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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】変流器
(51)【国際特許分類】
   H01F 38/30 20060101AFI20221129BHJP
   H01F 27/32 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
H01F38/30
H01F27/32 140
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021553238
(86)(22)【出願日】2019-10-24
(86)【国際出願番号】 JP2019041746
(87)【国際公開番号】W WO2021079470
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2022-09-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】中條 翔太
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 大輔
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-8811(JP,A)
【文献】実開昭56-119631(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 38/30
H01F 27/32
H01F 30/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状鉄心及び2次コイルを含み、1次導体の周囲を囲む態様で配置されて電流検出部として機能するリング部を有する2次コイルユニットと、前記2次コイルユニットのリング部におけるリング本体部の外表面に少なくとも装着された絶縁被覆体とを備え、前記絶縁被覆体が装着された前記2次コイルユニットが絶縁油中に浸漬されて構成された変流器であって、
前記絶縁被覆体は、前記リング本体部の内径側と外径側とで往復するように周方向にずらしながら巻回する装着態様のテープ状絶縁体と、前記リング本体部の外径側に偏倚的に装着可能なシート状絶縁体とを複合的に用いて構成された、変流器。
【請求項2】
前記リング部の内径側の前記絶縁被覆体の合計厚さと、外径側の前記絶縁被覆体の合計厚さとが同等になるように、前記テープ状絶縁体と前記シート状絶縁体とが組み合わされて構成された、請求項1に記載の変流器。
【請求項3】
前記絶縁被覆体の最外周は、前記テープ状絶縁体の巻回にて構成された、請求項1又は請求項2に記載の変流器。
【請求項4】
前記絶縁被覆体の最外周を構成する前記テープ状絶縁体は、伸縮性を有するものが用いられる、請求項3に記載の変流器。
【請求項5】
前記シート状絶縁体は、複数回往復して折り返されて厚さ方向に重なるように作製されたものである、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の変流器。
【請求項6】
前記シート状絶縁体は、折り返し位置をずらし厚さ方向で折り線が重ならないように作製されたものである、請求項5に記載の変流器。
【請求項7】
前記シート状絶縁体は、シート状絶縁体が2枚重ねで構成され、下側のシート状絶縁体が上側のシート状絶縁体よりも平面視で大きいものが用いられる、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の変流器。
【請求項8】
前記テープ状絶縁体は、第1テープ状絶縁体と第2テープ状絶縁体とを含み、前記第2テープ状絶縁体よりも前記第1テープ状絶縁体の方が伸縮性を有して作製されたものであり、
前記絶縁被覆体は、下側から前記第2テープ状絶縁体、前記シート状絶縁体、前記第1テープ状絶縁体の順に装着されて構成された、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の変流器。
【請求項9】
前記絶縁被覆体は、下側から前記第2テープ状絶縁体、前記シート状絶縁体、前記第1テープ状絶縁体の順で構成された1セット分の単位絶縁部が複数セット装着されて構成された、請求項8に記載の変流器。
【請求項10】
前記テープ状絶縁体は、テープ状絶縁紙である、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の変流器。
【請求項11】
前記シート状絶縁体は、シート状絶縁紙である、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の変流器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油絶縁変流器等の変流器に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧変流器の一つとして油絶縁変流器がある。油絶縁変流器は、被検出導体の電流検出に係る主要部が油密タンク内で絶縁油中に浸漬されて構成されている。油絶縁変流器は、電流検出に係る主要部が収容された油密タンクが碍管の上部に設置され、碍管が設置面に対して立設される倒立形と呼ばれるもの等が知られている(例えば特許文献1及び特許文献2等参照)。
【0003】
変流器の主要部の構成としては、被検出導体である1次導体が油密タンクに挿通されており、タンク内の1次導体の周囲を囲む態様で配置される環状鉄心や環状鉄心に巻回される2次コイル等を含む2次コイルユニットを備える。そして、2次コイルを流れる2次電流の検出に基づき、1次導体を流れる1次電流の検出が行われるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開昭56-85936号公報
【文献】実開昭57-57526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、油絶縁変流器は、油密タンク内に満たされている絶縁油中に2次コイルユニットが浸漬されている。このような2次コイルユニットは、ユニット本体部の外表面に絶縁紙が装着されて構成されている。絶縁紙としては、例えば一定幅のテープ状絶縁紙が用いられる。そして、環状鉄心や2次コイル等が位置する2次コイルユニットのリング部においては、テープ状絶縁紙がリング本体部の内径側と外径側とで往復するように巻回され、また周方向にずらしながら一部重なるようにして全周に亘って巻回されて装着されている。
【0006】
この場合、リング本体部の内周長さは外周長さよりも短いため、テープ状絶縁紙の重なりはリング部の内径側の方が外径側よりも必然的に大きくなる。つまり、テープ状絶縁紙を何層も積み重なるように巻回するに連れて、2次コイルユニットのリング部の内径側の方が外径側よりも絶縁紙の積み重なる枚数が多くなるため、内径側の方が外径側よりも絶縁紙の合計厚さが厚くなる。しかしながら、絶縁紙による絶縁性能を確保するためには、厚みの薄い側である外径側の絶縁紙の合計厚さが適正値となるように設定されるため、外径側に対して内径側の絶縁紙の合計厚さは必要以上に厚くなる傾向となる。
【0007】
また一方で、変流器の小型化を図るべく、2次コイルユニットの小型化が検討課題としてある。しかしながら、テープ状絶縁紙が装着された2次コイルユニットのリング部の内側空間は、1次導体の挿通のみならず1次導体との適正距離を確保する必要があるため、リング部の内径寸法を小さくするといった単純な縮径は難しい。そのため、2次コイルユニットのリング部の外径寸法の一部に含まれる内径側の絶縁紙の合計厚さの余剰分を、絶縁性能を確保しつつ如何にして低減するかが検討課題の一つとしてあった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、2次コイルユニットのリング部周りの絶縁被覆体の適正化を図り、自身の小型化に寄与する変流器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する変流器は、環状鉄心及び2次コイルを含み、1次導体の周囲を囲む態様で配置されて電流検出部として機能するリング部を有する2次コイルユニットと、前記2次コイルユニットのリング部におけるリング本体部の外表面に少なくとも装着された絶縁被覆体とを備え、前記絶縁被覆体が装着された前記2次コイルユニットが絶縁油中に浸漬されて構成された変流器であって、前記絶縁被覆体は、前記リング本体部の内径側と外径側とで往復するように周方向にずらしながら巻回する装着態様のテープ状絶縁体と、前記リング本体部の外径側に偏倚的に装着可能なシート状絶縁体とを複合的に用いて構成される。
【0010】
同構成によれば、2次コイルユニットのリング部における絶縁被覆体は、リング本体部の内径側と外径側とで往復するように周方向にずらしながら巻回するテープ状絶縁体と、リング本体部の外径側に偏倚的に装着可能なシート状絶縁体とが複合的に用いられて構成される。すなわち、テープ状絶縁体の巻回によりリング部の内径側の絶縁被覆体の厚みが偏倚的に増加するところ、これを相殺するようにシート状絶縁体の装着によりリング部の外径側の絶縁被覆体の厚みを偏倚的に増加させることが可能となる。これにより、内径側と外径側の絶縁被覆体のそれぞれの合計厚さを近似、若しくは同等とすることができ、内径側の絶縁被覆体の厚みの余剰分を低減でき、結果的に2次コイルユニットのリング部の小径化が可能となる。
【0011】
上記変流器において、前記リング部の内径側の前記絶縁被覆体の合計厚さと、外径側の前記絶縁被覆体の合計厚さとが同等になるように、前記テープ状絶縁体と前記シート状絶縁体とが組み合わされて構成される。
【0012】
同構成によれば、リング部の内径側と外径側の絶縁被覆体のそれぞれの合計厚さが同等になるように構成されるため、内径側の絶縁被覆体の厚みの余剰分を極力低減でき、2次コイルユニットのリング部の一層の小径化が可能となる。
【0013】
上記変流器において、前記絶縁被覆体の最外周は、前記テープ状絶縁体の巻回にて構成される。
同構成によれば、絶縁被覆体の最外周は、シート状絶縁体の装着よりも定着がより確実なテープ状絶縁体の巻回にて構成されるため、絶縁被覆体が構造体として安定したものとなる。
【0014】
上記変流器において、前記絶縁被覆体の最外周を構成する前記テープ状絶縁体は、伸縮性を有するものが用いられる。
同構成によれば、絶縁被覆体の最外周を構成するテープ状絶縁体は伸縮性を有するため、巻回後のテープ状絶縁体の収縮作用にて定着がより一層確実となり、絶縁被覆体が構造体としてより一層安定したものとなる。
【0015】
上記変流器において、前記シート状絶縁体は、複数回往復して折り返されて厚さ方向に重なるように作製されたものである。
同構成によれば、シート状絶縁体は、複数回往復して折り返されて厚さ方向に重なる構成、すなわち厚みを稼ぐ構成をなすため、単体のシート状絶縁体の装着で厚さ寸法を容易に稼ぐことが可能である。
【0016】
上記変流器において、前記シート状絶縁体は、折り返し位置をずらし厚さ方向で折り線が重ならないように作製されたものである。
同構成によれば、シート状絶縁体は、折り返し位置をずらして厚さ方向で折り線が重ならない構成、すなわち剛性を高める折り線が分散する構成をなすため、シート状絶縁体の柔軟性を大きく損なうことなく、シート状絶縁体の装着性を良好に維持することが可能である。
【0017】
上記変流器において、前記シート状絶縁体は、シート状絶縁体が2枚重ねで構成され、下側のシート状絶縁体が上側のシート状絶縁体よりも平面視で大きいものが用いられる。
同構成によれば、2枚重ねのシート状絶縁体を用いる場合、下側のシート状絶縁体が上側のシート状絶縁体よりも平面視で大きいものが用いられるため、2枚重ねのシート状絶縁体の装着の際、下側のシート状絶縁体を容易に位置確認しながら行うことが可能である。
【0018】
上記変流器において、前記テープ状絶縁体は、第1テープ状絶縁体と第2テープ状絶縁体とを含み、前記第2テープ状絶縁体よりも前記第1テープ状絶縁体の方が伸縮性を有して作製されたものであり、前記絶縁被覆体は、下側から前記第2テープ状絶縁体、前記シート状絶縁体、前記第1テープ状絶縁体の順に装着されて構成される。
【0019】
同構成によれば、絶縁被覆体は、下側から第2テープ状絶縁体、シート状絶縁体、第2テープ状絶縁体よりも伸縮性を有する第1テープ状絶縁体の順に装着されて構成される。そのため、巻回後の第1テープ状絶縁体の収縮作用にて、下側に位置するシート状絶縁体やその下側の第2テープ状絶縁体を含めた定着が確実に行われるため、各絶縁体を複合的に用いる絶縁被覆体が構造体として安定したものとなる。
【0020】
上記変流器において、前記絶縁被覆体は、下側から前記第2テープ状絶縁体、前記シート状絶縁体、前記第1テープ状絶縁体の順で構成された1セット分の単位絶縁部が複数セット装着されて構成される。
【0021】
同構成によれば、絶縁被覆体は、下側から第2テープ状絶縁体、シート状絶縁体、第1テープ状絶縁体の順で構成された1セット分の単位絶縁部が複数セット装着されて構成される。換言すれば、絶縁被覆体に要求される絶縁性能に応じて個々の絶縁体をそれぞれ調整するのではなく、個々の絶縁体をまとめた単位絶縁部のセット数を調整するだけで、容易に絶縁性能の調整が可能となる。
【0022】
上記変流器において、前記テープ状絶縁体は、テープ状絶縁紙である。
同構成によれば、油絶縁変流器内の絶縁被覆体として一般的に用いられる材料である絶縁紙がテープ状絶縁体として用いられて構成される。
【0023】
上記変流器において、前記シート状絶縁体は、シート状絶縁紙である。
同構成によれば、油絶縁変流器内の絶縁被覆体として一般的に用いられる材料である絶縁紙がシート状絶縁体として用いられて構成される。
【発明の効果】
【0024】
本発明の変流器によれば、2次コイルユニットのリング部周りの絶縁被覆体の適正化を図り、自身の小型化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】一実施形態における油絶縁変流器の概略構成図。
図2】2次コイルユニットの概略構成図。
図3】2次コイルユニットの概略構成図。
図4】第1テープ状絶縁紙の斜視図。
図5】第2テープ状絶縁紙の斜視図。
図6】シート状絶縁紙の斜視図。
図7】シート状絶縁紙の装着態様を説明するための説明図。
図8】シート状絶縁紙の装着態様を説明するための説明図。
図9】比較例における2次コイルユニットの概略を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、変流器の一実施形態について説明する。なお、図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張又は簡略化して示す場合がある。また、各部分の寸法比率についても、実際と異なる場合がある。
【0027】
図1に示す本実施形態の油絶縁変流器10は、例えば倒立形にて構成されるものであり、地面等の設置面GRに対して立設される碍管11の上部に油密タンク12が設置されている。油密タンク12には、被検出導体である断面円形状の1次導体13が対向の側壁12a,12bそれぞれに対して貫通する態様で支持されている。油密タンク12内には、1次導体13の電流検出に係る主要部として1次導体13の周囲を囲む態様で配置される2次コイルユニット20等が収容されている。また、油密タンク12内には絶縁油14が充填されており、2次コイルユニット20は絶縁油14中に浸漬されている。絶縁油14は、碍管11の内側空間にも充填されている。絶縁油14は、油密タンク12の上部に設置される油量調整装置15によりその油量が調整されている。
【0028】
図1及び図2に示すように、2次コイルユニット20は、円環状のリング部21と、リング部21の下端部分から下方に直線状に延びる延出部22とを有している。2次コイルユニット20は、リング部21及び延出部22の上端部分が油密タンク12内に位置し、延出部22の大半部分が碍管11内に挿入されている。2次コイルユニット20は、円環状の環状鉄心23及びこれに巻回される2次コイル24と、環状鉄心23及び2次コイル24等を収容する導電ケース25と、導電ケース25の外表面に装着される絶縁被覆体26とを備えている。なお、図1では、導電ケース25の厚みを省略して描いている。
【0029】
導電ケース25は、2次コイルユニット20のリング部21及び延出部22と対応して、円環状のリング本体部25aと、リング本体部25aの下端部分から下方に直線状に延びる延出本体部25bとを有している。リング本体部25aは、例えば断面楕円状又は長円状の中空形状をなしている。延出本体部25bは、例えば断面円状の中空形状をなしている。リング本体部25a及び延出本体部25bの各内側空間は、互いに連通している。
【0030】
リング本体部25aの内側空間は、円環状の収容空間27となっている。収容空間27には、それぞれ2次コイル24が巻回された複数(本実施形態では例えば3つ)の環状鉄心23が収容されている。環状鉄心23は、リング本体部25aの内側面等に対して図示しない支持部材にて支持されている。2次コイル24は、環状鉄心23の内径側と外径側とで往復するように環状鉄心23の周方向に沿って所定数巻回されて装着されている。2次コイル24を有する複数の環状鉄心23は、互いに同一構成であり、それぞれの中心軸が一致するように軸方向に重ねて配置されている。また、2次コイル24を有する複数の環状鉄心23は、リング本体部25a(収容空間27)の中心軸とも一致するように収容空間27内に配置されている。
【0031】
そして、リング本体部25aが自身の中央部に1次導体13が挿通する態様で配置される状態では、2次コイル24を有する環状鉄心23が1次導体13の周囲を囲む態様で位置している。2次コイル24から導出される図示しない導線は、リング本体部25aの収容空間27から延出本体部25b内に挿入され、延出本体部25bを通じて碍管11の下方まで延びている。導線は、碍管11の下端位置の基台16に設置される2次端子箱17まで延び、図示しない電流計等と接続される。
【0032】
図2及び図3に示すように、導電ケース25の外表面、すなわちリング本体部25a及び延出本体部25bの外表面には絶縁被覆体26が装着され、2次コイルユニット20のリング部21及び延出部22が構成されている。本実施形態の絶縁被覆体26は、3種類の絶縁紙、すなわち図4に示す第1テープ状絶縁紙31、図5に示す第2テープ状絶縁紙32、図6に示すシート状絶縁紙33を好適に組み合わせて構成されている。
【0033】
第1テープ状絶縁紙31及び第2テープ状絶縁紙32は、ともに一定幅で連続するテープ状をなすものである。第1テープ状絶縁紙31は、第2テープ状絶縁紙32と異なる点として、例えば微小な皺が形成される等して、主として長手方向に若干の伸縮性を有するように作製されている。一方で、第2テープ状絶縁紙32は、第1テープ状絶縁紙31と異なる点として、若干厚い寸法設定となっており、ほぼ伸縮性を有さないように作製されている。
【0034】
シート状絶縁紙33は、平面視で矩形状をなし、複数回往復して折り返されて厚さ方向に重なるようにして作製されている。本実施形態のシート状絶縁紙33は、両側の折り返し位置がずれるようにし、厚さ方向で折り線33aが重ならないようにしている。こうして、シート状絶縁紙33は、両側の折り線33a間で数枚分重なることで適度な厚みを持たせつつ、折り線33aを重ねないことで、導電ケース25の外表面に装着する際にその外表面形状に倣って変形することを大きく阻害しない構成としている。なお、図6では、図面が煩雑となることを防止するために、シート状絶縁紙33の両側の折り返し回数がそれぞれ3回、最も重なる部分で7枚分重なるものが描いてあるが、この限りでない。
【0035】
次に、上記した第1テープ状絶縁紙31、第2テープ状絶縁紙32及びシート状絶縁紙33は、以下のようにして導電ケース25に対して装着されている。以下には、本実施形態の特徴的部分である導電ケース25のリング本体部25aへの装着態様を中心に説明する。
【0036】
図3に示すように、第1テープ状絶縁紙31、第2テープ状絶縁紙32及びシート状絶縁紙33の中で、最初に第2テープ状絶縁紙32が導電ケース25のリング本体部25aに巻回される。この場合、第2テープ状絶縁紙32は、リング本体部25aの内径側と外径側とで往復するように巻回され、また周方向にずらしながら隣接同士が径方向中央位置で例えば1/5程度重なるようにして巻回される。第2テープ状絶縁紙32は、所謂1/5ラップの巻回が行われる。また、第2テープ状絶縁紙32は、リング本体部25aの全周に亘って連続的に巻回され、リング本体部25aの例えば4周程度巻回される。つまり、第2テープ状絶縁紙32は、巻回時の隣接同士の重なり部分を除くと4枚分積み重なっている。
【0037】
次いで、第2テープ状絶縁紙32が装着された上から、シート状絶縁紙33が装着される。シート状絶縁紙33は、例えば2枚重ねで互いに貼着されたものが用いられる。2枚重ねのシート状絶縁紙33は、第2テープ状絶縁紙32が装着されたリング本体部25aの径方向外側寄りの部位に配置される。また、シート状絶縁紙33は、折り線33aを周方向に沿うようにして配置される。つまり、シート状絶縁紙33は、図3及び図8に示すように、厚い中央部分33xがリング本体部25aの径方向外側面に位置するようにし、折り線33aのある両側部分33yがリング本体部25aの軸方向両側面に位置するように配置される。本実施形態の2枚重ねのシート状絶縁紙33は、図7に示すように、下側のシート状絶縁紙33z1が上側のシート状絶縁紙33z2よりも平面視で若干大きいものが用いられ、リング本体部25aへの装着時に下側のシート状絶縁紙33z1の位置確認を容易としている。
【0038】
また、2枚重ねのシート状絶縁紙33は、図3に示すように、リング本体部25aの周方向に並べて配置され、隣接同士が例えば2/3程度重なるように、所謂2/3ラップにて配置される。さらに、2枚重ねのシート状絶縁紙33は、リング本体部25aの周方向に3周分並べて配置される。つまり、このシート状絶縁紙33は、隣接同士の径方向の重なりと、複数周することでの径方向の重なりとが相まって、リング本体部25aの径方向外側に積み重なる絶縁被覆体26の厚みを偏倚的に稼ぐようにしている。なお、本実施形態のシート状絶縁紙33は、下層側の第2テープ状絶縁紙32や下層側のシート状絶縁紙33に対して例えば仮止めされ、その後の第1テープ状絶縁紙31の巻回により第1テープ状絶縁紙31とともに装着される。
【0039】
次いで、シート状絶縁紙33が装着された上から、第1テープ状絶縁紙31が装着される。第1テープ状絶縁紙31も第2テープ状絶縁紙32と同様に、リング本体部25aの内径側と外径側とで往復するように巻回され、また周方向にずらしながら隣接同士が一部重なるようにして巻回される。第1テープ状絶縁紙31については、例えば1/2程度重なるようにして巻回、所謂1/2ラップの巻回とし、隣接同士の重なりを第2テープ状絶縁紙32よりも大きい設定としてもよいが、勿論、隣接同士の重なりを第2テープ状絶縁紙32と同等の設定としてもよい。第1テープ状絶縁紙31は、リング本体部25aの全周に亘って連続的に例えば4周程度巻回される。この第1テープ状絶縁紙31の装着については、巻回することで厚さを稼ぐ意味合いもあるが、自身の伸縮性を活かして締めて巻回することで、下側に位置するシート状絶縁紙33や第2テープ状絶縁紙32の定着や成形を促進させる機能等も兼ねている。
【0040】
このようにして下層側から第2テープ状絶縁紙32、シート状絶縁紙33、第1テープ状絶縁紙31の順で導電ケース25のリング本体部25aに装着されるが、これらの組み合わせ及び手順が絶縁被覆体26の1セット分の単位絶縁部26aとなる。本実施形態では、単位絶縁部26aが例えば5~10セット分装着され、2次コイルユニット20が要求される絶縁性能に応じて、導電ケース25の外表面に装着する単位絶縁部26aのセット数が適宜調整される。なお、図3では、図面が煩雑となることを防止するために、1セット分の単位絶縁部26aのみ描いてある。
【0041】
また、第2テープ状絶縁紙32、シート状絶縁紙33及び第1テープ状絶縁紙31のセット毎の重なり(ラップ)については、第2テープ状絶縁紙32では1/5ラップ、シート状絶縁紙33では2/3ラップ、第1テープ状絶縁紙31では1/2ラップであり、全セットにおいてそれぞれ同一設定としてもよく、変更してもよい。例えば、第1テープ状絶縁紙31において、下層側では1/2ラップに設定し、上層側では1/5ラップに設定を変更してもよい。
【0042】
ちなみに、導電ケース25のリング本体部25aの下端部分から連続する延出本体部25bの外表面に対しては、リング本体部25aにて巻回された第1テープ状絶縁紙31及び第2テープ状絶縁紙32の両方若しくは一方がそのまま連続的に巻回されて装着されている。
【0043】
このように構成された2次コイルユニット20は、図1及び図2に示すように、環状鉄心23及び2次コイル24を備えて電流検出部として機能するリング部21の中心孔21aに被検出導体である1次導体13が位置するように配置されている。さらに、2次コイルユニット20は、絶縁油14中に配置されることで、自身の外表面の絶縁被覆体26と絶縁油14とによって絶縁状態が確保されて油密タンク12内に設置されている。そして、このように構成された変流器10は、1次導体13に流れる1次電流に対応して2次コイルユニット20の2次コイル24に2次電流が生じ、この2次電流の検出に基づいて1次導体13を流れる1次電流が間接的に検出できるものとなっている。
【0044】
本実施形態の作用について説明する。
本実施形態の変流器10における2次コイルユニット20の絶縁構造において、環状鉄心23及び2次コイル24を収容するための導電ケース25のリング本体部25aが円環状をなしていることで、当然ながらそのリング本体部25aの内周長さが外周長さよりも短く、リング本体部25aの外表面に装着する絶縁被覆体26に工夫が必要である。
【0045】
ここで、図9に示す比較例の2次コイルユニット20xのように、テープ状絶縁紙35のみを導電ケース25のリング本体部25aに巻回して絶縁被覆体26xを形成する態様では、テープ状絶縁紙35の重なりが大きいリング部21xの内径側における絶縁被覆体26xの合計厚さD11が外径側の合計厚さD12よりも厚くなる。すなわち、厚みの薄い側であるリング部21xの外径側の絶縁被覆体26xの合計厚さD12を絶縁性能の確保のために所定厚さに設定すると、内径側の絶縁被覆体26xの合計厚さD11は必要以上に厚い。一方で、リング部21xの中心孔21aは、挿通する1次導体13との関係で所定の内径寸法Daを確保する必要があることから、リング部21xの外径寸法R11は、必要以上に厚い内径側の絶縁被覆体26xの合計厚さD11を含むことで大径に設定されることになる。このような2次コイルユニット20xを図1及び図2に示す本実施形態の油密タンク12に収容した場合、油密タンク12の大型化も招き、絶縁油14の油量も増加することになる。また、図9に示すように、2次コイルユニット20xのリング部21xも大径となるため、導電ケース25のリング本体部25aの大径化を招くばかりか、リング本体部25a内に収容される図9では省略した環状鉄心23の大径化も招く等、懸念事項が多く存在する。
【0046】
これに対し、図3に示す本実施形態の2次コイルユニット20では、第1テープ状絶縁紙31と第2テープ状絶縁紙32との巻回によりリング部21の内径側の絶縁被覆体26の厚みが偏倚的に増加するところ、これを相殺するようにシート状絶縁紙33の装着によりリング部21の外径側の絶縁被覆体26の厚みを偏倚的に増加させている。つまり本実施形態では、リング部21の内径側の絶縁被覆体26の合計厚さD1と、外径側の絶縁被覆体26の合計厚さD2とが同等となるように第1テープ状絶縁紙31、第2テープ状絶縁紙32及びシート状絶縁紙33の各装着態様を好適に調整し、内径側の絶縁被覆体26の合計厚さD1が必要以上に厚くなることが抑えられている。これにより、リング部21の外径寸法R1は、内径側の絶縁被覆体26の合計厚さD1を適切値としたことで小径として設定でき、2次コイルユニット20を小型化することが可能である。
【0047】
本実施形態の効果について説明する。
(1)2次コイルユニット20のリング部21における絶縁被覆体26は、内側の導電ケース25のリング本体部25aの内径側と外径側とで往復するように周方向にずらしながら巻回するテープ状絶縁紙31,32と、リング本体部25aの外径側に偏倚的に装着可能なシート状絶縁紙33とが複合的に用いられて構成されている。すなわち、テープ状絶縁紙31,32の巻回によりリング部21の内径側の絶縁被覆体26の厚みが偏倚的に増加するところ、これを相殺するようにシート状絶縁紙33の装着によりリング部21の外径側の絶縁被覆体26の厚みを偏倚的に増加させることができる。これにより、内径側と外径側の絶縁被覆体26のそれぞれの合計厚さD1,D2を近似、特に本実施形態では同等の設定としたことで(図3参照)、内径側の絶縁被覆体26の厚みの余剰分を極力低減することができる。結果的に、2次コイルユニット20のリング部21の一層の小径化が図れ、このことが油密タンク12の小型化、絶縁油14の油量も少量とすることに繋がる。また、リング部21も小径となるため、導電ケース25のリング本体部25aも小径に、リング本体部25a内に収容される環状鉄心23も小径にできる等、有益な効果を得ることができる。
【0048】
(2)絶縁被覆体26の最外周は、シート状絶縁紙33の装着よりも定着がより確実なテープ状絶縁紙31の巻回にて構成されるため、絶縁被覆体26を構造体として安定したものとすることができる。特に本実施形態では、絶縁被覆体26の最外周に伸縮性を有するテープ状絶縁紙31を用いているため、巻回後のテープ状絶縁紙31の収縮作用にて定着がより一層確実となり、絶縁被覆体26を構造体としてより一層安定したものとすることができる。
【0049】
(3)シート状絶縁紙33は、複数回往復して折り返されて厚さ方向に重なる構成、すなわち厚みを稼ぐ構成をなすため(図6参照)、単体のシート状絶縁紙33の装着で厚さ寸法を容易に稼ぐことができる。
【0050】
(4)シート状絶縁紙33は、折り返し位置をずらして厚さ方向で折り線33aが重ならない構成、すなわち剛性を高める折り線33aが分散する構成をなすため、シート状絶縁紙33の柔軟性を大きく損なうことなく、シート状絶縁紙33の装着性を良好に維持することができる。
【0051】
(5)本実施形態のように2枚重ねのシート状絶縁紙33を用いる場合、下側のシート状絶縁紙33z1が上側のシート状絶縁紙33z2よりも平面視で大きいものが用いられるため(図7参照)、2枚重ねのシート状絶縁紙33の装着の際、下側のシート状絶縁紙33z1を容易に位置確認しながら行うことができる。
【0052】
(6)絶縁被覆体26は、下側から第2テープ状絶縁紙32、シート状絶縁紙33、第2テープ状絶縁紙32よりも伸縮性を有する第1テープ状絶縁紙31の順に装着されて構成されている。そのため、巻回後の第1テープ状絶縁紙31の収縮作用にて、下側に位置するシート状絶縁紙33やその下側の第2テープ状絶縁紙32を含めた定着が確実に行われるため、各絶縁紙31,32,33を複合的に用いる絶縁被覆体26を構造体として安定したものとすることができる。
【0053】
(7)絶縁被覆体26は、下側から第2テープ状絶縁紙32、シート状絶縁紙33、第1テープ状絶縁紙31の順で構成された1セット分の単位絶縁部26aが複数セット装着されて構成されている。換言すれば、絶縁被覆体26に要求される絶縁性能に応じて個々の絶縁紙31,32,33をそれぞれ調整するのではなく、個々の絶縁紙31,32,33をまとめた単位絶縁部26aのセット数を調整するだけで、容易に絶縁性能の調整を行うことができる。
【0054】
(8)油絶縁変流器10内の絶縁被覆体26として一般的に用いられる材料である絶縁紙がテープ状絶縁紙31,32やシート状絶縁紙33として用いられることで、絶縁被覆体26を簡易に構成することができる。
【0055】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・内径側と外径側の絶縁被覆体26のそれぞれの合計厚さD1,D2を同等の設定としたが、内径側の合計厚さD1が外径側の合計厚さD2に近似させるだけでもよく、この場合においても、内径側の絶縁被覆体26の厚みの余剰分を低減でき、2次コイルユニット20のリング部21の小径化が図れる。
【0056】
・上記実施形態にて記載した各種数値についてはこの限りでなく、適宜変更してもよい。
・第1テープ状絶縁紙31、第2テープ状絶縁紙32及びシート状絶縁紙33の組み合わせや装着手順等を適宜変更してもよい。例えば、テープ状絶縁紙31,32を一種類としてもよい。外側にシート状絶縁紙33を装着してもよい。
【0057】
・シート状絶縁紙33をリング本体部25aの外径側のみに装着したが、内径側に装着してもよく、この場合結果的に外径側に偏倚的に装着すればよい。
・下側のシート状絶縁紙33z1が上側のシート状絶縁紙33z2よりも大きい2枚重ねのシート状絶縁紙33を用いたが、大きさの関係が逆、若しくは同じ大きさの2枚重ねのシート状絶縁紙を用いてもよい。また、2枚重ねのシート状絶縁紙33を用いず、1枚のシート状絶縁紙、又は3枚以上重ねたシート状絶縁紙を用いてもよい。また、折り返しのないシート状絶縁紙を用いてもよい。
【0058】
・絶縁被覆体26に要求される絶縁性能を単位絶縁部26aのセット数を調整することで対応したが、1セットのみで個々の絶縁紙31,32,33の厚さを調整することで対応してもよい。
【0059】
・第1テープ状絶縁紙31、第2テープ状絶縁紙32及びシート状絶縁紙33は絶縁紙にて構成されたものであったが、紙以外で例えば絶縁性、耐油性の高い樹脂等の他の材料にて構成されたテープ状絶縁体(第1テープ状絶縁体、第2テープ状絶縁体)、シート状絶縁体を用いてもよい。
【0060】
・第1テープ状絶縁紙31及び第2テープ状絶縁紙32の巻回手法について特に言及しなかったが、図示しない巻回機を用いて行ってもよく、作業者による手作業で行ってもよい。
【0061】
・シート状絶縁紙33の装着手法についても特に言及しなかったが、作業者による手作業で行ってもよく、図示しない装着機を用いて行ってもよい。
・電流検出部として機能する2次コイルユニット20のリング部21及び被検出導体である1次導体13が碍管11の上部に設けられる倒立形の油絶縁変流器10に適用したが、電流検出部及び被検出導体が碍管11の下部に設けられる他の構造の変流器(アイボルト形、ヘアピン形)に適用してもよい。
【0062】
本発明がその技術的思想から逸脱しない範囲で他の特有の形態で具体化されてもよいということは当業者にとって明らかであろう。例えば、実施形態(あるいはその1つ又は複数の態様)において説明した部品のうちの一部を省略したり、いくつかの部品を組み合わせてもよい。本発明の範囲は、添付の請求の範囲を参照して、請求の範囲が権利を与えられる均等物の全範囲と共に確定されるべきである。
【符号の説明】
【0063】
10…油絶縁変流器(変流器)、13…1次導体、14…絶縁油、20…2次コイルユニット、21…リング部、23…環状鉄心、24…2次コイル、25a…リング本体部、26…絶縁被覆体、26a…単位絶縁部、31…第1テープ状絶縁紙(テープ状絶縁体、テープ状絶縁紙)、32…第2テープ状絶縁紙(テープ状絶縁体、テープ状絶縁紙)、33…シート状絶縁紙(シート状絶縁体)、33a…折り線、33z1…下側のシート状絶縁紙(下側のシート状絶縁体)、33z2…上側のシート状絶縁紙(上側のシート状絶縁体)、D1…合計厚さ、D2…合計厚さ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9