く複数のメッシュの節点qの位置として決定する。また、以上のようにして基準点を除く複数のメッシュの節点qの位置を決定するに際し、例えば、鉄道車両を走行させた場合の台車枠16の歪みを有限要素法等の数値解析により導出し、導出した歪みを、歪みゲージの測定値に代えて用いてもよい。
【0161】
本実施形態では、3次元の変位(x軸方向成分の変位、x軸方向成分の変位、およびx軸方向成分の変位)を成分として含むベクトルが実変位ベクトル{u}として変位分布導出部407aにより導出される場合を例に挙げて説明する。即ち、物理座標系は3軸の座標系である。尚、後述するように3次元の成分の変位が変位分布導出部407aにより導出される場合には、実変位ベクトル{u}に含まれる変位uq,iを示すメッシュの節点qのうち、推定対象領域に含めるメッシュの節点qの数は4以上である。2次元の成分の変位が変位分布導出部407aにより導出される場合には、実変位ベクトル{u}に含まれる変位uq,iを示すメッシュの節点qのうち、推定対象領域に含めるメッシュの節点qの数は3以上である。また、同一の台車枠16に複数の基準点を設定する場合には、それぞれの基準点に対する推定対象領域が設定される。以下の説明では、実変位ベクトル{u}に含まれる変位uq,iを示すメッシュの節点qのうち、推定対象領域に含まれるメッシュの節点qを、必要に応じて、推定対象領域に含まれるメッシュの節点qと略称する。
【0162】
<変位に基づく歪みの導出>
本発明者らは、推定対象領域における変位前の位置を示す座標をアフィン変換することにより変位後の位置を示す座標が表現されることに着目した。尚、当該変位前の位置、変位後の位置を示す座標は、物理座標系における座標(実空間座標)である。以下の説明では、物理座標系における座標を必要に応じて位置座標と称する。
変位前の位置座標を格納する縦ベクトルをXとし、変位後の位置座標を格納する縦ベクトルをXとする。縦ベクトルX、Xは、以下の(35)式で表される。
【0163】
【数26】
【0164】
ここで、Mは、変位前の位置座標を格納する縦ベクトルXに対して乗算される行列である。変位前の位置座標を格納する縦ベクトルXと行列Mとの積により、変位前の位置座標を格納する縦ベクトルXは線型変換される。vは、変位前の位置座標を格納する縦ベクトルXと行列Mとの積に加算される縦ベクトルである。変位前の位置座標を格納する縦ベクトルXと行列Mとの積に、縦ベクトルvを加算することにより、縦ベクトルMXは平行移動される。縦ベクトルMXは、変位前の位置座標を格納する縦ベクトルXと行列Mとの積である。
【0165】
(1)式において、縦ベクトルX、X、vの下に余分な行の成分として1を加えると共に、行列Mの全ての列の下に0のみからなる余分な行を加えることにより、縦ベクトル[X ,1]、[X ,1]、[v,1]と、行列[M,0]とが構成される。Tは転置行列であることを表す(このことは以降の説明でも同じである)。そして、平行移動を表す縦ベクトルvを含む縦ベクトル(行列)[v,1]を、行列Mを含む行列[M,0]の右に加える。すると、以下の(36)式のように(35)式を行列の積で表すことができる。
【0166】
【数27】
【0167】
(35)式および(36)式はアフィン変換を表す式であり等価な式である。行列Mが正則行列であれば、(36)式の右辺の左側の行列は群の構造を有する。ここでは、(36)式の右辺の左側の行列をアフィン変換群と称することとする。アフィン変換群(群の構造を有する行列)は行列の積で以て群演算ができる。そして、アフィン変換群に属する行列は、物体の変形(回転,せん断,引張,圧縮など)や平行移動といった挙動を表現する行列の積という形に分解することが可能である。
【0168】
変位前のx軸方向の位置座標、x軸方向の位置座標、x軸方向の位置座標をそれぞれ、x11、x21、x31とする。変位後のx軸方向の位置座標、x軸方向の位置座標、x軸方向の位置座標をそれぞれ、x12、x22、x32とする。すると、変位前の位置座標を表す縦ベクトルXと、変位後の位置座標を表す縦ベクトルXはそれぞれ、以下の(37a)式、(37b)式で表される。尚、x11、x21、x31、12、x22、x32の11、21、31、12、22、32の下1桁目の1、2は、それぞれ、変位前、変位後を表す。x11、x21、x31、12、x22、x32の11、21、31、12、22、32の下2桁目の1、2、3は、それぞれ、x軸方向成分の値、x軸方向成分の値、x軸方向成分の値であることを表す。
【0169】
【数28】
【0170】
また、行列Mの成分をa、a、a、a、a、a、a、a10、a11とし、縦ベクトルvの成分をa、a、a12とする。すると、(36)式は、以下の(38)式のようになる。
【0171】
【数29】
【0172】
(38)式を連立方程式に書き直すと以下の(39)式のようになる。(39)式の連立方程式の12個の未知係数a~a12を決定するためには、推定対象領域に含めるメッシュの節点qが4箇所以上あればよい。推定対象領域に含めるメッシュの節点qが4箇所以上あれば、x軸方向、x軸方向、x軸方向の変位の組が4つ以上得られるからである。
変位分布導出部407aにより導出された実変位ベクトル{u}に含まれる変位uq,iのうち、推定対象領域に含まれるメッシュの節点qにおける変位を、変位前の位置座標に加算することにより、変位後のx軸方向、x軸方向、x軸方向の位置座標の組が得られる。
【0173】
【数30】
【0174】
以上のようにして得られた変位前および変位後のx軸方向、x軸方向、x軸方向の位置座標の組として4つ以上の組を用いることによって、未知係数a~a12に関する12以上の数の方程式が得られることから、例えば、最小二乗法等の手段を使い未知係数a~a12を決定することができる。
【0175】
ここで、(38)式より(36)式の右辺の左側の行列を以下の(40)式のように表す。即ち、(36)式の右辺の左側の行列を、以下の(41)式、(42)式に示す行列M、縦ベクトルvをブロックとする区分行列に分解する。
【0176】
【数31】
【0177】
行列M∈R3×3は回転を含む一般線形群GLであり、縦ベクトルv∈Rは平行移動を表す正規部分群である。Rは(36)式と同様に実数全体の集合を表す(このことは以降の説明でも同じである)。以下の(43)式の行列((36)式の右辺の左側の行列)は、アフィン変換群のひとつの元である。アフィン変換群の性質から、積演算は、以下の(44)式のように群の半直積演算で記述される。
【0178】
【数32】
【0179】
すると、I∈R3×3を単位行列として半直積演算のルールを用いれば、アフィン変換群の元は、以下の(45)式のように分解される。
【0180】
【数33】
【0181】
以下の(46)式のように行列Mを特異値分解する。行列Mを特異値分解した結果を(45)式に代入すると、以下の(47)式が得られる。
【0182】
【数34】
【0183】
ここで、U∈R3×3は、直交行列である。Σ∈R3×3は、特異値を対角成分として有する対角行列である。Vは、直交行列V∈R3×3の転置行列を表す。
半直積の演算のルールを用いて(47)式を、以下の(48)式のように分解する。
【0184】
【数35】
【0185】
(48)式は、(43)式で表されるアフィン変換が、以下の(1)~(4)の一連の変形・平行移動操作を、(1)、(2)、(3)、(4)の順に実行して得られるものであることを意味する。
(1) 転置行列Vの中から回転行列を選択し、選択した回転行列に基づく回転角で物体を回転させる。
(2) 特異値を対角成分として有する対角行列Σに基づいて物体を歪み変形させる。
(3) 直交行列Uの中から回転行列を選択し、選択した回転行列に基づく回転角で物体を再び回転させる。
(4) 縦ベクトルvに基づいて物体を平行移動する。
【0186】
本発明者らは、アフィン変換が(48)式で表されることに着目し、行列Mを特異値分解することにより導出される対角行列Σの対角成分が主歪みに対応することを見出した。
前述したように、変位前のx軸方向の位置座標x11、x軸方向の位置座標x21、x軸方向の位置座標x31と変位とに基づいて、変位後のx軸方向の位置座標x12、x軸方向の位置座標x22、x軸方向の位置座標x32が導出される。そして、変位前のx軸方向の位置座標x11、x軸方向の位置座標x21、x軸方向の位置座標x31と、変位後のx軸方向の位置座標x12、x軸方向の位置座標x22、x軸方向の位置座標x32とに基づいて、未知係数a~a12が導出される。即ち、行列Mの成分a、a、a、a、a、a、a、a10、a11が導出される。そして、行列Mを特異値分解することにより、特異値を対角成分として有する対角行列Σが導出される。
【0187】
対角行列Σの対角成分をε11、ε22、ε33とする。対角行列Σの対角成分ε11、ε22、ε33は、未知係数a~a12を導出する際に用いたh個の位置座標の集合{(x11,x21,x31 、・・・、(x11,x21,x31 }で構成される基準領域(推定対象領域)が、弾性変形により移動し、新たな位置座標の集合{(x12,x22,x32 、・・・、(x12,x22,x32 }に変化したときの、前記基準領域(推定対象領域)の主歪み成分に該当する。ここで、h≧4である。このような対角行列Σの対角成分ε11、ε22、ε33のうち絶対値が最大となるものが最大主歪みに対応する。
本実施形態は、以上の知見に基づいてなされたものである。
【0188】
本実施形態では、3次元の成分の変位が変位分布導出部407aにより導出される場合を例に挙げて説明する。2次元の成分の変位が変位分布導出部407aにより導出される場合には、3次元の成分の変位が変位分布導出部407aにより導出される場合に対し、変位分布導出部407aにより導出されない成分(軸方向)の値を0(ゼロ)とすることにより実現することができる。従って、ここでは、2次元の成分の変位が変位分布導出部407aにより導出される場合の詳細な説明を省略する。例えば、推定対象領域がモノリンク18a、18bの場合には、x軸方向に生じる変位が無視できるほど小さい。このため、x軸方向とx軸方向との2次元の変位を変位分布導出部407aにより導出すればよい。尚、2次元の成分の変位が変位分布導出部407aにより導出される場合には、(39)式の連立方程式において未知係数の数は6個になる。推定対象領域に含めるメッシュの節点qが3箇所以上あれば、x軸方向、x軸方向、x軸方向のうち、変位分布導出部407aにより導出される2つの軸方向の変位の組が3個以上得られる。従って、6個の未知係数に関する6以上の数の方程式が得られる。よって、6個の未知係数を決定することができる。
【0189】
<推定装置900の構成>
【0190】
図9は、推定装置900の機能的な構成の一例を示す図である。以下に、図9を参照しながら、第1の実施形態、第2の実施形態、および第3の実施形態の推定装置400、800が有する機能と異なる部分を中心に、本実施形態の推定装置900が有する機能の一例を説明する。推定装置900のハードウェアは、例えば、推定装置400、800のハードウェアと同じもので実現される。尚、以下に説明する処理において、事前に設定する必要があるデータは、測定開始前に推定装置900に記憶されているものとする。
【0191】
第1の実施形態、第2の実施形態、および第3の実施形態の推定装置400、800では、変位分布導出部407aにより導出された実変位ベクトル{u}を用いて、応力分布導出部407bにより、台車枠16の応力分布(メッシュの各要素eの内部における応力テンソル)が導出される。
【0192】
これに対し、本実施形態では、状態推定部407は、変位分布導出部407aにより導出された実変位ベクトル{u}を用いて、推定対象領域における主歪み、最大主歪み、主応力、および最大主応力を、台車枠16の状態を表す情報の一例として導出する。本実施形態では、状態推定部407は、変位分布導出部407a、位置座標導出部407c、行列導出部407d、特異値分解部407e、歪み導出部407f、および応力導出部407gを有する。
【0193】
<<位置座標導出部407c>>
位置座標導出部407cは、推定対象領域に含まれるメッシュの節点q(位置)における変位前の位置座標x11、x21、x31に、推定対象領域に含まれるメッシュの節点q(位置)における変位uq,1、uq,2、uq,3を加算することにより、推定対象領域に含まれるメッシュの節点q(位置)における変位後の位置座標x12、x22、x32を導出する。uq,1、uq,2、uq,3の1、2、3は、それぞれ、x軸方向成分の値、x軸方向成分の値、x軸方向成分の値であることを表す。
【0194】
尚、変位前の位置座標x11、x21、x31は、例えば、静止時または静止時と等価な外力が作用する時刻に導出された位置座標x12、x22、x32である。また、推定対象領域に含まれるメッシュの節点qにおける変位前の位置座標x11、x21、x31の初期値は、例えば、台車枠16の仕様に基づいて定められ、推定装置900に予め設定される。
【0195】
<<行列導出部407d>>
行列導出部407dは、推定対象領域に含まれるメッシュの節点q(位置)における変位前の位置座標x11、x21、x31と、推定対象領域に含まれるメッシュの節点q(位置)における変位後の位置座標x12、x22、x32とに基づいて、行列Mの成分a、a、a、a、a、a、a、a10、a11を導出する。尚、このとき、縦ベクトルvの成分a、a、a12を導出することもできる。本実施形態では、行列Mにより変換行列の一例が実現される。
【0196】
<<特異値分解部407e>>
特異値分解部407eは、行列導出部407dにより導出された成分a、a、a、a、a、a、a、a10、a11を有する行列Mを特異値分解し、特異値を対角成分として有する対角行列Σを導出する。尚、このとき、直交行列U、直交行列Vの転置行列Vも導出される。
【0197】
<<歪み導出部407f>>
歪み導出部407fは、特異値分解部407eにより導出された対角行列Σに基づいて、推定対象領域における主歪みを導出する。本実施形態では、歪み導出部407fは、特異値分解部407eにより導出された対角行列Σの対角成分ε11、ε22、ε33を推定対象領域における主歪みとして導出する。以下の説明を簡単にするため、対角行列Σの対角成分ε11、ε22、ε33は、ε11≧ε22≧ε33となるように並べ変えられているものとする。また、歪み導出部407fは、以下の(49)式により、推定対象領域における最大主歪みεmaxを導出する。ここで、特異値分解部407eにより導出された対角行列Σの対角成分ε11、ε22、ε33のうち、符号を含めて最大の対角成分をε11とし、最小の対角成分をε33とする。
【0198】
【数36】
【0199】
(49)式は、対角行列Σの対角成分ε11、ε22、ε33のうち絶対値が最大となるものを、最大主歪みεmaxとして選択することと等価である。ただし、主歪みは1であるときに歪みが生じていないことを表す(主歪みが1を超えれば引張を表し、1を下回れば圧縮を表す)。そこで、(49)式においては、直感的に分かりやすいように、対角行列Σの対角成分ε11、ε33を1から減算した値の絶対値(|1.0-ε11|、|1.0-ε33|)に基づいて、対角行列Σの対角成分ε11またはε33を最大主歪みεmaxとして選択する場合を例に挙げて示す。
【0200】
<<応力導出部407g>>
応力導出部407gは、歪み導出部407fにより導出された推定対象領域における主歪みに基づいて、推定対象領域における応力を導出する。本実施形態では、応力導出部407gは、推定対象領域における主歪み(対角行列Σの対角成分)ε11、ε22、ε33に基づいて、推定対象領域における主応力σ11、σ22、σ33を、以下の(50)式により導出する。
【0201】
【数37】
【0202】
ここで、σ11、σ22、σ33の11、22、33は、それぞれ、せん断応力が0(ゼロ)となる座標系の相互に直交する3つの軸方向成分の値であることを表す。
尚、(50)式において、対角行列Σの対角成分ε11、ε22、ε33から1を減算しているのは、本実施形態では、主歪みは1を基準とする値であるのに対し、主応力は0(ゼロ)を基準とする値だからである。即ち、本実施形態では、主歪みは1のときに歪みが生じていないことを示すのに対し、主応力は0(ゼロ)のときに応力が生じていないことを示す。尚、主応力は、0(ゼロ)を上回る場合、引張応力であることを示し、0(ゼロ)を下回る場合、圧縮応力であることを示す。
また、λ、μは、それぞれ、ラメ定数、剛性率である((22)式、(23)式を参照)。
応力導出部407gは、以上のようにして導出した推定対象領域における主応力σ11、σ22、σ33に基づいて、推定対象領域における最大主応力σmaxを、以下の(51)式により導出する。
【0203】
【数38】
【0204】
<<応力-位置関係導出部408>>
第1の実施形態、第2の実施形態、および第3の実施形態では、応力-位置関係導出部408は、台車枠16の応力分布と、鉄道車両の走行位置と、を相互に関連付けて記憶する。本実施形態では、応力-位置関係導出部408は、応力導出部407gにより導出された推定対象領域における主応力σ11、σ22、σ33および最大主応力σmaxの少なくとも一方と、データ取得部401で取得されたデータに含まれる鉄道車両の走行位置と、を相互に関連付けて記憶する。尚、以下の説明では、応力-位置関係導出部408が、応力導出部407gにより導出された推定対象領域における最大主応力σmaxと、鉄道車両の走行位置と、を相互に関連付けて記憶する場合を例に挙げて説明する。本実施形態の説明では、このようにして相互に関連付けられた、推定対象領域における最大主応力σmaxと鉄道車両の走行位置を、必要に応じて、応力-位置関係情報と称する。以上のようにして各サンプリング時刻における応力-位置関係情報が得られる。
【0205】
<<判定部409>>
第1の実施形態、第2の実施形態、および第3の実施形態では、判定部409は、応力-位置関係情報(応力の時間変化)に基づいて定められる平均応力および変動応力が、応力限界図の応力許容域内にあるか否かを判定する。これに対し、本実施形態では、判定部409は、推定対象領域における最大主応力σmaxの絶対値が閾値を上回るか否かを判定する。
【0206】
<<点検箇所特定情報導出部410>>
第1の実施形態、第2の実施形態、および第3の実施形態では、点検箇所特定情報導出部410は、応力限界図にプロットした点が、応力限界図の応力許容域内にない場合に、当該プロットが得られた台車枠16の位置と、当該プロットした点が応力限界図の応力許容域内にないときの鉄道車両の走行位置とを導出する。これに対し、本実施形態では、点検箇所特定情報導出部410は、最大主応力σmaxの絶対値が閾値を上回る推定対象領域と、当該推定対象領域における最大主応力σmaxの絶対値が閾値を上回るときの鉄道車両の走行位置とを導出する。
【0207】
<<出力部411>>
出力部411は、点検箇所特定情報を出力する。本実施形態では、最大主応力σmaxの絶対値が閾値を上回る推定対象領域と、当該推定対象領域における最大主応力σmaxの絶対値が閾値を上回るときの鉄道車両の走行位置とを示す情報が点検箇所特定情報となる。
【0208】
また、出力部411は、応力-位置関係情報に代えてまたは加えて、歪み-位置関係情報を出力してもよい。歪み-位置関係情報は、歪み導出部407fにより導出された主歪みε11、ε22、ε33および最大主歪みεmaxの少なくとも一方と、鉄道車両の走行位置と、を相互に関連付けた情報である。
【0209】
<フローチャート>
図10のフローチャートを参照しながら、本実施形態の推定装置900を用いた推定方法の一例を説明する。図10のフローチャートのステップS601~S607、S1001~S1010の繰り返し処理は、サンプリング時刻が到来する度に実行されるものとする。
まず、ステップS601~S607の処理は、第1の実施形態で説明した図6のフローチャートによる処理と同じである。ステップS607において、変位分布導出部407aにより、実変位ベクトル{u}が、台車枠16の変位分布として導出される。ステップS607の処理の後、ステップS1001の処理が実行される。
【0210】
ステップS1001において、位置座標導出部407cは、推定対象領域に含まれるメッシュの節点q(位置)における変位前の位置座標x11、x21、x31に、推定対象領域に含まれるメッシュの節点qにおける変位uq,1、uq,2、uq,3を加算することにより、推定対象領域に含まれるメッシュの節点(位置)における変位後の位置座標x12、x22、x32を導出する。尚、変位前の位置座標x11、x21、x31は、静止時の位置座標x12、x22、x32である。
【0211】
次に、ステップS1002において、行列導出部407dは、推定対象領域に含まれるメッシュの節点q(位置)における変位前の位置座標x11、x21、x31と、ステップS1001で導出された推定対象領域に含まれるメッシュの節点q位置)における変位後の位置座標x12、x22、x32とに基づいて、行列Mの成分a、a、a、a、a、a、a、a10、a11を導出する。
【0212】
次に、ステップS1003において、特異値分解部407eは、ステップS1002で導出された成分a、a、a、a、a、a、a、a10、a11を有する行列Mを特異値分解し、特異値を対角成分として有する対角行列Σを導出する。
次に、ステップS1004において、歪み導出部407fは、ステップS1003で導出された対角行列Σの対角成分ε11、ε22、ε33を推定対象領域における主歪みとして導出する。そして、歪み導出部407fは、(49)式により、推定対象領域における最大主歪みεmaxを導出する。
【0213】
次に、ステップS1005において、応力導出部407gは、ステップS1004で導出された推定対象領域における主歪み(対角行列Σの対角成分)ε11、ε22、ε33に基づいて、推定対象領域における主応力σ11、σ22、σ33を、(50)式により導出する。そして、応力導出部407gは、推定対象領域における主応力σ11、σ22、σ33に基づいて、推定対象領域における最大主応力σmaxを、(51)式により導出する。
【0214】
次に、ステップS1006において、応力-位置関係導出部408は、推定対象領域における主応力σ11、σ22、σ33および最大主応力σmaxと、鉄道車両の走行位置と、を相互に関連付けて記憶する(応力-位置関係情報を記憶する)。
次に、ステップS1007において、判定部409は、推定対象領域における最大主応力σmaxの絶対値(|σmax|)が閾値を上回るか否かを判定する。この判定の結果、推定対象領域における最大主応力σmaxの絶対値が閾値を上回らない場合、処理は、ステップS1008を省略して後述するステップS1009に進む。
【0215】
一方、推定対象領域における最大主応力σmaxの絶対値が閾値を上回場合、処理は、ステップS1008に進む。処理がステップS1008に進むと、点検箇所特定情報導出部410は、最大主応力σmaxの絶対値が閾値を上回る推定対象領域と、当該推定対象領域における最大主応力σmaxの絶対値が閾値を上回るときの鉄道車両の走行位置と、を、点検箇所特定情報として導出する。
次に、ステップS1009において、推定装置900は、測定を終了するか否かを判定する。ステップS1009の処理は、例えば、第1の実施形態で説明した図6のステップS613の処理と同じである。
【0216】
ステップS1009の判定の結果、測定を終了しない場合、処理は、ステップS601に戻る。そして、次のサンプリング時刻におけるステップS601~S606、およびS1001~S1009の処理が実行される。
一方、ステップS1009の判定の結果、測定を終了する場合、処理は、ステップS1010に進む。処理がステップS1010に進むと、出力部411は、点検箇所特定情報を出力する。そして、図10のフローチャートによる処理が終了する。
尚、ステップS1010の処理を、ステップS1008の次に行ってもよい。この場合、点検箇所特定情報は、サンプリング時刻の単位で出力される。
【0217】
<まとめ>
以上のように本実施形態では、推定装置900は、推定対象領域における変位前の位置座標x11、x21、x31と、推定対象領域における変位後の位置座標x12、x22、x32とに基づいて、行列Mの成分a、a、a、a、a、a、a、a10、a11を導出する。行列Mは、アフィン変換の際に変位前の位置座標x11、x21、x31に乗算される行列である。推定装置900は、行列Mを特異値分解し、特異値を対角成分として有する対角行列Σを導出する。推定装置900は、対角行列Σに基づいて、推定対象領域における主歪みε11、ε22、ε33を導出する。従って、実変位ベクトル{u}に基づいて台車枠16の主歪みおよび主応力を導出することを、FEMの形状関数を用いずに実行することができる。また、歪ゲージで歪みを測定しなくても(即ち、歪みそのものの測定値を得なくても)、歪みを導出することができる。よって、歪ゲージで歪みを測定しなくても、外力が作用する物体の状態を推定することができる。尚、本実施形態では、実変位ベクトル{u}に含まれる変位uq,iを示すメッシュの節点qに基づいて推定対象領域を定める。従って、推定対象領域として様々な領域を設定することができる。
【0218】
また、本実施形態では、推定装置900は、対角行列Σの成分ε11、ε22、ε33に基づいて推定対象領域における最大主歪みεmaxを導出する。従って、外力が作用する物体の状態を示す情報としてより多くの情報を導出することができる。
【0219】
また、本実施形態では、推定装置900は、対角行列Σの成分ε11、ε22、ε33に基づいて推定対象領域における主応力σ11、σ22、σ33を導出し、推定対象領域における主応力σ11、σ22、σ33に基づいて、最大主応力σmaxを導出する。従って、外力が作用する物体の状態を示す情報としてより一層多くの情報を導出することができる。
【0220】
<変形例>
本実施形態においても、第1の実施形態、第2の実施形態、および第3の実施形態で説明した種々の変形例を採用することができる。また、第2の実施形態または第3の実施形態に対して本実施形態の手法を適用してもよい。
【0221】
(ハードウェア)
推定装置400のハードウェアの一例について説明する。推定装置800、900のハードウェアは、推定装置400のハードウェアと同じもので実現することができる。従って、ここでは、推定装置800、900のハードウェアの詳細な説明を省略する。図11において、推定装置400は、CPU1101、主記憶装置1102、補助記憶装置1103、通信回路1104、信号処理回路1105、画像処理回路1106、I/F回路1107、ユーザインターフェース1108、ディスプレイ1109、およびバス1110を有する。
【0222】
CPU1101は、推定装置400の全体を統括制御する。CPU1101は、主記憶装置1102をワークエリアとして用いて、補助記憶装置1103に記憶されているプログラムを実行する。主記憶装置1102は、データを一時的に格納する。補助記憶装置1103は、CPU1101によって実行されるプログラムの他、各種のデータを記憶する。
【0223】
通信回路1104は、推定装置400の外部との通信を行うための回路である。通信回路1104は、推定装置400の外部と無線通信を行っても有線通信を行ってもよい。通信回路1104は、無線通信を行う場合、鉄道車両に設けられるアンテナに接続される。
【0224】
信号処理回路1105は、通信回路1104で受信された信号や、CPU1101による制御に従って入力した信号に対し、各種の信号処理を行う。
画像処理回路1106は、CPU1101による制御に従って入力した信号に対し、各種の画像処理を行う。この画像処理が行われた信号は、ディスプレイ1109に出力される。
ユーザインターフェース1108は、オペレータが推定装置400に対して指示を行う部分である。ユーザインターフェース1108は、例えば、ボタン、スイッチ、およびダイヤル等を有する。また、ユーザインターフェース1108は、ディスプレイ1109を用いたグラフィカルユーザインターフェースを有していてもよい。
【0225】
ディスプレイ1109は、画像処理回路1106から出力された信号に基づく画像を表示する。I/F回路1107は、I/F回路1107に接続される装置との間でデータのやり取りを行う。図11では、I/F回路1107に接続される装置として、ユーザインターフェース1108およびディスプレイ1109を示す。しかしながら、I/F回路1107に接続される装置は、これらに限定されない。例えば、可搬型の記憶媒体がI/F回路1107に接続されてもよい。また、ユーザインターフェース1108の少なくとも一部およびディスプレイ1109は、推定装置400の外部にあってもよい。
出力部1は、例えば、通信回路1104および信号処理回路1105と、画像処理回路1106、I/F回路1107、およびディスプレイ1109との少なくとも何れか一方を用いることにより実現される。
【0226】
尚、CPU1101、主記憶装置1102、補助記憶装置1103、信号処理回路1105、画像処理回路1106、およびI/F回路1107は、バス1110に接続される。これらの構成要素間の通信は、バス1110を介して行われる。また、推定装置400、800、900のハードウェアは、前述した推定装置400、800、900の機能を実現することができれば、図11に示すものに限定されない。
【0227】
(実施例)
次に、実施例を説明する。本実施例では、実際の鉄道車両の台車枠をモデル化し、第1の実施形態および第2の実施形態で説明した手法のそれぞれにおいて、台車枠の応力分布を導出した。本実施例では、台車枠は、ばね帽およびモノリンクから外力を受けるものとした。また、第2の実施形態で説明した手法では、台車枠に複数の加速度センサを取り付けた。導出した応力分布を調べた結果、平均応力および変動応力を応力限界図にプロットした点が応力限界図の応力許容域内に入らない箇所が存在した。当該プロットした点が応力限界図の応力許容域内にないときの鉄道車両の走行位置に対応する軌道を点検したところ、軌道不整が発生していることが判明した。
【0228】
図12は、台車枠の空気バネ座の或る位置における変位と時間との関係を示す図である。図12において、グラフ1201は、第1の実施形態で説明した手法で導出した実変位ベクトル{u}の当該位置に対応する成分から得られたものである。グラフ1202は、当該位置に取り付けた加速度センサの測定値から得られたものである。図12に示すように、第1の実施形態で説明した手法により、台車枠の変位を正確に導出することができることが分かる。
【0229】
図13Aおよび図13Bは、比較的大きな応力が発生した台車枠の或る位置における変位と時間との関係を示す図である。図13Aにおいて、グラフ1301は、第1の実施形態で説明した手法で導出した実変位ベクトル{u}の当該位置に対応する成分から得られたものである。グラフ1302は、当該位置に取り付けた加速度センサの測定値から得られたものである。尚、図13Aにおいて、グラフ1301は、濃度の薄いグラフである。図13Aにおいて、グラフ1302は、濃度の濃いグラフである。図13Bにおいて、グラフ1303は、第2の実施形態で説明した手法で導出した実変位ベクトル{u}の当該位置に対応する成分から得られたものである。図13Bにおいて、グラフ1303は、濃度の薄いグラフである。図13Aに示すように、第1の実施形態で説明した手法で導出した変位の時間変化は、絶対値が実測値と乖離している部分があるものの、変化の傾向は、実測値と対応する。第1の実施形態の手法では図13Aに示すような変位が導出される場合、図13Bに示すように、第2の実施形態の手法を採用することにより、台車枠の変位をより正確に導出することができることが分かる。尚、第2の実施形態の手法で変位を導出するに際し、当該位置に取り付けた加速度センサの測定値は使用しなかった。
【0230】
また、本実施例では、実際の鉄道車両の台車枠をモデル化し、第1の実施形態および第2の実施形態で説明したモード行列[φ]と、第3の実施形態で説明したモード行列[φ]とを比較した。
本実施例では、有限要素法のメッシュの節点qの数を400000とした。400000個のメッシュの節点qのうち、モード行列[φ]の成分の近似式に用いるメッシュの節点qの数mを1000とした。m(=1000)個の節点の位置を、台車枠に対してランダムに設定した。m個の節点の位置とm’個の節点の位置とを全て同じにした。
【0231】
図14は、モード行列[φ]の成分φq,i (p)とモード行列[φ]の成分の近似値φ’s,i (p)(xs,1,xs,2,xs,3)との関係を示す図である。図14では、10次の固有振動モード(p=10、60Hz)およびx軸方向(i=1)に対応するモード行列[φ]の成分を例に挙げて示す。図14では、モード行列[φ]の成分φq,i (p)をモード行列の値と表記する。また、モード行列[φ]の成分の近似値φ’s,i (p)(xs,1,xs,2,xs,3)をモード行列の近似値と表記する。図14では、モード行列の値とモード行列の近似値とから定まる点を薄い濃度で示す。
【0232】
図14に示すように、第3の実施形態で説明したようにして導出されるモード行列[φ]の成分の近似値と、第1の実施形態および第2の実施形態で説明したモード行列[φ]の成分との平均誤差は1.2%であり、標準偏差は0.0027(モード行列の値の標準偏差に対し2.0%)である。従って、第3の実施形態の手法により、モード行列[φ]を高精度に近似することができることが分かる。
【0233】
また、本実施例では、実際の鉄道車両の台車枠16をモデル化し、第4の実施形態で説明した手法により、台車枠16の推定対象領域における最大主歪みεmaxおよび最大主応力σmaxを導出した。
【0234】
鉄道車両を走行させた場合に台車枠16に発生する応力を有限要素法により導出した。台車枠16に発生する応力に基づいて、最大主応力が発生する箇所を特定し、最大主応力が発生する箇所を基準点とした。鉄道車両を走行させた場合の基準点における変位と、基準点の周囲の12箇所の点における変位とを、実変位ベクトル{u}に基づいて導出した。ここでは、第1の実施形態の手法で実変位ベクトル{u}を導出した。このようにして導出した変位に基づいて、行列Mの成分をa1、a2、a3、a5、a6、a7、a9、a10、a11を導出し、行列Mを特異値分解して対角行列Σを導出した。そして、対角行列Σに基づいて、基準点と基準点の周囲の12箇所の点とを含む推定対象領域における最大主歪みεmaxおよび最大主応力σ maxを導出した。尚、本実施例では、ヤング率Eを205.9GPaとし、ポアソン比νを0.3とした。
また、鉄道車両を走行させた場合の基準点における最大主応力を基準点に取り付けた歪ゲージの測定値に基づいて導出した。
【0235】
図15は、推定対象領域における最大主歪みεmaxと時間との関係の一例を示す図である。図16は、推定対象領域における最大主応力σmaxと時間との関係の一例を示す図である。図16において、推定値は、第4の実施形態の手法で導出した推定対象領域における最大主応力σmaxと時間との関係を示す。測定値は、基準点に取り付けた歪ゲージの測定値に基づく最大主応力σmaxと時間との関係を示す。図16では、推定値は濃い濃度で示され、測定値は薄い濃度で示される。図17は、第4の実施形態の手法で導出した推定対象領域における最大主応力σmaxと、基準点に取り付けた歪ゲージの測定値に基づく最大主応力σmaxとの関係の一例を示す図である。図17は、図16において、同一時刻の推定値および測定値の組をプロットすることにより得られる。図17では、第4の実施形態の手法で導出した推定対象領域における最大主応力σmaxを最大主応力の推定値と表記する。基準点に取り付けた歪ゲージの測定値に基づく最大主応力σmaxを最大主応力の測定値と表記する。図17では、最大主応力の推定値と最大主応力の測定値とから定まる点を薄い濃度で示す。
【0236】
図17において、基準点に取り付けた歪ゲージの測定値に基づく最大主応力σmax(測定値)と、第4の実施形態の手法で導出した推定対象領域における最大主応力σmax(推定値)との平均誤差は1.4MPaであり、標準偏差は1.5MPaである。従って、第4の実施形態の手法により、歪ゲージを用いた場合と同等の結果が得られることが分かる。
【0237】
(その他の変形例)
尚、以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0238】
本発明は、例えば、鉄道車両の状態を推定することに利用することができる。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17