(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】溶接異常診断装置
(51)【国際特許分類】
B23K 31/00 20060101AFI20221129BHJP
【FI】
B23K31/00 K
B23K31/00 L
(21)【出願番号】P 2021562251
(86)(22)【出願日】2019-12-04
(86)【国際出願番号】 JP2019047421
(87)【国際公開番号】W WO2021111545
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2021-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関本 真康
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-198805(JP,A)
【文献】特開2001-025867(JP,A)
【文献】特開平08-267241(JP,A)
【文献】特開2019-188406(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1581132(KR,B1)
【文献】特開平06-170552(JP,A)
【文献】特開昭64-075184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接材の裏面を撮影するカメラシステムと、
前記被溶接材の溶接時において前記カメラシステムにより撮影された発光撮影画像を収集する溶接部撮影カメラ画像収集部と、
溶接条件設定値を収集する溶接制御情報収集部と、
前記被溶接材の溶接状況を診断するための溶接光特徴量を前記発光撮影画像に基づいて計算し、前記溶接光特徴量と前記溶接条件設定値とに基づいて溶接の良不良を判定する溶接状況診断部と、
を備え
、
前記溶接状況診断部は、溶接傾向診断手段を含み、
前記溶接傾向診断手段は、複数の前記溶接光特徴量から統計量を計算し、前記統計量が持つ傾向と溶接異常判定上下限値とに基づいて溶接の良不良を判定する溶接異常診断装置。
【請求項2】
前記溶接状況診断部は、撮影画像毎診断手段を含み、
前記撮影画像毎診断手段は、一本分の溶接工程のなかで前記溶接部撮影カメラ画像収集部から得られる時々刻々の前記発光撮影画像から時々刻々の前記溶接光特徴量を計算し、前記溶接光特徴量と前記溶接条件設定値に紐づけられた溶接異常判定上下限値とに基づいて溶接の良不良を判定する請求項1に記載の溶接異常診断装置。
【請求項3】
前記撮影画像毎診断手段は、一本分の溶接工程のなかで前記溶接部撮影カメラ画像収集部から得られる時々刻々の前記発光撮影画像から時々刻々の前記溶接光特徴量を計算し、予め定めた期間内における前記溶接光特徴量の勾配を比較することで、溶接の良不良を判定する請求項2に記載の溶接異常診断装置。
【請求項4】
前記撮影画像毎診断手段は、一本分の前記溶接部撮影カメラ画像収集部から得られる時々刻々の前記発光撮影画像により得られる時々刻々の前記溶接光特徴量に基づき前記溶接条件設定値を補正する請求項2に記載の溶接異常診断装置。
【請求項5】
前記溶接状況診断部は、溶接完了後診断手段を含み、
前記溶接完了後診断手段は、複数の前記溶接光特徴量から統計量を計算し、前記統計量と溶接異常判定上下限値とに基づいて溶接の良不良を判定する請求項1に記載の溶接異常診断装置。
【請求項6】
前記溶接完了後診断手段は、前記統計量に基づいて統計的手法を用いて前記溶接異常判定上下限値を決定する請求項5に記載の溶接異常診断装置。
【請求項7】
前記溶接完了後診断手段は、前記統計量に基づいて機械学習を用いて前記溶接異常判定上下限値を決定する請求項5に記載の溶接異常診断装置
。
【請求項8】
前記溶接傾向診断手段は、前記統計量に基づいて統計的手法を用いて前記溶接異常判定上下限値を決定する請求項
1に記載の溶接異常診断装置。
【請求項9】
前記溶接傾向診断手段は、前記統計量に基づいて機械学習を用いて前記溶接異常判定上下限値を決定する請求項
1に記載の溶接異常診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、鋼板の連続冷間圧延ラインを主とする連続冷間処理ラインに供給される鋼板間を溶接する溶接システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板の連続冷間圧延ラインでは、連続して鋼板を供給し、冷間圧延する。連続冷間圧延ラインへ供給される鋼板は、主に、熱間圧延ラインにて圧延された厚さ1.0~10mm程度、長さ100m~1kmの鋼板である。
【0003】
連続冷間圧延ラインを主とする連続冷間処理ラインでは、先行材の尾端と後行材の先端とを溶接し、絶え間なく鋼板が供給される。これにより、生産性を向上させている。
【0004】
ここで溶接に不良が発生した場合、冷間圧延中に溶接部から鋼板が破断する。破断によりミスロールとなってしまい、生産性の低下あるいは冷間圧延設備の破損に繋がる。このため、連続冷間圧延ラインを主とする連続冷間処理ラインにおいて、鋼板間の溶接は重要な工程のひとつである。
【0005】
先行材と後行材の溶接は、自動溶接装置で行われる。通常、自動溶接装置では、先行材の尾端と後行材の先端とをシャーにより切断し、それらの被溶接部を平行にする。その後、先行材と後行材の間隙を突合せて溶接する。材料によっては、予め加熱した後に先行材と後行材との間隙を突合せる。
【0006】
自動溶接装置で所望の溶接を実行するために、例えば、予め定められた溶接条件(以下、プリセット情報とする)が入力される。しかしながら、プリセット情報だけでは溶接がうまくいかないこともある。溶接がうまくいかない理由の一例は、鋼板自体のゆがみである。理由の他の例は、予熱した場合に不均一に熱膨張することである。他にも、例えば、溶接の終始における温度低下による間隙の距離の変化なども理由となる。そこで、溶接設備あるいは付随計器からの実績情報を用いて、フィードバック制御により溶接を実行することもある。しかしながら、フィードバック制御に用いる有用な情報が得られない場合もある。
【0007】
そこで、プリセット情報のみで自動溶接する場合、例えば、光学センサを用いて、溶接完了後の溶接ビードの形状を検出して、溶接の良不良を判断することがある。その他にも、例えば、特許文献1では、溶接直後に溶接部付近の温度を測定することで溶接の良不良を判定している。また、特許文献2は、赤外線センサを用いて、溶接直後に視認される溶接池の形状から溶接の良不良判定を行ったり、その判定結果を用いた溶接制御を実施したりすることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本特許第5058707号公報
【文献】日本特開2000-351071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
溶接ビードの形状検出による溶接の良不良判断は、近年、主流になりつつある。しかしながら、溶接ビードに基づいて良判定が出されても連続冷間圧延で破断が起きることもあり、必ずしも正確な判定ができるとは言えなかった。また、最終的な判断は、自動溶接装置の管理者あるいは溶接システムの操業者が行うので、判断が困難であるケースもあった。
【0010】
特許文献1は、溶接部の周辺の温度分布が比較的視認できるような、特定の溶接方法でのみ適用可能である。よって、例えば熱影響部が小さいレーザ溶接などでは適用が難しい。特許文献2は、被溶接材における溶接ヘッド12側の表面に着目し、当該表面における溶接ビードの形状的特徴に基づいて溶接の良不良を監視している。しかし溶接ビードは、溶接部位が適正位置にある場合の形状と、溶接部位が適正位置から大きくズレたときの形状とを区別することが難しい。
【0011】
以上説明したように、従来の技術では、依然として高精度な良否判定が難しいという実情があった。そこで、本願発明者が鋭意検討を進めたところ、従来とは異なる新規な技術的思想に基づいて溶接の良不良を高精度に判定する技術が見出された。
【0012】
本出願は、上記を鑑みてなされたもので、溶接の良不良を高精度に判定するように改良された溶接異常診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本出願の実施の形態の一つとして提供される溶接異常診断装置は、被溶接材の裏面を撮影するカメラシステムと、前記被溶接材の溶接時において前記カメラシステムにより撮影された発光撮影画像を収集する溶接部撮影カメラ画像収集部と、溶接条件設定値を収集する溶接制御情報収集部と、前記被溶接材の溶接状況を診断するための溶接光特徴量を前記発光撮影画像に基づいて計算し、前記溶接光特徴量と溶接異常判定上下限値とに基づいて溶接の良不良を判定する溶接状況診断部と、を備える。前記溶接状況診断部は、溶接傾向診断手段を含む。前記溶接傾向診断手段は、複数の前記溶接光特徴量から統計量を計算し、前記統計量が持つ傾向と溶接異常判定上下限値とに基づいて溶接の良不良を判定する。
【0014】
前記溶接光特徴量は、被溶接材の裏面側から撮影した溶接光の輪郭形状を数値などで量的に表したものであってもよい。前記溶接光特徴量は、発光撮影画像の溶接光が持つ空間モーメントと面積と重心と溶接光とスパーク粗さと真円度とからなる群から選択された一つの特徴量であってもよい。
【0015】
前記溶接条件設定値は、前記溶接システムにおける溶接ヘッドに供給される電力と、溶接ヘッドの移動速度と、溶接棒の高さまたは送り速度と、先行材と後行材との間隙量と、を含んでもよい。前記溶接条件設定値は、ガイドローラの高さ位置または圧力についての設定値または実績値を含んでもよい。前記溶接条件設定値は、先行材の仕様(例えば鋼種と板厚と板幅)と、後行材の仕様(例えば鋼種と板厚と板幅)と、予熱工程の有無と、予熱時の温度設定とを含んでもよい。
【0016】
データ処理の便宜のために、溶接異常判定上下限値テーブルと溶接状況情報データベースとが設けられてもよい。溶接異常判定上下限値テーブルは、溶接の良不良の判定に用いるための溶接異常判定上下限値を格納する。溶接状況情報データベースは、溶接状況の出力結果を格納する。
【0017】
溶接システム管理者の利便性向上のために、溶接状況出力部と溶接異常アラーム部とのうち少なくとも一方が設けられてもよい。前記溶接状況出力部は、前記溶接状況診断部の出力結果を溶接システム管理者が視認するためのインターフェイスである。前記溶接異常アラーム部は、前記溶接状況診断部のおける溶接異常の判定に基づき、溶接異常を溶接システム管理者へ通知する。
【発明の効果】
【0018】
上記の溶接異常診断装置によれば、被溶接材裏面の溶接光から計算した溶接光特徴量に基づいて、溶接状況を精度良く評価できる。被溶接材裏面を撮影して得られる溶接光は、溶接状況の良否に応じた違いが現れやすいという特徴を持つ。この溶接光の現れ方の違いを溶接光特徴量として取り扱うことで、溶接の良不良を精度良く判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第一の実施の形態にかかる溶接システムを示した図である。
【
図2】溶接異常診断装置の構成について示したブロック図である。
【
図3】溶接部撮影カメラ画像収集部で収集される画像の例を示した図である。
【
図4】溶接異常判定上下限テーブルを示した図である。
【
図5】溶接状況診断部における実行手順を示した図である。
【
図6】撮影画像毎診断機能の処理を示したフロー図である。
【
図7】時々刻々の溶接光の特徴と溶接の制御出力の情報の実績値を格納するためのテーブルの例を示した図である。
【
図8A】撮影画像毎診断機能の他処理例を示した図である。
【
図8B】撮影画像毎診断機能の他処理例を示した図である。
【
図9】時々刻々の溶接光の特徴と溶接異常判定上下限値および溶接異常警告上下限値の例を示した図である。
【
図10】溶接完了後診断機能の処理を示したフロー図である。
【
図11】溶接傾向診断機能の処理を示したフロー図である。
【
図12】溶接光特徴量の統計量の傾向の一例を示した図である。
【
図13A】第二の実施の形態における撮影画像毎診断機能の処理を示したフロー図である。
【
図13B】第二の実施の形態における撮影画像毎診断機能の処理を示したフロー図である。
【
図14】第二の実施の形態における溶接光の特徴の勾配の取得例を示した図である。
【
図15A】第二の実施の形態における溶接完了後診断機能の処理を示したフロー図である。
【
図15B】第二の実施の形態における溶接完了後診断機能の処理を示したフロー図である。
【
図16】第二の実施の形態の溶接完了後診断機能における溶接光の特徴と上方管理限界および下方管理限界の一例を示した図である。
【
図17A】第二の実施の形態における溶接傾向診断機能の処理を示したフロー図である。
【
図17B】第二の実施の形態における溶接傾向診断機能の処理を示したフロー図である。
【
図18】第二の実施の形態の溶接傾向診断機能における溶接光特徴量の統計量と上方管理限界および下方管理限界の一例を示した図である。
【
図19A】第三の実施の形態に係る処理フローを示した図である。
【
図19B】第三の実施の形態に係る処理フローを示した図である。
【
図20】鋼板の連続冷間圧延ラインを主とする連続冷間処理ラインに供給される鋼板間を溶接する溶接システムの一例を示す図である。
【
図21】溶接状況に応じた溶接光の裏面への現れ方の違いを説明するための図である。
【
図22】溶接状況に応じた溶接光の裏面への現れ方の違いを説明するための図である。
【
図23】溶接状況に応じた溶接光の裏面への現れ方の違いを説明するための図である。
【
図24】被溶接材の切断面が非平行である場合の課題を説明するための図である。
【
図25】溶接光特徴量のバリエーションを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下の説明においては、明細書および図面のなかで同一の符号を付した構成は、互いに同一であるか、または実質的に同一であるものとする。例えばフローチャートにおいては対応するステップに同一の符号を付する。
【0021】
第一の実施の形態.
図1に、第一の実施の形態にかかる溶接システム10の構成例を示す。溶接ヘッド12は、装置に装備されているガイドレール、あるいは、ガイドローラ等に沿って、被溶接材9の幅方向に溶接していく。被溶接材9は、具体的には、先行材9aと後行材9bとを含む。溶接ヘッド12は先行材9aと後行材9bとを溶接する。
【0022】
溶接ヘッド12の移動に追従するように、溶接部表面撮影カメラ13および溶接部裏面撮影カメラ14が移動し、溶接ヘッド12に対し常に同じ位置で溶接状況を撮影する。溶接ヘッド12は、レーザ溶接用のものでもよく、アーク溶接用のものでもよい。
【0023】
出力装置16から供給される電力を制御装置15により制御して所望の溶接出力を得る。このとき、溶接条件を決める制御量は、被溶接材9の情報をもとに設定される。この制御量は、例えば、溶接ヘッド12に供給される電力と、溶接ヘッド12の移動速度と、溶接ヘッド12の溶接棒の高さおよび送り速度と、先行材9aと後行材9bの間隙量(以下、ギャップとも称す)と、ガイドローラの高さ位置および圧力と、を含んでもよい。被溶接材9の情報は、例えば、先行材9aの鋼種、板厚および板幅と、後行材9bの鋼種、板厚および板幅とを含んでもよい。
【0024】
これらの制御量と被溶接材9の情報と、プリセット情報となる。また、実際に溶接したときの実績情報は、制御装置15に取り込まれ、フィードバック制御などに用いられることもある。溶接異常診断装置20は、溶接部表面撮影カメラ13および溶接部裏面撮影カメラ14で時々刻々撮影された画像と、溶接の制御出力の情報と、その他の溶接に付随する情報とを収集する。
【0025】
溶接異常診断装置20は、溶接状況を診断するための溶接光特徴量およびその統計量の計算を実行することで、溶接良不良の判断等を実施する。なお、記載した溶接システム構成は一例であり、構成の追加または省略が適宜に行われてもよい。例えば溶接部表面撮影カメラ13は省略されてもよい。
【0026】
図20は、溶接システム10が適用される圧延システム40を図示している。溶接システム40は、ホットコイル41を供給する設備と、これらを溶接する溶接システム10と、連続冷間圧延ラインである冷間圧延機43と、圧延後の薄板を冷延コイル44として巻き取る設備とを備える。
【0027】
溶接異常診断装置20は、
図2に示すブロック図で構成される。溶接異常診断装置20は、溶接部撮影カメラ画像収集部21と、溶接制御情報収集部22と、溶接状況診断部23と、溶接異常判定上下限テーブル24と、溶接異常アラーム部25と、溶接状況出力部26と、溶接制御情報データベース27と、溶接状況情報データベース28と、を備えている。
【0028】
溶接制御情報収集部22は、溶接の制御出力の情報や、その他の溶接に付随する情報を収集する。溶接の制御出力の情報は、例えば、溶接ヘッド12に供給される電力や、溶接ヘッド12の移動速度、溶接棒の高さや送り速度、先行材9aと後行材9bの間隙量(以下、ギャップとする)、ガイドローラの高さ位置や圧力の設定値と実績値などである。
【0029】
その他の溶接に付随する情報は、例えば、先行材9aの鋼種、板厚、板幅や、後行材9bの鋼種、板厚、板幅、予熱工程の有無や、予熱時の温度設定、など、溶接条件を設定するために用いられる情報である。溶接制御情報収集部22で収集した情報は、例えば、溶接制御情報データベース27へ格納される。
【0030】
溶接部撮影カメラ画像収集部21は、溶接部表面撮影カメラ13および溶接部裏面撮影カメラ14で時々刻々撮影された画像を収集する。
【0031】
図3は、溶接部撮影カメラ画像収集部21で収集される画像の例を表している。
図3の下部から上部にかけて溶接ヘッド12が移動していく。溶接ヘッド12に追随するように、溶接部表面撮影カメラ13、あるいは、溶接部裏面撮影カメラ14が移動していく。溶接ヘッド12が通過した後は、溶接池B
d1が形成される。
【0032】
溶接部表面撮影カメラ13、あるいは、溶接部裏面撮影カメラ14は、
図3の点線箇所を撮影し、一例として
図3に示したような溶接光L
w1が映り込んだ画像を得る。溶接部裏面撮影カメラ14が得る画像を、便宜上、溶接部裏面撮影カメラ画像19とも称す。
【0033】
溶接部裏面撮影カメラ画像19は、コントラスト、明るさおよび露出などを調整することで、溶接光Lw1を適切に視認できるようにしておくのが望ましい。これらの調整は、溶接部撮影カメラ画像収集部21にて処理されてもよいし、溶接部表面撮影カメラ13、あるいは、溶接部裏面撮影カメラ14にて処理されてもよい。
【0034】
図21~
図23は、溶接状況に応じた溶接光L
w1の裏面への現れ方の違いを説明するための図である。
図21ではレーザ溶接の場合を例示している。
図21に示すように、先行材9aと後行材9bとの当接部位に適切に溶接レーザ光が当たっているときには、被溶接材9の表面と裏面とに溶接光L
w1が現れる。一方、
図22に示すように、当接部位から溶接レーザ光がずれると、表面には溶接光L
w1が現れるものの、裏面には溶接光L
w1が現れない。
図23に示すように、何らかの理由で、照射される溶接レーザ光の強度(エネルギ)が正常時よりもが弱まることがある。この場合、
図21の適切な場合と比べて、裏面に現れる溶接光L
w1の大きさや形状が小さくなる。
【0035】
なお、
図24に示すように、長さ方向に対して後行材9bの断面が斜めになっていることがある。この場合、斜めのギャップga1が生じてしまうので、溶接の途中で溶接レーザ光の当たり具合が変化する。この場合、溶接の途中で、裏面の溶接光Lw1の大きさや形状に明確な変化が現れやすい。
【0036】
上記の例ではレーザ溶接の場合を例示したが、アーク溶接においても同様の事情により裏面の溶接光Lw1に違いが現れる。
【0037】
このように、被溶接材9の裏面から撮影した溶接光Lw1は、溶接状況の良否に応じた違いが現れやすいという特徴を持つ。従って、この溶接光Lw1の現れ方の違いを特徴量として取り扱うことで、溶接の良不良を精度良く判定することができる。このような原理により、実施の形態では、被溶接材9の裏面における溶接状況に基づいて溶接状況を精度良く評価できる。
【0038】
溶接状況診断部23は、溶接制御情報収集部22と溶接部撮影カメラ画像収集部21で収集された情報をもとに、溶接状況を診断するための溶接光特徴量およびその統計量を計算し、溶接異常を診断する。溶接状況を診断するための溶接光特徴量およびその統計量の計算結果は、溶接状況情報データベース28へ格納される。
【0039】
溶接異常の診断は、例えば、溶接状況を診断するための溶接光特徴量およびその統計量と溶接異常診断基準を比較して、基準値を超えた場合に、溶接異常と判定する。ここで、例えば、溶接状況を診断するための溶接光特徴量およびその統計量は、溶接異常判定上下限値を予め定めた、溶接異常判定上下限テーブル24の所定の値と比較して、溶接異常を判定してもよい。
【0040】
図4は、溶接異常判定上下限テーブル24の例である。
図4に示すように、各種区分に応じて溶接異常判定上下限値の上限値と下限値とが設定されてもよい。各種区分は、先行材9aおよび後行材9bの鋼種と、先行材9aと後行材9bの平均板厚と、先行材9aと後行材9bとの間隙設定値などを含んでもよい。
【0041】
また、溶接異常判定に近い数値を検出したことを警告するための上限値と下限値(溶接異常警告上下限値)を異常と判定される範囲よりも狭い範囲で設定してもよい。または、第二の実施の形態で説明するように、溶接状況を診断するための溶接光特徴量およびその統計量を用いて計算された溶接異常判定上下限値をともに、溶接異常を判定してもよい。
【0042】
溶接異常と判定された場合、溶接異常アラーム部25にて、管理者へ警告を発信する。溶接状況出力部26は、時々刻々の溶接状況や、複数の溶接状況の結果などを出力する。この出力は、管理者が溶接を確認するための表示画面に表示してもよい。
【0043】
溶接状況診断部23は、撮影画像毎診断機能ブロック23Aと、溶接完了後診断機能ブロック23Bと、溶接傾向診断機能ブロック23Cとを有する。
【0044】
撮影画像毎診断機能ブロック23Aは、溶接工程の開始から終了までの間に時々刻々撮影した画像毎に、溶接状況を診断するための統計量を計算し、溶接の良不良を判定する。
【0045】
溶接完了後診断機能ブロック23Bは、被溶接材9の溶接が完了するたびに、前述した撮影画像毎診断機能ブロック23Aで計算した溶接状況を診断するための統計量を用いて、溶接一回における溶接状況を診断するための統計量を計算し、溶接の良不良を判定する。
【0046】
溶接傾向診断機能ブロック23Cは、溶接回数が、溶接システム起動後に所定の溶接本数Nを超えて以降に、溶接された時間が新しいものから任意の溶接本数Mでの溶接状況を診断するための統計量の傾向から溶接の良不良を判定する。
【0047】
いずれも機能も、溶接部撮影カメラ画像収集部21で収集された溶接部裏面撮影カメラ画像19と、溶接制御情報収集部22から収集された情報を入力源とする。
【0048】
図5は、それぞれの機能の実行手順をフロー図として表したものである。溶接の開始から終了までを判断するロジック(ステップS1)は、溶接シーケンスONを表す溶接の制御出力の情報の実績値により判断してもよい。あるいは、溶接部撮影カメラ画像収集部21から得られる溶接部表面撮影カメラ画像、または、溶接部裏面撮影カメラ画像19において、溶接光L
w1の存在確認により判断してもよい。
【0049】
溶接工程ONに応じて、撮影画像毎診断機能ブロック23Aが作動する。撮影画像毎診断機能ブロック23Aには、溶接制御情報データベース27を経由して、溶接制御情報収集部22で収集された情報が与えられている。
【0050】
撮影画像毎診断機能ブロック23Aは、時々刻々撮影された画像毎の溶接状況の分析結果を計算する。分析結果は、後述する「溶接光特徴量」を含む。この時々刻々の画像毎の分析結果は、溶接状況情報データベース28へ格納される。
【0051】
ステップS2は、溶接完了を判断するロジックを含む。ステップS2は、データベース更新がされたかどうかの判定も実施する。溶接完了後には、溶接完了後診断機能ブロック23Bが作動する。溶接完了後、溶接状況情報データベース28へ格納された時々刻々撮影された画像毎の溶接状況の分析結果(溶接光特徴量)は、溶接完了後診断機能ブロック23Bにて用いられる。
【0052】
溶接完了後診断機能ブロック23Bは、一回の溶接における溶接状況の分析結果を、溶接状況情報データベース28へ出力する。分析結果は、具体的には、溶接光特徴量から計算される統計量を含む。この統計量の詳細は後述される。
【0053】
なお、溶接完了を判断するロジック(ステップS2)は、前記溶接シーケンスONを表す溶接の制御出力の情報の実績値により判断してもよいし、溶接部撮影カメラ画像収集部21から得られる溶接部表面撮影カメラ画像、あるいは、溶接部裏面撮影カメラ画像19において、溶接光Lw1の存在確認により判断してもよい。
【0054】
ステップS1およびS2にて、溶接部撮影カメラ画像収集部21から得られる溶接部表面撮影カメラ画像、あるいは、溶接部裏面撮影カメラ画像19における溶接光Lw1の存在を判断する方法として、例えば、画像処理における以下の閾値処理を用いてもよい。画像の色空間の数値配列imgを、下記の式(1)および式(2)で表す。
【0055】
【0056】
【0057】
ここで、wは、画像の幅方向の画素数、hは画像の高さ方向の画素数、Iは、幅方向画素位置x、高さ方向画素位置yにおける画素値である。また、例として、色空間をRGB空間にて記述しているが、この限りではない。このとき、例えば、画像をグレースケール化した後に、全ての画素の平均値により閾値処理することで、溶接光Lw1の存在を判定することができる。
【0058】
【0059】
【0060】
ここで、NoWeldingは、溶接の開始から終了までの判断である。Id(x,y)は、幅方向画素位置xと高さ方向画素位置yとにおけるグレースケール後の画素値である。なお、ここで示したId(x,y)を算出するための各係数は、アナログ信号とデジタル信号の変換に係る国際規格であるITU-R BT.601(Studio encoding parameters of digital television for standard 4:3 and wide screen 16:9 aspect ratios International Telecommunication Union)にて定められたものである。ただし、各係数は他の規格に依拠してもよい。
【0061】
ただし、上記平均値を用いた方法は、一例である。平均値に限られず各種の公知の閾値処理が適用されてもよい。
【0062】
また、溶接光Lw1は明滅するので、必ずしも溶接中のすべての画像において溶接光Lw1が確認できるとは限らないため、任意の枚数の画像を用いた判断が望ましい。
【0063】
次に、システム起動からの溶接本数がN以上であるか否かが判定される(ステップS3)。N以上でなければ今回のルーチンが終了する。
【0064】
ステップS3で溶接本数がN以上であると判定された場合には、溶接傾向診断機能ブロック23Cが作動する。溶接傾向診断機能ブロック23Cは、溶接状況情報データベース28から、溶接本数J(J≧N)の溶接状況を診断するための溶接光特徴量に基づく統計量を受け取る。
【0065】
<撮影画像毎診断機能>
撮影画像毎診断機能ブロック23Aについて、
図6のフロー図を用いて説明する。まず、溶接部裏面撮影カメラ画像19が取得される。取得した溶接部裏面撮影カメラ画像19中に存在する溶接光L
w1以外の光源を除去し、溶接光L
w1に該当する部分と、それ以外の部分で二値化する(ステップS101)。
【0066】
溶接光Lw1のみを抽出する方法の一例として、ガウシアンフィルタと大津の二値化を適用する場合を示す。ガウシアンフィルタは、ガウス分布gにより近傍画素値に重みづけをして、画像を平滑化する。
【0067】
【0068】
ガウシアンフィルタにより平滑化した画像に対して、大津の二値化処理を適用する。大津の二値化処理は、画像内の画素値の最大値と最小値の範囲内で分離の度合いが最も大きくなる閾値を算出する。算出した閾値により、画素値を二値化する。
【0069】
上記の処理は一例であり、他の変形例も可能である。変形例として、平均値フィルタリングを用いてもよく、メディアンフィルタリングによる平滑化を用いてもよく、或いは、適応型二値化などの処理の適用も可能である。
【0070】
溶接光Lw1を抽出した画像から、溶接光Lw1の輪郭を算出する(ステップS102)。輪郭の抽出方法は、一次微分フィルタまたはラプラシアンフィルタなどのフィルタリング処理を適用する方法でもよい。あるいは、輪郭の抽出方法は、単に、二値化処理により得られた一方の数値に属する面積が最大となる輪郭を抽出する方法でもよい。いずれの方法においても、溶接光Lw1の輪郭を表すための画素位置群が得られる。
【0071】
実施の形態では、溶接光Lw1の輪郭を表す画素位置群を用いて、溶接光Lw1の特徴を表す溶接光特徴量が算出される(ステップS103)。溶接光特徴量は、溶接光Lw1の輪郭形状で表される図形の特徴を数値で表している。
【0072】
例えば、以下のような様々な溶接光特徴量を用いることができる。溶接光特徴量は、溶接光Lw1の空間モーメントでもよく、溶接光Lw1の面積でもよく、溶接光Lw1の重心でもよく、溶接光Lw1の周長でもよく、溶接光Lw1のスパーク粗さでもよく、溶接光Lw1の真円度でもよい。
【0073】
溶接光Lw1の空間モーメントmijfは、下記の式(6)で計算されてもよい。溶接光Lw1の面積Afは、下記の式(7)で計算されてもよい。溶接光Lw1の重心Cfは、下記の式(8)で計算されてもよい。溶接光Lw1の周長Pfは、下記の式(9)で計算されてもよい。溶接光Lw1のスパーク粗さRfは、下記の式(10)で計算されてもよい。溶接光Lw1の真円度Circfは、下記の式(11)で計算されてもよい。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
ここで、m10f、m01fは、それぞれ、画像の幅方向および高さ方向の空間一次モーメントである。添え字fは、溶接開始から終了までにおける画像枚数(f=1toF,F:溶接終了画像)である。溶接光特徴量は、少なくとも、溶接光Lw1の面積と、溶接光Lw1の周長と、溶接光Lw1の重心と、溶接光Lw1の真円度とを含むことが望ましい。
【0081】
上記の各溶接光特徴量のみに限定されず、他の量を用いてもよい。
図25は、溶接光特徴量のバリエーションを示す図である。
図25の溶接光Lw1は、重心Gに対して紙面左右に伸びる第一部分と第二部分とを含んでいる。重心Gから第一部分までの距離をr1とし、重心Gから第二部分までの距離をr2とする。このr1とr2との差分の絶対値をr
brとする。このr
brが溶接光特徴量として用いられてもよい。
【0082】
溶接光特徴量は、溶接状況情報データベース28へ格納される(ステップS104)。格納時に、溶接光特徴量は、溶接制御情報収集部22から得られる溶接条件を設定するために用いられる情報に紐づけられる。また、溶接制御情報収集部22から得られる溶接の制御出力の情報の実績値とともに、溶接光特徴量が格納される。つまり、
図7に示すテーブルのように、溶接条件を設定するために用いられる情報に紐づけられた所定のテーブルに、時々刻々の溶接光特徴量と溶接の制御出力の情報の実績値が格納される。
【0083】
得られた溶接光特徴量から、取得した溶接部裏面撮影カメラ画像19における溶接の良不良を評価・診断する。実施の形態では、まず、溶接異常判定基準が取得される(ステップS105)。
【0084】
一例として、評価・診断に、溶接異常判定基準の一例である溶接異常判定上下限値が用いられる。溶接異常判定上下限テーブル24には、溶接異常判定上下限値が予め記憶されている。溶接制御情報収集部22から得られる溶接条件設定情報のうち、先行材9aおよび後行材9bの鋼種と、先行材9aと後行材9bの平均板厚と、先行材9aと後行材9bの間隙の設定値とが、テーブル参照用パラメータに用いられてもよい。テーブル参照用パラメータに基づいて溶接異常判定上下限テーブル24の該当区分が参照され、溶接異常判定上下限値の溶接異常判定上下限値が取得される。
【0085】
ここで、溶接異常警告上下限値を設けている場合、溶接異常判定上下限値と同時にこれを取得してもよい。
【0086】
溶接異常警告上下限値を設けている場合、各溶接光特徴量と、それぞれに対応する溶接異常警告上下限値とが比較される(ステップS106)。さらに、各溶接光特徴量と、それぞれに対応する溶接異常判定上下限値とが比較される(ステップS107)。
【0087】
各溶接光特徴量が溶接異常警告上下限値を超えており溶接異常上下限値は超えていないときには、溶接異常に近い状態であることを警告通知する(ステップS108)。各溶接光Lw1の特徴が溶接異常上下限値を超えたときには、溶接異常と判定され、溶接異常が通知される(ステップS109)。このとき、溶接不良判定に使用する溶接光特徴量は、いずれかひとつに限定してもよいし、複数選択してもよい。
【0088】
ただし、時々刻々取得した溶接部裏面撮影カメラ画像19から得られた溶接光特徴量を用いた溶接異常判定では、種々の外乱による極端な数値の出力もあるため、溶接異常を管理者へ通知する手段としては、必ずしも有効とは言えない。
【0089】
そこで、変形例として、
図8Aおよび
図8Bの組み合わせに記載されたフロー図が提供される。便宜上、
図8Aと
図8Bとをまとめて
図8と称することがある。
図8Aのフローでは、ステップS104のあとにステップS200~S203が追加されることで、任意の画像枚数区間(F
r)における溶接光特徴量が取得される。次に、ステップS203で取得した複数の溶接光特徴量の平均値あるいは中央値などを用いて平滑化が行われ(ステップS204)、溶接異常判定基準が取得される(ステップS205)。平滑化のあとに溶接異常を判定してもよい。
【0090】
図9は、時々刻々の溶接光特徴量Aと溶接異常判定上下限値A
err1、A
err2および溶接異常警告上下限値A
wrn1、A
wrn2の例を示す。溶接光特徴量Aは、前述した空間モーメントおよび面積などの各種の量から任意に選択される。横軸は、溶接の終始における画像枚数である。
【0091】
溶接開始から終了までの中間にて、溶接光特徴量Aが溶接異常警告下限値Awrn2を下回るため、管理者へ警告通知する。その後、さらに、溶接光特徴量Aが溶接異常判定下限値Aerr2を下回るため、溶接異常を通知することとなる。
【0092】
<溶接完了後診断機能>
次に、溶接完了後診断機能ブロック23Bについて説明する。溶接完了後診断機能ブロック23Bの処理フローを
図10に示す。溶接完了とともに、溶接状況情報データベース28から、完了した溶接の時々刻々の溶接光特徴量を取得する(ステップS300)。このとき、収集した時々刻々の溶接光特徴量の内、任意の画像枚数間の溶接光特徴量を取り出してもよいし、任意の画像枚数区間における移動平均や移動中央値により取り出してもよい。
【0093】
次に、実施の形態では、収集した時々刻々の溶接光特徴量それぞれについての統計量が計算される(ステップS301)。統計量を得ることで、時々刻々の溶接光特徴量を、一溶接回数毎の特徴に落とし込む。
【0094】
ここで述べる統計量は、平均値であってもよく、標準偏差であってもよく、分散であってもよく、最大値であってもよく、最小値であってもよく、歪度であってもよく、尖度であってもよく、中央値であってもよい。
【0095】
統計量は、一般的に知られている以下の数式(12)~(19)により計算されてもよい。
【0096】
【0097】
標準偏差σは、下記の式(13)で計算されてもよい。分散s2は、下記の式(14)で計算されてもよい。最大値は、下記の式(15)で計算されてもよい。最小値は、下記の式(16)で計算されてもよい。歪度β1は、下記の式(17)で計算されてもよい。尖度β2は、下記の式(18)で計算されてもよい。中央値は、下記の式(19)で計算されてもよい。
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
溶接光Lw1の特徴のひとつは、下記の式(20)で表される。式(6)~(11)で例示したような上述した様々な溶接光特徴量から、任意の種類の溶接光特徴量が選択される。選択された溶接光特徴量の統計量が計算される。
【0107】
【0108】
ここで、fは、溶接開始から終了までにおける画像枚数(f=0toF、F:溶接終了画像)である。
【0109】
次に、算出した溶接光特徴量の統計量は、溶接制御情報収集部22から得られる溶接条件を設定するために用いられる情報に紐づけられて、溶接状況情報データベース28へ格納される(ステップS302)。
【0110】
次に、溶接光特徴量の統計量から、溶接終始における溶接の良不良を評価・診断する。ここでは、溶接異常判定基準が取得される(ステップS105)。溶接終始における溶接の良不良の評価・診断は、撮影画像毎診断機能ブロック23Aが行った処理と同様に、溶接異常判定上下限テーブル24から溶接異常判定上下限値を取得し、上下限値との比較による評価、溶接異常を判定する(ステップS105~S109)。
【0111】
溶接光特徴量の統計量を用いた溶接終始における溶接異常判定用の溶接異常判定上下限テーブル24には、統計量それぞれに対応した上下限値が設けられる。また、溶接不良判定に使用する溶接光特徴量とその統計量は、いずれかひとつに限定してもよいし、複数選択されてもよい。
【0112】
<溶接傾向診断機能>
次に、溶接傾向診断機能ブロック23Cについて説明する。
図11は、溶接傾向診断機能ブロック23Cの処理フローである。溶接傾向診断機能ブロック23Cでは、まず、溶接状況情報データベース28から、任意の溶接本数M分の溶接光特徴量の統計量を取得する(ステップS400)。任意の溶接本数Mは、比較的多数とすることが望ましい。
【0113】
図12は、取得した任意の溶接本数M分の溶接光特徴量の統計量の傾向例を示す。
図12には、ある溶接光特徴量Cの統計量C
dが図示されている。
図12には、統計量C
dに対する溶接異常判定上限値C
d
err1と溶接異常判定下限値C
d
err2と溶接異常警告上限値C
d
wrn1と溶接異常警告下限値C
d
wrn2と回帰直線L
C
d
,statとが例示されている。
【0114】
次に、取得した溶接本数M分の溶接光特徴量の統計量について、溶接状況情報データベース28で定めた区分ごとに、回帰直線を得る(ステップS401)。溶接光特徴量の統計量の回帰直線は、下記の式(21)で計算されてもよい。
【0115】
【0116】
ここで、featは溶接光Lw1の特徴であり、statは統計量であり、afeat,statは回帰直線の傾きであり、bfeat,statは回帰直線の切片である。
【0117】
これにより、回帰直線の傾きが得られる(ステップS402)。得られた回帰直線の傾きより、溶接光Lw1の特徴の長期傾向を評価・診断する。撮影画像毎診断機能ブロック23Aおよび溶接完了後診断機能ブロック23Bと同様に、溶接異常判定上下限値を予め定めた溶接異常判定上下限テーブル24から、溶接光Lw1の特徴、統計量に対応する溶接傾向に対する溶接異常判定上下限値の上下限値を取得する(ステップS403)。
【0118】
回帰直線の傾きが溶接傾向異常における溶接異常判定上下限値の上下限値を超えている場合、第一条件が成立している(ステップS404)。溶接時間の新しい溶接からP本さかのぼった本数分の溶接光Lw1の特徴が、溶接異常判定上下限値の上下限値を超えている場合、第二条件が成立している(ステップS405)。これら第一条件と第二条件との両方が成立した場合、溶接光Lw1の特徴に関する傾向に長期的な変化があると診断される。診断結果は外部へ通知される(ステップS406)。
【0119】
例えば、長期的な使用による溶接部裏面撮影カメラ14のレンズの汚れは、溶接光Lw1の真円度の傾向変化をとらえればよい。また、溶接光特徴量は、溶接光Lw1の面積あるいは周長を含んでいる。これらの溶接光特徴量の傾向変化における回帰直線の傾きが減少傾向にあれば、溶接出力における異常の恐れがあることがわかる。特に、溶接システムが、レーザ溶接であった場合は、レーザ出力元の保護ガラスが汚れている可能性を示唆することもできる。
【0120】
第二の実施の形態.
次に、第二の実施の形態について説明する。なお、第一の実施の形態と重複する箇所は説明を省略する。第一の実施の形態では、種々の溶接異常判定上下限値を予め設定した数値として取得し、溶接異常判定に用いている。これに対し、第二の実施の形態では、種々の溶接異常判定上下限値を計算により求める。
【0121】
【0122】
撮影画像毎診断機能ブロック23Aでは、任意の画像枚数区間Rにおいて取得した溶接光特徴量から、溶接光特徴量の1次微分成分を計算し(つまり、区間Rにおける溶接光特徴量の勾配である)、その変化により、溶接の良不良を評価・診断する。ここで、Rは、1回の溶接の終始の間で、比較的長い区間とするとよい。また、第一の実施の形態でも説明したように、時々刻々取得した溶接部裏面撮影カメラ画像19から得られた溶接光特徴量は、種々の外乱による極端な数値の出力もあるため、別の任意の画像枚数区間(Fd
r)で平滑化した溶接光特徴量を使用して、1次微分を計算してもよい。ただしこの場合、R>Fd
rとする必要がある。
【0123】
図13では、前述したステップS101~S104の処理が実行されたあと、ステップS500で画像枚数カウント用の識別子FrmCntと、所定値Rとが比較される。
図13のステップS503の手前までは、第一の実施の形態と同様の処理をする。ステップS503では、Rにおいて、溶接光特徴量を取得する。取得した溶接光特徴量は、任意の画像取得区間F
drで平滑化されてもよい(ステップS504)。
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
直近の勾配Qkとその一つ前の勾配Qk-1とが比較される。ここで、画像枚数区間位置kは、1回の溶接の終始における画像枚数区間位置の数(k=0toK(K=F/R、F:溶接終了画像))である。
【0129】
溶接光特徴量の勾配の取得例を
図14に示す。画像枚数区間位置k、k-1、k-2それぞれと、位置kにおける勾配Q
kと、位置k-1における勾配Q
k-1とが図示されている。
【0130】
これらの勾配の差が任意の閾値(Dgrad)を超えた場合に、溶接光特徴量に有意な変化が生じたと判定される(ステップS506)。この場合、管理者へ溶接異常を通知する(ステップS109)。
【0131】
<溶接完了後診断機能>
第二の実施の形態における溶接完了後診断機能ブロック23Bでは、品質管理手法のひとつである管理図を適用する。管理図では、一般に、上方管理限界および下方管理限界を3σ(σ:標準偏差)として、それらを超えた場合に異常と判定する。
【0132】
第二の実施の形態における溶接完了後診断機能ブロック23Bでは、正常に溶接が完了した場合の溶接光特徴量を用いて、時系列毎に溶接光特徴量に対する上方管理限界および下方管理限界を計算する。これらの管理限界を溶接異常判定上下限値として使用して、溶接の良不良を診断する。
【0133】
ただし、溶接毎に、溶接の良不良を示す符号を予め付与していく必要がある。この符号の付与は、管理者が行ってもよく、第一の実施の形態における診断手法の結果として行われてもよく、他の溶接良不良判定設備(例えば、ビード検査装置など)により行われてもよい。
【0134】
図15Aおよび
図15Bは、第二の実施の形態における溶接完了後診断機能ブロック23Bのフロー図である。
図15Aと
図15Bとをまとめて
図15と称することがある。溶接完了後、溶接が正常であった場合の溶接本数が、N
d本以上かどうかを確認する(ステップS600)。
【0135】
Nd本を下回る場合は、第一の実施の形態における溶接完了後診断機能ブロック23Bと同様の処理をする。
【0136】
Nd本以上である場合、溶接が正常であった溶接本数のうち、任意の溶接本数Md本における溶接光特徴量が取得される(ステップS601)。
【0137】
収集された溶接光特徴量から、画像枚数毎に上方管理限界および下方管理限界を計算する(ステップS602)。上方管理限界および下方管理限界は、例えば、シューハート管理図における上方管理限界および下方管理限界の定義(JIS Z 9020-2:2016 管理図―第2部:シューハート管理図)に従って計算されてもよい。具体的には、以下の式(22)~(25a)および(25b)が用いられてもよい。
【0138】
上方管理限界UCLiは、下記の式(22)で計算されてもよい。下方管理限界LCLiは、下記の式(23)で計算されてもよい。正規化した画像枚数iにおける溶接光Lw1の特徴の平均値は、下記の式(24)で計算されてもよい。正規化した画像枚数iにおける溶接光Lw1の特徴の標準偏差は、下記の式(25a)で計算されてもよい。
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
ここで、iは正規化した画像枚数(i=0toId)である。
【0145】
【0146】
σiは、正規化した画像枚数iにおける溶接本数Md本の標準偏差である。画像枚数は、それぞれの溶接の条件によって異なる場合があるので、正規化した画像枚数に対応する溶接光特徴量を、近似値などから得て補完してもよい。この場合、例えば、単なる線形補完を用いてもよく、スプライン関数による補完などを用いてもよい。
【0147】
また、ここでは、上方管理限界および下方管理限界を、3σとしている。しかし、変形例として、3σではなく2σなどとしてもよく、上下限の設定を変更してもよい。
【0148】
また、上方管理限界および下方管理限界は、溶接異常判定上下限テーブル24と同様の区分毎に設定してもよい。溶接異常判定上下限テーブル24の区分は、溶接制御情報収集部22の溶接条件設定情報から得られる先行材9aおよび後行材9bの鋼種、先行材9aと後行材9bの平均板厚、先行材9aと後行材9bの間隙の設定値などである。
【0149】
得られた上方管理限界および下方管理限界が溶接異常判定基準としてセットされることで、溶接の良不良の判定に使用される(ステップS603)。すなわち、上方管理限界および下方管理限界を超えた点数が多い場合、溶接異常と判定し、管理者へ溶接異常を通知する。
【0150】
溶接光特徴量と各時系列に該当する上方管理限界および下方管理限界の例を
図16に示す。
図16には、ある溶接光特徴量Dの上方管理限界D
m1と、下方管理限界D
m2とが図示されている。第一溶接例D
ex1は、上方管理限界D
m1を超えた場合を例示している。第二溶接例D
ex2は、正常に溶接が完了した例である。なお正規化した画像枚数iはI
dである。
【0151】
<溶接傾向診断機能>
第二の実施の形態における溶接傾向診断機能ブロック23Cでは、第二の実施の形態における溶接完了後診断機能ブロック23Bと同様に、管理図における上方管理限界および下方管理限界を溶接異常判定上下限値に用いる。
【0152】
図17Aおよび
図17Bは、第二の実施の形態における溶接傾向診断機能ブロック23Cの処理に関するフロー図を示す。
図17Aと
図17Bとをまとめて
図17と称することがある。第二の実施の形態では、溶接完了後診断機能ブロック23Bが、正常に溶接が完了した本数がN
d本以上であるかどうかを判定する(ステップS600)。
【0153】
正常に溶接が完了した本数がN
d本以上である場合には、溶接が正常であった溶接本数のうち、任意の溶接本数M
d本における溶接光特徴量の統計量が取得される(ステップS601)。さらに、取得した統計量から、上方管理限界および下方管理限界が計算される(ステップS702)。これらの管理限界が溶接異常判定基準としてセットされる(ステップS603)。その後、
図11のフロー図と同様にステップS400~S406の処理が実行される。
【0154】
すなわち、
図18のように、ある溶接本数に対して上方管理限界D
d
mx1および下方管理限界D
d
mx2が一意に定まる。得られた上方管理限界D
d
mx1および下方管理限界D
d
mx2を溶接異常判定上下限値に用いて、溶接の良不良を評価する。
【0155】
なお、溶接異常判定上下限値の決定手法の一つとして、管理図より得られる上方管理限界および下方管理限界を示したが、必ずしもこれに限定されるわけではなく、例えば、パターン認識のような手法を用いてもよい。
【0156】
この場合、ある溶接本数Mddにおいて、溶接毎に得られる溶接光特徴量間の距離を計算し、その距離も基づき、正常に溶接が完了した場合と、溶接異常となった場合の境界を求める。ここで、溶接本数Mddは、溶接の良不良に係らず溶接が完了した本数である。溶接毎に得られた各溶接光特徴量の間の距離は、例えば、平均二乗誤差などで求めてもよく、例えば以下の式(26)で計算されてもよい。
【0157】
【0158】
ここで、ds,tは、溶接本数Mdd内の、s番目の溶接における溶接光特徴量とt番目の溶接における溶接光特徴量との間の距離(s>t,s,t=1toMdd)である。平均二乗誤差は、一例であって、他の方法によって特徴量間の距離を計算してもよい。正常に溶接が完了した場合と、溶接異常となった場合の境界をもとに、溶接の良不良を判定する。
【0159】
境界を求める方法には、様々な機械学習を用いてもよい。例えば、サポートベクターマシンやニューラルネットワークなどを用いて、正常に溶接が完了した場合と溶接異常となった場合の境界を求めてもよい。
【0160】
第三の実施の形態.
第三の実施の形態では、撮影画像毎診断機能ブロック23Aが、溶接工程の開始から終了までの間に時々刻々撮影した画像毎に計算した溶接状況を診断するための溶接光特徴量から溶接の制御出力の情報を補正する。
【0161】
制御出力には、溶接ヘッド12に供給される電力や、溶接ヘッド12の移動速度、ギャップがある。 例えば、溶接システムが、アーク溶接であった場合、溶接トーチの送り速度が補正対象に含まれてもよい。他の各種の制御出力が補正対象とされてもよい。これらの制御出力は、溶接システム10における「溶接条件設定値」である。
【0162】
第三の実施の形態について、
図19Aと
図19Bとの組み合わせにより説明する。
図19Aと
図19Bとをまとめて
図19と称することがある。なお、第一の実施の形態および第二の実施の形態と重複する箇所は、言及しない。
【0163】
図19のフロー図では、
図8で述べたのと同様に、ステップS100~S104およびステップS200~S204が実行される。第三の実施の形態における撮影画像毎診断機能ブロック23Aでは、取得した溶接部裏面撮影カメラ画像19から得られた溶接光特徴量と、一致する画像枚数における、溶接本数W本分の溶接光特徴量の平均値の差から、溶接の制御出力の情報への補正量を計算し、対象の制御出力へ補正を加える(ステップS800~S802)。このとき、制御対象への補正量は、例えば、以下の式(27)の計算式で与えられてもよい。
【0164】
【0165】
ここで、αSは、対象の制御出力に対する補正係数である。curは、当該溶接における溶接開始からの画像枚数である。fmatchは、curと一致する画像枚数である。
【0166】
例えば、対象の制御出力を、溶接ヘッド12に供給される電力とする。このとき、溶接光特徴量のひとつとして、例えば面積を用いる。この面積が、ある時刻curdにおいて、fmatch
dにおける溶接光Lw1の面積の溶接本数W本の平均値よりも小さくなった場合を想定する。この場合、溶接光Lw1の面積を一定とするように、溶接ヘッド12に供給される電力を、補正量分だけ大きくしてもよい。
【0167】
例えば、対象の制御出力を、溶接ヘッド12の移動速度とする。このとき、溶接光特徴量のひとつとして、例えば周長を用いる。この周長が、ある時刻curddにおいて、fmatch
ddにおける溶接光Lw1の周長の溶接本数W本の平均値よりも小さくなった場合を想定する。この場合、溶接光Lw1の周長を一定とするように、溶接ヘッド12の移動速度を、補正量分遅くしてもよい。
【0168】
また、制御出力への補正係数は、溶接制御情報収集部22から得られる溶接条件を設定するために用いられる情報から得られる先行材9aおよび後行材9bの鋼種、先行材9aと後行材9bの平均板厚、先行材9aと後行材9bの間隙の設定値などを区分とする溶接異常判定上下限テーブル24と同様の区分毎に設けることが望ましい。さらに、対象の制御出力は、必ずしも、1つではなく、複数としてもよい。
【0169】
時々刻々の溶接光特徴量をもとに、制御出力に補正量を加えるが、溶接光Lw1の特徴が、溶接異常警告上下限値を超えた場合は、第一の実施の形態と同様に、管理者へ警告通知する。さらに、溶接異常判定上下限値を超えた場合は、溶接異常を通知する。
【0170】
以上説明したように、実施の形態に係る溶接異常診断装置20は、被溶接材9の裏面を撮影した映像から得られた溶接時の発光(すなわち溶接光)の特徴を利用して溶接状況を分析し、溶接中および溶接後に、溶接の良不良を判定する。溶接中に判定した溶接の良不良状態から溶接条件を自動調整し、その後の溶接状態を良好とする。さらに、溶接後に、溶接中の良不良判定の分析に使用した判断基準と、溶接条件を利用して、溶接状況を予測するとともに、溶接不良に起因する状況を回避すべく管理者へ措置勧告する。
【0171】
なお、実施の形態では被溶接材9の裏面に対して溶接光に基づく溶接状況診断が適用されているが、被溶接材9の表面に対して実施の形態の溶接状況診断が適用されてもよい。
【0172】
なお、実施の形態にかかる溶接異常診断装置20が実行する各フローチャートの処理ステップを方法ステップとして読み替えることによって実施の形態にかかる溶接異常診断方法が提供されてもよい。
【符号の説明】
【0173】
9 被溶接材、9a 先行材、9b 後行材、10 溶接システム、12 溶接ヘッド、13 溶接部表面撮影カメラ、14 溶接部裏面撮影カメラ、15 制御装置、16 出力装置、19 溶接部裏面撮影カメラ画像、20 溶接異常診断装置、21 溶接部撮影カメラ画像収集部、22 溶接制御情報収集部、23 溶接状況診断部、23A 撮影画像毎診断機能ブロック、23B 溶接完了後診断機能ブロック、23C 溶接傾向診断機能ブロック、24 溶接異常判定上下限テーブル、25 溶接異常アラーム部、26 溶接状況出力部、27 溶接制御情報データベース、28 溶接状況情報データベース、A、C、D 溶接光特徴量、Cd、Dd 統計量、Aerr1、Cd
err1 溶接異常判定上限値、Aerr2、Cd
err2 溶接異常判定下限値、Awrn1、Cd
wrn1 溶接異常警告上限値、Awrn2、Cd
wrn2 溶接異常警告下限値、Bd1 溶接池、Dm1、Dd
mx1、UCLi 上方管理限界、Dm2、Dd
mx2、LCLi 下方管理限界、Fdr 画像取得区間、FrmCnt 画像枚数識別子、LC
d 回帰直線、Lw1 溶接光、Qk、Qk-1 勾配、x 幅方向画素位置、y 高さ方向画素位置