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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】浮上り抑制構造、及び逆打ち工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/05 20060101AFI20221129BHJP
   E02D 17/04 20060101ALI20221129BHJP
   E02D 5/34 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
E02D29/05 Z
E02D17/04 Z
E02D5/34 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018009799
(22)【出願日】2018-01-24
(65)【公開番号】P2019127745
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】青木 雅路
(72)【発明者】
【氏名】河野 貴穂
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 博人
(72)【発明者】
【氏名】方田 公章
(72)【発明者】
【氏名】山川 昭次
(72)【発明者】
【氏名】岡橋 稔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊介
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-082676(JP,A)
【文献】特開2011-006946(JP,A)
【文献】特開2004-360252(JP,A)
【文献】特開平07-138938(JP,A)
【文献】特開2000-178966(JP,A)
【文献】特許第3761307(JP,B2)
【文献】特許第5148001(JP,B1)
【文献】特開2003-041586(JP,A)
【文献】特開平02-232414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/05
E02D 17/04
E02D 5/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視にて供用中地下構造物と隣り合う山留め壁と、
前記山留め壁に沿って設けられ、該山留め壁の一部を構成するとともに、該山留め壁よりも下方へ延出し、地盤の支持層に固定される杭と、
前記杭の外周面から突出する突出部と、
を備え
前記突出部は、前記供用中地下構造物の中心よりも下側及び上側にそれぞれ設けられる、
浮上り抑制構造。
【請求項2】
平面視にて供用中地下構造物と隣り合う壁本体部と、前記壁本体部の下端部から下方へ延出し、地盤の支持層に固定される複数の固定用延出部と、を有する山留め壁と、
前記壁本体部の壁面から突出する突出部と、
を備え
前記突出部は、前記供用中地下構造物の中心よりも下側及び上側にそれぞれ設けられる、
浮上り抑制構造。
【請求項3】
前記突出部は、前記供用中地下構造物の山留め壁側の周囲に配置される、
請求項1又は請求項2に記載の浮上り抑制構造。
【請求項4】
平面視にて供用中地下構造物と隣り合う山留め壁の内側に構造物を施工する逆打ち工法であって、
前記山留め壁には、前記供用中地下構造物の中心よりも下側に位置する下側抑制拡径部と、前記供用中地下構造物の中心よりも上側に位置する上側抑制拡径部と、を有し前記山留め壁に沿って配置され該山留め壁の一部を構成するとともに該山留め壁よりも下方へ延出する拡径杭が設けられ、
記山留め壁と、該山留め壁の内側で構真柱に支持された前記構造物の構造体とを抑制部材によって連結し、前記構造体に反力を取って前記山留め壁の浮き上がりを抑制しながら、前記構造体の下の地盤を掘削する、
逆打ち工法。
【請求項5】
平面視にて供用中地下構造物と隣り合う山留め壁の内側に構造物を施工する逆打ち工法であって、
前記山留め壁は、平面視にて前記供用中地下構造物と隣り合う壁本体部と、前記壁本体部の下端部から下方へ延出し、地盤の支持層に固定される複数の固定用延出部と、前記壁本体部の壁面から突出し前記供用中地下構造物の中心よりも下側に位置する下側抑制突出部と、前記壁本体部の壁面から突出し前記供用中地下構造物の中心よりも上側に位置する上側抑制突出部と、を有し、
前記山留め壁と、該山留め壁の内側で構真柱に支持された前記構造物の構造体とを抑制部材によって連結し、前記構造体に反力を取って前記山留め壁の浮き上がりを抑制しながら、前記構造体の下の地盤を掘削する、
逆打ち工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮上り抑制構造、及び逆打ち工法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤を掘削する際に、掘削領域の周辺地盤の浮き上がり量(隆起量)を計測する計測方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、供用中地下構造物の下に、山留め壁を施工する山留め壁の施工方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-082676号公報
【文献】特開平8-028197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、平面視にて供用中地下構造物の隣の地盤を掘削したり、供用中地下構造物の隣の既設地下構造体を解体したりすると、掘削領域又は解体領域、及びその周辺の地盤が浮き上がる可能性がある。この結果、供用中地下構造物も浮き上がり、供用中地下構造物が影響を受ける可能性がある。
【0006】
本発明は、上記の事実を考慮し、供用中地下構造物の浮き上がりを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1態様に係る浮上り抑制構造は、平面視にて供用中地下構造物と隣り合う山留め壁と、前記山留め壁に沿って設けられるとともに、地盤の支持層に固定される杭と、前記杭の外周面から突出し、かつ、前記供用中地下構造物の中心よりも下側に位置する突出部と、を備える。
【0008】
第1態様に係る浮上り抑制構造によれば、杭は、平面視にて供用中地下構造物と隣り合う山留め壁に沿って設けられる。また、杭は、地盤の支持層に固定される。この杭には、突出部が設けられる。突出部は、杭の外周面から突出し、かつ、供用中地下構造物の中心よりも下側に位置する。
【0009】
これにより、例えば、山留め壁の内側の地盤、すなわち山留め壁に対して供用中地下構造物と反対側の地盤を掘削した場合に、杭の突出部によって、供用中地下構造物の中心よりも下側の地盤の浮き上がりが抑制される。したがって、供用中地下構造物の浮き上がりが抑制される。
【0010】
また、前述したように、杭は、地盤の支持層に固定される。したがって、供用中地下構造物の浮き上がりがさらに抑制される。
【0011】
さらに、杭を山留め壁に沿って設けることにより、杭を山留め壁の一部として利用することができる。しかも、杭を山留め壁に沿って設けることにより、杭及び山留め壁を同時期に施工することができる。したがって、杭の施工性が向上する。
【0012】
第2態様に係る浮上り抑制構造は、平面視にて供用中地下構造物と隣り合うとともに、下端部の少なくとも一部が地盤の支持層に固定される山留め壁と、前記山留め壁の壁面から突出し、かつ、前記供用中地下構造物の中心よりも下側に位置する突出部と、を備える。
【0013】
第2態様に係る浮上り抑制構造によれば、山留め壁は、平面視にて供用中地下構造物と隣り合う。この山留め壁の下端部の少なくとも一部は、地盤の支持層に固定される。また、山留め壁には、突出部が設けられる。突出部は、山留め壁の壁面から突出し、かつ、供用中地下構造物の中心よりも下側に位置する。
【0014】
これにより、例えば、山留め壁の内側の地盤、すなわち山留め壁に対して供用中地下構造物と反対側の地盤を掘削した場合に、山留め壁の突出部によって、供用中地下構造物の中心よりも下側の地盤の浮き上がりが抑制される。したがって、供用中地下構造物の浮き上がりが抑制される。
【0015】
また、前述したように、山留め壁の下端部の少なくとも一部は、地盤の支持層に固定される。したがって、供用中地下構造物の浮き上がりがさらに抑制される。
【0016】
さらに、山留め壁に突出部を設けることにより、簡単な構成で、供用中地下構造物の浮き上がりを抑制することができる。
【0017】
第3態様に係る浮上り抑制構造は、第1態様又は第2態様に係る浮上り抑制構造において、前記突出部は、前記供用中地下構造物の山留め壁側の周囲に配置される。
【0018】
第3態様に係る浮上り抑制構造によれば、突出部は、供用中地下構造物の中心よりも下側において、供用中地下構造物の山留め壁側の周囲に配置される。これにより、供用中地下構造物の山留め壁側の周囲の地盤の浮き上がりが抑制される。したがって、供用中地下構造物の浮き上がりがさらに抑制される。
【0019】
第4態様に係る逆打ち工法は、平面視にて供用中地下構造物と隣り合う山留め壁の内側に構造物を施工する逆打ち工法であって、前記山留め壁には、前記供用中地下構造物の中心よりも下側に位置する拡径部を有し前記山留め壁に沿って配置される拡径杭、又は前記山留め壁の壁面から突出し前記供用中地下構造物の中心よりも下側に位置する突出部が設けられ、前記拡径杭又は前記突出部が設けられた前記山留め壁と、該山留め壁の内側で構真柱に支持された前記構造物の構造体とを抑制部材によって連結し、前記構造体に反力を取って前記拡径杭又は前記突出部が設けられた前記山留め壁の浮き上がりを抑制しながら、前記構造体の下の地盤を掘削する。
【0020】
第4態様に係る逆打ち工法によれば、山留め壁には、山留め壁に沿って配置される拡径杭、又は山留め壁の壁面から突出する突出部が設けられる。拡径杭の拡径部又は山留め壁の突出部は、供用中地下構造物の中心よりも下側に位置する。
【0021】
ここで、構造物の構造体は、山留め壁の内側で構真柱に支持される。この構造体と、拡径杭又は突出部が設けられた山留め壁とを抑制部材によって連結し、構造体に反力を取って、拡径杭又は突出部が設けられた山留め壁の浮き上がりを抑制しながら、構造体の下の地盤を掘削する。
【0022】
これにより、構造体の下の地盤を掘削した場合に、拡径杭又は突出部が設けられた山留め壁によって、供用中地下構造物側の地盤の浮き上がりが抑制される。したがって、供用中地下構造物の浮き上がりが抑制される。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、供用中地下構造物の浮き上がりを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第一実施形態に係る浮上り抑制構造が適用された地盤を示す縦断面図である。
図2】第一実施形態に係る浮上り抑制構造が適用された地盤に構造物が施工された状態を示す縦断面図である。
図3】(A)は、図1に示される山留め壁の平断面図であり、(B)及び(C)は、図3(A)に示される山留め壁の変形例を示す平断面図である。
図4】第二実施形態に係る山留め壁を示す斜視図である。
図5】第三実施形態に係る逆打ち工法が適用された施工中の構造物を示す縦断面図である。
図6】第三実施形態に係る逆打ち工法の変形例を示す図5に対応する縦断面図である。
図7図1に示される供用中地下構造物の変形例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第一実施形態)
先ず、第一実施形態について説明する。
【0026】
図1には、本実施形態に係る浮上り抑制構造10が適用された地盤12が示されている。この地盤12には、供用中地下構造物16が設けられている。供用中地下構造物16は、例えば、営業中の鉄道(地下鉄)や道路とされており、地盤12(地中)に埋設されている。
【0027】
なお、供用中地下構造物16は、少なくとも一部が地盤12に埋設されていれば良い。
【0028】
(構造物)
図2に示されるように、本実施形態では、供用中地下構造物16の隣の地盤12(掘削領域R)を掘削して、構造物20を施工(構築)する。構造物20は、複数層からなる。また、構造物20は、複数の柱22と、隣り合う柱22に架設される複数の梁24と、梁24に支持される床スラブ26とを有して構成される。
【0029】
なお、構造物20の内部の柱22は、構真柱用杭21に支持され、構造物20の外周の柱22は、後述する山留め壁30,32に支持される。
【0030】
構造物20は、地盤12中に設けられる地下構造体20Aと、地上に設けられる地上構造体20Bとを有している。地下構造体20Aは、地盤12の掘削領域Rに設けられる。また、地下構造体20Aの上には、地上構造体20Bが設けられる。
【0031】
なお、地下構造体20A及び地上構造体20Bは、単一層であっても良い。また、構造物20は、少なくとも地下構造体20Aを有していれば良く、地上構造体20Bは省略されても良い。また、地下構造体20A及び地上構造体20Bは、構造体の一例である。
【0032】
地盤12の掘削領域Rの外周部には、山留め壁30が設けられる。山留め壁30は、掘削領域Rを囲むように、例えば、平面視にて枠状に形成される。この山留め壁30のうち、供用中地下構造物16側の山留め壁32に、本実施形態に係る浮上り抑制構造10が適用される。
【0033】
(浮上り抑制構造)
浮上り抑制構造10は、山留め壁32と、拡径杭40とを備えている。山留め壁32は、平面視にて、供用中地下構造物16と隣り合って配置されている。また、山留め壁32は、供用中地下構造物16と対向して配置されている。
【0034】
図3(A)に示されるように、山留め壁32は、複数の地盤改良体(柱状地盤改良体)34と、複数の芯材36とを有しても好適に実施できる。地盤改良体34は、ソイルセメントによって柱状に形成されている。この地盤改良体34には、芯材36が埋設されている。
【0035】
芯材(鉄骨芯材)36は、例えば、H形鋼によって形成されており、硬化する前の地盤改良体34内に落とし込まれる。また、芯材36は、2つのフランジ部36Aと、2つのフランジ部36Aを接続するウェブ部36Bとを有している。2つのフランジ部36Aは、山留め壁32の厚み方向(壁厚方向)に互いに対向して配置される。この芯材36によって、山留め壁32に面外剛性が付与されている。
【0036】
拡径杭40は、例えば、場所打ちのコンクリート杭とされており、山留め壁32に沿って配置されている。なお、本実施形態では、拡径杭40と地盤改良体34とが交互に配置されており、拡径杭40が山留め壁32の一部を構成している。
【0037】
図1に示されるように、拡径杭40の下端部40Lは、地盤12の支持層14に固定されている。具体的には、拡径杭40の下端部40Lは、支持層14に達している。この拡径杭40の下端部40L側には、複数の固定用拡径部42が設けられている。
【0038】
複数の固定用拡径部42は、拡径杭40の軸方向(上下方向)に間隔を空けて配置されている。各固定用拡径部42は、拡径杭40の下端部40L側を部分的に拡径することにより形成されており、拡径杭40の外周面40Aから突出している。これらの固定用拡径部42は、拡径杭40に作用する引抜き力Fに対して抵抗する。これにより、拡径杭40の浮き上がりが抑制される。
【0039】
なお、拡径杭40には、少なくとも1つの固定用拡径部42を設けることができる。また、固定用拡径部42は、省略可能である。
【0040】
拡径杭40は、地盤12の浮き上がりを抑制する上側抑制拡径部44及び下側抑制拡径部46を有している。上側抑制拡径部44及び下側抑制拡径部46は、支持層14よりも上側に配置されている。また、上側抑制拡径部44及び下側抑制拡径部46は、掘削領域Rの根切り底R1よりも上側に配置されている。
【0041】
上側抑制拡径部44及び下側抑制拡径部46は、拡径杭40の軸方向に間隔を空けて配置されている。この上側抑制拡径部44及び下側抑制拡径部46は、拡径杭40を部分的に拡径することにより形成されている。
【0042】
上側抑制拡径部44及び下側抑制拡径部46は、縦断面視(立断面視)にて、供用中地下構造物16の山留め壁32側の周囲に配置されている。また、上側抑制拡径部44は、供用中地下構造物16の中心Cよりも上側に配置されている。一方、下側抑制拡径部46は、供用中地下構造物16の中心Cよりも下側に配置されている。この上側抑制拡径部44及び下側抑制拡径部46によって、供用中地下構造物16の周囲の地盤12の浮上りが抑制されている。
【0043】
なお、下側抑制拡径部46は、突出部の一例である。また、供用中地下構造物16の周囲とは、例えば、供用中地下構造物16の所有者や管理者が準拠する指針により近接程度が、供用中地下構造物16から見て「制限範囲(▲3▼)」等となる場合や、新設構造物(構造物20)から見て「近接山留め」等となる場合を意味する。
【0044】
「制限範囲(▲3▼)」とは、新設構造物の施工により既設構造物に対し、変位や変形などの有害な影響が及ぶと考えられる範囲である(「都市部鉄道構造物の近接施工対策マニュアル」p.24、p68、図3.6.6、表3.6.3、鉄道総合技術研究所 2007年1月発行)。
【0045】
また、「近接山留め」とは、近接構造物に有害な影響を与えないように山留め計画時に山留め壁の変位量あるいは近接構造物の傾斜角・変位量に許容値が設定することが検討される場合である(「山留め設計指針」p.64、p.67、図3.6.1、表3.6.1、日本建築学会、2017年11月発行)。
【0046】
(浮上り抑制構造の施工方法)
次に、浮上り抑制構造10の施工方法の一例について説明しつつ、本実施形態の効果について説明する。
【0047】
先ず、地盤12の掘削領域Rの外周部に沿って枠状の山留め壁30を施工する。この際、山留め壁30のうち、供用中地下構造物16側の山留め壁32に沿って複数の拡径杭40を施工する。
【0048】
次に、図1に示されるように、山留め壁32に対して供用中地下構造物16と反対側、すなわち山留め壁32の内側の掘削領域Rを掘削する。
【0049】
ここで、図1に二点鎖線L1で示されるように、地盤12の掘削領域Rを掘削すると、掘削領域Rの根切り底R1及びその周辺の地盤12が浮き上がる可能性がある。そして、掘削領域Rの周辺の地盤12が浮き上がると、供用中地下構造物16が浮き上がる可能性がある。
【0050】
この対策として本実施形態では、供用中地下構造物16側の山留め壁32に複数の拡径杭40が設けられる。複数の拡径杭40は、山留め壁32に沿って配置されており、その下端部40L側が地盤12の支持層14に固定される。また、各拡径杭40には、上側抑制拡径部44及び下側抑制拡径部46304C設けられる。
【0051】
下側抑制拡径部46は、供用中地下構造物16の中心Cよりも下側で、かつ、供用中地下構造物16の山留め壁32側の周囲に配置される。これにより、地盤12の掘削領域Rを掘削した場合に、図1に二点鎖線L2で示されるように、下側抑制拡径部46によって供用中地下構造物16の中心Cよりも下側の地盤12の浮き上がりが抑制される。したがって、供用中地下構造物16の浮き上がりが抑制される。
【0052】
さらに、上側抑制拡径部44は、供用中地下構造物16の中心Cよりも上側で、かつ、供用中地下構造物16の山留め壁32側の周囲に配置される。これにより、地盤12の掘削領域Rを掘削した場合に、上側抑制拡径部44によって供用中地下構造物16の中心Cよりも上側の地盤12の浮き上がりが抑制される。したがって、供用中地下構造物16の浮き上がりがさらに抑制される。
【0053】
また、複数の拡径杭40を山留め壁32に沿って配置することにより、これらの拡径杭40を山留め壁32の一部として利用することができる。さらに、複数の拡径杭40を山留め壁32に沿って配置することにより、拡径杭40及び山留め壁32を同時期に施工することができる。したがって、拡径杭40及び山留め壁32の施工性が向上する。
【0054】
(第一実施形態の変形例)
次に、第一実施形態の変形例について説明する。
【0055】
図3(A)に示されるように、上記実施形態では、地盤改良体34と拡径杭40とが交互に配置されるが、上記実施形態はこれに限らない。拡径杭40の数は、適宜変更可能であり、例えば、図3(B)に示されるように、構造物20の外周の柱22(図2参照)の本数に応じて拡径杭40を設けても良い。
【0056】
また、拡径杭40の大きさは、適宜変更可能であり、例えば、図3(C)に示されるように、地盤改良体34よりも径が大きい拡径杭50を設けても良い。
【0057】
また、図3(B)及び図3(C)に示される変形例のように、山留め壁52は、地盤改良体34と鉄筋コンクリート壁54との合成壁とされても良い。なお、山留め壁52では、芯材36のフランジ部36Aに複数のスタッド56が設けられており、これらのスタッド56を鉄筋コンクリート壁54に埋設することにより地盤改良体34と鉄筋コンクリート壁54との一体性が高められている。
【0058】
また、上記実施形態では、上側抑制拡径部44及び下側抑制拡径部46が、供用中地下構造物16の山留め壁32側の周囲に配置されている。しかしながら、これらの上側抑制拡径部44及び下側抑制拡径部46は、抑制効果が発揮できることを前提として、供用中地下構造物16の周囲以外に配置されても良い。
【0059】
また、上記実施形態では、拡径杭40に上側抑制拡径部44が設けられるが、上記実施形態はこれに限らない。上側抑制拡径部44は、省略可能である。
【0060】
また、上記実施形態では、山留め壁32が地盤改良体(ソイルセメント)34によって形成されるが、上記実施形態はこれに限らない。山留め壁32は、例えば、鉄筋コンクリート壁や、鋼製壁によって形成されても良い。
【0061】
また、杭(拡径杭)は、場所打ち杭に限らず、既成杭であっても良い。また、杭(拡径杭)は、コンクリート杭に限らず、鋼杭であっても良い。
【0062】
(第二実施形態)
次に、第二実施形態について説明する。なお、第二実施形態において、第一実施形態と同じ構成の部材等には、同符号を付して説明を適宜省略する。
【0063】
図4に示されるように、第二実施形態に係る浮上り抑制構造60は、山留め壁62を備えている。山留め壁62は、第一実施形態における山留め壁32(図1参照)と同様に、平面視にて供用中地下構造物16(図1参照)と隣り合うととともに、供用中地下構造物16と対向して配置されている。つまり、山留め壁62は、例えば、図1の示される山留め壁32と同じ位置に配置される。
【0064】
山留め壁62は、壁本体部64と、複数の固定用延出部66とを有している。壁本体部64は、鉄筋コンクリートによって形成された地中連続壁とされている。この壁本体部64の下端部には、複数の固定用延出部66が設けられている。
【0065】
複数の固定用延出部66は、例えば、鉄筋コンクリート等によって柱状又は壁状に形成される。各固定用延出部66は、地盤12の支持層14(図1参照)に達しており、当該支持層14に固定されている。これにより、山留め壁62の浮き上がりが抑制されている。
【0066】
なお、固定用延出部66には、支持層14に固定される拡径部等が設けられても良い。また、固定用延出部66は、山留め壁62の下端部の一部の一例である。
【0067】
ここで、壁本体部64には、上側抑制突出部68及び下側抑制突出部70が設けられている。上側抑制突出部68及び下側抑制突出部70は、上下方向に間隔を空けて配置されている。また、各上側抑制突出部68及び下側抑制突出部70は、壁本体部64の横幅方向に延びるとともに、壁本体部64の両側の壁面64A,64Bから突出している。
【0068】
上側抑制突出部68及び下側抑制突出部70は、上記第一実施形態の上側抑制拡径部44及び下側抑制拡径部46(図1参照)と同様に、供用中地下構造物16の周囲に配置されている。また、上側抑制突出部68は、供用中地下構造物16の中心Cよりも上側に配置されている。一方、下側抑制突出部70は、供用中地下構造物16の中心Cよりも下側に配置されている。これらの上側抑制突出部68及び下側抑制突出部70によって、供用中地下構造物16の周囲の地盤12に浮上りが抑制されている。なお、下側抑制突出部70は、突出部の一例である。
【0069】
(浮上り抑制構造の施工方法)
次に、浮上り抑制構造60の施工方法の一例について説明しつつ、本実施形態の効果について説明する。
【0070】
先ず、地盤12の掘削領域Rの外周部に沿って枠状の山留め壁(図示省略)を施工する。この際、山留め壁62のうち、供用中地下構造物16側の山留め壁62には、上側抑制突出部68及び下側抑制突出部70を形成する。
【0071】
次に、山留め壁62の内側の掘削領域Rを掘削する。
【0072】
ここで、供用中地下構造物16側の山留め壁62には、複数の固定用延出部66が設けられる。固定用延出部66は、地盤12の支持層14に固定される。これにより、山留め壁62に引抜き力が作用したときに、山留め壁62の浮き上がりが抑制される。
【0073】
また、山留め壁62の壁本体部64には、上側抑制突出部68及び下側抑制突出部70が設けられる。下側抑制突出部70は、壁本体部64の両側の壁面64A,64Bから突出される。この下側抑制突出部70は、供用中地下構造物16の中心Cよりも下側に配置される。
【0074】
これにより、山留め壁62の内側の掘削領域Rを掘削した場合に、山留め壁62の下側抑制突出部70によって、供用中地下構造物16の中心Cよりも下側の地盤12の浮き上がりが抑制される。したがって、供用中地下構造物16の浮き上がりが抑制される。
【0075】
また、山留め壁62の壁本体部64には、上側抑制突出部68が設けられる。上側抑制突出部68は、壁本体部64の両側の壁面64A,64Bから突出される。この上側抑制突出部68は、供用中地下構造物16の中心Cよりも上側に配置される。
【0076】
これにより、地盤12の掘削領域Rを掘削した場合に、山留め壁62の上側抑制突出部68によって、供用中地下構造物16の中心Cよりも上側の地盤12の浮き上がりが抑制される。したがって、供用中地下構造物16の浮き上がりがさらに抑制される。
【0077】
さらに、上側抑制突出部68及び下側抑制突出部70は、供用中地下構造物16の山留め壁32側の周囲に配置される。これにより、地盤12の掘削領域Rを掘削した場合に、供用中地下構造物16の山留め壁32側の周囲の地盤12の浮上りが抑制される。したがって、供用中地下構造物16の浮き上がりがさらに抑制される。
【0078】
さらにまた、山留め壁62の壁本体部64に上側抑制突出部68及び下側抑制突出部70を設けることにより、簡単な構成で、供用中地下構造物16の浮き上がりを抑制することができる。
【0079】
(第二実施形態の変形例)
次に、第二実施形態の変形例について説明する。
【0080】
上記実施形態では、上側抑制突出部68及び下側抑制突出部70が山留め壁62の幅方向に延びるが、上記実施形態はこれに限らない。上側抑制突出部及び下側抑制突出部は、例えば、ブロック状に形成されても良い。
【0081】
また、上記実施形態では、上側抑制突出部68及び下側抑制突出部70が壁本体部64の両側の壁面64A,64Bに設けられるが、上記実施形態はこれに限らない。上側抑制突出部及び下側抑制突出部は、例えば、壁本体部64の壁面64A又は壁面64Bにのみ設けられても良い。なお、上側抑制突出部68及び下側抑制突出部70は、少なくとも壁本体部64の供用中地下構造物16側の壁面64Aに設けることが望ましい。
【0082】
また、上記実施形態では、上側抑制突出部68及び下側抑制突出部70が、供用中地下構造物16の山留め壁32側の周囲に配置されている。しかしながら、これらの上側抑制突出部68及び下側抑制突出部70は、抑制効果が発揮できることを前提として、供用中地下構造物16の周囲以外に配置されても良い。
【0083】
また、上記実施形態では、山留め壁62に上側抑制突出部68及び下側抑制突出部70が設けられるが、上記実施形態はこれに限らない。上側抑制突出部68は、省略可能である。
【0084】
また、上記実施形態では、山留め壁62の固定用延出部66が地盤12の支持層14に固定されるが、上記実施形態はこれに限らない。例えば、山留め壁62(壁本体部64)は、その下端部の全体が支持層14に達するように形成されても良い。つまり、山留め壁62の下端部は、その少なくとも一部が地盤12の支持層14に固定されていれば良い。また、固定用延出部66は、省略可能である。
【0085】
(第三実施形態)
次に、第三実施形態について説明する。なお、第三実施形態において、第一実施形態及び第二実施形態と同じ構成の部材等には、同符号を付して説明を適宜省略する。
【0086】
第三実施形態では、図5に示されるように、構造物20を逆打ち工法によって施工する。この際、拡径杭80と構造物20とを仮設斜梁84によって連結することにより、拡径杭80の浮き上がりを抑制する。なお、仮設斜梁84は、抑制部材の一例である。
【0087】
具体的には、先ず、地盤12の掘削領域Rの外周部に沿って山留め壁30を施工する。この際、供用中地下構造物16側の山留め壁32に沿って拡径杭80を施工する。なお、本実施形態の拡径杭80の下端部は、地盤12の支持層14に達しておらず、支持層14に固定されてない。
【0088】
次に、掘削領域Rの根切り底R1よりも下に、複数の構真柱用杭21を施工するとともに、各構真柱用杭21上に構真柱22を打設する。
【0089】
次に、掘削領域Rを所定深度まで掘削(一次掘削)する。次に、構造物20(地上構造体20B)の一階の梁24及び床スラブ26を施工する。なお、構造物20の一階の梁24及び床スラブ26は、複数の構真柱(柱)22に支持される。また、構造物20の一階の梁24及び床スラブ26は、山留め壁30,32を支持する山留め支保工として機能する。
【0090】
次に、掘削領域Rを所定深度まで掘削(二次掘削)し、地下構造体20Aを順次施工する。また、地下構造体20Aの施工と並行して、地上構造体20Bを順次施工する。具体的には、複数の構真柱22上に、地上構造体20Bの一階の柱22を施工するとともに、地上構造体20Bの二階の梁24及び床スラブ26を施工する。
【0091】
次に、地上構造体20Bの二階の梁24と拡径杭80の杭頭部80Hとに仮設斜梁84を斜めに架設し、仮設斜梁84によって二階の梁24と拡径杭80の杭頭部80Hとを連結する。なお、仮設斜梁84には、仮設斜梁84を伸縮させるジャッキ86が設けられている。
【0092】
次に、仮設斜梁84によって二階の梁24と拡径杭80の杭頭部80Hとを連結した状態で、地下構造体20Aの下の地盤12を根切り底R1(図2参照)まで掘削(三次掘削)し、地下構造体20Aを最下階まで順次施工する。また、地下構造体20Aの施工と平行して、地上構造体20Bを順次施工する。その後、仮設斜梁84を撤去する。なお、仮設斜梁84は、地下構造体20Aを最下階まで施工した後に、撤去することが好ましい。
【0093】
ここで、掘削領域Rを徐々に掘削すると、掘削領域R、及びその周辺の地盤12が浮き上がる可能性がある。そして、掘削領域Rの周辺の地盤12が浮き上がると、供用中地下構造物16が浮き上がる可能性がある。
【0094】
これに対して本実施形態は、前述したように、構造物20を逆打ち工法によって施工する。これにより、施工済みの地下構造体20A及び地上構造体20Bの重量によって、掘削領域R、及びその周辺の地盤12の浮き上がりが抑制される。
【0095】
また、拡径杭80には、上記第一実施形態と同様に、上側抑制拡径部44及び下側抑制拡径部46が設けられる。これらの上側抑制拡径部44及び下側抑制拡径部46によって、供用中地下構造物16の山留め壁30側の地盤12の浮き上がりが抑制される。
【0096】
さらに、本実施形態では、地上構造体20Bと拡径杭80とを仮設斜梁84によって連結した状態で、地下構造体20Aの下の地盤12を掘削する。より具体的には、構真柱22で支持された地上構造体20Bの二階の梁24と、拡径杭80の杭頭部80Hとを仮設斜梁84によって連結した状態で、地下構造体20Aの下の地盤12を掘削する。
【0097】
これにより、拡径杭80が浮き上がろうとすると、仮設斜梁84が地上構造体20Bに反力を取って拡径杭80の浮き上がりを抑制する。したがって、供用中地下構造物16の山留め壁30側の地盤12の浮き上がりがさらに抑制される。
【0098】
また、仮設斜梁84には、ジャッキ86が設けられている。そのため、例えば、拡径杭80の浮き上がり量に応じてジャッキ86を作動させ、仮設斜梁84を伸長させることにより、拡径杭80の浮き上がりを効率的に抑制することができる。
【0099】
しかも、仮設斜梁84によって拡径杭80の浮き上がりを抑制することにより、拡径杭80の下端部を支持層14に固定する必要がない。したがって、拡径杭80の施工工数を削減することができる。
【0100】
(第三実施形態の変形例)
次に、第三実施形態の変形例について説明する。
【0101】
上記実施形態では、拡径杭80の杭頭部80Hと構造物20の地上構造体20Bとを仮設斜梁84によって連結したが、上記実施形態はこれに限らない。例えば、図6に示されるように、拡径杭80の杭頭部80Hよりも下側の部位80Pと、地下構造体20A及び地上構造体20Bとを仮設斜梁84によってそれぞれ連結しても良い。
【0102】
また、上記実施形態では、拡径杭80が支持層14に固定されていないが、拡径杭80は支持層14に固定されても良い。
【0103】
また、上記実施形態では、仮設斜梁84にジャッキ86が設けられるが、ジャッキ86は適宜省略可能である。また、抑制部材は、仮設斜梁84に限らず、例えば、他の部材等であっても良い。
【0104】
また、上記実施形態は、上記第二実施形態の山留め壁62(図4参照)にも適用可能である。つまり、山留め壁62と構造物20の地上構造体20Bとを仮設斜梁84によって連結した状態で、地下構造体20Aの下の地盤12を掘削することも可能である。
【0105】
(第一~第三実施形態の変形例)
次に、第一実施形態~第三実施形態の変形例について説明する。なお、以下では、第一実施形態を例に各種の変形例について説明するが、これらの変形例は第二実施形態及び第三実施形態にも適宜適用可能である。
【0106】
また、上記第一実施形態では、供用中地下構造物16が、掘削領域Rの根切り底R1よりも上側に位置するが、上記実施形態はこれに限らない。例えば、図7に示されるように、供用中地下構造物16は、掘削領域Rの根切り底R1よりも下側に位置していても良い。この場合も、供用中地下構造物16の山留め壁32側の周囲に上側抑制拡径部44及び下側抑制拡径部46を配置することにより、供用中地下構造物16の浮き上がりを効率的に抑制することができる。
【0107】
また、上記第一実施形態では、供用中地下構造物16の隣の掘削領域Rを掘削するが、上記実施形態はこれに限らない。上記実施形態は、例えば、供用中地下構造物16の隣の既設の地下構造体(既設地下構造体)を解体する場合にも適用可能である。
【0108】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0109】
10 浮上り抑制構造
12 地盤
14 支持層
16 供用中地下構造物
32 山留め壁
40 拡径杭(杭)
40A 外周面(杭の外周面)
46 下側抑制拡径部(突出部)
50 拡径杭(杭)
52 山留め壁
60 浮上り抑制構造
62 山留め壁
64A 壁面(山留め壁の壁面)
64B 壁面(山留め壁の壁面)
66 固定用延出部(山留め壁の下端部の一部)
70 下側抑制突出部(突出部)
80 拡径杭(杭)
84 仮設斜梁(抑制部材)
C 中心(供用中地下構造物の中心)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7