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特許7184249避雷保護範囲生成システムおよびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】避雷保護範囲生成システムおよびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/20 20200101AFI20221129BHJP
   G01C 7/02 20060101ALI20221129BHJP
   G01C 11/06 20060101ALI20221129BHJP
   G06F 30/12 20200101ALI20221129BHJP
   G06F 30/13 20200101ALI20221129BHJP
   G06T 17/05 20110101ALI20221129BHJP
【FI】
G06F30/20
G01C7/02
G01C11/06
G06F30/12
G06F30/13
G06T17/05
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018190982
(22)【出願日】2018-10-09
(65)【公開番号】P2020060907
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000135771
【氏名又は名称】株式会社パスコ
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堺 浩一
(72)【発明者】
【氏名】金 キョンチェ
(72)【発明者】
【氏名】野口 卓
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 一之
(72)【発明者】
【氏名】田口 博晃
【審査官】堀井 啓明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-095374(JP,A)
【文献】国際公開第2018/020954(WO,A1)
【文献】特開2013-101428(JP,A)
【文献】特開2002-157576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00-30/398
G01C 7/02
G01C 11/06
G06T 17/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象となる敷地の現況の3次元形状を取得する形状取得部と、
前記敷地に配置される避雷設備の配置情報であって前記避雷設備の高さを含む配置情報を取得する避雷設備取得部と、
前記避雷設備の配置情報、および、前記敷地の現況の3次元形状に基づいて、前記避雷設備による雷からの保護範囲の3次元形状を生成する保護範囲生成部と、
前記保護範囲の3次元形状と、前記敷地の上に配置された複数の構造物の現況の3次元形状および3次元位置を含む3次元モデルとに基づいて、前記3次元モデルに含まれる前記複数の構造物が前記避雷設備の前記生成された保護範囲の内にあるか否かを示す情報を出力する保護範囲出力部と、
操作者の操作により前記敷地の任意の位置に前記避雷設備を追加する手段と、
を含み、
前記保護範囲出力部は、前記敷地の任意の位置に前記避雷設備を追加する手段により前記避雷設備の追加があった場合に、前記保護範囲の3次元形状を更新する、
ことを特徴とする避雷保護範囲生成システム。
【請求項2】
請求項1に記載の避雷保護範囲生成システムにおいて、
前記形状取得部は、測量により生成された前記敷地および構造物の表面を構成する点群を取得し、前記取得された点群に基づいて前記敷地の現況の3次元形状と、前記敷地の上に配置された複数の構造物の現況の3次元形状および3次元位置を含む3次元モデルとを取得する、
避雷保護範囲生成システム。
【請求項3】
請求項2に記載の避雷保護範囲生成システムにおいて、
前記形状取得部は、前記敷地および構造物が空中から撮影された複数の画像であって、互いに撮影範囲がオーバーラップするように撮影された複数の画像を取得し、前記取得された複数の画像に基づいて多視点画像計測手法により前記敷地および構造物の表面を構成する点群を算出し、前記算出された点群に基づいて前記敷地の現況の3次元形状および前記複数の構造物の現況の3次元モデルを取得する、
避雷保護範囲生成システム。
【請求項4】
請求項3に記載の避雷保護範囲生成システムにおいて、
前記形状取得部は、前記複数の画像に基づいてステレオ図化機を用いて算出された3次元形状であって前記複数の構造物のうち一部の3次元形状に基づいて、前記一部の構造物の3次元モデルを更新する、
避雷保護範囲生成システム。
【請求項5】
請求項1に記載の避雷保護範囲生成システムにおいて、
前記形状取得部は、測量により生成された前記敷地の表面を構成する点群を取得し、前記取得された点群に基づいて前記敷地の現況の3次元形状を取得し、前記複数の構造物の現況の3次元形状と、当該構造物の前記敷地における配置とを示す情報を当該構造物の現況の3次元モデルとして取得する、
避雷保護範囲生成システム。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の避雷保護範囲生成システムにおいて、
前記保護範囲生成部は、回転球体法または保護角法により、雷からの保護対象となる構造物の保護レベルに応じて、複数の前記避雷設備による雷からの保護範囲の3次元形状を生成し、
前記保護範囲出力部は、前記複数の保護範囲の3次元形状と、前記敷地の上に配置された複数の構造物の現況の3次元形状および3次元位置を含む3次元モデルとに基づいて、前記複数の構造物が当該構造物に関連付けられた保護レベルに該当する前記保護範囲の内にあるか否かを示す情報を出力する、
避雷保護範囲生成システム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の避雷保護範囲生成システムにおいて、
前記保護範囲出力部は、前記生成された保護範囲の3次元形状と、前記3次元モデルに含まれる前記複数の構造物の3次元形状および3次元位置とに基づいて、前記3次元モデルに含まれる前記複数の構造物のうち、前記避雷設備の前記生成された保護範囲に含まれない領域を抽出し、抽出された領域を出力する、
避雷保護範囲生成システム。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の避雷保護範囲生成システムにおいて、
前記保護範囲出力部は、前記3次元モデルに含まれる複数の構造物を3次元表示し、前記生成された保護範囲の3次元形状と、前記3次元モデルに含まれる前記複数の構造物の3次元形状および3次元位置とに基づいて、前記3次元モデルに含まれる前記複数の構造物の領域のうち、前記避雷設備の前記生成された保護範囲に含まれない領域を他の領域と異なる態様で表示する、
避雷保護範囲生成システム。
【請求項9】
対象となる敷地の3次元形状を取得する形状取得部、
前記敷地に配置される避雷設備の配置情報であって前記避雷設備の高さを含む配置情報を取得する避雷設備取得部、
前記避雷設備の配置情報、および、前記敷地の現況の3次元形状に基づいて、前記避雷設備による雷からの保護範囲の3次元形状を生成する保護範囲生成部、および、
前記保護範囲の3次元形状と、前記敷地の上に配置された複数の構造物の現況の3次元形状および3次元位置を含む3次元モデルとに基づいて、前記3次元モデルに含まれる前記複数の構造物が前記避雷設備の前記生成された保護範囲の内にあるか否かを示す情報を出力する保護範囲出力部、
操作者の操作により前記敷地の任意の位置に前記避雷設備を追加する手段、
としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、
前記保護範囲出力部は、前記敷地の任意の位置に前記避雷設備を追加する手段により前記避雷設備の追加があった場合に、前記保護範囲の3次元形状を更新する、
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は避雷保護範囲生成システムおよびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば避雷針などの避雷設備により、建物などの構造物を保護することが従来から行われている。この避雷設備の配置を設計する際に、その避雷設備により雷から保護される範囲(以下では「避雷保護範囲」と記載する)を求める。この避雷保護範囲を求める手法として、一般的に回転球体法が用いられている。この回転球体法による避雷保護範囲を効率的に求めるため、CADを用いることが提案されている。
【0003】
特許文献1には、CADに建築物の図面データを読み込み、操作者の入力により回転球体法の球体を描画することが開示されている。特許文献2には、建物の立体データに対して避雷設備の立体データを合成し、回転球体法を用いて保護領域と非保護領域を算出することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-99942号公報
【文献】特許第4864636号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術では、避雷保護範囲のシミュレーションの元データとして、建築の際に作成された構造物のCADデータを用いている。通常、CADデータは建築対象となる構造物のみについて作成されているため、その構造物単体でのシミュレーションを行っていた。
【0006】
また、複数の構造物をまとめてCADデータを作成し、避雷設備によるシミュレーションを行う事例もあるが、CADシステムの制約により、それらの構造物は平地に建てられていると仮定してシミュレーションを行っており、さらに、複数の構造物の位置関係も正確なものが反映できない状態でのシミュレーションとなっていた。
【0007】
そのため、敷地に高低差が有る場合や、多数の構造物が不規則に立地している場合等、上記の仮定が成り立たない環境においては、避雷設備による保護範囲を適切にシミュレーションすることが難しかった。特に、ある構造物との位置関係が定まっている避雷設備(例えば建築構造物に設置された避雷針)により、他の構造物などが保護されるかについて確認することが難しかった。
【0008】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであって、ある構造物を対象とする避雷設備により、他の構造物が保護されるかについて、適切にシミュレーションできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)対象となる敷地の3次元形状を取得する形状取得部と、前記敷地に配置される避雷設備の配置情報であって前記避雷設備の高さを含む配置情報を取得する避雷設備取得部と、前記避雷設備の配置情報、および、前記敷地の3次元形状に基づいて、前記避雷設備による雷からの保護範囲の3次元形状を生成する保護範囲生成部と、前記保護範囲の3次元形状と、前記敷地の上に配置された複数の構造物の3次元形状および3次元位置を含む3次元モデルとに基づいて、前記3次元モデルに含まれる前記複数の構造物が前記避雷設備の前記生成された保護範囲の内にあるか否かを示す情報を出力する保護範囲出力部と、を含む避雷保護範囲生成システム。
【0010】
(2)(1)において、前記形状取得部は、測量により生成された前記敷地および構造物の表面を構成する点群を取得し、前記取得された点群に基づいて前記敷地の3次元形状と、前記敷地の上に配置された複数の構造物の3次元形状および3次元位置を含む3次元モデルとを取得する、避雷保護範囲生成システム。
【0011】
(3)(2)において、前記形状取得部は、前記敷地および構造物が空中から撮影された複数の画像であって、互いに撮影範囲がオーバーラップするように撮影された複数の画像を取得し、前記取得された複数の画像に基づいて多視点画像計測手法により前記敷地および構造物の表面を構成する点群を算出し、前記算出された点群に基づいて前記敷地の3次元形状および前記複数の構造物の3次元モデルを取得する、避雷保護範囲生成システム。
【0012】
(4)(2)または(3)において、前記形状取得部は、前記複数の画像に基づいてステレオ図化機を用いて算出された3次元形状であって前記複数の構造物のうち一部の3次元形状に基づいて、前記一部の構造物の3次元モデルを更新する、避雷保護範囲生成システム。
【0013】
(5)(1)から(4)のいずれかにおいて、前記形状取得部は、測量により生成された前記敷地の表面を構成する点群を取得し、前記取得された点群に基づいて前記敷地の3次元形状を取得し、前記複数の構造物の3次元形状と、当該構造物の前記敷地における配置とを示す情報を当該構造物の3次元モデルとして取得する、避雷保護範囲生成システム。
【0014】
(6)(1)から(5)のいずれかにおいて、前記保護範囲生成部は、回転球体法または保護角法により、雷からの保護対象となる構造物の保護レベルに応じて、複数の前記避雷設備による雷からの保護範囲の3次元形状を生成し、前記保護範囲出力部は、前記複数の保護範囲の3次元形状と、前記敷地の上に配置された複数の構造物の3次元形状および3次元位置を含む3次元モデルとに基づいて、前記複数の構造物が当該構造物に関連付けられた保護レベルに該当する前記保護範囲の内にあるか否かを示す情報を出力する、避雷保護範囲生成システム。
【0015】
(7)(1)から(6)のいずれかにおいて、前記保護範囲出力部は、前記生成された保護範囲の3次元形状と、前記3次元モデルに含まれる前記複数の構造物の3次元形状および3次元位置とに基づいて、前記3次元モデルに含まれる前記複数の構造物のうち、前記避雷設備の前記生成された保護範囲に含まれない領域を抽出し、抽出された領域を出力する、避雷保護範囲生成システム。
【0016】
(8)(1)から(6)のいずれかにおいて、前記保護範囲出力部は、前記3次元モデルに含まれる複数の構造物を3次元表示し、前記生成された保護範囲の3次元形状と、前記3次元モデルに含まれる前記複数の構造物の3次元形状および3次元位置とに基づいて、前記3次元モデルに含まれる前記複数の構造物の領域のうち、前記避雷設備の前記生成された保護範囲に含まれない領域を他の領域と異なる態様で表示する、避雷保護範囲生成システム。
【0017】
(9)対象となる敷地の3次元形状を取得する形状取得部、前記敷地に配置される避雷設備の配置情報であって前記避雷設備の高さを含む配置情報を取得する避雷設備取得部、前記避雷設備の配置情報、および、前記敷地の3次元形状に基づいて、前記避雷設備による雷からの保護範囲の3次元形状を生成する保護範囲生成部、および、前記保護範囲の3次元形状と、前記敷地の上に配置された複数の構造物の3次元形状および3次元位置を含む3次元モデルとに基づいて、前記3次元モデルに含まれる前記複数の構造物が前記避雷設備の前記生成された保護範囲の内にあるか否かを示す情報を出力する保護範囲出力部、としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、ある構造物を対象とする避雷設備により、他の構造物が保護されるかを適切にシミュレーションすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態にかかる避雷保護範囲生成システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
図2】写真測量の過程を概略的に示す図である。
図3】避雷保護範囲生成システムが実現する機能を示すブロック図である。
図4】避雷保護範囲生成システムが実行する処理の概要を示すフローチャートである。
図5】構造物の補正を説明する図である。
図6】避雷設備の配置を説明する図である。
図7】生成される避雷保護範囲と構造物との関係を説明する図である。
図8】表示される避雷保護範囲の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。出現する構成要素のうち同一機能を有するものには同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態にかかる避雷保護範囲生成システムのハードウェア構成の一例を示す図である。避雷保護範囲生成システムは、保護範囲算出装置1、ステレオ図化装置2、無人航空機3、無人航空機3に搭載されるカメラ5を含む。
【0022】
保護範囲算出装置1は、例えばサーバコンピュータや、パーソナルコンピュータである。保護範囲算出装置1は、プロセッサ11、記憶部12、通信部13、入出力部14を含む。
【0023】
プロセッサ11は、記憶部12に格納されているプログラムに従って動作する。またプロセッサ11は通信部13を制御し、入出力部14に接続されたデバイスを制御する。なお、上記プログラムは、フラッシュメモリやDVD-ROM等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に格納されて提供されるものであってもよいし、インターネット等を介して提供されるものであってもよい。
【0024】
記憶部12は、RAMやフラッシュメモリ等のメモリ素子やハードディスクドライブによって構成されている。記憶部12は、上記プログラムを格納する。また、記憶部12は、各部から入力される情報や演算結果を格納する。
【0025】
通信部13は、他の装置と通信する機能を実現するものであり、例えば有線LANの集積回路などにより構成されている。通信部13は、プロセッサ11の制御に基づいて、他の装置との間で情報を送受信する。また通信部13は、受信された情報をプロセッサ11や記憶部12に入力する。
【0026】
入出力部14は、表示出力デバイスをコントロールするビデオコントローラや、入力デバイスからのデータを取得するコントローラなどにより構成される。入力デバイスとしては、キーボード、マウス、タッチパネルなどがある。入出力部14は、プロセッサ11の制御に基づいて、入力デバイスをユーザが操作することにより入力されるデータを取得し、表示出力デバイスに表示データを出力する。表示出力デバイスは例えば外部に接続されるディスプレイ装置、プリンタである。
【0027】
ステレオ図化装置2は、重複して撮影された複数の航空写真の画像から、写真測量の手法に基づいて地表面や建築構造物の形状の3次元座標を取得する装置である。ステレオ図化装置2は、公知であるため詳細の説明は省略する。
【0028】
無人航空機3は、ドローンとも呼ばれる、カメラ5を搭載する航空機であり、いわゆる写真測量を行うための複数の画像を撮影する。
【0029】
図2は、写真測量の過程を概略的に示す図である。図2に示されるように、無人航空機3は、今回のシミュレーションの対象となる敷地30上を移動しながら、取り付けられたカメラ5で複数の画像を撮影する。ここで、無人航空機3は、隣り合う画像の撮影範囲71が互いにオーバーラップするように複数の画像を撮影する。また、後述する点群の生成の処理における精度の向上などのため、あらかじめ位置関係が測定されている複数の基準点を敷地30の上に設け、無人航空機3が、それらの基準点のそれぞれがいずれかの画像に含まれるように撮影してもよい。さらに、精度の向上のため、無人航空機3に設置したGPS(Global Positioning System,全地球測位システム)を使って、撮影地点の高さ情報を含む位置情報を画像に付与してもよい。なお、上記のような重複した単写真ではなく、対象となる敷地30の全域を網羅するように連続的に撮影した動画像でもよい。撮影の具体的な手法については、例えばSfM(Structure from Motion)手法などを用いた公知の写真測量で利用可能な画像が撮影できればよく、ここでの詳細な説明は省略する。
【0030】
図2の例では、敷地30の上に建物32a,32b,32c,32d、タンク32i,32j,32kなどが設けられている。これらは建築構造物であり、以下では総称して構造物32と記載する。複数の構造物32は互いに離間して設けられている。図2には図示されていないが、構造物32またはその周囲には既存の避雷設備(避雷針41や銅線42)が設けられており、以下ではこれらが画像として撮影されているものとして説明する。
【0031】
次に、避雷保護範囲生成システムにおいて避雷保護範囲81(図7参照)を生成する手法について説明する。図3は、避雷保護範囲生成システムが実現する機能を示すブロック図である。避雷保護範囲生成システムは、機能的に、形状取得部51と、避雷設備取得部52と、保護範囲生成部53と、保護範囲出力部55とを含む。また、形状取得部51は、機能的に、画像取得部56、点群生成部57、モデル生成部58、モデル補正部59を含む。これらの機能は、保護範囲算出装置1に含まれるプロセッサ11が記憶部12に格納されたプログラムを実行し、必要に応じて通信部13や入出力部14を制御することにより実現される。ここで、これらの機能や処理は、複数のコンピュータからなるシステムにより実現されてもよい。例えば、画像取得部56、点群生成部57の処理が、他のコンピュータにより実現されてもよい。
【0032】
形状取得部51は、シミュレーションの対象となる敷地30の3次元形状と、敷地30の上に配置された複数の構造物32の3次元形状および3次元位置を含む3次元モデルとを取得する。より具体的には、形状取得部51は、写真測量などの測量により生成された敷地30および構造物32の表面を構成する点群を取得し、取得された点群に基づいて敷地30の3次元形状と、複数の構造物32の3次元形状および3次元位置を含む3次元モデルとを取得する。
【0033】
画像取得部56は、無人航空機3により空中から撮影された敷地30および構造物32の複数の画像であって、互いに撮影範囲71がオーバーラップするように撮影された複数の画像を取得する。点群生成部57は、取得された複数の画像に基づいて、SfMなどの多視点画像計測手法により、敷地30および構造物32の表面を構成する点群を算出する。モデル生成部58は、算出された点群に基づいて、敷地30の3次元形状および構造物32の3次元モデルを生成し取得する。モデル補正部59は、撮影された複数の画像のうち少なくとも2つの画像からステレオ図化装置2を用いて算出された構造物32の3次元形状に基づいて、その構造物32の3次元モデルを更新する。
【0034】
避雷設備取得部52は、敷地30に配置される避雷設備の配置情報を取得する。この配置情報は、避雷設備の高さの情報を含む。配置情報は、敷地30と避雷設備の3次元的な位置関係を示す情報である。
【0035】
保護範囲生成部53は、避雷設備取得部52により取得された避雷設備の配置情報と敷地30の3次元形状とに基づいて、例えば回転球体法により、避雷設備による雷からの避雷保護範囲81の3次元形状を生成する。回転球体法は、2つ以上の避雷設備に接する、または避雷設備と地面とに接するような球体を生成し、その球体表面の包絡面より構造物32の側にある領域を避雷保護範囲として求める手法である。この球体の半径は、保護の強さを示す保護レベルに応じて定まり、例えば保護レベルI、II、III、IVについての半径はそれぞれ20m、30m、45m、60mである。
【0036】
保護範囲出力部55は、生成された避雷保護範囲81の3次元形状を出力する。さらに、生成された避雷保護範囲81の3次元形状と、形状取得部51で取得された複数の構造物32の3次元形状および3次元位置とに基づいて、それらの構造物32のうち避雷保護範囲81に含まれない領域を抽出し、抽出された領域を出力する。また、保護範囲出力部55は、形状取得部51で取得された複数の構造物32を3次元表示し、生成された避雷保護範囲81の3次元形状と、複数の構造物32の3次元形状および3次元位置とに基づいて、複数の構造物の表面を構成する領域のうち生成された避雷保護範囲81に含まれない領域を、他の領域と異なる態様で表示してもよい。
【0037】
次に、避雷保護範囲生成システムが実行する処理の流れについて説明する。図4は、避雷保護範囲生成システムが実行する処理の概要を示すフローチャートである。図4に示される処理が実行される前に、避雷保護範囲81のシミュレーションの対象となる敷地30および構造物32について、無人航空機3のカメラ5により、互いに撮影範囲71がオーバーラップするような複数の画像が、あるいは、敷地30の全域を網羅した動画像が撮影されている。
【0038】
画像取得部56は、無人航空機3のカメラ5により撮影された複数の画像あるいは動画像を取得する(ステップS101)。カメラ5により撮影された複数の画像のデータを無人航空機3を制御するコンピュータにいったん保存した後に、そのデータをネットワーク経由で画像取得部56が取得してもよいし、複数の画像のデータをカメラ5に装着したフラッシュメモリなどに保存し、保存されたデータを画像取得部56が読み込んでもよい。
【0039】
次に、点群生成部57は、取得された複数の画像に対して例えばSfM等の多視点計測手法を適用し、敷地30および敷地30上にある構造物32の点群データを生成する。取得した画像が動画像の場合は、必要分の単画像のみを抽出し適用する。点群データは、敷地30や構造物32の表面を構成する複数の点の座標データを含む。点群生成部57は、複数の画像そのものに加え、複数の画像に含まれる基準点の実際の位置も利用して点群に含まれる各点の座標を生成してもよいし、撮影時に取得された各画像の撮影位置情報を利用して各点の座標を生成してもよい。
【0040】
点群が生成されると、モデル生成部58は、点群データに基づいて、敷地30の3次元形状と、構造物32の3次元形状および3次元位置を含む3次元モデルとを決定する(ステップS103)。より具体的には、モデル生成部58は、点群データから地形の表面を構成する複数の点を特定し、特定された複数の点に応じて求められる地表面を敷地30の3次元形状として取得する。また、モデル生成部58は、点群データから構造物32の表面を構成する複数の点を特定し、特定された複数の点に応じた構造物32の表面を求めることで、構造物32の3次元モデルを取得する。なお、モデル生成部58は、単に点群を敷地30の地表面、および、構造物の3次元モデルとして取得してもよい。
【0041】
また、モデル生成部58は、敷地30の3次元形状については点群データから取得し、構造物32の3次元形状を示すデータを設計時のCADデータなどの他のデータから取得してもよい。この場合、モデル生成部58は、CADデータを読み込む際に、操作者から敷地30上の位置を取得することで、あるいは、CADデータに有する平面的な位置情報を取得することで、構造物32の3次元形状だけでなく3次元位置も含む3次元モデルを取得する。なお、モデル生成部58は、他のシステムにより生成された敷地30の3次元形状および構造物32の3次元モデルのデータを取得してもよい。
【0042】
敷地30の3次元形状および構造物32の3次元モデルが決定されると、モデル補正部59は、撮影された複数の画像のうち少なくとも2つの画像からステレオ図化装置2を用いて取得された、一部の構造物32の表面上の点の座標を取得し、取得された点の座標に基づいて、その構造物32の3次元モデルを補正する(ステップS104)。
【0043】
図5は、構造物32の補正を説明する図である。図5には構造物32として建物32eが示されている。多視点画像計測手法による取得される複数の点は、正確に構造物32の端であるとは限らないため、生成された3次元モデルでは、構造物32の端が丸くなる現象が生じやすい。また多視点画像計測手法で点群を生成する際の誤差が生じる場合もある。ステレオ図化装置2は、操作者が人手で指定した、複数の画像における構造物32を構成する表面の端にある端点75を取得し、この端点75の座標を算出する。モデル補正部59はこの端点75の座標を取得し、さらに、操作者から構造物32の表面を構成し、端点75を結ぶ直線や面(図5の一点鎖線を参照)などの情報を受け付ける。モデル補正部59は、その端点75を結ぶ直線や面などから構造物32の3次元モデルを更新する。構造物32の補正は、避雷保護範囲81の算出に影響が大きい箇所のみされればよく、特定の構造物32の一部だけが補正されてもよい。
【0044】
敷地30の3次元形状および構造物32の3次元モデルが決定または更新されると、避雷設備取得部52は、避雷設備の配置を取得する(ステップS105)。
【0045】
図6は、避雷設備の配置を説明する図であり、図2に示される図と同じアングルで避雷設備を3次元的に配置した図である。図6において構造物32を破線で示しているが、説明の容易のために記したものであり、実際の避雷設備の配置のデータには構造物32そのものは含まれない。避雷設備としては、構造物32の屋上から上方に延びるように配置される避雷針41や、屋上の端部などに設けられる銅線42、また地面に直接建てられる避雷塔43などがある。避雷設備取得部52は、操作者が構造物32の3次元モデルを参照して入力する避雷設備の配置を取得してもよいし、点群生成部57により生成された点群データから、避雷設備を抽出してもよい。あるいは、CADデータ等で作成された避雷設備の設計情報を上記の敷地30の3次元形状上に配置することで取得してもよいし、構造物32の3次元モデルの更新の際に、撮影された複数の画像からステレオ図化装置2を用いて避雷設備の配置情報を取得してもよい。
【0046】
避雷設備の配置が取得されると、保護範囲生成部53は、敷地30の3次元形状と、避雷設備の配置とに基づいて、避雷保護範囲81を生成する(ステップS106)。保護範囲生成部53は、例えば回転球体法により、避雷針41や避雷塔43の先端や銅線42上の点と、敷地30の地面とを通る回転球体を漏れがないように求め、地面より上における、その回転球体のいずれも存在しない領域であって、そのうちに避雷設備が存在する領域を避雷保護範囲81として生成する。回転球体の半径は、構造物32毎に設定された雷からの保護レベルに応じて規定された値(例えば60m)を用いる。保護範囲生成部53は、あらかじめ上記保護レベルのそれぞれについて避雷保護範囲81を生成してもよい。なお、本実施の形態において避雷保護範囲81の生成には回転球体法を使用したが、保護角法、または、その他の避雷保護範囲の生成方法を使用してもよい。さらに、回転球体法と保護角法を併用してもよい。
【0047】
そして、保護範囲出力部55は、生成された避雷保護範囲81の3次元形状と、形状取得部51で取得された複数の構造物32の3次元モデルとに基づいて、構造物32のうち、避雷保護範囲81に含まれない領域を抽出する(ステップS107)。保護範囲出力部55は抽出された領域を記憶部12に出力する。
【0048】
図7は、生成される避雷保護範囲81と構造物32との関係を説明する図である。図7では、説明の容易のため、構造物32などを横から見た2次元の図を示している。図7に示されるように、避雷針41が設けられるなど避雷設備との位置関係が明確になっている構造物32m,32nと、その他の構造物32pとの間で、地面の高さが異なる場合がある。すると、地面の高さの違いにより、構造物32pのうち避雷保護範囲81に含まれない領域である未保護領域83が、構造物32m,n,pが同じ高さである場合と異なる。例えば、高さが同じ場合に比べて、構造物32pより高い位置に配置される構造物32nの避雷針41により保護される領域は多くなり、構造物32pより低い位置に配置される構造物32mの避雷針41により保護される領域は少なくなる。さらにいえば、地面の高さの違いにより、構造物32m,32nの避雷針41と地面とを通る回転球体の位置も変化するため、避雷保護範囲81そのものも、より正確に求められている。
【0049】
未保護領域83が抽出されると、保護範囲出力部55は、避雷保護範囲81のうちに存在するか否かがわかる態様で構造物32の3次元画像を生成し、表示デバイスにその画像を出力させる(ステップS108)。ここで、保護範囲出力部55は、構造物32の3次元モデルおよび敷地30の3次元形状に応じた3次元画像を生成する。さらに、保護範囲出力部55は、未保護領域83と、避雷保護範囲81に含まれる領域とで、色や明るさなどの表示態様が異なるように構造物32を描画する。保護範囲出力部55は、ステップS107で抽出された未保護領域83に着色するなどして表示態様を異ならせてもよいし、避雷保護範囲81の端にある境界面を半透明で描画することにより、避雷保護範囲81に含まれる領域が着色することで表示態様を異ならせてもよい。
【0050】
未保護領域83が抽出された後、操作者は、未保護領域83の状況を画面で確認しながら、画面上の操作により避雷設備を任意の位置に追加してもよい。避雷設備が追加されたら、保護範囲出力部55は避雷保護範囲81を更新し、新たな未保護範囲83を表示させてもよい。全ての構造物32が避雷保護範囲81内に収まるまで、避雷設備の追加、既存避雷設備の移動の操作を繰り返すことで、新たな避雷設備の設計を行ってもよい。
【0051】
3次元モデルは、構造物32毎に関連付けられた雷からの保護レベルの情報を有していてもよい。その場合、保護範囲出力部55は、構造物32のそれぞれについて、その構造物32に関連付けられた保護レベルについて生成された避雷保護範囲81を選択し、その構造物32が選択された避雷保護範囲81のうちに存在するか否かを識別してよい。
【0052】
図8は、表示される避雷保護範囲81の一例を示す図である。図8の例では、避雷塔43により保護される避雷保護範囲81の境界を一点鎖線で示しており、一点鎖線により囲まれている領域は実際には半透明の境界面により着色されている。図8の例では、建物32a,32bおよびタンク32iのうち避雷保護範囲81に含まれる領域は破線で示されており、実線で描画される未保護領域83と表示態様が異なっている。
【0053】
これまでに説明したように、本発明の実施形態では、敷地30の高低差を示す情報を取得し、避雷保護範囲81の生成に用いることにより、特定の構造物32と位置関係が規定されている避雷設備により、他の構造物32を雷から保護するか否かについてより適切にシミュレーションすることができ、避雷設備の再構築のための検討情報とすることができる。
【0054】
また、敷地30や構造物32の現況を無人航空機3による写真測量から取得することにより、敷地30や構造物32の構造であって避雷保護範囲81のシミュレーションに必要な情報を個々の設計データ等を集めることなしに取得することができる。また、実際の構造物32は、後からの増改築などによって、設計図と実際の構造とが異なっていることが多い。写真測量による取得であれば設計図と実際の構造との相違は問題にならず、より容易に正確なシミュレーションを行うことが可能になる。
【0055】
なお、敷地30や構造物32の現況を測量する手法は多視点画像計測手法を用いた写真測量に限られない。レーザーなどの測量手法により、構造物32の構造を示す点群データが取得されてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 保護範囲算出装置、2 ステレオ図化装置、3 無人航空機、5 カメラ、11 プロセッサ、12 記憶部、13 通信部、14 入出力部、30 敷地、32,32m,32n,32p 構造物、32a,32b,32c,32d,32e 建物、32i,32j,32k タンク、41 避雷針、42 銅線、43 避雷塔、51 形状取得部、52 避雷設備取得部、53 保護範囲生成部、55 保護範囲出力部、56 画像取得部、57 点群生成部、58 モデル生成部、59 モデル補正部、71 撮影範囲、75 端点、81 避雷保護範囲、83 未保護領域。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8