(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】紡績糸ならびにこの紡績糸を用いた生地、加工生地および加工生地の製造方法
(51)【国際特許分類】
D02G 3/04 20060101AFI20221129BHJP
D06M 15/643 20060101ALI20221129BHJP
D06M 11/00 20060101ALI20221129BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
D02G3/04
D06M15/643
D06M11/00 140
D04B1/16
(21)【出願番号】P 2021023772
(22)【出願日】2021-02-17
【審査請求日】2022-06-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520259113
【氏名又は名称】荻野 毅
(73)【特許権者】
【識別番号】390008394
【氏名又は名称】長谷虎紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻野 毅
(72)【発明者】
【氏名】平田 徹
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-300584(JP,A)
【文献】特開2005-068596(JP,A)
【文献】国際公開第2012/090533(WO,A1)
【文献】特開2011-214160(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106087159(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107723862(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
D06M10/00-23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生地を後加工により加工生地にして使用するようになされた紡績糸であって、
アクリル繊維またはアクリル系繊維を改質してなる吸放湿吸湿発熱性繊維に疎水化剤を設けてなる疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維と、溶解繊維と、疎水性繊維とを混紡してなり、
前記生地の後加工により溶解繊維を溶解させて取り除くことにより、この溶解繊維が取り除かれた跡に、空隙を形成できるようになされ
、
中心に溶解繊維を集中させ、
外周縁に疎水性繊維または、疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維および疎水性繊維を集中させ、中心と外周縁との中間に溶解繊維、疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維および疎水性繊維を集中させ、中心を疎で外周縁に向かうにしたがって密となるように形成できるようになされたことを特徴とする紡績糸。
【請求項2】
溶解繊維を5~60質量%使用した請求項1に記載の紡績糸。
【請求項3】
天竺編みされた絶乾状態の加工生地を25℃、95%RHの無風環境条件下で90分間放置した時の重量増加率から、当該加工生地を25℃、60%RHの環境条件下で23℃の水が入った水槽に90分間浮かべた時の重量増加率を引いて算出される吸湿余力率が1.5%以上となされた請求項1または2に記載の紡績糸。
【請求項4】
天竺編みされた絶乾状態の加工生地を25℃、60%RHの環境条件下で23℃の水が入った水槽に90分間浮かべた時の重量変化率を、当該加工生地を25℃、95%RHの無風環境条件下で90分間放置した時の飽和重量変化率で割った値が0.9以下になされた請求項1ないし3の何れか一に記載の紡績糸。
【請求項5】
天竺編みされた絶乾状態の加工生地を温度20℃、湿度65%RHの雰囲気下にある15℃の水が入った水槽に浮かべた時の表面温度が、環境温度(20℃)よりも高い温度を維持し、測定開始から10分経過しても温度変化が1℃の範囲内に保つことがなされた請求項1ないし4の何れか一に記載の紡績糸。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れか一に記載の紡績糸によって構成された生地。
【請求項7】
請求項1ないし6の何れか一に記載の紡績糸によって構成された生地から、この生地に含まれる溶解繊維を溶解させて取り除く後加工により、当該溶解繊維を取り除き、この溶解繊維が取り除かれた跡に、空隙を形成した加工生地。
【請求項8】
請求項1ないし7の何れか一に記載の紡績糸によって生地を構成した後、当該生地の後加工により溶解繊維を溶解させて取り除くことにより、この溶解繊維が取り除かれた跡に、空隙を形成する加工生地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性に優れ、かつ、吸湿発熱が持続する生地を構成することができる紡績糸と、この紡績糸を用いた生地、加工生地、および加工生地の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、吸湿により発熱し、放湿乾燥後に再度吸湿すると発熱し、これを反復して繰り返すことができるようになされた吸放湿吸湿発熱性繊維が知られている(例えば、特許文献1参照)。この吸放湿吸湿発熱性繊維は、吸湿時の発熱により保温性を高めることができるため、冬物衣料等の繊維製品に使用することが行われている。
【0003】
このような吸放湿吸湿発熱性繊維を利用した衣料等においては、吸湿による発熱を持続させることが、発熱による保温性を高める上で重要となるため、人体からの気相の水分を吸湿して発熱しながら、衣服外へ放湿を行い、吸湿と放湿とのバランス(動的平衡状態)を長く保つことが重要とされている(非特許文献1~3参照)。
【0004】
そこで、従来より、高架橋ポリアクリレート系繊維に疎水化剤を結合することで、液相の水分と接触しても水を撥き、気相の水分のみを吸着して発熱することで、前記した動的平衡状態を長く保って発熱保温性を持続することができるようになされた疎水化吸湿発熱繊維が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公平7-59762号公報
【文献】特許5721746号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】荻野毅 田中宏史,繊維学会誌,Vol.70-7,160-166(2014)”吸放湿繊維材料の水蒸気及び熱移動に関する赤外熱画像による可視化と数値解析“
【文献】荻野毅 田中宏史,日本熱物性学会誌, Vol.28-2,89-93(2014)”吸放湿繊維材料内の水蒸気及び熱移動に関する数値解析“
【文献】荻野毅 田中宏史他,繊維学会誌,Vol.71-3,134-140(2015)”吸放湿繊維材料の水蒸気吸脱着に伴う熱量変化及び発生機構の分析“
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来の疎水化吸湿発熱繊維の場合、高架橋ポリアクリレート系繊維に疎水化剤を結合しているだけなので、繊維から糸、糸から生地を作製しても、その生地によって構成された衣類は、疎水化面が直接肌と接する場合がある。したがって、汗や水分による濡れが、肌面と生地との間に残存して快適性が低下することが懸念されていた。また、疎水化しているものの、上記した汗や水分による濡れにより、着用時に吸湿発熱の能力が低下して発熱保温性の持続が難しくなるといった不都合を生じていた。
【0008】
本発明は、係る実情に鑑みてなされたものであって、発熱保温性を長時間にわたって維持することができ、かつ、快適性に優れた加工生地を構成することができる紡績糸ならびにこの紡績糸を用いた生地、加工生地および加工生地の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の紡績糸は、生地を後加工により加工生地にして使用するようになされた紡績糸であって、アクリル繊維またはアクリル系繊維を改質してなる吸放湿吸湿発熱性繊維に疎水化剤を設けてなる疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維と、溶解繊維と、疎水性繊維とを混紡してなり、前記生地の後加工により溶解繊維を溶解させて取り除くことにより、この溶解繊維が取り除かれた跡に、空隙を形成できるようになされ、中心に溶解繊維を集中させ、外周縁に疎水性繊維または、疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維および疎水性繊維を集中させ、中心と外周縁との中間に溶解繊維、疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維および疎水性繊維を集中させ、中心を疎で外周縁に向かうにしたがって密となるように形成できるようになされたものである。
【0014】
上記紡績糸は、溶解繊維を5~60質量%使用したものであってもよい。
【0015】
上記紡績糸は、天竺編みされた絶乾状態の加工生地の重量を100%とした時に、当該絶乾状態の加工生地を25℃、95%RHの無風環境条件下で90分間放置した時の重量変化率から、当該絶乾状態の加工生地を25℃、60%RHの環境条件下で23℃の水が入った水槽に90分間浮かべた時の重量変化率を引いて算出される吸湿余力率が1.5%以上となされたものであってもよい。
【0016】
上記紡績糸は、天竺編みされた絶乾状態の加工生地を25℃、60%RHの環境条件下で23℃の水が入った水槽に90分間浮かべた時の重量変化率を、当該天竺編みされた絶乾状態の加工生地を25℃、95%RHの無風環境条件下で90分間放置した時の重量変化率で割った比が0.9以下となされたものであってもよい。
【0017】
上記紡績糸は、天竺編みされた絶乾状態の加工生地を温度20℃、湿度65%RHの雰囲気下にあって15℃の水が入った水槽に浮かべた時、加工生地表面温度が20℃以上を維持している時間が10分以上であり、かつ、初期発熱時の温度から10分経過後の温度低下が1℃以内となされたものであってもよい。
【0018】
上記課題を解決するための本発明の生地は、上記紡績糸によって構成されたものである。
【0019】
上記課題を解決するための本発明の加工生地は、上記紡績糸によって構成された生地から、この生地に含まれる溶解繊維を後加工により溶解させて取り除き、この溶解繊維が取り除かれた跡に、空隙を形成したものである。
【0020】
上記課題を解決するための本発明の加工生地の製造方法は、上記紡績糸によって生地を構成した後、当該生地の後加工により溶解繊維を溶解させて取り除くことにより、この溶解繊維が取り除かれた跡に、空隙を形成するものである。
【0021】
アクリル繊維またはアクリル系繊維を改質してなる吸放湿吸湿発熱性繊維としては、アクリル繊維またはアクリル系繊維を改質して多量の親水性基を導入するとともに高架橋化した高架橋ポリアクリレート系繊維を使用することができる。このような吸放湿吸湿発熱性繊維としては、例えば、「モイスケア、エクス(東洋紡社製商品名)」、「サンバーナー(東邦テキスタイル社製商品名)」などを使用することができる。
【0022】
疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維は、上記吸放湿吸湿発熱性繊維に疎水化剤を設けて構成される。吸放湿吸湿発熱性繊維に疎水化剤を設ける方法としては、吸放湿吸湿発熱性繊維に対して疎水化剤を吸着、結合、付着させることによって設けることができる。例えば、前記高架橋ポリアクリレート系繊維の表面に フッ素ガスを接触させてフッ素を結合させる。あるいは、フッ素含有化合物、シリコーン化合物、フッ素含有シリコーン化合物又は炭化水素化合物を含む疎水化剤を結合させることにより発現される。疎水化剤とは、相手物質を疎水化する化合物であり、例えば撥水剤のことをいう。
【0023】
疎水化剤を設ける吸放湿吸湿発熱性繊維は、側鎖に親水性の官能基を有しているので、疎水化剤はこれらの官能基と結合させるのが好ましい。洗濯を繰り返しても疎水性を低下させないためである。本発明で使用できるフッ素系疎水化剤としては、例えば、市販品のフッ素系疎水剤エマルジョン「アサヒガードGS10(旭硝子社製商品名)」、「NKガードFGN700T(日華化学社製商品名)」「NKガードNDN7000(日華化学社製商品名)」等がある。変性シリコーン系疎水化剤としては、エポキシ変性シリコーン系疎水化剤、カチオン系アミノ変性シリコーン系疎水化剤等があり、市販品としては、側鎖両末端型エポキシ変性シリコーン「X-22-9002(信越シリコーン社製商品名)」、両末端型エポキシ変性シリコーン「X-22-163A(信越シリコーン社製商品名)」、カチオン系両末端型アミノ変性シリコーン「KF-8012(信越シリコーン社製商品名)」等がある。カチオン系フッ素含有シリコーン化合物としては、市販品としては「NKガードS-07(日華化学社製商品名)」、「NKガードS-09(日華化学社製商品名)」がある。カチオン系フッ素化合物としては、市販品として「AG-E061(旭硝子社製商品名)」、「AG-E081(旭硝子社製商品名)」、「AG-E092(旭硝子社製商品名)」、「AG-E500D(旭硝子社製商品名)」、があり、カチオン系炭化水素化合物としては、高融点ワックスエマルジョン「TH-44(日華化学社製商品名)」がある。
【0024】
これらの中でもカチオン系フッ素含有シリコーン化合物、カチオン系フッ素含有化合物、カチオン系アミノ変性シリコーン化合物及びカチオン系炭化水素化合物から選ばれる少なくとも一つの疎水化剤が好ましい。この理由は、本発明に使用する高架橋ポリアクリレート系繊維は、前記のとおり親水基として塩型カルボキシル基、例えば-COONa基を有する繊維であり、カチオン系疎水化剤であれば前記塩型カルボキシル基とイオン的に 吸着結合し易いからである。特にカチオン系フッ素含有シリコーン化合物は好ましい。 カチオン系フッ素含有シリコーン化合物は、一例としてフロロアルキル基とシリコーン基(有機ケイ素基)と第4級アンモニウム塩などのカチオン基を含む化合物が挙げられる。 他の例としては、フロロアルキル基とシリコーン基(有機ケイ素基)とを含む化合物にカチオン系界面活性剤を混合して水性エマルジョンに調製したものが挙げられる。
【0025】
これら疎水化剤は水に分散させた状態で繊維に付着させるのが好ましい。繊維を処理液に浸漬する、繊維に噴霧する、あるいはパッドする方法などにより接触させ、その後キュアセットによる熱処理により結合固定できる。
【0026】
疎水化剤の結合量は繊維に対して、0.2~2.5質量%(質量%はomf%ともいう。omfは on the mass of fiberの略。)であり、好ましくは0.22~2.0omf%である。前記の範囲であれば、繊維は液相の水分と接触しても水をはじき、気相(蒸気)の水分を吸着して発熱が持続し、風合いは良好で紡績工程通過性も良好である。疎水化剤の結合量が 0.2質量%未満では好ましい疎水性は得難く、2.5質量%を超えると風合いも紡績工程通過性も低下する。
【0027】
本発明の疎水化剤による処理は、繊維綿状態で行われる。このようにし構成された疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維は、疎水性繊維、または、疎水性繊維および溶解繊維と混綿しスライバーを構成することができるものであれば、繊維の太さや長さを限定されるものではなく、例えば繊維長25~70mm程度、0.5~3デニール程度のものを使用することができる。
【0028】
溶解繊維としては、紡糸後の後加工工程において溶解することができる繊維であれば、特に限定されるものではなく、例えば、紡糸後、水で処理することによって溶解することができるようになされた水溶性ビニロン繊維や、溶剤で処理することによって溶解することができるようになされた溶解ポリエステル繊維、等を使用することができる。この溶解繊維は、当該溶解繊維単独、または疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維および疎水性繊維と混綿してスライバーを構成することができるものであれば、繊維の太さや長さを限定されるものではなく、例えば繊維長25~70mm程度、0.5~3デニール程度のものを使用することができる。また、溶解繊維を溶解する際の条件についても、水や溶剤での洗浄を単純に行うものであってもよいし、それに合わせて加熱、加圧するものであってもよい。また、この溶解繊維を溶解して取り除く作業は、生地の染色などの工程の前処理または後処理で行なわれる洗浄工程と兼用または併用するものであってもよい。
【0029】
疎水性繊維としては、紡績後の後処理工程において溶解繊維を溶解した後に、紡績糸としての強度を確保したり、疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維の強度不足を補ったりするために使用される。この疎水性繊維としては、例えば当該疎水性繊維単独、疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維との混綿、または疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維および溶解繊維と混綿してスライバーを構成することができるものであれば、繊維の太さや長さを限定されるものではなく、例えば繊維長25~70mm程度、0.5~3デニール程度のものを使用することができる。この疎水性繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、トリアセテート繊維、アクリル繊維、アクリル系繊維、ポリウレタン繊維等を挙げることができ、これら各繊維の1種類以上を単独または混合して使用するものであってもよい。
【0030】
次に、紡績糸の製造方法について説明する。
【0031】
まず、原料となる疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維と、溶解繊維と、疎水性繊維とを所定の質量毎に計量して混合し、均一の幅および厚さにしたラップを形成する。このラップは、カード機でほぐし、繊維を一本毎に分離して平行に引き揃えることで集束し、紐状のスライバーにする。
【0032】
この際、原料となる疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維と、溶解繊維と、疎水性繊維との混合比率を変更することで、複数種類のスライバーを形成する。また、スライバーによっては、2種類の原料を混合するものであってもよいし、1種類の原料のみで形成したスライバーを使用するものであってもよい。
【0033】
次いで、6本~8本のスライバーを、練条機を用いて合わせながら引き延ばし、よりをかけて粗糸にした後、さらに引き延ばしてよりを加えることで精紡し、ボビンに巻き取った後、チーズやコーンに巻き返して管糸にして紡績糸が完成する。
【0034】
このようにして構成される紡績糸としては、特に限定されるものではなく、紡績糸として上記したスライバーミックス法によって構成することかできる紡績糸であれば、特にその太さや長さ等が限定されるものではない。
【0035】
また、紡績糸を構成する、疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維と、溶解繊維と、疎水性繊維とを混合する割合としては、特に限定されるものではないが、溶解繊維が多くなると、後加工工程を経た後に構成される加工生地の空隙が多く形成され、場合によっては、加工生地の強度を確保することが困難となるため、溶解繊維については、5~60質量%とすることが好ましい。5質量%未満の場合、十分な空隙の効果が得られず、60質量%を超えると加工生地の強度が確保できにくくなってしまう。疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維については、5~50質量%とすることが好ましい。5質量%未満の場合、十分な発熱保温の効果が得られず、50質量%を超えると十分な加工生地強度を確保することができなくとなってしまう。疎水繊維については、10~90質量%とすることが好ましい。10質量%未満の場合、加工生地としての十分な強度を確保することができず、90質量%を超えると十分な発熱保温の効果が得らなくなってしまう。
【0036】
次に、加工生地の製造方法について説明する。
【0037】
まず、上記紡績糸を用いて生地を構成する。この際、生地の構成については、特に限定されるものではなく、編物であってもよいし、織物であってもよい。この生地とは、上記紡績糸を用いて構成される編物や織物などの布地であって、後加工によって溶解繊維を溶解する前のものである。
【0038】
次いで、この生地を構成する紡績糸に含まれる溶解繊維の溶解加工を行い、溶解繊維の存在していた部分を溶解させて取り除くことによって、この溶解繊維が取り除かれた跡に、空隙を形成した加工生地を完成させる。
【0039】
このようにして構成される加工生地は、紡績糸を作製した後、当該紡績糸から溶解繊維を溶解させて取り除くことによって、この溶解繊維が取り除かれた跡に空隙を形成することができるので、この空隙は、疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維が吸湿発熱した熱を取り込む空隙として作用し、吸放湿作用が活発化し、その結果、発熱保温の持続性の向上を図ることができることとなる。しかも、この空隙によって、疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維は、液相の水分と直接接触し難くなっているので、液相の水分を吸水せずに気相の水分(蒸気)を吸湿して発熱し、発熱を持続し易くなる。したがって、発熱保温性を長時間にわたって維持することができることとなる。
【0040】
このようにして構成される加工生地の用途としては、特に限定されるものではないが、発熱保温性を長時間にわたって持続することができることから、例えば、インナーシャツ、衣服、靴下、手袋、帽子、シューズのアッパー材、インソール材、寝具等のテスキタイルや製品として好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0041】
【
図1】(a)は本発明の実施例1に係る紡績糸を作製する際の各スライバーの配置を説明する平面図、(b)は同スライバーによって構成された紡績糸の断面図、(c)は同紡績糸によって構成された加工生地における紡績糸の状態を説明する斜視図である。
【
図2】(a)は本発明の実施例2に係る紡績糸を作製する際の各スライバーの配置を説明する平面図、(b)は同スライバーによって構成された紡績糸の断面図、(c)は同紡績糸によって構成された加工生地における紡績糸の状態を説明する斜視図である。
【
図3】
各紡績糸によって構成された絶乾状態の加工生地を水面浮上させた状態で吸
湿させた際の吸湿前後の重量変化を示すグラフである。
【
図4】
各紡績糸によって構成された絶乾状態の加工生地を飽和湿度環境下で吸湿さ
せた際の吸湿前後の重量変化を示すグラフである。
【
図5】
各紡績糸によって構成された絶乾状態の加工生地を水面浮上させた状態で吸
湿させた際の吸湿発熱による加工生地表面の温度変化を示すグラフである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】(a)は本発明の実施例1に係る紡績糸を作製する際の各スライバーの配置を説明する平面図、(b)は同スライバーによって構成された紡績糸の断面図、(c)は同紡績糸によって構成された加工生地における紡績糸の状態を説明する斜視図である。
【
図2】(a)は本発明の実施例2に係る紡績糸を作製する際の各スライバーの配置を説明する平面図、(b)は同スライバーによって構成された紡績糸の断面図、(c)は同紡績糸によって構成された加工生地における紡績糸の状態を説明する斜視図である。
【
図3】(a)は本発明の実施例3に係る紡績糸を作製する際の各スライバーの配置を説明する平面図、(b)は同スライバーによって構成された紡績糸の断面図、(c)は同紡績糸によって構成された加工生地における紡績糸の状態を説明する斜視図である。
【
図4】(a)は本発明の実施例4に係る紡績糸を作製する際の各スライバーの配置を説明する平面図、(b)は同スライバーによって構成された紡績糸の断面図、(c)は同紡績糸によって構成された加工生地における紡績糸の状態を説明する斜視図である。
【
図5】各紡績糸によって構成された絶乾状態の加工生地を水面浮上させた状態で吸湿させた際の吸湿前後の重量変化を示すグラフである。
【
図6】各紡績糸によって構成された絶乾状態の加工生地を飽和湿度環境下で吸湿させた際の吸湿前後の重量変化を示すグラフである。
【
図7】各紡績糸によって構成された絶乾状態の加工生地を水面浮上させた状態で吸湿させた際の吸湿発熱による加工生地表面の温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
[実施例1-2、比較例1-2]
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0044】
[スライバーの調製]
単繊維繊度2.4dtex、繊維長35mmの疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維と、単繊維繊度1.7dtex、繊維長38mmの水溶性ビニロン繊維(溶解繊維)と、単繊維繊度1.0dtex、繊維長38mmのポリエステル繊維(疎水性繊維)とを用意した。
【0045】
このうち、疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維は、単繊維繊度2.4dtex、繊維長35mmの高架橋ポリアクリレート繊維(日本エクスラン工業社製商品名N-38)を、カチオン型アミノ変性シリコーンエマルジョン液(日華化学社製)に浸漬後、脱水機で脱水し、乾燥後、110℃で60分間バッチ式乾燥機でキュアセットしたものを使用した。
【0046】
上記水溶性ビニロン繊維を100質量%使用して構成された第一スライバーS1と、上記疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維を質量20%と、上記水溶性ビニロン繊維を40質量%と、上記ポリエステル繊維を40質量%とを使用して構成された第二スライバーS2と、上記疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維を30質量%と、上記水溶性ビニロン繊維を35質量%と、上記ポリエステル繊維を35質量%とを使用して構成された第三スライバーS3と、上記疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維を25質量%と、上記ポリエステル繊維を75質量%とを使用して構成された第四スライバーS4と、上記ポリエステル繊維を100質量%使用して構成された第五スライバーS5との合計5種類を用意した。
【0047】
[紡績糸の調製]
-実施例1-
図1(a)および(b)に示すように、練条機に使用する8本のスライバーのうち、2本の第一スライバーS1を中心に、その両側に2本ずつの合計4本に第二スライバーS2を使用し、残る両側の2本に第四スライバーS4を使用して粗糸を作製した。
得られた粗糸を引き延ばしながらよりをかけてボビンに巻き取って、第一スライバーS1が中芯となり、第二スライバーS2が中間層となり、第四スライバーS4が外層となる40番手相当の実施例1に係る紡績糸を完成させた。
【0048】
-実施例2-
図2(a)および(b)に示すように、練条機に使用する8本のスライバーのうち、上記実施例1の第四スライバーS4を第五スライバーS5に変更した以外は、当該実施例1と同様にして、第一スライバーS1が中芯となり、第二スライバーS2が中間層となり、第五スライバーS5が外層となる40番手相当の実施例2に係る紡績糸を完成させた。
【0051】
-比較例1-
練条機に使用する8本のスライバーを、全て第四スライバーS4とした以外は、上記実施例1と同様にして40番手相当の比較例1に係る紡績糸を完成させた。
【0052】
-比較例2-
練条機に使用するスライバーを、全て第五スライバーS5とした以外は、上記実施例1と同様にして40番手相当の比較例2に係る紡績糸を完成させた。
【0053】
[試験生地の調製]
上記実施例1~2、比較例1~2の各紡績糸を使用してそれぞれの生地を作製した。
生地は、編釜径3.5インチの汎用タイプの一口試験筒編み機を使用し、1インチ当たりのタテ/ヨコが37±1本/26±1本となるようにした、135±5g/m2の天竺編みである。
【0054】
-実施例1-
このようにして得られた実施例1に係る紡績糸を使用した生地を90℃で湯洗し、水溶性ビニロン繊維を溶解させ、溶解した跡が空隙となって、実質的に疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維とポリエステル繊維と空隙とによって形成された40番手相当の紡績糸による天竺編みの加工生地となった。
この加工生地を構成する紡績糸は、
図1(c)に示すように、水溶性ビニロン繊維を溶解させたことにより、中芯が空隙Vで構成され、中間層が疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維aとポリエステル繊維pと空隙Vによって構成され、外層が疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維aとポリエステル繊維pとによって構成され、空隙Vは、中心から外に向かうにしたがって疎から密になるように構成されたものとなった。
【0055】
-実施例2-
このようにして得られた実施例2に係る紡績糸を使用した生地は、上記実施例1と同じ条件で湯洗することで、水溶性ビニロン繊維を溶解させ、溶解した跡が空隙となって、実質的に疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維とポリエステル繊維と空隙とによって形成された40番手相当の紡績糸による天竺編みの加工生地となった。
この加工生地を構成する紡績糸は、
図2(c)に示すように、中芯が空隙Vで構成され、中間層が疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維aとポリエステル繊維pと空隙Vによって構成され、外層がポリエステル繊維pによって構成され、空隙Vは、中心から外に向かうにしたがって疎から密になるように構成されたものが得られた。
【0058】
-比較例1-
このようにして得られた比較例1に係る紡績糸を使用した生地は、上記実施例1と同じ条件で湯洗したが、溶解する水溶性ビニロン繊維を含んでいないので、実質的に疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維とポリエステル繊維とによって構成された40番手相当の紡績糸による筒状の天竺編みの加工生地となった。
この加工生地を構成する紡績糸は、疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維とポリエステル繊維とによって構成され、紡績時及び生地作製時に形成される隙間以外は、空隙が形成されていないものが得られた。
【0059】
-比較例2-
このようにして得られた比較例2に係る紡績糸を使用した生地は、上記実施例1と同じ条件で湯洗したが、溶解する水溶性ビニロン繊維を含んでいないので、実質的にポリエステル繊維のみによって構成された40番手相当の紡績糸による筒状の天竺編みの加工生地となった。
この加工生地を構成する紡績糸は、ポリエステル繊維のみによって構成され、紡績時及び生地作製時に形成される隙間以外は、空隙が形成されていないものが得られた。
【0060】
[吸湿試験]
上記実施例1~2、比較例1~2の各加工生地を使用して吸湿試験を行った。
【0061】
吸湿試験A
吸湿試験Aは、汗や雨などの液相の水分に接した状態を想定した環境条件下での吸湿能力を測定した。この吸湿試験Aは、各加工生地を絶乾状態にした後、この絶乾状態の加工生地の重量を100%として、25℃、60%RHの環境条件下で23℃の水が入った水槽に90分間浮かべた後の重量変化を測定した。結果を図3に示す。各加工生地は、当該加工生地が有する疎水性により水槽の水分は吸水しないが、当該23℃の水槽水面の飽和水蒸気圧分の水蒸気を吸湿しながら、水面と接していない面からは25℃、60%RHの環境条件下に放湿することとなる。図中の数値は、各試料における絶乾状態に対する重量変化率(X)を示している。
【0062】
吸湿試験B
吸湿試験Bは、飽和状態での気相の水分(蒸気)、すなわち、蒸れた状態を想定した環境条件下での吸湿能力を測定した。この吸湿試験Bは、各加工生地を絶乾状態にした後、この絶乾状態の加工生地の重量を100%として、25℃、95%RHの無風環境条件下で90分間放置した後の飽和重量を測定した。結果を図4に示す。図中の数値は、各試料における絶乾状態に対する飽和重量変化率(Y)を示している。
飽和重量変化率Yから吸湿試験Aの重量変化率Xを引いた値(Y-X)を吸湿余力率とした。この数値が大きい程、余剰の吸湿能力を有することとなる。また、吸湿試験Aの重量変化率/飽和重量変化率(X/Y)の値を求め、動的平衡係数とした。この数値が小さい程、雨や汗などの環境条件下であっても、これらの水分の影響を受けにくく、加工生地が吸湿と放湿とのバランスを長く保つ動的平衡状態となる。吸湿余力率および動的平衡係数の結果を表1に示す。
【0063】
【0064】
本発明に係る紡績糸で構成した加工生地は、汗や雨などの液相の水分が存在する状態であっても、比較例1に係る従来の加工生地の約3倍以上の吸湿余力率を有するものとなる。さらに、比較例1に係る従来の生地の場合は、重量変化率/飽和重量変化率(X/Y)の値はほぼ1に近いが、各実施例に係る本発明の加工生地の場合の前記動的平衡係数は約0.9未満である。つまり各実施例に係る本発明の加工生地は、水面からの水分を吸湿し外気への水分放湿性が高く、水分保有率を軽減していることが示される。つまり動的平衡係数が低いことが伺える。この要因は、紡績糸を構成する空隙による影響と推察される。したがって、本発明に係る紡績糸で構成した加工生地の場合は、汗や雨などの濡れを生じる環境下であっても、水分を積極的に吸湿放湿することによって吸湿発熱性を持続し温かさを持続する性能を有することができる。
【0065】
[発熱試験]
上記実施例1~2、比較例1~2の各加工生地を使用して発熱試験を行った。
試験は、各加工生地を絶乾状態にした後、20℃、65%RHの環境条件下で15~16℃の水が入った水槽に浮かべ、この水に浮かんだ生地の表面温度の経時的変化を非接触温度計で測定した。結果を図5に示す。
【0066】
本発明に係る紡績糸で構成した加工生地は、環境温度(20℃)よりも高い温度を維持し、測定開始から10分経過しても温度変化が1℃の範囲内に保たれていることが確認できた。これは、比較例1に係る従来の加工生地が初期の発熱から10分経過すると約2℃低下していることからすると、吸湿発熱による保温効果を維持していることが確認できた。
【0067】
なお、本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0075】
a 疎水性吸放湿吸湿発熱性繊維
p ポリエステル繊維
V 空隙