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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】エッチング方法およびエッチング装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20221129BHJP
【FI】
H01L21/302 105A
H01L21/302 101C
H01L21/302 104Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018212151
(22)【出願日】2018-11-12
(65)【公開番号】P2020080349
(43)【公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【弁理士】
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【弁理士】
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】堀 勝
(72)【発明者】
【氏名】谷出 敦
(72)【発明者】
【氏名】中村 昭平
(72)【発明者】
【氏名】高辻 茂
(72)【発明者】
【氏名】灘原 壮一
【審査官】佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-271621(JP,A)
【文献】特開2004-281815(JP,A)
【文献】特開平09-045670(JP,A)
【文献】特開平09-330916(JP,A)
【文献】S.J Rearton, C.R Abernathy and F.Ren,Low bias electron cyclotron resonance plasma etching of GaN,AlN,and InN,Applid Physics Letters,Vol.64,No.17,米国,American Institute of Physics,1994年04月25日,2294-2296
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ClとHとを含む混合ガスをプラズマ化し、
前記混合ガスをプラズマ化したプラズマガスを、基板保持部に保持されたIII 族窒化物半導体を収容する処理室に供給し、
前記混合ガスに占めるH の体積比を1体積%以上10体積%以下とし、
前記基板保持部に0V以上500V以下のバイアスを付与し、
前記プラズマガスによりIII 族窒化物半導体をエッチングすること
を特徴とするエッチング方法。
【請求項2】
請求項1に記載のエッチング方法において、
前エッチングの処理において第1の期間と第2の期間を設定し、
前記第1の期間では、Cl とH とを含む混合ガスをプラズマ化してIII 族窒化物半導体に供給し、
前記第2の期間では、Cl とN とを含む混合ガス、またはN をプラズマ化してIII 族窒化物半導体に供給する、
ことを特徴とするエッチング方法。
【請求項3】
請求項2に記載のエッチング方法において、
前記第1の期間の処理と前記第2の期間の処理とを交互に繰り返す、
ことを特徴とするエッチング方法。
【請求項4】
III 族窒化物半導体をエッチングする処理室と、
前記III 族窒化物半導体を保持する基板保持部と、
前記処理室の内部にガスを供給するガス供給部と、
前記ガスをプラズマ化するプラズマ発生部と、
前記基板保持部に高周波電位を付与する電位付与部と、
を有し、
前記ガスは、
ClとHとを含む混合ガスであって前記混合ガスに占めるH の体積比が、1体積%以上10体積%以下であり、
前記電位付与部は、0V以上500V以下のバイアスを前記基板保持部に付与する、
を特徴とするエッチング装置。
【請求項5】
請求項4に記載のエッチング装置において、
前記エッチングの処理において第1の期間と第2の期間が設定され、
前記第1の期間では、前記ガス供給部はCl とH とを含む混合ガスを前記処理室の内部に供給し、
前記第2の期間では、前記ガス供給部はCl とN とを含む混合ガス、またはN を前記処理室の内部に供給する、
ことを特徴とするエッチング装置。
【請求項6】
請求項5に記載のエッチング装置において、
前記第1の期間の処理と前記第2の期間の処理とを交互に繰り返す、
ことを特徴とするエッチング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、III 族窒化物半導体をエッチングするエッチング方法およびエッチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
GaNに代表されるIII 族窒化物半導体は、例えば、LEDに応用されている。また、III 族窒化物半導体は、高い絶縁破壊強度と、高い耐熱性と、高速動作性と、を備えている。そのため、パワーデバイスとしての応用が期待されている。
【0003】
III 族窒化物半導体をパワーデバイスに応用する際には、III 族窒化物半導体をエッチングすることがある。その一例として例えば、III 族窒化物半導体にトレンチを形成する場合が挙げられる。そのため、III 族窒化物半導体をエッチングする技術が開発されてきている。例えば、特許文献1には、基板温度を200℃以上600℃以下としてCl2 を含むガスを用いてドライエッチングを行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-45049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術では、III 族窒化物半導体がオーバーエッチングするおそれがある。つまり、マスクの下層のIII 族窒化物半導体がやせ細ってしまう。この場合には、その細い箇所の機械的強度は弱い。また、その細い箇所に電界が集中するおそれもある。したがって、III 族窒化物半導体のオーバーエッチングを抑制することが好ましい。
【0006】
また、エッチングによる半導体へのダメージも抑制することが好ましい。
【0007】
本明細書の技術が解決しようとする課題は、オーバーエッチングと半導体の表面荒れとを抑制することを図ったエッチング方法およびエッチング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様におけるエッチング方法は、ClとHとを含む混合ガスをプラズマ化し、混合ガスをプラズマ化したプラズマガスを、基板保持部に保持されたIII 族窒化物半導体を収容する処理室に供給し、混合ガスに占めるH の体積比を1体積%以上10体積%以下とし、基板保持部に0V以上500V以下の高周波電位を付与し、プラズマガスによりIII 族窒化物半導体をエッチングする。
【0009】
このエッチング方法においては、エッチング箇所のオーバーエッチングと半導体の表面荒れとの両方を抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本明細書では、オーバーエッチングと半導体の表面荒れとを抑制することを図ったエッチング方法およびエッチング装置が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態のエッチング装置の概略構成を示す図である。
図2】Cl- イオンの振る舞いを模式的に示す図である。
図3】Clラジカルの振る舞いを模式的に示す図である。
図4】エッチングしたGaN基板の断面を示す走査型顕微鏡写真(その1)である。
図5】エッチングしたGaN基板の断面を示す走査型顕微鏡写真(その2)である。
図6】横方向のエッチングレートと縦方向のエッチングレートとの関係を示すグラフである。
図7】混合ガスに占めるH2 ガスの割合を変えてエッチングした場合の半導体の表面粗さを示す電子顕微鏡写真である。
図8】混合ガスに占めるH2 ガスの割合を変えてエッチングした場合の半導体の表面を概念的に示す図である。
図9】混合ガスに占めるH2 ガスの割合と半導体の表面粗さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、具体的な実施形態について、エッチング装置およびエッチング方法を例に挙げて図を参照しつつ説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
1.エッチング装置
図1は、第1の実施形態のエッチング装置1000の概略構成を示す図である。エッチング装置1000は、処理室1001と、サセプター1100と、サセプター支持部1110と、加熱部1120と、SiCプレート1130と、第1の電位付与部1200と、第1の整合器1210と、プラズマ発生部1300と、第2の電位付与部1400と、第2の整合器1410と、ガス供給部1500と、ガス供給管1510と、シャワープレート1600と、排気口1700と、予備室1800と、を有する。
【0014】
処理室1001は、基板S1のIII 族窒化物半導体をエッチングするための反応室である。基板S1は、III 族窒化物半導体を有する。処理室1001は、基板S1を支持するサセプター1100と、サセプター支持部1110と、SiCプレート1130と、プラズマ発生部1300と、シャワープレート1600と、排気口1700と、を有する。
【0015】
サセプター1100は、III 族窒化物半導体を有する基板S1を保持するための基板保持部である。サセプター1100は、バルクのIII 族窒化物半導体を保持してもよい。サセプター1100の材質は、例えばSiCである。また、炭素材料にSiCのコーティングを施したものであってもよい。サセプター支持部1110は、サセプター1100を支持するための支持台である。加熱部1120は、サセプター1100を加熱するためのものである。加熱部1120は、サセプター1100を介して基板S1を加熱することとなる。このような加熱部1120として、例えば、ハロゲンランプが挙げられる。
【0016】
第1の電位付与部1200は、サセプター1100に高周波電位を付与するためのものである。そのため、第1の電位付与部1200は、サセプター1100と電気的に接続されており、サセプター1100を介して基板S1に電位を付与することができる。第1の電位付与部1200における高周波電位の周波数は、例えば、13.56MHzである。もちろん、これ以外の周波数であってもよい。第1の整合器1210は、第1の電位付与部1200とサセプター1100との間に配置されている。つまり、第1の電位付与部1200は、第1の整合器1210を介してサセプター1100に接続されている。
【0017】
プラズマ発生部1300は、処理室1001の内部であってサセプター1100と対面する位置にプラズマを発生させるためのものである。プラズマ発生部1300は、後述する第1のガスをプラズマ化する。プラズマ発生部1300は、誘導結合プラズマ(ICP)を発生させるICPユニットである。
【0018】
第2の電位付与部1400は、プラズマ発生部1300に高周波電位を付与するためのものである。第2の電位付与部1400における高周波電位の周波数は、例えば、27.12MHzである。もちろん、これ以外の周波数であってもよい。第2の整合器1410は、第2の電位付与部1400とプラズマ発生部1300との間に配置されている。つまり、第2の電位付与部1400は、第2の整合器1410を介してプラズマ発生部1300に接続されている。
【0019】
ガス供給部1500は、処理室1001の内部に第1のガスを供給するためのものである。ここで、第1のガスは、Cl2 とH2 との混合ガスである。ガス供給管1510は、ガス供給部1500と処理室1001とを連結するための流路である。ガス供給部1500は、第1のガスを予備室1800に供給する。その後、第1のガスは、予備室1800からシャワープレート1600の複数の貫通孔を通過してプラズマ発生部1300の箇所に到達する。シャワープレート1600は、第1のガスを整流する整流板である。排気口1700は、処理室1001からガスを排出するためのものである。
【0020】
2.エッチング方法
第1の実施形態のエッチング装置1000を用いる。まず、エッチング装置1000のサセプター1100に基板S1を配置する。次に、エッチング装置1000の処理室1001の内部を真空ポンプで真空引きする。そして、ガス供給部1500が、Cl2 とH2 との混合ガスである第1のガスを処理室1001の内部に供給する。そして、第1の電位付与部1200が、サセプター1100に高周波のバイアスVppを付与する。第2の電位付与部1400が、プラズマ発生部1300に高周波電位を付与する。これにより、プラズマ発生部1300が処理室1001の内部にプラズマを発生させる。そして、第1のガスはプラズマ化され、プラズマ生成領域からプラズマ生成物が発生する。プラズマ生成物とは、H(水素)およびCl(塩素)に由来するイオンおよびラジカルと、紫外線とを含む。そして、このようなイオンおよびラジカルが基板S1のIII 族窒化物半導体をエッチングする。
【0021】
このように本実施形態のエッチング方法では、Cl2 とH2 とを含む混合ガスをプラズマ化し、混合ガスをプラズマ化したプラズマガスをIII 族窒化物半導体を収容する処理室に供給し、プラズマガスによりIII 族窒化物半導体をエッチングする。
【0022】
2-1.エッチング条件
エッチング条件を表1に示す。ガス供給部1500は、第1のガスを処理室1001の内部に供給する。ここで、第1のガスは、塩素系混合ガスである。より具体的には、第1のガスは、Cl2 とH2 との混合ガスである。この第1のガスに占めるH2 は、1体積%以上10体積%以下である。ここで、第1のガスに占めるH2 の体積比は、処理室1001に導入する第1のガスに占めるH2 の流量比と同じである。
【0023】
処理室1001の内圧は1Pa以上50Pa以下である。処理室1001の内圧がこの範囲内のときには、プラズマ発生部1300により発生されるプラズマは誘導結合プラズマである。バイアスVppは、0V以上500V以下である。バイアスVppの周波数は、1MHz以上100MHz以下の程度である。プラズマ発生部1300の出力は、100W以上800W以下の程度である。基板温度は、300℃以上500℃以下である。
【0024】
[表1]
内圧 1Pa以上 50Pa以下
2 の体積比 1体積%以上 10体積%以下
バイアス 0V以上 500V以下
【0025】
2-2.エッチング箇所の形状
第1のガスに占めるH2 が1体積%以上10体積%以下である場合に、エッチング箇所の形状がよい。第1のガスに占めるH2 が1体積%以上7体積%以下である場合に、エッチング箇所の形状が特によい。
【0026】
2-3.表面粗さ
第1のガスに占めるH2 が1体積%以上10体積%以下である場合に、半導体の表面粗さがよい。第1のガスに占めるH2 が2体積%以上8体積%以下である場合に、半導体の表面粗さが特によい。
【0027】
3.プラズマ生成物とバイアスとの関係
ここで、プラズマ生成物とバイアスとの関係について説明する。プラズマ生成物のうち、イオンとラジカルとについて説明する。イオンを代表してCl- (塩化物イオン)について説明する。ラジカルを代表してClラジカルについて説明する。
【0028】
3-1.イオンの振る舞い
図2は、Cl- イオンの振る舞いを模式的に示す図である。Cl- イオンは、負に帯電している。そのため、バイアスVppにより、Cl- イオンは基板S1に向かって加速される。つまり、Cl- イオンは、図2の矢印K1の向きに移動する。そのため、Cl- イオンは、基板S1のIII 族窒化物半導体を主に縦方向にエッチングする。ここで縦方向とは、基板S1の板面に垂直な方向である。
【0029】
3-2.ラジカルの振る舞い
図3は、Clラジカルの振る舞いを模式的に示す図である。Clラジカルは、電気的に中性である。そのため、周囲の電界の影響を受けない。したがって、Clラジカルは、バイアスVppによらず放射状に移動する。つまり、Clラジカルは、図3の矢印K2の向きに移動する。そのため、Clラジカルは、基板S1のIII 族窒化物半導体を縦方向のみならず横方向にエッチングする。ここで横方向とは、基板S1の板面に平行な方向である。したがって、このラジカルがIII 族窒化物半導体のオーバーエッチングに関与していると考えられる。
【0030】
3-3.バイアスとエッチング
本実施形態では、プラズマ生成領域で発生するプラズマ生成物の状態に応じて、バイアスVppを調整する。これにより、基板S1に到達するイオンとラジカルとのバランスを調整する。これにより、マスク直下のIII 族窒化物半導体の幅が狭くなることを抑制する。
【0031】
4.本実施形態の効果
4-1.効果
本実施形態のエッチング装置1000は、オーバーエッチングを抑制しつつIII 族窒化物半導体をエッチングすることができる。つまり、マスクの幅と、マスクより下層のIII 族窒化物半導体の幅とが、ほとんど等しい。さらに、エッチング対象となる半導体の表面荒れを抑制することができる。したがって、本実施形態のエッチング装置1000およびエッチング方法は、高い精度でIII 族窒化物半導体をエッチングすることができるとともに、III 族窒化物半導体へのダメージを抑制することができる。
【0032】
4-2.考えられる効果の要因
塩素ガスに水素ガスを加えることで表面粗さが改善される効果は、次に挙げる理由により得られると考えられる。水素ガスを加えることにより、GaN層の表面で窒素原子が優先的に脱離し、GaN層の表面がGaリッチな状態が実現すると考えられる。そのため、ピットの形成等が抑制されると考えられる。また、ファセットが形成されにくくなる可能性がある。
【0033】
5.変形例
5-1.希ガスまたは窒素ガス
ガス供給部1500は、塩素系混合ガスである第1のガスを供給する。第1のガスはCl2 とH2 との混合ガスである。ガス供給部1500は、第1のガスに窒素ガスと希ガスとの少なくとも一方を含むガスを混合した第2のガスを処理室1001の内部に供給してもよい。ただし、H2 が占める体積比Xは、Cl2 とH2 との合計の体積に占めるH2 の体積である。
【0034】
5-2.サイクル処理
第1の期間T1と第2の期間T2とを設定し、第1の期間T1の処理と第2の期間T2の処理とを繰り返し実施してもよい。例えば、第1の期間T1にCl2 とH2 との混合ガスをプラズマ化してIII 族窒化物半導体に供給し、第2の期間T2にN2 (窒素ガス)をプラズマ化してIII 族窒化物半導体に供給する。または、第1の期間T1にCl2 とH2 との第1の混合ガスをプラズマ化してIII 族窒化物半導体に供給し、第2の期間T2にCl2 とN2 との第2の混合ガスをプラズマ化してIII 族窒化物半導体に供給する。これにより、GaリッチなIII 族窒化物半導体の表面状態から、半導体のストイキオメトリを回復させることができると考えられる。
【0035】
5-3.初期および終期におけるガスの変更
また、エッチングの初期Ti(第1の期間)と終期Tf(第2の期間)とを設定し、初期Tiの処理の後に終期Tfの処理を実施してもよい。初期Tiには、Cl2 とH2 との第1の混合ガスをプラズマ化してIII 族窒化物半導体に供給し、終期Tfには、Cl2 とN2 との第2の混合ガスまたはN2 をプラズマ化してIII 族窒化物半導体に供給する。
【0036】
5-4.プラズマ発生部の位置
本実施形態では、プラズマ発生部1300は、処理室1001の内部に位置している。プラズマ発生部1300は、処理室1001の外部の別室の内部に配置されていてもよい。ただし、プラズマ発生部1300は、基板S1を配置するサセプター1100からそれほど遠くない位置に配置されていることが好ましい。
【0037】
5-5.プラズマ発生部の種類
本実施形態では、プラズマ発生部1300はICPユニットである。しかし、プラズマ発生部1300としてその他のプラズマ発生装置を用いてもよい。例えば、プラズマ発生部1300は、容量結合型プラズマ(CCP)と、電子サイクロトロン共鳴プラズマ(ECR)と、ヘリコン波励起プラズマ(HWP)と、マイクロ波励起表面波プラズマ(SWP)と、のいずれかであってもよい。
【0038】
5-6.サセプター
サセプター1100は、回転できるようになっていてもよい。
【0039】
5-7.組み合わせ
上記の変形例を自由に組み合わせてもよい。
【0040】
(実験)
1.実験A(エッチング箇所の形状)
1-1.実験方法1
マスク形成済みのGaN基板をエッチングした。基板温度は400℃であった。プラズマ発生部の出力は400Wであった。バイアスの周波数は3.2MHzであった。バイアスVppは230Vであった。供給するガスはCl2 ガスとH2 ガスとの混合ガスであった。供給するガスにおけるH2 ガスは、5体積%であった。また、処理室1001の内圧は5Paであった。エッチング時間は5分であった。
【0041】
1-2.実験結果1
図4は、エッチングしたGaN基板の断面を示す走査型顕微鏡写真(その1)である。図4に示すように、GaN基板はオーバーエッチングされていない。エッチングされた箇所の幅W1と、マスクの幅W2と、がほぼ等しい。
【0042】
1-3.実験方法2
次に、実験方法1と同様にマスク形成済みのGaN基板をエッチングした。実験方法1と異なる点は、H2 ガスの体積比である。供給するガスはCl2 ガスであり、H2 ガスを含んでいない。つまり、供給するガスにおけるH2 ガスは、0体積%であった。
【0043】
1-4.実験結果2
図5は、エッチングしたGaN基板の断面を示す走査型顕微鏡写真(その2)である。図5に示すように、GaN基板はオーバーエッチングされている。エッチングされた箇所の幅W3が、マスクの幅W4よりも小さい。
【0044】
1-5.実験方法3
供給するガスにおけるH2 ガスの割合を変えて、GaN基板をエッチングした。H2 ガスの割合以外の条件については実験方法1と同様であった。
【0045】
1-6.実験結果3
図6は、横方向のエッチングレートと縦方向のエッチングレートとの関係を示すグラフである。図6の横軸は混合ガスに占めるH2 ガスの割合(体積比)である。図6の縦軸は縦方向のエッチングレートに対する横方向のエッチングレートの比である。横方向のエッチングレートが0の場合に、縦方向のエッチングレートに対する横方向のエッチングレートの比が0となる。
【0046】
図6に示すように、H2 ガスの割合が0体積%より大きく10体積%以下の場合には、縦方向のエッチングレートに対する横方向のエッチングレートの比が0.15以下である。また、H2 ガスの割合が1体積%以上7体積%以下の場合には、縦方向のエッチングレートに対する横方向のエッチングレートの比が0.1以下と十分に小さい。さらに、H2 ガスの割合が2体積%以上5体積%以下の場合には、縦方向のエッチングレートに対する横方向のエッチングレートの比が0.07以下と十分に小さい。特に、H2 ガスの割合が2体積%の場合には、縦方向のエッチングレートに対する横方向のエッチングレートの比がほぼ0.01以下である。
【0047】
2.実験B(表面粗さ)
2-1.実験方法
マスク形成済みのGaN基板をエッチングした。基板温度は400℃であった。プラズマ発生部の出力は400Wであった。バイアスの周波数は3.2MHzであった。バイアスVppは230Vであった。供給するガスはCl2 ガスとH2 ガスとの混合ガスであった。また、処理室1001の内圧は20Paであった。エッチング時間は5分であった。そして供給する混合ガスにおけるH2 ガスの割合を変えて、表面粗さを観察した。
【0048】
2-2.実験結果
図7は、混合ガスに占めるH2 ガスの割合を変えてエッチングした場合の表面粗さを示す電子顕微鏡写真である。図7(a)は、H2 ガスの割合が0体積%の場合を示している。図7(b)は、H2 ガスの割合が2体積%の場合を示している。図7(c)は、H2 ガスの割合が5体積%の場合を示している。図7(d)は、H2 ガスの割合が10体積%の場合を示している。図7(e)は、H2 ガスの割合が20体積%の場合を示している。
【0049】
図7において、色の暗い部分が相対的に低い箇所(凹部または底部)に対応し、色の明るい部分が相対的に高い場所(凸部または頂部)に対応している。図7に示すように、H2 ガスの割合が0体積%の場合には、暗い点状の部分が多い。これは凹部が多いことを示している。H2 ガスの割合が20体積%の場合には、明るい点状の部分が多い。これは凸部が多いことを示している。H2 ガスの割合が5体積%の場合には、極端に明るい部分および極端に暗い部分が少ない。これは表面の平坦性が高いことを示している。
【0050】
図8は、混合ガスに占めるH2 ガスの割合を変えてエッチングした場合の半導体の表面を概念的に示す図である。つまり、図8は、図7を概念化し、半導体の断面方向から視た様子を示している。図8に示すように、H2 ガスの割合が0体積%の場合には凹部が多く、H2 ガスの割合が20体積%の場合には凸部が多い。そして、H2 ガスの割合が5体積%の場合には、半導体層の表面はより平坦である。H2 ガスの割合が2体積%以上8体積%以下の場合には、半導体の表面粗さ(RMS)は2.5nm以下である。
【0051】
図9は、混合ガスに占めるH2 ガスの割合と表面粗さとの関係を示すグラフである。図9の横軸は混合ガスに占めるH2 ガスの割合である。図9の縦軸は表面粗さ(RMS)である。
【0052】
図9に示すように、混合ガスに占めるH2 ガスの割合が、1体積%以上10体積%以下の場合には、表面粗さ(RMS)は、3nm以下である。図9に示すように、混合ガスに占めるH2 ガスの割合が5体積%の場合に、表面粗さ(RMS)が最も小さい。
【0053】
3.実験のまとめ
このように、混合ガスに占めるH2 ガスの割合が、1体積%以上10体積%以下の場合には、エッチングにおけるオーバーエッチングを抑制するとともに、半導体の表面の荒れをも抑制する。
【0054】
(付記)
第1の態様におけるエッチング方法においては、Cl2 とH2 とを含む混合ガスをプラズマ化し、混合ガスをプラズマ化したプラズマガスをIII 族窒化物半導体を収容する処理室に供給し、プラズマガスによりIII 族窒化物半導体をエッチングする。
【0055】
第2の態様におけるエッチング方法においては、混合ガスにおけるH2 が、1体積%以上10体積%以下である。
【0056】
第3の態様におけるエッチング装置は、III 族窒化物半導体をエッチングする処理室と、III 族窒化物半導体を保持する基板保持部と、処理室の内部にガスを供給するガス供給部と、ガスをプラズマ化するプラズマ発生部と、基板保持部に高周波電位を付与する電位付与部と、を有する。ガスは、Cl2 とH2 とを含む混合ガスである。
【0057】
第4の態様におけるエッチング装置においては、混合ガスにおけるH2 が、1体積%以上10体積%以下である。
【符号の説明】
【0058】
1000…エッチング装置
1001…処理室
1100…サセプター
1110…サセプター支持部
1120…加熱部
1130…SiCプレート
1200…第1の電位付与部
1210…第1の整合器
1300…プラズマ発生部
1400…第2の電位付与部
1410…第2の整合器
1500…ガス供給部
1510…ガス供給管
1600…シャワープレート
1700…排気口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9