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特許7184214炭化水素改質触媒および炭化水素改質装置
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  • 特許-炭化水素改質触媒および炭化水素改質装置 図1
  • 特許-炭化水素改質触媒および炭化水素改質装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】炭化水素改質触媒および炭化水素改質装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/63 20060101AFI20221129BHJP
   B01J 23/58 20060101ALI20221129BHJP
   B01J 27/232 20060101ALI20221129BHJP
   C01B 3/38 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
B01J23/63 M
B01J23/58 M
B01J27/232 M
C01B3/38
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021569738
(86)(22)【出願日】2020-11-04
(86)【国際出願番号】 JP2020041152
(87)【国際公開番号】W WO2021140733
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2020000916
(32)【優先日】2020-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100130638
【弁理士】
【氏名又は名称】野末 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100092071
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 均
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀人
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/027727(WO,A1)
【文献】特開2013-237049(JP,A)
【文献】特開2003-190792(JP,A)
【文献】特開平07-080310(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C01B 3/00 - 3/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系ガスから水素と一酸化炭素とを含む合成ガスを生成する際に用いられる触媒であって、
ペロブスカイト構造を有する複合酸化物を含み、
前記複合酸化物は、SrZrO3を主成分とする結晶相を有し、かつ、Ruを含むことを特徴とする炭化水素改質触媒。
【請求項2】
Srに対するRuのモル比は、0.01以上0.38以下であることを特徴とする請求項1に記載の炭化水素改質触媒。
【請求項3】
前記複合酸化物は、さらにSrCeO3を主成分とする結晶相を有することを特徴とする請求項1または2に記載の炭化水素改質触媒。
【請求項4】
前記複合酸化物は、Yをさらに含むことを特徴とする請求項3に記載の炭化水素改質触媒。
【請求項5】
Ceに対するYのモル比は、0.6以下であることを特徴とする請求項4に記載の炭化水素改質触媒。
【請求項6】
前記複合酸化物は、Yを含まないことを特徴とする請求項3に記載の炭化水素改質触媒。
【請求項7】
前記複合酸化物は、Yをさらに含むが、Ceは含まないことを特徴とする請求項1または2に記載の炭化水素改質触媒。
【請求項8】
前記複合酸化物は、CeおよびYのうちの少なくとも一方をさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載の炭化水素改質触媒。
【請求項9】
少なくとも炭化水素を含む被処理ガスが流通する管と、
前記管の内部の、前記被処理ガスと接触する位置に配置される、請求項1~8のいずれかに記載の炭化水素改質触媒と、
を備えることを特徴とする炭化水素改質装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素系ガスから水素と一酸化炭素とを含む合成ガスを生成する際に用いられる炭化水素改質触媒、および、そのような炭化水素改質触媒を備えた炭化水素改質装置に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒を用いて、炭化水素系ガスから水素と一酸化炭素とを含む合成ガスを得る方法が知られている。炭化水素系ガスの改質反応に用いる触媒として、アルミナなどの基体にニッケルを担持させたニッケル系触媒、ルテニウムを担持させたルテニウム系触媒(特許文献1参照)、アルミナなどの基体にロジウムを担持させたロジウム系触媒(特許文献2参照)などが知られている。
【0003】
また、炭素析出の抑制と低温での活性向上を目的に、ペロブスカイト型化合物であるアルミン酸ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムを用いた担体上に、ロジウム、コバルト、およびニッケルを活性成分として担持させた触媒が知られている(特許文献3参照)。
【0004】
一般的な金属担持触媒の製造方法として、担体となる酸化物を金属塩などの溶液に侵した後、熱処理を行うことで担体表面に活性金属を分散させる含侵法が知られている(特許文献1~3)。
【0005】
なお、担体成分は高い熱安定性や強度が求められるため、高温で熱処理を行うことで十分に焼結されるのに対して、担持金属は高い活性を得るために分散性を維持する必要がある。したがって、熱処理工程における凝集を最低限に抑えるために、上記の含侵法のように、担体の合成とは別の製造工程を用い、比較的低温の熱処理条件において担体上に固定されている。
【0006】
しかしながら、含侵法により製造した触媒は、高い金属分散性を維持できるものの、担体成分の合成工程とは別に、金属成分を担持する含侵工程が必要となる。また、金属成分は比較的低温の熱処理により固着されるため、金属と担体との間の結合が弱く、炭素析出による活性低下が問題となる。
【0007】
このため、含浸工程を用いない触媒の製造方法として、固相合成によりBaNiY25を含有する複合酸化物を合成することにより、Ni成分の分散性を向上させる方法が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平8-231204号公報
【文献】特開平9-168740号公報
【文献】特開2006-346598号公報
【文献】特開2015-136668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献4に記載の触媒は、炭素析出を抑制することができるが、活性が十分に高いとは言えず、改善の余地がある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するものであり、活性が高い炭化水素改質触媒、および、そのような炭化水素改質触媒を備えた炭化水素改質装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の炭化水素改質触媒は、炭化水素系ガスから水素と一酸化炭素とを含む合成ガスを生成する際に用いられる触媒であって、
ペロブスカイト構造を有する複合酸化物を含み、
前記複合酸化物は、SrZrO3を主成分とする結晶相を有し、かつ、Ruを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、活性の高い炭化水素改質触媒、および、そのような炭化水素改質触媒を備えた炭化水素改質装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】炭化水素改質装置の概略構成を示す図である。
図2】実施例10および15と、比較例3の炭化水素改質触媒のX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施形態を示して、本発明の特徴を具体的に説明する。
【0015】
本発明による炭化水素改質触媒は、炭化水素系ガスから水素と一酸化炭素とを含む合成ガスを生成する際に用いられる触媒であって、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物を含み、複合酸化物は、SrZrO3を主成分とする結晶相を有し、かつ、Ruを含むという要件(以下、本発明の要件と呼ぶ)を満たす。
【0016】
被処理ガスである炭化水素系ガスとして、例えば、プロパンを主成分とするプロパンガスや、メタンを主成分とする天然ガスを用いることができる。また、ガソリンや灯油、メタノールやエタノールなどの液状炭化水素を気化させて得られる炭化水素系ガスを用いることもできる。
【0017】
炭化水素系ガスから水素と一酸化炭素とを含む合成ガスを生成する反応を、プロパンガスの水蒸気改質を例に挙げて説明する。プロパンガスの水蒸気改質は、次式(1)で示される。
38+3H2O → 7H2+3CO (1)
【0018】
ただし、炭化水素系ガスから水素と一酸化炭素とを含む合成ガスを生成する方法が水蒸気改質に限定されることはない。例えば、水蒸気の他に、酸素や二酸化炭素、またはこれらの混合物を含んでいてもよい。二酸化炭素を含む場合の改質反応は、次式(2)で示される。
38+3CO2 → 4H2+6CO (2)
【0019】
図1は、少なくとも炭化水素を含む被処理ガスから水素と一酸化炭素とを含む合成ガスを生成する炭化水素改質装置100の概略構成を示す図である。炭化水素改質装置100は、被処理ガスが流通する管1と、管1を流通する被処理ガスを加熱する加熱部2と、管1の内部の、被処理ガスと接触する位置に配置された炭化水素改質触媒3とを備える。炭化水素改質触媒3は、本発明の要件を満たす触媒であって、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物を含み、複合酸化物は、SrZrO3を主成分とする結晶相を有し、かつ、Ruを含む。なお、被処理ガス自体が十分に高温である場合には、加熱部2を省略することができる。
【0020】
管1の上流側には、ガス供給管4が接続されている。ガス供給管4には、炭化水素供給源6から炭化水素が供給される。ただし、炭化水素供給源6は、ガス供給管4の前段に設けられていてもよい。また、炭化水素供給源6から供給される炭化水素には、他の成分が含まれていてもよい。
【0021】
管1の下流側には、改質により得られる水素と一酸化炭素とを含む合成ガスを排出するためのガス排出管5が接続されている。ガス排出管5には、水素取り出し口7が設けられており、合成ガスに含まれる水素を取り出すことができるように構成されている。例えば、ガス排出管5内にCO変成器を設けて、合成ガスに含まれる一酸化炭素を除去し、水素取り出し口7から水素を取り出すようにしてもよい。
【0022】
(実施例1~4)
炭化水素改質触媒の材料として、SrCO3、ZrO2、CeO2、および、RuO2を用意し、Sr:Zr:Ce:Ruのモル比が表1に示す割合となるように秤量し、玉石と水とバインダーを加えて湿式混合し、混合物を得た。得られた混合物をオーブン内で120℃の温度で乾燥させた後、粉砕、分級することによって、約2mmの大きさの粒状とした。その後、粒状試料を空気中で1000℃、1時間の条件で焼成することにより、実施例1~4の炭化水素改質触媒を得た。
【0023】
実施例1~4の炭化水素改質触媒は、本発明の要件を満たす触媒である。表1に示すように、実施例1~4の炭化水素改質触媒は、Sr、Zr、Ce、および、Ruを含む。実施例1~4の炭化水素改質触媒はそれぞれ、Srに対するZrおよびCeのモル比は同じであるが、Ruのモル比が異なる。
【0024】
(実施例5~7)
炭化水素改質触媒の材料として、SrCO3、ZrO2、CeO2、Y23、および、RuO2を用意し、Sr:Zr:Ce:Y:Ruのモル比が表1に示す割合となるように秤量し、玉石と水とバインダーを加えて湿式混合し、混合物を得た。この後、実施例1~4の炭化水素改質触媒を作製する方法と同じ方法によって、実施例5~7の炭化水素改質触媒を作製した。
【0025】
実施例5~7の炭化水素改質触媒は、本発明の要件を満たす触媒である。表1に示すように、実施例5~7の炭化水素改質触媒は、Sr、Zr、Ce、Y、および、Ruを含む。実施例5~7の炭化水素改質触媒は、Srに対するRuのモル比が略同じであるが、Zr、CeおよびYのモル比が異なる。
【0026】
(実施例8~11)
炭化水素改質触媒の材料として、SrCO3、ZrO2、CeO2、および、RuO2を用意し、Sr:Zr:Ce:Ruのモル比が表1に示す割合となるように秤量し、玉石と水とバインダーを加えて湿式混合し、混合物を得た。この後、実施例1~4の炭化水素改質触媒を作製する方法と同じ方法によって、実施例8~11の炭化水素改質触媒を作製した。
【0027】
実施例8~11の炭化水素改質触媒は、本発明の要件を満たす触媒である。表1に示すように、実施例8~11の炭化水素改質触媒は、実施例1~4の炭化水素改質触媒と同様に、Sr、Zr、Ce、および、Ruを含むが、Yを含まない。実施例8~11の炭化水素改質触媒は、Srに対するRuのモル比が略同じであるが、ZrおよびCeのモル比が異なる。
【0028】
(実施例12~14)
炭化水素改質触媒の材料として、SrCO3、ZrO2、Y23、および、RuO2を用意し、Sr:Zr:Y:Ruのモル比が表1に示す割合となるように秤量し、玉石と水とバインダーを加えて湿式混合し、混合物を得た。この後、実施例1~4の炭化水素改質触媒を作製する方法と同じ方法によって、実施例12~14の炭化水素改質触媒を作製した。
【0029】
実施例12~14の炭化水素改質触媒は、本発明の要件を満たす触媒である。表1に示すように、実施例12~14の炭化水素改質触媒は、Sr、Zr、Y、および、Ruを含むが、Ceを含まない。実施例12~14の炭化水素改質触媒は、Srに対するRuのモル比が同じであるが、ZrおよびYのモル比が異なる。
【0030】
(実施例15)
炭化水素改質触媒の材料として、SrCO3、ZrO2、および、RuO2を用意し、Sr:Zr:Ruのモル比が表1に示す割合となるように秤量し、玉石と水とバインダーを加えて湿式混合し、混合物を得た。この後、実施例1~4の炭化水素改質触媒を作製する方法と同じ方法によって、実施例15の炭化水素改質触媒を作製した。
【0031】
実施例15の炭化水素改質触媒は、本発明の要件を満たす触媒である。表1に示すように、実施例15の炭化水素改質触媒は、Sr、Zr、および、Ruを含むが、CeおよびYを含まない。
【0032】
(比較例1~2)
炭化水素改質触媒の材料として、SrCO3、CeO2、Y23、および、RuO2を用意し、Sr:Ce:Y:Ruのモル比が表1に示す割合となるように秤量し、玉石と水とバインダーを加えて湿式混合し、混合物を得た。この後、実施例1~4の炭化水素改質触媒を作製する方法と同じ方法によって、比較例1~2の炭化水素改質触媒を作製した。
【0033】
比較例1~2の炭化水素改質触媒は、本発明の要件を満たしていない触媒である。表1に示すように、比較例1~2の炭化水素改質触媒は、Sr、Ce、Y、および、Ruを含むが、Zrを含まない。
(比較例3)
【0034】
炭化水素改質触媒の材料として、SrCO3、CeO2、および、RuO2を用意し、Sr:Ce:Ruのモル比が表1に示す割合となるように秤量し、玉石と水とバインダーを加えて湿式混合し、混合物を得た。この後、実施例1~4の炭化水素改質触媒を作製する方法と同じ方法によって、比較例3の炭化水素改質触媒を作製した。
【0035】
比較例3の炭化水素改質触媒は、本発明の要件を満たしていない触媒である。表1に示すように、比較例3の炭化水素改質触媒は、Sr、Ce、および、Ruを含むが、ZrおよびYを含まない。
【0036】
(比較例4)
炭化水素改質触媒の材料として、SrCO3、ZrO2、および、RuO2を用意し、Sr:Zr:Ruのモル比が表1に示す割合となるように秤量し、玉石と水とバインダーを加えて湿式混合し、混合物を得た。この混合物におけるSr:Zr:Ruのモル比は、実施例15の炭化水素改質触媒を作製する際に用いた材料のSr:Zr:Ruのモル比と同じである。この後、焼成温度を600℃とした以外は、実施例15の炭化水素改質触媒を作製する方法と同じ方法によって、比較例4の炭化水素改質触媒を作製した。比較例4の炭化水素改質触媒は、本発明の要件を満たしていない触媒である。
【0037】
(比較例5)
炭化水素改質触媒の材料として、SrCO3、ZrO2、CeO2、および、RuO2を用意し、Sr:Zr:Ce:Ruのモル比が表1に示す割合となるように秤量し、玉石と水とバインダーを加えて湿式混合し、混合物を得た。この混合物におけるSr:Zr:Ce:Ruのモル比は、実施例10の炭化水素改質触媒を作製する際に用いた材料のSr:Zr:Ce:Ruのモル比と同じである。この後、焼成温度を600℃とした以外は、実施例10の炭化水素改質触媒を作製する方法と同じ方法によって、比較例5の炭化水素改質触媒を作製した。比較例5の炭化水素改質触媒は、本発明の要件を満たしていない触媒である。
【0038】
<結晶相の確認>
上述した実施例1~15および比較例1~5の炭化水素改質触媒を乳鉢で粉砕し、粉末XRD測定によって、結晶相を確認した。粉末XRD測定では、X線としてCu-Kα1を用いた。
【0039】
表1に、実施例1~15および比較例1~5の炭化水素改質触媒について確認された結晶相および組成(モル比)を示す。
【0040】
【表1】
【0041】
実施例1~15の炭化水素改質触媒では、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物の結晶相、具体的には、SrZrO3を主成分とする結晶相が少なくとも存在することが確認された。より具体的には、実施例1~11の炭化水素改質触媒では、SrZrO3を主成分とする結晶相と、SrCeO3を主成分とする結晶相とが確認された。また、実施例12~15の炭化水素改質触媒では、SrZrO3を主成分とする結晶相が確認された。
【0042】
なお、いくつかの実施例の炭化水素改質触媒では、組成比に応じて、SrCO3やY23などの異相も確認された。しかし、それらの炭化水素改質触媒でも、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物の主となる結晶相は、SrCeO3を主成分とする結晶相が含まれていない場合には、SrZrO3を主成分とする結晶相であり、SrCeO3を主成分とする結晶相が含まれている場合には、SrZrO3を主成分とする結晶相とSrCeO3を主成分とする結晶相である。
【0043】
図2に、実施例10および15と、比較例3の炭化水素改質触媒のX線回折パターンを示す。図2に示すように、実施例10の炭化水素改質触媒では、SrZrO3に帰属する結晶相と、SrCeO3に帰属する結晶相とが存在することが確認できる。また、実施例15の炭化水素改質触媒では、SrZrO3に帰属する結晶相が存在することが確認でき、比較例3の炭化水素改質触媒では、SrCeO3に帰属する結晶相が存在することが確認できる。一方、これらの炭化水素改質触媒では、RuO2やRu単体に起因する回折線は確認されなかった。
【0044】
すなわち、実施例10の炭化水素改質触媒において、Ruは、SrZrO3を主成分とする結晶相、および、SrCeO3を主成分とする結晶相のうちの少なくとも一方の構造中に存在する。また、実施例15の炭化水素改質触媒において、Ruは、SrZrO3を主成分とする結晶相の構造中に存在する。さらに、比較例3の炭化水素改質触媒において、Ruは、SrCeO3を主成分とする結晶相の構造中に存在する。言い換えると、Ruは、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物を構成する一成分として存在する。
【0045】
同様に、実施例1~4、8~9、11、および、15の炭化水素改質触媒についても、Ruは、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物を構成する一成分として存在する。また、複合酸化物にYおよびRuが含まれる実施例5~7および12~14の炭化水素改質触媒において、YおよびRuはそれぞれ、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物を構成する一成分として存在する。
【0046】
一方、比較例4の炭化水素改質触媒は、作製時の焼成温度が600℃と、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物の生成温度よりも低いため、調合に使用したSrCO3、ZrO2、および、RuO2の混合物であることが確認された。同様に、比較例5の炭化水素改質触媒も、調合に使用したSrCO3、ZrO2、CeO2、および、RuO2の混合物であることが確認された。
【0047】
<組成の確認>
実施例1~15の炭化水素改質触媒と、比較例1~5の炭化水素改質触媒をそれぞれ乳鉢で細かく粉砕し、得られた粉末に対して蛍光X線分析(XRF分析)による組成分析を行った。その結果、組成分析を行った全ての炭化水素改質触媒について、秤量時の配分の元素モル比を維持しており、加熱焼成処理による各成分の減少などの元素モル比の変化がないことを確認した。
【0048】
なお、実施例1~15の炭化水素改質触媒において、Srに対するRuのモル比は、0.01以上0.38以下である。
【0049】
<改質評価>
実施例1~15および比較例1~5の炭化水素改質触媒それぞれ粉砕、分級して0.5mm~0.7mmの大きさにした後、以下の方法により、プロパンガスの水蒸気改質評価試験を行った。
【0050】
図1に示す炭化水素改質装置100の管1内に、上述した方法により作製した炭化水素改質触媒0.3gを充填し、加熱部2により600℃で加熱した。そして、ガス供給管4から、窒素(N2)を350cc/分、プロパン(C38)を7cc/分、水蒸気(H2O)を60cc/分、二酸化炭素(CO2)を60cc/分の流量で原料ガスを導入した。
【0051】
管1内に導入された原料ガスは改質されて、水素と一酸化炭素とを含む合成ガスがガス排出管5から排出される。ガス排出管5から排出された合成ガスは、冷却式のトラップにて水分が除去された後、ガス分析装置(ガスクロマトグラフ)へと導入して、水素濃度を測定した。
【0052】
ここで、上述したガス分圧および温度条件における平衡ガス組成を計算したところ、平衡状態での水素ガス濃度の割合は、水分を除くと8.1体積%であった。したがって、導入した原料ガスの反応が100%進行した場合に、ガス排出管5から排出される水素の平衡状態での濃度(以下、平衡水素濃度と呼ぶ)は8.1体積%となる。
【0053】
(I)初期活性の確認
原料ガス導入から最初の1時間は硫黄成分が存在しない状態として、1時間後の水素濃度(初期の水素濃度)を測定し、炭化水素改質触媒の初期活性を確認した。表2に、各実施例および比較例の炭化水素改質触媒を用いた場合に、ガス排出管5から排出される水素の濃度(初期の水素濃度)と、初期活性の平衡到達率を示す。初期活性の平衡到達率は、次式(3)により定義した。
初期活性の平衡到達率=初期の水素濃度/平衡水素濃度×100 (3)
【0054】
(II)硫黄劣化後の特性確認
上記初期活性の確認後、原料ガスの合計流量477cc/分に対して10ppmの割合となるようにSO2ガスを混合し、1時間後の水素ガス濃度を測定して、硫黄存在下における触媒の活性劣化を確認した。表2に、各実施例および比較例の炭化水素改質触媒を用いた場合に、硫黄存在下において、1時間後にガス排出管5から排出された水素の濃度と平衡到達率を示す。表2では、「硫黄劣化後」の水素濃度、および、「硫黄劣化後の平衡到達率」と表記している。硫黄劣化後の平衡到達率は、次式(4)により定義した。
硫黄劣化後の平衡到達率=硫黄劣化後の水素濃度/平衡水素濃度×100 (4)
【0055】
試験終了後に、炭素析出の有無を確認するために、炭化水素改質触媒をN2雰囲気中で冷却して取り出し、TG-DTA(熱重量示差熱分析)により、炭素燃焼による触媒の重量変化を確認した。評価を行った全ての実施例および比較例の炭化水素改質触媒において、炭素析出は確認されなかった。
【0056】
【表2】
【0057】
<初期活性>
表2に示すように、本発明の要件を満たす実施例1~15の炭化水素改質触媒を用いた場合、初期活性の平衡到達率は22%より高い値、より詳細には29%以上となった。これに対して、本発明の要件を満たしていない比較例1~5の炭化水素改質触媒を用いた場合には、初期活性の平衡到達率は22%以下と低い値になった。
【0058】
本発明の要件を満たす炭化水素改質触媒の初期活性が高いのは、以下の理由による。すなわち、炭化水素改質触媒が少なくともSrZrO3を主成分とする結晶相を有し、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物にRu成分が固溶分散することで安定化し、高温酸化条件におけるRu成分の凝集や揮発を抑制することが可能となり、その結果、活性が向上するからであると考えられる。
【0059】
また、本発明の要件を満たす炭化水素改質触媒のうち、複合酸化物がさらにSrCeO3を主成分とする結晶相を有するが、Yを含まない実施例1~4および8~11の炭化水素改質触媒を用いた場合、初期活性の平衡到達率は47%以上と高い値になった。したがって、本発明の要件を満たす炭化水素改質触媒は、複合酸化物がさらにSrCeO3を主成分とする結晶相を有するが、Yを含まないことが好ましい。
【0060】
また、複合酸化物がYをさらに含むが、Ceは含まない実施例12~14の炭化水素改質触媒を用いた場合、初期活性の平衡到達率は62%以上と高い値になった。したがって、本発明の要件を満たす炭化水素改質触媒は、複合酸化物がYをさらに含むが、Ceは含まないことが好ましい。
【0061】
また、複合酸化物がさらにSrCeO3を主成分とする結晶相を有するとともに、Ceに対するモル比が0.6以下であるYをさらに含む実施例6および7の炭化水素改質触媒を用いた場合、初期活性の平衡到達率は72%以上と高い値になった。したがって、本発明の要件を満たす炭化水素改質触媒は、複合酸化物がさらにSrCeO3を主成分とする結晶相を有するとともに、Ceに対するモル比が0.6以下であるYをさらに含むことが好ましい。
【0062】
<硫黄耐性>
表2に示すように、本発明の要件を満たしていない比較例1~5の炭化水素改質触媒を用いた場合には、硫黄劣化後の平衡到達率が1%以下となった。これに対して、本発明の要件を満たす実施例1~15の炭化水素改質触媒を用いた場合、硫黄劣化後の平衡到達率は16%以上となった。本発明の要件を満たす炭化水素改質触媒では、Ru成分が複合酸化物に固溶分散しているため結合力が強く、硫黄などの被毒成分の吸着や化合物の生成を抑制する効果が得られ、高い硫黄耐久性を有するものと考えられる。
【0063】
また、本発明の要件を満たす炭化水素改質触媒のうち、複合酸化物がCeおよびYのうちの少なくとも一方をさらに含む実施例1~14の炭化水素改質触媒を用いた場合、硫黄劣化後の平衡到達率は23%以上と高い値になった。したがって、硫黄劣化後の活性回復の観点において、本発明の要件を満たす炭化水素改質触媒は、複合酸化物がCeおよびYのうちの少なくとも一方をさらに含むことが好ましい。
【0064】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【0065】
例えば、上述した実施例の炭化水素改質触媒は粒状の形態であるが、一般的な金属担持触媒と同様に、粉末状にした炭化水素改質触媒をセラミックや金属製の基材に担持させて使用するようにしてもよい。また、基材を使用せずに、触媒粉末をプレス成形や押出成形などの方法によって成形し、ペレット状、リング状、または、ハニカム状などの形態で使用するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 管
2 加熱部
3 炭化水素改質触媒
4 ガス供給管
5 ガス排出管
6 炭化水素供給源
7 水素取り出し口
100 炭化水素改質装置
図1
図2